説明

重水素化された遷移金属錯体及びそれを有機発光ダイオードにおいて用いる使用−V

少なくとも1種の多環式の芳香族の配位子を含む金属錯体であって、それが少なくとも1種の重水素原子を有する錯体、少なくとも1種の本発明による金属錯体を含む有機発光ダイオード、少なくとも1種の本発明による金属錯体を含む発光層、少なくとも1種の本発明による発光層を含む有機発光ダイオード、少なくとも1種の本発明による金属錯体を、有機発光ダイオードにおいて用いる使用並びに少なくとも1種の本発明による有機発光ダイオードを含む、定置式ディスプレイ、例えばコンピュータ、テレビのディスプレイ、プリンターのディスプレイ、調理機器のディスプレイ並びに宣伝用ボード、照明、標識板及び可動式ディスプレイ、例えば携帯機器、ラップトップ、デジタルカメラ、車両のディスプレイ並びにバス及び電車の行き先表示板からなる群から選択される装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の多環式の芳香族の配位子を含む金属錯体であって、それが少なくとも1種の重水素原子を有する錯体、少なくとも1種の本発明による金属錯体を含む有機発光ダイオード、少なくとも1種の本発明による金属錯体を含む発光層、少なくとも1種の本発明による発光層を含む有機発光ダイオード、少なくとも1種の本発明による金属錯体を、有機発光ダイオードにおいて用いる使用並びに少なくとも1種の本発明による有機発光ダイオードを含む、定置式ディスプレイ、例えばコンピュータ、テレビのディスプレイ、プリンターのディスプレイ、調理機器のディスプレイ並びに宣伝用ボード、照明、標識板及び可動式ディスプレイ、例えば携帯機器、ラップトップ、デジタルカメラ、車両のディスプレイ並びにバス及び電車の行き先表示板からなる群から選択される装置に関する。
【0002】
発光ダイオード(OLED)においては、電流によって励起された場合に光を放出する材料の特性が用いられる。OLEDは、特に陰極線管及び液晶ディスプレイの代替として、平面ディスプレイの製造のために関心が持たれている。そのコンパクトな構造及び本来より低い電流消費に基づいて、OLEDを含む装置は、特に可搬用途、例えば携帯機器、ラップトップなどで使用するために適している。
【0003】
OLEDの作動様式の基本原理並びにOLEDの好適な構造(層)は、例えばWO2005/113704号とそこに引用される文献に挙げられている。
【0004】
発光物質(発光体)としては、蛍光性材料(蛍光発光体)の他に、燐光性材料(燐光発光体)を使用することができる。燐光発光体は、通常は、有機金属錯体であり、該錯体は、一重項発光を示す蛍光発光体に対して、三重項発光を示す(M.A.Baldo他,Appl.Phys.Lett.1999,75,4−6)。量子力学的な理由から、燐光発光体の使用に際して、4倍までの量子効率、エネルギー効率及び電力効率が可能である。有機金属の燐光発光体の採用の利点を実践に移すためには、高い作動寿命、高い効率、温度負荷に対する高い安定性及び低い使用電圧及び作動電圧を有する燐光発光体を提供する必要がある。
【0005】
上述の要求を満たすために、数多くの燐光発光体が先行技術において提案されている。
【0006】
例えば、WO2007/095118号は、シクロメタル化されたイミダゾ[1,2−f]フェナントリジン配位子及びジイミダゾ[1,2−A:1′,2′−C]キナゾリン配位子並びに等電子の及びベンゾ縮合されたそれらの誘導体の金属錯体に関する。該金属錯体は、燐光性であり、OLEDで使用される。そのOLEDは、WO2007/095118号によれば、長寿命かつ効率的な青色の、緑色の及び赤色の発光を示す。重水素化された系は、WO2007/095118号に挙げられていない。
【0007】
WO2007/093282号には、特定の電子素子並びにその製造方法及びその使用が挙げられている。前記の電子素子は、例えばOLEDであってよい。WO2007/093282号の詳細な説明によれば、その電子素子は、化学的に反応性の材料を含み、それはエレクトロルミネッセンス材料あるいはレーザ材料である。とりわけ、反応性材料としては、燐光性の有機金属錯体が挙げられる(J)。この有機金属錯体は、とりわけ式(T)[M(L)n(L′)m(L′′)o]の有機金属錯体であり、該錯体は、式(U)
【化1】

で示される部分構造M(L)nを有してよい。
【0008】
環Cy1及びCy2は、基Rで置換されていてよく、その際、Rは、とりわけ重水素であってよい。式(U)の構造単位を含む式(T)の化合物のための例は、WO2007/093282号に挙げられていない。更に、WO2007/093282号からは、式(T)の金属錯体であって、式(U)の構造単位を含み、環Cy1もしくはCy2の一方が重水素で置換されている金属錯体が、OLEDで使用するのに好ましいことは明らかではない。
【0009】
EP−A1372360号は、改善された安定性を有するエレクトロルミネッセンス有機ポリマーに関する。ポリマーとしては、ポリ(フェニレンビニレン)が使用される。ポリ(フェニレンビニレン)中の共役ポリマー鎖に沿ったビニル結合の安定性を更に向上させるために、EP−A1372360号によれば、ビニレン部に重水素置換を有するポリ(フェニレンビニレン)が使用される。従って、重水素化されたポリマーの使用のための理由は、EP−A1372360号によれば、ポリ(フェニレンビニレン)の反応性ビニレン二重結合の安定化である。
【0010】
WO02/47440号A1では、有機半導体材料が開示され、そこでは、1もしくはそれより多くの水素原子が重水素によって置き換えられている。有機半導体は、高いルミネッセンスと、良好な熱的安定性を有する。該有機半導体を含有する光電子工学的エレメントは改善された性能と寿命を有することが主張されている。好ましくは、該有機半導体は、発光性の有機ポリマー又は有機金属化合物である。詳細な説明においては、多数の種々の有機半導体材料が挙げられている。WO02/47440号A1の実施例においては、完全に重水素化されたIr(ppy)3−d8を発光体材料として有する有機発光ダイオードが、重水素化されたIr(ppy)3を発光体材料として含まない有機発光ダイオードよりも高い量子効率と発光強度を有することが挙げられている。
【0011】
WO02/47440号A1に開示される結果は、WO2006/095951号A1に開示される結果に相当する。WO02006/095951号A1には、重水素化された燐光性のIr錯体
【化2】

[式中、Xは二座の配位子である]及びそれをOLEDにおける発光体材料として用いる使用が開示されている。この重水素化された錯体を発光体材料として含むOLEDは、WO2006/095951号A1によれば、相応の重水素化されていないIr錯体を発光体材料として含むOLEDよりも高い量子効率と発光強度を示す。
【0012】
上述の先行技術に対する本発明の課題は、OLEDで使用するための、燐光のために適した更なる金属錯体であって、バランスのとれた特性スペクトル、例えば良好な効率、改善された寿命及びデバイスにおけるより高い安定性並びに良好な電荷輸送特性及び熱的安定性を示す金属錯体を提供することである。その場合に、特にOLEDの改善された寿命を可能にする燐光発光体が提供されるべきである。
【0013】
前記課題は、一般式(I)
【化3】

