説明

重連車両の統括制御装置

【目的】 車両間の制御系統の接続が容易で、多様な制御を行うことができるようにする。
【構成】 車両Aの指令用操作スイッチ群の何れかが検出されると、CPU1Aは所定の制御信号および出力先を示すアドレス信号を作成して出力部4A、および、リモート送信機5Aに供給する。リモート送信機5Aはこれらの信号を信号線S1,S2を介してデジタル伝送し、同信号はリモート受信機6Bを介して車両Bの出力部4Bに供給される。各出力部はアドレス信号により指示される出力先に制御信号を送出し、対応する制御機器が動作される。異常状態を示す表示灯を点灯させる場合には、運転台の選択されている車両側の異常であれば「点灯」、後尾車両の異常であれば「点滅」のように制御信号を変化させ、いずれの車両の異常であるかを示す。車両Bの指令用スイッチが検出された場合も同様である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、一対の車両間で各種制御機器を統括制御する場合に用いて好適な重連車両の統括制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】鉄道軌道の保守用に用いられる2両連結の軌道モーターカー等においては、何れの車両の運転台によっても両車両の運転・制御を行うことができるようになっている。この時、係員は、選択した運転台のある車両(先頭車)と後尾車の動作状態をそれぞれ認識する必要がある。図2に、従来の除雪用軌道モーターカーに設けられた各種制御機器の制御系統を示す。
【0003】図2において、11Aは、車両Aに設けられた指令用操作スイッチ群であり、車両の動作を制御するための各種スイッチやボタン、また、異常検出用モニタとして使用される各種スイッチが配設されている。動作制御用のスイッチとしては、例えば、運転台を選択する運転台選択スイッチ、機関の始動を指示する機関始動押ボタン、非常停止を指示する非常停止スイッチ、油圧ポンプの制御圧をアナログ電圧信号で指示するポンプ制御スイッチ…等があり、係員により操作されるものである。一方、異常検出用スイッチとしては、機関の潤滑油圧が低下したことを示す機関油圧スイッチ、変速機の油温が上昇(100゜C以上)したことを示す変速機油温スイッチ…等があり、機関や変速機の各部に取り付けられたセンサを介してオフ(正常)状態またはオン(異常)状態に設定される。
【0004】次に、12Aは機関コントローラ、13Aは変速器コントローラであり、機関各部または変速機各部の動作を制御する複数の継電器や電磁弁がそれぞれ設けられている。また、14Aは運転台近辺に設けられたモニタ用表示灯群であり、車両各部の現在の動作状態を示す複数のモニタ用ランプが設けられている。
【0005】そして、指令用操作スイッチ群11Aからの上記各スイッチ信号がn種類あるとすると、図2に水平方向のラインで示すn本の制御電線(引通シ線)L1〜Lnが配設される。これは、上述した各スイッチ信号を車両Bに伝達するためであり、車両間接続用コネクタ(電気連結器)CN1を介して車両B側のn本の制御電線(引通シ線)と接続される。
【0006】一方、指令用操作スイッチ群11Aの、例えば機関始動押ボタンと機関コントローラ12Aの機関始動用継電器とは、上記引通シ線(図2においてはL2)から引き出された制御電線により結合されており、機関始動押ボタンが押下されると機関始動用継電器が動作するようになっている。このように、指令用操作スイッチ群11Aの各スイッチ信号は、上記引通シ線から個別に引き出された制御電線を介して機関コントローラ12A、変速器コントローラ13A、または、モニタ用表示灯群14Aの対応する継電器、電磁弁、ランプ等に伝達され、これらを動作させる。
【0007】車両Bの構成は車両Aと同一であり、すなわち、上記11A〜14Aと構成を同じくする指令用操作スイッチ群11B、機関コントローラ12B、変速器コントローラ13B、モニタ用表示灯群14Bが設けられている。
