重合防止剤の添加方法、精製方法及び精製装置
【課題】重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる重合防止剤の添加方法を提供する。
【解決手段】本発明は、精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する重合防止剤の添加方法であって、前記液の流量又は重合防止剤の濃度を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量又は測定した重合防止剤の濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程とを有する添加方法を提供する。
【解決手段】本発明は、精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する重合防止剤の添加方法であって、前記液の流量又は重合防止剤の濃度を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量又は測定した重合防止剤の濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程とを有する添加方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合防止剤の添加方法、並びに、その添加方法を利用した精製方法及び精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの原料となるモノマーを製造する際、一般的に、モノマーの合成に続いて精製のための蒸留操作が行われる。ところが、重合しやすいモノマー(以下、このようなモノマーを「易重合性モノマー」ともいう。)は、蒸留操作の際に重合してしまい、モノマーとしての収率の低下及び機器の閉塞を招く。そのため、蒸留操作に当たっては、系内に適当な重合防止剤を加えることによりモノマーの重合を防ぐことが行われている。
【0003】
蒸留系の最も後段に設けられた蒸留塔で蒸留され、そこから抜き出された易重合性モノマーを含む液(以下、「含モノマー液」という。)は、抜き出す段によっては実質的に重合防止剤を含んでいないため、配管内を流れる段階でモノマーが重合しやすい。そこで、含モノマー液に重合防止剤を何らかの形で添加する必要がある。
例えば、特許文献1には、フェノチアジン等の化合物とアルカリ金属塩とを重合防止剤として使用するビニル化合物の重合防止方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−81397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1には、重合防止剤の添加量等についての記載はあるものの、その添加量を制御することについては何も記載されていない。
上記含モノマー液への重合防止剤の添加方法としては、一旦中間品タンクに溜め込み、重合防止剤をその中間品タンクへ添加した後に、そのタンク内の含モノマー液を分析して製品規格を満足することを確認してから、最終的に製品タンクへ移送する方法が採用されている。しかしながら、このような方法では、中間品タンクに溜められて重合防止剤を添加された含モノマー液を、バッチ形式で製品タンクへ移送せざるを得ない。そのため、易重合性モノマーを連続的に製品タンクに移送することができず、中間品タンクの切り替え作業が発生し、作業負荷の上昇に繋がっている。また、その代替方法として、配管内を流れる含モノマー液に重合防止剤を直接添加してから製品タンクにそのまま移送する方法が考えられる。しかしながら、そのようにして添加された重合防止剤は、当然、不純物として製品中に残存することになり、含モノマー液が製品規格を満足し難くなるため、その含モノマー液をそのまま製品タンクに移送することは好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる、重合防止剤の添加方法、並びに、その添加方法を利用した精製方法及び精製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、精製塔から抜き出される含モノマー液の流量を測定しつつ、その流量に応じて重合防止剤の適切な添加量を決定することにより、精製塔から製品タンクへ含モノマー液を連続的に移送できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりの重合防止剤の添加方法、精製方法及び精製装置である。
[1]精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する添加方法。
[2]前記流量を流量計により測定する、[1]の添加方法。
[3]精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、前記液中の前記重合防止剤の濃度を測定する工程と、前記重合防止剤の前記濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する方法。
[4]前記濃度を分析計により測定する、[3]の添加方法。
[5]前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、[1]〜[4]のいずれか1つの添加方法。
[6]前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、を更に有する[1]〜[5]のいずれか1つの添加方法。
[7]前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]〜[6]のいずれか1つの添加方法。
[8]前記モノマーはアクリロニトリルである、[1]〜[7]のいずれか1つの添加方法。
[9]精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、を含む精製方法であって、前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する、精製方法。
[10]精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、を含む精製方法であって、前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液中の前記重合防止剤の濃度を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の前記濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する、精製方法。
[11]モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液の流量を測定するための流量計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備える精製装置。
[12]モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液中の重合防止剤の濃度を測定するための分析計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備える精製装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる、重合防止剤の添加方法、並びに、その添加方法を利用した精製方法及び精製装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の精製装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の精製装置の別の一例を示す概略図である。
【図3】従来の精製装置の一例を示す概略図である。
【図4】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図7】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図8】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図9】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図10】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図11】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図12】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図13】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図14】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図15】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本実施形態の重合防止剤の添加方法は、精製塔から抜き出された液に重合防止剤を添加する方法であって、上記液の流量を測定する工程と、所定の添加量の重合防止剤を上記液に添加する工程とを有する。上記液はポリマーの原料となるモノマーを主成分として含む液であり、そのモノマーは易重合性モノマーである。以下、上記液を「含モノマー液」という。なお、含モノマー液は、精製塔における精製によりモノマーを単離しようとして得られるものであるため、そのモノマーからなることが最も好ましいが、その他の成分を10質量%以下、好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下含むものであってもよい。また、精製塔における精製方法としては、モノマーを精製するために用いられている操作であれば特に限定されない。つまり、本明細書中、「精製」は単離により高純度のモノマーを得る最終工程に限定されず、純度を上昇させるための工程における単位操作も含まれる。その具体例としては、蒸留、吸収及び吸着が挙げられる。例えば、アクリロニトリルの精製工程の場合、金属酸化物触媒の存在下、プロピレン又はプロパンにアンモニア及び酸素を作用させて得られる反応生成物はガスである。そこで、このガスを洗浄及び冷却した後、水性の液体に吸収させ、得られた液体を蒸留することにより生成物に含まれる青酸、アセトニトリル及びアクリロニトリルを分離するのが一般的である。この方法において、吸収、及び各段階の蒸留のそれぞれが精製に該当する。
