説明

重粒子線治療用重粒子イオン発生装置

【課題】重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することができる重粒子線治療用重粒子イオン発生装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る重粒子線治療用重粒子イオン発生装置は、レーザ光の照射によってプラズマを発生する物質と、物質を収納する容器と、レーザ光を発生するレーザ光源と、物質上に前記レーザ光の焦点が形成されるようにレーザ光を集光する集光手段と、物質から発生したプラズマから重粒子イオンをクーロン力によって引き出し、容器の外部に送り出す電極手段と、物質から発生するプラズマを観測し、物質に接する領域のプラズマ径からレーザ光の集光径を求める観測手段と、物質の位置または集光手段の位置を調節する位置調節手段と、観測手段で求めた集光径が所定の基準集光径となるように、位置調節手段による物質の位置調節を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重粒子線治療用重粒子イオン発生装置に係り、特に、レーザ光を用いて重粒子イオンを発生する重粒子線治療用重粒子イオン発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重粒子線治療装置における重粒子イオン発生方法として、従来のマイクロ波放電による重粒子イオンの発生装置に代わり、装置全体の小型化および省電力化が可能なレーザ励起プラズマによる重粒子イオンの発生方法が知られている。
【0003】
このようなレーザ励起プラズマによる重粒子イオンの発生方法は、図10に示すように、容器100の内部に設置された固体ターゲット101に、レーザ光源102で生成した短パルスレーザ光を照射してプラズマを生成する。そして、短パルスレーザ光によって生成されたプラズマの電子温度が低下する前に後続の短パルスレーザ光を照射して電子を加熱し、加熱された電子によってプラズマ中に重粒子イオンを生成する(例えば、特許文献1、2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2544236号明細書
【特許文献2】特許第3270213号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の重粒子イオン発生方法は、プラズマ中の電子及びイオンの分布が空間的および時間的に不安定であるため、プラズマから生成される重粒子イオンの数が安定せず、必要数の重粒子イオンが得られないという課題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することが可能な重粒子線治療用重粒子イオン発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る重粒子線治療用重粒子イオン発生装置は、レーザ光の照射によってプラズマを発生する物質と、前記物質を真空環境下で収納する容器と、前記容器に設けられた窓を通して前記物質に照射するパルス状のレーザ光を発生するレーザ光源と、前記レーザ光源と前記窓の間に配設され、前記物質上に前記レーザ光の焦点が形成されるように前記レーザ光を集光する集光手段と、前記レーザ光の照射によって前記物質から発生したプラズマから重粒子イオンをクーロン力によって引き出し、前記容器の外部に送り出す電極手段と、前記物質から発生するプラズマを観測し、前記物質に接する領域のプラズマ径から前記レーザ光の集光径を求める観測手段と、前記物質の位置または前記集光手段の位置を調節する位置調節手段と、前記観測手段で求めた前記集光径が所定の基準集光径となるように、前記位置調節手段による前記物質の位置調節を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る重粒子線治療用重粒子イオン発生装置によれば、重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】重粒子線治療装置の構成例を示す図。
【図2】第1の実施形態に係る重粒子イオン発生装置の構成例を示す図。
【図3】電極手段と電源の構成例を示す図。
【図4】シャッタ手段の一例を示す図。
【図5】位置調節手段の一例を示す図。
【図6】集光径を求めるためのプラズマ径の説明図。
【図7】第2の実施形態に係る重粒子イオン発生装置の構成例を示す図。
【図8】ビーム扁平手段の一例を示す図。
【図9】回折光観測手段による回折長測定の概念図。