【0008】このような構成であるから、例えば、係員が車両Aの運転台を選択し、指令用操作スイッチ群11Aの機関始動押ボタンを押下したとすると、その信号は対応する制御電線を介して両車両の機関コントローラ12A,12Bにそれぞれ伝達され、各機関コントローラの機関始動用継電機が動作し、両車両の機関が始動する。また、車両Bの機関の潤滑油圧が低下した場合、指令用操作スイッチ群11Bの機関油圧スイッチがオン(異常)状態となり、モニタ用表示灯群14A,14Bの機関油圧表示灯がともに点灯されるので、係員は車両Aの運転台に着座したままで異常状態の発生を知ることができる。また、車両Bに係員がいた場合においても、異常状態の発生を知ることができる。以上の動作は、車両Bの運転台が選択された場合においても同様に行われる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、何れの車両において上述したような異常状態が発生したかについては、実際に機関等を点検しなければ知ることができない。また、上記構成においては油圧ポンプの制御圧等もアナログ信号のまま車両間を伝達されるので、ノイズに弱いという問題があった。
【0010】また、この構成によれば、全てのスイッチ信号分の制御電線(引通シ線)を車両間に配設する必要があり、制御内容によっても異なるが、従来の保守用軌道モーターカーにおいては30〜50本の制御電線を配設する必要があった。このように多数本の制御電線を配設するための車両間接続用コネクタは当然ながら大きくなり、取り付けスペースの確保が困難であった。また、その重量も相当大であるため、脱着作業も容易ではなかった。本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、車両間の制御系統の接続が容易で、多様な制御を行うことができる重連車両の統括制御装置を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明は、一対の車両および該車両間に設けられて両車両における制御機器を統括制御する重連車両の統括制御装置であって、一方の車両に設けられた複数の操作スイッチ群または状態検出センサ群からランダムに発生されるスイッチ操作信号または状態検出信号を検出する検出手段と、前記検出手段の検出した信号に基づく制御信号を作成し、前記一方の車両内の前記制御機器に該制御信号を適宜供給するとともに、他の車両内の対応する制御機器を指示するアドレス信号を作成して該制御信号とともに送信する送信制御手段と、前記送信制御手段が送信するアドレス信号および制御信号を他の車両に供給する信号線と、前記他の車両において、前記アドレス信号の指示する制御機器に前記制御信号を供給する受信制御手段とを具備することを特徴とする。
【0012】
【作用】上記構成によれば、検出手段により、一方の車両に設けられた複数の操作スイッチ群または状態検出センサ群からランダムに発生されるスイッチ操作信号または状態検出信号が検出される。そして、送信制御手段により、これらの信号に基づく制御信号が作成されて該一方の車両内の前記制御機器に該制御信号が適宜供給されるとともに、他の車両内の対応する制御機器を指示するアドレス信号が作成されて該制御信号とともに送信される。そして、このアドレス信号および制御信号が信号線を介して他の車両に供給され、受信制御手段により、該アドレス信号の指示する制御機器に該制御信号が供給される。
【0013】
【実施例】以下、図面を参照して、本発明の一実施例について説明する。図1は、除雪用軌道モーターカーに設けられた、本実施例による重連車両の統括制御装置の構成を示すブロック図である。図1において、図2における各部と共通する部分には同一の符号を付し、その詳細説明を省略する。図1において、10A,10Bは、それぞれ車両A,Bに設けられた制御装置である。以下、制御装置10Aについて説明するが、制御装置10Bについてもこれと同様である。
【0014】まず、3Aは、指令用操作スイッチ群11Aからの信号がすべて入力される入力部である。入力部3Aと指令用操作スイッチ群11Aとはn本の制御電線を介して接続されており、各入力端にはそれぞれ入力番号N1〜Nn が割り当てられている。そして、入力された信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0015】次に、1AはCPU(演算・制御部)であり、入力部3Aの出力信号に対し、メモリ2Aにあらかじめ記憶された制御用プログラムSEQに従って演算を施して制御信号を作成し、出力先を示すアドレス信号とともに出力部4Aに供給する。また、この制御信号およびアドレス信号を同様にリモート送信機5Aに供給するとともに、後述するリモート受信機6Aから供給される制御信号およびアドレス信号を出力部4Aに供給する。
