説明

重鎖抗体を作製するマウス

遺伝子改変された非ヒト動物、ならびにそれを作製および使用するための方法および組成物を提供する。ここで、該遺伝子改変は、IgG、IgA、IgDおよび/またはIgEの免疫グロブリン定常領域のCH1遺伝子における欠失(任意選択で、ヒンジ領域における欠失)を含み、該マウスは機能性IgMを発現できる。遺伝子改変マウス、例えば、機能性IgM遺伝子を有し、IgMではない重鎖定常ドメイン内、例えば、IgG重鎖定常ドメイン内のCH1ドメインおよびヒンジ領域の欠失を有するように改変されたマウスを記載する。ヒト可変/マウス定常キメラ重鎖抗体(軽鎖を欠いている抗体)、完全マウス重鎖抗体、または完全ヒト重鎖抗体が作製される遺伝子改変マウスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明の分野は、重鎖抗体が作製される遺伝子改変された非ヒト動物、特に、免疫グロブリンγ(IgG)遺伝子のCH1ドメイン(またはCH1ドメインとヒンジ領域)をコードしている配列内にヌクレオチド配列の欠失を含むが、機能性CH1ドメインを欠いていないIgMを発現できる遺伝子改変された動物、特に、野生型IgM分子(すなわち、CH1ドメインを有する)の作製能を有するが、機能性CH1ドメイン(またはCH1ドメインとヒンジ領域)が欠如している重鎖IgG抗体が作製されるマウスである。
【背景技術】
【0002】
背景
ほとんどの動物では、通常の免疫グロブリン重鎖は、その関連(cognate)軽鎖とカップリングされている場合でのみ良好に発現される。ヒトでは、重鎖可変部、CH1、または重鎖可変部とCH1ドメインの配列を欠いている機能不全性の重鎖によって症状発現する重鎖病で孤立重鎖が見られる。軽鎖が欠如している重鎖は、特定の種の魚類およびラクダに見られる。かかる重鎖は、機能性CH1ドメインを欠いており、重鎖可変ドメインにおいて非ヒト特徴を有する。ラクダまたは特定の種の魚類に見られるVHHドメインを模倣するラクダ化遺伝子を発現するようにマウスを改良することにより(一部において、IgMおよびIgG CH1ドメインを除去し、重鎖可変領域をラクダおよび/または特定の種の魚類のものと類似するように適合させることにより)、ラクダ化抗体を作製する試みがなされている。しかしながら、ラクダ化抗体では、非ラクダ動物において免疫応答が誘導されることが予測され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当該技術分野において、非ラクダ科VHドメインを有する重鎖抗体が作製される遺伝子改変された非ヒト動物の必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
遺伝子改変された細胞、非ヒト胚、非ヒト動物ならびにそれらを作製および使用するための方法および組成物を提供する。ここで、該動物は、免疫グロブリンG(IgG)において機能性CH1配列を欠くように遺伝子改変され、任意選択で、該改変IgGにおいて機能性IgGヒンジ領域を欠くように改変され、ここで、該細胞、胚および動物には機能性IgM CH1配列が含まれている。一部の態様では、該マウスは、内因性マウス免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子セグメントの1つ以上または全部の1つ以上のヒト免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子セグメントでの置き換えを含むものである。一部の態様では、内因性マウスV、DおよびJ遺伝子セグメントの全部が、1つ以上のヒトV、1つ以上のヒトDおよび1つ以上のヒトJ遺伝子セグメントで置き換えられている。
【0005】
一態様において、遺伝子改変がIgG定常領域をコードしているヌクレオチド配列の改変を含み、該改変によってIgG定常領域のCH1ドメインの機能喪失がもたらされる、遺伝子改変マウスを提供する。一実施形態において、該機能喪失改変は、CH1ドメインをコードしているヌクレオチド配列の欠失、またはCH1ドメインをコードしているヌクレオチド配列内の欠失である。
【0006】
一実施形態において、IgGは、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびその組合せから選択される。一実施形態では、IgGはIgG1である。一実施形態では、IgGは、IgG1、IgG2a、およびIgG2bである。
【0007】
一実施形態において、該改変は、さらに、CH1改変を含むIgGのヒンジ領域のヌクレオチド配列の欠失を含む。
【0008】
一実施形態において、遺伝子改変マウスは、129系統、C57BL/6系統、および129×C57BL/6混合型から選択される。具体的な一実施形態では、該マウスは50%129および50%C57BL/6である。
【0009】
一実施形態において、遺伝子改変マウスは、129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/SvIm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、129T2(例えば、Festingら(1999)Revised nomenclature for strain 129 mice,Mammalian Genome 10:836参照)からなる群より選択される129系統である。一実施形態では、遺伝子改変マウスはC57BL系統であり、具体的な一実施形態では、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、C57BL/Olaから選択される。具体的な一実施形態では、遺伝子改変マウスは、前述の129系統と前述のC57BL/6系統の混合型である。別の具体的な実施形態では、該マウスは、前述の129系統の混合型、または前述のBL/6系統の混合型である。具体的な一実施形態では、該混合型の129系統は129S6(129/SvEvTac)系統である。
【0010】
一実施形態において、該マウスは、該改変IgG定常領域配列に作動可能に連結された1つ以上の再編成されていない内因性マウス重鎖免疫グロブリン可変領域(mVR)遺伝子セグメントを含むものである。一実施形態では、該1つ以上のmVR遺伝子セグメントは、VH1、VH3、VH5、VH7、VH14およびその組合せから選択されるマウスVH遺伝子ファミリーに由来するものである。一実施形態では、該1つ以上のmVR遺伝子セグメントは、mVH 1−26、1−42、1−50、1−58、1−72、3−6、5−6、7−1、14−2およびその組合せから選択される。
【0011】
一実施形態において、該マウスは、機能性CH1領域を欠いているIgG重鎖のFR1、FR2およびFR3をコードしている再編成遺伝子を含むものであり、該FR1、FR2およびFR3は各々、独立して、VH1、VH3、VH5、VH7およびVH14遺伝子ファミリーから選択されるmVH生殖系列配列に由来するFR1、FR2およびFR3と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である。一実施形態において、mVH生殖系列配列は、1−26、1−42、1−50、1−58、1−72、3−6、5−6、7−1、および14−2配列から選択される。
【0012】
一実施形態において、該マウスは、DH1−1、2−14、3−1、3−2、3−3、4−1およびその組合せから選択されるDH遺伝子セグメントに由来するCDR3を含むものである。一実施形態において、該マウスCDR3は、JH1、JH2、JH3またはJH4であるJHにコードされた配列を含む。
【0013】
一実施形態において、該マウスは、DH1−1、2−14、3−1、3−2、3−3、4−1、およびJH1、JH2、JH3またはJH4の再編成体に由来するCDR3をコードしている再編成抗体配列を含むものである。
【0014】
一実施形態において、該マウスは、機能性CH1領域を欠いているIgG重鎖のFR4をコードしている再編成遺伝子を含むものであり、該FR4は、JH1、JH2、JH3またはJH4でのDH1−1、2−14、3−1、3−2、3−3または4−1の再編成体にコードされたFR4と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である。
【0015】
一実施形態において、該マウスは、再編成されていないヒト重鎖免疫グロブリン可変領域(hVR)遺伝子セグメントを、内因性マウス重鎖可変領域遺伝子座に含むものである。一実施形態では、該マウスは、該改変IgG定常領域配列に作動可能に連結された再編成されていないhVR遺伝子セグメントを、内因性マウス重鎖可変領域遺伝子座に含むものである。一実施形態において、hVR遺伝子セグメントは、VH1、VH3、VH4およびその組合せから選択されるヒトVH遺伝子ファミリーに由来するものである。一実施形態において、1つ以上のhVR遺伝子セグメントが、1−2、1−8、1−18、1−46、1−69、3−21、3−72および4−59から選択される。具体的な一実施形態では、1つ以上のhVR遺伝子セグメントが、1−8、1−18および1−69から選択される。
【0016】
一実施形態において、マウス重鎖V遺伝子セグメントの全部または実質的に全部が、1つ以上のヒト重鎖V遺伝子セグメントで置き換えられている。一実施形態では、マウス重鎖VおよびD遺伝子セグメントの全部が、1つ以上のヒト重鎖VおよびD遺伝子セグメントで置き換えられている。一実施形態では、マウス重鎖V、DおよびJ遺伝子セグメントの全部が、1つ以上のヒト重鎖(cahin)V、1つ以上のヒト重鎖Dおよび1つ以上のヒト重鎖J遺伝子セグメントで置き換えられている。このような実施形態において、ヒト重鎖Vおよび/またはDおよび/またはJ遺伝子セグメントは、マウス内因性重鎖の遺伝子座に存在し、マウス定常領域遺伝子(1つもしくは複数)または改変マウス定常領域遺伝子(1つもしくは複数)に作動可能に連結される。
【0017】
一実施形態において、該マウスは、機能性CH1領域を欠いているIgG重鎖のFR1、FR2およびFR3配列をコードしており、かつ1−8、1−18または1−69ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子セグメントのヒト生殖系列ヌクレオチド配列由来のFR1、FR2およびFR3と少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列を含むものであり;ここで、改変マウスのFR1+FR2+FR3配列は、マウスおよびヒト配列のCDRの配列に関係なく、記載のヒト生殖系列配列と最適にアラインメントされる(すなわち、該FRは、比較対象のいずれのCDRのアミノ酸の実体も考慮せずに最適にアラインメントされる)。具体的な実施形態では、該FR1、FR2およびFR3は、1−8、1−18または1−69遺伝子セグメントである重鎖可変領域遺伝子セグメントのFR1+FR2+FR3のヒト生殖系列ヌクレオチド配列と約85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である。
【0018】
一実施形態において、該マウスは、さらに、ヒトD6−19/J6再編成、D6−7/J4再編成、D4−4/J4再編成、D6−6/J2再編成、D3−16/J6再編成、D6−6/J4再編成、およびD1−7/J4再編成によって形成されたFR4と少なくとも80%同一であるFR4を含むものである。具体的な実施形態では、該FR4は、前述のD/J再編成によって形成されたFR4と約85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である。
【0019】
一実施形態において、該マウスは、アミノ酸配列において1個以下、2個以下、3個以下、4個以下または5個以下のアミノ酸が、V1−8、V1−18およびV1−69から選択されるヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントの生殖系列配列にコードされたFR1と異なるFR1をコードしているヌクレオチド配列を含むものである。具体的な一実施形態では、該FR1をコードしているヌクレオチド配列は、機能性CH1配列を欠いているIgG定常領域をコードしている配列に作動可能に連結された再編成された配列である。
【0020】
一実施形態において、該マウスは、アミノ酸配列において1個以下、2個以下、3個以下、4個以下または5個以下のアミノ酸が、V1−8、V1−18およびV1−69から選択されるヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントの生殖系列配列にコードされたFR2と異なるFR2をコードしているヌクレオチド配列を含むものである。具体的な一実施形態では、該FR2をコードしているヌクレオチド配列は、機能性CH1配列を欠いているIgG定常領域をコードしている配列に作動可能に連結された再編成された配列である。
【0021】
一実施形態において、該マウスは、アミノ酸配列において1個以下、2個以下、3個以下、4個以下、5個以下、6個以下、7個以下、8個以下、9個以下、10個以下または11個以下のアミノ酸が、V1−8、V1−18およびV1−69から選択されるヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントの生殖系列配列にコードされたFR3と異なるFR3をコードしているヌクレオチド配列を含むものである。具体的な一実施形態では、該FR3をコードしているヌクレオチド配列は、機能性CH1配列を欠いているIgG定常領域をコードしている配列に作動可能に連結された再編成された配列である。
【0022】
一実施形態において、該マウスは、アミノ酸配列において1個以下、2個以下または3個以下のアミノ酸が、ヒトD6−19/J6、D6−7/J4、D4−4/J4、D6−6/J2、D3−16/J6、D6−6/J4、およびD1−7/J4の再編成体にコードされたFR4のアミノ酸配列と異なるFR4をコードしているヌクレオチド配列を含むものである。具体的な一実施形態では、該FR4をコードしているヌクレオチド配列 は、機能性CH1配列を欠いているIgG定常領域をコードしている配列に作動可能に連結された再編成された配列である。
【0023】
一実施形態において、該マウスは、ヒト重鎖D領域遺伝子セグメント(hDH)に由来する重鎖CDR3をコードしているヌクレオチド配列を含むものである。一実施形態において、hDHは、D1−7、D3−16、D4−4、D6−6、D6−7およびD6−19から選択される。
【0024】
一実施形態において、該マウスは、ヒト重鎖接合遺伝子セグメント(JH)に由来する重鎖CDR3をコードしているヌクレオチド配列を含むものである。具体的な一実施形態では、JHはJ2、J4およびJ6から選択される。
【0025】
一実施形態において、該マウスは、ヒトDHとヒトJHの再編成体に由来するヌクレオチド配列にコードされた重鎖CDR3を含むものである。具体的な一実施形態では、該CDR3は、D1−7/J4、D3−16/J6、D4−4/J4、D6−6/J2、D6−6/J4、D6−7/J4、またはD6−19/J6再編成体に由来するものである。
【0026】
一実施形態において、該マウスは、内因性mVR遺伝子セグメントのhVR遺伝子セグメントでの置き換えを含むものである。具体的な一実施形態では、該mVR遺伝子セグメントのhVR遺伝子セグメントでの置き換えは、改変された重鎖定常領域と同じ対立遺伝子におけるものである。別の具体的な実施形態では、該mVR遺伝子セグメントのhVR遺伝子セグメントでの置き換えは、改変された重鎖定常領域と異なる対立遺伝子におけるものである。