[式中、記号は、以下の意味を有する:
5、Z4は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nを意味する;
1、X2、X3、Y1、Y2、Y3は、互いに無関係に、NもしくはCを意味する;
4、X5は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、N、SもしくはOを意味し、その際、X4もしくはX5は、更に、それぞれもう一方の基X5もしくはX4がN、CH、CDもしくはCR1を意味する場合には、NR1であってよい;
4、Y6は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nであり、その際、Y4もしくはY6は、m=0の場合に、更に、S、OもしくはNR1を意味してよい;
1、Z2、Z3は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nであり、その際、Z1、Z2もしくはZ3は、n=0の場合に、更に、S、OもしくはNR1を意味してよい;
1は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル、非置換もしくは置換のシクロアルキル、非置換もしくは置換のヘテロシクロアルキル、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール、非置換もしくは置換のアルケニル、非置換もしくは置換のシクロアルケニル、非置換もしくは置換のアルキニル、SiR23、ハロゲン、ドナー作用もしくはアクセプター作用を有する置換基を意味し、その際、R1がN原子と結合されている場合には、R1は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル又は非置換もしくは置換のアリール又は非置換もしくは置換のヘテロアリールを意味し、その際、2個の任意の基R1は、更に、一緒になって、1個のアルキレン架橋もしくはアリーレン架橋を形成してよい;
2は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル又は非置換もしくは置換のアリール又は非置換もしくは置換のヘテロアリールを意味する;
m、nは、互いに無関係に、0もしくは1を意味し、その際、基Z4もしくはY5は、nもしくはmが0である場合には、存在しない]で示される少なくとも1種の配位子を含む金属錯体であって、該金属錯体が少なくとも1個の重水素原子を含むことを特徴とする金属錯体によって解決される。
【0014】
本発明によれば、式(I)の配位子及び/又は場合により本発明による金属錯体中に存在する1種以上の更なる配位子は、少なくとも1個の重水素原子を有してよい。好ましい一実施態様においては、式(I)の配位子は、少なくとも1個の重水素原子を含む。その場合に、基R1及び/又はR2の1個以上においては少なくとも1個の重水素原子が存在してよく、かつ/又は基X4、X5、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4の少なくとも1個は、CDを意味する。特に好ましくは、基X4、X5、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4の少なくとも1個は、CDを意味する。
【0015】
OLEDでの使用に適した金属錯体を提供できることが見出され、その際、該OLEDは、従来技術で公知のOLEDに対して、バランスのとれた特性スペクトルの点で、例えば良好な効率、優れた寿命及び非常に良好なデバイスにおける安定性並びに良好な電荷輸送特性及び熱的安定性の点で優れている。特に、本発明による金属錯体を使用した場合に、電磁線スペクトルの青色領域において発光するOLEDを提供できる。
【0016】
本発明による金属錯体は、OLEDの各層において使用することができ、その際、配位子骨格もしくは中心金属は、所望される金属錯体の特性に適合させるために変更することができる。例えば、本発明による金属錯体の使用は、OLEDの発光層、電子のための阻止層、励起子のための阻止層、正孔のための阻止層、正孔輸送層及び/又は電子輸送層において、本発明による金属錯体の置換型に依存して、かつOLED中に存在する他の層中の電子状態に依存して可能である。好ましくは、本発明による金属錯体は、発光層において使用される。その層中で、本発明による金属錯体は、発光体材料及び/又はマトリクス材料として使用することができる。好ましくは、本発明による金属錯体は、OLED中で発光体材料として使用される。
【0017】
本願の範囲において、非置換もしくは置換のアリール残基もしくは基、非置換もしくは置換のヘテロアリール残基もしくは基、非置換もしくは置換のアルキル残基もしくは基、非置換もしくは置換のシクロアルキル残基もしくは基、非置換もしくは置換のヘテロシクロアルキル残基もしくは基、非置換もしくは置換のアルケニル残基もしくは基、非置換もしくは置換のアルキニル残基もしくは基、アラルキル残基もしくは基並びにドナー作用及び/又はアクセプタ作用を有する基という概念は、以下の意味を有する:
アリール残基(又はアリール基)とは、6〜30個の炭素原子、有利には6〜18個の炭素原子の基本骨格を有する基であって、1つの芳香環又は複数の縮合された芳香環から構成されている基を表す。好適な基本骨格は、例えばフェニル、ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニルである。前記の基本骨格は、非置換であってよい(すなわち、置換可能な全ての炭素原子は水素原子を有する)、又は基本骨格の1つ、複数又は全ての置換可能な位置は置換されていてよい。好適な置換基は、例えば、重水素、アルキル基、有利には1〜8個の炭素原子を有するアルキル基、特に有利にはメチル基、エチル基もしくはi−プロピル基、アリール基、有利にはC6−アリール基(前記基は、更に置換されていてよく又は非置換であってもよい)、ヘテロアリール基、有利には、少なくとも1つの窒素原子を有するヘテロアリール基、特に有利にはピリジル基、アルケニル基、有利には1つの二重結合を有するアルケニル基、特に有利には、1つの二重結合及び1〜8個の炭素原子を有するアルケニル基又はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である。上述のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基及びドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基は、1箇所以上の位置で重水素化されていてよい。ドナー作用もしくはアクセプター作用を有する好適な基は以下に挙げられるものである。殊に有利には、置換されたアリール基は、重水素、メチル、イソプロピル、F、CN、アリールオキシ及びアルコキシ、チオアリール、チオアルキル、ヘテロアリールからなる群から選択される置換基を有する。有利には、アリール残基又はアリール基は、C6〜C18−アリール基、特に有利にはC6−アリール基であり、該アリール基は、場合により上述の置換基の少なくとも1つもしくはそれ以上で置換されている。特に好ましくは、C6〜C18−アリール基、好ましくはC6−アリール基は、上述の置換基を有さないか、1個、2個、3個もしくは4個の上述の置換基を有する。
【0018】
ヘテロアリール残基又はヘテロアリール基とは、アリール基の基本骨格において少なくとも1つの炭素が1つのヘテロ原子によって交換されている点で前記のアリール基と異なる基を表す。有利なヘテロ原子は、N、O及びSである。殊に有利には、アリール基の基本骨格の1又は2つの炭素原子は、ヘテロ原子によって交換されている。特に、ピリジン及び5員の複素芳香族化合物、例えばピロール、フラン、ピラゾール、イミダゾール、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、トリアゾールなどの系から選択される基本骨格が好ましい。該基本骨格は、その基本骨格の1つ、複数又は全ての置換可能な位置で置換されていてよい。好適な置換基は、既にアリール基に関して挙げたのと同じ置換基である。
【0019】
アルキル残基又はアルキル基とは、1〜20個の炭素原子、有利には1〜10個の炭素原子、特に有利には1〜8個の炭素原子、殊に有利には1〜4個の炭素原子を有する基を表すべきである。前記のアルキル基は、分枝鎖状又は非分枝鎖状であってよく、かつ場合により1又は複数のヘテロ原子、有利にはSi、N、O又はS、特に好ましくはN、OもしくはSによって中断されていてよい。更に、前記のアルキル基は、アリール基に関して挙げた置換基1又は複数で置換されていてよい。同様に、該アルキル基は、1つ又は複数の(ヘテロ)アリール基を有することも可能である。本願の範囲では、例えばベンジル基は、従って置換されたアルキル基である。この場合に、前記の(ヘテロ)アリール基の全てが適している。特に、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル及びt−ブチルからなる群から選択されるアルキル基が好ましく、殊にメチル、イソプロピル並びに部分的にもしくは完全に重水素化された相応の誘導体、例えばCD3、−C(CD32Dもしくは−C(CD33が好ましい。
【0020】
シクロアルキル残基又はシクロアルキル基とは、3〜20個の炭素原子、有利には3〜10個の炭素原子、特に有利には3〜8個の炭素原子を有する基を表すべきである。前記の基本骨格は、非置換であってよい(すなわち、置換可能な全ての炭素原子は水素原子を有する)、又は基本骨格の1つ、複数又は全ての置換可能な位置は置換されていてよい。好適な置換基は、アリールに関して既に上述した基である。好適なシクロアルキル基のための例は、シクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシルである。
【0021】
ヘテロシクロアルキル残基又はヘテロシクロアルキル基とは、シクロアルキル基の基本骨格において少なくとも1つの炭素原子が1つのヘテロ原子によって交換されている点で前記のシクロアルキル基と異なる基を表す。有利なヘテロ原子は、N、O及びSである。殊に有利には、シクロアルキル基の基本骨格の1又は2つの炭素原子は、ヘテロ原子によって交換されている。好適なヘテロシクロアルキル基のための例は、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、テトラヒドロフラン、ジオキサンから誘導される基である。
【0022】
アルケニル残基又はアルケニル基とは、少なくとも2個の炭素原子を有する上述のアルキル基に相当するが、アルキル基の少なくとも1つのC−C単結合が1つのC−C二重結合によって交換されていることが異なる基を表すべきである。有利には、アルケニル基は、1又は2つの二重結合を有する。
【0023】
アルケニル残基又はアルケニル基とは、少なくとも2個の炭素原子を有する上述のアルキル基に相当するが、アルキル基の少なくとも1つのC−C単結合が1つのC−C二重結合によって交換されていることが異なる基を表すべきである。有利には、アルキニル基は、1又は2つの三重結合を有する。
【0024】
アルキレン及びアリーレンという概念は、本願の範囲では、アルキル基及びアリール基に関して挙げた意味を有するが、前記のアルキレン基及びアリーレン基は2個の結合部位を有するという点で異なる。
【0025】
好ましいアルキレン基は、(CR42nであり、その際、R4は、重水素、Hもしくはアルキル、好ましくは重水素、H、メチルもしくはエチル、特に好ましくはHもしくはDを意味し、かつnは、1〜3、好ましくは1もしくは2、特に好ましくは1を意味する。殊に、アルキレン基CH2もしくはCD2が好ましい。
【0026】
好ましいアリーレン基は、1,2−、1,3−もしくは1,4−フェニレン基であり、前記基は非置換であるか、又はアリール基に関して挙げた置換基を有してよい。
【0027】
ドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基もしくは置換基は、本発明の範囲では以下の基を表す:
ドナー作用を有する基とは、+I効果及び/又は+M効果を有する基を表し、かつアクセプター作用を有する基とは、−I効果及び/又は−M効果を有する基を表す。ドナー作用もしくはアクセプター作用を有する好適な基は、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Br、特に好ましくはF、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基、OR2、カルボニル基、エステル基、オキシカルボニル基もカルボニルオキシ基も、アミノ基、NR22、アミド基、CH2F−基、CHF2基、CF3基、CN基、チオ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、ホウ酸基、ホウ酸エステル基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン基、スルホキシド基、スルホニル基、スルフィド基、SR2、ニトロ基、OCN、ボラン基、シリル基、SiR23、スタネート基、イミノ基、ヒドラジン基、ヒドラゾン基、オキシム基、ニトロソ基、ジアゾ基、ホスフィンオキシド基、ヒドロキシ基又はSCN基である。殊には、F、Cl、CN、アリールオキシ、アルコキシ、アミノ、CF3基、スルホニル、シリル、スルフィド及びヘテロアリールが好ましい。特にとりわけ、ヘテロアリール、シリル(SiR23)、F、アルコキシもしくはアリールオキシ(OR2)、スルフィド基(SR2)、アミノ(NR22)及びCNが好ましい。基R2は、以下に定義されている。
【0028】
ドナー作用もしくはアクセプター作用を有する上述の基は、本願に挙げられる他の基及び置換基であって上述のドナー作用もしくはアクセプタ作用を有する基のリストで挙げられていないものが、ドナー作用もしくはアクセプター作用を有することを排除しない。
【0029】
アリール残基もしくは基、ヘテロアリール残基もしくは基、アルキル残基もしくは基、シクロアルキル残基もしくは基、ヘテロシクロアルキル残基もしくは基、アルケニル残基もしくは基、アルキニル残基もしくは基並びにドナー作用及び/又はアクセプター作用を有する基並びにアルキレン及びアリーレン残基もしくは基は、上述のように、置換されていても、もしくは非置換であってもよい。非置換の基とは、本願の範囲においては、基の置換可能な原子が水素原子を有する基を表すべきである。置換された基とは、本願の範囲においては、1個以上の置換可能な原子が、少なくとも1箇所で水素原子の代わりに置換基を有する基を表すべきである。好適な置換基は、アリール残基もしくは基に関して上述した置換基である。
【0030】
同じ番号を有する基が本願による化合物において多数存在する場合に、これらの基は、それぞれ互いに無関係に、上述の意味を有してよい。
【0031】
好ましい一実施態様においては、式(I)の配位子中の少なくとも1個の基X1もしくはY1はNを意味し、その際、好ましくは基X1もしくはY1の厳密に1個は、Nを意味し、特に好ましくはX1はNを意味する。
【0032】
記号X1、X2、X3、X4、X5、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4は、互いに無関係に以下の意味を有する:
5、Z4は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nを意味する;
1、X2、X3、Y1、Y2、Y3は、互いに無関係に、NもしくはCを意味する;
4、X5は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、N、SもしくはOを意味し、その際、X4もしくはX5は、更に、それぞれもう一方の基X5もしくはX4がN、CH、CDもしくはCR1を意味する場合には、NR1であってよい;
4、Y6は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nを意味し、その際、Y4もしくはY6は、m=0の場合に、更に、S、OもしくはNR1を意味してよい;
1、Z2、Z3は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nを意味し、その際、Z1、Z2もしくはZ3は、n=0の場合に、更に、S、OもしくはNR1を意味してよい。
【0033】
好ましい一実施態様においては、基X4、X5、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4の少なくとも1個は、少なくとも1個の重水素原子を含む。特に好ましくは、基X4、X5、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4の少なくとも1個は、CDを意味する。
【0034】
好ましくは、上述の基X4、X5、Y4、Y6、Z1、Z2及びZ3、特に好ましくはX4、Y4、Y6、Z1、Z2及びZ3の0個、1個、2個は、SもしくはOを意味し、その際、例えば一般式(I)の配位子におけるY4及び/又はZ1は、SもしくはOを意味し、そして他の基は、上述の意味を有するが、SもしくはOではない。
【0035】
特に好ましい一実施態様においては、本発明は、金属錯体であって、そのうち基X1がNを意味し、かつ他の上述の基が上述の意味を有する金属錯体に関する。
【0036】
記号X1、X2、X3、X4、X5、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4は、互いに無関係に以下の意味を有する:
2、Y1、Y2、Y3は、Cを意味する;
1は、Nを意味する;
3は、CもしくはN、好ましくはNを意味する;
5は、N、CDもしくはCR1、好ましくはCDを意味する;
4は、CR1、CD、NR1、OもしくはS、好ましくはCR1もしくはCDを意味する;
4、Y5、Y6は、互いに無関係に、CH、CDもしくはCR1、好ましくはCDを意味する;
1、Z2、Z3、Z4は、互いに無関係に、CH、CD、CR1もしくはNを意味し、その際、Z1、Z2もしくはZ3は、n=0の場合に、更に、S、OもしくはNR1を意味してよく、好ましくはZ1、Z2及びZ4はCDを意味し、かつZ3はCR1を意味する。
【0037】
更に好ましくは、X1はNを意味し、かつX4及び/又はX5はCDを意味し、その際、他の上述の基は、上述の意味を有する。殊に好ましくは、X1及びX3は、Nを意味し、その際、好ましくはX5は、付加的にCDもしくはCR1を意味し、かつX4はCR1を意味する。他の上述の基は、上述の意味を有する。特に殊に好ましくは、X1及びX3はNを意味し、X4及びZ3はCR1を意味し、かつX5、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2及びZ4はCDを意味し、その際、他の上述の基は、上述の意味を有する。殊に好ましくは、他の上述の基は、最後に挙げた場合においては、重水素もしくはR1の意味を有し、その際、R1は、以下に挙げる定義を有してよい。
【0038】
1は、一般式(I)の配位子において、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル、非置換もしくは置換のシクロアルキル、非置換もしくは置換のヘテロシクロアルキル、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール、非置換もしくは置換のアルケニル、非置換もしくは置換のシクロアルケニル、非置換もしくは置換のアルキニル、SiR23、ハロゲン、ドナー作用もしくはアクセプター作用を有する置換基を意味し、その際、R1がN原子に結合されている場合には、R1は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル又は非置換もしくは置換のアリール又は非置換もしくは置換のヘテロアリールを意味するか、又は2個の任意の基R1は、一緒になって1個のアルキレン架橋もしくはアリーレン架橋を形成してよい。その際、2個の基R1は、一般式(I)の配位子の唯一の環に該当するか、又は一般式(I)の配位子の2個の異なる環に該当する。例えば、X4及びX5がCR1を意味する場合に、2個の基R1は、一緒になって、1個のアルキレン架橋もしくはアリーレン架橋を形成する。同様に、Z1及びX4もしくはZ4(nが1の場合)あるいはZ3(nが0の場合)及びY4がCR1を意味する場合において、2個の基R1は、一緒になって、1個のアルキレン架橋もしくはアリーレン架橋を形成することができる。好適かつ好ましいアルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基並びにドナー作用もしくはアクセプター作用を有する置換基及びアルキレン基及びアリーレン基は、上述の基である。好ましくは、R1は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール、SiR23、ハロゲン、好ましくはF、OR2、SR2、NR22、CF3もしくはCNを意味し、その際、R1は、R1がN原子に結合されている場合には、好ましくは互いに無関係に非置換もしくは置換のアルキル、非置換もしくは置換のアリールを意味する。殊に好ましくは、R1は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール又はSiR23を意味する。更に殊に好ましくは、R1は、メチル、イソプロピル又は部分的にもしくは完全に重水素化されたその相応の誘導体、例えばCD3、−C(CD32Dもしくは−C(CD33;非置換もしくは置換のC6−アリール(その際、置換基として特に重水素、メチル、イソプロピル、CD3、−C(CD32もしくは−C(CD33が適しており、オルト二置換されたC6−アリールが特に好ましい);又はC5〜C6−ヘテロアリール、例えば
【化4】