【0016】出力部4Aは、供給される制御信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換し、アドレス信号により指定される出力先へ出力する。この出力先とは、上述した機関コントローラ12A、変速機コントローラ13A、または、モニタ用表示灯群14Aであり、これらと出力部4Aとは、それぞれ対応する信号数分の制御電線を介して接続されている。
【0017】リモート送信機5Aは、供給された信号を所定の通信インタフェース、ここではRS−485インタフェースにより伝送する。このRS−485インタフェースは2本の信号線S1,S2を介してデジタル通信を行うものであり、悪条件の環境下でのデータ通信が可能な方式として知られている。この信号線S1,S2は、車両間接続用コネクタCN2を介して車両Bのリモート受信機6Bに接続されている。リモート受信機6Bは、上記RS−485インタフェースに基づいて信号(制御信号およびアドレス信号)を受信し、CPU1Bに供給する。また、車両Bのリモート送信機5Bも、信号線S3,S4を介して、同様の通信方式で車両Aのリモート受信機6Aに信号を伝送することが可能となっている。
【0018】次に、この実施例の動作を説明する。今、車両Aの運転台が選択され、軌道モーターカーが走行中である時に、車両Aの機関の潤滑油圧が低下したとする。これにより、指令用操作スイッチ群11Aの機関油圧スイッチがオフ(正常)状態からオン(異常)状態に変化する。この信号は入力部3Aの入力番号Nk の入力端に供給され、入力部3Aにおいてデジタル信号に変換される。
【0019】CPU1Aは、入力部3Aに新たな信号入力があったことを知り、入力番号Nk を参照して制御用プログラムSEQの当該部分を実行し、出力先であるアドレス番号と制御信号とを設定する。ここでは、制御信号は”1”信号に設定されたとする。これらは出力部4Aに供給され、該アドレス番号で指示される制御線に”1”信号に対応したオン信号が供給される。ここで、この制御線はモニタ用表示灯群14Aの機関油圧表示灯に接続されており、よって、この表示灯が点灯する。
【0020】また、出力部4Aに信号が供給されるのと同時に、上記アドレス番号と制御信号(”1”信号)とは、指令用操作スイッチ群11Aの他のスイッチ信号に基づくアドレス番号と制御信号と共に、リモート送信機5A、信号線S1,S2を介して車両Bのリモート受信機6Bに伝送される。そして、CPU1Bは、リモート受信機6Bから上記各アドレス信号および各制御信号を受け取り、出力部4Bに供給する。出力部4Bは、該各アドレス番号で指示される制御線に同様にそれぞれオン信号を供給する。しかし、車両Bのモニタ用表示灯群14Bの機関油圧表示灯は、車両Bの運転台に係員がいないので点灯しない。
【0021】また、車両Aの運転台が選択されている時に、車両Aではなく車両Bの機関の潤滑油圧が低下したとする。この場合も同様の処理過程を経て、各出力部4A,4Bにアドレス信号および制御信号が供給される。ただし、この場合、CPU1Bは、現時点において車両Aの運転台が選択されていることを運転台が選択された段階で検知しているため、機関油圧表示灯を点灯ではなく点滅させるような制御信号を作成する。これにより、車両Aの運転台の機関油圧表示灯が点滅する。
【0022】そして、係員の処置により、例えば車両Aの潤滑油圧が正常な状態に復帰したとすると、機関油圧スイッチがオン状態からオフ状態に復帰する。この信号は同様に入力部3Aに供給され、CPU1Aは制御信号として”0”信号を設定する。そして、この信号が、同様に出力部4A、および、リモート送信機5A→…→出力部4Bに供給され、両出力部から当該制御線にオフ信号が供給され、車両Aの機関油圧表示灯が消灯する。