【図10】従来の重粒子イオン発生方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る重粒子線治療用重粒子イオン発生装置1(以下、重粒子イオン発生装置1という)を、添付図面に基づいて説明する。
【0011】
(重粒子線治療装置)
図1は、本発明の実施形態に係る重粒子イオン発生装置1を具備する重粒子線治療装置300の構成例を示した図である。重粒子線治療装置300は、重粒子イオン発生装置1、加速器40、X用電磁石30a、Y用電磁石30b、真空ダクト31、線量モニタ部50、リッジフィルタ60、レンジシフタ70、コントローラ80等を備えて構成されている。
【0012】
重粒子線治療装置300は、重粒子イオン発生装置1で発生させる重粒子イオンを加速器40で高速に加速して粒子線ビームを生成し、この粒子線ビームを患者200の患部(腫瘍細胞)201に向けて照射して重粒子イオンを作用させて治療を行う装置である。重粒子線治療装置300では、患部201を3次元の格子点に離散化し、各格子点に対して細い径の粒子線ビームを順次走査する3次元スキャニング照射法を実施することが可能である。具体的には、患部201を粒子線ビームの軸方向(図1右上に示す座標系におけるZ軸方向)にスライスと呼ばれる平板状の単位で分割し、分割したスライスZi、スライスZi+1、スライスZi+2等の各スライスの2次元格子点(図1右上に示す座標系におけるX軸及びY軸方向の格子点)を順次走査することによって3次元スキャニングを行っている。
【0013】
重粒子イオン発生装置1で発生させた重粒子イオンを、シンクロトロン等の加速器40よって患部201の奥深くまで到達できるエネルギーまで加速して粒子線ビームを生成している。
【0014】
X方向に走査するX用電磁石30aとY方向に走査するY用電磁石30bは、粒子線ビームをX方向及びY方向に偏向させ、スライス面上を2次元で走査する。レンジシフタ70は、患部201のZ軸方向の位置を制御する。レンジシフタ70は、例えば複数の厚さのアクリル板から構成されており、これらのアクリル板を組み合わせることによってレンジシフタ70を通過する粒子線ビームのエネルギー、即ち体内飛程を患部201スライスのZ軸方向の位置に応じて段階的に変化させることができる。レンジシフタ70による体内飛程の大きさは通常等間隔で変化するように制御され、この間隔がZ軸方向の格子点の間隔に相当する。なお、体内飛程の切り替え方法としては、レンジシフタ70のように粒子線ビームの径路上に減衰用の物体を挿入する方法のほか、上流機器の制御によって粒子線ビームのエネルギー自体を変更する方法でもよい。
【0015】
リッジフィルタ60は、ブラッグピークと呼ばれる体内深さ方向における線量のシャープなピークを拡散させるために設けられている。ここで、リッジフィルタ60によるブラッグピークの拡散幅は、スライスの厚み、即ちZ軸方向の格子点の間隔と等しくなるように設定される。3次元スキャニング照射用のリッジフィルタ60は、断面が略2等辺三角形のアルミニウム棒状部材を複数並べて構成している。粒子線ビームが2等辺三角形を通過する際に生じる径路長の差異によってブラッグピークのピークを拡散させることが可能であり、2等辺三角形の形状によって拡散幅を所望の値に設定することができる。
【0016】
線量モニタ部50は、照射する線量をモニタするためのものであり、その筐体内に、粒子線の電離作用によって生じた電荷を平行電極で収集する電離箱や、筐体内に配置された二次電子放出膜から放出される二次電子を計測するSEM(Secondary Electron Monitor)装置等によって構成されている。
【0017】
(第1の実施形態に係る重粒子イオン発生装置)
図2は、第1の実施形態に係る重粒子イオン発生装置1の構成例を示す図である。重粒子イオン発生装置1は、窓23を有する容器22、容器22内部に設置される物質2、パルス状のレーザ光Lを発生するレーザ光源3、ビーム径調節手段4、集光手段5、偏向手段6、電極手段7、シャッタ手段8、観測手段9、集光径演算部10、焦点位置調節手段11、制御部12等を備えて構成される。
【0018】
容器22は、耐食性や耐薬品性に優れ、さらに放出ガスが少ない材料、例えばステンレス鋼など、から形成れる。容器22は真空ポンプ及び真空計を備えており、その内部は真空環境に設定される。真空ポンプは、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ、イオンポンプなどが用いられ、2つ以上のポンプを組み合わせてもよい。他方、真空計は、熱電対真空計やピラニ真空計などの熱伝導真空計、ペニング真空計および電離真空計などが用いられ、こちらも2つ以上の真空計を組み合せてもよい。
