説明

野球又はソフトボール用バット及びそれの製造方法

【課題】FRP素材と金属素材の夫々からなる打球部材と握持部材とを接合して構成されている野球又はソフトボール用バットの強度を効果的に向上させる。
【解決手段】FRP製の打球用筒体18が打球部1に内嵌状態で設けられている野球又はソフトボール用バットであって、打球用筒体18のバット長さ方向両端部18aは打球部1の内周面に接着されているとともに、打球用筒体18のバット長さ方向中間部18bは打球部1の内周面に接着されていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種素材を接合して構成されている野球又はソフトボール用バット及びそれの製造方法に関する。詳しくは、FRP素材と金属素材の夫々からなる打球部材と握持部材とを接合して構成されている野球又はソフトボール用バット及びそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の野球又はソフトボール用バットとしては、FRP製の握持部材の円筒状の接合端部を金属製の打球部材の円筒状の被接合端部に内挿した状態で、それらの相対向面どうし、すなわち、打球部材の被接合端部の内周面と握持部材の接合端部の外周面を接着剤により接着することで、打球部材と握持部材とを接合したものがある(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−299756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来の野球又はソフトボール用バットでは、金属製の打球部材のたわみ量が非常に小さいことに対し、打球部材の内周面と握持部材の外周面との接着だけで打球部材と握持部材とを接合しているため、打球時において打球部材に衝撃力が加わった際、打球部材の被接合端部の端面側(すなわち、握持部材側)が接着剤の接着力に抗して握持部材の外周面から離れる形態で、打球部材が握持部材に対して傾動し易い。
【0005】
そのため、例えば、バットの外周面に塗装を施した場合では、打球時の前記傾動の発生によって打球部材と握持部材との境界付近で段差が生じ、その段差部分で塗装割れが発生する問題がある。また、打球時の前記傾動の発生によってFRP製の握持部材の接合端部が大きく曲げ変形され、その大きな曲げ変形により握持部材が破損する問題もある。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、打球部材と握持部材の接合構造の合理的な改良により上記問題点を効果的に解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
金属製の打球部材とFRP製の握持部材とを接合して構成されている野球又はソフトボール用バットであって、
前記握持部材の接合端部には、前記打球部材の被接合端部における内周面又は外周面のうちの一方に対して接着される接着片部と、この接着片部の接着状態において打球部材の被接合端部における内周面又は外周面のうちの他方に対して接当する接当片部とが一体成形されていてもよい。
【0008】
本構成によれば、握持部材の接合端部に形成された接着片部の接着状態、すなわち、打球部材の被接合端部の内周面又は外周面のうちの一方(被接着面)に対する接着状態において、握持部材の接合端部に形成された接当片部が打球部材の被接着面の反対側面に対して接当する。そのため、握持部材の接当片部と接着片部とでもって打球部材の被接合端部を挟み込み拘束する状態で、打球時に打球部材が握持部材に対して傾動するのを効果的に抑止することができる。
【0009】
従って、バットの外周面に塗装を施した場合でも、打球時に打球部材と握持部材との境界付近で塗装割れが発生するのを効果的に抑止することができる。また、打球時における握持部材の接合端部の曲げ変形量を低減して、打球時に握持部材が破損するのを効果的に抑止することができる。これらのことから、実用性の面で優れたものとすることができる。
【0010】
また、前記接着片部が、前記打球部材の被接合端部における内周面に対して接着されていてもよい。
【0011】
つまり、例えば、FRP製の野球又はソフトボール用バットを製造する際には、加熱によりFRP素材を成型するプリプレグをバット径方向外側に押圧するのに、加圧用チューブ等の押圧手段を用いている。
【0012】
そして、本構成によれば、握持部材の接着片部を打球部材の被接合端部の内周面に対して押し付ける形態で握持部材と打球部材とを接合することができるから、加圧用チューブ等の既存の押圧手段を活用して握持部材と打球部材とを接合することができる。よって製造コストの低廉化を図ることができる。
【0013】
また、前記接当片部が、前記打球部材の被接合端部における外周面に対して接着されていてもよい。
【0014】
本構成によれば、握持部材の接合側端部に形成された接当片部と接着片部の両方でもって、打球部材の被接合端部の外周面と内周面の両面に接着される。そのため、打球部材と握持部材との接着面積を広く確保して、打球部材と握持部材との接着力を大きくすることができる。よって、打球時の衝撃力によって打球部材が握持部材に対して傾動するのを一層効果的に抑止することができる。
【0015】
また、前記打球部材の被接合端部は、それの内周面がバット手元側ほど外周面側に変位する形態でバット手元側ほど薄肉に形成されていてもよい。
【0016】
本構成によれば、バット全体としての質量の増加を極力抑止しながら、FRP製の握持部材について、それの接合端部の付け根側ほど質量を増大させる形態でFRP素材の質量を増加させることができる。よって、握持部材の接合端部の強度を効果的に向上させて、打球時に握持部材が破損するのを一層効果的に抑止することができる。
