野球ボール
【課題】人体に当たった際の安全性を高め、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られる野球ボールを提供する。
【解決手段】野球ボール1は、内芯2と、内芯2の外周面を覆う外芯3とを有する野球ボール1であって、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である内芯2と、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である外芯3とを備えている。
【解決手段】野球ボール1は、内芯2と、内芯2の外周面を覆う外芯3とを有する野球ボール1であって、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である内芯2と、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である外芯3とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野球ボールに関し、特に中実の野球ボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
野球ボールには、人体に当たった際の衝撃力を小さくして安全性を高めることが求められている。たとえば、リトルリーグでは低年齢の子供が競技を行う際に、安全性を高めるために硬式野球ボールの硬さおよび反発係数が定められている。リトルリーグの規程では、野球ボールの硬さは、野球ボールを6.35mm圧縮したときの荷重が45lbf(200.17N)未満と定められている。また、野球ボールの反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.45〜0.55と定められている。
【0003】
通常の硬式野球ボールはゴムの中芯の上に毛糸が球状に巻かれ、さらにその上に綿糸が表面が平滑になるように巻かれ、その上から牛革が被されて縫糸で縫合されている。なお、この通常の硬式野球ボールとは異なる構造を有する硬式野球ボールが提案されている。たとえば、特開2002−210043号公報(特許文献1)には、ゴムの中芯を発泡ウレタンの中間芯で包んだ硬式野球ボールが提案されている。
【0004】
また、野球ボールとして硬式野球ボールのほかに軟式野球ボールが使用されている。軟式野球ボールは中芯を有しておらず中空に形成されている。軟式野球ボールではこの中空のため衝撃力は小さくなっている。そのため安全性が確保されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−210043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軟式野球ボールでは、中空にして衝撃力を小さくしているため安全性が高いが、中空にして衝撃力を小さくしているため飛距離が硬式野球ボールに比べて小さくなる。そのため、バットで打った際に硬式野球ボールと同等の飛距離が得られない。
【0007】
また、上記公報の硬式野球ボールでは、ゴムの中芯が発泡ウレタンの中間芯で包まれているが、打球感が通常の硬式野球ボールとほとんど変わらないように形成されている。そのため、上記公報の硬式野球ボールは通常の硬式野球ボールと同等の衝撃力を有している。したがって、上記公報の硬式野球ボールでは通常の硬式野球ボールより安全性を高めることは想定されていない。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、人体に当たった際の安全性を高め、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られる野球ボールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が鋭意検討したところ、野球ボールの内芯および外芯の割合および物性を調整することにより、衝撃力および反力を小さくすることができ、かつ反発係数を大きくすることができることを見出した。これにより、人体に当たった際に安全性が高く、一方バットで打った際によく飛ぶボールを実現できることを見出した。そして、この知見に基づいて、衝撃力および反力を小さくすることで人体に当たった際の安全性を高めることができ、反発係数を大きくすることで硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られる野球ボールが得られることを見出した。
【0010】
本発明の野球ボールは、内芯と、内芯の外周面を覆う外芯とを有する野球ボールであって、野球ボールの内芯および外芯の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である内芯と、野球ボールの内芯および外芯の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である外芯とを備えている。
【0011】
ここで、動的粘弾性の損失係数(tanδ)は、複素弾性率の虚数部分である損失弾性率と複素弾性率の実数部分である貯蔵弾性率との比である。複素弾性率は粘弾性材料に正弦波振動を加えた場合の動的応力と動的ひずみとの差である。
【0012】
発明者等は動的粘弾性の損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることを見出し、弾性率が衝撃力と相関があることを見出した。また、発明者等は内芯および外芯の割合によって衝撃力および反力と反発係数とが変化することを見出した。そのため、内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)と、外芯の弾性率と、内芯および外芯の割合を調整することによって、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は知得した。
【0013】
具体的には、野球ボールの内芯および外芯の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である内芯と、野球ボールの内芯および外芯の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である外芯とを備えることにより、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は知得した。このため、本発明の野球ボールでは、人体に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【0014】
上記の野球ボールは、好ましくは、野球ボールの内芯および外芯が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N以下である。これにより、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力を得ることができる。野球ボールの外層には一般的に天然皮革、人工皮革、合成皮革、布帛やニット素材などの柔らかい材料が使われるので、内芯および外芯に外層を装着した野球ボールでも、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力を得ることができる。
【0015】
上記の野球ボールは、好ましくは、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上である。これにより、硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【0016】
上記の野球ボールは、好ましくは、反発係数が0.55以下であり、かつ野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf未満である。これにより、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。
【0017】
本発明の野球ボールは、内芯と、前記内芯の外周面を覆う外芯とを有する野球ボールであって、内芯の弾性率が1.0Mpa以上1.3MPa以下であり、かつ内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下であり、かつ内芯の直径が34mmである内芯と、外芯の弾性率が0.6Mpa以上1.0MPa以下であり、かつ外芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である外芯と、外芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層と、糸巻層の外周面を覆う外層とを備え、野球ボールの内芯および外芯の外径が70.7mmである。
【0018】
好ましくは、内芯の弾性率が1.1MPaであり、内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10であり、外芯の弾性率が0.95MPaであり、外芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26である。
【0019】
これにより、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は見出した。このため、本発明の野球ボールでは、人体に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の野球ボールによれば、人に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態における野球ボールの概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における野球ボールの変形例1の概略断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における野球ボールの変形例2の概略断面図である。
【図4】実施例における比較例の野球ボールの概略断面図である。
