説明

重量物のジャッキダウン工法

【課題】最終段階における位置調整作業を容易に行う重量物のジャッキダウン工法を提供する。
【解決手段】設置対象の重量物11の下面と支持面12との間に所定形状の受台を複数個段積し、受台上に重量物11を載置した状態で、重量物11を複数本のジャッキにより下方から支持し、ジャッキにより重量物11を浮かして受台を除去することにより、重量物11を順次下降させるジャッキダウン工法であって、重量物11の周囲に均等に牽引装置31を張設して重量物11の水平方向のズレを防止しながらジャッキダウンを行い、最終段階で重量物11の下面と対向する支持面12との間に潤滑剤を介して2枚重ねのスライド調整板32を介在させ、重量物11を水平方向にスライド可能に支持して位置調整を行い、昇降支持機構により重量物11を支えた状態でスライド調整板32を撤去することにより、重量物11を支持面12上に着地させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設置対象の重量物を、所定形状の複数個段積された受台と複数本のジャッキとを用いて、支持面に向かって段階的に順次下降させて設置するジャッキダウン工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、重量が数十トンにも達するような重量物を所定の設置位置に精度良く据え付ける場合の工法として、所謂ジャッキダウン工法が用いられる。
【0003】
例えば、火力発電所の大形発電機や大容量空気圧縮機用の電動機などの大形回転機は、総重量が80トン以上にもなる。このように重量の大きい大形回転機の場合、回転子は、固定子に挿入した状態でその両外側に配置した別の軸受機構で軸支される。このような大形回転機を基礎部に据え付ける場合、天井クレーンの最大許容荷重や建て屋の天井高さ等の制約から、少なくとも一部の据え付けにジャッキダウン工法が採用される。
【0004】
大形回転機に対するジャッキダウン工法では、例えば、回転子を固定子に挿入した状態で、回転子の両軸端部をそれぞれクレーンで吊上げて支持すると共に、固定子を下側から複数のジャッキで支持する。このとき、固定子は複数個段積された受台上に載置されており、ジャッキを操作して受台を除去させながら僅かずつ段階的に下降させる所謂ジャッキダウンを行う。また、このジャッキダウンに合わせてクレーンを操作し、固定子のジャッキダウン分、回転子を下降させる。そして、最終的に据付基礎部上の所定位置に大形回転機を据え付ける。
【0005】
ところで、複数のジャッキで固定子を段階的に下降させる際に、各ジャッキ間の下降タイミングや下降量に不一致が生じると、大形回転機が傾いて横ズレ等を起こし、所定位置に設置することが難しかった。そこで、各ジャッキ手段を精密な駆動制御装置で制御しながら同期的に且つ正確に下降させたり、或いは、下降対象物(ここでは固定子)を周囲四方から均等に張設した牽引装置によって保持しながら下降動作させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−238188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記提案により、ジャッキダウン操作時における下降対象物の横方向のズレは防止できるようになったが、最終的に下降対象物(以下、単に対象物とも言う)を所定の据え付け位置に高精度で設置するためには、据え付け完了直前における位置調整作業が必要となる。
【0008】
しかし、これまでの工法では、据え付け対象物が重量物であることもあり、このような調整作業が困難であった。
【0009】
本発明の目的は、据え付け最終段階における位置調整作業を容易に行うことができる重量物のジャッキダウン工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による重量物のジャッキダウン工法は、設置対象の重量物の下面とこの重量物が設置される支持面との間に、所定形状の受台を複数個段積し、これら受台上に重量物を載置した状態で、この重量物を複数本のジャッキにより下方から支持し、これらジャッキにより重量物を浮かして前記受台を除去することにより、重量物を支持面に向かって段階的に順次下降させるジャッキダウンを行うジャッキダウン工法であって、前記重量物の周囲の均等に配置された位置と支持面側との間にそれぞれ牽引装置を張設して前記重量物の水平方向のズレを防止しながら前記ジャッキダウンを行い、このジャッキダウンの最終段階にて、この重量物の下面と対向する支持面との間に、潤滑剤を介して2枚重ねされたスライド調整板を介在させ、この重量物を水平方向にスライド可能に支持して位置調整を行い、
