野球ボール
【課題】硬式野球ボールと同様の衝突後の軌跡を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の衝撃力を得ることができる野球ボールを提供する。
【解決手段】野球ボール1は、内芯2と、内芯2の外周面を覆う外層3とを備えている。内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。
【解決手段】野球ボール1は、内芯2と、内芯2の外周面を覆う外層3とを備えている。内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野球ボールに関し、特に中実の野球ボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
野球ボールには、人体に当たった際の衝撃力を小さくして安全性を高めることが求められている。たとえば、リトルリーグでは低年齢の子供が競技を行う際に、安全性を高めるために硬式野球ボールの硬さおよび反発係数が定められている。リトルリーグの規程では、野球ボールの硬さ(圧縮硬さ)は、野球ボールを6.35mm圧縮したときの荷重が45ポンド(lbs)(200.17N)未満と定められている。また、野球ボールの反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.45〜0.55と定められている。
【0003】
通常の硬式野球ボールはゴムの中芯の上に毛糸が球状に巻かれ、さらにその上に綿糸が表面が平滑になるように巻かれ、その上から牛革が被されて縫糸で縫合されている。なお、この通常の硬式野球ボールとは異なる構造を有する硬式野球ボールが提案されている。たとえば、特開2002−210043号公報(特許文献1)には、ゴムの中芯を発泡ウレタンの中間芯で包んだ硬式野球ボールが提案されている。
【0004】
また野球ボールとして硬式野球ボールのほかに軟式野球ボールが使用されている。軟式野球ボールでは硬式野球ボールと比べて衝撃力が小さくなっている。そのため軟式野球ボールでは硬式野球ボールと比べて安全性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−210043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軟式野球ボールでは、硬式野球ボールと比べて衝撃力を小さくしているため安全性が高い。しかし、軟式野球ボールでは硬式野球ボールと比べてバットおよびグラウンドとの衝突後の挙動が大きく異なる。
【0007】
また、硬式野球ボールの圧縮硬さが軟式野球ボールの圧縮硬さより大きいため、軟式野球ボールの使用者は、硬式野球ボールを握ったときに軟式野球ボールより硬く感じる。このため、軟式野球ボールの使用者は不安感を覚えることがある。
【0008】
上記公報の硬式野球ボールでは、ゴムの中芯が発泡ウレタンの中間芯で包まれているが、打球感が通常の硬式野球ボールとほとんど変わらないように形成されている。そのため、上記公報の硬式野球ボールは通常の硬式野球ボールと同等の衝撃力を有している。したがって、上記公報の硬式野球ボールでは通常の硬式野球ボールより衝撃力を小さくして安全性を高めることは想定されていない。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる野球ボールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等が鋭意検討したところ、軟式野球ボールと硬式野球ボールとでは衝突による変形の度合いが異なるため、衝突後の挙動が大きく異なることを見出した。そして、この知見に基づいて、野球ボールを中実にして、さらに内芯の物性を調整することにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は見出した。
【0011】
本発明者等は、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)が野球ボールの衝突後の挙動に影響することを見出した。つまり、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)が低い場合、衝突により大きく変形するため、野球ボールの衝突後の挙動が硬式野球ボールと大きく異なる。そこで、本発明者等は、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)を調整することで硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動が得られることを見出した。
【0012】
本発明者等は、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)が圧縮硬さと相関があることを見出した。軟式野球ボールの圧縮硬さは30lbs未満である。したがって、圧縮硬さが30lbs以上の場合には、軟式野球ボールの使用者は、野球ボールを握ったときに、軟式野球ボールより硬く感じる。このため、軟式野球ボールの使用者は不安感を覚えることがある。軟式野球ボールと同等の圧縮硬さにするためには、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)は80以下である必要がある。したがって、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)を80以下とすることで軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを見出した。本発明の野球ボールでは、軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることで、使用者が感じる不安感を抑制することができる。
【0013】
また、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)が60未満では野球ボールが丸くなるように外層の皮革を縫うことができない。この場合には、野球ボールとして正常に機能しない。そのため、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)は60以上とする。
【0014】
本発明者等は内芯の弾性率が衝撃力に影響することを見出した。そして、本発明者等は内芯の弾性率が衝撃力と相関があることを見出した。内芯の弾性率が1MPa以下であれば軟式野球ボールと同程度の衝撃力80G以下となることを発明者等は見出した。
【0015】
また内芯の弾性率が低いと、野球ボールの変形からの回復が遅くなるため、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができない。そこで、発明者等は、内芯の弾性率が0.6MPa以上であれば野球ボールの変形からの回復が早くなることを見出した。
【0016】
したがって、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)と、弾性率とを調整することにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は知得した。
【0017】
すなわち、本発明の野球ボールは、内芯と、内芯の外周面を覆う外層とを備えている。内芯は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。これにより、本発明の野球ボールは、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【0018】
上記の野球ボールでは、好ましくは、内芯は損失係数(tanδ)が0.15以上0.31以下である。
【0019】
本発明者等は内芯の損失係数(tanδ)が野球ボールの衝突後の軌跡(飛び)に影響することを見出した。ここで、損失係数(tanδ)は、複素弾性率の虚数部分である損失弾性率と複素弾性率の実数部分である貯蔵弾性率との比である。複素弾性率は粘弾性材料に正弦波振動を加えた場合の動的応力と動的ひずみとの差である。
【0020】
また本発明者等は内芯の損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることを見出した。そして、内芯の反発係数が野球ボールの衝突後の軌跡(飛び)に影響することを見出した。内芯の損失係数(tanδ)が0.31以下であれば、内芯の反発係数が硬式野球ボールと同等の0.5以上となる。このため、硬式野球ボールと同等の衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0021】
一方、内芯の反発係数が高すぎると衝突後の軌跡(飛び)が硬式野球ボールに比べて異なる。具体的には内芯の損失係数(tanδ)が0.15未満の場合には内芯の反発係数が高くなり衝突後の軌跡(飛び)が硬式野球ボールと異なる。
【0022】
したがって、内芯の損失係数(tanδ)を0.15以上0.31以下にすることにより、野球ボールの内芯の反発係数を硬式野球ボールと同等にすることができる。これにより、硬式野球ボールと同様の衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0023】
上記の野球ボールでは、好ましくは、野球ボールが26.82m/sの速度で模型に衝突した際の衝撃力が80G以下である。これにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得ることができる。そのため、軟式野球ボールと同等の安全性が得られる。野球ボールの外層には一般的に天然皮革、人工皮革、合成皮革、布帛やニット素材などの柔らかい材料が使われるので、内芯に外層を装着した野球ボールでも、軟式野球ボールと同程度の衝撃力を得ることができる。
【0024】
上記の野球ボールは、好ましくは、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上0.55以下である。これにより、野球ボールはリトルリーグの規定に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。そして、反発係数が高い方が硬式野球ボールに近い衝突後の軌跡(飛び)を得ることができるため、リトルリーグの規程を満たした上で、さらに硬式野球ボールに近い衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0025】
上記の野球ボールは、好ましくは、野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重が16lbs以上30lbs(133.4466N)未満である。これにより、野球ボールはリトルリーグの規定に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。
【0026】
