説明

重症敗血症の治療における経口ラクトフェリン

本発明は、重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリンに関する。特に、本発明は、ラクトフェリン(LF)の組成物を経口的に投与することによる、敗血症、特に重症敗血症を効果的に治療する方法に関する。より詳しくは、本発明は、ラクトフェリンの組成物を、APACHE IIスコアが≦25、特に<25である患者に経口的に投与することによる、敗血症、特に重症敗血症を、予防的または治療的に治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリンに関する。特に、本発明は、ラクトフェリン(LF)の組成物を経口的に投与することによる、敗血症、特に重症敗血症を効果的に治療する方法に関する。より詳しくは、本発明は、ラクトフェリンの組成物を、APACHE IIスコア≦25、特に<25を有する患者に経口的に投与することによる、敗血症、特に重症敗血症を、予防的または治療的に治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は、感染プロセスに対する全身性炎症反応症候群(SIRS)と定義される。敗血症は、身体のあらゆる箇所に発生し得る細菌感染の結果である。一般的な部位は、尿生殖路、肝臓または胆道、消化管、および肺である。あまり一般的でない部位は、静脈ライン、手術創、褥瘡性潰瘍、および褥瘡である。感染は通常、血液培養が陽性であることによって確認される。感染は、敗血症性ショックと呼ばれるショックを招くことがある。敗血症ショックは、たいてい院内感染したグラム陰性細菌によって引き起こされ、通常、免疫不全状態の患者および慢性疾患を有する患者に生じる。しかし、患者の3分の1では、敗血症はグラム陽性球菌によって、およびカンジダ生物体によって引き起こされる。敗血症の診断は、以下の4つの診断基準のうち少なくとも2つが存在することに基づく:頻脈(心拍数>90bpm)、過呼吸(呼吸数>20/分またはpCO2exp<35mmHg)、発熱(>38.3℃)または低体温(<36℃)、および白血球増多症(>12000/μL)または白血球減少症(<4000/μL)。
【0003】
米国において毎年約750000症例の敗血症が存在し、そのうち少なくとも225000症例が致死的である。現在、敗血症にはたった1つの薬物である、抗血栓、抗炎症、および線維素溶解促進性の性質を示す組換えヒト活性化プロテインCが認可されている。
【0004】
敗血症は、感染(既知のものまたは疑わしいもののいずれか)、および全身性の炎症反応の両方の存在によって規定される臨床的な症候群である。通常は無菌の体液中にみとめられる白血球(WBC)、内臓の穿孔、肺炎と一致する胸部エックス線、または感染の可能性が高いことに伴う臨床的な症候群(例えば、上行性胆管炎など)の生理学的な徴候が存在する場合に感染が疑われる。全身性炎症反応のエビデンスには、バイタルサインおよびWBC計数値におけるかく乱が含まれる。
【0005】
生理学的に、敗血症は、サイトカインの放出、接着分子の発現の増大、活性酸素種の放出、および急性期タンパク質の発現によって特徴付けられる。局所性および全身性両方の続発症が観察され、敗血症において観察される腸に対する虚血再灌流障害が後に続く。結果として生じる腸の透過性の増大は細菌の移動の増大を伴い、これが敗血症の状態をさらに増悪させ得る。
【0006】
重症敗血症は、敗血症に加えて1つまたは複数の臓器機能不全(例えば、SOFA[敗血症関連臓器不全評価]スコア)によって決定される通り、特に、
-急性肺傷害
-凝固異常
-血小板減少症
-精神状態の異常
-腎不全
-肝不全
-心不全、または/および
-乳酸アシドーシスを有する低灌流
から選択される1つまたは複数の臓器機能不全と規定される。
以下にSOFAスコアをより詳しく概略する。
SOFAスコア3を参照されたい
【0007】
【表1】

【0008】
Vincent JL、Moreno R、Takata J、Willatts S、De Mendonca A、Bruining H、Reinhart CK、Suter PM、およびThijs LG.、The SOFA (Sepsis-related Organ Failure Assessment) score to describe organ dysfunction/failure. On behalf of the Working Group on Sepsis-Related Problems of the European Society of Intensive Care Medicine.、Intensive Care Med.、1996年、22巻、707〜710頁を参照されたい。
【0009】
SOFAスコアが1である場合、特にSOFAスコアが2である場合、好ましくはSOFAスコアが3である場合、より好ましくはSOFAスコアが4である場合に、臓器系の1つの臓器機能不全が存在する。
【0010】
「重症敗血症」と呼ばれる敗血症の症例のカテゴリーに対して、現在の治療オプションは非常に限られている。第一に、治療は、罹患している臓器機能(心臓、肺、および腎臓)に対する支援、呼吸の支援、および輸液療法に注目している(Dellinger RP、Levy MM、Carlet JMら、Surviving Sepsis Campaign: International guidelines for management of severe sepsis and septic shock.、Intensive Care Medicine (2008年) 34巻、17〜60頁、ならびにCrit Care Med、2008年、36巻(1)、296〜327頁)。特に、重症敗血症に利用可能な薬剤治療は限られている。根底にある感染を治療するのに抗生物質が用いられるが、重症敗血症は抗生物質治療単独によって解決されるものではない。いくつかの場合において敗血症ショックからの低血圧をコントロールするのにコルチコステロイドおよび昇圧薬が用いられる。
【0011】
重症敗血症の場合、記録される感染(すなわち、記録される重症敗血症)を有する患者、または微生物の記録のない(すなわち、培養陰性の重症敗血症)診断を有する患者の間の区別を行うことができる。28日の死亡率は、記録される重症敗血症を有する患者において約56%であり、培養陰性の重症敗血症を有する患者において約60%である。
【0012】
現在の重症敗血症の治療は、根源的な感染の根絶およびあらゆる関連の臓器機能不全の支持療法の提供からなる。治療には、病原体の同定、感染源の除去、輸液療法(血行力学的支援)、経験的な抗微生物治療、変力薬および血管作用薬の支援、ならびに肺の支援(酸素、機械的換気)が含まれる。
【0013】
敗血症の現在の理解は、サイトカインの放出を防止および/または中和し、炎症および凝固を阻害し、繊維素溶解を促進する新たな治療を開発しなければならないことを示唆している。
【0014】
2001年11月、FDAは、重症敗血症に対する最初の生物学的治療を認可した。この薬物、ドロトレコギンアルファ(Drotrecogin Alfa)(活性型)(Xigris(登録商標))は、天然に存在するヒトタンパク質の遺伝子操作型である活性化プロテインCである。重症敗血症における死亡率および罹患率に対するこの薬物の有益な効果は、抗炎症性の、抗凝固性の、および線維素溶解促進性の効果に起因する。ドロトレコギンアルファ(活性型)は患者の死亡率を改善するが、限度があり、特に、重大な副作用を有する。ドロトレコギンアルファ(活性型)は著しい数の患者において重症の出血を引き起こし、これは致死的であり得る。ドロトレコギンアルファ(活性型)は、小児集団(18歳以下)において有効性を実証することができなかった。ドロトレコギンアルファ(活性型)は、APACHE IIスコア≦25を有する重症敗血症の患者に対して治療効果がない(Abraham、Edwardら、the Administration of Drotrecogin Alfa (Activated) in Early Stage Severe Sepsis (ADDRESS) Study Group, Drotrecogin Alfa (Activated) for Adults with Severe Sepsis and a Low Risk of Death、N Engl J Med、2005年、353巻、1332〜1341頁)。最後に、1つ以下の臓器機能不全またはAPACHE IIスコア≦25を有する敗血症患者などのいくつかの亜集団において、ドロトレコギンアルファ(活性型)は実際に死亡率を増大すると思われる。
【0015】
重症敗血症に対して調査中の医薬品は、エリトラン四ナトリウム(ACCESS:重症敗血症を有する患者におけるエリトラン四ナトリウムおよびプラセボの対照比較(A Controlled Comparison of Eritoran Tetrasodium and Placebo in Patients With Severe Sepsis) (NCT00334828)、フェーズIII臨床試験(進行中))である。エリトラン四ナトリウムに対するフェーズII臨床試験の結果は、APACHE IIスコアを有する重症敗血症に対する有効性を示している(Tidswell, Mら、Phase 2 trial of eritoran tetrasodium (E5564), a toll-like receptor 4 antagonist, in patients with severe sepsis.、Crit Care Med.、2010年1月、38巻(l)、72〜83頁)。しかし、これには「APACHE IIスコアが最も低い4分の1(21未満)の対象に対して、エリトラン四ナトリウム105mg治療群における死亡率は高かった(12.0%対0.0%プラセボ、CMHカイ二乗検定、p=0.083)」と記載されている。このように、重症敗血症の症例は、特に患者がより低いAPACHE IIスコアおよび/または正確に1つの臓器機能不全を有する症例に、アンメットメディカルニーズを示し続けている。
【0016】
組換えヒト活性化プロテインCを含む医薬調製物であるドロトレコギンアルファ(活性型)は、例えば、Xigris(登録商標)として販売されているが、かなりの副作用がある。したがって、この医薬品は、APACHE IIスコア>25の症例においてのみみとめられており、さらに小児に適用することはできない。
【0017】
急性生理学および慢性健康評価(The Acute Physiology and Chronic Health Evaluation) (APACHE) IIスコア付けシステムは、12のルーチンの生理学的測定の初期値、年齢、および以前の健康状態に基づく得点を用いて、疾患の重症度の全般的尺度を提供する疾患の重症度の分類システムであり、結果として病院死のリスクに相関する0〜71の範囲のスコアをもたらし(Knausら、1985年)、71は死の危険性が最高であることを示す。生理学的測定には、体温、心拍数、血圧、平均動脈圧、呼吸数、肺機能、白血球計数値、動脈pH、血液酸素化、ならびにクレアチニン、ナトリウム、カリウム、およびHCO3の血清レベルが含まれる。APACHE IIスコアは敗血症の重症度を決定するのに用いることができる。
【0018】
APACHE II予後システムを以下に説明する(Knaus WA、Wagner DP、Draper EA、Zimmerman JE、Bergner M、Bastos PG、Sirio CA、Murphy DJ、Lotring T、Damiano A: The APACHE II prognostic system. Risk prediction of hospital mortality for critically ill hospitalized adults.、Chest、1991年、100巻、1619〜1636頁)。
【0019】
【表2】

