量子ドット構造体の製造方法、波長変換素子および光電変換装置
【課題】欠陥の少ない良質の量子ドットを3次元的に均一分布させることができる量子ドット構造体の製造方法、およびこの製造方法による量子ドット構造体を有する波長変換素子および光電変換装置を提供する。
【解決手段】2種以上の半導体または金属元素と酸素からなり、かつ酸素に対し、2種以上の半導体または金属元素の組成比率が多い組成の第1のアモルファス層と、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成の化学量論的誘電体材料層と、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなり、第1の半導体または第1の金属元素の組成比率が多い組成の第2のアモルファス層とを相互に積層した積層体を加熱処理し、第1の半導体または第1の金属元素によりマトリクスが形成され、マトリクスの中に第2の半導体または第2の金属元素からなる結晶質の量子ドット、または2種以上の半導体または金属元素の混晶の量子ドットを形成する。
【解決手段】2種以上の半導体または金属元素と酸素からなり、かつ酸素に対し、2種以上の半導体または金属元素の組成比率が多い組成の第1のアモルファス層と、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成の化学量論的誘電体材料層と、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなり、第1の半導体または第1の金属元素の組成比率が多い組成の第2のアモルファス層とを相互に積層した積層体を加熱処理し、第1の半導体または第1の金属元素によりマトリクスが形成され、マトリクスの中に第2の半導体または第2の金属元素からなる結晶質の量子ドット、または2種以上の半導体または金属元素の混晶の量子ドットを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットを有する量子ドット構造体の製造方法、およびこの製造方法による量子ドット構造体を有する波長変換素子および光電変換装置に関し、特に、熱処理により、欠陥の少ない良質の量子ドットを3次元的に均一分布させることができる量子ドット構造体の製造方法、およびこの製造方法による量子ドット構造体を有する波長変換素子および光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、太陽電池について研究が盛んに行われている。太陽電池のうち、P型半導体およびN型半導体を接合して構成されるPN接合型太陽電池、ならびにP型半導体、I型半導体およびN型半導体を接合して構成されるPIN接合型太陽電池は、構成している半導体の伝導帯と価電子帯との間のバンドギャップ(Eg)以上のエネルギーをもつ太陽光を吸収し、価電子帯から伝導体へ電子が励起されて、価電子帯に正孔が生成し、太陽電池に起電力が発生するものである。
PN接合型太陽電池およびPIN接合型太陽電池は、バンドギャップが単一であり、単接合型太陽電池と呼ばれる。
【0003】
PN接合型太陽電池およびPIN接合型太陽電池においては、バンドギャップより小さいエネルギーの光は吸収されることなく透過してしまう。一方、バンドギャップより大きなエネルギーは吸収されるが、吸収されたエネルギーのうち、バンドギャップより大きいエネルギー分はフォノンとして熱エネルギーとして消費される。このため、PN接合型太陽電池およびPIN接合型太陽電池のような単一バンドギャップの単接合型太陽電池は、エネルギー変換効率が悪いという問題点がある。
【0004】
この問題点を改善するために、バンドギャップの異なる複数のPN接合、PIN接合を積層し、エネルギーの大きな光から順次吸収されるような構造とすることにより、広範囲の波長域で吸収し、かつ熱エネルギーへの損失を低減し、エネルギー変換効率を改善させる多接合太陽電池が開発されている。
しかし、この多接合太陽電池は、複数のPN、PIN接合を電気的に直列接合しているため、出力電流は各接合で生成されている最小の電流となる。このため、太陽光スペクトル分布に偏りが生じ、一つのPN接合、PIN接合の出力が低下すると、太陽光スペクトル分布の偏りに影響されない接合の出力も低下し、太陽電池全体として出力が大幅に低下するという課題や、また、良質な結晶品質を有しハンドギャップの異なる半導体を良質な結晶品質をたもちつつ接合しなければならないために、結晶格子長がほぼ等しい材料にて材料選択をしなければならないことから、材料選択の幅が狭く作成が困難である。
【0005】
この課題を解決する次世代の太陽電池として、量子ドットにより量子効果を用いた太陽電池が近年急速に検討されてきた。量子ドットを応用した太陽電池としては、大きく分類して、マルチジャンクション、中間バンド型、マルチエキストン型、ホットキャリアー型の4種類がある。
いずれの方式においても、材料のバンドキャップの組み合わせにより理論変換効率が決定され、どの方式においても1.0eV以下の比較的低バンドギャップの量子ドットを形成することが望まれる。
【0006】
例えば、1.0eV以下の比較的低バンドギャップとしては、Ge,SiGe,InN,InAs,FeSi,PbS,PbSe等がある。このうち、気相形成法では、既存のSiテクノロジーと整合性からGe,SiGeの材料が検討されている(例えば、特許文献1参照)。また、粒子形成及び塗布関係では、比較的粒子合成が容易なPbS,PbSeを用いた光電変換膜の研究が盛んに検討されている。
【0007】
Ge,SiGe量子ドットを気相形成法としては、特許文献1に開示されているような、半導体材料の化合物を有する複数の化学量論的誘電体材料層と半導体組成比率が多い誘電体層を相互に積層し加熱することにより、非結晶質誘電体材料をマトリクス(エネルギー障壁)とし、その中に結晶質半導体の量子ドットが3次元的に均一分布した光電変換膜を形成する方法が提案されている。
特許文献1には、具体的にSiO2,Si3N4,SiCマトリクス材料中に、Si合金の結晶質の量子ドットが3次元的に均一分布した光電変換膜を形成することが開示されている。
また、特許文献1において、Si量子ドットを形成する場合、アニールにより2SiO→Si+SiO2の反応を利用している。さらには、特許文献1において、Ge量子ドットを形成させるために、GeO→Ge+GeO2となる反応を利用している。
【0008】
上記特許文献1の方法では、GeとGeO2の界面が形成される。
ここで、非特許文献1には、SiGeアモルファス膜をドライ酸化させることにより、GeO2マトリクス中にGeナノ結晶を形成することが開示されている。ドライ酸化条件によりPL発光強度及び組成が変化し、アニール温度が高くなるにつれて、Si−Si結合→Si−Ge結合→Ge−Ge結合の順に、ラマン強度が変化することと、FTIRの結果よりGe−GeからGe−O−Geに変化していく。さらに、Ge−GeからGe−O−Geへの変化と、PL強度の対応からGe/GeO2界面にて欠陥が形成されると推測されることが開示されている。
非特許文献1に開示されているように、Ge/GeO2界面での欠陥により、光光変換効率の低下や光電変換効率の低下が指摘されている。このため、欠陥の発生しやすいGeO2ではなく比較的安定なSiO2をマトリクスとして用いることが提案されている(特許文献2、非特許文献2参照)。
【0009】
特許文献2には、光電変換部と波長変換部(波長変換素子)とを有する光電変換装置が記載されている。この波長変換部は、光電変換部の光入射側に配置されており、波長変換部は、量子ドットdとその周囲を取り囲む層(「マトリクス」)よりなるものであり、マトリクスが酸化シリコン膜からなることが記載されている。この特許文献2には、量子ドットdは、縦横および上下に規則正しく配列させても、薄膜間に平面的にランダムに量子ドットdを配列させてもよいことが記載されている。