本発明の他の野球ボールは、内芯と、内芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層と、糸巻層の外周面を覆う外層とを備えている。内芯は、表面硬度がアスカーC硬度で71以上75以下であり、かつ弾性率が0.9MPa以上1.0MPa以下であり、かつ損失係数(tanδ)が0.25以上0.27以下である。内芯の材料は発泡ウレタンである。内芯の外径は70.7mmである。外層の外径は73.2mmである。
【0027】
好ましくは、内芯の表面硬度がアスカーC硬度で73であり、弾性率が0.95MPaであり、かつ損失係数(tanδ)が0.26である。
【0028】
これにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は知得した。このため、本発明の他の野球ボールでは、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の野球ボールによれば、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態における野球ボールの概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における野球ボールの変形例の概略断面図である。
【図3】実施例における比較例および本発明例の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図4】実施例における比較例および本発明例の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図5】実施例における比較例の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図6】実施例における比較例の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図7】実施例における比較例および本発明例の圧縮硬さと表面硬度との関係を示す図である。
【図8】実施例における比較例および本発明例の反発係数と表面硬度との関係を示す図である。
【図9】実施例における比較例および本発明例の衝撃力と弾性率との関係を示す図である。
【図10】実施例における比較例および本発明例の衝撃力と表面硬度との関係を示す図である。
【図11】実施例における比較例および本発明例の反発係数とtanδとの関係を示す図である。
【図12】実施例における比較例Aの衝突時の状態を示す図である。
【図13】実施例における比較例Aの衝突から復元した状態を示す図である。
【図14】実施例における比較例Iの衝突時の状態を示す図である。
【図15】実施例における比較例Iの衝突から復元した状態を示す図である。
【図16】実施例における本発明例Cの衝突時の状態を示す図である。
【図17】実施例における本発明例Cの衝突から復元した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
最初に本発明の一実施の形態の野球ボールの構成について説明する。
【0032】
図1を参照して、本発明の一実施の形態の野球ボール1は、内芯2と、外層3とを主に有している。野球ボール1の中心部には内芯2が配置されている。内芯2の外周面が外層3で覆われている。内芯2の材料は、たとえば発泡ウレタンである。外層3は、たとえば皮革と、この皮革を縫合する縫糸とを主に有している。この場合、内芯2の外周面に皮革が被せられ、この皮革が縫合されることにより外層3が構成されている。
【0033】
内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。
【0034】
また、内芯2は、損失係数(tanδ)が0.15以上0.31以下であってもよい。
また、野球ボール1は、内芯2が26.82m/sの速度で模型に衝突した際の衝撃力が80G以下であってもよい。
【0035】
また、野球ボール1は、野球ボール1が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上0.55以下であってもよい。なお、外層3の影響により野球ボール1の反発係数の値は若干下がる。具体的には反発係数の値は、0.01〜0.02の範囲で0.015程度下がる。そのため、野球ボール1の内芯2が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の野球ボール1の内芯2の反発係数としては、0.515以上0.570以下であってもよい。
【0036】
また、野球ボール1は、野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が16lbs以上30lbs未満であってもよい。
【0037】
図2を参照して、本発明の一実施の形態の変形例の野球ボール1は、内芯2の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層4を有していてもよい。糸巻層4は、たとえば綿糸が内芯2の外周面を覆うように巻かれ、その表面が平滑になるように巻かれている。なお、糸巻層4が巻かれた状態では、糸が巻かれる際の張力で内芯2が少し小さくなるため糸が巻かれた後の外径は、糸が巻かれていない場合の内芯2の外径とほとんど変わらない。糸巻層の4外周面が外層3で覆われている。
【0038】
本発明の一実施の形態の変形例の野球ボール1では、内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で71以上75以下であり、かつ弾性率が0.9MPa以上1.0MPa以下であり、かつ損失係数(tanδ)が0.25以上0.27以下である。内芯2の材料は発泡ウレタンである。内芯2の外径は70.7mmである。外層3の外径は73.2mmである。
【0039】
さらに、内芯2の表面硬度がアスカーC硬度で73であり、弾性率が0.95MPaであり、かつ損失係数(tanδ)が0.26であることが好ましい。
【0040】
なお、外層3の外径が野球ボール1の外径に該当する。また、内芯2の外径70.7mm、外層3の外径73.2mmなどの各寸法は寸法公差±0.2mmを有している。以下、各寸法については同様に寸法公差を有している。また、内芯2に外層3として皮革が貼られて縫糸で縫われた状態での野球ボール1の外周はたとえば230mmである。
【0041】
また、本発明の一実施の形態の野球ボールの内芯の材料についてさらに詳しく説明する。たとえばゴム、樹脂、エラストマーもしくはそれらの混合体の発泡品が使用可能である。ゴムとしては、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、天然ゴムもしくはそれらの発泡体などが使用可能である。樹脂としては、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニル共重合体などを含むオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アイオノマー樹脂もしくはそれらの発泡体などが使用可能である。エラストマーとしては、ウレタン系エラストマー、スチレン・ブタジエン・スチレンやスチレン・イソプレン・スチレン、またそれらに水添したものなどを含むスチレン系エラストマー、ポリエチレンやポリプロピレンとジエン系のゴムなどで構成されるオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、塩素系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマーもしくはそれらの発泡体などが使用可能である。
【0042】
次に、本発明の一実施の形態の野球ボールの製造方法について説明する。
ポリウレタンの発泡品で内心を製造する場合、内芯を成形する金型内に、ポリオール、イソシアネート、触媒、硬化剤、発泡剤を混合した液体が所定量注入されて、ポリオールとイソシアネートが反応してポリウレタンになるまで所定時間放置される。完全に反応して内芯の形状が形成された後、金型が開かれて内心が取り出される。
【0043】
次に、本発明の一実施の形態の野球ボールの作用効果について説明する。
本発明者等が鋭意検討したところ、軟式野球ボールと硬式野球ボールとでは衝突による変形の度合いが異なるため、衝突後の挙動が大きく異なることを見出した。続いてこの点についてさらに説明する。
【0044】
軟式野球ボールは中芯を有しておらず中空に形成されている。一方、硬式野球ボールは中実に形成されている。軟式野球ボールは中空に形成されているため、バットおよびグラウンドとの衝突時に非常に大きな変形が生じる。一方、硬式野球ボールは中実に形成されているため、硬式野球ボールの衝突時の変形は軟式野球ボールの衝突時の変形に比べて小さい。このように、軟式野球ボールと硬式野球ボールとでは衝突による変形の度合いが異なる。これにより、軟式野球ボールと硬式野球ボールとでは衝突後の挙動が大きく異なる。
【0045】
そして、この知見に基づいて、野球ボール1を中実にして、さらに内芯2の物性を調整することにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は見出した。
【0046】
本発明者等は、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)が野球ボール1の衝突後の挙動に影響することを見出した。つまり、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)が低い場合、衝突により大きく変形するため、野球ボール1の衝突後の挙動が硬式野球ボールと大きく異なる。そこで、本発明者等は、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)を調整することで硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動が得られることを見出した。
【0047】
本発明者等は、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)が圧縮硬さと相関があることを見出した。軟式野球ボールの圧縮硬さは30lbs未満である。したがって、圧縮硬さが30lbs以上の場合には、軟式野球ボールの使用者は、野球ボール1を握ったときに、軟式野球ボールより硬く感じる。このため、軟式野球ボールの使用者は不安感を覚えることがある。軟式野球ボールと同等の圧縮硬さにするためには、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)は80以下である必要がある。したがって、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)を80以下とすることで軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを見出した。本発明の一実施の形態の野球ボール1では、軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることで、使用者が感じる不安感を抑制することができる。
【0048】
