説明

重合装置および重合体の製造方法

【課題】ビニル系単量体を重合する重合装置に関し、混合タンクから重合釜の間に設けられた供給管内で、重合体が生成したり、重合開始剤が析出したりせず、安定して重合体を製造できることを目的とする。
【解決手段】ビニル系単量体と重合開始剤とを混合して混合液を調製する混合タンクと、
混合液を加熱してビニル系単量体の重合を行う重合釜と、混合タンクの混合液を重合釜に供給する、混合タンクから重合釜の間に設けられた供給管と、混合タンクから重合釜の間に設けられた供給管内の混合液の温度を調節する調温手段とを具備する重合装置であって、前記供給管が混合液供給管と流水管からなる二重管構造を有し、前記流水管の端面が重合釜の内側に位置する混合液供給管の出口で封止されている重合装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合装置およびこれを用いた重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系単量体を重合してビニル系重合体を得る方法としては、溶液重合法が知られている。溶液重合に用いられる重合装置としては、ビニル系単量体、溶剤および重合開始剤を混合する混合タンクと、混合タンクから供給管を経て供給された混合液を加熱してビニル系単量体の重合を行う重合釜とを具備するものが通常である。溶液重合法には、溶剤とビニル単量体と重合開始剤とを重合釜にて、混合、加熱し重合するバッチ式重合法と、あらかじめ溶剤を重合釜に投入しておき、所定温度下、混合タンクからビニル単量体と重合開始剤の混合物を重合釜に滴下供給して重合を行う滴下式重合法がある。前者は比較的高分子の重合体を得る方法として有用である。また、後者は比較的低分子の共重合体を得ることができるとともに、複数種のビニル単量体単位から構成されるビニル系共重合体において、共重合体の組成をより均一に得る方法として、有用である。しかしながら、前述した重合装置を用い、滴下式重合法にて溶液重合を行った場合、以下のような不具合が起こることがあった。
【0003】
この重合装置においては、供給管の出口付近が重合釜上部の内側に位置しているため、重合釜内部の熱によって加熱されている。そして、この重合装置を用いた溶液重合においては、ビニル系単量体は、重合開始剤と混合された状態で重合釜に供給される。そのため、ビニル系単量体の一部は、供給管の出口付近の管内で加熱されて重合を開始してしまい供給管内でビニル系重合体が生成してカレットとなったり、複数のビニル単量体を用い
る場合は組成の不均一な共重合体が多く生成することがあった。カレットが生じた場合、重合後の濾過工程において、詰まりが生じたり、濾過工程でカレットが完全に除去できないケースでは、重合体液体あるいはこの重合体溶液を原料とした塗料に濁りが発生したりすることがあった。また、組成の不均一な共重合体が多く生成すると、共重合体溶液が濁ったり、この重合体溶液を原料とする塗料にスポット状の塗工不良が発生することがあった。このような現象は特に水酸基含有ビニル単量体やカルボン酸基含有ビニル単量体及びその誘導体を多く含む場合に顕著に現れる。
【0004】
また、固体状の重合開始剤を用いた場合、冬場など気温が低くなる状態においては、供給管内を流れる混合液が重合釜に到達するまでに冷やされ、重合開始剤が析出してしまうことがあった。析出した重合開始剤は、供給管内に堆積し、やがて供給管を詰まらせてしまうことがあった。
特に、ビニル系重合体がアクリル系塗料用樹脂の場合、溶剤量低減のために比較的低分子量の重合体が必要とされ、そのために重合開始剤の濃度を高くする必要があるという事情から、以上の2つの不具合が現れやすかった。
【0005】
ところで、供給管内における単量体の重合を防ぐ方法としては、ビニル系単量体と重合開始剤とを別々に重合釜に供給する方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
しかしながら、ビニル系単量体と重合開始剤とを別々の供給管から重合釜に供給した場合、重合釜にあらかじめ投入されている溶剤によってそれぞれがただちに希釈されてしまうため、ビニル系単量体と重合開始剤とが重合釜中で接触するまでに時間がかかり、それまでに重合開始剤の一部が分解、消滅してしまい、重合開始剤が無駄になってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−30334号公報
【特許文献2】特開2002−167411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明の目的は、混合タンクから重合釜の間に設けられた供給管内で、重合体が生成したり、重合開始剤が析出したりすることのない重合装置、および不溶物の混入のない重合体溶液を安定して製造することができる重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、ビニル系単量体と重合開始剤とを混合して混合液を調製する混合タンクと、混合液を加熱してビニル系単量体の重合を行う重合釜と、混合タンクの混合液を重合釜に供給する、混合タンクから重合釜の間に設けられた供給管と、混合タンクから重合釜の間に設けられた供給管内の混合液の温度を調節する調温手段とを具備する重合装置であって、前記供給管が混合液供給管と流水管からなる二重管構造を有し、前記流水管の端面が重合釜の内側に位置する混合液供給管の出口で封止されている重合装置の発明に関する。