【0017】
また、前記打球部材の被接合端部の端面が、バット径方向外側ほどバット先端側に位置する傾斜面形状に形成されている点にある。
【0018】
本構成によれば、前記打球部材の被接合端部の外周面に対して接当する接当片部を前記握持部材に形成することに対し、打球部材の被接合端部の端面に対応する接当片部の付け根部位(バット手元側部位)の厚みを極力大きくすることができる。同時に、接当片部の付け根部位における内周面の屈曲角度も緩やかにすることができる。よって、接当片部の強度を効果的に高めることができる。
【0019】
また、前記打球部材の被接合端部には、それの外周面がバット径方向内側に縮径した接当部用の装着部が形成されていてもよい。
【0020】
本構成によれば、バット接合状態において打球部材から握持部材に亘る部位の外周面に段差、詳しくは、握持部材側が凸となる段差が生じるのを抑止する、或いは、段差を小さくすることができる。その分、打球部材から握持部材に亘る部位で打球した場合の衝撃力を打球部材と握持部材とに効果的に分散させることができる。よって、打球時の衝撃力が握持部材に集中的に伝達されるのを抑止して、打球時における握持部材の損傷を一層効果的に抑止することができる。
【0021】
また、前記装着部が、バット接合状態において前記接当片部の端面との間に隙間を形成する形態で構成されていてもよい。
【0022】
本構成によれば、バット接合状態において接当片部の端面が装着部の一部(例えば、端面)に接触するのを防止することができる。よって、打球時に装着部の一部から接当片部の端面に直接的に衝撃力が伝達されることで接当片部が損傷する不具合を効果的に抑止することができる。
【0023】
また、バット接合状態において接当片部の端面との間に隙間を形成しない形態で装着部を構成する場合に比べ、製造時の製作精度を低くすることができる。よって、製造コストの低廉化も図ることができる。
【0024】
また、前記接当片部が、0.1mm〜1.0mmの厚み寸法で形成されていてもよい。
【0025】
つまり、一般の野球又はソフトボール用バットが少なくとも1年以上使用される。そこで、接当片部の厚み寸法を変更して実験したところ、接当片部の厚み寸法が0.1mm未満の場合では、1年未満の継続使用で握持部材(バットの外周面に塗装を施した場合では、打球部材と握持部材との境界付近の塗装面)に損傷が生じることを知見した。また、接当片部の厚み寸法が1mmを超える場合では、製作材料は増量化されるものの握持部材に損傷が生じるまでの期間はあまり変化しないことを知見した。これらのことから、接当片部が、0.1mm〜1.0mmの厚み寸法で形成されている本構成であれば、実用上の使用強度を効果的に得ることができる。
【0026】
金属製の打球部材とFRP製の握持部材とを接合して構成されているとともに、前記握持部材の接合端部には、前記打球部材の被接合端部における内周面又は外周面のうちの一方に対して接着される接着片部と、この接着片部の接着状態において打球部材の被接合端部における内周面又は外周面のうちの他方に対して接当する接当片部とが一体成形され、前記接着片部が、前記打球部材の被接合端部における内周面に対して接着され、前記接当片部が、前記打球部材の被接合端部における外周面に対して接着されている野球又はソフトボール用バットの製造方法であって、
加熱により前記握持部材を成形する内側成形部材と外側成形部材との間に前記打球部材の被接合端部を配置してバット成形部材を組み付けたのち、内側成形部材を第1押圧手段により打球部材の内周面に対して押し付ける状態で、且つ、外側成形部材を第2押圧手段により打球部材の外周面に対して押し付ける状態で、バット成形部材をバット成形用の金型で加熱するのもよい。
【0027】
例えば、前記握持部材の接合端部に一体形成した前記接着片部が、前記打球部材の被接合端部における内周面に対して接着されているとともに、握持部材の接合端部に一体形成した握持部材の前記接当片部が、前記打球部材の被接合端部における外周面に対して接着されている野球又はソフトボール用バットを製造するのに、以下の製造方法を採用することも考えられる。
【0028】
すなわち、内側成形部材と外側成形部材との間に打球部材の被接合端部を配置してバット成形部材を組み付けたのち、内側成形部材を押圧手段により打球部材の内周面に対して押し付けることで、外側成形部材を打球部材の外周面と金型の内周面とに挟圧させる形態で外側成形部材も打球部材の外周面に押し付ける。
【0029】
しかし、この製造方法では、内側成形部材と外側成形部材との間に配置された金属製の打球部材によって押圧手段による押圧力が受け止められるため、外側成形部材を打球部材の外周面に十分な押圧力で押圧することができない。よって、内側成型部材の強度及び内側成型部材と打球部材との接着強度は得ることができるものの、外側成形部材の強度及び外側成型部材と打球部材との接着強度が十分には得られない。
【0030】
それに対し、本構成によれば、第1押圧手段によって内側成形部材を打球部材の内周面に所定の押圧力で押し付け、第2押圧手段によって外側成形部材を打球部材の外周面に所定の押圧力で押し付ける。そのため、内側成型部材の強度及び内側成型部材と打球部材との接着強度を得ることができながら、外側成形部材の強度及び外側成型部材と打球部材との接着強度も十分に得ることができる。
【0031】
また、前記第2押圧手段として加熱により膨張する膨張部材を前記外側成形部材と前記バット成形用の金型との間に配置しておくのもよい。
【0032】