この位置調整後、昇降支持機構により重量物を支えた状態で前記スライド調整板を撤去し、この後、昇降支持機構により重量物を支持面上に着地させることを特徴とする。
【0011】
本発明では、前記昇降支持機構として、前記ジャッキをそのまま使用する。
【0012】
また、本発明は、前記昇降支持機構として、前記重量物に備えられている高さ調整用のジャッキボルトを使用してもよい。
【0013】
さらに、本発明では、スライド調整板として、高密度ポリエチレン板を用いるとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ジャッキダウンの最終段階における据え付け対象物の位置調整が容易となるので、重量物である据え付け対象物を、所定の据え付け位置に高精度に据え付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による重量物のジャッキダウン工法の一実施の形態を説明する平面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】据え付け面上にアンカーボルトが設けられている場合の実施形態を説明する図である。
【図4】一般的なジャッキダウン工法を説明する図である。
【図5】一般的なジャッキダウン工法に用いるジャッキ装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による重量物のジャッキダウン工法の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、重量物である据え付け対象物としては、前述の大形回転機を例にとって説明する。
【0017】
始めに、ジャッキダウン工法の概要を、図4を用いて説明する。図4において、11は重量物である据え付け対象物(以下、大形回転機の固定子として説明する)であり、据え付け面12の台座上に段積された受台13上に載置されている。14はジャッキであり、同じく据え付け面12の台座上に段積された受台13上に載置され13上に載置されている。そして、固定子11の外面に一体に設けられたブラケット15との間に介在し、この間を拡大及び縮小させるべく動作する。
【0018】
なお、受台13としては、図の左半分側に図示したH型鋼13aや、図の右半分側に図示したボックス断面を有する山留材13bを用いたものがある。H型鋼13aは、構造が簡潔であり小型軽量で取り扱いやすい。山留材13bは、強固な構造で寸法精度が高く、変形も殆ど生じないが、大形かつ重量物であることから取り扱いが難しい面がある。受台13として、これらのどちらを用いるかは、固定子11の大きさ・形状や、設置場所である据え付け面12の条件などにより適宜選択すればよい。
【0019】
ジャッキダウン工法は、周知のように、ジャッキ14により固定子11を浮かせた状態で、固定子11を載支する最上部の受台13を除去し、この除去された高さ分、ジャッキ14により下降させる。以下この動作を繰り返し、僅かずつ段階的に固定子11を下降させるジャッキダウンを行い、据え付け場所である台座上に向って移動させる。
【0020】
このようなジャッキダウン工法において、複数のジャッキ14の下がり量を同一にするため、図5で示す、自動下がり量補正装置付の連動油圧ジャッキ装置が用いられる。この連動油圧ジャッキ装置は、制御御装置21を有する。この制御装置21は、各ジャッキ14に設けられたエンコーダ22からの検出信号に基づいて、対応するジャッキ14の作動量を検出する。そして、各ジャッキ14の下がり量が均一となるように電動ポンプユニット23及び油圧制御盤24を制御する。
【0021】
このような大形回転機のジャッキダウン工法では、ジャッキダウン対象物11である固定子を所定の位隙に正確に着地させることが重要であるが、ジヤッキダウン途中においても、相手(回転子、軸受)との接触を避けるため、位置ズレは最大10mm程度に押さえる必要がある。
【0022】
ジャッキダウン対象物11の位置ズレは、荷重を支えるジャッキ14に附加される垂直荷重の分力によるものがその要因の過半と考えられ、それは以下に起因する。
(1)各ジャッキ14の下がり量の不均一
