説明

重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法

【課題】様々な原料化合物に対して適用でき、操作が簡便であり、目的物を高収率で得られる、重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】重水、遷移金属、及び重水素を発生させる金属の存在下、芳香環又は複素環を有する化合物を加熱することを特徴とする重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法。重水素を発生させる金属としては、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、鉛及びスズからなる群から選択される一種以上が好ましく、遷移金属としては、プラチナ、パラジウム及びルテニウムからなる群から選択される一種以上が好ましい。加熱はマイクロ波照射により行うのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法に関する。より具体的には、化合物中の芳香環又は複素環に重水素原子を結合させることで、重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重水素原子は水素原子の安定同位体の一種であり、水素原子とは物理的性質が異なる。したがって、重水素化された化合物は、通常の化合物とは物性が異なるだけなく、異なる化学反応性を示すことがある。このような特徴から、化合物を重水素化することにより、これまでにない機能を付与できる可能性があり、電子材料、有機EL材料等をはじめとする様々な機能性材料の開発が期待される。
また、従来から重水素化化合物は、質量分析等、化学物質の微量分析における内部標準物質として利用されており、様々な重水素化化合物が得られれば、分析分野における大きな技術発展が可能になると期待されている。例えば、重水素化化合物を生体に投与することで、薬物動態の解析が可能となるため、創薬技術や医療技術の向上が見込まれる。また、身近な問題として、食品中の残留農薬の検出に関する問題がある。日本では、2006年5月29日に残留農薬基準法(所謂ポジティブリスト制度)が施行されており、今後、食品の安全管理がますます重要な課題となる。したがって、残留農薬の定量にも、内部標準物質として様々な重水素化化合物の利用が見込まれる。
このような背景から、所望の重水素化化合物を簡便かつ安価に製造できる技術の開発が望まれている。
【0003】
上記のような医薬や農薬の分野で解析対象となる化学物質は、生体内での化学反応に関与するという性質上、芳香環や複素環を有するものが多いのが特徴である。したがって、芳香環又は複素環を有する化合物を重水素化する技術の確立は、とりわけ重要である。
従来、芳香環を有する化合物を重水素化する方法としては、例えば、予め水素ガスで還元したパラジウム触媒を用い、加熱条件下で芳香族化合物を重水素化する方法が開示されている(非特許文献1参照)。
また、複素環を有する化合物を重水素化する方法としては、例えば、重水素化された溶媒中で、活性化された金属触媒存在下、複素環を有する化合物を密封状態で加熱還流する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【非特許文献1】Christopher Hardacre, John D.Holbrey and S.E.Jane McMath,Chem.Commun.,2001,367−378
【特許文献1】国際公開第2004/046066号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1に記載の方法は、水素ガスで還元したパラジウム触媒を、重水素化反応へ供する前に、繰り返し凍結脱気する必要があるなど、操作が煩雑であるという問題点があった。
また、特許文献1に記載の方法は、反応開始前に金属触媒を水素ガス又は重水素ガスに接触させて活性化させる必要があるなど、操作が煩雑であるという問題点があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、様々な原料化合物に対して適用でき、操作が簡便であり、目的物を高収率で得られる、重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、重水、遷移金属、及び重水素を発生させる金属の存在下、芳香環又は複素環を有する化合物を加熱することを特徴とする重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法である。
請求項2に記載の発明は、前記重水素を発生させる金属が、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、鉛及びスズからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法である。
請求項3に記載の発明は、前記遷移金属が、プラチナ、パラジウム及びルテニウムからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法である。
請求項4に記載の発明は、マイクロ波照射により加熱することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法である。
請求項5に記載の発明は、加熱時の気相の圧力を0.5〜5MPaとすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法である。
請求項6に記載の発明は、反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合を、化合物の目標重水素化率と同等以上とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、様々な原料化合物を使用して、簡便な操作でかつ高収率で、重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明においては、重水(DO)、遷移金属、及び重水素を発生させる金属の存在下、芳香環又は複素環を有する化合物(以下、原料化合物と略記することがある)を加熱することにより、前記芳香環又は複素環が重水素化された、重水素化化合物を得る。
原料化合物としては、芳香環及び複素環のいずれか一方又は双方を有する化合物が使用できる。
【0009】