本構成によれば、前記金型でバット成形部材を加熱する際、前記膨張部材が金型の内方側(つまり、外側成型部材の側)に自動的に膨張するから、当該膨張部材の膨張により外側成形部材を打球部材の外周面に対し自動的に押し付けることができる。よって、製造作業の簡略化を図ることができる。
【0033】
また、前記第2押圧手段として加熱により縮径する縮径部材を前記外側成形部材に外装しておくのもよい。
【0034】
本構成によれば、バット成形用の金型でバット成形部材を加熱する際、外側成形部材に外装した縮径部材が自動的に縮径するから、当該縮径部材の縮径により外側成形部材の外周面を締め付ける形態で外側成形部材を打球部材の外周面に対し自動的に押し付けることができる。よって、製造作業の簡略化を図ることができる。
【0035】
また、既存のバット成形用の金型(すなわち、FRP製の野球又はソフトボール用バットの成形用の金型)をそのまま活用することができる。よって、第2押圧手段が組み付けられたバット成形用の金型を新たに製作・購入する場合に比べて製造コストの低廉可を図ることができる。
【0036】
また、前記膨張部材を前記バット成形用の金型における前記外側成形部材に対面する部位に予め配設しておくのもよい。
【0037】
本構成によれば、製造工程において前記膨張部材を前記外側成形部材と前記バット成形用の金型との間に配置する作業を省くことができる。よって、製造工程の短縮化を図ることができる。
【0038】
金属製の打球部材とFRP製の握持部材とを接合して構成されているとともに、前記握持部材の接合端部には、前記打球部材の被接合端部における内周面又は外周面のうちの一方に対して接着される接着片部と、この接着片部の接着状態において打球部材の被接合端部における内周面又は外周面のうちの他方に対して接当する接当片部とが一体成形され、前記接着片部が、前記打球部材の被接合端部における内周面に対して接着され、前記接当片部が、前記打球部材の被接合端部における外周面に対して接着されている野球又はソフトボール用バットにおける打球部材に、FRP製の打球用筒体が内嵌状態で設けられている野球又はソフトボール用バットの製造方法であって、
加熱により前記握持部材を形成する内側成形部材と外側成形部材との間に前記打球部材の被接合端部を配置するとともに、加熱により前記打球用筒体を形成する筒体成形部材を前記打球部材の内部に配置してバット成形部材を組み付けたのち、第1押圧手段により内側成形部材及び筒体成形部材を打球部材の内周面に対して押し付ける状態で、且つ、第2押圧手段により外側成形部材を打球部材の外周面に対して押し付ける状態で、バット成形部材をバット成形用の金型で加熱するのもよい。
【0039】
つまり、野球又はソフトボール用バットの打球部にFRP製の打球用筒体を内嵌状態で設ければ、強度が高まることや軽量化につなげられることが知られている。そして、本構成によれば、内側成形部材を打球部材の内周面に押し付ける第1押圧手段によって筒体成型部材を打球部材の内周面に押し付ける。よって、筒体成型部材を打球部材の内周面に押し付ける専用の押圧手段や押圧工程を加えることなく、金属製の打球部材とFRP製の握持部材を接合するのに加えて打球部材に打球用筒体を内装状態で設けた野球又はソフトボール用バットを製造することができる。
【0040】
また、前記バット成形部材を前記金型で加熱するのに先立ち、前記筒体成型部材と前記打球部材との接着を阻害する接着阻害部材を筒体成型部材と打球部材との間に介装しておく、又は、筒体成型部材と打球部材との接着を阻害する接着阻害剤を筒体成型部材の外周面又は打球部材の内周面に塗布しておくのもよい。
【0041】
つまり、FRP製の打球用筒体が打球部材に内嵌状態で設ける場合、打球部材と打球用筒体との間が非接着状態であれば、ボールに対する反発力が更に高まることが知られている。そして、本構成によれば、筒体成型部材を打球部材の内周面に押し付ける専用の押圧手段や押圧工程を加えることなく、金属製の打球部材とFRP製の握持部材を接合するのに加えて打球部材に打球用筒体を内嵌状態且つ非接着状態で設けた野球又はソフトボール用バットを製造することができる。
【0042】
FRP製の打球部材と金属製の握持部材とを接合して構成されている野球又はソフトボール用バットであって、
前記打球部材の接合端部には、握持部材の被接合端部における内周面又は外周面のうちの一方に対して接着される接着片部と、この接着片部の接合状態において握持部材の被接合端部における内周面又は外周面のうちの他方に対して接当する接当片部とが一体成形されていてもよい。
【0043】
本構成によれば、FRP製の打球部材の接当片部と接着片部とでもって金属製の握持部材の被接合端部を挟み込み拘束する状態で、打球時に握持部材が打球部材に対して傾動するのを効果的に抑止することができる。
【0044】
本発明の第1特徴構成は、FRP製の打球用筒体が打球部に内嵌状態で設けられている野球又はソフトボール用バットであって、
前記打球用筒体のバット長さ方向両端部は前記打球部の内周面に接着されているとともに、打球用筒体のバット長さ方向中間部は打球部の内周面に接着されていない点にある。
【0045】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成記載の野球又はソフトボール用バットの製造方法であって、
加熱により前記打球用筒体を形成する筒体成形部材を金属製の前記打球部の内部に配置したのち、押圧手段により筒体成形部材を打球部の内周面に対して押し付ける状態でバット成形用の金型で加熱するとともに、