【0020】
菌血症および敗血症(SIRS)に起因する敗血症ショックの病原性は完全に理解されていない。感染性の生物体によって産生される細菌毒素は複雑な免疫学的反応を誘発する。エンドトキシン(グラム陰性腸内細菌の細胞壁から放出されるリポ多糖の脂質分画)に加えて、腫瘍壊死因子、ロイコトリエン、リポキシゲナーゼ、ヒスタミン、ブラジキニン、セロトニン、およびインターロイキン-2を含む多数のメディエーターが関係している。最初に、動脈および細動脈の血管拡張が生じ、心拍数が増大した場合に駆出率が低減することがあっても、正常または増大した心拍出量で末梢動脈抵抗を低減する。後に、心拍出量が低減することがあり、末梢抵抗が増大することがある。心拍出量の増大にかかわらず、毛細血管の交換血管への血流が損なわれ、最終的に1つまたは複数の内臓臓器の不全を引き起こす。
【0021】
実験動物、例えば、内毒素を注射したマウスにおいて、酸化的破壊および炎症メディエーターの過剰生成を伴うエンドトキシン血症および内毒素誘発性の死が生じる。腹腔内投与したラクトフェリンは、主に細菌の内毒素に結合することにより、エンドトキシン血症の病原性において役割を果たすことが記載されている(Kruzel MLら、Clin Exp Immunol、2002年、130巻、25〜31頁)。非経口的なラクトフェリンの他の効果はまた、例えば、ラクトフェリンをリポ多糖(LPS)チャレンジの1時間前に腹腔内投与すると、LPS注射2時間後に、いくつかのメディエーター、すなわち、TNF-アルファ82%、IL-6 43%、IL-10 47%の阻害をもたらし、ショック後6時間に一酸化窒素(NO)における低減(80%)をもたらすと記載されている。LPS注射の18時間前にラクトフェリンを予防的に腹腔内投与すると、TNF-アルファ(95%)およびNO(62%)における同様の低減をもたらす。同様に、ラクトフェリンを、内毒素ショックの治療的後誘発として腹腔内投与した場合、血清中TNF-アルファおよびNOにおける著しい低減が明らかであった。
【0022】
文献において、経口のラクトフェリンは、成熟腸管から全身性に著しい程度も吸収されないことが報告されており(Heyman MおよびDesjeux J-F、Significance of intestinal food protein transport. J Pediatr Gastroenterol Nutr、1992年、15巻、48〜57頁; Fransson GB、Thoren-Tolling K、Jones B、Hambraeus L、およびLonnerdal B.、Absorption of lactoferrin-iron in suckling pigs.、Nutr Res、1983年、3巻、373〜84頁; Holloway NM、Lakritz J、Tyler JW、Carlson SL.、Serum lactoferrin concentrations in colostrum-fed calves.、Am J Vet Res、2002年4月、63巻(4)、476〜8頁)、ラクトフェリンの役割の大部分は全身性に循環する内毒素の結合に関連することも文献によって想定されている。例えば、rhLFの経口的利用能を決定するために、フェーズ2のGLP薬物動態学的試験がアカゲザルにおいて行われた。4mL/kgの標準的な投与量体積を、経口胃管栄養法によって投与した。静脈内投与したrhLFの薬物動態に対して比較を行った。rhLFの経口投与量は1000mg/kgであった。この経口投与量の後、rhLFの血漿濃度は投薬前の内因性ラクトフェリン値よりも有意に高くなかった。絶対的バイオアベイラビリティの計算値は0.5%未満であった。
【0023】
ラクトフェリンは1本鎖の金属結合性糖タンパク質である。単球、マクロファージ、リンパ球、および刷子縁細胞などの多くの細胞型がラクトフェリン受容体を有することが知られている。ラクトフェリンはBリンパ球およびTリンパ球両方に対する不可欠な増殖因子であることに加えて、ラクトフェリンは宿主の一次防御メカニズムに関する広範囲の機能を有する。例えば、ラクトフェリンは、ナチュラルキラー(NK)細胞を活性化し、コロニー刺激活性を誘発し、多核好中球(PMN)を活性化し、顆粒球生成を制御し、抗体依存性細胞の細胞毒性を増強し、リンホカインが活性化するキラー(LAK)細胞の活性を刺激し、マクロファージの毒性を増強することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許出願第2004/0152624号
【特許文献2】米国特許第5,571,896号
【特許文献3】米国特許第5,571,697号
【特許文献4】米国特許第5,571,691号
【特許文献5】米国特許第5,629,001号
【特許文献6】米国特許第4,642,104号
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Vincent JL、Moreno R、Takata J、Willatts S、De Mendonca A、Bruining H、Reinhart CK、Suter PM、およびThijs LG.、The SOFA (Sepsis-related Organ Failure Assessment) score to describe organ dysfunction/failure. On behalf of the Working Group on Sepsis-Related Problems of the European Society of Intensive Care Medicine.、Intensive Care Med.、1996年、22巻、707〜710頁
【非特許文献2】Dellinger RP、Levy MM、Carlet JMら、Surviving Sepsis Campaign: International guidelines for management of severe sepsis and septic shock.、Intensive Care Medicine (2008年) 34巻、17〜60頁
【非特許文献3】Crit Care Med、2008年、36巻(1)、296〜327頁
【非特許文献4】Abraham、Edwardら、the Administration of Drotrecogin Alfa (Activated) in Early Stage Severe Sepsis (ADDRESS) Study Group, Drotrecogin Alfa (Activated) for Adults with Severe Sepsis and a Low Risk of Death、N Engl J Med、2005年、353巻、1332〜1341頁
【非特許文献5】Tidswell, Mら、Phase 2 trial of eritoran tetrasodium (E5564), a toll-like receptor 4 antagonist, in patients with severe sepsis.、Crit Care Med.、2010年1月、38巻(l)、72〜83頁
【非特許文献6】Knaus WA、Wagner DP、Draper EA、Zimmerman JE、Bergner M、Bastos PG、Sirio CA、Murphy DJ、Lotring T、Damiano A: The APACHE II prognostic system. Risk prediction of hospital mortality for critically ill hospitalized adults.、Chest、1991年、100巻、1619〜1636頁
【非特許文献7】Kruzel MLら、Clin Exp Immunol、2002年、130巻、25〜31頁
【非特許文献8】Heyman MおよびDesjeux J-F、Significance of intestinal food protein transport. J Pediatr Gastroenterol Nutr、1992年、15巻、48〜57頁
【非特許文献9】Fransson GB、Thoren-Tolling K、Jones B、Hambraeus L、およびLonnerdal B.、Absorption of lactoferrin-iron in suckling pigs.、Nutr Res、1983年、3巻、373〜84頁
【非特許文献10】Holloway NM、Lakritz J、Tyler JW、Carlson SL.、Serum lactoferrin concentrations in colostrum-fed calves.、Am J Vet Res、2002年4月、63巻(4)、476〜8頁
【非特許文献11】Morrell MR、Micek ST、Kollef MH.Infect、The management of severe sepsis and septic shock. Dis Clin North Am.、2009年9月、23巻(3)、485〜501頁
【非特許文献12】「Physicians Desk Reference」
【非特許文献13】Goodman & Gilman's「The Pharmacological Basis of Therapeutics」
【非特許文献14】「Remington's Pharmaceutical Sciences」
【非特許文献15】「The Merck Index、第11版」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の一目的は、重症敗血症に対する治療を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明によると、この目的は、重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリンによって達成される。
【0028】
本発明は、重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリンに対するものである。特に、本発明は、重症敗血症を予防的または治療的に治療するための方法に対するものである。さらに、敗血症ショック、または多臓器機能不全および急性呼吸促迫症候群(ARDS)などの関連する状態をラクトフェリンで治療することができる。
【0029】
本発明によると、重症敗血症は、ラクトフェリンで上首尾に治療することができることが見出された。重症敗血症は、敗血症に加えて1つまたは複数の臓器機能不全と定義される。本発明は、第1に、ラクトフェリン組成物、特に、重症敗血症に対する効果的な治療としての経口ラクトフェリン組成物を、特にAPACHE IIスコア≦25、好ましくは<25を有する患者に用いることである。
【0030】
臨床試験において、ラクトフェリンを重症敗血症の治療において用いることができることが見出されている。特に、ラクトフェリンを用いた場合により高い生存率が達成されることが見出された。さらに、ラクトフェリンで、比較的少数の副作用の発生が観察される。
【0031】
ラクトフェリンは、重症敗血症、すなわち、敗血症に加えて1つまたは複数の臓器機能不全、特に、急性肺傷害、凝固異常、血小板減少症、精神状態の異常、腎不全、肝不全、心不全、または/および乳酸アシドーシスを有する低灌流から選択される1つまたは複数の臓器機能不全の治療に特に適する。このような臓器不全は、SOFAスコアが1である場合、特にSOFAスコアが2である場合、好ましくはSOFAスコアが3である場合、より好ましくはSOFAスコアが4である場合に存在する。
【0032】
重症敗血症は、特に、敗血症の他に、新たに発症し、他の疾患プロセスまたは治療の効果によって説明されない敗血症による、少なくとも1つの急性臓器機能不全が存在する場合の症例である。このような急性臓器機能不全は、特に、以下の通り規定される:
-心血管-平均動脈圧(MAP)>65mmHgまたは収縮期圧>90mmHgを維持するための、十分な急速輸液**に加えて、昇圧薬*に対する必要性。
*昇圧薬は、ここでは≧5mcg/kg/分のドパミン、または血圧を支援する意図でのあらゆる投与量のノルエピネフリン、エピネフリン、フェニレフリン、またはバソプレシンと規定する。
ドブタミンおよびドペキサミンは昇圧薬とみなされない。