また、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)が60未満では野球ボール1が丸くなるように外層3の皮革を縫うことができない。この場合には、野球ボール1として正常に機能しない。そのため、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)は60以上とする。
【0049】
本発明者等は内芯2の弾性率が衝撃力に影響することを見出した。そして、本発明者等は内芯2の弾性率が衝撃力と相関があることを見出した。内芯2の弾性率が1MPa以下であれば軟式野球ボールと同程度の衝撃力である80G以下となることを発明者等は見出した。
【0050】
また、内芯2の弾性率が低いと、野球ボールの変形からの回復が遅くなるため、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができない。そこで、発明者等は、内芯2の弾性率が0.6MPa以上であれば野球ボールの変形からの回復が早くなることを見出した。
【0051】
したがって、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)と、弾性率とを調整することにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は知得した。
【0052】
すなわち、本発明の一実施の形態の野球ボール1は、内芯2と、内芯2の外周面を覆う外層3とを備えている。内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。これにより、本発明の一実施の形態の野球ボール1は、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【0053】
本発明の一実施の形態の野球ボール1では、内芯2は損失係数(tanδ)が0.15以上0.31以下であってもよい。
【0054】
本発明者等は内芯2の損失係数(tanδ)が野球ボール1の衝突後の軌跡(飛び)に影響することを見出した。また本発明者等は内芯2の損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることを見出した。そして、内芯2の反発係数が野球ボール1の衝突後の軌跡(飛び)に影響することを見出した。内芯2の損失係数(tanδ)が0.31以下であれば、内芯2の反発係数が硬式野球ボールと同等の0.5以上となる。このため、硬式野球ボールと同等の衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0055】
一方、内芯2の反発係数が高すぎると衝突後の軌跡(飛び)が硬式野球ボールに比べて異なる。具体的には内芯2の損失係数(tanδ)が0.15未満の場合には内芯2の反発係数が高くなり衝突後の軌跡(飛び)が硬式野球ボールと異なる。
【0056】
したがって、内芯2の損失係数(tanδ)を0.15以上0.31以下にすることにより、野球ボール1の内芯2の反発係数を硬式野球ボールと同等にすることができる。これにより、硬式野球ボールと同様の衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0057】
本発明の一実施の形態の野球ボールでは、野球ボール2が26.82m/sの速度で模型に衝突した際の衝撃力が80G以下であってもよい。これにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得ることができる。そのため、軟式野球ボールと同等の安全性が得られる。野球ボール1の外層3には一般的に天然皮革、人工皮革、合成皮革、布帛やニット素材などの柔らかい材料が使われるので、内芯2に外層3を装着した野球ボール1でも、軟式野球ボールと同程度の衝撃力を得ることができる。
【0058】
本発明の一実施の形態の野球ボールは、野球ボール1が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上0.55以下であってもよい。これにより、野球ボール1はリトルリーグの規定に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボール1を提供することができる。そして、反発係数が高い方が硬式野球ボールに近い衝突後の軌跡(飛び)を得ることができるため、リトルリーグの規程を満たした上で、さらに硬式野球ボールに近い衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0059】
本発明の一実施の形態の野球ボールは、野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が16lbs以上30lbs(133.4466N)未満であってもよい。これにより、野球ボール1はリトルリーグの規定に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。
【0060】
本発明の一実施の形態の変形例の野球ボールは、内芯2と、内芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層4と、糸巻層4の外周面を覆う外層3とを備えている。内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で71以上75以下であり、かつ弾性率が0.9MPa以上1.0MPa以下であり、かつ損失係数(tanδ)が0.25以上0.27以下である。内芯2の材料は発泡ウレタンである。内芯2の外径は70.7mmである。外層3の外径は73.2mmである。
【0061】
さらに、内芯2の表面硬度がアスカーC硬度で73であり、弾性率が0.95MPaであり、かつ損失係数(tanδ)が0.26であることが好ましい。
【0062】
これにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は知得した。このため、本発明の一実施の形態の変形例の野球ボール1では、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、上記と同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0064】
表1、図3および図4を参照して、比較例A、Bは本発明に対する比較例である。本発明例C、Dは本発明の実施例である。図3の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示している。図4の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示している。
【0065】
【表1】
【0066】
比較例A、Bは軟式野球ボールである。本発明例C、Dは本発明の野球ボールである。本発明例C、Dは、図1に示されるように内芯2と内芯2の外周面を覆う外層3とを備えた構造を有している。本発明例C、Dの内芯2の材料は、発泡ウレタンである。本発明例C、Dは発泡ウレタンの物性が互いに異なっている。本発明例C、Dの内芯2の外径は70.7mmである。本発明例C、Dの外層3の外径は73.2mmである。
【0067】
表1の各項目について説明する。圧縮硬さ(lbs)は、野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重である。また、反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数である。また、衝撃力(G)は、野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の衝撃力である。以下、これらの各項目は各表、各図において同様である。
【0068】
圧縮硬さ(lbs)については、測定機器として株式会社島津製作所製AG−5000Dを使用して、ASTM(American Society for Testing and Materials) F 1888 "Test Method for Compression-Displacement of Baseballs and Softballs1"に準拠した試験方法で測定した。
【0069】
反発係数については、測定機器としてライトゲートを使用して、ASTM F 1887 "Standard Test Method for Measuring the Coefficient of restitution (COR) of Baseballs and Softballs"に準拠した試験方法で測定した。ライトゲートとは、ライトがでている箱をボールが通過すると感知し、速度を算出する計測器である。反発係数は、鉄板衝突後のボールの速度を鉄板衝突前のボールの速度で除した値である。
【0070】
衝撃力(G)については、財団法人製品安全協会の”野球用ヘルメットの認定基準及び基準確認方法”に基づいた試験機を使用して、人頭模型に装着された加速度計によりボールを模型に衝突させたときの加速度を測定して衝撃力を計測した。
【0071】
表1、図3および図4を参照して、圧縮硬さ(lbs)について、本発明例Cは比較例A、Bと同等の値となった。また、圧縮硬さ(lbs)について、本発明例Dは比較例A、Bより小さい値となった。
【0072】
反発係数について比較例A、Bと比べて本発明例C、Dは大きな値となった。衝撃力(G)について比較例A、Bと比べて本発明例C、Dは近い値となった。本発明例C、Dは、反発係数が0.509〜0.519となった。また、本発明例C、Dは、衝撃力(G)が71.0〜73.0となった。
【0073】
表2、図5および図6を参照して、比較例A、Bに加えて、比較例E〜Hは本発明に対する比較例である。図5の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示している。図6の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示している。比較例E〜Hは、図1に示されるように内芯2と内芯2の外周面を覆う外層3とを備えた構造を有している。比較例E〜Hの内芯の材料は、発泡ウレタンである。比較例E〜Fは発泡ウレタンの物性が互いに異なっている。比較例E〜Hの内芯2の外径は70.7mmである。比較例E〜Hの外層3の外径は73.2mmである。
【0074】
【表2】
【0075】
圧縮硬さ(lbs)について比較例A、Bと比べて比較例E、Fは同等の値となり、比較例G、Hは大きな値となった。また、比較例E〜Hでは圧縮硬さ(lbs)と比較して衝撃力(G)の値が変化しにくいことがわかった。より具体的には圧縮硬さ(lbs)の下がる割合と比較して衝撃力(G)の下がる割合が小さいことがわかった。反発係数について比較例A、Bと比べて比較例E〜Hは同等の値となった。衝撃力(G)について比較例A、Bと比べて比較例E〜Hは非常に大きな値となった。
【0076】
表1および表2より、図1に示される野球ボール1の構造では、内芯2の材料である発泡ウレタンの物性により、圧縮硬さ(lbs)、反発係数、衝撃力(G)のそれぞれが大きく変動することがわかった。比較例E〜Hでは、軟式野球ボールである比較例A、Bより衝撃力が非常に大きくなることがわかった。