[式中、
4は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール又はSiR23を意味し、好ましくは水素、重水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、イソブチル、t−ブチル又は部分的にもしくは完全に重水素化されたその相応の誘導体、例えばCD3、−C(CD32Dもしくは−C(CD33;非置換もしくは置換のC6−アリール又はC5〜C6−ヘテロアリール、特に好ましくは水素もしくは重水素を意味する;及び
zは、0、1、2、3もしくは4、好ましくは0、1もしくは2を意味する]を意味する;
その際、R1は、R1がN原子に結合されている場合には、特に好ましくは互いに無関係に、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチルもしくはt−ブチル又はC6−アリール(それらは非置換もしくは置換されていてよい)、好ましくはフェニルもしくはトリルを意味する。
【0039】
2は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル又は非置換もしくは置換のアリールを意味し、その際、好適かつ好ましいアルキル基及びアリール基並びに好適な置換基は、上述の通りである。好ましくは、R2は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチルもしくはt−ブチル又は非置換もしくは置換されていてよいC6−アリール、好ましくはフェニルもしくはトリルである。
【0040】
m及びnは、一般式(I)の配位子において、互いに無関係に、0もしくは1を意味し、その際、基Z4もしくはY5は、nもしくはmが0の場合には存在しない。mが0の場合には、要素X1、X2、X3、X4及びX5から形成される芳香族性の5員環は、従って、要素Y1、Y2、Y3、Y4及びY6から形成される5員環と結合されている。mが1の場合には、X1、X2、X3、X4及びX5から形成される芳香族性の5員環は、要素Y1、Y2、Y3、Y4、Y5及びY6から形成される芳香族性の6員環と結合されている。nが0の場合には、X1、X2、X3、X4、X5から形成される芳香族性の5員環は、Z1、Z2、Z3及び2個の炭素原子から形成される芳香族性の5員環と結合されており、かつnが1の場合には、X1、X2、X3、X4及びX5から形成される芳香族性の5員環は、Z1、Z2、Z3、Z4及び2個の炭素原子から形成される芳香族性の6員環と結合されている。好ましくは、mは1である。更なる好ましい一実施態様においては、nは、1である。特に好ましくは、nもmも1である。
【0041】
本発明による金属錯体は、好ましくは、元素の周期律表(CAS版)の第IB族、第IIB族、第IIIB族、第IVB族、第VB族、第VIB族、第VIIB族、第VIII族の遷移金属からなる群から選択される金属原子であって、相応する金属原子についてそれぞれ可能な酸化段階のものを含む。好ましくは、本発明による金属錯体は、Ir、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Fe、Ru、Os、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Ag、Au及びCuからなる群、特に好ましくはIr、Os、Ru、Rh、Pd、Co、Ni及びPtからなる群、殊に好ましくはIr、Pt、Rh、Ru及びOsからなる群から選択される金属原子Mであって、相応する金属原子についてそれぞれ可能な酸化段階のものを含む。特に好ましくは、Pt(II)、Pt(IV)、Ir(I)、Ir(III)、Os(II)及びRu(II)が、更に特に好ましくはPt(II)、Ir(III)及びOs(II)が、殊に好ましくはIr(III)が使用される。
【0042】
一般式(I)の少なくとも1種の配位子の他に、本発明による金属錯体は、一般式(I)の配位子とは異なる他の配位子を含んでよい。例えば、一般式(I)の少なくとも1種の配位子の他に、1種もしくはそれより多くの中性の一座もしくは二座の配位子K並びに場合により、一座もしくは二座であってよい1種もしくはそれより多くのモノアニオン性もしくはジアニオン性の配位子Jが存在してよい。更に、式(I)の種々の配位子は、本発明による金属錯体中に存在してよい。この場合、二座の配位子とは、金属原子Mに2ヶ所で配位されている配位子を表す。本願の範囲では、概念"2つの配座"と概念"二座"とは同義である。
【0043】
一座の配位子とは、配位子の1ヶ所で金属原子Mと配位する配位子を表す。
【0044】
従って、本発明は、好ましい一実施態様においては、一般式(II)
【化5】

