説明

重合性モノマー及びこれを用いてなる光学用樹脂

【課題】 高屈折率であり、かつ透明性、低複屈折性及び耐熱性に優れた光学用樹脂を提供する。
【解決手段】 一般式(1)又は一般式(2)で表される重合性モノマー(a)及び重合性モノマー(a)を重合させて得られる光学用樹脂(A)。光学用樹脂(A)のガラス転移温度は120〜160℃であることが好ましい。
【化1】


[式中、m及びnはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、m及びnが0の場合はそれぞれ分子中に橋かけ構造を有しないことを表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は屈折性、透明性、低複屈折性及び耐熱性に優れる光学用樹脂並びにこれに用いられる重合性モノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
光学系に使用される材料としては光学ガラス及び光学用透明樹脂等が挙げられる。光学ガラスは広範な屈折率の選択性に加えて透明性、低複屈折性、耐熱性、寸法安定性及び耐薬品性に優れる反面、材料コストが高い上に成形加工性が悪く、生産性が低いという問題点がある。
一方、光学用透明樹脂としてはポリメチルメタクリレート(PMMA)が従来知られている。PMMAは成型加工性及び生産性に優れる反面、屈折率、耐熱性及び耐湿性に課題がある。
【0003】
近時、ノルボルネン系単量体のメタセシス開環重合体の水素添加により得られる脂環式樹脂(COP)が開発されている。COPは透明性、耐熱性、耐湿性及び生産性に優れる上に低複屈折性も有しているため、携帯電話やコンパクトカメラのレンズや液晶ディスプレー等広範に使用されているが屈折率が低いという問題がある。
上述のような低屈折率樹脂を高屈折率化させる方法として、高屈折率であるジルコニア及びチタニア等の無機酸化微粒子をコンパウンドする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし無機微粒子の樹脂中での分散性が極めて悪いため樹脂本来の透明性を大きく損なうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−191167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高屈折率であり、かつ透明性、低複屈折性及び耐熱性に優れた光学用樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、一般式(1)又は一般式(2)で表される重合性モノマー(a)、該重合性モノマー(a)を重合させて得られる光学用樹脂(A)及び該光学用樹脂(A)を用いてなる光学素子である。
【化1】

[式中、m及びnはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、m及びnが0の場合はそれぞれ分子中に橋かけ構造を有しないことを表す。]
【発明の効果】
【0007】
本発明の重合性モノマー(a)を使用した光学用樹脂(A)を用いることにより、高屈折率であり、かつ透明性、低複屈折性及び耐熱性に優れる光学素子の製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の重合性モノマー(a)は一般式(1)又は一般式(2)で表される。
【0009】
【化2】

