説明

重合性組成物、ポリマー材料、眼用レンズ及びコンタクトレンズ

【課題】シリコーン化合物及びN−ビニルピロリジノンを含むモノマー成分間の相溶性及び共重合性が高く、得られるポリマー材料のモノマー残留率を低減でき、高い酸素透過性及び表面濡れ性を実現できる重合性組成物及びこの重合性組成物から得られるポリマー材料の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、[A]アクリロイルオキシ基を有し、珪素原子を有さず、かつそのホモポリマーとしてのガラス転移温度が10℃以下の重合性化合物、[B]重合性基を有するシリコーン化合物、及び[C]N−ビニルピロリジノンをモノマー成分として含有する重合性組成物である。[A]成分の重合性化合物は、さらにエーテル結合を有することが好ましく、ホモポリマーとしての吸水率が20%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、それを硬化して得られるポリマー材料、並びにこのポリマー材料からなる眼用レンズ及びコンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンハイドロゲルは、高い酸素透過性からコンタクトレンズ等の眼用レンズの材料として使用されている。しかし、シリコーンハイドロゲルは、一般的に表面の水濡れ性が低いため、この水濡れ性を向上させるべく、表面処理や親水性ポリマーの含有など様々な取り組みがなされている。
【0003】
このようなシリコーンハイドロゲルの表面の水濡れ性を向上させる技術の一つとして、親水性モノマーとして広く使用されているN−ビニルピロリジノン(N−VP)を共重合成分の一つとして組み込むことが提案されている(米国特許第5,486,579号明細書等参照)。しかし、N−VPはシリコーン化合物との相溶性に乏しいため、単にこれらを混合する手段では均一透明なレンズ材料を得ることはできず、加えて共重合性も低い。そのため、かかるN−VPを共重合成分とする技術では、親水・親油性の両特性を有する両親媒性モノマーとして一般的に多用されているN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)を併用したり、多量の有機溶媒を用いたりして系の均一性を図る必要がある。この両親媒性モノマーを用いる方法によれば親水性は高まるものの、DMAAを多量に含有することで、含水率が高くなり過ぎ、高い酸素透過性が得られないという不都合が生じる。また有機溶媒の多用は、製造工程を繁雑にし、あるいは環境への影響を考慮しても好ましい方法とは言えない。
【0004】
また、このN−VPはビニル基を重合基として有するため、眼用レンズの成分として一般的に使用される(メタ)アクリレートとの共重合性が低く、材料中に未反応モノマーとして残留する可能性が高い。従って、残留物のない、安全性の高い医療機器を製造するためには、製造工程の構築及び運用において多大な労力が必要となる。そこで、例えば(1)シリコーンハイドロゲルにおけるN−VPとの共重合性を高めるため、その他のモノマーの重合基を統一してビニル基とすることで、系中の残留成分を低減する技術(WO94/03324号公報参照)、(2)架橋剤を含むモノマーの使用量を厳密にコントロールすることで、残留するモノマーを低減させる技術(特許3850729号公報参照)などが開発されている。しかし、上記(1)の他のモノマーの重合基をビニル基に統一する技術は、様々な構造を有するモノマー全てに対して、このような化学構造の改良を行うことは非常に困難であり、実用的であるとは言い難い。また、上記(2)の架橋剤を含むモノマーの使用量を厳密にコントロールする技術は、限定されたモノマー種を使用し、限定された混合比を適用した場合でのみ達成しうるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,486,579号明細書
【特許文献2】WO94/03324号公報
【特許文献3】特許3850729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこれらの不都合に鑑みてなされたものであり、シリコーン化合物及びN−VPを含むモノマー成分間の相溶性及び共重合性が高く、得られるポリマー材料におけるモノマー残留率の低減、高い酸素透過性及び表面の水濡れ性を実現できる重合性組成物及びこの組成物から得られるポリマー材料を提供することを目的とするものである。また、このポリマー材料からなる眼用レンズ及びコンタクトレンズを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、
[A]アクリロイルオキシ基を有し、珪素原子を有さず、かつそのホモポリマーとしてのガラス転移温度が10℃以下の重合性化合物、
[B]重合性基を有するシリコーン化合物、及び
[C]N−ビニルピロリジノン
をモノマー成分として含有する重合性組成物である。
【0008】
[A]成分の重合性化合物は、アクリロイルオキシ基を有することで、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−ビニルピロリジノン(以下、「N−VP」という。)との相溶性を高め、かつ[B]成分のシリコーン化合物と[C]成分のN−VPの両方との共重合性を高めている。また、[A]成分の重合性化合物は、そのホモポリマーとしてのガラス転移温度が10℃以下であることで、硬化が一定程度進んだポリマー形成の後期の段階でも、ポリマー成長末端が動き易くなる。従って、当該重合性組成物によれば、上記モノマー成分を含有することで、各モノマー成分が均一に混ざり合った状態で重合を行うことができるとともに、硬化重合の際に[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPを効率よくポリマー鎖に組み込むことが可能となるため、[B]成分及び[C]成分の重合率をともに高くすることができる。その結果、得られるポリマー材料中における[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPのモノマー成分の残留率をともに低減させることができる。
【0009】
また、[B]成分のシリコーン化合物は、分子中にシリコーンユニットを有するため、当該重合性組成物から得られるポリマー材料に高酸素透過性を付与することができる。さらに[C]成分のN−VPは親水性を有するため、当該重合性組成物から得られるポリマー材料の水濡れ性を高めることができる。
【0010】
すなわち、当該重合性組成物は、各モノマー成分が均一に混ざり合う性質とともに、重合率が高くなる性質を有し、かつ得られるポリマー材料に高い酸素透過性及び水濡れ性を付与させることができる。従って、当該重合性組成物によれば、得られるポリマー材料において[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPのモノマー成分が未重合で残存する量を少なくすることができるので、種々の用途に対して安全性の高いポリマー材料を提供することができる。また、当該ポリマー材料の製造段階において溶出処理などの工程を省略又は簡略化することができる。
【0011】
[A]成分の重合性化合物はさらにエーテル結合を有することが好ましい。[A]成分の重合性化合物がさらにエーテル結合を有することで、当該[A]成分の重合性化合物と[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPとの相溶性がさらに向上する。従って各モノマー成分がさらに均一に混ざりあった状態で重合を行うことができるので、得られるポリマー材料中における[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPのモノマー成分の残留率をさらに低減させることができる。
【0012】
[A]成分の重合性化合物のホモポリマーとしての吸水率は、20%以下であることが好ましい。当該重合性組成物は、[A]成分の化合物のホモポリマーとしての吸水率が20%以下であることで、得られるポリマー材料の含水性を一定程度以下に保ち、その結果酸素透過性の低下を抑えることができる。
【0013】
[A]成分の重合性化合物は下記式(1)で表される化合物であることがさらに好ましい。
CH=CH−CO−(OCHCH−OR (1)
(式(1)中、Rはメチル基又はエチル基を表す。nは1から3の整数を表す。)
【0014】
[A]成分の重合性化合物が上記式で表される化合物である場合は、当該[A]成分の重合性化合物と、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPとの相溶性及び共重合性が特に高い。従って、得られるポリマー材料中における[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPの未重合残留率をさらに減少させることができる。その結果、得られるポリマー材料の安全性をさらに高めることができる。このように、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPとの相溶性が特に高く、かつ[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPとの共重合性が特に高い具体的な[A]成分の重合性化合物としては、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−メトキシエトキシエチルアクリレート又は2−エトキシエトキシエチルアクリレートが好ましい。
【0015】
[B]成分のシリコーン化合物が、
[B1]ウレタン結合を介してエチレン型不飽和二重結合及びポリジメチルシロキサン構造を有する化合物、及び/又は
[B2]シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート、シリコーン含有スチレン誘導体及びシリコーン含有フマル酸ジエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
[B1]成分のシリコーン化合物はシロキサン部分により、得られるポリマー材料に高い酸素透過性を付与することができる。またそのような[B1]成分のシリコーン化合物は、ウレタン結合という弾力性のある結合を有することで、当該重合性組成物から得られるポリマー材料の弾力性を高め、脆さをなくし、機械的強度を向上させることができる。[B2]成分のシリコーン化合物を用いることにより、得られるポリマー材料に酸素透過性だけではなく高い柔軟性を付与することができる。また、[B1]成分と[B2]成分とを併用することにより、高い酸素透過性と適度な柔軟性、良好な形状保持性を併せもつシリコーンハイドロゲルを得ることができる。
【0016】
[B1]成分のシリコーン化合物は下記式(2)で表されるものであることで、更に当該重合性組成物から得られるポリマー材料の弾力性、柔軟性及び機械的強度を向上させることができる。
−U−(S−W)−S−U−A (2)
[式(2)中、A及びAはそれぞれ独立に下記式(3)、U及びUはそれぞれ独立に下記式(4)、S及びSはそれぞれ独立に下記式(5)、Wは下記式(6)で表される基であり、mは0〜10の整数を示す。
Y−Z−R− (3)
(式(3)中、Yは(メタ)アクリロイル基、ビニル基又はアリル基であり、Zは酸素原子又は直接結合であり、Rは直接結合又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖もしくは芳香環を有するアルキレン基である。但し、A及びA中のYは同一であってもよく、異なっていてもよい。)
−X−E−X−R− (4)
(式(4)中、X及びXはそれぞれ独立に直接結合、酸素原子及びアルキレングリコール基から選ばれ、Eは−NHCO−基(但し、この場合、Xは直接結合であり、Xは酸素原子又はアルキレングリコール基であり、EはXとウレタン結合を形成している。)、−CONH−基(但し、この場合、Xは酸素原子又はアルキレングリコール基であり、Xは直接結合であり、EはXとウレタン結合を形成している。)又は飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基(但し、この場合、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子及びアルキレングリコール基から選ばれ、EはX及びXの間で2つのウレタン結合を形成している。)であり、Rは炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。)
【化1】