【0009】
さらに、上記記載の重合装置を用い、混合タンクにて単量体と重合開始剤とを混合して調製された混合液を、供給管を通して重合釜に供給し、重合釜にて混合液を加熱して単量体の重合を行う重合体の製造方法および本製造方法によって得られる重合体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の重合装置によれば、混合タンクから重合釜の間に設けられた供給管内で、重合体が生成したり、重合開始剤が析出したりすることを抑えることができる。また、本発明の重合体の製造方法によれば、不溶物の混入のない重合体溶液を安定して製造することができる。本発明は、特にアクリル系塗料用樹脂の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の重合装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1の重合装置における混合液供給管の出口付近の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0012】
10 重合装置
12 混合タンク
14 重合釜
32 混合液供給管
40 流水管(調温手段)
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の重合装置の一例を示す概略構成図である。この重合装置10は、単量体、溶剤および重合開始剤を混合、一時貯留する混合タンク12と、混合タンク12から供給された混合液を加熱して単量体の重合を行う重合釜14と、重合開始剤溶液を貯留する供給タンク16と、混合タンク12に単量体、溶剤を供給する原料供給管30と、混合タンク12の混合液を重合釜14に供給する混合液供給管32と、重合釜14で製造された重合体溶液を取り出す重合体溶液取出管34と、供給タンク16の重合開始剤溶液を重合釜14に供給する重合開始剤供給管36と、混合液供給管32を囲むように同軸的に設けられた流水管40(調温手段)と、流水管40に水を供給する給水管42と、流水管40から水を排出する排水管44とを具備して概略構成されるものである。
【0014】
混合タンク12は、タンク本体60と、この内部の液体を攪拌する攪拌翼62と、これを回転させるモータ64と、重合開始剤を供給するマンホール65と、タンク本体60内部の温度を調節する調温手段66とを具備するものである。混合タンク12としては、従来の溶液重合装置に用いられているものを用いることができる。
【0015】
重合釜14は、釜本体70と、この内部の液体を攪拌する攪拌翼72と、これを回転させるモータ74と、釜本体70内部の温度を調節する調温手段76と、重合釜14から取り出された重合体溶液を濾過する濾過器78とを具備するものである。重合釜14としては、従来の溶液重合装置に用いられているものを用いることができる。
【0016】
混合液供給管32および流水管40(調温手段)は、図2に示すように、二重管とされ、内管が混合液供給管32とされ、外管が流水管40とされている。流水管40に温度調節された水を流すことにより、混合液供給管32を流れる混合液の温度を所定の温度に調節できるようになっている。
また、図2に示すように、流水管40は、重合釜14上部の内側に位置する混合液供給管32の出口に至るまで混合液供給管32を囲んでおり、混合液供給管32の出口では、流水管40の端面は封止されている。
【0017】
また、混合液供給管32および流水管40からなる二重管の端面は、図2に示すように、管軸に対して傾斜していることが好ましい。二重管の端面を傾斜させることにより、混合液供給管32の出口から流出する混合液が二重管の端面を伝って流れ、二重管の先端から大きな滴となって重合釜内に落下する。この傾斜角度αは、好ましくは、30〜60゜
である。
【0018】
二重管の端面が、管軸に対して直交する場合、混合液供給管32の出口から混合液が、重合釜14内に直接小さな飛沫となって飛び散り、混合液が、重合釜14内の液面20より上方に露出した重合釜14の内壁や攪拌翼72の最上部の攪拌翼72bに付着し、ここで重合が起こり、ビニル系重合体が生成し、この重合体が溶剤に不溶であるため、カレットとなったり、複数のビニル単量体を用いる場合は組成の不均一な共重合体が多く生成するおそれがある。カレットが生じた場合、重合後の濾過工程において、詰まりが生じる可能性がある。また、濾過工程でカレットが完全に除去できないと、重合体液体あるいはこの重合体溶液を原料とする塗料に濁りが発生しやすくなる。また、組成の不均一な共重合体が多く生成すると、重合体溶液が濁ったり、この重合体溶液を原料とする塗料にスポット状の塗工不良が発生する原因ともなる。
【0019】
