説明

野生害獣の忌避剤及びそれを使用する野生害獣の忌避方法

【課題】 野生害獣の忌避剤を提供する。
【解決手段】野ねずみなどの野生害獣の忌避剤は、有効成分として、ダゾメットを含有する。忌避剤を、野ねずみから農作物を保護すべき地域の周辺に沿って、例えば、20〜50cm幅に散布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野生害獣、特に、野ねずみの忌避剤及びそれを使用する野生害獣の忌避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、野生害獣、特に、野ねずみの忌避剤としては、主として農作物の食害を防止するため、野ねずみ等の野生害獣の忌避が注目され、明治末より北海道において魚油、ナフタリンを混合して作られた塗布剤が最初であると言われている。また、グワザチンが有効であるとの開示もある(特許文献1)。
また、ねずみの忌避剤としては、にんにく精油を用いる方法(特許文献2)や、にんにくに含まれる臭気成分を石鹸に含ませて置く方法も知られている(特許文献3)。
また、イソチオシアン酸アリルが、野生獣食害忌避剤として提案されている(特許文献4)。このイソチオシアン酸アリルは、ある種の植物精油に含まれ、一般にわさびオイルと呼ばれ、忌避効果が高く、環境を汚染することがなく、安全に扱えることから注目されている。
【0003】
しかしながら、これらの公知の忌避剤は、忌避効果の持続性が非常に短く、また、木毎の根本処理でないと効果を発揮しないなど取り扱い性の欠点があった。そのため、これまで公知の忌避剤として提案されているものは、ほとんど使用されていないのが現状である。特に、イソチオシアン酸アリルなどは、揮発性が高く、通常の状態では長時間一定の濃度に維持することが難しい。このため、マイクロカプセル化し、界面活性剤等を保留剤として加えた有害動物忌避組成物(特許文献5)や、イソチオシアン酸化合物、流動パラフィン及び多孔性無機固体を混練して忌避に有効なイソチオシアン酸化合物を長時間一定濃度で揮発させ、長時間安定に忌避効果を持続させる忌避剤組成物が有効であるとの開示がある(特許文献6)。それでも、忌避効果の持続性は非常に短い(出願人による検討では、長くて20日程度)ものであった。
【0004】
【特許文献1】特開昭57-67507公報
【特許文献2】特開平7-285821号公報
【特許文献3】特開平9-194319号公報
【特許文献4】特開平10-182320号公報
【特許文献5】特開平7-76502号公報
【特許文献6】特開2002-128617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の従来の種々の野ねずみ等の野生害獣の忌避剤より効果が高く、持続性があり、しかも人畜及び作物により低毒性の忌避剤及びそれを使用する忌避方法を提供することにある。特に、野ねずみは、冬季から春先にかけりんご苗木の他、アスパラガスなど野菜類などを食害する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、有効成分として、ダゾメットを含有することを特徴とする野生害獣の忌避剤及びその忌避方法に関する。
以下、本発明について詳述する。
【0007】
本発明に使用される化合物は、一般名ダゾメット、代表的商品名バスアミド、ガスタード、CAS登録番号533-74-4、成分名3,5−ジメチルテトラヒドロ-2H-1,3,5-チアジアジン-2チオン(以下、「ダゾメット」と称する)である。
ダゾメットは、土壌と接触すると、メチルイソチオシアネートを発生し、その燻蒸効果によって殺菌、除草作用を示すとされている。実際、 ダゾメットは、土壌に混和し、一般的にはビニール等で被覆し、土壌殺菌剤、殺線虫剤、殺虫剤、除草剤として広く使用されている。
しかし、野ねずみなどの野生害獣の忌避剤として使用できることはこれまで知られていなかった。
【0008】
本発明者等は、降雪前のりんご苗木畑の周辺を20〜50cm幅に額縁状にダゾメット処理し、翌年春雪解けを待って、そ穴、坑道を観察することにより、野ねずみの進入を調査した。
その結果、処理を行っていないりんご苗木畑では、そ穴、坑道が見られ、野ねずみが侵入したあとが見られたが、額縁状にダゾメット処理した区では、処理区の外側に沿って坑道がみられたものの、表層処理した中にはそ穴、坑道が見られなかった。この結果より、ダゾメットの土壌表層処理は、3カ月〜4カ月の長期に亘り、野ねずみの忌避効果があることが判明した。
【0009】
理論により拘束されるものではないが、ダゾメットは、水に極めて溶けにくい(0.3g/100g、20℃)ため、土壌表層に配置されると、極めて少しつづ水に溶け出し、ダゾメットの分解物であるメチルイソチオシアネートなどが野ねずみなどの忌避効果を生じるものと考えられる。そして、ダゾメットは、野ねずみなどが活動しない厳寒期は、ダゾメット自体の溶解度も下がり、ダゾメットをむだに消費することがなく、一方、気温が上がりねずみなどの小動物が活動をはじめるころには、ダゾメットの溶解度も上がり、メチルイソチオシアネートなどの発生量も増え、忌避効果を発揮するものと思われる。このような作用機序により、ダゾメット処理後、例えば、3ケ月〜4ヶ月のような長期に渡る忌避効果の持続性が生じるものと考えられる。
【0010】
