説明

野球靴のスパイク金具及びそれを備えた野球靴

【課題】グランドを効果的に蹴り上げることができると共に、足の捻りの力を十分に受け止めて捻りだめを得ることができる野球靴のスパイク金具及びそれを備えた野球靴を提供する。
【解決手段】野球靴10の前部スパイク金具13は、靴底12の前部に装着される。該前部スパイク金具13は、爪先側に位置し靴底12の中心軸線16に対して直交方向に延びる複数の第1突片17と、その後方位置に突設された左右一対の第2突片18と、第1突片17及び第2突片18の間で靴底12の内側縁19に近接する位置に突設された第3突片20とが環状連結板21の外周縁部の折曲げ形成によって一体的に形成されている。第3突片20は、靴底12の中心軸線16に沿う方向に延び、靴底12の内側に位置する第1突片17a及び第2突片18aを結ぶ線上、つまり足の親指と拇指球を結ぶ線上に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプロ野球の投手や野手が履く野球靴のスパイク金具であって、走塁時、投球時又は打撃時における蹴り足に有効で、捻りだめを得ることができる野球靴のスパイク金具及びそれを備えた野球靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスパイク金具を備えた野球靴(スパイクシューズ)は、投手のスローイング、野手のバッティングやスローイングの効果を最大限に発揮すべくスパイク金具の配置が種々検討され、提案されている。例えば、爪先突片と、該爪先突片の後方に突設された左右2つの突片と、これらの突片を連結する連結座板を有する野球用スパイクにおいて、爪先突片と後方の突片との中間部に補助突片を設けた野球靴用スパイクが知られている(例えば、特許文献1を参照)。この野球用スパイクによれば、スローイング、バッティング及びランニングにおいてスパイクの防滑力を有効に働かせることができる。
【0003】
また、爪先突片と、該爪先突片を頂点としてその後方に突設する左右2つの突片とを連結座板により一体的に形成したトライアングル形を呈する第1のスパイクA、及び左右両突片を備えた板状の第2のスパイクBからなる野球用靴底が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この野球用靴底では、第1のスパイクAの突片を靴底面上の中足趾関節相当部辺よりも上方すなわち爪先寄りとなるように装着し、第2のスパイクBが中足趾関節相当部辺を隔ててその下方に装着されている。そして、係る野球用靴底によれば、足の屈曲動作を阻害せずに足の運動機能を十分に発揮させると共に、スパイクの防滑力を最大限に発揮させ、ランニング、バッティング及びスローイングの何れの運動動作も有効に働かせることができる。
【特許文献1】実開平6−21408号公報(第2頁、第5頁及び図1)
【特許文献2】特開平9−47303号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、野手が走塁をスタートするときなどには、拇指球の辺り、或いは親指から拇指球にかけての内側ラインでグランド(地面、芝生面等)を蹴ってダッシュすることが必要である。しかしながら、特許文献1に記載されている野球用スパイクにおいては、爪先突片、後方位置の2つの突片及び補助突片がいずれも靴底の中心軸線に対して直交する方向又はそれに傾斜する方向に設けられている。そのため、スタートダッシュするときに靴底の中心軸線に対して直交方向への踏ん張りが不足し、グランドを十分に蹴り上げることができない。さらに、各突片が靴底の中心軸線に直交する方向及びそれに傾斜する方向に設けられ、中心軸線に沿う方向には設けられていないため、足の捻りの力を十分に受け止めることができなかった。
【0005】
また、特許文献2に記載の野球用靴底では、第2のスパイクBに靴底の内側縁に沿う方向に延びる突片が設けられているが、靴底の中心軸線に対しては斜め方向に設けられているため、中心軸線に対して直交方向への踏ん張りが不十分であると共に、足の捻りの力を十分に受け止めることができなかった。その上、第1のスパイクAと第2のスパイクBとが別体で構成されていることから、第1のスパイクAの各突片と第2のスパイクBの各突片とがそれぞれ力を受けたときに一体性が発揮されず、それらの突片による効果の発現が不十分になるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、グランドを効果的に蹴り上げることができると共に、足の捻りの力を十分に受け止めて捻りだめを得ることができる野球靴のスパイク金具及びそれを備えた野球靴を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る野球靴のスパイク金具は、野球靴の靴底の前部に装着され、爪先側に位置し靴底の中心軸線に対して直交方向に延びる複数の第1突片と、その後方位置に突設された左右一対の第2突片と、前記第1突片及び第2突片の間で靴底の内側縁に近接する位置に突設された第3突片とが環状連結板によって一体的に形成されたものである。