説明

重合性組成物及び(メタ)アクリル系熱伝導シートの製造方法

少なくとも、(A)重合後の全ポリマー成分のガラス転移点温度が20℃以下となるように調整された(メタ)アクリル系モノマー又はその部分重合物、(B)熱伝導性無機充填剤、(C)光重合開始剤及び(D)熱重合開始剤を含有する重合性組成物が開示されている。また、重合性組成物を支持体上に0.5mm〜10mmの膜厚で塗布し、その塗布面上を保護シートでラミネートした後、光照射することを特徴とする(メタ)アクリル系熱伝導シートの製造方法が開示されている。本発明の重合性組成物は、加熱工程を設けなくとも短時間の光照射で、充分に高い重合率で(メタ)アクリレート系モノマーを重合させることができる。また、この重合性組成物を利用して熱伝導性シートを調製するに当たっては、支持体や保護シートとして半透明の紙を使用でき、経済性も有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、重合性組成物に関するものであり、より詳細には、効率よく重合を完結させることができる重合性組成物及びこれを利用する(メタ)アクリル系熱伝導シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
電子機器等の高密度化、小型化の進展に伴い、これら機器から発生する熱を如何に効率よく放熱するかが重要となってきており、これを解決する方法としては、発熱する部品等に熱伝導性粒子を含有する熱伝導シートを接着させて、この熱を放熱することが行われている。
このような熱伝導性シートの粘着剤には、粘着性が優れているため、メタクリル系ないしアクリル系(以下、「(メタ)アクリル系」と略記する)重合体が広く使用されている。
一方、(メタ)アクリル系重合体を用いた粘着シートの製造方法としては、溶剤を加熱留去する必要がないという特長を有するため、重合性組成物を塗布後に光重合する方法が好適なものとして使用されている。
上記二つの技術を組み合わせたもの、すなわち光重合を利用した熱伝導シートとしては、熱伝導性粒子及び光重合開始剤を(メタ)アクリレート化合物に分散、溶解させ、それを支持体に塗布した後、そこに光照射して製造されるものが知られている(特開平06−088061号公報、特開2000−281997号公報参照)。
しかしながら、このような熱伝導性シートは、短時間の光照射のみで(メタ)アクリレート化合物を重合させようとすると、重合率が充分に高くならず、未反応の(メタ)アクリレート化合物による臭気が残るという問題点があった。さらに、熱伝導性無機充填剤自身が遮光効果を有しており、熱伝導性を向上させるために多量に添加すると、光照射時間を長くしても未反応の(メタ)アクリレート化合物が残るという問題点があった。
また、支持体又は塗布面の保護シートは、光透過率のよいフィルムにすることが必須であり、紙などの半透明な材質は照射光を遮断するため使用することができず、コスト的にも問題点があった。更に、これらの問題を解決するために、光照射時間を長くすると、生産効率がおとり、消費エネルギーも大きいものにならざるを得なかった。
一方、密着性を向上させることを目的に、上記光硬化成分に加え、さらにエポキシ系化合物等とアミン類等のエポキシ硬化剤等からなる熱硬化性成分を加えることも知られているが(特開平2001−261722号公報参照)、熱硬化性成分を加えても(メタ)アクリレート化合物自体の重合率を充分高くはできないので、依然上記問題点は解決しなかった。
他方、光重合開始剤に有機過酸化物を添加した系を用い、空気中の酸素による重合阻害効果を減少させることにより、残留未反応(メタ)アクリレート化合物を減らそうとする試みはあるが(特表2002−512296号公報参照)、それはスクリーン印刷用やニードルバルブ放出用の接着剤としての改良であり、熱伝導シートに係る上記問題点を解決するものではなかった。また、その主たる効果は、使用時に光重合によるか熱重合によるかをこの接着剤の使用者が選べるという点であり、熱伝導シートの改良という点では充分ではなかった。
従って、短時間の光照射すなわち少ない光照射エネルギーであっても高い重合率が得られ、また安価な半透明の支持体又は保護シートを用いた場合であっても充分な重合率が得られ、生産性に優れた重合性組成物及び(メタ)アクリル系熱伝導シートの製造方法が望まれていた。
【発明の開示】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、光重合開始剤に熱重合開始剤を併用することによって、積極的に重合性組成物を加熱しなくとも光照射とそのとき発生する熱によって充分高い重合率が達成できることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、少なくとも、成分(A)ないし成分(D)