【0013】
また、本実施形態の精製方法は、上記精製塔において上記モノマーを含む混合物を精製して含モノマー液を得る工程と、上述の重合防止剤の添加方法とを有するものである。
【0014】
重合防止剤の所定の添加量は、含モノマー液中の重合防止剤の濃度が一定になるように、上記流量から演算されるか、あるいは、重合防止剤の上記濃度から演算される。
【0015】
さらに、本実施形態の精製装置は、上記精製塔と含モノマー液を貯蔵するための製品タンクとを備えるものであり、含モノマー液の流れ方向に沿って精製塔と製品タンクとを接続するラインを流れる含モノマー液の流量を測定するための流量計と、上述のように演算して、含モノマー液に重合防止剤を添加するための添加装置とを更に備える。
【0016】
図1は、本実施形態の重合防止剤の添加方法に用いられる装置の一例を概略的に示すものであり、本実施形態の精製装置の一例である。図1に示す装置100は、蒸留塔である精製塔1と、含モノマー液を貯留する製品タンク7と、精製塔1及び製品タンク7を接続する抜出ライン10とを備える。精製塔としては、易重合性モノマーの精製を目的とする機器であれば、特に限定されない。精製塔として、より具体的には、棚段塔(多孔板塔、泡鐘塔など)、充填塔、吸収塔及び吸着塔が挙げられる。
【0017】
抜出ライン10は、精製塔1から抜き出された含モノマー液を製品タンク7まで移送するための配管であり、抜出ライン10には、上流側から順に冷却機器である熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70が設けられている。精製塔1から抜き出された精製流である含モノマー液が熱交換器4によって冷却されることにより、その熱が熱交換器4によって有効に回収され、また、流量計5によって含モノマー液の流量が測定される。流量計5により測定された流量データは、流量計5に隣接する発信機50から流量調節弁70に送信される。また、流量調節弁70には、精製塔1内の液面高さを測定するために設けられたレベル計(図示せず)によるデータも送信される。精製塔1の含モノマー液の抜き出し段における液のレベルを一定の範囲に維持するように、流量調節弁70の開度が調節されるようになっている。流量調節弁70の開閉操作(開度調節)により、精製塔1からの含モノマー液の流出量を連続的に調整することができる。
【0018】
精製塔1と熱交換器4とを接続する抜出ライン10には、重合防止剤を収容するための第1及び第2の重合防止剤タンク2,3が、それぞれ流量調節弁20,30を介して接続されている。図1に示す例では、精製装置100は2つの重合防止剤タンクを有するが、もちろん、重合防止剤タンクは1つのみであってもよく、3つ以上であってもよい。また、各重合防止剤タンク2,3は、それぞれ異なる種類の重合防止剤が収容してもよく、同じ種類の重合防止剤を収容して、いずれか一方をバックアップ用タンクとして用いてもよい。流量調節弁70と同様に、流量調節弁20,30は、重合防止剤を任意の流量に調整できる。流量計5の発信機50から含モノマー液の流量データが制御システムの1種である分散型制御システム(図示せず。Distributed Control System。以下、単に「DCS」と表記する。)に送信され、そのデータに基づいて、重合防止剤濃度が一定になるように、流量調節弁20,30の開度が調節される。流量調節弁20,30の開度調節により、第1及び第2の重合防止剤タンク2,3から、抜出ライン10を流れる含モノマー液に適切な量の重合防止剤が添加される。
【0019】
各重合防止剤の添加量は、含モノマー液中の重合防止剤の濃度が一定になるようにDCSにより決定される。この際、DCSは、含モノマー液中の重合防止剤の濃度が一定になるように、測定した含モノマー液の流量から重合防止剤の含モノマー液への添加量を演算して(すなわち、含モノマー液の流量を重合防止剤の添加量にフィードバックして)決定する。そして、決定した添加量のデータを流量調節弁20,30に送信し、その添加量になるようにそれらの開度を調節し、重合防止剤を含モノマー液中に添加する。ただし、本実施形態においては、含モノマー液の流量の測定位置と抜出ライン10への重合防止剤の添加位置とは多少離れているので、その流量を添加量にフィードバックしても、正確には含モノマー液中の重合防止剤の濃度が所望の濃度になるとはいえない。しかしながら、含モノマー液の流量から演算して重合防止剤の添加量を決定しておけば、連続して得られる含モノマー液の全体(例えば製品タンク7に貯留した含モノマー液の全量)として、重合防止剤の濃度を所望の濃度に極めて近くすることができる。なお、含モノマー液の流量を測定して、上述のように重合防止剤の添加量にフィードバックする方法は、設定した濃度に良好な応答性をもって管理できる観点で、好ましい方法である。
【0020】
第1及び第2の重合防止剤タンク2,3から重合防止剤を移送するラインが抜出ライン10に接続される位置、すなわち重合防止剤の添加位置は、製品分析計6の上流であれば好ましいが、精製塔1の直近であるのが好ましい。ここで、本明細書中、精製塔1の「直近」とは、機器又は配管等による場所の制約を除き、抜出ライン10上の含モノマー液の流れ方向に沿って、抜出ライン10の精製塔1との接続点から150cm以内の位置を意味する。精製塔1から流出した直後の含モノマー液は実質的に重合防止剤を含まないので、抜出ライン10内での重合が生じ得るが、重合防止剤の添加位置を精製塔1の直近にすることで、重合の可能性を低減することができる。
【0021】
抜出ライン10は、流量計5の下流で分岐し、含モノマー液の一部が製品分析計6に流入するようになっている。製品分析計6は、含モノマー液中の重合防止剤濃度を分析するようになっているが、その他にも含モノマー液中の不純物濃度を測定してもよい。製品分析計6としては、従来公知のものを用いることができる。また、製品分析計6への含モノマー液の流入は、連続式であってもよく、バッチ式であってもよい。
【0022】
図2は、本実施形態の重合防止剤の添加方法に用いられる装置の別の一例を概略的に示すものであり、本実施形態の精製装置の別の一例である。図2に示す精製装置200は、製品分析計6による測定データの信号が第1及び第2の重合防止剤タンク2,3の流量調節弁20,30に送信されるよう接続されている以外、図1に示す精製装置100とほぼ同様であるので、精製装置100との相違点のみ説明する。製品分析計6により測定された重合防止剤濃度のデータは、DCS(図示せず。)に送信され、そのデータに基づいて、重合防止剤濃度が一定になるように、DCSにより重合防止剤の含モノマー液への添加量が演算される。演算された添加量のデータは、DCSから流量調節弁20,30に送信され、その添加量になるように流量調節弁20,30の開度が調節される。
【0023】
このようにして重合防止剤の添加量を制御する場合、重合防止剤が添加される時にその添加位置を流れる含モノマー液は、濃度を測定した含モノマー液とは異なるので、瞬間的に捉えると含モノマー液中の重合防止剤の濃度を所望の濃度にすることは困難である。しかしながら、ある程度長い期間を通して捉えると、含モノマー液中の重合防止剤の濃度を、一定に調整することができる。
【0024】
本実施形態における易重合性モノマーとしては、重合しやすいモノマーであれば特に限定はされない。例えば、従来、精製の際に重合防止剤を添加するモノマーは、概して易重合性モノマーである。
【0025】
易重合性モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、アクリルアミド、アクロレイン等のアクリル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジオレフィン化合物;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルに代表される不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。
【0026】
重合防止剤としては特に限定されず、易重合性モノマーの種類、製品の用途等に応じて適当なものを選べばよい。重合防止剤としては、例えば、水;ビス(2−ヒドロキシエチル)ジチオカルバミン酸銅;ハイドロキノン(p−ヒドロキシフェノール)、メトキノン(p−メトキシフェノール)、TBC(t−ブチルカテコール)等のフェノール化合物;フェノチアジン、ジフェニルアミン等のアミン化合物;ジブチルジチオカルバミン酸銅等の銅塩;酢酸マンガン等のマンガン塩;ニトロ化合物;及びニトロソ化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
これらは、上記重合防止剤の添加方法において適用する重合防止剤と同様の方法で使用することができる。
【0028】
例えば易重合性モノマーがアクリロニトリルの場合、ハイドロキノン、メトキノン及び水のうち少なくとも1種を用いることにより、優れた重合防止効果が得られる。ただし、これらと共に、他の重合防止剤を更に併用することも可能である。
【0029】
含モノマー液中の重合防止剤濃度は、十分な重合防止効果を得る観点及び重合防止剤のコストの観点から、重合防止剤の種類及び製品の要求品質に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。例えば、易重合性モノマーがアクリロニトリルであって、重合防止剤がメトキノンである場合、重合防止剤濃度は、含モノマー液100質量%に対して30ppm〜50ppmであると好ましく、より好ましくは35ppm〜45ppmである。
【0030】
また、易重合性モノマーがアクリロニトリルであって、重合防止剤がハイドロキノンである場合、重合防止剤濃度は、含モノマー液100質量%に対して20ppm〜60ppmであると好ましく、より好ましくは30ppm〜50ppmである。易重合性モノマーがアクリロニトリルであって、重合防止剤が水である場合、重合防止剤濃度は、含モノマー液100質量%に対して0.20質量%〜0.60質量%であると好ましく、より好ましくは0.30質量%〜0.50質量%である。
【0031】
含モノマー液に重合防止剤を添加する際の重合防止剤の態様は、通常公知の態様であればよく、特に限定されない。例えば、固体又は液体の重合防止剤を、そのまま直接含モノマー液に添加してもよく、適当な有機溶剤又は水に溶解又は分散した状態で含モノマー液に添加してもよい。添加量を容易に制御する観点から、重合防止剤を液体の状態で添加する態様が好ましい。
【0032】
本実施形態によると、重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認された含モノマー液を、連続的に製品タンク7に移送することができる。