そして、前記第3突片は、靴底の中心軸線に沿う方向に延びるように設けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る野球靴のスパイク金具は、請求項1に係る発明において、前記第3突片は、靴底の内側に位置する第1突片及び靴底の内側に位置する第2突片を結ぶ線上に設けられ、野球靴を履いたとき足の親指と拇指球を結ぶ線上に設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る野球靴のスパイク金具は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記第3突片は、靴底の内側に位置する第2突片に最も近接するように設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る野球靴のスパイク金具は、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る発明において、前記第1突片は、爪先側に位置する第1主突片と、その後方の左右に位置する一対の第1副突片とにより構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る野球靴のスパイク金具は、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記第2突片は、靴底の爪先に対して逆ハの字状に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る野球靴は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の野球靴のスパイク金具を靴底の前部に固着すると共に、靴底の後部に後部スパイク金具を固着したものである。そして、前記後部スパイク金具は、野球靴を履いたときの足の土踏まず側に位置しハの字状に形成された第4突片と、踵側に位置し逆ハの字状に形成された第5突片とが環状結合板の外周縁部の折曲げ形成によって一体的に形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る発明の野球靴のスパイク金具では、爪先側に位置し靴底の中心軸線に対して直交方向に延びる複数の第1突片と、その後方位置に突設された左右一対の第2突片と、前記第1突片及び第2突片の間で靴底の内側縁に近接する位置に突設された第3突片とが環状連結板によって一体的に形成されている。そして、第3突片は靴底の中心軸線に沿う方向に延びるように設けられていることから、靴底の中心軸線に対して直交方向へ蹴る力を受け止め、グランドを十分に蹴り上げることができると同時に、足の捻りの力を効果的に受け止めることができる。従って、グランドを効果的に蹴り上げることができると共に、足の捻りの力を十分に受け止めて捻りだめを得ることができる。
【0014】
請求項2に係る野球靴のスパイク金具では、第3突片が靴底の内側に位置する第1突片及び靴底の内側に位置する第2突片を結ぶ線上に設けられ、野球靴を履いたとき足の親指と拇指球を結ぶ線上に設けられている。このため、請求項1に係る発明の効果に加えて、第3突片によりグランドを蹴る力を最も有効に発揮することができる。
【0015】
請求項3に係る野球靴のスパイク金具では、第3突片が靴底の内側に位置する第2突片に最も近接するように設けられている。このため、第3突片が靴底の内側に位置する第2突片と相乗的に作用し、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を向上させることができる。
【0016】
請求項4に係る野球靴のスパイク金具では、第1突片は爪先側に位置する第1主突片と、その後方の左右に位置する一対の第1副突片とにより構成されている。従って、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、前向きスタートのときに十分にグランドを蹴り上げることができる。
【0017】
請求項5に係る野球靴のスパイク金具では、第2突片が靴底の爪先に対して逆ハの字状に形成されている。このため、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、靴底の中心軸線に沿う方向及び直交方向の両方向に対して蹴り上げる力及び捩りだめを向上させることができる。
【0018】