前記金型で加熱するのに先立ち、前記筒体成形部材と前記打球部との接着を阻害する接着阻害部材を筒体成形部材と打球部との間のうちの筒体成形部材のバット長さ方向中間部と打球部との間のみに介装する、又は、その部位に位置する筒体成形部材の外周面又は打球部の内周面に筒体成形部材と打球部との接着を阻害する接着阻害剤を塗布する点にある。
【0046】
本発明の第3特徴構成は、前記筒体成型部材と前記打球部との間のうち、筒体成型部材のバット長さ方向両端部と打球部との間のみにFRPと金属との接着力を向上させる接着補助テープを介装する点にある。
【0047】
本発明の第4特徴構成は、前記筒体成形部材と前記打球部との接着を阻害する接着阻害部材として、又は、これに併せて、熱膨張性又は弾性或いはそれらの両方の性状を有する部材を筒体成型部材と打球部との間に介装する点にある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】野球又はソフトボール用バットの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】野球又はソフトボール用バットの第1実施形態を示す側面断面図である。
【図3】野球又はソフトボール用バットの第1実施形態における要部の側面断面図である。
【図4】野球又はソフトボール用バットの第1実施形態における要部の側面断面図である。
【図5】野球又はソフトボール用バットの第1実施形態における打球部材要部の説明斜視図である。
【図6】野球又はソフトボール用バットの第1実施形態における製造方法を示す説明図である。
【図7】野球又はソフトボール用バットの第2実施形態における製造方法を示す説明図である。
【図8】野球又はソフトボール用バットの第3実施形態における要部の側面断面図である。
【図9】野球又はソフトボール用バットの第4実施形態における要部の側面断面図である。
【図10】野球又はソフトボール用バットの第4実施形態における製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
〔第1実施形態〕
図1、図2は、本発明に係る野球又はソフトボール用バットTを示す。1はバット先端側の金属製(本例では、アルミ合金製)の打球部材、2はバット手元側のFRP製の握持部材である。打球部材1の先端部には、先端側開口部1aを閉塞するエンドキャップ3が取り付けられている。
【0050】
前記打球部材1は、バット先端側の円筒状の打球部1Aとバット手元側の円錐台筒状の収斂部1Bとを有する略末細り円筒形状に構成されている。一方、前記握持部材2は、バット先端側の円錐台筒状の先広がり部2Aとバット手元側のグリップエンド部2Cとそれらの間の細円筒状のグリップ部2Bとを有する略先広がり円筒形状に構成されている。
【0051】
そして、打球部材1の収斂部1Bにおけるバット手元側部位(被接合端部)4と、握持部材2の先広がり部2Aにおけるバット先端側部位(接合端部)5とを接合して前記バットTが構成されている。
【0052】
前記握持部材2の接合端部5には、図3、図4に示すように、前記打球部材1の被接合端部4の内周面4aに対して周接状態で接着(本例では、面接着)される筒状の接着片部5Aが一体成形されている。また、前記接合端部5には、前記接着片部5Aの接着状態において打球部材1の被接合端部4の外周面4bに対して周接状態で接当(本例では、面接当)する筒状の接当片部5Bが一体成形されている。
【0053】
そのため、握持部材2の接着片部5Aと接当片部5Bとをもって打球部材1の被接合端部4を内外方向から挟み込む状態で拘束して、打球時において打球部材1の被接合端部4が握持部材2の接合端部5に対して傾動(或いは、姿勢変更)するのを効果的に抑止する。
【0054】
なお、本例では、前記接当片部5Bも、打球部材1の被接合端部4の外周面4bに対して周接状態で接着されている。そのため、接当片部5Bと接着片部5Aの両方でもって打球部材1の接合側端部4を挟み込む形態(さらに詳しくは、接当片部5Bと接着片部5Aとそれらの連結部とをもって打球部材1の被接合端部4を三方から包み込む形態)で打球部材1と握持部材2との接着面積を高く確保する。
【0055】
前記接着片部5Aのバット長手方向長さW1は、好適には30mm〜120mmの範囲、本例では、約70mmの長さ寸法で構成されている。また、接着片部5Aの厚みD1は、好適には1mm〜10mmの範囲、本例では、約2.5mmの厚み寸法で構成されている。
【0056】
一方、前記接当片部5Bのバット長手方向長さW2は、好適には3mm〜40mmの範囲、本例では、約10mmの長さ寸法で構成されている。また、接当片部5Bの厚みD2は、好適には0.1mm〜1.0mmの範囲、より好適には0.2mm〜0.6mmの範囲、本例では、0.4mmの厚み寸法で構成されている。
【0057】
つまり、一般の野球又はソフトボール用バットが少なくとも1年以上使用される。そこで、接当片部5Bの厚みを変更して実験を行ったところ、接当片部5Bの厚みD2が0.1mm未満の場合では、1年未満の継続使用で握持部材2(バットTの外周面に仕上塗装を施した場合では、打球部材1と握持部材2との境界付近の塗装面)に損傷が生じることを知見した。また、接当片部5Bの厚みD2が1mmを超える場合では、製作材料は増量化されるものの、握持部材2に損傷が生じるまでの期間はあまり変化しないことを知見した。以上のことから、前記野球又はソフトボール用バットTは、前記接当片部5Bの厚みD2を上記の厚み寸法で構成することで、実用上の使用強度を効果的に得るようにしてある。
【0058】
