説明

重合性化合物

【課題】優れた熱硬化性を持つ重合性化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物。


(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な重合性化合物及び当該化合物からなる硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
熱や光等のエネルギーを付与することで重合し硬化する化合物は、各種のポリマーや硬化性組成物の原料として、コーティング材、塗料、印刷インク、接着剤、レジスト材等の工業的用途に幅広く利用されている。例えば、熱によって硬化する重合性化合物をインクや塗料に配合し、画像形成後に加熱により当該化合物を重合させ硬化膜を形成することで、画像の耐候性や耐久性を高めることが行われている。
このような硬化は、硬化剤を含有させることによって行うことができる。従来の硬化剤としては、例えば、N,Nメチレンビスアクリルアミド等のアクリルアミド基を含有する重合性化合物があり、しばしば利用されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】架橋剤ハンドブック、山下晋三、金子東助編、大成社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、硬化剤等として有用な重合性化合物、並びに当該化合物からなる硬化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、高い重合能及び硬化能を有する化合物の開発のため研究を重ねた。その結果、分子内に複数のC−C二重結合を有する新規化合物を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、上記課題は下記の手段により解決された。
(1)下記一般式(1)で表される化合物。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。)
(2)前記(1)項記載の化合物からなる硬化剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の前記一般式(1)で表される化合物は、分子内に4個のC−C二重結合を持ち、優れた重合能及び硬化能を有する。当該化合物からなる本発明の硬化剤は、印刷インク、各種塗料、レジスト、接着剤、コーティング材等の用途に用いることができる。より具体的には、例えば、当該化合物の優れた熱硬化反応性を利用して、熱硬化型インク組成物用の硬化剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で合成された例示化合物(1a)のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で合成された例示化合物(1a)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で合成された例示化合物(1a)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図4】実施例1で合成された例示化合物(1a)のMSによる分析結果を示す図である。
【図5】実施例1で合成された例示化合物(1b)のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】実施例1で合成された例示化合物(1b)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】実施例1で合成された例示化合物(1b)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図8】実施例1で合成された例示化合物(1b)のMSによる分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の重合性化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0012】
【化2】

【0013】
前記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。本発明において複数のRは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0014】
前記一般式(1)で表される化合物は、例えば、下記スキーム1に示す工程により製造することができる。
【0015】
【化3】

