説明

重質油中の金属及び金属含有触媒の定量方法

【課題】重質油中の金属及び重質油中の金属含有触媒の含有量を迅速に定量する方法を提供すること。
【解決手段】(1)重質油試料を芳香族系溶剤と混合し、(2)該混合液を遠心分離処理し、(3)遠心分離後の沈殿層の量を計測し、(4)予め作成した遠心分離後の沈殿層の量と重質油中の金属含有量との関係を示す検量線に基づき、前記沈殿層の容量に対応する重質油試料中の金属含有量を測定することを特徴とする重質油中の金属の定量方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質油中の金属及び金属含有触媒の迅速定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油精製操作においては、精製して得られた精製留分(製品)について、組成や性状を分析して品質を調整し管理している。この調整・管理を円滑に行うには、精製留分の分析を正確かつ迅速に行うことが要求される。
一方、重質油は、水素化分解装置、重油直接脱硫装置、流動接触分解(FCC)装置、重油流動接触分解(RFCC)装置など、触媒と接触する精製工程を経て得られるものが多い。したがって、このような重質油中には精製工程で使用した触媒が混入する可能性がある。特に、FCC装置やRFCC装置においては、通常、アルミナ系触媒やシリカ−アルミナ系触媒、ゼオライト系触媒等の金属を含有する触媒が使用され、原料油が50〜100μm程度の微細な前記触媒と流動接触して分解されることにより液化石油ガス(LPG)、分解ガソリン、分解軽油、分解重油等が製造されている。そのため、より微細な前記触媒が流動接触分解過程で生成した分解生成物とともに飛散したり、触媒同士、あるいは反応塔の側壁等との衝突により粉砕したりして、より微細な触媒が前記製品中に混入してくる場合がある。特に、流動接触分解生成物の残渣油であってC重油等の基材でもある分解重油(クラリファイド油:CLO)中に多量に混入する。
CLO中の微細触媒は、内燃機関のピストンリングやシリンダーダイナー等にスカッフィングや摩耗を引き起こすことが知られており、CLOの品質管理においては、CLO中に混入した触媒量の管理が特に重要である。しかしながら、該触媒量を直接測定することは極めて困難であり、かつ長時間を要するため、通常は、CLO中に混入した触媒に由来する金属量を定量することにより触媒量を測定している。
ところで、従来の重質油中の金属定量方法としては、「石油製品−金属分試験方法」(JPI−5S−62−2000)に準拠してICP発光分光分析法が用いられていた(非特許文献1参照)。しかし、この方法では、測定試料から有機物を除去して金属を取り出し、さらに酸処理して測定溶液とする前処理が必要である。そのため定量結果を得るには8時間程度の長時間を要する。
したがって、この方法では、重質油の品質管理においてよりきめ細かく調整・管理を行う上で障害となっていた。このような状況から重質油中の金属もしくは金属含有触媒の迅速定量方法が必要とされていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「石油製品−金属分試験方法」(JPI−5S−62−2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような状況下で、重質油中の金属及び重質油中の金属含有触媒の含有量を迅速に定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、重質油を特定の条件下で遠心分離し、その沈殿層の量に着目することによって、本発明の目的を効果的に達成できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1](1)重質油試料を芳香族系溶剤と混合し、(2)該混合液を遠心分離処理し、(3)遠心分離後の沈殿層の量を計測し、(4)予め作成した遠心分離後の沈殿層の量と重質油中の金属含有量との関係を示す検量線に基づき、前記沈殿層の容量に対応する重質油試料中の金属含有量を測定することを特徴とする重質油中の金属の定量方法、
[2]前記重質油が流動接触分解重油(クラリファイド油:CLO)である上記[1]に記載の重質油中の金属の定量方法、
[3]前記芳香族系溶剤がトルエン及び/又はキシレンである上記[1]又は[2]に記載の重質油中の金属の定量方法、
[4]前記重質油中の金属がアルミニウムである上記[1]〜[3]に記載の重質油中の金属の定量方法、
[5](1)重質油試料を芳香族系溶剤と混合し、(2)該混合液を遠心分離処理し、(3)遠心分離後の沈殿層の容量を計測し、(4’)予め作成した遠心分離後の沈殿層の容量と重質油中の混入触媒量との関係を示す検量線に基づき、前記沈殿層の容量に対応する重質油試料中の混入触媒量を測定することを特徴とする重質油中の混入金属含有触媒量の定量方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、重質油中の金属及び重質油中の金属含有触媒の含有量を迅速に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例で用いた遠心分離後の沈殿層の容量とICP発光分光分析法によるアルミニウム定量値との相関関係を表す検量線を示す図(グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一の発明は、(1)重質油試料を芳香族系溶剤と混合し、(2)該混合液を遠心分離処理し、(3)遠心分離後の沈殿層の量を計測し、(4)予め作成した遠心分離後の沈殿層の容量と重質油中の金属含有量との関係を示す検量線に基づき、前記沈殿層の量に対応する重質油試料中の金属含有量を測定することを特徴とする重質油中の金属の定量方法である。
