説明

野菜又は果物の糖化方法及び糖化装置

【課題】糖化反応を効果的に促進させ、糖度を短時間で高めることができる野菜又は果物の糖化方法及び糖化装置を提供する。
【解決手段】芋類等の野菜又は渋柿等の果物の糖化方法は、耐圧真空庫11内に野菜又は果物を収容して蒸気パイプ23からの水蒸気で加熱処理した後、蒸気ヒータ24による加熱状態で真空ユニット19により高真空環境下と低真空環境下とに交互に晒し、野菜又は果物中に含まれる多糖類の分解を促進しながら糖化を行うものである。前記高真空環境は−40〜−98kPaのゲージ圧力で5〜30分の時間であり、低真空環境は0〜−20kPaのゲージ圧力で5〜30分の時間である。高真空環境と低真空環境との繰り返し回数は、それぞれ2〜10回である。前記加熱状態は、50〜90℃の温度に維持されて形成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芋類、大根等の野菜や渋柿、キューイ、プルーン等の果物を糖化し、甘みがあって食感の良い食品を製造するための野菜又は果物の糖化方法及び糖化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の食品として、例えば干し芋は、まず芋を蒸してその皮を剥ぎ、薄く板状に切った後、1ヶ月以上天日干しを行うことにより製造される。この天日干しにより、昼間には芋が乾燥し、夜間には冷却され、その繰り返しによって芋内部の水分が表面に浮き出てくると共に、芋内部の多糖類が糖化反応により徐々に分解して蔗糖が生成する。この方法では、干し芋を得るために1ヶ月以上という長期間を必要とし、天日干しの作業や衛生管理の手間も煩雑であるという問題があった。
【0003】
そのような問題を解決する乾燥食品の製造方法が提案されている(特許文献1を参照)。すなわち、その方法は、水分及びβ−デンプンを含む固形原料を、減圧下、赤外線の照射によって加熱し、固形原料に含まれるβ−デンプンをα化し、かつ固形原料を乾燥するものである。この製造方法によれば、固形原料の乾燥と同時にβ−デンプンをα化でき、乾燥食品を短時間で効率良く製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−154529号公報(第2頁及び第4頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている乾燥食品の製造方法は、例えば50〜60mmHg(ゲージ圧力で−7〜−8kPa)という低い減圧度で所定時間減圧状態に維持するという方法であることから、芋類などの食品についてその内部までβ−デンプンをα化し、乾燥するには十分ではなかった。そのため、減圧度を一層下げたり、処理時間を長くしたりするという手段を講じなければならなかった。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、糖化反応を効果的に促進させ、糖度を短時間で高めることができる野菜又は果物の糖化方法及び糖化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の野菜又は果物の糖化方法は、野菜又は果物を水蒸気で加熱処理した後、加熱状態で高真空環境下と低真空環境下とに交互に晒し、野菜又は果物中に含まれる多糖類の分解を促進しながら糖化を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の野菜又は果物の糖化方法は、請求項1に係る発明において、前記高真空環境は−40〜−98kPaのゲージ圧力で5〜30分の時間であり、低真空環境は0〜−20kPaのゲージ圧力で5〜30分の時間であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載野菜又は果物の糖化方法は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記高真空環境と低真空環境とをそれぞれ2〜10回繰り返すことを特徴とする。
請求項4に記載の野菜又は果物の糖化方法は、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記加熱状態は、50〜90℃の温度に維持されて形成されることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の野菜又は果物の糖化方法は、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記野菜は芋類であり、果物は渋柿であることを特徴とする。