【0010】
非特許文献2には、SiO2とGeを共スパッタリングし、700〜900℃にアニールすることにより、SiO2中に均一なGeナノクリスタルが分散した薄膜を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2007−535806号公報
【特許文献2】特開2010−118491号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Solid state communications 136(2005)224−227
【非特許文献2】JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 103,103534(2008)
【非特許文献3】Nanotechnology 21(2010)505201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、比較的低温のアニール温度において、SiとGe界面にSiGeOが形成される報告がある(“Annealing effects on Ge/SiO2 interface structure in wafer -bonded Ge-on-insulator substrates (Osamu Yoshitake, ets Osaka University ”SSDM 2010 プロシーリングより)。
この報告より、経時により組成変化を生じ、光光変換効率の低下や光電変換効率の低下が懸念されている。
本発明者は、SixGeyO(1−x−y)層とSiO2層を積層して積層膜を形成し、この積層膜にアニールを実施し、SixGeyO(1−x−y)→Ge+SiO2の反応を利用して、Ge量子ドットを形成したところ、ラマン分光測定により、Ge結晶に由来するピークが確認され、赤外でのPL発光が確認された。しかしながら、1ヶ月程の経時試験により膜質が変化するとともに、PL発光が生じなくなったことを確かめている。
【0014】
非特許文献3には、マトリック材料と量子ドット材料として、SiO2層とSi3N4層とSixGe1−x層の積層膜を形成し、SixGe1−x層のシリコンを選択的に酸化させることにより、Si3N4層中にGe量子ドットを形成させる方法が開示されている。
しかしながら、非特許文献3においては、しかし、SiO2層とSixGe1−x層の積層膜を形成し、SixGe1−x層のシリコンを選択的に酸化させることにより、Ge量子ドット形成の可能性を検討した。表面から酸化が進むため、深さ方向に酸化程度の違いが生じた。このことから、比較的層数が多い場合には、Ge量子ドットを3次元的に均一分布させることが難しく、かつ、高密度に配列することができないと考えられる。
さらに、Ge量子ドットを囲んでいるマトリクス材料が、水平方向と、垂直方向でSiO2とSi3N4と異なるために、量子ドットが3次元的に均一分布した光電変換膜を水平方向と、垂直方向でハンド障壁の違いが生じ、これにより、電荷は水平方向に動きやすいが、垂直方向には動きにくいため、垂直方向に電流を流すことは困難であり、デバイス応用は限られてくる。
【0015】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、欠陥の少ない良質の量子ドットを3次元的に均一分布させることができる量子ドット構造体の製造方法、およびこの製造方法による量子ドット構造体を有する波長変換素子および光電変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素と酸素からなる組成を有し、かつ前記酸素に対し、前記第1、第2の2種以上の半導体または金属元素の組成比率が多い第1のアモルファス層と、前記第1の半導体または前記第1の金属元素と酸素からなる組成を有する化学量論的誘電体材料層と、前記第1の半導体または前記第1の金属元素と酸素からなる組成を有し、前記第1の半導体または前記第1の金属元素の組成比率が多い第2のアモルファス層とを相互に積層し、積層体を得る工程と、前記積層体を加熱処理し、前記第1の半導体または前記第1の金属元素によりマトリクスが形成され、前記マトリクスの中に前記第2の半導体もしくは前記第2の金属元素からなる結晶質の量子ドット、または前記第1、第2の2種以上の半導体もしくは金属元素の混晶の量子ドットを形成する工程とを有することを特徴とする量子ドット構造体の製造方法を提供するものである。
【0017】
前記積層体は、前記第1のアモルファス層または前記第2のアモルファス層に隣接して、前記化学量論的誘電体材料層が形成され、かつ前記第1のアモルファス層と隣接する第1のアモルファス層の間に、少なくとも前記第2のアモルファス層が1層以上あることが好ましい。
また、前記積層体の加熱処理工程において、前記第1のアモルファス層の前記第2の半導体または前記第2の金属元素は、前記第1のアモルファス層中に量子ドットを形成するとともに、前記第2のアモルファス層に拡散し、前記第2のアモルファス層に含まれる前記第1の半導体または前記第1の金属元素を酸化させるとともに、前記第2の半導体または前記第2の金属元素を主成分とする量子ドットを形成することが好ましい。
【0018】
前記第1の半導体または第1の金属元素の電気陰性度をA1とし、前記第2の半導体または前記第2の金属元素の電気陰性度をA2とするとき、A1>A2であることが好ましい。
前記第1の半導体または第1の金属元素を融点M1とし、前記第2の半導体または前記第2の金属元素の融点をM2とするとき、M1>M2であることが好ましい。
前記第1のアモルファス層は、SixGeyO(1−x−y)層からなることが好ましい。
前記化学量論的誘電体材料層は、SiO2層からなり、前記第2のアモルファス層は、SiOx層からなることが好ましい。
前記SiOx層は、Siをリアクティブスパッタして形成されることが好ましい。
【0019】
本発明は、上記本発明の量子ドット構造体の製造方法により製造された量子ドット構造体を有し、前記量子ドットは、吸収した光の特定の波長領域に対して前記吸収した光よりも低いエネルギーの光に波長変換する波長変換組成物からなり、前記量子ドットは、隣り合う粒子との間隔が前記量子ドットの粒径以下に配置されていることを特徴とする波長変換素子を提供するものである。
【0020】
本発明は、上記本発明の波長変換素子が光電変換層の入射光側に配置されており、前記波長変換素子は、実効屈折率が、前記光電変換層の屈折率と空気の屈折率との中間の屈折率であることを特徴とする光電変換装置を提供するものである。
前記波長変換素子は、波長533nmにおける実効屈折率nが、1.7<n<3.0であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、マトリクスの中に、欠陥の少ない良質の結晶質の量子ドットを生成することができる。この場合、量子ドットは3次元的に均一に、しかも高密度に分布するため、3次元的な周期性を有し、かつ高密度に均一に分布された量子ドットを有する量子ドット構造体を得ることができる。この量子ドット構造体を有する波長変換素子、および光電変換装置によれば、経時劣化による光光変換効率の低下、光電変換効率の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の製造方法を工程順に示す模式的断面図である。
