説明

重希土類元素の回収方法

【課題】効率的にかつ高い回収率で重希土類元素を回収することができる重希土類元素の回収方法を提供する。
【解決手段】重希土類元素と軽希土類元素とを含有する溶液に、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として27g/l以上となるように添加し、重希土類元素を軽希土類元素の硫酸複塩に共沈させて回収する。溶液の温度は55℃以上100℃以下とすることが好ましく、またアルカリ金属硫酸塩を添加した後20分以上攪拌することが好ましい。さらに、溶液に含有される軽希土類元素の重希土類元素に対するモル比率が3以上となるように溶液を調整することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重希土類元素の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は、様々な用途において使用されている。例えば、近年では、これまで普及していたニカド電池に代わって需要が増加しているニッケル水素電池の負極剤の原料として使用されている。また、モーターに搭載される磁石の添加剤、液晶パネルやハードディスクドライブに使用されるガラス基板の研磨剤等にも使用されている。
【0003】
このように、希土類元素は、自動車や電子機器を製造するための必須の構成要素となっている。特に、自動車産業においては、駆動用モーターや二次電池を搭載するハイブリッド車や電気自動車への移行が進んでおり、希土類元素の重要度はますます高くなっている。
【0004】
しかしながら、希土類元素の調達はほぼ全量を輸入に頼っている現状があり、これらの製品の廃棄物から希土類元素を効率的にかつ高い回収率で効果的に回収する方法の確立が望まれている。
【0005】
希土類元素を回収する方法としては、一般的には、廃棄物を鉱酸等の酸に溶かした水溶液から回収する湿式法が知られており、この方法には溶媒抽出法や沈殿法がある。
【0006】
具体的に、希土類元素を相互分離して各々の元素に分離する場合には溶媒抽出法による精密分離が用いられる(例えば特許文献1参照)。しかしながら、希土類元素は化学的な性質がよく似ているため、溶媒抽出の装置には多くの段数を必要とする。また、有機溶媒を使用するため、火災等に配慮した設備を必要とすることや、排水中のCOD(化学的酸素要求量)が上昇して排水処理の強化が必要になるなど、コストが増加する傾向がある。
【0007】
一方、ミッシュメタルのような希土類混合物として回収する場合は、含有される希土類元素を相互に分離する必要がなく安価に回収できる沈殿法が工業的に利用しやすい。この沈殿法には、蓚酸沈殿で回収する方法(例えば特許文献2参照)や、希土類硫酸塩とアルカリ硫酸塩との硫酸複塩沈殿で回収する方法が知られている。
【0008】
しかしながら、蓚酸沈殿法の場合には、排水中のCODが高くなり、上述した溶媒抽出法と同様に排水処理のコストが高くなる傾向がある。
【0009】
一方、硫酸複塩沈殿法は、スカンジウム(Sc)やランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)等の軽希土類元素の分離回収に利用されており、蓚酸沈殿による回収の場合と異なり排水中のCODを上昇させない。そのため、排水処理のコストは、蓚酸沈殿法による湿式回収法と比較すると有利となる。
【0010】
しかしながら、この硫酸複塩沈殿法では、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等の重希土類元素は効果的に回収できない。
【0011】
詳述すると、アルカリ硫酸塩により生成した硫酸複塩は溶液中のアルカリ硫酸塩の濃度が増加すると溶解度が低くなる性質があり、また重希土類元素の硫酸複塩の方が軽希土類元素の硫酸複塩よりも溶解度が高い傾向があることから、硫酸複塩沈殿法では、これらの溶解度の性質を利用して軽希土類元素を重希土類元素と分離して回収していた。そのため、これまでの硫酸複塩沈殿法では、重希土類元素が溶液中に残留してしまい回収できず、軽希土類元素を回収した後に、別途溶液中に残留した重希土類元素を回収する必要があった。これにより、重希土類元素を回収するにあたっては、コストの増加や重希土類元素の回収率を低下させるという問題が生じてしまい、効率的にかつ高い回収率で回収することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平07−026336号公報
