説明

重合性メントール誘導体

【課題】大きなHTPを有し、他の液晶材料との相溶性に優れ、経済的な方法で製造することができる、重合可能な光学活性化合物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。


[Rは水素又はメチルを示し、Aは炭素数1〜12のアルキレンを示し、該アルキレン中の任意のCH2はO、S、CH=CH、CO、COO又はOCOで置き換えられてもよく
、X及びYは独立して芳香族環又はシクロヘキサン環を示し、これらの環において任意の水素は炭素数1〜3のアルキルで置き換えられてもよく、Zは独立して単結合、O、S、COO、OCO、CON(R1)又はN(R1)COを示し、R1は水素又はメチルを示し
、mは0〜3の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なメントール誘導体に関する。より詳しくは、カイラル剤として用いることができる光学活性化合物である重合可能なメントール誘導体、該メントール誘導体を含む液晶組成物、該組成物から得られる重合体、およびこれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステリック液晶分子は、その液晶状態で螺旋構造を有する。そのため、コレステリック液晶を重合させて螺旋構造を固定し、光を照射すると、液晶分子の螺旋の回転方向の向きとピッチの長さに対応した特定の波長領域の円偏光の光を反射する。たとえば、可視光を照射した場合、液晶のピッチの長さに対応した青、緑、黄、赤の波長の光を選択的に反射する。これらの色調は、光の吸収により色を呈する顔料や染料とは異なり、また、見る角度により色調が変わる視角依存性を有する。さらに、コレステリック液晶のピッチの長さは、温度や化合物の種類により制御することができるため、可視光だけではなく、近赤外や紫外領域の光も選択的に反射することができる。
【0003】
こうしたコレステリック液晶の特性を利用して、広い波長域内でさまざまな波長の光を選択的に反射する材料が提供されている。例えば、液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物および装飾品などである。また、液晶表示素子やホログラフィー素子などの光学素子における偏光板、補償板、カラーフィルタなどの光学フィルムなどにも提案されている。既存の材料であるコレステリック液晶顔料については、フレーク状のコレステリック液晶ポリマーや、マイクロカプセル化されたコレステリック液晶が使用されている。これらの用途としては自動車用塗料や化粧料などがある。
【0004】
コレステリック液晶は、通常、ネマチック液晶に光学活性化合物(カイラル剤)を添加することにより調製できる。紫外線領域から可視光領域までの円偏光の光を反射させるためには、コレステリック液晶が非常にピッチの短い螺旋構造を呈する必要がある。そのためには、螺旋誘起力(HTP)が大きな光学活性化合物が求められる。HTPの小さな光学活性化合物を使用すると、その添加量を増やさなければならないため、他の物性、特にコレステリック液晶の出現温度範囲や選択反射波長範囲の調整が難しくなる。また、多くの場合、光学活性化合物は液晶性を示さないため、添加量を多くすると組成物の液晶性が消失し、目的とするコレステリック液晶相を得ることができない。
【0005】
また、HTPが大きな光学活性化合物であっても、複雑な構造を有すると合成が困難になるため、工業的なバルク仕様には不適切な非常に高価な材料となる場合もある。
特表平10−509726号公報(特許文献1)および特開平3−72445号公報(特許文献2)には、重合性のメントール誘導体が開示されているが、新たな重合性のメントール誘導体の開発が望まれている。
【特許文献1】特表平10−509726号公報
【特許文献2】特開平3−72445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、大きなHTPを有し、他の液晶材料との相溶性に優れ、コレステリック材料として要求される特性の調整が容易であり、かつ工業的なバルク仕様に適合した経済的な方法で製造することができる、重合可能な光学活性化合物を提供することである。なお、液晶材料は、液晶化合物および液晶組成物を含む総称である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、上記課題を解決できる新規な重合性光学活性化合物を見出した。本発明の具体的な構成例を以下に示す。
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【0008】
【化1】

【0009】
[式(1)中、
Rは水素またはメチルを示し、
Aは炭素数1〜12のアルキレンを示し、該アルキレン中の任意の−CH2−は、−O−
、−S−、−CH=CH−、−CO−、−COO−または−OCO−で置き換えられてもよく、
XおよびYは、それぞれ独立して芳香族環またはシクロヘキサン環を示し、これらの環において、任意の水素は炭素数1〜3のアルキルで置き換えられてもよく、
Zは、独立して単結合、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CON(R1)−
または−N(R1)CO−を示し、R1は水素またはメチルを示し、
mは0〜3の整数を示す。]
[2] 前記式(1)において、−(X−Z)m−Y−が下記式(2−1)または(2
−2)で表される構造であることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
【0010】
【化2】