【0077】
次に、内芯2に使用する材料の特性を特定した。
まず、内芯2に使用する材料の特性を求めるために、落下衝撃によるSS曲線と粘弾性試験による粘弾性値を用いてCAE(Computer Aided Engineering)解析を行った。
【0078】
CAE解析では、入力するパラメータとして、オグデン係数(弾性)と緩和関数(粘性)とを用いた。パラメータの算出のために、落錘試験と動的粘弾性試験とを用いた。落錘試験により弾性を測定し、動的粘弾性試験により粘性を測定した。
【0079】
落錘試験は、吉田精機株式会社製の緩衝材用衝撃試験機CST−180を用いて実施した。試験方法として、まず厚さ20mmの試料を用意した。次に外径45mmで一定の重さである錘を一定の高さより試料に対して落下させて、加速度計により変位−加速度曲線を測定した。そして、変位−加速度曲線より応力−ひずみ曲線を算出した。この応力−ひずみ曲線より式(1)に基づいてひずみエネルギー関数の係数μ、αを算出した。μはせん断弾性率であり、αはべき指数である。また式(1)のλは伸長比であり、Kは体積弾性係数であり、Jは体積変化率である。
【0080】
【数1】
【0081】
μ、αを用いて式(2)に基づいて弾性率Eを算出した。より具体的には応力−ひずみ曲線における初期弾性率を算出した。
【0082】
【数2】
【0083】
動的粘弾性試験は、UBM製Rheogel−E4000を用いて実施した。試験方法として、正弦波振動のひずみから応力を計測した。また入力ひずみと応答応力の位相差を計測することにより温度特性、周波数特性を計測した。
【0084】
そして、周波数温度依存性モードで周波数1、2、4、8、16Hzで強制振動させ2℃/minで昇温させたときの20℃での駆動部と応答部の振幅の比と位相差より複素弾性率を計測した。この計測した結果からメカニカルデザイン社製カーブフィットプログラムにより式(3)に基づいて緩和関数の係数を算出した。式(3)のgは緩和関数であり、γは緩和せん断弾性率であり、τは緩和時間である。
【0085】
【数3】
【0086】
ここで複素弾性率について説明する。まず、弾性率は式(4)に示すように応力σとひずみεとの比(フックの法則)である。複素弾性率は、変形時および回復時に熱として消失したエネルギーを考慮に入れた材料の動的物性値である。式(5)に示すように複素弾性率E*は貯蔵弾性率E’と損失弾性率E"の和である。
【0087】
【数4】
【0088】
【数5】
【0089】
表3を参照して、比較例A、Bは表1および表2と同じものである。比較例I〜L、O、Q、S〜Vは本発明に対する比較例である。本発明例M〜N、P、Rは本発明の実施例である。反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数を実際に測定した値である。衝撃力(G)は、野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の実測値である。弾性率は上記弾性率Eの値である。またtanδ(損失係数)は、上記複素弾性率E*の貯蔵弾性率E’と損失弾性率E"との比である。表面硬度(アスカーC)は、SRIS0101(日本ゴム協会標準規格)にある膨張ゴム用スプリング式硬さ試験機(アスカーC型)で測定した硬度のことである。圧縮硬さは上述と同様に測定された値である。
【0090】
【表3】
【0091】
図7を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、表面硬度(アスカーC)が圧縮硬さ(lbs)と相関があることがわかった。図7の縦軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示し、横軸は表面硬度(アスカーC)の大きさを示している。表面硬度(アスカーC)が80以下では、内芯2の圧縮硬さが30lbs以下になることがわかった。
【0092】
図8を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、表面硬度(アスカーC)と反発係数は相関がないことがわかった。図8の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は表面硬度(アスカーC)の大きさを示している。
【0093】
図9を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、弾性率(MPa)が衝撃力(G)と相関があることがわかった。図9の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は弾性率(MPa)の大きさを示している。弾性率(MPa)が1.0MPa以下では、衝撃力(G)が80G以下になることがわかった。
【0094】
図10を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、表面硬度(アスカーC)と衝撃力(G)は相関がないことがわかった。図10の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は表面硬度(アスカーC)の大きさを示している。
【0095】
図11を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることがわかった。図11の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は損失係数(tanδ)の大きさを示している。損失係数(tanδ)が0.31以下では、反発係数が0.5以上となることがわかった。そのため、損失係数(tanδ)が0.31以下であれば、反発係数が硬式野球ボールと同等の0.5以上となることがわかった。
【0096】
また、損失係数(tanδ)が0.15未満では、反発係数が0.6を超えることがわかった。反発係数が高くなると衝突後の軌跡が硬式野球ボールと異なる。そのため、損失係数(tanδ)が0.15未満では、反発係数が高くなり、衝突後の軌跡が硬式野球ボールと異なることがわかった。
【0097】
次に、比較例A、比較例Iおよび本発明例Cを用いて、衝突時の変形と衝突後の復元とについて説明する。
【0098】
図12を参照して、比較例Aの軟式野球ボール11が模型10に衝突した状態では、比較例Aの軟式野球ボール11は大きく変形している。つまり、比較例Aの軟式野球ボール11では衝突時の変形が大きいことがわかった。
【0099】
図13を参照して、比較例Aの軟式野球ボール11が模型10に衝突後に復元し始めた状態では、比較例Aの軟式野球ボール11はかなり変形している。つまり、比較例Aの軟式野球ボール11は衝突後すぐには丸い状態には回復しないことがわかった。
【0100】
図14を参照して、比較例Iの野球ボール1が模型10に衝突した状態では、比較例Iの野球ボール1も変形している。しかし、比較例Iの野球ボール1の変形は、比較例Aの軟式野球ボール11の変形に比べて小さい。つまり、比較例Iの野球ボール1は、比較例Aの軟式野球ボール11に比べて衝突時の変形が小さいことがわかった。この理由は比較例Iの野球ボール1は、中実に形成されているため、衝突時の変形が小さいためであると考えられる。
【0101】
図15を参照して、比較例Iの野球ボール1が模型10に衝突後に復元し始めた状態では、比較例Iの野球ボール1も変形している。つまり、比較例Iの野球ボール1は衝突後すぐには丸い状態には回復しないことがわかった。
【0102】
しかし、比較例Iの野球ボール1は、比較例Aの軟式野球ボール11に比べて丸い状態に近づいている。この理由は比較例Iの野球ボール1は、比較例Aの軟式野球ボール11に比べて変形が小さいため、衝突後に復元しやすいからであると考えられる。
【0103】
図16を参照して、本発明例Cの野球ボール1が模型10に衝突した状態では、本発明例Cの野球ボール1も変形している。しかし、本発明例Cの野球ボール1の変形は、比較例Iの野球ボール1の変形に比べて小さい。つまり、本発明例Cの野球ボール1は、比較例Iの野球ボール1に比べて衝突時の変形が小さいことがわかった。
【0104】
この理由は本発明例Cの野球ボール1は、表面硬度(アスカーC)が比較例Iの野球ボール1に比べて大きいため衝突時の変形が小さいためであると考えられる。また、本発明例Cの野球ボール1は、圧縮硬さが比較例Iの野球ボール1に比べて大きいため衝突時の変形が小さいためであると考えられる。
【0105】
図17を参照して、本発明例Cの野球ボール1が模型10に衝突後に復元し始めた状態では、本発明例Cの野球ボール1はほとんど変形していない。つまり、本発明例Cの野球ボール1は衝突後すぐに丸い状態に回復することがわかった。この理由は本発明例Iの野球ボール1は、比較例Iの野球ボール1に比べて変形が小さいため、衝突後に復元しやすいからであると考えられる。
【0106】
これにより、中実に形成された比較例Iの野球ボール1と本発明例Cの野球ボール1でも衝突時の変形の度合いが異なるため、衝突後の復元が異なることがわかった。衝突後の復元が異なるため、衝突後の軌跡が異なると考えられる。
【0107】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、中実の野球ボールに特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0109】
1 野球ボール、2 内芯、3 外層、4 糸巻層、10 模型、11 軟式野球ボール。
【技術分野】
【0001】
本発明は、野球ボールに関し、特に中実の野球ボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
野球ボールには、人体に当たった際の衝撃力を小さくして安全性を高めることが求められている。たとえば、リトルリーグでは低年齢の子供が競技を行う際に、安全性を高めるために硬式野球ボールの硬さおよび反発係数が定められている。リトルリーグの規程では、野球ボールの硬さ(圧縮硬さ)は、野球ボールを6.35mm圧縮したときの荷重が45ポンド(lbs)(200.17N)未満と定められている。また、野球ボールの反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.45〜0.55と定められている。
【0003】
通常の硬式野球ボールはゴムの中芯の上に毛糸が球状に巻かれ、さらにその上に綿糸が表面が平滑になるように巻かれ、その上から牛革が被されて縫糸で縫合されている。なお、この通常の硬式野球ボールとは異なる構造を有する硬式野球ボールが提案されている。たとえば、特開2002−210043号公報(特許文献1)には、ゴムの中芯を発泡ウレタンの中間芯で包んだ硬式野球ボールが提案されている。
【0004】
また野球ボールとして硬式野球ボールのほかに軟式野球ボールが使用されている。軟式野球ボールでは硬式野球ボールと比べて衝撃力が小さくなっている。そのため軟式野球ボールでは硬式野球ボールと比べて安全性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−210043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軟式野球ボールでは、硬式野球ボールと比べて衝撃力を小さくしているため安全性が高い。しかし、軟式野球ボールでは硬式野球ボールと比べてバットおよびグラウンドとの衝突後の挙動が大きく異なる。