【特許文献2】特開平09−217133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、効率的にかつ高い回収率で重希土類元素を回収することができる重希土類元素の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、重希土類元素と軽希土類元素とを含有する溶液に、アルカリ金属硫酸塩を所定濃度となるように添加することによって、重希土類元素を軽希土類元素と共沈させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明に係る重希土類元素の回収方法は、重希土類元素と軽希土類元素とを含有する溶液に、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として27g/l以上となるように添加し、上記重希土類元素を上記軽希土類元素の硫酸複塩に共沈させて回収する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、重希土類元素を軽希土類元素の硫酸複塩に共沈させることができるため、重希土類元素と軽希土類元素とを一括して回収することができ、効率的にかつ高い回収率で重希土類元素を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】硫酸ナトリウム濃度に対する重希土類元素であるイットリウムの回収率の関係を示すグラフである。
【図2】攪拌時間に対する重希土類元素であるイットリウムの回収率の関係を示すグラフである。
【図3】溶液中の軽希土類元素(La)と重希土類元素(Y)とのモル比(La/Y)に対する溶液中のY回収率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る重希土類元素の回収方法の具体的な実施形態(以下、本実施の形態という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて適宜変更することができる。
【0019】
本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法は、重希土類元素と軽希土類元素とを含有する溶液から、重希土類元素を効率的にかつ効果的に回収することを可能にするものである。
【0020】
具体的に、この重希土類元素の回収方法は、重希土類元素と軽希土類元素とを含有する溶液に、アルカリ金属硫酸塩を添加することによって硫酸複塩生成反応を生じさせ、難溶性の硫酸複塩沈殿物を形成させるものである。このとき、本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法では、溶液中にアルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として27g/l以上となるように添加して攪拌することを特徴とする。
【0021】
重希土類元素の回収方法が適用される溶液は、上述のように、重希土類元素と軽希土類元素とを含有した溶液であり、硫酸や塩酸等の鉱酸からなる溶液である。具体的に、この溶液としては、例えば重希土類元素と軽希土類元素とを含有する電池や電子機器等のスクラップ品を硫酸や塩酸等の鉱酸で浸出して得られた浸出液を用いることができる。この溶液のpH条件は、特に限定されないが、鉱酸によってpH1〜2に調整することが好ましい。
【0022】
ここで、上述した溶液に含有され、回収の対象となる重希土類元素としては、特に限定されるものではなく、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等を挙げることができる。
【0023】
また、上述した重希土類元素とともに溶液中に含まれる軽希土類元素についても、特に限定されるものではなく、スカンジウム(Sc)やランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)等の軽希土類元素を含有させることができる。
【0024】
本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法では、これらの重希土類元素と軽希土類元素とを含有した溶液に対して、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として27g/l以上となるように添加して攪拌する。すると、軽希土類元素の溶解度が重希土類元素の溶解度に比して低いことから、溶液中に含有される軽希土類元素の硫酸複塩生成反応が起こって硫酸複塩の沈殿物が生成されるが、このとき、生成された硫酸複塩の沈殿物に、重希土類元素が共沈するようになる。すなわち、硫酸イオン濃度として27g/l以上となるようにアルカリ金属硫酸塩を添加することによって、重希土類元素と軽希土類元素との共沈殿物を形成させることができる。
【0025】