請求項6に記載の野菜又は果物の糖化装置は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の野菜又は果物の糖化方法に用いられる糖化装置であって、野菜又は果物が収容され真空環境に耐え得る耐圧真空庫と、該耐圧真空庫内を高真空環境及び低真空環境に交互に置くための真空ユニットと、耐圧真空庫内に水蒸気を導入して野菜又は果物を加熱処理するための水蒸気導入部と、耐圧真空庫内を加熱状態に維持するための加熱装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る野菜又は果物の糖化方法では、野菜又は果物を水蒸気で加熱処理した後、加熱状態で高真空環境下と低真空環境下とに交互に晒すことにより行われる。このため、真空度の変化の繰り返しと加熱状態との相乗的作用に基づいて野菜又は果物中に含まれる多糖類の分解が有効に促進され、糖化反応が速やかに進行する。従って、本発明によれば、糖化反応を効果的に促進させることができるとともに、糖度を短時間で高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態における野菜又は果物の糖化装置を示す部分破断正面図。
【図2】野菜又は果物の糖化装置を示す平面図。
【図3】野菜又は果物の糖化装置を示す側断面図。
【図4】野菜又は果物の糖化装置を示す要部正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜3に示すように、四角箱状をなす耐圧真空庫11の前面には、2枚のスライドドア12が支持枠13に支持されて左右方向に開閉可能に配置されている。耐圧真空庫11は、真空環境に耐え得るように十分な厚みを有するステンレス鋼で形成されている。前記スライドドア12を閉じたときには、耐圧真空庫11内が所定の真空に保持されるように耐圧、密閉構造となっている。スライドドア12は、前面中央部に突出形成された一対の取手14を把持することによって左右にスライドできるようになっている。
【0014】
耐圧真空庫11内には、芋類等の野菜又は渋柿等の果物を載せるトレー15が上下多数段に配置されたラック16が左右に2列、前後に3列収容されている。ラック16の底部には車輪17が取付けられ、耐圧真空庫11内の底部において前後方向に延びるように敷設されたレール18上を転動するように構成されている。前記野菜としては、芋類のほか大根、トマト、栗等が用いられる。芋類としては、さつま芋、じゃが芋等が挙げられる。果物としては渋柿類のほかブドウ、リンゴ、ブルーベリー、プルーン、パイナップル、キューイ等が用いられる。
【0015】
これらの野菜又は果物はデンプン、グリコーゲン、セルロース等の多糖類(高分子)を含み、その多糖類が分解されることにより四糖類、三糖類、蔗糖等の二糖類等の少糖類を経てブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)等の単糖類が生成し、糖度が上昇して所望の甘味が得られる。なお、蔗糖(サッカロース)はブドウ糖と果糖が結合した二糖類である。
【0016】
耐圧真空庫11の側方位置には、耐圧真空庫11内を高真空環境及び低真空環境に交互に置くための真空ユニット19が配設され、該真空ユニット19に接続された真空排気パイプ20が耐圧真空庫11内に導かれている。図3に示すように、真空排気パイプ20はラック16の上方位置で前後方向に延びるように支持され、真空排気パイプ20の下面に複数設けられた吸い込み口21から耐圧真空庫11内の空気を吸引して排気し、耐圧真空庫11内を所定の高真空環境及び低真空環境に置くようになっている。
【0017】
前記真空ユニット19は、図示しない2台の真空ポンプを備え、それらの真空ポンプを連結して真空排気パイプ20から耐圧真空庫11内の空気を排気するように構成されている。また、真空ユニット19には制御装置22が設けられ、その制御装置22によって耐圧真空庫11内を所定条件の高真空環境及び低真空環境に繰り返して維持することができるように構成されている。従って、予め制御装置22に高真空環境のゲージ圧力及び時間、低真空環境のゲージ圧力及び時間等を設定しておくことにより、耐圧真空庫11内の野菜又は果物の糖化を自動で進めることができるようになっている。