【図2】(a)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の全体のTEM像を示す図面代用写真であり、(b)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の要部のTEM像を示す図面代用写真であり、(c)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体のラマン測定の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の発光スペクトルおよび従来の量子ドット構造体の発光スペクトルを示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の1ヶ月後の経過時の発光スペクトル(PL波長分散特性)を示すグラフである。
【図5】(a)は、積層膜のTEM像を示す図面代用写真であり、(b)は、図5(a)の積層膜を熱処理した後のTEM像を示す図面代用写真である。
【図6】(a)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体を製造するための積層体を示す模式的断面図であり、(b)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体の要部を示す模式的断面図である。
【図7】(a)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体のエネルギーバンド構造を示す模式図であり、(b)は、従来の量子ドット構造体のエネルギーバンド構造を示す模式図である。
【図8】(a)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体の発光スペクトルを示すグラフであり、(b)は、従来の量子ドット構造体の発光スペクトルを示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態の波長変換素子を示す模式的断面図である。
【図10】マルチエキシトン効果を説明するための模式図である。
【図11】太陽光スペクトルと結晶Siの分光感度曲線とを示す模式図である。
【図12】反射防止膜の構成の違いによる反射率の違いを示すグラフである。
【図13】(a)は、SiO2のマトリクス中のSiの量子ドットの含有量と屈折率との関係を示すグラフであり、(b)は、SiO2のマトリクス中のSiの量子ドットの間隔と屈折率との関係を示すグラフである。
【図14】SiO2膜/波長変換素子(Si量子ドット/SiO2Mat)/Si基板の反射率を示すグラフであり、波長変換素子は屈折率が1.80である。
【図15】SiO2膜/波長変換素子(Si量子ドット/SiO2Mat)/Si基板の反射率を示すグラフであり、波長変換素子は屈折率が2.35である。
【図16】本発明の実施形態の波長変換素子を有する光電変換装置を示す模式的断面図である。
【図17】本発明の実施形態の他の光電変換装置の構成を示す模式的断面図である。
【図18】図17の光電変換装置の光吸収層を示す模式的斜視図である。
【図19】(a)、(b)は、従来の量子ドット構造体の製造方法を工程順に示す模式的断面図であり、(c)は、従来の量子ドット構造体の要部のTEM像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の量子ドット構造体の製造方法、波長変換素子および光電変換装置を詳細に説明する。
図1(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の製造方法を工程順に示す模式的断面図である。
【0024】
本実施形態の量子ドット構造体20は、図1(c)に示すように、例えば、基板12上に設けられており、マトリクス(マトリクス層)22と、このマトリクス22内に設けられた量子ドット24とを有する。量子ドット24は、マトリクス22内に、3次元的な周期性を有し、かつ高密度に均一に配列されており、量子ドット24は、多重量子井戸構造を構成するように配置されている。具体的には、量子ドット構造体20は、例えば、図2(a)、(b)に示すような構造である。
【0025】
次に、本実施形態の量子ドット構造体20の製造方法について説明する。
まず、図1(a)に示すように、基板12上にSiO2層14(化学量論的誘電体材料層)、SiGeO層16(第1のアモルファス層)、SiO2層14、SiOx層18(0<X<2)、SiO2層14、SiGeO層16、SiO2層14、SiOx層18(第2のアモルファス層)、SiO2層14、SiGeO層16、SiO2層14を、この順で積層して形成し積層体10を得る。
SiO2層14、SiGeO層16およびSiOx層18の厚さは、例えば、3〜6nmである。
なお、SiO2層14は、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成を有する化学量論的誘電体材料層に対応するものである。SiOx層18は、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成を有し、第1の半導体または第1の金属元素の組成比率が多い第2のアモルファス層に対応するものである。
SiGeO層16は、SixGeyO(1−x−y)の組成を有するものであり、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素と酸素からなる組成を有し、かつ酸素に対し、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素の元素組成比率が多い第1のアモルファス層に対応するものである。
本実施形態において、第1の半導体または第1の金属元素は、例えば、Siであり、第2の半導体または第2の金属元素は、例えば、Geである。
【0026】
積層体10においては、SixGeyO(1−x−y)とSiOzの層をSiO2層中に交互もしくは、周期的に配列させればよい。
また、積層体10においては、SiGeO層16(第1のアモルファス層)またはSiOx層18(第2のアモルファス層)に隣接して、SiO2層14(化学量論的誘電体材料層)が形成され、かつSiGeO層16と隣接するSiGeO層16の間に、少なくともSiOx層18が1層以上配置されたものであってもよい。
【0027】
SiO2層14は、例えば、SiO2をターゲットに用いたRFスパッタにより形成される。SiGeO層16は、例えば、SiとGeとの共リアクティブスパッタにより形成される。SiOx層18は、例えば、Siをリアクティブスパッタにより酸化させることにより形成される。
【0028】
次に、積層体10に、例えば、窒素ガスをフローした雰囲気にて、例えば、900℃、1分の加熱処理(アニール処理)を施すことにより、窒化及び結晶化を行う。この場合、図1(b)に示すように、SiGeO層16(第1のアモルファス層)中にGe量子ドット(量子ドット24)が形成される(SixGeyO(1−x−y)→Ge+GeOz1+SiOz2)。このとき、SiGeO層16(第1のアモルファス層)からGeOx17(GeOz1)がSiOx層18(第2のアモルファス層)に拡散する。拡散したGeOx19が、SiOx層18にて反応してGe量子ドット(量子ドット24)が形成される。この際、拡散したGeOz1をSiがGeより酸化しやすい特性を生かし、SiOz2+GeOz1→SiO2+Geと反応させることにより、GeOzの発生が抑制され、経時的にGeOzが拡散し、Ge/GeO2界面での欠陥膜質変化を抑制することができる。
この加熱処理により、SiO2層14、SiGeO層16およびSiOx層18により、例えば、非結晶質のSiOx(x≒2)のマトリクス22が形成される。
【0029】
なお、SiO2層14、SiGeO層16およびSiOx層18を相互に積層し、加熱処理することにより、特許文献1に開示されているように、結晶質の量子ドット24がマトリクス22内に3次元的に均一分布される。本実施形態においては、さらに量子ドット24が、高密度に形成される。生成される量子ドット24は、マトリクス22内に3次元的な周期性を有し、かつ高密度に均一に分布される。
