説明

重金属固定化剤用低温貯蔵安定化剤

【課題】 従来、重金属固定化剤であるジチオカルバミン酸カリウム水溶液は、高濃度で用いられるが、低温貯蔵時に析出するという問題があるため、該水溶液に含有させることで低温貯蔵時の析出を防止する低温貯蔵安定化剤を提供する。
【解決手段】 カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる1種または2種以上の官能基のカリウム塩基を有し、数平均分子量が1,000〜30,000のオリゴマー(B)からなる、ジチオカルバミン酸カリウム塩基を有する重金属固定化剤(A)用低温貯蔵安定化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属固定化剤用低温貯蔵安定化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼却(飛)灰[焼却灰または焼却飛灰を意味する、以下同じ。]、鉱滓、土壌、汚泥などの固体粉末またはスラリーまたは工場排水、洗煙排水(ゴミ焼却場などの煙突に付いたススを水で洗い落とす際に生じる排水)、廃棄物埋め立て処分地の浸出水などの水溶液または懸濁液中に存在する重金属を固定化して重金属の溶出を防止するために添加される薬剤として、高濃度のジチオカルバミン酸塩(カリウム塩等)水溶液(例えば、特許文献1参照)などの重金属固定化剤が使われている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−224560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ジチオカルバミン酸塩(とくにカリウム塩)水溶液等の重金属固定化剤は高濃度で用いられるため、低温における貯蔵安定性が悪く、低温貯蔵後に使用する際にはジチオカルバミン酸塩成分の析出により、処理設備の配管や薬液ポンプ等の目詰まりを引き起こす等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる1種または2種以上の官能基のカリウム塩基を有し、数平均分子量が1,000〜30,000のオリゴマー(B)からなる、ジチオカルバミン酸カリウム塩基を有する重金属固定化剤(A)用低温貯蔵安定化剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の重金属固定化剤用低温貯蔵安定化剤は、ジチオカルバミン酸カリウム塩基を有する重金属固定化剤(A)に添加することにより、(A)を高濃度水溶液にしても低温で析出せず、低温での保管や貯蔵が容易になる優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明におけるオリゴマー(B)は、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる1種または2種以上の官能基のカリウム塩基を有し、数平均分子量(以下、Mnと略記)が1,000〜30,000(好ましくは2,000〜20,000)のオリゴマーである。オリゴマー(B)中の官能基のうち、低温貯蔵安定性の観点から好ましいのはカルボキシル基のカリウム塩基である。
(B)のMnが1,000未満では低温貯蔵安定性の効果が悪く、また、30,000を超えると(A)の水溶液に対する溶解性が悪くなり、低温貯蔵下でオリゴマー自体が析出するという問題が生ずる。
ここにおいて上記Mnは、下記条件でのゲルパーミエイション(GPC)法により測定される。
[1]装置 :HLC−8120GPC[東ソー(株)製]
[2]カラム:Guardcolumn α、TSKgel α−3000、
TSKgel α−6000
[3]溶離液:メタノール/水(30/70%v/v)酢酸ナトリウム0.5%w/v
、流量 1ml/min
[4]注入条件:サンプル濃度0.25%、注入量200μl、カラム温度40℃
【0008】
オリゴマー(B)は、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる1種または2種以上の官能基を含有するビニルモノマーを重合後カリウム塩にしてもよいし、該ビニルモノマーをカリウム塩とした上で重合してもよい。製造上の観点から好ましいのは重合後、カリウム塩にする方法である。
【0009】
カルボキシル基含有ビニルモノマー(酸無水物も含む)としては、脂肪族ビニルモノマー〔C3〜18、例えば(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、マレイン酸モノアルキル[アルキル基は炭素数(以下Cと略記)1〜8]エステル、フマル酸、フマル酸モノアルキル(アルキル基はC1〜8)エステル、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキル(アルキル基はC1〜8)エステル、イタコン酸グリコール(グリコールはC2〜8)モノエーテル、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキル(C1〜8)エステル〕、芳香族ビニルモノマー〔C7〜15、例えば桂皮酸およびビニル安息香酸〕、脂環式ビニルモノマー〔C8〜15、例えばビニルシクロヘキサン〕、およびこれらの混合物;