また、重合釜14内における混合液供給管32の位置は、適下した混合液が重合釜14内の液面20より上方に露出した重合釜14や攪拌翼72の最上部の攪拌翼72bに付着しないように、重合釜14の内壁と攪拌翼72bとの間、好ましくはほぼ中間に混合液を適下できる位置が好ましい。
【0020】
次に、重合装置10を用いた重合体の製造方法について説明する。
まず、重合釜14に溶剤を投入し、調温手段76にて重合釜14内を所定温度に加熱する。
これとは別に、混合タンク12に原料供給管30から単量体、溶剤を供給し、マンホール65から、重合開始剤を投入する。混合タンク12内で単量体、溶剤および重合開始剤を十分に攪拌、混合し、得られた混合液を一時貯留する。
【0021】
ついで、流水管40へ所定の温度に調節された水を流し始める。流水管40への水の供給は、溶液重合終了まで行う。
そして、重合釜14内の温度を制御しながら、混合タンク12内の混合液を混合液供給管32を通して所定の滴下速度で重合釜14内に滴下し、溶液重合を行う。混合液の滴下終了後、必要に応じて、重合開始剤供給管36を通して供給タンク16から重合開始剤を追加する。
溶液重合の完了後、重合釜14の底部から重 合体溶液取出管34を通して、濾過器78による濾過工程をへて、重合体溶液を取り出す。
【0022】
流水管40に供給される水の量および温度は、混合液供給管32内の混合液の温度を、15〜30℃の範囲に保つように、コントロールされる。具体的には、供給管に供給する水の量は、25〜50L/minとすることが好ましく、30〜40L/minとすることが更に好ましい。また、供給する水の温度は、15〜30℃とすることが好ましく、18〜25℃とすることが更に好ましい。
混合液供給管32内の混合液の温度が15℃未満では、固体状の重合開始剤を用いた場合に、混合液供給管32内を流れる混合液が重合釜14に到達するまでに冷やされ、重合開始剤が析出してしまうおそれがある。一方、混合液供給管32内の混合液の温度が30℃を超えると、単量体の重合が起こり、カレットが生成あるいは、組成の不均一な共重合体が多く生成するおそれがある。
【0023】
単量体としては、ビニル系重合体の製造の場合、各種ビニル系単量体を用いることができる。また、アクリル系樹脂の製造の場合、各種メタクリレート及び/又はアクリレートと必要によりその他ビニル系重合体を組み合わせて用いることができる。
ビニル系単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物;スチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸などが挙げられる。
【0024】
ビニル系単量体の重合開始剤としては、例えば、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、ピバレートラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1’−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス2−メチルブチロニトリル、1−1’アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等のアゾ化合物が挙げられる。
【0025】
溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;イソプロピルアルコール、1−ブタノール、イソブタノール等のアルコール化合物;酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル等のエステル化合物;エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素などが挙げられる。
【0026】
以上説明した重合装置10にあっては、混合液供給管32を囲むように流水管40(調温手段)が設けられているので、混合液供給管32を流れる混合液の温度を、単量体の重
合が起こったり、重合開始剤の析出が起こらない温度に調節することができ、管内で重合体が生成したり、重合開始剤が析出したりすることを抑えることができる。
【0027】
また、この重合装置10を用いた重合体の製造方法にあっては、混合液供給管32内の混合液の温度を、30℃以下に保っているので、管内における重合体の生成が抑えられ、
不溶物の混入のない重合体溶液を得ることができる。また、混合液供給管32内の混合液の温度を、15℃以上に保っているので、管内における重合開始剤の析出が抑えられ、製造が中断されることなく、重合体溶液を安定して製造することができる。
【0028】
なお、本発明の重合装置は、図示例のものに限定はされず、混合タンクの混合液を重合釜に供給する供給管に、供給管内の混合液の温度を調節する調温手段が設けられているものであれば、どのような形態のものであっても構わない。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
[実施例1]
図1に示す重合装置10を用い、気温30℃の条件下でアクリル系塗料用樹脂の製造を行った。