【0030】
このようにして、図1(c)に示すような、マトリクス22中に量子ドット24が3次元的な周期性を有し、かつ高密度に均一に配列された量子ドット構造体20を得ることができる。
さらに、製造された量子ドット構造体20についてラマン分光分析したところ、図2(c)に示すような結果が得られた。この結果から、Ge−Ge結合のみが観察され、Si−Ge結合およびSi−Si結合が観察されず、これによりGe量子ドットのみが形成されていることを確認している。
【0031】
なお、量子ドット構造体20において、量子ドット24とマトリクス22との界面、およびマトリクス22の欠陥の発生を防止するため、その製造工程においてパッシベーション工程を有することが好ましい。この場合、パッシベーション工程は、量子ドット構造体20を硫化アンモニウム溶液またはシアン溶液に浸すか、または量子ドット構造体20を水素ガス、フッ化水素ガス、臭素化水素ガスまたはリン化水素ガスのガス雰囲気にて熱処理することによりなされる。
例えば、プラズマ水素処理にて、水素終端を実施する場合、処理条件は、H2流量300l/分、真空度0.9Torr、マイクロ波2.5KW、基板温度300℃、処理時間30分である。
【0032】
従来、比較的高温処理が困難であったが、本発明においては、拡散したGeOxが、SiOx層18にて反応してGe量子ドット(量子ドット24)を形成する構造を取り入れたことにより、比較的高温、例えば、800℃以上で熱処理(アニール処理)することが可能となり、かつ、これまでマトリクス22中に拡散していたGeOzの拡散を抑制することにより、欠陥抑制を高めることができる。これにより、本発明の量子ドット構造体20は、形成直後でPL強度(図3に示す符号α1)が、従来の量子ドット構造体の形成直後のPL強度(図3に示す符号α2)よりも高く、PL強度が改善された。更には、例えば、1カ月経時後のPL発光特性については、図4に示すように、経時によりPL波長分散特性に変化がないことも確認しており、発光寿命が改善される。
【0033】
以下、図3に示す符号α2のPL強度が得られる従来の量子ドット構造体について図19(a)〜(c)を用いて説明する。
図19(b)に示す従来の量子ドット構造体110は、基板12上のSiO2からなるマトリクス114中にGe量子ドット112が形成されたものである。具体的には、従来の量子ドット構造体110は、図19(c)に示すようなものである。
この量子ドット構造体110を製造する場合、図19(a)に示すように、基板12上にSiO2層102、SiGeO層104を交互に積層して積層体100を得る。SiO2層102は、到達真空度を3×10−4Pa以下、基板温度を室温(RT)、ターゲットにSiを用い、投入電力を100W、成膜圧力を0.3Pa、ガス流量についてはArガスを15sccm、O2ガスを1sccmの成膜条件で成膜した。
【0034】
SiGeO層104は、アモルファス状のものであり、到達真空度を、3×10−4Pa以下、基板温度を室温(RT)、ターゲットにGeおよびSiを用い、投入電力をGeは50W、Siは100W、成膜圧力を0.3Pa、ガス流量についてはArガスを15sccm、O2ガスを0.5sccmの成膜条件で成膜した。
積層体100に対して窒素雰囲気で650℃、10分アニールを行う。これにより、Ge量子ドット112が形成されて、量子ドット構造体110が製造される。
【0035】
なお、本発明者は、図5(a)に示すように、SiO2とSixGe1−xの積層膜26を形成した後、SixGe1−x層のシリコンを選択的に酸化させることにより、Ge量子ドットの形成の可能性を検討した。その結果、図5(b)に示すように、積層膜26の表面から酸化が進むため、深さ方向に酸化程度の違いが生じた。図5(b)の積層膜26では、上部28がSiO2になった。このことから、比較的層数が多い場合には、Ge量子ドットを3次元的に均一分布させることが難しく、かつ高密度に配列することができないと考えられる。
【0036】
本実施形態の量子ドット構造体20において、マトリクス22は、例えば、バンドギャップが3eV以上の酸化物系誘電体または有機物により構成され、例えば、SiOx(0<x<2)からなる。マトリックス層22をSiOx(0<x<2)(無機材料)にて形成することにより、経時信頼性を得ることができる。
また、量子ドット24は、例えば、GeまたはSiGe混晶からなるものである。
量子ドット24は、例えば、隣り合う粒子(量子ドット24)との間隔が10nm以下である。また、量子ドット24は、粒径のバラツキσdが、1<σd<d/5nmであることが好ましく、より好ましくは、1<σd<d/10nmである。なお、量子ドット24の粒径はバラツキの範囲で異なっていてもよい。
量子ドット24は、粒子状のものであり、粒径が3nm〜20nm、好ましくは2nm〜15nmであり、より好ましくは2nm〜5nmである。
【0037】
また、本実施形態の量子ドット構造体20においては、第1のアモルファス層が、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素と酸素からなる組成を有し、かつ酸素に対し、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素の組成比率が多いものを用いることができる。また、化学量論的誘電体材料層に、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成を有するものを用いることができる。第2のアモルファス層に、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成を有し、第1の半導体または第1の金属元素の組成比率が多いものを用いることができる。これを相互に積層されてなる積層体に加熱処理を施す。このとき、第1の半導体または第1の金属元素によりマトリクスが形成され、このマトリクスの中に、第2の半導体もしくは第2の金属元素からなる結晶質の量子ドット(Ge量子ドット)、または第1、第2の2種以上の半導体もしくは金属元素の混晶の量子ドット(SiGe混晶量子ドット)が3次元的に均一に分布される。
【0038】
本実施形態において、第1の半導体または第1の金属元素の電気陰性度をA1とし、第2の半導体または第2の金属元素の電気陰性度をA2とするとき、A1>A2であることが好ましい。第1の半導体または第1の金属元素の融点をM1とし、第2の半導体または第2の金属元素の融点をM2とするとき、M2<M1であることが好ましい。
以上のような条件を満たすものとして、例えば、第1の半導体としてはSiであり、第2の半導体としてはGeである。
【0039】
次に、第2の実施形態について説明する。
なお、本実施形態においては、図1(a)〜(c)に示す第1の実施形態の量子ドット構造体20と同一構成物には、同一符号を付しその詳細な説明は省略する。
図6(a)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体を製造するための積層体を示す模式的断面図であり、図6(b)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体の要部を示す模式的断面図である。
【0040】
図6(b)に示す量子ドット構造体20aは、第1の実施形態の量子ドット構造体20に比して、大きさが異なる量子ドット24a〜24cが形成されており、これらの量子ドット24a〜24cで多重量子井戸構造が構成されている点が異なり、それ以外の構成は、第1の実施形態の量子ドット20と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。本実施形態の量子ドット構造体20aは、量子ドット構造体20aの厚さ方向(上下方向)の両端の量子ドット24aが一番大きく、量子ドット構造体20の中心にいくにつれて量子ドット24b、量子ドット24cとその大きさは小さくなる。