(A)重合後の全ポリマー成分のガラス転移点温度が20℃以下となるように処方された(メタ)アクリル系モノマー又はその部分重合物
(B)熱伝導性無機充填剤
(C)光重合開始剤
(D)熱重合開始剤
を含有する重合性組成物を提供するものである。
また本発明は、支持体上に、上記重合性組成物を0.5mm〜10mmの膜厚で塗布し、その塗布面上を保護シートでラミネートした後、光照射する(メタ)アクリル系熱伝導シートの製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明で使用される成分(A)は、光重合後の全ポリマー成分のガラス転移点温度が20℃以下となるように処方された(メタ)アクリル系モノマー又はその部分重合物である。
成分(A)における(メタ)アクリル系モノマーとは、分子中に(共)重合性二重結合を1つだけもつアクリル系モノマー又はメタアクリル系モノマーをいう。(メタ)アクリル系モノマーには、水酸基、カルボキシル基等の官能基を持つものと、これらの官能基を持たないものがある。
上記のうち、官能基を持たない(メタ)アクリル系モノマーとしては、特に限定はされないが、その具体例として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル類;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニルエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコールエステル等の(メタ)アクリル酸のエステル類;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸メチルフェニル等の(メタ)アクリル酸のアリールエステル類等が挙げられ、これらは1種又は2種以上混合して用いられる。好ましくは、アクリル酸アルキルエステルが用いられ、特に好ましくは、アクリル酸2−エチルヘキシルが用いられる。
一方、官能基を持つ(メタ)アクリル系モノマーとしても、特に限定はされないが、その具体例として、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基含有モノマー;(メタ)アクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸2−アジリジニルエチル等のアジリジン基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸2−エチルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル等のアミド基含有モノマー;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基含有モノマー等が挙げられる。
これらの官能基を持つ(メタ)アクリル系モノマーは、下記する任意成分(E)を配合させたときには、光照射で生成するポリマーに架橋点を与えるので配合することが好ましい。特に好ましいものとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等が挙げられる。
この官能基をもつ(メタ)アクリル系モノマーの成分(A)中での配合量は、0.01〜20質量%とすることが好ましい。
本発明において用いられる成分(A)としては、上記(メタ)アクリル系モノマーのみを用いてもよいが、(メタ)アクリル系モノマーの部分重合物を用いてもよい。
(メタ)アクリル系モノマーの部分重合物とは、(メタ)アクリル系モノマーの重合物が、広く(メタ)アクリル系モノマーに溶解した状態のものを指す。従って、(メタ)アクリル系モノマーの一部が重合して生成した重合物が、未反応の(メタ)アクリル系モノマーに溶解している状態のものも含まれ、さらに、これに新たに別の(メタ)アクリル系モノマーを追加添加したものも含まれる。また、別途重合した重合物を組成が異なっていてもよい(メタ)アクリル系モノマーに溶解したものも含まれる。
なお、(メタ)アクリル系モノマーの一部の重合の例としては、(メタ)アクリル系モノマーの5〜95質量%(好ましくは15〜90質量%)をバルク重合することが挙げられる。この際、重合率を調整するために連鎖移動剤を添加することもできる。