【0033】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、本発明は、上述の熱交換器、流量調節弁及び流量計以外の機器を抜出ライン上に備えてもよい。そのような機器としては、例えば、サージドラム(サージタンク)、ストレーナー、ポンプ、遮断弁等が挙げられる。それらの機器を備えた場合であっても、本発明によれば、モノマーの重合を効率よくかつ確実に防止することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
図1に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてメトキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.30質量%、35ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20,30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0036】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.30±0.02質量%、メトキノンの濃度は35±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図4に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0037】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0038】
[実施例2]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.50質量%、45ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを添加した以外は実施例1と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0039】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.02質量%、メトキノンの濃度は45±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図5に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0040】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0041】
[実施例3]
図1に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてハイドロキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.30質量%、30ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20,30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0042】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.30±0.02質量%、ハイドロキノンの濃度は30±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図6に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0043】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0044】
[実施例4]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.50質量%、50ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを添加した以外は実施例3と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0045】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.02質量%、ハイドロキノンの濃度は50±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図7に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0046】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0047】
[実施例5]
図1に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤としてTBCを用い、第2の重合防止剤タンク3は使用しなかった。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はスチレンを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が10ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を、流量調節弁20の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0048】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は10±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図8に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0049】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0050】
[実施例6]
含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が20ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を添加した以外は実施例6と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0051】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は20±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図9に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0052】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0053】
[実施例7]
図2に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤としてメトキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.30質量%、35ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びメトキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20,30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0054】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水濃度は0.30±0.10質量%、メトキノンの濃度は35±5ppmの範囲で調整できたことがわかった。図10に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0055】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0056】
[実施例8]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.50質量%、45ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びメトキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを添加した以外は実施例7と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0057】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.08質量%、メトキノンの濃度は45±4ppmの範囲で調整できたことがわかった。図11に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0058】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0059】
[実施例9]
図2に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてハイドロキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.30質量%、30ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びハイドロキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20,30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0060】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水濃度は0.30±0.09質量%、ハイドロキノンの濃度は30±4ppmの範囲で調整できたことがわかった。図12に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0061】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0062】