**ここでは、十分な急速輸液は以下の1つと規定する:i)最小20mL/kg(理想的な体重)の静脈内容量負荷試験(結晶質もしくは等価のコロイド)、またはii)測定される場合には中心静脈圧(CVP)≧8mmHg、またはiii)肺動脈閉塞圧(PAOP)≧12mmHg。
-呼吸器-PaO2/FiO2比≦250、または≦200。肺が感染の主要部位である場合、および測定する場合に、肺毛細血管楔入圧が中心静脈容量の過負荷を示唆しない。
-腎臓-i)ベースラインからの血清クレアチニン≧0.3mg/dLにおける絶対的な増大、またはii)ベースラインからの血清クレアチニンにおける≧50%の増大、またはiii)≧1時間に尿の排出量<0.5mL/kg/時間。先の診断基準は十分な急速輸液**にかかわらず満たされていなければならない(心血管不全に対して上記で規定した通り)。
-血液学-血小板計数値<80000/mm3、または無作為化前3日以内に記録した最高値から≧50%の低減。
-代謝-血清乳酸>4.0mm/L(または他の単位における同等)。
【0033】
さらに、本発明によるラクトフェリンは、特に、全身状態が依然として適当に良好である患者、すなわち、特に、ベースラインAPACHE IIスコア≦25、とりわけ<25、好ましくは<21、より好ましくは<20を有する患者の場合にも好ましい効果も有することが見出されている。ラクトフェリンは比較的少数の副作用を有するため、全身状態が依然として比較的良好である患者にも投与することができる。これらの患者には、現在、認可された薬物がない。
【0034】
本発明によると、ラクトフェリンを、重症敗血症を治療するために用いることができ、重症敗血症は少なくとも1つの臓器機能不全を含んでいる。重症敗血症は、いくつかの臓器機能不全、特に最高8つの臓器機能不全、好ましくは最高6つの臓器機能不全、より好ましくは5つの臓器機能不全、さらにより好ましくは4つの臓器機能不全、特に3つの臓器機能不全、より好ましくは2つの臓器機能不全を含むことができる。最も好ましくは、ラクトフェリンを、正確に1つの臓器機能不全が生じた重症敗血症の治療に用いる。
【0035】
行われた臨床試験において、ラクトフェリンは、未障害の心血管機能を有する患者における重症敗血症に対して特に好ましく作用することも見出された。このように、ラクトフェリンは、心血管機能の点で臓器機能不全のない患者の場合に、特に好ましく用いることができる。
【0036】
本発明にしたがって用いられるラクトフェリンは、基本的にあらゆるラクトフェリン、例えば、ヒトまたはウシのラクトフェリンであってよい。ヒトのラクトフェリンを用いるのが好ましい。タラクトフェリンとも呼ばれる完全なラクトフェリンを用いるのが好ましい。
【0037】
ラクトフェリンは、経腸的に、特に経口的に投与することができる組成物において提供されるのが好ましい。
【0038】
投与が、8時間毎に1.5mgから100g投与量の量で行われるのが好ましく、8時間毎に1.0gから5g投与量の量で行われるのがより好ましい。
【0039】
さらに、小児の場合にも、すなわち18歳未満である患者の場合にラクトフェリンを上首尾に用いることができることが見出されている。
【0040】
ラクトフェリンは、敗血症の潜在的な治療として以前に同定されている(米国特許出願第2004/0152624号)。ラクトフェリンは、根源的な感染(菌血症)、敗血症ショック、およびある種の臓器機能不全(例えば、肺傷害、または急性呼吸促迫症候群)を治療するのに有用であると開示されている。これらは各々、特定の重症敗血症の症例において存在してもよく、または存在しなくてもよい(Morrell MR、Micek ST、Kollef MH.Infect、The management of severe sepsis and septic shock. Dis Clin North Am.、2009年9月、23巻(3)、485〜501頁)。敗血症ショックは、例えば、低APACHE IIスコア(25、21、または20未満)のカテゴリーの患者においては稀である。このように、ラクトフェリンは、全般的に敗血症治療において(すなわち、根源的な菌血症を治療するのに)、および敗血症ショックなどの特定の症状に対して有用性があると開示されているが、ラクトフェリンは、重症敗血症を有すると分類される患者に対しても、低APACHE IIスコアを有する患者に対しても治療的であるとは論じられていなかった。重症敗血症は敗血症の悪名高く困難な下位カテゴリーであるので、例えば菌血症治療に対するラクトフェリンの一般的な開示から、重症敗血症の症例における結果におけるあらゆる期待される改善を合理的に推定することはできない。本発明者らは、驚くべきことに、ヒトラクトフェリンが重症敗血症の症例における死亡率および他の結果の尺度を改善することを見出した。さらにより驚くべきことに、この改善は、上記で論じた他の治療介入が無効であり、またはプラセボを上回って死亡率を増大さえする可能性がある場合に低APACHE IIスコアの患者において見られる。
【0041】
以下の番号を付けた文は、本明細書に記載する本発明をより容易に規定するものである。
1.重症敗血症を治療する方法であって、対象の重症敗血症における改善を提供するために前記対象に十分な量のラクトフェリン組成物を投与するステップを含む、方法。
2.重症敗血症を治療する方法であって、消化管におけるラクトフェリンの量を増大することによって対象における粘膜の免疫系を補充するステップを含む、方法。
3.重症敗血症を有する対象の死亡率を低減する方法であって、前記対象の死亡率を低減するために、前記対象に重症敗血症を減弱するのに十分な量のラクトフェリン組成物を投与するステップを含む、方法。
4.改善が重症敗血症を減弱することである、文1から3の方法。
5.改善が少なくとも1つの臓器不全を減弱することである、文1から4の方法。
6.改善が前記対象の罹患率における低減である、文1から5の方法。
7.改善が前記対象の死亡率における低減である、文1から5の方法。
8.前記ラクトフェリン組成物が薬学的に許容される担体中に分散されている、文1から7の方法。
9.前記ラクトフェリンが哺乳動物のラクトフェリンである、文1から8の方法。
10.前記ラクトフェリンがヒトまたはウシのものである、文1から9の方法。
11.前記ラクトフェリンが組換えラクトフェリンである、文1から10の方法。
12.前記ラクトフェリン組成物と組み合わせて制酸薬を投与することをさらに含む、文1から11の方法。
13.投与するラクトフェリンの量が、1日あたり約1mgから約300g、好ましくは1日あたり約3mgから約100g、特に1日あたり3gから約20gである、文1から12の方法。
14.好ましくは薬学的に許容される担体中に分散されている金属キレート剤を投与することをさらに含む、文1から13の方法。
15.金属キレート剤がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはエチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)である、文14の方法。
16.投与するEDTAの量が1日あたり約0.01μgから約20gである、文14または15の方法。
17.投与する組成物中のEDTA対ラクトフェリンの比率が1:10000から約2:1である、文14から16の方法。
18.抗生物質と組み合わせてラクトフェリン組成物を投与することをさらに含む、文1から17の方法。
19.ラクトフェリンを経腸的に投与する、文1から18の方法。
20.ラクトフェリンを経口的に投与する、文1から19の方法。
21.前記ラクトフェリンが消化管においてインターロイキン18を刺激する、文16から20の方法。
22.インターロイキン18が免疫細胞の生成または活性を刺激する、文1から21の方法。
23.前記ラクトフェリンが炎症誘発性サイトカインの生成または活性を低減する、文1から22の方法。
24.投与する前記組成物が液体製剤である、文1から23の方法。
25.投与する前記組成物が、特に腸溶コーティングでの固体製剤である、文1から24の方法。
26.投与する前記組成物が、腸溶コーティングなしの固体製剤である、文1から25の方法。
27.経口投与が経鼻胃管経由である、文1から26の方法。
28.改善が循環細菌のレベルを低減することである、文1から27の方法。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明をより完全に理解するために、上記に記載した前臨床データを、以下の図において図示する。
【0043】
本明細書で用いられる「菌血症」の語は、対象の血液中に細菌を有することと定義される。
【0044】
本明細書で用いられる「敗血症」の語は、宿主の免疫系の重症のかく乱により、炎症メディエーターが局所の感染病巣から全身性の循環にさらに「溢流」するのを防ぐことができない、感染プロセスに対する全身性炎症反応症候群と定義される。敗血症の診断は、以下の4つの診断基準のうち少なくとも2つが存在することに基づく:頻脈(心拍数>90bpm)、過呼吸(呼吸数>20/分またはpCO2exp<35mmHg)、発熱(>38.3℃)または低体温(<36℃)、および白血球増多症(>12000/μL)または白血球減少症(<4000/μL)。
【0045】
本明細書で用いられる「敗血症ショック」の語は、全身性の炎症反応により重要な臓器の機能(例えば、ARDSにおける肺の機能)の不全がもたらされる敗血症の結果である。敗血症ショックの重要な特徴は、重要な臓器機能の不全が生じていないが進行中であり、短期間内に生じることである。
【0046】
本明細書で用いられる「グラム陰性細菌」または「グラム陰性細菌(複数)」の語は、グラム染色によって赤色の染色を有することによって分類されている細菌と定義される。グラム陰性細菌は、単層のペプチドグリカン、ならびにリポ多糖、リポタンパク質、およびリン脂質の外層からなる薄い壁で囲まれた細胞膜を有する。例示の生物体には、それだけには限定されないが、大腸菌属(Escherichia)、赤痢菌属(Shigella)、エドワードシエラ属(Edwardsiella)、サルモネラ属(Salmonella)、シトロバクター属(Citrobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、ハフニア属(Hafnia)、セラチア属(Serratia)、プロテウス属(Proteus)、モルガネラ属(Morganella)、プロビデンシア属(Providencia)、エルシニア属(Yersinia)、エルウィニア属(Erwinia)、バッチオークセラ属(Buttlauxella)、セデセア属(Cedecea)、ユーインゲラ属(Ewingella)、クライベラ属(Kluyvera)、テイタメラ属(Tatumella)、およびラーネラ(Rahnella)からなる腸内細菌科が含まれる。他の例示の、腸内細菌科ではないグラム陰性生物体には、それだけには限定されないが、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、ステノトロフォモナスマルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、ブルクホルデリア属(Burkholderia)、セパシア(Cepacia)、ガードネラ(Gardenerella)、バギナリス(Vaginalis)、およびアシネトバクター種(Acinetobacter species)が含まれる。
【0047】
本明細書で用いられる「グラム陽性細菌」または「グラム陽性細菌(複数)」の語は、グラム染色を用いて青色の染色を有すると分類されている細菌を意味する。グラム陽性細菌は、多層のペプチドグリカンおよびタイコ酸の外層からなる厚い細胞壁を有する。例示の生物体には、それだけには限定されないが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、レンサ球菌、腸球菌、コリネバクテリウム、およびバシラス(Bacillus)種が含まれる。
【0048】
本明細書で用いられる「抗微生物性」の語は、抗生物質、抗真菌薬、および消毒薬など、宿主に対して損傷を与えずに微生物の増殖を阻害する物質と定義される。
【0049】