【0016】
出発物質(A)としてトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用い、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの水酸基とアクリロニトリルとを反応させ、アクリロニトリル付加体:中間体(B)を得る。次に、得られた中間体(B)を、触媒存在下で水素と反応させ、水素添加反応によりアミン体:中間体(C)を得る。さらに、得られた中間体(C)をアクリル酸クロリド又はメタクリル酸クロリドと反応させてアシル化し、目的の化合物(1)を得ることができる。アシル化剤は、酸クロリドに換えてジアクリル酸無水物又はジメタクリル酸無水物を用いてもよい。なお、アシル化工程で、アクリル酸クロリドとメタクリル酸クロリドの両方を用いることで、最終生成物として同一分子内にアクリルアミド基とメタクリルアミド基とを有する化合物(1)を得ることができる。
上記のスキーム1において(A)から(B)の工程は、0〜60℃で30分〜8時間、(B)から(C)の工程は、20〜45℃で2時間〜16時間、(C)から化合物(1)の工程は、0〜30℃で30分〜6時間、で行なうのが、それぞれ好ましい。
本発明の化合物は、反応生成液から常法により分離、回収できる。例えば、有機溶媒を用いた抽出操作、貧溶媒を用いた晶析、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーなどによって回収できる。
【0017】
本発明の化合物は、分子内に重合性基として4つのアクリルアミド基又はメタクリルアミド基を有する多官能モノマーであり、高い重合能及び硬化能を有する。当該化合物は、α線、γ線、X線、紫外線、可視光線、赤外光線、電子線等の活性放射線や熱などのエネルギーを付与することにより重合して硬化性を示す。本発明の硬化剤は、前記一般式(1)で表される化合物からなる。当該化合物の硬化能により、本発明の硬化剤は優れた硬化性を有し、印刷インク、各種塗料、レジスト、接着剤、コーティング材等の用途に好適に用いられる。本発明の硬化剤は、用途等に応じて、他の硬化剤、重合開始剤、溶媒等を適宜含有してもよい。
特に、本発明の化合物は熱硬化性化合物として好適に用いられる。例えば、本発明の化合物や硬化剤を配合することで、熱硬化性組成物を得ることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0019】
実施例1
前記スキーム1にしたがって、化合物(1)のRが水素原子である化合物(以下、例示化合物(1a)という)及びRがメチル基である化合物(以下、例示化合物(1b)という)を合成した。
【0020】
(1)中間体(B)の合成
スターラーバーを備えた1L容の三口フラスコに、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(A)(東京化成工業社製)121g(1当量)、50%水酸化カリウム水溶液84ml、トルエン423mlを加えて攪拌し、水浴下、反応系中を20〜25℃で維持し、アクリロニトリル397.5g(7.5当量)を2時間かけて滴下した。滴下後、1.5時間攪拌した後、トルエン540mlを反応系中に追加し、その反応混合物を分液漏斗へ移し水層を除いた。残った有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、セライトろ過を行い、減圧下溶媒留去することにより中間体(B):アクリロニトリル付加体を得た。得られた物質のH−NMR、MSによる分析結果は既知物と良い一致を示したため、さらに精製することなく次の還元反応に用いた。
【0021】
(2)中間体(C)の合成
1L容オートクレーブに先に得られた中間体(B)を24g、Ni触媒48g(ラネーニッケル2400、W.R.Grace&Co.社製)、25%アンモニア水:メタノール=1:1溶液600mlを入れ懸濁させ反応容器を密閉した。反応容器に10Mpaの水素を導入し、反応温度を25℃で16時間反応させた。
原料の消失をH−NMRにて確認し、反応混合物をセライト濾過し、セライトをメタノールで数回洗浄した。濾液を減圧下溶媒留去することにより中間体(C):アミン体を得た。得られた物質はさらに精製することなく次の還元反応に用いた。
【0022】
(3)例示化合物(1a)の合成
攪拌機を備えた2L容の三口フラスコに先に得られた中間体(C)30g、NaHCO 120g(14当量)、ジクロロメタン1L、水50mlを加えて、氷浴下、アクリル酸クロリド92.8g(10当量)を3時間かけて滴下し、その後、室温で3時間攪拌した。原料の消失をH−NMRにて確認した後、反応混合物を減圧下溶媒留去し、硫酸マグネシウムで反応混合物を乾燥させ、セライトろ過を行い、減圧下溶媒留去した。最後に、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール=4:1)にて精製することで、常温で黄色の液体(収率40%)を得た。
【0023】
得られた黄色の液体を、下記の測定条件にて、H−NMR、13C−NMR、IR、MSにより同定した。同定データを図1〜4に示す。
H−NMR 溶媒:重クロロホルム、内部標準:TMS
13C−NMR 溶媒:重クロロホルム、内部標準:TMS
IR 銅箔上に塗布して反射スペクトルを測定し、吸光度に変換した。
MS 溶媒:MeOH/HO=9/1、10mM CHCOONH