【0019】
容器22には、レーザ光Lを透過させるための窓23が設けられており、窓23は、例えば、石英、溶融石英、BK7などの材料から形成される。
【0020】
物質2は、高密度のレーザ光Lを照射するとプラズマを発生する物質であり、例えば、炭素やシリコン、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素等である。プラズマ内にある重粒子イオンHは容器22の外部に引き出され、さらに加速器40によって加速されて重粒子イオンビームが形成される。重粒子イオンビームは、そのエネルギーによって人体内への侵入深さが決まり、停止直前にエネルギーを急激に放出する。この現象はブラック・ピークと呼ばれ、重粒子線治療ではこの現象を利用する。加速器40を用いて重粒子のエネルギーを調節して腫瘍細胞の位置で重粒子イオンビームを停止させることにより、体表面から腫瘍細胞に至るまでの正常細胞には影響を与えることなく、目的の腫瘍細胞にのみ重粒子イオンを作用させて治療することが可能となる。また、重粒子イオンHについては、加速器40から高いエネルギーを得ることができることから高い価数のイオンが適する。
【0021】
レーザ光源3は、容器22に設けられた窓23を通して物質2に照射するパルス状のレーザ光を発生するパルスレーザである。本実施形態におけるレーザ光源3用のレーザとしては、XeCl, XeF, KrF, ArF等の紫外波長のエキシマレーザ、TEA CO2レーザ、Q-switch YAGレーザ等が適用可能である。短波長のほうが集光時の直径を小さくできるため、例えば、YAGレーザの場合、非線形光学結晶を用いて高調波に波長変換して適用してもよい。なお、レーザ光源の横モードや縦モード、偏光状態、円形や楕円形或いは方形のビーム形状等については、適宜選択可能である。
【0022】
ビーム径調節手段4は、レーザ光Lの直径を拡大または縮小する光学素子であり、凹面や凸面、非球面のレンズや反射鏡等の光学系から構成される。
【0023】
集光手段5は、レーザ光Lを回折限界まで集光する光学素子であり、凹面の反射鏡、フレネルレンズ、回折限界まで集光可能なレンズ等の光学系から構成される。レンズとしては、例えば、アクロマティックレンズ、アポクロマティックレンズ、屈折率分布型レンズ、非球面レンズなどが適用できる。この時、レンズの焦点位置における回折限界の集光直径dは、式(1)によって表すことができる。
d=k・λ・F (1)
ここで、kは定数、λはレーザ光の波長、FはF値である。
【0024】
偏向手段6は、音響光学効果によってレーザ光の進行方向を変える光学素子であり、式(2)に示すように加える周波数fに比例してレーザ光を偏向(偏向角θ)することができる。
θ=(λf)/(2υ) (2)
ここで、λはレーザ光の波長、υは音速度である。
【0025】
電極手段7は、レーザ光Lの物質2への照射によって生じたプラズマから重粒子イオンを引き出す手段である。電極手段7にはマイナスの電圧が印加され、プラズマ中の電子をクーロン力により阻止する一方、プラスイオンである重粒子イオンをクーロン力によって引き出し、後段へ輸送する。図3に示すように、電極手段7には電源13のマイナス極が接続される。電源13は、直流電源でもよく、また交流を直流に変換する電源でもよい。交流の場合の波形は、正弦波、矩形波、三角波のいずれでもよい。
【0026】
シャッタ手段8は、容器22の内側であって、窓23に隣接して設けられるシャッタ機構である。レーザ光Lのパルスのオン、オフに同期して窓23を開閉し、パルスがオンの期間は窓23を開いてレーザ光Lを容器22の内部へ通過させる。一方、パルスがオフの期間は窓23を閉じることにより、物質2から発生するプラズマ中の重粒子イオンが窓23に付着することを防止している。
【0027】
図4は、シャッタ手段8の一例を示す図である。シャッタ手段8は、例えば、回転中心の回りを回転する円盤状の機構と図示しないモータ等で構成される。円盤は放射状の多数のスロット14を有しており、スロット14以外の領域が遮蔽部13となる。スロット14が窓23の位置を通るとき、レーザ光Lが窓23から容器22の内部に通過する。それ以外の期間は、遮蔽部13が窓23を容器22の内側から覆い、重粒子イオンの窓23への付着を防止する。シャッタ手段8は、図4の形状や構成に限定されるものではなく、遮蔽部13とスロット14(開口部)が交互に繰り返す構造であればどんな構造でも可能である。
