説明

野菜の鮮度保持方法

【課題】野菜を長期的に保存することを可能とする野菜の鮮度保持方法および鮮度保持剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、野菜の鮮度保持方法を提供し、この方法は、ミョウバンおよびpH調整剤を含みそしてpHが2.75〜3.75である水溶液で野菜を処理する工程を含む。本発明の野菜の鮮度保持方法は、保存性向上、色調保持、および食感維持効果に格段に優れているため、野菜の鮮度保持に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜の鮮度保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜の鮮度保持には、保存性の向上、色調保持、および食感維持の3つの局面がある。これらの3つの局面を満足する方法が望ましい。
【0003】
野菜の変色防止方法として、例えば、麹酸とミョウバンなどとを利用する方法が開示されている(特許文献1および2)。しかし、麹酸は発ガン性が疑われ、食品には使用禁止とされているため、実用的ではない。
【0004】
アンヒドロフルクトースと有機酸やミョウバンなどのキレート剤とを利用する方法(特許文献3)では、レタスのようなダメージを受けやすくて褐変しやすい野菜の色調保持には効果が十分でない上、アンヒドロフルクトース由来の味覚への影響やコスト面で実用的ではない。
【0005】
葛切りの長期保存目的で、酸性物質およびミョウバンを充填水に添加し、加熱殺菌する方法が開示されている(特許文献4)。しかし、主成分が澱粉である葛切りは加熱殺菌が可能であり、変色も進行しにくいが、野菜は、加熱殺菌を実施すると食感や色調が失われ、処理時間も限られるため、葛切りの製造方法を野菜に利用した場合、効果が十分でない。
【0006】
アンモニウムミョウバン単品で褐変を防止する方法が開示されている(特許文献5)が、特に緑色野菜の色調保持には効果が十分でない。
【0007】
酢酸、酢酸塩およびミョウバンを含み、pHが5.0〜6.0である水溶液で野菜を処理する方法が開示されている(特許文献6)が、20℃のような厳しい保存条件では効果が十分でない。
【0008】
有機酸およびその塩とミョウバンとを利用して大根おろしの変色を防止する方法(特許文献7)、pH3.0〜4.0の酸性軟水と酸類およびミョウバンなどの品質改良剤とを利用してモヤシを製造する方法(特許文献8)、ならびにpH2.0〜5.0の酸性軟水とクエン酸、ミョウバンなどとを利用してゴボウ、里芋などの変色を防止する方法(特許文献9)が開示されている。大根、モヤシ、ゴボウ、里芋などの色素はポリフェノール系であり、その変色は酵素的褐変および酸化が原因であるため、pHの低下などで褐変が防止できる(非特許文献1)。一方、緑色野菜の色素はクロロフィルであるため、低pH条件下では分解して変色してしまう(非特許文献2)。そのため、変色を防止する機構が大きく違い、ポリフェノール系の色素の変色を防止する方法は緑色野菜に適しておらず、効果が十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−75033号公報
【特許文献2】特開平5−38253号公報
【特許文献3】特開2003−310208号公報
【特許文献4】特開2001−299251号公報
【特許文献5】特開昭59−140832号公報
【特許文献6】特許第3769645号公報
【特許文献7】特開昭60−58055号公報
【特許文献8】特開昭55−162917号公報
【特許文献9】特開昭55−118344号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】木村進、中林敏郎、加藤博通:食品の変色の化学、p71−105、株式会社光琳(1995)
【非特許文献2】木村進、中林敏郎、加藤博通:食品の変色の化学、p160−185、株式会社光琳(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、野菜を長期的に保存することを可能とする野菜の鮮度保持方法および鮮度保持剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、野菜の鮮度保持方法について鋭意検討を重ねた結果、ミョウバンおよびpH調整剤を含みそしてpHが2.75〜3.75である水溶液で野菜を処理することによって、従来よりも格段に優れた保存性向上、色調保持、および食感維持効果を奏することを見出して本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、野菜の鮮度保持方法を提供し、該方法は、ミョウバンおよびpH調整剤を含みそしてpHが2.75〜3.75である水溶液で野菜を処理する工程を含む。
