説明

重合用分散剤、これを用いた塩化ビニル系樹脂の製造方法、塩化ビニル系樹脂並びに成形加工品

【課題】嵩比重が高い塩化ビニル系樹脂を得られうる重合用分散剤、これを用いた塩化ビニル系樹脂の製造方法、塩化ビニル系樹脂並びに成形加工品重合用分散剤塩化ビニル系樹脂を提供すること。
【解決手段】マレイン酸アルキル結合単位を有し、濃度4質量%である水溶液の温度20度における粘度が30mPa・s以上400mPa・s未満であり、平均ケン化度が75mol%以上90mol%未満である変性ポリビニルアルコールを分散剤として用い、塩化ビニル単量体又はそれを含む単量体混合物を水中に分散させて、懸濁重合することにより得られる塩化ビニル系樹脂とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合用分散剤、これを用いた塩化ビニル系樹脂の製造方法、塩化ビニル系樹脂並びに成形加工品に関する。より詳しくは、嵩比重が高い塩化ビニル系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、塩化ビニル系樹脂の嵩比重を高くすることは、減容に寄与できるので、たとえば、塩化ビニル系樹脂を用いた成形加工品等の貯蔵倉庫の省スペース化や、輸送効率の上昇に寄与できる。また、嵩比重が高い樹脂は、押出成形時の単位時間あたりの処理量が多いので、生産加工現場の生産性向上にも寄与できる。
【0003】
塩化ビニル系樹脂の嵩比重を高くするためには、例えば、分散剤として複数のポリビニルアルコール(PVA)とヒドロキシプロピルメチルセルロースとを組み合わせて重合させる技術が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。また、出願人は、先に分散剤として分子鎖中に不飽和二重結合を有する変性ポリビニルアルコールに関する技術を提供している(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−238606号公報。
【特許文献2】特開2005−281680号公報。
【特許文献3】特開2007−63369号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、分散剤を用いる場合であっても、得られる塩化ビニル系樹脂の嵩比重の制御は十分ではない。また、複数の分散剤を組み合わせることは、分散剤の使用量の増加につながるため望ましくない。使用量が多い場合には、製造コストの増加だけでなく、塩化ビニル系樹脂の製品中に残存する分散剤がフィッシュアイ低下を招いたりする等の問題が起こり得る。例えば、ヒドロキシルプロピルメチルセルロースを分散剤として用いる場合には、高価であるため経済的ではないといった問題が顕著である。また、引用文献3に示された変性ポリビニルアルコールを分散剤として使用した場合であっても、得られる塩化ビニル系樹脂の嵩比重を更に向上させることが望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、より嵩比重が高い塩化ビニル系樹脂を得られうる重合用分散剤、これを用いた塩化ビニル系樹脂の製造方法、塩化ビニル系樹脂並びに成形加工品を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の分子構造を有する変性ポリビニルアルコールにおいて、水溶液粘度と平均ケン化度に着目することで、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合時における単量体の粒子形成過程を効率よく制御できることを見出した。その知見に基づき鋭意研究した結果、嵩比重が高い塩化ビニル系樹脂が効率よく得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
まず、本発明は、一般式(1)で表される結合単位を有し、濃度4質量%である水溶液の温度20度における粘度が30mPa・s以上400mPa・s未満であり、平均ケン化度が75mol%以上90mol%未満である変性ポリビニルアルコールを少なくとも含有する重合用分散剤を提供する。本発明に係る重合用分散剤は、分子内に反応性の不飽和二重結合を導入しただけでなく、所定の水溶液粘度と平均ケン化度を有するものであり、これを重合用分散剤として用いることで嵩比重が大きい塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
なお、本発明において、ポリ塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニル単量体又は塩化ビニルを含む単量体混合物を重合して得られる樹脂をいう。
【0008】
【化3】



