説明

重構造物移動装置

【課題】路盤材上に重構造物を載置して移動させるためのコロ棒を不要にするとともに、ジャッキストロークに合わせたレールクランプの盛り替え作業等の容易化を図り得る重構造物移動装置を提供する。
【解決手段】路盤材2に移動可能に固定された可動式クランプ6に油圧ジャッキ5を連結し、油圧ジャッキ5に押動部材13を連結する。押動部材13により第1の枠体12の一端が移動方向に付勢されるのであるが、第1の枠体12には路盤材2に摺動する摺動部材11が設けられ、第1の枠体12の上部には第2の枠体14と重構造物3を載置する弾性材15が積層状態に設けられている。従って、第1の枠体12を付勢することにより、路盤材2に沿って重構造物3を移動させることができる。そして、所定距離移動後にあっては、各部材が連結されているので、次の移動のための位置決め等を容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばビルディングや家屋、更に橋梁等の重構造物を移動させる際に用いて好適な重構造物移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルディングや橋梁等の重構造物を移動させる場合、従来は重構造部の重量を舟板鉄板、サンドル、楔、なじみ板からなる転動装置を介して、図10に示すように路盤材31上に適宜間隔で配設したコロ棒32に伝えていた。なお、路盤材31は鉄道用レール等の所謂H型鋼であり、この路盤材31を構成する上側板31aにレールクランプや推進ジャッキ(何れも図示せず)が設けられ、レールクランプを支点として構造物荷重から反力をとり、推進ジャッキにより重構造物を押すことでコロ棒32を回転させ、重構造物を移動させていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したような従来の重構造物移動装置にあっては、ジャッキストロークに合わせてレールクランプの盛り替え、移動量に合わせたコロ棒の盛り替えが必要になる。レールクランプの盛り替えには、ジャッキストロークの寸法合わせ、楔の外し、レールクランプの移動、楔の打ち込み作業等が必要になる。
また、コロ棒の盛り替えを行うため、移動量に合わせて常時作業員が監視を行う必要がある。
一方、移動経路を構成する路盤材として、汎用性の少ない鉄道用レールが用いられることが多いが、その設置時には不陸や誤差が生じる。また、コロ棒32は、本来は図12に実線で示すように路盤材31に対し直交するように配設されるのであるが、移動中に想像線で示すように位置ずれしたり、甚だしい場合には脱落することもある。このようなコロ棒32の向きのずれ、荷重の掛かり方の違いによって、或いは他の移動装置との押し方の違いから偏心力が働き、移動装置同士が競り合う現象が発生することがある。
【0004】
本発明は、前記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、路盤材に移動可能に固定される可動式クランプ、重構造物を載置した状態で押動する押動部材、押動部材を付勢する駆動部材等を連結して重構造物を連続的に移動させるように構成した重構造物移動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、下記構成により達成される。
予め敷設した路盤材上に重構造物を載置し、前記重構造物を付勢して所定方向に移動させる重構造物移動装置において、前記路盤材の側面に沿って移動する平板状の摺動部材と、前記摺動部材を収容状態で移動する第1の枠体と、前記第1の枠体に積層される第2の枠体と、前記第2の枠体に収容された状態で前記重構造物を載置する平板状の弾性体と、積層された前記第1及び第2の枠体間に挿入される楔型部及び前記第1の枠体の一端に当接して所定方向に付勢する当接部を設けた押動部材と、前記路盤材の一端に移動可能に固定された可動式クランプと前記押動部材に連結され、動力制御に応じて前記押動部材を付勢する駆動部材と、を備えたことを特徴とする重構造物移動装置。
【0006】