【図5】実施例における比較例および本発明例の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図6】実施例における比較例および本発明例の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図7】実施例における比較例の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図8】実施例における比較例の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図9】実施例における試料の反発係数(解析)と反発係数(実測)との関係を示す図である。
【図10】実施例における試料の反力と衝撃力との関係を示す図である。
【図11】実施例における試料の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図12】実施例における試料の衝撃力と弾性率との関係を示す図である。
【図13】実施例における試料の反発係数とtanδとの関係を示す図である。
【図14】実施例における試料の衝撃力とtanδとの関係を示す図である。
【図15】実施例における試料の反発係数と複素弾性率との関係を示す図である。
【図16】実施例における試料の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図17】実施例における本発明例の反力と内芯径との関係を示す図である。
【図18】実施例における本発明例の反発係数と内芯径との関係を示す図である。
【図19】実施例における本発明例の反力と外芯の厚みとの関係を示す図である。
【図20】実施例における本発明例の反発係数と内芯の厚みとの関係を示す図である。
【図21】実施例における本発明例の反力と内芯径との関係を示す図である。
【図22】実施例における本発明例の反発係数と内芯径との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
図1を参照して、本発明の一実施の形態の野球ボール1は、内芯2と、外芯3と、外層4とを主に有している。野球ボール1の中心部には内芯2が配置されている。内芯2の外周面が外芯3で覆われている。外芯3の外周面が外層4で覆われている。内芯2および外芯3の材料は、たとえば発泡ウレタンである。
【0023】
内芯2は、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である。外芯43は、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である。
【0024】
外芯3の厚みは、野球ボール1の半径方向の内芯2の外径から外芯3の外径までの長さである。外層4は、たとえば皮革と、この皮革を縫合する縫糸とを主に有している。外芯3の外周面に皮革が被せられ、この皮革が縫合されることにより外層4が構成されている。
【0025】
また、野球ボール1は、野球ボール1の内芯2および外芯3が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N以下であってもよい。
【0026】
また、野球ボール1は、野球ボール1が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上であってもよい。なお、外層4の影響により野球ボール1の反発係数の値は若干下がる。具体的には反発係数の値は、0.01〜0.02の範囲で0.015程度下がる。そのため、野球ボール1の内芯2および外芯3が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の野球ボール1の内芯2および外芯3の反発係数としては、0.515以上であってもよい。
【0027】
また、野球ボール1は、反発係数が0.55以下であり、かつ野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf(200.17N)未満であってもよい。
【0028】
図2を参照して、本発明の一実施の形態の変形例1の野球ボール1は、外芯3の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層5を有していてもよい。糸巻層5は、たとえば綿糸が外芯3の外周面を覆うように巻かれ、その表面が平滑になるように巻かれている。なお、糸巻層5が巻かれた状態では、糸が巻かれる際の張力で内芯2および外芯3が少し小さくなるため糸が巻かれた後の外径は外芯3の外径とほとんど変わらない。
【0029】
図2を参照して、内芯2は、内芯2の弾性率が1.0Mpa以上1.3MPa以下であり、かつ内芯2の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下であり、かつ内芯2の直径が34mmである。外芯3は、外芯3の弾性率が0.6Mpa以上1.0MPa以下であり、かつ外芯3の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である。糸巻層5では外芯3の外周面を覆うように糸が巻かれている。外層4は糸巻層5の外周面を覆うように設けられている。野球ボール1の内芯2および外芯3の外径は70.7mmである。内芯2と外芯3とが野球ボール1の芯を構成している。野球ボール1の芯の外径は外芯3の外径に相当する。なお、野球ボール1の芯に皮革が貼られて縫糸で縫われた状態での野球ボール1の外周はたとえば230mmであり、野球ボール1の外径はたとえば73.2mmである。
【0030】
さらに、内芯2の弾性率が1.1MPaであり、内芯2の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10であり、外芯3の弾性率が0.95MPaであり、外芯3の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26であることが好ましい。
【0031】
なお、野球ボール1の内芯2および外芯3で構成される芯の外径70.7mm、内芯2の直径34mmは、それぞれ寸法公差±0.2mmを有している。以下、各寸法については同様に寸法公差を有している。
【0032】
図3を参照して、本発明の一実施の形態の変形例2の野球ボール1は、外層4の内側の芯が3層で構成されていてもよい。この変形例2では、内芯2の外周面を覆うように中芯6が設けられている。中芯6の外周面を覆うように外芯3が設けられている。
【0033】
内芯2は、弾性率が1.0MPa以上1.3MPa以下である。弾性率は1.1MPaであることが好ましい。動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下である。動的粘弾性の損失係数(tanδ)は0.10であることが好ましい。内芯2の厚みは、34mmである。
【0034】
中芯6は、弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。弾性率は0.60MPaであることが好ましい。動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である。動的粘弾性の損失係数(tanδ)は0.30であることが好ましい。中芯6の厚みは、2mmである。
【0035】
外芯3は、弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。弾性率は0.95MPaであることが好ましい。動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である。動的粘弾性の損失係数(tanδ)は0.26であることが好ましい。外芯3の厚みは、16.35mmである。
【0036】
内芯2、外芯3および中芯6の材料は、たとえば発泡ウレタンである。
なお、上記の変形例1と同様に糸巻層5が設けられていてもよい。この場合、糸巻層5では外芯3の外周面を覆うように糸が巻かれている。
【0037】
次に本発明の一実施の形態の野球ボールの作用効果について説明する。
発明者等は動的粘弾性の損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることを見出し、弾性率が衝撃力と相関があることを見出した。また、発明者等は内芯2および外芯3の割合によって衝撃力および反力と反発係数とが変化することを見出した。
【0038】
発明者等が検討したところ、軟式野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の反力は4300N程度である。そのため、野球ボール1が26.82m/sの速度で衝突した際の反力は4300N程度以下であることが求められる。また、リトルリーグの規程には硬式野球ボールの反発係数は0.45〜0.55と定められている。飛距離を得る観点からは軟式野球ボールの反発係数より高い反発係数0.50以上が好ましい。
【0039】
本発明の一実施の形態の野球ボール1によれば、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である内芯2と、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である外芯3とを備えている。
【0040】
内芯2の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下であれば反発係数が0.50以上となることを見出した。さらに内芯2の割合が野球ボール1の内芯2および外芯3で構成される芯の外径の20%以上であれば反発係数が上がることを見出した。また外芯3の弾性率が1.5MPa以下であれば衝撃力が80G程度であることを見出した。また外芯3の厚みが野球ボール1の内芯2および外芯3で構成される芯の外径の10%(割合20%)以上であれば反発係数が大きくなることを見出した。
【0041】
これにより、野球ボール1が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N程度以下となり、反発係数が0.50以上となることを見出した。そのため、本発明の一実施の形態の野球ボール1によれば、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と、軟式野球ボールより大きな飛距離が得られ、硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は知得した。
【0042】