【0010】
スルホ基含有ビニルモノマーとしては、C2〜18、例えばビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、メチルビニルスルホネート、スチレンスルホン酸、α−メチルスチレンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2−ジメチルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−(メタ)アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、アルキル(C3〜18)アリルスルホコハク酸、およびこれらの混合物;
【0011】
リン酸基含有ビニルモノマーとしては、C5〜18、例えば(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル(アルキル基のC2〜8)リン酸モノエステル[2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェートおよびフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等]およびこれらの混合物;
ホスホン酸基含有ビニルモノマーとしては、C5〜18、例えば(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基のC2〜28)ホスホン酸[例えば2−アクリロイルオキシエチルホスホン酸]、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0012】
(1)を構成するモノマーには、必要により疎水性ビニルモノマー[ビニル炭化水素、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、ハロゲン含有モノマー、水酸基含有モノマー等]および水酸基含有ビニルモノマー等のその他のモノマーを含有させることができる。ここにおいて疎水性モノマーとは、20℃の水に対する溶解度(g/水100g)が1未満のものを意味する。
【0013】
ビニル炭化水素としては、C3〜30、例えばプロピレン、イソブチレン、ノネン、スチレンおよび1−メチルスチレンが挙げられる。
エポキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、C6〜20、例えばグリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
ハロゲン含有モノマーとしては、C2〜8、例えば塩化ビニルが挙げられる。
水酸基含有ビニルモノマーとしては、C3〜30、例えば1官能モノマー[ヒドロキシスチレン、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(Mn200〜20,000)モノ(メタ)アクリレート、(メタ)アリルアルコール、クロチルアルコール、イソクロチルアルコール、1−ブテン−3−オール、2−ブテン−1−オール]、2官能モノマー[2−ブテン−1,4−ジオール、2−ヒドロキシエチルプロペニルエーテル等]、および3官能またはそれ以上のモノマー[庶糖アリルエーテル等]が挙げられる。
【0014】
(B)を構成する全モノマー中の疎水性ビニルモノマーの割合は(B)の水溶性の観点から好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは0〜20モル%;また、同じく水酸基含有ビニルモノマーの割合は(A)の低温貯蔵安定性の観点から好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは0〜20モル%である。
【0015】
オリゴマー(B)には、上記カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる1種または2種以上の官能基のカリウム塩基を含有するモノマーの単独もしくは任意の組合せ、または必要により上記その他のモノマーを、(B)が水不溶性にならない範囲で含んでいてもよいモノマーから構成される(共)重合体(共重合体の場合の付加形式はランダムおよび/またはブロックのいずれでもよい)、およびこれらの混合物が含まれる。
【0016】