【0014】
1つの実施態様では、上記pH調整剤はクエン酸、乳酸、DL−リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、または水酸化ナトリウムである。
【0015】
さらなる実施態様では、上記pH調整剤はクエン酸または乳酸である。
【0016】
ある実施態様では、上記水溶液は、水100質量部に対してミョウバン0.5〜3.0質量部を含む。
【0017】
さらなる実施態様では、上記水溶液は、水100質量部に対してクエン酸0.005〜0.03質量部または乳酸0.035〜0.105質量部を含む。
【0018】
また、本発明は、野菜の鮮度保持剤を提供し、該鮮度保持剤は、ミョウバンおよびpH調整剤を含み、そしてpH2.75〜3.75の水溶液を形成する。
【0019】
1つの実施態様では、上記pH調整剤はクエン酸または乳酸である。
【0020】
さらなる実施態様では、上記野菜の鮮度保持剤は、エリスリトールをさらに含む。
【0021】
さらに、本発明は、上記野菜の鮮度保持方法または上記野菜の鮮度保持剤で処理された野菜を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、野菜を長期的に保存することを可能とする野菜の鮮度保持方法および鮮度保持剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書で野菜の「鮮度保持」という場合、保存性の向上、色調保持および食感維持の3つの局面を満足することが好ましいが、必ずしもその限りではない。
【0024】
本発明においては、保存性の向上が特に重要である。保存性の向上は、微生物による変敗の抑制によるが、その指標として微生物の生菌数(例えば、保存中に増殖し得る細菌の生菌数(「一般生菌数」ともいう)および大腸菌群数が用いられ得る。
【0025】
好ましくは、保存性の向上効果に加え、色調保持効果も奏され得る。色調保持は変色防止による。特に、本発明は、クロロフィル系色素(緑色、緑黄色)の変色の防止に好適に用いられ得る。より好ましくは、上記に加え、さらに食感維持効果が奏され得る。上記に加え、風味(味覚)を低下させないことがさらに好ましいが、風味(味覚)の低下は、味覚改良目的で通常添加され得る食用物質、添加剤、調味料などの添加によって補われ得る。
【0026】
本発明の野菜の鮮度保持方法は、ミョウバンおよびpH調整剤を含みそしてpHが2.75〜3.75である水溶液で野菜を処理する工程を含む。
【0027】
ミョウバンとしては、例えば、焼成カリミョウバン、未焼成カリミョウバン、アンモニウムミョウバン、焼成アンモニウムミョウバンが挙げられる。好ましくは未焼成カリミョウバンである。
【0028】
pH調整剤としては、水にミョウバンを溶解した溶液のpHを調整可能な任意の物質が用いられ得る。水溶液中でpHを酸性側に調整し得る酸性物質およびアルカリ側に調整し得るアルカリ物質のいずれもが用いられ得る。pH調整剤は、食品での使用に適したものが好ましい。
【0029】
酸性物質としては、例えば、酢酸、クエン酸、DL−リンゴ酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、フィチン酸、乳酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、塩酸、DL−酒石酸、DL−酒石酸水素カリウム、L−酒石酸、L−酒石酸水素カリウム、リン酸、ピロリン酸二水素二ナトリウムなどの有機酸、有機酸塩および無機酸が挙げられる。好ましくは、クエン酸、乳酸、DL−リンゴ酸、グルコン酸、またはコハク酸である。より好ましくは、クエン酸または乳酸である。
【0030】
アルカリ物質としては、例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、DL−リンゴ酸一ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カルシウムなどが挙げられる。好ましくは、酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、DL−リンゴ酸一ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはトリポリリン酸ナトリウムである。
【0031】
本発明に用いられる水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水などが挙げられるが、特に限定されない。
【0032】
