説明

重合性組成物、高分子、及びフィルム

【課題】高Δnで且つ着色のない膜の作製に有用な重合性組成物の提供。
【解決手段】
下記式(I)で表される化合物を含む重合性組成物である。P1及びP2は重合性基;m1及びm2は1〜10の整数;A1〜A4は置換されていてもよい所定の環状基;Rは水素原子又はアルキル基;Z1及びZ2は、−COO−、−OCO−、−NHCO−、又はNR1CO;L1及びL2は−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−NHCO−、又はNR1CO;n1及びn2は1又は2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性フィルム、遮熱フィルム等の種々の光学部材の材料をはじめとする、種々の用途において有用な重合性組成物、及び高分子、並びにこれらを利用したフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の小型化が望まれており、それに伴い光学フィルムの薄膜化が求められている。例えば、高いΔnを示す液晶を、位相差板等の光学フィルムの作製に用いることにより膜厚を薄くすることができる。Δnは液晶化合物の重要な基本物性のひとつであり、高いΔnを示す液晶は、光学素子の構成要素である位相差板、偏光素子、選択反射膜、カラーフィルタ、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、配向膜、など多くの工業分野に利用することができる(非特許文献1)。
【0003】
従来、Δnの大きい液晶化合物としてMBBAに代表されるアゾメチン構造を有するものが知られている(非特許文献2)。液晶化合物の特徴の一つは流動性があることであるが、上記用途では、液晶の流動性が不具合となる場合があり、所望の配向を維持して固体化する必要がある。一つの手段として、アゾメチン構造を有する化合物に二官能以上の重合性基を導入することでネットワーク構造を形成できる、重合性液晶が知られている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−279363号公報
【特許文献2】特開2007−206461号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D.J.Broer, G.N.Mol, J.A.M.M.Van Haaren, and J.LubAdv. Mater., 1999,11,573
【非特許文献2】Liq.Cryst.,34,65(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の上記液晶は、高Δnを示す化合物は黄色味を帯びているため、無色での用途に不適であるといった問題がある。また、液晶相の温度範囲が狭く、重合工程において結晶化しやすいといった問題がある。
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、高Δnを示し且つ無色である重合性アゾメチン化合物を利用して、透明で且つ着色のない種々の光学部材の作製に有用な、重合性組成物、高分子、及びフィルムを提供することを課題とする。特に、薄膜で高機能特性が要求される位相差膜及び選択反射膜の作製に有用な、重合性組成物、高分子、及びフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 下記式(I):
【化1】

式中、P1及びP2はそれぞれ、重合性基を表し;
m1及びm2はそれぞれ、1〜10の整数を表し、m1又はm2個のCH2のうち、1つのCH2又は隣接しない2以上のCH2は、酸素原子又は硫黄原子に置き換わっていてもよく;
1、A2、A3及びA4はそれぞれ、置換されていてもよい、5〜18員環の芳香族炭化水素環、又は5〜18員環の芳香族複素環の基を表し;
Rは、水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基を表し;
1及びZ2はそれぞれ、−COO−、−OCO−、−NHCO−、又は−NR1COを表し、R1は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し;
1及びL2はそれぞれ、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−NHCO−、又は−NR1COを表し、R1は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し;
n1及びn2はそれぞれ、1又は2である;
で表される化合物を少なくとも1種含むことを特徴とする重合性組成物。
【0008】
[2] 式(I)中、A2及びA3が置換基を有していてもよい1,4−フェニレンでありかつn1=n2=1である[1]の重合性組成物。
[3] 式(I)中、A1及びA4が1,4−フェニレンである[2]の重合性組成物。
[4] A1、A2、A3及びA4がそれぞれ無置換の5〜18員環の芳香族炭化水素環又は5〜18員環の芳香族複素環の基であるか、又はA1、A2、A3及びA4の少なくとも一つが、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアミド基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜5のアシル基、シアノ基、又はハロゲン原子に置換されている5〜18員環の芳香族炭化水素環又は5〜18員環の芳香族複素環の基である[1]〜[3]のいずれかの重合性組成物。
【0009】
[5] 式(I)中、P1及びP2がそれぞれ、以下の式(P−1)〜式(P−5)で表される基からなる群から選ばれる重合性基である[1]〜[4]のいずれかの重合性組成物:
【化2】

式中、R11〜R13はそれぞれ、水素原子又はメチル基を表す。
【0010】
[6] 式(I)中、P1及びP2はそれぞれ、メタクリレート基又はアクリレート基である[1]〜[5]のいずれかの重合性組成物。
[7] 式(I)中、m1及びm2がそれぞれ2〜8の整数を表す[1]〜[6]のいずれかの重合性組成物。
[8] 少なくとも1種のキラル化合物を含有する[7]の重合性組成物。
[9] [1]〜[8]のいずれかの重合性組成物を重合させてなる高分子。
[10] [9]の高分子の少なくとも1種を含有するフィルム。
[11] [1]〜[8]のいずれかの重合性組成物のコレステリック液晶相を固定してなるフィルム。
[12] 光学異方性を示す[10]又は[11]のフィルム。
[13] 選択反射特性を示す[10]〜[12]のいずれかのフィルム。
[14] 赤外線波長域に選択反射特性を示す[13]のフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高Δnを示し且つ無色である重合性アゾメチン化合物を利用して、透明で且つ着色のない種々の光学部材の作製に有用な、重合性組成物、高分子、及びフィルムを提供することができる。特に、薄膜で所望の光学特性を示すことが要求される位相差膜及び選択反射膜等の光学フィルムの作製に有用な、重合性組成物、高分子、及びフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例で測定した式(I)の化合物及び比較例用化合物の吸収スペクトル曲線である。
【図2】図1の吸収スペクトル曲線を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値とし
【0014】
1.重合性組成物
本発明は、下記式(I)で表される化合物の少なくとも1種を含有する重合性組成物に関する。下記式(I)の化合物は、メソゲンとともに、アゾメチン基を分子内に一つ有することを特徴とする。アゾメチン基を分子内に有する液晶化合物は、高Δnを示すが、一方で、従来の、アゾメチン基を分子内に2つ有するビスアゾメチン液晶化合物は黄色に着色していて、用途が制限される。下記式(I)の化合物は、十分に高いΔnを示すとともに、白色であるので、着色の問題はない。さらに、下記式(I)の化合物は、末端の重合性基とメソゲンを繋ぐ側鎖がある程度長いので、液晶相となる温度範囲が広く、重合工程において結晶化し、白濁化するという問題も解消できる。さらに、溶剤への溶解性、及び他の液晶材料との相溶性も良好であり、重合で硬化可能であることから、光学部材等の種々の用途に有用である。特に、Δnが高いことから、薄膜の形態で所望の光学特性を示すことが要求される位相差膜及び選択反射膜等の光学フィルムの作製に有用である。
【0015】
【化3】