したがって、本発明の一実施の形態の野球ボール1では、人体に当たった際の衝撃力および反力が軟式野球ボールと同程度のため、軟式野球ボールのように安全性を高めることができる。また、反発係数が硬式野球ボールと同等およびそれ以上のため、硬式ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。このため、本発明の一実施の形態の野球ボール1では、人体に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【0043】
本発明の一実施の形態の野球ボール1は、野球ボール1の内芯2および外芯3が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N以下であってもよい。この反力4300Nは軟式野球ボールの反力に該当する。そのため、軟式野球ボールと同程度の反力を得ることができる。この4300Nは衝撃力では約80Gに相当する。軟式野球ボールの衝撃力は約80Gと想定可能であるため、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力を得ることもできる。
【0044】
本発明の一実施の形態の野球ボール1は、野球ボール1が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上であってもよい。この反発係数0.50はリトルリーグの規程に定められた硬式野球ボールの反発係数0.45〜0.55に合致する。そのため、硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【0045】
本発明の一実施の形態の野球ボール1は、反発係数が0.55以下であり、かつ野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf(200.17N)未満であってもよい。リトルリーグの規程には反発係数は0.45〜0.55であり、野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf(200.17N)未満と定められている。このリトルリーグの規程に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。
【0046】
本発明の野球ボールは、内芯2と、内芯2の外周面を覆う外芯3とを有する野球ボール1であって、内芯2の弾性率が1.0Mpa以上1.3MPa以下であり、かつ内芯2の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下であり、かつ内芯2の直径が34mmである内芯2と、外芯3の弾性率が0.6Mpa以上1.0MPa以下であり、かつ外芯3の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である外芯3と、外芯3の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層5と、糸巻層5の外周面を覆う外層4とを備えている。野球ボール1の内芯2および外芯3の外径は70.7mmである。
【0047】
さらに、内芯の弾性率が1.1MPaであり、内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10であり、外芯の弾性率が0.95MPaであり、外芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26であることが好ましい。
【0048】
これにより、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は知得した。このため、本発明の野球ボールでは、人体に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、上記と同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0050】
ここでは、野球ボールの衝撃力および反力を小さくし、かつ反発係数を大きくすることができるかを検討した。
【0051】
表1、図5および図6を参照して、比較例A、B、Cは本発明に対する比較例である。本発明例Dは本発明の実施例である。本発明例Eは本発明の変形例である。図5の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。図6の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。
【0052】
【表1】
【0053】
比較例A、Bは軟式野球ボールである。図4を参照して、比較例Cの野球ボール1は、外層4の内側の芯が一層で構成されている。比較例Cの野球ボール1は外芯3を有しておらず、内芯2の外周面を覆うように外層4が設けられている。比較例Cの材料は、発泡ウレタンである。本発明例D、Eは本発明の野球ボールであり、その芯の外径は70.7mmである。本発明例D、Eは図2に示されるように芯が二層の構造を有している。本発明例D、Eのそれぞれの内芯の径は34mmである。本発明例D、Eの内芯および外芯の材料は、発泡ウレタンである。
【0054】
表1の各項目について説明する。圧縮硬さ(Ibf)は、野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重である。また、反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数である。また、衝撃力(G)は、野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の衝撃力である。以下、これらの各項目は各表、各図において同様である。
【0055】
圧縮硬さ(Ibf)については、測定機器として株式会社島津製作所製AG−5000Dを使用して、ASTM(American Society for Testing and Materials) F 1888 "Test Method for Compression-Displacement of Baseballs and Softballs1"に準拠した試験方法で測定した。
【0056】
反発係数については、測定機器としてライトゲートを使用して、ASTM F 1887 "Standard Test Method for Measuring the Coefficient of restitution (COR) of Baseballs and Softballs"に準拠した試験方法で測定した。ライトゲートとは、ライトがでている箱をボールが通過すると感知し、速度を算出する計測器である。反発係数は、鉄板衝突後のボールの速度を鉄板衝突前のボールの速度で除した値である。
【0057】
衝撃力(G)については、財団法人製品安全協会の”野球用ヘルメットの認定基準及び基準確認方法”に基づいた試験機を使用して、人頭模型に装着された加速度計によりボールを模型に衝突させたときの加速度を測定して衝撃力を計測した。
【0058】
表1、図5および図6を参照して、圧縮硬さ(Ibf)について比較例A、Bと比べて本発明例D、Eは同等およびそれ以下の値となった。反発係数について比較例A、B、Cと比べて本発明例D、Eは大きな値となった。衝撃力(G)について比較例A、B、Cと比べて本発明例D、Eは近い値となった。本発明例D、Eは、反発係数が0.540〜0.548となった。また、本発明例D、Eは、衝撃力(G)が78.7〜81.6となった。
【0059】
表2および図7および図8を参照して、比較例F〜Iは本発明に対する比較例である。図7の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。図8の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。比較例F〜Iの芯の外径は70.7mmであり、図4に示されるように芯が一層の構造を有している。比較例F〜Iの芯の材料は、発泡ウレタンである。
【0060】
【表2】
【0061】
圧縮硬さ(Ibf)について比較例A、Bと比べて比較例F、Gは同等の値となり、比較例H、Iは大きな値となった。また、比較例F〜Iでは圧縮硬さ(Ibf)と比較して衝撃力(G)の値が変化しにくいことがわかった。より具体的には圧縮硬さ(Ibf)の下がる割合と比較して衝撃力(G)の下がる割合が小さいことがわかった。反発係数について比較例A、Bと比べて比較例F〜Iは同等の値となった。衝撃力(G)について比較例A、Bと比べて比較例F〜Iは非常に大きな値となった。
【0062】
これにより、芯が一層の構造で、軟式野球ボールと同等の反発係数にすると衝撃力(G)は軟式野球ボールの衝撃力(G)より非常に大きくなることがわかった。
【0063】
次に芯に使用する材料の特性を特定した。
まず、芯に使用する材料の特性を求めるために、落下衝撃によるSS曲線と粘弾性試験による粘弾性値を用いてCAE(Computer Aided Engineering)解析を行った。
【0064】
CAE解析では、入力するパラメータとして、オグデン係数(弾性)と緩和関数(粘性)とを用いた。パラメータの算出のために、落錘試験と動的粘弾性試験とを用いた。落錘試験により弾性を測定し、動的粘弾性試験により粘性を測定した。
【0065】
落錘試験は、吉田精機株式会社製の緩衝材用衝撃試験機CST−180を用いて実施した。試験方法として、まず厚さ20mmの試料を用意した。次に外径45mmで一定の重さである錘を一定の高さより試料に対して落下させて、加速度計により変位−加速度曲線を測定した。そして、変位−加速度曲線より応力−ひずみ曲線を算出した。この応力−ひずみ曲線より式(1)に基づいてひずみエネルギー関数の係数μ、αを算出した。μはせん断弾性率であり、αはべき指数である。また式(1)のλは伸長比であり、Kは体積弾性係数であり、Jは体積変化率である。
【0066】
【数1】
【0067】
μ、αを用いて式(2)に基づいて弾性率を算出した。より具体的には応力−ひずみ曲線における初期弾性率を算出した。
【0068】
【数2】
【0069】
動的粘弾性試験は、UBM製Rheogel−E4000を用いて実施した。試験方法として、正弦波振動のひずみから応力を計測した。また入力ひずみと応答応力の位相差を計測することにより温度特性、周波数特性を計測した。
【0070】