本明細書で用いられる「抗生物質」の語は、宿主に対して損傷を与えずに微生物の増殖を阻害する物質と定義される。例えば、抗生物質は細胞壁の合成、タンパク質の合成、核酸の合成を阻害し、または細胞膜の機能を変調することがある。用いることができる可能性がある抗生物質のクラスには、それだけには限定されないが、マクロライド(すなわち、エリスロマイシン)、ペニシリン(すなわち、ナフシリン)、セファロスポリン(すなわち、セファゾリン)、カルバペネム(すなわち、イミペネム、アズトレオナム)、他のベータラクタム抗生物質、ベータラクタム阻害薬(すなわち、スルバクタム)、オキサリン(すなわち、リネゾリド)、アミノグリコシド(すなわち、ゲンタマイシン)、クロラムフェニコール、スルホンアミド(すなわち、スルファメトキサゾール)、糖ペプチド(すなわち、バンコマイシン)、キノロン(すなわち、シプロフロキサシン)、テトラサイクリン(すなわち、ミノサイクリン)、フシジン酸、トリメトプリム、メトロニダゾール、クリンダマイシン、ムピロシン、リファマイシン(すなわち、リファンピン)、ストレプトグラミン(すなわち、キヌプリスチンおよびダルフォプリスチン)、リポタンパク質(すなわち、ダプトマイシン)、ポリエン(すなわち、アムホテリシンB)、アゾール(すなわち、フルコナゾール)、ならびにエキノカンジン(すなわち、カスポファンギンアセテート)が含まれる。
【0050】
本明細書で用いられる「罹患率」の語は、罹患している状態または状況である。またさらに、罹患率は、特定の集団に関連した病気の対象または疾患の症例の数など、発生率の比率も意味することができる。
【0051】
本明細書で用いられる「死亡率」の語は、致死的である状態または死を引き起こす状態である。またさらに、死亡率は、所与の集団に対する死亡の比率または死亡数の比率も意味し得る。
【0052】
本明細書で用いられる「経口投与」の語は、経口、頬側、経腸、直腸、または胃内投与を含む。
【0053】
本明細書で用いられる「薬学的に許容される担体」の語は、ありとあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含んでいる。このような媒体および薬剤を薬学的に活性な物質に用いることは、当技術分野においてよく知られている。ただし、あらゆる従来の媒体または薬剤が本発明のベクターまたは細胞と不適合性である場合を除き、治療用組成物におけるその使用が企図される。補充の有効成分も、組成物中に組み入れることができる。
【0054】
本明細書で用いられる「ラクトフェリン」または「LF」の語は、天然または組換えのラクトフェリンを意味する。天然のラクトフェリンは、哺乳動物の乳汁もしくは初乳から、または他の天然の供給源から精製することによって得ることができる。組換えラクトフェリン(rLF)は、遺伝子改変された動物、植物、真菌、細菌、または他の原核生物種もしくは真核生物種における組換え発現または直接的な生成によって、あるいは化学合成によって作成することができる。
【0055】
ラクトフェリンは抗感染性の性質および抗炎症性の性質を有することが知られており、GI粘膜のバリアの性質を回復および維持することも示されている。天然のラクトフェリン(LF)は、主に、母乳、唾液、涙、胆汁、および膵液などの粘膜上皮の外分泌において見出される鉄結合性タンパク質である。天然ラクトフェリンはまた、好中球の二次顆粒から分泌される血漿中に見られるが、好中球は血漿におけるLFの主な供給源であり、好中球を刺激すると分泌される。
【0056】
敗血症の動物モデルにおいて、経腸的に投与したタラクトフェリンは、細菌および内毒素の投与によって誘発される死亡率に対して保護することが示されている。
【0057】
好んで用いられるラクトフェリンは、黒色アスペルギルスアワモリ株(Aspergillus niger var. awamori)において生成されるヒトラクトフェリン(組換えヒトラクトフェリンすなわちrhLFとしても知られている、タラクトフェリンアルファすなわちTLF)である。タラクトフェリンは、3次元構造、分子量、生物学的活性、および他の物理化学的性質の比較によって実証される通り、ヒトの乳汁からの天然ラクトフェリンに本質的に(構造上および機能上)同等であり、グリコシル化の性質においてのみ異なる。天然タンパク質同様、タラクトフェリンは、in vitroにおいて、前臨床、およびヒト臨床試験において実証されている抗感染性および抗炎症性の性質を示す。
【0058】
タラクトフェリンの非臨床的薬理学
タラクトフェリンは、抗微生物性(殺菌性および静菌性)、抗炎症性、抗ウイルス性、抗真菌性、抗腫瘍性の活性、ならびに喘息および敗血症の動物モデルにおける活性を実証している。
【0059】
経口のTLFは、腸管の腸細胞およびGALTのレベルで局所的に作用し、腸管を安定化するのを助け、有害な敗血症関連のイベントのサイクルを妨害する。タラクトフェリンは、前臨床試験および臨床試験の両方において腸管の損傷に対して保護し、腸管を横切った細菌の移行を低減することが観察されている。
【0060】
本明細書で用いられる「金属キレート剤」の語は、金属に結合する化合物を意味する。本発明において用いることができる金属キレート剤は2価の金属キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)]四酢酸(EGTA)、1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、またはこれらの塩を含んでいる。
【0061】
本明細書で用いられる「対象」または「患者」の語は、本明細書に記載する方法にしたがってラクトフェリン組成物を経口投与するあらゆる哺乳動物の対象を意味すると理解される。当業者には、哺乳動物の対象には、それだけには限定されないが、ヒト、サル、ウマ、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、ラット、およびマウスが含まれることが理解される。特定の一実施形態において、ヒト対象を治療するために本発明の方法を用いる。
【0062】
本明細書で用いられる「有効量」または「治療有効量」の語は、疾患または状態の徴候の改善または治療をもたらす量を意味する。
【0063】
本明細書で用いられる「治療する」および「治療」の語は、対象が疾患において改善を有するように組換えヒトラクトフェリン組成物の治療有効量を対象に投与することを意味する。改善は、重症敗血症またはその結果に伴う徴候のあらゆる改善または治療である。改善は、観察でき、または測定できる改善である。このように、当業者には、治療は疾患状態を改善し得るが、疾患に対する完全な治療法ではないことがあることが理解される。
【0064】
本明細書で用いられる「防止する」の語は、疾患状態を発症する危険性、または疾患状態もしくは進行に関するパラメーター、または他の異常もしくは有害な状態を最小にし、低減し、または抑制することを意味する。
【0065】
A.医薬組成物
本発明は、薬剤上の担体中に分散されるラクトフェリンを含んでいる組成物を含む。
【0066】
本発明にしたがって用いられるラクトフェリンは、それだけには限定されないが、哺乳動物の乳汁などの天然の供給源からの単離および精製によって得ることができる。ラクトフェリンが、ウシまたはヒトのラクトフェリンなど、哺乳動物のラクトフェリンであるのが好ましい。好ましい実施形態において、ラクトフェリンは、遺伝子改変された動物、植物、もしくは真核生物における組換え発現もしくは直接的生成、または化学的合成など、当技術分野においてよく知られ、用いられる遺伝子操作技術を用いて組換えで生成されるヒトラクトフェリンである。例えば、参照によって本明細書に組み入れられる、米国特許第5,571,896号、第5,571,697号、および第5,571,691号を参照されたい。
【0067】
本発明の治療は、ラクトフェリン組成物の、単独、または金属キレート剤と組み合わせた経口投与を伴う。
【0068】
ラクトフェリンと組み合わせて用いることができる金属キレート剤には、金属キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)]四酢酸(EGTA)、1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、またはこれらのあらゆる塩が含まれる。EDTAをラクトフェリンと組み合わせて用いるのがより好ましい。
【0069】
さらに、本発明によると、経口投与に適する本発明の組成物は、不活性の希釈剤と一緒に、またはそれなしで、薬学的に許容される担体中に提供される。担体は、同化することができ、または食べられるものでなければならず、液体、半固体、すなわち、ペーストの、または固体の担体を含む。ただし、あらゆる従来の媒体、薬剤、希釈剤、または担体が、レシピエントに対して有害であり、またはラクトフェリン調製物および/またはそれに含まれる金属キレート剤の治療的有効性に対して有害である場合を除き、経口投与可能なラクトフェリン、および/または本発明の方法を実践する上で用いるための金属キレート剤中のその使用は好適である。担体または希釈剤の例には、脂肪、油、水、食塩水溶液、脂質、リポソーム、樹脂、結合剤、充填剤など、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0070】
本発明によると、組成物を、あらゆる好都合で実用的なやり方において、すなわち、溶解、懸濁、乳化、混合、カプセル化、マイクロカプセル化、吸収などによって、担体と合わせる。このような手順は当業者にはルーチンである。
【0071】
本発明の特定の一実施形態において、粉末形態の組成物を、半固体または固体の担体と合わせ、または徹底的に混合する。混合は、粉砕など、あらゆる好都合なやり方で行うことができる。組成物を、胃における変性などによる治療活性の喪失から保護するために、混合プロセスにおいて安定化剤を加えることもできる。経口投与可能な組成物において用いるための安定化剤の例には、バッファー、胃酸の分泌に対するアンタゴニスト、グリシンおよびリジンなどのアミノ酸、デキストロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、ショ糖、マルトース、ソルビトール、マンニトールなどの炭水化物、タンパク質分解酵素阻害物質などが含まれる。
【0072】
さらに、半固体または固体の担体と合わせられる組成物を、硬もしくは軟シェルゼラチンカプセル剤、錠剤、または丸剤中にさらに調合することができる。ゼラチンカプセル剤、錠剤、または丸剤を腸溶コーティングするのがより好ましい。腸溶コーティングは、pHが酸性である胃または腸上部における組成物の変性を防ぐ。例えば、米国特許第5,629,001号を参照されたい。小腸に到達すると、そこの塩基性のpHによりコーティングが溶解され、組成物が放出され、上皮の腸細胞およびパイエル板のM細胞など、特殊化した細胞によって吸収される。
【0073】
別の一実施形態において、粉末化した組成物を、安定化剤とともにまたはそれなしで、水または食塩水溶液などの液体の担体と合わせる。
【0074】
調合に際して、投与製剤と適合性のあるやり方で、また症状の改善または治療をもたらすのに治療上有効であるような量において溶液を投与する。製剤を、摂取可能な液剤、薬物放出カプセル剤などの様々な剤形において投与すると容易である。剤形におけるいくつかの変形は、治療する対象の状況に応じて生じることができる。投与を担う者は、いかなる場合にも、個々の対象に好適な投与量を決定することができる。さらに、ヒトの投与に対して、調製物は、FDA生物学的製剤オフィス(FDA Office of Biologics)基準によって必要とされる、無菌性、全体的な安全性、および純度の基準を満たす。
【0075】
B.重症敗血症の治療
本発明にしたがって、ラクトフェリンを重症敗血症の治療において用いる。当業者であれば、局所作用、薬力学、吸収、代謝、送達の方法、年齢、体重、疾患の重症度、および治療に対する反応など、いくつかの考慮に基づいて対象に投与する組成物の治療有効量を決定することができる。投与の典型的な量は、1日あたり約1mgから約300g、好ましくは1日あたり約3mgから約100g、特に1日あたり3gから約20gである。投与は、好ましくは1日3回、例えば、各々0.5gから10gの、好ましくは1gから5g、さらにより好ましくは1投与あたり1.5gから3gの投与量で行う。投与が経口的に行われるのが好ましい。組成物の経口投与には、経口、頬側、経腸、直腸、または胃内投与が含まれる。
【0076】
さらなる実施形態において、組成物を制酸薬と結合して投与する。このように、制酸薬を、組成物の経口投与の前に、または実質的に同時に、または後に投与する。組成物の投与の直前または直後に制酸薬を投与することにより、消化管におけるラクトフェリンの不活性化の程度を低減する助けとなることがある。好適な制酸薬の例には、それだけには限定されないが、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、三ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、および水酸化アルミニウムゲルが含まれる。