【0024】
図1に示すH−NMRのデータから、3.75ppm付近のシングレットピーク(母骨格由来のピーク)の積分比6に対して、5.6ppm付近のアクリル由来の1水素のピークの積分比が4であることから、当該化合物が4つのアクリルアミド基を有することがわかった。図2に示す13C−NMRのデータより、カルボニル基、オレフィンのピークが特徴的な位置に観測され、全炭素数と全ピーク数の一致が確認できることから、例示化合物(1a)で示される構造であることがわかった。また、図3に示すIRのデータから、アクリルアミドの吸収が存在することがわかった。さらに、図4に示すMSのデータから得られる分子量が、例示化合物(1a)の分子量と一致することがわかった。
これらの結果より、この黄色の液体が、例示化合物(1a)で示される構造(前記スキーム1に示す化合物(1)においてRが水素原子である構造)を有することが確認された。
【0025】
(4)例示化合物(1b)の合成
攪拌機を備えた2L容の三口フラスコに先に得られた中間体(C)20g、NaHCO 80.5g(14当量)、ジクロロメタン684ml、水32mlを加えて、氷浴下、ジメタクリル酸無水物105.5g(10当量)を3時間かけて滴下し、その後、室温で12時間攪拌した。原料の消失をH−NMRにて確認した後、反応混合物を減圧下溶媒留去し、硫酸マグネシウムで反応混合物を乾燥させ、セライトろ過を行い、減圧下溶媒留去した。最後に、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール=4:1)にて精製することで、常温で緑黄色の液体(収率43%)を得た。
【0026】
得られた緑黄色の液体を、下記の測定条件にて、H−NMR、13C−NMR、IR、MSにより同定した。同定データを図5〜8示す。
H−NMR 溶媒:重クロロホルム、内部標準:TMS
13C−NMR 溶媒:重クロロホルム、内部標準:TMS
IR 銅箔上に塗布して反射スペクトルを測定し、吸光度に変換した。
MS 溶媒:MeOH/HO=9/1、10mM CHCOONH
【0027】
図5に示すH−NMRのデータから、3.72ppm付近のシングレットピーク(母骨格由来のピーク)の積分比6に対して、5.3ppm付近のメタクリル由来の1水素のピークの積分比が4であることから、当該化合物が4つのメタクリルアミド基を有することがわかった。図6に示す13C−NMRのデータより、カルボニル基、オレフィンのピークが特徴的な位置に観測され、全炭素数と全ピーク数の一致が確認できることから、例示化合物(1b)で示される構造であることがわかった。また、図7に示すIRのデータから、メタクリルアミドの吸収が存在することがわかった。さらに、図8に示すMSのデータから得られる分子量が、例示化合物(1b)の分子量と一致することがわかった。
これらの結果より、この黄色の液体が前記スキームの例示化合物(1b)で示される構造(前記スキーム1に示す化合物(1)においてRがメチル基である構造)を有することが確認された。
【0028】
実施例2 硬化性の評価
実施例1で合成した例示化合物(1a)及び(1b)の熱硬化性を、下記の手順で評価した。
硬化性の評価は、例示化合物(1a)又は(1b)、ラジカル重合開始剤及び有機溶剤からなるサンプル溶液を銅版上に塗布し、これを加熱して、ラジカル重合の進行及び加熱前後の触感を評価することにより行った。なお、ラジカル重合の進行は、FT−IR(VARIAN 3100(商品名)、VARIAN社製)を用いて、加熱によるアクリル基由来の806cm−1ピークの減少により確認した。詳細を以下に示す。
【0029】
例示化合物(1a)250mg、ラジカル重合開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)25mgを、メタノール 1mlに溶かし、評価用サンプル液1Aを調製した。この評価用サンプル液1Aを10μl量りとり、銅板上に塗布した。
サンプル液を塗布した銅板をFT−IRで測定し、アクリル基由来の806cm−1ピークを確認した。その後、当該銅板を窒素雰囲気下、オーブンで100度、1時間加熱した。加熱後の銅板を再びFT−IRで測定したところ、アクリル基由来の806cm−1ピークが減少していた。この結果から、例示化合物(1a)のラジカル重合が進行していることが確認された。
さらに、加熱前後の触感を評価したところ、加熱後のサンプル板では触れても粘性が無く、指の腹で擦っても擦る前と比べ変化しなかった。このことから、加熱により銅版上に塗布されたサンプル液が硬化したことが確認された。
【0030】
続いて、例示化合物(1b)について、上記例示化合物(1a)と同様に硬化性の評価を行った。その結果、例示化合物(1b)も、例示化合物(1a)と同程度の硬化性を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。)
【請求項2】
請求項1記載の化合物からなる硬化剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−206992(P2012−206992A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74662(P2011−74662)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】