そして、周波数温度依存性モードで周波数1、2、4、8、16Hzで強制振動させ2℃/minで昇温させたときの20℃での駆動部と応答部の振幅の比と位相差より複素弾性率を計測した。この計測した結果からメカニカルデザイン社製カーブフィットプログラムにより式(3)に基づいて緩和関数の係数を算出した。式(3)のgは緩和関数であり、γは緩和せん断弾性率であり、τは緩和時間である。
【0071】
【数3】
【0072】
ここで複素弾性率について説明する。まず、弾性率は式(4)に示すように応力σとひずみεとの比(フックの法則)である。複素弾性率は、変形時および回復時に熱として消失したエネルギーを考慮に入れた材料の動的物性値である。式(5)に示すように複素弾性率E*は貯蔵弾性率E’と損失弾性率E"の和である。
【0073】
【数4】
【0074】
【数5】
【0075】
続いて、実測値と解析値に相関があるかを確認して、芯に使用する材料の特性を特定した。表3および図9を参照して、試料イ〜ニを用いて、反発係数の実測値と解析値に相関があるかを検討した。図9の縦軸は反発係数(解析)の大きさを示し、横軸は反発係数(実測)の大きさを示している。反発係数の実測値は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数を実際に測定した値である。反発係数の解析値は、日本ESI株式会社製の解析ソフトウェアPAM CRASHで解析した反発係数の値である。
【0076】
【表3】
【0077】
試料イ〜ニは、芯の外径が70.7mmであり、図3に示されるように芯が一層の構造を有している。試料イ〜ニの芯の材料は発泡ウレタンである。
【0078】
表3および図9に示すように試料イ〜ニでは反発係数の解析値である反発係数(解析)と反発係数の実測値である反発係数(実測)とは非常に近い値となり相関があることがわかった。これにより、実測値と解析値に相関があることがわかった。よって、実測値によらず解析値によって測定できることを確認できた。
【0079】
表3および図10を参照して、衝撃力(G)は、野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の実測値である。反力(kN)は、日本ESI株式会社製の解析ソフトウェアPAM CRASHで解析した値である。図10の縦軸は反力(kN)の大きさを示し、横軸は衝撃力(G)の大きさを示している。試料イ〜ニでは、実測値である衝撃力(G)と解析値である反力(kN)に相関があることがわかった。そして、軟式野球ボールと同程度の衝撃力80G程度にするには、反力は4.3kN程度であればよいことがわかった。
【0080】
続いて、複数の材料の特性を検討した。
表4に示す試料1〜7について、図11〜図16を参照して、反発係数、衝撃力、弾性率、複素弾性率、tanδ(損失係数)の関係について検討した。tanδは、上記複素弾性率E*の貯蔵弾性率E’と損失弾性率E"との比である。
【0081】
【表4】
【0082】
図11を参照して、試料1〜7では、衝撃力(G)と圧縮硬さ(Ibf)には相関がないことがわかった。図11の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。一方、図12を参照して、試料1〜7では、衝撃力(G)と弾性率(MPa)には相関があることがわかった。図12の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は弾性率(MPa)の大きさを示している。弾性率(Mpa)が0.5Mpa〜1.5MPaの範囲であれば軟式野球ボールと同程度の衝撃力80G程度となることがわかった。
【0083】
図13を参照して、試料1〜7では、反発係数とtanδとは相関があることがわかった。図13の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸はtanδの大きさを示している。そして、tanδが0.3以下であれば、反発係数が0.50以上となることがわかった。tanδが0.3以下であれば、軟式野球ボールの反発係数は表1に示すように0450〜0455であるため、軟式野球ボールより高い反発係数となることがわかった。
【0084】
なお、図14を参照して、試料1〜7では、衝撃力とtanδとは相関がないことがわかった。図14の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸はtanδの大きさを示している。
【0085】
これにより、衝撃力(G)と弾性率(MPa)には相関があり、反発係数とtanδとが相関があることがわかった。
【0086】
図15を参照して、試料1〜7では、反発係数と複素弾性率(MPa)は相関があることがわかった。図15の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は複素弾性率(MPa)の大きさを示している。
【0087】
図16を参照して、試料1〜7では、反発係数と圧縮硬さ(Ibf)とは相関がないことがわかった。図16の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。
【0088】
次に、芯が二層の野球ボールの内芯と外芯の肉厚を変化させて、反力と反発係数の変化を検討した。
【0089】
まず、表5、図17および図18を参照して、表1に示す本発明例Dの内芯径を変化させて反力と反発係数の変化を検討した。図17の縦軸は反力(N)の大きさを示し、横軸は内芯径(mm)の大きさを示している。図18の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は内芯径(mm)の大きさを示している。内芯径が24mmで反力4206Nとなり、内芯径が54mmで反力が4278Nとなった。これにより、内芯径が24mm以上54mm以下では反力が4300N以下となることがわかった。また内芯径が24mm以上54mm以下では反発係数が0.546以上0.631以下となることがわかった。
【0090】
【表5】
【0091】
続いて、表6、図19および図20を参照して、表1に示す本発明例Dの内芯の厚みと外芯の厚みを変化させて反力と反発係数の変化を検討した。図19の縦軸は反力(kN)の大きさを示し、横軸は外芯の厚み(mm)の大きさを示している。図20の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は外芯の厚み(mm)の大きさを示している。表6および図19に示すように外芯の厚みが12mmで反力が4292Nとなり、外芯の厚みが23.35mmで反力が4285Nとなった。これにより、外芯の厚みが12mm以上では反力が4292N以下となることがわかった。
【0092】
【表6】
【0093】
また、表6および図20に示すように内芯の厚みが12mmで反力が4285Nとなり、反発係数が0.544となった。内芯の厚みが29.35mmで反力が4310Nとなり、反発係数0.643となった。これにより、内芯の厚みを増すと反力に比べて反発係数が上がることがわかった。
【0094】
次に、芯が二層の野球ボールの外芯の材料を変えて、反力と反発係数の変化を検討した。
【0095】
表7、図21および図22を参照して、芯が二層の野球ボールの内芯と外芯の肉厚を変化させて、反力と反発係数の変化を検討した。図21の縦軸は反力(N)の大きさを示し、横軸は内芯径(mm)の大きさを示している。図22の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は内芯径(mm)の大きさを示している。内芯の材料は表4の試料1とし、外芯の材料は表4の試料5とした。
【0096】
【表7】
【0097】
表7および図21を参照して、外芯厚み7.0mm(割合20%)で反力が4298Nとなった。これにより、外芯厚みの割合が20%以上で反力が4298N以下になることがわかった。表7および図22を参照して、内芯径14mm(割合20%)で反発係数が0.515となり、内芯径0〜12mmと比べてグラフの傾きが大きくなり、反発係数が大きくなることがわかった。
【0098】
なお、上記の野球ボールにはソフトボールが含まれており、本発明はソフトボールにも適用可能である。ソフトボールの芯の外径は、たとえば93.9mmである。またソフトボールの芯に皮革が貼られて縫糸で縫われた状態でのソフトボールの外周はたとえば305mmでありソフトボールの外径はたとえば97.1mmである。
【0099】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、中実の野球ボールに特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0101】
1 野球ボール、2 内芯、3 外芯、4 外層、5 糸巻層、6 中芯。
【技術分野】
【0001】
本発明は、野球ボールに関し、特に中実の野球ボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
野球ボールには、人体に当たった際の衝撃力を小さくして安全性を高めることが求められている。たとえば、リトルリーグでは低年齢の子供が競技を行う際に、安全性を高めるために硬式野球ボールの硬さおよび反発係数が定められている。リトルリーグの規程では、野球ボールの硬さは、野球ボールを6.35mm圧縮したときの荷重が45lbf(200.17N)未満と定められている。また、野球ボールの反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.45〜0.55と定められている。
【0003】
通常の硬式野球ボールはゴムの中芯の上に毛糸が球状に巻かれ、さらにその上に綿糸が表面が平滑になるように巻かれ、その上から牛革が被されて縫糸で縫合されている。なお、この通常の硬式野球ボールとは異なる構造を有する硬式野球ボールが提案されている。たとえば、特開2002−210043号公報(特許文献1)には、ゴムの中芯を発泡ウレタンの中間芯で包んだ硬式野球ボールが提案されている。
【0004】