【0077】
本発明の好ましい一実施形態において、重症敗血症の作用を最小にするのに効果的な量のラクトフェリン組成物を投与する。組成物中のラクトフェリンの量は、約1mgから約100gまで、特に10mgから50gまで、好ましくは500mgから10gまで変化してよい。経口投与する組成物が1日あたり1mgから50gの範囲のラクトフェリンを含んでいるのが好ましい。特定の実施形態において、組成物を単回投与量または複数回投与量において投与する。単回投与量を、毎日、または1日に複数回、または1週間に複数回投与してもよい。さらなる一実施形態において、ラクトフェリンを一連の投与量において投与する。一連の投与量を、毎日、または1日に複数回、毎週または1週間に複数回投与してもよい。さらなる一実施形態において、ラクトフェリンを、経鼻胃管によって連続注入として投与する。ラクトフェリンを1日あたり3回の投与量で投与するのが好ましい。
【0078】
より好ましくは、本発明の組成物は、それだけには限定されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)]四酢酸(EGTA)、1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、またはこれらの塩などの金属キレート剤も含んでいる。組成物中の金属キレート剤の量は、約0.01μgから約20gまで変化することができる。好ましい金属キレート剤はEDTAである。経口投与する組成物が、1:10000から約2:1の比率のEDTA対ラクトフェリンを含んでいるのがより好ましい。
【0079】
治療レジメンは、重症敗血症の段階およびその結果に応じて、やはり変化することができる。医師は、現存する重症敗血症の陽性の決定、抗生物質の使用、および治療用製剤の既知の有効性および毒性(ある場合には)に基づいて用いるための最良のレジメンに対して決断するのに最も適している。
【0080】
ラクトフェリンを用いることによって、特に、重症敗血症の改善を得ることができる。
【0081】
改善は、あらゆる観察できる、または測定できる改善である。このように、当業者には、治療は患者または対象の状況を改善し得るが、疾患の完全な治療法ではないことがあることが理解される。ある態様において、重症敗血症のレベルを低減し、低下させ、阻害し、または抑止するのに有効な量の組成物を投与する。
【0082】
本発明のさらなる実施形態は、重症敗血症を治療する方法であって、消化管におけるラクトフェリンの量を増大することによって、粘膜の免疫系を補充するステップを含む方法である。ラクトフェリンを経口投与するのが好ましい。
【0083】
またさらに、さらなる一実施形態は、対象における消化管における粘膜の免疫反応を増強する方法であって、前記対象にラクトフェリン組成物を経口投与するステップを含む方法である。組成物は、ラクトフェリンを単独で、またはEDTAなどの金属キレート剤との組み合わせで含んでいる。ラクトフェリンが、免疫細胞を増強する消化管中のインターロイキン-18を刺激することが想定される。当業者には、IL-18が、リンパ球のIFN-ガンマの生成の刺激においてインターロイキン-12およびインターロイキン-2との相乗作用において作用するTh1サイトカインであることが知られている。それだけには限定されないが、IL-1、IL-2、IL-10、IL-12、またはIFN-ガンマなど、他のサイトカインの生成も変更されてよい。ラクトフェリンが、炎症誘発性サイトカイン、すなわち、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、およびTNF-アルファを阻害するインターフェロン-18を、経口投与後に刺激することも想定される。
【0084】
またさらに、ラクトフェリンをEDTAなどの金属キレート剤と組み合わせて経口投与することで、封鎖される金属イオンの量が高められ、それゆえ免疫系の増強においてラクトフェリンの有効性が増強されることが想定される。
【0085】
C.組み合わせ治療
組成物の有効性を増大するために、本発明のこれらの組成物および方法を、菌血症、敗血症、敗血症ショック、および関連の状態の治療または予防において有効である既知の薬剤、例えば、細菌感染を治療するのに知られている薬剤、例えば、抗生物質、および炎症を治療するための薬剤と組み合わせるのが望ましいことがある。いくつかの実施形態において、それだけには限定されないが、薬理学的な治療薬剤を含めた従来の治療または薬剤を、本発明の組成物と組み合わせることができることが企図される。
【0086】
本発明の組成物は、数分から数週間までの範囲の間隔によって、他の薬剤の前であってよく、並行であってよく、および/または後であってよい。本発明の組成物、および他の薬剤(単数もしくは複数)を、細胞、組織、または生物体に別々に適用する実施形態において、組成物および薬剤が、細胞、組織、または生物体に対して有利に組み合わされた効果を発揮することが依然としてできるように、意味深い期間が各送達の時間の間に期限が切れないことを全体的に確認されよう。
【0087】
組成物の様々な併用レジメンおよび1つまたは複数の薬剤が用いられる。当業者には、本発明の組成物および薬剤を、あらゆる順序または組み合わせにおいて投与することができることが知られている。他の態様において、組成物投与の前および/または後に、1つまたは複数の薬剤を、実質的に同時に、または約数分から数時間から数日から数週間以内、およびこれらから派生するあらゆる範囲内に投与することができる。
【0088】
細胞、組織、または生物体に対する組成物の投与は、存在する場合には毒性を考慮に入れて、心血管治療薬の投与のための一般的なプロトコールにしたがうことができる。治療サイクルを適宜繰り返すことが予想される。特定の実施形態において、様々なさらなる薬剤を、本発明のあらゆる組み合わせにおいて適用することができることが企図される。
【0089】
薬理学的治療薬および投与の方法、投与量などは当業者にはよく知られており(例えば、関連する部分において本明細書に参照によって組み入れられる「Physicians Desk Reference」、Goodman & Gilman's「The Pharmacological Basis of Therapeutics」、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、および「The Merck Index、第11版」を参照されたい)、本明細書の本開示に鑑みて本発明を組み合わせることができる。投与量におけるいくつかの変形は、治療する対象の状態に応じて必ず生じる。投与を担う者は、いかなる場合にも個々の対象に好適な投与量を決定し、このようの個々の決定は当業者の技術範囲内である。
【0090】
本発明において用いることができる薬理学的治療薬の非限定的な例には、抗微生物薬、抗炎症薬、抗血栓薬/線維素溶解薬、血液凝固薬、抗不整脈薬、降圧薬、昇圧薬、または代謝性アシドーシスを治療するための薬剤が含まれる。本発明のある態様において、抗生物質などの抗微生物薬が、本発明の組成物と組み合わせて用いられる。用いることができる特定の抗生物質の例には、それだけには限定されないが、エリスロマイシン、ナフシリン、セファゾリン、イミペネム、アズトレオナム、ゲンタマイシン、スルファメトキサゾール、バンコマイシン、シプロフロキサシン、トリメトプリム、リファンピシン、メトロニダゾール、クリンダマイシン、テイコプラニン、ムピロシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、オフロキサシン、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、ナリジクス酸、スパルフロキサシン、ペフロキサシン、アミフロキサシン、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、ゲミフロキサシン、エノキサシン、フレロキサシン、ミノサイクリン、リネゾリド、テマフロキサシン、トスフロキサシン、クリナフロキサシン、スルバクタム、クラブラン酸、アムホテリシンB、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、およびナイスタチンが含まれる。参照によって本明細書に組み入れられる、Sakamotoら、米国特許第4,642,104号に列挙されているものなど、抗生物質の他の例は、これら自体を当業者に容易に示唆している。抗炎症薬には、それだけには限定されないが、非ステロイド性抗炎症薬(例えば、ナプロキセン、イブプロフェン、セレコキシブ)、およびステロイド性抗炎症薬(例えば、グルココルチコイド)が含まれる。
【0091】
本出願の本発明は、例示的な項目のこの非排他的な列挙を参照することによって、部分的に特徴付けることができる:
1.重症敗血症に罹患しているヒト対象を治療する方法であって、ヒト対象が重症敗血症で死亡する危険性を低減するために治療有効量のヒトラクトフェリンをヒト対象に投与することを含む、方法。
2.ヒト対象が、ベースラインAPACHEスコア≦25、例えば、21未満を有する、1項の方法。
3.重症敗血症が1つ以下の臓器機能不全を含む、1〜2項の方法。
4.ヒト対象が、未障害の心血管機能を有する、1〜3項の方法。
5.ヒト対象が18歳未満、例えば、15歳未満、12歳未満、3歳未満、または60日齢未満である、1〜4項の方法。
6.ヒトラクトフェリンを、8時間毎に1.5ミリグラムから100グラム投与量、例えば、8時間あたり1.5グラム、経腸的に投与し、任意選択によって制酸化合物と同時投与する、1〜5項の方法。
7.ヒトラクトフェリンの投与が、ヒトラクトフェリンの消化管送達のための経腸投与経路のみによる、1〜6項の方法。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】有効性分析および安全性分析のための集団の概略を示す図である。
【図2A】APACHE IIスコア対28日全原因死亡率を示す図である。心血管不全のない患者を示す。
【図2B】APACHE IIスコア対28日全原因死亡率を示す図である。心血管不全を有する患者を示す図。
【図3】28日全原因死亡率のカプランメイヤー分析(生存の確率対生存(日数))を示す図である。
【実施例】
【0093】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれるものである。
【0094】
(実施例1)
重症敗血症を有する患者におけるタラクトフェリンアルファの安全性および有効性の、無作為化二重目隠しプラセボ対照フェーズ2試験
敗血症は、全身性炎症の存在を伴う、感染または疑わしい感染と定義されている。重症敗血症は、敗血症および1つまたは複数の臓器機能不全の存在と定義されている。臓器機能不全は、急性肺傷害、凝固異常、血小板減少症、精神状態の異常、腎不全、肝不全、もしくは心不全、または乳酸アシドーシスを有する低灌流を含み得る。臓器機能不全は、敗血症関連臓器不全評価(SOFA)スコアによって評価され得る。
【0095】
敗血症における動物実験に基づき、また広範な安全性の経験に基づき、この試験に選択する投与量は、8時間毎のラクトフェリン1.5gである。
【0096】
1.5gの投与量が効果的であると思われ、より高用量ではさらなる利益はもたらされないと思われる。
【0097】
敗血症における前臨床試験において、本発明者らはタラクトフェリンの様々な投与スケジュールを試験した。タラクトフェリンを1日3回投与すると、タラクトフェリンを1日2回投与するよりも効果的であると思われる。したがって、8時間毎1.5gの投与量およびスケジュールを本試験において用いた。
【0098】
タラクトフェリンを、リン酸バッファー(pH7)中100mg/mL溶液として個々の15mL単位投与量において患者に提供した。各15mL投与量を、経口的に、または他の経腸的な経路によって、1日3回投与した(すなわち、8時間毎)。
【0099】
タラクトフェリンの1.5g投与量レベルを8時間毎に投与(合計1日量4.5g)すると、認容性が良好であった。
【0100】
患者を、心血管機能不全の存在または非存在に関してさらに分類した。
【0101】
【表3A】