(式(5)中、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、フッ素置換されたアルキル基、フェニル基又は水素原子であり、Kは10〜100の整数、Lは0又は1〜90の整数であり、K+Lは10〜100の整数である。)
−R−X−E−X−R− (6)
(式(6)中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基であり、X及びXは、それぞれ独立に酸素原子又はアルキレングリコール基であり、Eは、飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基(但し、この場合、EはX及びXの間で2つのウレタン結合を形成している。)である。)]
【0017】
上記モノマー成分の配合比として、[A]成分の重合性化合物、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−ビニルピロリジノンの合計量100質量部に対して、[A]成分の重合性化合物を10質量部以上45質量部以下、[B]成分のシリコーン化合物を10質量部以上70質量部以下及び[C]成分のN−VPを10質量部以上50質量部以下含むとよい。当該重合性組成物が、上記配合比を有することで、得られるポリマー材料における未重合モノマー量をより低減させ、かつ得られるポリマー材料の更に高い酸素透過性及び水濡れ性を実現させることができる。
【0018】
当該重合性組成物は、さらに非重合性の添加剤を[A]成分の重合性化合物、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−ビニルピロリジノンの合計量100質量部に対して5質量部以下含有し、上記添加剤が、水溶性有機溶媒、界面活性剤、清涼化剤及び粘稠化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。当該重合性組成物は、上記添加剤を含有することで、各モノマー成分、特に[C]成分のN−VPの均一な分散を促進させるので、得られるポリマー材料におけるモノマーの未重合量を更に減少させることができる。また、同様の理由により、得られるポリマー材料の水濡れ性を向上させることができる。さらに、当該重合性組成物によれば、上記添加剤を含有することで得られるポリマー材料に更なる機能性を付加することができる。
【0019】
上記水溶性有機溶媒が、炭素数1〜3のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン及びジメトキシエタンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。当該水溶性有機溶媒によれば、当該重合性組成物における各モノマー成分間の相溶性をさらに向上させることができ、その結果、得られるポリマー材料におけるモノマー成分の未重合率をさらに減少させることができる。
【0020】
上記界面活性剤としては、非イオン性でポリオキシエチレン基を有するものであることが好ましい。添加する界面活性剤がポリオキシエチレン基を有することで、[C]成分のN−VPの分散性を高めることができるので、当該重合性組成物から得られるポリマー材料の水濡れ性を向上させることができる。
【0021】
また、上記非イオン性でポリオキシエチレン基を有する界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリシロキサンエーテル類及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることで、[C]成分のN−VPの分散性をさらに高めることができるので、当該重合性組成物から得られるポリマー材料の水濡れ性をさらに向上させることができる。
【0022】
上記清涼化剤としては、l−メントール、d−メントール、dl−メントール、d−カンフル、dl−カンフル、d−ボルネオール、dl−ボルネオール、ゲラニオール、ユーカリ油、ベルガモット油、ウィキョウ油、ハッカ油、ローズ油及びクールミントからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが、当該重合性組成物における[C]成分のN−VPの分散性を高め、得られるポリマー材料表面の水濡れ性を高くすることができるとともに、当該重合性組成物から得られるポリマー材料の使用時に好適な清涼感を付与することができる点で好ましい。
【0023】
また、上記粘稠化剤が、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ソルビトール、デキストラン70、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びマクロゴール4000からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが、[C]成分のN−VPの分散性を特に高め、当該重合性組成物から得られるポリマー材料の水濡れ性を特に向上させることができるとともに、当該重合性組成物から得られるポリマー材料の使用時に好適な潤い感を付与することができる点において好ましい。
【0024】
本発明のポリマー材料は、上記重合性組成物を硬化して得ることができる。当該ポリマー材料は、未重合の残留モノマー量が低く、また高い酸素透過性及び水濡れ性を備えている。
【0025】
当該ポリマー材料は、含水率が40%以上であることが好ましい。当該ポリマー材料は含水率を40%以上とすることでさらに高い水濡れ性を発揮することができる。
【0026】
従って、当該ポリマー材料からなる眼用レンズ、特にコンタクトレンズは、上述のように未重合の残留モノマー成分が少なく、また高い酸素透過性及び水濡れ性を有しているので、安全性が高く、かつ商品価値及び信頼性の高いものとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明の重合性組成物は、各モノマー成分が均一に混ざり合うことができるとともに、含まれる各モノマー成分が互いに高い共重合性を有しており、すなわち重合において各モノマー成分がポリマー鎖に組み込まれ易くなっている。従って未重合の残留モノマー成分を低減することができ、種々の用途に対して安全性が高く、かつ酸素透過性及び水濡れ性の高いポリマー材料を提供することができる。また製造段階において溶出処理などの工程を省略又は簡略化することができる。上記特性を有する当該ポリマー材料は、コンタクトレンズなどの眼用レンズ、カテーテル、チューブ、ステント、管、血液バック、プローブ、薄膜等の様々な用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の重合性組成物及びこの重合性組成物を硬化して得られるポリマー材料の好ましい実施の形態について順に説明する。
【0029】
[重合性組成物]
本発明の重合性組成物は、[A]アクリロイルオキシ基を有し、珪素原子を有さず、かつそのホモポリマーとしてのガラス転移温度が10℃以下の重合性化合物、[B]重合性基を有するシリコーン化合物、及び[C]N−ビニルピロリジノンをモノマー成分として含有し、好適な任意成分として、[D]架橋剤、[E]添加剤、[F]紫外線吸収剤、色素、紫外線吸収色素、[G]重合開始剤を含有し、更にその他の任意成分を含有していてもよい。
【0030】
〈[A]成分:アクリロイルオキシ基を有し、珪素原子を有さず、かつそのホモポリマーとしてのガラス転移温度が10℃以下の重合性化合物〉
[A]成分の重合性化合物はアクリロイルオキシ基(CH=CH−CO−O−)を有し、珪素原子を有さず、かつそのホモポリマーとしてのガラス転移温度が10℃以下である。[A]成分の重合性化合物は、上記構造を備えることにより[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPとの相溶性が高い。また、当該重合性化合物は、上記構造を備えることにより、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPの両方と高い共重合性を有している。従って、当該重合性組成物によれば、[A]成分の重合性化合物を含むことで、各モノマー成分が均一に混ざり合った状態で重合を行うことができるとともに、[B]成分及び[C]成分の重合率をともに高くすることができる。その結果、当該重合性組成物から得られるポリマー材料中における未反応の[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPの残留率を低減させることができる。
【0031】
また、[A]成分の重合性化合物は、そのホモポリマーのガラス転移温度が10℃以下であることが重要である。以下この理由について説明する。当該ポリマー材料において、[A]成分の化合物が重合中のポリマー成長末端に位置した場合に、この成長末端部分が形成途上のポリマー中で動き易いとよい。なぜならば、もし成長末端が動き易いと、硬化が一定程度進んだポリマー形成の後期の段階においても、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPにこのポリマー成長末端が接近し易くなり、そのため反応し易くなるからである。この結果、当該ポリマー材料によれば、ポリマー形成の後期の段階においても、ポリマー成長末端と[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPとが結合することができるため、未重合のまま残留する[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPが低減する。
【0032】
[A]成分の重合性化合物がポリマー成長末端に位置した場合の、形成途上のポリマー中での成長末端の動き易さは、この化合物のホモポリマーにおけるガラス転移温度の低さと関係性が大きい。すなわち、ホモポリマーにおけるガラス転移温度が低いほど、形成途上の重合体中におけるポリマー成長末端は動き易くなる。以上が、[A]成分の化合物として、ホモポリマーのガラス転移温度が、10℃以下であるものが好ましい理由である。具体的には[A]成分の重合性化合物としては、ホモポリマーのガラス転移温度は10℃以下であることが重要であり、0℃以下であるものが好ましく、−20℃以下であるものが特に好ましい。一方で、上記ガラス転移温度が低すぎると、[A]成分を含む重合性組成物から得られるポリマー材料は表面の粘着性が甚だしくなったり、或いは形状保持性が低下したりする等、好ましくない特性をもつものとなるおそれがある。具体的には、[A]成分の化合物としては、ホモポリマーのガラス転移温度が−150℃以上であるものが好ましく、−120℃以上であるものがさらに好ましく、−100℃以上であるものが特に好ましい。
【0033】
上述のように、[A]成分の重合性化合物がアクリロイルオキシ基を有し、かつそのホモポリマーとしてのガラス転移温度が10℃以下であることにより、当該重合性組成物から得られるポリマー材料は含まれている未反応モノマー量が低減されているので、高い安全性を有している。[A]成分の重合性化合物としては、一種又は複数種のものを用いることができる。
【0034】
[A]成分の重合性化合物のホモポリマーとしての吸水率としては、20%以下が好ましく、10%以下がさらに好ましい。なぜなら当該ポリマー材料は、高い親水性を有する[C]成分のN−ビニルピロリジノンを含有することで、酸素透過性が低下するおそれがあるからである。そこで、[A]成分として吸水性の低い化合物を含有させることで、当該ポリマー材料の含水性を一定程度以下に保ち、その結果当該ポリマー材料の酸素透過性の低下を抑えることができる。なお、ホモポリマーとしての吸水率は、25℃にて蒸留水に16時間以上浸漬したホモポリマーの質量W1、及びその後105℃のオーブンにて16時間乾燥させた後のホモポリマーの質量W2をそれぞれ測定し、以下の式より算出される値である。
吸水率(%)=(W1−W2)/W1×100
【0035】
[A]成分の重合性化合物としては、アクリロイルオキシ基を有し、珪素原子を有さず、かつそのホモポリマーとしてのガラス転移温度が10℃以下であれば特に限定されないが、さらにエーテル結合を有することが好ましい。[A]成分の重合性化合物が、アクリロイルオキシ基に加えて、エーテル結合を有することによって、当該重合性組成物を構成する各モノマー成分の相溶性がさらに向上する。その結果重合率が向上するため、残留モノマー量をさらに低減できる。
【0036】
その中でも、[A]成分の重合性化合物としては、下記式(1)で表される化合物であるとよい。
CH=CH−CO−(OCHCH−OR (1)
(式(1)中、Rはメチル基又はエチル基を表す。nは1から3の整数を表す。)
【0037】
[A]成分の化合物が上記式(1)で表される化合物である場合、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPとの相溶性が特に高い上、成長ポリマー末端において好適な動き易さを有することができ、また、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPの両方との共重合性がさらに向上する。その結果、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPの未重合残留率をさらに減少させることができる。
【0038】
具体的な[A]成分の化合物としては、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−メトキシエトキシエチルアクリレート、2−エトキシエトキシエチルアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等を挙げることができ、この中でも、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−メトキシエトキシエチルアクリレート又は2−エトキシエトキシエチルアクリレートが[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPとの相溶性及び共重合性が特に高い点で好ましい。
【0039】
[A]成分の重合性化合物の使用割合としては、特に限定されないが、全モノマー成分([A]成分の重合性化合物、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−VPをいう。以下同じ。)の合計100質量部に対して、10質量部以上45質量部以下が好ましく、15質量部以上35質量部以下がさらに好ましい。[A]成分の使用割合を10質量部以上とすることで、各モノマー成分の相溶性及び共重合性を高めることができ、また、[A]成分の使用割合を45質量部以下とすることで、得られるポリマー材料の酸素透過性及び含水性を高めることができる。また、[A]成分の重合性化合物の使用割合は[C]成分の使用割合の0.3〜2倍であることが好ましく、0.5〜1.8倍であることがさらに好ましい。[A]成分の使用割合と[C]成分の使用割合との比を上記範囲とすることによって、[A]成分と[C]成分との共重合が効率的に進行し、未重合の残留モノマーをさらに低減することができる。
【0040】
〈[B]成分:重合性基を有するシリコーン化合物〉
[B]成分の重合性基を有するシリコーン化合物は、重合性基とシロキサニル基とを有する化合物である。当該構造を有する[B]成分のシリコーン化合物が重合性組成物中に含有されていることで、当該重合性組成物を重合硬化させて得られるポリマー材料に高い酸素透過性及び柔軟性を付与することができる。このような重合性基を有するシリコーン化合物は、重合性基及びシロキサニル基を有するものである限り、特に限定されるものではない。この重合性官能基は重合可能な基である限り、特に限定されるものではないが、典型的な例としてはエチレン性不飽和基が挙げられる。エチレン性不飽和基の具体例としては、末端ビニル基、内部ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、α位置換アクリロイル基、スチリル基が挙げられる。[B]成分のシリコーン化合物としては一種又は複数種のものを用いることができる。
【0041】
[B]成分のシリコーン化合物の好ましい例としては、ウレタン結合を介してエチレン性不飽和基及びポリジメチルシロキサン構造を有する化合物([B1]成分)が挙げられる。このようなシリコーン化合物は、ウレタン結合及びシロキサン部分を備えることにより、得られるポリマー材料に、柔軟性、弾力的反発性、酸素透過性を付与すると同時に、機械的強度を向上させる作用を有する。すなわち、かかるシリコーン化合物は、分子の両末端に重合性基であるエチレン性不飽和基を有し、この重合性基を介して他のモノマー成分と共重合されるので、得られるポリマー材料に分子の架橋による物理的な強化だけでなく、化学的結合による補強効果を付与するものである。
【0042】
[B1]成分のウレタン結合を介してエチレン性不飽和基及びポリジメチルシロキサン構造を有する化合物の典型的な例としては、
−U−(S−W)−S−U−A (2)
[式(2)中、A及びAはそれぞれ独立に下記式(3)、U及びUはそれぞれ独立に下記式(4)、S及びSはそれぞれ独立に下記式(5)、Wは下記式(6)で表される基であり、mは0〜10の整数を示す。
Y−Z−R− (3)
(式(3)中、Yは(メタ)アクリロイル基、ビニル基又はアリル基であり、Zは酸素原子又は直接結合であり、Rは直接結合又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖もしくは芳香環を有するアルキレン基である。但し、A及びA中のYは同一であってもよく、異なっていてもよい。)
−X−E−X−R− (4)
(式(4)中、X及びXはそれぞれ独立に直接結合、酸素原子及びアルキレングリコール基から選ばれ、Eは−NHCO−基(但し、この場合、Xは直接結合であり、Xは酸素原子又はアルキレングリコール基であり、EはXとウレタン結合を形成している。)、−CONH−基(但し、この場合、Xは酸素原子又はアルキレングリコール基であり、Xは直接結合であり、EはXとウレタン結合を形成している。)又は飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基(但し、この場合、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子及びアルキレングリコール基から選ばれ、EはX及びXの間で2つのウレタン結合を形成している。)であり、Rは炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。)
【化2】