【0007】
また、硬式野球ボールの圧縮硬さが軟式野球ボールの圧縮硬さより大きいため、軟式野球ボールの使用者は、硬式野球ボールを握ったときに軟式野球ボールより硬く感じる。このため、軟式野球ボールの使用者は不安感を覚えることがある。
【0008】
上記公報の硬式野球ボールでは、ゴムの中芯が発泡ウレタンの中間芯で包まれているが、打球感が通常の硬式野球ボールとほとんど変わらないように形成されている。そのため、上記公報の硬式野球ボールは通常の硬式野球ボールと同等の衝撃力を有している。したがって、上記公報の硬式野球ボールでは通常の硬式野球ボールより衝撃力を小さくして安全性を高めることは想定されていない。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる野球ボールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等が鋭意検討したところ、軟式野球ボールと硬式野球ボールとでは衝突による変形の度合いが異なるため、衝突後の挙動が大きく異なることを見出した。そして、この知見に基づいて、野球ボールを中実にして、さらに内芯の物性を調整することにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は見出した。
【0011】
本発明者等は、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)が野球ボールの衝突後の挙動に影響することを見出した。つまり、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)が低い場合、衝突により大きく変形するため、野球ボールの衝突後の挙動が硬式野球ボールと大きく異なる。そこで、本発明者等は、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)を調整することで硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動が得られることを見出した。
【0012】
本発明者等は、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)が圧縮硬さと相関があることを見出した。軟式野球ボールの圧縮硬さは30lbs未満である。したがって、圧縮硬さが30lbs以上の場合には、軟式野球ボールの使用者は、野球ボールを握ったときに、軟式野球ボールより硬く感じる。このため、軟式野球ボールの使用者は不安感を覚えることがある。軟式野球ボールと同等の圧縮硬さにするためには、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)は80以下である必要がある。したがって、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)を80以下とすることで軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを見出した。本発明の野球ボールでは、軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることで、使用者が感じる不安感を抑制することができる。
【0013】
また、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)が60未満では野球ボールが丸くなるように外層の皮革を縫うことができない。この場合には、野球ボールとして正常に機能しない。そのため、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)は60以上とする。
【0014】
本発明者等は内芯の弾性率が衝撃力に影響することを見出した。そして、本発明者等は内芯の弾性率が衝撃力と相関があることを見出した。内芯の弾性率が1MPa以下であれば軟式野球ボールと同程度の衝撃力80G以下となることを発明者等は見出した。
【0015】
また内芯の弾性率が低いと、野球ボールの変形からの回復が遅くなるため、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができない。そこで、発明者等は、内芯の弾性率が0.6MPa以上であれば野球ボールの変形からの回復が早くなることを見出した。
【0016】
したがって、内芯の表面硬度(アスカーC硬度)と、弾性率とを調整することにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は知得した。
【0017】
すなわち、本発明の野球ボールは、内芯と、内芯の外周面を覆う外層とを備えている。内芯は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。これにより、本発明の野球ボールは、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【0018】
上記の野球ボールでは、好ましくは、内芯は損失係数(tanδ)が0.15以上0.31以下である。
【0019】
本発明者等は内芯の損失係数(tanδ)が野球ボールの衝突後の軌跡(飛び)に影響することを見出した。ここで、損失係数(tanδ)は、複素弾性率の虚数部分である損失弾性率と複素弾性率の実数部分である貯蔵弾性率との比である。複素弾性率は粘弾性材料に正弦波振動を加えた場合の動的応力と動的ひずみとの差である。
【0020】
また本発明者等は内芯の損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることを見出した。そして、内芯の反発係数が野球ボールの衝突後の軌跡(飛び)に影響することを見出した。内芯の損失係数(tanδ)が0.31以下であれば、内芯の反発係数が硬式野球ボールと同等の0.5以上となる。このため、硬式野球ボールと同等の衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0021】
一方、内芯の反発係数が高すぎると衝突後の軌跡(飛び)が硬式野球ボールに比べて異なる。具体的には内芯の損失係数(tanδ)が0.15未満の場合には内芯の反発係数が高くなり衝突後の軌跡(飛び)が硬式野球ボールと異なる。
【0022】
したがって、内芯の損失係数(tanδ)を0.15以上0.31以下にすることにより、野球ボールの内芯の反発係数を硬式野球ボールと同等にすることができる。これにより、硬式野球ボールと同様の衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0023】
上記の野球ボールでは、好ましくは、野球ボールが26.82m/sの速度で模型に衝突した際の衝撃力が80G以下である。これにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得ることができる。そのため、軟式野球ボールと同等の安全性が得られる。野球ボールの外層には一般的に天然皮革、人工皮革、合成皮革、布帛やニット素材などの柔らかい材料が使われるので、内芯に外層を装着した野球ボールでも、軟式野球ボールと同程度の衝撃力を得ることができる。
【0024】
上記の野球ボールは、好ましくは、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上0.55以下である。これにより、野球ボールはリトルリーグの規定に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。そして、反発係数が高い方が硬式野球ボールに近い衝突後の軌跡(飛び)を得ることができるため、リトルリーグの規程を満たした上で、さらに硬式野球ボールに近い衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0025】
上記の野球ボールは、好ましくは、野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重が16lbs以上30lbs(133.4466N)未満である。これにより、野球ボールはリトルリーグの規定に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。
【0026】
本発明の他の野球ボールは、内芯と、内芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層と、糸巻層の外周面を覆う外層とを備えている。内芯は、表面硬度がアスカーC硬度で71以上75以下であり、かつ弾性率が0.9MPa以上1.0MPa以下であり、かつ損失係数(tanδ)が0.25以上0.27以下である。内芯の材料は発泡ウレタンである。内芯の外径は70.7mmである。外層の外径は73.2mmである。
【0027】
好ましくは、内芯の表面硬度がアスカーC硬度で73であり、弾性率が0.95MPaであり、かつ損失係数(tanδ)が0.26である。
【0028】
これにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は知得した。このため、本発明の他の野球ボールでは、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の野球ボールによれば、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態における野球ボールの概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における野球ボールの変形例の概略断面図である。
【図3】実施例における比較例および本発明例の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図4】実施例における比較例および本発明例の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図5】実施例における比較例の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図6】実施例における比較例の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図7】実施例における比較例および本発明例の圧縮硬さと表面硬度との関係を示す図である。
【図8】実施例における比較例および本発明例の反発係数と表面硬度との関係を示す図である。
【図9】実施例における比較例および本発明例の衝撃力と弾性率との関係を示す図である。
【図10】実施例における比較例および本発明例の衝撃力と表面硬度との関係を示す図である。
【図11】実施例における比較例および本発明例の反発係数とtanδとの関係を示す図である。
【図12】実施例における比較例Aの衝突時の状態を示す図である。