【0016】
式中、P1及びP2はそれぞれ、重合性基を表し;
m1及びm2はそれぞれ、1〜10の整数を表し、m1又はm2個のCH2のうち、1つのCH2又は隣接しない2以上のCH2は、酸素原子又は硫黄原子に置き換わっていてもよく;
1、A2、A3及びA4はそれぞれ、置換されていてもよい、5〜18員環の芳香族炭化水素環又は5〜18員環の芳香族複素環の基を表し;
Rは水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基を表し;
1及びZ2はそれぞれ、−COO−、−OCO−、−NHCO−、又は−NR1COを表し、R1は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し;
1及びL2はそれぞれ、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−NHCO−、又は−NR1COを表し、R1は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し;
n1及びn2は、1又は2である。
【0017】
前記式中、P1及びP2はそれぞれ、重合性基を表す。重合性基としては、ラジカル重合又はカチオン重合可能な重合性基が好ましい。ラジカル重合性基としては、一般に知られているラジカル重合性基を用いることができ、好適なものとして、(メタ)アクリレート基(アクリレート基及びメタクリレート基の双方を含む意味の用語として用いる)とを挙げることができる。この場合、重合速度はアクリレート基が一般的に速いことが知られており、生産性向上の観点からアクリレート基が好ましいが、メタクリレート基も高Δn液晶の重合性基として同様に使用することができる。カチオン重合性基としては、一般に知られているカチオン重合性を用いることができ、具体的には、脂環式エーテル基、環状アセタール基、環状ラクトン基、環状チオエーテル基、スピロオルソエステル基、ビニルオキシ基などを挙げることができる。中でも、脂環式エーテル基、ビニルオキシ基が好適であり、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルオキシ基が特に好ましい。前記式中、P1及びP2は互いに異なっていてもよく、即ち、前記式(I)の化合物は、重合性基を2種以上含んでいてもよい。その場合は、ラジカル重合性基とカチオン重合性基等、重合反応機構が異なる重合性基をそれぞれ有していてもよいし、同一の反応機構の重合性基を有していてもよい。
【0018】
1及びP2はそれぞれ、下記式(P−1)〜(P−5)のいずれかで表される重合性基であるのが好ましい。
【0019】
【化4】

【0020】
式中、R11〜R13はそれぞれ、水素原子又はメチル基を表す。*がアルキレン鎖との結合位置である。
1及びP2はそれぞれ、(メタ)アクリレート基であるのが好ましく、即ち、以下のいずれかの基であるのが好ましい。
【0021】
【化5】

【0022】
前記式中、m1及びm2はそれぞれ、1〜10の整数を表す。側鎖の長さが短い(例えば、m1及びm2が1〜3である)と液晶相を示す上限温度は高いが結晶化し易く、溶解性が低くなるので、組成物に含まれる他の成分(例えば、溶媒又は他の液晶材料)への溶解性又は相溶性の観点で、該化合物の割合を小さくする必要がある場合がある。一方、側鎖が長い(例えば、m1及びm2が4〜6である)と、溶解性は良化するが、液晶相を示す上限温度が低下したり、スメクチック相が出やすくなりネマチック相範囲が狭くなり、配向の均一性が低下する場合がある。また、側鎖が長くなると、分子の動きの自由度を増大させることになるので、剛性の高い膜質が要求される用途には、側鎖が短めの化合物を用いるのが好ましく、また膜の脆性改良の用途には、側鎖が長めの化合物を用いるのが好ましい。また、上記式(I)中のm1又はm2個のCH2のうち、1つのCH2又は隣接しない2以上のCH2は、酸素原子又は硫黄原子に置き換わっていてもよい。−CH2−をSやOで置換したものは、結合基周りの回転性が増大し、即ち、自由度が増大するため、膜の脆性改良目的に効果がある。前記式(I)の化合物は、従来のアゾメチン化合物よりもネマチック相範囲が拡大されているのが好ましく、この観点からm1及びm2はそれぞれ、2〜8であるのが好ましく、3〜6であるのがより好ましい。
【0023】
環の種類と個数:
高いΔnを達成するためには、配向秩序を高くすることが必要であり、このためには液晶相の上限温度を上げることが有効である。本発明の組成物に使用する上記式(I)の化合物は、少なくとも環状の芳香族基を4環(式(I)中のA1〜A4)以上連結したものであり、その分子構造の特徴から、NI点(ネマチック液晶相→等方相の転移温度)が高く、具体的には180℃以上という極めて高いNI点を示し、組成物のΔnの向上に大きく寄与する。この環数を適当な連結基を介して5環及び6環と増大することによって、着色することなしに、NI点をさらに高めて、Δnを大きくすることができる。また、芳香族環は、不飽和環や非芳香族環と比べて分子長軸方向の分極率を増大し、Δnの向上に寄与する。但し、環数の増大は、融点や粘性の増大を招き、光学膜に使用する用途領域では塗布工程で結晶化を起こしやすく膜均一性が下がるといった欠点もある。
【0024】
式(I)中、A1、A2、A3、及びA4はそれぞれ、置換されていてもよい、5〜18員環の芳香族炭化水素環又は5〜18員環の芳香族複素環の基を表す。A1〜A4は、単環の基であっても、2以上の環を含む縮合環の基であってもよい。但し、着色をより軽減するという観点では、単環の基であるのが好ましい。単環構造としては、5〜7員環状構造が好ましく、5又は6員環構造がより好ましい。前記複素環の環構成原子は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選択される1種又は2種以上であるのが好ましい。
以下に、A1〜A4の例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0025】
【化6】