前記打球部材1の被接合端部4は、図3〜図5に示すように、それの内周面4aが境界部4cを変位始点としてバット手元側ほど外周面4bの側に変位する形態でバット手元側ほど薄肉に形成されている。そのため、バット全体の質量の増加を極力抑止しながらも、握持部材2の接合端部5において打球部材1の端面側に対応する付け根側ほどFRP素材の質量を大きく確保する。
【0059】
なお、前記境界部4cは滑らかな曲面形状に形成されており、打球時において握持部材2の接合端部5の外周面に対し境界部4cにより局部的な衝撃力が加わるのを極力抑止する。
【0060】
打球部材1の被接合端部4の端面4dは、バット径方向外側ほどバット先端側に位置する傾斜面形状に形成されている。そのため、握持部材2の接当片部5Bの付け根部位(バット手元側部位)の厚みを極力大きく確保するとともに、接当片部5Bの内周面における付け根部位の屈曲角度を極力緩やかにする。
【0061】
さらに、打球部材1の被接合端部4には、それの外周面4bがバット径方向内側に縮径した接当片部5B用の環状の装着部4eが形成されている。そのため、バット接合状態において打球部材1から握持部材2に亘る部位の外周面に段差が生じるのを効果的に抑止する。
【0062】
具体的には、装着部4eの深さD3は、接当片部5Bの厚み寸法と同様の寸法で構成されている。また、装着部4eのバット長手方向長さW3は、バット接合状態において接当片部5Bの端面5bと装着部4eの端面4fとの間に隙間Sを形成する長さ寸法で構成されている。本例では、装着部4eのバット長手方向長さW3は、接当片部5Bのバット長手方向長さW2が10mmで形成されていることに対して、12mmの長さ寸法で形成されている。
【0063】
6は、打球部材1と握持部材2との接合箇所を平滑に仕上げるために隙間Sに埋め込まれたパテ材である。
【0064】
つまり、接当片部5Bの端面5bと装着部4eの端面4fとの間の隙間S(具体的には、パテ材6)でもって、打球時に装着部4eの崖面4fから接当片部5Bの端面5bに衝撃力が伝達されるのを抑止するとともに、製造時の製作精度の許容範囲を極力広く確保する。
【0065】
次に、上述の如く構成されたバットTの製造方法について説明する。
(a)打球部材1の成形(図示しない)
まず、アルミ合金パイプをスウェージング加工により整形したのち、熱処理を行って強度を確保する。そして、アルミ合金パイプの外周面に対して縦磨き加工、アルマイト加工、仕上印刷加工を施す。
【0066】
次に、アルミ合金パイプにおける握持部材2が接合される部分を研磨して、その部分だけアルマイト加工により皮膜した酸化アルミニウムを取り除いたのち、その部分を切屑加工して被接合端部4を形成する。以上の工程を経て、打球部材1の成形を完了する。
(b)握持部材2を構成する内側成形部材8の形成
図6(a)に示すように、加熱によりFRP素材を構成するプリプレグ8aをマンドレル7に対し積層状態で巻き付けて、握持部材2を構成する内側成形部材8を形成する。
【0067】
(c)バット成形部材10の組み付け
前記(b)の工程で形成した内側成形部材8の外周面のうち、打球部材1に接着される部位(つまり、握持部材2の接着片部5に相当する部位)にFRPと金属との接着力を向上させる市販の接着補助テープ(図示しない)を巻き付ける。その後、図6(b)に示すように、打球部材1の手元側開口部1bから内側成形部材8のバット手元側部位を引き出す状態で内側成形部材8を打球部材1の先端側開口部1aから打球部材1の内部に挿入し、内側成形部材8と打球部材1とを所定の相対位置(本例では、内側成型部材8のバット先端側部位が打球部材1のバット手元側部位に対して引っ掛る位置)に配置する。
【0068】
次に、内側成型部材8と打球部材1との境界部を覆う状態で上記同様の接着補助テープ(図示しない)を内側成形部材8と打球部材1の外周面に巻き付けたのち、図6(c)に示すように、その接着補助テープの外周面にFRPシート9aを巻き付けて、握持部材2を構成する外側成形部材9を形成する。以上の工程を経て、バット成形部材10の組み付けを完了する。
【0069】
(d)バットTの成形
図6(d)に示すように、空気圧(又は液圧)で膨張する加圧用チューブ11を前記(ハ)の工程で組み付けたバット成形部材10の内部にマンドレル7に代えて挿入する。また、外側成形部材9の外周面に対して加熱収縮性を有する加熱収縮テープ12(加熱により縮径する縮径部材の一例)を巻き付ける。
【0070】
当該加熱収縮テープ12は、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(Oriented polypropylene film)から約30μmの厚み寸法で構成されている。当該加熱収縮テープ12の性状は以下のとおりである。なお、各測定値は、日本工業規格(通称:JIS規格)による。
縦方向(テープ長さ方向)の収縮率:約2.5%(120℃で15分間加熱)
横方向(テープ幅方向)の収縮率:約0.3%(120℃で15分間加熱)
縦方向の引っ張り強さ:約19.1kg/mm
横方向の引っ張り強さ:約26.6kg/mm
縦方向の伸び率:約103%
横方向の伸び率:約57%
【0071】
次に、図6(e)に示すように、加圧用チューブ11と加熱収縮テープ12を取り付けたバット成形部材10をバット成形用の金型13(例えば、FRP製のバット成形用の既存の金型)の内部に入れ、FRP製のグリップエンド14を取り付けて金型13を閉じる。その後、加圧用チューブ11を膨張させて、加圧用チューブ11により打球部材1の被接合端部4の内周面4aと金型13の内周面とに対して内側成形部材8を押し付ける状態でバット成形部材10を加熱する。
【0072】