【0009】
続いて、本発明は、前記重合用分散剤を用いて、塩化ビニル単量体又はそれを含む単量体混合物を水中に分散させて懸濁重合を行う塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供する。前記重合用分散剤を用いることで、嵩比重が大きい塩化ビニル系樹脂を製造できる。
そして、本発明は、前記重合用分散剤を、塩化ビニル系樹脂の単量体合計に対して0.01質量%以上0.1質量%以下となるように仕込んで懸濁重合する塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供する。前記重合用分散剤を用いることで、懸濁重合に使用する分散剤の添加量を軽減することができる。
また、本発明は、一般式(2)で表される結合単位を有し、濃度4質量%である水溶液の温度20度における粘度が30mPa・s以上400mPa・s未満であり、平均ケン化度が75mol%以上90mol%未満である変性ポリビニルアルコールを分散剤として用い、塩化ビニル単量体又はそれを含む単量体混合物を水中に分散させて、懸濁重合することにより得られる塩化ビニル系樹脂を提供する。そして、本発明は、この塩化ビニル系樹脂を用いた成形加工品を提供する。
【0010】
【化4】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、嵩比重が高い塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下は本発明の一例でありこれらに限定して解釈されるものではない。
【0013】
塩化ビニル系樹脂の原料となる単量体は、塩化ビニル単量体単独、又は塩化ビニル単量体とこれと共重合可能な他の単量体との混合物である。混合物の場合は、塩化ビニル単量体を50質量%以上含むことが望ましい。塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体の種類は限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸メチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸、エチレン、プロピレン、無水マレイン酸、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン等を用いることができる。
【0014】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂は懸濁重合によって得ることができる。懸濁重合において用いられる重合開始剤は限定されず、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルネオヘキサノエート、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシ−2−ネオデカノエート等のパーオキシエステル化合物、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等、ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等のパーオキシド化合物が挙げられる。
【0015】
重合開始剤は、水または単量体を仕込む前と仕込む後のどちらに添加してもよい。また、予め水性エマルジョンとしてから重合槽に添加してもよい。重合開始剤の添加量は、塩化ビニル単量体又はそれを含む単量体混合物100質量部に対して0.02〜0.2質量部であることが好ましい。
【0016】
本発明では、懸濁重合の分散剤として、一般式(3)に示す変性ポリビニルアルコール使用する。この変性ポリビニルアルコールは、カルボニル基含有ポリビニルアルコールであり、主鎖にカルボキシル基を起点とする不飽和二重結合をランダムに導入されたことを構造上の特徴の一つとするものである。
【0017】
【化5】

【0018】
この変性ポリビニルアルコールは、エチレン性不飽和二重結合を有する単量体と、ビニルエステル単位を有する単量体と、を共重合させた後、その共重合体をケン化させることで得ることができる。エチレン性不飽和二重結合を有する単量体としては、例えば、一般式(4)で表される化合物を好適に用いることができる。
【0019】
【化6】



【0020】
一般式(4)で表される化合物としては、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられる。
【0021】
あるいは、一般式(5)で表される化合物も好適に用いることができる。
【0022】
【化7】

【0023】
一般式(5)で表される化合物としては、例えば、フマル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、シトラスコン酸ジメチル等が挙げられる。
【0024】
また、一般式(6)で表される化合物も好適に用いることができる。
【0025】
【化8】

