説明

重合性モノマーがグラフト重合されたグラフト重合高分子繊維の製造方法、機能性材料、並びに金属捕集材

【課題】
グラフト率が良好な高分子繊維を低線量の放射線照射で製造できるグラフト重合高分子繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】
不活性ガス雰囲気中で放射線を照射した高分子繊維基材に、アルコールを重合溶媒とする重合性モノマー溶液を含浸させた後、不活性ガス雰囲気下または減圧状態下で重合性モノマーをグラフト重合してグラフト重合高分子繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合性モノマーがグラフト重合されたグラフト重合高分子繊維の製造方法、機能性材料、並びに金属捕集材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重合性モノマーをグラフト重合させた基材の製造において、放射線グラフト重合法が用いられることが知られている。放射線グラフト重合法は、基材に放射線を照射してラジカルを生成させ、これに重合性モノマーを反応させることによってグラフト鎖を基材に導入する方法であり、これまでにも数多くの放射線グラフト重合法が提案されている(例えば、非特許文献1−2、特許文献1参照)。
【0003】
例えば非特許文献1−2では、予め基材に放射線照射を行ってラジカルを生成させ、この基材に、低級アルコールを溶媒とする重合性モノマー溶液を浸漬させた状態でグラフト重合反応を行う前照射液相グラフト重合法が報告されている。また特許文献1では、低級アルコールを15vol%以上添加した重合性モノマーを含む溶液の共存下で基材に放射線を照射することによってラジカルの生成と重合性モノマーとの反応を行わせる同時照射グラフト重合法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-258304号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D. Okamura et al., J. Chromatogr. A, 953, 101-109(2002).
【非特許文献2】岡村大祐,他,膜,27 (4), 196-201 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1−2記載の前照射液相グラフト重合法においては、放射線の照射線量が200kGy程度と高くなっており、照射線量の低減化が課題としてある。また、この前照射液相グラフト重合法ではグラフト重合させる基材として多孔性中空糸膜が用いられているが、水中の有用金属や有害金属を捕集する金属捕集材や吸着材などの機能性材料への応用が期待できる不織布などの高分子繊維基材の使用が望まれている。そこで、この前照射液相グラフト重合法において多孔性中空糸膜に代えて不織布などの高分子繊維基材を使用することが考えられる。しかしながら、高分子繊維基材は重合性モノマー溶液の液切れが悪くロールプレスなどの固液分離操作が必要になったり、高分子繊維基材の空隙に入り込んだ不要な重合性モノマー溶液の除去が必要になったりするなど手間がかかるという問題がある。
【0007】
特許文献1記載の同時照射グラフト重合法では、グラフト重合させる基材として不織布が用いられている。またその特許文献において具体的に効果を確認している放射線の照射線量は50kGyである。この同時照射グラフト重合法においては非特許文献1−2記載の方法よりも低い照射線量で放射線グラフト重合を行うことができるものの、照射線量の低減化の課題は依然として残されている。さらにこの同時照射グラフト重合法においては、非特許文献1−2記載の方法と比べてホモポリマーの生成が多くなるなど重合性モノマーのグラフト鎖への利用効率が低くなり、経済的ではないという問題もある。
【0008】
本発明は、以上のとおりの背景から、グラフト率が良好な高分子繊維を低線量の放射線照射で製造できるグラフト重合高分子繊維の製造方法、製造されたグラフト重合高分子繊維を用いた機能性材料、並びに金属捕集材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のグラフト重合高分子繊維の製造方法は、不活性ガス雰囲気中で放射線を照射した高分子繊維基材に、重合溶媒としてアルコールを用いた重合性モノマー溶液を含浸させた後、不活性ガス雰囲気下または減圧状態下で重合性モノマーをグラフト重合してグラフト重合高分子繊維を製造することを特徴とする。
【0010】
このグラフト重合高分子繊維の製造方法においては、アルコールが、炭素数4〜6のアルコールであることが好ましい。
【0011】
またこのグラフト重合高分子繊維の製造方法においては、放射線の照射線量が、40kGy以下であることが好ましい。
【0012】