[式中、以下の意味を有する:
Mは、元素の周期律表(CAS版)の第IB族、第IIB族、第IIIB族、第IVB族、第VB族、第VIB族、第VIIB族、第VIII族の遷移金属からなる群から選択される金属原子であって、相応する金属原子についてのそれぞれ可能な酸化段階のもの、好ましくはIr(III)、Pt(II)もしくはOs(II)、特に好ましくはIr(III)を意味する;
Jは、モノアニオン性もしくはジアニオン性の配位子であって、一座もしくは二座であってよいもの、好ましくは二座のモノアニオン性の配位子を意味する;
Kは、中性の、一座もしくは二座の配位子であって、一般に光活性でないものを意味する;
好ましい配位子Kは、ホスフィン、特にトリアルキルホスフィン、例えばPEt3、PnBu3、トリアリールホスフィン、例えばPPh3;ホスホネート及びそれらの誘導体、アルセネート及びそれらの誘導体、ホスファイト、CO、ニトリル、アミン、ジエン(これらは、Mとπ錯体を形成しうる)、例えば2,4−ヘキサジエン、η4−シクロオクタジエン及びη2−シクロオクタジエン(それぞれ1,3及び1,5)、アリル、メタリル、シクロオクテン、ノルボルナジエン及び中性のビスカルベン、例えばWO2008/000726号に開示される中性のビスカルベンを意味する;
oは、1、2、3もしくは4であり、その際、oは、M=Ir(III)の場合に、1、2もしくは3、好ましくは2もしくは3を意味し、かつM=Pt(II)もしくはOs(II)の場合に、1もしくは2を意味する;
pは、0、1、2、3もしくは4であり、その際、pは、M=Ir(III)の場合に、0、1、2、3もしくは4、特に好ましくは0もしくは2を意味し、かつM=Pt(II)及びOs(II)の場合に、0、1もしくは2を意味し、好ましくは0もしくは2を意味し、その際、pは、金属Mに対する結合箇所の数を意味し、すなわちp=2の場合に、2個の一座の配位子もしくは1個の二座の配位子であってよい;
qは、0、1、2、3もしくは4であり、その際、qは、M=Ir(III)の場合に、0、1もしくは2、好ましくは0を意味し、M=Pt(II)の場合に、0もしくは1、好ましくは0を意味し、かつM=Os(II)の場合に、2もしくは3、好ましくは2を意味し、その際、qは、金属Mに対する結合箇所の数を意味し、すなわちq=2の場合に、2個の一座の配位子もしくは1個の二座の配位子であってよい;
その際、o、p及びqは、使用される金属原子の酸化段階及び配位数と、配位子の電荷に依存している]で示される金属錯体に関する。
【0045】
配位子Jも配位子Kも、1個以上の重水素原子を有してよい。
【0046】
数値o、pもしくはqが1より大きい場合については、式(I)の使用される配位子、KもしくはJは、それぞれ同一もしくは異なっていてよい。
【0047】
M=Ir(III)の場合には、式(II)の本発明による金属錯体における合計o,p+qは、一般に、3、4もしくは5であり、すなわち、式Iの3個の配位子が存在する場合に、oは3であり、かつ式Iの2個の配位子及び例えば1個の二座のモノアニオン性の配位子Jが存在する場合に、oは2であり、かつpは2である。M=Pt(II)の場合には、合計o+pは、一般に、2もしくは3であり、すなわち、式Iの2個の配位子が存在する場合には、oは2であり、かつ式Iの1個の配位子及び例えば1個の二座のモノアニオン性の配位子Jが存在する場合には、oは1であり、かつpは2であり、その際、oはそれぞれ少なくとも1である。Os(II)の場合には、式(II)の本発明による金属錯体中の合計o,p+qは、一般に、4もしくは5であり、すなわち式(I)の2個の配位子及び例えば1個の二座の中性の配位子Kが存在する場合には、oは2であり、かつqは2であり、かつ例えば式(I)の1個の配位子、1個の二座のモノアニオン性の配位子J及び1個の中性の二座の配位子Kが存在する場合には、oは1であり、pは2であり、かつqは2である。
【0048】
式(II)の金属錯体中の記号X1、X2、X3、X4、X5、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4、m及びnは、上述の意味を有する。
【0049】
本発明による金属錯体の種々の異性体が存在しうる場合には、本発明は、金属錯体の単独の異性体それぞれも、種々の異性体のそれぞれの任意の混合比での混合物をも含む。一般に、金属錯体の種々の異性体は、当業者に公知の方法に従って、例えばクロマトグラフィー、昇華もしくは結晶化によって分離することができる。
【0050】
通常は、二座のモノアニオン性の配位子Jとしては、光活性でないもしくは光活性の(例えばカルベン、フェニルピリジンもしくはフェニルイミダゾールとのヘテロレプティックな錯体)配位子が使用される。好適な配位子Jは、例えば一般式
【化6】