【0027】
一実施形態において、該mVR遺伝子セグメントの90〜100%が、少なくとも1つのhVR遺伝子セグメントで置き換えられている。具体的な一実施形態では、内因性mVR遺伝子セグメントの全部または実質的に全部が、少なくとも1つのhVR遺伝子セグメントで置き換えられている。一実施形態において、該置き換えは、少なくとも18個、少なくとも39個、または少なくとも80個もしくは81個のhVR遺伝子セグメントを伴うものである。一実施形態において、該置き換えは、少なくとも12個の機能性hVR遺伝子セグメント、少なくとも25個の機能性hVR遺伝子セグメント、または少なくとも43個の機能性hVR遺伝子セグメントを伴うものである。
【0028】
一実施形態において、遺伝子改変マウスは、少なくとも1つの再編成されていないhVR遺伝子セグメント、少なくとも1つの再編成されていないヒトDセグメント、少なくとも1つの再編成されていないヒトJセグメント、および少なくとも1つのヒト重鎖定常配列を含む導入遺伝子を含むものである。一実施形態において、内因性マウス重鎖可変領域およびκ軽鎖可変領域の遺伝子座は機能的がサイレンシングされている。具体的な一実施形態では、該マウスは、トランススイッチ(trans−switching)能を有し、機能性CH1ドメインを欠いているマウスIgG配列と連続しているヒト重鎖可変ドメインを含み、任意選択で、機能性CH1ドメインを欠いている該IgGのヒンジ領域を欠いているキメラヒト/マウス抗体が生成されるものである。具体的な一実施形態では、該導入遺伝子は、さらに、CH1ドメインを欠いているIgG配列を含み、任意選択で、機能性CH1ドメインを有するIgMを含むものである。さらなる具体的な一実施形態では、IgG配列はヒンジ領域を欠いている。
【0029】
一実施形態において、該マウスは第1の重鎖可変領域の対立遺伝子と第2の重鎖可変領域の対立遺伝子を含むものであり、第1対立遺伝子と第2対立遺伝子はどちらも同じマウス系統由来のものである。一実施形態では、第1対立遺伝子は第1のマウス系統に由来し、第2対立遺伝子は第2のマウス系統に由来する。一実施形態において、第1および第2対立遺伝子のうち一方の対立遺伝子は、mVRの少なくとも1つのhVRでの置き換えを含む。別の実施形態では、両方の対立遺伝子がmVRの少なくとも1つの(on)hVRでの置き換えを含む。
【0030】
一態様において、CH1ドメインを含むIgMが発現され、機能性CH1ドメインを欠いているIgGが発現されるか、または機能性CH1ドメインを欠いているとともに機能性ヒンジ領域も欠いているIgGが発現される遺伝子改変マウスを提供する。
【0031】
一実施形態において、IgGはIgG1である。
【0032】
一実施形態において、該マウスでは、改変IgG1ならびに野生型IgG3、IgG2aおよびIgG2bである4種類のIgGが発現される。別の実施形態では、該マウスでは、改変IgG1および野生型IgG3である2種類以下のIgGが発現される。具体的な一実施形態では、該マウスでは、野生型IgM、野生型IgD、野生型IgG3、改変IgG1、野生型IgG2a、野生型IgG2b、野生型IgA、および野生型IgEである重鎖アイソタイプが発現される。別の具体的な実施形態では、該マウスでは、野生型IgM、野生型IgD、野生型IgG3、改変IgG1、野生型IgA、および野生型IgEである重鎖アイソタイプが発現される。種々の(variosu)実施形態において、IgG1の改変は、CH1ドメインの欠失、および任意選択でヒンジ領域の欠失を含む。
【0033】
一実施形態において、該マウスは、129、C56BL/6、混合型129×C57BL/6から選択される系統に由来するものである。
【0034】
一態様において、本質的に二量体重鎖からなる重鎖抗体が発現されるマウスを提供し、ここで、該重鎖は、機能性CH1ドメインを欠いているか、または機能性CH1ドメインと機能性ヒンジ領域の両方を欠いており、また、該重鎖は、生殖系列可変領域遺伝子にコードされた哺乳動物の重鎖可変ドメインと同一でない配列を含む哺乳動物の重鎖可変ドメインを含むものであり、また、該重鎖は、ヒトまたはマウスのCH2ドメインとヒトまたはマウスのCH3ドメインを含むものであり、該マウスでは、野生型ヒトまたはマウスIgMが発現される。
【0035】
一実施形態において、該マウスは、機能性免疫グロブリン軽鎖の遺伝子座を含むものである。
【0036】
一実施形態において、哺乳動物の重鎖可変ドメインは、ヒトまたはマウス重鎖可変ドメインである。
【0037】
一実施形態において、重鎖抗体は、本質的に、機能性CH1ドメインを欠いており、機能性ヒンジ領域を欠いている二量体重鎖からなり、ここで、該重鎖は、少なくとも1つの体細胞変異を含むヒト可変ドメインを含み、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。具体的な一実施形態では、CH2ドメインおよびCH3ドメインは、独立してマウスドメインおよびヒトドメインから選択される。具体的な一実施形態では、CH2ドメインとCH3ドメインの両方がヒトのものであり;別の実施形態では、CH2ドメインとCH3ドメインの両方がマウスのものである。
【0038】
一態様において、非ラクダ科可変ドメインとCH1ドメインを欠いている重鎖定常領域とを含む重鎖を含む重鎖抗体を提供する。
【0039】
一実施形態において、重鎖抗体は、さらにヒンジ領域を欠いている。
【0040】
一実施形態において、重鎖抗体は、本質的にヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインからなる定常領域を含む。別の実施形態では、重鎖抗体は、本質的にCH2ドメインとCH3ドメインからなる定常領域を含む。
【0041】
一実施形態において、非ラクダ科可変ドメインは、ヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントを含むマウスまたは遺伝子改変マウス由来のB細胞のIgMまたはIgGをコードしているヌクレオチド配列から得られる体細胞変異を有するヒトまたはマウス重鎖可変ドメインである。具体的な一実施形態では、該マウスは、ヒト化重鎖可変領域遺伝子セグメントを含むものである。別の実施形態では、該マウスは、内因性マウス重鎖可変領域遺伝子セグメント遺伝子座の少なくとも1つのヒト可変領域遺伝子セグメントでの置き換えを含むものである。別の実施形態では、該マウスは、内因性マウス重鎖の遺伝子座の少なくとも1つのヒト可変遺伝子セグメント、少なくとも1つのヒトD遺伝子セグメント、および少なくとも1つのヒトJ遺伝子セグメントでの置き換えを含むものである。具体的な一実施形態では、内因性マウス免疫グロブリン可変領域遺伝子座は、全部または実質的に全部が、複数のヒトV、DおよびJ遺伝子セグメントを含むヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子座で置き換えられている。
【0042】
一実施形態において、非ラクダ科可変ドメインはヒトまたはマウス可変ドメインである。別の実施形態では、非ラクダ科可変ドメインは、1つ以上のラクダ化改変を含むヒトまたはマウス可変ドメインである。具体的な一実施形態では、ラクダ化改変は、L11S、V37F、G44E、L45C、L45R、およびW47G(カバトによる番号付け)から選択される。具体的な一実施形態では、ラクダ化改変はV37F、G44E、およびL45Cから選択される。具体的な一実施形態では、重鎖可変ドメインは、2つのシステインを含む相補性決定領域3(CDR3)を含むものである。
【0043】
一実施形態において、重鎖抗体は、第1の重鎖可変ドメインを含む第1の重鎖と、第2の重鎖可変ドメインを含む第2の重鎖の二量体で構成されており、第1および第2の重鎖は各々、CH1ドメインを欠いている(またはCH1ドメインとヒンジ領域を欠いている)。一実施形態において、該二量体の第1の重鎖のヒト可変ドメインは第1のエピトープに結合し、該二量体の第2の重鎖のヒト可変ドメインは第2のエピトープに結合し、第1および第2のエピトープは同一でない。具体的な一実施形態では、第1および第2の重鎖の重鎖可変ドメインは、本明細書に記載のヒト重鎖可変ドメインおよび/またはヒト重鎖FR領域を含む。
【0044】
一態様において、遺伝子改変された非ヒト細胞を提供し、ここで、該遺伝子改変はIgG CH1ドメインの欠失を含み、該細胞は機能性IgMを発現する。具体的な一実施形態では、該細胞は、CH1ドメインをコードしている配列を含むIgM遺伝子を含む。
【0045】
一実施形態において、該細胞は、非ヒトES細胞、多能性細胞および全能細胞から選択される。具体的な一実施形態では、非ヒトES細胞は、マウスES細胞およびラットES細胞から選択される。
【0046】
一態様において、遺伝子改変された非ヒト胚を提供し、ここで、該遺伝子改変は本明細書に記載の改変を含む。一実施形態では、該遺伝子改変はIgG CH1ドメインの欠失を含み、該非ヒト胚は機能性IgMを発現する。具体的な一実施形態では、該非ヒト胚は、CH1ドメインを含むIgM遺伝子を含む。
【0047】
一実施形態において、非ヒト胚はマウス胚またはラット胚である。
【0048】
一態様において、ドナー細胞を含む非ヒト胚を提供し、ここで、該ドナー細胞は遺伝子改変されており、該遺伝子改変は本明細書に記載の改変である。一実施形態では、該遺伝子改変はIgG CH1ドメインの欠失を含み、該細胞は、CH1ドメインを含むIgM遺伝子を含む。
【0049】
一実施形態において、非ヒト胚はマウス胚またはラット胚であり、ドナー細胞は、それぞれ、マウスES細胞またはラットES細胞である。
【0050】
一態様において、(a)5’側の第1の配列に相同であり、IgG CH1領域の開始部に直接隣接しているマウス相同性アーム;(b)マーカーまたは薬物選択カセット;および(c)3’側の第2の配列に相同であり、IgG CH1領域の終結部に直接隣接している相同性アーム、あるいは3’側の第2の配列に相同であり、IgGヒンジ領域の終結部に直接隣接している相同性アームを含むDNA構築物を提供する。
【0051】
一態様において、(a)IgGにおいて機能性CH1ドメインを欠いているか、またはIgGにおいて機能性CH1ドメインを欠いており、機能性ヒンジ領域を欠いている本明細書に記載の非ヒト動物を免疫化すること、ここで、該マウスでは、機能性CH1ドメインを含むIgMが発現される;(b)該非ヒト動物で抗体が作製されるのに充分な条件下で該非ヒト動物を維持すること;(c)機能性CH1ドメインを欠いているか、または機能性ヒンジ領域を欠いている該マウスによって抗体を同定すること;および(d)該マウスから該抗体、該抗体が作製される細胞、または該抗体の配列をコードしているヌクレオチド配列を単離することを含む、CH1ドメインを欠いている抗体の作製方法を提供する。
【0052】
一実施形態において、該非ヒト動物は機能性免疫グロブリン軽鎖の遺伝子座を含む。
【0053】
一態様において、重鎖抗体が作製される遺伝子改変マウスを対象抗原で免疫化すること、該マウスに免疫応答を生じさせること、該マウスのB細胞においてコードされた該マウスのマウスVH領域を同定すること、ここで、該B細胞は該対象抗原に特異的に結合する、および該VH領域をヒト化することを含む、マウス重鎖抗体のヒト化方法を提供する。
【0054】
一実施形態において、重鎖抗体が作製される遺伝子改変マウスは本明細書に記載のマウスである。一実施形態において、該マウスは、インタクトなIgM遺伝子を含み、CH1ドメインを欠いているか、またはCH1ドメインを欠いており、ヒンジドメインを欠いているIgG遺伝子を含む重鎖定常遺伝子座に作動可能に連結された少なくとも1つのmVR遺伝子セグメントを含むものである。一実施形態において、IgG遺伝子はIgG1遺伝子である。一実施形態において、IgG遺伝子は、IgG1、IgG2A、IgG2B、IgG3およびその組合せから選択される。
【0055】
一実施形態において、該方法は、さらに、ヒト化VH領域をコードしているヌクレオチド配列を、ヒト免疫グロブリン定常領域のヌクレオチド配列上にクローニングすることを含む。
【0056】
一実施形態において、該マウスmVR遺伝子セグメントは、VH1およびVH14から選択されるマウスVH遺伝子ファミリーに由来するものであり、ヒト化は、VH1またはVH14のマウスフレームワークのヒトVH1遺伝子由来フレームワークでの置き換えを含む。一実施形態において、ヒトVH1遺伝子は、1−2、1−3、1−8、1−17、1−18、1−24、1−45、1−46、1−58、および1−69から選択される。具体的な実施形態では、該mVR遺伝子が1−58遺伝子であり、該ヒト遺伝子が1−18遺伝子である;該mVR遺伝子が1−26遺伝子であり、該ヒト遺伝子が1−2遺伝子である;該mVR遺伝子が1−50遺伝子であり、該ヒト遺伝子が1−46遺伝子である;該mVR遺伝子が1−17遺伝子であり、該ヒト遺伝子が1−2遺伝子である;該mVR遺伝子が1−42遺伝子であり、該ヒト遺伝子が1−2遺伝子である;該mVRが14−1遺伝子であり、該ヒト遺伝子が1−2遺伝子である;または該mVRが14−2遺伝子であり、該ヒト遺伝子が1−2遺伝子である。
【0057】
一実施形態において、該mVR遺伝子セグメントは、VH4、VH5、VH6、VH7、VH10、VH11およびVH13遺伝子から選択されるマウスVH遺伝子に由来するものであり、ヒト化は、マウスフレームワークのヒトVH3遺伝子由来フレームワークでの置き換えを含む。一実施形態において、ヒトVH3遺伝子は、3−7、3−9、3−11、3−13、3−15、3−16、3−20、3−21、3−23、3−30、3−33、3−35、3−38、3−43、3−48、3−49、3−53、3−64、3−66、3−72、3−73および3−74から選択される。具体的な一実施形態では、該mVR遺伝子が7−1遺伝子であり、該ヒト遺伝子が3−72遺伝子である;該mVR遺伝子が3−6遺伝子であり、該ヒト遺伝子が4−59遺伝子である;該mVR遺伝子が5−6遺伝子であり、該ヒト遺伝子が3−21遺伝子である。
【0058】
一実施形態において、該mVR遺伝子セグメントは、VH3およびVH12から選択されるマウスVH遺伝子ファミリーに由来するものであり、ヒト化は、マウスフレームワークのヒトVH4遺伝子由来フレームワークでの置き換えを含む。一実施形態において、ヒトVH4遺伝子は、4−4、4−28、4−31、4−34、4−39、4−59および4−61から選択される。
【0059】
一実施形態において、該mVR遺伝子セグメントはマウスVH4遺伝子ファミリーに由来するものであり、ヒト化は、マウスVH4フレームワークのヒトVH6遺伝子由来フレームワークでの置き換えを含む。一実施形態において、ヒトVH6遺伝子は6−1である。
【0060】
一実施形態において、該mVR遺伝子セグメントはマウスVH9遺伝子ファミリーに由来するものであり、ヒト化は、マウスVH9フレームワークのヒトVH7ファミリーのヒトVH遺伝子由来フレームワークでの置き換えを含む。一実施形態において、ヒトVH遺伝子は7−4−1および7−81から選択される。
【0061】
一実施形態において、ヒト化は、さらに、マウスCDR内に、該マウスCDRがより密接にヒトCDRに対応するように1つ以上の同類もしくは非同類置換、1つ以上の欠失および/または1つ以上の挿入を行なうことを含む。
