説明

野生動物用道路横断トンネル

【課題】自動車用道路の両側に該自動車用道路に分断されて棲息している野生動物の相互移動を交通を妨げることなく可能ならしめる。
【解決手段】自動車用道路の一方の側に設けられた開口部から自動車用道路の下方を通って自動車用道路の他方の側に設けられた開口部に至るトンネルと、トンネル内の底部から所定高さ位置にトンネルの長手方向に沿って設けられた通路帯と、通路帯を下方から支持する架台と、該トンネルの底部と該架台とにより形成された空間部を備え、トンネルは分割した波付鋼板を組立てた構造体(コルゲートパイプ等)で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用道路、特に高速道路によって生息地を分断されて生きている野生動物の分断された棲息地間の移動を可能ならしめる野生動物用道路横断トンネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日まで、日本各地で、人や物の移動を容易にするために、多くの自動車用道路が建設されてきた。自動車用道路は市街地だけでなく、人里離れた山の中にも作られる。自動車用道路が人里離れた山の中、すなわち野生動物の生息地域を通って建設されると、野生動物(きつね、たぬき、イタチ、野うさぎ、イノシシ、シカ、熊等)が自動車用道路内に突然入ってきて、自動車用道路を歩いたり、自動車用道路を横断することがしばしば起きる。
【0003】
野生動物が自動車用道路内に突然入ってきて、自動車用道路を歩いたり、自動車用道路を横断すると、自動車が野生動物を避け切れず、野生動物が自動車によって轢かれたり、はねられて、貴重な野生動物が減少し、生態系に悪影響を与え、種によっては絶滅に瀕するという問題がある。
【0004】
また、野生動物が自動車用道路内に突然入ってきて、自動車用道路を歩いたり、自動車用道路を横断すると、運転者が野生動物を避けようとして自動車の運転を誤り、大きな自動車事故を起こす危険性、あるいは実際に大きな自動車事故を起こすという問題がある。
【0005】
また、自動車用道路内に入ってきた野生動物が熊やシカのような大型の野生動物の場合、衝突した方の自動車も無傷ではいられず、自動車を破損させたり、運転手や同乗者が負傷することがあるという問題がある。
【0006】
そこで、自動車用道路の両側に動物進入防止柵を設置して野生動物が自動車用道路内に入ってこないようにする場合がある。しかし、このようにすると、野生動物の生息域を自動車用道路が完全に分断して、野生動物を益々絶滅させる方向に導いてしまうという欠点がある。
【0007】
また、動物進入防止柵は自然界に長期間にわたって設置するので、風雨や土砂による破損は避けられず、破損箇所からの野生動物の侵入を完全に阻止することができず、野生動物との衝突事故は避けられないという欠点がある。
【0008】
また、人里離れた、野生動物の生息地域を貫通して高速道路のような大規模な自動車用道路を作ると、野生動物の生息地域が自動車用道路によって完全に分断されて狭くなり、野生動物が生活し難くなり、野生動物の生態系に重大な影響を及ぼし、種によっては絶滅する危険性が出てくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−199517号公報
【特許文献2】特開2000−73440号公報
【特許文献2】特開2005−256364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、自動車用道路の両側に分断されて生活している野生動物の相互移動が容易にできない点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、自動車用道路の両側に分断されて生活している野生動物の相互移動を可能ならしめるため、自動車用道路の下に例えば、円弧状に形成した波付鋼板を複数枚使用してなる構造体(コルゲートパイプ、ライナープレート、他)等で自動車用道路を横断するトンネルを形成し、このトンネルの出入り口付近を野生動物が身を隠しながら近づけるように植栽でカモフラージュしつつ、誘導させることができることを最も主要な特徴とする。
【0012】
すなわち、本発明は、自動車用道路の一方の側に設けられた開口部から該自動車用道路の下方を通って該自動車用道路の他方の側に設けられた開口部に至るトンネルと、該トンネル内の底部から所定高さ位置に該トンネルの長手方向に沿って設けられた通路帯と、該通路帯を下方から支持する架台と、該トンネルの底部と該架台とにより形成された空間部と、該トンネルの開口部の周囲に自然な雰囲気で設けられた植栽とを備えたことを特徴とする。
【0013】