水溶液のpHは、2.75〜3.75の範囲内で、所望の鮮度保持効果および野菜の食味や食感への影響などを考慮して適宜設定することができる。野菜の保存性向上および色調保持効果を考慮すると、3.75より高いpHは好ましくない。一方、野菜の食味や食感への影響および色調維持効果を考慮すると、2.75より低いpHは好ましくない。
【0033】
水溶液におけるミョウバンの配合量は、所望の鮮度保持効果、野菜の食味や食感への影響または鮮度保持剤の保管安定性などを考慮して適宜設定することができる。水溶液におけるミョウバンの配合量は、野菜の水溶液処理後に水洗する場合は、水洗しない場合に比較して多めであり得る。好ましくは、水100質量部に対して0.5〜3.0質量部、より好ましくは0.75〜1.5質量部のミョウバンが配合される。ミョウバンは、野菜の食味への影響を考慮すると、水100質量部に対して3.0質量部より多い量のミョウバンは好ましくない。一方、所望の鮮度保持効果を得るには、水100質量部に対して0.5質量部より少ない量のミョウバンは好ましくない。
【0034】
pH調整剤としてクエン酸を用いる場合、水溶液における配合量は、所望の鮮度保持効果、野菜の食味や食感への影響、および鮮度保持剤の保管安定性などを考慮して適宜設定することができる。クエン酸は、ミョウバンと組み合わせた場合に、水溶液のpHが2.75〜3.75の範囲内になる量で配合され得る。好ましくは、水100質量部に対して0.005〜0.03質量部、より好ましくは0.0075〜0.0125質量部のクエン酸が配合される。クエン酸は野菜の食味や食感への影響、水溶液のpHへの影響を考慮すると、水100質量部に対して0.03質量部より多い量のクエン酸は好ましくない。一方、所望の鮮度保持効果を得るには、水100質量部に対して0.005質量部より少ない量のクエン酸は好ましくない。水溶液中のクエン酸の配合量は、ミョウバンの配合量に依存して変動し得、上述したミョウバンの配合量と好適に組み合わせられ得る。
【0035】
pH調整剤として乳酸を用いる場合、水溶液における配合量は、所望の鮮度保持効果、野菜の食味や食感への影響、および鮮度保持剤の保管安定性などを考慮して適宜設定することができる。乳酸は、ミョウバンと組み合わせた場合に、水溶液のpHが2.75〜3.75の範囲内になる量で配合され得る。好ましくは、水100質量部に対して0.035〜0.105質量部、より好ましくは0.05〜0.09質量部の乳酸が配合される。乳酸は野菜の食味や食感への影響、水溶液のpHへの影響を考慮すると、水100質量部に対して0.105質量部より多い量の乳酸は好ましくない。一方、所望の鮮度保持効果を得るには、水100質量部に対して0.035質量部より少ない量の乳酸は好ましくない。水溶液中の乳酸の配合量は、ミョウバンの配合量に依存して変動し得、上述したミョウバンの配合量と好適に組み合わせられ得る。
【0036】
本発明の野菜の鮮度保持方法に用いられる水溶液は、pH緩衝能を付与するため、有機酸塩、無機酸塩等のアルカリ物質(例えば、上述の通り)を配合することができる。
【0037】
野菜を水溶液で処理する手段は特に限定されない。水溶液処理手段としては、噴霧、静置浸漬、攪拌浸漬、振盪浸漬、超音波照射浸漬、紫外線照射浸漬、バブリング浸漬などが挙げられる。攪拌やバブリングを実施することで、水溶液と野菜が良く接触するため、鮮度保持効果が得られやすい。このような水溶液として、以下に説明する液状製剤をそのままもしくは希釈してまたは固形製剤を水に溶解して使用するもの、あるいは鮮度保持処理の際に水にミョウバンおよびpH調整剤を溶解することで作製したものであってもよい。
【0038】
野菜を水溶液で処理する時間は、所望の鮮度保持効果、野菜の食味や食感への影響、などを考慮して適宜設定することができる。好ましくは、5〜60分間である。より好ましくは10〜30分間である。水溶液処理時間は、水溶液処理後の野菜の洗浄の有無によっても適宜変更できる。
【0039】
本発明において、野菜の処理プロセスは特に限定されない。処理プロセスとしては、剥皮、アク抜き、水洗浄、洗剤洗浄、スライス、除菌処理、鮮度保持処理、加熱、水冷、放冷、真空冷却、脱水、包装、真空包装などが挙げられる。本発明における水溶液での野菜の処理は、鮮度保持処理に位置づけられ得る。
【0040】
本発明において、野菜の水溶液処理(鮮度保持処理)の順序および回数は所望の鮮度保持効果、または野菜の食味や食感への影響などを考慮して適宜設定することができる。例えば、野菜を洗浄し、除菌した後に水溶液処理(鮮度保持処理)を実施し得る。この後、水溶液処理した野菜を脱水または水洗後に脱水し得る。その後、そのまま包装するか、あるいは水溶液を充填水として野菜と一緒に包装することでさらに水溶液処理に供することもできる。野菜を加熱する場合は、加熱前に水溶液に浸漬してから加熱するか、水溶液でボイルするか、ボイル後に水溶液で水冷する。また、野菜を洗浄および除菌することなく、水溶液処理(鮮度保持処理)を施すこともでき、その後、野菜を脱水または水洗後に脱水し得る。