【0018】
前記真空ユニット19により耐圧真空庫11内が高真空環境ではゲージ圧力が−40〜−98kPa(絶対圧力が61〜3kPa)で5〜30分の時間に設定され、低真空環境ではゲージ圧力が0〜−20kPa(絶対圧力が101〜81kPa)で5〜30分の時間に設定されることが好ましい。これらの高真空環境と低真空環境とは交互に繰り返えされるようになっている。高真空環境における圧力及び時間と低真空環境における圧力及び時間とをそれぞれこのような範囲に設定し、両真空環境間に十分な圧力差を設けることにより、野菜又は果物中に含まれる多糖類の分解を促進させ、糖化反応を速やかに進行させることができる。
【0019】
高真空環境におけるゲージ圧力が−40kPaを上回る場合には、減圧度(真空度)が不足して高真空環境としての機能を果たすことができない。その一方、−98kPaを下回る場合には、減圧度が過大になり、真空ユニットの能力を必要以上に高めなければならず、しかも耐圧真空庫11の耐圧構造を必要以上に強固にしなければならなくなる。高真空環境における時間が5分より短い場合には高真空環境に基づく機能を十分に発揮することができず、30分より長い場合には野菜又は果物中に含まれる多糖類の分解効率が低下するとともに、糖化に要する時間が長くなる。
【0020】
低真空環境におけるゲージ圧力が0kPaを上回る場合には、減圧度が不足して低真空環境としての機能を果たすことができない。一方、−20kPaを下回る場合には、減圧度が過大になり、高真空環境における圧力との圧力差が小さくなって高真空と低真空を繰り返す意義が薄れる結果を招く。低真空環境における時間が5分より短い場合には低真空環境による機能を十分に発揮することができず、30分より長い場合には野菜又は果物中に含まれる多糖類の分解が遅れるとともに、糖化に要する時間が長引く結果となる。
【0021】
高真空環境と低真空環境との繰り返し回数は、それぞれ2〜10回であることが望ましい。1回では真空度の変化の繰り返しによる作用の発現が不十分であり、10回を超えると糖化処理に要する時間が長くなって製造効率が低下する。
【0022】
図1及び図3に示すように、前記各ラック16の下方位置には水蒸気導入部を構成する蒸気パイプ23が前後方向に延びるように配設され、蒸気パイプ23の上面に多数透設された図示しない水蒸気放出孔から水蒸気が吹き出されるようになっている。この水蒸気による加熱処理は、野菜又は果物を滅菌(殺菌)するとともに、野菜又は果物を構成する多糖類(高分子)を加水分解して二糖類や単糖類を生成させる糖化反応を促進するためのものである。
【0023】
水蒸気による加熱処理は、好ましくは耐圧真空庫11内の温度を80〜90℃で30分〜1時間とする条件で行われる。この温度が80℃未満の場合には、多糖類の加水分解が遅くなり、糖化反応を十分に促進させることができない。その一方、90℃を超える場合には、野菜又は果物が過熱されて品質が低下しやすくなるため好ましくない。また、水蒸気による加熱処理の時間が30分より短時間の場合、加熱処理に基づく多糖類の糖化反応の促進作用を有効に発揮することができなくなる。一方、1時間より長時間の場合、野菜又は果物が加熱される時間が長くなり過ぎて野菜又は果物の品質低下を招く。
【0024】
図1及び図4に示すように、耐圧真空庫11内の上部左右位置には、加熱装置としての一対の蒸気ヒータ24が配設されている。この蒸気ヒータ24は、その内部に水蒸気が流通するように構成されるとともに、外表面には図示しない多数の熱交換用フィンを有している。そして、耐圧真空庫11内の上部中央の前後位置に設けられモータ25により回転駆動される一対の循環ファン26によって耐圧真空庫11内の空気が循環され、その空気が蒸気ヒータ24を通過する際に熱交換されて耐圧真空庫11の両側壁11a内面に設けられたダクト27内を下降する。ダクト27内を下降する加熱空気は、ダクト27に形成された多数の吹き出し口から図4の矢印に示すように前記ラック16に向けて吹き出されるようになっている。
【0025】