混合タンク12としては、タンク本体60の容量が4.5mであり、攪拌翼62、モータ64を備えたものを用いた。混合タンクのジャケット温度は25℃とした。重合釜14としては、釜本体70の容量が6mであり、攪拌翼72、モータ74、ジャケット(調温手段76)、濾過器78を備えたものを用いた。供給タンク16としては、容量0.5mのものを用いた。
【0030】
まず、重合釜14に、プロピレングリコールモノメチルエーテル460kg、キシレン920kgを投入し、攪拌しながら、ジャケット内の500KPaの加圧温水で重合釜14の内温を100℃に昇温した。
これとは別に、混合タンク12に、プロピレングリコールモノメチルエーテル230kg、キシレン230kg、メタクリル酸亜鉛345kg、オレイン酸亜鉛メタクリレート345kg、メチルメタクリレート207kg、エチルアクリレート1403kg、t−ブチルパーオクトエート92kgを仕込み、攪拌、混合して混合液を得た。混合液の温度は20℃であった。
【0031】
流水管40に20℃の水を35L/分の流量で流し始めた。流水管40への水の供給は、溶液重合が終了するまで行った。
ついで、ジャケット内の加圧温水の温度を調節することにより、重合釜14の内温を100℃に制御しながら、混合タンク12内の混合液を11.9kg/分で重合釜14内に滴下し、溶液重合を行った。重合釜に混合液を滴下している間の、供給管出口部から30cm上流側における混合液の温度は20℃であり、供給管出口部における混合液の温度も20℃であった。
混合液の滴下終了後、キシレン115kgを混合タンク12から重合釜14に投入し、重合釜14の内温を100℃で1時間保持した。さらに、供給タンク26にt−ブチルパーオクトエート23kg、キシレン230kgを仕込み、混合して重合開始剤溶液を調製し、これを4.2kg/分で重合釜14に滴下した。滴下終了後、ジャケットの加圧温水を調節することにより、重合釜14の内温を100℃に制御しながら、2時間攪拌した。さらに、キシレン115kgを供給タンク26から重合釜14へ投入し、混合、冷却し、反応を終了した。重合釜14の底部からろ過器を通して、抜液、樹脂溶液を得た。重合釜14の内部を観察したところ、特に汚れは確認されなかった。
【0032】
[実施例2]
実施例1と同じ重合装置10を用い、気温30℃の条件下でアクリル系塗料用樹脂の製造を行った。
まず、重合釜14に、酢酸エチル1744kg、酢酸−n−ブチル92kgを投入し、攪拌しながら、ジャケット内の500KPaの加圧温水で重合釜14の内温を80℃に昇温した。
これとは別に、混合タンク12に、酢酸−n−ブチル450kg、メチルメタクリレート1031kg、n−ブチルメタクリレート653kg、2−ヒドロキシエチルメタクリレート481kg、2−ヒドロキシエチルアクリレート103kg、メタクリル酸23kg、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル34kgを仕込み、攪拌、混合して混合液を得た。混合液の温度は20℃であった。
【0033】
流水管40に20℃の水を35L/分の流量で流し始めた。流水管40への水の供給は、溶液重合が終了するまで行った。
ついで、ジャケット内の加圧温水の温度を調節することにより、重合釜14の内温を80℃に制御しながら、混合タンク12内の混合液を11.6kg/分で重合釜14内に滴下し、溶液重合を行った。重合釜に混合液を滴下している間の、供給管出口部から30cm上流側における混合液の温度は20℃であり、供給管出口部における混合液の温度も20℃であった。
混合液の滴下終了後、酢酸エチル80kgを混合タンク12から重合釜14に投入し、重合釜14の内温を80℃で1時間保持した。さらに、供給タンク16に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル9kg、酢酸エチル206kgを仕込み、混合して重合開始剤溶液を調製し、これを3.6kg/分で重合釜14に滴下した。滴下終了後、ジャケットの加圧温水を調節することにより、重合釜14の内温を85℃に昇温、さらに内温を85℃に制御しながら、2時間攪拌した。さらに、酢酸エチル218kgを供給タンク26から重合釜14へ投入し、混合、冷却し、反応を終了した。重合釜14の底部からろ過器を通して、抜液、樹脂溶液を得た。樹脂溶液は、無色透明であった。
【0034】
[比較例1]
重合装置として、流水管40が設けられていない以外は、実施例1と同様の重合装置を用い、実施例1と同じ条件下にて、実施例1と同様にしてアクリル系塗料用樹脂の製造を行った。なお、混合タンクにおける混合液の温度は20℃であった。また、重合釜に混合液を滴下している間の、供給管出口部から30cm上流側における混合液の温度は20℃であったが、供給管出口部における混合液の温度は80℃まで上昇していた。
樹脂溶液を抜液した後の重合釜14および混合液供給管32を観察したところ、混合液供給管32を冷却しなかったため、混合液供給管32出口付近に重合体の付着が確認され
た。
【0035】
[比較例2]
重合装置として、流水管40が設けられていない以外は、実施例1と同様の重合装置を用い、実施例2と同じ条件下にて、実施例2と同様にしてアクリル系塗料用樹脂の製造を行った。なお、混合タンクにおける混合液の温度は20℃であった。また、重合釜に混合液を滴下している間の、供給管出口部から30cm上流側における混合液の温度は20℃であったが、供給管出口部における混合液の温度は60℃まで上昇していた。