[実施例10]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.50質量%、50ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びハイドロキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを添加した以外は実施例7と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0063】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.08質量%、ハイドロキノンの濃度は50±4ppmの範囲で調整できたことがわかった。図13に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0064】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5、流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0065】
[実施例11]
図2に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤としてTBCを用い、第2の重合防止剤タンク3は使用しなかった。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はスチレンを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が10ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中のTBCの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を、流量調節弁20の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0066】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は10±5ppmの範囲で調整できたことがわかった。図14に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0067】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0068】
[実施例12]
含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が20ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中のTBCの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を添加した以外は実施例11と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0069】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は20±5ppmの範囲で調整できたことがわかった。図15に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0070】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0071】
[比較例1]
図3に概略的に示す精製装置を用いた。この精製装置は、流量調節弁70の下流かつ製品タンク7の上流に中間タンク6が設けられていること、重合防止剤タンク2,3は、その中間タンク6に重合防止剤を供給するよう接続されていること、重合防止剤タンク2,3から中間タンク8への重合防止剤の添加がバッチ式で行われること、並びに製品分析計6は中間タンク6に接続されていることを除いて、図2に示す精製装置300と同様の構成を備えていた。
【0072】
その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてメトキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであった。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液を中間タンク8に一旦貯留した。中間タンク8に含モノマー液を一定量貯留した後、精製塔1からの含モノマー液の流出先を他の中間タンク(図示なし)に切り替え、中間タンク8内の含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.40質量%、40ppmになるように、中間タンク8に貯留した含モノマー液の容量に応じて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを添加した。その後、製品分析計6により、含モノマー液中の水及びメトキノンの濃度が各々0.40質量%、40ppmになったことを確認した後、中間タンク8内の含モノマー液を製品タンク7に移送した。
【0073】
抜出ライン10中の熱交換器4は、アクリロニトリルの重合物により約6ヶ月に一度の頻度で閉塞し、その都度、熱交換器4の切り替え及びクリーニングを余儀なく行う必要があった。
【0074】
[比較例2]
第1の重合防止剤として水、第2の重合防止剤としてハイドロキノンを用いた以外は比較例1と同様にして、中間タンク(図示なし)への切り替えまで行った。中間タンク8内の含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.40質量%、40ppmになるように、中間タンク8に貯留した含モノマー液の容量に応じて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを添加した。その後、製品分析計6により、含モノマー液中の水及びハイドロキノンの濃度が各々0.40質量%、40ppmになったことを確認した後、中間タンク8内の含モノマー液を製品タンク7に移送した。
【0075】
なお、抜出ライン10中の熱交換器4は、アクリロニトリルの重合物により約6ヶ月に一度の頻度で閉塞し、その都度、熱交換器4の切り替え及びクリーニングを余儀なく行う必要があった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の重合防止剤の添加方法、精製方法及び精製装置によれば、重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる。したがって、容易に重合するアクリロニトリルなどの易重合性モノマーの精製において、特に産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0077】
1…精製塔、2…第1の重合防止剤タンク、3…第2の重合防止剤タンク、4…熱交換器、5…流量計、6…製品分析計、7…製品タンク、8…中間タンク、10…抜出ライン、20、30、70…流量調節弁、50…発信機。
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合防止剤の添加方法、並びに、その添加方法を利用した精製方法及び精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの原料となるモノマーを製造する際、一般的に、モノマーの合成に続いて精製のための蒸留操作が行われる。ところが、重合しやすいモノマー(以下、このようなモノマーを「易重合性モノマー」ともいう。)は、蒸留操作の際に重合してしまい、モノマーとしての収率の低下及び機器の閉塞を招く。そのため、蒸留操作に当たっては、系内に適当な重合防止剤を加えることによりモノマーの重合を防ぐことが行われている。
【0003】
蒸留系の最も後段に設けられた蒸留塔で蒸留され、そこから抜き出された易重合性モノマーを含む液(以下、「含モノマー液」という。)は、抜き出す段によっては実質的に重合防止剤を含んでいないため、配管内を流れる段階でモノマーが重合しやすい。そこで、含モノマー液に重合防止剤を何らかの形で添加する必要がある。
例えば、特許文献1には、フェノチアジン等の化合物とアルカリ金属塩とを重合防止剤として使用するビニル化合物の重合防止方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−81397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1には、重合防止剤の添加量等についての記載はあるものの、その添加量を制御することについては何も記載されていない。
上記含モノマー液への重合防止剤の添加方法としては、一旦中間品タンクに溜め込み、重合防止剤をその中間品タンクへ添加した後に、そのタンク内の含モノマー液を分析して製品規格を満足することを確認してから、最終的に製品タンクへ移送する方法が採用されている。しかしながら、このような方法では、中間品タンクに溜められて重合防止剤を添加された含モノマー液を、バッチ形式で製品タンクへ移送せざるを得ない。そのため、易重合性モノマーを連続的に製品タンクに移送することができず、中間品タンクの切り替え作業が発生し、作業負荷の上昇に繋がっている。また、その代替方法として、配管内を流れる含モノマー液に重合防止剤を直接添加してから製品タンクにそのまま移送する方法が考えられる。しかしながら、そのようにして添加された重合防止剤は、当然、不純物として製品中に残存することになり、含モノマー液が製品規格を満足し難くなるため、その含モノマー液をそのまま製品タンクに移送することは好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる、重合防止剤の添加方法、並びに、その添加方法を利用した精製方法及び精製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、精製塔から抜き出される含モノマー液の流量を測定しつつ、その流量に応じて重合防止剤の適切な添加量を決定することにより、精製塔から製品タンクへ含モノマー液を連続的に移送できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりの重合防止剤の添加方法、精製方法及び精製装置である。
[1]精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する添加方法。
[2]前記流量を流量計により測定する、[1]の添加方法。