重合方法としては、例えばモノマーの水溶液に種々の任意のラジカル開始剤、連鎖移動剤等を添加して重合させるラジカル重合法が挙げられる。
ラジカル開始剤としては、例えば水溶性アゾ開始剤〔例えばアゾビスアミジノプロパン(塩)[例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド]、アゾビスシアノバレリン酸(塩)および2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン](塩)〕、油溶性アゾ開始剤(例えばアゾビスシアノバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルおよびアゾビスシクロヘキサンカルボニトリル)、水溶性過酸化物(例えば過酸化水素、過酢酸およびt−ブチルパーオキシド)、油溶性過酸化物(例えばベンゾイルパーオキシドおよびクメンヒドロキシパーオキシド)およびその他の無機過酸化物(例えば過硫酸アンモニウムおよび過硫酸ナトリウム)が挙げられる。
【0017】
上記の過酸化物は還元剤と組み合わせてレドックス開始剤として用いてもよく、還元剤としては重亜硫酸塩(例えば重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウムおよび重亜硫酸アンモニウム)、還元性金属塩[例えば硫酸鉄(II)]、3級アミン[例えばジメチルアミノ安息香酸(塩)およびジメチルアミノエタノール]、遷移金属塩のアミン錯体[例えば塩化コバルト(III)のペンタメチレンヘキサミン錯体および塩化銅(II)のジエチレントリアミン錯体]および有機性還元剤(例えばアスコルビン酸)が挙げられる。また、アゾ開始剤、過酸化物開始剤およびレドックス開始剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上の開始剤を併用してもよい。
【0018】
連鎖移動剤としては、例えば分子内に1つまたは2つ以上の水酸基を有する化合物[分子量32以上かつMn50,000以下、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量100以上かつMn50,000以下)およびポリエチレンポリプロピレングリコール(分子量100以上かつMn50,000以下)]、分子内に1つまたは2つ以上のアミノ基を有する化合物[例えばアンモニアおよびアミン(C1〜30、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミンおよびプロパノールアミン)]および分子内に1つまたは2つ以上のチオール基を有する次に示す化合物(1価および多価チオール)が挙げられる。
【0019】
1価チオールとしては、脂肪族チオール[C1〜20、例えばメタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、n−オクタンチオール、n−ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、n−オクタデカンチオール、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、1−チオグリセロール、チオグリコール酸モノエタノールアミン)、1−チオグリセロール、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオマレイン酸、システインおよび2−メルカプトエチルアミン]、脂環式チオール(C5〜20、例えばシクロペンタンチオールおよびシクロヘキサンチオール)および芳香(脂肪)族チオール(C6〜12、例えばベンゼンチオールおよびベンジルメルカプタンおよびチオサリチル酸);
多価チオールとしては、ジチオール[脂肪族(C2〜40)ジチオール(例えばエタンジチオール、ジエチレンジチオール、トリエチレンジチオール、プロパンジチオール、1,3−および1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、ネオペンタンジチオール等)、脂環式(C5〜20)ジチオール(例えばシクロペンタンジチオールおよびシクロヘキサンジチオール)および芳香族(C6〜16)ジチオール(例えばベンゼンジチオール、ビフェニルジチオール)]およびトリチオール(C3〜20、例えばチオグリセリン)。
【0020】
本発明における、ジチオカルバミン酸カリウム塩基を有する重金属固定化剤(A)のカリウムイオンの対アニオンを構成するジチオカルバミン酸成分としては、
(1)C1〜8の鎖状、分岐状または環状の(シクロ)アルキルジチオカルバミン酸、
(2)1〜5個の水素原子が水酸基またはアルキルエーテル基で置換されていてもよいフェニルジチオカルバミン酸、
(3)C1〜32の鎖状、分岐状または環状の(シクロ)アルキルビスジチオカルバミン酸、