この新たな知見に基き、翌年、処理幅、処理量等の仔細な検討を行い、忌避効果が長期間に亘り、安定に維持できることを確認し、本発明を完成させたものである。
本発明の野生害獣の忌避剤としては、現在土壌殺菌剤や、除草剤で使用されているバスアミド微粒剤及びガスタード微粒剤(有効成分ダゾメット98% 粒径0.1〜0.4mm 平均粒径0.2〜0.3mm)を使用することができる。更に忌避効果を持続させるために、粒径を大きくすることも可能である。ダゾメットを粉砕し、通常の方法で、水和剤とし、水で希釈して散布処理することも可能である。
【0011】
本発明の野生害獣の忌避剤は、農作物の根元へ散布を行うと、作物に薬害が出るおそれがあるので、農作物の根元から離して、例えば、額縁状に散布することにより使用することができる。
散布領域の幅は、例えば、20〜30cmが好ましいが、特に限定されるものではない。但し、モグラの坑道があると、野ねずみがそれを使用し、散布領域内に侵入する場合があるので、坑道は予めつぶしておく必要がある。
散布又は使用時期は、特に制限はないが、野ねずみの食料が不足し、最も食害が多い春先の食害に備え、初冬の降雪直前に散布するのが好ましく、降雪後には、除雪して散布することもできる。
散布又は使用量は、例えば、1平方メートル当たり、50g〜200g、好ましくは、100gであれば十分である。
本発明の忌避剤は、特に、野ねずみに対して有効に作用するが、他の野生害獣、例えば、野ウサギや、ニホンジカ、カモシカ、イノシシ、クマ、キツネ、タヌキなどにも同様に適用可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の野生害獣忌避剤は、簡便に使用でき、しかも、忌避効果が高く、更に、持続性があり、人畜及び農作物に対して低毒性である。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の野生害獣忌避剤について、実施例及び試験例を参照しながら、更に詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例及び試験例によって何ら限定されるものではない。
【0014】
実施例1 りんご苗畑バスアミド微粒剤(ダゾメット98%)散布
使用したダゾメットとして、上記市販のバスアミド微粒剤を使用した。
平成18年12月13日、当日は薄く残雪があり、りんご苗木畑の周辺65mを除雪後(31m+3m+31m)(なお、残りの一辺3mには、帯状にマットが敷かれていたので、除雪はしていない。)を20cm幅にコの字状に「バスこまき」(バスアミド用小面積散布器具)を使用して、バスアミド微粒剤を散布した。散布薬量は、1.3kg、1平方メートル当たり100gであった。
翌年春雪解けを待って、3月28日にそ穴、坑道を観察することにより、野ねずみの侵入を調査した。
その結果、散布を行ってないりんご苗木畑(未処理区)では、そ穴、坑道が見られ、野ねずみの侵入したあとが見られたが、額縁状にダゾメット処理した区(処理区)では、処理区の外側に沿って坑道がみられたものの、処理区内にはそ穴、坑道が見られなかった。
また、りんご苗木の側にキャベツが植えてあり、その周辺にバスアミド微粒剤を散布したが、処理区外のキャベツは下葉がかじられ野ねずみの食害を大きくうけているが、処理区内のキャベツの葉には食害の跡は見られなかった。
これらの結果より、バスアミド微粒剤の土壌表層処理は、3カ月〜4カ月の長期に亘り野ねずみの忌避効果があることが判明した。
【0015】
実施例2 りんご苗畑バスアミド微粒剤(ダゾメット98%)散布
平成18年12月1日、りんご苗木畑の周辺50m(20m×5m長方形)を20cm幅に額ぶち状に「バスこまき」(バスアミド用小面積散布器具)を使用し、バスアミド微粒剤を散布した(処理区)。処理区は、1kg(1平方メートル当たり100g)及び0.5kg(1平方メートル当たり50g)を準備し、未処理区も設定した。
翌年春雪解けを待って、3月30日にそ穴、坑道を観察することにより、野ねずみの侵入を調査した。
その結果を、表−1に示す。
【0016】
表−1

【0017】
未処理区のりんご苗木畑では、そ穴、坑道が多数見られ、野ねずみの侵入したあとが見られたが、帯び状にダゾメット処理した処理区では、1平方メートル当たり100g及び50gとも処理区内には未処理区に比べ、そ穴、坑道が著しく少なかった。
そ穴、坑道が0にならなかったのは、もぐらの坑道を使用しての侵入があったためと思われる。
約4カ月の長期に亘り野ねずみの忌避効果があることが判明した。
本発明の忌避剤の効果持続性は非常に長いため、冬時期の開始前に1度程度散布するだけで、冬時雪の多い地域の農家にとって労力が低減される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダゾメットを含有することを特徴とする野生害獣の忌避剤。
【請求項2】
野生害獣から保護すべき地域の回りに、ダゾメットを散布することを特徴とする野生害獣の忌避方法。

【公開番号】特開2009−57298(P2009−57298A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224008(P2007−224008)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000101123)アグロカネショウ株式会社 (19)
【Fターム(参考)】