【0062】
一実施形態において、ヒト化は、さらに、ヒトフレームワーク内に、該ヒトフレームワークがより密接にマウスフレームワークに対応するように、1つ以上の同類もしくは非同類置換、1つ以上の欠失および/または1つ以上の挿入行なうことを含む。
【0063】
一態様において、機能性免疫グロブリン軽鎖遺伝子を含む遺伝子改変マウスを提供し、ここで、該マウスでは、軽鎖を欠いており、CH1領域を欠いているか、またはCH1領域とヒンジ領域を欠いている重鎖抗体が発現される。
【0064】
一実施形態において、該マウスは、CH1領域をコードしている配列を欠いているか、またはヒンジ領域とCH1領域をコードしている配列を欠いている免疫グロブリン遺伝子を含むものである。一実施形態において、該配列を欠いている免疫グロブリン遺伝子は1つ以上の重鎖定常遺伝子である。具体的な一実施形態では、該配列を欠いている免疫グロブリン遺伝子は、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3遺伝子から選択される。具体的な一実施形態では、該マウスは、CH1領域、および/またはヒンジ領域、および/またはCH1領域とヒンジ領域を有するIgM遺伝子を含むものである。
【0065】
一実施形態において、該抗体は抗原に応答して発現され、該抗体は該抗原に特異的に結合する。
【0066】
一実施形態において、該抗体はマウスVHドメインを含む。具体的な一実施形態では、該マウスVHドメインは、1−26、1−42、1−50、1−58、1−72、3−6、5−6、7−1、14−1および14−2から選択されるマウスVH遺伝子セグメントを含む。
【0067】
一実施形態において、該抗体はヒトVHドメインを含む。具体的な一実施形態では、ヒトVHドメインは、1−2、1−18、1−46、3−21、3−72および4−59から選択されるヒトVH遺伝子セグメントに由来する配列を含む。
【0068】
一態様において、本質的に、各々CH1ドメインを欠いている2つのIgG1重鎖からなる結合タンパク質が発現される遺伝子改変マウスを提供し、ここで、該マウスではCH1領域を含むIgMが発現され、該マウスはそのゲノムから、IgG1のCH1ドメインをコードしているヌクレオチド配列を含むmRNAを発現できない。
【0069】
一実施形態において、各々CH1ドメインを欠いている免疫グロブリン重鎖は、本質的に、N末端からC末端に向かって、ヒトまたはマウス重鎖免疫グロブリン可変領域、任意選択でヒンジ領域、マウスCH2領域、およびマウスCH3領域からなる。具体的な一実施形態では、該重鎖免疫グロブリン可変領域はヒト可変領域であり、ヒンジ領域が存在しており、該マウスは機能性免疫グロブリン軽鎖の遺伝子座を含む。
【0070】
一態様において、軽鎖を欠いており、CH1領域を完全に、または一部欠いている重鎖抗体が発現されるマウスを提供し、ここで、該マウスでは、B細胞上にB細胞受容体が発現され、該B細胞受容体はその表面上に、免疫グロブリンヒンジ領域に直接融合された、またはCH2領域に直接融合された免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含む結合分子をディスプレイする。該結合分子はCH1領域を欠いている。一実施形態において、該結合分子はIgG1のCH2およびCH3領域を含む。
【0071】
一態様において、マウスを対象抗原で免疫化すること(ここで、該マウスは、CH1領域をコードしている配列を欠いているIgG遺伝子を含むものであり、該マウスはインタクトなIgM定常領域遺伝子を含む)、該マウスに該対象抗原に対する免疫応答を生じさせること、および該マウスから、該対象抗原を特異的に認識する細胞またはタンパク質を単離すること(ここで、該細胞またはタンパク質は、CH1ドメインを欠いており、関連軽鎖を欠いており、該対象抗原に特異的に結合する重鎖抗体を含む)を含む、重鎖抗体の作製方法を提供する。
【0072】
一実施形態において、該マウスは、機能性軽鎖遺伝子を含むものである。一実施形態において、該マウスは、λ、κおよびその組合せから選択される機能性軽鎖遺伝子を含むものである。
【0073】
一実施形態において、該マウスは、マウス重鎖V、D、J遺伝子セグメントの全部または実質的に全部の1つ以上のヒトV、D、J遺伝子セグメントでの置き換えを含むものである。
【0074】
一実施形態において、CH1をコードしている配列を欠いているIgG遺伝子は、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3およびその組合せから選択される。
【0075】
一実施形態において、CH1配列を欠いているIgG遺伝子はIgG1であり、該マウスは、IgG2a、IgG2b、IgG3、またはその組合せをコードしている遺伝子を欠いている。一実施形態では、CH1配列を欠いているIgG遺伝子はIgG2aであり、該マウスは、IgG1、IgG2b、IgG3、またはその組合せをコードしている遺伝子を欠いている。一実施形態では、CH1配列を欠いているIgG遺伝子はIgG2bであり、該マウスは、IgG1、IgG2a、IgG3、またはその組合せをコードしている遺伝子を欠いている。一実施形態では、CH1配列を欠いているIgG遺伝子はIgG3であり、該マウスは、IgG1、IgG2a、IgG2b、またはその組合せをコードしている遺伝子を欠いている。
【0076】
一実施形態において、該マウスは、表面上にB細胞受容体を有するB細胞を含むものであり、該B細胞受容体は、対象抗原に結合する再編成重鎖VDJを含み、また、該B細胞受容体は、CH1領域を含むIgMを含み、該IgMは軽鎖を含む。一実施形態において、該軽鎖はVJが再編成されている。具体的な一実施形態では、該軽鎖は、対象抗原に結合する再編成重鎖VDJと関連のκ軽鎖またはλ軽鎖である。
【0077】
一態様において、本発明によるマウスにおいて作製されるマウス重鎖抗体、ヒト重鎖抗体、またはキメラヒト/マウス重鎖抗体を提供する。
【0078】
一態様において、本発明によるマウスにおいて作製される重鎖可変領域ヌクレオチド配列またはその断片を用いて作製されるマウス重鎖抗体、ヒト重鎖抗体、キメラヒト/マウス重鎖抗体、またはヒト化重鎖抗体を提供する。
【0079】
他の実施形態を記載するが、当業者には、以下の詳細説明を検討すると自明となろう。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、マウスの野生型IgG1遺伝子座(IgG1,上部)(CH1遺伝子セグメントと融合されたJH領域遺伝子セグメント、続いて、ヒンジ領域、CH2遺伝子セグメント、およびCH3遺伝子セグメントを示す);CH1ドメインが欠失している構築物で標的化されるIgG1遺伝子座(IgG1ΔCH1,中央);ならびにCH1ドメインとヒンジ領域の両方が欠失している構築物で標的化されるIgG1遺伝子座(IgG1ΔCH1−Δヒンジ,下部)を示す。
【図2】図2は、CH1ドメインを欠いているIgG1が発現される遺伝子改変された遺伝子座を作製するためのマウスIgG1遺伝子の標的化を示す。
【図3】図3は、CH1ドメインを欠いており、ヒンジ領域を欠いているIgG1が発現される遺伝子改変された遺伝子座を作製するためのマウスIgG1遺伝子の標的化を示す。
【図4】図4は、CH1ドメインを欠いているIgG1が発現され、IgG2bまたはIgG2aは発現されない遺伝子改変された遺伝子座を作製するためのマウス重鎖定常領域遺伝子座の標的化を示す。
【図5】図5は、CH1ドメインが欠失しており、ヒンジ領域が欠失しており、IgG2b遺伝子とIgG2a遺伝子が欠失している構築物で標的化されるマウス重鎖定常領域を示す。
【図6】図6は、CH1ドメインを欠いているか、またはCH1ドメインとヒンジ領域を欠いているIgG1を有する遺伝子改変マウスの重鎖定常領域(上部)、およびCH1ドメインを欠いているか、またはCH1ドメインとヒンジ領域を欠いており、また、IgG2a遺伝子を欠いており、IgG2b遺伝子を欠いているIgG1を有する遺伝子改変マウスの重鎖定常領域(下部)を示す。
【図7】図7は、独立して、対照(マウスFcとのサイトカインエクトドメイン融合体)、CH1ドメインを欠いているキメラ(ヒトVR)/(マウスFc)重鎖抗体(hVR−mFcΔCH1)、CH1ドメインを欠いているラクダ化キメラ(ヒトVR)/(マウスFc)重鎖抗体(hVR−mFcΔCH1)、キメラ(ヒトVR)/(マウスFc)重鎖抗体(hVR−mFc)、ラクダ化キメラ(ヒトVR)/(マウスFc)重鎖抗体(hVR−mFc)、CH1ドメインを有するmFc(mFc)または有しないmFc(mFcΔCH1)を発現するように操作されたCHO細胞由来のCHO細胞上清みのウエスタンブロットを示す。
【図8】図8は、野生型マウス(左)およびIgG1のCH1ドメインを欠いており、ヒンジ領域を欠いている(ヘテロ接合性)遺伝子改変マウス(右)由来のマウス血清の還元性SDS−PAGEのウエスタンブロットの画像を示す(抗マウスIgGを用いてブロット);該重鎖の模式図も示しており、これは分子量マーカー位置である。
【図9】図9は、野生型マウス(WT)およびIgG1のCH1ドメインを欠いており、ヒンジ領域を欠いている4匹の遺伝子改変マウス(ホモ接合性;それぞれ、HO 1、HO 2、HO 3、HO 4と表記)由来のマウス血清の非還元性SDS−PAGEのウエスタンブロットの画像を示す(抗マウスIgGを用いてブロット);各マウス(WTまたはHO)を2つのレーンで表示し、各動物について血清の1:5および1:10の希釈物に対応するレーンの上部に角括弧を示している(各々、左から右に連続するレーン)。
【図10】図10は、通常のIgG1抗体(左)およびCH1ドメインを欠いており、ヒンジ領域を欠いている重鎖抗体の模式図を示す。
【図11】図11は、野生型マウス(WT)およびCH1ドメインを欠いており、ヒンジ領域を欠いているIgG1を含む遺伝子改変マウス(HO;CH1ドメインを欠いており、ヒンジ領域を欠いている重鎖抗体が発現されるホモ接合性マウス)のIgG1およびIgG2bの別々の血清免疫グロブリンアッセイを示す。対照はプールされたヒト血清である。
【図12】図12は、IgG1のCH1とヒンジ領域配列が欠如している改変内因性マウス重鎖の遺伝子座に、マウス重鎖遺伝子配列を有するマウスの脾細胞(splenoctye)RNAから増幅させた11個の独立したRT−PCRクローンのタンパク質の配列を示す。B1=配列番号:19;B2=配列番号:21;B3=配列番号:23;B5=配列番号:25;D2=配列番号:27;D5=配列番号:29;D6=配列番号:31;E2=配列番号:33;E8=配列番号:35;E10=配列番号:37;F6=配列番号:39。小文字の塩基は、組換え時の変異および/またはN付加のいずれかにより生じた非生殖系列の塩基を示す。点は、フレームワーク(FR)および相補性決定領域(CDR)(配列の上部に表記)の適正なアラインメントのための配列内の人為的ギャップを表す。内因性IgG1のCH2領域(CH2)である定常領域の最初の9個のアミノ酸を各クローンについて示す。
【図13】図13は、IgG1 CH1領域配列が欠如している改変内因性マウス重鎖の遺伝子座にヒト重鎖遺伝子配列を有するマウスの脾細胞RNAから増幅させた7つの独立したRT−PCRクローンのタンパク質の配列を示す。A8=配列番号:51;C2=配列番号:53;D9=配列番号:55;C4=配列番号:57;H8=配列番号:59;A5=配列番号:61;A2=配列番号:63。小文字の塩基は、組換え時の変異および/またはN付加のいずれかにより生じた非生殖系列の塩基を示す。点は、フレームワーク(FR)および相補性決定領域(CDR)(配列の上部に表記)の適正なアラインメントのための配列内の人為的ギャップを表す。13個のアミノ酸の内因性IgG1のヒンジ領域(HINGE)である定常領域の最初の7個のアミノ酸を各クローンについて示す。
【発明を実施するための形態】
【0081】
詳細説明
本発明は記載の特定の方法および実験条件に限定されず、したがって、方法および条件は種々であり得る。本明細書で用いる専門用語は、特定の実施形態を説明する目的のためにすぎず、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定を意図するものでない。
【0082】
特に定義していない限り、本明細書で用いる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または等価な任意の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、特定の方法および材料を以下に記載する。本明細書において挙げた刊行物はすべて、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0083】
CH1ドメインおよび抗体の生成
CH1ドメインを欠いている抗体、例えば、重鎖抗体、すなわち、軽鎖を欠いている抗体が作製される遺伝子改変された非ヒト動物を提供する。該遺伝子改変された非ヒト動物は、機能性免疫グロブリン重鎖ドメイン(CH1ドメイン)、例えば、IgG1 CH1ドメインの欠如を含む遺伝子改変を含むものであり、一部の実施形態では、機能性CH1ドメインを欠いている該免疫グロブリン重鎖においてヒンジ領域の欠失を含むさらなる改変を含むものであり、該非ヒト動物は機能性IgMを発現する。他の改変としては、IgG1およびIgM以外のアイソタイプを非機能性にすること、例えば、IgD、IgG3、IgG2a、IgG2b、IgAおよびIgEに対して遺伝子における欠失、または遺伝子の欠失を行なうことが挙げられる。また、遺伝子改変された非ヒト胚、細胞、ならびに非ヒト動物、非ヒト胚および細胞を作製するための標的化構築物も提供する。
【0084】
重鎖抗体(すなわち、軽鎖を欠いている抗体)が作製され得る遺伝子改変細胞を作製する取組みでは、他の種、例えば、ラクダ科および特定の魚類における重鎖抗体の模倣に重点が置かれている。このアプローチは、マウスES細胞を遺伝子改変してIgMおよびIgGの免疫グロブリン定常領域遺伝子においてCH1ドメインを欠失させるため、また、ラクダ科またはラクダ化ES細胞に重鎖可変領域(すなわち、VHHまたはVHH様)を導入するために使用されている。IgMおよびIgG CH1ドメインの欠失は、おそらく、遺伝子改変された遺伝子座からのラクダ化抗体の形成と競合する内因性の天然抗体の形成を抑制するために行なわれる。VHH遺伝子セグメントの付加は、おそらく、CH1欠失との組合せで重鎖抗体の形成を模倣させるために行なわれる。かかる動物由来の重鎖抗体はVHH遺伝子セグメントを含む。インビトロ試験により、非ラクダ科VHドメインは、CH1ドメインを欠いている重鎖内に存在している場合では、発現可能な重鎖抗体を必ずしも満足に形成しないことが示されているため、VHH遺伝子セグメントは、おそらく、重鎖抗体の適正な発現に必要であると考えられている。
【0085】
