説明

野菜の加工冷凍食品及びその製法

【課題】ジャガイモにモチ性小麦粉を混合して練ることにより従来のジャガイモ加工食品にはない全く新しいタイプの加工食品であり、種々の方法の調理が可能で、消費者が他の好みの食材と組合せて食することを楽しむことができるジャガイモの加工冷凍食品及びその製法を提供する。
【解決手段】加熱処理して軟質化したジャガイモを、所定温度の保温状態で擂り潰す。これにモチ性小麦粉を混合して混練した後、適量の油脂と塩を添加して混合して生地を生成する。生成した生地は食品包装用ラップフィルムに包んで急速冷凍する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャガイモ、カボチャ、トウモロコシ、豆などの澱粉質成分含有野菜を材料に、焼く、蒸す、揚げるといった好みの調理方法が可能であるし、単体或いは他の食材と組合せるといった好みの食べ方も可能であるので、従来の野菜の加工食品とは全く異なった新しいタイプの野菜の加工冷凍食品及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉質成分を多く含む野菜はジャガイモ、トウモロコシ、カボチャ、豆などがあるが、例えばジャガイモを主材料にした加工食品としては、ジャガイモに野菜とひき肉を混ぜて油で揚げたコロッケ、ジャガイモに片栗粉を混ぜたイモ団子(イモ餅)、パン生地に摩り下ろしたジャガイモを混ぜ込んだポテトパンケーキなどが知られている。他方、小麦粉を主材料にした加工食品としては、小麦粉生地を発酵させるパン、ナン、発酵させないチャパティが知られている。また、ジャガイモと小麦粉を共に用いた加工食品もあるが、その殆どは小麦粉が主で、ジャガイモは添加材料でありジャガイモの風味や香の少ない食品に作られている。
【0003】
このようにジャガイモを主材料に使用した従来の加工食品はその種類も限られており、新しい加工食品が求められているが、澱粉質成分を多く含む野菜の特徴を生かした食品を開発するには問題点がある。それは、澱粉質成分は加熱すると55〜75℃前後で糊化して独特のモチモチ感が得られるが、時間の経過に伴って温度が下がると老化作用により硬くなることである。また、澱粉質成分は粘度の安定性に乏しく、調味料によって容易に糊化が抑制されることから取り扱いが難しいとされている。これらの理由からジャガイモその他の澱粉質成分を含む野菜を主材料とする加工食品の商品化が阻まれている。
【0004】
他方、我が国では食材に外国産の小麦粉を用いているが、外国産の小麦粉は粘りに欠けるので「ふんわりサックリ」感を持たせる食品には向いているが、「しっとり、もっちり」感に欠けるという特徴がある。このような条件から、澱粉質成分含有野菜を組合せた加工食品に関しては、ジャガイモと小麦粉を用いた加工食品として、ジャガイモを小麦粉の生地で包んだ加工食品「成形ベークドポテト」の提案もあるが(特許文献1)、加工食品の種類も数少ないのが現状である。
【特許文献1】特公平3−58705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の加工食品はジャガイモに小麦粉を混練したものではなく、ジャガイモと小麦粉を組合せた加工食品も類型化され、種類も限られていることから新味に乏しいという問題がある。このように、ジャガイモと小麦粉を混合して一体化した、即ち混練して成形した加工食品は提供されていない。
【0006】
本発明は上述した従来技術の未解決の問題点に鑑み、本発明者等が鋭意研究した結果なされたもので、澱粉質含有野菜に特定の小麦粉を混合して練ることにより従来の野菜加工食品にはない全く新しいタイプの加工食品を提供するもので、焼く、蒸す、煮るといった種々の調理法が可能であるし、食する人が他の好みの食材と組合せて食することを楽しむことができる野菜の加工冷凍食品及びその製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための請求項1に係る発明を構成する手段は、澱粉質成分含有野菜を加熱処理して軟質化した後、所定の温度以上に保持しつつ擂り潰し、モチ性小麦粉を混合して混練した後、適量の油脂と塩を添加して混合して生地を生成し、該生成生地を急速冷凍することからなる。
【0008】
そして、前記所定の温度は、前記加熱処理の温度より低くない温度、少なくとも40℃以上の温度にするとよい。
【0009】
また、前記生成生地は、厚さ2〜15mmに成形して食品包装用ラップフィルムで包んだ状態で急速冷凍するとよい。
【0010】
更に、本願の請求項4に係る発明を構成する手段は、
(1)澱粉質含有野菜を加熱処理して軟質化する工程、
(2)軟質化した前記野菜を滑らかな状態になるまで擂り潰す工程、
(3)擂り潰した野菜にモチ性小麦を混合して混練する工程、
(4)混練した物に適量の油脂と塩を添加して混合し、生地を生成する工程、
(5)該成形生地を急速冷凍する工程からなり、
前記(2)乃至(4)の工程は、加工食材を所定の温度の保温状態にして行うことからなる。
【0011】
また、前記所定の温度は、前記加熱処理の温度より低くない温度、少なくとも40℃以上の温度にするとよい。
【0012】