【0041】
本発明は、さらに、上記野菜の鮮度保持方法で用いられる鮮度保持剤を提供する。鮮度保持剤は、ミョウバンおよびpH調整剤を含有する。ミョウバンおよびpH調整剤については上述の通りである。
【0042】
本発明の鮮度保持剤は、保管安定性の向上や味覚改良目的で、食塩、精製塩、並塩、デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、糖類、糖アルコール、アミノ酸系調味料、核酸系調味料などを配合することができる。糖アルコールとしては、エリスリトールが好適に用いられ得る。
【0043】
鮮度保持剤は、水溶液のような液状製剤とされ得る。液状製剤の製造は、当業者が通常用いる方法で行われ得る。野菜の鮮度保持の際に、ミョウバンおよびpH調整剤がpH2.75〜3.75の水溶液となるように配合され得、配合量は適宜決定される。pH調整剤としてクエン酸または乳酸を用いる場合を例に挙げて配合量について説明するがこれに限定されない。また、水溶液中で野菜の鮮度保持効果を発揮する量(例えば、以下に説明するような量)で各成分を配合して作製したものであっても、または鮮度保持に用いる際に水溶液中の各成分の量がそのような量となるように希釈を考慮した配合量で作製したものであってもよい。
【0044】
例えば、pH調整剤としてクエン酸を用いた場合、水100質量部に対してミョウバン0.5〜3.0質量部およびクエン酸0.005〜0.03質量部が配合され得る。保管安定性の向上や味覚改良目的で、さらにエリスリトールが配合され得る。エリスリトールの配合量は、好ましくは0.015〜0.09質量部である。野菜の水溶液処理(鮮度保持処理)後に野菜を水洗して水切りする場合、水溶液中のミョウバンおよびクエン酸の量は、水洗しない場合に比較して多くなり得る。水洗しない場合は、ミョウバン0.5〜1.25質量部およびクエン酸0.005〜0.0125質量部が好ましく用いられ得るが、水洗する場合は、ミョウバン1.0〜3.0質量部およびクエン酸0.01〜0.03質量部が好ましく用いられ得る。エリスリトールの配合量は、ミョウバンおよびクエン酸の配合量に依存し得、水洗しない場合は、0.015〜0.0375質量部が好ましく用いられ得るが、水洗する場合は、0.03〜0.09質量部が好ましく用いられ得る。
【0045】
例えば、pH調整剤として乳酸を用いた場合、水100質量部に対してミョウバン0.5〜1.5質量部および乳酸0.035〜0.105質量部が配合され得る。保管安定性の向上や味覚改良目的で、さらにエリスリトールが配合され得る。エリスリトールの配合量は、好ましくは0.015〜0.045質量部である。野菜の水溶液処理(鮮度保持処理)後に野菜を水洗して水切りする場合、水溶液中のミョウバンおよび乳酸の量は、水洗しない場合に比較して多くなり得る。水洗しない場合は、ミョウバン0.5〜1.0質量部および乳酸0.035〜0.070質量部が好ましく用いられ得るが、水洗する場合は、ミョウバン1.25〜1.5質量部および乳酸0.088〜0.105質量部が好ましく用いられ得る。エリスリトールの配合量は、ミョウバンおよび乳酸の配合量に依存し得、水洗しない場合は、0.015〜0.03質量部が好ましく用いられ得るが、水洗する場合は、0.0375〜0.045質量部が好ましく用いられ得る。
【0046】
鮮度保持剤は、使用時に水に溶解する固形製剤であってもよい。水に溶解して水溶液とした場合に、水溶液のpHが2.75〜3.75の範囲内になるような配合量でミョウバンおよびpH調整剤が配合された製剤であり得る。固形製剤中のそれぞれの成分の配合量は、水による希釈を考慮した配合量とされ得る。例えば、pH調整剤がクエン酸または乳酸の場合、固形製剤中のミョウバンおよびクエン酸または乳酸が、水に溶解した場合に上記の方法または液状製剤について説明した量となるように配合されることが好ましい。pH調整剤がクエン酸の場合、ミョウバン100質量部に対し、クエン酸0.01〜20質量部、好ましくは0.05〜1.5質量部の割合で含有され得、pH調整剤が乳酸の場合、ミョウバン100質量部に対し、乳酸0.1〜40質量部、好ましくは5〜10質量部の割合で含有され得る。さらにエリスリトールが、0.1〜50質量部、好ましくは2〜4質量部の割合で含有され得る。水に溶解した場合の各成分の濃度が上記範囲内となるように、希釈率が設定され得る。ミョウバン固形製剤の形態としては、粉末、錠剤などが挙げられる。固形製剤の製造は、当業者が通常用いる方法で行われ得る。