【0102】
【表3B】

【0103】
実薬治療期間の間、患者に、28日間またはICUからの退院までの早いほうまで、8(±2)時間毎にラクトフェリンを投与した。ラクトフェリンは経口的に投与し、または患者が経口的に摂取することができない場合は、栄養管(幽門前または幽門後)によって経腸的に投与した。
【0104】
主要分析
主要有効性エンドポイントを、タラクトフェリン治療群とプラセボ群との間の比較に基づいて分析した。28日(試験薬物の最初の投薬後672時間)全原因死亡率の分析を、試験中心部位によって、および心血管機能不全の存在または非存在によって層別化されたコクラン-マンテル-ヘンツェル(CMT)検定を用いて、ITT集団に対して行った。
【0105】
二次分析
二次分析として、28日目(試験薬物の最初の投薬後672時間)全原因死亡率の主要エンドポイントを、評価可能集団に対してやはり分析した。このエンドポイントを、カプランメイヤー検定およびログランク検定を用いて治療群にまたがってやはり比較した。
【0106】
二次分析は全て、ITTおよび評価可能集団に対して行った。ショックのない、人工呼吸器のない、透析のない、臓器機能不全のない、昇圧薬薬物療法のICUの平均日数を、2標本のt検定を用いて治療群にまたがって比較した。さらなる臓器不全/機能不全の発生率、新たな感染およびICUの退院を、フィッシャーの正確検定を用いて治療群にまたがって比較した。時間対事象の結果を、カプランメイヤー法で分析した。
【0107】
安全性の分析
有害事象、臨床検査データ、およびバイタルサインを分析して、試験薬物(実薬またはプラセボ)の最初の投薬から試験薬物の最終の投薬後4週間を通した、安全性集団における全ての患者に対するタラクトフェリンの安全性を評価した。
【0108】
序文
この試験は、重症敗血症を有する患者における、経腸的に投与したタラクトフェリンアルファ(TLF)の有効性および安全性の、二重目隠しプラセボ対照多施設2アームフェーズ2臨床試験であった。対象194人を、TLFまたはプラセボのいずれかを投与するように無作為化した。試験治療を、最大28日間、または対象がICUから退院するまでの最初に生じたほうまで、経口的に(または他の経腸的手順によって)投与した。安全性を、ICUにいる間毎日モニタリングし、最終の安全性評価を試験薬物の最後の投薬の4週間後に行った。無作為化3ヵ月後および6ヵ月後に対象に連絡を取って、生存状態を決定した。
【0109】
試験目的およびエンドポイント
主要目的(主要有効性エンドポイント)
主要目的は、28日(試験薬物の最初の投薬後672時間)全原因死亡率を決定することであった。
二次目的(二次有効性エンドポイント)
二次目的は、以下を決定することであった。
-生存者に対してICUにいた日数
- ICUにおけるショックのない日の割合
- ICUにおける人工呼吸器のない日の割合
- ICUにおける透析のない日の割合
- ICUにおける臓器機能不全のない日の割合
- ICUにおける昇圧薬の薬物療法の使用の期間
- ICUにおけるさらなる敗血症関連の臓器機能不全の発生および重症度
- ICUにおける新たな感染の発生
- ICU退院の発生
-3ヶ月の全原因死亡率
-6ヶ月の全原因死亡率
-死亡までの時間
-重症敗血症を有する患者における経腸的なTLFの安全性および毒性
安全性エンドポイント
-治療により出現し、試験薬物関連の有害事象(AE)の数
-重篤な有害事象(SAE)の数
-AEによる治療中断の数
-AEの数
-グレード3〜4のAEの数
【0110】
調査の計画
全体の試験デザインおよびプランの説明
これは、重症敗血症を有する患者における経腸的なTLFの二重目隠しプラセボ対照試験であった。合計401人の患者をスクリーニングして、試験に対する患者の適格性を決定した。
【0111】
合計194人の対象が適格基準を満たし、試験に登録された。対象を、最大28日間またはICUから退院するまでの最初に生じたほうまで、TLFまたはプラセボのいずれかを投与するように1:1の比率で無作為化した。登録した対象194人のうち、100人をTLFに無作為化し、94人をプラセボに無作為化した。TLFおよびプラセボのアームを試験中心部位によって、および無作為化時の心血管機能不全の存在または非存在によって層別化した。
【0112】
試験に、敗血症および少なくとも1つの臓器機能不全の診断を有した対象が登録された。対象に、主治医の決定でXigris(登録商標)を含めた、好適であったあらゆる治療法を含めた標準的な治療を施した。対象が試験薬物を経口的に摂取できなかった場合、他の経腸的手順によって投与した。無作為化後、患者に、できるだけ早く試験薬物の最初の投与量を投与した(無作為化4時間以内)。投薬は、最大28日間または対象がICUから退院するまでの最初に生じたほうまで、継続した。
【0113】
安全性をICUにおいて毎日モニタリングし、最終の安全性評価を試験薬物の最後の投薬の4週間後に行った。無作為化の3ヵ月後および6ヵ月後に対象に連絡を取って生存状態を決定した。
【0114】
試験集団の選択
組入れ基準
対象の候補者は、試験における参加に対して適格であるために以下の組入れ基準を全て満たす必要があった。
1.年齢≧18歳
2.以下の診断基準(A、B、およびC)の全てを満たすことによって規定される、前24時間以内の重症敗血症の発症:
A.既知の感染または感染の疑い。感染の疑いは、以下の1つまたは複数の存在など、感染のエビデンスに基づいていた:a)通常の無菌体液中の白血球(WBC);b)内臓の穿孔;c)肺炎のエックス線エビデンス;またはd)感染の高い可能性に伴う症候群(例えば、上行性胆管炎)。
B.全身性の炎症の徴候に対する以下の診断基準が少なくとも2つ存在し、その1つは体温またはWBC(未熟な好中球[「バンド」]を含む)における変化でなければならない:
-体温:i)≧38℃(100.4°F)の温度によって示される高体温;またはii)深部体温≦36℃(96.8°F)によって示される低体温。低体温は、経口、鼓室、または腋窩測定によるものではなく、直腸または中心カテーテル測定によって得られる温度と規定した
-心拍数を増大することが知られている医学的状況を有する患者または頻脈を防ぐ治療を受けている患者を除き、心拍数≧90/分
-呼吸数≧20/分もしくはPaCO2≦32mmHg;または急性の呼吸過程に対して機械の人工呼吸の使用
-WBC≧12000/mm3もしくは≦4000/mm3、または未熟な好中球の「バンド」が>10%、
ならびに
C.以下の通り規定する、新たに発症し、他の疾患過程もしくは治療の効果によって説明されない、敗血症による少なくとも1つの急性臓器機能不全:
-心血管- MAP>65mmHgまたは収縮期圧>90mmHgを維持するための、十分な急速輸液に加えた(十分な液体の蘇生は以下の1つと規定された:i)最小20mL/kg(理想的な体重)の静脈内容量負荷試験(結晶質もしくは同等のコロイド);またはii)測定される場合、中心静脈圧(CVP)≧8mmHg;またはiii)肺動脈閉塞圧(PAOP)≧12mmHg)昇圧薬に対する必要性(昇圧薬は、血圧を支援する意図での≧5μg/kg/分のドパミン、またはあらゆる投与量のノルエピネフリン、エピネフリン、フェニレフリン、またはバソプレシンと規定する。ドブタミンおよびドペキサミンは昇圧薬とみなされなかった)。
-呼吸-肺が感染の主要部位であった場合は、PaO2/FiO2比≦250、または≦200、そして、測定される場合、毛細血管楔入圧は中心静脈容量の過負荷を示唆するものではない。
-腎臓-i)ベースラインからの血清クレアチニンにおける≧0.3mg/dLの絶対的な増大、またはii)ベースラインからの血清クレアチニンにおける≧50%の増大、またはiii)≧1時間の尿排出量<0.5mL/kg/時間。先の診断基準は、十分な急速輸液にかかわらず満たしていなければならなかった(心血管不全に対して上記で規定した通り)。
-血液学-血小板計数値<80000/mm3、または無作為化前3日以内に記録した最高値から≧50%の低減
-代謝-血清乳酸>4.0mm/L(または他の単位における同等)
【0115】
治療
投与した治療
治験薬のTLFは、タンパク質ヒトラクトフェリンの組換え型である。これは、黒色アスペルギルスアワモリ株によってcGMPの下で生成される。3次元構造、分子量、生物学的活性、および他の物理化学的性質の比較によって実証される通り、TLFはヒト乳汁からの天然ラクトフェリンタンパク質に構造的および機能的に同等であり、グリコシル化の性質においてのみ異なる。
【0116】
TLFは、経口投与用バイアル中100mg/mLの濃度でリン酸ベースバッファー中の溶液として提供された。各対象に、1日量合計4.5gに対して、8(±2)時間毎TLF1.5g(1バイアル、15mL)の投与量を投与した。
【0117】
プラセボは、TLFに用いたのと同じリン酸ベースのバッファーに加えてバイアルに入れた薬物製品の色を模倣するための経口使用に適するFD&C/EUグレードの色素を含んでいた。8(±2)時間毎に投与するプラセボ溶液の体積は15mLであった。
【0118】
治療割当て
対象を、以下の通り、TLFまたはプラセボのいずれかを投与するようにおよそ1:1の比率で無作為化した:
-対象100人-1.5g(TFL1バイアル)8(±2)時間毎
-対象94人-1.5g(プラセボ1バイアル)8(±2)時間毎
対象4人は無作為化したが、試験薬の最初の投与量は投与せず、中止した。
治療ITT(包括解析)集団は対象合計190人からなり、治療の最初の週の間TLFを投与した96人、プラセボを投与した94人であった。
【0119】
試験における投与量の選択
前臨床データおよび以前のTLFでの臨床経験に基づいて、この試験にTLFの4.5g/日の投与量を選択し、癌患者には1.5g/日から9g/日(およそ21mg/kg/日から129mg/kg/日)の投与量を投与し、投与量-反応の関係は見られなかった。
毎日4.5g経口投与量の認容性は良好であった。
【0120】
各対象の投薬のタイミングの選択
経口のTLFは、米国および世界中で行った24の臨床試験において600人を超える対象に投与されている。これらの試験は、1日あたり1投与量から5投与量の間での様々な投薬スケジュールを評価するものであった。これらの結果に基づいて、この試験に選択した投薬スケジュールは、あらゆる食事の摂取前少なくとも30分または摂取後60分で、1日あたり3投与量であった。
【0121】
目隠し
これは二重目隠し試験であった。
【0122】
試験前評価およびベースライン(試験-1日目から1日目)
-無作為化前24時間以内の重症敗血症の発症の記録
以下の評価を、無作為化前24時間以内のあらゆる時間に行うことができる:
-試験に対する組入れ/除外基準の再考
-無作為化24時間前の急性生理学および慢性の健康評価(APACHE) II
【0123】
試験薬の最初の投薬後672時間(+48時間)の生存
試験薬の最初の投薬後672時間(+48時間)に、全対象に対して生存を決定した。
【0124】
最終の安全性評価(試験薬の最後の投薬後28日)
最終の安全性来所に対して、電話連絡によって以下の情報を得た:
-生存状態
-併用の薬物療法におけるあらゆる変化の記録
-試験薬の最後の投薬から28日間に生じたあらゆるAEの記録
【0125】
評価した有効性および安全性の測定
重症敗血症の評価
重症敗血症のパラメーターを決定した。
臓器機能の評価
臓器の評価を、組入れ基準および試験の間の敗血症関連臓器不全評価(SOFA)スコアを用いて決定した。
有害事象
AEは、試験薬との原因となる関係の可能性に関係せずに、試験薬治療の開始後の患者におけるあらゆる都合の悪い医薬上の出来事と定義した。したがって、AEは、試験製品に関係するとみなされても、またはみなされなくても、現在試験生成物の使用に伴う、あらゆる好ましくなく、意図しない徴候、症状、または疾患であり得た。これにはあらゆる副作用、傷害、毒性、または過敏反応が含まれ、単一の症状または徴候、1セットの関連の症状または徴候、または疾患が含まれ得た。AEは、調査者または副調査者(単数もしくは複数)によって臨床的に重要であると判断される、ベースラインと比べた場合に悪化していたあらゆる試験室的な異常でもあり得た。
重篤な有害事象(SAE)は、以下のあらゆるものをもたらすあらゆるAEであった:
-死亡、
-生命を脅かすイベント、
-入院または入院の延長、
-持続性の、または著しい身体障害/無能力、
-先天性異常/先天性欠損、または
i.上記に列挙したあらゆる1つの他の結果を防止するのに介入を必要とするイベント(医薬上の判断に基づく)
【0126】
尺度の妥当性
十分に評価可能集団を達成するために、およそ190人の志願者が登録されなければならなかった。死亡率における低減(死亡率30%から17%まで、≧43%の相対的低減)を検出するために、1アームあたり95人の患者の標本数により、片側p値が<0.1である80%検出力(power)がもたらされた。
【0127】
主要エンドポイントである、治療後28日全原因死亡率は、重症敗血症に対する治療を評価する臨床試験において一般的に用いられている。本試験において評価される二次エンドポイントは、フェーズ2試験に許容される二次エンドポイントの尺度とみなされた。3ヶ月および6ヶ月の時点の死亡率の評価は、予備的な二次有効性エンドポイントであり、患者の長期間フォローアップに対する理にかなった時間間隔を表す。残りの二次エンドポイントに伴う測定は、敗血症の選択された症状または他の反応関連の変数に対するTLFの効果の可能性を調査するために選択した。これらには、ICUにおけるショックのない、人工呼吸器のない、および透析のない日数の割合、ならびに臓器不全/機能不全およびICUにおける新たな感染の発生率の尺度が含まれる。
【0128】
統計学的および分析的な計画
全てのデータを分析するために標準的な統計方法を用いた。以下の技術を用いた:記述統計学、2標本のt検定、対応のあるt検定、フィッシャーの正確検定、カプランメイヤー、コックス比例ハザード、ログランク検定、ロジスティック回帰、オッズ比、コクラン-マンテル-ヘンツェル(CMH)、ブレスローデイ検定、および2集団の2項検定。
【0129】
安全性および有効性エンドポイントの試験は全て、計算したp値が0.05以下であった場合に統計学的に有意であると断言し、両側p値として出現する。p値が0.05から0.10の間であれば、統計学的に有意のボーダーラインと断言した。
【0130】
概略の統計学は、分散した尺度に対して各カテゴリーにおける反応の数およびパーセント値、ならびに連続した尺度に対して平均値、中央値、標準偏差、90%信頼区間、最小値、および最大値からなる。
【0131】
統計学的分析を全て提供するのに、SAS(登録商標)統計ソフトウエアパッケージのバージョン9.1を用いた。
【0132】
標本数の決定
重症敗血症を有する患者の集団は、典型的に、28日死亡率の少なくとも30%の発生率を実証する。治療アーム1つあたり患者95人の標本数を選択して、死亡率における≧43%の相対的な低減(死亡率30%から17%)を検出するために80%検出力を提供した(片側P値<0.1)。尿生殖器部位の既知または疑わしい感染を有する患者の割合に、15%で上限を設けた。
【0133】
対象の素因
無作為化した対象194人中、4人が試験治療を投与する前に中止した。合計190人の対象に、試験薬物を少なくとも1投与量投与した。
【0134】
試験薬物は全て紙箱によって対象に割り当て、各紙箱中は1週間の治療を提供するのに十分な薬物(1日あたり3投与量7日間)を含んでいた。TLFおよびプラセボの両方を投与した患者は、7日より長く試験した。全体および治療群による対象の素因の概要を以下のTable2(表4)に示す。
【0135】
【表4】

【0136】
TLFで治療した対象22人(22.9%)およびプラセボで治療した対象36人(38.3%)が試験を中止した。TLFで治療した対象のうち9人(40.9%)が実薬治療期間の間に中止し、生存のフォローアップの間に13人(59.1%)が中止した。同様の状況がプラセボ治療群に生じ、14人(38.9%)が実薬治療期間の間に中止し、22人(61.1%)が生存のフォローアップの間に中止した。
【0137】
両方の治療群における時期尚早な中止の最も一般的な理由は死亡であり、TLFで治療した中止した対象の22人のうち16人(72.7%)に生じ、プラセボで治療した中止した対象の36人のうち27人(75.0%)に生じた。
【0138】
【表5】