【0026】
式(I)中、A1〜A4はそれぞれ、置換基を有していてもよい、単環の基(例えば、上記例示された単環の基)であるのが好ましく、6員の芳香族炭化水素環を有する2価基であるのが好ましく、置換基を有していてもよい、6員の芳香族炭化水素環の基、即ち置換基を有していてもよいフェニレン基が好ましく、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基が特に好ましい。また、A1〜A4が、置換基を有していてもよい、縮合環の基である場合は、置換基を有していてもよい、ナフタレン環の基であるのが好ましい。
【0027】
置換基の種類と個数:
高いΔnのためには、吸収を長波化することが有効であり、それが従来のビスアゾメチン系液晶化合物の着色の原因であったが、本発明による式(I)の化合物では、アゾメチン結合によって繋がれた2つの芳香環の置換基の種類は化合物の色味にほとんど影響を与えず、任意の置換基を有する化合物を使用することができる。溶解性の観点からみると、置換基は原子の大きさがより大きいほど溶解性の向上に寄与し、小さいほど溶解性が低下し、配向性が低下する。このことから、置換基を有することが望ましい。置換基の数としては、より多いほど溶解性の上昇が期待できるが、多過ぎると液晶性が損なわれる。
【0028】
1〜A4がそれぞれ有する置換基の例には、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアミド基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜5のアシル基、シアノ基、又はハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)が含まれる。より好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜4のアミド基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子であり、さらに好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、又はハロゲン原子である。
【0029】
これらを踏まえて、式(I)の化合物の環数としては、環の数が少ないのが好ましく、n1及びn2は1又は2であり、より好ましくは1である。
【0030】
式(I)中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。Rが水素原子であっても、十分な加水分解耐性があるが、極めて高い加水分解耐性が必要な用途において、Rがアルキル基である化合物を用いるのが好ましい。アルキル基の長さとしては、長過ぎると液晶相を不安定化することから、Rは短いことが好ましい。具体的には、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基であるのが好ましく、炭素原子数1〜5のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1〜3のアルキル基がさらに好ましい。
【0031】
連結基の種類:
環構造をつなぐ連結基(式(I)中のZ1及びZ2)としては、液晶相安定化(NI点の向上)のためには剛直な構造を有するものが好ましい。一方、剛直な基が多く存在すると、結晶性向上による溶解性低下、スメクチック相安定化による、ネマチック液晶相温度範囲の縮小が考えられる。このような観点から、連結基は、ネマチック液晶相が安定化されるように適宜選ばれるのが好ましい。具体的には、前記式中、Z1及びZ2はそれぞれ、−COO−、−OCO−、−NH−、又はNR1を表し、R1は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し;より好ましくは−COO−、−OCO−、−NH−であり;さらに好ましくは−COO−、−OCO−である。
【0032】
式(I)中、L1及びL2はそれぞれ、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−NH−、又はNR1を表し、R1は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し;より好ましくは−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−OCOO−であり;さらに好ましくは−O−、−OCOO−である。尚、化合物全体の吸収に対する影響(すなわち化合物の色味)は、上記に挙げた連結基の種類にあまり影響しない。
【0033】
以下に、式(I)で表される化合物の具体例を挙げるが、以下の具体例に限定されるものではない。
【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
本発明に係わる一般式(I)で表される化合物は、例えば下記の反応式(1)に従う方法により製造することができる。
【0039】
【化11】

【0040】
但し、前記反応式(1)中、L3及びL4は、O、S、NH又はNR1を表し、A1〜A4、Z1、Z2、L1、L2、R、R1、P1及びP2は一般式(I)中におけるそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0041】
前記反応式(1)において、化合物(A)は芳香族アルデヒドであり、市販品又は公知の方法により合成したものを用いることができる。反応式(1)において、化合物(B)はアミノフェノール、アミノチオフェノール、ジアミノベンゼン誘導体であり、市販品又は公知の方法により合成したものを用いることができる。また、化合物(D)及び化合物(E)は、特開2002−97170号公報の10頁、[0085]〜[0087]段落に記載の方法を参照して合成できる。
即ち、一般式(I)で表される化合物は、前記反応式(1)における、化合物(A)と化合物(B)との脱水縮合反応で化合物(C)を合成し、続いて化合物(C)と化合物(D)及び化合物(E)との反応により合成することができる。
また、反応中の熱重合を抑えるためにハイドロキノン誘導体などの重合禁止剤を用いてもよい。
【0042】
本発明の重合性組成物に含まれる式(I)の化合物は、液晶性を示す。さらに、高いΔnを示すので、その配向を固定した膜は、より低いΔnの液晶性化合物を利用した膜と比較して、より薄膜で所望の光学特性を達成することが期待できる。
また、該化合物は、芳香環の置換基の種類や連結基によらず、可視光領域での吸収が極めて小さいことから無色透明であり、液晶相範囲が広いために溶剤に溶解しやすい、重合しやすいなどといった複数の特性をも満足する。式(I)の化合物を含有する本発明の重合性組成物を用いて作製される硬化膜は、十分な硬度を示し、無色透明であり、耐候性・耐熱性が良好である等、複数の特性を満足し得るであろう。従って、本発明の重合性組成物を利用して形成された硬化膜は、例えば、光学素子の構成要素である位相差板、偏光素子、選択反射膜、カラーフィルタ、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、配向膜等、種々の用途に利用することができる。
【0043】
本発明の組成物の一態様は、前記式(I)の化合物の少なくとも1種と、少なくとも1種のキラル化合物とを含有する重合性組成物である。本態様の組成物をコレステリック液晶相とした後、それを固定して形成された膜は、その螺旋ピッチに応じて、所定の波長の光に対して、選択反射特性を示し、反射膜(例えば、赤外線反射膜)として有用である。本発明の高いΔnを示す重合性化合物を利用することにより、より低いΔnの液晶性化合物を利用した同一の厚みの膜と比較して、反射波長域が広帯域化されるという利点がある。
【0044】
本発明の組成物について、前記式(I)の化合物は、主成分であっても、添加剤として使用されていてもよい。前記式(I)の化合物を組成物の全質量に対して、5質量%以上含有していれば、式(I)の化合物による効果を得ることができ、好ましくは10〜85質量%、より好ましくは10〜75質量%、さらに好ましくは15〜70質量%である。但し、この範囲に限定されるものではない。
【0045】
(1)キラル化合物
本発明の組成物をコレステリック液晶相を示す組成物として調製するためには、キラル化合物を添加するのが好ましい。キラル化合物は液晶性であっても、非液晶性であってもよい。前記キラル化合物は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4−3項、TN、STN用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)から選択することができる。キラル化合物は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物も用いることができる。軸性不斉化合物又は面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン及びこれらの誘導体が含まれる。キラル化合物(キラル剤)は、重合性基を有していてもよい。キラル化合物が重合性基を有するとともに、併用する棒状液晶化合物も重合性基を有する場合は、重合性キラル化合物と重合性棒状液晶化合物との重合反応により、棒状液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル化合物から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル化合物が有する重合性基は、重合性棒状液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。従って、キラル化合物の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基又はアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが特に好ましい。
【0046】
本発明の組成物中のキラル化合物は、併用される式(I)の化合物に対して、1〜30モル%であることが好ましい。キラル化合物の使用量を、より少なくした方が液晶性に影響を及ぼさないことが多いため好まれる。従って、キラル化合物は、少量でも所望の螺旋ピッチの捩れ配向を達成可能なように、強い捩り力のある化合物が好ましい。この様な、強い捩れ力を示すキラル剤としては、例えば、特開2003−287623公報に記載のキラル剤が挙げられ、本発明に好ましく用いることができる。
【0047】
(2)他の液晶化合物
本発明の組成物は、前記式(I)の化合物とともに、他の1種以上の液晶性化合物を含有していてもよい。前記式(I)の化合物は、他の液晶性化合物との相溶性も高いので、他の液晶性化合物を混合しても、不透明化等が生じず、透明性の高い膜を形成可能である。他の液晶性化合物を併用可能であることから、種々の用途に適する種々の組成の組成物を提供できる。併用可能な他の液晶化合物の例には、棒状ネマチック液晶化合物である。前記棒状ネマチック液晶化合物の例には、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0048】
本発明に利用可能な他の液晶化合物は、重合性であっても非重合性であってもよい。重合性基を有しない棒状液晶化合物については、様々な文献(例えば、Y. Goto et.al., Mol. Cryst. Liq. Cryst. 1995, Vol. 260, pp.23-28)に記載がある。
重合性棒状液晶化合物は、重合性基を棒状液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、及びアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基が特に好ましい。重合性基は種々の方法で、棒状液晶化合物の分子中に導入できる。重合性棒状液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個である。重合性棒状液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報などに記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0049】
他の液晶化合物の添加量については特に制限はない。前記式(I)の化合物の含有割合が高くても、他の液晶化合物の含有割合が高くても、互いに等しい含有割合であってもよく、用途に応じて好ましい範囲に調整することができる。
【0050】
(3) 重合開始剤
本発明の組成物は、重合開始剤を含有しているのが好ましい。例えば、紫外線照射により硬化反応を進行させて硬化膜を形成する態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
【0051】
光重合開始剤の使用量は、組成物(塗布液の場合は固形分)の0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
(4) 配向制御剤
本発明の組成物中に、安定的に又は迅速に液晶相(例えば、コレステリック液晶相)となるのに寄与する配向制御剤を添加してもよい。配向制御剤の例には、含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、及び下記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物が含まれる。これらから選択される2種以上を含有していてもよい。これらの化合物は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減若しくは実質的に水平配向させることができる。尚、本明細書で「水平配向」とは、液晶分子長軸と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が20度未満の配向を意味するものとする。液晶化合物が空気界面付近で水平配向する場合、配向欠陥が生じ難いため、可視光領域での透明性が高くなる。一方、液晶化合物の分子が大きなチルト角で配向すると、例えば、コレステリック液晶相とする場合は、その螺旋軸が膜面法線からずれるため、反射率が低下したり、フィンガープリントパターンが発生し、ヘイズの増大や回折性を示すため好ましくない。
配向制御剤として利用可能な前記含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマーの例は、特開2007−272185号公報の[0018]〜[0043]等に記載がある。
【0053】
以下、配向制御剤として利用可能な、下記一般式(X1)〜(X3)について、順に説明する。
【0054】
【化12】