[3]精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、前記液中の前記重合防止剤の濃度を測定する工程と、前記重合防止剤の前記濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する方法。
[4]前記濃度を分析計により測定する、[3]の添加方法。
[5]前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、[1]〜[4]のいずれか1つの添加方法。
[6]前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、を更に有する[1]〜[5]のいずれか1つの添加方法。
[7]前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]〜[6]のいずれか1つの添加方法。
[8]前記モノマーはアクリロニトリルである、[1]〜[7]のいずれか1つの添加方法。
[9]精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、を含む精製方法であって、前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する、精製方法。
[10]精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、を含む精製方法であって、前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液中の前記重合防止剤の濃度を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の前記濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する、精製方法。
[11]モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液の流量を測定するための流量計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備える精製装置。
[12]モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液中の重合防止剤の濃度を測定するための分析計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備える精製装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる、重合防止剤の添加方法、並びに、その添加方法を利用した精製方法及び精製装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の精製装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の精製装置の別の一例を示す概略図である。
【図3】従来の精製装置の一例を示す概略図である。
【図4】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図7】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図8】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図9】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図10】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図11】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図12】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図13】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図14】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図15】実施例の添加方法に係る重合防止剤の濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本実施形態の重合防止剤の添加方法は、精製塔から抜き出された液に重合防止剤を添加する方法であって、上記液の流量を測定する工程と、所定の添加量の重合防止剤を上記液に添加する工程とを有する。上記液はポリマーの原料となるモノマーを主成分として含む液であり、そのモノマーは易重合性モノマーである。以下、上記液を「含モノマー液」という。なお、含モノマー液は、精製塔における精製によりモノマーを単離しようとして得られるものであるため、そのモノマーからなることが最も好ましいが、その他の成分を10質量%以下、好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下含むものであってもよい。また、精製塔における精製方法としては、モノマーを精製するために用いられている操作であれば特に限定されない。つまり、本明細書中、「精製」は単離により高純度のモノマーを得る最終工程に限定されず、純度を上昇させるための工程における単位操作も含まれる。その具体例としては、蒸留、吸収及び吸着が挙げられる。例えば、アクリロニトリルの精製工程の場合、金属酸化物触媒の存在下、プロピレン又はプロパンにアンモニア及び酸素を作用させて得られる反応生成物はガスである。そこで、このガスを洗浄及び冷却した後、水性の液体に吸収させ、得られた液体を蒸留することにより生成物に含まれる青酸、アセトニトリル及びアクリロニトリルを分離するのが一般的である。この方法において、吸収、及び各段階の蒸留のそれぞれが精製に該当する。
【0013】
また、本実施形態の精製方法は、上記精製塔において上記モノマーを含む混合物を精製して含モノマー液を得る工程と、上述の重合防止剤の添加方法とを有するものである。
【0014】
重合防止剤の所定の添加量は、含モノマー液中の重合防止剤の濃度が一定になるように、上記流量から演算されるか、あるいは、重合防止剤の上記濃度から演算される。
【0015】
さらに、本実施形態の精製装置は、上記精製塔と含モノマー液を貯蔵するための製品タンクとを備えるものであり、含モノマー液の流れ方向に沿って精製塔と製品タンクとを接続するラインを流れる含モノマー液の流量を測定するための流量計と、上述のように演算して、含モノマー液に重合防止剤を添加するための添加装置とを更に備える。
【0016】
図1は、本実施形態の重合防止剤の添加方法に用いられる装置の一例を概略的に示すものであり、本実施形態の精製装置の一例である。図1に示す装置100は、蒸留塔である精製塔1と、含モノマー液を貯留する製品タンク7と、精製塔1及び製品タンク7を接続する抜出ライン10とを備える。精製塔としては、易重合性モノマーの精製を目的とする機器であれば、特に限定されない。精製塔として、より具体的には、棚段塔(多孔板塔、泡鐘塔など)、充填塔、吸収塔及び吸着塔が挙げられる。
【0017】
抜出ライン10は、精製塔1から抜き出された含モノマー液を製品タンク7まで移送するための配管であり、抜出ライン10には、上流側から順に冷却機器である熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70が設けられている。精製塔1から抜き出された精製流である含モノマー液が熱交換器4によって冷却されることにより、その熱が熱交換器4によって有効に回収され、また、流量計5によって含モノマー液の流量が測定される。流量計5により測定された流量データは、流量計5に隣接する発信機50から流量調節弁70に送信される。また、流量調節弁70には、精製塔1内の液面高さを測定するために設けられたレベル計(図示せず)によるデータも送信される。精製塔1の含モノマー液の抜き出し段における液のレベルを一定の範囲に維持するように、流量調節弁70の開度が調節されるようになっている。流量調節弁70の開閉操作(開度調節)により、精製塔1からの含モノマー液の流出量を連続的に調整することができる。
【0018】
精製塔1と熱交換器4とを接続する抜出ライン10には、重合防止剤を収容するための第1及び第2の重合防止剤タンク2,3が、それぞれ流量調節弁20,30を介して接続されている。図1に示す例では、精製装置100は2つの重合防止剤タンクを有するが、もちろん、重合防止剤タンクは1つのみであってもよく、3つ以上であってもよい。また、各重合防止剤タンク2,3は、それぞれ異なる種類の重合防止剤が収容してもよく、同じ種類の重合防止剤を収容して、いずれか一方をバックアップ用タンクとして用いてもよい。流量調節弁70と同様に、流量調節弁20,30は、重合防止剤を任意の流量に調整できる。流量計5の発信機50から含モノマー液の流量データが制御システムの1種である分散型制御システム(図示せず。Distributed Control System。以下、単に「DCS」と表記する。)に送信され、そのデータに基づいて、重合防止剤濃度が一定になるように、流量調節弁20,30の開度が調節される。流量調節弁20,30の開度調節により、第1及び第2の重合防止剤タンク2,3から、抜出ライン10を流れる含モノマー液に適切な量の重合防止剤が添加される。
【0019】
各重合防止剤の添加量は、含モノマー液中の重合防止剤の濃度が一定になるようにDCSにより決定される。この際、DCSは、含モノマー液中の重合防止剤の濃度が一定になるように、測定した含モノマー液の流量から重合防止剤の含モノマー液への添加量を演算して(すなわち、含モノマー液の流量を重合防止剤の添加量にフィードバックして)決定する。そして、決定した添加量のデータを流量調節弁20,30に送信し、その添加量になるようにそれらの開度を調節し、重合防止剤を含モノマー液中に添加する。ただし、本実施形態においては、含モノマー液の流量の測定位置と抜出ライン10への重合防止剤の添加位置とは多少離れているので、その流量を添加量にフィードバックしても、正確には含モノマー液中の重合防止剤の濃度が所望の濃度になるとはいえない。しかしながら、含モノマー液の流量から演算して重合防止剤の添加量を決定しておけば、連続して得られる含モノマー液の全体(例えば製品タンク7に貯留した含モノマー液の全量)として、重合防止剤の濃度を所望の濃度に極めて近くすることができる。なお、含モノマー液の流量を測定して、上述のように重合防止剤の添加量にフィードバックする方法は、設定した濃度に良好な応答性をもって管理できる観点で、好ましい方法である。
【0020】