【0026】
一般式(6)で表される化合物としては、例えば、無水マレイン酸、無水シトラスコン酸等が挙げられる。
【0027】
エチレン性不飽和二重結合を有する単量体の共重合量は、特に限定するものではないが、分子内の不飽和二重結合量と水溶性を確保する観点等から、単量体合計の0.1mol%以上50mol%未満が好ましく、0.1mol%以上10mol%未満が特に好ましい。
【0028】
ビニルエステル単位を有する単量体としては、特に限定するものではないが、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等があり、安定して重合を行えるという観点から酢酸ビニルが最も好ましい。
【0029】
必要に応じて、前記単量体と共重合可能な他の単量体を共重合させてもよい。共重合可能な単量体としては、特に限定するものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フタル酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和酸類、又はその塩類、又は炭素数1〜18のモノアルキルエステル類若しくはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩等のアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩等のメタクリルアミド類、炭素数1〜18のアルキル鎖長を有するアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、トリメトキシビニルシランなどのビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール等のアリル化合物、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニル等が挙げられる。これらの共重合可能な他の単量体の使用量は、特に限定するものではないが、単量体合計に対して0.001mol%以上20mol%未満であることが好ましい。
【0030】
本発明の変性ポリビニルアルコールの水溶液粘度(濃度4質量%、温度20℃における水溶液粘度)は、30mPa・s以上400mPa・s未満である。水溶液粘度の下限値は40mPa・s以上であることが好ましい。水溶液粘度の上限値は100mPa・s未満であることが好ましい。水溶液粘度が30mPa・s未満の場合には、変性ポリビニルアルコールの分散性能が低下してしまう。水溶液粘度が400mPa・s以上の場合には、水に対する溶解速度が遅くなり、分散剤を水に溶解する際の作業性が低下する虞がある。
【0031】
分子内に反応性二重結合が導入された変性ポリビニルアルコールを分散剤として用いることで、懸濁重合時における溶液中の親水性部と疎水性部との制御をより確実に行うことができる。即ち、定かではないが、本発明に係る変性ポリビニルアルコールの分散剤としての性能は、主に、水酸基と酢酸ビニルエステル基のバランス、反応性二重結合、重合度等といった構造因子に影響されると考えられる。
【0032】
まず、親水性基の水酸基は水相、親油性基の酢酸ビニルエステル基は油相(例えば、塩化ビニル単量体の油滴内部)に引き込まれやすい。ケン化度90mol%までは、ケン化度を高めて水酸基を増やせば、親水性が増して分散性能は向上していく。しかし、ケン化度が90mol%を超える場合には、分散剤が油滴に付着するのに必要な親油性基が少なくなり過ぎて、逆に分散性能が低くなってしまうと思われる。このような知見に基づき、水酸基と酢酸ビニルエステル基の量をケン化度で調節することで、親水性と親油性のバランスを制御できるものと考える。
【0033】
また、分散剤の分子内に反応性二重結合を導入すれば、単量体と分散剤の共有結合点が生成し、分散剤を油滴に効率よく固定することができ、分散性能の更なる向上が期待できる。
【0034】
そして、重合度の制御が重要である。重合度が高くなるほど、一つの分散剤分子が油滴を覆うことができる面積が大きくなるので、少ない添加量で効率良く分散させることが可能になる。そして、本発明では更に知見を進め、変性種の導入量が多い変性ポリビニルアルコールは、重合度の測定に必要な前処理を施すと、試料の一部が不溶化してしまい、重合度を正確に測定することができない場合があることも見出した。このような観点からも、本発明者らは水溶液粘度や平均ケン化度に着目をした。
【0035】
このような知見に基づき、本発明に係る重合用分散剤を用いることで嵩高い塩化ビニル系樹脂を製造できることを見出した。これらは知見であり、あくまで予想に基づくものであるから、仮にこれらの知見以外の作用等で所定の重合反応が進行する場合であっても、本発明の範囲に包含されることは勿論である。
【0036】
水溶液粘度は、JIS K6726で定められた回転粘度計法で測定する。JIS K6726では、重合度の測定方法についても規定されているが、本発明の重合用分散剤は、分子内に変性種を有する変性ポリビニルアルコールであるため、この重合度をこの方法によって評価することは適切ではない。
【0037】
変性ポリビニルアルコールの平均ケン化度は、75mol%以上90mol%未満である。特に好ましくは、下限値は76mol%以上であることが望ましい。上限値は85mol%未満であることが望ましい。平均ケン化度が75mol%未満の場合には、嵩比重を十分に大きくすることができない。平均ケン化度が90mol%以上の場合には、変性ポリビニルアルコールの分散性能が不十分となるおそれがある。
【0038】
変性ポリビニルアルコールの原料となる単量体の重合方法は、特に限定するものではないが、公知の重合方法を採用することができる。通常、メタノールやエタノールやイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合を行う。あるいは、バルク重合や乳化重合や懸濁重合等によってもよい。溶液重合を行う場合には、連続重合でもよいしバッチ重合でもよく、単量体は一括して仕込んでもよいし、分割して仕込んでもよく、あるいは連続的又は断続的に添加してもよい。
【0039】
溶液重合において使用する重合開始剤は、特に限定するものではないが、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルパレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルパレロニトリル)等のアゾ化合物、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物、ジイソプピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物、t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリル等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。重合反応温度は、特に限定するものではないが、通常30〜90℃程度の範囲で設定することができる。
【0040】
変性ポリビニルアルコールを製造する際のケン化条件は特に限定されず、公知の方法でケン化することができる。一般的には、エチレン性不飽和二重結合を有する単量体と、ビニルエステル単位を有する単量体とをメタノール等のアルコール溶液中において、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下で、分子中のエステル部を加水分解することで行うことができる。このときのアルコール中の共重合体の濃度は、特に限定されないが、10〜80質量%であることが望ましい。