また、野球ボールとして硬式野球ボールのほかに軟式野球ボールが使用されている。軟式野球ボールは中芯を有しておらず中空に形成されている。軟式野球ボールではこの中空のため衝撃力は小さくなっている。そのため安全性が確保されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−210043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軟式野球ボールでは、中空にして衝撃力を小さくしているため安全性が高いが、中空にして衝撃力を小さくしているため飛距離が硬式野球ボールに比べて小さくなる。そのため、バットで打った際に硬式野球ボールと同等の飛距離が得られない。
【0007】
また、上記公報の硬式野球ボールでは、ゴムの中芯が発泡ウレタンの中間芯で包まれているが、打球感が通常の硬式野球ボールとほとんど変わらないように形成されている。そのため、上記公報の硬式野球ボールは通常の硬式野球ボールと同等の衝撃力を有している。したがって、上記公報の硬式野球ボールでは通常の硬式野球ボールより安全性を高めることは想定されていない。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、人体に当たった際の安全性を高め、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られる野球ボールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が鋭意検討したところ、野球ボールの内芯および外芯の割合および物性を調整することにより、衝撃力および反力を小さくすることができ、かつ反発係数を大きくすることができることを見出した。これにより、人体に当たった際に安全性が高く、一方バットで打った際によく飛ぶボールを実現できることを見出した。そして、この知見に基づいて、衝撃力および反力を小さくすることで人体に当たった際の安全性を高めることができ、反発係数を大きくすることで硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られる野球ボールが得られることを見出した。
【0010】
本発明の野球ボールは、内芯と、内芯の外周面を覆う外芯とを有する野球ボールであって、野球ボールの内芯および外芯の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である内芯と、野球ボールの内芯および外芯の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である外芯とを備えている。
【0011】
ここで、動的粘弾性の損失係数(tanδ)は、複素弾性率の虚数部分である損失弾性率と複素弾性率の実数部分である貯蔵弾性率との比である。複素弾性率は粘弾性材料に正弦波振動を加えた場合の動的応力と動的ひずみとの差である。
【0012】
発明者等は動的粘弾性の損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることを見出し、弾性率が衝撃力と相関があることを見出した。また、発明者等は内芯および外芯の割合によって衝撃力および反力と反発係数とが変化することを見出した。そのため、内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)と、外芯の弾性率と、内芯および外芯の割合を調整することによって、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は知得した。
【0013】
具体的には、野球ボールの内芯および外芯の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である内芯と、野球ボールの内芯および外芯の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である外芯とを備えることにより、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は知得した。このため、本発明の野球ボールでは、人体に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【0014】
上記の野球ボールは、好ましくは、野球ボールの内芯および外芯が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N以下である。これにより、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力を得ることができる。野球ボールの外層には一般的に天然皮革、人工皮革、合成皮革、布帛やニット素材などの柔らかい材料が使われるので、内芯および外芯に外層を装着した野球ボールでも、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力を得ることができる。
【0015】
上記の野球ボールは、好ましくは、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上である。これにより、硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【0016】
上記の野球ボールは、好ましくは、反発係数が0.55以下であり、かつ野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf未満である。これにより、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。
【0017】
本発明の野球ボールは、内芯と、前記内芯の外周面を覆う外芯とを有する野球ボールであって、内芯の弾性率が1.0Mpa以上1.3MPa以下であり、かつ内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下であり、かつ内芯の直径が34mmである内芯と、外芯の弾性率が0.6Mpa以上1.0MPa以下であり、かつ外芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である外芯と、外芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層と、糸巻層の外周面を覆う外層とを備え、野球ボールの内芯および外芯の外径が70.7mmである。
【0018】
好ましくは、内芯の弾性率が1.1MPaであり、内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10であり、外芯の弾性率が0.95MPaであり、外芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26である。
【0019】
これにより、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は見出した。このため、本発明の野球ボールでは、人体に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の野球ボールによれば、人に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態における野球ボールの概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における野球ボールの変形例1の概略断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における野球ボールの変形例2の概略断面図である。
【図4】実施例における比較例の野球ボールの概略断面図である。
【図5】実施例における比較例および本発明例の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図6】実施例における比較例および本発明例の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図7】実施例における比較例の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図8】実施例における比較例の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図9】実施例における試料の反発係数(解析)と反発係数(実測)との関係を示す図である。
【図10】実施例における試料の反力と衝撃力との関係を示す図である。
【図11】実施例における試料の衝撃力と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図12】実施例における試料の衝撃力と弾性率との関係を示す図である。
【図13】実施例における試料の反発係数とtanδとの関係を示す図である。
【図14】実施例における試料の衝撃力とtanδとの関係を示す図である。
【図15】実施例における試料の反発係数と複素弾性率との関係を示す図である。
【図16】実施例における試料の反発係数と圧縮硬さとの関係を示す図である。
【図17】実施例における本発明例の反力と内芯径との関係を示す図である。
【図18】実施例における本発明例の反発係数と内芯径との関係を示す図である。
【図19】実施例における本発明例の反力と外芯の厚みとの関係を示す図である。
【図20】実施例における本発明例の反発係数と内芯の厚みとの関係を示す図である。
【図21】実施例における本発明例の反力と内芯径との関係を示す図である。
【図22】実施例における本発明例の反発係数と内芯径との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
図1を参照して、本発明の一実施の形態の野球ボール1は、内芯2と、外芯3と、外層4とを主に有している。野球ボール1の中心部には内芯2が配置されている。内芯2の外周面が外芯3で覆われている。外芯3の外周面が外層4で覆われている。内芯2および外芯3の材料は、たとえば発泡ウレタンである。
【0023】
内芯2は、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である。外芯43は、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である。
【0024】
外芯3の厚みは、野球ボール1の半径方向の内芯2の外径から外芯3の外径までの長さである。外層4は、たとえば皮革と、この皮革を縫合する縫糸とを主に有している。外芯3の外周面に皮革が被せられ、この皮革が縫合されることにより外層4が構成されている。
【0025】