このようにして、溶液中に含有される軽希土類元素について形成された硫酸複塩の沈殿物に重希土類元素を共沈させることにより、共沈した重希土類元素を軽希土類元素とともに一括回収することができ、重希土類元素を溶液中の残留させることなく、高い回収率で効果的に重希土類元素を回収することができる。また、この回収方法によれば、従来のように、軽希土類元素を回収した後に別途重希土類元素を回収するといった手間やコストを要することなく、効率的に重希土類元素を回収することができる。
【0026】
また、アルカリ金属硫酸塩の添加量に関して、より好ましくは、硫酸イオン濃度として54g/l以上となるように添加する。これにより、溶液中に存在する重希土類元素をほぼ完全に共沈澱物とすることができ、より高い回収率で回収することができる。
【0027】
なお、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として100g/lより高い濃度となるように溶液中に添加させても、それ以上に回収率の向上はほとんどない。したがって、経済性の観点も考慮すれば、アルカリ金属硫酸塩は、硫酸イオン濃度として27g/l以上100g/l以下、より好ましくは54g/l以上100g/l以下となるように添加することが好ましい。
【0028】
添加するアルカリ金属硫酸塩としては、特に限定されるものではなく、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等を用いることができる。その中でも、操作性が良好であるなどの利便性が高いという観点から硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。また、アルカリ金属硫酸塩は、固体状のものを添加することに限られず、上述した添加量となるように調整したアルカリ金属硫酸塩を含む水溶液を添加するようにしてもよい。
【0029】
また、本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法では、アルカリ金属硫酸塩を添加することに限られず、硫酸アンモニウム塩や硫酸アミン塩等を添加してもよい。このように、硫酸アンモニウム塩や硫酸アミン塩等を用いた場合でも、硫酸イオン濃度として上述した所定濃度となるように添加することにより、高い回収率で効果的に重希土類元素を軽希土類元素とともに共沈させて回収することができる。
【0030】
ここで、上述したように、軽希土類元素の硫酸複塩の溶解度が重希土類元素の硫酸複塩の溶解度に比して低いことから、アルカリ金属硫酸塩又はアルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加することによって、軽希土類元素の硫酸複塩生成反応が起こり硫酸複塩の沈殿物が生成するとともに、生成した硫酸複塩の沈殿物に重希土類元素が共沈するようになる。このとき、本実施の形態においては、アルカリ金属硫酸塩の添加に併せて、種晶として、希土類の硫酸複塩沈殿物を溶液中に添加することができる。これにより、重希土類元素の共沈を促進させることができ、より好ましい。
【0031】
すなわち、重希土類元素と軽希土類元素とを含有する溶液にアルカリ金属硫酸塩を添加するに際して、希土類元素の硫酸複塩沈殿物を種晶として添加し攪拌することによって、その種晶に基づいて重希土類元素の共沈が生じるようになるので、より効率的に重希土類元素を共沈させることができ、重希土類元素を溶液中の残留させることなく、より高い回収率で重希土類元素を回収することができる。
【0032】
添加する種晶としては、上述のように、希土類の硫酸複塩沈殿物を添加する。この希土類の硫酸複塩沈殿物は、例えば、前の重希土類元素の回収処理で固液分離して回収した硫酸複塩沈殿物を繰り返し用いることができる。
【0033】
また、この種晶の添加量としては、特に限定されないが、アルカリ金属硫酸塩を添加することにより重希土類元素の共沈を生じさせる時点における液量、すなわち溶液の最終的な液量に対してスラリー濃度で25g/l以上とすることが好ましい。添加量を25g/l以上とすることによって、より効率的に、重希土類元素の共沈を促進させることができる。
【0034】
また、種晶の添加のタイミングについては、特に限定されず、アルカリ金属硫酸塩の添加前に、またはアルカリ金属硫酸塩の添加と同時に、若しくはアルカリ金属硫酸塩の添加後の何れの段階で行うようにしてもよいが、アルカリ金属硫酸塩を添加する前に予め種晶を添加しておくことがより好ましい。このように予め種晶を添加しておくことにより、アルカリ金属硫酸塩の添加による軽希土類元素の硫酸複塩の生成並びに重希土類元素の共沈が生じる際に、その溶液中に種晶となる硫酸複塩沈殿物が存在している状態となるため、析出生成する結晶の成長速度がより速くなり、また単位液量に対して必要な攪拌動力を少なくすることができ、より好ましい。
【0035】
重希土類元素と軽希土類元素とを含有した溶液の温度条件は、特に限定されない。ただし、アルカリ金属硫酸塩を添加して反応させた後の溶液中の残留重希土類元素濃度と溶液の温度とは、負の相関関係がある。そのため、高い温度の溶液中で反応させることが好ましい。これにより、より効果的かつ効率的に、重希土類元素を回収することができる。