【0041】
アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物や、アルコラート等を用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p−トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができるが、水酸化ナトリウムを用いることが望ましい。
【0042】
ケン化反応の温度は、特に限定されないが、好ましくは10〜70℃、より好ましくは30〜40℃の範囲であることが望ましい。反応時間は、特に限定されないが、30分〜3時間の範囲で行なうことが望ましい。
【0043】
本発明で用いる変性ポリビニルアルコールは、分子中に二重結合を有する(式3〜5等参照)。二重結合は、後述するケン化反応と加熱乾燥時に生成する。二重結合量は、例えば紫外線吸収スペクトルを測定することで評価できる。本発明では、濃度0.2質量%の水溶液又は水−メタノール混合溶液における波長270nmでの吸光度が0.05以上であることが望ましい。この吸光度は、ケン化反応に用いる触媒量や反応時間やケン化温度等のケン化条件を調整することで、適宜所望の値に調整することができる。
【0044】
変性ポリビニルアルコールの紫外線吸収スペクトルについて述べる。特開2004−250695公報等によると、215nmの吸収は変性ポリビニルアルコールの−CO−CH=CH−の構造に帰属し、280nmの吸収は変性ポリビニルアルコールの−CO−(CH=CH)−の構造に帰属し、320nmの吸収は変性ポリビニルアルコールの−CO−(CH=CH)−の構造に帰属する。
【0045】
塩化ビニル系樹脂の懸濁重合で使用する変性ポリビニルアルコールの添加量は、塩化ビニル系樹脂の原料単量体の合計に対して、0.01質量%以上0.1質量%以下であることが望ましい。これにより、分散剤の添加量が少量でありながら、嵩比重が高い塩化ビニル系樹脂を製造できる。
【0046】
本発明の変性ポリビルアルコールは、必要に応じて、ケン化度が異なるポリビニルアルコールを組み合わせて使用してもよい。平均ケン化度が70mol%以上90mol%未満である非変性ポリビニルアルコールを併用することが望ましい。分散剤の添加量変化に対する粒子径変化を緩やかにすることができる。
【0047】
塩化ビニル系樹脂を得る懸濁重合における種々の条件は、公知の技術を用いることができる。例えば、各原料化合物の仕込み方法や、単量体と水との仕込み比率や、重合温度や、重合転化率や、攪拌回転数等の重合条件は、特に限定されない。また、必要に応じて、消泡剤、重合度調節剤、連鎖移動剤、酸化防止剤、耐電防止剤等を用いてもよい。
【0048】
本発明の塩化ビニル系樹脂は、嵩比重が高いため、効率的な貯蔵及び輸送が可能であり、加工現場の作業性を向上させることも可能である。塩化ビニル系樹脂の一般的な用途である、パイプ、ジョイント、ケーブル、窓枠といった製品の生産性や品質の向上が期待できる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。まず、種々のポリビニルアルコール樹脂を製造した。続いて、これらのポリビニルアルコールを分散剤として用いて塩化ビニル系樹脂の懸濁重合を行い、得られた塩化ビニル系樹脂の物性等を評価した。
なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0050】
<変性ポリビニルアルコールAの製造>
酢酸ビニル3000g、メタノール616.3g、マレイン酸ジメチル40.8g及びアゾビスイソブチロニトリル2.5gを重合缶に仕込み、窒素置換後加熱して沸点まで昇温し、重合率70%に達した時点で重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を水酸化ナトリウムで常法によりケン化した。その後、90℃で90分熱風乾燥して変性ポリビニルアルコールAを得た。
【0051】
<変性ポリビニルアルコールBの製造>
酢酸ビニル3000g、メタノール76.7g、マレイン酸ジメチル50.1g及びアゾビスイソブチロニトリル2.5gを重合缶に仕込み、窒素置換後加熱して沸点まで昇温し、重合率46%に達した時点で重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を水酸化ナトリウムで常法によりケン化した。その後、90℃で90分熱風乾燥して変性ポリビニルアルコールBを得た。
【0052】
<変性ポリビニルアルコールC〜Jの製造>
酢酸ビニル2289g、メタノール71.0g、マレイン酸ジメチル5.0g及びアゾビスイソブチロニトリル2.5gを重合缶に仕込み、窒素置換後加熱して沸点まで昇温した。反応液温度が60℃以上になったら、重合缶上部より、酢酸ビニル711.0g、メタノール15.0g及びマレイン酸ジメチル45.1gの混合物を、4時間かけて少しずつ連続的に滴下した。滴下が終了してから1時間後に、重合率44%に達した時点で重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を水酸化ナトリウムで常法によりケン化した。ケン化化反応温度、反応時間、水酸化ナトリウム量を調節して、ケン化反応を進行させた後、90℃で90分熱風乾燥して、変性ポリビニルアルコールC〜Jを得た。
【0053】
<変性ポリビニルアルコールK〜Qの製造>
変性ポリビニルアルコールCのメタノール量及び重合率を調節することによって、水溶液粘度が異なる変性ポリビニルアルコールK〜Qを得た。
【0054】
得られた変性ポリビニルアルコールの水溶液粘度、平均ケン化度、波長270nmにおける吸光度を下記の方法によってそれぞれ測定した。
水溶液粘度:JIS K6726に準拠して測定した。
平均ケン化度:JIS K6726に準拠して測定した。
吸光度:濃度0.2質量%のサンプル水溶液を、光路長10mmの石英セルに入れて、紫外可視分光光度計UV−1650PC(株式会社島津製作所製)を用いて、温度20℃における紫外スペクトルを測定して、波長270nmにおける吸光度を調べた。
【0055】
<塩化ビニル単量体の懸濁重合(実施例1〜16、比較例1〜10)>
[実施例1]
実施例1では、分散剤として変性ポリビニルアルコールAを用いた。翼幅37.5mmのパドル撹拌翼を備えた内容量30リットルの反応器に、水12000gと、表1に示す量の分散剤を入れて溶解させた。次いで、重合開始剤としてクミルパーオキシネオデカノエート0.5gとt−ブチルパーオキシネオデカノエート2.3gを仕込み、系内の窒素置換を行った後、塩化ビニル単量体5000gを仕込み、回転数650rpmで撹拌しながら、温度57.5℃で4時間反応させた。内圧が0.78MPa以下になったら重合反応を終了させ、反応器から樹脂スラリーを取り出し、脱水乾燥して樹脂粉末を得た。
【0056】
得られた塩化ビニル系樹脂の平均粒子径、嵩比重を測定した。結果を表1に示す。
嵩比重:JIS K6720−2に準拠して測定した。
平均粒径:JIS Z8801規定の試験用ふるいのうち、呼び寸法が300μm、250μm、180μm、150μm、106μmおよび75μmのふるいをロータップ型ふるい分け装置に取り付け、最上段に樹脂試料100gを静かに入れて、10分間振とう後、各ふるい上に残った試料の質量を測定し、下記式に示す総質量(100g)に対する百分率(A〜F)を求めた。求めた各ふるいの篩上率および篩下率を下式に代入して平均粒径を算出した。
【0057】
【数1】