このとき、金型13による加熱により外側成形部材9の外周面に巻装した加熱収縮テープ12が縮径するので、加熱収縮テープ12により外側成形部材9が締め付けられる形態で外側成形部材9が打球部材1の被接合端部4の外周面4bに押し付けられる。
【0073】
そして、加熱により一体成形されたバット成形部材10を金型13から取り出して、バット成形部材10の外周面に対して研磨、パテ加工、印刷、塗装等の仕上げ工程を行う。その後、エンドキャップ3の取り付け工程、グリップ部2Bのレザー巻き工程を経てバットTの成形を完了する。
【0074】
つまり、この製造方法は、加圧用チューブ11と加熱収縮テープ12の夫々による押圧力でもって内側成形部材8の外周面と打球部材1の内周面、及び、外側成形部材9の内周面と打球部材1の外周面の夫々について所定の接着強度を効果的に得ることができる。しかも、既存のバット成形用の金型13をそのまま活用することができて、製造コストの低廉可も効果的に達成することができる。
【0075】
なお、本実施形態において、加圧用チューブ11は、内側成形部材8を打球部材1の内周面に対して押し付ける第1押圧手段に相当し、加熱収縮テープ12は、外側成形部材9を打球部材1の外周面に対して押し付ける第2押圧手段に相当する。
【0076】
〔第2実施形態〕
前述の第1実施形態では、加熱により縮径する縮径部材の一例である加熱収縮テープ12を第2押圧手段として外側成形部材9に外装する場合を例に示した。これに代え、図7(a)に示すように、加熱により膨張する膨張部材の一例であるシリコンゴム製のパッド18を第2押圧手段として金型19の内周面に予め配設(図示の例では組付)していてもよい。
【0077】
この場合、野球又はソフトボール用バットTの製造工程において、図7(b)に示すように、外側成形部材9の外周面に加熱収縮テープ12を配設することなく、空気圧(又は液圧)で膨張する加圧用チューブ11を挿入したバット成形部材10をバット成形用の金型13の内部に入れ、バット成形部材10にFRP製のグリップエンド2dを取り付けて金型13を閉じる。その後、加圧用チューブ11を膨張させて、加圧用チューブ11により打球部材1の被接合端部4の内周面4aと金型13の内周面とに内側成形部材8を押し付ける状態でバット成形部材10を加熱する。
【0078】
なお、その他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同一であるから、同一の構成箇所には、第1実施形態と同一の番号を付記してそれの説明は省略する。
【0079】
〔第3実施形態〕
前述の各実施形態では、FRP製の握持部材2の接合端部5に、金属製の打球部材1の被接合端部4における内周面4aに対して接着される接着片部5Aと、この接着片部5Aの接着状態において打球部材1の被接合端部4における外周面4bに対して接当する接当片部5Bとが一体成形されている場合を例に示した。これに代え、図8に示すように、FRP製の打球部材14の接合端部15に、金属製の握持部材16の被接合端部17における内周面17aに対して接着される接着片部15Aと、この接着片部15Aの接着状態において握持部材16の被接合端部17における外周面17bに対して接当する接当片部15Bとが一体成形されていてもよい。
【0080】
なお、FRP製の打球部材14の接合端部15の具体的構成は、第1実施形態で説明したFRP製の握持部材2の接合端部5と同様であるので、その説明は省略する。また、金属製の握持部材16の被接合端部17の具体的構成は、第1実施形態で説明した金属製の打球部材1の被接合端部4と同様であるので、その説明は省略する。
【0081】
〔第4実施形態〕
前述の第1、第2実施形態で示した野球又はソフトボール用バットTの改良として、打球部材1の内部にFRP製の円筒状の打球用筒体18が内嵌状態で設けられていてもよい。
【0082】
前記打球用筒体18は、図9に示すように、打球部材1の内周面に周接する状態で打球部材1のバット長さ方向中間部に配設されている。当該打球用筒体18のバット長さ方向両端部18aは、打球部材1の内周面に接着されている。一方、打球用筒体18のバット長さ方向中間部18bは、打球部材1の内周面とは接着されていない。
【0083】
そのため、打球用筒体18のバット長さ方向中間部18bは、打球部材1とは独立して弾性変形することができる。よって、この野球又はソフトボール用バットTでは、打球部材1と打球用筒体18の各々の弾性変形によってボールに反発力を付与し、ボールの飛距離を向上させることができる。
【0084】
次に、上述の如く構成された野球又はソフトボール用バットTの製造方法について説明する。なお、打球部材1、内側成形部材8の成形工程は、第1実施形態で説明した内容と同様であるので、その説明は省略する。
【0085】
(a)打球用筒体18を構成する筒体成形部材19の形成
打球部材1、内側成形部材8とは別に、加熱によりFRP素材を構成するプリプレグから円筒状の筒体成形部材19を形成する。そして、図10(a)に示すように、前記筒体成形部材10の外周面のうち、バット長手方向両端部には、前記接着補助テープ(図示しない)を巻き付ける。また、筒体成形部材19の外周面のうち、バット長手方向中間部には、筒体成型部材19と打球部材1との接着を阻害する接着阻害シート20(接着阻害部材の一例)を巻き付ける。なお、当該接着阻害シート20は、幅広の2軸延伸ポリプロピレンフィルムから構成されている。
【0086】
(b)バット成形部材10の組み付け
前述した第1実施形態と同様、前記内側成形部材8の外周面のうち、打球部材1に接着される部位に前記接着補助テープ(図示しない)を巻き付ける。その後、打球部材1の手元側開口部1bから内側成形部材8のバット手元側部位を引き出す状態で内側成形部材8を打球部材1の先端側開口部1aから打球部材1の内部に挿入し、内側成形部材8と打球部材1とを図10(a)に示す所定の相対位置に配置する。
