説明

野菜処理組成物および該組成物による処理方法

【課題】生鮮野菜を、加熱による殺菌ができない食材として使用する際、レタス、キュウリ、キャベツ、水菜、ホウレンソウ、ハクサイ、シソ、パセリ、バジル、ダイコン、ネギ、タマネギなど、野菜表面に付着している微生物数を減少させる効果が優れ、かつ野菜の外観を変化させない野菜処理組成物および該組成物による処理方法を提供する。
【解決手段】下記の(A)、(B)、(C)成分を含有し、該組成物の0.1重量%水溶液のpHが4.5〜5.5である野菜処理液を用いて野菜を処理した後、該処理液を分離することを特徴とする野菜の処理方法。(A)下記の一般式(I)


(式中、Rは炭素数7〜11のアルキル基、ZおよびZはいずれか一方がコハク酸残基で、他方は水素原子又はコハク酸残基である)で表されるモノグリセリドコハク酸エステル、(B)アジピン酸、(C)酢酸塩

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレタス、キュウリ、キャベツなどの野菜に付着した微生物数を減少させ、かつ野菜の外観を変化させない新規な野菜処理組成物およびそれを用いる野菜の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工食品の製造において常用される加熱殺菌は近年需要が増大している生食向けの生鮮野菜、例えばカット野菜や浅漬け、さらにはサンドイッチや弁当・惣菜の付け合わせ野菜などには適用できないため次亜塩素酸塩やオゾン、電解水による殺菌や食品用の界面活性剤と有機酸塩を主成分とする製剤による除菌洗浄が行われている。
【0003】
最も広く使われている次亜塩素酸塩は安価な殺菌剤であるが、十分な殺菌力を得るには温度や時間などの使用条件を管理しなければならない。また、次亜塩素酸塩による殺菌では野菜へ塩素臭が残ったり、製造空間へ刺激性ガスが放散されるため作業者の目や呼吸器官の粘膜刺激があるなど安全上の問題や製造設備の金属腐食の問題もあり、次亜塩素酸塩に代わる新しい製剤の開発が望まれている。
【0004】
さらに、食品用の界面活性剤と有機酸塩を主成分とする市販製剤は臭気や安全面の問題はないが、十分な除菌効果が得られない。
【0005】
このような状況下、モノグリセリド多価カルボン酸エステルまたはその塩を用いる食品の微生物制御技術が提案されている。特開平6−269265号公報および特開平9−206045号公報は組成物を食品に添加する実施態様であるため本発明とは技術内容が異なる。また、特開平5−132403号公報はモノグリセリド多価カルボン酸エステルを抗菌剤として食品や化粧品などに用いる技術であるが、野菜の処理に関する実施態様は開示されていない。一方、特開平10−234295号公報は本発明と同じように組成物の水溶液と食品を所定時間接触させた後に食品と組成物水溶液を分離し、食品を清浄水ですすぐことによって食品に付着する細菌数を減少させる技術であるが、野菜の色調保持に関しては記載がなく野菜が変色するという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平6−269265号公報
【特許文献2】特開平9−206045号公報
【特許文献3】特開平5−132403号公報
【特許文献4】特開平10−234295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、野菜の表面に付着している細菌数を減少させると共に野菜の変色の問題がないため加熱殺菌を利用できない生鮮野菜やこれらを食材として使用する食品の製造に好適な野菜処理用組成物とその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する野菜処理組成物と該組成物による野菜の処理方法を開発すべく鋭意研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の(A)、(B)、(C)成分を含有し、該組成物の0.1重量%水溶液のpHが4.5〜5.5である野菜処理組成物を用いて野菜を処理した後、野菜処理液を分離することを特徴とする野菜の処理方法に関する。
(A)下記の一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは炭素数7〜11のアルキル基、ZおよびZはいずれか一方がコハク酸残基で、他方は水素原子又はコハク酸残基である)で表されるモノグリセリドコハク酸エステル
(B)アジピン酸
(C)酢酸塩
【発明の効果】
【0012】
本発明の野菜処理組成物およびそれを使用した処理方法は、たとえばレタス(レタス、サニーレタス、サラダ菜、サンチュなど)、キュウリ、キャベツ、水菜、ホウレンソウ、コマツナ、シュンギク、ハクサイ、シソ、パセリ、バジル、ミント、タイム、レモンバーム、ダイコン、ネギ、タマネギ、ニンジン、カブ、ナス、トマト、ピーマンなどの野菜の表面に付着している微生物数を減少させる効果が優れ、かつ野菜の外観を変化させないものであるから、加熱殺菌を利用できない生鮮野菜を食材として使用するカット野菜、サラダ、浅漬けなどの製造に極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の野菜処理組成物とその処理方法についてさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明の野菜処理組成物においては、(A)成分として前記一般式(I)のモノグリセリドコハク酸エステルが用いられる。この一般式(I)において、Rは炭素数7〜11のアルキル基であるが、このアルキル基は直鎖状のヘプチル基、ノニル基、ウンデシル基がよい。また、該式中、ZおよびZは、いずれか一方はコハク酸残基であり、他方は水素原子またはコハク酸残基である。
【0015】
本発明に用いられるモノグリセリドコハク酸エステルは、炭素数7〜11の脂肪酸モノグリセリドにコハク酸または無水コハク酸を反応させて得られ、必要に応じて炭酸塩などのアルカリ触媒を使用してもよい。その反応モル比は適宜選択してよいが、炭素数10のモノグリセリドと無水コハク酸の場合、モノグリセリド1モルに対し無水コハク酸を0.5〜1モル反応させて得られたものが好適である。
【0016】
本発明の野菜処理組成物においては、(B)成分としてアジピン酸が用いられる。
【0017】
本発明の野菜処理組成物においては、(C)成分として酢酸塩が用いられる。具体的には酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが好ましい。
【0018】
本発明の野菜処理組成物において(A)成分、(B)成分、(C)成分の配合量は特に限定されないが本発明組成物の0.1重量%水溶液のpHが4.5〜5.5になるように(A)成分、(B)成分、(C)成分の配合量を決めることが好ましい。たとえば、(A)成分と(B)成分の合計量100部に対し、(C)成分は20部〜150部が好ましい。
【0019】
本発明の野菜処理組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望に応じ通常の食品処理に使用される添加成分の中から任意のものを選択して配合してよい。
【0020】
このような添加成分としては、(A)成分以外の食品添加物に指定されている界面活性剤、たとえばポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどを用いることができる。
【0021】
また、他の添加成分としては、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸などの有機酸とその塩、抗菌性の植物抽出物やナイシンAなどの抗菌剤、プロテアーゼやセルラーゼなどの酵素、グルコース、ラクトース、澱粉分解物などの食品素材、二酸化ケイ素や無水硫酸ナトリウムなどの無機粉体などが挙げられる。
【0022】
本発明の野菜処理組成物の形態は特に限定されないが、粉末状もしくは顆粒状が好適である。
【0023】
本発明の野菜処理組成物の使用方法は、本発明組成物の0.05〜3重量%、好ましくは0.1〜1.5重量%の水溶液に野菜類を所定時間接触させ、その後に本発明組成物の水溶液を野菜と分離し、清浄水によるすすぎ操作を1回またはそれ以上適宜行うことにある。野菜との接触時間は野菜の種類に応じて適宜選択してよいが、1分から60分程度が好ましい。また、接触させる時の本組成物水溶液の温度は、常温またはそれ以下の温度で本発明の目的を達成でき、キュウリやニンジンなどの果菜類や根菜類のように温度の影響を受けにくい野菜は50〜80℃程度の温度で1〜5分程度の短い時間で処理してもよい。さらに、機械力は付与した方が好ましく、機械的撹拌や噴流など特に限定されない。
【0024】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例1
表1の組成物を同表に示す使用濃度になるように水に溶かし、キュウリとレタスを各々別個に30分(10℃)振とうしながら洗浄した後、野菜(キュウリまたはレタス)と処理液を分離し、野菜を清浄水で3分すすいだ。このキュウリとレタスを一般生菌検査試料とし、常法にしたがって標準寒天培地を用いてコロニー数を計測した。さらに前記の清浄水ですすいだキュウリを10℃に3日保管後、外観を評価した。その結果を表1に示した。菌数は野菜1g当たりである。
水洗いした場合の一般生菌数は、キュウリは5×10、レタスは2×10であった。
【0026】
【表1】