前記芳香環又は複素環の重水素化とは、これらの環に重水素原子を結合させることを指す。ここでいう「重水素原子」とは、ジュウテリウム(D,H)又はトリチウム(T,H)のことを指し、「重水素化」とは、ジュウテリウム化又はトリチウム化のことを指す。また、「結合」とは、共有結合等の化学結合を意味する。具体例としては、例えば、前記芳香環又は複素環の環骨格を構成する炭素原子やヘテロ原子に結合している水素原子を重水素原子で置換したり、該環骨格に結合している基がある場合には、この基を構成する水素原子を重水素原子で置換することを指す。
結合させる重水素原子の数は、重水の使用量で調整でき、原料化合物の種類や、目標とする目的物の重水素化率に応じて適宜調整すれば良い。ここで重水素化率とは、原料化合物における重水素原子で置換され得る水素原子の数に対する、重水素化された化合物における重水素原子で置換された水素原子の数の割合(%)を指す。重水素原子で置換され得る水素原子とは、原料化合物が芳香環及び複素環のいずれか一方のみを有するものである場合には、その芳香環又は複素環の環骨格を構成する炭素原子やヘテロ原子に結合している水素原子と、該環骨格に結合している基を構成する水素原子を指す。原料化合物が芳香環及び複素環の双方を有するものである場合には、その芳香環及び複素環の環骨格を構成する炭素原子やヘテロ原子に結合している水素原子と、該環骨格に結合している基を構成する水素原子を指す。
【0010】
(重水)
本発明において、重水の使用量は、原料化合物の種類や、目的物の目標重水素化率等を考慮して適宜調整すれば良い。そして、重水の使用量は、反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合が、目的物の目標重水素化率と同等以上となるように決定することが好ましい。
例えば、目的物の目標重水素化率が90%である場合には、前記割合が好ましくは91〜95%となるようにすると良い。ただし前記割合は、目標重水素化率に応じて、適宜調整することが好ましい。
なお、本発明において反応系とは、反応容器内の反応液及び気相部分を指すものとする。
【0011】
例えば、原料化合物中の重水素原子で置換され得る水素原子の数をA、重水素化された目的物における重水素原子で置換された水素原子の数をBとすると、目的物の重水素化率は、
B/A×100(%)
となる。
ところで、重水中で重水素化反応を行うと仮定した場合、反応容器内の体積に対する重水の体積の割合が通常の範囲内であれば、反応系内の水素原子は、原料化合物と、重水中に混入している水(HO)に由来するものが大半を占める。ここで通常の範囲内とは、反応容器内の体積に対して重水の体積が著しく小さい場合を除いた場合であり、具体的には、例えば、前記割合が5%以上である場合を指す。
一方、反応系内の重水素原子は、重水に由来するものが大半を占める。原料化合物、並びに空気中の水素ガス及び水にも重水素原子が混入している可能性があるが、その量は極微量であるため無視できる。
そこで、原料化合物の使用量をX(mol)、重水の使用量をY(mol)、重水の重水素濃縮度をZ(atom%、重水中の重水素原子及び水素原子の総量に占める重水素の割合)とすると、反応系内における水素原子の量I(mol)は、
I=(X×A)+{Y×2×(100−Z)/100)}
と近似できる。
一方、反応系内における重水素原子の量II(mol)は、
II=Y×2×Z/100
と近似できる。
したがって、反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合III(%)は、
III=II/(I+II)×100
となる。
例えば、原料化合物としてA=8であるフェナジンを0.01mol(=X)、純度99.9atom%(=Z)の重水を2.75mol(=Y)使用した場合であれば、
I=0.01×8+{2.75×2×(100−99.9)/100)}=0.0855
II=2.75×2×99.9/100=5.4945
III=5.4945/(0.0855+5.4945)=98.47(%)
となる。
本発明においては、前記重水素量の割合IIIが、目的物の目標重水素化率「B/A×100」よりも大きくなるように、前記X、Y及びZのいずれか一つ以上を調整することが好ましい。
【0012】
なお、ここでは上記のように、反応容器内の体積に対して重水の体積が著しく小さい場合を除いた条件下での例を挙げた。これに対し、重水の体積が著しく小さい場合でも、例えば、反応容器内の気相部分を、後記するように不活性ガスで置換したり、重水の使用量を増やすことで、何ら支障なく反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合を調整できる。
【0013】
重水としては、純度が、好ましくは90atom%以上、より好ましくは95atom%以上、特に好ましくは99atom%以上のものが好適である。
そして重水素化反応は、重水を溶媒として行うのが好ましい。重水以外のものを溶媒として併用する場合には、水素原子を含まない溶媒を使用することが好ましい。
原料化合物は、必ずしも重水に溶解させる必要性はないが、重水素化反応を円滑に進行させるためには、反応条件を調節するなどして、溶解させることが好ましい。
【0014】
(遷移金属)
本発明において遷移金属とは、第3族〜第11族に属する金属のことを指し、水素化反応の触媒機能を有する公知のものが例示できる。なかでも、プラチナ、パラジウム及びルテニウムが好ましい。より具体的には、活性炭表面に担持された遷移金属が例示でき、このような遷移金属を含む触媒として、プラチナ−活性炭素(プラチナカーボン)、パラジウム−活性炭素(パラジウムカーボン)、ルテニウム−活性炭素(ルテニウムカーボン)及びロジウム−活性炭素(ロジウムカーボン)が好ましく、プラチナ−活性炭素及びパラジウム−活性炭素が特に好ましい。
遷移金属の使用量は触媒量で良く、適宜調整し得るが、原料である芳香環又は複素環を有する化合物に対して、0.05〜10質量%であることが好ましく、0.1〜7質量%であることがより好ましく、0.15〜5質量%であることが特に好ましい。
遷移金属は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択し得る。
【0015】
本発明においては、後記するように重水素を発生させる金属により、重水から重水素が生成され、前記遷移金属は、この重水素により活性化される。したがって、反応開始前に該遷移金属を活性化する必要がない。
【0016】
(重水素を発生させる金属)
