説明

重合性フラーレン誘導体

【課題】 熱或いは光照射により、短時間で任意の形状のフラーレン含有成形体に賦形可能な重合性フラーレン誘導体を提供する。
【解決手段】 下記の構造式(1)で示されることを特徴とする重合性フラーレン誘導体。
Cn(Si(R1)m(SiR2R3R4)3−m)j (1)
(ここで、R1は炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基を示す。R2〜R4はそれぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基を示し、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基を示し、Cnは炭素数nからなるフラーレンを示し、nは60以上の正の数、mは0から2の実数、jは1から5の正の数を示す。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フラーレンは非線型光学効果を示す化合物であり、種々の電子デバイスへの応用が考えられている。重合性フラーレン誘導体は薄膜形成能、賦形可能なポリマー原料として、特に次世代大容量光通信システムに不可欠の光スイッチ材料としての利用が期待される。
【背景技術】
【0002】
フラーレン誘導体及びフラーレン含有重合体としては、感光性を有するフラーレンオルガノシラン共重合体(例えば、特許文献1参照。)、アニオン化した部位を持つフラーレン誘導体、水酸基含有フラーレン或いはエポキシ基含有フラーレン重合体(例えば、特許文献2参照。)、ジカルボキシル化フラーレンのビスシクロプロポネイトアダクトモノマーを芳香族ジアミンと溶液中で110℃の温度下3時間、重縮合させて得られるフラーレン含有ポリアミド(例えば、特許文献3参照。)、(メタ)アクリロイル基を構造内に有するフラーレン誘導体、重合物及び硬化物(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。また、水酸基含有フラーレン、ポリアルキレンオキシドグリコール、及びジイソシアネート化合物を重合して得られるフラーレン含有ポリウレタン(例えば、特許文献5参照。)が開示されている。さらに、フラーレンオルガノシロキサン共重合体(例えば、特許文献6参照。)、フラーレンにアルコキシ基、水酸基、酸無水物基を導入し、ポリアミック酸を合成した後、得られるフラーレン含有ポリイミド(例えば、特許文献7参照。)、オルガノアニリノフラーレン−ジメチルシロキサントリブロック共重合体(例えば、非特許文献1参照。)、バックミンスターフラーレンC60含有シロキサンハイブリッド(例えば、非特許文献2参照。)、ゾルゲル法によるC60−シリカハイブリッド材(例えば、非特許文献3参照。)等が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−62105号公報
【特許文献2】特開2003−238692号公報
【特許文献3】特開平10−45905号公報
【特許文献4】特開平8−283199号公報
【特許文献5】特開平8−183830号公報
【特許文献6】特開平9−157398号公報
【特許文献7】特開平9−301943号公報
【非特許文献1】ジャーナルオブマクロモレキュラーサイエンス誌、A40巻、No.12、1263頁、2003年
【非特許文献2】ACSシンポジウムシリーズ、572巻、「無機及び有機金属ポリマーII」、9章、92頁、1994年
【非特許文献3】ジャーナルオブゾル−ゲルサイエンスアンドテクノロジー誌、22巻、219頁、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フラーレンを光スイッチ材料等の機能材料として利用するには、フラーレン分子単独で任意の形の成形体を得ることが難しいため、無機或いは有機ポリマーと複合させて所望の形状のフラーレン含有高分子を得る必要がある。この例として非特許文献1,2,3には、ゾルゲル法によるフラーレン−シロキサンハイブリッド材料が提案されているが、短時間で成形体を得るのが難しく経済性に問題があった。本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、熱重合或いは光重合により、従来に対して短時間でフラーレン含有成形体を得ることができる重合性フラーレン誘導体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、かかる問題点を解決するため鋭意検討した結果、フラーレンに熱或いは光照射により重合する特定の反応性基を導入した重合性フラーレン誘導体が、短時間でフラーレン含有成形体を得ることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、下記の構造式(1)で示される重合性フラーレン誘導体に関するものである。
【0007】
Cn(Si(R1)m(SiR2R3R4)3−m)j (1)