(式(5)中、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、フッ素置換されたアルキル基、フェニル基又は水素原子であり、Kは10〜100の整数、Lは0又は1〜90の整数であり、K+Lは10〜100の整数である。)
−R−X−E−X−R− (6)
(式(6)中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基であり、X及びXは、それぞれ独立に酸素原子又はアルキレングリコール基であり、Eは、飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基(但し、この場合、EはX及びXの間で2つのウレタン結合を形成している。)である。)]で表わされるポリシロキサンマクロモノマーが挙げられる。
【0043】
上記式(2)において、A及びA中のYは、いずれも重合性基であるが、[A]成分の化合物及び[C]成分のN−VPと容易に共重合しうるという点で、アクリロイル基がとくに好ましい。
【0044】
上記式(2)において、A及びA中のZはいずれも酸素原子又は直接結合であり、好ましくは酸素原子である。また、A及びA中のRはいずれも直接結合又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖もしくは芳香環を有するアルキレン基であり、好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基である。U、U及びWは分子鎖中でウレタン結合を含む基を表わす。
【0045】
上記式(2)中のU及びUにおいて、Eは、上記したように、それぞれ−CONH−基、−NHCO−基又は飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基を表わす。ここで、飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基の例としては、エチレンジイソシアネート、1,3−ジイソシアネートプロパン、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの飽和脂肪族系ジイソシアネート由来の2価の基;1,2−ジイソシアネートシクロヘキサン、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式系ジイソシアネート由来の2価の基;トリレンジイソシアネート、1,5−ジイソシアネートナフタレンなどの芳香族系ジイソシアネート由来の2価の基;2,2’−ジイソシアネートジエチルフマレートなどの不飽和脂肪族系ジイソシアネート由来の2価の基が挙げられる。これらの例の中では、入手容易性及び得られるポリマー材料への強度付与の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート由来の2価の基、トリレンジイソシアネート由来の2価の基及びイソホロンジイソシアネート由来の2価の基が好ましい。
【0046】
上記式(2)中のU及びUにおいて、Eが−NHCO−基である場合には、Xは直接結合であり、Xは酸素原子又はアルキレングリコール基であり、EはXと式:−NHCOO−で表わされるウレタン結合を形成する。また、Eが−CONH−基である場合には、Xは酸素原子又はアルキレングリコール基であり、Xは直接結合であり、EはXと式:−OCONH−で表わされるウレタン結合を形成する。さらにEが上記ジイソシアネート由来の2価の基である場合には、X及びXは、好ましくはそれぞれ独立に酸素原子及び炭素数1〜6のアルキレングリコール基から選ばれ、EはXとXとの間で2つのウレタン結合を形成する。Rは炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。
【0047】
上記式(2)中のWにおいて、Eは上記したように、飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基を表わす。ここで、飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基の例としては、U及びUにおける場合と同様の2価の基が挙げられる。これらの例の中では、入手容易性及び得られるポリマー材料への強度付与の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート由来の2価の基、トリレンジイソシアネート由来の2価の基及びイソホロンジイソシアネート由来の2価の基が好ましい。また、EはXとXとの間で2つのウレタン結合を形成する。X及びXは、好ましくは、それぞれ独立に酸素原子又は炭素数1〜6のアルキレングリコール基であり、また、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。
【0048】
上記式(4)及び(6)におけるX、X、X、Xとしては、炭素数1〜20のアルキレングリコール基が好ましい。このような炭素数1〜20のアルキレングリコール基は、下記式(7)で表される。
−O−(C2x−O)− (7)
(式(7)中、xは1〜4の整数、yは1〜5の整数を示す。)
【0049】
上記式(5)において、R11、R12、R13、R14、R15及びR16がフッ素置換されたアルキル基である場合の例としては、−(CH−C2p+1(g=1〜10、p=1〜10)で表される基が挙げられる。このようなフッ素置換されたアルキル基の具体例としては、3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル基、2−(パーフルオロブチル)エチル基、2−(パーフルオロオクチル)エチル基などの側鎖状のフッ素置換されたアルキル基、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチル基などの分枝鎖状のフッ素置換されたアルキル基等が挙げられる。かかるフッ素置換されたアルキル基を有する化合物の配合量を多くすると、得られるポリマー材料の抗脂質汚染性が向上する。
【0050】
及びSを表す上記式(5)において、Kは10〜100の整数、Lは0又は1〜90の整数であり、K+Lは10〜100の整数であり、好ましくは10〜80である。K+Lが100よりも大きい場合には、シリコーン化合物の分子量が大きくなるため、これと[C]成分のN−VPとの相溶性が悪化し、重合時に相分離して白濁を呈し、均一で透明なポリマー材料が得られないことがある。また、K+Lが10未満である場合には、得られるポリマー材料の酸素透過性が低くなり、柔軟性も低下する傾向がある。
【0051】
上記式(2)において、mは0〜10の整数であり、好ましくは0〜5の整数である。mが10よりも大きい場合には、上記と同様、シリコーン化合物の分子量が大きくなるため、これと[C]成分のN−VPとの相溶性が悪化し、重合時に相分離して白濁を呈し均一で透明なポリマー材料が得られないことがある。
【0052】
上記式(2)で表される[B1]成分のシリコーン化合物の代表例としては、下記式(8)及び下記式(9)で表される化合物を挙げることができる。
【0053】
【化3】

【0054】
【化4】

【0055】
当該重合性組成物においては、得られるポリマー材料の酸素透過性を向上させ、かつ高い柔軟性を付与するためには、当該重合性組成物は、[B]成分のシリコーン化合物として、シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート、シリコーン含有スチレン誘導体及びシリコーン含有フマル酸ジエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物([B2]成分)を含有することが好ましい。
【0056】
シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレートの例としては、トリメチルシロキシジメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキシプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキシメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。この中で、入手が容易であり、また得られるポリマー材料の柔軟性が特に高くなる観点から、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレートが特に好ましい。
【0057】
シリコーン含有スチレン誘導体の例としては、下記式(10)で表わされる化合物などが挙げられる。
【化5】