上記成分(A)は、重合後の全ポリマー成分のガラス転移点温度が20℃以下となるように処方されることが必要である。ガラス転移点温度は、ポリマーの重量平均分子量が1万以上であれば、分子量によらずほぼ一定であるので、ガラス転移点温度が20℃以下とは、ガラス転移点温度が分子量に依存せず、ほぼ一定値になるまで充分分子量を高く重合させたときの全ポリマー成分のガラス転移点温度が20℃以下という意味である。ここで、全ポリマー成分とは、(メタ)アクリル系モノマーが光照射により重合したポリマーを指すが、(メタ)アクリル系モノマーの部分重合物を用いたときは、すでにバルク重合などにより重合されて(メタ)アクリル系モノマーに溶解している重合物をも含めたポリマーの混合物を指す。すなわち、本発明の成分(A)は、(メタ)アクリル系モノマーが光照射により重合したポリマーと光照射前から既に存在するポリマーの混合物のガラス転移点温度が20℃以下となるように処方される。
成分(A)中の(メタ)アクリル系モノマーの重合物の配合量は特に限定はないが、好ましくは、成分(A)全体に対して、1〜90質量%、特に好ましくは、5〜60質量%配合される。また、バルク重合などで重合されて(メタ)アクリル系モノマーにすでに溶解されている重合物(部分重合物における重合物)の分子量は、特に限定はないが、重量平均分子量で、10,000〜500,000が好ましい。
一方、本発明の成分(B)は、熱伝導性無機充填剤である。成分(B)としては、本発明の効果が得られるだけの熱伝導性があれば特に限定はされないが、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、カーボン、グラファイト、炭化珪素、ホウ酸アルミウイスカ等が挙げられる。好ましくは、水酸化アルミニウムである。
また、本発明の重合性組成物には、成分(C)として光重合開始剤が含有される。成分(C)としては、可視光ないしは紫外光により、成分(A)の重合反応を開始させることができるものであれば特に限定はされず使用できる。成分(C)の具体的な例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(商品名:Lucirin TPO BASF社製)、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド(商品名:Lucirin TPO−L BASF社製)等のアシルホスフィンオキサイド類;2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1(商品名:イルガキュア369 チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)等のアミノケトン類;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド(商品名:イルガキュア819 チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド(商品名:CGI403 チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)等のビスアシルホスフィンオキサイド類;ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:イルガキュア184 チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(商品名:ダロキュア1173 チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)等のヒドロキシケトン類;ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;ベンジルメチルケタール(商品名:Esacure KB1 日本シーベルヘグナー社製);2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー(商品名:Esacure KIP150 日本シーベルヘグナー社製)等が挙げられる。
更に本発明の重合性組成物には、成分(D)として熱重合開始剤が含有される。成分(D)としては、一般に(メタ)アクリル系モノマーの熱重合に用いられているものならば特に限定はされないが、具体的には例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド等のアゾ系の熱重合開始剤;クミルハイドロパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカネート、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ジイソプロピルパーオキシジカルボネート、3−クロロ過安息香酸等の過酸化物系の熱重合開始剤等が挙げられ、特に好ましくは、t−ブチルパーオキシピバレートである。