(4)C1〜32の鎖状、分岐状または環状の(シクロ)アルキルトリスジチオカルバミン酸、
(5)C1〜32の鎖状、分岐状または環状の(シクロ)アルキルテトラキスジチオカルバミン酸、
(6)1〜4個の水素原子が水酸基またはアルキル(C4〜12)エーテル基で置換されていてもよいフェニルビスジチオカルバミン酸、
(7)1〜4個の水素原子が水酸基またはアルキル(C4〜12)エーテル基で置換されていてもよいフェニルトリスジチオカルバミン酸、
(8)ポリアミンと二硫化炭素との反応物、
(9)重量平均分子量(以下Mwと略記。測定はGPC法による。)1,000〜4,000のポリエチレンイミンと二硫化炭素との反応物、
(10)ポリアミンとエピハロヒドリンとが重縮合した重縮合物ポリアミン(Mw1,000〜4,500)と二硫化炭素との反応物、
(11)ポリビニルアミン(Mw1,000〜100,000)と二硫化炭素との反応物、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0021】
なお、(8)のポリアミンと二硫化炭素との反応物や、(9)のポリエチレンイミンと二硫化炭素との反応物は、特開平3−231921号公報等に記載の方法で得られる。
【0022】
上記(8)および(10)におけるポリアミンとしては、窒素原子に1個または2個の活性水素原子が結合してなるイミノ基またはアミノ基を2個以上有する下記の化合物が挙げられる。
(i)C2〜22の脂肪族ポリアミン
ジアミン(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンおよびN,N’−ジメチルエチレンジアミン);トリアミン(例えばジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンおよびジブチレントリアミン);および4価またはそれ以上のポリアミン(例えばトリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、トリブチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、テトラブチレンペンタミンおよびペンタエチレンヘキサミン)
(ii)C4〜22の脂環式ポリアミン
ジアミン[例えば1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンおよびビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン]
(iii)C6〜20の芳香(脂肪)族ポリアミン
ジアミン(フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンおよびジアミノフェニルエーテル)等
(iv)C3〜20の複素環ポリアミン
ジアミン(例えばピペラジン);および3価またはそれ以上のポリアミン(例えば1−アミノエチルピペラジンおよびメラミン)
これらのうち、形成されるジチオカルバミン酸カリウム塩の耐熱安定性の観点から好ましいのは、(i)におけるジアミン、およびさらに好ましいのは(iv)におけるジアミン、とくに好ましいのはピペラジンである。
【0023】
上記重金属固定化剤(A)のうち、重金属捕捉能の観点から好ましいのは(3)〜(11)のカリウム塩、さらに好ましいのはピペラジンモノ−およびジチオカルバミン酸カリウム、およびこれらの混合物、とくに好ましいのはピペラジンビスジチオカルバミン酸カリウム、並びにピペラジンモノ−およびビス−ジチオカルバミン酸カリウムの混合物(モノ体/ビス体の重量比は、二硫化炭素、硫化水素等の有毒ガスの発生および重金属捕捉能の観点から好ましくは0.1/99.9〜30/70、さらに好ましくは1/99〜15/85)である。
【0024】
本発明の低温貯蔵安定化剤は、重金属固定化剤(A)に配合して用いられる。低温貯蔵安定化剤と重金属固定化剤(A)の配合比は、低温貯蔵安定性および重金属固定化効果の観点から、好ましくは重金属固定化剤(A)100重量部に対して低温貯蔵安定化剤が0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。
低温貯蔵安定化剤と重金属固定化剤(A)からなる重金属固定化剤組成物の貯蔵温度は通常−15〜40℃、低温での(A)の析出抑制および重金属固定化剤、オリゴマーの作用効果の観点から好ましくは−10℃〜30℃である。
【0025】
重金属固定化剤(A)とオリゴマー(B)からなる重金属固定化剤組成物を製造する方法としては次の方法が挙げられる。
[1](A)の水溶液に(B)または(B)の水溶液を加える。
[2](B)の水溶液に(A)または(A)の水溶液を加える。
[3](B)と(A)の混合物を水に溶解させる。
【0026】