そして、前記生成生地は、厚さ2〜15mmに成形して食品包装用ラップフィルムで包んだ状態で急速冷凍するとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上述の如く構成したから、下記の諸効果を奏する。
(1)従来の澱粉質成分含有野菜の加工食品が持っていないモチモチ感と、しっとり感といった食感、風味を有する全く新しいタイプの加工食品である。
(2)消費者は、焼く、蒸す、揚げるといった好みの調理法で食することができるから商品として多用性があり、商品価値が高い。
(3)他の様々な食材と組合せることが可能であり、その組合せは消費者が好みで選択することができるから、性別、年齢を問わず多くの消費者に提供できるので澱粉質成分含有野菜の加工食品としては画期的な商品である。
(4)澱粉質成分含有野菜にモチ性小麦粉を組合せることにより、冷えた澱粉質成分含有野菜に生じるぱさつき感が無く、口当たりが良い加工食品にできる。
(5)加熱処理した澱粉質成分含有野菜に小麦粉、油脂、塩などを添加して練り上げる工程は所定温度の加温状態で行うようにしたから、澱粉質成分含有野菜のデンプンが製造段階で老化することがなく、解凍後もモチモチ感、しっとり感を保持している。
(6)急速冷凍することにより生地の組織を損うことがないから、解凍後はモチモチ感、しっとり感が持続した澱粉質成分含有野菜加工食品として食することができ、商品性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態としてジャガイモを例に挙げ、工程図を参照しつつ詳述する。先ず、洗浄したジャガイモは、皮付きのままで蒸し器によって、竹串が通る程度の軟らかさになるまで蒸す(第1工程)。ジャガイモを皮付きのままで蒸すのは、加熱しても旨味を逃がすことがないからである。蒸したジャガイモはその皮を剥いた後、手動や機械により粒々が完全に無くなった滑らかな状態になるまで擂り潰す(第2工程)。
【0015】
次に、潰したジャガイモにモチ性小麦粉を添加して混合し、均等になるまで練る(第3工程)。ジャガイモとモチ性小麦粉の混合割合は6:1〜5:1の範囲が、ジャガイモの風味を残し、しかもモチモチの食感を形成する点で望ましい。混練は、耳たぶの柔らかさ程度に仕上がるまで行う。
【0016】
ここで、モチ性小麦粉について説明すると、小麦のWx(ワキシー)遺伝子にはWx-A1、Wx-B1、Wx-D1の3つがあるが、このうち小麦のデンプン成分にアミロースを合成するWx-B1の突然変異によってアミロースが合成されない小麦であって、デンプンの粘りが強くモチ性を有し、老化し難い特質を有している。具体的には品種名ホクシン、品種名ハルユタカなどの北海道産小麦を用いるのが好適である。また、北海道産の小麦のデンプンは、ブドウ糖で構成される高分子の炭水化物が多く含まれており、その保水量が増えるので、生地はしっとり感を持っている。上述したモチ性小麦を使用することで、冷えたジャガイモのぱさぱさ感を無くし、生地は食感が良く、風味豊かで、栄養に富んだものにできる。また、時間が経過しても老化し難く、硬くならずにしっとり感が持続するという優れた特徴を有している。
【0017】
更に、ジャガイモとモチ性小麦を混練した物に適量の油脂と塩を添加して、均一に混合する(第4工程)。添加する油脂には、無塩バター又は有塩バターやオリーブオイルを用いる。油脂及び塩の添加量は、後述する種々の食べ方に最適な食品になるように適宜決めることができる。また、バターは固形のままで添加してもよいが、加温して溶かしバターにして添加すれば、混練した物の温度が下がるのを防止できるので望ましい。油脂及び塩を添加したらよく混合して練り上げることで生地を生成する。
【0018】
生成した生地は、円形、四角形、短冊などの適宜の形状で、厚さが2〜15mmの形に成形する。成形生地は冷凍時の取扱い性や保存時の便宜性を考慮して、例えばポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン等の食品包装用ラップフィルムで包装する(第5工程)。以上が、ジャガイモとモチ性小麦粉により成形生地を製造する工程である。
【0019】
そして、加熱することにより軟質化したジャガイモの皮を剥く工程から成形生地をラップフィルムで包装する第5工程までは、加熱処理したジャガイモ、混練した生地などの加工食材を加熱処理の温度からあまり下がらない温度、少なくとも40℃以上の温度に保持した状態で行うことが重要である。これは、ジャガイモに含まれている「でんぷん」は室温でも徐々に老化するが、10℃を下回ると急速に老化が進むことから、「でんぷん」の老化の進行を止めて「糊化したでんぷん」の状態を維持することにある。これによって、成形生地はその特徴である「モチモチ感」を保持することができる。
即ち、ジャガイモを加熱、放置し、緩慢に冷凍したのでは、本実施の形態が特徴とするモチモチ感は得られないし、この食感を持続することはできない。
【0020】
最後に、ラッピフィルムにより包装した成形生地はマイナス30〜40℃で急速冷凍する(第6工程)。急速冷凍手段としては、低温空気を吹付けて凍結させる空気凍結方法(エアーブラスト法)、液体窒素を噴霧して凍結させる液体ガス凍結法など公知の方法を用いることができる。
【0021】