【0011】
[3] 前記式(1)において、−(X−Z)m−Y−が下記式(3−1)〜(3−7
)で表される構造のいずれかであることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
【0012】
【化3】

【0013】
[4] 前記式(1)において、−(X−Z)m−Y−が下記式(4−1)〜(4−4
)で表される構造のいずれかであることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
【0014】
【化4】

【0015】
[5] 前記式(1)において、Aが−CH2CH2CH2CH2−または−CH2CH2−であることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
[6] 前記式(1)において、Aが−CH2CH2OCH2CH2−または−CH2CH2O−CH2CH2−OCH2CH2−であることを特徴とする項[1]に記載の化合物。
【0016】
[7] 項[1]〜[6]のいずれかに記載の化合物と、液晶化合物とを含有することを特徴とする液晶組成物。
[8] 前記液晶化合物として、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含むことを特徴とする項[7]に記載の液晶組成物。
【0017】
[9] 項[8]に記載の液晶組成物を重合させて得られる重合体。
[10] コレステリック液晶相を呈することを特徴とする項[9]に記載の重合体。
[11] 液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および光学フィルムから選ばれる用途への、項[7]または[8]に記載の液晶組成物の使用。
【0018】
[12] 液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および光学フィルムから選ばれる用途への、項[9]または[10]に記載の重合体の使用。
【発明の効果】
【0019】
本発明の化合物は、高い重合反応性を有し、HTPが大きく、他の液晶材料との相溶性に優れ、コレステリック材料として要求される特性の調整が容易であり、かつ工業的なバルク仕様に適合した経済的な方法で製造することができるため、カイラル剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る化合物およびその用途について詳細に説明する。
なお、以下においては、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と称することがある。また、化学式において、1つの化合物が複数のXを有するとき、任意の2つのXは同一でも異なってもよい。この規則は、Z等の記号などにも適用される。
【0021】
〔化合物〕
本発明の化合物(1)は、上記式(1)に示すように、一方の末端に重合性基を有し、他方の末端にメントール残基を有することから、高い重合反応性、光学活性および良好な混和性等の特性を示す。
【0022】
上記式(1)において、Aは炭素数1〜12のアルキレンを示し、該アルキレン中の任意の−CH2−は−O−、−S−、−CH=CH−、−CO−、−COO−または−OC
O−で置き換えられてもよい。
【0023】
ここで、「アルキレン中の任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−等で置き換えら
れてもよい」の句の意味を一例で示す。−C48−において任意の−CH2−が−O−ま
たは−CH=CH−で置き換えられた基は、たとえば、−C36O−、−CH2−O−(
CH22−、−CH2−O−CH2−O−、−HC=CH−(CH23−、−CH2−CH
=CH−(CH22−、−CH2−CH=CH−CH2−O−等である。このように「任意の」という語は、「区別なく選択された少なくとも1つの」を意味する。なお、化合物の安定性を考慮すれば、酸素と酸素とが隣接した−CH2−O−O−CH2−よりも、酸素と酸素とが隣接しない−CH2−O−CH2−O−の方が好ましい。
【0024】
上記Aとしては、−CH2CH2CH2CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2OCH2
CH2−または−CH2CH2O−CH2CH2−OCH2CH2−が好ましい。
上記式(1)において、XおよびYは、それぞれ独立して芳香族環またはシクロヘキサン環を示し、これらの環において、任意の水素は炭素数1〜3のアルキルで置き換えられてもよい。このようなXおよびYとしては、たとえば、1,4−シクロへキシレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイルなどが挙げられる。これらの中では、1,4−フェニレンおよびナフタレン−2,6−ジイルが好ましい。
【0025】
上記式(1)において、Zは、独立して単結合、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CON(R1)−または−N(R1)CO−を示し(R1は水素またはメチルを示
す。)、これらの中では、単結合、−COO−および−OCO−が好ましい。
【0026】
上記式(1)において、mは0〜3の整数、好ましくは0〜2の整数、より好ましくは0または1を示す。
上記式(1)において、−(X−Z)m−Y−で表される部位の好ましい例としては、
(i)m=0の場合、上記式(2−1)または(2−2)で表される構造であることが好
ましく、
(ii)m=1の場合、上記式(3−1)〜(3−7)で表される構造のいずれかであることが好ましく、
(iii)m=2の場合、上記式(4−1)〜(4−4)で表される構造のいずれかであることが好ましい。−(X−Z)m−Y−で表される部位が、上記(i)〜(iii)で
あることにより、HTPが大きく、他の液晶材料との相溶性に優れた化合物を提供することができる。
【0027】
本発明の化合物(1)の合成方法の例を以下に説明する。
(i)本発明の化合物(1)は、たとえば、以下の合成スキームに従って合成すること
ができる。
【0028】
【化5】