【0055】
式中、R1、R2及びR3は各々独立して、水素原子又は置換基を表し、X1、X2及びX3は単結合又は二価の連結基を表す。R1〜R3で各々表される置換基としては、好ましくは置換もしくは無置換の、アルキル基(中でも、無置換のアルキル基又はフッ素置換アルキル基がより好ましい)、アリール基(中でもフッ素置換アルキル基を有するアリール基が好ましい)、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子である。X1、X2及びX3で各々表される二価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、二価の芳香族基、二価のヘテロ環残基、−CO−、−NRa−(Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基又は水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、−CO−、−NRa−、−O−、−S−及び−SO2−からなる群より選ばれる二価の連結基又は該群より選ばれる基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがより好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。二価の芳香族基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
【0056】
【化13】

【0057】
式中、Rは置換基を表し、mは0〜5の整数を表す。mが2以上の整数を表す場合、複数個のRは同一でも異なっていてもよい。Rとして好ましい置換基は、R1、R2、及びR3で表される置換基の好ましい範囲として挙げたものと同様である。mは、好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは2又は3である。
【0058】
【化14】

【0059】
式中、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は各々独立して、水素原子又は置換基を表す。R4、R5、R6、R7、R8及びR9でそれぞれ表される置換基は、好ましくは一般式(XI)におけるR1、R2及びR3で表される置換基の好ましいものとして挙げたものと同様である。
【0060】
本発明において配向制御剤として使用可能な、前記式(X1)〜(X3)で表される化合物の例には、特開2005−99248号公報に記載の化合物が含まれる。
なお、本発明では、配向制御剤として、前記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物の一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0061】
前記組成物中における、一般式(X1)〜(X3)のいずれかで表される化合物の添加量は、前記式(I)の化合物の質量の0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.02〜1質量%が特に好ましい。
【0062】
(5)その他の添加剤
本発明の組成物は、1種又は2種類以上の、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増感剤、安定剤、可塑剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、消泡剤、レべリング剤、増粘剤、難燃剤、界面活性物質、分散剤、染料、顔料等の色材、等の他の添加剤を含有していてもよい。
【0063】
2.フィルム
本発明の組成物は、位相差フィルム、反射フィルム等の種々の光学フィルムの材料として有用である。
本発明は、前記式(I)の化合物の少なくとも1種を含有する、本発明の重合性組成物を用いて形成されるフィルムにも関する。本発明の重合性組成物は、位相膜、反射膜等の種々の光学フィルムの材料として有用である。
(1)本発明のフィルムの製造方法
本発明のフィルムの製造方法の一例は、
(i) 基板等の表面に、本発明の組成物を塗布して、液晶相(コレステリック液晶相等)の状態にすること、
(ii) 前記組成物の硬化反応を進行させ、液晶相を固定して硬化膜を形成すること、
を少なくとも含む製造方法である。
(i)及び(ii)の工程を、複数回繰り返して、複数の上記硬化膜が積層されたフィルムを作製することもできる。
【0064】
前記(i)工程では、まず、基板又はその上に形成された配向膜の表面に、本発明の組成物を塗布する。前記組成物は、溶媒に材料を溶解及び/又は分散した、塗布液として調製されるのが好ましい。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。該有機溶媒としては、アミド(例えばN,N−ジメチルホルムアミド);スルホキシド(例えばジメチルスルホキシド);ヘテロ環化合物(例えばピリジン);炭化水素(例えばベンゼン、ヘキサン);アルキルハライド(例えばクロロホルム、ジクロロメタン);エステル(例えば酢酸メチル、酢酸ブチル);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン);エーテル(例えばテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン);1,4−ブタンジオールジアセテートなどが含まれる。これらの中でも、アルキルハライド及びケトンが特に好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0065】
前記塗布液の塗布は、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法等の種々の方法によって行うことができる。また、インクジェット装置を用いて、組成物をノズルから吐出して、塗膜を形成することもできる。
【0066】
次に、表面に塗布され、塗膜となった組成物を、コレステリック液晶相等の液晶相の状態にする。前記組成物が、溶媒を含む塗布液として調製されている態様では、塗膜を乾燥し、溶媒を除去することで、液晶相の状態にすることができる場合がある。また、液晶相への転移温度とするために、所望により、前記塗膜を加熱してもよい。例えば、一旦等方性相の温度まで加熱し、その後、液晶相転移温度まで冷却する等によって、安定的に液晶相の状態にすることができる。前記組成物の液晶相転移温度は、製造適性等の面から10〜250℃の範囲内であることが好ましく、10〜150℃の範囲内であることがより好ましい。10℃未満であると液晶相を呈する温度範囲にまで温度を下げるために冷却工程等が必要となることがある。また200℃を超えると、一旦液晶相を呈する温度範囲よりもさらに高温の等方性液体状態にするために高温を要し、熱エネルギーの浪費、基板の変形、変質等からも不利になる。
【0067】
次に、(ii)の工程では、液晶相の状態となった塗膜を硬化させる。硬化は、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、配位重合法等、いずれの重合法に従って進行させてもよい。式(I)の化合物に応じて、適する重合法が選択されるであろう。この重合により、式(I)の化合物から誘導される単位を構成単位中に有する重合体が得られる。
一例では、紫外線を照射して、硬化反応を進行させる。紫外線照射には、紫外線ランプ等の光源が利用される。この工程では、紫外線を照射することによって、前記組成物の硬化反応が進行し、コレステリック液晶相が固定されて、硬化膜が形成される。
紫外線の照射エネルギー量については特に制限はないが、一般的には、100mJ/cm2〜800mJ/cm2程度が好ましい。また、前記塗膜に紫外線を照射する時間については特に制限はないが、硬化膜の充分な強度及び生産性の双方の観点から決定されるであろう。
【0068】
硬化反応を促進するため、加熱条件下で紫外線照射を実施してもよい。また、紫外線照射時の温度は、液晶相が乱れないように、液晶相を呈する温度範囲に維持するのが好ましい。また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達せず、膜強度が不十分の場合には、窒素置換等の方法により、雰囲気中の酸素濃度を低下させることが好ましい。
