説明

野生動物捕獲装置

【課題】従来の捕獲装置は、電力源として市販の大出力のバッテリーを用いていたので、捕獲時期の1シーズン中に少なくとも1回は充電(交換)しなければならない点、充電のためにバッテリーだけを持ち運ぶのが困難である点、を解消する。
【解決手段】野生動物捕獲装置1は、野生動物を捕獲する捕獲設備2と、この捕獲設備2に設けた捕獲機構3とを備え、捕獲機構3を駆動させるためのエアボンベ4と、このエアボンベ4及び全体を作動させるための制御部6に電力を供給する乾電池又は充電式の乾電池を電力源とする低電力装置7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低電力で長期かつ継続的に動作させることができると共に、電力補給が容易な野生動物捕獲装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
野生動物による農作物被害は全国的に深刻化している。野生動物による農作物被害の軽減は、農山村地域社会の活力低下の阻止や昨日回復に貢献するだけでなく、都道府県や市町村の農業被害対策に対する経済的負担を軽減する意味においても極めて重要である。
【0003】
野生動物による農作物被害に対しては様々な対策がされているが、中でも捕獲駆除対策は、被害を出す動物の生息数を直接減らすことができるため、問題の根本的な除去に繋がる場合が多い。この捕獲駆除対策の代表例としては、檻や網などの捕獲装置を用いた捕獲がある。
【0004】
捕獲装置とは、対象とする動物が箱状の構造物あるいは金網等による囲いに入り、鋼線や踏み板などを何らかの仕掛けに触れるかあるいは踏むことによって、侵入口が閉じられて捕獲が行われるものである。
【0005】
しかし一方で、既存の捕獲装置では、捕獲者の経験や勘に頼らなければ効率的な捕獲ができていないのが現状である。そこで、最近では、通過センサーや映像センサーなどのセンサーを利用して、無人で電子的に檻の扉を落下させたり綱わなを落下させるなどの方法が採用されるようになってきた。
【0006】
上記のセンサーを用いた捕獲装置として、本願発明者等は既に、以下の特許文献1の開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2010−25831号
【0008】
特許文献1の捕獲装置は、野生動物を捕獲する捕獲設備と、この捕獲設備の捕獲可能域に侵入した野生動物を撮像する撮像装置と、撮像装置の撮像データに基づき保護種の動物データと比較して保護種動物又は非保護動物を識別する識別手段と、識別手段の識別結果に基づき、捕獲設備による捕獲実行の有無を決定する捕獲決定手段とを備えることを特徴としている。
【0009】
しかしながら、特許文献1は、無人で効率的に非保護野生動物の捕獲が可能であるが、さらなる改良余地があった。すなわち、例えば捕獲する野生動物が比較的大きい場合は、それ相応の捕獲設備を要することとなり、この結果、檻の扉や綱わなもまたその捕獲動物に応じた頑丈で強固かつ重量のあるものが必要となる。
【0010】
特許文献1は、非保護野生動物を捕獲する際には識別手段に基づいて捕獲決定手段から、捕獲設備における例えば侵入口を閉じる扉を落下させる機構や綱わなを落下させる機構を作動させる信号を出力し、この信号により該扉や該綱わなを落下させるストッパーやロープを電気的に駆動させる。よって、特許文献1を含む従来のほとんどの捕獲装置は、頑丈で強固かつ重量のある檻の扉や綱わなを駆動させる機構に電力を供給する比較的大きな出力の電力源が必要となる。
【0011】
電力源としては家庭用電源を使用できればよいが、野生動物を捕獲する山野などで家庭用電源と接続できることはほとんどなく、概ね持ち運び可能なバッテリーを電力源とすることとなる。バッテリーはエンジン型の発電機では騒音によって捕獲する野生動物に警戒されるので、市販されている蓄電池式のバッテリーが用いられることになる。
【0012】
捕獲装置の設置箇所近辺に持ち込んだバッテリーは、捕獲装置を設置した状態でしばらく放置することになるが、放置中にもバッテリーが自然放電してしまうため、定期的に充電をするか、バッテリーを交換する必要がある。
【0013】
すなわち、従来では、捕獲装置を例えば野生動物の捕獲時期である1シーズンを継続的に設置する場合、大出力の市販のバッテリーでは少なくとも1回はバッテリーを充電(交換)する必要があり、該捕獲設備の設置箇所である山野から、バッテリーを充電するために(充電されたバッテリーと交換して)持ち帰る際には非常に重量がありかつ比較的大きいバッテリーを持ち運ぶのが重労働となっていた。
【0014】