(ここで、R1は炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基を示す。R2〜R4はそれぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基を示し、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基を示す。Cnは炭素数nからなるフラーレンを示し、nは60以上の正の数、mは0から2の実数、jは1から5の正の数を示す。)。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の重合性フラーレン誘導体は、上記構造式(1)で示される構造を有するものであり、ここでR1は炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基を示す。R2〜R4はそれぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基を示し、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基を示す。Cnは炭素数nからなるフラーレンを示し、nは60以上の正の数、mは0から2の実数、jは1から5の正の数を示す。
【0010】
本発明の重合性フラーレン誘導体を構成するR1は、炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基であり、炭素数1〜12のアルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ等;炭素数1から12のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等;炭素数1から12のアリール基としてはフェニル基、トリル基、アルコキシ基やアルキル基が置換した置換フェニル基等を挙げることができ、その中でもアルコキシ基が好適に用いられる。
【0011】
また、本発明の重合性フラーレン誘導体を構成するR2〜R4は、それぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基であり、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基である。ハロゲンとしては塩素、臭素、フッ素等;炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基としては、メタクリロキシメチル基、メタクリロキシエチル基、メタクリロキシプロピル基等;炭素数1から12のアルケニル基としては、ビニル基、アリール基、ブテニル基、ヘキセニル基等;炭素数1から12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基等;炭素数1から12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等を挙げることができる。
【0012】
本発明の重合性フラーレン誘導体において用いるCnで示されるフラーレンは、炭素数60以上のフラーレンであり、例えばC60フラーレン、C70フラーレン、C74フラーレン、C76フラーレン、C78フラーレン、C82フラーレン等が例示される。
【0013】
また、本発明の重合性フラーレン誘導体を構成する一般式(1)におけるmは、重合性フラーレン誘導体中のケイ素に結合している前記R1の数を表し、0から2の実数である。また、一般式(1)におけるjは、フラーレンに直接結合したケイ素の数を表し、1から5の正の数である。
【0014】
そして本発明の重合性フラーレン誘導体として、特に光学的あるいは電気的性質に優れる重合性フラーレン誘導体となることから下記の構造式(2)で示される重合性フラーレン誘導体であることが好ましい。
【0015】
X@Cn(Si(R1)m(SiR2R3R4)3−m)j (2)
(ここで、R1は炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基を示す。R2〜R4はそれぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基を示し、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基を示し、Xは、不活性ガス、金属原子を示し、X@Cnは不活性ガス、金属原子を内包する炭素数nからなるフラーレンを示し、nは60以上の正の数、mは0から2の実数、jは1から5の正の数を示す。)。
【0016】
一般式(2)におけるR1は、炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基であり、炭素数1〜12のアルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ等;炭素数1から12のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等;炭素数1から12のアリール基としてはフェニル基、トリル基、アルコキシ基やアルキル基が置換した置換フェニル基等を挙げることができ、その中でもアルコキシ基が好適に用いられる。また、R2〜R4は、それぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基であり、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基である。ハロゲンとしては塩素、臭素、フッ素等;炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基としては、メタクリロキシメチル基、メタクリロキシエチル基、メタクリロキシプロピル基等;炭素数1から12のアルケニル基としては、ビニル基、アリール基、ブテニル基、ヘキセニル基等;炭素数1から12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基等;炭素数1から12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等を挙げることができる。なお、一般式(2)におけるjは、Cnに直接結合したケイ素の数である。