しかしながら、ラクダ科(および一部の軟骨魚類)では、CH1ドメインまたはCH1様ドメインを含む遺伝子が存在している。CH1ドメインを欠いているVHH含有抗体は、RNAのスプライシングによって、またはCH1領域をコードしているであろうDNA配列の再編成によって生じると考えられている。したがって、ラクダ科であっても、CH1領域をコードしているDNA配列は保持される。ヒトは(ある状況下において)、CH1領域を完全に、または一部欠いている重鎖抗体が作製されることがあり得るため(例えば、ヒト重鎖病において)、一連の所与の状況下において、非ラクダ科(マウスなど)においてCH1領域を欠いている重鎖が形成されるようにすることが可能であり得る。このアプローチは、CHの生殖系列構造の破壊に依存するのではなく、動物の軽鎖の遺伝子座を非機能性にすることに依存するものである。このアプローチでは、非機能性の軽鎖の遺伝子座があると、発現に関連軽鎖を必要とする重鎖(例えば、CH1領域を有する完全長重鎖)は、κまたはλ軽鎖いずれかを欠くため作製されず、そのため、軽鎖なしで発現および分泌され得る重鎖(すなわち、CH1領域を欠いている重鎖)のみが発現および分泌されると仮定している。該アプローチは、再編成されて機能性軽鎖遺伝子が形成され得る機能性κまたはλ遺伝子セグメントがないこと、およびなんら機能性の再編成軽鎖遺伝子がないことに依存するものであり、したがって、両方の生殖系列軽鎖の遺伝子座の機能性を破壊するために遺伝子操作(例えば、ノックアウト)が必要とされる。該アプローチは「天然の」プロセスに依存するものであるため内因性CH1ヌクレオチド配列の使用が不要となり、CH1サイレンシングの「天然の」プロセスはクラススイッチにおいて起こるものである。機能性軽鎖遺伝子を含む動物ではいずれも、かかるプロセスの使用の可能性は全くないようである。さらに、「天然の」プロセスには、大量の通常のRNA(すなわち、CH1領域をコードしている領域を含むRNA)の合成が含まれるようである。
【0086】
免疫グロブリンCH1ドメイン(および任意選択でヒンジ領域)を欠いている抗体、例えば重鎖抗体、および例えば、VHドメイン(例えば、マウスまたはヒトVHドメイン)を含む抗体が作製されるマウスを作製するための組成物および方法を提供する。該方法は、内因性非IgM CH1領域を選択的に非機能性にすること(例えば、CH1ドメインの配列の欠失により)、および再編成されていない内因性マウス可変領域(mVR)遺伝子セグメントまたは再編成されていないヒト可変領域(hVR)遺伝子セグメントのいずれかを内因性マウス可変領域遺伝子座において使用し、マウスにおいてキメラヒト/マウス抗体を作製することを含む。CH1ドメインの欠失は1つ以上のIgG遺伝子において行なわれるが、IgM遺伝子には行なわない。該アプローチでは、1つ以上のIgG CH1ドメインを選択的に非機能性にするが、機能性IgMはそのままにしておく。1つ以上のIgG CH1ドメインの欠失に加え、さらなる実施形態は、CH1ドメインが欠失されているか、または非機能性にされたIgGのヒンジ領域(1つまたは複数)の欠失、または該領域を非機能性にすることを提供する。
【0087】
遺伝子改変された非ヒト動物のすべてのIgアイソタイプが非機能性CH1またはCH1ドメイン(および任意選択でヒンジ)の欠失を示すとは限らないため、IgG CH1欠失アプローチでは、動物における天然のB細胞発生における比較的保存的な破壊が使用される。したがって、CH1改変はIgM分子では起こらず、したがって、機能性CH1を有するIgMに依存するB細胞発生の初期の段階に影響を及ぼさない。IgMは改変されないため、IgGのCH1ドメイン(および任意選択でIgGのヒンジ領域)の1つ以上の欠失を有するが、IgMのCH1ドメインは有しない動物では、IgGの状況の可変ドメインの提示前に、クローン選択段階において、可変領域の満足できる大量のレパートリーがプロセッシングされ得るはずである。したがって、種々の実施形態において、重鎖抗体における使用に利用可能な多様な可変領域に対する遺伝子改変(1つまたは複数)の有害な影響(あれば)によって、IgGに関連する選択に利用可能な可変領域のプールは、マイナスの影響を受けないはずである。さらに、生殖系列において非機能性にする(例えば、欠失される)CH1配列がIgG1である場合、マウスは、CH1ドメインをコードするRNAの作製能を欠いている。
【0088】
非ヒト動物を遺伝子改変して1つ以上のIgGアイソタイプのCH1ドメインまたはCH1ドメインとヒンジ領域を非機能性にすると、VH領域の完全なまたは実質的に完全なレパートリーから、重鎖抗体において発現される適当なVH領域が選択され得るマウスがもたらされ得る。IgGアイソタイプを選択的に改変すると(IgMはしない)、CH1ドメインを欠くため、またはIgMのCH1ドメインを欠くため、選択に残るVH領域の数が減少する可能性が回避される。したがって、VH領域のより完全なレパートリーが、IgG(CH1ドメインを欠いているか、またはCH1ドメインを欠いており、ヒンジ領域を欠いている)の状況の選択に利用可能になる。したがって、本発明による遺伝子改変マウスにおけるVHドメインの選択は、例えば、IgM構造の改変によるものである初期のIgM依存性B細胞発生のハードルの克服が、どのVHドメインによって補助され得るかに依存するものでない。そうではなく、初期のIgM依存性段階は通常どおりに起こるはずであり、CH1ドメインを欠いているか、またはCH1ドメインを欠いており、ヒンジ領域を欠いているIgGの状況で発現される好適性に関する選択に利用可能な重鎖の大きなレパートリーがもたらされる。
【0089】
したがって、種々の実施形態において、本発明による遺伝子改変マウスでは機能性IgMの発現が維持されるはずであり、これにより、より自然なクローン選択プロセスの機会がもたらされるはずである。例えば、機能性IgM(例えば、CH1ドメインを欠いていないIgM)がある場合、サロゲート軽鎖と関連軽鎖の両方がIgMのCH1ドメインを介して結合することができ、初期のB細胞発生における選択プロセスに関与する。本発明による遺伝子改変マウスでは、IgGアイソタイプへのクラススイッチが最初の選択段階であり、ここでは、機能性CH1ドメインを欠いているか、または機能性CH1ドメインと機能性ヒンジを欠いている定常ドメインの状況で発現され得る重鎖可変ドメインの任意の選択がみられると考えられる。
【0090】
B細胞発生におけるIgM
ラクダ科、特定の魚類および病的状態における観察結果により、ある状況下では、関連軽鎖の非存在下において、重鎖定常領域のCH1ドメインを欠いている抗体が発現され得ることが示されているが、抗体産生B細胞の通常の発生には、一般的にCH1ドメインの存在が必要とされる。IgMを含む重鎖アイソタイプにはすべてCH1ドメインが含まれている。サロゲート軽鎖および関連軽鎖はともに、IgMの状況の重鎖のCH1ドメインを介して所与の重鎖と相互作用すると考えられる。重鎖抗体の発生が構造の完全性またはIgMアイソタイプ重鎖の機能性に依存する範囲では、IgMの構造の完全性または機能の破壊は望ましくないことがあり得る。
【0091】
抗体の通常の発生には、抗体が、機能性で有用な抗体の残存および最終的な発現をもたらす数多くの複雑な選択スキームを経て残存することが必要とされる。抗体構造の破壊は、該構造破壊によって抗体が1つ以上の自然な抗体選択スキームの充足に対して有効に競合して進化する能力の消失がもたらされる程度に、抗体の残存および最終的な発現に有害であると示されることがあり得る。
【0092】
抗体発生の初期では、抗体重鎖は、さまざまな選択スキームを経て自然淘汰により適当な重鎖がさらなる選択を受けて最終的に機能性の親和性成熟抗体が形成される選択プロセスを受ける。前駆B細胞(またはプロB細胞)内で組換えを受けた重鎖遺伝子セグメントから発現された抗体重鎖は、通常、IgMアイソタイプ内において、プロB細胞の表面上への提示のためにサロゲート軽鎖と対を形成し、プレB細胞受容体またはプレBCRと称される構造(これは、他の共受容体を含む)を形成する。プレBCRが該細胞表面上に提示されたら、プレBCRは、その複合体の適切な形成を該細胞にシグナル伝達し、該細胞に対して、重鎖がこの初期の選択段階を通過したことが有効に指示されると考えられる。したがって、該細胞には、重鎖がさらなる選択を受けるかもしれないことが情報伝達される。重鎖が、IgMおよびサロゲート軽鎖の状況において提示された場合にプレBCRの形成に有害な欠陥を含む場合、該細胞はアポトーシスを受ける。該細胞がアポトーシスを受けると、重鎖の重鎖可変領域の有用性、または多様性に対する寄与が失われる。したがって、抗体選択の非常に初期の段階では、IgMアイソタイプの状況の重鎖とともにサロゲート軽鎖の提示が必要とされる。サロゲート軽鎖はIgMと、少なくとも一部においてIgMのCH1ドメインを介して相互作用すると考えられる。この初期での接合部(例えば、非機能性CH1ドメイン)における抗体構造の機能不全または破壊により、クローン選択機能不全、重鎖を発現するプロB細胞の減少、および有用な抗体において特定の重鎖可変ドメインが使用される可能の低下がもたらされ得る。
【0093】
プレBCRを有する細胞がこの選択段階を経たら、次の選択段階で、重鎖は関連軽鎖と対合することが必要とされる(例えば、マウスおよびヒトのκまたはλのいずれか)。対合した重鎖/関連軽鎖構造は、今度は、IgMアイソタイプの状況の、IgMのCH1ドメインにより天然プレB細胞の細胞表面上に再度提示される。この表面上の複合体により、機能性の膜結合型B細胞受容体(BCR)がもたらされる。このBCRは、細胞に、該重鎖がさらなる選択に適していること、および該細胞は、今度は、この特定の軽鎖を発現するように拘束され得、さらなるB細胞成熟段階(例えば、親和性成熟およびクラススイッチ)のためにプロセッシングを受けることをシグナル伝達すると考えられる。重鎖が、IgMおよびその関連軽鎖の状況で提示された場合にBCRの形成に対して有害な欠陥を含む場合、該細胞はアポトーシスを受ける。該細胞がアポトーシスを受けると、該重鎖の重鎖可変領域の有用性または多様性に対する寄与が失われる。したがって、抗体選択の非常に初期の段階では、重鎖とともにIgMアイソタイプの状況のサロゲート軽鎖の提示が必要とされる。この場合も、この初期の接合部の抗体構造(例えば、非機能性CH1ドメイン)の機能不全または破壊により、クローン選択機能不全および該重鎖を発現するプレB細胞の付随的な減少がもたらされることがあり得る。
【0094】
ここまで選択に残ったら、IgMの状況の関連軽鎖と対合している該重鎖を提示しているプレB細胞は、次いで成熟プロセスを受け、該プロセスにより、最終的にクラススイッチ、および該重鎖と関連軽鎖がIgGアイソタイプの状況でB細胞表面上に提示されるさらなる選択機構がもたらされる。CH1ドメインを欠いている、またはCH1ドメインとヒンジ領域を欠いているIgG重鎖の選択(あれば)が起こっているとしたら、この段階かもしれない。本発明による動物では、重鎖可変領域の通常のレパートリーが、可変ドメインが残ってCH1ドメインを欠いているか、またはCH1ドメインとヒンジ領域を欠いているIgG重鎖に発現され得るかどうかに基づいた選択に利用可能であり得ると考えられる。対照的に、IgMが障害されたマウスでは、障害IgMの状況で選択に残り得る可変領域のみがクラススイッチに利用可能となり得るため、おそらく、重鎖可変領域の完全なレパートリーは存在しない。
【0095】
したがって、機能性IgMを欠いている動物では、相でない場合は適当な重鎖可変遺伝子セグメントの再編成後にB細胞集団を作製する能力の著しい低下が起こり得る。かかる場合では、豊富な供給量の重鎖可変領域が利用可能である(すなわち、動物は再編成され得る適当な数の重鎖可変領域遺伝子セグメントを有する)場合であっても、選択プロセス中の該重鎖の残存を抑制するIgMの欠陥のため、望ましい度合の多様性を示す満足なB細胞集団が形成されないことがあり得る。
【0096】
機能性IgM遺伝子での重鎖抗体の生成
対象免疫原で非ヒト動物を免疫化することによる抗体の作製に充分な多様性をもたらすために、B細胞発生中に提示されたときにIgMの状況で有効に選択に残り得る適当な数の再編成された重鎖可変領域が維持されていることが望ましい。したがって、免疫グロブリン重鎖に非機能性CH1ドメインまたは非機能性CH1ドメインと非機能性ヒンジ領域を含む遺伝子改変された非ヒト動物は、両方のIgM対立遺伝子にCH1欠失を含むものでないのがよい。
【0097】
一部の実施形態では、遺伝子改変された動物において重鎖抗体を作製するためにすべてのIgアイソタイプのCH1ドメインを欠失させることは望ましくない。したがって、IgGのCH1ドメインまたはその断片をコードしているヌクレオチド配列を無効にする、欠失させる、あるいは非機能性にする(一部の実施形態では、IgGのヒンジ領域も無効にする、欠失させる、あるいは非機能性にする)が、他のアイソタイプ(例えば、IgM)では機能性CH1ドメインが保持されるようにすることにより、遺伝子改変された非ヒト動物において重鎖抗体を作製するための方法および組成物を提供する。他のアイソタイプのCH1ドメイン(選択された1つ以上のIgG CH1ドメイン以外)の機能性により、重鎖可変ドメインが非IgGアイソタイプ(例えば、IgMアイソタイプ)の状況で提示される発生段階が破壊されない、または実質的に破壊されないB細胞発生プロセスがもたらされると考えられる。したがって、例えば、B細胞発生中でのIgM依存性段階の破壊は比較的最小限になる。本発明(これは特許請求の範囲に記載)に関して制限するものでないが、本発明者らは、IgMの状況の重鎖可変ドメインの提示と関連している初期の選択段階の破壊を最小限にすると、残ってIgGアイソタイプへのクラススイッチを受け、機能性CH1ドメインを欠いている、または機能性CH1ドメインを欠いており、機能性ヒンジ領域を欠いているIgGの状況になる選択を受ける重鎖可変領域を有する細胞がより多くもたらされることを提案する。
【0098】
したがって、遺伝子改変された非ヒト動物を、該動物を作製するための方法および組成物とともに提供し、ここで、該遺伝子改変により、IgMドメインでないIgドメインにおいて機能性CH1ドメインを欠くことになる(さらなる実施形態では機能性ヒンジ領域を欠くことになる)。種々の実施形態において、CH1またはCH1とヒンジ領域(あるいはその実質的に機能性の部分)をコードしている配列が遺伝子改変された動物のゲノムにおいて欠失している。遺伝子改変された非ヒト動物は、重鎖抗体(すなわち、軽鎖を欠いている抗体)、例えば、完全ヒト抗体(ヒト免疫グロブリン遺伝子を含むように遺伝子改変されたマウスにおいて)ならびにキメラヒト/マウス抗体(例えば、ヒト可変領域遺伝子セグメント、D領域およびJ領域を含むように遺伝子改変されたマウスにおいて、あるいは機能性CH1ドメインを欠いているか、または機能性CH1ドメインを欠いており、機能性ヒンジ領域を欠いている遺伝子改変IgGアイソタイプにトランススイッチされ得るヒト導入遺伝子を有するマウスにおいて)の作製において有用である。
【0099】
重鎖抗体
抗体はヒト治療薬として有用である。また、重鎖抗体、すなわち、軽鎖を欠いている抗体もヒト治療薬として有用である。重鎖抗体は軽鎖を欠いているため小型になり、したがって、軽鎖を含む抗体よりも良好な組織浸透を示すが、従来の抗体と比較すると類似した、またはより有利な薬物動態プロフィールを有し、類似したエフェクター機能が保持されていることが予測される。また、重鎖抗体は小型になるため、所与の容量でより高い用量での投与が可能になる。よく使用される抗体投与方法は皮下注射であり、所与の投薬量の抗体に対する投与容量の低減により、患者に有益性がもたらされ、大容量の皮下注射による合併症および痛みが回避され得る。
【0100】
重鎖抗体の別の利点は、2種類の異なるエピトープに対する特異性を有する重鎖をヘテロ二量体化して二重特異性抗体を作製し、単一の治療薬にできることである。重鎖抗体は軽鎖を欠いていることから、いずれかの重鎖の結合親和性または特異性を妨げないだけでなく、二重特異性抗体の適当な発現を可能にし得る共通する軽鎖を操作する必要がないため、二重特異性抗体の作製に特に適している。