【0028】
観測手段9は、プラズマの2次元画像を観測する観測装置であり、CCDカメラやCMOSカメラ、或いは映像増倍管を備えたCCDカメラやCMOSカメラ、ストリークカメラなどによって構成される。この他、観測手段9は、PINフォトダイオード、光電子増倍管、アバランシュフォトダイオードなどの光検出器を1次元のライン状に並べて構成することもできる。また、観測手段9には、観測波長を選択する波長選択素子を備えてもよい。
【0029】
集光径演算部10は、観測手段9が出力するプラズマの2次元画像を入力し、2次元画像の輝度分布から物質2に近接するプラズマの径を求め、さらにこのプラズマ径に対応するレーザ光Lの集光直径(集光径、或いは焦点径)を求めて記憶する一方、その値を出力する装置である。集光径演算部10は、例えば、プラズマの2次元画像を入力する入力部、集光径の解析及び記憶を行う解析記憶部、解析値を出力する出力部を備えたPC(パーソナルコンピュータ)で構成される。PCは、デスクトップPC,ラップトップPC,ノートPC等の汎用PCが適用可能である。なお、集光径演算部10を観測手段9の一部として構成してもよい。
【0030】
位置調節手段11は、レーザ光の進行方向に対して物質2を移動させることによって、物質2上のレーザ光Lの焦点位置を調節する機構である。位置調節手段11は、例えば、ピエゾ素子や電磁石などを具備した駆動機構として構成できる。或いは、図5に示すように、容器22の外側に設置されたステッピングモータやサーボモータなどのモータ15と支持機構15a等によっても構成できる。
【0031】
制御部12は、集光径演算部10(或いは観測手段9)が出力するレーザ光Lの集光径を入力し、その値から位置調節手段11の移動量を求めて記憶する一方、その値を位置調節手段11へ出力して物質2を移動させる装置である。例えば、集光径を集光径演算部10(或いは観測手段9)から入力する入力部、位置調節手段11の移動量について解析し記憶する解析記憶部、移動量を位置調節手段11に出力する出力部を備えたPCで構成される。PCは、集光径演算部10と同様、デスクトップPC,ラップトップPC,ノートPC等の汎用PCが適用可能である。
【0032】
(第1の実施形態の動作)
レーザによって励起されるプラズマ中の重粒子イオンの価数は、物質2へ集光照射されるレーザ光Lのエネルギー密度と正の相関があり、重粒子線治療に適する高い価数の重粒子イオンを安定して得るためには、高い集光密度を持ち、かつその集光密度が一定に保たれたレーザ光Lを物質2の表面上に集光照射する必要がある。
【0033】
そこで、第1の実施形態に係る重粒子イオン発生装置1は、上述した構成により以下のように動作する。
【0034】
まず、物質2の表面上に集光照射するレーザ光Lの集光直径dを設定し、式(1)からF値を求める。そして、求めたF値を満足するようにビーム径調節手段4によってレーザ光Lのビーム直径が調節(拡大または縮小)され、その後集光手段5により集光される。同時に、レーザ光Lは、偏向手段6、および容器22の窓23を通過し、パルスがオンの期間はシャッタ手段8のスロット14を通って容器22内部に設置された物質2へ照射される。一方、パルスがオフの期間は、窓23は、シャッタ手段8の遮蔽部13によって遮断される。
【0035】
なお、レーザ光Lが直線偏光の場合は、容器22の窓23へ入るパルスレーザ光Lの入射角度をブリュースター角に設定することにより窓表面の反射率が抑えられ、容器22の内部へ入るレーザ光Lの透過率を向上させることができる。
【0036】
物質2の照射部位には、集光直径dのレーザ光Lによって価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが発生する。そして、プラズマ中の電子は、マイナス電位に印加された電極手段7によるクーロン力によって阻止され、逆に、重粒子イオンHは、クーロン力によって引き出されて後段へ輸送される。
【0037】
一方、プラズマが膨張することによって重粒子イオンは容器22の内部に広がるが、シャッタ手段8の遮蔽部13によって遮断されるため、重粒子イオンが容器22の窓23に付着することがない。この結果、重粒子イオンが窓に付着することに起因するレーザ光Lの散乱および減衰が回避され、プラズマが不安定となることがない。
【0038】