重水素を発生させる金属としては、重水と接触することで重水素を発生させる金属が例示でき、例えば、水と接触することで水素を発生させる金属として公知のものが使用できる。なかでも好ましいものとして、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、鉛及びスズが例示でき、アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛がより好ましく、アルミニウムが特に好ましい。
重水素を発生させる金属は、同じ質量で比較した時の重水との接触面を大きくできることから、粉末状のものを使用するのが好ましい。
重水素を発生させる金属の使用量は適宜調整し得るが、触媒量でも良く、原料化合物に対して、1〜80質量%であることが好ましく、2〜60質量%であることがより好ましく、3〜50質量%であることが特に好ましい。
重水素を発生させる金属は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択し得る。
【0017】
(芳香環又は複素環を有する化合物)
本発明において、芳香環又は複素環を有する化合物(原料化合物)とは、芳香環及び複素環の少なくとも一方を有する化合物を指す。したがって、芳香環及び複素環の双方を有する化合物でも良い。
【0018】
芳香環は、単環式及び多環式のいずれでも良いが、単環式であることが好ましい。多環式である場合には二環式であることが好ましい。
芳香環において、一つの環骨格を構成する炭素原子の数は特に限定されないが、5〜7であることが好ましく、5又は6であることがより好ましく、6であることが特に好ましい。
【0019】
芳香環を有する化合物として具体的には、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ピロカテコール、レソルシノール、ハイドロキノン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、1−ナフトール、2−ナフトール、ビフェニル、アズレン、1−アントロール、2−アントロール、9−アントロール、1−フェナントロール、2−フェナントロール、3−フェナントロール、4−フェナントロール、9−フェナントロール、アニリン、ジフェニルアミン、2,6−ジメチルアニリン、ベンジジン、安息香酸、サリチル酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ベンズアルデヒド、サリチル酸、1−ナフトアルデヒド、2−ナフトアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等が例示できる。
なかでも好ましいものとして、ベンゼン、トルエン、ジフェニルアミン、2,6−ジメチルアニリンが例示できる。
【0020】
複素環とは、環骨格中にヘテロ原子を有するものであり、ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子又はケイ素原子が好ましく、窒素原子又は硫黄原子がより好ましい。複素環は芳香族性を示すもの及び示さないもののいずれでも良いが、芳香族性を示すものが好ましい。
複素環において、一つの環骨格中のヘテロ原子の数は、該環骨格を構成する原子の総数にもより、特に限定されないが、通常は1〜3であることが好ましく、1又は2であることが特に好ましい。一つの環骨格中のヘテロ原子の数が複数である場合には、これら複数のヘテロ原子は、すべて同一種類でも良いし、一部が同一種類でも良く、すべて異なる種類でも良い。一つの環骨格中に複数種類のヘテロ原子を含む場合には、その組み合わせは特に限定されないが、窒素原子及び硫黄原子の組み合わせが好ましい。
複素環を有する化合物は、単環式及び多環式のいずれでも良く、多環式である場合には、二環式又は三環式であることが好ましい。
【0021】
複素環を有する化合物として具体的には、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−メチル−5−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール、2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−エタノール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、2H−ピラン、4H−ピラン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キノリン、イソキノリン、プリン、インドール、ベンゾイミダゾール、2−ヒドロキシベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、ベンゾチオフェン、フェナジン、フェノチアジン、ニコチン酸、イソニコチン酸、ニコチンアルデヒド、イソニコチンアルデヒド等が例示できる。
なかでも好ましいものとして、インドール、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−メチル−5−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール、2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−エタノール、2−ヒドロキシベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、ピリジン、イソキノリン、ピラゾール、ベンゾイミダゾール、フェナジン、フェノチアジンが例示できる。
【0022】
芳香環を有する化合物及び複素環を有する化合物としては、例えば、上記で具体的に例示した化合物の少なくとも一つの水素原子が置換基で置換されたものでも良い。置換基で置換される水素原子の数は、芳香環又は複素環の種類にもよるが、1〜3であることが好ましい。
【0023】
前記置換基は、本発明の効果を妨げないものであれば特に限定さない。具体的には、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアリール基、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子が例示できる。
【0024】
前記置換基としてのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。直鎖状及び分岐鎖状のアルキル基は、炭素数が1〜5であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基が例示できる。なかでも、炭素数が1〜3であるものがより好ましく、メチル基が特に好ましい。環状のアルキル基は、単環式及び多環式のいずれでも良く、炭素数が5〜10であることが好ましく、炭素数が5〜7であることがより好ましい。