(式(10)中、qは1〜15の整数、rは0又は1、sは1〜15の整数を示す。)
【0058】
上記式(10)で表されるシリコーン含有スチレン誘導体の具体例としては、トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリルスチレン、(トリメチルシロキシ)ジメチルシリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シロキシジメチルシリルスチレン、[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシロキシ]ジメチルシリルスチレン、(トリメチルシロキシ)ジメチルシリルスチレン、ヘプタメチルトリシロキサニルスチレン、ノナメチルテトラシロキサニルスチレン、ペンタデカメチルヘプタシロキサニルスチレン、ヘンエイコサメチルデカシロキサニルスチレン、ヘプタコサメチルトリデカシロキサニルスチレン、ヘントリアコンタメチルペンタデカシロキサニルスチレン、トリメチルシロキシペンタメチルジシロキシメチルシリルスチレン、トリス(ペンタメチルジシロキシ)シリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、ビス(ヘプタメチルトリシロキシ)メチルシリルスチレン、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、トリメチルシロキシビス[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、ヘプタキス(トリメチルシロキシ)トリシリルスチレン、ノナメチルテトラシロキシウンデシルメチルペンタシロキシメチルシリルスチレン、トリス[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、(トリストリメチルシロキシヘキサメチル)テトラシロキシ[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]トリメチルシロキシシリルスチレン、ノナキス(トリメチルシロキシ)テトラシリルスチレン、ビス(トリデカメチルヘキサシロキシ)メチルシリルスチレン、ヘプタメチルシクロテトラシロキサニルスチレン、ヘプタメチルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、トリプロピルテトラメチルシクロテトラシロキサニルスチレン、トリメチルシリルスチレン等が挙げられる。
【0059】
シリコーン含有フマル酸ジエステルの例としては、下記式(11)で表される化合物などが挙げられる。
【化6】