【0047】
本発明に用いられる野菜としては、根菜類、果菜類、花菜類、茎菜類、葉菜類などが挙げられ、特に、クロロフィル含有野菜に好適に用いられ得る。その形態としては生食用野菜、加熱野菜、乾燥野菜などが挙げられるが、特に限定されない。
【0048】
本発明の鮮度保持剤は、保存性向上効果が非常に高いため、野菜以外にも肉類、魚介類、果物およびそれらの加工品やその他惣菜類などの食品にも幅広く利用できる。
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(参考例1:レタスにおけるミョウバン水溶液の鮮度保持効果ならびに風味への影響)
ミョウバン水溶液は、イオン交換水100質量部に対し、表1に記載した質量部でミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム、同和合成化学工業株式会社)を加え、スパーテルで攪拌溶解して調製した。ミョウバン水溶液のpHを卓上用pH計(PHL-20型、電気化学計器株式会社)で測定した。
【0051】
レタス(兵庫県産)を、芯を取り除いてから水道水にて洗浄し、付着した水を切った後、約3cm角に手でちぎった。その後計量し、チャック付きポリ袋に小分けした後、袋内にウォッシュLB(食品用洗浄剤製剤、奥野製薬工業株式会社)0.5(w/v)%水溶液を流し込み、密封してから5分間静置浸漬した。浸漬後に液切りし、適量の水道水を袋内に流し込んで軽く攪拌し、水切りした。この水洗を二回繰り返した。水洗後、袋内に残存する水を十分に切り、同じ要領で次亜塩素酸ナトリウム200ppm水溶液に10分間静置浸漬後、水洗した。
【0052】
その後、ミョウバン水溶液をレタス重量に対して10倍質量袋内に流し込み、密封してから30分間静置浸漬した。
【0053】
浸漬後に水切りし、20℃にて48時間保存したレタスの菌数、風味、食感および色調を評価した。20℃にて48時間保存は野菜の保存にとって厳しい条件である。
【0054】
菌数について、一般生菌数および大腸菌群数をスパイラルプレーティング法にて、浸漬直後(初発菌数)および20℃にて48時間保存後に測定した。一般生菌数は標準寒天培地を用いて35℃にて48時間培養後に判定し、大腸菌群数はX−GAL寒天培地を用いて35℃にて24時間培養後に判定した。浸漬処理後の破砕したレタスを生理食塩水で10倍希釈した液のpHを、ミョウバン水溶液のpH測定と同様にして測定した(レタス10%pH)。
【0055】
風味および食感について、鮮度保持処理直後に社内パネル10名で評価を実施した。色調は、20℃、48時間保管後のレタスの外観を目視にて観察し、その変色度合いを評価した。風味はミョウバンによる苦味がレタスにあるかを、そして食感はレタスのシャキシャキ感が残っているかを指標とした。
【0056】
以下の表1は、ミョウバン水溶液のミョウバンの濃度およびpH;レタス10%pH;浸漬直後(初発菌数)および20℃にて48時間保存後のレタスの菌数;ならびに20℃にて48時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す:
(風味および食感判定基準) ○:良好 △:若干悪い ×:非常に悪い
(色調評価基準)−:変色なし ±:若干変色あり +:変色有り ++〜:+が増える毎に変色が強い
【0057】
【表1】

【0058】
表1より明らかなように、ミョウバンの添加量が増加すると、保存性向上および色調保持効果が高まり、他方、食感は維持された。しかし、添加量の増加によってミョウバン独特の味覚のために、レタスの風味に影響が出てしまう問題があった。
【0059】
(実施例1:pH調整剤によるミョウバン水溶液のpH調整)
イオン交換水100質量部に対しミョウバン1.0質量部を溶解した水溶液(以下、簡潔に「ミョウバン1.0質量部水溶液」のように記載する)を、表2に記載したpHに、0.1M塩酸(林純薬工業株式会社)(pH2.00〜3.5)または1M水酸化ナトリウム水溶液(林純薬工業株式会社)(pH3.75〜5.00)にて調整した。これらのpH調整したミョウバン1.0質量部水溶液および対照としてpH未調整のミョウバン1.25質量部水溶液を使用したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0060】
以下の表2は、ミョウバン水溶液のpH;レタス10%pH;浸漬直後(初発菌数)および20℃にて48時間保存後のレタスの菌数;ならびに20℃にて48時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す。風味および食感判定基準ならびに色調評価基準は、参考例1と同様である。
【0061】
【表2】