第1及び第2の重合防止剤タンク2,3から重合防止剤を移送するラインが抜出ライン10に接続される位置、すなわち重合防止剤の添加位置は、製品分析計6の上流であれば好ましいが、精製塔1の直近であるのが好ましい。ここで、本明細書中、精製塔1の「直近」とは、機器又は配管等による場所の制約を除き、抜出ライン10上の含モノマー液の流れ方向に沿って、抜出ライン10の精製塔1との接続点から150cm以内の位置を意味する。精製塔1から流出した直後の含モノマー液は実質的に重合防止剤を含まないので、抜出ライン10内での重合が生じ得るが、重合防止剤の添加位置を精製塔1の直近にすることで、重合の可能性を低減することができる。
【0021】
抜出ライン10は、流量計5の下流で分岐し、含モノマー液の一部が製品分析計6に流入するようになっている。製品分析計6は、含モノマー液中の重合防止剤濃度を分析するようになっているが、その他にも含モノマー液中の不純物濃度を測定してもよい。製品分析計6としては、従来公知のものを用いることができる。また、製品分析計6への含モノマー液の流入は、連続式であってもよく、バッチ式であってもよい。
【0022】
図2は、本実施形態の重合防止剤の添加方法に用いられる装置の別の一例を概略的に示すものであり、本実施形態の精製装置の別の一例である。図2に示す精製装置200は、製品分析計6による測定データの信号が第1及び第2の重合防止剤タンク2,3の流量調節弁20,30に送信されるよう接続されている以外、図1に示す精製装置100とほぼ同様であるので、精製装置100との相違点のみ説明する。製品分析計6により測定された重合防止剤濃度のデータは、DCS(図示せず。)に送信され、そのデータに基づいて、重合防止剤濃度が一定になるように、DCSにより重合防止剤の含モノマー液への添加量が演算される。演算された添加量のデータは、DCSから流量調節弁20,30に送信され、その添加量になるように流量調節弁20,30の開度が調節される。
【0023】
このようにして重合防止剤の添加量を制御する場合、重合防止剤が添加される時にその添加位置を流れる含モノマー液は、濃度を測定した含モノマー液とは異なるので、瞬間的に捉えると含モノマー液中の重合防止剤の濃度を所望の濃度にすることは困難である。しかしながら、ある程度長い期間を通して捉えると、含モノマー液中の重合防止剤の濃度を、一定に調整することができる。
【0024】
本実施形態における易重合性モノマーとしては、重合しやすいモノマーであれば特に限定はされない。例えば、従来、精製の際に重合防止剤を添加するモノマーは、概して易重合性モノマーである。
【0025】
易重合性モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、アクリルアミド、アクロレイン等のアクリル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジオレフィン化合物;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルに代表される不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。
【0026】
重合防止剤としては特に限定されず、易重合性モノマーの種類、製品の用途等に応じて適当なものを選べばよい。重合防止剤としては、例えば、水;ビス(2−ヒドロキシエチル)ジチオカルバミン酸銅;ハイドロキノン(p−ヒドロキシフェノール)、メトキノン(p−メトキシフェノール)、TBC(t−ブチルカテコール)等のフェノール化合物;フェノチアジン、ジフェニルアミン等のアミン化合物;ジブチルジチオカルバミン酸銅等の銅塩;酢酸マンガン等のマンガン塩;ニトロ化合物;及びニトロソ化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
これらは、上記重合防止剤の添加方法において適用する重合防止剤と同様の方法で使用することができる。
【0028】
例えば易重合性モノマーがアクリロニトリルの場合、ハイドロキノン、メトキノン及び水のうち少なくとも1種を用いることにより、優れた重合防止効果が得られる。ただし、これらと共に、他の重合防止剤を更に併用することも可能である。
【0029】
含モノマー液中の重合防止剤濃度は、十分な重合防止効果を得る観点及び重合防止剤のコストの観点から、重合防止剤の種類及び製品の要求品質に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。例えば、易重合性モノマーがアクリロニトリルであって、重合防止剤がメトキノンである場合、重合防止剤濃度は、含モノマー液100質量%に対して30ppm〜50ppmであると好ましく、より好ましくは35ppm〜45ppmである。
【0030】
また、易重合性モノマーがアクリロニトリルであって、重合防止剤がハイドロキノンである場合、重合防止剤濃度は、含モノマー液100質量%に対して20ppm〜60ppmであると好ましく、より好ましくは30ppm〜50ppmである。易重合性モノマーがアクリロニトリルであって、重合防止剤が水である場合、重合防止剤濃度は、含モノマー液100質量%に対して0.20質量%〜0.60質量%であると好ましく、より好ましくは0.30質量%〜0.50質量%である。
【0031】
含モノマー液に重合防止剤を添加する際の重合防止剤の態様は、通常公知の態様であればよく、特に限定されない。例えば、固体又は液体の重合防止剤を、そのまま直接含モノマー液に添加してもよく、適当な有機溶剤又は水に溶解又は分散した状態で含モノマー液に添加してもよい。添加量を容易に制御する観点から、重合防止剤を液体の状態で添加する態様が好ましい。
【0032】
本実施形態によると、重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認された含モノマー液を、連続的に製品タンク7に移送することができる。
【0033】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、本発明は、上述の熱交換器、流量調節弁及び流量計以外の機器を抜出ライン上に備えてもよい。そのような機器としては、例えば、サージドラム(サージタンク)、ストレーナー、ポンプ、遮断弁等が挙げられる。それらの機器を備えた場合であっても、本発明によれば、モノマーの重合を効率よくかつ確実に防止することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
図1に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてメトキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.30質量%、35ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20,30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0036】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.30±0.02質量%、メトキノンの濃度は35±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図4に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0037】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0038】
[実施例2]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.50質量%、45ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを添加した以外は実施例1と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0039】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.02質量%、メトキノンの濃度は45±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図5に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0040】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0041】
[実施例3]
図1に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてハイドロキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.30質量%、30ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20,30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0042】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.30±0.02質量%、ハイドロキノンの濃度は30±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図6に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0043】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0044】
[実施例4]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.50質量%、50ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを添加した以外は実施例3と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0045】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.02質量%、ハイドロキノンの濃度は50±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図7に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0046】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0047】