(式(11)中、R21、R22、R23、R24、R25及びR26は、それぞれ独立にメチル基又はトリメチルシロキシ基を示し、t及びuはそれぞれ独立に1〜3の整数を示す。)
【0060】
上記式(11)で表されるシリコーン含有フマル酸ジエステルの具体例としては、ビス(3−(トリメチルシリル)プロピル)フマレート、ビス(3−(ペンタメチルジシロキサニル)プロピル)フマレート、ビス(トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル)フマレートなどが挙げられる。
【0061】
[B1]成分及び[B2]成分は単独で使用してもよいが、柔軟性を有するシリコーンハイドロゲルを形成させるためには、両者を併用することが好ましい。[B1]成分及び[B2]成分を含む[B]成分のシリコーン化合物の使用割合は、特に限定されないが、全モノマー成分100質量部に対して10質量部以上70質量部以下が好ましく、15質量部以上65質量部以下がさらに好ましい。[B]成分の使用割合を10質量部以上とすることによって、十分な酸素透過性と高い柔軟性を有するポリマー材料を得ることができる。また、[B]成分の使用割合を70質量部以下とすることによって、得られるポリマー材料の親水性、透明性等の低減を防止することができる。
【0062】
〈[C]成分:N−ビニルピロリジノン〉
[C]成分のN−ビニルピロリジノンは、[A]成分の重合性化合物及び[B]成分のシリコーン化合物と共重合することができる。また[C]成分のN−ビニルピロリジノンは、親水性を有するため、得られるポリマー材料表面の水濡れ性を高めることができる。
【0063】
[C]成分のN−ビニルピロリジノンの使用割合としては、特に限定されないが、全モノマー成分100質量部に対して10質量部以上50質量部以下が好ましく、15質量部以上45質量部以下がさらに好ましい。[C]成分の使用割合を10質量部以上とすることによって、ポリマー材料の表面水濡れ性を高めることができる。また[C]成分の使用割合を50質量部以下とすることによって、得られるレンズの親水性、透明性等の低減を防止することができる。
【0064】
〈[D]成分:架橋剤〉
得られるポリマー材料の架橋密度、柔軟性や硬質性の調節のために、重合性組成物に[D]成分として架橋剤を添加することができる。このような架橋剤の例として、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、3−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[p−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[m−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[o−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[p−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[m−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[o−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]プロパン、1,4−ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル]ベンゼン、1,3−ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル]ベンゼン、1,2−ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル]ベンゼン、1,4−ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル]ベンゼン、1,3−ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル]ベンゼン、1,2−ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル]ベンゼンなどが挙げられる。これらの架橋剤は、一種又は複数種のものを用いることができる。
【0065】
上記重合性組成物における架橋剤の使用割合としては、全モノマー成分100質量部に対して好ましくは0.05質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上0.8質量%以下である。架橋剤の使用割合を0.05質量%以上とすることによって、柔軟性等の調節を確実に行うことができる。一方、架橋剤の使用割合を1質量%以下とすることによって、ポリマー材料の機械的強度及び耐久性の低下を抑制することができる。
【0066】
〈[E]成分:添加剤〉
得られるポリマー材料の残留未反応モノマー成分をさらに低減させる場合、また更に所望の特性を付与しようとする場合には、非重合性である、水溶性有機溶媒、界面活性剤、清涼化剤、粘稠化剤等を、[E]成分の添加剤として用いることができる。
【0067】
これらの添加剤の使用割合の上限としては、全モノマー成分100質量部に対して5質量部が好ましく、3質量部が特に好ましい。また、これらの添加剤の使用割合の下限としては、全モノマー成分100質量部に対して0.1質量部が好ましく、0.3質量部が特に好ましい。添加剤の使用割合が上記上限を超えると、これらの非重合性成分が増加することで、硬化後の溶出工程において溶出に時間がかかり、またこれらの非重合性成分の十分な溶出が困難となり、ポリマー材料中に残留するおそれがある。逆に、添加剤の使用割合が上記下限より小さいと、添加剤を使用する効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0068】
水溶性有機溶媒としては炭素数1〜3のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン、ジメトキシエタン等を用いることができる。当該水溶性有機溶媒によれば、[C]成分のN−ビニルピロリジノン等のモノマー成分間の相溶性が向上するため、重合性組成物における均一な分散を更に促進させることができ、その結果モノマーの未重合率を減少させることができる。
【0069】
界面活性剤は、親水性基と疎水性基を有する化合物であり、各モノマー成分を均一に重合性組成物中に分散させることができ、その結果、未重合率を低減させることができる。この界面活性剤としては、特に限定されず、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などのイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等公知のものを用いることができるが、各モノマー成分との相溶性に優れる点から、ポリオキシエチレン基を有する界面活性剤が好ましい。
【0070】
ポリオキシエチレン基を有する界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンポリシロキサンエーテルブロック共重合体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエチレンジアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(例えばポリソルベート80)等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(ポリソルベート)、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、チロキサポール等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレン水素添加ステロール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸等を挙げることができる。
【0071】
上記ポリオキシエチレン基を有する界面活性剤の中でも、各モノマー成分との相溶性及びポリマー材料中への残留し易さによる水濡れ性の向上の点から、非イオン性でポリオキシエチレン基を有する界面活性剤であることが好ましい。その中でも、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリシロキサンエーテル類及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体が特に好ましい。
【0072】
清涼化剤は、各モノマー成分の相溶性を高め、得られるポリマー材料中の未反応残留成分を低下させることができるとともに、例えばポリマー材料からコンタクトレンズ等を製造した際に、眼に対して爽快感を与えたり、コンタクトレンズ装用時の異物感や痒みを解消したりすることができる。
【0073】
上記清涼化剤としては特に限定されないが、l−メントール、d−メントール、dl−メントール、d−カンフル、dl−カンフル、d−ボルネオール、dl−ボルネオール、ゲラニオール、ユーカリ油、ベルガモット油、ウィキョウ油、ハッカ油、ローズ油、クールミント等を挙げることができる。
【0074】
粘稠化剤は、各モノマー成分の相溶性を高め、得られるポリマー材料中の未反応残留成分を低下させることができるとともに、重合性組成物の粘度を調整することができる。また、当該粘稠化剤によれば、例えばポリマー材料からコンタクトレンズ等を製造した際に眼に対して潤い感を与え、装用時の異物感や乾燥感を低減することができる。
【0075】
上記粘稠化剤としては、特に限定されないが、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ソルビトール、デキストラン70、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マクロゴール4000等を挙げることができる。
【0076】
〈[F]成分:紫外線吸収剤、色素、紫外線吸収剤〉
上記重合性組成物を重合させて得たポリマー材料をコンタクトレンズ等の眼用レンズとして使用する場合は、重合性又は非重合性の紫外線吸収剤、色素又は紫外線吸収性色素をさらに当該重合性組成物に含有させることが好ましい。これによって、紫外線吸収性を付与したり、材料を着色したりすることができる。なおこれらは単独で使用しても、あるいは2種以上を選択して使用してもよい。
【0077】
上記重合性紫外線吸収剤の具体例としては、たとえば、2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−5−t−ブチルベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2’,4’−ジクロロベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2’−ヒドロキシ−3’−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系重合性紫外線吸収剤;2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−3’−t−ブチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(2”−メタクリロイルオキシエトキシ)−3’−t−ブチルフェニル)−5−メチル−2H−ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系重合性紫外線吸収剤;2−ヒドロキシ−4−メタクリロイルオキシメチル安息香酸フェニルなどのサリチル酸誘導体系重合性紫外線吸収剤;2−シアノ−3−フェニル−3−(3’−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロペニル酸メチルエステルなどがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
上記重合性色素の具体例としては、たとえば、1−フェニルアゾ−4−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−フェニルアゾ−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−ナフチルアゾ−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(α−アントリルアゾ)−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−((4’−(フェニルアゾ)−フェニル)アゾ)−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(2’,4’−キシリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(o−トリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、2−(m−(メタ)アクリロイルアミド−アニリノ)−4,6−ビス(1’−(o−トリルアゾ)−2’−ナフチルアミノ)−1,3,5−トリアジン、2−(m−ビニルアニリノ)−4−(4’−ニトロフェニルアゾ)−アニリノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン、2−(1’−(o−トリルアゾ)−2’−ナフチルオキシ)−4−(m−ビニルアニリノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン、2−(p−ビニルアニリノ)−4−(1’−(o−トリルアゾ)−2’ナフチルアミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン、N−(1’−(o−トリルアゾ)−2’−ナフチル)−3−ビニルフタル酸モノアミド、N−(1’−(o−トリルアゾ)−2’−ナフチル)−6−ビニルフタル酸モノアミド、3−ビニルフタル酸−(4’−(p−スルホフェニルアゾ)−1’−ナフチル)モノエステル、6−ビニルフタル酸−(4’−(p−スルホフェニルアゾ)−1’−ナフチル)モノエステル、3−(メタ)アクリロイルアミド−4−フェニルアゾフェノール、3−(メタ)アクリロイルアミド−4−(8’−ヒドロキシ−3’,6’−ジスルホ−1’−ナフチルアゾ)−フェノール、3−(メタ)アクリロイルアミド−4−(1’−フェニルアゾ−2’−ナフチルアゾ)−フェノール、3−(メタ)アクリロイルアミド−4−(p−トリルアゾ)フェノール、2−アミノ−4−(m−(2’−ヒドロキシ−1’−ナフチルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(N−メチル−p−(2’−ヒドロキシ−1’−ナフチルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(m−(4’−ヒドロキシ−1’−フェニルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(N−メチル−p−(4’−ヒドロキシフェニルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(m−(3’−メチル−1’−フェニル−5’−ヒドロキシ−4’−ピラゾリルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(N−メチル−p−(3’−メチル−1’−フェニル−5’−ヒドロキシ−4’−ピラゾリルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(p−フェニルアゾアニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、4−フェニルアゾ−7−(メタ)アクリロイルアミド−1−ナフトールなどのアゾ系重合性色素;
【0079】
1,5−ビス((メタ)アクリロイルアミノ)−9,10−アントラキノン、1−(4’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、4−アミノ−1−(4’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、5−アミノ−1−(4’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、8−アミノ−1−(4’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、4−ニトロ−1−(4’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、4−ヒドロキシ−1−(4’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(3’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(2’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(4’−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(3’−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(2’−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1,4−ビス(4’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1,4−ビス(4’−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1,5’−ビス(4’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1,5−ビス(4’−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−メチルアミノ−4−(3’−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−メチルアミノ−4−(4’−ビニルベンゾイルオキシエチルアミノ)−9,10−アントラキノン、1−アミノ−4−(3’−ビニルフェニルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−アミノ−4−(4’−ビニルフェニルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−アミノ−4−(2’−ビニルベンジルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−アミノ−4−(3’−(メタ)アクリロイルアミノフェニルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−アミノ−4−(3’−(メタ)アクリロイルアミノベンジルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−(β−エトキシカルボニルアリルアミノ)−9,10−アントラキノン、1−(β−カルボキシアリルアミノ)−9,10−アントラキノン、1,5−ジ−(β−カルボキシアリルアミノ)−9,10−アントラキノン、1−(β−イソプロポキシカルボニルアリルアミノ)−5−ベンゾイルアミド−9,10−アントラキノン、2−(3’−(メタ)アクリロイルアミド−アニリノ)−4−(3’−(3”−スルホ−4”−アミノアントラキノン−1”−イル)−アミノ−アニリノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン、2−(3’−(メタ)アクリロイルアミド−アニリノ)−4−(3’−(3”−スルホ−4”−アミノアントラキノン−1”−イル)−アミノ−アニリノ)−6−ヒドラジノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス−((4”−メトキシアントラキノン−1”−イル)−アミノ)−6−(3’−ビニルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2−(2’−ビニルフェノキシ)−4−(4’−(3”−スルホ−4”−アミノアントラキノン−1”−イル−アミノ)−アニリノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジンなどのアントラキノン系重合性色素;o−ニトロアニリノメチル(メタ)アクリレートなどのニトロ系重合性色素;(メタ)アクリロイル化テトラアミノ銅フタロシアニン、(メタ)アクリロイル化(ドデカノイル化テトラアミノ銅フタロシアニン)などのフタロシアニン系重合性色素などがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0080】
上記重合性紫外線吸収性色素の具体例としては、たとえば、2,4−ジヒドロキシ−3(p−スチレノアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−スチレノアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系重合性紫外線吸収色素や、2−ヒドロキシ−4−(p−スチレノアゾ)安息香酸フェニルなどの安息香酸系重合性紫外線吸収色素などがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0081】
また、上記重合性の紫外線吸収剤、色素又は紫外線吸収性色素を予めコモノマー(例えば[A]成分、[B]成分又は[C]成分に代表される成分)と共重合してポリマーとしこれを上記重合性組成物に添加することもできる。
さらに、例えばアミノ基含有銅フタロシアニンを成分として合成したポリアミド、あるいはアゾ基含有銅フタロシアニンを開始剤としてモノマー(例えば[A]成分、[B]成分又は[C]成分に代表される成分)を予め重合させてポリマーとした色素などを、上記重合性組成物に添加することもできる。
【0082】
こうした[F]成分の紫外線吸収剤、色素及び紫外線吸収性色素の含有量は、その総量が全モノマー成分100質量部に対して3質量部以下であり、好ましくは0.01質量部以上2質量部以下である。これらの量が3質量部を超える場合、眼用レンズ材料の機械的強度などが低下する傾向がある。さらに、紫外線吸収剤や色素の毒性も考慮すると、生体組織に直接接触するコンタクトレンズや生体中に埋め込む眼内レンズといった眼用レンズの材料として適さなくなる傾向がある。とくに色素の場合、その量が多すぎると、レンズの色が濃くなって透明性が低下し、レンズが可視光線を透過しにくくなる傾向がある。