【0023】なお、両車両A,Bの異常が発生している場合は、選択されている側の運転台の表示灯が点灯するようになっているので、車両Aの異常の時と同様に点検してその異常を正常に復帰させると、表示灯は点滅に変わる。これにより車両Bの異常を点検し、それを正常に復帰させると表示灯は消灯する。このように、係員は、異常発生と同時にいずれの車両において異常が発生したかを知り、当該車両の点検を行うことができる。上記は、車両Aの運転台が選択されている場合について示したが、車両Bの運転台が選択されている時も上記と同様に動作することができる。
【0024】また、上述したポンプ制御スイッチからは、係員の運転操作により油圧ポンプに対する制御圧を示す「0〜5」ボルトのアナログ信号が出力されるが、この実施例においてはこのアナログ信号がデジタル信号に変換されて後尾車両に伝送されるので、ノイズにより後尾車両に異なる制御圧が伝達されてしまう心配がない。
【0024】また、上述したように、車両間の制御信号の伝達は合計4本の信号線により行われるので、車両間接続用コネクタは従来に比べて相当小型で済み、取付および脱着作業が容易に行われる。
【0025】このように、この実施例によれば、入力部に入力された指令用操作スイッチ信号の状態に基づいて、あらかじめ設定されたプログラムに従ってデジタル制御信号が作成され、出力先を指示するアドレス信号とともに両車両の出力部に供給される。従って、各車両に確実に制御信号が供給されるとともに、多様な形態の制御信号を作成することができる。この実施例においては、異常検知用表示灯の動作状態を運転台の選択状況によって変化させた例(点灯/点滅)を示したが、この他に、所定時間になると制御信号を出力したり(タイマ機能)、複数の指令用スイッチ信号に対して優先順位を設けて制御したり等、多様な制御を行うことが可能である。
【0026】また、将来指令用操作スイッチや制御内容が増加した場合においても、各入力部および出力部における入力端/出力端を増設し、制御プログラムの内容を書き加えるだけで容易に対応することができる。
【0027】なお、この実施例においては、本発明を2両連結の保守用軌道モーターカーに適用した例を示したが、これに限るものではなく、電車、気動車等、複数車両の統括制御を行う場合に適用して効果がある。
【0028】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、複数の操作スイッチ群または状態検出センサ群からランダムに発生される信号に基づいて制御信号を作成して一方の車両内の制御機器に供給するとともに、他の車両内の対応する制御機器を指示するアドレス信号を作成して該制御信号とともに他の車両に送信することが可能となったので、車両間の制御系統の接続が容易で、多様な制御を行うことができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例による重連車両の統括制御装置の構成を示す図である。
【図2】従来の重連車両の統括制御装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
1A,1B CPU(送信制御手段、受信制御手段)
3A,3B 入力部(検出手段)
4A,4B 出力部(受信制御手段)
5A,5B リモート送信機(送信制御手段)
6A,6B リモート受信機(受信制御手段)
S1〜S4 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一対の車両および該車両間に設けられて両車両における制御機器を統括制御する重連車両の統括制御装置であって、一方の車両に設けられた複数の操作スイッチ群または状態検出センサ群からランダムに発生されるスイッチ操作信号または状態検出信号を検出する検出手段と、前記検出手段の検出した信号に基づく制御信号を作成し、前記一方の車両内の前記制御機器に該制御信号を適宜供給するとともに、他の車両内の対応する制御機器を指示するアドレス信号を作成して該制御信号とともに送信する送信制御手段と、前記送信制御手段が送信するアドレス信号および制御信号を他の車両に供給する信号線と、前記他の車両において、前記アドレス信号の指示する制御機器に前記制御信号を供給する受信制御手段とを具備することを特徴とする重連車両の統括制御装置。

【図1】
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【図2】
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