【0029】
上記スキームに示すように、まず、アセトキシ安息香酸[a]とL−メントール(またはd−メントール)とをエステル化反応させることによって化合物[c]を合成する。エステル化反応にはジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などの縮合剤を好適に用いることができる。なお、上記スキーム中のDMAPはN,N−ジメチル−4−アミノピリジンの略語である。次に、アルカリ条件下でアセトキシ基の脱保護を行って化合物[d]を得る。さらに、化合物[d]とブタンジオールアクリレートクロロホルメート[e]とのエステル化反応により化合物[f]を得ることができる。なお、アセトキシ安息香酸[a]の代わりに、一方のヒドロキシ基がアセトキシ基などの保護基で保護された6−ヒド
ロキシ−2−ナフタレン酸または4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸を用いることができる。また、4-アクリロイルオキシブチルクロロホルメート[e]の代わりに
、エチレングリコールモノアクリレートクロロホルメート、ジエチレングリコールアクリレートクロロホルメートまたはトリエチレングリコールアクリレートクロロホルメートなどを用いることができる。
【0030】
(ii)また、本発明の化合物(1)は、たとえば、以下の合成スキームに従って合成することもできる。
【0031】
【化6】

【0032】
上記スキームに示すように、まず、上記方法(i)の手順で得られた化合物[d]とア
セトキシ安息香酸[a]とをエステル化反応させることによって化合物[g]を合成する。エステル化反応にはジシクヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤を好適に用いることができる。次に、アルカリ条件下でアセトキシ基の脱保護を行って化合物[h]を得る。さらに、化合物[h]と4-アクリロイルオキシクロロホルメート[e]とのエステル化反
応により化合物[i]を得ることができる。なお、アセトキシ安息香酸[a]の代わりに、一方のヒドロキシ基がアセトキシ基などの保護基で保護された6−ヒドロキシ−2−ナフタレン酸または4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸を用いることができる。また、4-アクリロイルオキシクロロホルメート[e]の代わりに、エチレングリコール
モノアクリレートクロロホルメート、ジエチレングリコールアクリレートクロロホルメートまたはトリエチレングリコールアクリレートクロロホルメートなどを用いることができる。
【0033】
上記のような方法で合成される化合物(1)の具体例を以下に示す。なお、上記のようにして合成された化合物(1)の構造は、たとえば、プロトンNMRスペクトルなどにより確認することができる。
【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
【化11】

【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

【0043】
〔液晶組成物〕
本発明の液晶組成物は、上述した本発明の化合物(1)と液晶化合物とを含有する。化合物(1)は1種単独であっても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、液晶化合物も同様に、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、液晶化合物は非重合性であっても、重合性であってもよいが、少なくとも1種は重合性の液晶化合物であることが好ましい。
【0044】
上記非重合性の液晶化合物としては、たとえば、液晶性化合物のデータベースであるリクリスト(LiqCryst, LCI Publisher GmbH, Hamburg, Germany)等に記載されている。
上記重合性の液晶化合物としては、たとえば、下記式(M1a)、(M1b)、(M1c)、(M2a)、(M2b)および(M2c)で表される化合物などが挙げられる。
【0045】
【化16】

【0046】
式(M1a)〜(M2c)において、
1は、独立して下記式(P1)〜(P8)のいずれかで表される基であり;
1は、独立して水素、フッ素、塩素、−CNまたは炭素数1〜20のアルキルであり、
該アルキルにおいて、任意の−CH2−は、−O−、−COO−または−OCO−で置き
換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
環A3は、独立して1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり;
1は、独立して水素、ハロゲン、炭素数1〜3のアルキルまたは炭素数1〜3のハロゲ
ン化アルキルであり;
1は、独立して単結合または炭素数1〜20のアルキレンであり、該アルキレン中の任
意の−CH2−は、−O−、−COO−または−OCO−で置き換えられてもよく;
1は独立して−COO−、−OCO−、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、
−CH2CH2COO−、−OCOCH2CH2−、−CH=CHCOO−または−OCOCH=CH−であり;
pおよびqは独立して0または1であり、nは0から10の整数である。
【0047】
【化17】