【0083】
〈[G]成分:重合開始剤〉
本発明のポリマー材料を眼用レンズ用材料として用いる場合は、上記重合性組成物を鋳型法などにて硬化させることができる。このような硬化を行うために、[G]重合開始剤を上記重合性組成物にさらに含有させることが好ましい。上記重合性組成物に[G]成分の重合開始剤を配合することで、加熱する、及び/又は紫外線及び/又は可視光(以下、単に「光」という)を照射することによる簡便な操作によって、当該重合性組成物を硬化させることができる。
【0084】
加熱による重合に用いられる熱重合開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシヘキサノエート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらラジカル重合開始剤の使用量は、全モノマー成分100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上2質量部以下、より好ましくは0.01質量部以上1質量部以下である。
【0085】
光照射による重合に用いられる光重合開始剤の例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド(TPO)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド系光重合開始剤;メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(HMPPO)、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム;2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソンなどのチオキサンソン系光重合開始剤;ジベンゾスバロン;2−エチルアンスラキノン;ベンゾフェノンアクリレート;ベンゾフェノン;ベンジルなどが挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、光重合開始剤と共に、光増感剤を用いてもよい。これら光重合開始剤及び光増感剤の使用割合は、全モノマー成分100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上2質量部以下、より好ましくは0.01質量部以上1質量部以下である。
【0086】
いずれの場合も、重合開始剤の量が多すぎる場合、材料自体柔らかくなりすぎたり、脆くなったりすることがある。また、開始剤の量が少なすぎる場合、得られるポリマー材料中に残留するモノマーやオリゴマーが増加したり、その結果、材料表面がべたつきを持ったりすることがある。
【0087】
[ポリマー材料]
本発明のポリマー材料は、上記重合性組成物を加熱及び/又は紫外線及び/又は可視光照射し、当該重合性組成物中の各モノマー成分を共重合させ硬化させることによって得ることができる。また、紫外線照射に替えて電子線照射による共重合によっても得ることができる。
【0088】
当該ポリマー材料の含水率としては、40%以上が好ましく、50%以上がさらに好ましい。当該ポリマー材料の含水率が40%以上であることによって、ポリマー材料表面の水濡れ性を向上させることができる。なお、ポリマー材料の含水率は、平衡となるまで蒸留水に浸漬させた後に、20℃にて1時間以上調節したポリマー材料の質量W3、及び、その後105℃に設定した乾燥機中で16時間乾燥させた後のポリマー材料の質量W4をそれぞれ測定し、以下の式より算出した値である。
含水率(%)=(W3−W4)/W3×100
【0089】
当該ポリマー材料には、上記した界面活性剤、清涼化剤、粘稠化剤等の添加剤を、その内部に保持させることができる。これらの添加剤は、当該ポリマー材料を眼用レンズとして用いる場合、その製造段階における水和・溶出・滅菌の各工程を経ても、眼用レンズ内部に留めておくことができる。従って、このように内部に保持される添加剤によって得られるポリマー材料に種々の特性、機能性を持たせることができる。すなわち、界面活性剤によって、ポリマー材料表面の水濡れ性を向上させることができ、清涼化剤によって、眼用レンズ装着者の眼に清涼感を与える機能性を付加することができ、粘稠化剤によって、眼用レンズ装着者の眼に潤い感を与える機能性を付加することができる。
【0090】
また、当該ポリマー材料は、良好な柔軟性を有している。当該ポリマー材料の柔軟性を表す引張弾性率の下限としては、0.1MPaが好ましく、0.15MPaがより好ましい。一方、引張弾性率の上限としては、0.8MPaが好ましく、0.7MPaがより好ましい。ポリマー材料の引張弾性率が上記下限より小さいとポリマー材料にコシがなく、眼用レンズとして用いるには手指上での形状保持性が悪く取り扱いが困難となるおそれがある。逆にポリマー材料の引張弾性率が上記上限を超えると、ポリマー材料は硬くなり、眼用レンズの装用感を悪化させるおそれがある。
【0091】
当該ポリマー材料の作製においては、塊状重合法又は溶液重合法が用いられる。塊状重合法においては、重合の進行と共に系の粘度が極端に上昇し、高粘度の系中でモノマー成分が拡散できず、重合反応に関与できなくなったモノマーが未重合のまま残留することが多い。また溶液重合法においては、溶媒は反応に関与しないため、ポリマー内に残留することが多い。医療機器であるコンタクトレンズ等の製造においては、これら残留物を極力減量させるべく、水又は有機溶媒又はこれらの混合溶液に、硬化して得られたポリマー材料を浸漬し、好ましくはこれを繰り返すことによって、これら残留物を溶出させてポリマー材料から除く処理が施される。このような処理の溶媒としては、生理食塩液など無機化合物を溶解させた水溶液、又はこれらと有機溶媒との混合溶液を用いても良い。
【0092】
これに対して、本発明の重合性組成物から得られるポリマー材料は、硬化してポリマー材料中に未重合のまま残留するモノマー量が低減されている。従って、当該ポリマー材料は種々の用途に使用するに際して、安全性が高い。とりわけ当該ポリマー材料は、コンタクトレンズ等の眼用レンズとして用いる場合などにおいては、眼と接触又は接近して使用されるものであることから、特に好適である。また、当該ポリマー材料は、残留モノマーが低減されているので、例えば、眼用レンズの製造工程において、この残留モノマーをポリマー材料から除去するための抽出工程が不要又は簡略化することができる。その結果、製造工程が簡略化できるとともに、製造コストを低減することができる。生活用として広く普及しているコンタクトレンズの材料として当該ポリマー材料を用いることよって、残留モノマー成分が少なく高い安全性を有すると共に優れた酸素透過性及び水濡れ性を有することによる、商品価値及び信頼性の高いコンタクトレンズを安価に提供することができる。
【0093】
本発明のポリマー材料を眼用レンズ用材料として用いる場合は、上記重合性組成物を鋳型法にて硬化させることができる。鋳型法にて重合性組成物を加熱し重合させる場合には所望の眼用レンズ用材料の形状に対応した鋳型内に、上記熱重合開始剤を含む重合性組成物を充填し、この鋳型を徐々に加熱して重合を行ない、得られたポリマー材料に必要に応じて切削加工、研磨加工などの機械的加工を施すことによって眼用レンズ材料を製造することができる。この切削はポリマー材料の一方又は両方の面の全面にわたって行なってもよいし、ポリマー材料の一方の面又は両方の面の一部に対して行なってもよい。
【0094】
鋳型内の重合性組成物を加熱する際の加熱温度は、好ましくは50℃以上150℃以下であり、より好ましくは60℃以上140℃以下である。また、鋳型内の重合性組成物を加熱する際の加熱時間は、好ましくは10分間以上120分間以下、より好ましくは20分間以上60分間以下である。鋳型内での加熱温度を50℃以上とすることで重合時間を短縮でき、加熱時間を10分以上とすることによって、残留モノマー成分の低減を図ることが可能となる。一方、鋳型内での加熱温度を150℃以下あるいは加熱時間を120分以下とすることによって、各モノマー成分の揮発を抑制すると共に、鋳型の変形を防止することができる。
【0095】
鋳型法において、重合性組成物に光を照射して重合させる場合には、所望の眼用レンズ材料の形状に対応した鋳型内に、上記光重合開始剤を含む重合性組成物を充填した後、この鋳型に光を照射して重合を行ない、得られた成形体に必要に応じて切削加工、研磨加工などの機械的加工を施すことによって眼用レンズ材料を製造することができる。このような光照射による重合においても、加熱による重合の場合と同様に、切削はポリマー材料の一方又は両方の面の全面にわたって行なってもよいし、ポリマー材料の一方の面又は両方の面の一部に対して行なってもよい。
【0096】
光照射による重合に用いられる鋳型の材質は、重合・硬化に必要な光を透過しうる材質である限り特に限定されるものではなく、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエステルなどの汎用樹脂が好ましく、ガラスであってもよい。これらの材料を成形、加工することによって、所望の形状を有する鋳型とすることができる。
【0097】
このような鋳型内に各重合成分を含む上記重合性組成物を充填した後、光を照射して重合を実施する。眼用レンズ材料の機能に応じて、照射される光の波長域を選択することができる。但し、照射する光の波長域によって使用する光重合開始剤の種類を選択する必要がある。光の照度は好ましくは0.1mW/cm以上100mW/cm以下である。異なる照度の光を段階的に照射してもよい。また、光の照射時間は1分以上が好ましい。このような所定の照度及び照射時間とすることによって鋳型材料の劣化を防ぎつつ、重合性組成物を十分に硬化させることができる。さらに、光の照射と同時に、重合性組成物に対して加熱を行ってもよく、これによって重合反応が促進され、容易に共重合体を形成することができる。
【0098】
上記重合条件において得られるポリマー材料中の残留モノマーの量としては、ポリマー材料に対する質量比が[C]成分のN−VPについては、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましい。また、[B]成分のシリコーン化合物のうち、比較的低分子量で、残留・溶出の懸念のある[B2]成分については、1質量%以下の残留量が好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下がさらに好ましい。[C]成分であるN−VP残留量を、使用量に対して1質量%以下にすることによって、得られるポリマー材料の種々の用途、特に眼用レンズ用途における安全性を高めることができ、また、製造段階において、ポリマー材料中の残留モノマーの溶出処理等の工程を省略又は簡略化することができる。またさらに、[B2]成分のシリコーン化合物は非水溶性であり、N−VPとは異なって、水、生理食塩液など水系の処理液によるポリマー材料からの溶出・除去が困難である。このような特性の[B2]成分のシリコーン化合物の残留量を使用量に対して1質量%以下にすることによって、上記同様に、ポリマー材料の安全性の確保、製造工程の省略または簡略化ができるとともに、ポリマー材料の物性や形状の安定性低下を抑制することができる。
【0099】
眼用レンズ材料等当該ポリマー材料の表面特性を改良するために、低温プラズマ処理、大気圧プラズマ、コロナ放電などを施すことができる。低温プラズマ処理を施すことにより、より水濡れ性及び/又は耐汚染性に優れた眼用レンズを得ることができる。低温プラズマ処理は、炭素数1〜6のアルカン及びフッ素置換されたアルカン、窒素、酸素、二酸化炭素、アルゴン、水素、空気、水、シラン又はこれらの混合物などの希薄気体雰囲気下において行うことができる。特に、イオンエッチングによる物理的な表面改質効果とラジカルのインプランテーションによる化学的な表面改質効果が期待されるという理由から、酸素単独、二酸化炭素単独、あるいは酸素と、水、テトラフルオロメタン、有機シラン、メタン、チッ素などとの混合物による希薄気体雰囲気下で低温プラズマ処理を行うことが好ましい。低温プラズマ処理は、減圧下で行ってもよいし、大気圧下で行ってもよい。低温プラズマ処理においては、高周波RF(例えば13.56MHz)、低周波AF(例えば15.0〜40.0KHz)、マイクロ波(例えば2.45GHz)にて、出力、処理時間、ガス濃度を適宜調整することにより、表面改質効果を制御することができる。
【0100】
上述のように、当該重合性組成物から得られるポリマー材料は、残留モノマー量が低くかつ高い酸素透過性及び表面濡れ性を有している。従って、このポリマー材料は、眼用レンズすなわち、コンタクトレンズを始めとして、眼内レンズ、人工角膜、角膜オンレイ、角膜インレイなどとして用いるのに安全性が高く、好適である。
【実施例】
【0101】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
[使用成分]
以下の実施例で用いられている略称の意味を示す。
N−VP:N−ビニル−2−ピロリジノン
TRIS:トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
HMPPO:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン
2−MTA:2−メトキシエチルアクリレート
2−ETA:2−エトキシエチルアクリレート
EEA:エトキシエトキシエチルアクリレート
EA:エチルアクリレート
EMA:エチルメタクリレート
BuA:n−ブチルアクリレート
BuMA:n−ブチルメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MMP:1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
AMA:アリルメタクリレート
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド
HMEPBT:2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
PCPMA:フタロシアニン含有ポリメタクリル酸エステル
HCO−60:ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油
マクロモノマー(8):上記式(8)で示されるシリコーン化合物
【0103】
[合成例]
マクロモノマー(8)の合成
あらかじめチッ素置換された側管にジムロート冷却管、機械式撹拌器及び温度計を取り付けた1L三つ口フラスコ内に、イソホロンジイソシアネート(IPDI)75.48g(0.34モル)及び鉄アセチルアセトネート(FeAA)0.12gを仕込んだ。次いで、両末端水酸基ジメチルシロキサン(信越化学工業(株)製「KF−6002」、重合度40、水酸基当量1560g/モル)529.90gを添加し、80℃に加熱したオイルバス中で約4時間、撹拌した。
【0104】
次に、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)39.47g(0.34モル)、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール(MEHQ)0.20gを三つ口フラスコ内に添加し、さらに80℃のオイルバス中で撹拌した。約3時間後、反応溶液を採取して、H−NMR及びFT−IRを使用して分析を行い、所定の化合物が得られていることを確認した。さらに、粗生成物をn−ヘキサンとアセトニトリルを用いて抽出・洗浄し、n−ヘキサン層を回収して、減圧下にて有機溶媒ならびに低分子化合物を留去した。このようにして、マクロモノマー(8)の精製化合物522.33g(収率81%)を得た。
【0105】
合成例で得たマクロモノマー(8)の測定値は以下の通りである。
(1)H−NMR(δ値、溶媒:クロロホルム−d)
0.06ppm(Si−CH、m)、0.52ppm(Si−CH、2H、m)、2.91ppm(NH−CH、2H、d)、3.02ppm(CH−N=C=O、2H、s)、3.42ppm(−O−CH、2H、t)、3.61ppm(−O−CH、2H、m)、4.18−4.34ppm(−(O)CO−CH−、6H、m)、4.54ppm(NH、1H、s)、4.85ppm(NH、1H、s)、5.84ppm(CH=、1H、dd)、6.14ppm(CH=、1H、dd)、6.43ppm(CH=、1H、dd)
(2)赤外線吸収スペクトル(FT−IR)
1262cm−1及び802cm−1(Si−CH)、1094cm−1及び1023cm−1(Si−O−Si)、1632cm−1(C=C)、1728cm−1付近(C=O、エステル及びウレタン)。
【0106】
[実施例1]
[A]成分として2−MTAを20質量部、[B]成分のシリコーン化合物としてマクロモノマー(8)を30質量部及びTRISを30質量部、[C]成分のN−VPを20質量部、[D]成分の架橋剤としてEDMAを0.4質量部、及び[G]成分の重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部含む(表1の組成α)重合性組成物を調製した。この重合性組成物を、コンタクトレンズ形状を有する鋳型(ポリプロピレン製、直径14.2mm及び中心厚み0.08mmのコンタクトレンズに対応)内に注入し、次いで、この鋳型に高圧水銀ランプ(2kW)を使用してUV光を20分照射して光重合を行った。照射は、レンズのFC面に相当する側からのみ行った。重合後、鋳型から取り出して、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0107】
[実施例2]
[A]成分として、2−ETAを20質量部用いた以外は上記実施例1と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0108】
[実施例3]
[A]成分として、EEAを20質量部用いた以外は、上記実施例1と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0109】
[実施例4]
[A]成分として、EAを20質量部用いた以外は、上記実施例1と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0110】
[実施例5]
[A]成分として、BuAを20質量部用いた以外は、上記実施例1と同様にしてコンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0111】
[実施例6]
[A]成分として2−MTAを25質量部、[B]成分のシリコーン化合物としてマクロモノマー(8)を10質量部及びTRISを25質量部、[C]成分のN−VPを40質量部、[D]成分の架橋剤としてEDMAを0.4質量部、及び[G]成分の重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部含む(表1の組成β)重合性組成物を調製し、上記実施例1と同様にしてコンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0112】
[実施例7]
[A]成分として、2−ETAを25質量部用いた以外は上記実施例6と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0113】
[実施例8]
[A]成分として、EEAを25質量部用いた以外は、上記実施例6と同様にしてコンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0114】
[実施例9]
[A]成分として、EAを25質量部用いた以外は上記実施例6と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0115】
[実施例10]
[A]成分として、BuAを25質量部用いた以外は上記実施例6と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0116】
[比較例1]
[A]成分の代わりに、HEMAを20質量部用いた以外は、上記実施例1と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0117】
[比較例2]
[A]成分の代わりに、DMAAを20質量部用いた以外は、上記実施例1と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0118】
[比較例3]
[A]成分の代わりに、MMPを20質量部用いた以外は、上記実施例1と同様にしてコンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0119】
[比較例4]
[A]成分の代わりに、EMAを20質量部用いた以外は上記実施例1と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0120】
[比較例5]
[A]成分の代わりに、BuMAを20質量部用いた以外は上記実施例1と同様にしてコンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0121】
[比較例6]
[A]成分の代わりに、HEMAを25質量部用いた以外は上記実施例6と同様にしてのコンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0122】
[比較例7]
[A]成分の代わりに、DMAAを25質量部用いた以外は上記実施例6と同様にしてコンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0123】
[比較例8]
[A]成分の代わりに、MMPを25質量部用いた以外は上記実施例6と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0124】
[比較例9]
[A]成分の代わりに、EMAを25質量部用いた以外は上記実施例6と同様にして、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0125】
[比較例10]
[A]成分の代わりに、BuMAを25質量部用いた以外は上記実施例6と同様にしてコンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。
【0126】
【表1】