【0041】
なお、本実施形態においては、大きさが異なる量子ドットが配置されるものであれば、大きさが異なる量子ドットの配置は特に限定されるものではない。例えば、図7(a)に示すように、量子ドット構造体20の厚さ方向(上下方向)の両端の量子ドットが一番小さく、量子ドット構造体20の中心にいくにつれて量子ドットの大きさが大きくなるものであってもよい。
さらには、量子ドット構造体20の厚さ方向(上下方向)において、小さい粒子径の量子ドット層L1に大きい粒子径の量子ドット層L2が挟まれるように、L1−L2−L1、L1−L1−L2−L1というような周期配置されたことにより多重量子井戸構造を有するものであってもよい。
【0042】
次に、本実施形態の量子ドット構造体20aの製造方法について説明する。
本実施形態においては、図6(a)に示す積層体10aが、図1(a)に示す積層体10に比して、中央にSiGeO層16に代えて、SiOx層18(0<X<2)が形成されている点が異なり、それ以外の構成は、図1(a)に示す積層体10と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0043】
本実施形態においては、SiGeO層16(SixGeyO(1−x−y)膜)、SiO2層14、SiOx層18の周期配列において、図6(a)に示すように、SixGeyO(1−x−y)層間に、SiOx層18を複数層挿入する構成とすることにより、挿入したSiOx層18の層数に対応してSiGe粒子径を段階的に変化させることが可能となる。このため、積層体10aに対して、例えば、窒素ガスをフローした雰囲気にて、900℃、1分の加熱処理を実施することにより、大きさが異なる量子ドット24a〜24cを形成することができる。
【0044】
また、図7(a)に示す本発明の波長変換膜(量子ドット構造体)、および図7(b)に示す構成の波長変換膜(量子ドット構造体)を作製し、その赤外のPL発光強度を測定した。その結果を図8(a)および(b)に示す。図7(b)は、量子ドットの大きさを同じ大きさに形成したものである。
図8(a)および(b)に示すように、粒子合成が比較的困難なGe及びSiGeにおいて、熱処理直後でPLピーク強度が、従来に対して約100倍以上の改善が見られた。また、粒子サイズを周期的に可変することにより、光光変換及び光電変換が改善される。さらには、1ヶ月の保管試験にて、発光強度の低減は確認されなかった。
なお、図7(a)に示す本発明の波長変換膜として、粒径が2〜6nmで、層毎に異なる合計57層のものを作製した。層構成は、SiO2/8(Ge量子ドット(QD)/SiO2/SiOx1/SiO2/SiOx2/SiOx3/SiO2)/T4040(石英ガラス基板)である。
図7(b)に示す構成の波長変換膜として、粒径が4〜6nmで、合計59層のものを作製した。層構成は、SiO2/29(Ge量子ドット(QD)/SiO2)/T4040(石英ガラス基板)である。
図7(a)に示す本発明の波長変換膜、および図7(b)に示す構成の波長変換膜における各膜の成膜条件は下記表1に示す通りである。
【0045】
【表1】
【0046】
本実施形態の量子ドット構造体20aにおいては、マトリクス22を無機材料(SiOx(0<x<2))で形成することにより、経時信頼性が得られる。また、高密度に量子ドットを配置することにより、反射ロス改善等の効果が得られ、実効屈折率にて規定することにより、反射ロス改善等の効果を得ることができる。本実施形態の量子ドット構造体20aにおいても、第1の実施形態の量子ドット構造体20と同様に、上述のパッシベーション工程を有することが好ましい。
【0047】
以上説明した量子ドット構造体20、20aは、波長変換機能を有しており、単体で波長変換膜として用いることができる。更には、量子ドット構造体20、20aは、例えば、いずれも波長変換素子、波長変換装置および太陽電池に利用することができる。
図9に示す波長変換素子40は、第1の実施形態の量子ドット構造体20の製造方法で作製された量子ドット構造体20を有する波長変換素子40である。なお、波長変換素子40は、第2の実施形態の量子ドット構造体20aの製造方法で作製された量子ドット構造体20aを用いることもできる。
なお、波長変換素子40においては、量子ドット構造体20、20aにおける量子ドットの積層数は、特に限定されるものではない。
【0048】
波長変換素子40は、入射した光Lを吸収し、この吸収した光の特定の波長領域に対して、吸収した光よりも低いエネルギーの光に波長変換する機能(以下、波長変換機能という)を備えるとともに、および入射した光Lを閉じ込める機能(以下、光閉込め機能という)を備えるものである。
【0049】
波長変換素子40において、波長変換機能とは、具体的には、ダウンコンバージョン機能のことである。このダウンコンバージョン機能は、マルチエキシトン効果を呼ばれる、吸収された光子当たり1個以上の光子を生成する効果により発揮される。例えば、図10に示すように、量子ドットにより量子井戸が構成され、EgQD(量子ドットのバンドギャップ)以上のエネルギーをもつ光子(フォトン)が量子ドットに入射された場合、低いエネルギー準位(E1)にある電子が上位のエネルギー準位(E4)に励起され、その後、下位のエネルギー準位(E3)に落ちる際に、入射された光子よりも低いエネルギーの光子が放出される。また、低いエネルギー準位(E2)にある電子が上位のエネルギー準位(E3)に励起された際に、入射された光子よりも低いエネルギーの光子が放出される。このように、1つの光子に対して、光子よりも低いエネルギーの電子を2つ放出させることにより、波長変換がなされる。1つの光子に対して、光子よりも低いエネルギーの電子を2つ放出させる場合、光光変換ともいう。波長変換素子40は、光光変換機能を備える。
【0050】
波長変換素子40の波長変換機能については、波長変換素子40の用途により、適宜その変換する波長域および変換後の波長が選択される。
波長変換素子40が、例えば、Eg(バンドギャップ)が1.2eVのシリコン太陽電池の光電変換層上に配置された場合、この1.2eVの2倍以上のエネルギー(2.4eV以上)の波長領域に対して、バンドギャップに相当するエネルギーの波長の光に波長変換する機能を有するものとする。
【0051】
図11に示すように、太陽光スペクトルと結晶Siの分光感度曲線とを比べると、太陽スペクトルには結晶Siのバンドギャップの波長域の強度が低い。このため、太陽光のうち、結晶Siのバンドギャップの2倍以上のエネルギー(2.4eV以上)の波長領域に対して、低いエネルギーの光子、例えば、1.2eVの光(波長約1100nm)に波長変換することにより、光電変換に有効な光を、結晶Siからなる光電変換層に供給することができる。これにより、太陽電池の変換効率を高くすることができる。
なぜなら、図11に示すように、太陽光スペクトルと結晶Siの分光感度曲線とを比べると、太陽スペクトルに比較して、結晶Siバンドギャップの波長帯域が狭く、比較的高エネルギーの光の分光感度強度が低ため、太陽光を有効利用できていない。このため、比較的高エネルギーの光を結晶Siの分光感度に適した光に変換することに、太陽光を有効利用することができる。さらには、結晶Siのバンドギャップの2倍以上のエネルギー(2.4eV以上)の波長領域に対して、1.2eVの光(波長約1100nm)の光に変換する際に、2光子以上(2.4(eV)×1(光子)≒1.2(eV)×2(光子))の光に変換可能であれば、太陽光をさらに有効に利用することができ、太陽電池の変換効率を高くすることができる。