【図13】実施例における比較例Aの衝突から復元した状態を示す図である。
【図14】実施例における比較例Iの衝突時の状態を示す図である。
【図15】実施例における比較例Iの衝突から復元した状態を示す図である。
【図16】実施例における本発明例Cの衝突時の状態を示す図である。
【図17】実施例における本発明例Cの衝突から復元した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
最初に本発明の一実施の形態の野球ボールの構成について説明する。
【0032】
図1を参照して、本発明の一実施の形態の野球ボール1は、内芯2と、外層3とを主に有している。野球ボール1の中心部には内芯2が配置されている。内芯2の外周面が外層3で覆われている。内芯2の材料は、たとえば発泡ウレタンである。外層3は、たとえば皮革と、この皮革を縫合する縫糸とを主に有している。この場合、内芯2の外周面に皮革が被せられ、この皮革が縫合されることにより外層3が構成されている。
【0033】
内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。
【0034】
また、内芯2は、損失係数(tanδ)が0.15以上0.31以下であってもよい。
また、野球ボール1は、内芯2が26.82m/sの速度で模型に衝突した際の衝撃力が80G以下であってもよい。
【0035】
また、野球ボール1は、野球ボール1が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上0.55以下であってもよい。なお、外層3の影響により野球ボール1の反発係数の値は若干下がる。具体的には反発係数の値は、0.01〜0.02の範囲で0.015程度下がる。そのため、野球ボール1の内芯2が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の野球ボール1の内芯2の反発係数としては、0.515以上0.570以下であってもよい。
【0036】
また、野球ボール1は、野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が16lbs以上30lbs未満であってもよい。
【0037】
図2を参照して、本発明の一実施の形態の変形例の野球ボール1は、内芯2の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層4を有していてもよい。糸巻層4は、たとえば綿糸が内芯2の外周面を覆うように巻かれ、その表面が平滑になるように巻かれている。なお、糸巻層4が巻かれた状態では、糸が巻かれる際の張力で内芯2が少し小さくなるため糸が巻かれた後の外径は、糸が巻かれていない場合の内芯2の外径とほとんど変わらない。糸巻層の4外周面が外層3で覆われている。
【0038】
本発明の一実施の形態の変形例の野球ボール1では、内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で71以上75以下であり、かつ弾性率が0.9MPa以上1.0MPa以下であり、かつ損失係数(tanδ)が0.25以上0.27以下である。内芯2の材料は発泡ウレタンである。内芯2の外径は70.7mmである。外層3の外径は73.2mmである。
【0039】
さらに、内芯2の表面硬度がアスカーC硬度で73であり、弾性率が0.95MPaであり、かつ損失係数(tanδ)が0.26であることが好ましい。
【0040】
なお、外層3の外径が野球ボール1の外径に該当する。また、内芯2の外径70.7mm、外層3の外径73.2mmなどの各寸法は寸法公差±0.2mmを有している。以下、各寸法については同様に寸法公差を有している。また、内芯2に外層3として皮革が貼られて縫糸で縫われた状態での野球ボール1の外周はたとえば230mmである。
【0041】
また、本発明の一実施の形態の野球ボールの内芯の材料についてさらに詳しく説明する。たとえばゴム、樹脂、エラストマーもしくはそれらの混合体の発泡品が使用可能である。ゴムとしては、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、天然ゴムもしくはそれらの発泡体などが使用可能である。樹脂としては、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニル共重合体などを含むオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アイオノマー樹脂もしくはそれらの発泡体などが使用可能である。エラストマーとしては、ウレタン系エラストマー、スチレン・ブタジエン・スチレンやスチレン・イソプレン・スチレン、またそれらに水添したものなどを含むスチレン系エラストマー、ポリエチレンやポリプロピレンとジエン系のゴムなどで構成されるオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、塩素系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマーもしくはそれらの発泡体などが使用可能である。
【0042】
次に、本発明の一実施の形態の野球ボールの製造方法について説明する。
ポリウレタンの発泡品で内心を製造する場合、内芯を成形する金型内に、ポリオール、イソシアネート、触媒、硬化剤、発泡剤を混合した液体が所定量注入されて、ポリオールとイソシアネートが反応してポリウレタンになるまで所定時間放置される。完全に反応して内芯の形状が形成された後、金型が開かれて内心が取り出される。
【0043】
次に、本発明の一実施の形態の野球ボールの作用効果について説明する。
本発明者等が鋭意検討したところ、軟式野球ボールと硬式野球ボールとでは衝突による変形の度合いが異なるため、衝突後の挙動が大きく異なることを見出した。続いてこの点についてさらに説明する。
【0044】
軟式野球ボールは中芯を有しておらず中空に形成されている。一方、硬式野球ボールは中実に形成されている。軟式野球ボールは中空に形成されているため、バットおよびグラウンドとの衝突時に非常に大きな変形が生じる。一方、硬式野球ボールは中実に形成されているため、硬式野球ボールの衝突時の変形は軟式野球ボールの衝突時の変形に比べて小さい。このように、軟式野球ボールと硬式野球ボールとでは衝突による変形の度合いが異なる。これにより、軟式野球ボールと硬式野球ボールとでは衝突後の挙動が大きく異なる。
【0045】
そして、この知見に基づいて、野球ボール1を中実にして、さらに内芯2の物性を調整することにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は見出した。
【0046】
本発明者等は、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)が野球ボール1の衝突後の挙動に影響することを見出した。つまり、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)が低い場合、衝突により大きく変形するため、野球ボール1の衝突後の挙動が硬式野球ボールと大きく異なる。そこで、本発明者等は、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)を調整することで硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動が得られることを見出した。
【0047】
本発明者等は、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)が圧縮硬さと相関があることを見出した。軟式野球ボールの圧縮硬さは30lbs未満である。したがって、圧縮硬さが30lbs以上の場合には、軟式野球ボールの使用者は、野球ボール1を握ったときに、軟式野球ボールより硬く感じる。このため、軟式野球ボールの使用者は不安感を覚えることがある。軟式野球ボールと同等の圧縮硬さにするためには、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)は80以下である必要がある。したがって、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)を80以下とすることで軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを見出した。本発明の一実施の形態の野球ボール1では、軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることで、使用者が感じる不安感を抑制することができる。
【0048】
また、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)が60未満では野球ボール1が丸くなるように外層3の皮革を縫うことができない。この場合には、野球ボール1として正常に機能しない。そのため、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)は60以上とする。
【0049】
本発明者等は内芯2の弾性率が衝撃力に影響することを見出した。そして、本発明者等は内芯2の弾性率が衝撃力と相関があることを見出した。内芯2の弾性率が1MPa以下であれば軟式野球ボールと同程度の衝撃力である80G以下となることを発明者等は見出した。
【0050】
また、内芯2の弾性率が低いと、野球ボールの変形からの回復が遅くなるため、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができない。そこで、発明者等は、内芯2の弾性率が0.6MPa以上であれば野球ボールの変形からの回復が早くなることを見出した。
【0051】
したがって、内芯2の表面硬度(アスカーC硬度)と、弾性率とを調整することにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は知得した。
【0052】
すなわち、本発明の一実施の形態の野球ボール1は、内芯2と、内芯2の外周面を覆う外層3とを備えている。内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。これにより、本発明の一実施の形態の野球ボール1は、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【0053】
本発明の一実施の形態の野球ボール1では、内芯2は損失係数(tanδ)が0.15以上0.31以下であってもよい。
【0054】
本発明者等は内芯2の損失係数(tanδ)が野球ボール1の衝突後の軌跡(飛び)に影響することを見出した。また本発明者等は内芯2の損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることを見出した。そして、内芯2の反発係数が野球ボール1の衝突後の軌跡(飛び)に影響することを見出した。内芯2の損失係数(tanδ)が0.31以下であれば、内芯2の反発係数が硬式野球ボールと同等の0.5以上となる。このため、硬式野球ボールと同等の衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0055】