【0127】
また、実施例1〜10で[A]成分として使用したモノマー及び比較例1〜10で[A]成分の代わりに使用したモノマーを重合して得られるホモポリマーについて、ガラス転移温度(Tg)及び吸水率の値を表2に示す。各ホモポリマーのガラス転移温度は示差走査熱量測定(DSC)によりスキャン速度20℃/分での測定値、あるいは文献(ポリマーハンドブック3rd Ed.)から引用した値である。また、各ホモポリマーの吸水率は、25℃にて蒸留水に16時間以上浸漬したホモポリマーの質量W1(g)、及びその後105℃のオーブンにて16時間乾燥させた後のホモポリマーの質量W2(g)をそれぞれ測定し、以下の式より算出した値である。なお、各ホモポリマーは、各モノマー100質量部に対し、架橋剤であるEDMA0.4質量部及び重合開始剤であるHMPPO0.4質量部を加えた混合物を、実施例1記載の方法によって硬化させて得た。
吸水率(%)=(W1−W2)/W1×100
【0128】
【表2】

【0129】
実施例1〜10及び比較例1〜10で得たコンタクトレンズ形状のポリマー材料について、モノマー残留率を、下記方法に従って測定した。得られた結果を表3に示す。
【0130】
[残留モノマー成分の定量]
<残留N−VPの定量>
実施例1〜10及び比較例1〜10で得たコンタクトレンズ形状のポリマー材料を、アセトニトリルに浸漬し、残留成分を抽出した。この抽出液をHPLCにて分析し、残留している[C]成分のN−VPについて、モノマーの残留率(%)を算出した。残留率の定量の際は濃度既知のN−VPのアセトニトリル溶液を調製してHPLC分析を行い、この分析結果より、x軸にN−VP濃度(ppm)、y軸にHPLC分析ピークの面積をとり検量線を作成した。N−VPの重合性組成物中の配合量に対する残留率S1(%)、コンタクトレンズ形状のポリマー材料に対する残留モノマーの質量比率S2(%)は下記により算出し、ともに0.1%の桁まで求めた。なお、V:抽出溶媒量(mL)、A:N−VPのピーク面積、a:検量線傾き、b:検量線切片、W:ポリマー材料の質量(g)、w:重合性組成物におけるN−VPの配合質量分率(%)、である。
S1(%)={V×(A−b)}/(a×W×w×100)
S2(%)={V×(A−b)}/(a×W×10000)
【0131】
<残留TRISの定量>
実施例1〜10及び比較例1〜10で得られたコンタクトレンズ形状のポリマー材料について、[B2]成分であるTRISの配合量に対するモノマーの残留率を測定した。測定は上記N−VPの場合と同様の方法で行い、上記N−VPの場合におけるS1(%)及びS2(%)と同様に、TRISの重合性組成物中の配合量に対する残留率S3(%)及びコンタクトレンズ形状のポリマー材料に対する残留モノマーの質量比率S4(%)を算出し、ともに0.01%の桁まで求めた。
【0132】
【表3】

【0133】
表3の結果から明らかなように、実施例1〜10では比較例1〜10に対して、N−VPの残留率が、N−VPの重合性組成物中の配合量に関わらず、明らかに低減されていることが示された。また、実施例1〜10では、比較例1〜10に対して、水に不溶のTRISの残留率が極めて低く抑えられていることも示された。
【0134】
[実施例11]
[A]成分として2−MTAを24質量部、[B]成分としてマクロモノマー(8)を5質量部及びTRISを30質量部、[C]成分のN−VPを41質量部、[D]成分の架橋剤としてAMAを0.3質量部、[F]成分として、紫外線吸収剤であるHMEPBTを1.0質量部及び色素であるPCPMAを0.02質量部、並びに[G]成分の重合開始剤としてTPOを0.6質量部含む重合性組成物を調製した。この重合性組成物を、コンタクトレンズ形状を有する鋳型(ポリプロピレン製、直径14.2mm及び中心厚み0.08mmのコンタクトレンズに対応)内に注入し、次いで、この鋳型に青色ランプ(PHILIPS社製TL20W03)で20分照射して光重合を行った。照射はレンズのFC面に相当する側からのみ行った。重合後、鋳型から取り出して得たコンタクトレンズ形状を有するポリマー材料に、炭酸ガス雰囲気下でプラズマ処理(RF出力50W、100Pa)を施した後、蒸留水に浸漬して水和処理を行い、平衡となるまで膨潤させた。それからこのポリマー材料を蒸留水中で濯ぐことにより溶出処理を行ってから、リン酸緩衝液中にて滅菌(高圧蒸気滅菌)処理(121℃、20分)を行うことにより、実施例11に係るコンタクトレンズを得た。
【0135】
[実施例12]
[A]成分として2−MTAを25質量部、[B]成分としてマクロモノマー(8)を10質量部及びTRISを25質量部、[C]成分のN−VPを40質量部、[D]成分の架橋剤としてAMAを0.3質量部、[F]成分の色素としてPCPMAを0.02質量部、[G]成分の重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部用いて重合性組成物を調製し、また照射器として高圧水銀ランプ(2kW)を使用した以外は、実施例11と同様にして、実施例12に係るコンタクトレンズを得た。
【0136】
実施例11、12で得たコンタクトレンズについて、水濡れ性及び表面潤滑性の評価、含水率及び引張弾性率の測定、細胞毒性試験を、下記方法に従って行った。得られた結果を表4に示す。
【0137】
[水濡れ性の評価]
実施例11、12で得られたコンタクトレンズについて、滅菌後、ピンセットでレンズを取り出して2回軽く振り、レンズに付着した水分を除いた後のレンズ表面の水濡れ性を目視にて確認し、以下の評価基準に従って判定した。
―評価基準―
A:レンズ全体が一様に良く濡れている。
B:レンズ全体が一様に良く濡れているが、一定時間放置後、部分的にはじかれる。
C:やや水濡れ性に欠け、レンズ周辺部に水はじきが見られる。
D:強い水はじきが見られる。
【0138】
[表面潤滑性]
実施例11、12で得られたコンタクトレンズについて、滅菌後、コンタクトレンズを手指上で二つ折りにして挟み、指でレンズをこすりあわせた際の潤滑性(レンズ同士の接着感、レンズと手指との接着感)を評価した。またレンズ表面の水濡れ性も目視にて確認した。以下の評価基準に従って判定した。
―評価基準―
A:レンズ同士の滑りが良好であり、コンタクトレンズとして好適である。
B:レンズ同士をこすりあわせるとわずかにきしみが感じられる。
C:レンズと手指の接着性はないがレンズ同士の滑りが悪く動きがなくなる時がある。
D:レンズ表面に粘着性があり、レンズと手指との接着感が強い。
【0139】
[含水率の測定]
実施例11、12で得たコンタクトレンズを20℃にて1時間以上調節して質量W3(g)を測定した後、105℃に設定した乾燥機中で16時間乾燥させ、再度質量W4(g)を測定した。これらの測定値から以下の式に従い、含水率を算出した。
含水率(%)=(W3−W4)/W3×100
【0140】
[引張弾性率の測定]
実施例11、12において得たコンタクトレンズから、引張部分の幅が1.8mmのダンベル形状に打ち抜いて測定片を作製した。こうして得られた測定片を用いて、株式会社島津製作所製万能試験機「AG−IS MS型」により引張弾性率を測定した。測定は20℃生理食塩液中で引張速度100mm/分にて行い、得られた応力−伸び曲線から引張弾性率(ヤング率)を算出した。
【0141】
[細胞毒性試験]
実施例11、12で得たコンタクトレンズについて、V79細胞(チャイニーズハムスター肺由来繊維芽細胞)を使用した細胞毒性試験を実施した。以下の評価基準に従って判定した。
○:生物学的安全性上問題がないと判断できる。
×:生物学的安全性上問題がないと判断できない。
【0142】
【表4】