また、野球ボール1は、野球ボール1の内芯2および外芯3が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N以下であってもよい。
【0026】
また、野球ボール1は、野球ボール1が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上であってもよい。なお、外層4の影響により野球ボール1の反発係数の値は若干下がる。具体的には反発係数の値は、0.01〜0.02の範囲で0.015程度下がる。そのため、野球ボール1の内芯2および外芯3が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の野球ボール1の内芯2および外芯3の反発係数としては、0.515以上であってもよい。
【0027】
また、野球ボール1は、反発係数が0.55以下であり、かつ野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf(200.17N)未満であってもよい。
【0028】
図2を参照して、本発明の一実施の形態の変形例1の野球ボール1は、外芯3の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層5を有していてもよい。糸巻層5は、たとえば綿糸が外芯3の外周面を覆うように巻かれ、その表面が平滑になるように巻かれている。なお、糸巻層5が巻かれた状態では、糸が巻かれる際の張力で内芯2および外芯3が少し小さくなるため糸が巻かれた後の外径は外芯3の外径とほとんど変わらない。
【0029】
図2を参照して、内芯2は、内芯2の弾性率が1.0Mpa以上1.3MPa以下であり、かつ内芯2の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下であり、かつ内芯2の直径が34mmである。外芯3は、外芯3の弾性率が0.6Mpa以上1.0MPa以下であり、かつ外芯3の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である。糸巻層5では外芯3の外周面を覆うように糸が巻かれている。外層4は糸巻層5の外周面を覆うように設けられている。野球ボール1の内芯2および外芯3の外径は70.7mmである。内芯2と外芯3とが野球ボール1の芯を構成している。野球ボール1の芯の外径は外芯3の外径に相当する。なお、野球ボール1の芯に皮革が貼られて縫糸で縫われた状態での野球ボール1の外周はたとえば230mmであり、野球ボール1の外径はたとえば73.2mmである。
【0030】
さらに、内芯2の弾性率が1.1MPaであり、内芯2の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10であり、外芯3の弾性率が0.95MPaであり、外芯3の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26であることが好ましい。
【0031】
なお、野球ボール1の内芯2および外芯3で構成される芯の外径70.7mm、内芯2の直径34mmは、それぞれ寸法公差±0.2mmを有している。以下、各寸法については同様に寸法公差を有している。
【0032】
図3を参照して、本発明の一実施の形態の変形例2の野球ボール1は、外層4の内側の芯が3層で構成されていてもよい。この変形例2では、内芯2の外周面を覆うように中芯6が設けられている。中芯6の外周面を覆うように外芯3が設けられている。
【0033】
内芯2は、弾性率が1.0MPa以上1.3MPa以下である。弾性率は1.1MPaであることが好ましい。動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下である。動的粘弾性の損失係数(tanδ)は0.10であることが好ましい。内芯2の厚みは、34mmである。
【0034】
中芯6は、弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。弾性率は0.60MPaであることが好ましい。動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である。動的粘弾性の損失係数(tanδ)は0.30であることが好ましい。中芯6の厚みは、2mmである。
【0035】
外芯3は、弾性率が0.6MPa以上1.0MPa以下である。弾性率は0.95MPaであることが好ましい。動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である。動的粘弾性の損失係数(tanδ)は0.26であることが好ましい。外芯3の厚みは、16.35mmである。
【0036】
内芯2、外芯3および中芯6の材料は、たとえば発泡ウレタンである。
なお、上記の変形例1と同様に糸巻層5が設けられていてもよい。この場合、糸巻層5では外芯3の外周面を覆うように糸が巻かれている。
【0037】
次に本発明の一実施の形態の野球ボールの作用効果について説明する。
発明者等は動的粘弾性の損失係数(tanδ)が反発係数と相関があることを見出し、弾性率が衝撃力と相関があることを見出した。また、発明者等は内芯2および外芯3の割合によって衝撃力および反力と反発係数とが変化することを見出した。
【0038】
発明者等が検討したところ、軟式野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の反力は4300N程度である。そのため、野球ボール1が26.82m/sの速度で衝突した際の反力は4300N程度以下であることが求められる。また、リトルリーグの規程には硬式野球ボールの反発係数は0.45〜0.55と定められている。飛距離を得る観点からは軟式野球ボールの反発係数より高い反発係数0.50以上が好ましい。
【0039】
本発明の一実施の形態の野球ボール1によれば、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である内芯2と、野球ボール1の内芯2および外芯3の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である外芯3とを備えている。
【0040】
内芯2の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下であれば反発係数が0.50以上となることを見出した。さらに内芯2の割合が野球ボール1の内芯2および外芯3で構成される芯の外径の20%以上であれば反発係数が上がることを見出した。また外芯3の弾性率が1.5MPa以下であれば衝撃力が80G程度であることを見出した。また外芯3の厚みが野球ボール1の内芯2および外芯3で構成される芯の外径の10%(割合20%)以上であれば反発係数が大きくなることを見出した。
【0041】
これにより、野球ボール1が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N程度以下となり、反発係数が0.50以上となることを見出した。そのため、本発明の一実施の形態の野球ボール1によれば、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と、軟式野球ボールより大きな飛距離が得られ、硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は知得した。
【0042】
したがって、本発明の一実施の形態の野球ボール1では、人体に当たった際の衝撃力および反力が軟式野球ボールと同程度のため、軟式野球ボールのように安全性を高めることができる。また、反発係数が硬式野球ボールと同等およびそれ以上のため、硬式ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。このため、本発明の一実施の形態の野球ボール1では、人体に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【0043】
本発明の一実施の形態の野球ボール1は、野球ボール1の内芯2および外芯3が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N以下であってもよい。この反力4300Nは軟式野球ボールの反力に該当する。そのため、軟式野球ボールと同程度の反力を得ることができる。この4300Nは衝撃力では約80Gに相当する。軟式野球ボールの衝撃力は約80Gと想定可能であるため、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力を得ることもできる。
【0044】
本発明の一実施の形態の野球ボール1は、野球ボール1が26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上であってもよい。この反発係数0.50はリトルリーグの規程に定められた硬式野球ボールの反発係数0.45〜0.55に合致する。そのため、硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【0045】
本発明の一実施の形態の野球ボール1は、反発係数が0.55以下であり、かつ野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf(200.17N)未満であってもよい。リトルリーグの規程には反発係数は0.45〜0.55であり、野球ボール1の外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf(200.17N)未満と定められている。このリトルリーグの規程に合致するため、リトルリーグの規程を満たした野球ボールを提供することができる。
【0046】
本発明の野球ボールは、内芯2と、内芯2の外周面を覆う外芯3とを有する野球ボール1であって、内芯2の弾性率が1.0Mpa以上1.3MPa以下であり、かつ内芯2の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下であり、かつ内芯2の直径が34mmである内芯2と、外芯3の弾性率が0.6Mpa以上1.0MPa以下であり、かつ外芯3の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である外芯3と、外芯3の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層5と、糸巻層5の外周面を覆う外層4とを備えている。野球ボール1の内芯2および外芯3の外径は70.7mmである。