前記置換基としてのアルケニル基及びアルキニル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。直鎖状及び分岐鎖状のものは、炭素数が2〜4であることが好ましい。環状のものは、単環式及び多環式のいずれでも良く、炭素数が5〜10であることが好ましく、炭素数が5〜7であることがより好ましい。
【0025】
前記置換基としてのアリール基は、単環式及び多環式のいずれでも良いが、単環式のものが好ましく、フェニル基又はトリル基が特に好ましい。
前記置換基としてのアリールアルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも一つの水素原子が前記アリール基で置換されたものが例示できる。前記アリール基で置換される水素原子の数は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0026】
前記置換基としてのアルコキシ基としては、前記アルキル基の炭素原子が酸素原子に結合したものが例示できる。
前記置換基としてのアリールオキシ基としては、前記アルコキシ基の酸素原子に結合しているアルキル基が前記アリール基で置換されたものが例示できる。
【0027】
前記置換基としてのアルコキシアルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも一つの水素原子が前記アルコキシ基で置換されたものが例示できる。前記アルコキシ基で置換される水素原子の数は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
前記置換基としてのアリールオキシアルキル基としては、前記アルコキシアルキル基の酸素原子に結合しているアルキル基が前記アリール基で置換されたものが例示できる。
【0028】
前記置換基としてのアルコキシカルボニルアルキル基としては、前記アルコキシアルキル基の「−O−」が「−O−C(=O)−(ただし、炭素原子に単結合で結合している酸素原子はアルキル基に、炭素原子はアルキレン基にそれぞれ結合する)」で置換されたものが例示できる。
【0029】
前記置換基としてのアルコキシカルボニル基としては、前記アルコキシ基の酸素原子がカルボニル基に結合したものが例示できる。
前記置換基としてのアリールオキシカルボニル基としては、前記アルコキシカルボニル基のアルキル基が前記アリール基で置換されたものが例示できる。
【0030】
前記置換基としてのアルキルカルボニルオキシアルキル基としては、前記アルコキシカルボニルアルキル基の「−O−C(=O)−」が「−C(=O)−O−」で置換されたものが例示できる。
【0031】
前記置換基としてのアルキルカルボニルオキシ基としては、前記アルコキシカルボニル基の「−O−C(=O)−」が「−C(=O)−O−」で置換されたものが例示できる。
前記置換基としてのアリールカルボニルオキシ基としては、前記アルキルカルボニルオキシ基のアルキル基が前記アリール基で置換されたものが例示できる。
【0032】
前記置換基としてのヒドロキシアルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも一つの水素原子が水酸基で置換されたものが例示できる。水酸基で置換される水素原子の数は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。なかでも、炭素数が1〜3であるものが好ましく、ヒドロキシエチル基が特に好ましい。
前記置換基としてのヒドロキシアリール基としては、前記ヒドロキシアルキル基のアルキレン基が、前記アリール基から水素原子を一つ除いたアリーレン基で置換されたものが例示できる。
【0033】
前記置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が例示できる。
【0034】
原料化合物としては、例えば、上記で具体的に例示した芳香環を有する化合物又は複素環を有する化合物から水素原子を除いたもの同士が、水素原子が除かれた原子間で互いに結合した構造を有するものでも良い。この時の互いに結合しているものの組み合わせは特に限定されず、例えば、芳香環のみを有する化合物、複素環のみを有する化合物、芳香環及び複素環を有する化合物からなる群から選択される。また、結合している上記化合物の数は特に限定されないが、2又は3であることが好ましく、2であることが特に好ましい。
このような原料化合物として、好ましいものとしては、2−(4−チアゾイル)ベンゾイミダゾール、1−フェニルイソキノリン、1−フェニルピラゾール、p−トリルピリジン、フェニルピリジンが例示できる。
【0035】
(その他反応条件)
重水素化反応は、重水、遷移金属、及び重水素を発生させる金属の存在下、芳香環又は複素環を有する化合物を加熱することで行うことができる。
加熱方法は、加熱時の温度を所望の範囲に設定できるものであればいずれでも良く、具体的には、オイルバスを使用する加熱、オートクレーブによる加熱、マイクロ波の照射による加熱等が例示できる。これらのなかでも、反応促進効果が高いことから、マイクロ波の照射による加熱が特に好ましい。
【0036】
マイクロ波の照射による加熱で高い反応促進効果が得られる理由は、定かではないが、以下のように推測される。すなわち、重水素を発生させる金属は、重水との作用により重水素を発生させると共に、その表面に不活性な酸化皮膜が形成される。しかし、その少なくとも一部はマイクロ波の作用で破壊され、露出された金属表面が再び重水と作用できるようになるので、重水素の発生効率が向上すると考えられる。これは、水(HO)を使用した同様の実験において、反応容器内の水素(H)分圧が、オイルバスによる加熱を行った場合よりも高くなることからも支持される。このように、重水素の発生量が向上するので、遷移金属がより一層活性化されると共に、さらに遷移金属表面に形成される不動態も、その少なくとも一部がマイクロ波の作用で破壊され、触媒能が向上するのではないかと推測される。また、マイクロ波の照射により、反応液を急速にかつ均一に加熱できるので、重水素原子による水素原子の置換も速やかに進行すると推測される。
【0037】
加熱時の温度は、使用する原料の種類や濃度等を考慮して適宜調整し得るが、100〜250℃であることが好ましく、120〜230℃であることがより好ましく、140〜210℃であることが特に好ましい。
