説明

重金属処理剤及びそれを用いた重金属汚染物の処理方法

【課題】二酸化マンガンは重金属吸着能を有しているが、従来の二酸化マンガンでは重金属吸着能が低く、重金属汚染物の処理には大量に用いることが必要であった。
【解決手段】電位(vs.Hg/HgO.40%KOH)が275mV以上であるδ型二酸化マンガンでは、重金属処理能に優れ、少量の使用で重金属を処理できる。その様なδ二酸化マンガンは、過マンガン酸塩と硫酸マンガンの反応によりδ二酸化マンガンを製造する方法において、Mn2+/Mn7+のモル比を1.5未満とすることによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含有する固体廃棄物、例えば、ゴミ焼却場から排出される焼却灰、重金属に汚染された土壌、排水処理後に生じる汚泥、工場から排出される排水等に含有される鉛、カドミウム、銅、亜鉛、ニッケル、水銀、砒素、セレン及びタリウム等の有害な重金属を簡便、かつ高効率に処理できる重金属処理剤、並びに重金属汚染物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化マンガン酸化物は結晶構造的に大きくα、β、γ、η、δ及びεのように分類され、これらを用いて廃水等に含まれる各種重金属類を無害化処理することが知られている。特に、層構造のδ型二酸化マンガンは、イオン交換或いは吸着により重金属イオンを層間に固定化されるため効果的とされている。
【0003】
例えば、δ型二酸化マンガンを用いた重金属吸着特性は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属等、カチオン性の元素に対する親和性があることが報告されている(非特許文献1参照)。さらに、アルカリ土類金属又は遷移金属イオンが存在する系でのリン酸塩の吸着特性も報告されている(非特許文献2参照)。更に、120℃〜400℃の温度範囲における重量減少が6重量%以上であるδ型二酸化マンガンを含んでなる重金属処理剤が報告されている(特許文献1参照)。
【0004】
δ型二酸化マンガンは一般的には化学的に合成される。例えばMn2+の酸化或いはMn7+の還元(非特許文献1)により、過マンガン酸カリウムのアルカリ溶液中に塩化マンガンの水溶液を滴下して合成(非特許文献2)されている。
【0005】
しかし、従来の方法で合成されたδ型二酸化マンガンはある程度の重金属処理能力は有するが、近年、規制が強化された水質汚濁防止方法や廃掃法に適用できる処理剤としては性能が不十分であり、多量の薬剤が必要であった。
【0006】
【特許文献1】特開2008−18312
【非特許文献1】EFFLENT AND WATER TREATMENT JOURNAL MAY1981 201−203
【非特許文献2】Water.Research.Vol20,No4 471−475 1986
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、重金属汚染物質を含む焼却灰、廃水等を環境基準以下に高度に処理できる重金属処理剤及び重金属汚染物質の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、重金属処理性能に優れた二酸化マンガンについて鋭意検討した結果、40%KOH水溶液中でHg/HgO参照電極を基準とした電位が275mV以上であるδ型二酸化マンガンでは重金属処理能に特に優れることを見出し、本発明を完成させるに到ったものである。
【0009】
本発明のδ型二酸化マンガンを重金属処理剤として使用すれば、少ない吸着剤の量で重金属処理が可能である。また、薬剤使用量の低減により総廃棄物量の低減が可能となる。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の重金属類処理剤であるδ型二酸化マンガンは、電位(vs.Hg/HgO.40%KOH、即ち、9規定(N)KOH)が275mV以上のものである。
【0012】
本発明でいう電位は、電気化学の分野で一般的な水銀/酸化水銀電極を標準電極として測定されるものである。例えば、二酸化マンガン粉体2gとグラファイト0.6gを9N−KOHで混練した、9N−KOH中でHg/HgOを参照電極として測定することができる。
【0013】
電位が275mV未満の場合、重金属の処理性能、即ち吸着能力が低下する。電位は275V以上、特に280V以上、さらに290V以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の重金属処理剤に用いる二酸化マンガンの結晶構造はδ型二酸化マンガンである。
【0015】
本発明の重金属処理剤に用いられる二酸化マンガンの製造法は例えば、過マンガン酸塩とMn2+塩を用いて製造することができる。
【0016】
従来、過マンガン酸塩とMn2+塩を用いてδ型二酸化マンガンを合成する一般的な方法は、下記の反応式に従い、合成時のMn2+/Mn7+のモル比は1.5として合成されている。
【0017】
【化1】