ここで、前記通路帯は波形鋼板(デッキプレート、プランクシート等)、鉄板、縞鋼板等の板状鋼板の上に土砂やコケを敷き詰めて形成することができ、架台はH形鋼や鋼管によって形成することができる。前記トンネルの底部と架台により形成された空間部は暗渠として形成できるので水路又は、より小型の小動物の通路として使用するために、前記通路帯によって覆う。
【0014】
ここで、別の発明としては、前記トンネルの底部に少なくとも1本の小管体(コルゲートパイプや鋼管等)を該トンネルの長さ方向に設置して空間部としてもよい。
【0015】
また、前記植栽はかご枠に植栽マット(植物の種子を埋め込んだマット)と石、土砂を詰めたもので形成することができる。前記植栽は前記トンネルの開口部の前方から該開口部の両脇に向けて該開口部を囲むように積み上げてもよいし、前記トンネルの開口部を前記植栽で遮って外部から見え難くしてもよい。また、野生動物が棲息している森と前記トンネルの開口部の近傍を前記植栽によって繋げてもよいし、野生動物が棲息している森の中のけもの道と前記通路帯とを連続的に繋げてもよい。
【0016】
また、前記トンネル内に餌の臭いや異性の臭いを発生させる臭発生手段を設けて、野生動物を積極的に前記トンネル内に引き寄せるようにしてもよいし、前記トンネル内に野生動物を引き寄せる声(異性が呼ぶ声、餌が有ることを伝える声等)を発生させる声発生手段を設けて、野生動物を積極的に前記トンネル内に引き寄せるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の野生動物用道路横断トンネルは、自動車用道路によって分断されていた野生動物の棲息地域をトンネルによって連結し、自動車用道路の両側に分断されて生活している野生動物の相互移動を可能にし、自動車用道路建設による環境への悪影響を減らすことができる。
【0018】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、分割した波付鋼板を複数枚使用し、組立ててトンネルを形成するので、保護の対象となる野生動物の大きさに合ったサイズのトンネルを容易に形成することができる。
【0019】
また、波付鋼板の一実施形態であるコルゲートパイプは、道路横断用排水管としての実績が多く、板厚が比較的薄くても土圧等、外力に対しての安全性が高い。本発明の野生動物用道路横断トンネルは、コルゲートパイプを用いてトンネルを形成すると、所望の強度を有するトンネルを低コストで形成することができる。
【0020】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、該横断トンネルの開口部の周囲に植栽が自然な雰囲気で設けられているので、動物が植栽に身を隠しながら該トンネルの開口部に容易に近づくことができる。
【0021】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、前記通路帯を、プランクシート、鉄板、縞鋼板等の板状鋼板の上に土砂やコケを敷き詰めて形成したものにした場合、野生動物にあまり警戒させることなく通路帯上を歩かせることができる。
【0022】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、前記植栽を、かご枠に植栽マットと石または土砂を詰めたもので形成した場合、野生動物にあまり警戒させることなくトンネルの開口部に近付かせることができる。
【0023】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、前記植栽を、前記横断トンネルの開口部の前方から該開口部の両脇に向けて該開口部を囲むように積み上げた場合、野生動物をあまり警戒させることなくトンネルの開口部まで誘導して近付かせることができる。
【0024】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、野生動物が棲息している森の中のけもの道と前記通路帯とを連続的に繋げた場合、野生動物をあまり警戒させることなくトンネルの開口部まで誘導して近付かせることができる。
【0025】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、野生動物が棲息している森と前記横断トンネルの開口部の近傍を前記植栽によって繋げた場合、野生動物をあまり警戒させることなくトンネルの開口部まで誘導して近付かせることができる。
【0026】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、前記トンネルの開口部を、前記植栽で遮って外部から見え難くした場合、野生動物をあまり警戒させることなくトンネルの開口部まで近付かせることができる。