加熱時間は、使用する原料の種類や濃度、加熱時の温度、加熱方法等を考慮して適宜調整し得るが、特に加熱方法に応じて調整すると良い。
例えば、オートクレーブによる加熱の場合には、10〜50時間が好ましく、15〜40時間がより好ましく、20〜30時間が特に好ましい。
また、マイクロ波の照射による加熱の場合には、0.3〜18時間が好ましく、0.5〜12時間がより好ましく、0.7〜9時間が特に好ましい。
オイルバスを使用する加熱など、その他の加熱方法の場合には、上記のオートクレーブによる加熱の場合よりも、さらに長時間とすることが好ましい。
【0038】
加熱時は、さらに反応容器内の気相を加圧することが好ましい。この時の圧力は、0.5〜5MPaであることが好ましく、0.7〜3MPaであることがより好ましく、1〜2MPaであることが特に好ましい。圧力を下限値よりも大きくすることで、高い反応促進効果が得られ、上限値よりも小さくすることで、原料や目的物の分解を抑制する高い効果が得られる。また、圧力が上記上限値よりも小さければ、耐圧性が高い反応装置が不要であり、低コストで目的物を製造できる。
【0039】
重水素化反応時は、反応容器内の気相部分を不活性ガスで置換しても良い。ここで不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスが例示できる。不活性ガスで置換することにより、気相部分から空気中の水素や水を除去でき、反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合をより高くできるので、例えば重水の使用量を低く抑えても、高い重水素化率で目的物が得られる。
【0040】
重水素化反応後は、目的に応じて、得られた反応液をそのまま使用しても良いし、適宜必要に応じて後処理を行い、目的物を取り出して使用しても良い。後処理を行う場合には、抽出、濃縮、ろ過、pH調整等、周知の方法で必要なものを適宜組み合わせて行えば良い。例えば、遷移金属や重水素を発生させる金属は、ろ過により簡便に除去できる。取り出しを行う場合にも、周知の方法を適用すれば良く、例えば、反応液やその後処理物を用いて結晶を析出させてこれをろ過したり、カラムクロマトグラフィー等に供して目的物を分取したりすれば良い。
【0041】
本発明の製造方法は、反応容器中で重水素化反応を行うバッチ式を適用できる。また、例えば、遷移金属、及び重水素を発生させる金属を反応塔に充填し、該反応塔に連結された配管を通じて、芳香環又は複素環を有する化合物と重水を、加熱された前記反応塔に連続的に供給することにより重水素化反応を行う連続式も適用できる。
【0042】
本発明によれば、芳香環又は複素環の重水素化率が高い化合物を高収率で製造できる。重水素化反応は、穏やかな条件下において短時間で進行させることができるので、原料化合物や目的物の分解が抑制されるなど、副生成物の生成が抑制される。また、反応前に遷移金属の活性化も不要であり、重水素源として重水素ガスではなく重水が利用でき、ガスのバブリング等も不要であり、操作も簡便である。このように、安価な原料を使用でき、操作も簡便なので、目的物を安価に製造できる。さらに、原料化合物として様々なものを使用できるので、多種類の重水素化化合物を製造できる。重水素化は、芳香環又は複素環だけでなく、これらに結合している基でも行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において使用した実験装置、分析装置及び試薬は下記の通りである。
(1)実験装置
・マイクロウェーブ反応装置(CEM社製:Discover);反応容器の最大容量が10mLであり、重水3mLスケールでの実験に使用した。
・マイクロウェーブ反応装置(Milestone社製:Micro SYNTH);反応容器の最大容量が80mLであり、重水50mLスケールでの実験に使用した。
・有機合成反応装置(東京理化社製:有機合成装置ChemiSationPPV4060型)
(2)分析装置
・GC−MS:日本電子株式会社社製SUN200
・NMR:日本電子データム株式会社製JNM−GSX270型
(3)試薬
・重水(Deuterium Oxide,99.9atom%D): Isotec製
・パラジウム−活性炭素(Palladium−Activated Carbon 5%Pd):和光純薬株式会社製
・プラチナ−活性炭素(Platinum−Activated Carbon 5%Pt): 和光純薬株式会社製
・アルミニウム粉末(Aluminium Powder 99.9%〜425μm):和光純薬株式会社製
・上記以外の試薬:東京化成株式会社製
【0044】
また、化合物の同定及び重水素化率の算出は、NMR又はGC−MSを測定することで行った。
NMRの測定による化合物の同定は、以下のようにして行った。すなわち、重水素化されていない試料と重水素化された試料についてH−NMRを測定し、重水素化されていない試料では観測されたピークが、重水素化された試料では消失又は大幅に低減していることで、重水素化が進行したことを確認した。具体例として、実施例1におけるNMRの測定データを図1に示す。
また、GC−MSの測定による化合物の同定は、重水素化されていない試料と重水素化された試料についてGC−MSを測定し、重水素化に伴う分子量の変化を支持するデータが得られていることを確認することで行った。具体例として、実施例1におけるGC−MSの測定データを図2に、実施例8におけるGC−MSの測定データを図3にそれぞれ示す。
NMR及びGC−MSの測定方法、並びに重水素化率の算出方法を以下に示す。
(4)NMR測定による重水素化率の算出
内部標準物質を含有したNMR溶媒を用いて、試料を溶解し、H−NMRの測定を行った。そして、内部標準物質又は分子内標準部位のプロトンピークの積分値を基準として、重水素化率を算出した。
(5)GC−MS測定による重水素化率の算出
重水素化されていない試料と重水素化された試料について、同条件でGC−MS分析を行い、得られたフラグメントのピーク強度比より算出した。
【0045】
(実施例1)
フェナジン1.8g、プラチナ−活性炭素(5%)0.2g、アルミニウム粉末0.2gを重水50mlに加え、200℃で180分間マイクロ波照射した。反応時の圧力は1.7〜1.9MPaとした。放冷後、ジクロロメタンで抽出し、H−NMR測定(重クロロホルム(以下、CDClと略記する))及びGC−MS測定(メインピーク(実測値);188.00)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は87.8%、重水素化率は98.9%(平均)であった。
【0046】
【化1】