特に山野で野生動物を捕獲する農産林業者が近年では高齢化していることもあり、高齢者にとってそのように重くて大きいバッテリーを車や台車を用いることができない山中に持ち運ぶことは現実的に困難になりつつある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上の背景から、本発明が解決しようとする課題は、従来の捕獲装置は、電力源として、市販の大出力のバッテリーを用いていたので、例えば捕獲時期の1シーズン中に少なくとも1回は充電(交換)しなければならない点、このとき充電のためにバッテリーだけを捕獲装置の設置箇所である山野から充電可能な例えば家庭用電源のあるところまで移動させるのが困難である点、である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の野生動物捕獲装置は、野生動物を捕獲する捕獲設備と、この捕獲設備に設けた捕獲機構とを備え、前記捕獲機構を駆動させるためのエアボンベと、このエアボンベ及び全体を作動させるための制御部に電力を供給する乾電池又は充電式の乾電池を電力源とする低電力装置と、を備えたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、檻や綱わなといった捕獲機構を駆動させるためにエアボンベを採用すること、さらにはエアボンベ及び全体を作動させるための制御部が低電力装置にて駆動する構成としていること、により捕獲機構の駆動のための消費電力が抑制されて長期に亘って、1シーズン中にほぼ低電力装置に対して電力補給(充電や交換)せずに使用することができるという利点がある。
【0018】
また、低電力装置として乾電池や充電式の乾電池を採用することで、野生動物捕獲装置を山野にて長期に亘って設置したままであって、仮に低電力装置の電力不足が懸念される状況にあっても、乾電池や充電式の乾電池を取り替えるだけでよいので、従来のように重くて大きいバッテリーを持ち運ぶ必要がないという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の野生動物捕獲装置の概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の野生動物捕獲装置におけるエアボンベ及び捕獲機構周辺の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は以下の形態により実施可能である。図1には、本発明の概略構成図を示す。本発明の野生動物捕獲装置1は、野生動物を捕獲する捕獲設備2と、この捕獲設備2に設けた捕獲機構3とを備えている。
【0021】
また、野生動物捕獲装置1は、捕獲機構3を駆動させるためのエアボンベ4と、捕獲設備2に捕獲すべき野生動物が侵入したか否かを検知するセンサ5に基づいて全体を制御する制御部6と、制御部6及びセンサ5に対して電力を供給する乾電池又は充電式の乾電池を電力源とする低電力装置7とを備えている。
【0022】
捕獲設備2は、例えば鉄格子で形成され、側面のうちの1面もしくは2面が上方から落下する扉とされた檻、あるいは木や金属棒などに釣り下げた網を落下させる綱わな、のように野生動物を捕獲するための設備であれば特に限定しない。
【0023】
捕獲機構3は、例えば上記檻であれば扉を落下させるための機構、例えば綱わなであれば該綱わなを落下させるための機構、など捕獲設備2において野生動物を具体的に捕獲するための機構であり、該捕獲設備2の構成に準じて特に限定しないが、本発明においてはエアボンベ4の動力にて作動することが条件となる。
【0024】
すなわち、エアボンベ4は制御部6からの信号(図1においては実線、なお破線は電力線)により開閉する電磁弁4Aが設けられている。エアボンベ4は電磁弁4Aが開くと該エアボンベ4内の圧縮空気を捕獲機構3の構成の一部として有するエアシリンダ3A内へ噴出する。エアシリンダ3A内に噴出された圧縮空気は、この噴出圧力によりピストンロッド3Bをエアシリンダ3Aから押し出す。
【0025】
このピストンロッド3Bの推力により、例えば檻における扉を開状態で上方に維持するストッパー、又は綱わなを上方で維持するストッパーを解除し、これにより扉や綱わなが落下する。したがって、捕獲機構3は、エアボンベ4の圧縮空気を動力源としたエアシリンダ3Aにおけるピストンロッド3Bの推力で作動する構成が具体的な条件となる。
【0026】
センサ5は、捕獲設備2の設置範囲に野生動物が侵入したことを検知してその旨の信号を制御部6へ出力するものであれば特に限定しないが、本発明においては制御部6及び電磁弁4Aを含め、センサ5もまた低電力装置7により、つまり一定時間継続的に動作する省電力のものを採用することが条件となる。