この蒸気ヒータ24により耐圧真空庫11内が好ましくは50〜90℃に加熱され、野菜又は果物に含まれる多糖類の分解が促進されるとともに、野菜又は果物が乾燥されるようになっている。この加熱温度が50℃未満の場合には、多糖類の分解が十分に促進されず、多糖類の分解に必要以上の時間を要する結果を招く。その一方、90℃を超える場合には、野菜又は果物が過熱されてその品質が低下する。
【0026】
野菜又は果物の糖化装置10は、野菜又は果物を載せたトレー15が収容された耐圧真空庫11と、該耐圧真空庫11内を所定の真空状態におく真空ユニット19と、蒸気パイプ23を含む水蒸気導入部と、蒸気ヒータ24を含む加熱装置等とにより構成されている。
【0027】
次に、上記糖化装置10を用いた野菜又は果物の糖化方法について説明する。
まず、耐圧真空庫11のスライドドア12を開けてラック16を引き出し、トレー15上に野菜又は果物を載せる。この場合、野菜又は果物をそのままの形でトレー15上に載せてもよいが、予め所定の厚みにスライスしたものをトレー15上に載せることもできる。なお、芋類等は皮を剥いておいてもよい。
【0028】
その後、スライドドア12を閉め、蒸気パイプ23から水蒸気を耐圧真空庫11内に吹き出し、耐圧真空庫11内の温度を80〜90℃に上昇させてその状態を30分〜1時間保持する。このような操作により、野菜又は果物を滅菌することができると同時に、野菜又は果物を水蒸気処理して加水分解を促すようにすることができる。野菜又は果物をそのままの形で耐圧真空庫11内に収容した場合には、この水蒸気処理後に一旦耐圧真空庫11内から取り出し、スライスした後に再度それを耐圧真空庫11内に収容する。
【0029】
次いで、蒸気ヒータ24と循環ファン26を作動させると、耐圧真空庫11内の空気は循環され蒸気ヒータ24を通って加熱され、ダクト27内に入って吹き出し口から吹き出され、野菜又は果物が50〜90℃に加熱される。この加熱処理により、野菜又は果物に含まれる多糖類の分解が促される。
【0030】
さらに、真空ユニット19を駆動させ、耐圧真空庫11内に収容された野菜又は果物を高真空環境と低真空環境とに交互に晒す。ゲージ圧力が高真空環境では−40〜−98kPa、低真空環境では0〜−20kPaであって、それらの圧力差が十分大きく設定されている。従って、このような高真空と低真空を交互に繰り返す真空処理(ポンプ作用)により、多糖類の分子間の結合(連鎖)が切断されやすくなり、分解が促される。この真空処理が前記加熱処理と相俟って多糖類の分解に有効に働く。真空処理は2〜10回繰り返され、2〜3時間行われる。
【0031】
その後、蒸気ヒータ24及び循環ファン26が停止されるとともに、真空ユニット19が停止される。そして、スライドドア12を開け、ラック16を引き出してトレー15上の野菜又は果物の乾燥品を取り出す。得られた野菜又は果物の乾燥品は、多糖類が分解して生成した蔗糖等の二糖類、ブドウ糖、果糖等の単糖類によって十分な糖度を有している。
【0032】
以上の第1実施形態によって発揮される作用及び効果を以下にまとめて記載する。
(1) 本実施形態の野菜又は果物の糖化方法では、野菜又は果物を水蒸気で加熱処理した後、加熱状態で高真空環境下と低真空環境下とに交互に晒すことにより行われる。このため、真空度の変化の繰り返しと加熱状態との相乗的作用に基づいて野菜又は果物中に含まれる多糖類の分解が有効に促進され、糖化反応が速やかに進行する。従って、多糖類の糖化反応を効果的に促進させることができるとともに、糖度を数時間という短時間で高めることができる。その結果、甘くて食感の良い乾燥野菜や乾燥果物を効率良く製造することができる。
【0033】
(2) 高真空環境は−40〜−98kPaのゲージ圧力で5〜30分、低真空環境は0〜−20kPaのゲージ圧力で5〜30分に設定される。このように、高真空環境と低真空環境との圧力差が十分であるとともに、時間も十分であることから、多糖類の分解を一層有効に促進することができ、糖化反応をより迅速に進行させることができる。
【0034】
(3) 高真空環境と低真空環境とをそれぞれ2〜10回繰り返すことにより、真空度の変化に基づく作用を有効に発現させることができる。
(4) 加熱状態が50〜90℃の温度に維持されて形成されることにより、加熱状態に基づく作用及び真空度の変化による相乗的作用を効果的に発揮させることができる。
【0035】