【0058】
[実施例2〜実施例16]
実施例2〜16では、分散剤として表1に示す変性ポリビニルアルコールをそれぞれ用いた。そして、表1に示す条件下で、実施例1と同じ操作手順で塩化ビニル単量体の懸濁重合をそれぞれ行った。このようにして得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表1に示す。
【0059】
[比較例1]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを、変性ポリビニルアルコールR(分子末端にのみ二重結合を有し、濃度4質量%の水溶液の20℃における粘度5.5mPa・s、平均ケン化度70.2mol%、波長270nmにおける吸光度1.3)に変更した点以外は、実施例1と同じ操作手順で塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0060】
[比較例2]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを、変性ポリビニルアルコールS(分子内に二重結合を有し、濃度4質量%の水溶液の20℃における粘度10.8mPa・s、平均ケン化度72.0mol%、波長270nmにおける吸光度1.0)に変更した点以外は、実施例1と同じ操作手順で塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0061】
[比較例3]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを、変性ポリビニルアルコールT(分子末端にのみ二重結合を有し、濃度4質量%の水溶液の20℃における粘度6.2mPa・s、平均ケン化度72.0mol%、波長270nmにおける吸光度0.7)に変更した点以外は、実施例1と同じ操作手順で塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0062】
[比較例4]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを変性ポリビニルアルコールTとデンカポバールB−24(電気化学工業株式会社製、濃度4質量%の水溶液の20℃における粘度47mPa・s、平均ケン化度88.2mol%、分子内に二重結合を持たないポリビニルアルコール)に変更した点以外は、実施例1と同じ操作手順で塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0063】
[比較例5]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを、変性ポリビニルアルコールTとデンカポバールW−20N(電気化学工業株式会社製、濃度4質量%の水溶液の20℃における粘度40mPa・s、平均ケン化度79.5mol%、分子内に二重結合を持たないポリビニルアルコール)に変更した点以外は、塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0064】
[比較例6]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを、変性ポリビニルアルコールKに変更して、表2に示す条件で塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0065】
[比較例7]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを、変性ポリビニルアルコールLに変更して、表2に示す条件で塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0066】
[比較例8]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを、変性ポリビニルアルコールQに変更して、表2に示す条件で塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0067】
[比較例9]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを、変性ポリビニルアルコールDに変更して、表2に示す条件で塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0068】
[比較例10]
実施例1の変性ポリビニルアルコールAを、変性ポリビニルアルコールJに変更して、表2に示す条件で塩化ビニル単量体の懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂の嵩比重と平均粒径を表2に示す。
【0069】
【表1】