【0087】
次に、内側成型部材8と打球部材1との境界部を覆う状態で上記同様の接着補助テープを内側成形部材8と打球部材1の外周面に巻き付けたのち、図10(a)に示すように、その接着補助テープの外周面にFRPシート9aを巻き付けて、握持部材2を構成する外側成形部材9を形成する。また、筒体成形部材10を打球部材1の先端側開口部1aから打球部材1の内部に挿入し、打球部材1のバット長手方向中間部に配置する。以上の工程を経て、バット成形部材10の組み付けを完了する。
【0088】
(c)バットTの成形
図10(b)に示すように、空気圧(又は液圧)で膨張する加圧用チューブ11を前記(b)の工程で組み付けたバット成形部材10の内部にマンドレル7に代えて挿入する。また、外側成形部材9の外周面に対して加熱収縮性を有する加熱収縮テープ12(加熱により縮径する縮径部材の一例)を巻き付ける。
【0089】
次に、図10(c)に示すように、加圧用チューブ11と加熱収縮テープ12を取り付けたバット成形部材10をバット成形用の金型13の内部に入れ、FRP製のグリップエンド14を取り付けて金型13を閉じる。その後、加圧用チューブ11を膨張させて、加圧用チューブ11の膨張圧で打球部材1の被接合端部4の内周面4aと金型13の内周面とに対して内側成形部材8を押し付ける状態で、且つ、打球部材1の内周面に対し筒体成形部材19を押し付ける状態でバット成形部材10を加熱する。
【0090】
そして、加熱により一体成形されたバット成形部材10を金型13から取り出して、バット成形部材10の外周面に対して研磨、パテ加工、印刷、塗装等の仕上げ工程を行う。その後、エンドキャップ3の取り付け工程、グリップ部2Bのレザー巻き工程を経てバットTの成形を完了する。
【0091】
なお、その他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同一であるから、同一の構成箇所には、第1実施形態と同一の番号を付記してそれの説明は省略する。
【0092】
〔別実施形態〕
次に別実施形態を列記する。
【0093】
前述の第1、第2、第4実施形態では、FRP製の握持部材2の接合端部5に、金属製の打球部材1の被接合端部4における内周面4aに対して接着される接着片部5Aと、この接着片部5Aの接着状態において打球部材1の被接合端部4における外周面4bに対して接当する接当片部5Bとが一体成形されている場合を例に示した。これに代え、握持部材2の接合端部5に、打球部材1の被接合端部4における外周面4bに対して接着される接着片部と、この接着片部の接着状態において打球部材1の被接合端部4における内周面4aに対して接当する接当片部とが一体成形されていてもよい。
【0094】
同様に、前述の第3実施形態では、FRP製の打球部材14の接合端部15に、金属製の握持部材16の被接合端部17における内周面17aに対して接着される接着片部15Aと、この接着片部15Aの接着状態において握持部材16の被接合端部17における外周面17bに対して接当する接当片部15Bとが一体成形されている場合を例に示した。これに代え、FRP製の打球部材14の接合端部15に、金属製の握持部材16の被接合端部17における外周面17bに対して接着される接着片部15Aと、この接着片部15Aの接着状態において握持部材16の被接合端部17における内周面17aに対して接当する接当片部15Bとが一体成形されていてもよい。
【0095】
前述の第1、第2、第4実施形態では、握持部材2の接当片部5Bも、打球部材1の被接合端部4に対して接着されている場合を例に示したが、必ずしも接着されている必要はない。
【0096】
同様に、前述の第3実施形態では、打球部材14の接当片部15Bも、握持部材16の被接合端部17に対して接着されている場合を例に示したが、必ずしも接着されている必要はない。
【0097】
被接合端部4、17の形態などの具体的構成、並びに、接合端部5、15の形態などの具体的構成は、前述の各実施形態で示した如き構成に限らず、種々の構成変更が可能である。
【0098】
前述の第2実施形態では、加熱により膨張する膨張部材をバット成形用の金型13における外側成形部材9に対面する部位に予め配設する場合を例に示したが、例えば、外側成形部材9の外周面とバット成形用の金型13の内周面とに膨張部材を挟持させるなどであってもよい。
【0099】
前述の第2実施形態では、外側成形部材9を打球部材1の外周面に対して押し付ける第2押圧手段として、加熱により膨張する膨張部材を例に示したが、例えば、空気圧や液圧により膨張する膨張部材や動力により外側成形部材9を打球部材1の外周面に対して押し付ける押圧部材などであってもよい。
【0100】
前述の第1、第4実施形態では、加熱により縮径する縮径部材として加熱収縮テープ12を例に示したが、これに限らず、加熱により縮径するものであれば、例えば、リング状部材などであってもよい。
【0101】
前述の第2実施形態では、加熱により膨張する膨張部材としてシリコンゴム製のパッド18を例に示したが、これに限らず、加熱により膨張するものであれば、種々の部材を採用できる。
【0102】
前述の第1、第2、第4実施形態では、内側成形部材8を打球部材1の内周面に対して押し付ける第1押圧手段として、空気圧又は液圧で膨張する加圧用チューブ11を例に示したが、これに限らず、動力により内側成形部材8の内周面を打球部材1の外周面に対して押し付ける押圧部材などであってもよい。
【0103】