(5) 野菜が芋類であることによって甘く、食感の良い干し芋が得られ、果物が渋柿であることによって甘味が強く、食感に優れた干し柿が得られる。
(7) 野菜又は果物の糖化装置10は、耐圧真空庫11と、真空ユニット19と、耐圧真空庫11内に水蒸気を導入するための水蒸気導入部と、耐圧真空庫11内を加熱状態に維持するための加熱装置とを備えている。このため、比較的簡易な装置で、野菜又は果物の糖化反応を効果的に促進させることができるとともに、糖度を短時間で高めることができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
前述した糖化装置10のスライドドア12を開け、耐圧真空庫11内に多層配置されたトレー15上にさつま芋(オレンジ色の安納芋と黄色の安納芋)をそのままの形で載せた。次いで、スライドドア12を閉じ、蒸気パイプ23の水蒸気放出孔から耐圧真空庫11内に水蒸気を導入し、耐圧真空庫11内を90℃に加熱し、その状態を50分間保持してさつま芋を水蒸気処理した。続いて、耐圧真空庫11内への水蒸気導入を止め、スライドドア12を開けてトレー15上のさつま芋を取り出し、さつま芋をスライスした。スライスしたさつま芋を再びトレー15に載せ、耐圧真空庫11内に収容した。
【0037】
次に、蒸気ヒータ24に水蒸気を送り、循環ファン26を駆動させて空気を蒸気ヒータ24からダクト27へ送ってその吹き出し口から加熱乾燥空気を耐圧真空庫11内へ吹き出すことにより、耐圧真空庫11内が80〜85℃に維持されるようにした。さらに、真空ユニット19を稼動させ、耐圧真空庫11内をゲージ圧力が−40kPaの高真空環境と、ゲージ圧力が0kPaの低真空環境とが各々10分間で交互に繰り返されるようにしてさつま芋の糖化を実施した。高真空環境と低真空環境の繰り返し回数は、それぞれ8回とした。このような高真空環境と低真空環境の繰り返し操作は、真空ユニット19の制御装置22に予めプログラムされ、自動的に行われるようにした。
【0038】
上記の真空操作終了後、真空ユニット19の稼動を停止し、水蒸気の導入を停止するとともに、蒸気ヒータ24の作動を停止した。その後、スライドドア12を開いてラック16を引き出し、トレー15上のさつま芋の乾燥品を取り出した。各実施例で取り出されたさつま芋の乾燥品のうち、それぞれ3つについて糖度を次に示す方法で測定し、それらの結果を表1に示した。
(糖度の測定方法)
糖度計として株式会社アタゴ製の糖度計(APAL−1)を使用し、糖度(%又はBrix若しくは度)を測定した。なお、糖度が53%以上という高い糖度を示す場合には測定できないため、53以上と表記した。
(実施例2〜9)
実施例1において、高真空環境及び低真空環境におけるゲージ圧力を表1に示した値に変更した以外は実施例1と同様にして実施した。そして、糖度の測定結果を表1に併せて示した。
【0039】
【表1】

表1に示したように、実施例1〜9では糖化処理前に比べて糖化処理後にはオレンジ色の安納芋及び黄色の安納芋のほとんどの糖度が顕著に上昇した。従って、糖化反応が十分に進行していることが判明した。
(実施例10〜18)
実施例1において、さつま芋の種類を玉豊(たまゆたか)に変えるとともに、高真空環境及び低真空環境におけるゲージ圧力を表2に示した値に変更した以外は実施例1と同様にして実施した。そして、糖度の測定結果を表2に併せて示した。
【0040】
【表2】

表2に示したように、実施例10〜18では糖化処理前に比べて糖化処理後にはさつま芋(玉豊)の全ての糖度が著しく上昇した。従って、糖化反応が十分に進行していることが明らかになった。
(実施例19〜27)
実施例10〜18において、さつま芋を百目柿に変えるとともに、水蒸気処理の条件を80℃、10分に変更した以外は実施例10〜18と同様にして実施した。なお、百目柿は渋柿の中でも大変渋い柿である。そして、糖度の測定結果を表3に示した。
【0041】
【表3】

表3に示したように、実施例19〜27では糖化処理前に比べて糖化処理後には百目柿の全ての糖度が測定値の上限に到るまで上昇した。従って、糖化反応が完全に進行していることが判明した。
【0042】