本発明の重合性組成物には、必須成分である成分(A)ないし成分(D)の他に、さらに必要により成分(E)として、架橋剤を配合させることができる。成分(E)としては、光照射により重合されたポリマー同士を架橋させる化合物と(共)重合性の二重結合を2以上有する多官能モノマーが挙げられる。
ポリマー同士を架橋させる化合物としては、官能基を2個以上有し光照射により得られたポリマー同士を架橋させ得る化合物ならば特に限定はないが、イソシアネート系架橋剤又はエポキシ系架橋剤が好ましい。
イソシアネート系架橋剤は、その分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定はないが、その具体例としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート及びこれらのトリメチロールプロパン等のポリオールとのアダクト体を挙げることができる。これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
また、エポキシ系架橋剤は、その分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に限定はないが、その具体例としては、ビスフェノールAエピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N’−ジアミングリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
一方、成分(E)のうち、多官能モノマーは、分子中に2個以上の(メタ)アクリレート基、アリル基、ビニル基等の(共)重合可能な2重結合を有し、(メタ)アクリル系基剤と共に光重合し得る化合物であれば特に限定はないが、その具体例としては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
本発明の重合性組成物における成分(B)ないし成分(E)の含有量は特に限定はされないが、好ましくは成分(A)100質量部(以下単に、「部」と略記する)に対して、以下の範囲が挙げられる。
好ましい範囲 特に好ましい範囲
成分(B) 50〜300部 100〜250部
成分(C) 0.1〜5部 0.5〜2部
成分(D) 0.01〜1部 0.05〜0.5部
成分(E) 0〜10部 0.1〜3部
上記配合において、成分(B)が少なすぎる場合には、熱伝導性が悪くなる場合があり、熱伝導シートにしたとき放熱効果が得られないだけでなく、充分な熱の蓄積がないため成分(D)の効果が得られず重合率が上がらない場合がある。また成分(B)を上記配合範囲より多く配合してもそれ以上の熱伝導度の改善が得られないだけでなく、光遮光効果による重合阻害で(メタ)アクリル系モノマーが残存したり、接着性が低下する場合もある。
一方、成分(C)が少なすぎる場合には、重合率が上がらず、残留未反応(メタ)アクリレート系モノマーによる臭気が発生する場合があり、また、成分(C)が多すぎる場合には、更なる効果が得られないだけでなく、光照射により得られるポリマーの分子量が小さくなりすぎる場合がある。
本発明の成分(D)は、熱重合開始剤のみで通常使用するときの含有量に比較して少ない量で使用するものであり、成分(D)の好ましい範囲の下限は、成分(D)の通常の使用量より少ないことが特徴である。しかし、成分(D)が少なすぎる場合には、重合の効率が悪く、長い光照射時間が必要になったり、重合率が上がらない場合があり、半透明の支持体や保護シートを用いた場合では、重合が完結しない場合がある。
なお、本発明の重合性組成物中には、上記各成分の他、更に任意成分として、(メタ)アクリル系モノマー以外の(共)重合性モノマー、粘着付与樹脂、難燃剤、添加剤等を配合させることもできる。
任意成分のうち、(メタ)アクリル系モノマー以外の(共)重合性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル;酢酸アリル、アリルグリシジルエーテル等のアリル系モノマー;イタコン酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有モノマー;2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基含有モノマー;ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルアリルアミン、2−メトキシエトキシトリメトキシシラン等の有機ケイ素基含有モノマー等の炭素間の二重結合を有するものが挙げられる。