【0027】
本発明における低電力装置7は、市販の乾電池、市販の乾電池の代用可能な充電式の乾電池を用いる。つまり低電力装置7は、工事や土木作業、農山林作業で用いるような屋外型のバッテリーに較べて極めて小さくかつ低電力のものとなる。したがって、センサ5の構成に関しても低電力で継続的に動作することが条件となる。
【0028】
センサ5は、捕獲設備2の設置範囲に野生動物が侵入したことを検知する他、上記のとおり低電力装置7の消費電力を抑制するために、該検知までは必要最低限の微電力消費で全体を待機させ、該検知時に全体をオンにするという機能も有している。
【0029】
制御部6は、上記センサ5による移動物体の検知信号に基づいて全体を待機状態(微電力消費状態)からオン状態(通常電力消費状態)に復帰させる信号を発したり、オン状態時においてセンサ5から捕獲設備2に野生動物が侵入した旨の信号に基づいて電磁弁4Aを閉から開にする信号を発したり、これらの反対の実行信号を発するようプログラムされている。
【0030】
以上説明したとおり、本発明の野生動物捕獲装置1は、低電力装置7を備えること及び低電力で作動しかつ小型で軽く、また大きな動力を発生させることのできるエアボンベ4を備えることで、捕獲設備2自体を除く重量に関しては、小型軽量化が可能となる。
【0031】
また、本発明の野生動物捕獲装置1は、捕獲機構3にエアボンベ4の電磁弁4Aを用いたりセンサ5により待機時の消費電力を抑制したり、制御部6自体の消費電力を抑制する設計とすることで、低電力装置7を交換(充電)する必要なく、長期に亘って継続的に山野に設置しておくことが可能となる。
【0032】
そして、本発明の野生動物捕獲装置1は、低電力装置7に乾電池又は充電式の乾電池を採用することで、仮に1シーズン中で交換を要するとしても、乾電池や充電式の乾電池は高齢者であっても十分に携帯可能であると共に、持ち運びが簡便かつ容易であるので、従来のように重くて大きなバッテリーを持ち運ぶ必要がなくなり、高齢の作業者であっても保守作業が容易となる。
【実施例1】
【0033】
以下に、本発明の野生動物捕獲装置1の動作確認試験の結果を示す。
構成及び試験条件は次のとおりである。
低電力装置7は、1.5Vの乾電池を4本用いて出力6Vの構成とした。
エアボンベ4は、常温換算で約60気圧で容量が10gの炭酸ガスボンベを用いた。
捕獲機構3及び捕獲設備2は、10kgの檻の扉をエアシリンダ3Aのピストンロッド3Bにより落下させて閉じる構成とした。
【0034】
上記条件で、何回檻の扉を落下させることができるかを確認したところ、10回以上の繰り返しの落下動作が可能であることが確認できた。なお、どの程度の重量の扉を落下させることができるかも併せて確認したところ、30kgの扉も落下動作が可能であった。
【0035】
このことから、単純計算で野生動物が出没する1シーズンで3,4回捕獲するとしても1シーズン中は低電力装置7の乾電池を交換することなく継続的に使用できることが判った。
【0036】
また、構成が簡素化されているため、上記のように保守作業としては捕獲した野生動物の処分や捕獲設備2における例えば檻の扉を再度上方に戻すなどの作業の他には、乾電池を取り替えるだけでよく、山野における設置及び撤去も容易で、高齢の作業者の負担はかなり軽減することが判った。
【符号の説明】
【0037】
1 野生動物捕獲装置
2 捕獲設備
3 捕獲機構
4 エアボンベ
5 センサ
6 制御部
7 低電力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生動物を捕獲する捕獲装置であって、野生動物を捕獲する捕獲設備と、この捕獲設備に設けた捕獲機構とを備え、前記捕獲機構を駆動させるためのエアボンベと、このエアボンベ及び全体を作動させるための制御部に電力を供給する乾電池又は充電式の乾電池を電力源とする低電力装置と、を備えたことを特徴とする野生動物捕獲装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−51895(P2013−51895A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190799(P2011−190799)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(510035875)特定非営利活動法人 情報セキュリティ研究所 (2)
【出願人】(391015616)株式会社アサヒ電子研究所 (14)
【Fターム(参考)】