【0017】
一般式(2)におけるXは、不活性ガス、金属原子を示し、X@Cnは不活性ガス、金属原子を内包する炭素数60以上の正の数からなるフラーレンを示し、該不活性ガス、金属原子を内包するフラーレンとしては、例えばHe@C60,Ar@C60,Li@C60,Kr@C60,Xe@C60,Li@C70,Ca@C70,Yb@C70,Ca@C74,Yb@C74,Eu@C82,La@C82,Yb@C82,Ca@C82,Ce@C82,Gd@C82,Tm@C82,Dy@C82,Pr@C82,Tm@C82等が例示される。なお、フラーレン内部に不活性ガスあるいは金属原子を2個以上内包することも可能である。これらフラーレン、或いは不活性ガス、金属を内包するフラーレンは、例えば「ジャーナルオブマクロモレキュラーサイエンス誌、A40巻、No.12、1263頁、2003年」に記載の方法により合成することができる。
【0018】
本発明の重合性フラーレン誘導体は一般式(1)の通りケイ素原子とアルケニル基及び/又はメタクリロキシアルキル基で示される重合性反応基を持つことを特徴とし、該重合性フラーレン誘導体の製造方法としては、フラーレンにケイ素原子及び重合性反応基を導入できる如何なる方法をも用いることができ、例えばフラーレンにケイ素原子を導入した後に、重合性反応基を持つ化合物を反応させる方法を用いることが可能である。
【0019】
その際のケイ素原子を導入する方法としては、例えば「ACSシンポジウムシリーズ、572巻、「無機及び有機金属ポリマーII」、9章、92頁、1994年」に記載の方法の通り、フラーレン(Cn及び/又はX@Cn)とHSi(R5)(R5は炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基を示す。)で表されるケイ素化合物を反応させることにより、フラーレン誘導体にケイ素原子を導入したCn(Si(R5))k(kは1から5の正の数を示し、Cnに直接結合したケイ素の数を表す。)で示されるケイ素含有フラーレン誘導体を得ることができる。
【0020】
該ケイ素含有フラーレン誘導体を得るのに用いるケイ素化合物におけるR5は、一般式(1)におけるR1と同じ炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基であり、炭素数1〜12のアルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ等;炭素数1から12のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等;炭素数1から12のアリール基としてはフェニル基、トリル基、アルコキシ基やアルキル基が置換した置換フェニル基等を挙げることができ、その中でもアルコキシ基が好適に用いられる。具体的なケイ素化合物としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジイソプロポキシメチルシラン、ジプロポキシメチルシラン、ジブトキシメチルシラン等のジアルコキシメチルシラン類;ジメトキシエチルシラン、ジエトキシエチルシラン、ジイソプロポキシエチルシラン、ジプロポキシエチルシラン、ジブトキシエチルシラン等のジアルコキシエチルシラン類;ジメトキシプロピルシラン、ジエトキシプロピルシラン、ジイソプロポキシプロピルシラン、ジプロポキシプロピルシラン、ジブトキシプロピルシラン等のジアルコキシプロピルシラン類;ジメトキシブチルシラン、ジエトキシブチルシラン、ジイソプロポキシブチルシラン、ジプロポキシブチルシラン、ジブトキシブチルシラン等のジアルコキシブチルシラン類;ジメトキシフェニルシラン、ジエトキシフェニルシラン、ジイソプロポキシフェニルシラン、ジプロポキシフェニルシラン、ジブトキシフェニルシラン等のジアルコキシフェニルシラン類;メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、イソプロポキシジメチルシラン、プロポキシジメチルシラン、ブトキシジメチルシラン等のアルコキシジメチルシラン類;メトキシジエチルシラン、エトキシジエチルシラン、イソプロポキシジエチルシラン、プロポキシジエチルシラン、ブトキシジエチルシラン等のアルコキシジエチルシラン類;メトキシジプロピルシラン、エトキシジプロピルシラン、イソプロポキシジプロピルシラン、プロポキシジプロピルシラン、ブトキシジプロピルシラン等のアルコキシジプロピルシラン類;メトキシジブチルシラン、エトキシジブチルシラン、イソプロポキシジブチルシラン、プロポキシジブチルシラン、ブトキシジブチルシラン等のアルコキシジブチルシラン類;メトキシジフェニルシラン、エトキシジフェニルシラン、イソプロポキシジフェニルシラン、プロポキシジフェニルシラン、ブトキシジフェニルシラン等のアルコキシジフェニルシラン類;メトキシメチルフェニルシラン、エトキシメチルフェニルシラン、イソプロポキシメチルフェニルシラン、プロポキシメチルフェニルシラン、ブトキシメチルフェニルシラン等のアルコキシメチルフェニルシラン類;メトキシエチルフェニルシラン、エトキシエチルフェニルシラン、イソプロポキシエチルフェニルシラン、プロポキシエチルフェニルシラン、ブトキシエチルフェニルシラン等のアルコキシエチルフェニルシラン類;メトキシプロピルフェニルシラン、エトキシプロピルフェニルシラン、イソプロポキシプロピルフェニルシラン、プロポキシプロピルフェニルシラン、ブトキシプロピルフェニルシラン等のアルコキシプロピルフェニルシラン類;メトキシブチルフェニルシラン、エトキシブチルフェニルシラン、イソプロポキシブチルフェニルシラン、プロポキシブチルフェニルシラン、ブトキシブチルフェニルシラン等のアルコキシブチルフェニルシラン類等が例示され、その中でも特にトリアルコキシシラン類が好適に用いられる。