[式中、Lは、それぞれ互いに無関係に、O、N及びCから選択される]の二座のモノアニオン性の配位子である。二座のモノアニオン性の配位子Jであって、2個の基LがO、CもしくはNを意味するか、又は1個の基LがOを意味し、かつもう一方の基LがNもしくはCを意味するか、又は1個の基LがCを意味し、かつもう一方の基LがNを意味する配位子が好ましい。特に好ましい二座のモノアニオン性の配位子は、アセチルアセトネート及びその誘導体、ピコリネート及びその誘導体、二座のモノアニオン性のカルベン配位子及びその誘導体、例えばWO2005/019373号、WO2005/0113704号、WO2006/018292号、WO2006/056418号、WO2007/115981号、WO2007/115970号、WO2008/000727号、WO2006/067074号、WO2006/106842号、WO2007/018067号、WO2007/058255号、WO2007/069542号、US2007/108891号、WO2007/058080号、WO2007/058104に挙げられているカルベン配位子並びにWO02/15645号、WO2005/123873号、US2007/196690号、WO2006/121811に挙げられる二座のモノアニオン性の配位子である。特に、アセチルアセトネート、ピコリネート、カルベン、例えばN−メチル−N−アリールイミダゾールカルベン、アリールピリジン、例えば2−アリールピリジン、特にフェニルピリジン、例えば2−フェニルピリジン、アリールイミダゾール、例えば2−アリールイミダゾール、特にフェニルイミダゾール、例えば2−フェニルイミダゾール及び前記化合物の誘導体からなる群から選択される二座のモノアニオン性の配位子が好ましい。上述の二座のモノアニオン性の配位子においては、配位子の1個以上の水素原子が重水素によって置き換えられていてよい。
【0051】
特に好ましい一実施態様においては、本発明による金属錯体は、一般式(IIa)
【化7】

[式中、以下の意味を有する:
Mは、元素の周期律表(CAS版)の第IB族、第IIB族、第IIIB族、第IVB族、第VB族、第VIB族、第VIIB族、第VIII族の遷移金属からなる群から選択される金属原子であって、それぞれの相応の金属原子について可能な酸化段階のもの、好ましくはIr(III)、Pt(II)、特に好ましくはIr(III)を意味する;
【化8】

は、1個以上の重水素原子を有してよい、二座のモノアニオン性の配位子を意味し、好ましくは、該二座のモノアニオン性の配位子におけるLは、それぞれ互いに無関係に、O、N及びCから選択され、特に二座のモノアニオン性の配位子であって、2個の基LがO、CもしくはNを意味するか、又は1個の基LがOを意味し、かつもう一方の基LがNもしくはCを意味するか、又は1個の基LがCを意味し、かつもう一方の基LがNを意味する、二座のモノアニオン性の配位子が好ましく、殊に、アセチルアセトネート、ピコリネート、カルベン、例えばN−メチル−N−アリールイミダゾールカルベン、アリールピリジン、例えば2−アリールピリジン、特にフェニルピリジン、例えば2−フェニルピリジン及びアリールイミダゾール、例えば2−アリールイミダゾール、特にフェニルイミダゾール、例えば2−フェニルイミダゾール及び前記の化合物の誘導体からなる群から選択される二座のモノアニオン性の配位子が好ましい;
oは、1、2、3、4であり、その際、M=Ir(III)の場合には、1、2もしくは3を意味し、好ましくは2もしくは3を意味し、M=Pt(II)の場合には、1もしくは2を意味する;
p′は、0、1もしくは2を意味し、その際、pは、M=Ir(III)の場合には、0、1もしくは2を意味し、好ましくは0もしくは1を意味し、M=Pt(II)の場合には、0もしくは1を意味し、その際、p′は、配位子
【化9】

の数を意味する;
その際、o及びp′は、使用される金属原子の酸化段階及び配位数に依存する]を有する。
【0052】
M=Ir(III)の場合には、式(IIa)の本発明による金属錯体における合計o+p′は、一般に3であり、かつM=Pt(II)の場合には、o+p′は、一般に2であり、その際、oは、それぞれ少なくとも1である。
【0053】
式(II)の金属錯体中の記号X1、X2、X3、X4、X5、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4、m及びnは、上述の意味を有する。更に、M、二座のモノアニオン性の配位子並びにo及びp′の更なる実施形態は、M、二座のモノアニオン性の配位子、o及びp′(もしくはp、その際、p′=1 p=2に相当する)について上述した実施形態である。
【0054】
特に好ましい一実施態様においては、本発明は、式(IIaa)
【化10】