またこのグラフト重合高分子繊維の製造方法においては、放射線が、電子線であることが好ましい。
【0013】
さらにまたこのグラフト重合高分子繊維の製造方法においては、高分子繊維基材が、織布または不織布であることが好ましい。
【0014】
本発明の機能性材料においては、上記方法で得られたグラフト重合高分子繊維のグラフト鎖に機能性官能基が導入されていることを特徴とする。
【0015】
この機能性材料においては、機能性官能基が、N−メチルグルカミン基であることが好ましい。
【0016】
本発明の金属捕集材は、上記機能性材料からなることを特徴とする。また、本発明のホウ素捕集材は、機能性官能基がN−メチルグルカミン基である上記機能性材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、グラフト率が良好な高分子繊維基材を低線量の放射線照射で製造できる。また、製造されたグラフト重合高分子繊維を、機能性材料や金属捕集材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例2で製造したグラフト重合高分子繊維についての照射線量とグラフト率の関係を示す図である。
【図2】アルコールの種類を変えて作製したグラフト重合高分子繊維のホウ素吸着性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、下記工程を順次経て、高分子繊維基材に重合性モノマーがグラフト重合されたグラフト重合高分子繊維を製造する。
【0020】
(A)不活性ガス雰囲気中での高分子繊維基材への放射線照射、
(B)照射済み高分子繊維基材への、アルコールを重合溶媒とする重合性モノマー溶液の含浸、
(C)不活性ガス雰囲気下または減圧状態下でのグラフト重合反応。
【0021】
工程(A)では、重合性モノマーを高分子繊維基材にグラフト重合させるためのラジカルを生成させる。ラジカルを生成させた高分子繊維基材に、次の工程(B)において重合性モノマー溶液を含浸させ、工程(C)のグラフト重合反応により、重合性モノマーを高分子繊維基材の主鎖上にグラフト重合させることができる。本方法によれば低線量の放射線照射であっても効果的にグラフト重合を行うことができるので、放射線照射にともなう高分子繊維基材の損傷を抑制することができる。またホモポリマーの生成を抑え、グラフト率が良好なグラフト重合高分子繊維を得ることができる。ここで「グラフト率」とは、高分子繊維基材にグラフ卜した重合性モノマーの重量増加分(%)をいう。
【0022】
高分子繊維基材に照射する放射線は電子線またはγ線である。電子線は照射率が高く遮蔽管理が容易であるため好適に用いられる。高分子繊維基材には、例えば200kGy以下の放射線を照射することができるが、本方法においては40kGy以下、さらには20kGy以下の低線量の放射線を照射しても効果的にグラフト重合を行うことができる。本方法において照射線量の下限値は例えば1kGyとすることができるが、好ましくは5kGyである。
【0023】
かかる範囲の線量の放射線が窒素や希ガスなどの不活性ガス雰囲気中で高分子繊維基材に照射される。また大気圧よりも低い圧力状態である減圧雰囲気中(真空中)で放射線照射されてもよい。
【0024】
本発明に用いられる高分子繊維基材は、合成樹脂繊維や天然高分子繊維などの高分子繊維から構成される。合成樹脂繊維としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどを原料とするポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニルなどを原料とするハロゲン化ポリオレフィン系繊維などが挙げられる。天然高分子繊維としては、キチン、キトサン、セルロース、デンプンなどを原料とするものが挙げられる。高分子繊維は芯成分と鞘成分とが異種材料で構成されている芯鞘構造を有するものであってもよい。例えば芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエチレンである芯鞘構造を有する高分子繊維を例示することができる。高分子繊維は、平均繊維径1μm以上50μm以下のもの、好適には平均繊維径2μm以上30μm以下のものが用いられる。
【0025】
高分子繊維基材の形態としては、糸状であってもよいし、高分子繊維の集合体である織布や不織布であってもよい。水中の有用金属や有害金属を捕集する金属捕集材や吸着剤などの機能性材料への利用を考慮すると、シート状の織布や不織布は効率良く金属を捕集、吸着することができるので望ましい形態である。
【0026】