表1において用いた成分は以下のものを示す。
A1:グリセリンコハク酸モノカプリル酸エステル(酸価:118)
A2:グリセリンコハク酸モノカプリン酸エステル(酸価:110)
A3:グリセリンコハク酸モノラウリン酸エステル(酸価:108)
任意成分1:デカグリセリンモノラウリン酸エステル(太陽化学(株))
任意成分2:デキストリン(松谷化学(株))
【0027】
実施例2
表2に示す本発明の組成物を製造した。グリセリンコハク酸モノカプリン酸エステル125gの加熱溶融物を澱粉分解物であるデキストリン600gに噴霧する。これを一晩放置して冷却後、アジピン酸75g、酢酸ナトリウム200gを加えて均一になるように粉体混合して本発明組成物を得た。この組成物の0.4重量%水溶液を用いてキャベツ、キュウリ、レタス、水菜を処理(10℃、30分)した。これらの野菜を十分水洗いして水切りした後に各野菜を同じ重量比で混合して袋詰めカット野菜を製造した。比較のためにポリグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする野菜用除菌製剤で各野菜を処理して同様にカット野菜を製造した。これらを10℃に3日保管した結果、本発明組成物を用いて製造したカット野菜の外観と臭気に変化はなかったが、ポリグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする野菜用除菌製剤を使用して製造したものは若干の褐変が認められた。また、本発明組成物を使って製造したカット野菜の保管後(10℃、3日)の一般生菌数は2×10コ/g、野菜用除菌製剤を使って製造したものは9×10コ/gであった。
【0028】
【表2】

【0029】
実施例3
表2に示す本発明組成物の0.3重量%水溶液を用いてニンジンを処理(60℃、3分間)した後、冷水ですすぎ洗いした。ニンジンの一般生菌数は、7×10コ/gで外観に問題はなく、同じ条件で温水処理したニンジンは5×10コ/gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、(B)、(C)成分を含有することを特徴とし、該組成物の0.1重量%水溶液のpHが4.5〜5.5である野菜処理組成物。
(A)下記の一般式(I)
【化1】

(式中、Rは炭素数7〜11のアルキル基、ZおよびZはいずれか一方がコハク酸残基で、他方は水素原子又はコハク酸残基である)で表されるモノグリセリドコハク酸エステル
(B)アジピン酸
(C)酢酸塩
【請求項2】
野菜を請求項1記載の組成物で処理した後、野菜処理液を分離することを特徴とする野菜の処理方法。