【0143】
表4の結果から明らかなように、実施例11、12のコンタクトレンズは、ともに柔軟でかつ水濡れ性、表面潤滑性に優れていることが示された。また、生物学的安全性上問題がないことも示された。
【0144】
[実施例13]
実施例12において調製した重合性組成物([A]成分として、2−MTAを25質量部、[B]成分としてマクロモノマー(8)を10質量部及びTRISを25質量部、[C]成分のN−VPを40質量部、[D]成分の架橋剤としてAMAを0.3質量部、[F]成分の色素としてPCPMAを0.02質量部、及び[G]成分の重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部含む)に、さらに[E]成分の添加剤として水溶性有機溶媒であるエタノールを1.0質量部含む重合性組成物を調製し、実施例12と同様にしてコンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。また、得られたポリマー材料を実施例12と同様にして、プラズマ処理、水和処理、溶出処理、滅菌処理を順次行うことにより、実施例13に係るコンタクトレンズを得た。
【0145】
[実施例14]
[E]成分の添加剤として、水溶性有機溶媒であるエタノールを3.0質量部用いた以外は、上記実施例13と同様にして、実施例14に係るコンタクトレンズを得た。
【0146】
[実施例15]
[E]成分の添加剤として、水溶性有機溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンを1.0質量部用いた以外は、上記実施例13と同様にして、実施例15に係るコンタクトレンズを得た。
【0147】
[実施例16]
[E]成分の添加剤として、清涼化剤であるl−メントールを0.5質量部用いた以外は、上記実施例13と同様にして、実施例16に係るコンタクトレンズを得た。
【0148】
[実施例17]
[E]成分の添加剤として、清涼化剤であるl−メントールを1.0質量部用いた以外は、上記実施例13と同様にして、実施例17に係るコンタクトレンズを得た。
【0149】
[実施例18]
[E]成分の添加剤として、界面活性剤であるHCO−60を0.5質量部用いた以外は、上記実施例13と同様にして、実施例18に係るコンタクトレンズを得た。
【0150】
[実施例19]
[E]成分の添加剤として、界面活性剤であるHCO−60を1.0質量部用いた以外は、上記実施例13と同様にして、実施例19に係るコンタクトレンズを得た。
【0151】
実施例13〜19において硬化後鋳型より取り出して得たコンタクトレンズ形状のポリマー材料を、上記方法と同様にアセトニトリルに浸漬して抽出処理を行い、残留N−VPモノマーの残留率(S1、S2)の測定を行った。また、実施例11の記載に従って、当該ポリマー材料を表面処理、水和、溶出、滅菌処理の各処理を順次施して得たコンタクトレンズについて、上記方法と同様にして水濡れ性および表面潤滑性の評価を行った。得られた結果を表5に示す。また、当該コンタクトレンズについて上記方法と同様にして、細胞毒性試験を行い、いずれも生物学的安全性の見地から問題のないことを確認した。
【0152】
【表5】

【0153】
表5の結果から明らかなように、[E]成分の添加剤を使用することにより、得られるポリマー材料の残留N−VPがさらに低減されていることが示された。また、[E]成分の添加剤を使用しても良好な表面潤滑性、水濡れ性を示して眼用レンズ材料として適切な表面を有することも示された。
【0154】
[実施例20]
[A]成分として2−MTAを18質量部、[B]成分としてマクロモノマー(8)を15質量部及びTRISを37質量部、[C]成分のN−VPを30質量部、[D]成分の架橋剤としてAMAを0.1質量部、[F]成分の色素としてPCPMAを0.01質量部並びに[G]成分の重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部含む重合性組成物を調製し、実施例12と同様の方法で光重合を行い、コンタクトレンズ形状のポリマー材料を得た。それから、平衡となるまで蒸留水に浸漬して膨潤させ、次いで当該ポリマー材料を生理食塩水に浸漬し、その液中で滅菌処理(高圧蒸気滅菌)を行い、実施例20に係るコンタクトレンズを得た。
【0155】
[実施例21]
[A]成分として2−MTAを24質量部、[B]成分としてマクロモノマー(8)を10質量部及びTRISを25質量部、[C]成分のN−VPを41質量部、[D]成分の架橋剤としてAMAを0.1質量部、[F]成分の色素としてPCPMAを0.02質量部並びに[G]成分の重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部含む重合性組成物を調製した以外は、上記実施例20と同様にして、実施例21に係るコンタクトレンズを得た。
【0156】
[比較例11]
[A]成分の代わりにMMPを35質量部及びDMAAを10質量部、[B]成分としてマクロモノマー(8)を10質量部及びTRISを22質量部、[D]成分の架橋剤としてEDMAを0.4質量部、[F]成分の色素としてPCPMAを0.01質量部並びに[G]成分の重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部用いて重合性組成物を調製した以外は、上記実施例20と同様にして、比較例11に係るコンタクトレンズを得た。
【0157】
[比較例12]
[A]成分の代わりにMMPを47質量部及びDMAAを15.5質量部、[B]成分としてマクロモノマー(8)を22.5質量部及びTRISを15質量部、[D]成分の架橋剤としてEDMAを0.4質量部、[F]成分の色素としてPCPMAを0.02質量部並びに[G]成分の重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部用いて重合性組成物を調製した以外は、上記実施例20と同様にして、比較例12に係るコンタクトレンズを得た。
【0158】
実施例20、21及び比較例11、12において作製したコンタクトレンズを用いて含水率を測定した。また得られたコンタクトレンズについて、上記方法により表面潤滑性、水濡れ性を評価した。得られた結果を表6に示す。
【0159】
【表6】

【0160】
表6の結果から明らかなように、実施例20と比較例11、また実施例21と比較例12とは、それぞれ同程度の含水率を有するポリマー材料であるが、表面の水濡れ性は、 [A]成分、[B]成分及び[C]成分の全てのモノマー成分を含有する重合性組成物から得られた実施例20及び実施例21のポリマー材料の方が優れていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の重合性組成物は、得られるポリマー材料が高い酸素透過性及び表面濡れ性を有することに加えて、残留モノマー量が低減された安全性の高いポリマー材料とすることができるので、眼用レンズ、すなわち、コンタクトレンズを始めとして、眼内レンズ、人工角膜、角膜オンレイ、角膜インレイ等に好適に用いられる。その他、眼用レンズ以外にもカテーテル、チューブ、ステント、管、血液バック、プローブ、薄膜等の様々な用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]アクリロイルオキシ基を有し、珪素原子を有さず、かつそのホモポリマーとしてのガラス転移温度が10℃以下の重合性化合物、
[B]重合性基を有するシリコーン化合物、及び
[C]N−ビニルピロリジノン
をモノマー成分として含有する重合性組成物。
【請求項2】
[A]成分の重合性化合物がさらにエーテル結合を有する請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
[A]成分の重合性化合物のホモポリマーとしての吸水率が20%以下である請求項1又は請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
[A]成分の重合性化合物が下記式(1)で表される化合物である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の重合性組成物。
CH=CH−CO−(OCHCH−OR (1)
(式(1)中、Rはメチル基又はエチル基を表す。nは1から3の整数を表す。)
【請求項5】
[A]成分の重合性化合物が、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−メトキシエトキシエチルアクリレート及び2−エトキシエトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項4の重合性組成物。
【請求項6】
[B]成分のシリコーン化合物が、
[B1]ウレタン結合を介してエチレン型不飽和二重結合及びポリジメチルシロキサン構造を有する化合物、及び/又は
[B2]シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート、シリコーン含有スチレン誘導体並びにシリコーン含有フマル酸ジエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項7】
[B1]成分のシリコーン化合物が下記式(2)で表される請求項6に記載の重合性化合物:
−U−(S−W)−S−U−A (2)
[式(2)中、A及びAはそれぞれ独立に下記式(3)、U及びUはそれぞれ独立に下記式(4)、S及びSはそれぞれ独立に下記式(5)、Wは下記式(6)で表される基であり、mは0〜10の整数を示す。
Y−Z−R− (3)
(式(3)中、Yは(メタ)アクリロイル基、ビニル基又はアリル基であり、Zは酸素原子又は直接結合であり、Rは直接結合又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖もしくは芳香環を有するアルキレン基である。但し、A及びA中のYは同一であってもよく、異なっていてもよい。)
−X−E−X−R− (4)
(式(4)中、X及びXはそれぞれ独立に直接結合、酸素原子及びアルキレングリコール基から選ばれ、Eは−NHCO−基(但し、この場合、Xは直接結合であり、Xは酸素原子又はアルキレングリコール基であり、EはXとウレタン結合を形成している。)、−CONH−基(但し、この場合、Xは酸素原子又はアルキレングリコール基であり、Xは直接結合であり、EはXとウレタン結合を形成している。)又は飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基(但し、この場合、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子及びアルキレングリコール基から選ばれ、EはX及びXの間で2つのウレタン結合を形成している。)であり、Rは炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。)
【化1】

(式(5)中、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、フッ素置換されたアルキル基、フェニル基又は水素原子であり、Kは10〜100の整数、Lは0又は1〜90の整数であり、K+Lは10〜100の整数である。)
−R−X−E−X−R− (6)
(式(6)中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基であり、X及びXは、それぞれ独立に酸素原子又はアルキレングリコール基であり、Eは、飽和もしくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基(但し、この場合、EはX及びXの間で2つのウレタン結合を形成している。)である。)]
【請求項8】
[A]成分の重合性化合物、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−ビニルピロリジノンの合計量100質量部に対して、[A]成分の重合性化合物を10質量部以上45質量部以下、[B]成分のシリコーン化合物を10質量部以上70質量部以下及び[C]成分のN−ビニルピロリジノンを10質量部以上50質量部以下含む請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項9】
非重合性の添加剤を[A]成分の重合性化合物、[B]成分のシリコーン化合物及び[C]成分のN−ビニルピロリジノンの合計量100質量部に対して5質量部以下含有し、
上記添加剤が水溶性有機溶媒、界面活性剤、清涼化剤及び粘稠化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項10】
上記水溶性有機溶媒が、炭素数1〜3のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン及びジメトキシエタンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項9に記載の重合性組成物。
【請求項11】
上記界面活性剤が、非イオン性でポリオキシエチレン基を有する請求項9又は請求項10に記載の重合性組成物。
【請求項12】
上記非イオン性でポリオキシエチレン基を有する界面活性剤がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリシロキサンエーテル類及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項11に記載の重合性組成物。
【請求項13】
上記清涼化剤がl−メントール、d−メントール、dl−メントール、d−カンフル、dl−カンフル、d−ボルネオール、dl−ボルネオール、ゲラニオール、ユーカリ油、ベルガモット油、ウィキョウ油、ハッカ油、ローズ油及びクールミントからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項14】
上記粘稠化剤が、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ソルビトール、デキストラン70、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びマクロゴール4000からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の重合性組成物を硬化して得られるポリマー材料。
【請求項16】
含水率が40%以上である請求項15に記載のポリマー材料。
【請求項17】
請求項15又は請求項16に記載のポリマー材料からなる眼用レンズ。
【請求項18】
請求項15又は請求項16に記載のポリマー材料からなるコンタクトレンズ。

【公開番号】特開2011−219512(P2011−219512A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86601(P2010−86601)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】