請求項6に係る野球靴では、前記野球靴のスパイク金具を靴底の前部に固着すると共に、靴底の後部に後部スパイク金具を固着したものである。そして、後部スパイク金具は、野球靴を履いたときの足の土踏まず側に位置しハの字状に形成された第4突片と、踵側に位置し逆ハの字状に形成された第5突片とが環状結合板の外周縁部の折曲げ形成によって一体的に形成されている。従って、前部スパイク金具により請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果を発揮することができると共に、後部スパイク金具により斜め方向の動きや踏ん張る際に有効に働き、コーナー走行時や守備時に効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の最良と思われる実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図5に示すように、左足用の野球靴10は革製の靴本体11の靴底12に、前部スパイク金具13及び後部スパイク金具14が固着されて構成されている。なお、右足用の野球靴は図示しないが、左足用の野球靴10と対称形状に形成され、左足用の野球靴10と一対をなすように構成されている。そして、これらの前部スパイク金具13と後部スパイク金具14がグランド(地面、芝生等)15に食い込むことにより、スタートダッシュ等の走る動作、速球を投げる等の投げる動作及びホームランを打つ等の打つ動作を有効に発揮させることができる。
【0020】
まず、左足に装着される野球靴10の前部スパイク金具13について説明する。図1に示すように、前部スパイク金具13は、爪先側に位置し靴底12の中心軸線16に対して直交方向に延びる複数の第1突片17と、その後方位置に突設された左右一対の第2突片18と、第1突片17及び第2突片18の間で靴底12の内側縁19に近接する位置に突設された第3突片20とにより構成されている。これらの突片22は、環状連結板21の外周縁部の折曲げ形成によって一体的に形成されている。これらの突片22の位置、方向、数及び長さ等により、主として軸足の捻りを受け止める捻りだめを発揮することができ、軸足の捻りによって生まれる足の内側の力を親指と拇指球を結ぶ線(ライン)で感じることができる。
【0021】
図2に示すように、環状連結板21は鋼材によりほぼ四角環状に形成され、各突片22はその外周縁部すなわち突出部分22aが垂立するように、図の二点鎖線の位置で折曲げ形成されている。環状に形成することにより、一体的な強度を保持しつつ、軽量化を図ることができる。この環状連結板21の厚さは、所定厚さ例えば1.6mmに設定される。各突片22はほぼ台形状に形成され、その頂辺の中央部には断面円弧状をなす切欠き23が設けられている。この切欠き23により、グランド15に対する突片22の食い込みが良くなってグランド15に対する抵抗力を増すことができる。環状連結板21の爪先側位置及び後部の左右位置には環状連結板21を連結ピン24で靴本体11に固着するための固着用孔25が透設されている。
【0022】
図1に示すように、第1突片17は中央に位置する第1主突片17aとその左右に位置する一対の第1副突片17b、17cとの3つの突片22により構成されている。第1主突片17aは中心軸線16上の最も爪先側に設けられ、一対の第1副突片17b、17cは第1主突片17aより後方位置で中心軸線16を挟んで両側に設けられている。第1主突片17aの延びる方向は少し内向きに設定され、一対の第1副突片17b、17cを結ぶラインは第1主突片17aの延びる方向とほぼ平行に設定され、両第1副突片17b、17cは少し内向きに設けられている。
【0023】
第1主突片17aは一対の第1副突片17b、17cと同じ高さに形成されているが、一対の第1副突片17b、17cよりも長く形成されている。例えば、第1主突片17aは長さ20mm、高さ10mmに設定され、一対の第1副突片17b、17cはそれぞれ長さ15mm、高さ10mmに設定される。第1主突片17aは大きく形成されてその機能が十分に発現され、一対の第1副突片17b、17cは小さく形成されて軽量化されている。この第1突片17すなわち第1主突片17a及び一対の第1副突片17b、17cの位置、方向及び長さにより、前後方向への動きが効果的に受け止められ、特に前方へのダッシュ時に有効に作用する。
【0024】
具体的には、第1主突片17aは、前向き走の前傾姿勢でのスタート及び爪先立ち内側走法での蹴り足に有効に働く。なお、爪先立ち内側走法は、爪先側及び内側に力を込めて走る方法である。内側の第1副突片17bは、前向き走の前傾姿勢でのスタート及び爪先立ち内側走法における蹴り足に有効に働くと同時に、内側への体重移動時における蹴り足に有効に働く。外側の第1副突片17cは、走塁時及びベース付近の動きに対応できるように働くと共に、スピードが増すにつれて外側より着地するためその着地を早くして体重移動を内側へ速やかに移行するように働く。
【0025】
左右一対の第2突片18は、第1突片17の後方位置で中心軸線16の左右において爪先側に対し逆ハの字となるように設けられている。各第2突片18の延びる方向は、中心軸線16に対してそれぞれ逆方向にほぼ45度となるように設定されている。この第2突片18は、前記第1主突片17aより短く、第1副突片17b、17cより長くなるように形成されている。例えば、両第2突片18は長さ17mm及び高さ10mmに設定されている。第2突片18は中心軸線16に対して45度方向に設けられているため、前後方向及び左右方向の両方向の動きを受け止めることができる。