上記の、[1]、[2]おける温度条件は、0〜90℃であり、均一混合される条件であれば撹拌条件は特に限定されない。
上記重金属固定化剤組成物の水溶液pHは通常12以上、保存時の重金属固定化剤の安定性の観点から好ましい下限は12.2、さらに好ましくは12.5、同様の観点から好ましい上限は14.0、さらに好ましくは13.8である。ここで水溶液pHは、(A)の30重量%水溶液について25℃でpHメーター[堀場製作所(株)製 型番M−12]を用いて測定される値であり、以下同様である。
【0027】
本発明における(A)は、ブロック状固体、粉体、液体、スラリー、ペースト等、種々の性状の重金属含有物中の重金属の固定化に有効であるが、焼却(飛)灰、鉱滓、土壌、汚泥などの固体粉末やスラリーまたは工場排水、洗煙排水、廃棄物埋め立て処分場の浸出水などの水溶液や懸濁液中の重金属の固定化においてさらに効果的であり、特に焼却(飛)灰中の重金属の固定化には極めて効果的である。
【0028】
本発明における(A)の使用量は、該重金属含有物中に含まれる重金属含有量によって任意に調整可能であり特に限定はないが、重金属含有物の重量(固体、粉体、ペーストの場合はそれらの全重量、また、液体、スラリーの場合は固形分の全重量、以下同じ。)に基づいて、重金属固定化効果の観点から、固形分として、好ましい下限は0.1%、さらに好ましくは0.2%、特に好ましくは0.3%であり、また、薬剤コストの観点から好ましい上限は30%、さらに好ましくは20%、特に好ましくは10%である。
【0029】
本発明における重金属固定化剤組成物を重金属含有物に添加使用するに際しては、その他の添加剤を併用してもよい。その他の添加剤としては、凝集剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0030】
凝集剤としては、無機系〔硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、塩化第2鉄など〕、有機系〔ポリアクリル酸(塩)、アクリルアミド系ポリマー[ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド部分加水分解物、ポリアクリルアミドメチロール化カチオン化物、アクリルアミドとジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート共重合物の4級化物、アクリルアミドとジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級化物の共重合物等]、ジアルキルアミノエチルメタクリレートポリマーの4級化物、ポリエチレンイミン、天然物系[グアーガム、アルギン酸塩、デンプン誘導体、キトサン等]等〕が挙げられる。
凝集剤の使用量は、重金属含有物の重量に基づいて、通常5%以下、十分な凝集効果を発揮させるとの観点から好ましくは0.0001〜3%である。
【0031】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキレンオキシド(以下、AOと略記)[C2〜4、例えばエチレンオキシド(以下、EOと略記)、プロピレンオキシド(以下、POと略記)、ブチレンオキシドおよびこれらの2種以上の併用]付加型非イオン性界面活性剤〔高級アルコール(C8〜18)、高級脂肪酸(C12〜24)または高級アルキルアミン(C8〜24)等に直接AOを付加させたもの(分子量158以上かつMn200,000以下);グリコールにAOを付加させて得られるポリアルキレングリコール(分子量150以上かつMn6,000以下)に高級脂肪酸などを反応させたもの;多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタンなどの2価〜8価またはそれ以上の多価アルコール)に高級脂肪酸を反応させて得られるエステル化物にAOを付加させたもの(分子量250以上かつMn30,000以下)、高級脂肪酸アミドにAOを付加させたもの(分子量200以上かつMn30,000以下)、多価(2価〜8価またはそれ以上)アルコールアルキル(アルキル基のC3〜60)エーテルにAOを付加させたもの(分子量120以上かつMn30,000以下)等〕、および多価アルコ−ル(C3〜60)型非イオン性界面活性剤[多価アルコール脂肪酸(C3〜60)エステル、多価アルコールアルキル(アルキル基のC3〜60)エーテル、脂肪酸(C3〜60)アルカノールアミド等]等が挙げられる。