他方、観測手段9では、レーザ光源3の照射タイミングを時間基準として時間ゲート動作させることにより、図6に示すように物質2の照射部位に発生するプラズマPの2次元画像が観測される。物質2に近接するプラズマPの径は、レーザ光Lの集光直径d’に対応する。そこで、集光径演算部10では、観測された2次元画像の輝度値や輝度ヒストグラム分布に閾値設定を行い、レーザ光Lの集光直径d’を求める。
【0039】
求めた集光直径d’が予め設定された集光直径dと異なる場合には、制御部12によって位置調節手段11を調節して物質2をレーザ光の進行方向の前後に移動し、物質2の表面上の集光直径d’が予め設定された集光直径dとなるように制御する。この結果、レーザ光Lは、物質2の表面上において常に予め設定した集光直径dの焦点をもつようになり、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマを安定して発生することができる。
【0040】
なお、物質2の同一部位に対してパルスレーザ光を集光照射し続け、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが安定して発生することができない場合、偏向手段6によってレーザ光Lの偏向角を調節するようにしてもよい。偏向角を調節することによって物質2に対するレーザ光Lの集光照射位置が調節される。この場合、制御部12は、偏向手段6に加える周波数fを調節して、物質2の表面上の集光直径d’が予め設定された集光直径dとなるように偏向角を制御する。この結果、物質2に対して常に集光直径dのパルスレーザ光を集光照射でき、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマを安定して発生することができる。
【0041】
さらに、制御部12は、物質2の表面上の集光直径d’が予め設定された集光直径dとなるように、ビーム径調節手段4によるレーザ光Lのビーム径の調節を制御してもよい。(第1の実施形態の効果)
第1の実施形態に係る重粒子イオン発生装置1によれば、プラズマの2次元画像を観測して物質表面上におけるレーザ光Lの集光直径d’を求め、集光直径d’が予め設定された集光直径dとなるように物質の位置を調節することにより、常に集光直径dのレーザ光Lを物質に照射することができ、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが安定して発生し、重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することが可能となる。
【0042】
また、レーザ光Lが容器22の窓23を通過した直後にシャッタ手段8の遮蔽部13によって窓23を遮断することにより、プラズマ中の重粒子イオンが容器22の窓23に付着してレーザ光Lが散乱や減衰を受けることを防止することができる。この結果、常に集光直径dのレーザ光Lを物質に照射することができ、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが安定して発生し、重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することが可能となる。
【0043】
さらに、レーザ光Lを偏向し、物質2に対するパルスレーザ光の集光照射位置を変えることにより、常に集光直径dのレーザ光Lを物質に照射することができ、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが安定して発生し、重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することが可能となる。
【0044】
(第2の実施形態に係る重粒子イオン発生装置)
図7は、第2の実施形態に係る重粒子イオン発生装置1aの構成例を示す図である。第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0045】
第2の実施形態に係る重粒子イオン発生装置1aは、第1の実施形態が具備する容器22、物質2、レーザ光源3、ビーム径調節手段4、集光手段5、偏向手段6、電極手段7、シャッタ手段8、観測手段9、集光径演算部10、焦点位置調節手段11、および制御部12に加えて、ビーム扁平手段16、空間分布均一化手段17、回折光観測手段18、および集光レンズ移動手段19を備えている。
【0046】