【0069】
上記工程では、液晶相が固定されて、硬化膜が形成される。ここで、液晶相を「固定化した」状態は、液晶相となっている化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ好ましい態様である。それだけには限定されず、具体的には、通常0℃〜50℃、より過酷な条件下では−30℃〜70℃の温度範囲において、該層に流動性が無く、また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を意味するものとする。本発明では、紫外線照射によって進行する硬化反応により、液晶相の配向状態を固定する。
なお、本発明においては、液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、最終的に硬化膜中の組成物がもはや液晶性を示す必要はない。例えば、組成物が、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0070】
上記硬化膜の厚みについては特に制限はない。用途に応じて、又は所望とされる光学特性に応じて、好ましい膜厚が決定されるであろう。一般的には、厚さは0.05〜50μmが好ましく、1〜35μmがより好ましい。
【0071】
(2)基板
本発明のフィルムは、基板を有していてもよい。当該基板は自己支持性があり、上記硬化膜を支持するものであれば、材料及び光学的特性についてなんら限定はない。ガラス板、石英板、及びポリマーフィルム等から選択することができる。用途によっては、紫外光に対する高い透明性が要求されるであろう。可視光に対する透過性が高いポリマーフィルムとしては、液晶表示装置等の表示装置の部材として用いられる種々の光学フィルム用のポリマーフィルムが挙げられる。前記基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム;ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、などが挙げられる。ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースが好ましい。
【0072】
(3) 配向層
本発明のフィルムは、基板と前記硬化膜との間に、配向層を有していてもよい。配向層は、液晶化合物の配向方向をより精密に規定する機能を有する。配向層は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成等の手段で設けることができる。さらには、電場の付与、磁場の付与、或いは光照射により配向機能が生じる配向層も知られている。配向層は、ポリマーの膜の表面に、ラビング処理により形成するのが好ましい。
【0073】
配向層に用いられる材料としては、有機化合物のポリマーが好ましく、それ自体が架橋可能なポリマーか、或いは架橋剤により架橋されるポリマーがよく用いられる。当然、双方の機能を有するポリマーも用いられる。ポリマーの例としては、ポリメチルメタクリレ−ト、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコ−ル及び変性ポリビニルアルコ−ル、ポリ(N−メチロ−ルアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロ−ス、ゼラチン、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリカーボネート等のポリマー及びシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。好ましいポリマーの例としては、ポリ(N−メチロ−ルアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロ−ス、ゼラチン、ポリビルアルコール及び変性ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーであり、さらにゼラチン、ポリビルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが好ましく、特にポリビルアルコール及び変性ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0074】
(4)本発明のフィルムの用途
本発明のフィルムの一態様は、本発明の組成物の、液晶相の配向(例えば、水平配向、垂直配向、ハイブリッド配向等)を固定したフィルムであって、光学異方性を示すフィルムである。当該フィルムは、液晶表示装置等の光学補償フィルム等として利用される。
本発明のフィルムの一態様は、本発明の重合性組成物のコレステリック液晶相を固定したフィルムであって、所定の波長域の光に対して選択反射特性を示すフィルムである。コレステリック液晶相では、液晶分子はらせん状に配列している。赤外線波長域(波長800〜1300nm)に選択反射特性を示す当該フィルムは、例えば建物又は車両の窓ガラスに貼付され、もしくは合わせガラスに組み込まれて、遮熱部材として利用される。
また、本発明のフィルムは、光学素子の構成要素である、偏光素子、選択反射膜、カラーフィルタ、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、配向膜等、種々の用途に利用することができる。
【0075】
3.高分子
本発明は、前記式(I)の重合性化合物の1種又は2種以上を重合してなる高分子、及び本発明の重合性組成物を重合してなる高分子にも関する。該高分子は、液晶性であっても、非液晶性であってもよい。前記式(I)の重合性化合物から誘導される繰り返し単位を含むことから、高いΔnを示し、種々の光学要素の材料として有用である。
【実施例】
【0076】
以下に実施例と比較例(なお比較例は公知技術というわけではない)を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0077】
1.式(I)の化合物の合成例と物性
例示化合物(I−2)の合成:
【化15】

【0078】
(1)4−ヒドロキシベンズアルデヒド 7.32g(60mmol)を、トルエン 30mlを加えた3つ口フラスコに添加した。窒素雰囲気下、内温を40℃まで上昇させたのち、4−アミノ−o−ブロモフェノール 11.3g(60mmol)を添加した。その後、2時間リフラックスを行い、ディーンシュタルク装置で水・トルエンを完全に留去させ、黄色固体を得た。この固体をTHF50mlに完溶させた(溶液Aとする)。
(2)別途、3つ口フラスコにMsCl 10.2ml(132mmol)とTHF 20mlを添加し、氷・メタノールバスに浸し、内温を−5℃にした。この溶液に、内温を5℃以下に保ちながら、4−アクリロイルオキシ安息香酸 31.7g(120mmol)/ジイソプロピルエチルアミン(以下、DIPEAとする)26.1ml(150mmol)/2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール 0.30g/THF 70mlの混合溶液を滴下た。この溶液を5℃以下に保って、2時間攪拌した後、DIPEA 26.1ml(150mmol)、DMAP 0.15g、(1)で調製した溶液Aをこの順で添加した(内温を5℃以下に維持)。反応温度を25℃に上昇し、2時間攪拌後、メタノールを10ml加えてクエンチした。酢酸エチル/純水を加えて分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、濃縮し、粗結晶を得た。この粗結晶を酢酸エチル/メタノールにより再結晶し、白色固体である化合物(I−2)を29.7g(収率63%)で得た。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 4.1(brs,4H), 4.3(brs,4H), 5.8(d,2H), 6.1(dd,2H), 6.4(d,2H), 7.0(d×2,4H), 7.2-7.3(d×3,6H), 7.5(s,1H), 8.0(d,2H), 8.2(d×2,4H), 8.5(s,1H)
【0079】
例示化合物(I−5)の合成:
【化16】