【0036】
具体的には、溶液の温度条件として、55℃以上とすることが好ましい。溶液の温度条件として55℃以上とすることによって、溶液中の重希土類元素を非常に高い回収率でかつ迅速に回収することができる。一方で、溶液を100℃以上の温度条件に維持することは、熱源や設備投資のコストが高まり工業的には実用的ではない。したがって、温度条件としては、55℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0037】
また、この溶液は、アルカリ金属硫酸塩の添加前において含有される軽希土類元素の重希土類元素に対するモル数の比率(軽希土類元素のモル数を重希土類元素のモル数で割った値)が3以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。上述したように、この重希土類元素の回収方法は、硫酸複塩生成反応により生成した軽希土類元素の硫酸複塩に重希土類元素を共沈させて回収するものである。したがって、溶液中に含まれる軽希土類元素量は共沈できる重希土類元素の量に関係し、重希土類元素の回収率に影響する。
【0038】
このことから、溶液にアルカリ金属硫酸塩を添加するに先立ち、その溶液中における軽希土類元素の重希土類元素に対するモル比率が3以上となるように溶液を調整することが好ましい。また、より好ましくは、8以上となるように溶液を調整する。具体的には、例えば、溶液中に上記で列挙した軽希土類元素を添加する等により、溶液を調整する。このように、軽希土類元素の重希土類元素に対するモル比率を3以上とすることにより、軽希土類元素の硫酸複塩に溶液中の重希土類元素をより効果的に共沈させることができ、重希土類元素の回収率を高めることができる。また、より好ましく、モル比率を8以上とすることにより、より一層に高い回収率で重希土類元素を回収することができる。
【0039】
なお、軽希土類元素に対する重希土類元素のモル比率を10より大きくした場合には、それ以上に回収率の向上はほとんどない。したがって、経済性の観点も考慮すれば、モル比率は3以上10以下とすることが好ましく、8以上10以下とすることがより好ましい。
【0040】
本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法では、上述のようにアルカリ金属硫酸塩を添加した後に、攪拌操作を行う。攪拌は、重希土類元素を軽希土類元素の硫酸複塩に共沈させるための重要な操作であり、アルカリ金属硫酸塩を添加した溶液を攪拌することによって、重希土類元素の共沈を促進させることができ、効果的に重希土類元素を回収することができる。
【0041】
攪拌時間としては、特に限定されないが、20分以上攪拌することが好ましく、60分以上攪拌することがより好ましい。20分以上攪拌することによって、効果的に共沈殿物を形成させて重希土類元素を回収することができ、また60分以上攪拌することによって、ほぼ完全に溶液中の重希土類元素を沈殿させ、より高い回収率で回収することができる。
【0042】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法は、重希土類元素と軽希土類元素とを含有する溶液に、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として27g/lの濃度となるように添加して攪拌する。これにより、溶液中の重希土類元素を軽希土類元素について形成された硫酸複塩の沈殿物に共沈させることができる。そして、この共沈殿物を回収することによって、重希土類元素を効率的にかつ高い回収率で回収することができる。
【0043】
また、本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法では、重希土類元素と軽希土類元素とを含有する溶液に対してアルカリ金属硫酸塩を添加するに際して、併せて、種晶として希土類の硫酸複塩沈殿物を、例えばスラリー濃度で25g/l以上となるように添加することができる。これにより、その種晶に対して重希土類元素の共沈を生じさせることができるので、重希土類元素の共沈を促進させることができ、より効率的にかつより高い回収率で重希土類元素を回収することができる。
【0044】
特に、この重希土類元素の回収方法は、例えば電池や電子機器等の重希土類元素を含有する使用済み製品について、これを硫酸等で浸出して得られた浸出液を対象として行うことができる。これにより、使用済みの電池等から、低いコストでかつ複雑な処理を行うことなく、しかも高い回収率で重希土類元素を回収することができる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0046】