【0047】
(実施例2)
フェノチアジン200mg、プラチナ−活性炭素(5%)50mg、アルミニウム粉末50mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。実施例1と同様の操作をして、GC−MS測定(メインピーク(実測値);203.00)を行ったところ、重水素化された化合物の重水素化率は106.0%(平均)(d4体)であることが確認された。
【0048】
【化2】

【0049】
(実施例3)
インドール117mg、プラチナ−活性炭素(5%)50mg、アルミニウム粉末50mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。反応時の圧力は1.4〜1.7MPaとした。実施例1と同様の操作をして、GC−MS測定(メインピーク(実測値);123.00)を行ったところ、重水素化された化合物の重水素化率は96.4%(平均)であることが確認された。
【0050】
【化3】

【0051】
(実施例4)
ベンゾイミダゾール118mg、プラチナ−活性炭素(5%)50mg、アルミニウム粉末50mgを重水3mlに加えて180℃で60分間マイクロ波照射した。反応時の圧力は1.4〜1.7MPaとした。実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(ジメチルスルホキシド−d(以下、DMSO−dと略記する))を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は96.9%、重水素化率はそれぞれ(1)91.6%、(2)78.9%、(3)10.0%であることが確認された。ここで(1)〜(3)は下記目的物の重水素(1)〜(3)に対応する。
【0052】
【化4】