【0080】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに4−アミノ−m−クレゾールを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は28.9g(収率67%)であった。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 2.4(s,3H), 4.0-4.1(m,4H), 4.2-4.3(m,4H), 5.8(d,2H), 6.2(dd,2H), 6.4(d,2H), 6.9-7.1(d,7H), 7.3-7.4(d,2H), 8.0(d,2H), 8.1(m,4H), 8.4(s,1H)
【0081】
例示化合物(I−6)の合成:
【化17】

【0082】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに、4−アミノ−3−クロロフェノールを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は26.6g(収率60%)であった。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 4.0-4.2(brs,4H), 4.2-4.3(brs,4H), 5.8(d,2H), 6.1(dd,2H), 6.4(d,2H), 7.0(d,4H), 7.1(d,1H), 7.2(d,1H), 7.3(m,3H), 8.0(d,2H), 8.1(d×2,4H), 8.4(s,1H)
【0083】
例示化合物(I−4)の合成:
【化18】

【0084】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに4−アミノ−3−メトキシフェノールを用いた以外は実施例1と同様の方法により合成した。収量は25.6g(収率58%)であった。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 3.9(s,3H), 4.1(brs,4H), 4.3(brs,4H), 5.8(d,2H), 6.1(dd,2H), 6.4(d,2H), 6.8(d,2H), 7.0(d,4H), 7.1(d,1H), 7.3(d,2H), 8.0(d,2H), 8.2(d,4H), 8.5(s,1H)
【0085】
例示化合物(I−3)の合成:
【化19】

【0086】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに、4−アミノ−2−クロロフェノールを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は28.0g(収率63%)であった。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 4.1(brs,4H), 4.3(brs,4H), 5.8(d,2H), 6.1(dd,2H), 6.4(d,2H), 7.0(d,4H), 7.2(d,1H), 7.3(m,4H), 8.0(d,2H), 8.2(d×2,4H), 8.5(s,1H)
【0087】
例示化合物(I−1)の合成:
【化20】

【0088】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに、4−アミノ−o−クレゾールを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は30.7g(収率71%)であった。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 2.3(s,3H), 4.1(brs,4H), 4.3(brs,4H), 5.8(d,2H), 6.1(dd,2H), 6.4(d,2H), 7.0(d,4H), 7.1-7.2(m,3H), 7.3(d,2H), 8.0(d,2H), 8.2(d,4H), 8.5(s,1H)
【0089】
例示化合物(I−9)の合成:
【化21】

【0090】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに、4−アミノフェノール、4−ヒドロキシベンズアルデヒドの代わりにバニリンを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は28.7g(収率65%)であった。
1H-NMR(DMSO) : δ= 1.7-1.9(brs,8H), 3.8(s,3H), 4.1-4.3(m,8H), 5.9(d,2H), 6.2(dd,2H), 6.3(d,2H), 7.1(d,4H), 7.3-7.4(d×2,5H), 7.6(d,1H), 7.7(s,1H), 8.1(m,4H), 8.7(s,1H)
【0091】
例示化合物(I−13)の合成:
【化22】

【0092】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに、4−アミノ3−ブロモフェノール、4−ヒドロキシベンズアルデヒドの代わりにバニリンを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は30.3g(収率62%)であった。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 3.9(s,3H), 4.1(brs,4H), 4.3(brs,4H), 5.8(d,2H), 6.1(dd,2H), 6.4(d,2H), 7.0(d,4H), 7.1(d,1H), 7.2(d,1H), 7.3(d,1H), 7,4(d,1H), 7.5(s,1H), 7.8(s,1H), 8.2(d,4H), 8.5(s,1H)
【0093】
例示化合物(I−15)の合成:
【化23】

【0094】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに、4−アミノ−m−クレゾール、4−ヒドロキシベンズアルデヒドの代わりにバニリンを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は26.5g(収率59%)であった。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 2.4(s,3H), 3.9(s,3H), 4.1(m,4H), 4.3(m,4H), 5.8(d,2H), 6.1(dd,2H), 6.4(d,2H), 7.0(d×2,4H), 7.1(m,3H), 7.4(d,1H), 7.7(s,1H), 8.2(d×2,4H), 8.4(s,1H)
【0095】
例示化合物(II−1)の合成:
【化24】

【0096】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに、4−アミノ−m−クレゾール、4−ヒドロキシベンズアルデヒドの代わりに4−ヒドロキシアセトフェノンを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は25.5g(収率58%)であった。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 2.1(s,3H), 2.3(s,3H), 4.1(brs,4H), 4.3(brs,4H), 5.8(d,2H), 6.2(dd,2H), 6.4(d,2H), 6.7(d,1H), 6.9-7.1(m,6H), 7.3-7.4(d,2H),
8.0-8.3(m,6H)
【0097】
例示化合物(I−7)の合成:
【化25】

【0098】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに、4−アミノ−2−メトキシカルボニルフェノールを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は27.5g(収率60%)であった。
1H-NMR(CDCl3) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 3.7(s,3H), 4.1(brs,4H), 4.3(brs,4H), 5.8(d,2H), 6.1(dd,2H), 6.4(d,2H), 7.0(d,4H), 7.3(d,2H), 7.5(d,1H), 7.9(s,1H), 8.0(d,2H), 8.2(d,4H), 8.5(s,1H)
【0099】
例示化合物(I−12)の合成:
【化26】

【0100】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに4−アミノ−2、6−ジクロロフェノールを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は28.4g(収率61%)であった。
1H-NMR(DMSO) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 4.1-4.3(brs,8H), 5.9(d,2H), 6.2(dd,2H), 6.4(d,2H), 7.1(d×2,4H), 7.4(d,2H), 7.6(s×2,2H), 8.0-8.2(d×3,6H), 8.8(s,1H)
【0101】
例示化合物(I−10)の合成:
【化27】

【0102】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに4−アミノ−2、5−ジクロロフェノールを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は29.7g(収率64%)であった。
1H-NMR(DMSO) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 4.1-4.3(brs,8H), 5.9(d,2H), 6.2(dd,2H), 6.3(d,2H), 7.1(d×2,4H), 7.5(d,2H), 7.7(s,1H), 7.8(s,1H), 8.0-8.2(m,6H), 8.7(s,1H)
【0103】
例示化合物(I−11)の合成:
【化28】