一方、内芯2の反発係数が高すぎると衝突後の軌跡(飛び)が硬式野球ボールに比べて異なる。具体的には内芯2の損失係数(tanδ)が0.15未満の場合には内芯2の反発係数が高くなり衝突後の軌跡(飛び)が硬式野球ボールと異なる。
【0056】
したがって、内芯2の損失係数(tanδ)を0.15以上0.31以下にすることにより、野球ボール1の内芯2の反発係数を硬式野球ボールと同等にすることができる。これにより、硬式野球ボールと同様の衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0057】
本発明の一実施の形態の野球ボールでは、野球ボール2が26.82m/sの速度で模型に衝突した際の衝撃力が80G以下であってもよい。これにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得ることができる。そのため、軟式野球ボールと同等の安全性が得られる。野球ボール1の外層3には一般的に天然皮革、人工皮革、合成皮革、布帛やニット素材などの柔らかい材料が使われるので、内芯2に外層3を装着した野球ボール1でも、軟式野球ボールと同程度の衝撃力を得ることができる。
【0058】
本発明の一実施の形態の野球ボールは、野球ボール1が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上0.55以下であってもよい。これにより、野球ボール1はリトルリーグの規定に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボール1を提供することができる。そして、反発係数が高い方が硬式野球ボールに近い衝突後の軌跡(飛び)を得ることができるため、リトルリーグの規程を満たした上で、さらに硬式野球ボールに近い衝突後の軌跡(飛び)を得ることができる。
【0059】
本発明の一実施の形態の野球ボールは、野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が16lbs以上30lbs(133.4466N)未満であってもよい。これにより、野球ボール1はリトルリーグの規定に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。
【0060】
本発明の一実施の形態の変形例の野球ボールは、内芯2と、内芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層4と、糸巻層4の外周面を覆う外層3とを備えている。内芯2は、表面硬度がアスカーC硬度で71以上75以下であり、かつ弾性率が0.9MPa以上1.0MPa以下であり、かつ損失係数(tanδ)が0.25以上0.27以下である。内芯2の材料は発泡ウレタンである。内芯2の外径は70.7mmである。外層3の外径は73.2mmである。
【0061】
さらに、内芯2の表面硬度がアスカーC硬度で73であり、弾性率が0.95MPaであり、かつ損失係数(tanδ)が0.26であることが好ましい。
【0062】
これにより、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができることを本発明者等は知得した。このため、本発明の一実施の形態の変形例の野球ボール1では、軟式野球ボールと同等の衝撃力を得つつ、硬式野球ボールと同様の衝突後の挙動を得ることができ、かつ軟式野球ボールと同等の圧縮硬さを得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、上記と同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0064】
表1、図3および図4を参照して、比較例A、Bは本発明に対する比較例である。本発明例C、Dは本発明の実施例である。図3の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示している。図4の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示している。
【0065】
【表1】
【0066】
比較例A、Bは軟式野球ボールである。本発明例C、Dは本発明の野球ボールである。本発明例C、Dは、図1に示されるように内芯2と内芯2の外周面を覆う外層3とを備えた構造を有している。本発明例C、Dの内芯2の材料は、発泡ウレタンである。本発明例C、Dは発泡ウレタンの物性が互いに異なっている。本発明例C、Dの内芯2の外径は70.7mmである。本発明例C、Dの外層3の外径は73.2mmである。
【0067】
表1の各項目について説明する。圧縮硬さ(lbs)は、野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重である。また、反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数である。また、衝撃力(G)は、野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の衝撃力である。以下、これらの各項目は各表、各図において同様である。
【0068】
圧縮硬さ(lbs)については、測定機器として株式会社島津製作所製AG−5000Dを使用して、ASTM(American Society for Testing and Materials) F 1888 "Test Method for Compression-Displacement of Baseballs and Softballs1"に準拠した試験方法で測定した。
【0069】
反発係数については、測定機器としてライトゲートを使用して、ASTM F 1887 "Standard Test Method for Measuring the Coefficient of restitution (COR) of Baseballs and Softballs"に準拠した試験方法で測定した。ライトゲートとは、ライトがでている箱をボールが通過すると感知し、速度を算出する計測器である。反発係数は、鉄板衝突後のボールの速度を鉄板衝突前のボールの速度で除した値である。
【0070】
衝撃力(G)については、財団法人製品安全協会の”野球用ヘルメットの認定基準及び基準確認方法”に基づいた試験機を使用して、人頭模型に装着された加速度計によりボールを模型に衝突させたときの加速度を測定して衝撃力を計測した。
【0071】
表1、図3および図4を参照して、圧縮硬さ(lbs)について、本発明例Cは比較例A、Bと同等の値となった。また、圧縮硬さ(lbs)について、本発明例Dは比較例A、Bより小さい値となった。
【0072】
反発係数について比較例A、Bと比べて本発明例C、Dは大きな値となった。衝撃力(G)について比較例A、Bと比べて本発明例C、Dは近い値となった。本発明例C、Dは、反発係数が0.509〜0.519となった。また、本発明例C、Dは、衝撃力(G)が71.0〜73.0となった。
【0073】
表2、図5および図6を参照して、比較例A、Bに加えて、比較例E〜Hは本発明に対する比較例である。図5の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示している。図6の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示している。比較例E〜Hは、図1に示されるように内芯2と内芯2の外周面を覆う外層3とを備えた構造を有している。比較例E〜Hの内芯の材料は、発泡ウレタンである。比較例E〜Fは発泡ウレタンの物性が互いに異なっている。比較例E〜Hの内芯2の外径は70.7mmである。比較例E〜Hの外層3の外径は73.2mmである。
【0074】
【表2】
【0075】
圧縮硬さ(lbs)について比較例A、Bと比べて比較例E、Fは同等の値となり、比較例G、Hは大きな値となった。また、比較例E〜Hでは圧縮硬さ(lbs)と比較して衝撃力(G)の値が変化しにくいことがわかった。より具体的には圧縮硬さ(lbs)の下がる割合と比較して衝撃力(G)の下がる割合が小さいことがわかった。反発係数について比較例A、Bと比べて比較例E〜Hは同等の値となった。衝撃力(G)について比較例A、Bと比べて比較例E〜Hは非常に大きな値となった。
【0076】
表1および表2より、図1に示される野球ボール1の構造では、内芯2の材料である発泡ウレタンの物性により、圧縮硬さ(lbs)、反発係数、衝撃力(G)のそれぞれが大きく変動することがわかった。比較例E〜Hでは、軟式野球ボールである比較例A、Bより衝撃力が非常に大きくなることがわかった。
【0077】
次に、内芯2に使用する材料の特性を特定した。
まず、内芯2に使用する材料の特性を求めるために、落下衝撃によるSS曲線と粘弾性試験による粘弾性値を用いてCAE(Computer Aided Engineering)解析を行った。
【0078】
CAE解析では、入力するパラメータとして、オグデン係数(弾性)と緩和関数(粘性)とを用いた。パラメータの算出のために、落錘試験と動的粘弾性試験とを用いた。落錘試験により弾性を測定し、動的粘弾性試験により粘性を測定した。
【0079】
落錘試験は、吉田精機株式会社製の緩衝材用衝撃試験機CST−180を用いて実施した。試験方法として、まず厚さ20mmの試料を用意した。次に外径45mmで一定の重さである錘を一定の高さより試料に対して落下させて、加速度計により変位−加速度曲線を測定した。そして、変位−加速度曲線より応力−ひずみ曲線を算出した。この応力−ひずみ曲線より式(1)に基づいてひずみエネルギー関数の係数μ、αを算出した。μはせん断弾性率であり、αはべき指数である。また式(1)のλは伸長比であり、Kは体積弾性係数であり、Jは体積変化率である。
【0080】
【数1】
【0081】
μ、αを用いて式(2)に基づいて弾性率Eを算出した。より具体的には応力−ひずみ曲線における初期弾性率を算出した。
【0082】
【数2】
【0083】
動的粘弾性試験は、UBM製Rheogel−E4000を用いて実施した。試験方法として、正弦波振動のひずみから応力を計測した。また入力ひずみと応答応力の位相差を計測することにより温度特性、周波数特性を計測した。
【0084】
そして、周波数温度依存性モードで周波数1、2、4、8、16Hzで強制振動させ2℃/minで昇温させたときの20℃での駆動部と応答部の振幅の比と位相差より複素弾性率を計測した。この計測した結果からメカニカルデザイン社製カーブフィットプログラムにより式(3)に基づいて緩和関数の係数を算出した。式(3)のgは緩和関数であり、γは緩和せん断弾性率であり、τは緩和時間である。
【0085】
【数3】
【0086】
ここで複素弾性率について説明する。まず、弾性率は式(4)に示すように応力σとひずみεとの比(フックの法則)である。複素弾性率は、変形時および回復時に熱として消失したエネルギーを考慮に入れた材料の動的物性値である。式(5)に示すように複素弾性率E*は貯蔵弾性率E’と損失弾性率E"の和である。