前記重構造物移動装置によれば、路盤材に移動可能に固定された可動式クランプに連結された駆動部材が動作し、駆動部材に連結された押動部材が第1の枠体を所定方向に付勢する。また、第1の枠体には路盤材に沿って摺動する平板状の摺動部材が設けられ、これに第2の枠体に収納された弾性材が積層され、その上部に重構造物が載置される。
従って、第1の枠体を付勢することにより、可動式クランプを支点として重構造物を路盤材に沿って移動させることができる。
【0007】
前記路盤材は、上下一対の鋼板と、前記鋼板間を連結する連結部とを備えたH型鋼であることを特徴とする重構造物移動装置。
【0008】
前記構成によれば、敷設時に上側となる側板に可動式クランプを容易に固定することができる。
【0009】
前記駆動部材は、前記路盤材の一端に着脱自在に固定される可動式クランプに連結され、且つ可動式クランプを支点として油圧制御により伸縮するオイルジャッキであることを特徴とする重構造物移動装置。
【0010】
前記構成によれば、オイルジャッキは可動式クランプを支点として重構造物を移動させることができ、可動式クランプとオイルジャッキとは一体に移動、位置決めを行うことができる。
【0011】
前記路盤材を構成する上下一対の鋼板間に挿入される板材と、前記鋼板材の一端を溝部に差し込んだ状態で前記板材と前記鋼板との間に圧入される圧入部材とからなる補強部材により、前記路盤材を補強することを特徴とする重構造物移動装置。
【0012】
前記構成によれば、板材の一端を圧入材に形成した溝部に差込み、次いで上下一体の鋼板間に挿入し、圧入部材を打ち込むことにより路盤材を補強することができる。
【0013】
前記第2の枠体の突状枠部と前記平板状の弾性体との間に所定間隔の隙間が形成されていることを特徴とする重構造物移動装置。
【0014】
前記構成によれば、重構造物のずれ等により平板状の弾性体が移動しても、突状枠部からはみ出したり、抜け落ちたりすることがなく、重構造物の移動中に作業員が監視したり、手直しする手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0015】
以上に説明したように、本発明によれば、路盤材に移動可能に固定された可動式クランプと駆動部材である油圧ジャッキ、油圧ジャッキと押動部材とは連結し、押動部材によって重構造体を載置した第1の枠体が付勢される。第1の枠体には路盤材の側面に沿って摺動部材が固定されるとともに、第1の枠体上には第2の枠体が積層され、第2の枠体には重構造物を載置する弾性材が設けられている。従って、油圧ジャッキを駆動することにより、可動式クランプを支点として重構造物が路盤材上を移動する。
コロ棒等は不要であり、移動作業中における作業員の監視、手直し作業が不要になり、重構造物を円滑に且つ効率よく移動させることができる。
また、油圧ジャッキの1ストローク分を移動した後、可動式クランプの位置を替えるのであるが、油圧ジャッキ等と連結しているので、位置決め及び固定作業が容易であり、作業時間の短縮、作業人員の削減を図ることができる。
更に、摺動部材、弾性材の採用により、不陸、水平方向の誤差、偏心応力を最小限に抑えることができる。
また、移動予定距離完了後の横方向の微調整も容易になる等の種々の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態である重構造物移動装置の全体構成を示す側面図、図2は重構造物移動装置の要部構成を示す断面図、図3は重構造物移動装置の構成を示す要部の平面図、図4は第1の枠体の構成を示す要部の断面図、図5は第1及び第2の枠体の積層構造を示す要部の断面図、図6は第2の枠体の構成を示す平面図、図7は可動式クランプの構成を示す斜視図、図8は補強部材の構成を示す斜視図、図9は補強部材の固定方法を示す斜視図であり、図10は従来技術を説明するための図である。
【0017】
先ず、図1〜図3を参照して本実施形態における重構造物移動装置1(以下、単に移動装置1と略称する)の構成を説明する。
移動装置1は、予め敷設した路盤材2上に重構造物3を載置した状態で、所定方向、例えば矢印A方向に移動させるものである。なお、路盤材2としては、図2に示すようにH型鋼が適用され、敷設本数は重構造物3の大きさや重量によって自在に変更される。重構造物3はビルディングや橋梁等であり、ときには7000tもの重量の構造物を移動させることがある。