<アルカリ金属硫酸塩の濃度について>
(実施例1)
軽希土類元素としてランタン(La)を含有し、重希土類元素としてイットリウム(Y)を含有する溶液を用いて試験した。具体的に、ランタン濃度が13.0g/lであり、イットリウム濃度が0.74g/lである硫酸水溶液を用い、溶液のpHは1〜2に調整した。また、溶液の温度は、80℃となるように調整して元液とした。
【0047】
次に、上記の元液を80℃に維持したまま、この硫酸水溶液にアルカリ金属硫酸塩である硫酸ナトリウムの濃度がそれぞれ下記表1の濃度となるように無水硫酸ナトリウムを添加した溶液を10種類作成した。そして、各溶液をスターラーで40分間攪拌した。
【0048】
攪拌終了後、濾過操作を行って各溶液中に生成した沈殿物を回収し、沈殿物除去後の溶液中のイットリウム濃度をICPで分析した。下記表1に、各硫酸ナトリウム濃度に対する反応前後の溶液中のイットリウム濃度を示す。また、図1に、硫酸ナトリウム濃度(g/l)に対する溶液中のYの回収率(%)の推移を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1及び図1の結果からわかるように、硫酸ナトリウムの濃度を40g/l(硫酸イオン濃度として27g/l)以上となるように添加することによって、溶液中のイットリウムの半分以上の割合を沈殿回収することができた。また、硫酸ナトリウムを80g/l(硫酸イオン換算で54g/l)以上の濃度となるように添加することによって、ほぼ完全に、溶液中のイットリウムを沈殿回収することができた。
【0051】
なお、硫酸ナトリウムを100g/l(硫酸イオン濃度として68g/l)よりも高い濃度となるように添加しても、それ以上回収率は向上せず、また140g/l(硫酸イオン濃度として95g/l)以上の添加ではわずかながら低下していることがわかる。
【0052】
したがって、軽希土類元素と重希土類元素とを含有した溶液に、硫酸ナトリウムを少なくとも40g/l以上(硫酸イオン濃度として27g/l以上)、好ましくは80g/l以上であり、かつ100g/l以下(硫酸イオン濃度として54g/l以上68g/l以下)の濃度となるように添加することによって、効率的にかつ高い回収率で重希土類元素を回収できることがわかる。
【0053】
<溶液の温度について>
(実施例2)
実施例2では、軽希土類元素と重希土類元素とを含有する溶液の温度の影響について調べた。具体的には、実施例1と同様に、ランタン13.0g/l、イットリウム0.74g/lを含有するpH1〜2の硫酸水溶液を用い、この溶液の液温を下記表2に示すように25℃、60℃及び80℃の3つの条件となるように調整して維持した。
【0054】
次に、設定した液温を維持したまま、各硫酸水溶液に、アルカリ金属硫酸塩である硫酸ナトリウム濃度が90g/l(硫酸イオン濃度として61g/l)の濃度となるように、それぞれ無水硫酸ナトリウムを添加し、その後スターラーで60分間攪拌した。
【0055】
攪拌終了後、濾過操作を行って各溶液中に生成した沈殿物を回収し、沈殿物除去後の溶液中のイットリウム濃度をICPで分析した。下記表2に、各液温に対する反応前後の溶液中のイットリウム濃度を示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2の結果からわかるように、高い液温条件で反応させることによって、より効果的に重希土類元素を回収できることがわかる。これは、高い液温条件とすることで、軽希土類元素の硫酸複塩生成反応が促進されるとともに、生成された硫酸複塩への重希土類元素の共沈が進むためであると考えられる。
【0058】
例えば、60℃の液温条件では、溶液中の9割以上の重希土類元素を回収でき、80℃の液温条件では、ほぼ完全に溶液中の重希土類元素を回収できることがわかる。
【0059】
<攪拌時間について>
(実施例3)
実施例3では、軽希土類元素と重希土類元素とを含有する溶液にアルカリ金属硫酸塩を添加して攪拌する際の攪拌時間の影響について調べた。具体的には、実施例1と同様に、ランタン13.0g/l、イットリウム0.74g/lを含有するpH1〜2の硫酸水溶液を用い、溶液の温度は60℃に維持した。そして、その液温を維持したまま、硫酸ナトリウム濃度が90g/l(硫酸イオン濃度として61g/l)となるように無水硫酸ナトリウムを添加した。
【0060】
添加後、下記表3に示すような攪拌時間で攪拌した6種類の溶液を作成した。なお、攪拌は、スターラーを用いて行った。
【0061】