【0139】
有効性評価
分析したデータセット
無作為化した対象194人のうち、190人を試験薬物で治療し、治療ITT集団を含んでいる。安全性および有効性の分析を、190人の対象全員からのデータに対して行った。
【0140】
有効性集団
無作為化包括解析(ITT)集団
無作為化ITT集団は、無作為化した全ての患者を含んでいた。この集団は対象194人(TLF N=100、プラセボN=94)からなる。
【0141】
治療包括解析(ITT)集団
治療ITT集団は、試験を中断した者または最初の投与量を投与した後あらゆる理由で中止した者を含む、試験薬物を少なくとも1投与量投与した無作為化した患者全員を含んでいた。この集団は対象190人からなり、あらゆる試験薬物を投与する前に中止した無作為化ITT集団からの対象4人を排除する(TLF N=96、プラセボN=94)。
【0142】
人口統計学的特徴および他のベースラインの特徴
人口統計学的特徴
治療ITT集団に対して、治療群間で、年齢、性別、人種、民族、身長、または体重に関して統計学的に有意な差はみとめられなかった。平均(±SD)年齢は、TLF治療群では58.1±17.4歳、プラセボ治療群では60.9±15.9歳であった。男性対女性の比率は、各治療群においておよそ1:1であった。各群においてほぼ75%の対象が白人であり、およそ15%が黒人/アフリカ系アメリカ人であった。
【0143】
ベースラインの特徴
試験に関係があるとみなされたベースラインの特徴を、治療ITT集団における2つの治療群間で比較した。ベースライン時の評価を、試験手順フローチャート(Table1(表3))に列挙する。理学的検査、バイタルサイン、体重、および身長、血液学および血清化学、ならびに肝機能試験(LFT)などの標準の評価に加えて、ベースライン評価には、臓器機能不全の決定および併用の薬物療法の使用、尿、痰、または気管内吸引液、血液、脳脊髄液(CSF)、および糞便の培養、ならびにSOFAスコア、APACHE IIスコア、およびCharlson併存疾患スコアの決定が含まれた。
【0144】
ベースラインの特徴は、2治療群間で同様と思われる。これらの測定に加えて、臓器機能不全の比較は、ベースライン時の治療群間に統計学的な有意差がないことを実証している。機能不全を有する臓器の平均数は、TLF治療群において1.9±1.0(SD)、プラセボ治療群において2.1±1.1(SD)であった。
【0145】
重症敗血症の性質のため、細菌感染に関係のある特徴を治療群間で比較した。有意差はみとめられなかった。治療ITT集団において、肺は感染の最も頻繁な部位であり、TLF群において対象44人(45.8%)、プラセボ群において対象49人(52.1%)であった。これは、報告される呼吸器の有効な病歴の発生率が高かったことに相関する(セクション11.2.2を参照されたい)。2番目に多く報告された部位は血液であり、TLF群において対象37人(38.5%)、プラセボ群において対象26人(27.7%)であった。
【0146】
培養陰性の結果は、ベースライン時、TLF投与した対象51人(53.1%)およびプラセボを投与した対象45人(47.9%)においてみとめられた。TLFで治療した対象は、プラセボ群(対象41人、83.7%)よりも、グラム染色陽性の結果の発生率(対象33人、73.3%)が低かった。通常感染症および敗血症の原因となるグラム染色陽性の生物体である、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌および肺炎レンサ球菌が、両方の集団において同様の頻度で検出された。「他の」生物体の発生率は、両方の集団においてTLF治療した対象に比べてプラセボ治療した対象においておよそ2倍であった。評価可能集団に対する結果は、感染に関連するベースラインの特徴の全てのカテゴリーにおいて、治療ITT集団と同様であった。
【0147】
【表6】

【0148】
個々の対象データの有効性の結果および表作成
有効性の分析
予期的に規定される分析集団を、有効性評価用に同定した。ロジスティック回帰を用いた主要エンドポイントの分析を、有効性集団4つ全てに対して行い(治療ITT集団、評価可能集団、無作為化ITT集団、および感受性分析集団)、カプランメイヤー分析を、治療ITT集団および評価可能集団に対して行った。二次有効性エンドポイントを、治療ITT集団および評価可能集団に対して分析した。
【0149】
主要有効性エンドポイントの分析
主要有効性エンドポイント
主要有効性エンドポイントである、28日(試験薬物の最初の投薬672時間後)全原因死亡率(ACM)を、治療群によってロジスティック回帰分析およびカプランメイヤー分析を用いて分析し、心血管不全の存在または非存在によって、および試験部位によって層別化した。試験部位によって層別化した結果は、試験部位の数が比較的多かったため分析することができず、このため試験の検出力が低減された。
【0150】
非盲検の前に、試験チームは、フォローアップをしなかった各対象が、最後の連絡時に支援を必要とする敗血症関連の臓器機能不全を有したか否かを決定した。28日目の前に、最後の連絡時に臓器機能不全を有した対象3人は、フォローアップをせず、または同意を中止したのいずれかであった。これらの対象(1人はTLFを投与されており、2人はプラセボを投与されていた)は、分析の目的では死亡したとみなされた。プラセボで治療し、28日前にフォローアップしなかった対象1人は、最後の連絡時に臓器機能不全はなく、対象は分析目的では生存として数えられた。
【0151】
主要有効性エンドポイント分析結果
ロジスティック回帰分析
治療ITT集団において、TLFの投与は、プラセボを投与されていた患者において観察されたよりも、治療後28日の死亡率における45%の低減に関連していた(TLFを投与されていた群における死亡14人、14.6%;プラセボを投与された群における死亡25人、26.6%;p=0.0429、一変量のロジスティック回帰)。心血管(CV)機能不全の非存在において、TLF治療対象における28日の死亡率はプラセボ治療群における死亡率よりも88%低かった(TLFに対して死亡1人、2.6%対プラセボに対して死亡7人、22.6%)。心血管不全を有する対象に対して、生存における改善が検出され、TLF治療した対象13人(22.4%)およびプラセボ治療した対象18人(28.6%)が28日で死亡した。ロジスティック回帰分析においてCV機能不全を含める場合、TLFの効果は、両側ロジスティック回帰に基づき、ボーダーラインで統計的に有意であった(p値0.0572)。
【0152】
評価可能集団に対する結果は同様であり、TLF治療した対象は、プラセボ治療した対象に比べた場合、死亡率20%から0%の、28日の全体の死亡率において統計的に有意である56%の低減を実証した(両側ロジスティック回帰検定;p値=0.0404)。CV機能不全がロジスティック回帰分析に含まれる場合、TLFの効果は、両側ロジスティック回帰に基づきボーダーラインで統計学的に有意であった(p値0.0575)。
【0153】
治療ITT集団に対する感受性分析における結果は、TLFの死亡率に対してあまり有意でない効果を実証し、TLFを投与されていた対象に対して死亡13人、死亡率15.1%であり、28日にプラセボ治療した対象全体に観察された死亡率25.9%(死亡21人)より41%低い。TLFのこれらの効果は、両側ロジスティック回帰検定(p=0.0937)に基づき、ボーダーラインで統計的に有意であった。
【0154】
死亡率に対するTLF治療の効果は、各カテゴリーにおける、無作為化ITT集団および治療ITT集団において同様であった。
【0155】
【表7】

【0156】
カプランメイヤー分析
治療ITT集団に対する28日ACMのカプランメイヤー分析により、プラセボ治療群に比べてTLF治療群における死亡率が45%低減したことが明らかになり、TLF治療対象における死亡18人、18.8%であり、プラセボで治療した対象における死亡29人、30.9%であった。心血管機能不全による分析からの結果は、ロジスティック回帰分析からの結果と同様である。
【0157】
死亡した対象の数は、これら治療群の比較のために生存時間の中央値を推定するのに不十分であった。しかし、全体の結果は、ロジスティック回帰分析の結果と一致しており、TLFの投与は治療28日後の生存を改善した。
【0158】
同様の結果が、評価可能集団に対する28日ACMのカプランメイヤー分析から得られたが、ボーダーラインで統計学的に有意であるにすぎなかった(p=0.0888)。
【0159】
死亡するまでの時間のコックス比例ハザード(Cox Proportional Hazards)分析の結果も同様の傾向を示し(Table10(表12))、治療ITT集団においてTLF投与に伴う生存時間における統計学的に有意な(p=0.0471)増大を実証している。CV機能不全によって層別化する場合、死亡率に対するTLFの効果はボーダーラインで有意であるにすぎない(p=0.0760)。TLFは、評価可能集団における死亡率に有意な効果はない。
【0160】
全体的に、TLFの投与は、治療ITT集団におけるプラセボでの治療後に観察されるものよりも低い28日全原因死亡率に関連している。
【0161】
【表8】

【0162】
11.4.1.2 二次有効性エンドポイント分析
二次有効性エンドポイント
二次有効性分析を、治療ITT集団および評価可能集団に対して行い、比較を、Table11(表13)に記載する通りに治療群にまたがって行った。さらなるサブグループ分析も、28日(試験薬物の最初の投薬672時間後)全原因死亡率の分析において同定したあらゆる予後因子に対して行った。
【0163】
二次有効性エンドポイント分析結果
以下のエンドポイントに対して、治療ITT集団または評価可能集団のいずれかにおいて治療群(TLFおよびプラセボ)間に統計学的に有意な差はみとめられなかった:生存者に対してICUにいた日数、ICUにおけるショックのなかった日の割合、ICUにおける人工呼吸器のなかった日の割合、ICUにおける透析のなかった日の割合、ICUにおける臓器機能不全のなかった日の割合、ICUにおける昇圧薬薬物療法の使用の日の期間、ならびにICUにおけるさらなる臓器不全/機能不全の発生率および重症度。データは正常に分散しておらず、したがって分析においてウィルコクソン順位和検定などのノンパラメトリックな方法を用いた。
【0164】
【表9】

【0165】
3ヶ月および6ヶ月全原因死亡率ならびに死亡までの時間を決定するためのさらなる二次分析を、治療ITT集団および評価可能集団に対して行った。
【0166】
治療ITT集団全体において、ACMは、TLFで治療した対象に対する治療後3ヶ月から6ヶ月の間はかなり一定のままであると思われた。同様の結果が、評価可能集団において観察された。
【0167】
【表10】

【0168】
試験中に死亡した対象の数は、カプランメイヤー分析から生存時間の中央値を推定するのに不十分であった。その代わり、死亡数および死亡までの時間を、各治療群に対して表を作成し、治療ITT集団および評価可能集団の両方に対して分析した。結果は、死亡が比較的少数であり、死亡までの時間に対する値の範囲が広く、治療後の死亡までの時間において治療群間に有意差がなかったことを示している。
【0169】
【表11】

【0170】
ii.統計上/分析上の問題
データを分析するのに用いた統計学的方法の不適切な使用に起因する統計学上の問題は観察されなかった。
【0171】
ベースライン時にAPACHEスコアが25を超えた患者は、TLFでの治療後、有意に低いACMを実証した。
【0172】
TLFに対する臓器機能不全の効果に関して、より広範なデータが入手可能である。以前にみとめられた通り、機能不全を有する臓器の数による臓器機能不全のタイプにおいてベースライン時に治療群間に統計学的に有意な差はみとめられない(Table17、ならびにTable14.2.17および14.2.18)。下記のデータは、差は統計学的に有意ではないが、CV機能不全のあるまたはない代謝機能不全の存在、または機能不全を有する≦2の臓器の存在は、TLFの効果に影響を及ぼし得ることも示唆している。
【0173】
【表12A】