接当片部用の装着部4eの具体的構成は、前述の各実施形態で示した如き構成に限らず種々の構成変更が可能である。
【0104】
前述の実施形態では、テープ状のプリプレグ8aをマンドレル7に対し積層状態で巻き付けて内側成形部材8を形成する場合を例に示したが、例えば、短冊状のプリプレグの複数枚を積層状態で巻き付けて内側成形部材8を形成してもよい。
【0105】
前述の第1、第2実施形態では、打球部材1の内周面4aにおける変位始点を構成する境界部4cを滑らかな曲面形状に形成する場合を例に示したが、角の立つ屈曲面形状や段差の生じる凹凸面形状などの種々の形状で形成してもよい。
【0106】
前述の第4実施形態では、筒体成形部材10の外周面のうち、バット長手方向中間部には、筒体成型部材19と打球部材1との接着を阻害するテープ状の接着阻害部材を予め巻き付ける場合を例に示した。これに代え、筒体成形部材19を打球部材1の内部に挿入する際に、筒体成形部材19の外周面と打球部材1の内周面との間に固形状の接着阻害部材を介装してもよい。また、例えば、筒体成形部材19の外周面又は打球部材1の内周面の一方又は両方に筒体成型部材19と打球部材1との接着を阻害する接着阻害剤(例えば、潤滑剤)を塗布してもよい。
【0107】
前述の第4実施形態では、筒体成型部材19と打球部材1との接着を阻害する接着阻害部材として、2軸延伸ポリプロピレンフィルムを例に示したが、ポリ塩化ビニリデン製の市販の食品包装用ラップフィルムやシリコンゴムシートなど金型13による加熱時に溶融しない性状のものであれば、種々のものを使用できる。
【0108】
また、前記接着阻害部材として、又は、これに併せて、熱膨張性や弾性又はそれらの両方の性状を有する部材(例えば、シリコンゴムシート等のエラストマー素材製の部材等)を筒体成型部材19と打球部材1との間に介装すれば、金属製の打球部材1が加熱成形時の膨張状態からの冷却で収縮することに対し、その打球部材1の収縮によって製品完成時にFRP製の打球用筒体18に圧縮力が作用するのを抑止することができる。そのため、打球用筒体18と打球部材1との独立性を一層高めることができる。よって、打球部材1と打球用筒体18の各々の弾性変形によるボール反発力の向上効果を一層効果的に得ることができる。
【0109】
前述の第4実施形態では、筒体成形部材10を打球部材1の内部に挿入した後、加圧用チューブ11とマンドレル7とを交換する場合を例に示したが、筒体成形部材10を打球部材1の内部に挿入する前に加圧用チューブ11とマンドレル7とを交換してもよい。
【0110】
前述の各実施形態では、バット手元側から空気を注入するタイプの加圧用チューブ11を使用する場合を例に示したが、バット先端側から空気を注入するタイプの加圧用チューブを使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、野球やソフトボール用のバットに限らず、これらに類する球技用のバット及びそれの製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 打球部
11 押圧手段(加圧用チューブ)
13 金型
18 打球用筒体
18a バット長さ方向両端部
18b バット長さ方向中間部
19 筒体成形部材
20 接着阻害部材(接着素材シート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FRP製の打球用筒体が打球部に内嵌状態で設けられている野球又はソフトボール用バットであって、
前記打球用筒体のバット長さ方向両端部は前記打球部の内周面に接着されているとともに、打球用筒体のバット長さ方向中間部は打球部の内周面に接着されていない野球用又はソフトボール用バット。
【請求項2】
請求項1記載の野球又はソフトボール用バットの製造方法であって、
加熱により前記打球用筒体を形成する筒体成形部材を金属製の前記打球部の内部に配置したのち、押圧手段により筒体成形部材を打球部の内周面に対して押し付ける状態でバット成形用の金型で加熱するとともに、
前記金型で加熱するのに先立ち、前記筒体成形部材と前記打球部との接着を阻害する接着阻害部材を筒体成形部材と打球部との間のうちの筒体成形部材のバット長さ方向中間部と打球部との間のみに介装する、又は、その部位に位置する筒体成形部材の外周面又は打球部の内周面に筒体成形部材と打球部との接着を阻害する接着阻害剤を塗布する野球又はソフトボール用バットの製造方法。
【請求項3】
前記筒体成形部材と前記打球部との間のうち、筒体成形部材のバット長さ方向両端部と打球部との間のみにFRPと金属との接着力を向上させる接着補助テープを介装する請求項2記載の野球又はソフトボール用バットの製造方法。
【請求項4】
前記筒体成形部材と前記打球部との接着を阻害する接着阻害部材として、又は、これに併せて、熱膨張性又は弾性或いはそれらの両方の性状を有する部材を筒体成形部材と打球部との間に介装する請求項2又は3記載の野球又はソフトボール用バットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−148608(P2009−148608A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71833(P2009−71833)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【分割の表示】特願2008−556141(P2008−556141)の分割
【原出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000108258)ゼット株式会社 (36)