攪拌終了後、濾過操作を行って各溶液中に生成した沈殿物を回収し、沈殿物除去後の溶液中のイットリウム濃度をICPで分析した。下記表3に、各攪拌時間に対する反応前後の溶液中のイットリウム濃度を示す。また、図2に、攪拌時間(min)に対する溶液中のYの回収率(%)の推移を示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3及び図2の結果からわかるように、攪拌時間を長くするに従い、反応終了後のイットリウムの濃度が減少し、イットリウムの回収率が高くなっていることがわかる。これは、攪拌を継続させることによって軽希土類元素の硫酸複塩生成反応が促進されるとともに、その硫酸複塩への重希土類元素の共沈が進むためであると考えられる。
【0064】
特に、20分以上攪拌することによって、溶液中の重希土類元素を7割以上の高い回収率で回収でき、60分以上攪拌することによって、溶液中の重希土類元素を9割以上の高い回収率で回収できることがわかる。
【0065】
<軽希土類元素と重希土類元素とのモル比率について>
(実施例4)
実施例4では、軽希土類元素と重希土類元素とを含有する溶液において、軽希土類元素の重希土類元素に対するモル比率の影響について調べた。具体的には、pH1〜2に調整した硫酸水溶液に含有されるランタンとイットリウムとを、ランタン濃度/イットリウム濃度で表したモル比率(La/Y)が下記表4に示すような値となるようにランタンとイットリウムとを添加して調整した9種類の溶液を作成した。また、これら溶液の温度は、全て60℃に調整した。
【0066】
次に、液温を60℃に維持したまま、各硫酸水溶液に、硫酸ナトリウム濃度が90g/l(硫酸イオン濃度として61g/l)となるように無水硫酸ナトリウムを添加して、スターラーで60分間攪拌した。
【0067】
攪拌終了後、濾過操作を行って各溶液中に生成した沈殿物を回収し、沈殿物除去後の溶液中のイットリウム濃度をICPで分析した。下記表4に、各モル比率(La/Y)に対する反応前後の溶液中のイットリウム濃度を示す。また、図3に、モル比率(La/Y)に対する溶液中のYの回収率(%)の推移を示す。
【0068】
【表4】

【0069】
表4及び図3の結果からわかるように、軽希土類元素であるランタンが含まれていない場合には、硫酸水溶液からほとんどイットリウムを回収することができなかった。これは、ランタン等の軽希土類元素が存在しない場合には軽希土類元素の硫酸複塩が生成されないことにより、重希土類元素の共沈が起こらないためと推測できる。
【0070】
一方、ランタンの含有量が増加するに従い、イットリウムの回収率も向上することがわかる。これは、軽希土類元素の増加に伴って生成する硫酸複塩が増加し、その結果、その硫酸複塩に共沈する重希土類元素が増加したためと推測できる。
【0071】
特に、軽希土類元素の重希土類元素に対するモル比率を3以上、より好ましくは8以上とすることによって、高い回収率でイットリウムを回収できることがわかる。
【0072】
<重希土類元素の種類について>
(実施例5)
希土類元素は、相互の分離が困難なほど化学的性質が近似することが知られているが、実施例5ではその重希土類元素の種類の影響について調べた。具体的には、ランタンが15〜18g/lを含有するpH1〜2の硫酸水溶液に、表5に示すように重希土類元素であるエルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)を添加した3種類の溶液を作成した。これら溶液の温度は、全て80℃に調整した。
【0073】
次に、液温を80℃に維持したまま、各硫酸水溶液に、硫酸ナトリウム濃度が90g/l(硫酸イオン濃度として61g/l)となるように無水硫酸ナトリウムを添加して、スターラーで40分間攪拌した。
【0074】
攪拌終了後、濾過操作を行って各溶液中に生成した沈殿物を回収し、沈殿物除去後の溶液中の希土類元素濃度をICPで分析した。下記表5に、各重希土類元素を添加した溶液中の反応前後の重希土類元素濃度を示す。
【0075】
【表5】

【0076】
表5の結果からわかるように、上述の実施例1〜4において用いたイットリウム同様に、エルビウム、ホルミウム、ツリウムの他の重希土類元素についても、アルカリ金属硫酸塩を所定濃度となるように添加することによって、これら重希土類元素を高い回収率で回収できることがわかる。
【0077】
<種晶の添加について>
(実施例6)
上記実施例1と同じ元液を使用し、80℃に維持したまま、当該元液に種晶として希土類の硫酸複塩沈殿物を、最終的な液量200mlに対してスラリー濃度で25g/lになるように乾燥重量に換算して5g添加し、攪拌混合した。なお、添加した希土類の硫酸複塩沈殿物は、上記実施例1において得られた硫酸複塩沈殿物を使用した。
【0078】
次に、アルカリ金属硫酸塩である硫酸ナトリウムを180g/lで含有する水溶液を100ml添加して、液中の硫酸ナトリウム濃度が90g/l(硫酸イオン濃度で61g/l)になるように調整し、硫酸複塩生成反応を生じさせた。その後、液量200mlの希土類硫酸複塩のスラリーを作成して固液分離した。
【0079】