【0104】
4−アミノ−o−ブロモフェノールの代わりに4−アミノ−2、5−ジメチルフェノールを用いた以外は例示化合物(I−2)と同様の方法により合成した。収量は29.5g(収率62%)であった。
1H-NMR(DMSO) : δ= 1.8-2.0(brs,8H), 2.1(s,3H), 2.3(s,3H), 4.0-4.2(brs,8H), 5.9(d,2H), 6.2(dd,2H), 6.3(d,2H), 7.1(d,2H), 7.2(d×2,4H), 7.4(d,2H), 8.0-8.2(m,6H), 8.6(s,1H)
【0105】
式(I)の化合物の物性:
上記で合成した各化合物のΔnを、液晶便覧(液晶便覧編集委員会)のp.202に記載の方法に従って、直接測定した。具体的には、上記で合成した各化合物を、くさび型セルに注入し、これに波長550nmのレーザー光を照射し、透過光の屈折角を測定することにより、Δnを求めた。
下記表に、各化合物のΔn、偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって求めた相転移温度、結晶の色味についても併せて示す。また、比較例として、下記比較例用化合物(R−1)〜(R−3)のΔn、相転移温度、及び固体の色味を併せて示した。なお、下記表中の「Δn」の欄の温度は、測定温度を意味する。さらに、一連の化合物の吸収スペクトルを図1及び2にそれぞれ示した。図2のグラフは、図1のグラフの一部を拡大したグラフである。
なお、(R−1)は、モノアゾメチン化合物であるが、重合性基とメソゲンとを連結する側鎖が短く;(R−2)は、ビスアゾメチン化合物であり;及び(R−3)はアゾメチン基を含まない液晶化合物である。
【0106】
【化29】

【0107】
【表1】

【0108】
上記表に示す結果より、式(I)の範囲外のモノアゾメチン型重合性液晶化合物(R−1)及びアゾメチン基を含まない液晶性化合物(R−3)と比較して、式(I)の化合物はいずれも、高Δnであることが理解できる。また、図1及び2に示す吸収スペクトル曲線から、従来知られているビスアゾメチン型重合性液晶(R−2)は波長400nm以上に吸収を持つことから黄色味を持つが、本発明に係わる式(I)のモノアゾメチン化合物は、波長400nm以上の吸収が小さく、白色であることが理解できる。
【0109】
2.位相差膜の作製と評価(実施例15〜28、比較例4及び5)
実施例15:
上記で合成した本発明に係わる式(I)の例示化合物I−2を用いて、下記の組成の液晶性組成物塗布液(1)を調製した。
例示化合物(I−2) 100質量部
空気界面配向剤(1) 0.1質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
溶媒 クロロホルム 800質量部
【0110】
【化30】

【0111】
次に、洗浄したガラス基板上に日産化学社製ポリイミド配向膜SE−130をスピンコート法により塗布し、乾燥後に250℃で1時間焼成した。これをラビング処理して配向膜付き基板を作製した。この基板の配向膜のラビング処理面上に、液晶性組成物塗布液(1)をスピンコート法により室温で塗布し、120℃で30秒配向熟成を行った後に、窒素ガス雰囲気下、室温でUVの短波長成分を除去した高圧水銀ランプを用いて10秒間光照射して配向を固定し、実施例15の位相差膜を作製した。塗布後に加熱するまでの間に、塗布膜に結晶の析出は見られなかった。
【0112】
得られた位相膜を偏光顕微鏡で観察したところ配向欠陥が無く均一に一軸配向していることが確認できた。
さらにこの膜をAXOMETRIX社製のAxoScanを用いてTip−Tiltモードで測定した結果、この装置が算出した液晶の平均傾斜角度は1度であり、A−plate型の位相差膜が形成できていることを確認した。
また、この装置を用いて測定した位相差と、共焦点レーザー膜厚測定装置(キーエンス社製FV−7510)を用いて測定した位相差膜の膜厚から算出した波長550nmにおけるΔnは0.208であり、ヘイズは0.08であった。
【0113】
実施例16〜28:
上記でそれぞれ合成した各化合物を、例示化合物(I−2)の代わりにそれぞれ用いた以外は同様にして、液晶性組成物塗布液をそれぞれ調製した。これらの塗布液をそれぞれ用いて、実施例15と同様にして、実施例16〜28の位相差膜をそれぞれ作製した。
これらの位相差膜はいずれも良好な配向性を示し、0.1以下の低いヘイズであった。実施例15と同様にして求めた位相差膜のΔnを、下記表にまとめた。
【0114】
比較例4:
実施例15と同様にして下記の組成の液晶性組成物塗布液(2)を調製した。
上記重合性液晶化合物(R−1) 100質量部
空気界面配向剤(1) 0.1質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
溶媒 クロロホルム 800質量部
液晶性組成物塗布液(1)の代わりに液晶性組成物塗布液(2)を用いる以外は実施例15と同様にして、比較例4の位相差膜を作製した。但し、この重合性組成物の液晶上限温度が例示化合物I−2よりも低いため、配向熟成の温度は90℃とした。また塗布後に加熱するまでの間に、塗布膜上に結晶が一部析出した。そのため再加熱して配向熟成後も、析出部分に膜厚ムラが残った。
実施例15と同様な方法によって測定した比較例4の位相膜の波長550nmにおけるΔnは0.256であり、ヘイズは0.18であった。
【0115】
比較例5:
実施例15と同様にして下記の組成の液晶性組成物塗布液(3)を調製した。
上記重合性液晶化合物(R−2) 100質量部
空気界面配向剤(1) 0.1質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
溶媒 クロロホルム 800質量部
液晶性組成物塗布液(1)の代わりに液晶性組成物塗布液(3)を用いる以外は実施例15と同様にして、比較例5の位相差膜を作製した。但し、この重合性組成物の液晶上限温度が例示化合物I−2よりも低いため、配向熟成の温度は90℃とした。また塗布後に加熱するまでの間に、塗布膜上に結晶が一部析出した。そのため再加熱して配向熟成後も、析出部分に膜厚ムラが残った。
実施例15と同様な方法によって測定した比較例5の位相膜の波長550nmにおけるΔnは0.360であり、ヘイズは0.13であった。
【0116】
以上の結果を、下記表に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
上記表に示した結果から、本発明に係わる一般式(I)の化合物を利用して作製された位相差膜は、従来のモノアゾメチン型重合性液晶性化合物(R−1)を利用して作製された位相差膜と比較して、Δnが大きく、且つヘイズが小さいことが理解できる。また、従来のビスシッフ型重合性液晶化合物(R−2)を利用して作製された膜が黄色であるのに対し、本発明の実施例の位相差膜はいずれも白色であり、ヘイズが小さいことも理解できる。
【0119】
3.選択反射膜の作製と評価(実施例29〜42、比較例6及び7)
実施例29:
上記で合成した本発明に係わる式(I)の例示化合物(I−2)を用いて、下記の組成の液晶性組成物塗布液(11)を調製した。
例示化合物(I−2) 33質量部
重合性液晶化合物(R−3) 67質量部
キラル剤Paliocolor LC756 (BASF社製) 3質量部
空気界面配向剤(1) 0.04質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
溶媒 クロロホルム 300質量部
【0120】
実施例15と同様にして製作した配向膜付き基板の配向膜表面に液晶性組成物塗布液(11)をスピンコート法により室温で塗布し、120℃で3分間配向熟成を行った後に、室温で窒素雰囲気下でUVの短波長成分を除去した高圧水銀ランプを用いて10秒間光照射して配向を固定し、実施例29の選択反射膜を得た。塗布後に加熱するまでの間に、塗布膜に結晶の析出は見られなかった。
得られた選択反射膜を偏光顕微鏡で観察したところ配向欠陥が無く均一に配向していることを確認した。さらにこの膜を島津社製の分光光度計UV−3100PCで透過スペクトルを測定したところ1000nmに中心を持つ赤外領域に選択反射ピークがあり、その半値幅が134nmであった。ピークの半値幅と重合性組成物の螺旋周期とを用いて算出した波長1000nmにおけるΔnは0.211であった。また、日本電飾社製ヘイズメータNHD2000を用いて測定したヘイズは0.07であった。
【0121】
実施例30〜42:
上記でそれぞれ合成した例示化合物を、例示化合物(I−2)の代わりにそれぞれ用いた以外は、実施例29と同様にして液晶性組成物塗布液をそれぞれ調製した。これらの塗布液をそれぞれ用いて、実施例29と同様な方法によって、実施例30〜42の選択反射膜をそれぞれ作製した。これらの選択反射膜はいずれも良好な配向性を示した。同様に求めた選択反射膜のピーク半値幅とそれから求められるΔnを下記表にまとめた。
【0122】
比較例6
実施例29と同様にして下記の組成の液晶性組成物塗布液(12)を調製した。
重合性液晶化合物(R−1) 33質量部
重合性液晶化合物(R−3) 67質量部
キラル剤Paliocolor LC756 (BASF社製) 2.8質量部
空気界面配向剤(1) 0.04質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
溶媒 クロロホルム 300質量部
液晶性組成物塗布液(11)の代わりに液晶性組成物塗布液(12)を用いる以外は実施例29と同様にして、比較例6の選択反射膜を作製した。但し、この重合性組成物の液晶上限温度が実施例29で用いた組成物よりも低いため、配向熟成の温度は90℃とした。塗布後に加熱するまでの間に、塗布膜上に結晶が一部析出した。そのため再加熱して配向熟成後も、析出部分に膜厚ムラと配向不均一性が残った。
得られた比較例6の選択反射膜は、1000nm付近に中心を持つ赤外領域に選択反射ピークがあり、その半値幅が120nmであった。ピークの半値幅と重合性組成物の螺旋周期とを用いて算出した波長1000nmにおけるΔnは0.190であった。
【0123】
比較例7:
実施例29と同様にして下記の組成の液晶性組成物塗布液(13)を調製した。
重合性液晶化合物(R−2) 33質量部
重合性液晶化合物(R−3) 67質量部
キラル剤Paliocolor LC756 (BASF社製) 2.8質量部
空気界面配向剤(1) 0.04質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
溶媒 クロロホルム 300質量部
液晶性組成物塗布液(11)の代わりに液晶性組成物塗布液(13)を用いる以外は実施例29と同様にして比較例7の選択反射膜を作製した。
この選択反射膜は、1000nm付近に中心を持つ赤外領域に選択反射ピークがあり、その半値幅が154nmであった。ピークの半値幅と重合性組成物の螺旋周期とを用いて算出した波長1000nmにおけるΔnは0.243であった。膜の色は黄色であった。
【0124】
以上の結果を、下記表に示す。
【0125】
【表3】