【0062】
表2より明らかなように、ミョウバン1.0質量部水溶液のpHを2.75〜3.75に調整することで、pH未調整のミョウバン1.25質量部水溶液と同等程度以上の保存性向上、色調保持、および食感維持が認められ、風味はミョウバン1.25質量部水溶液よりも良好であった。
【0063】
(実施例2)
表3に記載したpH調整剤にてpHを3.0に調整したミョウバン1.0質量部水溶液を浸漬のために使用したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0064】
以下の表3は、ミョウバン水溶液のpH調整剤;レタス10%pH;浸漬直後(初発菌数)および20℃にて48時間保存後のレタスの菌数;ならびに20℃にて48時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す。風味および食感判定基準ならびに色調評価基準は、参考例1と同様である。
【0065】
【表3】

【0066】
表3より明らかなように、pH調整剤としてクエン酸または乳酸を用いてミョウバン1.0質量部水溶液のpHを調整した場合、保存性の向上、食感維持、および色調保持に優れ、塩酸と同等程度以上にレタスの鮮度保持効果が非常に高くなることが認められた。特に保存性の向上面では、上記の酸以外にも、DL−リンゴ酸、グルコン酸、およびコハク酸が優れていた。乳酸およびコハク酸は風味に影響を与え得るが、味覚調節剤で調節し得る。DL−リンゴ酸およびグルコン酸は変色を生じ得るが、問題にならない程度である。
【0067】
(実施例3)
浸漬のために表4に記載した配合量の種々のミョウバン、クエン酸およびエリスリトール水溶液(処方No.1〜5)を使用したこと、浸漬時間を10分間にしたこと、ならびに10℃にて72時間保存したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0068】
以下の表4は、実施例3で用いた種々のミョウバン、クエン酸およびエリスリトール水溶液(処方No.1〜5)の組成;該水溶液のpH;レタス10%pH;浸漬直後(初発菌数)および10℃にて72時間保存後のレタスの菌数;ならびに10℃にて72時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す。風味および食感判定基準ならびに色調評価基準は、参考例1と同様である。
【0069】
【表4】

【0070】
(実施例4)
浸漬のために表5に記載した配合量の種々のミョウバン、クエン酸およびエリスリトール水溶液(処方No.5〜9)を使用したこと、水溶液に浸漬した後に水洗および水切りしたこと、ならびに水切り後に10℃にて72時間保存したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0071】
以下の表5は、実施例4で用いた種々のミョウバン、クエン酸およびエリスリトール水溶液(処方No.5〜9)の組成;該水溶液のpH;レタス10%pH;浸漬直後(初発菌数)および10℃にて72時間保存後のレタスの菌数;ならびに10℃にて72時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す。風味および食感判定基準ならびに色調評価基準は、参考例1と同様である。
【0072】
【表5】

【0073】
表4および5より明らかなように、特にミョウバン0.5〜3.0質量部、クエン酸0.005〜0.03質量部の水溶液を用いた場合に、レタス鮮度保持効果が非常に高いことが認められた。より詳細には、浸漬後に水洗および水切りをしない場合は、より低い濃度となるようなミョウバン量(0.5〜1.25質量部)およびクエン酸量(0.0025〜0.0125質量部)で鮮度保持効果が高く、そして風味が良好であった。水洗および水切りによって、浸漬に用いたミョウバン、クエン酸およびエリスリトール水溶液が野菜から洗い流されるため、水洗および水切りをする場合は、より高い濃度となるようなミョウバン量およびクエン酸量の水溶液が用いられ得る。
【0074】
(実施例5)
浸漬のために表6に記載した配合量の種々のミョウバン、乳酸およびエリスリトール水溶液(処方No.10〜13)を使用したこと、浸漬時間を10分間にしたこと、ならびに10℃にて72時間保存したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0075】
以下の表6は、実施例5で用いた種々のミョウバン、クエン酸およびエリスリトール水溶液(処方No.10〜13)の組成;該水溶液のpH;レタス10%pH;浸漬直後(初発菌数)および10℃にて72時間保存後のレタスの菌数;ならびに10℃にて72時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す。風味および食感判定基準ならびに色調評価基準は、参考例1と同様である。