重構造物3を移動させる場合、駆動部材である油圧ジャッキ5を油圧制御により駆動して、路盤材2の上側板2aの一端に移動自在に固定された可動式クランプ6を支点として、重構造物3を矢印A方向に押動する。
【0018】
即ち、移動装置1の全体構成は図1〜図3に示されているが、以下に図4〜図6を参照して要部の構成を説明する。
路盤材2を構成する上側板2aの上側面に、本発明でいう平板状の摺動部材11が配設されているが、摺動部材11は長手状の第1の枠体12内に固定されている。枠体12は、図4に示すように中央部に長手方向に凹部が形成され、その内部に摺動部材11が嵌め込まれている。なお、摺動部材11の横幅Wは、上側板2aの幅W1、枠体12の内幅W2の何れよりも小になっている。但し、図5に示すように、摺動部材11の長さLは、枠体12の略全長にわたっているが、両端部は枠体12の両端部12aにより覆われている。
【0019】
枠体12の上部には、押動部材13の楔部13aが位置し、その上部に第2の枠体14が位置決めされ、第2の枠体14内には平板状の弾性材15が収納されている。第2の枠体14は、図5及び図6に示すように、底の浅いトレー形状に形成され、その内部に平板状の弾性材15が収納されている。但し、弾性材15は、枠体12の内部全体を覆う大きさではなく、図2、図5、図6からわかるように枠体14の突状枠部14aとの間に隙間Gが形成されている。従って、図6に想像線で示したように、重構造物3の移動中に摩擦等により位置ずれすることがあるが、突状枠部14aに当たって位置規制され、移動中における抜け落ちや滑り落ちを防止できるように構成されている。
【0020】
次に、可動式クランプ6について説明する。
可動式クランプ6は、図1に実線でまた図7に想像線で示したように上側板2aに挟み込まれた状態で使用される。可動式クランプ6は、鋼材を平型四角形に形成したものであり、一側面に楔型の空間を対向するように形成した挿入部6aが形成され、その表面には上側板2aへの食い込みをよくするために鋸歯状の歯型6bが形成されている。また、可動式クランプ6には、他の可動式クランプと連結する連結シャフト21が固定され、側面に形成された突起には油圧ジャッキ5を連結するための連結シャフト22が固定されている。なお、連結シャフト21による可動式クランプ6同士の連結状況と、連結シャフト22による油圧ジャッキ5との連結状況は図3に示されている。
【0021】
そして、可動式クランプ6を上側板2aに取り付ける場合は、挿入部6aに上側板2aを差し込むだけでよいのであるが、図3のように組み立てた状態で油圧ジャッキ5を駆動すると、当初は矢印Xの位置にあったものが、矢印Yに示すように傾斜し、歯6bが上側板2aの上側面と下側面とに食い込み固定状態になる。
従って、油圧ジャッキ5による加圧が強くなるほど、言い換えれば重構造物3が重いほど強く食い込み、重構造物3を確実に押動できるようになる。
【0022】
次に、補強部材7について説明する。
補強部材7は、図8及び図9に示すように、台形状の板材7aと圧入部材7bとにより構成されている。板材7aは図8に矢印Bで示すように上側板2aと下側板2bとの間に縦方向に差し込まれるものであり、縦方向の寸法は上下側板2a,2b間の寸法よりやや小に設定されている。また、板材7aの上端部の両側には、板材7aの変形を防止する補強板7cが溶接等により一体に設けられている。
【0023】
一方、圧入部材7bは一辺が水平で他辺が傾斜した形状のものであり、長手方向に傾斜した溝部7dが形成されている。そして、補強部材7により路盤材2を補強する場合は、図9に示すように先ず板材7aを上下側板2a,2b間に差し込み、次に板材7aの下端に形成した傾斜部7eを圧入部材7bの溝部7dに差し込み、この状態で圧入部材7bをハンマー等で矢印C方向に打ち込んで固定する。
前記補強部材7の固定は、上下側板2a,2bの両側において、適宜間隔で行われる。この結果、図1及び図2に示すように、上下側板2a,2bは両側から適宜間隔で補強されることになり、上側板2aに重構造物3の重量が掛かった場合の撓みや変形を防止できる。
【0024】
次に、移動装置1の作用を説明する。