このようにして製造したジャガイモの加工冷凍食品は、食する時には自然解凍又は半解凍し、以下の好みの調理方法によって食することができる。(1)フライパン、鉄板、ホットプレートで焼いて食べる。(2)蒸し器で蒸して食べる。(3)鍋料理や味噌汁の具材として煮て食べる。(4)ポテトフライのように油で揚げて食べる。(5)電子レンジで加熱して食べる。
【0022】
そして、(1)上記の各種の方法で調理し、塩、砂糖醤油、きな粉などを付けてそれだけを食してもよいが、以下のように他の具材と組み合わせることで、様々な食べ方が可能である。(2)焼いてソーセージ、サーモンなどを巻いて食す。(3)焼くか、蒸し、クリームチーズ、餡、ジャムなどの甘い具材を載せてデザートとして食す。(4)ピザ生地として上に各種具材を載せて焼いて食す。(5)生地を油で揚げて、塩、ガーリックパウダーなどの各種調味料をかけ、ポテトフライのようにして食す。(6)各種和菓子の求肥として使用する。(7)2枚の生地で具材を挟んでサンドイッチのようにして食す。(8)生地を薄く延して焼いてせんべいのようにして食す。(9)餃子や小龍包にように、中に具材を入れる点心の皮として使用する。(10)丸い団子状に成形して和菓子としたり、イモ団子として食す。
【0023】
更に、他の食べ方として、成形前の生地の中に具材としてベーコン、チーズ、明太子、魚介類を混ぜ込んでおき、フライパンなどで焼いて食することもできる。また、生地を細く麺状に裁断する、小さく丸めて中に具材の詰め物をする、或いは平たく伸ばすといった形状にしてニョッキやラビオリといったパスタと同様にして食してもよい。
【0024】
このように、本実施の形態に係るジャガイモの加工冷凍食品は、好みの調理方法によって食することができるし、他の様々な具材と組合せて食することが可能であり、その組合せは各人が好みで選択することができるのであって、従来のジャガイモ加工食品とは全く異なる画期的な加工食品である。
【0025】
なお、本実施の形態では、ジャガイモは皮付きの状態で蒸し、その後で皮を剥くことで旨味を保持するものとしたが、皮を剥いて加熱してもよいものである。
【0026】
また、本実施の形態ではジャガイモを蒸して加熱したが、本発明においては、水っぽくならないように注意すれば茹でても良いものである。
【0027】
更に、本実施の形態において、成形生地は冷凍時の取扱い性や保存時の便宜性を考慮して、食品包装用ラップフィルムで包装するものとしたが、包装しないで成形生地のままで急速冷凍してもよいものである。
【0028】
更に、トウモロコシを材料に使用する場合は、皮付き又は皮剥きのトウモロコシを茹でるか、蒸して軟質化する。これ以降の処理工程はジャガイモの場合と同じである。
【0029】
また、かぼちゃも澱粉質成分含有野菜として本発明の材料に使用することができる。かぼちゃの処理工程は、ジャガイモの場合と同じである。
【0030】
更に、豆類を材料に使用する場合は、乾燥した豆類を水に漬けて軟らかく戻した後、茹でるか蒸して軟質化する。これ以降の処理工程はジャガイモの場合と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係る製法の工程を示す流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉質成分含有野菜を加熱処理して軟質化した後、所定の温度以上に保持しつつ擂り潰し、モチ性小麦粉を混合して混練した後、適量の油脂と塩を添加して混合して生地を生成し、該生成生地を急速冷凍してなる野菜の加工冷凍食品。
【請求項2】
前記所定の温度は、前記加熱処理の温度より低くない温度、少なくとも40℃以上の温度であることを特徴とする請求項1記載の野菜の加工冷凍食品。
【請求項3】
前記生成生地は、厚さ2〜15mmに成形して食品包装用ラップフィルムで包んだ状態で急速冷凍することを特徴とする請求項1記載の野菜の加工冷凍食品。
【請求項4】
(1)澱粉質含有野菜を加熱処理して軟質化する工程、
(2)軟質化した前記野菜を滑らかな状態になるまで擂り潰す工程、
(3)擂り潰した野菜にモチ性小麦を混合して混練する工程、
(4)混練した物に適量の油脂と塩を添加して混合し、生地を生成する工程、
(5)該成形生地を急速冷凍する工程からなり、
前記(2)乃至(4)の工程は、加工食材を所定の温度の保温状態にして行うことを特徴とする野菜の加工冷凍食品の製法。
【請求項5】
前記所定の温度は、前記加熱処理の温度より低くない温度、少なくとも40℃以上の温度であることを特徴とする請求項4記載の野菜の加工冷凍食品の製法。
【請求項6】
前記生成生地は、厚さ2〜15mmに成形して食品包装用ラップフィルムで包んだ状態で急速冷凍することを特徴とする請求項4記載の野菜の加工冷凍食品の製法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−284779(P2009−284779A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138162(P2008−138162)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(501265272)
【Fターム(参考)】