【0021】
本発明の重合性フラーレン誘導体にケイ素を導入するためのフラーレンとケイ素化合物の反応に用いられる溶剤は、フラーレンが溶解し、ケイ素化合物と反応しない溶剤であれば何ら制限なく用いることができ、例えば、ジエチルエーテル、トルエン、ベンゼン、キシレン、THF、クロロフォルム等が例示される。
【0022】
また、フラーレンとケイ素化合物の反応の際には、反応を促進するためには触媒を用いることが好ましく、例えばジコバルトオクトカルボニルが例示される。
【0023】
フラーレンとケイ素化合物の反応温度としては、溶剤の沸点以下凝固点以上であれば何ら制限を受けることなく実施することができ、その中でも好ましくは0℃から100℃、特に好ましくは室温から80℃が好適であり、更に好ましくは40℃から80℃である。
【0024】
また、フラーレンとケイ素化合物の反応仕込比はモル比でフラーレン1モルに対してケイ素化合物が0.5から30モルの比が好適に用いられ、好ましくはフラーレン1モルに対してケイ素化合物が1から20モルである。
【0025】
本発明の重合性フラーレン誘導体の製造方法における重合反応性基を導入する方法としては、例えばCn(Si(R5))k(R5は炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基を示す。kは1から5の正の数を示し、Cnに直接結合したケイ素の数を表す。)で表される前記ケイ素含有フラーレン誘導体(以下、化学修飾フラーレンと略す。)と、SiR6R7R8T(R6〜R8は、それぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基を示し、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基であり、Tはハロゲン、アルコキシ基等であり、化学修飾フラーレンのR5と反応する基である。)で表される重合反応性基を持つ重合性ケイ素化合物と反応することにより、一般式(1)で示される重合性フラーレン誘導体を得ることができる。
【0026】
本発明の重合性フラーレン誘導体を得るのに用いる重合性ケイ素化合物中のR6〜R8は、一般式(1)におけるR2〜R4と同じものであり、それぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基を示し、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基である。ハロゲンとしては塩素、臭素、フッ素等;炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基としては、メタクリロキシメチル基、メタクリロキシエチル基、メタクリロキシプロピル基等;炭素数1から12のアルケニル基としては、ビニル基、アリール基、ブテニル基、ヘキセニル基等;炭素数1から12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基等;炭素数1から12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等を挙げることができる。Tは、化学修飾フラーレンのR5と反応する基であり、例えばハロゲン、アルコキシ基を挙げることができ、ハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素等;アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等を挙げることができる。具体的な重合性ケイ素化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン類;ビニルトリクロロシラン、アリールトリクロロシラン等のアルケニルトリクロロシラン類;3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジエトキシメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルメトキシジメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルメトキシジジエチルシラン、3−メタクリロキシプロピルメトキシジ−n−プロピルシラン等のメタクリロキシアルコキシシラン類が例示され、その中でも特に反応性の高いメタクリロキシアルコキシシラン類を用いるのが好ましい。メタクリロキシアルコキシシラン類の製造方法は公知であり、例えばクロロアルキルシラン化合物とクロロプロピルメタクリレートからGrignard反応を用いて製造することができる。
【0027】