なお、本発明において「重質油」は、特に厳格な制限はなく、金属含有触媒が含まれる可能性がある比較的重質な石油留分を意味する。例えば、(重油)流動接触分解重油(CLO)、C重油、船舶用C重油などが例示できる。
以下(1)〜(4)の各操作について説明する。
【0010】
[(1)の操作]
本発明においては、まず、重質油試料を芳香族系溶剤と混合する。これは、CLO等の重質油は高粘度であるため、粉砕されたより微細な(重油)流動接触分解触媒等は重質油に浮遊した状態にあるが、芳香族系溶剤を混合することにより粘度を低下させた重質油との混合油とすることで、前記触媒等が均質に分散された重質油混合溶液が得られ、次の遠心分離操作で、触媒と重質油との正確な分離が達成できる。
溶剤として芳香族系溶剤を用いるのは、芳香族系溶剤が重質油に対して溶解性が高いことから、より均質な重質油混合溶液が得られるという効果がある。芳香族系溶剤の具体例としては、トルエンやキシレンが好ましく、それらを各単独で用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。トルエンとキシレンを混合して用いる場合の混合割合は、特に制限はないが、重質油に対する溶解性と安全性(引火点)などの観点から、トルエン:キシレンが5〜40:95〜60(容量%)が好ましく、10〜30:90〜70(容量%)がより好ましい。
重質油試料と芳香族系溶剤との割合については、特に制限はないが、通常等容量ずつ混合する。
上記(1)の操作は、遠心分離装置の遠沈管に、重質油試料と芳香族系溶剤を採取して行う。
この場合、重質油試料と芳香族系溶剤とを採取後、遠沈管を密栓して遠沈管を逆さにし、重質油試料と芳香族系溶剤とをよく混合し均一にする。遠沈管を加温するとさらに均一に混合できるので好ましい。
【0011】
[(2)の操作]
本発明は、(2)の操作において、(1)の操作で得た重質油混合溶液を遠心分離処理する。この操作によって、重質油中の芳香族系溶剤に可溶な有機化合物を溶解して除去し、芳香族系溶剤に不溶な金属を主成分とする金属分の沈殿層に分離することができる。
遠心分離操作方法については、特に制限はなく、通常公知の方法で行えばよい。例えば、遠心分離の相対遠心力回転数は15000rpm程度、あるいは相対遠心力600程度、遠心分離時間は10分間程度などである。また、遠心分離処理は一回でもよいが、二回又は三回以上行ってもよい。具体的には、一回目の遠心分離操作によって分離された溶液部分を除去し、残った沈殿層にさらに芳香族系溶剤を混合し、二回目の遠心分離操作を行う。通常は、二回の遠心分離操作で十分であるが、これを複数回繰り返すことにより、有機化合物を含まない沈殿層を分離することができ、重質油中の触媒の分離を完全に行うことができる。
【0012】
[(3)の操作]
本発明の(3)の操作は、遠心分離後の沈殿層の量を計測する。
沈殿層の量の計測は、重量を計測してもよく、容量を計測してもよいが、迅速な測定である点で、容量を計測することが好ましい。すなわち、遠沈管底部の固形物の体積を読みとればよい。
したがって、遠心分離装置の遠沈管として、管の底部を細くし、かつ容量目盛を付した管を用いることが好ましい。
【0013】
[(4)の操作]
本発明においては、(4)予め求めた遠心分離後の沈殿層の量と金属含有量との関係を示す検量線に基づき、前記沈殿層の量に対応する重質油試料中の金属含有量を測定する。
金属含有量とは、従来公知の金属含有量、例えばICP発光分光分析法で測定した金属含有量である。
以上、(1)〜(4)の操作によって重質油試料中の金属含有量を測定することができる。
【0014】
本発明の第二の発明は、(1)重質油試料を芳香族系溶剤と混合し、(2)該混合液を遠心分離処理し、(3)遠心分離後の沈殿層の量を計測し、(4’)予め作成した遠心分離後の沈殿層の量と重質油中の混入触媒量との関係を示す検量線に基づき、前記沈殿層の量に対応する重質油試料中の混入触媒量を測定することを特徴とする重質油中の混入金属含有触媒量の定量方法である。
すなわち(1)〜(3)の操作は、第一発明と同様である。
【0015】
(4’)の操作は、予め作成した遠心分離後の沈殿層の量と重質油中の混入金属含有触媒量との関係を示す検量線に基づき、前記沈殿層の量に対応する重質油試料中の混入触媒量を測定することを特徴とする重質油中の混入金属含有触媒量の定量方法である。
この操作は、第一発明の金属を金属含有触媒に置き替えたものであり、それ以外は第一発明と同様である。
したがって、沈殿層の量と重質油中の混入金属含有触媒量との関係を示す検量線を準備する必要がある。この検量線を作成する場合の混入金属含有触媒量は、ICP発光分光分析法による金属定量値から、用いられている触媒組成に基づいて換算すればよい。