【0027】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、前記トンネルの底部が水路になっていて、該底部が前記通路帯によって覆われている場合、野生動物が水路の水で溺れないし、落ち葉やごみ等が水路に入らず、水路が落ち葉等によって詰まり、水路が流れなくなるという不都合も解消される。
【0028】
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、前記トンネル内に餌の臭いや異性の臭いを発生させる臭発生手段を設けた場合、野生動物をトンネル内に積極的に引き寄せ、反対側の棲息地域に移動させる可能性を高めることができる。
また、本発明の野生動物用道路横断トンネルは、前記トンネル内に野生動物を引き寄せる声(異性が呼ぶ声、餌が有ることを伝える声等)を発生させる声発生手段を設けた場合、野生動物をトンネル内に積極的に引き寄せ、反対側の棲息地域に移動させる可能性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は自動車用道路の横断面図である。
【図2】図2は自動車用道路の平面図である。
【図3】図3は本発明横断トンネルの断面図である。
【図4】図4は別の本発明横断トンネルの断面図である。
【図5】図5は本発明横断トンネルの開口部付近を正面から見た状態を示す説明図である。
【図6】図6は本発明横断トンネルの開口部付近を側方から見た状態を示す説明図である。
【図7】図7は本発明横断トンネルの開口部付近を上方から見た状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
自動車用道路の両側に該自動車用道路に分断されて棲息している野生動物の相互移動を可能ならしめるという目的を、比較的安価な部材で、横断トンネルの強度を損なわずに実現した。
【実施例1】
【0031】
自動車用道路の一般的構造例を以下図面に示します。図1は自動車用道路の横断面図、図2は自動車用道路を平面図であり、これらの図に示すように、自動車用道路は中央分離帯10を挟んで2車線の車道12,12が上り・下り方向に設けられており、車道12,12の路肩から外側には法面14が下方に向けて斜めに形成されている。法面14の下方には開口部16が形成され、開口部16は反対側の法面14の下方に設けられた開口部18にトンネル20によって連結されている。
【0032】
図3は本発明横断トンネルの断面図であり、同図に示すように、トンネル20はコルゲートパイプによって形成されている。コルゲートパイプは長手方向に対して直角に波付け加工を施した弧状の亜鉛メッキ鋼板を筒状に連結して形成した軽量高強度のパイプである。
【0033】
トンネル20内の底部から所定高さ位置にはトンネル20の長手方向に沿って通路帯22が設けられ、通路帯22は下方から架台24によって支持されている。通路帯22はデッキプレートやプランクシート26等からなる波形鋼板の上に土砂28やコケ、枯れ葉等を敷き詰めて形成されると良いが、プランクシート26の代わりに単なる平鋼板、縞鋼板又は金網、パンチングメタル、エキスバンドメタル等を使用してもよい。架台24はH形鋼や鋼管等によって形成されている。なお、「プランクシート」とは圧延鋼板を角波形に成形した大型デッキプレートの商品名である。
【0034】
図5は本発明横断トンネルの開口部付近を正面から見た状態を示す説明図、図6は本発明横断トンネルの開口部付近を側方から見た状態を示す説明図、図7は本発明横断トンネルの開口部付近を上方から見た状態を示す説明図である。
【0035】
本発明横断トンネル20の開口部16,18付近には、これらの図に示すように、植栽30が自然な雰囲気を形成するように積み上げられている。植栽30はかご枠に植栽マットと土砂・石等を詰めたものからなり、トンネル20の開口部16,18の前方から開口部16,18の両脇に向けて開口部16,18を囲むように積み上げられ、植栽マットに植え付けられた種が発芽して植物が成長するとかご枠や石や地面が植物で隠されて自然な植生の景色になる。
【0036】
ここで、山側から谷に水を流す暗渠が他に設けられていればそちらに水を流せば良いが、そのような暗渠が無い場合は、このトンネル20の底部と架台24とにより形成された空間部27が暗渠として形成できるので、排水路等として、又はより小型の小動物の通路として使用できる。なお、トンネル20の底部を暗渠とした場合は通路帯22で覆うのが、通路帯22が土砂等によって覆われていると、野生動物が暗渠に落ちて溺れることがないし、落ち葉やごみ等が暗渠に入って暗渠を詰まらせないからである。
【0037】