【0053】
(実施例5)
2−(4−チアゾイル)ベンゾイミダゾール201mg、プラチナ−活性炭素(5%)50mg、アルミニウム粉末50mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。反応時の圧力は1.4〜1.7MPaとした。実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(DMSO−d)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は67.0%、重水素化率はそれぞれ(1)86.1%、(2)86.0%、(3)10.0%、(4)0%であることが確認された。ここで(1)〜(4)は下記目的物の重水素(1)〜(4)に対応する。
【0054】
【化5】

【0055】
(実施例6)
2−ヒドロキシベンゾイミダゾール134mg、プラチナ−活性炭素(5%)50mg、アルミニウム粉末50mgを重水3mlに加えて180℃で60分間マイクロ波照射した。得られた化合物について、実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(CDCl)を行ったところ、重水素化された化合物の重水素化率は99.0%(平均)であることが確認された。
【0056】
【化6】

【0057】
(実施例7)
2−アミノベンゾイミダゾール133mg、プラチナ−活性炭素(5%)50mg、アルミニウム粉末50mgを重水3mlに加えて180℃で60分間マイクロ波照射した。得られた化合物について、実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(CDCl)を行ったところ、重水素化された化合物の重水素化率は99.0%(平均)であることが確認された。
【0058】
【化7】

【0059】
(実施例8)
2,6−ジメチルアニリン121mg、プラチナ−活性炭素(5%)50mg、アルミニウム粉末50mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。反応時の圧力は1.5〜1.7MPaとした。得られた化合物について、実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(DMSO−d)、GC−MS測定(メインピーク(実測値);130.00)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は96.9%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;97.9%、(2)−D;80.5%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
【0060】
【化8】

【0061】
(実施例9)
1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール141mg、パラジウム−活性炭素(5%) 10mg、アルミニウム粉末10mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。得られた化合物について、実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(DMSO−d)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は57.2%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;56.7%、(2)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
【0062】
【化9】

【0063】
(実施例10)
2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−エタノール175mg、パラジウム−活性炭素(5%)10mg、アルミニウム粉末10mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。得られた化合物について、実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(DMSO−d)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は65.8%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;77.7%、(2)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
【0064】
【化10】

【0065】
(実施例11)
2−メチル−5−ニトロイミダゾール127mg、パラジウム−活性炭素(5%)10mg、アルミニウム粉末10mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。得られた各化合物について、実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(DMSO−d)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は83.7%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;6.0%、(2)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(2)は下記目的物の重水素(1)〜(2)に対応する。
【0066】
【化11】

【0067】
(実施例12)
1,2−ジメチルイミダゾール96mg、パラジウム−活性炭素(5%)10mg、アルミニウム粉末10mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(DMSO−d)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は87.5%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;79.3%、(2)−D;98.0%、(3)−D;98.0%であることが確認された。ここで(1)〜(3)は下記目的物の重水素(1)〜(3)に対応する。
【0068】
【化12】

【0069】
(実施例13)
2−メチルイミダゾール82mg、パラジウム−活性炭素(5%)10mg、アルミニウム粉末10mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(CDCl)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は93.4%、重水素化率はそれぞれ(1)−CD;96.5%、(2)−D;98.6%、(3)−D;98.6%であることが確認された。ここで(1)〜(3)は下記目的物の重水素(1)〜(3)に対応する。
【0070】
【化13】

