説明

重油の不純物装置

【課題】設備コストの低減を図りつつ、軽質油分を生成することができる重油の不純物分離装置を提供する。
【解決手段】重油に含まれるアスファルテン分を除去する重油の不純物分離装置1であって、アスファルテン分の臨界半径より大きくなるようにサブミクロンオーダからナノオーダの範囲における予め設定された大きさの油滴として重油を水中に分散させる超音波分散器3と、この超音波分散器3で分散された臨界半径より大きな油滴が合体して形成する分離油相と超音波分散器3で分散された臨界半径より小さな油滴及び水からなるエマルジョン相とを分離する沈殿分離器5と、この沈殿分離器5で分離されたエマルジョンに含まれる油分と水とを分離する遠心分離器6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重油に含まれるアスファルテン分を除去する重油の不純物分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重油は、一般に、分子量の小さい油成分から分子量の大きな油成分まで幅広く含有しており、分子量の小さな順(言い換えれば、軽質な順)で飽和分、芳香族分、レジン分、及びアスファルテン分から構成されている。
【0003】
ここで従来、重油から軽質油分を生成してガスターンの燃料に用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の従来技術では、加熱・加圧された重油及び加圧・加熱された水を撹拌混合する混合器と、この混合器で混合された混合物を所定の温度に加熱し、水が超臨界域又は超臨界域近傍となる反応条件下(例えば圧力30MPa、温度500℃の条件下)で重油を熱分解させる反応器と、この反応器からフラッシュバルブを介し供給された生成物をガス成分、油分(液成分)、及び水分(液成分)にそれぞれ分離する分離器と、この分離器で分離された油分をさらに留出分(軽質油分)と残分に分離する蒸留塔とを備えている。そして、分離器で分離されたガス成分と蒸留塔で分離された軽質油分をガスタービン装置の燃焼器(燃焼室)に供給し、圧縮空気と混合して燃焼し、発生した駆動用燃焼ガスによりガスタービンを駆動し、ガスタービン用発電機で発電する。一方、蒸留塔で分離された残分をボイラに供給して燃焼し、これによって生成したスチームによりスチームタービンを駆動し、スチームタービン用発電機で発電するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−80750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術には以下のような課題が存在する。
すなわち、上記従来技術では、水が超臨界域又は超臨界域近傍となる反応条件下(例えば圧力30MPa、温度500℃の条件下)で重油を熱分解させるため、反応器等の構造物にインコネルなどの高価な耐熱性材料を用いる必要が生じ、設備コストが高くなっていた。
【0006】
本発明の目的は、設備コストの低減を図りつつ、軽質油分を生成することができる重油の不純物分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、重油に含まれるアスファルテン分を除去する重油の不純物分離装置であって、アスファルテン分の臨界半径より大きくなるようにサブミクロンオーダからナノオーダの範囲における予め設定された大きさの油滴として重油を水中に分散させる分散器と、前記分散器で分散された臨界半径より大きな油滴が合体して形成する分離油相と前記分散器で分散された臨界半径より小さな油滴及び水からなるエマルジョン相とを分離する第1の分離器と、前記第1の分離器で分離されたエマルジョンに含まれる油分と水とを分離する第2の分離器とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、設備コストの低減を図りつつ、軽質油分を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0010】
本発明の第1の実施形態を図1により説明する。図1は、本実施形態による重油の不純物分離装置の構成をガスタービン装置とともに表す概略図である。
【0011】
この図1において、不純物分離装置1は、重油に含まれるアスファルテン分(詳細には、縮合多環芳香族が層状構造をなしたもので分子量が千〜十万程度の高分子化合物)を除去して、軽質油分を生成するものである。不純物分離装置1は、重油と水を混合する混合器2と、この混合器2からの混合物に超音波を透過させて重油を予め設定された液滴として水中に分散させる超音波分散器3と、この超音波分散器3からの混合物を撹拌する撹拌器4と、この撹拌器4からの混合物を沈殿分離する沈殿分離器5(第1の分離器)と、この沈殿分離器5で分離されたエマルジョンを遠心分離する遠心分離器6(第2の分離器)とを備えている。
【0012】