可動式クランプ6は、前記のように路盤材2に固定され、対構造の可動式クランプ6は図3に示すように連結シャフト21により連結される。
【0025】
そして、図1に示すように移動装置1を組み立てて油圧ジャッキ5を駆動すると、図7を参照して説明したように可動式クランプ6が傾斜し、歯型6bが上側板2aに食い込んで固定状態になる。
この状態で油圧ジャッキ5を駆動すると、可動式クランプ6を支点として押動部材13を矢印A方向に押すようになる。押動部材13の下端は、図1及び図3に示ように第1の枠体12の端部に当接している。従って、第1の枠体12と摺動部材11が一体に矢印A方向に移動し、第2の枠体14、弾性材15を介して重構造物3を移動させる。
【0026】
重構造物3の移動中、摺動部材11は上側板2aの表面を円滑に滑り、弾性材15は重構造物3を安定に保持する。この際、移動方向のずれ等により弾性材15が移動することがあるが、突状枠部14aによってはみ出したり、抜け落ちたりすることがない。
従って、作業員の監視作業、手直し作業を削減することができ、移動作業を効率的に行うことができる。
【0027】
なお、前記摺動部材11としては、MCナイロン(日本ポリペンコ株式会社の商標名)が好適であるが、耐熱性、引張強度、摺動性等に優れたものであれば、利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態を示す重構造物移動装置の側面図である。
【図2】重構造物移動装置の構成を示す断面図である。
【図3】重構造物移動装置の構成を示す平面図である。
【図4】第1の枠体の構成を示す断面図である。
【図5】押動部材の構成を示す側面図である。
【図6】第2の枠体の構成を示す平面図である。
【図7】可動式クランプの構成を示す斜視図である。
【図8】補強部材の構成を示す斜視図である。
【図9】補強部材の取り付けを示す斜視図である。
【図10】移動中のコロ棒の形態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 重構造物移動装置
2 路盤材
3 重構造物
5 油圧ジャッキ
6 可動式クランプ
7 補強部材
11 摺動部材
12 第1の枠体
13 押動部材
14 第2の枠体
15 弾性体
21 連結シャフト
22 連結シャフト
23 連結シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め敷設した路盤材上に重構造物を載置し、前記重構造物を付勢して所定方向に移動させる重構造物移動装置において、前記路盤材の側面に沿って移動する平板状の摺動部材と、前記摺動部材を収容状態で移動する第1の枠体と、前記第1の枠体に積層される第2の枠体と、前記第2の枠体に収容された状態で前記重構造物を載置する平板状の弾性体と、積層された前記第1及び第2の枠体間に挿入される楔型部及び前記第1の枠体の一端に当接して所定方向に付勢する当接部を設けた押動部材と、前記路盤材の一端に移動可能に固定された可動式クランプと前記押動部材に連結され動力制御に応じて前記押動部材を付勢する駆動部材と、を備えたことを特徴とする重構造物移動装置。
【請求項2】
前記路盤材が、上下一対の鋼板と、前記鋼板間を連結する連結部とを備えたH型鋼であることを特徴とする請求項1記載の重構造物移動装置。
【請求項3】
前記駆動部材が、前記路盤材の一端に着脱自在に固定される可動式クランプに連結され、且つ可動式クランプを支点として油圧制御により伸縮するオイルジャッキであることを特徴とする請求項1記載の重構造物移動装置。
【請求項4】
前記路盤材を構成する上下一対の鋼板間に挿入される板材と、前記板材の一端を溝部に差し込んだ状態で前記板材と前記鋼板との間に圧入される圧入部材とからなる補強部材により、前記路盤材を補強することを特徴とする請求項1記載の重構造物移動装置。
【請求項5】
前記第2の枠体の突状枠部と前記平板状の弾性体との間に所定間隔の隙間が形成されていることを特徴とする請求項1記載の重構造物移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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