[式中、M、o及びp′は、上述の意味を有する;
Dは、重水素を意味する;及び
3は、互いに無関係に、重水素もしくはR1を意味する]で示される金属錯体に関する。
【0055】
好適なR1についての実施形態は上述の通りである。
【0056】
以下に、例として、式(IIaa)の好ましい本発明による金属錯体を挙げる。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
以下に、好ましい本発明による金属錯体についての更なる例を挙げる:
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
本発明による金属錯体は、当業者により公知の方法もしくは当業者に公知の方法と同様にして製造することができる。好適な製造方法は、例えばWO2007/095118号の実施例に挙げられる方法と同様であり、その際、本発明による金属錯体の製造は、付加的に少なくとも1個の重水素原子を金属錯体に導入する工程を含む。重水素原子を、本発明による金属錯体の式(I)の配位子への導入は、当業者に公知の方法に従って行われる。水素原子と重水素原子とを交換するのに適した方法は、例えば総説記事J.Atzrodt、V.Derdau、T.Fey、J.ZimmermannによるAngew.Chem.Int.Ed.2007,46,7744−7765に挙げられている。
【0065】
通常は、本発明による金属錯体は、一般式(I)の配位子に相応する配位子前駆体から出発して製造される。その際に、本発明による金属錯体の製造は、一般式(I)の配位子を基礎とする少なくとも1種の配位子前駆体と、少なくとも1種の金属Mを含む金属錯体であって、Mが上述の意味を有する金属錯体とを反応させることによって行われる。
【0066】
式(I)の配位子を基礎とする配位子前駆体と、少なくとも1種の金属Mを含む金属錯体との間のモル比は、所望の本発明による金属錯体の構造に依存し、並びに式(I)の配位子の数に依存する。本発明による金属錯体におけるoが1より大きい場合には、これらの金属錯体は、少なくとも1種の金属Mを含む金属錯体と、同一の配位子前駆体との反応によって、又は種々の配位子前駆体との反応によって得られる。種々の本発明による金属錯体の製造のために適した方法及び反応順序は当業者に公知である。
【0067】
配位子前駆体と反応される、少なくとも1種の金属Mを含む金属錯体は、元素の周期律表(CAS版)の第IIB族、第IIIB族、第IVB族、第VB族、第VIB族、第VIIB族、第VIII族の遷移金属及びCuからなる群から選択される、好ましくはIr、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Fe、Ru、Os、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re及びCuからなる群から選択される、特に好ましくはIr、Os、Ru、Rh、Pd、Co及びPt、殊に好ましくはIr、Pt、Rh、Pd、Ru及びOsからなる群から選択される、少なくとも1種の金属原子であって、それぞれ相応の金属について適した可能な酸化段階におけるものを含む金属錯体である。
【0068】
配位子前駆体と反応される好適な金属錯体は、当業者に公知である。適した金属錯体の例は以下のものである:Pd(OAc)2、Pt(cod)Cl2、Pt(cod)Me2、Pt(acac)2、Pt(PPh32Cl2、PtCl2、[Rh(cod)Cl]2、Rh(acac)CO(PPh3)、Rh(acac)(CO)2、Rh(cod)2BF4、RhCl(PPh33、RhCl3×nH2O、Rh(acac)3、[Os(CO)322、[Os3(CO)12]、OsH4(PPh33Cp2Os、Cp*2Os、H2OsCl6×6H2O、OsCl3×H2O、Ru(acac)3、RuCl2(cod)、Ru(2−メチルアリル)2(cod)、[(μ−Cl)Ir(η4−1,5−cod)]2、[(μ−Cl)Ir(η2−coe)22、Ir(acac)3、IrCl3×nH2O、(tht)3IrCl3、Ir(η3−アリル)3、Ir(η3−メタリル)3[式中、codは、シクロオクタジエン、coeは、シクロオクテン、acacは、アセチルアセトネート、そしてthtは、テトラヒドロチオフェンを意味する]。金属錯体は、当業者に公知の方法によって製造でき、もしくは市販されている。
【0069】
配位子前駆体と反応される金属錯体と1種以上の配位子前駆体との上述の反応に引き続き、得られる本発明による金属錯体は、一般に、当業者に公知の方法に従って後処理され、そして場合により精製される。通常は、その後処理及び精製は、抽出、カラムクロマトグラフィー及び/又は再結晶化によって当業者に公知の方法に従って行われる。
【0070】
本発明による金属錯体は、有機発光ダイオード(OLED)で使用される。前記金属錯体は、発光体物質として適している。それというのも該錯体は、電磁線スペクトルの可視領域に発光(エレクトロルミネッセンス)を示すからである。発光体物質としての本発明による金属錯体により、エレクトロルミネッセンスを、特に、電磁線スペクトルの青色領域において良好な効率で示す化合物を提供することが可能である。その場合に、量子収量は高く、特に本発明による金属錯体のデバイス中での寿命及び安定性は高い。
【0071】
更に、本発明による金属錯体は、使用される配位子と使用される中心金属に依存して、OLEDにおける電子阻止物質、励起子阻止物質もしくは正孔阻止物質、正孔伝導体、電子伝導体、正孔注入層又はマトリクス材料として適している。
【0072】
有機発光ダイオード(OLED)は、基本的に、複数の層:
1.アノード(1)
2.正孔輸送層(2)
3.発光層(3)
4.電子輸送層(4)
5.カソード(5)
から構成されている。
【0073】
しかしながら、OLEDは、上記の層の全てを有さなくてもよく、例えば層(1)(アノード)、(3)(発光層)及び(5)(カソード)を有するOLEDも同様に適しており、その際、層(2)(正孔輸送層)及び層(4)(電子輸送層)の機能は、隣接する層によって担われる。層(1)、(2)、(3)及び(5)もしくは層(1)、(3)、(4)及び(5)を有するOLEDは、同様に適している。
【0074】
本発明による金属錯体は、OLEDの種々の層で使用することができる。従って、本発明の更なる対象は、少なくとも1種の本発明による金属錯体を含むOLED並びに少なくとも1種の本発明による金属錯体をOLEDにおいて用いる使用である。本発明による金属錯体は、好ましくは、発光層において、特に好ましくは発光体分子として使用される。従って、本発明の更なる対象は、少なくとも1つの本発明による金属錯体を、マトリクス材料もしくは発光体分子として、好ましくは発光体分子として含有する発光層である。好ましい本発明による金属錯体は、上述のとおりである。
【0075】
本発明による金属錯体は、そのままで、更なる添加剤なくして、OLEDの発光層もしくは別の層中に、好ましくは発光層中に存在してよい。しかしながら同様に、本発明による金属錯体の他に、更なる化合物が、複数の層中に、好ましくは発光層中に存在することが可能であり、かつ好ましい。例えば、発光体分子として使用される本発明による金属錯体の発光色を変更するために、発光層中に蛍光色素が存在してよい。更に、好ましい一実施態様においては、少なくとも1種のマトリクス材料を使用することができる。好適なマトリクス材料は、当業者に公知である。一般に、マトリクス材料は、マトリクス材料のバンドギャップが、発光体として使用される本発明による金属錯体のバンドギャップよりも大きいように選択される。バンドギャップとは、本願の範囲では、三重項エネルギーを表すべきである。特に本発明による金属錯体を発光体材料として用いる場合に、好ましく使用される好適なマトリクス材料であって、電磁線スペクトルの青色領域に発光する材料は、例えばカルベン錯体、特にWO2005/019373号、WO2005/0113704号、WO2006/018292号、WO2006/056418号、WO2007/115981号、WO2008/000726号及びWO2008/000727号に挙げられるカルベン錯体;ジシリルカルバゾール、例えば9−(4−t−ブチル−フェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリルカルバゾール)、9−(フェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)カルバゾール並びに事前公開されていない整理番号PCT/EP2007/059648号PCT出願において挙げられるジシリルカルバゾール及びWO2004/095889号、EP1617710号、EP1617711号、WO2006/112265号、WO2006/130598号に挙げられる化合物である。
【0076】
前記のOLED層の各々は、更に2又はそれ以上の層から構成されていてよい。例えば、正孔輸送層は、電極から正孔が注入される層と、正孔が正孔注入層から発光層へと輸送される層とから構成されていてよい。電子輸送層は、同様に、複層からなっていてよく、例えば電子が電極を通じて注入される層と、電子注入層から電子が得られ、そして発光層中に輸送される層とから成ってよい。これらの前記の層は、エネルギー準位、耐熱性及び電荷担体移動度並びに前記の層と有機層又は金属電極とのエネルギー差のような要素に応じてそれぞれ選択される。当業者は、OLEDの構造を、本発明により、好ましくは発光物質として使用される金属錯体に最適に適合されるように選択することができる。
【0077】
特に効率的なOLEDを得るためには、正孔輸送層のHOMO(最高占有分子軌道)をアノードの仕事関数に合わせることが望ましく、かつ電子輸送層のLUMO(最低非占有分子軌道)をカソードの仕事関数に合わせることが望ましい。
【0078】
本願の更なる対象は、本発明による少なくとも1つの発光層を有するOLEDである。OLED中の更なる層は、通常はかかる層で使用され、かつ当業者に公知の任意の材料から構成されていてよい。
【0079】
上述の層(アノード、カソード、正孔注入材料及び電子注入材料、正孔輸送材料及び電子輸送材料及び正孔阻止材料及び電子阻止材料、マトリクス材料、蛍光発光体及び燐光発光体)に適した材料は、当業者に公知であり、かつ例えばH.Meng、N.HerronによるOrganic Small Molecule Materials for Organic Light−Emitting Devices in Organic Light−Emitting Materials and Devices,Ed.:Z.Li,H.Meng,Taylor & Francis,2007,Chapter 3,第295〜441頁に挙げられている。
【0080】
アノード(1)は、正の電荷担体を提供する電極である。該電極は、例えば、金属、種々の金属の混合物、金属合金、金属酸化物又は種々の金属酸化物の混合物を含有する材料から構成されてよい。選択的に、アノードは導電性ポリマーであってよい。好適な金属は、元素の周期系の第11族、第4族、第5族及び第6族の金属並びに第8族ないし第10族の遷移金属を含む。アノードが光透過性であることが望ましい場合に、一般に元素の周期系の第12族、第13族及び第14族の混合金属酸化物、例えばインジウム−スズ酸化物(ITO)が使用される。同様に、アノード(1)は、有機材料、例えばポリアニリンを含有することができ、これらは例えばNature,Vol.357,第477頁〜第479頁(1992年6月11日)に記載されている。少なくともアノード又はカソードのいずれかは、形成された光を出力結合できるために、少なくとも部分的に透明であることが望ましい。
【0081】
本発明によるOLEDの層(2)のために適した正孔輸送材料は、例えばKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technologie,第4版、第18巻、第837〜第860頁、1996に開示されている。正孔輸送性の分子もポリマーも、正孔輸送材料として使用することができる。通常使用される正孔輸送性分子は、4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1′−ビフェニル]−4,4′−ジアミン(TPD)、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC)、N,N′−ビス(4−メチルフェニル)−N,N′−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1′−(3,3′−ジメチル)ビフェニル]−4,4′−ジアミン(ETPD)、テトラキス−(3−メチルフェニル)−N,N,N′,N′−2,5−フェニレンジアミン(PDA)、α−フェニル−4−N,N−ジフェニルアミノスチレン(TPS)、p−(ジエチルアミノ)ベンズアルデヒドジフェニルヒドラゾン(DEH)、トリフェニルアミン(TPA)、ビス[4−(N,N−ジエチルアミノ)−2−メチルフェニル)(4−メチル−フェニル)メタン(MPMP)、1−フェニル−3−[p−(ジエチルアミノ)スチリル]−5−[p−(ジエチルアミノ)フェニル]ピラゾリン(PPR又はDEASP)、1,2−トランス−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)シクロブタン(DCZB)、N,N,N′,N′−テトラキス(4−メチルフェニル)−(1,1′−ビフェニル)−4,4′−ジアミン(TTB)、4,4′,4′′−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(TDTA)及びポルフィリン化合物並びにフタロシアニン、例えば銅フタロシアニンからなる群から選択される。通常使用される正孔輸送性ポリマーは、ポリビニルカルバゾール、(フェニルメチル)ポリシラン、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))、好ましくはPSS(ポリスチレンスルホネート)でドープされたPEDOT及びポリアニリンからなる群から選択される。同様に、正孔輸送性ポリマーは、ポリマー、例えばポリスチレン及びポリカーボネート中に正孔輸送性分子をドープすることによって得ることができる。好適な正孔輸送性分子は、既に前記に挙げた分子である。
【0082】
本発明によるOLEDの層(4)に適した電子輸送性材料は、オキシノイド化合物とキレート化された金属、例えばトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、フェナントロリンを基礎とする化合物、例えば2,9−ジメチル,4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(DDPA=BCP)又は4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(DPA)及びアゾール化合物、例えば2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)及び3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)を含む。この場合に、層(4)は、電子輸送の軽減のためにも、OLEDの層の境界面での励起子の消光を回避するために緩衝層又は阻止層として使用することができる。有利には、層(4)は、電子の移動度を改善し、そして励起子の消光を低減させる。
【0083】
前記に、正孔輸送性材料及び電子輸送性材料として挙げた材料によって、幾つかの複数の機能を満たすことができる。例えば、電子伝導性材料の幾つかは、該材料が低いところにあるHOMOを有する場合には、同時に正孔ブロッキング性材料である。
【0084】
電荷輸送層は、使用される材料の輸送特性を改善させるために、一方で、層厚を大規模に構成するために(ピン正孔/短絡の回避)、そして他方で、デバイスの駆動電圧を低減させるために、電子ドーピングされていてもよい。例えば、正孔輸送材料を電子受容体でドープしてよく、例えばフタロシアニンもしくはアリールアミン、例えばTPD又はTDTAをテトラフルオロ−テトラシアノ−キノジメタン(F4−TCNQ)でドープしてよい。電子輸送材料を、例えばアルカリ金属でドープしてよく、例えばAlq3をリチウムでドープしてよい。電子ドーピングは、当業者に公知であり、例えばW.Gao、A.Kahn著のJ.Appl.Phys.,第94巻、第1号、2003年7月1日(p−ドープされた有機層);A.G.Werner、F.Li、K.Harada、M.Pfeiffer、T.Fritz、K.Leo著のAppl.Phys.Lett.,第82巻、第25号、2003年6月23日及びPfeiffer他著のOrganic Electronics 2003,4,89−103に開示されている。
【0085】
カソード(5)は、電子又は負の電荷担体の供給に用いられる電極である。カソードは、アノードより低い仕事関数を有するあらゆる金属又は非金属であってよい。カソードに適した材料は、元素の周期系の第1族のアルカリ金属、例えばLi、Cs、第2族のアルカリ土類金属、第12族の金属からなり、希土類金属及びランタノイド及びアクチノイドを含む群から選択される。更に、アルミニウム、インジウム、カルシウム、バリウム、サマリウム及びマグネシウムのような金属並びにそれらの組合せ物を使用することができる。更に、リチウムを含有する有機金属化合物又はLiFを、有機層とカソードとの間に適用して、駆動電圧を低減させることができる。
【0086】
本発明によるOLEDは、付加的に、当業者に公知の更なる層を有してよい。例えば、層(2)と発光層(3)との間に、正電荷の輸送を軽減させ、かつ/又は層の互いのバンドギャップを整合させる層を適用することができる。選択的に、前記の更なる層は保護層としても用いることができる。同様に、発光層(3)と層(4)との間に、負電荷の輸送を軽減させ、かつ/又は層間の互いのバンドギャップを整合させるために付加的な層が存在してよい。選択的に、前記の層は保護層としても用いることができる。
【0087】
有利な一実施態様においては、本発明によるOLEDは、層(1)〜(5)の他に、以下に挙げられる更なる層:
− アノード(1)と正孔輸送層(2)との間の正孔注入層;
− 正孔輸送層(2)と発光層(3)との間の電子及び/又は励起子についての阻止層;
− 発光層(3)と電子輸送層(4)との間の正孔及び/又は励起子についての阻止層;
− 電子輸送層(4)とカソード(5)との間の電子注入層
の少なくとも1つを有する。
【0088】
既に上述のように、しかしながら、OLEDは、上記の層(1)ないし(5)の全てを有さなくてもよく、例えば層(1)(アノード)、(3)(発光層)及び(5)(カソード)を有するOLEDも同様に適しており、その際、層(2)(正孔輸送層)及び層(4)(電子輸送層)の機能は、隣接する層によって担われる。層(1)、(2)、(3)及び(5)もしくは層(1)、(3)、(4)及び(5)を有するOLEDは、同様に適している。
【0089】
これらの層を(例えば電気化学的調査に基づいて)好適な材料を選択せねばならないことは当業者に公知である。個々の層に適した材料並びに好適なOLED構造は、当業者に公知であり、かつ例えばWO2005/113704号に開示されている。
【0090】
更に、本発明によるOLEDの前記の層の各々は、2つ又はそれ以上の層から構成されていてよい。更に、層(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)の幾つか又は全ては、電荷担体輸送の効率を高めるために表面処理されていてよい。前記の層の各々についての材料の選択は、有利には、高い効率を有するOLEDが得られるようになされる。
【0091】
本発明によるOLEDの製造は、当業者に公知の方法に従って行うことができる。一般に、該OLEDは、個々の層を好適な基体上に連続的に蒸着させることによって製造される。好適な基体は、例えばガラス又はポリマー被膜である。蒸着のためには、通常の技術、例えば熱的蒸発、化学蒸着などを使用することができる。代替法では、好適な溶剤中の溶液又は分散液から有機層を被覆することができ、その際、当業者に公知の被覆技術が使用される。少なくとも1つの本発明による金属錯体の他に、ポリマー性材料を、OLEDの層の1つに、好ましくは発光層中に有している組成物は、一般に溶液加工法によって層として塗布される。
【0092】
一般に、種々の層は、以下の厚さを有する:アノード(1)500〜5000Å、有利には1000〜2000Å;正孔輸送層(2)50〜1000Å、有利には200〜800Å;発光層(3)10〜1000Å、有利には100〜800Å;電子輸送層(4)50〜1000Å、有利には200〜800Å;カソード(5)200〜10000Å、有利には300〜5000Å。本発明によるOLED中の正孔と電子の再結合領域の位置及び従ってOLEDの発光スペクトルは、各層の相対厚によって影響されうる。つまり、電子輸送層の厚さは、有利には、電子/正孔再結合領域が発光層中にあるように選択されることが望ましい。OLED中の個々の層の層厚の比率は、使用される材料に依存する。場合により使用される付加的な層の層厚は、当業者に公知である。
【0093】
本発明による金属錯体を本発明によるOLEDの少なくとも一層で、好ましくは本発明によるOLEDの発光層中で発光体分子として使用することによって、高い効率を有するOLEDを得ることができる。本発明によるOLEDの効率は、更に、他の層の最適化によって改善することができる。例えば、高効率のカソード、例えばCa、Ba又はLiFを使用することができる。駆動電圧の低減又は量子効率の向上を引き起こす成形された基体及び新規の正孔輸送材料は、同様に本発明によるOLED中で使用することができる。更に、種々の層のエネルギー準位を調整するために、かつエレクトロルミネセンスを軽減するために、OLED中に付加的な層が存在してよい。
【0094】
本発明によるOLEDは、エレクトロルミネセンスが有用な全ての装置で使用することができる。好適な装置は、有利には、定置式ディスプレイ及び可搬式ディスプレイから選択される。定置式ディスプレイは、例えばコンピュータ、テレビのディスプレイ、プリンターのディスプレイ、調理機器のディスプレイ並びに宣伝用ボード、照明及び標識板である。可搬式ディスプレイは、例えば携帯機器、ラップトップ、カメラ、特にデジタルカメラ、車両のディスプレイ並びにバス及び電車の目的地表示板である。
【0095】
更に、本発明による金属錯体は、逆構造を有するOLEDにおいて使用することができる。好ましくは、本発明による金属錯体は、この逆OLED中でも発光層中で使用される。逆OLEDの構造及びそこで通常使用される材料は当業者に公知である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、記号は、以下の意味を有する:
5、Z4は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nを意味する;
1、X2、X3、Y1、Y2、Y3は、互いに無関係に、NもしくはCを意味する;
4、X5は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nを意味し、その際、X4もしくはX5は、更に、それぞれもう一方の基X5もしくはX4がN、CH、CDもしくはCR1を意味する場合には、NR1、SもしくはOであってよい;
4、Y6は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nであり、その際、Y4もしくはY6は、m=0の場合に、更に、S、OもしくはNR1を意味してよい;
1、Z2、Z3は、互いに無関係に、CD、CR1、CH、Nであり、その際、Z1、Z2もしくはZ3は、n=0の場合に、更に、S、OもしくはNR1を意味してよい;
1は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル、非置換もしくは置換のシクロアルキル、非置換もしくは置換のヘテロシクロアルキル、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール、非置換もしくは置換のアルケニル、非置換もしくは置換のシクロアルケニル、非置換もしくは置換のアルキニル、SiR23、ハロゲン、ドナー作用もしくはアクセプター作用を有する置換基を意味し、その際、R1がN原子と結合されている場合には、R1は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル又は非置換もしくは置換のアリール又は非置換もしくは置換のヘテロアリールを意味し、その際、2個の任意の基R1は、更に、一緒になって、1個のアルキレン架橋もしくはアリーレン架橋を形成してよい;
2は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル又は非置換もしくは置換のアリール又は非置換もしくは置換のヘテロアリールを意味する;
m、nは、互いに無関係に、0もしくは1を意味し、その際、基Z4もしくはY5は、nもしくはmが0である場合には、存在しない]で示される少なくとも1種の配位子を含む金属錯体であって、該金属錯体が少なくとも1個の重水素原子を含むことを特徴とする金属錯体。
【請求項2】
基X4、X5、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4の少なくとも1個が、CDを意味することを特徴とする、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
基X1もしくはY1の少なくとも1個が、Nを意味し、その際、好ましくは基X1もしくはY1の正確に1個が、Nを意味し、その際、特に好ましくはX1が、Nを意味することを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属錯体。
【請求項4】
1、X2、X3、X4、X5、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Z1、Z2、Z3、Z4は、互いに無関係に以下の意味を有する:
2、Y1、Y2、Y3は、Cを意味する;
1は、Nを意味する;
3は、CもしくはN、好ましくはNを意味する;
5は、N、CDもしくはCR1、好ましくはCDを意味する;
4は、CR1、CD、N、NR1、OもしくはS、好ましくはCR1もしくはCDを意味する;
4、Y5、Y6は、互いに無関係に、CH、CDもしくはCR1、好ましくはCDを意味する;
1、Z2、Z3、Z4は、互いに無関係に、CH、CD、CR1もしくはNを意味し、その際、Z1、Z2もしくはZ3は、n=0の場合に、更に、S、OもしくはNR1を意味してよく、好ましくはZ1、Z2及びZ4はCDを意味し、かつZ3はCR1を意味することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項5】
1が、Nを意味し、X4が、CDもしくはCR1を意味し、かつX5が、CDを意味することを特徴とする、請求項3又は4に記載の金属錯体。
【請求項6】
3が、Nを意味し、かつY4、Y5、Y6、Z1、Z2及びZ4が、CDを意味し、X4、Z3が、CR1を意味することを特徴とする、請求項5に記載の金属錯体。
【請求項7】
1が、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール、SiR23、F、OR2、SR2、NR22、CF3もしくはCNを意味し、その際、R1は、R1がN原子に結合されている場合に、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル、非置換もしくは置換のアリールを意味し、かつR2は、互いに無関係に、非置換もしくは置換のアルキル又は非置換もしくは置換のアリールを意味することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項8】
mが1を意味することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項9】
一般式(II)
【化2】