【0052】
波長変換素子40において、光閉込め機能とは、反射防止機能のことである。
波長変換素子40が配置される光電変換層が、結晶Siの場合には屈折率nPVは3.6である。また、これらが配置される空間の空気の屈折率nairは1.0である。
ここで、波長変換素子40を反射防止膜として考えた場合、例えば、図12に示すように、屈折率が1.9の単層膜(符号A1)、屈折率が1.46/2.35の2層膜(符号A2)、屈折率が1.36/1.46/2.35の3層膜(符号A3)を比較すると、屈折率が2.35のものがあると、反射率を低減することができる。
このように、波長変換素子40において、反射防止機能を発揮するためには、波長変換素子40の実効屈折率nが、光電変換層の屈折率nPV(結晶シリコンで3.6)と、空気の屈折率とのほぼ中間の屈折率とすることができれば、反射防止機能を発揮することができる。
本実施形態では、波長変換素子40(量子ドット構造体20、20a)の用途等を考慮して、波長変換素子40(量子ドット構造体20、20a)の実効屈折率nは、例えば、波長533nmにおいて、1.7<n<3.0とする。実効屈折率nは、好ましくは、波長533nmにおいて1.7<n<2.5である。
【0053】
波長変換素子40において、以上のような波長変換機能および光閉込め機能を発揮するために、量子ドット構造体20、20aは以下のような構成を有する。
量子ドット構造体20、20aにおいて、マトリクス22は、バンドギャップが3eV以上の透明ない硬化樹脂材または無機材により構成される。
マトリクス22の硬化樹脂材には、例えば、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が用いられ、光を透過するものであれば特に限定されるものではない。光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)樹脂等を用いることができる。
シリコーン樹脂としては、市販のLED用シリコーン樹脂等が挙げられる。エチレンビニルアセテート(EVA)樹脂としては、例えば、三井化学ファブロ株式会社のソーラーエバ(商標)等を用いることができる。さらには、アイオノマー樹脂なども使用することができる。
【0054】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂またはこれらの水添化物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
アクリル樹脂としては2つ以上の官能基を有する(メタ)アクリレートを用いることができる。また、アクリル樹脂として水分散型アクリル樹脂を用いることができる。この水分散型アクリル樹脂とは、水を主成分とする分散媒に分散したアクリルモノマー、オリゴマー、またはポリマーで、水分散液のような希薄な状態では架橋反応がほとんど進行しないが、水を蒸発させると常温でも架橋反応が進行し固化するタイプ、または、自己架橋可能な官能基を有し、触媒や重合開始剤、反応促進剤などの添加剤を用いなくとも加熱のみで架橋し固化するタイプのアクリル樹脂である。
【0055】
マトリクス22を無機材で構成する場合、例えば、SiOx(0<x<2)が用いられる。
【0056】
量子ドット構造体20、20aの各量子ドットが、吸収した光の特定の波長領域に対して吸収した光よりも低いエネルギーの光に波長変換する波長変換組成物からなるものである。各量子ドットが、波長変換素子40の波長変換機能を担う。各量子ドットは、マトリクス22の面内方向およびマトリクス22の厚さ方向のうち、少なくとも一方の方向において、例えば、隣り合う量子ドットとの間隔が量子ドットの粒径以下に配置される。
【0057】
波長変換素子40において、量子ドットは、バンドギャップが波長変換素子40が設けられる光電変換装置の光電変換層のバンドギャップより大きいもので構成される。
量子ドットは、例えば、波長変換素子40が設けられる光電変換層のEgの2倍以上のエネルギーの波長領域に対して、光電変換層のEgの光に波長変換する機能を有する。このため、量子ドットを構成する材料としては、光電変換層のEgの2倍以上のエネルギーを吸収し、かつ光電変換バンドキャップの2倍以上に、光吸収のためのエネルギー準位が存在している材料が選択される。
【0058】
このため、量子ドットには、光電変換層のEgより高いエネルギーで発光する材料が選択され、光電変換層のEg以上に量子ドットの基底準位が存在し、かつ、離散化したエネルギー準位において、光電変換層のEgの2倍以上のエネルギー準位が存在している。
【0059】
また、光電変換層で利用可能な光に変換するには、基底準位より励起された励起状態のフォトンの存在確率が高くなる反転分布状態を形成するように、量子ドットが配列される必要がある。そこで、量子ドットを上述の如く周期配列とする。この場合、量子ドットの周期間隔が10nm以下であり、好ましくは2nm〜5nmである。これにより、励起状態のフォトンが存在できる量子ドットの配列となる。また、エネルギーの局在を生じさせるために、粒径の異なる量子ドットにより特定の周期配列を形成する。
【0060】
また、光電変換層で利用可能な光に変換するには、波長変換素子40において、マトリクス22の水平方向(厚さ方向と直交するマトリクス22の面に平行な方向)の配列を異ならせることでも、エネルギーの局在を選択的に生じせることが可能である。この場合、量子ドットが上述の周期配列と異なる配列を有しても、3次元空間での粒子密度の偏りを有することにより、空間的なのエネルギーの偏りを形成し反転分布状態を形成することが可能である。この場合においても、上述のように、量子ドットの粒径バラツキσdが、1<σd<d/5nmの範囲で異なること、好ましくは、1<σd<d/10nmである。
【0061】
さらに、光電変換層で利用可能な光に変換するには、波長変換素子40が多層構造である場合、量子ドットの積層方向と、この積層方向と直交する方向の配列が同様な場合、すなわち、量子ドットが波長変換素子40内で、3次元的に上述の周期配列のように均一に等間隔に配列されている場合、量子ドットの粒径サイズの偏りによりエネルギーの局在を生じさせてフォトンの存在確率を変えることにより実現することもできる。この場合でも、量子ドットの粒径サイズばらつきを有し、量子ドットの粒径のバラツキσdが、1<σd<d/5nm、好ましくは1<σd<d/10nmであり、量子ドットは、前述のバラツキの範囲で異ならせる。
【0062】
上述のように、反射防止機能を得るために、波長変換素子40の実効屈折率nを、例えば、光電変換層と空気との中間の値の2.4にする必要がある。そこで、マトリクス22をSiO2で構成し、量子ドットをSiで構成した場合における屈折率をシミュレーション計算により調べた。その結果、図13(a)に示すように、量子ドットの含有量が多くなると屈折率が高くなる。
さらに、量子ドットの間隔と屈折率との関係をシミュレーション計算により調べた。その結果、図13(b)に示すように、屈折率を高くするには、量子ドットの間隔を狭くする必要がある。
図13(a)、(b)に示すように、例えば、波長変換素子40の実効屈折率nを2.4にするには、量子ドットの間隔を狭く、かつ高い密度でマトリクス22内に配置する必要がある。
【0063】
次に、Si基板上に波長変換素子40を形成し、この波長変換素子40上にSiO2膜を形成したものについて反射率を求めた。波長変換素子40は、SiO2のマトリクス22にSiの量子ドットが設けられたもの(Si量子ドット/SiO2Mat)であり、量子ドットの粒径を均一である。このとき、波長変換素子40の屈折率は1.80である。