【0010】
一般式(1)におけるm及び一般式(2)におけるnはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、m及びnが0の場合はそれぞれ分子中に橋かけ構造を有しないことを表す。
【0011】
重合性モノマー(a)は、例えば4−エチリデン−1−シクロヘキセン、4−ビニリデン−1−シクロヘキセン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニリデン−2−ノルボルネン、5−エチリデンビシクロ[2.2.2]オクタ−2−エン、5−ビニリデンビシクロ[2.2.2]オクタ−2−エン、9−エチリデンビシクロ[3.2.2]ノナ−6−エン及び9−ビニリデンビシクロ[3.2.2]ノナ−6−エン等の脂環式ポリエンと有機過酸又は過酸化水素とを反応させた後に、更に酸性条件下においてチオ尿素を反応させることにより得ることができる。
【0012】
有機過酸としては、過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、過安息香酸、過フタル酸、m−クロロ過安息香酸及びトリフルオロ過酢酸等が挙げられる。
【0013】
本発明の光学用樹脂(A)は、重合性モノマー(a)を重合することにより得られる。
重合性モノマー(a)が硫黄原子を含有し、かつ脂環式骨格を有しているため、重合性モノマー(a)を重合して得られた樹脂(A)は屈折性、透明性、低固有複屈折性及び耐熱性に優れ、光学素子の製造に好適に用いることができる。
【0014】
重合性モノマー(a)の重合方法は、特に制限されず、例えば紫外線照射によりカチオンを発生するカチオン重合開始剤を添加して紫外線照射により重合する方法が挙げられる。
【0015】
紫外線照射によりカチオンを発生するカチオン重合開始剤としては、ヘキサフルオロアンチモネート塩、ペンタフルオロヒドロキシアンチモネート塩及びヘキサフルオロホスフェート塩等が挙げられる。
【0016】
カチオン重合開始剤の市販品としては、例えば、Lw−S1(サンアプロ社製)、UVACURE1591(ダイセルUCB社製)、イルガキュア264(チバスペシャルティケミカルズ社製)、CIT−1682(日本曹達社製)、サイラキュアUVI−6970、同UVI−6974、同UVI−6990(以上、米国ユニオンカーバイド社製)、サンエイドSI−60L及びSI−100L(以上、三新化学工業社製)が挙げられる。
【0017】
カチオン重合開始剤の使用量は、重合性モノマー(a)の重量を基準として好ましくは0.1〜20重量%、更に好ましくは0.5〜15重量%である。
【0018】
紫外線の照射源としては、例えば発光ダイオード、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアーク及びメタルハライドランプ等が挙げられる。照射条件は、通常、波長395nmにおける線量が10〜1,500mJ/cm2となる範囲内が適している。
【0019】
本発明の光学用樹脂(A)に熱可塑性エラストマー及び/又はその他の熱可塑性樹脂を混合することにより、柔軟性及び成形性に優れる光学用樹脂組成物が得られる。
【0020】
熱可塑性エラストマーとしては、エチレン−α−オレフィン系ゴム状重合体;エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体ゴム;エチレン−メチルメタクリレート及びエチレン−ブチルアクリレート等のエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体;エチレン−酢酸ビニル等のエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体;アクリル酸2−エチルヘキシル及びアクリル酸ラウリル等のアクリル酸アルキルエステルの重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン又はスチレン−イソプレンのランダム共重合体、水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル−スチレン共重合体等のジエン系ゴム;エポキシ化ポリブタジエン等の変性ジエン系ゴム;イソブチレン−イソプレン共重合体;エチレン−プロピレンエラストマー、スチレングラフトエチレン−プロピレンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー及びエチレン系アイオノマー樹脂等、特開平2−133406号公報、特開平2−305814号公報、特開平3−72512号公報及び特開平3−74409号公報等に記載されているもの等;が挙げられる。
【0021】
これらの熱可塑性エラストマーの内、成形性の観点から好ましいのは、水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体及び水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体である。
【0022】
熱可塑性エラストマーのムーニー粘度は、適宜選択することができるが、柔軟性の観点からは5〜200ML(1+4)100℃であることが好ましい。
【0023】
その他の熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート及びセルローストリアセテート等が挙げられる。
【0024】
熱可塑性エラストマー及びその他の熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、その使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択されるが、光学用樹脂(A)の重量に基づいて、30重量%以下であることが好ましい。
【0025】