【0047】
さらに、内芯の弾性率が1.1MPaであり、内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10であり、外芯の弾性率が0.95MPaであり、外芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26であることが好ましい。
【0048】
これにより、軟式野球ボールと同程度の衝撃力および反力と硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離が得られることを本発明者等は知得した。このため、本発明の野球ボールでは、人体に当たった際の安全性を高めることができ、かつ硬式野球ボールと同等およびそれ以上の飛距離を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、上記と同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0050】
ここでは、野球ボールの衝撃力および反力を小さくし、かつ反発係数を大きくすることができるかを検討した。
【0051】
表1、図5および図6を参照して、比較例A、B、Cは本発明に対する比較例である。本発明例Dは本発明の実施例である。本発明例Eは本発明の変形例である。図5の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。図6の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。
【0052】
【表1】
【0053】
比較例A、Bは軟式野球ボールである。図4を参照して、比較例Cの野球ボール1は、外層4の内側の芯が一層で構成されている。比較例Cの野球ボール1は外芯3を有しておらず、内芯2の外周面を覆うように外層4が設けられている。比較例Cの材料は、発泡ウレタンである。本発明例D、Eは本発明の野球ボールであり、その芯の外径は70.7mmである。本発明例D、Eは図2に示されるように芯が二層の構造を有している。本発明例D、Eのそれぞれの内芯の径は34mmである。本発明例D、Eの内芯および外芯の材料は、発泡ウレタンである。
【0054】
表1の各項目について説明する。圧縮硬さ(Ibf)は、野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重である。また、反発係数は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数である。また、衝撃力(G)は、野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の衝撃力である。以下、これらの各項目は各表、各図において同様である。
【0055】
圧縮硬さ(Ibf)については、測定機器として株式会社島津製作所製AG−5000Dを使用して、ASTM(American Society for Testing and Materials) F 1888 "Test Method for Compression-Displacement of Baseballs and Softballs1"に準拠した試験方法で測定した。
【0056】
反発係数については、測定機器としてライトゲートを使用して、ASTM F 1887 "Standard Test Method for Measuring the Coefficient of restitution (COR) of Baseballs and Softballs"に準拠した試験方法で測定した。ライトゲートとは、ライトがでている箱をボールが通過すると感知し、速度を算出する計測器である。反発係数は、鉄板衝突後のボールの速度を鉄板衝突前のボールの速度で除した値である。
【0057】
衝撃力(G)については、財団法人製品安全協会の”野球用ヘルメットの認定基準及び基準確認方法”に基づいた試験機を使用して、人頭模型に装着された加速度計によりボールを模型に衝突させたときの加速度を測定して衝撃力を計測した。
【0058】
表1、図5および図6を参照して、圧縮硬さ(Ibf)について比較例A、Bと比べて本発明例D、Eは同等およびそれ以下の値となった。反発係数について比較例A、B、Cと比べて本発明例D、Eは大きな値となった。衝撃力(G)について比較例A、B、Cと比べて本発明例D、Eは近い値となった。本発明例D、Eは、反発係数が0.540〜0.548となった。また、本発明例D、Eは、衝撃力(G)が78.7〜81.6となった。
【0059】
表2および図7および図8を参照して、比較例F〜Iは本発明に対する比較例である。図7の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。図8の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。比較例F〜Iの芯の外径は70.7mmであり、図4に示されるように芯が一層の構造を有している。比較例F〜Iの芯の材料は、発泡ウレタンである。
【0060】
【表2】
【0061】
圧縮硬さ(Ibf)について比較例A、Bと比べて比較例F、Gは同等の値となり、比較例H、Iは大きな値となった。また、比較例F〜Iでは圧縮硬さ(Ibf)と比較して衝撃力(G)の値が変化しにくいことがわかった。より具体的には圧縮硬さ(Ibf)の下がる割合と比較して衝撃力(G)の下がる割合が小さいことがわかった。反発係数について比較例A、Bと比べて比較例F〜Iは同等の値となった。衝撃力(G)について比較例A、Bと比べて比較例F〜Iは非常に大きな値となった。
【0062】
これにより、芯が一層の構造で、軟式野球ボールと同等の反発係数にすると衝撃力(G)は軟式野球ボールの衝撃力(G)より非常に大きくなることがわかった。
【0063】
次に芯に使用する材料の特性を特定した。
まず、芯に使用する材料の特性を求めるために、落下衝撃によるSS曲線と粘弾性試験による粘弾性値を用いてCAE(Computer Aided Engineering)解析を行った。
【0064】
CAE解析では、入力するパラメータとして、オグデン係数(弾性)と緩和関数(粘性)とを用いた。パラメータの算出のために、落錘試験と動的粘弾性試験とを用いた。落錘試験により弾性を測定し、動的粘弾性試験により粘性を測定した。
【0065】
落錘試験は、吉田精機株式会社製の緩衝材用衝撃試験機CST−180を用いて実施した。試験方法として、まず厚さ20mmの試料を用意した。次に外径45mmで一定の重さである錘を一定の高さより試料に対して落下させて、加速度計により変位−加速度曲線を測定した。そして、変位−加速度曲線より応力−ひずみ曲線を算出した。この応力−ひずみ曲線より式(1)に基づいてひずみエネルギー関数の係数μ、αを算出した。μはせん断弾性率であり、αはべき指数である。また式(1)のλは伸長比であり、Kは体積弾性係数であり、Jは体積変化率である。
【0066】
【数1】
【0067】
μ、αを用いて式(2)に基づいて弾性率を算出した。より具体的には応力−ひずみ曲線における初期弾性率を算出した。
【0068】
【数2】
【0069】
動的粘弾性試験は、UBM製Rheogel−E4000を用いて実施した。試験方法として、正弦波振動のひずみから応力を計測した。また入力ひずみと応答応力の位相差を計測することにより温度特性、周波数特性を計測した。
【0070】
そして、周波数温度依存性モードで周波数1、2、4、8、16Hzで強制振動させ2℃/minで昇温させたときの20℃での駆動部と応答部の振幅の比と位相差より複素弾性率を計測した。この計測した結果からメカニカルデザイン社製カーブフィットプログラムにより式(3)に基づいて緩和関数の係数を算出した。式(3)のgは緩和関数であり、γは緩和せん断弾性率であり、τは緩和時間である。
【0071】
【数3】
【0072】
ここで複素弾性率について説明する。まず、弾性率は式(4)に示すように応力σとひずみεとの比(フックの法則)である。複素弾性率は、変形時および回復時に熱として消失したエネルギーを考慮に入れた材料の動的物性値である。式(5)に示すように複素弾性率E*は貯蔵弾性率E’と損失弾性率E"の和である。
【0073】
【数4】
【0074】
【数5】
【0075】
続いて、実測値と解析値に相関があるかを確認して、芯に使用する材料の特性を特定した。表3および図9を参照して、試料イ〜ニを用いて、反発係数の実測値と解析値に相関があるかを検討した。図9の縦軸は反発係数(解析)の大きさを示し、横軸は反発係数(実測)の大きさを示している。反発係数の実測値は、野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数を実際に測定した値である。反発係数の解析値は、日本ESI株式会社製の解析ソフトウェアPAM CRASHで解析した反発係数の値である。
【0076】
【表3】
【0077】
試料イ〜ニは、芯の外径が70.7mmであり、図3に示されるように芯が一層の構造を有している。試料イ〜ニの芯の材料は発泡ウレタンである。
【0078】
表3および図9に示すように試料イ〜ニでは反発係数の解析値である反発係数(解析)と反発係数の実測値である反発係数(実測)とは非常に近い値となり相関があることがわかった。これにより、実測値と解析値に相関があることがわかった。よって、実測値によらず解析値によって測定できることを確認できた。
【0079】
表3および図10を参照して、衝撃力(G)は、野球ボールが26.82m/sの速度で衝突した際の実測値である。反力(kN)は、日本ESI株式会社製の解析ソフトウェアPAM CRASHで解析した値である。図10の縦軸は反力(kN)の大きさを示し、横軸は衝撃力(G)の大きさを示している。試料イ〜ニでは、実測値である衝撃力(G)と解析値である反力(kN)に相関があることがわかった。そして、軟式野球ボールと同程度の衝撃力80G程度にするには、反力は4.3kN程度であればよいことがわかった。
【0080】
続いて、複数の材料の特性を検討した。
表4に示す試料1〜7について、図11〜図16を参照して、反発係数、衝撃力、弾性率、複素弾性率、tanδ(損失係数)の関係について検討した。tanδは、上記複素弾性率E*の貯蔵弾性率E’と損失弾性率E"との比である。