【0070】
【表2】



【0071】
表1,2からわかるように、実施例1〜16の塩化ビニル系樹脂は、比較例1〜10の塩化ビニル系樹脂よりも嵩比重が高い。そして、粒子径が小さいということは添加量を削減できるということを意味する。更には、塩化ビニル系樹脂の製造において、塩化ビニル系樹脂の単量体合計に対して含有させる分散剤の量も少量でよいことが示された。
そして、分子末端のみに二重結合を有する変性ポリビニルアルコール樹脂を重合用分散剤に用いたのでは、嵩比重が大きい塩化ビニル系樹脂を得ることができなかった(例えば、比較例1,3〜5等)。
以上より、本発明に係る分散剤を用いることで、嵩比重が高い塩化ビニル系樹脂が得られることや、更には粒子径も小さい塩化ビニル系樹脂とできることが、本実施例によって示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される結合単位を有し、濃度4質量%である水溶液の温度20度における粘度が30mPa・s以上400mPa・s未満であり、平均ケン化度が75mol%以上90mol%未満である変性ポリビニルアルコールを少なくとも含有する重合用分散剤。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載された重合用分散剤を用いて、塩化ビニル単量体又はそれを含む単量体混合物を水中に分散させて懸濁重合を行う塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記重合用分散剤を、塩化ビニル系樹脂の単量体合計に対して0.01質量%以上0.1質量%以下となるように仕込んで懸濁重合することを特徴とする請求項2に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
一般式(2)で表される結合単位を有し、濃度4質量%である水溶液の温度20度における粘度が30mPa・s以上400mPa・s未満であり、平均ケン化度が75mol%以上90mol%未満である変性ポリビニルアルコールを分散剤として用い、
塩化ビニル単量体又はそれを含む単量体混合物を水中に分散させて、懸濁重合することにより得られる塩化ビニル系樹脂。
【化2】

【請求項5】
請求項4に記載の塩化ビニル系樹脂を用いた成形加工品。

【公開番号】特開2009−108218(P2009−108218A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282838(P2007−282838)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】