【0101】
本発明の遺伝子改変された動物を用いて多種多様な重鎖抗体が作製され得る。本明細書に記載の遺伝子改変は、例えば、任意の適当なマウス系統において行なわれ得る。マウス系統は、選択される重鎖抗体の作製に適した任意の遺伝的背景を有するものであり得る。具体的な実施形態が包含される遺伝的背景の一例を以下に示す。
【0102】
遺伝子改変された動物は、本発明に従う遺伝子改変と、内因性マウス重鎖可変領域遺伝子座と置き換えられた1つ以上の再編成されていないヒト可変領域遺伝子セグメント、1つ以上の再編成されていないD領域遺伝子セグメント、および1つ以上の再編成されていないJ領域遺伝子セグメントとを含むマウスであり得る。かかるマウスでは、ヒト化可変領域遺伝子座が、内因性マウス定常ドメイン配列の上流に再編成された可変領域遺伝子が形成されるように組み換えられ得る(この場合、該免疫グロブリン定常領域遺伝子の1つ以上が本明細書に記載のようにして改変される)。したがって、該マウスではキメラヒト可変/マウス定常重鎖抗体が作製され得る。対象免疫原に曝露されると、該マウスでは、親和性成熟し、該対象免疫原のエピトープに特異的に結合し得る本発明による重鎖抗体が生成され得る。
【0103】
遺伝子改変された動物は、再編成されていない内因性マウス可変領域遺伝子セグメント、再編成されていない内因性マウスD領域遺伝子セグメント、および再編成されていない内因性マウスJ領域遺伝子セグメントを含む内因性マウス可変領域を含むマウスであってもよく、ここで、該マウスは、本明細書に記載のマウス重鎖定常領域の遺伝子改変を含むものである。したがって、該マウスではマウス重鎖抗体が作製され得る。対象免疫原に曝露されると、該マウスでは、親和性成熟し、該対象免疫原のエピトープに特異的に結合し得る本発明による重鎖抗体が生成され得る。
【0104】
遺伝子改変された動物は、再編成されていないヒト可変領域遺伝子セグメント、再編成されていないヒトD遺伝子セグメント、および再編成されていないヒトJ遺伝子セグメント、ミュー遺伝子、ならびにトランススイッチを可能にする配列を含むヒト導入遺伝子を含むマウスであってもよい。該マウスは、さらに、本明細書に記載のマウス重鎖定常領域の改変を含むものであってもよい。したがって、該マウスでは、完全ヒトIgM抗体、およびトランススイッチによりキメラヒト可変/マウス定常抗体が作製され得、ここで、該定常ドメインは、本明細書に記載の遺伝子改変を含む。対象免疫原に曝露されると、該マウスでは、親和性成熟し、該対象免疫原のエピトープに特異的に結合し得る本発明による重鎖抗体が生成され得る。
【0105】
重鎖抗体のインビトロ発現
本発明者らは、通常のヒトまたはマウス重鎖可変領域(hVRまたはmVR)が、機能性CH1ドメインを欠いているIgGの状況のインビトロ系において発現され得ることを確立した。本発明者らは、野生型マウスIgMを有するマウスの再編成されていないhVRミニ遺伝子座からhVRを発現させた。発現されたhVRはCH1ドメインを欠いているIgG2b上にクローニングされ(その結果、hVR−IgG2bΔCH1が発現される)、hVR−IgG2bΔCH1構築物で一過的にトランスフェクトしたCHO細胞によって分泌され、野生型IgMを有するマウスにおいて選択されたhVRは、機能性CH1ドメインを欠いているIgGにスイッチされると、すなわち、重鎖抗体として細胞によって発現され分泌され得ることが有効に確立された。
【0106】
本発明者らは、CH1ドメインを欠いており、hVRまたはヒトラクダ化VR(hVR)を有する重鎖をCHO細胞において発現させるためのインビトロ系を構築した。VRは、内因性マウス重鎖の遺伝子座のヒト重鎖可変領域ミニ遺伝子座(3つのヒトV領域遺伝子セグメント6−1、1−2および1−3、すべてのヒトDH遺伝子セグメント、ならびにすべてのヒトJH遺伝子セグメントを有する)での置き換えを含むRAGマウスから得た。内因性マウス免疫グロブリンのκおよびλ軽鎖の遺伝子座はインタクトで機能性であった。
【0107】
キメラ重鎖(hVR−mFc)およびラクダ化重鎖(hVR−mFc)の構築物を、CHO細胞内での発現のために、上記のミニ遺伝子座を有するマウスから得たVR配列を用いて作製した。キメラ重鎖は、キメラ重鎖(hVR−mFc)とマウス軽鎖を含む機能性抗体が形成される該マウスにおけるB細胞発生中の通常のV−D−J組換えの産物であった。hVR−mFcおよびhVR−mFcの構築物は、CH1ドメインを有するものとCH1ドメインを欠いているものの両方を作製した。
【0108】
CHO細胞内でのhVR−mFcおよびhcVR−mFcの構築物の一過性トランスフェクションにより、CH1ドメインがないと、hVRおよびhVRを有する重鎖が発現され、上清み中で可溶性のままであることが示された。CH1ドメインが存在する場合は、hVRまたはhVRのいずれかを含む重鎖は上清み中に発現されなかった。この観察結果により、かかる重鎖抗体は、CH1ドメインを欠いている重鎖抗体においてラクダ科VHHドメインを使用することなく、例えば、ヒトまたはマウスVHドメインを用いて作製され得ることが示唆された。
【0109】
ヒト化重鎖抗体
本発明の重鎖抗体のヒト化型を生成させるためには、該改変についてホモ接合性である動物を抗原で免疫化し、動物の特異的免疫応答が確立されたら、該免疫化動物の脾臓の細胞を適当な不死化細胞(例えば、骨髄腫細胞)と融合させてハイブリドーマ細胞を得る。あるいはまた、該免疫化動物のB細胞から直接抗体を得てもよい。ハイブリドーマ細胞(または例えば、単離したB細胞)由来の上清みを、酵素免疫測定法(ELISA)によって抗体の存在についてスクリーニングし、抗原に特異的な抗体が所望の特徴に基づいて選択され得る。
【0110】
重鎖可変領域(VH)核酸はハイブリドーマおよび/またはB細胞から、当該技術分野において知られた標準的な分子生物学的手法を用いて単離され得る(Sambrookら 1989.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor,N.Y.;Ausubelら 1995.Short Protocols in Molecular Biology,第3版,Wiley & Sons)。VH核酸配列が決定されたら、推定アミノ酸配列を得、他のヒトVH配列と比較し、類似した配列を有する一群の関連するVH配列を同定することができる。関連するVH配列は、当業者に利用可能な抗体データベース、例えば、The International ImMunoGeneTics Information System(登録商標)(IMGT(登録商標))を用いて得ることができる。この比較は、目測によって、あるいはまた電子的にアラインメントプログラム(例えば、CLUSTAL)の使用によってのいずれかでなされる配列のアラインメントによって行なわれ得る。この比較において、相補性決定領域(CDR)とフレームワーク領域(FR)が特定される。CDRおよびFR残基は、標準的な配列規定(例えば、Kabatら 1987,Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda Md.;ChothiaおよびLesk,1987.J.Mol Biol.196:901−917)に従って決定される。当業者には、場合によっては免疫グロブリン重鎖のCDR領域およびFR領域の配列の番号付けおよび決定の方法に不一致が存在することがあり得ることは認識されよう。かかる場合では、構造による規定が好ましいが、配列規定法によって同定される残基を、重鎖配列の比較に基づいてどのフレームワーク残基を置き換えるかを決定するのに重要なFR残基とみなす。
【0111】
アラインメントされたら、VH配列内の置換可能な位置を特定する。単離されたVH配列内のある位置のアミノ酸の実体がその他のヒトVH配列と比較したときに異なる場合、該位置を、単離されたVH配列の該位置での置換の好適性について評価する。したがって、単離されたVH配列において、比較対象のその他の関連ヒトVH配列(1つまたは複数)と異なる任意の位置が、その他の関連ヒトVH配列の1つまたはいずれかに見られる対応する位置のアミノ酸と置換され得る位置として供され得る可能性を有する。その他の関連ヒトVH配列と同一性を共有する位置、すなわち、可変性が示されない位置は、置換可能でない位置と判定される。種々の実施形態において、上記の方法を用いてコンセンサスヒト重鎖抗体配列が得られる。
【0112】
本明細書に記載の目的のためのヒト化重鎖抗体は、所定の抗原に対する結合能を有し、ヒトFRアミノ酸配列と比べて実質的に類似したまたは同一のアミノ酸配列を有するFR領域と、非ヒトCDRアミノ酸配列と実質的に類似したまたは同一のアミノ酸配列を有するCDRとを含む免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列バリアントまたはその断片である。一般に、ヒト化重鎖抗体は、非ヒト供給源に由来する1つ以上のアミノ酸残基を有する。かかる残基は、典型的には重鎖可変ドメイン由来のものである。さらに、このような残基は、関連する特徴、例えば、親和性および/または特異性ならびに抗体機能と関連している他の望ましい生物学的活性などを有するものであり得る。
【0113】
種々の実施形態において、ヒト化重鎖抗体は、CDR領域の全部または実質的に全部が非ヒトVHドメインのものに対応し、FR領域の全部または実質的に全部がヒトVHドメイン配列のものである少なくとも1つ、他の実施形態では、少なくとも2つのVHドメインの実質的に全部を含むものである。ヒト化重鎖抗体は、一実施形態では、少なくともCH1ドメインを欠いている、一実施形態では、ヒトFcのヒンジ領域も欠いている特殊な免疫グロブリン定常領域(Fc)を含む。一実施形態では、重鎖抗体は、軽鎖を含まず、免疫グロブリンG(IgG)重鎖定常領域のCH2およびCH3領域を含む。一実施形態において、重鎖抗体の定常領域には、IgG重鎖Fcのヒンジ、CH2およびCH3領域が含まれている。一実施形態において、重鎖抗体の定常領域にはIgMのCH1領域が含まれている。
【0114】
ヒト化重鎖抗体は、任意のクラスのIgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4から選択される。種々の実施形態において、定常領域は、1つより多くのクラスのIgGに由来する配列を含むものであり得、所望のエフェクター機能を最適化するための具体的な定常領域の選択は、当該技術分野の通常の技能の範囲内である。
【0115】
一般に、ヒト化重鎖抗体の重鎖FRおよび重鎖CDR領域は、親配列に厳密に対応している必要はなく、例えば、非ヒト重鎖CDRまたはヒト重鎖FRは、少なくとも1つの残基の置換、挿入または欠失によって、所与の部位の重鎖CDRまたは重鎖FR残基がヒト重鎖FR配列または非ヒト重鎖CDR配列のいずれかに対応しないように変えられ得る。しかしながら、かかる変異は広範性でない。一実施形態ではヒト化重鎖抗体残基の少なくとも75%が親の重鎖FRおよび重鎖CDR配列のものに対応し、別の実施形態では90%、別の実施形態では95%より多くが対応する。
【0116】
本明細書に開示したヒト化重鎖抗体は、一実施形態において、親配列および種々の概念的ヒト化コンポジット配列をインシリコで、当業者に利用可能であり知られているコンピュータプログラムを用いて解析する方法によって調製される。ヒト化型を作製するため、および/または例えば免疫原性、親和性などの特徴を変更するための配列改変は、当該技術分野において知られた方法を用いて行なわれる(例えば、US5,565,332 Hoogenboomら;US5,639,641 Pedersenら;US5,766,886 Studnickaら;US5,859,205 Adairら;US6,054,297 Carterら;US6,407,213 Carterら;US6,639,055 Carterら;US6,849,425 Huseら;US6,881,557 Foote;US7,098,006 Gormanら;US7,175,996 Watkinsら;US7,235,643 Nicolaidesら;US7,393,648 Rotherら;US7,462,697 Coutoら)。
【0117】
種々の実施形態において、親重鎖抗体のバリアントを作製するための親重鎖抗体配列に対する所望の置換は、一実施形態では、親重鎖抗体の抗原結合活性が維持されるもの、または別の実施形態では、該活性が増大するものである。一般に、重鎖抗体親重鎖抗体のバリアントは、特定の抗原に対する親重鎖抗体の結合親和性の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも100%(例えば、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%または少なくとも10,000%まで)である抗原結合親和性を有する。一部の実施形態では、バリアント重鎖抗体は、親重鎖抗体と比較すると単一の置換を含むものである。しかしながら、他の実施形態では、親重鎖抗体配列と比べていくつかのアミノ酸、例えば、約5個までまたは10個以上が置換されており、これらは、所与の位置において同一性を共有している他のヒト重鎖配列に由来するものである。置換は、一実施形態では、同類であり(すなわち、置き換えられる残基と類似した特性を共有しているアミノ酸)、別の実施形態では、非同類である(すなわち、置き換えられる残基と異なる特性を共有しているアミノ酸)。種々の実施形態において、得られたバリアント重鎖抗体を試験し、所望の結合親和性および/または特異性が、置き換えられた残基によって有意に低下していないことを確認する。一部の実施形態では、異なるヒト重鎖配列由来のアミノ酸の置換によって改善されたバリアント重鎖抗体が生成される。
【0118】
天然に存在している重鎖抗体(例えば、ラクダ科に見られる)は、従来の抗体分子(すなわち、2つの重鎖と2つの軽鎖)の重鎖可変領域と軽鎖可変領域の境界部に対応する位置に特殊なアミノ酸残基を含むことが示されている。このような境界部の残基は、従来の抗体において、互いに対する2つの鎖の近接性または向きに影響を及ぼすことが知られている。このような天然の重鎖抗体は、軽鎖可変領域の非存在と相関している残基の置き換えを含むことが知られているが、該抗体は、従来の抗体と比較すると、配列内の他の位置に、特徴的な免疫グロブリンのフォールディングを保存するための残基を保持している。天然の重鎖抗体に見られる置換は、L11S、V37F、G44E、L45RまたはL45C、W47Gおよび重鎖可変領域のCDR1とCDR3間のジスルフィド結合に寄与するさらなるシステイン残基である。一部の実施形態では、本発明の重鎖抗体は、これらの位置に親抗体の残基が保持されたものであり得る。他の実施形態では、親抗体は、これらの位置に、天然の重鎖抗体の残基と関連している変異を示すものであり得る。一部の実施形態において、単離されたVH配列に由来するヒト化重鎖抗体を本明細書に記載の遺伝子改変マウスから作製する際に、これらの位置の少なくとも1つに、または一実施形態ではこれらの位置の全部に親重鎖抗体に見られるものと同じ残基が保持されているのが望ましい場合があり得る。種々の実施形態において、当業者には、このような境界部の残基は、本明細書に記載の遺伝子改変マウスによって作製される重鎖抗体における鎖間相互作用に関与していることが合理的に予測されないことが理解されよう。
【0119】
遺伝子改変動物の作製