工程(B)では、重合性モノマー溶液に照射済み高分子繊維基材を浸漬したり重合性モノマー溶液を照射済み高分子繊維基材に塗布したりするなどして照射済み高分子繊維基材と重合性モノマー溶液とを接触させて、照射済み高分子繊維基材に重合性モノマー溶液を含浸させている。重合性モノマー溶液に照射済み高分子繊維基材を浸漬する場合、重合性モノマー溶液を照射済み高分子繊維基材に含浸させることができれば浸漬時間は特に制限されず、例えば0.1〜5分程度とすることができる。
【0027】
本発明で用いられる重合性モノマー溶液は、アルコールを重合溶媒としている。このような溶媒を用いた重合性モノマー溶液を用いることで、グラフト率が良好な高分子繊維基材を製造することができる。40kGy以下、さらには20kGy以下の低線量の放射線照射であってもグラフト率が良好な高分子繊維基材を得ることができる。アルコールは炭素数4〜6のものを用いることが好ましい。重合性モノマーの利用効率をより向上させることができ、また、グラフト率をより高くすることができるからである。炭素数7以上のアルコールを重合溶媒として用いた場合には、グラフト重合そのものは進行するものの、沸点が炭素数の増加に伴って上昇し、グラフト重合後の後処理においてグラフト重合高分子繊維から除去しにくくなるので好ましくない。また、アルコールの価格が増大し、経済的でないので好ましくない。
【0028】
アルコールは直鎖状または分岐状でもよいが、よりグラフト率が良好な高分子繊維基材を得るためには、直鎖状であることが望ましい。具体例として、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノールなどを挙げることができる。なかでも1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールが好適である。これら重合溶媒は単独あるいは併用して用いることができる。
【0029】
重合性モノマー溶液のモノマー濃度は、重合性モノマーや重合溶媒の種類、グラフト重合すべき高分子繊維基材の種類、目的とするグラフト率に応じて例えば10wt%〜50wt%の範囲で設定される。グラフト重合高分子繊維基生産性や重合性モノマー溶液の取り扱い性などを考慮すると、30wt%〜50wt%の範囲が好適である。
【0030】
重合性モノマーは、ビニル基を有するものであり、放射線グラフト重合法において通常用いられているモノマーであれば特に制限されるものではない。具体例として、アクリル酸、アクロレイン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジルなどのアクリル系モノマー、スチレン、クロロメチルスチレンなどのスチレン系モノマーなどが挙げられる。これら重合性モノマーは、イオン交換基や親水基などの機能性官能基を有していてもよい。このような機能性官能基を有する重合性モノマーを高分子繊維基材にグラフト重合したグラフト重合高分子繊維は、例えばイオン交換膜材料や水吸着剤材料などの機能性材料として各種の用途に使用できる。機能性官能基を有しない重合性モノマーを高分子繊維基材にグラフト重合したグラフト重合高分子繊維であっても、グラフト重合後に機能性官能基をグラフト重合高分子繊維のグラフト鎖に導入することで各種の機能性材料とすることができる。例えば後述する実施例では、グラフト重合後にN−メチルグルカミン基をグラフト重合高分子繊維に導入しているが、このものは水中のホウ素に対して吸着能を有し、金属捕集材として利用できる。
【0031】
工程(C)では、重合性モノマー溶液を含浸させた照射済み高分子繊維基材についてグラフト重合反応を行わせる。工程(B)において照射済み高分子繊維基材を重合性モノマー溶液に浸漬させた場合には重合性モノマー溶液から照射済み高分子繊維基材を取り出してグラフト重合反応を行わせる。これによって、照射済み高分子繊維基材に重合性モノマーの重合体からなるグラフト鎖が形成される。このようなグラフト鎖の形成においては、重合性モノマー溶液中の重合性モノマーがグラフト重合反応に大きく寄与している。
【0032】
工程(C)のグラフト重合反応は、酸素濃度が低い雰囲気下で行う。具体的には、窒素ガスや希ガスなどの不活性ガス雰囲気下や、大気圧よりも低い圧力状態である減圧状態下で行う。反応時間は、例えば1〜5時間とすることができる。
【0033】
このようなグラフト重合反応は、反応速度が比較的はやく、またホモポリマーの生成が少ないなど、重合性モノマーの利用効率が比較的高い。また、得られるグラフト重合高分子繊維の取り扱い性が優れる。さらに未反応の重合性モノマーを洗浄除去する手間を要しないなど生産性に優れるという利点を有する。
【0034】
以上のように、本発明は、照射済み高分子繊維基材に、アルコールを重合溶媒とする重合性モノマー溶液を含浸させた後、不活性ガス雰囲気下または減圧状態下で重合性モノマーをグラフト重合することで、予め高分子繊維基材に照射する放射線の照射線量が40kGy以下、さらには20kGy以下であってもグラフト率が良好な高分子繊維基材を得ることができる。また重合性モノマーの利用効率が高いため、モノマー使用量を抑えてグラフト重合反応を行うことができるので、経済的である。