【0026】
内側の第2突片18aは、走塁スタートでの蹴り足に有効に働くと共に、守備時の多様な動き、特にコーナー走行等の斜めの動きに有効に働く。外側の第2突片18bは、走塁時及びベース付近の動き、特にコーナー走行等の斜めの動きに対応できるように働くと共に、スピードが増すにつれて外側より着地するためその着地を早くして体重移動を内側へ速やかに移行するように働く。
【0027】
第3突片20は、第1突片17と第2突片18との間で靴底12の内側縁19の近傍位置に設けられ、中心軸線16に沿う方向に延びている。この第3突片20は前記第1主突片17aと同じ大きさに設定されている。このため、第3突片20の位置、方向及び長さにより、左右方向への動きが効果的に受け止められ、左右方向へのダッシュ時に有効に機能する。第3突片20は、走塁スタート時及びタッチアップ時における蹴り足に有効に働く。捻りを加えるときには、第1主突片17a、内側の第1副突片17b及び第3突片20を結ぶ内側ラインが有効に働く。
【0028】
次に、後部スパイク金具14について説明する。図1に示すように、後部スパイク金具14は、野球靴10を履いたときの足の土踏まず側に位置しハの字状に形成された一対の第4突片26と、踵側に位置し逆ハの字状に形成された一対の第5突片27とが環状結合板28の外周縁部の折曲げ形成によって一体的に形成されたものである。図3に示すように、環状結合板28は鋼材によりほぼ逆台形環状に形成され、各突片22はその外周縁部すなわち突出部分22aが垂立するように、図の二点鎖線の位置で折曲げ形成されている。この環状結合板28の厚さは、前記環状連結板21と同じ厚さに設定されている。各突片22の形状は、前記第2突片18と同じに設定されている。
【0029】
一対の第4突片26a、26bは、それらの延びる方向が中心軸線16に対してそれぞれ逆方向にほぼ45度となるように設定されている。一対の第5突片27a、27bは、それらの延びる方向が中心軸線16に対してそれぞれ逆方向にほぼ70度となるように設定されている。そして、これらの第4突片26a、26b及び第5突片27a、27bにより、前後方向及び左右方向の両方向の動きを受け止めることができるようになっている。
【0030】
具体的には、内側の第4突片26a及び外側の第4突片26bは、走塁スタート時及びベース付近の動きをはじめとする多種の動きに有効に作用する。内側の第5突片27aは、走塁スタート時に前記第3突片20と共に蹴り足のほか多種の動きに対して有効に作用する。外側の第5突片27bは、捻りだめに有効であるほか、走塁スタート時における蹴り足に有効に作用する。前述の前部スパイク金具13に設けられた6本の突片22が環状連結板21によって一体的に形成されているため、それらの突片22が相乗的に機能を発現することができる。また、後部スパイク金具14に設けられた4本の突片22が環状結合板28によって一体的に形成されているため、それらの突片22が相乗的に機能を発現することができる。さらに、これら合計10本の突片22が機能的、相乗的に働いて効果を発揮することができる。
【0031】
図4に示すように、右足に装着される野球靴10のスパイク金具13、14は、その前部スパイク金具13が左足に装着される野球靴10の前部スパイク金具13と対称となるように靴底12に固着され、後部スパイク金具14が左足に装着される野球靴10の後部スパイク金具14と対称となるように靴底12に固着されている。後部スパイク金具14の各突片22は、前部スパイク金具13の各突片22と同様の機能を発現する。そして、右足のスパイク金具13、14は、走塁スタート等の動きに対して軸足又は蹴り足となってその効果を発揮する。
【0032】
上記のように構成された野球靴10のスパイク金具13、14による作用について説明する。
さて、野球靴10を履いてグランド15を走る場合、前向き走(ストレート走)では第1主突片17a及び一対の第1副突片17b、17cよりなる第1突片17により、走力が生み出され、スタートダッシュを図ることができる。着地するときには外側の第1副突片17cで着地し、内側の第1副突片17bへと体重移動する。このとき、野球靴10の内側縁19の近傍位置に第3突片20が設けられていることから、内側の第1副突片17bと第3突片20とによって体重が受け止められ、蹴り足を生かすことができる。また、タッチアップスタート等の横方向へのスタート時には、親指から拇指球へと延びるライン上に設けられた第3突片20が最も有効に機能し、優れたスタートダッシュを得ることができる。
【0033】