【0076】
【表6】

【0077】
(実施例6)
浸漬のために表7に記載した配合量の種々のミョウバン、乳酸およびエリスリトール水溶液(処方No.14〜16)を使用したこと、水溶液に浸漬した後に水洗および水切りしたこと、ならびに水切り後に10℃にて72時間保存したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0078】
以下の表7は、実施例6で用いた種々のミョウバン、クエン酸およびエリスリトール水溶液(処方No.14〜16)の組成;該水溶液のpH;レタス10%pH;浸漬直後(初発菌数)および10℃にて72時間保存後のレタスの菌数;ならびに10℃にて72時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す。風味および食感判定基準ならびに色調評価基準は、参考例1と同様である。
【0079】
【表7】

【0080】
表6および7より明らかなように、特にイオン交換水100質量部に対しミョウバン0.5〜1.5質量部および乳酸0.035〜0.105質量部の水溶液を用いた場合に、レタス鮮度保持効果が非常に高いことが認められた。より詳細には、浸漬後に水洗および水切りをしない場合は、より低い濃度となるようなミョウバン量(0.5〜1.0質量部)および乳酸量(0.035〜0.070質量部)で鮮度保持効果が高く、そして風味が良好であった。水洗および水切りによって、浸漬に用いたミョウバン、乳酸およびエリスリトール水溶液が野菜から洗い流されるため、水洗および水切りをする場合は、より高い濃度となるようなミョウバン量および乳酸量の水溶液が用いられ得る。
【0081】
(実施例7)
浸漬のために処方No.4の水溶液を使用したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0082】
(実施例8)
浸漬のために処方No.13の水溶液を使用したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0083】
(比較例1〜4)
浸漬のために4種類の既存市販品の野菜用鮮度保持剤の各水溶液(イオン交換水に対し、酢酸ナトリウム製剤(酢酸ナトリウム18.6質量%配合品)0.8(w/v)%(比較例1);エタノール+塩素系製剤(エタノール43質量%+高度サラシ粉3質量%配合品)1.0(w/v)%(比較例2);エタノール製剤(エタノール30質量%配合品)10.0(w/v)%(比較例3);または酢酸ナトリウム製剤(酢酸ナトリウム20質量%配合品)2.0(w/v)%(比較例4)を含む水溶液)を使用したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0084】
以下の表8は、実施例7および8、ならびに比較例1〜4の水溶液のpH;レタス10%pH;浸漬直後(初発菌数)および20℃にて48時間保存後のレタスの菌数;ならびに20℃にて48時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す。風味および食感判定基準ならびに色調評価基準は、参考例1と同様である。
【0085】
【表8】

【0086】
表8より明らかなように、実施例7および8の水溶液(処方No.4の水溶液および処方No.13の水溶液)は、比較例1〜4の既存市販品の野菜用鮮度保持剤の水溶液を用いた場合よりも保存性向上、食感維持、色調保持、および風味に格段に優れていることが認められた。
【0087】
(実施例9)
浸漬のために処方No.4の水溶液を使用したこと、ウォッシュLB(食品用洗浄剤製剤、奥野製薬工業株式会社)0.5(w/v)%水溶液の処理および次亜塩素酸ナトリウム200ppm水溶液の処理を実施しないこと、および10℃にて72時間保存したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0088】
(実施例10)
浸漬した後に水洗および水切りしたこと以外、実施例9と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0089】
(比較例5)
浸漬のために比較例2と同じエタノール+塩素系製剤水溶液を使用したこと、および10℃にて72時間保存したこと以外、参考例1と同様にして、レタスを処理、保存および評価した。
【0090】