[実施例5]
図1に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤としてTBCを用い、第2の重合防止剤タンク3は使用しなかった。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はスチレンを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が10ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を、流量調節弁20の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0048】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は10±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図8に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0049】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0050】
[実施例6]
含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が20ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を添加した以外は実施例6と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0051】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は20±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図9に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0052】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0053】
[実施例7]
図2に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤としてメトキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.30質量%、35ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びメトキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20,30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0054】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水濃度は0.30±0.10質量%、メトキノンの濃度は35±5ppmの範囲で調整できたことがわかった。図10に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0055】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0056】
[実施例8]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.50質量%、45ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びメトキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを添加した以外は実施例7と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0057】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.08質量%、メトキノンの濃度は45±4ppmの範囲で調整できたことがわかった。図11に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0058】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0059】
[実施例9]
図2に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてハイドロキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.30質量%、30ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びハイドロキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20,30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0060】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水濃度は0.30±0.09質量%、ハイドロキノンの濃度は30±4ppmの範囲で調整できたことがわかった。図12に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0061】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0062】
[実施例10]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.50質量%、50ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びハイドロキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを添加した以外は実施例7と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0063】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.08質量%、ハイドロキノンの濃度は50±4ppmの範囲で調整できたことがわかった。図13に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0064】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5、流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0065】
[実施例11]
図2に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤としてTBCを用い、第2の重合防止剤タンク3は使用しなかった。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はスチレンを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が10ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中のTBCの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を、流量調節弁20の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0066】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は10±5ppmの範囲で調整できたことがわかった。図14に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0067】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0068】
[実施例12]
含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が20ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中のTBCの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を添加した以外は実施例11と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0069】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は20±5ppmの範囲で調整できたことがわかった。図15に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0070】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0071】
[比較例1]
図3に概略的に示す精製装置を用いた。この精製装置は、流量調節弁70の下流かつ製品タンク7の上流に中間タンク6が設けられていること、重合防止剤タンク2,3は、その中間タンク6に重合防止剤を供給するよう接続されていること、重合防止剤タンク2,3から中間タンク8への重合防止剤の添加がバッチ式で行われること、並びに製品分析計6は中間タンク6に接続されていることを除いて、図2に示す精製装置300と同様の構成を備えていた。
【0072】
その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてメトキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであった。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液を中間タンク8に一旦貯留した。中間タンク8に含モノマー液を一定量貯留した後、精製塔1からの含モノマー液の流出先を他の中間タンク(図示なし)に切り替え、中間タンク8内の含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.40質量%、40ppmになるように、中間タンク8に貯留した含モノマー液の容量に応じて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを添加した。その後、製品分析計6により、含モノマー液中の水及びメトキノンの濃度が各々0.40質量%、40ppmになったことを確認した後、中間タンク8内の含モノマー液を製品タンク7に移送した。