ここで本発明の基本概念を説明する。図2に示すように、各重油成分(飽和分、芳香族分、レジン分、及びアスファルテン分)は、エマルジョンを形成するための臨界半径(限界半径)が存在する。すなわち、例えば臨界半径以下の油滴を水中に分散させると、図3(a)に示すような安定したエマルジョン相を形成し、一方、例えば臨界半径より大きな油滴を水中に分散させると、図3(b)に示すように油滴が適宜合体を繰り返し、最終的には水から密度分離した分離油相を形成する。そして、各重油成分の臨界半径は、分子量に依存し、分子量が大きいほど臨界半径が小さくなる傾向にある。
【0013】
そこで、例えば図3に示すナノオーダの半径A(例えば1nm程度)の油滴として重油を水中に分散させれば、アスファルテン分の油滴は、対応する臨界半径より大きいので最終的に分離油相を形成し、他の重油成分(飽和分、芳香族分、及びレジン分)の油滴は、対応する臨界半径より小さいので水とともにエマルジョン相を形成する。このような観点に基づき、超音波分散器3は、例えば予め設定されたナノオーダの半径Aの油滴として重油を水中に分散させるため、周波数が制御された超音波を透過させるようになっている。また、撹拌器4は、超音波分散器3で水中に分散された油滴の合体を抑制するため、流れの速度勾配を極力小さくして混合物を撹拌するようになっている。
【0014】
沈殿分離器5は、撹拌器4からの混合物をエマルジョン相と分離油相とに沈殿分離し、沈殿した分離油相をタール(本実施形態では、アスファルテン分及びこれに含まれる重金属類など)として排出系統7から排出するようになっている。排出系統7には開閉弁(図示せず)が設けられており、沈殿分離器5内の検出器(図示せず)で検出された分離油相の液位が予め設定された所定値を超えないように開閉弁の動作が制御されている。なお、排出系統7から排出されたタールは、適宜処理されている。
【0015】
遠心分離器6は、沈殿分離器5で分離されたエマルジョンを油分(本実施形態では、飽和分、芳香族分、及びレジン分からなる軽質油分)と水に遠心分離するようになっている。遠心分離器6で分離された軽質油分は、供給系統8を介しガスタービン装置9の燃焼器10に供給される。燃焼器10は圧縮機11から供給された圧縮空気とともに軽質油分を燃焼し、発生した燃焼ガスによりガスタービン12を駆動し、発電機13で発電するようになっている。一方、遠心分離器6で分離された水は、浄化装置14で浄化処理されて水タンク15に貯留され、再び、混合器2へ供給されるようになっている。
【0016】
以上のように構成された本実施形態においては、例えば水が超臨界域又は超臨界域近傍となる反応条件下(例えば圧力30MPa、温度500℃の条件下)で重油を熱分解させて分離する場合とは異なり、例えば常温常圧の条件下で重油に含まれるアスファルテン分を除去することができる。このとき、バナジウム等の重金属類はアスファルテン分に99%以上含有されているので、重金属類も除去することができ、ガスタービン装置9に適用可能な燃料を生成することができる。また、例えば常温常圧の条件とすることにより、構造物に高価な耐熱部材を用いる必要がないので、設備コストの低減を図ることができる。また、従来の装置実績や経験則を用いることができ、耐久性等に対する信頼性を高めることができる。
【0017】
なお、上記第1の実施形態においては、重油を水中に分散させる分散器として、混合器2で混合された重油と水との混合物に超音波を透過させる超音波分散器3を設けた場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば多孔質膜等を用いて重油を水中に分散させつつ混合させるような構成としてもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0018】
また、上記第1の実施形態においては、超音波分散器3により予め設定されたナノオーダの半径A(前述の図3参照)の油滴として重油を水中に分散させ、沈殿分離器5によりアスファルテン分を分離して除去し、遠心分離器6により飽和分、芳香族分、及びレジン分からなる軽質油分を得る場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば、超音波分散器3により予め設定されたサブミクロンオーダの半径B(前述の図3参照、例えば10μm程度)の油滴として重油を水中に分散させてもよい。この場合には、沈殿分離器5によりアスファルテン分だけでなくレジン分も分離して除去することができ、遠心分離器6により飽和分及び芳香族分からなる軽質油分を得ることができる。また、水中に分散させる油滴の大きさはサブミクロンオーダからナノオーダの範囲(言い換えれば、例えば1nm〜10μm程度)で設定すればよく、このような場合も上記同様の効果を得ることができる。
【0019】
また、上記第1の実施形態においては、遠心分離器6により得られた軽質油分をガスタービン装置9の燃料として用いる場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば船舶用ディーゼルエンジンの燃料として用いるようにしてもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0020】