(2)ジャッキ14を支える受台13とジャッキ14との接触角の不均一
このうち、(1)に対しては、図5で示した自動下がり量補正装置付の連動油圧ジャッキ装置を用いることにより、各ジャッキ14の下がり量を均一化することができる。また、(2)については、寸法精度のよい受台13を用いることによりある程度は改善することができる。
【0023】
しかし、各ジャッキ14の下がり量を均一化しても、その作動タイミングを同一とすることは難しく、多少のタイミングのズレが生じ、これがジャッキダウン時における対象物11の位置ズレの要因となる。また、(2)についても、使用する受台13によっては変形が生じ、これに起因して対象物11に位置ズレが生じることがある。
【0024】
そこで、このようなジャッキダウン途中での対象物11の位置ズレを防止するため、図1及び図2で示すように、重量物であるジャッキダウン対象物(大形回転機の固定子:約50トン)11の周囲の、均等に配置された位置(四隅部)と据え付け面12側との間にそれぞれ牽引装置31を張設して、ジャッキ14による重量物下降時でのジャッキダウン対象物11の水平方向のズレを防止することが提案されている。すなわち、ジヤッキダウン対象物11の重心を通る垂直軸に直交する水平方向の直交線に対して、上方から見てそれぞれ45度を成すように、四隅部から放射状に伸びる牽引装置31を設けた。この牽引装置31はワイヤにチェーンブロックを装着したものである。
【0025】
ここで、ジャッキダウン操作時にジャッキダウン対象物11に生じるズレは、ジャッキ14が 動き出す瞬間に発生する。また、その瞬間に発生する分力はジャッキ14に附加される垂直荷重の15%程度である。このため、ジャッキ14が下がる瞬間の分力を押え込むため、ジャッ キダウン対象物(固定子:50トン)の重心を通る垂直軸に直交する水平方向の直交線に対し45度方向に、牽引機構31として2トンのチェーンブロックを設置した。
【0026】
このような構成において、ジヤッキダウン対象物11に位置ズレを発生させないためには、ジャッキダウンする瞬間に牽引装置31としてのチェーンブロックを操作し、張力を維持させればよい。このように牽引装置31により、ジャッキダウン対象物11の外方から均等に張力を加えることにより、各ジャッキ14の作動タイミングに多少のずれがあったり、受け台13に多少の変形があったりしても、ジャッキダウン対象物11は、その外方から加わる均等な張力により水平方向に保持され、ズレが生じることはない。
【0027】
ただし、このようにジャッキダウン途中においてズレを生じさせないためには、ジャッキダウンする瞬間にチェーンブロック31を操作し、張力を維持する必要があるので、作業の難易度としては まだ高い部分が存在する。このため実際には、多少のズレが生じることもあるので、ジャッキダウンの最終段階で位置ズレの修正を行えるようにする。
【0028】
すなわち、ジャッキダウン工法により対象物11を据え付け場所に向って順次段階的に下降させ、最終段階になったとき、すなわち、図2の破線で示すように、この重量物である対象物11の下面が、これと対向する支持面(ここでは据え付け面12とする)近くまで下降した状態において、対象物11の下面と支持面12との間に、それぞれスライド調整板32を取付ける。このスライド調整板32としては、例えば、厚さ10mm程度の高密度ポリエチレン板を用いればよい。そして、これらスライド調整板32,32間に潤滑剤(例えば、エンジンオイルのようなもの)を塗布する。この後、ジャッキ14を操作して対象物11を対向する支持面上に着地させる。この着地状態において、対象物11の下面と支持面12との間には、潤滑剤を介して2枚重ねされたスライド調整板32,32が介在しているので、対象物11は水平方向にスライド可能であり、最終的な位置調整を行う。この位置調整は、対象物11の四隅と支持面との間に張設した牽引装置31を操作することにより任意の方向に精密に移動させて行うことができる。
【0029】
この最終位置調整後は、ジャッキボルトなどの昇降支持機構により対象物11を支えた状態でスライド調整板32,32を撤去し、この後、昇降支持機構により対象物11を支地面上に着地させる。
【0030】