一方、本発明の重金属処理剤の二酸化マンガンは過マンガン酸塩の組成比を大きくして、Mn2+/Mn7+のモル比を1.5未満とすることによって得られる。Mn2+/Mn7+のモル比はさらに1.3以下、さらに1以下、中でも0.6以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明の重金属処理剤は、焼却灰又は飛灰、土壌、地下水並びに廃水等、各種の重金属を含有する汚染物質と混合して用いることにより、重金属を処理することができる。
【0019】
焼却灰中には、各種ごみに含まれていた重金属類が濃縮されている。特に飛灰や溶融飛灰において顕著であり、溶融飛灰の中にはパーセントオーダーで鉛のような重金属が含まれているものも数多く、無害化処理が必要とされる。飛灰や溶融飛灰は焼却炉の構造や運転方法の違いにより、アルカリ性飛灰、中性飛灰、アルカリ性溶融飛灰、中性溶融飛灰等の種類があり、また、焼却するごみの種類によって含まれる重金属類の種類と含有量は大きく異なっていることが知られているが、本発明の重金属処理剤はどのような種類の飛灰にも用いることができ、これらごみ焼却灰や飛灰に対し、本発明の重金属類処理剤と水を添加し混練することで無害化処理が可能となる。
【0020】
本発明の重金属処理剤は、重金属類を含んだ土壌の処理にも有効であり、重金属類を含んだ土壌に対して、当該重金属処理剤を添加し混練することで無害化処理できる。必要に応じて、さらに水を添加し、混練することもできる。
【0021】
本発明の重金属処理剤は重金属類を含んだ廃水の処理にも可能であり、重金属類を含んだ廃水に対して、重金属処理剤を添加し混合する、或いは、カラム等に当該重金属処理剤を充填し重金属で汚染された廃水を通水することで無害化が可能となる。
【0022】
重金属汚染物質に対する重金属処理剤の使用量は、汚染物質中の重金属含有量によっても異なるため一概に規定できないが、焼却灰や飛灰等、混合しにくい固形物系処理物に対しては0.1〜50wt%、好ましくは0.5〜30wt%を例示することができる。また、均一に分散し易い水系処理物(排水、地下水)に対しては、0.01〜20wt%、好ましくは0.05〜10wt%を混合することが好ましい。
【0023】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の助剤を添加して用いてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の重金属処理剤は、重金属汚染物質に対し少量の添加で高度の無害化処理ができ、処理後の重金属元素は完全に固定化されるため再溶出のない極めて安定な処理が可能となる。
【実施例】
【0025】
以下本発明を実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1
0.1mol/L濃度となる過マンガン酸カリウム(KMnO)を純水に溶解させ、1mol/Lの硫酸を徐々に添加し溶液を調整した。一方、0.55mol/L濃度の硫酸マンガン(MnSO・5HO)を溶解させた水溶液に1mol/L濃度の硫酸を添加した溶液を調整し、仕込み時のMn2+/Mn7+のモル比が1.25となる硫酸マンガン水溶液227mLを過マンガン酸塩水溶液に滴下し2時間熟成した。得られた生成物はろ過、水洗、乾燥した。
【0027】
得られた生成物のXRD測定結果を図1に示す。結晶構造はδ型二酸化マンガンであった。また、得られたδ型二酸化マンガン2gに導電剤のグラファイト0.6gと9N−KOHを少量添加し混練した後、9N−KOH中でHg/HgOを参照電極として室温で電位測定を行ったところ、電位は280mVであった。
【0028】
実施例2
合成時の仕込みMn2+/Mn7+モル比が0.5となるよう実施例1の0.55mol/L硫酸マンガン水溶液を91mL分取して、過マンガン酸カリウム水溶液中に滴下した以外は、実施例1と同様とした。
【0029】
得られた生成物のXRD測定結果を図1に示す。また、電位は、290mVを示した。
【0030】
比較例1
合成時の仕込みMn2+/Mn7+モル比が1.5となるよう実施例1の0.55mol/L硫酸マンガン水溶液を273mL分取して、過マンガン酸カリウム水溶液中に滴下した以外は、実施例1と同様とした。実施例1に基づき電位測定した結果、270mVを示した。
【0031】
比較例2
合成時の仕込みMn2+/Mn7+モル比が2.0となるよう実施例1の0.55mol/L硫酸マンガン水溶液を364mL分取して、過マンガン酸カリウム水溶液中に滴下した以外は、実施例1と同様とした。電位測定した結果、260mVであった。
【0032】
比較例3
硫酸マンガンを0.6mol/L、硫酸を0.35mol/Lの濃度で含む水溶液中で、陽極にチタン、陰極にカーボンを用いて0.5A/dmの電流密度で電解してチタン上にγ型二酸化マンガンを析出させた。
【0033】
得られたγ型二酸化マンガンの電位は300mVであった。
【0034】
(試験1:重金属処理能の評価)
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2及び比較例3で得られた二酸化マンガン20mgを用いて、初期のPb濃度が10ppmでpH7の溶液500mLを30分間処理し、溶液中の残存Pb濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0035】
実施例1、実施例2の二酸化マンガンでは、Pb残存濃度が0.01mg/L以下であったが、比較例1〜3では処理性能が低下した。
【0036】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】δ型二酸化マンガンのXRD測定図(実施例1、実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電位(vs.Hg/HgO.40%KOH)が275mV以上であるδ型二酸化マンガンを含んでなる重金属処理剤。
【請求項2】
過マンガン酸塩と硫酸マンガンの反応によりδ二酸化マンガンを製造する方法において、Mn2+/Mn7+のモル比を1.5未満とすることを特徴とする請求項1に記載の重金属処理剤の製造方法。
【請求項3】
重金属を含む焼却灰、土壌、地下水並びに廃水のいずれかに請求項1記載の重金属処理剤を添加する重金属の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−254932(P2009−254932A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104553(P2008−104553)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】