得られた樹脂溶液は、わずかに濁っていた。
【0036】
[実施例3]
実施例1と同じ重合装置10を用い、気温5℃の条件下でアクリル系塗料用樹脂の製造を行った。
まず、重合釜14に、キシレン752kg、酢酸エチル460kgを投入し、攪拌しながら、ジャケット内の500KPaの加圧温水で重合釜14の内温を130℃に昇温した。
これとは別に、混合タンク12に、スチレン230kg、n−ブチルメタクリレート1237kg、ステアリルメタクリレート115kg、2−ヒドロキシエチルメタクリレート285kg、2−ヒドロキシエチルアクリレート400kg、メタクリル酸32kg、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル81kg、t−ブチルパーオクトエート46kgを仕込み、攪拌、混合して混合液を得た。混合タンク内の混合液の温度は20℃であった。
【0037】
流水管40に20℃の水を35L/分の流量で流し始めた。流水管40への水の供給は、溶液重合が終了するまで行った。
ついで、ジャケット内の加圧温水の温度を調節することにより、重合釜14の内温を130℃に制御しながら、混合タンク12内の混合液を10.1kg/分で重合釜14内に滴下し、溶液重合を行った。重合釜に混合液を滴下している間の、供給管出口部から30cm上流側における混合液の温度は20℃であり、供給管出口部における混合液の温度も20℃であった。
混合液の滴下終了後、キシレン56kgを混合タンク12から重合釜14に投入し、重合釜14の内温を130℃で1時間保持した。さらに、重合釜14の内温を115℃に降温、重合釜14の内温を115℃に制御しながら、供給タンク16に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル12kg、キシレン165kgを仕込み、混合して重合開始剤溶液を調製し、これを1.5kg/分で重合釜14に滴下した。滴下終了後、ジャケットの加圧温水を調節することにより、1時間攪拌した。さらに、キシレン100kgを供給タンク26から重合釜14へ投入し、混合、冷却し、反応を終了した。重合釜14の底部からろ過器を通して、抜液、樹脂溶液を得た。樹脂溶液は、無色透明であった。
樹脂溶液を抜液した後の重合釜14および混合液供給管32を観察したところ、混合液供給管32を20℃の水で温めていたので、混合液供給管32内に2,2’−アゾビスイソブチロニトリルの析出は確認されなかった。
【0038】
[比較例3]
重合装置として、流水管40が設けられていない以外は、実施例3と同様の重合装置を用い、気温5℃の条件下にて、実施例3と同様にしてアクリル系塗料用樹脂の製造を行った。なお、混合タンクにおける混合液の温度は20℃であった。また、重合釜に混合液を滴下している間の、供給管出口部から30cm上流側における混合液の温度は20℃であったが、供給管出口部における混合液の温度は5℃であった。 本系においては、混合液供給管32を20℃の水で温めなかったため、混合液供給管32が2,2’−アゾビスイソブチロニトリルの析出で閉塞し、重合を完遂することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の重合装置および重合体の製造方法は、得られる重合体溶液への不溶物の混入を抑えることができるので、この重合体溶液を原料とした塗料の濁りをなくし、この塗料を塗工した場合、スポット状の塗工不良の発生を抑える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系単量体と重合開始剤とを混合して混合液を調製する混合タンクと、
混合液を加熱してビニル系単量体の重合を行う重合釜と、
混合タンクの混合液を重合釜に供給する、混合タンクから重合釜の間に設けられた供給管と、
混合タンクから重合釜の間に設けられた供給管内の混合液の温度を調節する調温手段とを具備する重合装置であって、

前記供給管が混合液供給管と流水管からなる二重管構造を有し、前記流水管の端面が重合釜の内側に位置する混合液供給管の出口で封止されている重合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の重合装置を用いた重合体の製造方法。
【請求項3】
請求項2の製造方法により得られた重合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−100560(P2013−100560A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−45038(P2013−45038)
【出願日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【分割の表示】特願2006−528375(P2006−528375)の分割
【原出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】