【0048】
式(P1)〜(P8)中、Wは、水素、ハロゲン、炭素数1〜3のアルキルまたは炭素数1〜3のハロゲン化アルキルである。
本発明の液晶組成物は、室温付近(10〜40℃程度)で広いコレステリック液晶相域を有し、各構成成分の組成比や組成物を重合する際の温度を変えることで、コレステリック相が反射する光の波長領域を制御することができ、所望の色や目的に応じた波長の光を反射する重合体の形成が可能である。
【0049】
本発明の液晶組成物において、上記化合物(1)と上記液晶化合物との合計100重量%に対して、上記化合物(1)は、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは5〜35重量%、さらに好ましくは10〜30重量%の量で含まれる。化合物(1)の含有量が前記範囲であることにより、特定の選択反射領域を有するコレステリック液晶材料およびその重合体を得ることができる。
【0050】
本発明の液晶組成物は、上記化合物(1)および液晶化合物以外にも、たとえば、非液晶性の重合性化合物、溶媒、重合開始剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フィラー、増感剤などを、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに含有してもよい。また、組成物の特性を最適化するために、本発明の液晶組成物に化合物(1)以外の光学活性化合物を添加してもよい。
【0051】
〔重合体〕
本発明の重合体は、上述した本発明の液晶組成物を重合させることによって得られ、重合により組成物のコレステリック液晶相(螺旋構造)が固定化され、所望の色や目的に応じた波長の光を反射する。組成物の重合反応は、加熱による熱重合でもよく、光照射による光重合でもよく、両者を組み合わせた方法で行ってもよい。
【0052】
光重合に用いられる好ましい光の種類は、紫外線、可視光線、赤外線などであり、電子線、X線などの電磁波を用いてもよい。通常は、紫外線または可視光線が用いられる。波長の範囲は、好ましくは150〜500nm、より好ましくは250〜450nm、特に好ましくは300〜400nmである。光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などが挙げられ、超高圧水銀ランプが好ましい。
【0053】
光源からの光はそのまま組成物に照射してもよく、フィルターによって選択した特定の
波長(または特定の波長領域)を組成物に照射してもよい。照射エネルギー密度は好ましくは2〜5000mJ/cm2、より好ましくは10〜3000mJ/cm2、特に好ましくは100〜2000mJ/cm2の範囲である。照度は、好ましくは0.1〜5000
mW/cm2、より好ましくは1〜2000mW/cm2の範囲である。
【0054】
重合体の形状は、特に限定されず、膜状(フィルム状)であっても、板状などであってもよく、また、重合体は成形されてもよい。フィルムは、本発明の液晶組成物を基板に塗布し、重合させる方法などによって得られる。
【0055】
〔用途〕
本発明の液晶組成物および重合体の用途としては、色材一般、たとえば、液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インクなどが挙げられる。また、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および光学フィルムなどに使用することもできる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
(第1段階)
6−アセトキシ−2−ナフタレンカルボン酸(4.6g)、L−メントール(3.2g)、DCC(5.0g)、DMAP(0.24g)および塩化メチレン(50mL)を混合し、室温で1時間攪拌した。析出した結晶を濾別除去し、濾液に水(50mL)を加え、塩化メチレン溶媒を分液した。その後、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製して黄褐色固形物(4.4g)を得た。
【0057】
(第2段階)
得られた固形物にメタノール(20mL)を加えた後、室温で30%アンモニア水(2mL)を滴下した。室温で2時間撹拌した後、6N塩酸(30mL)を加えて反応液を中和し、酢酸エチル(200mL)で抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去した。
【0058】
(第3段階)
得られた残留物にTHF(30mL)、トリエチルアミン(3mL)および4-アクリ
ロイルオキシブチルクロロホルメート(0.5g)を混合し、室温で8時間攪拌した。反応終了後、THFを一部留去し、酢酸エチル(100mL)および水(50mL)を加え、酢酸エチル層を分液した。この酢酸エチル層を、塩酸水、飽和炭酸水素ナトリウムおよび水を順次用いて十分に洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層から減圧下で溶剤を除去し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:トルエン/酢酸エチル=10/1(V/V))によって精製し、目的の黄褐色固形物(3.5g)を得た。得られた化合物のNMR分析値を以下に示し、構造を表1に示す。
【0059】
1H−NMR(CDCl3):δ(ppm);0.81−0.95(m,9H)、1.11−1.60(m,5H)、1.77(m,2H)、1.86(m,4H)、1.97(m,1H)、2.15(m,1H)、4.23(t,2H)、4.32(t,2H)、5.00(m,1H)、5.83(dd,2H)、6.14(dd,2H)、6.41(dd,2H)、7.38(d,1H)、7.70(d,1H)、7.84(d,1H)、7.98(d,1H)、8.08(d,1H)、8.60(s,1H)。
【0060】
〔実施例2〕
実施例1において、6−アセトキシ−2−ナフタレンカルボン酸の代わりに4’−アセトキシビフェニル−4−カルボン酸を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、目的の化合物(2.5g)を得た。得られた化合物のNMR分析値を以下に示し、構造を表1に示す。
【0061】
1H−NMR(CDCl3):δ(ppm);0.81−0.95(m,9H)、1.11−1.60(m,5H)、1.77(m,2H)、1.86(m,4H)、1.97(m,1H)、2.15(m,1H)、4.23(t,2H)、4.32(t,2H)、5.00(m,1H)、5.83(dd,2H)、6.14(dd,2H)、6.41(dd,2H)、7.27(d,2H)、7.61(d,2H)、7.63(d,2H)、8.0(d,2H)。
【0062】
〔実施例3〕
実施例1において、6−アセトキシ−2−ナフタレンカルボン酸(4.6g)の代わりに4−アセトキシ安息香酸(3.6g)を用い、L−メントールの使用量を3.1gに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、目的の黄褐色固形物(2.7g)を得た。得られた化合物の構造を以下に示す。
【0063】
【化18】