一般に、この種の対象物11は、据え付け状態における水平度を出すためにジャッキボルトを備えているので昇降支持機構としてこのジャッキボルトを用いる。すなわち、最終的着地は、厚さ10mm程度の2枚のスライド調整板32,32の厚さ分、下降させればよいので、昇降支持機構としては、上述したジャッキボルトを用いることが充分に可能である。勿論、このジャッキボルトが設置されていない場合は、前述したジャッキ14を、そのまま最終的に着地させるための昇降支持機構として用いればよい。
【0031】
上記説明は、対象物11の下面が据え付け面12と接する直前の状態でスライド調整板32を使用したが、これより前の段階でスライド調整板32を用いてもよい。例えば、図3で示すように、対象物11に対する据え付け面12から、対象物11を固定するためのアンカーボルト33が立設しており、このアンカーボルト33に、対象物11の下面に設けた図示しない取付け孔を嵌合させる場合など、対象物11を本来の支持面より高い位置で精密に位置調整する必要がある。このような場合、アンカーボルト33の先端高さに対応する位置調整高さにおいて、対象物11の下面と対向する支持面、例えば、最下段の受台13の上面との間に、潤滑剤を介して2枚重ねされたスライド調整板32,32を設置し、対象物11を水平方向に移動可能にする。そして、その取付け孔を、アンカーボルト33の先端部に嵌合する位置に調整する。この後、ジャッキ14を操作し、受台13を撤去して、対象物11を据え付け面12上に着地させる。このようにしても、対象物11を所定の据え付け位置に正確に位置合わせして設置することができる。
【0032】
上述したいずれの場合であっても、ジャッキダウンの最終段階における対象物11の位置調整高さにおいて、対象物11の下面と、これに対向する支持面との間に、潤滑剤を介して互いに接合する2枚合わせのスライド調整板32,32を設けて対象物11をスライド可能にしたので、対象物11を精密に位置決めして設置することができる。
【0033】
以上説明したように、本発明のジャッキダウン工法では、ジャッキダウン対象物の位間ズレは、容易に修正できるため、特別な機材、用品、専門技術者は不要となり、安全にジャッキダウン作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
11…重量物であるジャッキダウン対象物
12…据え付け面
13・・・受台
14・・・ジャッキ
31・・・牽引装置
32・・・スライド調整板
33・・・アンカーボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置対象の重量物の下面とこの重量物が設置される支持面との間に、所定形状の受台を複数個段積し、これら受台上に重量物を載置した状態で、この重量物を複数本のジャッキにより下方から支持し、これらジャッキにより重量物を浮かして前記受台を除去することにより、重量物を支持面に向かって段階的に順次下降させるジャッキダウンを行うジャッキダウン工法であって、
前記重量物の周囲の均等に配置された位置と支持面側との間にそれぞれ牽引装置を張設して前記重量物の水平方向のズレを防止しながら前記ジャッキダウンを行い
このジャッキダウンの最終段階にて、この重量物の下面と対向する支持面との間に、潤滑剤を介して2枚重ねされたスライド調整板を介在させ、この重量物を水平方向にスライド可能に支持して位置調整を行い、
この位置調整後、昇降支持機構により重量物を支えた状態で前記スライド調整板を撤去し、この後、昇降支持機構により重量物を支持面上に着地させる
ことを特徴とする重量物のジャッキダウン工法。
【請求項2】
前記昇降支持機構として、前記ジャッキをそのまま使用することを特徴とする請求項1に記載の重量物のジャッキダウン工法。
【請求項3】
前記昇降支持機構として、前記重量物に備えられている高さ調整用のジャッキボルトを使用することを特徴とする請求項1に記載の重量物のジャッキダウン工法。
【請求項4】
スライド調整板として、高密度ポリエチレン板を用いたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の重量物のジャッキダウン工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−136823(P2011−136823A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299168(P2009−299168)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(390014568)東芝プラントシステム株式会社 (273)