粘着付与樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、脂環族系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系水添石油樹脂、脂肪族系水添石油樹脂、水添テルペン樹脂等が挙げられる。脂環族系石油樹脂としては、アルコンPシリーズ(例えば、アルコンP−70、アルコンP−90、アルコン−P100、アルコンP−125、アルコンP−140)、アルコンMシリーズ(以上、荒川化学製商品名)、リガライトR−90、リガライトR−100、リガライトR−125(以上、理化ハーキュレス社製商品名)等が挙げられる。ジシクロペンタジエン系水添石油樹脂としては、エスコレッツ5000シリーズ(例えば、エスコレッツECR−299D、エスコレッツECR−228B、エスコレッツECR−143H、エスコレッツECR−327(以上、トーネックス製商品名)、アイマープ(出光石油化学製商品名)等が挙げられる。脂肪族系水添石油樹脂としては、マルカレッツH(丸善石油化学製商品名)が挙げられ、水添テルペン樹脂としては、クリアロンP、M、Kシリーズ(ヤスハラケミカル製商品名)が挙げられる。かかる粘着付与樹脂は、光重合を阻害しない程度に加えることが可能である。
また、難燃剤は、特に限定されるものではなく、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカン、ビストリブロモフェノキシエタン、トリブロモフェノール、エチレンビステトラブロモフタルイミド、テトラブロモビスフェノールA・エポキシオリゴマー、臭素化ポリスチレン、エチレンビスペンタブロモジフェニール、塩素化パラフィン、ドデカクロロシクロオクタン等のハロゲン系難燃剤;リン酸化合物、ポリリン酸化合物、赤リン化合物等のリン系難燃剤等が挙げられる。かかる難燃剤は環境及び人体に対する負荷の観点からノンハロゲン系が好ましく、粉体状、液状のものを単独又は併用してもよい。
また、添加剤としては、増粘剤、染料、顔料、酸化防止剤等が挙げられる。
以上のようにして得られる本発明の重合組成物は、短時間の光照射であっても高い重合率が得られるものである。
この重合のための照射に用いられる光源としては、配合された成分(C)の特性に応じた波長の光を照射できるものであれば特に限定はされず、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を適宜利用できる。
本発明の重合性組成物は、前記の短時間の光照射であっても高い重合率が得られるという特性を生かして、両面テープ用粘着層、厚物テープ用芯材、制振シート、シーリングシート等として使用できるが、特に熱伝導シートに利用することが望ましい。
本発明の重合性組成物を使用した熱伝導シートの製造方法としては、支持体上に本発明の重合性組成物を0.5mm〜10mmの膜厚で塗布し、その塗布面上を保護シートでラミネートした後、光照射する製造方法が挙げられる。
本発明の熱伝導性シートの調製においては支持体や保護シートとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等の透明なフィルムが使用できるが、それ以外に、紙等の半透明なものも使用できる。これらのフィルム又は紙は剥離処理などの表面処理が施されていてもよい。
本発明の重合性組成物は、重合効率が高いので、照射光を減衰させてしまうような半透明な材質を支持体や保護シートに用いた場合に、特にその効果が発揮される。この点で、紙がさらに安価なこともあり特に好ましい。紙としては、支持体や保護シートとしての充分な強度や柔軟性を有しており、実質的に全く光を透過させないものでなければ特に限定はなく市販のものが使用できる。具体的には、上質紙、グラシン紙等が好ましい。また、グラシン紙に剥離処理、あるいは上質紙にポリエチレン樹脂をコートし、更に剥離処理をした紙セパレーターも好ましい。
紙又は紙セパレーターの厚さとしては、特に限定はないが、30〜250μmが好ましい。30μmに満たないと充分な強度が得られず、支持体や保護シートとして使用が出来なくなる場合があり、250μmを超えると光の透過が不充分になることがある。
支持体上の塗布膜厚は、0.5mm〜10mmが好ましく、特に好ましくは、1mm〜3mmである。また上記光照射は、シートの片面からであってもまた両面から照射してもよい。
なお、光照射後に、成分(D)を、さらに充分作用させるために、若干の加熱を行ってもよいことはいうまでもない。
本発明の重合性組成物および熱伝導性シートにおいて、短時間の光照射で高い重合率を得るという優れた性質が得られる理由は次のように考えられる。すなわち、本発明の重合性組成物においては、そこに含まれる(メタ)アクリレート系モノマーの重合は光照射だけでも充分である。