[式中、以下の意味を有する:
Mは、元素の周期律表(CAS版)の第IB族、第IIB族、第IIIB族、第IVB族、第VB族、第VIB族、第VIIB族、第VIII族の遷移金属からなる群から選択される金属原子であって、相応する金属原子についてのそれぞれ可能な酸化段階のもの、好ましくはIr(III)、Pt(II)もしくはOs(II)、特に好ましくはIr(III)を意味する;
Jは、モノアニオン性もしくはジアニオン性の配位子であって、一座もしくは二座であってよいもの、好ましくは二座のモノアニオン性の配位子を意味する;
Kは、中性の、一座もしくは二座の配位子であって、一般に光活性でないものを意味する;好ましい配位子Kは、ホスフィン、特にトリアルキルホスフィン、例えばPEt3、PnBu3、トリアリールホスフィン、例えばPPh3;ホスホネート及びそれらの誘導体、アルセネート及びそれらの誘導体、ホスファイト、CO、ニトリル、アミン、ジエン(これらは、Mとπ錯体を形成しうる)、例えば2,4−ヘキサジエン、η4−シクロオクタジエン及びη2−シクロオクタジエン(それぞれ1,3及び1,5)、アリル、メタリル、シクロオクテン、ノルボルナジエン及び中性のビスカルベンを意味する;
oは、1、2、3もしくは4であり、その際、oは、M=Ir(III)の場合に、1、2もしくは3、好ましくは2もしくは3を意味し、かつM=Pt(II)もしくはOs(II)の場合に、1もしくは2を意味する;
pは、0、1、2、3もしくは4であり、その際、pは、M=Ir(III)の場合に、0、1、2、3もしくは4、好ましくは0もしくは2を意味し、かつM=Pt(II)及びOs(II)の場合に、0、1もしくは2を意味し、好ましくは0もしくは2を意味し、その際、pは、金属Mに対する結合箇所の数を意味し、すなわちp=2の場合に、2個の一座の配位子もしくは1個の二座の配位子であってよい;
qは、0、1、2、3もしくは4であり、その際、qは、M=Ir(III)の場合に、0、1もしくは2、好ましくは0を意味し、M=Pt(II)の場合に、0もしくは1、好ましくは0を意味し、かつM=Os(II)の場合に、2もしくは3、好ましくは2を意味し、その際、qは、金属Mに対する結合箇所の数を意味し、すなわちq=2の場合に、2個の一座の配位子もしくは1個の二座の配位子であってよい;
その際、o、p及びqは、使用される金属原子の酸化段階及び配位数と、配位子の電荷に依存している]を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項10】
一般式(IIa)
【化3】