【0073】
抜出ライン10中の熱交換器4は、アクリロニトリルの重合物により約6ヶ月に一度の頻度で閉塞し、その都度、熱交換器4の切り替え及びクリーニングを余儀なく行う必要があった。
【0074】
[比較例2]
第1の重合防止剤として水、第2の重合防止剤としてハイドロキノンを用いた以外は比較例1と同様にして、中間タンク(図示なし)への切り替えまで行った。中間タンク8内の含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.40質量%、40ppmになるように、中間タンク8に貯留した含モノマー液の容量に応じて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを添加した。その後、製品分析計6により、含モノマー液中の水及びハイドロキノンの濃度が各々0.40質量%、40ppmになったことを確認した後、中間タンク8内の含モノマー液を製品タンク7に移送した。
【0075】
なお、抜出ライン10中の熱交換器4は、アクリロニトリルの重合物により約6ヶ月に一度の頻度で閉塞し、その都度、熱交換器4の切り替え及びクリーニングを余儀なく行う必要があった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の重合防止剤の添加方法、精製方法及び精製装置によれば、重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる。したがって、容易に重合するアクリロニトリルなどの易重合性モノマーの精製において、特に産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0077】
1…精製塔、2…第1の重合防止剤タンク、3…第2の重合防止剤タンク、4…熱交換器、5…流量計、6…製品分析計、7…製品タンク、8…中間タンク、10…抜出ライン、20、30、70…流量調節弁、50…発信機。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、
前記液の流量を測定する工程と、
前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、
を有する添加方法。
【請求項2】
前記流量を流量計により測定する、請求項1に記載の添加方法。
【請求項3】
精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、
前記液中の前記重合防止剤の濃度を測定する工程と、
前記重合防止剤の前記濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、
を有する方法。
【請求項4】
前記濃度を分析計により測定する、請求項3に記載の添加方法。
【請求項5】
前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項6】
前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、
前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、
を更に有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項7】
前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項8】
前記モノマーはアクリロニトリルである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項9】
精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、
前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、
を含む精製方法であって、
前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する、精製方法。
【請求項10】
精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、
前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、
を含む精製方法であって、
前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液中の前記重合防止剤の濃度を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の前記濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する、精製方法。
【請求項11】
モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、
前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液の流量を測定するための流量計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定内になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備える精製装置。
【請求項12】
モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、
前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液中の重合防止剤の濃度を測定するための分析計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備える精製装置。
【請求項1】
精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、
前記液の流量を測定する工程と、
前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、
を有する添加方法。
【請求項2】
前記流量を流量計により測定する、請求項1に記載の添加方法。
【請求項3】
精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、
前記液中の前記重合防止剤の濃度を測定する工程と、
前記重合防止剤の前記濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、
を有する方法。
【請求項4】
前記濃度を分析計により測定する、請求項3に記載の添加方法。
【請求項5】
前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項6】
前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、
前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、
を更に有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項7】
前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項8】
前記モノマーはアクリロニトリルである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項9】
精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、
前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、
を含む精製方法であって、
前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する、精製方法。
【請求項10】
精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、
前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、
を含む精製方法であって、
前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液中の前記重合防止剤の濃度を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の前記濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有する、精製方法。
【請求項11】
モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、
前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液の流量を測定するための流量計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定内になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備える精製装置。
【請求項12】
モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、
前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液中の重合防止剤の濃度を測定するための分析計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記測定した濃度から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備える精製装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−77041(P2012−77041A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225129(P2010−225129)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
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