【0035】
最終的にはグラフト率120〜180%程度のグラフト重合高分子繊維を得ることが可能である。使用する重合性モノマー溶液のモノマー濃度等によっては、グラフト率が180%を超えるグラフト重合高分子繊維を得ることもできるし、グラフト率が120%未満のものも得ることができる。炭素数4〜6のアルコールを重合溶媒とする重合性モノマー溶液を用いて製造したグラフト重合高分子繊維と、炭素数3以下のアルコールを重合溶媒とする重合性モノマー溶液を用いて製造したグラフト重合高分子繊維とを比較すると(重合性モノマーの種類、モノマー濃度をはじめその他の製造条件は同じ)、前者の重合性モノマー溶液を用いた方が相対的に高いグラフト率のものとすることができる。
【0036】
さらに本発明はバッチ式もしくはフロー式で行うことができる。バッチ式で行う場合でも、同時進行的に複数のグラフト重合反応器を用いることにより、フロー式と同様、大量のグラフト重合高分子繊維を効率よく製造することができる。このため、金属捕集材や吸着剤などの機能性材料を低コストで製造できる。
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
ポリエチレン被覆ポリプロピレン繊維(平均繊維径13μm)からなる基材長10mの不織布に電子加速器から電子線を窒素雰囲気中で20kGy照射した。この照射済み不織布を、予め窒素置換した重合性モノマー溶液(重合性モノマー:グリシジルメタクリレート、溶媒:1−ブタノール、モノマー濃度:40wt%)に1分間浸漬した後、含浸率を500%に調整して減圧器に挿入した。次いで150Paまで減圧した後、40℃で3時間グラフト重合を行ってグラフト重合高分子繊維を製造した。
【0038】
得られたグラフト重合高分子繊維のグラフト率は170%であった。なお、グラフト率(Degree of grafting;Dg)はグラフト重合反応前後の不織布の重量増加から以下に示す式により算出した。
【0039】
グラフト率:Dg[%]=(W1-W0)/W0×100
ここで示すW0とW1は、それぞれグラフト重合前とグラフト重合後の基材重量である。
【0040】
次いで、得られたグラフト重合高分子繊維を、150g/LのN−メチルグルカミン溶液(溶媒:N−イソプロピルアルコール/水(比率:6/4))中に浸漬して70℃で1時間反応させN−メチルグルカミン基を導入した。このグラフト重合高分子繊維の官能基濃度は2.0mmol/gであった。
【0041】
N−メチルグルカミン基を導入したグラフト重合高分子繊維450gを円筒形に巻き、内径10cmの筒に挿入してカラムを作成した。このカラムに下降流方式でホウ素濃度100mg/Lに調製した溶液120LをSV 22h-1で吸着試験を行った。このときの破過時のホウ素吸着量は、8.9g/kgであり、120L透過後の吸着量は15.8g/kgであった。このことから、N−メチルグルカミン基を導入したグラフト重合高分子繊維は捕集材として利用できることが確認できた。
【0042】
<実施例2>
ポリエチレン被覆ポリプロピレン繊維(平均繊維径13μm)からなる基材長10mの不織布に電子加速器から電子線を線量を変えて(下記参照)窒素雰囲気中で照射した。溶媒の種類を変えた重合性モノマー溶液(重合性モノマー:グリシジルメタクリレート、溶媒:下記参照、モノマー濃度:40wt%)を準備し、各照射済み不織布を、予め窒素置換した各重合性モノマー溶液に1分間浸漬した後、含浸率を500%に調整して減圧器に挿入した。次いで150Paまで減圧した後、40℃で3時間グラフト重合を行ってグラフト重合高分子繊維を製造した。得られたグラフト重合高分子繊維のグラフト率を算出し、これを図1に示した。
・電子線の照射線量:10kGy、20kGy、50kGy、100kGy
・重合性モノマー溶液の溶媒:メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール
なお、10kGyの電子線を照射した照射済み不織布を用いたグラフト重合反応では、メタノール、1−ブタノール、1−ペンタノールを溶媒とした各重合性モノマー溶液を用いた。
【0043】
図1の結果から、照射済み不織布に炭素数4〜6のアルコールを重合溶媒とする重合性モノマー溶液を含浸させた後、減圧状態下でグラフト重合反応を行わせることで、予め不織布に照射する電子線の照射線量が20kGy以下であっても照射線量が50kGyや100kGyの電子線を照射した場合と同様にグラフト率が良好な高分子繊維基材を得ることができることが確認できた。
【0044】
また、炭素数4〜6のアルコールを溶媒とする重合性モノマー溶液を用いて製造した場合と、炭素数3以下のアルコールを溶媒とする重合性モノマー溶液を用いて製造した場合とを比較すると、前者の製造物のグラフト率が顕著に高くなっていることがわかる。