【0081】
【表4】
【0082】
図11を参照して、試料1〜7では、衝撃力(G)と圧縮硬さ(Ibf)には相関がないことがわかった。図11の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。一方、図12を参照して、試料1〜7では、衝撃力(G)と弾性率(MPa)には相関があることがわかった。図12の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸は弾性率(MPa)の大きさを示している。弾性率(Mpa)が0.5Mpa〜1.5MPaの範囲であれば軟式野球ボールと同程度の衝撃力80G程度となることがわかった。
【0083】
図13を参照して、試料1〜7では、反発係数とtanδとは相関があることがわかった。図13の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸はtanδの大きさを示している。そして、tanδが0.3以下であれば、反発係数が0.50以上となることがわかった。tanδが0.3以下であれば、軟式野球ボールの反発係数は表1に示すように0450〜0455であるため、軟式野球ボールより高い反発係数となることがわかった。
【0084】
なお、図14を参照して、試料1〜7では、衝撃力とtanδとは相関がないことがわかった。図14の縦軸は衝撃力(G)の大きさを示し、横軸はtanδの大きさを示している。
【0085】
これにより、衝撃力(G)と弾性率(MPa)には相関があり、反発係数とtanδとが相関があることがわかった。
【0086】
図15を参照して、試料1〜7では、反発係数と複素弾性率(MPa)は相関があることがわかった。図15の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は複素弾性率(MPa)の大きさを示している。
【0087】
図16を参照して、試料1〜7では、反発係数と圧縮硬さ(Ibf)とは相関がないことがわかった。図16の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は圧縮硬さ(Ibf)の大きさを示している。
【0088】
次に、芯が二層の野球ボールの内芯と外芯の肉厚を変化させて、反力と反発係数の変化を検討した。
【0089】
まず、表5、図17および図18を参照して、表1に示す本発明例Dの内芯径を変化させて反力と反発係数の変化を検討した。図17の縦軸は反力(N)の大きさを示し、横軸は内芯径(mm)の大きさを示している。図18の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は内芯径(mm)の大きさを示している。内芯径が24mmで反力4206Nとなり、内芯径が54mmで反力が4278Nとなった。これにより、内芯径が24mm以上54mm以下では反力が4300N以下となることがわかった。また内芯径が24mm以上54mm以下では反発係数が0.546以上0.631以下となることがわかった。
【0090】
【表5】
【0091】
続いて、表6、図19および図20を参照して、表1に示す本発明例Dの内芯の厚みと外芯の厚みを変化させて反力と反発係数の変化を検討した。図19の縦軸は反力(kN)の大きさを示し、横軸は外芯の厚み(mm)の大きさを示している。図20の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は外芯の厚み(mm)の大きさを示している。表6および図19に示すように外芯の厚みが12mmで反力が4292Nとなり、外芯の厚みが23.35mmで反力が4285Nとなった。これにより、外芯の厚みが12mm以上では反力が4292N以下となることがわかった。
【0092】
【表6】
【0093】
また、表6および図20に示すように内芯の厚みが12mmで反力が4285Nとなり、反発係数が0.544となった。内芯の厚みが29.35mmで反力が4310Nとなり、反発係数0.643となった。これにより、内芯の厚みを増すと反力に比べて反発係数が上がることがわかった。
【0094】
次に、芯が二層の野球ボールの外芯の材料を変えて、反力と反発係数の変化を検討した。
【0095】
表7、図21および図22を参照して、芯が二層の野球ボールの内芯と外芯の肉厚を変化させて、反力と反発係数の変化を検討した。図21の縦軸は反力(N)の大きさを示し、横軸は内芯径(mm)の大きさを示している。図22の縦軸は反発係数の大きさを示し、横軸は内芯径(mm)の大きさを示している。内芯の材料は表4の試料1とし、外芯の材料は表4の試料5とした。
【0096】
【表7】
【0097】
表7および図21を参照して、外芯厚み7.0mm(割合20%)で反力が4298Nとなった。これにより、外芯厚みの割合が20%以上で反力が4298N以下になることがわかった。表7および図22を参照して、内芯径14mm(割合20%)で反発係数が0.515となり、内芯径0〜12mmと比べてグラフの傾きが大きくなり、反発係数が大きくなることがわかった。
【0098】
なお、上記の野球ボールにはソフトボールが含まれており、本発明はソフトボールにも適用可能である。ソフトボールの芯の外径は、たとえば93.9mmである。またソフトボールの芯に皮革が貼られて縫糸で縫われた状態でのソフトボールの外周はたとえば305mmでありソフトボールの外径はたとえば97.1mmである。
【0099】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、中実の野球ボールに特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0101】
1 野球ボール、2 内芯、3 外芯、4 外層、5 糸巻層、6 中芯。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内芯と、前記内芯の外周面を覆う外芯とを有する野球ボールであって、
前記野球ボールの前記内芯および前記外芯の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である前記内芯と、
前記野球ボールの前記内芯および前記外芯の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である前記外芯とを備えた、野球ボール。
【請求項2】
前記野球ボールの前記内芯および前記外芯が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N以下である、請求項1に記載の野球ボール。
【請求項3】
前記野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上である、請求項1または2に記載の野球ボール。
【請求項4】
前記反発係数が0.55以下であり、かつ前記野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf未満である、請求項1〜3のいずれかに記載の野球ボール。
【請求項5】
内芯と、前記内芯の外周面を覆う外芯とを有する野球ボールであって、
前記内芯の弾性率が1.0Mpa以上1.3Mpa以下であり、かつ前記内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下であり、かつ前記内芯の直径が34mmである前記内芯と、
前記外芯の弾性率が0.6MPa以上1.0Mpa以下であり、かつ前記外芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である前記外芯と、
前記外芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層と、
前記糸巻層の外周面を覆う外層とを備え、
前記野球ボールの前記内芯および前記外芯の外径が70.7mmである、野球ボール。
【請求項1】
内芯と、前記内芯の外周面を覆う外芯とを有する野球ボールであって、
前記野球ボールの前記内芯および前記外芯の外径の20%以上80%以下の寸法に形成されており、かつ動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.3以下である前記内芯と、
前記野球ボールの前記内芯および前記外芯の外径の10%以上40%以下の厚みに形成されており、かつ弾性率が1.5MPa以下である前記外芯とを備えた、野球ボール。
【請求項2】
前記野球ボールの前記内芯および前記外芯が26.82m/sの速度で衝突した際の反力が4300N以下である、請求項1に記載の野球ボール。
【請求項3】
前記野球ボールが26.82m/sの速度で鉄板に衝突した際の反発係数が0.50以上である、請求項1または2に記載の野球ボール。
【請求項4】
前記反発係数が0.55以下であり、かつ前記野球ボールの外径を6.35mm圧縮した際の荷重が45Ibf未満である、請求項1〜3のいずれかに記載の野球ボール。
【請求項5】
内芯と、前記内芯の外周面を覆う外芯とを有する野球ボールであって、
前記内芯の弾性率が1.0Mpa以上1.3Mpa以下であり、かつ前記内芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.10以上0.20以下であり、かつ前記内芯の直径が34mmである前記内芯と、
前記外芯の弾性率が0.6MPa以上1.0Mpa以下であり、かつ前記外芯の動的粘弾性の損失係数(tanδ)が0.26以上0.30以下である前記外芯と、
前記外芯の外周面を覆うように糸が巻かれた糸巻層と、
前記糸巻層の外周面を覆う外層とを備え、
前記野球ボールの前記内芯および前記外芯の外径が70.7mmである、野球ボール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−34773(P2012−34773A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176297(P2010−176297)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
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