また、野生動物が棲息している森の中のけもの道と通路帯とを連続的に繋げてもよいし、野生動物が棲息している森とトンネルの開口部16,18の近傍を植栽30によって繋げてもよい。また、野生動物がトンネル20内に安心して入れるように、トンネル20の開口部16,18を植栽30で遮って外部から見え難くしてもよい。
【0038】
また、トンネル20内に餌の臭いや異性の臭い(フェロモン)を発生させる臭発生手段を設けて、野生動物を積極的にトンネル20内に引き寄せるようにしてもよい。あるいは、トンネル20内に野生動物を引き寄せる声(異性が呼ぶ声、餌が有ることを伝える声等)を発生させる声発生手段(例えば、音声ROM+アンプ+スピーカー)を設けて、野生動物を積極的にトンネル20内に引き寄せるようにしてもよい。
【実施例2】
【0039】
別の発明としては、図4に示すようにトンネル20の底部に少なくとも1本の小管体29(コルゲートパイプや鋼管等)をトンネル20の長さ方向に設置してそれで空間部としてもよい。この場合、小管体29は架台24の代わりに通路帯22、プランクシート26及び土砂28を支えることになる。小管体29で通路帯22等を支える場合は、小管体29を左右に2本設置するのが好ましい。
【符号の説明】
【0040】
10 中央分離帯
12 車道
14 法面
16 開口部
18 開口部
20 トンネル
22 通路帯
24 架台
26 プランクシート
27 空間部
28 土砂
29 小管体
30 植栽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用道路の一方の側に設けられた開口部から該自動車用道路の下方を通って該自動車用道路の他方の側に設けられた開口部に至るトンネルと、該トンネル内の底部から所定高さ位置に該トンネルの長手方向に沿って設けられた通路帯と、該通路帯を下方から支持する架台と、該トンネルの底部と該架台とにより形成された空間部を備えたことを特徴とする野生動物用道路横断トンネル。
【請求項2】
自動車用道路の一方の側に設けられた開口部から該自動車用道路の下方を通って該自動車用道路の他方の側に設けられた開口部に至るトンネルと、該トンネル内の底部から所定高さ位置に該トンネルの長手方向に沿って設けられた通路帯と、該通路帯を下方に少なくとも1つの小管体とを備えたことを特徴とする野生動物用道路横断トンネル。
【請求項3】
前記トンネルが分割した波付鋼板を組立てた構造体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した野生動物用道路横断トンネル。
【請求項4】
前記通路帯が平鋼板、縞鋼板、金網、パンチングメタル、エキスバンドメタル、波形鋼板等からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載した野生動物用道路横断トンネル。
【請求項5】
前記通路帯の表面が土砂、コケ、枯れ葉等の天然道路素材を敷き詰めて形成したものであることを特徴とする請求項4に記載した野生動物用道路横断トンネル。
【請求項6】
前記トンネルの開口部の周囲に自然な雰囲気で設けられた植栽を備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載した野生動物用道路横断トンネル。
【請求項7】
前記植栽がかご枠に植栽マットと石または土砂を詰めたものからなることを特徴とする請求項6に記載の野生動物用道路横断トンネル。
【請求項8】
前記植栽が前記トンネルの開口部の前方から該開口部の両脇に向けて該開口部を囲むように積み上げられていることを特徴とする請求項7に記載の野生動物用道路横断トンネル。
【請求項9】
野生動物が棲息している森の中のけもの道と前記通路帯とが連続的に繋がっていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載した野生動物用道路横断トンネル。
【請求項10】
野生動物が棲息している森と前記トンネルの開口部の近傍とが前記植栽によって繋げられていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載した野生動物用道路横断トンネル。
【請求項11】
前記トンネル内に野生動物を引き寄せる声を発生させる声発生手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載した野生動物用道路横断トンネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−67479(P2012−67479A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211781(P2010−211781)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)