投手が投球を行う場合、オーバースローのときには踵から爪先側へ体重移動が行われ、後部スパイク金具14の第4突片26から前部スパイク金具13の内側の第2突片18a、第3突片20及び内側の第1副突片17bに順に力が加えられる。特に、スリークォータースロー、サイドスロー及びアンダースローの場合には、親指から拇指球へのラインに力が加えられる。このため、内側の第2突片18a、第3突片20及び内側の第1副突片17bが有効に機能し、しっかりとグランドをとらえる(つかむ)ことができる。さらに、野手の場合には、近距離、塁間及び遠距離を投げる場合に強弱があるものの、同様の体重移動が行われ、その体重移動に適切に対応することができる。従って、投球を力強く、的確に行うことができる。
【0034】
バッターがバッターボックスに立って打つ場合、軸足を少しハの字にしてバッターボックスに足を固定する。このとき、第3突片20を中心して内側の第1副突片17b、第1主突片17a及び内側の第2突片18aが有効に働く。ステップする足は、走る場合と同様の力を各突片22に及ぼす。そして、軸足と受け足の膝及び腰の内側回転を行い、下半身の回転により、グランドから得られる反力(パワー)が上半身に有効に伝えられる。
【0035】
前記走る、投げる及び打つという動作に共通するのは、足の親指から拇指球のラインに捻りの力が加わる点であり、その捻りの力が十分に受け止められることによって捻りだめが得られ、係る捻りだめに基づく反力により走力、投力及び打力のパワーを発現することができる。
【0036】
以上の実施形態によって発揮される効果を以下にまとめて記載する。
・ この実施形態の前部スパイク金具13では、爪先側に位置する複数の第1突片17と、その後方に位置する左右一対の第2突片18a、18bと、それらの中間部で靴底12の内側縁19に近接する第3突片20とが環状連結板21によって一体的に形成されている。そして、第3突片20は中心軸線16に沿う方向に延びるように設けられていることから、中心軸線16に対して直交方向へ蹴る力を受け止め、グランドを十分に蹴り上げることができると同時に、足の捻りの力を効果的に受け止めることができる。従って、グランドを効果的に蹴り上げることができると共に、足の捻りの力を十分に受け止めて捻りだめを得ることができる。
【0037】
・ 前記第3突片20が靴底12の内側に位置する第1副突片17b及び靴底12の内側に位置する第2突片18aを結ぶ線上に設けられ、野球靴10を履いたとき足の親指と拇指球を結ぶ線上に設けられている。このため、第3突片20によりグランド15を蹴る力を最も有効に発揮することができる。
【0038】
・ 第3突片20が靴底12の内側に位置する第2突片18aに最も近接するように設けられているため、第3突片20が第2突片18aと相乗的に作用し、前記の効果を向上させることができる。
【0039】
・ 第1突片17が爪先側に位置する第1主突片17aと、その後方の左右に位置する一対の第1副突片17b、17cとにより構成されている。従って、前向きスタートのときに十分にグランド15を蹴り上げることができる。
【0040】
・ 一対の第2突片18a、18bが靴底12の爪先に対して逆ハの字状に形成されている。このため、靴底12の中心軸線16に沿う方向及び直交方向の両方向に対して蹴り上げる力及び捩りだめを向上させることができる。
【0041】
・ 野球靴10は、靴底12の前部に前部スパイク金具13が固着され、後部に後部スパイク金具14が固着されて構成される。そして、後部スパイク金具14は、足の土踏まず側に位置しハの字状に形成された第4突片26a、26bと、踵側に位置し逆ハの字状に形成された第5突片27a、27bとが環状結合板28によって一体的に形成されている。従って、前部スパイク金具13により前記効果を発揮することができると共に、後部スパイク金具14により斜め方向の動きや踏ん張る際に有効に働き、コーナー走行時や守備時に効果を発揮することができる。
【0042】
なお、前記各実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
〇 前記第1突片17において、第1主突片17aの長さを長くし、一対の第1副突片17b、17cの長さを短くしたり、第1主突片17aと第1副突片17b、17cとの間隔を狭くしたりすることができる。また、一対の第1副突片17b、17cの延びる方向を中心軸線16に対して直交する方向から若干傾斜するように構成することも可能である。
【0043】
〇 前記一対の第1副突片17b、17cを、中心軸線16に対する傾斜角度が異なるように構成することもできる。また、第1副突片17b、17cの少なくとも一方の位置を前後方向又は左右方向に変更することも可能である。
【0044】
〇 前記第3突片20の長さを第1主突片17aの長さより長くなる(最も長くなる)ように構成したり、第3突片20を複数に分割して構成したりすることができる。
〇 図1に示す左足の第3突片20等の突片22を、図4に示す右足の第3突片20等の突片22よりも長く形成し、野手の走塁時に蹴り足となる左足の蹴り上げを一層効果的にすることができる。また、図4に示す右足の第1主突片17a等の突片22を、図1に示す左足の第1主突片17a等の突片22よりも長く形成し、右投げ投手の投球時に踏み込みを良好にすることができる。