【0032】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸(C8〜22の飽和または不飽和脂肪酸)またはその塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム、アルカノールアミン等の塩)、カルボキシメチル化物の塩[C8〜16の脂肪族アルコールおよび/またはそのEO(1〜10モル)付加物などのカルボキシメチル化物の塩等]、硫酸エステル塩[高級アルコール硫酸エステル塩(C8〜18の脂肪酸アルコールの硫酸エステル塩等)]、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩[C8〜18の脂肪酸アルコールのEO(1〜10モル)付加物の硫酸エステル塩等]、硫酸化油(天然の不飽和油脂または不飽和のロウをそのまま硫酸化して中和したもの)、硫酸化脂肪酸エステル(不飽和脂肪酸の低級アルコールエステルを硫酸化して中和したもの)、硫酸化オレフィン(C12〜18のオレフィンを硫酸化して中和したもの)、スルホン酸塩[アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジエステル型、α−オレフィン(C12〜18)スルホン酸塩、イゲポンT型等]およびリン酸エステル塩[高級アルコール(C8〜60)リン酸エステル塩、高級アルコール(C8〜60)EO付加物リン酸エステル塩、アルキル(C4〜60)フェノールEO付加物リン酸エステル塩等]が挙げられる。
【0033】
カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩型[テトラアルキル(C4〜100)アンモニウム塩、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド;トリアルキル(C3〜80)ベンジルアンモニウム塩、例えばラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム);アルキル(C2〜60)ピリジニウム塩、例えばセチルピリジニウムクロライド;ポリオキシアルキレン(C2〜4)トリアルキルアンモニウム塩、例えばポリオキシエチレントリメチルアンモニウムクロライド;サパミン型第4級アンモニウム塩、例えばステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムメトサルフェート]、アミン塩型[脂肪族高級アミン(C12〜60、例えばラウリルアミン、ステアリルアミン、セチルアミン、硬化牛脂アミン、ロジンアミン)の無機酸塩または有機酸塩;低級アミン(C1〜11)の高級脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸等)塩;脂肪族アミン(C1〜30)のEO付加物等の無機酸塩または有機酸塩;3級アミン(C1〜30、例えばトリエタノールアミンモノステアレート、ステアラミドエチルジエチルメチルエタノールアミン)の無機酸塩または有機酸塩等]等が挙げられる。
【0034】
両性界面活性剤としては、アミノ酸型両性界面活性剤[高級アルキルアミン(C12〜18)のプロピオン酸ナトリウムなど]、ベタイン型両性界面活性剤アルキル(C12〜18)ジメチルベタイン、硫酸エステル塩型両性界面活性剤[高級アルキル(C8〜18)アミンの硫酸エステルナトリウム塩、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステルナトリウム塩等]、スルホン酸塩型両性界面活性剤(ペンタデシルスルホタウリン、イミダゾリンスルホン酸等)、リン酸エステル塩型両性界面活性剤[グリセリン高級脂肪酸(C8〜22)エステル化物のリン酸エステルアミン塩等]等が挙げられる。
【0035】
界面活性剤の使用量は、重金属含有物の重量に基づいて、通常5%以下、好ましくは0.01〜3%である。
【0036】
本発明における重金属固定化剤組成物を重金属含有物に添加する方法としては、通常20〜70重量%の水溶液、重金属含有物の飛散防止などの必要に応じてさらに水で希釈した水溶液として添加する方法が挙げられるが、重金属固定化剤組成物と水を別々に添加してもよく、別々に添加する場合は、どちらを先に添加してもよい。また、重金属含有物がスラリー状の場合は重金属固定化剤組成物のみを直接スラリーに添加してもよい。
【0037】
上記固体粉末またはスラリーに添加して混練する際の混練装置としては、特に限定はなく通常のもの、例えばニーダー、ホバートミキサー等が挙げられる。
また上記排水に添加して撹拌する際の撹拌装置としては、特に限定は無く、撹拌ができるものであれば全ての撹拌装置が挙げられる。
【0038】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例中の部は重量部、%は重量%、水溶液のpHは前記方法による測定値を表し、表1、2中で結晶析出の有無は下記のとおり表記した。
○ 結晶析出なし
× 結晶析出あり
【0039】
製造例1
(ピペラジンビスジチオカルバミン酸カリウム水溶液の製造)