光学用樹脂(A)のガラス転移温度、並びに(A)に熱可塑性エラストマー及び/又はその他の熱可塑性樹脂を併用した樹脂組成物のガラス転移温度は、成形性の観点から120℃〜160℃であることが好ましい。本発明におけるガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定される。
【0026】
本発明の光学用樹脂(A)は、更に必要に応じて、無機充填剤、難燃助剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、紫外線吸収剤(レーザー加工性向上剤)、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、磁性体、誘電特性調整剤及び靭性剤等を添加して使用することができる。これらの使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択すればよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下において部は重量部を、%は重量%を表す。
【0028】
[実施例1]
反応容器に5−ビニリデン−2−ノルボルネン[SPCC社製]19.5部及びトリクロロエタン150部を加えて均一溶解後、氷浴上で撹拌下に1時間かけてm−クロロ過安息香酸120部を加え、反応容器内温度を25℃以下に保ちながら2時間反応させた。次いで炭酸ナトリウム水溶液で中和して分液後、有機層中のトリクロロエタンを減圧下に除去して無色透明の中間体23.5部を得た。
反応容器にチオ尿素22.9部及び15%硫酸水溶液197mlを加えて温度を25〜30℃に保ちながら攪拌下に上記中間体23.5部を1時間かけて滴下した。25〜30℃で2時間反応させた後、ジエチルエーテルで抽出して18%炭酸ナトリウム水溶液で中和した後3時間静置した。その後分液し、有機層中のジエチルエーテルを減圧下に除去して前記一般式(1)におけるmが1である本発明の重合性モノマー(a−1)19.4部を得た。
【0029】
[実施例2]
5−ビニリデン−2−ノルボルネンを5−エチリデン−2−ノルボルネン[SPCC社製]に代えた以外は実施例1と同様にして、前記一般式(2)におけるnが1である本発明の重合性モノマー(a−2)19.4部を得た。
【0030】
[実施例3]
カチオン重合性モノマー(a−1)19.4部とLw−S1[サンアプロ社製]1.0部を混合後、離型紙上に膜厚が20μmになるようにバーコーターを用いて塗布した後、紫外線照射装置[Digital Light Lab社製]を用いて1000mJ/cm2の紫外線(波長395nm)を照射して本発明の光学用樹脂(A−1)を得た。
【0031】
[実施例4]
カチオン重合性モノマー(a−1)をカチオン性重合モノマー(a−2)に代える以外は実施例3と同様にして本発明の光学用樹脂(A−2)を得た。
【0032】
[比較例1]
特開2010−132494公報に記載されている方法により得られた30%酸化ジルコニウム分散液4部、メタクリル酸メチル2.5部及び2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(BASF社製)0.175部を混合して、離型紙上に膜厚が20μmになるようにバーコーターを用いて塗布した後、1000mJ/cm2の紫外線(波長395nm)を照射して比較用の樹脂(A’−1)を得た。
【0033】
[比較例2〜3]
脂環式オレフィンポリマー(日本ゼオン社製「ゼオネックス480」)を比較用の樹脂(A’−2)とし、ポリカーボネート[SABIC社製]を比較用の樹脂(A’−3)とした。
【0034】
本発明の光学用樹脂(A−1)〜(A−2)及び比較用の樹脂(A’−1)〜(A’−3)について、以下の方法により屈折率、全光線透過率、固有複屈折率及びガラス転移温度を測定した結果を表1に示す。
【0035】
<屈折率の測定>
各樹脂を射出成形して作製した試験片を用いて、25℃での屈折率を屈折率計[(株)アタゴ製「アッベ屈折率計4T」]を用いて測定する。
【0036】
<全光線透過率の測定>
各樹脂を射出成形して作製した厚さ2±0.2mmの試験片を用いて、全光線透過率をJIS K 7361−1に記載のシングルビーム法で測定する。
【0037】
<固有複屈折率の測定>
ガラス転移温度より10℃高い温度を延伸温度とし、延伸倍率2倍で一軸延伸して得られた試験片について、偏光顕微鏡にてセナルモン型コンペンセーターを用い室温で配向複屈折率(Δn)を測定し、また、偏光赤外二色法により配向関数(f)を測定し、次式から固有複屈折率(Δn0)を求める。
Δn0=Δn/f
【0038】
<ガラス転移温度の測定>
JIS K 7121に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)法にてガラス転移温度(℃)を測定する。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の光学用樹脂は、透明性に優れ、高屈折性、低複屈折性及び高耐熱性であることから、特に集光レンズやプリズムレンズに極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)又は一般式(2)で表される重合性モノマー(a)。
【化1】

[式中、m及びnはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、m及びnが0の場合はそれぞれ分子中に橋かけ構造を有しないことを表す。]
【請求項2】
請求項1記載の重合性モノマー(a)を重合させて得られる光学用樹脂(A)。
【請求項3】
ガラス転移温度が120〜160℃である請求項2記載の光学用樹脂。
【請求項4】
請求項2又は3記載の光学用樹脂を用いてなる光学素子。

【公開番号】特開2012−229361(P2012−229361A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99632(P2011−99632)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】