【0045】
次に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記第1副突片は、第1主突片より短く形成されていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の野球靴のスパイク金具。このように構成した場合、請求項4又は請求項5に係る発明の効果に加えて、第1副突片を軽くして前部スパイク金具の軽量化は発揮させることができる。
【0046】
・ 前記第3突片は、靴底の内側縁に沿うように延び、その長さが他の突片と比べて最も長くなるように設定されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の野球靴のスパイク金具。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、第3突片による効果を有効に発揮させることができる。
【0047】
・ 前記第3突片は、内側の第1副突片の内側端部と内側の第2突片の内側端部とを結ぶ線上に設けられていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の野球靴のスパイク金具。このように構成した場合、請求項4又は請求項5に係る発明の効果に加えて、第3突片による効果を第1突片及び第2突片の効果と相俟って有効に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態における左足用の野球靴の靴底に前部スパイク金具及び後部スパイク金具よりなるスパイク金具を固着した状態を示す底面図。
【図2】前部スパイク金具の突片を折曲げ形成する前の状態を示す正面図。
【図3】後部スパイク金具の突片を折曲げ形成する前の状態を示す正面図。
【図4】右足用の野球靴の靴底に前部スパイク金具及び後部スパイク金具よりなるスパイク金具を固着した状態を示す底面図。
【図5】左足用の野球靴を示す正面図。
【符号の説明】
【0049】
10…野球靴、12…靴底、13…前部スパイク金具、14…後部スパイク金具、16…中心軸線、17…第1突片、17a…第1主突片、17b…内側の第1副突片、17c…外側の第1副突片、18…第2突片、18a…内側の第2突片、18b…外側の第2突片、19…内側縁、20…第3突片、21…環状連結板、22…突片、26…第4突片、26a…内側の第4突片、26b…外側の第4突片、27…第5突片、27a…内側の第5突片、27b…外側の第5突片、28…環状結合板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野球靴の靴底の前部に装着され、爪先側に位置し靴底の中心軸線に対して直交方向に延びる複数の第1突片と、その後方位置に突設された左右一対の第2突片と、前記第1突片及び第2突片の間で靴底の内側縁に近接する位置に突設された第3突片とが環状連結板によって一体的に形成された野球靴のスパイク金具であって、
前記第3突片は、靴底の中心軸線に沿う方向に延びるように設けられていることを特徴とする野球靴のスパイク金具。
【請求項2】
前記第3突片は、靴底の内側に位置する第1突片及び靴底の内側に位置する第2突片を結ぶ線上に設けられ、野球靴を履いたとき足の親指と拇指球を結ぶ線上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の野球靴のスパイク金具。
【請求項3】
前記第3突片は、靴底の内側に位置する第2突片に最も近接するように設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の野球靴のスパイク金具。
【請求項4】
前記第1突片は、爪先側に位置する第1主突片と、その後方の左右に位置する一対の第1副突片とにより構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の野球靴のスパイク金具。
【請求項5】
前記第2突片は、靴底の爪先に対して逆ハの字状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の野球靴のスパイク金具。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の野球靴のスパイク金具を靴底の前部に固着すると共に、靴底の後部に後部スパイク金具を固着した野球靴であって、
前記後部スパイク金具は、野球靴を履いたときの足の土踏まず側に位置しハの字状に形成された第4突片と、踵側に位置し逆ハの字状に形成された第5突片とが環状結合板の外周縁部の折曲げ形成によって一体的に形成されたものであることを特徴とする野球靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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