本発明の重合性フラーレン誘導体を得る際の化学修飾フラーレンと重合性ケイ素化合物の反応に用いられる溶剤は、化学修飾フラーレン及び重合性ケイ素化合物が溶解し、これら化合物と反応しない溶剤であれば何ら制限なく用いることができ、例えば、ジエチルエーテル、トルエン、ベンゼン、キシレン、THF、クロロフォルム等が例示される。また、反応温度としては、溶剤の沸点以下凝固点以上であれば何ら制限なく実施することができ、その中でも好ましくは0℃から100℃、特に好ましくは室温から80℃であり、更に好ましくは40℃から80℃である。化学修飾フラーレンと重合性ケイ素化合物の反応仕込比はモル比で化学修飾フラーレンに付加したアルコキシ基1モルに対して重合性ケイ素化合物が0.8から2モルの比が好適に用いられる。
【0028】
本発明の重合性フラーレン誘導体は、有する重合性反応基を加熱或いは光照射にて、重合せしめ任意のフラーレン含有成形体に賦形可能である。加熱により重合させる場合は、例えばトルエン、ベンゼン等の有機溶剤に溶解させた溶液を、塗布、コーティング、基材フィルム上に流延した後、溶剤を常温あるいは使用する溶剤の沸点以下の温度で揮発させて成膜し、該成膜フィルムを50〜300℃の温度範囲で例えばアゾ系開始剤等の開始剤存在下加熱重合し架橋膜を形成できる。一方、光照射により重合させる場合は、例えば紫外線(UV)照射によりアゾ系開始剤等の開始剤存在下光重合して架橋膜を形成することができ、この場合のUV照射時間は30分から8時間が好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、熱或いは光照射により任意のフラーレン含有成形体に賦形可能であり、工業的に生産が容易な重合性フラーレン誘導体を提供する。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。なお、本発明の実施例及び比較例における反応は、特に断らない限り、窒素下で行った。
【0031】
実施例及び比較例で用いたジエチルエーテル、マグネシウム、1−クロロ−3−メタクリロキシプロパン、クロロメトキシジエチルシラン、トルエン、トリメトキシシラン、ベンゾフェノンは全て試薬として和光純薬から購入して用いた。また、C60フラーレンとしてはメルク社から販売されている高純度(99%以上)のものを使用した。
【0032】
なお、用いた分析方法は下記の通りである。
【0033】
核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GSX270型)を用い、60℃重トルエン中にて実施例により得られた化学修飾フラーレン、重合性フラーレン誘導体のH−NMR、13C−NMRを測定し、一般式(1)におけるm及びjの値を求めた。
【0034】
参考例1 3−メタクリロキシプロピルメトキシジエチルシランの合成
攪拌機、窒素導入管を取り付けた2リットルの4つ口フラスコに脱水ジエチルエーテル500ml、及びマグネシウムフレーク4.5g(0.185モル)を仕込み、氷浴により冷却した後、1−クロロ−3−メタクリロキシプロパン30g(0.184モル)を1時間かけてゆっくりと滴下し、3−メタクリロキシプロピルマグネシウムクロライドの均一溶液を得た。別途用意した2リットル反応器にジエチルエーテル500ml、及びクロロメトキシジエチルシラン28.1gを仕込み溶解させ、氷浴により冷却した。この溶液に3−メタクリロキシプロピルマグネシウムクロライドの溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間攪拌し、更に氷浴を取り除いて1時間攪拌を続けた。反応液を窒素下で濾過し、ジエチルエーテルを蒸留により留去し、その後、減圧蒸留し、無色透明液状の3−メタクリロキシプロピルメトキシジエチルシラン40.5g(収率90%)を得た。
【0035】
実施例1
C60フラーレン1.0g(1.39ミリモル)、トルエン100mlを4つ口フラスコに入れ、攪拌下、トリメトキシシラン0.84g(6.9ミリモル)、ジコバルトオクトカルボニル0.002g(5.6マイクロモル)を仕込んだ。温度80℃で5時間反応させ反応液を濾過して透明なトルエン溶液を回収した。エヴァポレーターで溶媒を除去した後、ジエチルエーテル30mlを加え、濾過し、更にジエチルエーテルを除去して化学修飾フラーレン(1)0.50gを得た。得られた化学修飾フラーレンの13C−NMR測定を行い、フラーレンとSi−OCH中の炭素原子のスペクトル強度比から、一般式(1)におけるjの値を求めた結果、jの値は2であった。したがって、化学修飾フラーレンは[C60(Si(OCH]の構造を有していた。
【0036】
得られた化学修飾フラーレン(1)0.50g(付加したアルコキシ基のモル数:5.4ミリモル)、テトラヒドロフラン(THF)10mlを50mlの4つ口フラスコに入れ攪拌下、溶解させた。得られた溶液に3−メタクリロキシプロピルメトキシジエチルシラン0.65g(2.7ミリモル)を入れ攪拌下60℃で10時間反応させた。反応後、得られた反応液からTHFを除き、重合性フラーレン誘導体0.5gの液状物を得た。得られた重合性フラーレン誘導体のH−NMR測定を行い、重合性フラーレン誘導体におけるSi−OCH中のメチル基と、メタクリロキシプロピル基中のC=Cのスペクトル強度比から、一般式(1)におけるmの値を求めた結果、mの値は2であった。従って、得られた重合性フラーレン誘導体は、[C60(Si(OCH(Si(C)(C)(メタクリロキシプロピル基)))]の構造を有するものであった。
【0037】