本発明の第2の実施形態を図4により説明する。本実施形態は、上記第1の実施形態の構成に、分散器で重油を水中に分散させる前に重油及び水を水の沸点未満の条件で加熱する加熱手段を設けた実施形態である。
【0021】
図4は、本実施形態による重油の不純物分離装置の構成を表す概略図である。なお、この図4において、上記第1の実施形態と同等の部分には同一の符号を付すとともに、図示及び説明を適宜省略する。
【0022】
本実施形態では、混合器2に供給する重油及び水を水の沸点未満の条件下(例えば常圧下で70℃〜99℃程度)でそれぞれ加熱する重油加熱器16及び水加熱器17を設けている。これにより、重油の粘度が低減するので、超音波発生器3で効率よく重油を水中に分散させることができる。
【0023】
このような本実施形態においても、上記第1の実施形態同様、設備コストの低減を図りつつ、軽質油分を生成することができる。
【0024】
本発明の第3の実施形態を図5により説明する。本実施形態は、上記第2の実施形態の構成に、重油及び水を加圧する加圧手段を設けた実施形態である。
【0025】
図5は、本実施形態による重油の不純物分離装置の構成を表す概略図である。なお、この図5において、上記第1及び第2の実施形態と同等の部分には同一の符号を付すとともに、図示及び説明を適宜省略する。
【0026】
本実施形態では、重油加熱器16に供給する重油を加圧する重油ポンプ18と、水加熱器17に供給する水を加圧する水ポンプ19とを設けている。これにより、上記第2の実施形態に比べ、水の沸点を高めることができ、重油加熱器16及び水加熱器17の加熱温度を高めることができる。したがって、重油の粘度をさらに低減することができる(例えば150℃程度では、軽油なみの粘度に低減することができる)ので、超音波発生器3でさらに効率よく重油を水中に分散させることができる。
【0027】
このような本実施形態においても、上記第1及び第2の実施形態同様、設備コストの低減を図りつつ、軽質油分を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の重油の不純物分離装置の第1の実施形態の構成をガスタービン装置とともに表す概略図である。
【図2】重油成分の臨界半径を表す特性図である。
【図3】臨界半径より小さな油滴の状態を表す図、及び臨界半径より大きな油滴の状態を表す図である。
【図4】本発明の重油の不純物分離装置の第2の実施形態の構成を表す概略図である。
【図5】本発明の重油の不純物分離装置の第3の実施形態の構成を表す概略図である。
【符号の説明】
【0029】
1,1A,1B 不純物分離装置
3 超音波分散器
5 沈殿分離器(第1の分離器)
6 遠心分離器(第2の分離器)
8 供給系統
9 ガスタービン装置
10 燃焼器
16 重油加熱器(加熱手段)
17 水加熱器(加熱手段)
18 重油ポンプ(加圧手段)
19 水ポンプ(加圧手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重油に含まれるアスファルテン分を除去する重油の不純物分離装置であって、
アスファルテン分の臨界半径より大きくなるようにサブミクロンオーダからナノオーダの範囲における予め設定された大きさの油滴として重油を水中に分散させる分散器と、
前記分散器で分散された臨界半径より大きな油滴が合体して形成する分離油相と前記分散器で分散された臨界半径より小さな油滴及び水からなるエマルジョン相とを分離する第1の分離器と、
前記第1の分離器で分離されたエマルジョンに含まれる油分と水とを分離する第2の分離器とを備えたことを特徴とする重油の不純物分離装置。
【請求項2】
請求項1記載の重油の不純物分離装置において、前記分散器は、重油と水との混合物に超音波を透過させることによって重油を水中に分散させる超音波分散器であることを特徴とする重油の不純物分離装置。
【請求項3】
請求項1記載の重油の不純物分離装置において、前記分散器で重油を水中に分散させる前に重油及び水を水の沸点未満の条件で加熱する加熱手段を設けたことを特徴とする重油の不純物分離装置。
【請求項4】
請求項1記載の重油の不純物分離装置において、重油及び水を加圧する加圧手段と、前記分散器で重油を水中に分散させる前に前記加圧手段で加圧された重油及び水を水の沸点未満の条件で加熱する加熱手段とを設けたことを特徴とする重油の不純物分離装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の重油の不純物分離装置において、前記第2の分離器で分離された油分をガスタービン装置の燃焼器に供給する供給系統を設けたことを特徴とする重油の不純物分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−67951(P2009−67951A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239879(P2007−239879)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】