重鎖抗体が発現される動物を作製するための遺伝子改変は、実例としての該マウスを使用することにより簡便に示される。本発明による遺伝子改変マウスはさまざまな様式で作製され得、その具体的な実施形態を以下に論考する。
【0120】
IgG1遺伝子座の模式図(一定の縮尺でない)を図1(上部)に示し、IgG1遺伝子座におけるCHドメインの配置を示す。図示のように、ドメインCH1、CH2およびCH3ならびにヒンジ領域は、スイッチ領域の下流の容易に識別可能なヌクレオチド範囲に存在している。
【0121】
IgG1のCH1ドメインをコードしているヌクレオチド配列を欠いているがヒンジ領域を含む遺伝子改変マウスは、任意の当該技術分野において知られた方法によって作製され得る。例えば、IgG1遺伝子をCH1ドメインを欠いているがヒンジを含む切断型IgG1で置き換える標的化ベクターが作製され得る。図2は、内因性CH1ドメインの上流の配列、続いて、IgG1ヒンジ、IgG1 CH2ドメイン、IgG1 CH3ドメイン、薬物選択カセット(例えば、loxed耐性遺伝子)、およびIgG1膜貫通ドメインをコードしているヌクレオチド配列を含む5’側(ゲノムIgG1遺伝子の転写の方向に対して)の相同性アームと、膜貫通ドメインに対して3’側の配列を含む3’側の相同性アームを有する標的化構築物によって標的化されるマウスゲノム(上部)を示す。該遺伝子座において相同組換えが起こり、薬物選択カセットが除去されると(例えば、Cre処理によって)、内因性IgG1は、CH1ドメインを欠いているIgG1で置き換えられる(図2の下部;lox部位は図示せず)。図1(IgG1ΔCH1,中央)は、得られた遺伝子座の構造を示し、該遺伝子座により、ヒンジ配列と融合されたJ領域配列を有するIgG1が発現される。
【0122】
IgG1のCH1ドメインをコードしているヌクレオチド配列を欠いており、ヒンジ領域をコードしているヌクレオチド配列を欠いている遺伝子改変マウスは、任意の当該技術分野において知られた方法によって作製され得る。例えば、IgG1遺伝子をCH1ドメインをコードしている配列を欠いており、ヒンジ領域をコードしている配列を欠いている切断型IgG1で置き換える標的化ベクターが作製され得る。図3は、内因性CH1ドメインの上流の配列、続いて、IgG1 CH2ドメイン、IgG1 CH3ドメイン、薬物選択カセット(例えば、loxed耐性遺伝子)、およびIgG1膜貫通ドメインをコードしているヌクレオチド配列を含む5’側(ゲノムIgG1遺伝子の転写の方向に対して)の相同性アームと、膜貫通ドメインに対して3’側の配列を含む3’側の相同性アームを有する標的化構築物によって標的化されるマウスゲノム(上部)を示す。該遺伝子座において相同組換えが起こり、薬物選択カセットが除去されると(例えば、Cre処理によって)、内因性IgG1は、CH1ドメインをコードしている配列を欠いているIgG1遺伝子で置き換えられる(図3の下部;lox部位は図示せず)。図1(IgG1ΔCH1−Δヒンジ,下部)は、得られた遺伝子座の構造を示し、該遺伝子座により、CH2ドメインと融合されたJ領域配列を有するIgG1が発現される。
【0123】
IgG1 CH1配列を欠いている(IgG1ΔCH1)、またはIgG1 CH1配列を欠いており、ヒンジを欠いている(IgG1ΔCH1−Δヒンジ)遺伝子改変マウスを、該改変IgG1アイソタイプの使用に好都合となるように、1つ以上の他のIgGアイソタイプを欠失させることにより、例えば、IgG2bおよびIgG2aをコードしている配列を欠失させること、または機能的に無効にすることによりさらに改良してもよい。例えば、内因性ヒンジ領域配列の上流(または内因性CH1ドメイン配列の上流)の配列、IgG1 CH2およびCH3ドメイン、薬物選択カセットをコードしている配列、続いて、IgG1膜貫通ドメイン、続いて所望により別の薬物選択カセットをコードしている配列を含む5’側の相同性アームを有する標的化構築物を作製する。該遺伝子座において相同組換えが起こり、薬物選択カセット(1つまたは複数)が除去されると(例えば、Cre処理によって)、内因性の重鎖定常遺伝子座は、2つだけのIgG遺伝子:内因性IgG3と、IgG1ΔCH1(図4,下部参照;レコンビナーゼ部位(1つもしくは複数)は図示せず;図6,下部参照)またはIgG1ΔCH1−Δヒンジ(図5,下部参照;レコンビナーゼ部位(1つもしくは複数)は図示せず;図6,下部参照)を含む。
【0124】
IgG1ΔCH1−ΔヒンジまたはIgG1ΔCH1ΔIgG2aΔIgG2b対立遺伝子を有する遺伝子改変マウスにおいて発現されるIgG1は、図10の右パネルに示すような構造を有する、すなわち、VHドメインはCH2ドメインと融合されている。図10の左パネルは、比較のため、野生型IgG1抗体を示し、そのCH1ドメインが、ヒンジ領域によってCH2ドメインに連結され、ジスルフィド結合によって軽鎖定常ドメインCLに連結されていることを示す。対照的に、遺伝子改変マウスによって作製される抗体は、ヒンジおよびCH1ドメインを欠いており、したがって、CLドメインを完全に欠いている。
【0125】
上記および他の遺伝子改変マウスは、適当な標的化構築物を適当なマウスES細胞内に導入することにより作製され(1回以上の独立した標的化にて)、該標的化構築物のマーカーまたは選択カセットを含む陽性クローンを確認し、増殖させる。次いで、該クローンを宿主胚において、キメラマウスまたは完全ES細胞由来マウスの作製に適した条件下でドナーES細胞として使用する。該マーカーまたは選択カセットは、ES細胞の段階またはキメラもしくはES細胞由来マウスにおいてのいずれかで、例えば、loxedカセットを用いてCre含有系統と交配することにより、またはES細胞にCre発現ベクターをエレクトロポレーションすることにより、任意選択で除去してもよい。
【0126】
IgG1ΔCH1−Δヒンジ対立遺伝子(ヘテロ接合性)を有する遺伝子改変マウスを本発明の一実施形態に従って作製した。血清を該マウスから単離し、抗マウスIgG1抗体を用いてウエスタン様式(還元条件)でブロットし、重鎖を検出した。野生型IgG1重鎖のサイズに対応するバンドが示された野生型マウスとは対照的に、IgG1ΔCH1−Δヒンジ対立遺伝子を含むように遺伝子改変されたマウスでは、VH、CH2およびCH3ドメインからなる重鎖抗体の予測サイズを有する抗マウスIgG1抗体と反応する重鎖も発現された(図8参照)。
【実施例】
【0127】
実施例
実施例1:重鎖抗体のインビトロ発現
分子生物学的手法(例えば、Maniatisら 1982.Molecular Cloning:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory参照)を用いてヒト可変領域とマウスIgG2b(mIgG2b)定常領域と融合させ、キメラ重鎖構築物を作製した。各構築物のヒト可変遺伝子セグメントは、両方のエキソン(すなわち、リーダー配列+成熟配列)、(内因性マウス免疫グロブリン重鎖の遺伝子座の3つのhVR遺伝子セグメントでの置き換えを含む天然RAGマウスから単離されたIgMのhVRから同定)、全hDH遺伝子セグメント、および全hJH遺伝子セグメントを含む完全長ヒト可変遺伝子セグメントとした。IgM抗体の軽鎖はマウス軽鎖とした。
【0128】
mIgG2b配列のうち2つの型;CH1ドメインを有するものと、有しないものを使用した。また、いくつかの他の構築物も作製して、トランスフェクションおよび発現の対照として供した。第1の対照構築物は、マウスIgG2a(mIgG2a)定常領域のCH2およびCH3ドメインと融合されたサイトカイン受容体を用いて作製した(対照I)。他の2つの対照は、マウスRORシグナル配列を、CH1ドメインを有する、または有しないマウスIgG2a配列と融合させることにより構築した(それぞれ、対照IIおよびIII)。
【0129】
また、各ヒト可変領域のラクダ化型もPCR部位特異的変異誘発手法を用いて作製した(例えば、Hutchinsonら 1978.Mutagenesis at a specific position in a DNA sequence.J.Biol.Chem.253(18):6551−60参照)。各可変領域に対して2組の特異的プライマーセットを用いてヒト可変領域配列内に特異的変異を作出し、ラクダ様特徴を含むヒト可変領域配列を得た。該可変領域の5’側の半分を含む産物の増幅にはプライマーL1(配列番号:1)およびHH1.2 mut BOT(配列番号:2)を使用し、一方、該可変領域の3’側の半分の増幅には、プライマーHH1.2 mut TOP(配列番号:3)およびm18.3.1(配列番号:4)を使用した。これらの産物を精製して一緒に混合し、プライマーL1およびm18.3.1を用いた第3のPCR反応のための鋳型として供した。得られたラクダ化ヒト可変領域のPCR産物をクローニングし、精製し、配列決定することによって確認した。
【0130】
後で付着末端でのライゲーションによって一体にすることが可能となるように制限酵素部位を含むプライマーを使用し、ヒト可変領域(ラクダ化および非ラクダ化)と定常領域を増幅させることにより、完全長重鎖構築物(可変および定常)を作製した。すべての完全長重鎖構築物を発現ベクター内にクローニングし、精製し、再度配列決定することによって確認した。表1は、各構築物に関する各重鎖構築物、その配列番号および簡単な説明を示す。
【0131】
【表1】

キメラ重鎖構築物で、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−K1)を一過的にトランスフェクトさせ、免疫グロブリン軽鎖の非存在下における発現を解析した。上清みおよび細胞溶解物をウエスタンブロットによって調べ、重鎖の存在を検出した(ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗マウスIgG抗体(Promega)を用いて化学発光(chemilumescence)により)。キメラ重鎖構築物はすべて、独立して6回、一過的にトランスフェクトさせた。トランスフェクションの代表的なウエスタンブロットを図7に示す。
【0132】
すべてのキメラ重鎖構築物(CH1ドメインを含むもの、および含まないもの)ならびに対照構築物が細胞溶解物中に検出された。CH1ドメインを欠いている構築物のみ、上清み中に観察された(図7,左)。また、対照Iおよび対照III(CH1ドメインを欠いているマウスFcタンパク質)も検出された(図7)が、CH1ドメインを含むマウスFcタンパク質は検出されなかった。CH1ドメインを含む非ラクダ化およびラクダ化重鎖構築物はどちらも、いずれもトランスフェクションでも上清み中には検出されなかった(図7,右)。しかしながら、CH1ドメインを欠いている非ラクダ化およびラクダ化ヒト重鎖構築物はどちらも、すべてのすべてのトランスフェクションで上清み中に検出された。総合すると、この結果により、CH1ドメインを欠いているhVR(通常またはラクダ化)は、免疫グロブリン軽鎖の非存在下において、一過的にトランスフェクトさせたCHO細胞で発現され、分泌され得るが、CH1ドメインを含むhVR(通常またはラクダ化)は、軽鎖の非存在下では分泌され得ないことが確立される。
【0133】
実施例2:マウス重鎖IgG1定常領域の改変
A.マウスIgG1−CH1−ヒンジ標的化ベクター(図3)の調製
VELOCIMMUNE(登録商標)マウス(後述)のES細胞由来のC57BL/6対立遺伝子に対して、マウスIgG1定常ドメインのCH1とヒンジ領域の欠失を導入するための標的化構築物を構築した。
【0134】
標的化構築物は、VELOCIGENE(登録商標)技術(例えば、米国特許第6,586,251号およびValenzuelaら(2003)High−throughput engineering of the mouse genome coupled with high−resolution expression analysis,Nature Biotech.21(6):652−659参照)を用いて、バクテリア人工染色体(BAC)BMQ 70p08を改変して作製した。BMQ 70p08 BAC DNAは、IgG1定常ドメインのCH1とヒンジ領域は欠失されるがIgG1遺伝子の残部(例えば、CH2、CH3および膜貫通エキソン)はインタクトなままとなるように改変した。
【0135】
簡単には、上流および下流の相同性アームを、それぞれ、プライマーm102(配列番号:13)とm104(配列番号:14)およびm100(配列番号:15)とm99(配列番号:16)を用いて作製した。この相同性アームを使用し、IgG1の定常ドメインのCH1とヒンジ領域は欠失しているがIgG1定常ドメインのCH2、CH3および膜貫通領域は保持されたカセットを作製した(例えば、図3参照)。標的化構築物には、loxedハイグロマイシン耐性遺伝子をIgG1遺伝子のCH3と膜貫通ドメインエキソンの間の位置に含めた。CH1およびヒンジエキソンの上流の遺伝子(例えば、IgG3、IgD、IgM)ならびにIgG1膜貫通エキソンの下流の遺伝子(例えば、IgG2b、IgG21、IgE、IgAなど)は、標的化構築物で改変されなかった。すべての定常ドメインのスイッチ領域は、標的化構築物で改変されなかった。該欠失前後のヌクレオチド配列には、以下のもの(これは、該欠失点に存在させるスプライスアクセプター配列を示す):TGACAGTGTA ATCACATATA CTTTTTCTTG T(AG)TCCCAGA AGTATCATC(配列番号:17)を含めた。この欠失配列はスプライスアクセプター(上記の括弧内に記載のAG)を含み、スプライスアクセプターの5’側はプレCH1配列であり、スプライスアクセプターの3’側はCH2エキソン配列である。
【0136】
B.マウスIgG1−CH1標的化ベクター(図2)の調製
VELOCIMMUNE(登録商標)マウス(後述)のES細胞由来の129/SvEvTac対立遺伝子に対してマウスIgG1定常ドメインのCH1の欠失を導入するための第2の標的化構築物を、この実施例のセクションAに記載のものと同様の様式で構築した。
【0137】
標的化構築物は、VELOCIGENE(登録商標)技術(例えば、米国特許第6,586,251号およびValenzuelaら(2003)High−throughput engineering of the mouse genome coupled with high−resolution expression analysis, Nature Biotech.21(6):652−659参照)を用いて、バクテリア人工染色体(BAC)BMQ 70p08を改変して作製した。BMQ 70p08 BAC DNAは、IgG1定常ドメインのCH1領域は欠失されるがIgG1遺伝子の残部(例えば、ヒンジ、CH2、CH3および膜貫通エキソン;図2参照)はインタクトなままとなるように改変した。
【0138】
第2の標的化構築物の相同性アームは、CH1−ヒンジ標的化ベクター(この実施例のセクションAにおいて上記)の場合と同じものとした。この相同性アームを使用し、IgG1定常ドメインのCH1領域は欠失しているがIgG1定常ドメインのヒンジ、CH2、CH3および膜貫通領域は保持されたカセットを作製した(例えば、図2参照)。標的化構築物には、loxedハイグロマイシン耐性遺伝子をIgG1遺伝子のCH3と膜貫通ドメインエキソンの間の位置に含めた。CH1およびヒンジエキソンの上流の遺伝子(例えば、IgG3、IgD、IgM)ならびにIgG1膜貫通エキソンの下流の遺伝子(例えば、IgG2b、IgG21、IgE、IgAなど)は、標的化構築物で改変されなかった。すべての定常ドメインのスイッチ領域は、標的化構築物で改変されなかった。該欠失前後のヌクレオチド配列には、以下のもの(これは、該欠失点に存在させるスプライスアクセプター配列を示す):TGACAGTGTA ATCACATATA CTTTTTCTTG T(AG)TGCCCAG GGATTGTGGT TGTAAGCCTT GCATATGTAC AGGTAAGTCA GTAGGCCTTT CACCCTGACC C(配列番号:64)を含めた。この欠失配列はスプライスアクセプター(上記の括弧内に記載のAG)を含み、スプライスアクセプターの5’側はプレCH1配列であり、スプライスアクセプターの3’側はヒンジエキソン配列である。