【0087】
【数4】
【0088】
【数5】
【0089】
表3を参照して、比較例A、Bは表1および表2と同じものである。比較例I〜L、O、Q、S〜Vは本発明に対する比較例である。本発明例M〜N、P、Rは本発明の実施例である。反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数を実際に測定した値である。衝撃力(G)は、野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の実測値である。弾性率は上記弾性率Eの値である。またtanδ(損失係数)は、上記複素弾性率E*の貯蔵弾性率E’と損失弾性率E"との比である。表面硬度(アスカーC)は、SRIS0101(日本ゴム協会標準規格)にある膨張ゴム用スプリング式硬さ試験機(アスカーC型)で測定した硬度のことである。圧縮硬さは上述と同様に測定された値である。
【0090】
【表3】
【0091】
図7を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、表面硬度(アスカーC)が圧縮硬さ(lbs)と相関があることがわかった。図7の縦軸は圧縮硬さ(lbs)の大きさを示し、横軸は表面硬度(アスカーC)の大きさを示している。表面硬度(アスカーC)が80以下では、内芯2の圧縮硬さが30lbs以下になることがわかった。
【0092】
図8を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、表面硬度(アスカーC)と反発係数は相関がないことがわかった。図8の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は表面硬度(アスカーC)の大きさを示している。
【0093】
図9を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、弾性率(MPa)が衝撃力(G)と相関があることがわかった。図9の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は弾性率(MPa)の大きさを示している。弾性率(MPa)が1.0MPa以下では、衝撃力(G)が80G以下になることがわかった。
【0094】
図10を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、表面硬度(アスカーC)と衝撃力(G)は相関がないことがわかった。図10の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は表面硬度(アスカーC)の大きさを示している。
【0095】
図11を参照して、比較例I〜L、O、Q、S〜Vおよび本発明例M〜N、P、Rでは、損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることがわかった。図11の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は損失係数(tanδ)の大きさを示している。損失係数(tanδ)が0.31以下では、反発係数が0.5以上となることがわかった。そのため、損失係数(tanδ)が0.31以下であれば、反発係数が硬式野球ボールと同等の0.5以上となることがわかった。
【0096】
また、損失係数(tanδ)が0.15未満では、反発係数が0.6を超えることがわかった。反発係数が高くなると衝突後の軌跡が硬式野球ボールと異なる。そのため、損失係数(tanδ)が0.15未満では、反発係数が高くなり、衝突後の軌跡が硬式野球ボールと異なることがわかった。
【0097】
次に、比較例A、比較例Iおよび本発明例Cを用いて、衝突時の変形と衝突後の復元とについて説明する。
【0098】
図12を参照して、比較例Aの軟式野球ボール11が模型10に衝突した状態では、比較例Aの軟式野球ボール11は大きく変形している。つまり、比較例Aの軟式野球ボール11では衝突時の変形が大きいことがわかった。
【0099】
図13を参照して、比較例Aの軟式野球ボール11が模型10に衝突後に復元し始めた状態では、比較例Aの軟式野球ボール11はかなり変形している。つまり、比較例Aの軟式野球ボール11は衝突後すぐには丸い状態には回復しないことがわかった。
【0100】
図14を参照して、比較例Iの野球ボール1が模型10に衝突した状態では、比較例Iの野球ボール1も変形している。しかし、比較例Iの野球ボール1の変形は、比較例Aの軟式野球ボール11の変形に比べて小さい。つまり、比較例Iの野球ボール1は、比較例Aの軟式野球ボール11に比べて衝突時の変形が小さいことがわかった。この理由は比較例Iの野球ボール1は、中実に形成されているため、衝突時の変形が小さいためであると考えられる。
【0101】
図15を参照して、比較例Iの野球ボール1が模型10に衝突後に復元し始めた状態では、比較例Iの野球ボール1も変形している。つまり、比較例Iの野球ボール1は衝突後すぐには丸い状態には回復しないことがわかった。
【0102】
しかし、比較例Iの野球ボール1は、比較例Aの軟式野球ボール11に比べて丸い状態に近づいている。この理由は比較例Iの野球ボール1は、比較例Aの軟式野球ボール11に比べて変形が小さいため、衝突後に復元しやすいからであると考えられる。
【0103】
図16を参照して、本発明例Cの野球ボール1が模型10に衝突した状態では、本発明例Cの野球ボール1も変形している。しかし、本発明例Cの野球ボール1の変形は、比較例Iの野球ボール1の変形に比べて小さい。つまり、本発明例Cの野球ボール1は、比較例Iの野球ボール1に比べて衝突時の変形が小さいことがわかった。
【0104】
この理由は本発明例Cの野球ボール1は、表面硬度(アスカーC)が比較例Iの野球ボール1に比べて大きいため衝突時の変形が小さいためであると考えられる。また、本発明例Cの野球ボール1は、圧縮硬さが比較例Iの野球ボール1に比べて大きいため衝突時の変形が小さいためであると考えられる。
【0105】
図17を参照して、本発明例Cの野球ボール1が模型10に衝突後に復元し始めた状態では、本発明例Cの野球ボール1はほとんど変形していない。つまり、本発明例Cの野球ボール1は衝突後すぐに丸い状態に回復することがわかった。この理由は本発明例Iの野球ボール1は、比較例Iの野球ボール1に比べて変形が小さいため、衝突後に復元しやすいからであると考えられる。
【0106】
これにより、中実に形成された比較例Iの野球ボール1と本発明例Cの野球ボール1でも衝突時の変形の度合いが異なるため、衝突後の復元が異なることがわかった。衝突後の復元が異なるため、衝突後の軌跡が異なると考えられる。
【0107】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、中実の野球ボールに特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0109】
1 野球ボール、2 内芯、3 外層、4 糸巻層、10 模型、11 軟式野球ボール。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内芯と、
前記内芯の外周面を覆う外層とを備え、
前記内芯は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である、野球ボール。
【請求項2】
前記内芯は、損失係数(tanδ)が0.15以上0.31以下である、請求項1に記載の野球ボール。
【請求項3】
前記野球ボールが26.82m/sの速度で模型に衝突した際の衝撃力が80G以下である、請求項1または2に記載の野球ボール。
【請求項4】
前記野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上0.55以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の野球ボール。
【請求項5】
前記野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重が16lbs以上30lbs未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の野球ボール。
【請求項6】
内芯と、
前記内芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層と、
前記糸巻層の外周面を覆う前記外層とを備え、
前記内芯は、表面硬度がアスカーC硬度で71以上75以下であり、かつ弾性率が0.9MPa以上1.0MPa以下であり、かつ損失係数(tanδ)が0.25以上0.27以下であり、かつ
前記内芯の材料は発泡ウレタンであり、
前記内芯の外径は70.7mmであり、かつ
前記外層の外径は73.2mmである、野球ボール。
【請求項1】
内芯と、
前記内芯の外周面を覆う外層とを備え、
前記内芯は、表面硬度がアスカーC硬度で60以上80以下であり、かつ弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である、野球ボール。
【請求項2】
前記内芯は、損失係数(tanδ)が0.15以上0.31以下である、請求項1に記載の野球ボール。
【請求項3】
前記野球ボールが26.82m/sの速度で模型に衝突した際の衝撃力が80G以下である、請求項1または2に記載の野球ボール。
【請求項4】
前記野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上0.55以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の野球ボール。
【請求項5】
前記野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重が16lbs以上30lbs未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の野球ボール。
【請求項6】
内芯と、
前記内芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層と、
前記糸巻層の外周面を覆う前記外層とを備え、
前記内芯は、表面硬度がアスカーC硬度で71以上75以下であり、かつ弾性率が0.9MPa以上1.0MPa以下であり、かつ損失係数(tanδ)が0.25以上0.27以下であり、かつ
前記内芯の材料は発泡ウレタンであり、
前記内芯の外径は70.7mmであり、かつ
前記外層の外径は73.2mmである、野球ボール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−200270(P2012−200270A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64474(P2011−64474)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
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