この場合、図14に示すように、反射率を約10%にすることができる。なお、反射率は、分光反射測定器(日立製U4000)を用いて測定した。
【0064】
また、量子ドットの粒径を不均一にすることにより、充填率を高くし、波長変換素子40の屈折率を2.35と高くした。この場合、波長変換素子40は、SiO2のマトリクス22にSiの量子ドットが設けられたもの(Si量子ドット/SiO2Mat)である。その結果を図15に示す。なお、反射率は、分光反射測定器(日立製U4000)を用いて測定した。
図15に示すように、反射率を図14に比して、更に低くすることができる。このように、量子ドットの充填率を高くすることにより、屈折率が高くなり、その結果、反射率を低くすることができる。このため、波長変換素子40に入射した光Lの利用効率を高くすることができる。
【0065】
本実施形態の波長変換素子40は、例えば、後述するように太陽電池に利用することができる。また、波長変換素子40は、例えば、533nmの波長の光を、1100nmの波長の光に波長変換することができるため、赤外線光源として利用可能である。この場合、量子ドットの配列および組成を適宜選択することにより、波長変換された光の発光強度を高めること、すなわち、赤外線の発光強度を高くすることもできる。
また、量子ドットのバンドギャップを適宜変えることにより、例えば、3.5eV(波長350nm)とすることにより、1.75eVのエネルギーの光(波長800nm)に波長変換することができ、紫外線防止膜としても利用可能である。
【0066】
次に、本実施形態の波長変換素子40を用いた光電変換装置について説明する。
なお、波長変換素子40を用いた光電変換装置は、光光変換装置としても機能するものである。
図16は、本発明の実施形態の波長変換素子を有する光電変換装置を示す模式的断面図である。
図16に示す光電変換装置50は、基板42の表面42aに光電変換素子60が設けられている。光電変換素子60は、基板42側から電極層62とP型半導体層(光電変換層)64とN型半導体層66と透明電極層68とが積層されてなるものである。
このP型半導体層64は、例えば、多結晶シリコンまたは単結晶シリコンにより構成される。
【0067】
本実施形態においては、光電変換素子60の表面60a(透明電極層68の表面)に波長変換素子40が設けられている。
この場合、波長変換素子40は、P型半導体層64を構成するSiのバンドギャップ1.2eVの2倍以上のエネルギーの波長域に対して、その半分のSiのバンドギャップに相当する1.2eVのエネルギーの光(波長533nm)に波長変換する波長変換機能を有し、更には波長変換素子40の実効屈折率がSiの屈折率と空気の屈折率との中間の屈折率にされている。
これにより、反射光が少なくなり、更には光電変換に寄与しない特定の波長領域の光を波長変換し、光電変換に利用可能な波長の光量が多くなるため、光電変換素子60の変換効率を改善し、光電変換装置50全体の発電効率を改善することができる。
【0068】
ここで、光電変換素子60のP型半導体層(光電変換層)64に多結晶シリコンを用いた場合、様々な面方位が出現するため、反射率が均一ではない。このため、ある面方位に有効な反射防止膜を形成しても、光電変換層全体では有効ではない。しかしながら、波長変換素子40は、特定の波長領域の透過特性を改善し、反射ロスを低く抑えることができる。この点からも、光電変換装置50全体の発電効率を改善することができる。
また、波長変換素子40を設ける場合、光電変換素子60の表面60aに単に配置すればよく、エッチング等が不要である。このため、光電変換装置にエッチング等によるダメージを与えることもない。これにより、製造不良の発生を抑制することができる。
【0069】
また、本発明においては、光電変換層は、シリコンを用いるものに限定されるものではなく、CIGS系光電変換層、CIS系光電変換層、CdTe系光電変換層、色素増感系光電変換層、または有機系光電変換層であってもよい。
【0070】
基板42は、比較的耐熱性のあるものが用いられる。基板42としては、例えば、青板ガラス等のガラス基板、耐熱性ガラス、石英基板、ステンレス基板、ステンレスと異種金属を積層した金属多層基板、アルミニウム基板、または表面に酸化処理、例えば、陽極酸化処理を施すことで表面の絶縁性を向上させた酸化被膜付きのアルミニウム基板等を用いることができる。
【0071】
次に、量子ドット構造体20、20aを用いた他の光電変換装置について説明する。なお、量子ドット構造体20を例に説明するが、他の量子ドット構造体20aであってよいことはもちろんのことである。
図17に示す本実施形態の他の光電変換装置70(太陽電池)は、基板42と、電極層72と、P型半導体層74と、光電変換層76と、N型半導体層78と、透明電極層80とを有し、サブストレート型と呼ばれるものである。
光電変換装置70においては、基板42の表面42aに、電極層72/P型半導体層74/光電変換層76/N型半導体層78/透明電極層80の積層構造が形成されている。すなわち、光電変換装置70においては、光吸収層76の一方にN型半導体層78が設けられ、他方にP型半導体層74が設けられている。このP型半導体層74は光吸収層76とは反対側に電極層72が設けられている。また、N型半導体層78は光吸収層76とは反対側に透明電極層80が設けられている。光電変換層76が、量子ドット構造体20で構成される。光電変換層76のマトリクスは、量子ドット構造体のマトリクス22であり、SiOx(0<x<2)で構成される。
【0072】
基板42は、比較的耐熱性のあるものが用いられる。基板42としては、例えば、青板ガラス等のガラス基板、耐熱性ガラス、石英基板、ステンレス基板、ステンレスと異種金属を積層した金属多層基板、アルミニウム基板、または表面に酸化処理、例えば、陽極酸化処理を施すことで表面の絶縁性を向上させた酸化被膜付きのアルミニウム基板等が用いられる。
【0073】
電極層72は、基板42の表面42aに設けられており、光電変換層76で得られた電流を透明電極層80とともに外部に取り出すものである。電極層72としては、例えば、Mo、Cu、Cu/Cr/Mo、Cu/Cr/Ti、Cu/Cr/Cu、Ni/Cr/Au等が用いられる。
なお、電極層72がN型半導体層に接する場合、この電極層72としては、例えば、NbドープMo、Ti/Au等が用いられる。
【0074】
P型半導体層74は、電極層72上に設けられており、かつ光電変換層76に接して設けられている。このP型半導体層74は、例えば、後述する光電変換層76のマトリクス(量子ドット構造体のマトリクス22)を構成するSiOx(0<x<2)のバンドギャップと等しいか大きいものにより構成される。なお、P型半導体層74には、CuAlS2、CuGaS、BドープSiC等も用いることができる。
【0075】
N型半導体層78は、光電変換層76のマトリクス(量子ドット構造体のマトリクス22)と同様の組成を有する。すなわち、SiOx(0<x<2)で構成されるものである。
【0076】
透明電極層80は、光電変換層76で得られた電流を電極層72とともに外部に取り出すものであり、N型半導体層78の全面に設けられている。この透明電極層80は、N型半導体層78の一部に設ける形態でもよい。光電変換装置70においては、透明電極層80側から太陽光Lが入射される。
透明電極層80は、N型の導電性を示すもので構成されている。透明電極層80としては、Ga2O3、SnO2系(ATO、FTO)、ZnO系(AZO、GZO)、In2O3系(ITO)、Zn(O、S)CdO、またはこれらの材料の2種もしくは3種の合金を用いることができる。更に、透明電極層80としては、MgIn2O4、GaInO3、CdSb3O6等を用いることもできる。
【0077】