[式中、以下の意味を有する;
Mは、元素の周期律表(CAS版)の第IB族、第IIB族、第IIIB族、第IVB族、第VB族、第VIB族、第VIIB族、第VIII族の遷移金属からなる群から選択される金属原子であって、それぞれ相応の金属原子について可能な酸化段階のもの、好ましくはIr(III)もしくはPt(II)、特に好ましくはIr(III)を意味する;
【化4】

は、二座のモノアニオン性の配位子であって、1個以上の重水素原子を有してよい配位子を意味する;
oは、1、2、3、4を意味し、その際、oは、好ましくはM=Ir(III)の場合に、1、2もしくは3を意味し、特に好ましくは2もしくは3を意味し、かつM=Pt(II)の場合に、1もしくは2を意味する;
p′は、0、1もしくは2を意味し、その際、pは、好ましくはM=Ir(III)の場合に、0、1もしくは2を意味し、特に好ましくは0もしくは1を意味し、かつM=Pt(II)の場合に、0もしくは1を意味し、その際、p′は、配位子
【化5】

の数を意味する;
その際、o及びp′は、使用される金属原子の酸化段階及び配位数に依存する]を有することを特徴とする、請求項9に記載の金属錯体。
【請求項11】
二座のモノアニオン性の配位子中のLが、それぞれ互いに無関係に、O、N及びCから選択され、好ましくはモノアニオン性の二座の配位子であり、その際、2個の基Lは、O、CもしくはNを意味するか、又は一方の基Lが、Oを意味し、かつもう一方の基Lが、NもしくはCを意味するか、又は一方の基Lが、Cを意味し、かつもう一方の基Lが、Nを意味し、特に好ましくは二座のモノアニオン性の配位子は、アセチルアセトネート、ピコリネート、カルベン、アリールピリジン及びアリールイミダゾール並びに上述の化合物の誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の金属錯体。
【請求項12】
一般式(IIaa)
【化6】

[式中、Dは、重水素を意味し、かつR3は、互いに無関係に重水素もしくはR1を意味する]を有することを特徴とする、請求項10又は11に記載の金属錯体。
【請求項13】
Mが、Ir(III)、Pt(II)、好ましくはIr(III)を意味し、oが、M=Ir(III)の場合に、1、2もしくは3、好ましくは2もしくは3を意味し、M=Pt(II)の場合に、1もしくは2を意味し、p′は、M=Ir(III)の場合に、0、1もしくは2、好ましくは0もしくは1を意味し、M=Pt(II)の場合に、0もしくは1を意味し、その際、合計o+p′は、M=Ir(III)の場合に3を意味し、かつM=Pt(II)の場合に2を意味し、かつoは、少なくとも1であることを特徴とする、請求項10から12までのいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか1項に記載の少なくとも1種の金属錯体を含む有機発光ダイオード。
【請求項15】
請求項1から13までのいずれか1項に記載の少なくとも1種の金属錯体を含む発光層。
【請求項16】
請求項15に記載の少なくとも1つの発光層を含む有機発光ダイオード。
【請求項17】
請求項1から13までのいずれか1項に記載の少なくとも1種の金属錯体を、有機発光ダイオードにおいて用いる使用。
【請求項18】
請求項14又は16に記載の少なくとも1つの有機発光ダイオードを含む、定置式ディスプレイ、例えばコンピュータ、テレビのディスプレイ、プリンターのディスプレイ、調理機器のディスプレイ並びに宣伝用ボード、照明、標識板及び可動式ディスプレイ、例えば携帯機器、ラップトップ、デジタルカメラ、車両のディスプレイ並びにバス及び電車の行き先表示板からなる群から選択される装置。

【公表番号】特表2011−524869(P2011−524869A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512961(P2011−512961)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057089
【国際公開番号】WO2009/150151
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】