(実施例7)
実施例7では、元液に種晶として希土類の硫酸複塩沈殿物を、最終的な液量200mlに対してスラリー濃度で50g/lになるように乾燥重量に換算して10g添加し、攪拌混合したこと以外は、上記実施例6と同様にして硫酸複塩生成反応を生じさせ、硫酸複塩沈殿物を固液分離した。
【0080】
(実施例8)
実施例8では、元液に種晶として希土類の硫酸複塩沈殿物を、最終的な液量200mlに対してスラリー濃度で100g/lになるように乾燥重量に換算して20g添加し、攪拌混合したこと以外は、上記実施例6と同様にして硫酸複塩生成反応を生じさせ、硫酸複塩沈殿物を固液分離した。
【0081】
(実施例9)
実施例9では、元液に種晶を添加しなかったこと以外は、上記実施例6と同様にして硫酸複塩生成反応を生じさせ、硫酸複塩沈殿物を固液分離した。
【0082】
(実施例10)
実施例10では、上記実施例1と同じ元液を使用し、80℃に維持したまま、この硫酸水溶液にアルカリ金属硫酸塩である硫酸ナトリウムを180g/lで含有する水溶液を100ml添加して液中の硫酸ナトリウム濃度が90g/l(硫酸イオン濃度で61g/l)になるように調整した。
【0083】
そしてその後に、種晶として希土類の硫酸複塩澱物を、最終的な液量に対するスラリー濃度で25g/lになるように乾燥重量に換算して5g添加して攪拌混合した。得られた硫酸複塩沈澱物は、固液分離した。
【0084】
下記表6に、上記実施例6〜10において添加した種晶の濃度(g/l)、濾液中のY濃度(g/l)、及びY沈殿率(%)を示す。なお、元液中のY濃度は0.74g/lであるため、希釈の効果によって沈澱率0%の場合にはYは0.36g/lになり、この値に対して固形物(沈殿物)に移行したYの率が、表1のY沈澱率である。
【0085】
【表6】

【0086】
表6の結果から分かるように、種晶を添加しなかった実施例9におけるYの沈殿率が約16%であったのに対して、種晶を25g/l以上添加した実施例6〜8、10では、65%以上の沈殿率(すなわち回収率)となった。このことから、溶液に種晶を添加することによって、Yの回収率を向上させることができることがわかった。
【0087】
なお、種晶をアルカリ金属硫酸塩の添加の後に添加した実施例10の場合では、同じ条件で種晶をアルカリ金属硫酸塩の添加の前に添加した実施例6に比べて、沈澱の生成に時間を要し、さらに微細な析出が生じたためか濾液中のY濃度もやや高めとなり、Y沈澱率もやや低めであった。このことから、種晶は、アルカリ金属硫酸塩の添加の前に溶液に添加することがより好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重希土類元素と軽希土類元素とを含有する溶液に、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として27g/l以上となるように添加して攪拌し、上記重希土類元素を上記軽希土類元素の硫酸複塩に共沈させて回収する重希土類元素の回収方法。
【請求項2】
上記アルカリ金属硫酸塩は、硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1記載の重希土類元素の回収方法。
【請求項3】
上記溶液の温度を55℃以上100℃以下とすることを特徴とする請求項1又は2記載の重希土類元素の回収方法。
【請求項4】
上記アルカリ金属硫酸塩を添加した後、20分以上攪拌することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の重希土類元素の回収方法。
【請求項5】
上記アルカリ金属硫酸塩の添加前の上記溶液に含有される軽希土類元素の重希土類元素に対するモル比率が3以上となるように、該溶液を調整することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の重希土類元素の回収方法。
【請求項6】
上記溶液に上記アルカリ金属硫酸塩を添加する際に、該溶液に希土類元素の硫酸複塩沈殿物を添加することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の重希土類元素の回収方法。
【請求項7】
上記希土類元素の硫酸複塩沈殿物の添加量は、上記共沈による共沈殿物を生じさせる時点における溶液量に対してスラリー濃度で25g/L以上であることを特徴とする請求項6記載の重希土類元素の回収方法。
【請求項8】
上記溶液に上記アルカリ金属硫酸塩を添加する前に、上記希土類元素の硫酸複塩沈殿物を該溶液に添加することを特徴とする請求項6又は7記載の重希土類元素の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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