なお、前記各実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 高真空環境及び低真空環境を設定するにあたり、段階的に所定のゲージ圧力まで到らしめるように構成することもできる。或いは、高真空環境と低真空環境を繰り返す場合、高真空環境の条件と低真空環境の条件を途中で適宜変更することも可能である。
【0043】
・ 高真空環境と低真空環境との圧力差を、野菜又は果物の種類に応じて所望の糖化反応が得られるような値に設定することも可能である。
・ 前記水蒸気処理を加圧水蒸気(ゲージ圧力で110〜150kPa程度)によって行い、野菜又は果物の加水分解、さらには多糖類の分解を促進させるようにすることもできる。
【0044】
次に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記水蒸気による加熱処理は、80〜90℃で30分〜1時間の条件で行われることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の野菜又は果物の糖化方法。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、野菜又は果物の滅菌を効果的に行うことができるとともに、野菜又は果物中の多糖類の加水分解を十分に促すことができる。
(ロ)前記高真空環境と低真空環境との繰り返しは、乾燥状態で行われることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の野菜又は果物の糖化方法。ここで、乾燥状態とは水蒸気を導入せず、耐圧真空庫内の空気の加熱のみを行うことを意味する。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、野菜又は果物を良好に乾燥させることができるとともに、野菜又は果物中の多糖類の分解を有効に促進させることができる。
【符号の説明】
【0045】
10…野菜又は果物の糖化装置、11…耐圧真空庫、19…真空ユニット、23…水蒸気導入部としての蒸気パイプ、24…加熱装置としての蒸気ヒータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜又は果物を水蒸気で加熱処理した後、加熱状態で高真空環境下と低真空環境下とに交互に晒し、野菜又は果物中に含まれる多糖類の分解を促進しながら糖化を行うことを特徴とする野菜又は果物の糖化方法。
【請求項2】
前記高真空環境は−40〜−98kPaのゲージ圧力で5〜30分の時間であり、低真空環境は0〜−20kPaのゲージ圧力で5〜30分の時間であることを特徴とする請求項1に記載の野菜又は果物の糖化方法。
【請求項3】
前記高真空環境と低真空環境とをそれぞれ2〜10回繰り返すことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の野菜又は果物の糖化方法。
【請求項4】
前記加熱状態は、50〜90℃の温度に維持されて形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の野菜又は果物の糖化方法。
【請求項5】
前記野菜は芋類であり、果物は渋柿であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の野菜又は果物の糖化方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の野菜又は果物の糖化方法に用いられる糖化装置であって、
野菜又は果物が収容され真空環境に耐え得る耐圧真空庫と、該耐圧真空庫内を高真空環境及び低真空環境に交互に置くための真空ユニットと、耐圧真空庫内に水蒸気を導入して野菜又は果物を加熱処理するための水蒸気導入部と、耐圧真空庫内を加熱状態に維持するための加熱装置とを備えることを特徴とする野菜又は果物の糖化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−172494(P2011−172494A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37221(P2010−37221)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(390004226)株式会社大一テクノ (6)
【出願人】(510050384)有限会社 野菜クラブ千葉 (1)
【Fターム(参考)】