【0139】
実施例3:ES細胞におけるマウス重鎖定常領域の改変
A.IgG1−CH1−ヒンジ標的化ベクターでのマウスES細胞の標的化
マウスES細胞を、上記の標的化構築物(すなわち、IgG1遺伝子のCH1とヒンジ領域の欠失を導入する標的化構築物)で標的化した。ES細胞はVELOCIMMUNE(登録商標)マウス由来のものとした。このマウスは、129系統とC57BL/6系統の50/50混合型であり、マウス重鎖および軽鎖可変領域遺伝子セグメントの再編成されていないヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子セグメントでの置き換えを含む遺伝子改変を有する。C57BL/6との交配に使用した129系統は、マウス重鎖および軽鎖可変領域遺伝子セグメントのヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子セグメントでの置き換えを含む系統である。
【0140】
ヘテロ接合性VELOCIMMUNE(登録商標)マウスは、129系統由来の一組の内因性マウス重鎖定常領域遺伝子を一方の対立遺伝子に、およびC57BL/6系統由来の一組の内因性マウス重鎖定常領域遺伝子を他方の対立遺伝子に有する。129重鎖の対立遺伝子は、内因性マウス重鎖可変領域遺伝子セグメント(すなわち、内因性マウス遺伝子座)が置き換えられたヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントである重鎖可変領域遺伝子セグメントの遺伝子座と隣接している。BL/6重鎖の対立遺伝子は、野生型マウス重鎖可変領域遺伝子セグメントと隣接している。また、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスは野生型内因性マウス軽鎖定常領域遺伝子も有する。したがって、129対立遺伝子を、IgG、D、EまたはAのCH1欠失を含む構築物で標的化することにより、キメラヒト/マウス重鎖抗体が生成され得、一方、C57BL/6対立遺伝子を同様の構築物で標的化することにより、CH1ドメインを欠き、ヒンジを欠いている完全マウス重鎖抗体が生成され得る。
【0141】
上記のVELOCIMMUNE(登録商標)マウス由来のES細胞を、実施例2のセクションAの線状化した標的化ベクターでエレクトロポレーションし、ハイグロマイシン耐性遺伝子の存在により選択した。
【0142】
B.IgG1−CH1標的化ベクターでのマウスES細胞の標的化
同様の様式で、マウスES細胞を、実施例2のセクションB(図2も参照のこと)に記載のCH1標的化構築物で標的化した。ES細胞はVELOCIMMUNE(登録商標)マウス(129/SvEvTac系統とC57BL/6系統50/50混合型であり、マウス重鎖および軽鎖可変領域遺伝子セグメントの再編成されていないヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子セグメントでの置き換えを含む遺伝子改変を有するマウス)由来のものとした。C57BL/6との交配に使用した129/SvEvTac系統は、マウス重鎖および軽鎖可変領域遺伝子セグメントのヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子セグメントでの置き換えを含む系統である。
【0143】
ヘテロ接合性VELOCIMMUNE(登録商標)マウスは、129/SvEvTac系統由来の一組の内因性マウス重鎖定常領域遺伝子を一方の対立遺伝子に、およびC57BL/6系統由来の一組の内因性マウス重鎖定常領域遺伝子を他方の対立遺伝子に有する。129/SvEvTac重鎖の対立遺伝子は、内因性マウス重鎖可変領域遺伝子セグメント(すなわち、内因性マウス遺伝子座)が置き換えられたヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントである重鎖可変領域遺伝子セグメントの遺伝子座と隣接している。BL/6重鎖の対立遺伝子は、野生型マウス重鎖可変領域遺伝子セグメントと隣接している。また、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスは野生型内因性マウス軽鎖定常領域遺伝子も有する。したがって、129/SvEvTac対立遺伝子を、IgG、D、EまたはAのCH1欠失を含む構築物で標的化することにより、キメラヒト/マウス重鎖抗体が生成され得、一方、C57BL/6対立遺伝子を同様の構築物で標的化することにより、CH1ドメインを欠き、ヒンジを欠いている完全マウス重鎖抗体が生成され得る。
【0144】
上記のVELOCIMMUNE(登録商標)マウス由来のES細胞を、実施例2のセクションBに記載の線状化した標的化ベクターでエレクトロポレーションし、ハイグロマイシン耐性遺伝子の存在により選択した。
【0145】
実施例4:改変IgG1定常領域を有するマウスの作製
A.IgG1−CH1−ヒンジ欠失を有するマウス
上記の標的化対象ES細胞をドナーES細胞として使用し、8細胞期のマウス胚にVELOCIMOUSE(登録商標)での方法によって導入した(例えば、米国特許第7,294,754号およびPoueymirouら(2007)F0 generation mice that are essentially fully derived from the donor gene−targeted ES cells allowing immediate phenotypic analyses Nature Biotech.25(1):91−99参照)。標的化対象C57BL/6 IgG1対立遺伝子を有するVELOCIMICE(登録商標)(完全にドナーES細胞に由来するF0マウス)を、欠失しているヒンジおよびCH1領域の上流および下流に位置する配列の存在を検出する変形型の対立遺伝子アッセイ(Valenzuelaら,上掲)を用いて遺伝子型分類することにより確認した。
【0146】
IgG1のCH1とヒンジ欠失(C57BL/6対立遺伝子内、すなわち、マウス対立遺伝子内)と遺伝子型分類されたマウスを、IgG1 CH3エキソンの下流でIgG1膜貫通エキソンの上流のloxed hygカセット(標的化構築物(例えば、図3参照)によって導入)を除去するために、Cre deleterマウス系統(例えば、国際特許出願公開公報番号WO2009/114400参照)と交配した。幼獣を遺伝子型分類し、IgG1のCH1とヒンジの欠失についてヘテロ接合性の幼獣を選択し、C57BL/6対立遺伝子から発現されたIgG1重鎖を幼獣の血清中において調べた。
【0147】
B.IgG1−CH1欠失を有するマウス
同様の様式で、IgG1 CH1領域の欠失を有する標的化対象ES細胞をドナーES細胞として使用し、8細胞期のマウス胚にVELOCIMOUSE(登録商標)での方法によって導入した(例えば、米国特許第7,294,754号およびPoueymirouら(2007)F0 generation mice that are essentially fully derived from the donor gene−targeted ES cells allowing immediate phenotypic analyses Nature Biotech.25(1):91−99参照)。標的化対象129SvEv/Tac対立遺伝子を有するVELOCIMICE(登録商標)(完全にドナーES細胞に由来するF0マウス)を、欠失しているCH1領域の上流および下流に位置する配列の存在を検出する変形型の対立遺伝子アッセイ(Valenzuelaら,上掲)を用いて遺伝子型分類することにより確認した。
【0148】
IgG1 CH1欠失(129/SvEvTac対立遺伝子内、すなわち、ヒト対立遺伝子内)と遺伝子型分類されたマウスを、IgG1 CH3エキソンの下流でIgG1膜貫通エキソンの上流のloxed hygカセット(標的化構築物(例えば、図2参照)によって導入)を除去するために、Cre deleterマウス系統(例えば、国際特許出願公開公報番号WO2009/114400参照)と交配した。幼獣を遺伝子型分類し、IgG1 CH1欠失についてホモ接合性の幼獣を選択し、改変IgG1重鎖の発現を調べた。
【0149】
実施例5:改変IgG1遺伝子を有するマウス由来の重鎖抗体
A.IgG1−ΔCH1−Δヒンジマウス
CH1とヒンジの欠失を含むと上記で確認されたマウス幼獣と野生型幼獣を交配し、交配マウス由来の血清をウエスタンブロッティングのために調製し、血清中に発現されたIgG(あれば)を、抗mIgG1抗体を用いて同定した。簡単には、マウス血清の10μLの1:100希釈物を還元性SDS−PAGEに使用し、ゲルをPVDF膜に移した。ブロットを0.05%Tween−20を含む5%脱脂乳含有Tris緩衝生理食塩水(TBST;Sigma)で一晩ブロックし、TBSTで4回洗浄し(1回あたり5分間の洗浄)、次いで、一次抗体(HRPにコンジュゲートさせたヤギ抗mIgG1,Southern Biotech)(1%脱脂乳含有TBST中で1:1,000に希釈)に室温で2時間曝露した。ブロットを6回洗浄した(1回あたり5分間の洗浄)。ブロットを5分間、SuperSignal(商標) West Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Scientific)を用いて発色させ、次いでフィルムに1分間露光した。
【0150】
標的化対象ドナーES細胞から得られたVELOCIMOUSE(登録商標)(50%野生型BL/6;50%ΔCH1−ΔヒンジBL/6)由来の血清では、混合バンド:約57.5kD(野生型IgGの予測サイズ)のバンド1つ、および約45kD(CH1ドメインとヒンジを欠いているIgGの予測サイズ)にバンド1つが示された(図8)。この結果は、野生型BL/6対立遺伝子由来の通常のマウス重鎖と、そのΔCH1−ΔヒンジBL/6対立遺伝子由来のΔCH1/Δヒンジマウス重鎖が発現されるVELOCIMOUSE(登録商標)と整合している。この結果により、機能性IgM遺伝子およびCH1ドメインとヒンジドメインを欠いているIgG遺伝子を有する遺伝子改変マウスは、血清中において重鎖抗体を発現できることが確立される。
【0151】
B.IgG1−ΔCH1マウス
同様の様式で、CH1欠失についてホモ接合性のマウス幼獣と野生型幼獣を交配した。交配マウス由来の血漿および血清(5匹のホモ接合型;2匹の野生型について)をウエスタンブロッティングのために調製し、血清中に発現されたIgG(あれば)を、抗mIgG1抗体(上記)を用いて同定した。IgG1−ΔCH1欠失についてホモ接合性のマウス由来の血清および血漿のウエスタンブロットでは、混合物バンド:約45kD(CH1ドメインを欠いている一本鎖IgG1の予測サイズ)のバンド1つ、および約75kD(CH1ドメインを欠いている二量体IgGの予測サイズ)にバンド1つが示された(データ表示せず)。この結果は、一方または両方いずれかの重鎖の遺伝子座に由来するIgG1−ΔCH1重鎖が発現されるホモ接合性のVELOCIMICE(登録商標) と整合している。この結果により、機能性IgM遺伝子とCH1ドメインを欠いているIgG遺伝子を有する遺伝子改変マウスは、該動物の免疫機構の末梢リンパ球画分において重鎖抗体を発現できることが確立される。
【0152】
実施例6:IgG1−CH1−ヒンジ欠失についてホモ接合性のマウスの特性評価
CH1−ヒンジ欠失についてヘテロ接合性のVELOCIMICE(登録商標)同士を交配し、該欠失についてホモ接合性のマウスを得た。4匹のマウス幼獣が、IgG1 ΔCH1−Δヒンジについてホモ接合性であると確認された。これらの4匹のマウスと野生型マウスを交配し、交配マウス由来の血清を、ウエスタンブロッティングのために調製し、血清中に発現されたIgG(あれば)を、抗mIgG1抗体(上記)を用いて同定した。図9は、この実験で使用したPVDF膜から発色させたフィルムを示す。血清を1:5および1:10に希釈し、10μLの各希釈物を各マウスに対して並列でゲルに負荷した。ゲル画像の上部において、レーンに各マウスならびにIgG1(1)およびIgG2a(2a)対照の表示をしている。
【0153】
野生型マウス由来の血清では、2つの重鎖と2つの軽鎖を含む通常の抗体(およそ150kD)が発現されるという野生型マウスについて予測されたパターンが示された。4匹すべてのマウス(IgG1 ΔCH1−Δヒンジについてホモ接合性)では各々、混合バンド:約150kD(IgG1以外の野生型IgG(例えば、IgG2a、IgG2bまたはIgG3)の予測サイズ)のバンド1つ、および約45kD(CH1ドメインとヒンジを欠いているIgGの予測サイズ)にバンド1つが示された(図9)。この結果は、CH1ドメインとヒンジ領域を欠いており、軽鎖を欠いているIgG1重鎖抗体が発現されるマウスと整合している。この結果により、さらに、機能性IgM遺伝子およびCH1ドメインとヒンジ領域を欠いているIgG遺伝子を有する遺伝子改変マウスは、血清中において重鎖抗体を発現できることが確立される。
【0154】
別の実験において、IgGの血清中発現を、IgG1 ΔCH1−Δヒンジについてホモ接合性のマウスでELISAアッセイを用いて調べた。簡単には、mIgG1またはmIgG2b(Pharmingen)のいずれかに特異的な抗体を別々に希釈し、100μl/ウェルをプレート上に、2μg/mL(1×PBS(Irvine Scientific)中)でコートし、4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレートを0.05%Tween−20含有PBS(PBST;Sigma)で4回洗浄した。4回目の洗浄後、プレートを250μL/ウェルの5%BSA含有PBST(Sigma)でブロックし、室温で1時間インキュベートした。血清および標準を、400ng/mL(mIgG1)または600ng/mL(mIgG2b)の開始濃度で、0.5%BSA含有PBST中でプレートの下方に向かって(上から下に)連続希釈した(希釈係数は0.316)。ブロックした後、プレートを再度PBSTで4回洗浄した。4回目の洗浄後、100μLの血清または標準をプレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートを再度PBSTで4回洗浄した。洗浄後、100μLのビオチン化検出抗体(10ng/mLのラット抗mIgG1または250ng/mLの抗mIgG2b;Pharmingen)をプレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートを、上記のようにして再度洗浄した。洗浄後、100μL/ウェルのストレプトアビジンにコンジュゲートさせたホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP−SA)の1:20,000希釈物(PBST中)をプレートに添加し、プレートを室温で30分間インキュベートした。次いで、プレートをPBSTで6回洗浄した後、基質AおよびB(BD OPTEIA(商標);BD Biosciences)の100μL/ウェルの1:1希釈物を添加し、プレートを暗所に維持した。反応液を暗所内で発色させ、所望により1Nリン酸を用いて停止させた(およそ15分間)。停止させた反応液の読み出しを、450nmの吸光波長(1.0秒/読み出し)でWallac 1420 Work Station VICTOR(商標) Plate Readerにおいて行ない、結果をグラフにプロットした(図11)。