以下の表9は、実施例9および10、ならびに比較例5の水溶液のpH;レタス10%pH;浸漬直後(初発菌数)および10℃にて72時間保存後のレタスの菌数;ならびに10℃にて72時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す。風味および食感判定基準ならびに色調評価基準は、参考例1と同様である。
【0091】
【表9】

【0092】
表9より明らかなように、処方No.4の水溶液は、洗浄および除菌工程を実施しない場合(実施例9)、および、さらに浸漬後に水洗して水切りした場合(実施例10)であっても、非常に高い鮮度保持効果を発揮し、風味を維持することが認められた。
【0093】
(実施例11)
浸漬する野菜にキュウリ果実部を用いたこと、浸漬のために処方No.4の水溶液を用いたこと、および10℃にて72時間保存したこと以外は、参考例1と同様にして、野菜を処理、保存および評価した。上記水溶液に浸漬する前に、キュウリ(高知県産)は水道水にて水洗し、付着した水を切った後、スライサーにて約1mm幅の輪切りにした。
【0094】
(比較例6)
比較例1と同じ酢酸ナトリウム製剤水溶液を使用したこと以外は、実施例11と同様にして、野菜を処理、保存および評価した。
【0095】
(実施例12)
浸漬する野菜に青ネギを用いたこと、浸漬のために処方No.4の水溶液を用いたこと、および10℃にて72時間保存したこと以外は、参考例1と同様にして、野菜を処理、保存および評価した。上記水溶液に浸漬する前に、青ネギ(香川県産)は水道水にて水洗し、付着した水を切った後、約5mm幅の輪切りにした。
【0096】
(比較例7)
比較例1と同じ酢酸ナトリウム製剤水溶液を使用したこと以外は、実施例12と同様にして、野菜を処理、保存および評価した。
【0097】
以下の表10は、実施例11および12、ならびに比較例6および7の水溶液のpH;野菜10%pH;浸漬直後(初発菌数)および10℃にて72時間保存後のレタスの菌数;ならびに10℃にて72時間保存後の風味、食感および色調の評価結果を示す。風味および食感判定基準ならびに色調評価基準は、参考例1と同様である。
【0098】
【表10】

【0099】
表10より明らかなように、鮮度保持が非常に難しいキュウリや青ネギでも、処方No.4の水溶液は、鮮度保持に十分な効果が認められ、風味も損なわなかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、野菜を長期的に保存することを可能とする野菜の鮮度保持方法および鮮度保持剤が提供される。よって、長期保存が可能な野菜を得ることができる。このため、鮮度の良い野菜を長期間喫食できるようになる。野菜加工および販売業者は、野菜のロスを減少させることが可能となり、運営コストの軽減が可能となる。また、食品廃棄が減少し、CO削減等にも繋がる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜の鮮度保持方法であって、ミョウバンおよびpH調整剤を含みそしてpHが2.75〜3.75である水溶液で野菜を処理する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記pH調整剤がクエン酸、乳酸、DL−リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、または水酸化ナトリウムである、請求項1に記載の野菜の鮮度保持方法。
【請求項3】
前記pH調整剤がクエン酸または乳酸である、請求項2に記載の野菜の鮮度保持方法。
【請求項4】
前記水溶液が、水100質量部に対してミョウバン0.5〜3.0質量部を含む、請求項1から3のいずれかに記載の野菜の鮮度保持方法。
【請求項5】
前記水溶液が、水100質量部に対してクエン酸0.005〜0.03質量部または乳酸0.035〜0.105質量部を含む、請求項3または4に記載の野菜の鮮度保持方法。
【請求項6】
ミョウバンおよびpH調整剤を含み、そしてpH2.75〜3.75の水溶液を形成する、野菜の鮮度保持剤。
【請求項7】
前記pH調整剤がクエン酸または乳酸である、請求項6に記載の野菜の鮮度保持剤。
【請求項8】
さらにエリスリトールを含む、請求項7に記載の野菜の鮮度保持剤。
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載の野菜の鮮度保持方法または請求項6から8のいずれかに記載の野菜の鮮度保持剤で処理された野菜。

【公開番号】特開2012−75415(P2012−75415A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225859(P2010−225859)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】