ビーム扁平手段16は、レーザ光Lの直径を一方向にのみ拡大または縮小する光学素子であり、シリンドリカルレンズや円筒形の反射鏡等の光学系で構成される。或いは、屈折効果を利用して、図8に示すようにプリズム20を用いて構成することもできる。図8に示す例では、ビーム扁平手段16に入力されるレーザ光Lの直交する2つの径が(Φin, Θin)であるときに、レーザ光Lの一方の径ΦのみをΦinからΦoutに拡大することにより、ビームの径の形状を円形から楕円形に扁平させている。ビーム扁平手段16を、プリズム20を用いて構成した場合、各々のプリズム20に対するレーザ光の入射角をブリュースター角に設定することで、プリズム20への入射時のレーザ光Lの反射ロスを低減することができる。
【0047】
空間分布均一化手段17は、レーザ光Lを空間分割し、各々のレーザ光に分ける光学素子であり、例えば、焦点距離fsの微小レンズを格子状に並べたレンズアレイにより構成される。空間分割されたパルスレーザ光は、集光手段5の焦点距離flの集光レンズによって焦点位置において重ね合せられ、これによって焦点位置におけるパルスレーザ光のエネルギー密度を空間的に均一化できる。また、この時の合成焦点距離ftは、式(3)から求めることができる。
(1/f)=(1/f)+(1/f)−(δ/(f・f)) (3)
ここで、δはレンズアレイと集光レンズの間の距離である。
【0048】
なお、レンズアレイと構成は異なるが、積分球やカライドスコープも同様に作用するため、空間分布均一化手段17として適用できる。
【0049】
回折光観測手段18は、物質2の表面粗さによって生じるパルスレーザ光の回折光を検出する検出器であり、PINフォトダイオード、光電子増倍管、アバランシュフォトダイオードなどの光検出器を1次元のライン状に並べて構成される。また、CCDカメラやCMOSカメラなどの2次元センサによって回折光観測手段18を構成することもできる。そして、回折光観測手段18では、図9に示す回折光の長さXが物質2の表面粗さと正の相関があることに基づき、回折光の長さXによって表面粗さを判定する。
【0050】
集光レンズ移動手段19は、レーザ光の進行方向に対して集光手段5(集光レンズ等)を移動させる移動機構であり、ピエゾ素子や電磁石、或いはステッピングモータやサーボモータなどのモータによって構成される。
【0051】
(第2の実施形態の動作)
第1の実施形態と同様に、レーザ光源3から照射されるレーザ光Lは、容器22の窓23を通って内部に設置された物質2へ照射されるが、レーザ光Lが物質2に対して斜めに照射されるため、物質2の表面上のビーム形状は楕円形となる。そこで、ビーム径調節手段4において直交2方向のビーム径が調節されたレーザ光Lに対し、ビーム扁平手段16によって予め一方向(この場合は紙面に垂直方向)に所定量だけ扁平させる。この結果、物質2の表面上においてはビーム形状が円形になる。これにより、物質2に対して直交2方向とも集光直径dをもつ円形のレーザ光Lを集光照射することができる。なお、物質2に対してレーザ光Lを垂直に入射する構成も可能であり、この場合は物質2の表面上のビーム形状は円形であるため、ビーム扁平手段16は不要である。
【0052】
続いて、扁平されたパルスレーザ光は空間分布均一化手段17のレンズアレイにおいて空間分割され、分割された各々のレーザ光Lは、集光手段5(集光レンズ等)により集光される一方、偏向手段6、容器22の窓23、およびシャッタ手段8のスロット14を通って内部に設置された物質2へ照射される。これにより、物質2の照射部位では、空間分割された各々のパルスレーザ光が重ね合せられるため、エネルギー密度が高くかつ空間的に均一な集光直径dのパルスレーザ光が常に照射され、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが発生させることができる。
【0053】
プラズマ中の重粒子イオンHは、クーロン力によって引き出されて後段へ輸送される一方、観測手段9ではプラズマの2次元画像が観測され、レーザ光Lの集光直径d’が求められる。そして、求められた集光直径d’が予め設定された集光直径dと異なる場合には、制御部12は、集光レンズ移動手段19によって集光手段5(集光レンズ)をレーザ光の進行方向の前後に移動し、物質2の表面上の集光直径d’が予め設定された集光直径dとなるように制御する。なお、ビーム径調節手段4によってパルスレーザ光のビーム直径を調節することによっても集光直径dを調節することができる。
【0054】
このような制御により、レーザ光Lは物質2の表面上において常に集光直径dのパルスレーザ光となり、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマを安定して発生することができる。
【0055】