【実施例】
【0016】
本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
重質油試料として、重油流動接触分解(RFCC)装置から得られた流動接触分解重油(CLO)を用い、以下のようにしてアルミニウムを定量した。
(1)試料採取
全容量が115mLの遠沈管(底部に容量目盛付)にCLO50mLと溶剤(トルエン20容量%、キシレン80容量%)50mLを採取した。次いで遠沈管を密栓し、それを逆さにして振動させ、CLOと溶剤を十分に混合させた。
(2)遠心分離処理
前記遠沈管を遠心分離機に設置して、遠心分離処理(第1回)を10分間行った。終了後、遠沈管内の上澄み液を除去し、新たに前記溶剤を加えて液量を100mLとし、遠心分離処理(第2回)を10分間行った。
遠心分離における相対遠心力は、いずれも600であった。
(3)沈殿層の量の計測
上記遠心分離処理後沈殿層の容量を遠沈管底部の容量目盛に従って読み取った。結果は0.005容量%であった。
(4)アルミニウム含有量の測定
アルミニウム含有量が異なる6種類のCLOについて、「石油製品−金属分試験方法」(JPI−5S−62−2000)に準拠してICP発光分光分析法で測定したアルミニウム含有量(濃度)と、本発明の方法で読み取った遠沈管底部の沈殿層の容量を測定し、両者の相関関係を示す検量線を作成した。該検量線を図1に示した。
図1の検量線で、上記(3)で読み取った沈殿層の容量0.005容量%に対応するアルミニウム含有量を求めると20質量ppmである。
(5)測定時間
上記アルミニウムの定量に要した時間は、30分であった。
【0017】
比較例1
実施例1と同じCLOを用い、従来の「石油製品−金属分試験方法」(JPI−5S−62−2000)に準拠したICP発光分光分析法でアルミニウム含有量を定量した。具体的方法は以下のとおりである。
CLO約10mLを白金皿に採り、ホットプレート上で煙が出なくなるまで燃焼させた。次いでこれを550℃の電気炉で4時間灰化した後、電気炉を925℃に昇温し、前記白金皿に混合融離剤を加えて5分間保持し、混合融離剤が灰化していることを確認し、さらに10分間電気炉内に置いた。電気炉から白金皿を取り出し室温まで冷却後、酒石酸の塩酸溶液を加え、融解凝固物が完全に溶解するまでホットプレートで加熱した。
次いで、白金皿の溶液を純水で希釈し、その希釈液を用いてICP発光分光分析法でアルミニウム含有量を測定した。
測定結果は20質量ppmであった。この測定に要した時間は8時間であった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明では、重質油中の金属及び重質油中の金属含有触媒の含有量を迅速に定量することができる。したがって、重質油の品質管理において調整・管理を円滑に行うことができる方法として有効に利用することができる。具体的には、重油流動接触分解(RFCC)装置のスタートアップ時に、原料油と流動接触して該原料油を分解するアルミニウム含有触媒の、分解生成油中への飛散状態や、残渣油である流動接触分解重油(CLO)中への混入状況を迅速に把握することができ、RFCC装置の運転状態を適切に管理することができる。また、重質油中の触媒微粒子が内燃機関の燃料ポンプやピストンリング、シリンダーライナーに摩耗を発生させることが問題となり、触媒微粒子の含有量を厳格に管理する必要がある船舶用内燃機関用燃料については、その製造の際に迅速に運転条件を変更するなどの調整をすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)重質油試料を芳香族系溶剤と混合し、(2)該混合液を遠心分離処理し、(3)遠心分離後の沈殿層の量を計測し、(4)予め作成した遠心分離後の沈殿層の量と重質油中の金属含有量との関係を示す検量線に基づき、前記沈殿層の容量に対応する重質油試料中の金属含有量を測定することを特徴とする重質油中の金属の定量方法。
【請求項2】
前記重質油が重油流動接触分解重油(クラリファイド油:CLO)である請求項1に記載の重質油中の金属の定量方法。
【請求項3】
前記芳香族系溶剤がトルエン及び/又はキシレンである請求項1又は2に記載の重質油中の金属の定量方法。
【請求項4】
前記重質油中の金属がアルミニウムである請求項1〜3に記載の重質油中の金属の定量方法。
【請求項5】
(1)重質油試料を芳香族系溶剤と混合し、(2)該混合液を遠心分離処理し、(3)遠心分離後の沈殿層の容量を計測し、(4’)予め作成した遠心分離後の沈殿層の容量と重質油中の混入触媒量との関係を示す検量線に基づき、前記沈殿層の容量に対応する重質油試料中の混入触媒量を測定することを特徴とする重質油中の混入金属含有触媒量の定量方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−19763(P2013−19763A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153338(P2011−153338)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(511168752)株式会社出光プランテック愛知 (2)
【Fターム(参考)】