【0126】
上記表に示した結果から、本発明に係わる一般式(I)の化合物を利用して作製された選択反射膜は、従来のモノアゾメチン重合性液晶化合物(R−1)を利用して作製された選択反射膜と比較して、Δnが大きく、また、選択反射波長域も広いことが理解できる。さらに、従来のビスアゾメチン重合性液晶(R−2)を利用して作製された膜が黄色であるのに対して、本発明の実施例の選択反射膜はいずれも無色であることが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

式中、P1及びP2はそれぞれ、重合性基を表し;
m1及びm2はそれぞれ、1〜10の整数を表し、m1又はm2個のCH2のうち、1つのCH2又は隣接しない2以上のCH2は、酸素原子又は硫黄原子に置き換わっていてもよく;
1、A2、A3及びA4はそれぞれ、置換されていてもよい、5〜18員環の芳香族炭化水素環、又は5〜18員環の芳香族複素環の基を表し;
Rは、水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基を表し;
1及びZ2はそれぞれ、−COO−、−OCO−、−NHCO−、又は−NR1COを表し、R1は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し;
1及びL2はそれぞれ、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−NHCO−、又は−NR1COを表し、R1は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し;
n1及びn2はそれぞれ、1又は2である;
で表される化合物を少なくとも1種含むことを特徴とする重合性組成物。
【請求項2】
式(I)中、A2及びA3が置換基を有していてもよい1,4−フェニレンでありかつn1=n2=1である請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
式(I)中、A1及びA4が1,4−フェニレンである請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
1、A2、A3及びA4がそれぞれ無置換の5〜18員環の芳香族炭化水素環又は5〜18員環の芳香族複素環の基であるか、又はA1、A2、A3及びA4の少なくとも一つが、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアミド基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜5のアシル基、シアノ基、又はハロゲン原子に置換されている5〜18員環の芳香族炭化水素環又は5〜18員環の芳香族複素環の基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項5】
式(I)中、P1及びP2がそれぞれ、以下の式(P−1)〜式(P−5)で表される基からなる群から選ばれる重合性基である請求項1〜4のいずれか1項に記載の重合性組成物:
【化2】

式中、R11〜R13はそれぞれ、水素原子又はメチル基を表す。
【請求項6】
式(I)中、P1及びP2はそれぞれ、メタクリレート基又はアクリレート基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項7】
式(I)中、m1及びm2がそれぞれ2〜8の整数を表す請求項1〜6のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項8】
少なくとも1種のキラル化合物を含有する請求項7に記載の重合性組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の重合性組成物を重合させてなる高分子。
【請求項10】
請求項9に記載の高分子の少なくとも1種を含有するフィルム。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の重合性組成物のコレステリック液晶相を固定してなるフィルム。
【請求項12】
光学異方性を示す請求項10又は11に記載のフィルム。
【請求項13】
選択反射特性を示す請求項10〜12のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項14】
赤外線波長域に選択反射特性を示す請求項13に記載のフィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−6996(P2012−6996A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141467(P2010−141467)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】