【0155】
野生型マウス由来の血清では、通常レベルのIgG1およびIgG2bが示された。IgG1 ΔCH1−Δヒンジについてホモ接合性のマウスは、末梢において、CH1ドメインとヒンジ領域を欠いているIgG1を発現できた(血清;図11の左側)。さらに、他のIgGアイソタイプ(例えば、IgG2b)の血清レベルは、野生型レベルより著しくは低減しなかった(図11の右側)。この結果により、さらに、機能性IgM遺伝子およびCH1ドメインとヒンジ領域を欠いているIgG遺伝子を有する遺伝子改変マウスは、血清中に検出され得る改変IgG1アイソタイプ(すなわち、CH1ドメインとヒンジを欠いている)を発現できることが確立される。
【0156】
実施例7:IgG1改変マウスにおけるV−D−J再編成の解析
A.IgG1−CH1−ヒンジ欠失についてホモ接合性のマウス
IgG1 ΔCH1−Δヒンジについてホモ接合性のマウス改変を、V−D−J組換えおよび重鎖遺伝子の使用について、脾細胞から単離されたRNAを用いて逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって解析した。
【0157】
簡単には、脾臓を収集し、滅菌使い捨てバッグ内で10mLの5%HI−FBS含有RPMI−1640(Sigma)を灌流させた。次いで、1つの脾臓を含む各バッグをSTOMACHER(商標)(Seward)内に入れ、ミディアム設定で30秒間ホモジナイズした。ホモジナイズした脾臓を0.7μmセルストレーナーを用いて濾過し、次いで、遠心分離機を用いてペレット化し(1000rpmで10分間)、赤血球(RBC)をBD PHARM LYSE(商標)(BD Biosciences)中で3分間溶解させた。脾細胞をRPMI−1640で希釈し、再度遠心分離した後、1mLのPBS(Irvine Scientific)中に再懸濁させた。RNAは、ペレット化した脾細胞から当該技術分野において知られた標準的な手法を用いて単離した。
【0158】
RT−PCRは脾細胞RNAに対して、マウス重鎖可変領域(VH)遺伝子セグメント(Novagen)に特異的な一組の縮重プライマー、およびマウスIgG1 CH2プライマー(CGATGGGGGC AGGGAAAGCT GCAC;配列番号:40)を用いて行なった。PCR産物をゲル精製し、pCR2.1−TOPO TA(Invitrogen)内にクローニングし、M13フォワード(GTAAAACGAC GGCCAG;配列番号:41)およびM13リバース(CAGGAAACAG CTATGAC;配列番号:42)プライマー(ベクター配列内クローニング部位にフランキングする位置に配置)を用いて配列決定した。19個のクローンを配列決定し、重鎖遺伝子の使用およびIgG1定常領域の再編成VHとCH2の接合部の配列を調べた(表2)。
【0159】
【表2−1】

【0160】
【表2−2】

図12は、19個のRT−PCRクローンのうち11個の、IgG1定常領域のCH2に対して再編成されたVHドメインの配列アラインメントを示す。図12に示した配列は、異なるマウス重鎖V、DおよびJ遺伝子セグメントおよびCH1とヒンジ領域が欠如しているマウスIgG1が関与する特殊な再編成を示す。内因性IgG1定常領域遺伝子のCH1とヒンジ領域の欠失についてホモ接合性のマウスは、CH1とヒンジ領域が欠如しているマウスIgG1定常領域由来のCH2−CH3領域に作動可能に連結されたマウスVHドメインを含む重鎖の産生能を有し、CH1とヒンジ領域が欠如しており、軽鎖を欠いているマウスIgG1重鎖を発現するB細胞の生成能を有した(図8および9)。このような再編成は、該改変遺伝子座により、このようなマウスにおいて、多数の個々のB細胞内でマウス重鎖遺伝子セグメントが独立して再編成され得、通常ラクダに見られるものと類似した重鎖抗体が生成されたことを示す。さらに、この実施例は、内因性IgG1のCH1とヒンジ領域の欠失により、該遺伝子座が作動不可能にならなかった、または該改変IgG1定常領域が関与する組換えは抑制されなかったことを示す。このようなマウスでは、B細胞発生になんら検出可能な欠陥を有することなく内因性レパートリーの一部として、CH1とヒンジ領域が欠如しているIgG1を含む機能性の重鎖抗体が作製された。
【0161】
B.IgG1−CH1欠失についてホモ接合性のマウス
同様の様式で、IgG1 ΔCH1改変についてホモ接合性のマウスを、V−D−J組換えおよびヒト重鎖遺伝子の使用について、脾細胞から単離されたRNAを用いて逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって解析した。
【0162】
簡単には、脾臓を2匹のホモ接合性IgG1−ΔCH1マウスから、この実施例のセクションAにおいて上記のようにして単離した。CD19 B細胞を、磁気細胞分取(MACS,Miltenyi Biotec)を用いてプールされた脾細胞から単離した。分取したCD19 B細胞から、Qiagen ALLPREP(商標) DNA/RNAミニキット(Qiagen)を用いてRNAを抽出した。第1鎖cDNAを、SUPERSCRIPT(商標) III逆転写酵素およびOligo(dT)20プライマー(Invitrogen)を用いて合成した。次いで、このcDNAを、ヒト重鎖可変リーダー配列に結合するように設計された3’マウスIgG1ヒンジ特異的プライマーおよび5’縮重プライマーを用いて行なうPCR用の鋳型として使用した(表3)。PCR産物をpCR2.1 TOPO(商標) TAベクター(Invitrogen)内にクローニングし、M13フォワードおよびM13リバースプライマー(この実施例のセクションAにおいて上記)を用いて配列決定した。
【0163】
【表3】

IgG1 ΔCH1についてホモ接合性のマウスにおける重鎖遺伝子の使用を調べるため、28個のRT−PCRクローンを配列決定した。これらのクローンにおいて、ヒトV、DおよびJ遺伝子セグメントの特殊な7つの再編成が観察された(表4)。
【0164】
【表4】

図13は、表4に示した7つの再編成の、IgG1定常領域のヒンジ−CH2−CH3に対して再編成されたVHドメインの配列アラインメントを示す。図13に示す配列は、異なるヒト重鎖V、DおよびJ遺伝子セグメントおよびCH1領域が欠如しているマウスIgG1が関与する特殊な再編成を示す。内因性IgG1定常領域遺伝子のCH1領域の欠失についてホモ接合性のマウスは、CH1が欠如しているマウスIgG1定常領域由来のヒンジ−CH2−CH3領域に作動可能に連結されたヒトVHドメインを含む重鎖の産生能を有し、CH1領域が欠如しており、軽鎖を欠いているマウスIgG1重鎖マウスIgG1重鎖を発現するB細胞の生成能を有した(データ表示せず)。このような再編成は、該改変遺伝子座(IgG1 ΔCH1−ΔヒンジおよびIgG1 ΔCH1)の一方または両方いずれかにより、このようなマウスにおいて、多数の個々のB細胞内で重鎖遺伝子セグメント(マウスおよびヒト)が独立して再編成され得、通常ラクダに見られるものと類似した重鎖抗体が生成されたことを示す。さらに、この実施例は、内因性IgG1 CH1の欠失により、該遺伝子座が作動不可能にならなかった、またはヒト重鎖V、DおよびJ遺伝子セグメントならびに改変マウスIgG1定常領域が関与する組換えは抑制されなかったことを示す。このようなマウスでは、B細胞発生になんら検出可能な欠陥を有することなく内因性レパートリーの一部として、ヒト重鎖VドメインおよびCH1が欠如しているマウスIgG1を含む機能性の重鎖抗体が作製された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生殖系列遺伝子改変を含むマウスであって、該生殖系列遺伝子改変は、IgGのCH1をコードしているヌクレオチド配列の欠失を含み、該マウスは、
CH1ドメインを含むIgMを発現し、
CH1ドメインおよび軽鎖を欠いているIgG抗体を血清中で発現し、かつ
CH1ドメインをコードしている配列を含むIgG mRNAを発現できない、
マウス。
【請求項2】
前記CH1をコードしている前記ヌクレオチド配列の前記欠失が、IgG1遺伝子内に存在している、請求項1に記載のマウス。
【請求項3】
機能性免疫グロブリン軽鎖遺伝子の遺伝子座を含む、請求項1に記載のマウス。
【請求項4】
軽鎖を欠いている前記IgG抗体が、ヒト可変ドメインと、CH1ドメインを欠いているマウス定常ドメインとを含む、請求項1に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項5】
軽鎖を欠いている前記IgG抗体が、マウス可変ドメインと、CH1ドメインを欠いているマウス定常ドメインとを含む、請求項1に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項6】
IgG2a遺伝子の欠失を含む、請求項1に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項7】
IgG2b遺伝子の欠失を含む、請求項1に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項8】
IgG2a遺伝子の欠失およびIgG2b遺伝子の欠失を含む、請求項1に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項9】
IgG2a遺伝子の欠失およびIgG2b遺伝子の欠失を含む、請求項1に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項10】
1つ以上の内因性マウス重鎖可変領域遺伝子セグメントの1つ以上のヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントでの置き換えを含む、請求項1に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項11】
前記1つ以上のヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントがヒトVH1ファミリー遺伝子セグメントである、請求項10に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項12】
前記VH1ファミリー遺伝子セグメントが、ヒトVH遺伝子セグメント1−8、1−18、および1−69のFR1、FR2およびFR3遺伝子セグメントと少なくとも90%同一であるFR1、FR2およびFR3領域を含む、請求項11に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項13】
さらに、ヒトD遺伝子セグメントおよびヒトJ遺伝子セグメントを含む、請求項11に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項14】
請求項11に記載の遺伝子改変マウスであって、該マウスが、FR4をコードしている再編成免疫グロブリン遺伝子を含み、該FR4が、ヒトD1−7/J4、D3−16/J6、D4−4/J4、D6−6/J4、D6−6/J2、D6−7/J4、またはD6−19/J6によってコードされたFR4と少なくとも90%同一である、遺伝子改変マウス。
【請求項15】
1つ以上の内因性マウス重鎖可変領域遺伝子セグメントの1つ以上のラクダ化ヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントでの置き換えを含む、請求項1に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項16】
マウスにおいて体細胞変異重鎖抗体を作製するための方法であって、該方法は、
a.マウスを抗原で免疫化する工程であって、ここで、該マウスは、再編成されていないヒトまたはマウス重鎖免疫グロブリンの可変領域遺伝子セグメントを含み、機能性IgG CH1ドメインをコードする少なくとも1つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を欠いており、かつCH1ドメインを含むIgMを発現する、工程;
b.該マウスを、該抗原に対する免疫応答が起こるのに充分な条件下で維持する工程;および
c.該マウスから体細胞変異重鎖抗体を単離する工程であって、ここで、該体細胞変異重鎖抗体は、該ヒトまたはマウス重鎖免疫グロブリンの可変領域遺伝子セグメントに由来する可変ドメインを含み、かつ該抗原に特異的に結合する、工程
を含む、方法。
【請求項17】
V、DおよびJ遺伝子セグメントの全部または実質的に全部の1つ以上のヒトV、ヒトDおよびヒトJ遺伝子セグメントでの置き換えを含む遺伝子改変マウスであって、該1つ以上のヒトV、DおよびJ遺伝子セグメントは、内因性マウス遺伝子座でマウス重鎖定常領域遺伝子の遺伝子座に作動可能に連結されており、該マウス重鎖定常領域遺伝子の遺伝子座は、完全長IgM遺伝子、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3およびその組合せから選択されるIgG遺伝子内のCH1ドメインをコードしているヌクレオチド配列内に欠失を含むIgG遺伝子を含み、該マウスは、CH1領域を有するIgMを含むB細胞受容体を発現し、該IgMは、関連λまたはκ軽鎖と会合している重鎖を含む、遺伝子改変マウス。
【請求項18】
前記1つ以上のヒトV、DおよびJ遺伝子セグメントが、VH1、VH3、VH4およびその組合せから選択される可変領域ファミリー由来のヒト遺伝子セグメントを含む、請求項17に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項19】
前記1つ以上のヒト遺伝子セグメントが、1−2、1−8、1−18、1−46、1−69、3−21、3−72、4−59およびその組合せから選択される、請求項18に記載の遺伝子改変マウス。
【請求項20】
前記1つ以上のヒトV、DおよびJ遺伝子セグメントが、D1−7、D3−16、D4−4、D6−6、D6−7、D6−19、J2、J3、J4およびその組合せを含む、請求項18に記載の遺伝子改変マウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2013−513388(P2013−513388A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543304(P2012−543304)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/059845
【国際公開番号】WO2011/072204
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(597160510)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】