さらに、生成される重粒子イオンの数が不安定な場合は、レーザ光源3またはビーム径調節手段4の設定を変え、レーザ光Lのエネルギー密度をプラズマが生成されないエネルギー密度(縦おば、0.1J/cm2未満)まで一旦下げる。そして、この低エネルギー密度のレーザ光Lを物質2に照射し、物質2の表面の回折光を検出する。図9に示す回折光の長さXが規定値より大きい場合は、物質2の表面が粗いことを意味している。そこでこの場合には、偏向手段6に加える周波数fを変えてレーザ光Lの偏向角を変更し、物質2に対するレーザ光Lの集光照射位置を変える。この結果、表面粗さが所定の値よりも小さな表面部位をパルスレーザ光の集光照射部位とすることができ、物質2に対して常に集光直径dのパルスレーザ光を集光照射でき、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマを安定して発生することができる。
【0056】
(第2の実施形態の効果)
第2の実施形態に係る重粒子イオン発生装置1aによれば、プラズマの2次元画像を観測して物質2の表面上におけるレーザ光Lの集光直径d’を求め、集光直径d’が予め設定された集光直径dとなるように集光レンズの位置やビーム直径を調節することにより、常に集光直径dのパルスレーザ光を物質に照射することができ、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが安定して発生し、重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することが可能となる。
【0057】
また、レーザ光Lが物質に対して斜めに照射される場合であっても、予め一方向に所定量だけビーム形状を扁平させておくことにより、物質表面上のビーム形状が常に円形である集光直径dのパルスレーザ光を照射することができ、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが安定して発生し、重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することが可能となる。
【0058】
また、レーザ光Lを空間分割し、空間分割された各々のレーザ光を重ね合わせて物質表面上に集光照射することにより、エネルギー密度が高くかつ空間的に均一な集光直径dのレーザ光Lを常に照射することができ、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが安定して発生し、重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することが可能となる。
【0059】
さらに、物質表面の回折光から表面粗さを測定し、一定以下の表面粗さの表面部位をレーザ光Lの集光照射部位に選定することにより、常に集光直径dのレーザ光Lを物質に照射することができ、価数が高い重粒子イオンを含むプラズマが安定して発生し、重粒子線治療装置に必要な数の重粒子イオンを安定して生成することが可能となる。
【0060】
なお、本発明は上記の実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0061】
1、1a 重粒子イオン発生装置
2 物質
3 レーザ光源
4 ビーム径調節手段
5 集光手段
6 偏向手段
7 電極手段
8 シャッタ手段
9 観測手段
10 集光径演算部
11 焦点位置調節手段
12 制御部
16 ビーム扁平手段
17 空間分布均一化手段
18 回折光観測手段
19 集光レンズ移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の照射によってプラズマを発生する物質と、
前記物質を真空環境下で収納する容器と、
前記容器に設けられた窓を通して前記物質に照射するパルス状のレーザ光を発生するレーザ光源と、
前記レーザ光源と前記窓の間に配設され、前記物質上に前記レーザ光の焦点が形成されるように前記レーザ光を集光する集光手段と、
前記レーザ光の照射によって前記物質から発生したプラズマから重粒子イオンをクーロン力によって引き出し、前記容器の外部に送り出す電極手段と、
前記物質から発生するプラズマを観測し、前記物質に接する領域のプラズマ径から前記レーザ光の集光径を求める観測手段と、
前記物質の位置または前記集光手段の位置を調節する位置調節手段と、
前記観測手段で求めた前記集光径が所定の基準集光径となるように、前記位置調節手段による前記物質の位置調節を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項2】