冷却・撹拌が可能で、窒素置換が可能な反応容器に、水474部、ピペラジン129部を仕込み溶解した後、水酸化カリウム168部を仕込み、200rpmで撹拌した。反応容器中の固形物がスラリー状になったことを確認後、窒素雰囲気下、35℃にて二硫化炭素250部を滴下した。滴下終了後、同温度にて3時間熟成を行なった後、未反応の二硫化炭素を除去することによって、ピペラジンビスジチオカルバミン酸カリウム(A1)の47.2%水溶液を得た。水溶液のpHは13であった。
製造例2
(ピペラジンビスジチオカルバミン酸カリウムとピペラジンモノジチオカルバミン酸カリウムの混合物の水溶液の製造)
製造例1において、ピペラジン134部、水酸化カリウム171部、二硫化炭素226部を用いた以外は製造例1と同様に行い、ピペラジンモノジチオカルバミン酸カリウムとピペラジンビスジチオカルバミン酸カリウムの混合物(A2)(モノ体/ビス体の重量比=6/94)の47.5%水溶液を得た。水溶液のpHは13であった。
【0040】
実施例1
(A1)の47.2%水溶液100部に対してアクリル酸重合体のカリウム塩(Mn6,000)(B1)の40%水溶液1、2、6、10部をそれぞれ添加、混合した。得られた各水溶液を内径2.5cm、高さ11cm、容量50mlの密栓式ガラス容器に40ml入れ、−10℃に調整したインキュベーター内に1週間静置し、結晶析出の有無を試験した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例2〜4
実施例1において、(B1)の40%水溶液の代わりに、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸重合体のカリウム塩(Mn3,000)(B2)の40%水溶液、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート重合体のカリウム塩(Mn3,000)(B3)の40%水溶液、または2−アクリロイルオキシエチルホスホン酸重合体のカリウム塩(Mn4,000)(B4)の40%水溶液を用いた以外は、実施例1と同様に行い結晶析出の有無を試験した。結果を表1に示す。
比較例1
実施例1において、(B1)の代わりにアクリル酸重合体のナトリウム塩(Mn6,000)(C1)の40%水溶液を用いた以外は実施例1と同様に行い、結晶析出の有無を試験した。結果を表1に示す。
比較例2
(A1)の47.2%水溶液40mlを実施例1と同様の密栓式ガラス容器に入れ、実施例1と同様に結晶析出の有無を試験した。結果を表1に示す。
実施例5〜8
実施例1〜4において、(A1)の47.2%水溶液の代わりに(A2)の47.5%水溶液を用いた以外は実施例1〜4と同様にして行い、結晶析出の有無を試験した。結果を表2に示す。
比較例3、4
比較例1、2において、(A1)の47.2%水溶液の代わりに、(A2)の47.5%水溶液を用いた以外は比較例1、2と同様に行い、結晶析出の有無を試験した。結果を表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表1、2の結果から、本発明の低温貯蔵安定化剤を添加した重金属固定化剤組成物は、−10℃、1週間では結晶の析出が全く認められず、低温貯蔵安定性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の低温貯蔵安定化剤は、ジチオカルバミン酸カリウム塩基を有する重金属固定化剤に添加することにより、該固定化剤を高濃度水溶液にしても低温で析出することなく、低温での保管や貯蔵が容易になるという優れた効果を奏することから、該重金属固定化剤用低温貯蔵安定化剤として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる1種または2種以上の官能基のカリウム塩基を有し、数平均分子量が1,000〜30,000のオリゴマー(B)からなる、ジチオカルバミン酸カリウム塩基を有する重金属固定化剤(A)用低温貯蔵安定化剤。
【請求項2】
(B)が、該官能基のカリウム塩基を有するビニルモノマーの重合体である請求項1記載の安定化剤。
【請求項3】
該重合体が、カルボキシル基含有ビニルモノマー、スルホ基含有ビニルモノマー、リン酸基含有ビニルモノマーおよびホスホン酸基含有ビニルモノマーからなる群から選ばれる1種または2種以上のビニルモノマーのカリウム塩から構成され、必要によりビニル系炭化水素モノマーを共重合体が水不溶性にならない範囲で含んでいてもよい、単独または共重合体である請求項2記載の安定化剤。

【公開番号】特開2007−146089(P2007−146089A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346248(P2005−346248)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)