【0045】
<実施例3>
実施例2に示した方法により得られたグラフト重合高分子繊維を捕集材とし、ホウ素イオンの吸着試験を行った。その結果を図2に示す。本実施例では、吸着試験法として、バッチ吸着試験を実施した。具体的な実験操作手順は次の通りである。
捕集材0.1 gをホウ素水溶液(ホウ素濃度:20 ppm、pH 8.2)200 mL中に浸漬・攪拌し、吸着温度23℃にて吸着試験を行った。この際、吸着時間を、5、10、15、30、60、120分とし、それぞれの時間経過毎にホウ素溶液1 mLを採取した後、4 mLの水を添加して分析用のサンプルとした。ホウ素濃度の測定は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy: ICP-AES)で行い、吸着前後の溶液中のホウ素濃度差により捕集材に吸着しているホウ素量を見積った。ここで、捕集材に用いられたグラフト重合高分子繊維は、その製造時に、重合性モノマー溶液の溶媒としてメタノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールがそれぞれ用いられている。重合性モノマー溶液の溶媒としてメタノールを用いて製造されたグラフト重合高分子繊維は、グラフト率が約120%であり、グルカミン基密度が約2.0 mmol/g-捕集材である。重合性モノマー溶液の溶媒として1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールをそれぞれ用いて製造されたグラフト重合高分子繊維は、グラフト率が約150%であり、グルカミン基密度が約2.0 mmol/g-捕集材である。
【0046】
図2に示すように、どの捕集材においても吸着時間の経過と共にホウ素吸着量が増加し、短時間で効率的にホウ素を吸着していることが分かった。吸着時間120分経過後の各捕集材のホウ素吸着量は、10.9 mg/g-ad(重合性モノマー溶液の溶媒としてメタノールを用いて製造されたグラフト重合高分子繊維)、9.1 mg/g-ad(1−ブタノールを用いて製造されたグラフト重合高分子繊維)、11.2 mg/g-ad(1−ペンタノールを用いて製造されたグラフト重合高分子繊維)、11.5 mg/g-ad(1−ヘキサノールを用いて製造されたグラフト重合高分子繊維)となった。本実施例の結果より、各捕集材は、実用的に十分なホウ素捕集性能を有していることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気中で放射線を照射した高分子繊維基材に、重合溶媒としてアルコールを用いた重合性モノマー溶液を含浸させた後、不活性ガス雰囲気下または減圧状態下で重合モノマーをグラフト重合して前記高分子繊維基材に前記重合性モノマーがグラフト重合されたグラフト重合高分子繊維を製造することを特徴とするグラフト重合高分子繊維の製造方法。
【請求項2】
前記アルコールが、炭素数4〜6のアルコールであることを特徴とする請求項1に記載のグラフト重合高分子繊維の製造方法。
【請求項3】
前記放射線の照射線量が、40kGy以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のグラフト重合高分子繊維の製造方法。
【請求項4】
前記放射線が、電子線であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のグラフト重合高分子繊維の製造方法。
【請求項5】
前記高分子繊維基材が、織布または不織布であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のグラフト重合高分子繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの方法で得られたグラフト重合高分子繊維のグラフト鎖に機能性官能基が導入されていることを特徴とする機能性材料。
【請求項7】
前記機能性官能基が、N−メチルグルカミン基であることを特徴とする請求項6に記載の機能性材料。
【請求項8】
請求項6または7記載の機能性材料からなることを特徴とする金属捕集材。
【請求項9】
請求項7記載の機能性材料からなることを特徴とするホウ素捕集材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−214966(P2012−214966A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−77842(P2012−77842)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(503357388)株式会社クリーンテック (2)
【Fターム(参考)】