本発明は、重合性組成物中に光重合開始剤と少量の熱重合開始剤の両者が配合されているが、光を照射し光重合させることにより、熱重合開始剤はこの際に発生する熱で作用を開始し、光重合では重合しきれないモノマー成分を重合させるのである。
すなわち、本発明では異なる性質の重合開始剤を組み合わせ、光重合と熱重合を並行して行うことにより、重合率の高い優れた重合物を得ることが可能になったのである。
【実施例】
以下に実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。以下、「質量%」は単に「%」と、「重量部」は単に「部」と略記する。
製造例1
(メタ)アクリル系モノマーの部分重合物の調製:
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管及び冷却管を備えた容量2リットルの四つ口フラスコに、アクリル酸2−エチルヘキシル(以下「2−EHA」と記載する)920g、アクリル酸(以下「AA」と記載する)80g、n−ドデシルメルカプタン0.6gを投入し、フラスコ内の空気を窒素に置換しながら、60℃まで加熱した。
次いで、重合開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業製 商品名V−70)(以下「V−70」と記載する)0.025gを撹拌下に投入して均一に混合した。重合開始剤投入後、反応系の温度は上昇したが、冷却を行わずに重合反応を続けたところ、反応系の温度が120℃に達し、その後徐々に下がり始めた。反応系の温度が115℃まで下がったところで、強制冷却を行い(メタ)アクリル系モノマーの部分重合物(以下「部分重合物」と記載する)を得た。この部分重合物Pは、モノマー濃度67%、ポリマー濃度33%で、ポリマー分の重量平均分子量は21万であった。
【実施例1】
製造例1で得た部分重合物100部に対して、成分(B)として水酸化アルミニウム(昭和電工製 商品名ハイジライトH−42)(以下「H−42]と記載する)を200部、光重合開始剤として日本チバガイギー製 商品名イルガキュア819(以下「I−819」と記載する)を0.5部、熱重合開始剤として、t−ブチルパーオキシピバレート(日本油脂社製 商品名パーブチルPV)(以下「P−PV」と記載する)を0.2部、エポキシ系架橋剤として、三菱ガス化学製 商品名テトラッドX(以下「T−X」と記載する)を0.1部添加し、常温にて混合脱泡して光重合性組成物を得た。
次いで、上記光重合組成物を、剥離処理済みの紙セパレーター(サンエー化研製 商品名WGW−80M白)(以下「紙セパレーターWGW」と記載する)上に1mm厚となるようにドクターブレードで塗工した後、塗工物表面に同一の紙セパレーターを貼り合わせて空気遮断し、ブラックライトを90秒、引き続き高圧水銀ランプを5分間照射して、(メタ)アクリル系熱伝導性シートを得た。
この熱伝導性シートについて、下記の試験例に従って、アルミニウムを被着体とし、90°剥離力を測定すると、400g/cmと良好であった。
さらに、下記の試験例に従って、80℃における1kg保持力を測定すると1時間落下せずに保持した。
【実施例2】
製造例1で得た部分重合物を100部に対して、無機充填材としてH−42を200部、光重合開始剤としてI819を0.5部、熱重合開始剤としてP−PVを0.2部、エポキシ系架橋剤としてT−Xを0.1部、黒色ウレタン粒子(大日本インキ化学工業社製 商品名バーノック CFB−600C)(以下「CFB−600C」と記載する)を3部添加し、常温にて混合脱泡して光重合性組成物を得た。
次いで、この光重合性組成物を、紙セパレーターWGW上に1mm厚となるようにドクターブレードで塗工した後、塗工物表面に紙セパレーターWGWを貼り合わせて空気遮断し、ブラックライトを90秒、引き続き高圧水銀ランプを5分間照射して、(メタ)アクリル系熱伝導性シートを得た。
このシートについて、下記の試験例に従って、アルミニウムを被着体とし、90°剥離力を測定すると400g/cmと良好であった。
さらに、下記の試験例に従って、80℃における1kg保持力を測定すると1時間落下せずに保持した。
比較例1
製造例1で得た部分重合物を100部に対して、無機充填材としてH−42を200部、光開始剤としてI819を0.5部、エポキシ系架橋剤としてT−Xを0.1部添加し、常温にて混合脱泡して光重合性組成物を得た。
次いで、この光重合性組成物を、紙セパレーターWGW上に1mm厚となるようにドクターブレードで塗工した後、塗工物表面に紙セパレーターWGWを貼り合わせて空気遮断し、ブラックライトを90秒、引き続き高圧水銀ランプを5分間照射して、(メタ)アクリル系熱伝導性シートを得た。