【0064】
<らせんピッチおよびHTPの測定>
らせんピッチ(helical pitch)は、以下のようにして測定した。まず、上記実施例で
得られた化合物(約0.01g)をガラス製サンプル瓶にとり、ここに下記の組成物(M−1)を加えて、上記実施例で得られた化合物の含有量が約1重量%となるように混合した。次いで、この混合物を加熱し、混合物が溶解して完全な等方性液体になった後に静置、放冷した。このようにして得られた組成物の一部をくさび型セルに注入し、カノ(Cano)のくさび法(応用物理、1974, 43, 125)に準じ、25℃でピッチを測定した。HTP
は、得られたピッチを基に、式[HTP=p-1 ×c-1]から算出した。ここで、cは試
料化合物の重量%、pはピッチ(μm)である。上記実施例1および2で得られた化合物のらせんピッチおよびHTPを下記表1に示す。
【0065】
【化19】

【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

[式(1)中、
Rは水素またはメチルを示し、
Aは炭素数1〜12のアルキレンを示し、該アルキレン中の任意の−CH2−は、−O−
、−S−、−CH=CH−、−CO−、−COO−または−OCO−で置き換えられてもよく、
XおよびYは、それぞれ独立して芳香族環またはシクロヘキサン環を示し、これらの環において、任意の水素は炭素数1〜3のアルキルで置き換えられてもよく、
Zは、独立して単結合、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CON(R1)−
または−N(R1)CO−を示し、R1は水素またはメチルを示し、
mは0〜3の整数を示す。]
【請求項2】
前記式(1)において、−(X−Z)m−Y−が下記式(2−1)または(2−2)で
表される構造であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化2】

【請求項3】
前記式(1)において、−(X−Z)m−Y−が下記式(3−1)〜(3−7)で表さ
れる構造のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化3】

【請求項4】
前記式(1)において、−(X−Z)m−Y−が下記式(4−1)〜(4−4)で表さ
れる構造のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化4】

【請求項5】
前記式(1)において、Aが−CH2CH2CH2CH2−または−CH2CH2−であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記式(1)において、Aが−CH2CH2OCH2CH2−または−CH2CH2O−CH2CH2−OCH2CH2−であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の化合物と、液晶化合物とを含有することを特徴とする液晶組成物。
【請求項8】
前記液晶化合物として、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含むことを特徴とする請求項7に記載の液晶組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の液晶組成物を重合させて得られる重合体。
【請求項10】
コレステリック液晶相を呈することを特徴とする請求項9に記載の重合体。
【請求項11】
液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および
光学フィルムから選ばれる用途への、請求項7または8に記載の液晶組成物の使用。
【請求項12】
液晶顔料、塗料、噴霧インク、印刷インク、化粧品、偽造防止用印刷物、装飾品および光学フィルムから選ばれる用途への、請求項9または10に記載の重合体の使用。

【公開番号】特開2009−120522(P2009−120522A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295386(P2007−295386)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】