【0071】
(実施例14)
1−メチルイミダゾール82mg、パラジウム−活性炭素(5%)10mg、アルミニウム粉末10mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(CDCl)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は88.0%、重水素化率はそれぞれ(1)−D;94.0%、(2)−D;98.0%、(3)−D;99.0%であることが確認された。ここで(1)〜(3)は下記目的物の重水素(1)〜(3)に対応する。
【0072】
【化14】

【0073】
(実施例15)
イミダゾール68mg、パラジウム−活性炭素(5%)10mg、アルミニウム粉末10mgを重水3mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。実施例1と同様の操作をして、H−NMR測定(DMSO−d)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は99.0%、重水素化率はそれぞれ(1)−D;98.3%、(2)−D;96.1%、(3)−D;96.1%であることが確認された。ここで(1)〜(3)は下記目的物の重水素(1)〜(3)に対応する。
【0074】
【化15】

【0075】
(実施例16)
1−フェニルイソキノリン1g、プラチナ−活性炭素(5%)150mg、アルミニウム粉末150mgを重水25mlに加えて180℃で300分間マイクロ波照射した。放冷後エーテルで抽出し、H−NMR測定(CDCl)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は90.0%、重水素化率は80.0%(平均)であることが確認された。
【0076】
【化16】

【0077】
(実施例17)
1−フェニルピラゾール200mg、プラチナ−活性炭素(5%)60mg、アルミニウム粉末60mgを重水3mlに加えて150℃で60分間マイクロ波照射した。実施例16と同様の操作をして、H−NMR測定(CDCl)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は95.0%、重水素化率は80.0%(平均)であることが確認された。
【0078】
【化17】

【0079】
(実施例18)
p−トリルピリジン1g、プラチナ−活性炭素(5%)150mg、アルミニウム粉末150mgを重水25mlに加えて180℃で300分間マイクロ波照射した。実施例16と同様の操作をして、H−NMR測定(CDCl)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は90.0%、重水素化率は77.0%(平均)であった。
【0080】
【化18】

【0081】
(実施例19)
ジフェニルアミン100mg、プラチナ−活性炭素(5%)50mg、アルミニウム粉末4mgを重水2mlに加えて150℃で120分間マイクロ波照射した。実施例16と同様の操作をして、H−NMR測定(CDCl)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は93.0%、重水素化率は95.0%(平均)であることが確認された。
【0082】
【化19】

【0083】
(実施例20)
フェニルピリジン100mg、プラチナ−活性炭素(5%)50mg、アルミニウム粉末20mgを重水2mlに加えて150℃で60分間マイクロ波照射した。実施例16と同様の操作をして、GC−MS測定(メインピーク(実測値);164.00)を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は93.0%、重水素化率は95.0%(平均)であることが確認された。
【0084】
【化20】

【0085】
(実施例21)
フェナジン0.9g、プラチナ−活性炭素(5%)0.1g、アルミニウム粉末0.1gを重水50mlに加えて200℃で24時間オートクレーブにより加熱した。実施例1と同様の操作及び測定を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は82.8%、重水素化率は63.5%であることが確認された。
【0086】
(比較例1)
フェナジン1.8g、プラチナ−活性炭素(5%)0.2gを重水50mlに加えて200℃で60分間マイクロ波照射した。実施例1と同様の操作及び測定を行ったところ、重水素化された化合物の単離収率は93.6%、重水素化率は0%であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、内部標準物質を必要とする化学物質の微量分析に利用可能であり、特に薬物動態の解析や、残留農薬の定量に好適である。また、有機EL材料等の電子材料に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施例1で得られたフェナジン−d(上)とフェナジン(下)のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られたフェナジン−d(上)とフェナジン(下)のGC−MSスペクトルを示す図である。
【図3】実施例8で得られた2,6−ジメチルアニリン−d(上)と2,6−ジメチルアニリン(下)のGC−MSスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重水、遷移金属、及び重水素を発生させる金属の存在下、芳香環又は複素環を有する化合物を加熱することを特徴とする重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法。
【請求項2】
前記重水素を発生させる金属が、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、鉛及びスズからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法。
【請求項3】
前記遷移金属が、プラチナ、パラジウム及びルテニウムからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法。
【請求項4】
マイクロ波照射により加熱することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法。
【請求項5】
加熱時の気相の圧力を0.5〜5MPaとすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法。
【請求項6】
反応系内における重水素及び水素の総量に占める重水素量の割合を、化合物の目標重水素化率と同等以上とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の重水素化された芳香環又は複素環を有する化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−184928(P2009−184928A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23130(P2008−23130)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発・省エネルギー技術開発プログラム/革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】