得られた熱伝導性シートを目視で観察したところ未硬化部分が見られた。
比較例2
製造例1で得た部分重合物を100部に対して、無機充填材としてH−42を200部、光開始剤としてI819を0.5部、エポキシ系架橋剤としてT−Xを0.1部、黒色ウレタン粒子CFB−600Cを3部添加し、常温にて混合脱泡して光重合性組成物を得た。
次いで、この光重合性組成物を、紙セパレーターWGW上に1mm厚となるようにドクターブレードで塗工した後、塗工物表面に紙セパレーターWGWを貼り合わせて空気遮断し、ブラックライトを90秒、引き続き高圧水銀ランプを5分間照射して、アクリル系熱伝導性シートを得た。
得られた熱伝導性シートを目視で観察したところ未硬化部分が見られた。
比較例3
製造例1で得た部分重合物を100部に対して、無機充填材としてH−42を200部、熱重合開始剤としてP−PVを0.5部、エポキシ系架橋剤としてT−Xを0.1部添加し、常温にて混合脱泡して重合性組成物を得た。
次いで、この重合性組成物を、厚さ100μmの剥離処理済みの透明ポリエチレンテレフタレートフィルムセパレーター(以下「PETセパレーター」と記載する)上に1mm厚となるようにドクターブレードで塗工した後、100℃に保温した温風乾燥機中で10分加熱して重合させ、(メタ)アクリル系熱伝導性シートを得た。
得られた熱伝導性シートを目視で観察したところ、表面に発泡による塗膜欠陥と急激な発熱によるPETセパレーターの寸法変化が見られた。
試験例
90°剥離力:
幅25mm、長さ150mmのアクリル系熱伝導性シートの片面に、厚さ50μmのアルミ箔を貼り合わせた後、もう一方の面をアルミ製テストピースに貼り付け、23℃/65%RHに30分静置して、引っ張り試験機(東洋精機(株)製 ストログラフM1)にて、90°剥離力を測定した。
1kg保持力:
縦25mm×横25mmのサイズのアクリル系熱伝導性シートの片面に、幅25mm、長さ50mm、厚さ200μmのアルミ箔を貼り付け、もう一方の面をアルミ製テストピースに貼り付けた後、80℃に調整した乾燥機内に投入して1時間静置後、1kgの荷重をかけ、保持力を測定した。
【産業上の利用可能性】
本発明の重合性組成物によれば、加熱工程を設けなくとも短時間の光照射で、充分に高い(メタ)アクリレート系モノマーの重合率が得られる。
また、この重合性組成物を使用して熱伝導シート等の接着性シートを調製するにあたっても、支持体や保護シートを透明にする必要がなく、支持体や保護シートとして例えば安価な紙を使用できるため極めて有利である。
更に、重合のための加熱工程が不要でありの消費エネルギーも少なく、得られたシート内の発泡も見られないものである。
従って、本発明の重合性組成物は、熱伝導シート等の接着性シートの製造に広く利用しうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、成分(A)ないし成分(D)
(A)重合後の全ポリマー成分のガラス転移点温度が20℃以下となるように調整された(メタ)アクリル系モノマー又はその部分重合物
(B)熱伝導性無機充填剤
(C)光重合開始剤
(D)熱重合開始剤
を含有することを特徴とする重合性組成物。
【請求項2】
さらに成分(E)として、架橋剤を含有する請求項1記載の重合性組成物。
【請求項3】
成分(D)が、成分(A)100質量部に対して、0.01〜1質量部含有されている請求項1又は請求項2記載の重合性組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかの項に記載の重合性組成物を支持体上に0.5mm〜10mmの膜厚で塗布し、その塗布面上を保護シートでラミネートした後、光照射することを特徴とする(メタ)アクリル系熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
光照射によって重合を開始させると共に、その光重合により発生する重合熱で、さらに熱重合開始剤による熱重合を開始させる請求項4記載の(メタ)アクリル系熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
請求項4ないし請求項5記載の製造方法で製造された(メタ)アクリル系熱伝導シート。

【国際公開番号】WO2005/044875
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−510452(P2005−510452)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014179
【国際出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】