得られた液状物に、重合開始剤として2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル0.0016g(0.01ミリモル)を加え攪拌し、均一溶液を得た後、窒素置換を3回行い溶存酸素を除いた液状物を、窒素ボックス中のシャーレに注ぎ込み、室温で5時間UV照射し透明な架橋膜を得た。
【0038】
実施例2
C60フラーレン1.0g(1.39ミリモル)、トルエン100mlを4つ口フラスコに入れ、攪拌下、トリメトキシシラン0.84g(6.9ミリモル)、ジコバルトオクトカルボニル0.002g(5.6マイクロモル)を仕込んだ。温度80℃で5時間反応させ反応液を濾過して透明なトルエン溶液を回収した。エヴァポレーターで溶媒を除去した後、ジエチルエーテル25mlを加え、濾過し、更にジエチルエーテルを除去して化学修飾フラーレン(2)0.48gを得た。実施例1と同様に得られた化学修飾フラーレンの13C−NMR測定結果から、化学修飾フラーレンは[C60(Si(OCH]の構造を有していた。
【0039】
得られた化学修飾フラーレン(2)0.48g(付加したアルコキシ基のモル数:5.1ミリモル)、THF10mlを50ccの4口フラスコに入れ攪拌下、溶解させた。得られた溶液に3−メタクリロキシプロピルメトキシジエチルシラン0.65g(2.7ミルモル)を入れ攪拌下60℃で10時間反応させた。反応後、得られた反応液からTHFを除き重合性フラーレン誘導体0.4gの液状物を得た。実施例1と同様に得られた重合性フラーレン誘導体のH−NMR測定結果から、重合性フラーレン誘導体は、[C60(Si(OCH(Si(C)(C)(メタクリロキシプロピル基)))]の構造を有するものであった。
【0040】
得られた液状物に、重合開始剤として2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル0.0016g(0.01ミリモル)を加え攪拌し、均一溶液を得た後、窒素置換を3回行い溶存酸素を除いた液状物に室温で20分間UV照射を行い、増粘させた後PETフィルム上にキャストした。その後、さらに室温で5時間UV照射し透明な架橋膜を得た。
【0041】
実施例3
実施例2と同様の手法を用いて得られた化学修飾フラーレン(2)0.48g(付加したアルコキシ基のモル数:5.1ミリモル)、THF10mlを50mlの4口フラスコに入れ攪拌下、溶解させた。得られた溶液に3−メタクリロキシプロピルメトキシジエチルシラン0.65g(2.7ミルモル)を入れ攪拌下60℃で10時間反応させた。反応後、得られた反応液からTHFを除き重合性フラーレン誘導体0.4gの液状物を得た。実施例1と同様に得られた重合性フラーレン誘導体のH−NMR測定結果から、重合性フラーレン誘導体は、[C60(Si(OCH(Si(C)(C)(メタクリロキシプロピル基)))]の構造を有するものであった。
【0042】
得られた液状物に、重合開始剤として2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル0.0016g(0.01ミリモル)を加え攪拌し、均一溶液を得た後、窒素置換を3回行い溶存酸素を除いた液状物を窒素雰囲気下でシャーレ上に流延し、60℃で1時間加熱後、2時間かけて徐々に温度を150℃まで上げ、更に150℃で4時間加熱した。その後、180℃で4時間加熱して透明な架橋膜を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式(1)で示されることを特徴とする重合性フラーレン誘導体。
Cn(Si(R1)m(SiR2R3R4)3−m)j (1)
(ここで、R1は炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基を示す。R2〜R4はそれぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基を示し、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基を示し、Cnは炭素数nからなるフラーレンを示し、nは60以上の正の数、mは0から2の実数、jは1から5の正の数を示す。)。
【請求項2】
下記の構造式(2)で示されることを特徴とする請求項1に記載の重合性フラーレン誘導体。
X@Cn(Si(R1)m(SiR2R3R4)3−m)j (2)
(ここで、R1は炭素数1から12のアルコキシ基、アルキル基、アリール基を示す。R2〜R4はそれぞれ独立にハロゲン、炭素数1から12のメタクリロキシアルキル基、アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基を示し、その中でもすくなくとも1つはアルケニル基あるいはメタクリロキシアルキル基を示し、Xは、不活性ガス、金属原子を示し、X@Cnは不活性ガス、金属原子を内包する炭素数nからなるフラーレンを示し、nは60以上の正の数、mは0から2の実数、jは1から5の正の数を示す。)。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載のフラーレン誘導体を重合して得られることを特徴とするフラーレン含有重合体。

【公開番号】特開2006−45090(P2006−45090A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225953(P2004−225953)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】