【0174】
【表12B】

【0175】
有効性の概要
-試験の間に44人の患者に生じた投薬および無作為化の誤差を考慮に入れて、分析を、可能な最も保守的な様式において行った。治療群は、測定したベースラインの特徴の点で同様と思われる。
-主要エンドポイント:ロジスティック回帰(4つ全ての有効性集団において)によって、およびカプランメイヤー分析(治療ITT集団および評価可能集団において)によって分析し、プラセボ群と比べた場合、TLF群において28日全原因死亡率における45%の低減がみとめられる。データでは、死亡までの時間の統計の中央値の算出はできなかったが、全体のカプランメイヤーの結果はロジスティック回帰の結果と一致している。評価可能集団における結果は同様であった。
-感受性分析を対象168人に対して行い(治療ITT集団)、これはバイアルのラベル付けの誤りのためプラセボとTLFの両方を投与された22人の対象を除外した。感受性分析の結果は、これら22人の対象を分析に含める場合、結論に違いがないことを示している。
-CV機能不全を有する対象に対してデータを分析した場合、比較的小さいが注目すべき違いが治療群間に観察された。Xigrisでの結果、およびフェーズIIIに進行し、または認可されているEritoran試験における結果に比べて、このフェーズII試験において見られる絶対的な低減は、これらの薬剤で報告された活性のレベルと一致する。PIは、死亡率における6%の絶対的な低減が臨床的に有意義であったと感じた。
-二次エンドポイント:殆んどのこれらの予備的なエンドポイントに対して治療群間に統計学的な有意性は決定されなかった。
-3ヶ月および6ヶ月のACMの決定、および治療群に対する死亡までの時間の表作成により、治療ITT集団および評価可能集団の両方に対して、プラセボで治療した群における全体の死亡の数がより多かったことが明らかになったが、死亡までの平均時間(日数)において治療群間に統計的に有意な差はみとめられなかった。
-CV機能不全のあるまたはない代謝機能不全の存在、または機能不全を有する≦2の臓器の存在は、TLFの効果に対していくつか影響があることがあるが、この試験において観察された差は統計的に有意ではなかった。
-ベースライン時に25を超えるAPACHEスコアを有する患者は、TLFでの治療後にACMが有意に低いことを実証した。
-いくつかのベースラインの特徴は潜在的な予後因子であるとみなすことができ、これらのいくつか、特にAPACHEスコア、代謝性対非代謝性の臓器機能不全、臓器機能不全の数、および性別に対するさらなる調査を保証することができる。
-この試験により重症敗血症の治療におけるTLFの有効性の強力なエビデンスが提供される。プラセボに比べた場合、TLFは重症敗血症を有する患者全体およびCV機能不全のない対象における死亡率がより低いことに関連する。
【0176】
安全性評価
安全性の分析
少なくとも1投与量のTLFを投与した対象全てが、安全性分析に対するTLF群に含まれた。安全性集団は、以下に概略する診断基準を満たす対象からなっていた。
【0177】
安全性集団群A
対象がTLFを最初に投与された場合、対象はTLF治療群にのみ含まれ、その対象に対する安全性データは全てTLFに帰属するものとした。対象がプラセボを最初に投与された場合、その対象に対する安全性データは、対象がTLFを投与されるときまでプラセボ群に含まれ、その時点でその対象に対する安全性データは全て試験の残りに対してTLFに帰属するものとした。これは、安全性集団を用いた分析に利用される主要な方法であった。この集団は対象190人からなっている(TLF N=190、プラセボN=94)。
【0178】
安全性集団B
TLF治療群における対象のみが含まれる。この集団はTLF N=109、およびプラセボN=81からなっていた。
【0179】
安全性分析に対して、安全性データを記録し、正しくない治療をなされた対象22人は、これらの対象が大多数の治療を投与された治療群によって要約された。AEデータは、治療の結果としてあらゆる臨床的に有意な変化を調査するように別々に列挙された。安全性集団群Bの分析により、安全性集団群Aと差がなかったことが明らかになった。
【0180】
【表13】

【0181】
安全性の概要
-TLFの認容性は良好であった。
-軽度、中等度、および重症の重症度のカテゴリー内で、治療群間に臨床上または統計学的に有意な差はみとめられなかった。
-グレード3、4、および5の重症度のカテゴリー内で、治療群間に統計学的に有意な差はみとめられなかったが、TLF治療した対象がより長く生存したことに起因する、わずかに多い数およびパーセント値のAEがTLF群において報告された。
-明確に関連するAEは報告されなかった。
-GI作用(AE)は治療群間に等しく分布していた。両方の治療群において最も頻繁に報告された治療関連のAEはGI障害であり、両方の治療群におけるおそらく関連するAEの大多数を占めていた。
-ボーダーラインの統計的に有意なAEのp値が、高カリウム血症、体液過剰、代謝性脳症、気胸、ならびに皮膚および皮下の障害の発生率およびパーセント値においてみとめられた。心房細動において統計的に有意な差がみとめられ、おそらく今後の試験におけるさらなる調査が保証される。
-バイタルサインまたは理学的検査において治療群間に統計学的に有意な差はみとめられなかった。
-DSMBは、バイアルのラベル付けの投薬の誤りによって生じた安全性の問題を確認せず、したがって予定された通りの登録で試験は進行した。
-AEは全て、試験治療に、非関連、見込みなし、またはおそらく関連するとみなされた。可能性あり、または明らかに関連するAEは報告されなかった。
-TLF群またはプラセボ群におけるSAEは全て、試験治療に非関連または関連の見込みなしとみなされた。試験治療に、可能性あり、おそらく関連する、または明らかに関連するとみなされたSAEはなかった。SAEは治療群間に等しく分布しており、臨床的に有意な差はみとめられなかった。FDAに急いで報告する必要のあるSAEはなかった。
-死亡:死亡19人はTLFに帰属するものとされ、30人がプラセボに帰属するものとされ、TLF対象のうち2人は両方の治療薬物を投与されており、プラセボ対象のうち5人はバイアルのラベル付けミスの投薬の誤りにより両方の治療薬物を投与されていた。
-治療群間の統計学的に有意な差は試験室値のグレード3の増大においてみとめられなかったが、ヘモグロビン、血小板計数値、および炭酸水素塩の例外があり、おそらく今後の試験においてさらなる試験を行う根拠となる。C反応性タンパク質の結果は、値が広範囲であるため確認するのが困難であった。
【0182】
有害事象の分析
この試験に対して報告されたAEの分析により、TLFの認容性は良好であったことが指摘される。TLFのAEプロファイルは、プラセボのAEプロファイルと同様である。軽度、中程度、および重症のカテゴリーにおけるAEの発生率において、治療群間に、臨床上または統計学的に有意な差はみとめられない。
【0183】
グレード3、4、および5のAEを一緒にグループ分けする場合、TLF治療した対象は、プラセボに比べた場合、わずかに高いAEの発生率を実証する:TLFに対してAE153件(グレード3、4、および5において報告されたAEの53.7%)、ならびにプラセボに対してAE132件(グレード3、4、および5において報告されたAEの46.3%)。この差は統計学的に意味がなく(p値=0.2135)、TLF治療した対象における生存がより長いことに起因し得る。テキスト終わりのTable14.3.1.11.2を参照されたい。
【0184】
報告されたAE1033件の35パーセントが軽度であり、37%が中程度の強度であり、19%が重症であった。合計198の重症のAEは以下の通り報告された:TLF群において108件、プラセボ群において90件。上記の表Xおよびテキストの終わりのTable14.3.X.Xを参照されたい。
【0185】
本試験におけるAEは全て、試験治療に非関連、関連の見込みなし、またはおそらく関連するのいずれかとみなされ、試験治療に関連する可能性ありまたは明らかに関連すると報告されたものはなかった。GI障害は、TLF群およびプラセボ群の両方においておそらく関連するAEの大多数を占め、TLFに起因する3件のおそらく関連する下痢のAE(2.8%)(3件全て軽度とみなされた)、およびプラセボに起因する3件のおそらく関連する嘔吐のAE(3.2%)(1件は中程度とみなされ1件は重症とみなされた)を含んでいた。テキスト終わりのTable14.3.1.6.1を参照されたい。
【0186】
死亡、他の重篤な有害事象、および他の重要な有害事象
死亡、他の重篤な有害事象、および他の重要な有害事象の列挙
死亡
本試験の間に49人の死亡が生じ、19人がTLFに帰属するとされ、30人がプラセボに帰属するとされた。死亡した対象の7人は、バイアルのラベル付けミスの投薬の誤りにより、両方の試験治療を投与されていた(TLF群における患者2人およびプラセボ群における患者5人[治療ITT])。
【0187】
重症敗血症における無作為化二重目隠しプラセボ対照フェーズ2試験において、タラクトフェリンでポジティブな結果が得られた。
-試験結果は、タラクトフェリン対プラセボで28日全原因死亡率における全体で45%の低減を示している。
-タラクトフェリンは認容性が非常に良好であることが繰り返し示された。
【0188】
重症敗血症におけるタラクトフェリンの無作為化二重目隠しプラセボ対照フェーズ2試験からの結果。試験は、米国中の主要な25のセンターで登録された重症敗血症を有する成人患者190人においてタラクトフェリン対プラセボを評価するものであった。患者は両方のアームにおいて、集中治療室(ICU)の設定において重症敗血症に対する介護治療の標準も施された。試験は、28日全原因死亡率における低減の主要エンドポイントを達成した。試験は、プラセボアームにおける26.6%からタラクトフェリンアームにおける14.6%の、28日全原因死亡率における45%の低減を示した(両側p値=0.04、ロジスティック回帰分析によるオッズ比=0.47)。
【0189】
患者は臨床部位によって、および心血管機能不全の存在または非存在によって層別化された。心血管機能不全は重症敗血症に対する主要な予後因子である。2つの治療群において同様の数の患者に心血管機能不全があった。試験において患者(n=121)の64パーセント(64%)が心血管不全を有し、36%(n=69)にはなかった。心血管機能不全を有する患者では、28日全原因死亡率は、プラセボアームに対して28.6%であり、タラクトフェリンアームに対して22.4%であった。心血管不全のなかった患者に対して、28日全原因死亡率は、タラクトフェリンアームにおける2.6%に比べて、プラセボアームにおいて22.6%であった。試験結果を心血管不全に適合させた場合、両側p値は0.06であり、オッズ比は0.49であった。
【0190】
上記の分析は全て、治療ベースとして、包括解析(ITT)に対して行ったものであり、患者は実際に投与された治療(タラクトフェリンまたはプラセボ)に基づいて評価されたことを意味する。治療ITT分析は、試験のデータ分析に対する潜在的な影響を緩和する方法で、患者の割当て誤差を正すための方法である。この試験において、品質管理過程により、薬物のラベル付けおよび試験を実施する間の無作為化における誤りが確認され、いく人かの患者に対する薬物の割当てに影響があった。そのような理由で、米国食品医薬品局(FDA)からのフィードバックにしたがい、この分析を用いた。FDAによる推奨通り、割当ての誤りが試験の結果に対して影響があるか否かを決定するために、当社は、誤ってタラクトフェリンとプラセボの両方を投与された患者22人を除外することによる、28日全原因死亡率を評価する感受性分析を行った。この分析により、患者の割当ての誤りは試験の結果に対して明らかな効果がなかったことが指摘された。感受性分析は、プラセボアームにおける28日全原因死亡率は、タラクトフェリンアームに対する15.1%に比べて25.9%であったことを示していた。
【0191】
タラクトフェリンは試験において認容性が非常に良好であることが示され、2つの治療アーム間の有害事象において大差なかった。
【0192】
試験には、タラクトフェリンアームにおいて患者96人およびプラセボアームにおいて患者94人が含まれた。さらに、患者4人は無作為化されたが、最初の投与量を投与する前に中止したため試験薬を投与されなかった。患者は全て、無作為化の前に、適格性に対して中心的にスクリーニングした。アームは、ベースラインの特徴の点でバランスが十分にとれていた。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。
【請求項2】
ベースラインAPACHE IIスコア≦25を有する患者のための、請求項1に記載の重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。
【請求項3】
ベースラインAPACHE IIスコア<21を有する患者のための、請求項1または2に記載の重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。
【請求項4】
重症敗血症が少なくとも1つの臓器機能不全を含む、請求項1から3のいずれかに記載の重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。
【請求項5】
重症敗血症が1つ以下の臓器機能不全を含む、請求項1から4のいずれかに記載の重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。
【請求項6】
未障害の心血管機能を有する患者のための、請求項1から5のいずれかに記載の重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。
【請求項7】
ラクトフェリンがヒトラクトフェリンである、請求項1から6のいずれかに記載の重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。
【請求項8】
経口投与のための、請求項1から7のいずれかに記載の重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。
【請求項9】
18歳未満である患者のための、請求項1から8のいずれかに記載の重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。
【請求項10】
8時間毎に1.5mgから100g投与量の量において投与するための、請求項1から9のいずれかに記載の重症敗血症の治療において用いるためのラクトフェリン。

【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−520475(P2013−520475A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554353(P2012−554353)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052831
【国際公開番号】WO2011/104352
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512221142)アゲンニックス・アーゲー (1)
【Fターム(参考)】