前記位置調節手段は、前記物質の位置を前記レーザ光の進行方向に対して調節する、
ことを特徴とする請求項1に記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項3】
前記位置調節手段は、前記集光手段の位置を前記レーザ光の進行方向に対して調節する、
ことを特徴とする請求項1に記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項4】
前記レーザ光源と前記集光手段との間に配設され、前記レーザ光のビーム径を拡大または縮小可能なビーム径調節手段、をさらに備え、
前記制御部は、前記観測手段で求めた前記集光径が前記所定の基準集光径となるように、前記ビーム径調節手段による前記ビーム径の調節をさらに制御する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項5】
前記窓に入射する前記光ビームは直線偏光であり、前記窓への入射角はブリュースター角に設定されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項6】
前記レーザ光源と前記集光手段との間に配設され、前記物質上の焦点におけるレーザ光エネルルギー密度を空間的に均一化する空間分布均一化手段、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項7】
前記空間分布均一化手段は、レンズアレイによってレーザ光を空間分割し、空間分割されたレーザ光を前記集光手段によって集光する手段である、
ことを特徴とする請求項6に記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項8】
前記空間分布均一化手段は、積分球またはカライドスコープによって、前記レーザ光の径方向のエネルルギー密度を空間的に均一化する手段である、
ことを特徴とする請求項6に記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項9】
前記レーザ光源と前記窓との間に配設され、前記物質に対して斜めに入射する前記レーザビームの前記物質表面における形状が円形となるように、前記レーザ光のビーム形状を予め扁平に整形するビーム扁平手段、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項10】
前記レーザ光源と前記窓の間に配設され、前記レーザ光の偏向角を調節する偏向手段、をさらに備え、
前記制御部は、前記観測手段で求めた前記集光径が前記所定の基準集光径となるように、前記偏向手段による前記偏向角の調節をさらに制御する、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項11】
前記偏向手段は、音響光学効果によって、印加する制御信号の周波数に比例して偏向角を調節する手段である、
ことを特徴とする請求10に記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項12】
前記物質の回折光の所定方向の長さを観測する回折光観測手段、をさらに備え、
前記制御部は、前記回折光観測手段で求めた前記所定方向の長さが所定の基準長より長い場合は、前記物質の表面が所定の粗さよりも粗いと推定し、前記偏向手段による前記偏向角を変更して前記物質上の焦点位置を変更する、
ことを特徴とする請求項10または11に記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。
【請求項13】
前記容器の内側であって、前記窓に隣接して設けられるシャッタ手段、をさらに備え、
前記シャッタ手段は、前記パルス状のレーザ光のパルスのオン、オフに同期して前記窓を開閉し、前記パルスがオンの期間は前記窓を開き、それ以外の期間は前記窓を閉じる、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の重粒子線治療用重粒子イオン発生装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−133935(P2012−133935A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283554(P2010−283554)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】