本実施形態においては、P型半導体層74およびN型半導体層78の膜厚は、例えば、50〜300nmであり、好ましくは100nmである。
また、本実施形態においては、P型半導体層74、N型半導体層78の電子移動度は、例えば、0.01〜100cm2/Vsecであり、好ましくは1〜100cm2/Vsecである。
【0078】
光電変換層76は、上述のように量子ドット構造体20で構成されるものであり、図18に示すように、マトリクス22中に、複数の量子ドット24設けられている。光電変換層76においては、量子ドット24からなる層とマトリクス22とをペアとして、20〜50周期を持ったPNN積層構造が構成されている。量子ドット24は、例えば、Ge、SiGeで構成される。
【0079】
また、光電変換層76においては、量子ドット24は、隣り合う各量子ドット24間に複数の波動関数が重なり合いミニバンドを形成するように、3次元的に十分均一に分布されかつ規則的に隔てられて配置されている。
具体的には、量子ドット24は、間隔tが10nm以下、好ましくは2〜6nmで配置されている。
なお、量子ドット24は、例えば、平均粒径が2〜12nmであり、好ましくは2〜6nmである。さらには、量子ドット24は、粒子径のばらつきが±20%以下であることが好ましい。
【0080】
このように、量子ドット24を構成し、配置することにより、量子ドット24により構成される量子井戸の間のトンネル確率が増え、波動性が増して、キャリア輸送による損失を改善し、電子の量子井戸間、すなわち、量子ドット24間の移動を速くすることができる。
【0081】
光電変換層76において、量子ドット24を包含するマトリクス22は、例えば、SiOx(0<x<2)により構成される。このマトリクス22は、厚さが、例えば、200〜800nmであり、好ましくは400nmである。
【0082】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の量子ドット構造体の製造方法、波長変換素子および光電変換装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0083】
10、10a 積層体
12 基板
14 SiO2層
16 SiGeO層
18 SiOx層
20、20a 量子ドット構造体
22 マトリクス(マトリクス層)
24 量子ドット
40 波長変換素子
50、70 光電変換装置
60 光電変換素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットを有する量子ドット構造体の製造方法、およびこの製造方法による量子ドット構造体を有する波長変換素子および光電変換装置に関し、特に、熱処理により、欠陥の少ない良質の量子ドットを3次元的に均一分布させることができる量子ドット構造体の製造方法、およびこの製造方法による量子ドット構造体を有する波長変換素子および光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、太陽電池について研究が盛んに行われている。太陽電池のうち、P型半導体およびN型半導体を接合して構成されるPN接合型太陽電池、ならびにP型半導体、I型半導体およびN型半導体を接合して構成されるPIN接合型太陽電池は、構成している半導体の伝導帯と価電子帯との間のバンドギャップ(Eg)以上のエネルギーをもつ太陽光を吸収し、価電子帯から伝導体へ電子が励起されて、価電子帯に正孔が生成し、太陽電池に起電力が発生するものである。
PN接合型太陽電池およびPIN接合型太陽電池は、バンドギャップが単一であり、単接合型太陽電池と呼ばれる。
【0003】
PN接合型太陽電池およびPIN接合型太陽電池においては、バンドギャップより小さいエネルギーの光は吸収されることなく透過してしまう。一方、バンドギャップより大きなエネルギーは吸収されるが、吸収されたエネルギーのうち、バンドギャップより大きいエネルギー分はフォノンとして熱エネルギーとして消費される。このため、PN接合型太陽電池およびPIN接合型太陽電池のような単一バンドギャップの単接合型太陽電池は、エネルギー変換効率が悪いという問題点がある。
【0004】
この問題点を改善するために、バンドギャップの異なる複数のPN接合、PIN接合を積層し、エネルギーの大きな光から順次吸収されるような構造とすることにより、広範囲の波長域で吸収し、かつ熱エネルギーへの損失を低減し、エネルギー変換効率を改善させる多接合太陽電池が開発されている。
しかし、この多接合太陽電池は、複数のPN、PIN接合を電気的に直列接合しているため、出力電流は各接合で生成されている最小の電流となる。このため、太陽光スペクトル分布に偏りが生じ、一つのPN接合、PIN接合の出力が低下すると、太陽光スペクトル分布の偏りに影響されない接合の出力も低下し、太陽電池全体として出力が大幅に低下するという課題や、また、良質な結晶品質を有しハンドギャップの異なる半導体を良質な結晶品質をたもちつつ接合しなければならないために、結晶格子長がほぼ等しい材料にて材料選択をしなければならないことから、材料選択の幅が狭く作成が困難である。
【0005】
この課題を解決する次世代の太陽電池として、量子ドットにより量子効果を用いた太陽電池が近年急速に検討されてきた。量子ドットを応用した太陽電池としては、大きく分類して、マルチジャンクション、中間バンド型、マルチエキストン型、ホットキャリアー型の4種類がある。
いずれの方式においても、材料のバンドキャップの組み合わせにより理論変換効率が決定され、どの方式においても1.0eV以下の比較的低バンドギャップの量子ドットを形成することが望まれる。
【0006】
例えば、1.0eV以下の比較的低バンドギャップとしては、Ge,SiGe,InN,InAs,FeSi,PbS,PbSe等がある。このうち、気相形成法では、既存のSiテクノロジーと整合性からGe,SiGeの材料が検討されている(例えば、特許文献1参照)。また、粒子形成及び塗布関係では、比較的粒子合成が容易なPbS,PbSeを用いた光電変換膜の研究が盛んに検討されている。
【0007】
Ge,SiGe量子ドットを気相形成法としては、特許文献1に開示されているような、半導体材料の化合物を有する複数の化学量論的誘電体材料層と半導体組成比率が多い誘電体層を相互に積層し加熱することにより、非結晶質誘電体材料をマトリクス(エネルギー障壁)とし、その中に結晶質半導体の量子ドットが3次元的に均一分布した光電変換膜を形成する方法が提案されている。
特許文献1には、具体的にSiO2,Si3N4,SiCマトリクス材料中に、Si合金の結晶質の量子ドットが3次元的に均一分布した光電変換膜を形成することが開示されている。
また、特許文献1において、Si量子ドットを形成する場合、アニールにより2SiO→Si+SiO2の反応を利用している。さらには、特許文献1において、Ge量子ドットを形成させるために、GeO→Ge+GeO2となる反応を利用している。
【0008】
上記特許文献1の方法では、GeとGeO2の界面が形成される。
ここで、非特許文献1には、SiGeアモルファス膜をドライ酸化させることにより、GeO2マトリクス中にGeナノ結晶を形成することが開示されている。ドライ酸化条件によりPL発光強度及び組成が変化し、アニール温度が高くなるにつれて、Si−Si結合→Si−Ge結合→Ge−Ge結合の順に、ラマン強度が変化することと、FTIRの結果よりGe−GeからGe−O−Geに変化していく。さらに、Ge−GeからGe−O−Geへの変化と、PL強度の対応からGe/GeO2界面にて欠陥が形成されると推測されることが開示されている。
非特許文献1に開示されているように、Ge/GeO2界面での欠陥により、光光変換効率の低下や光電変換効率の低下が指摘されている。このため、欠陥の発生しやすいGeO2ではなく比較的安定なSiO2をマトリクスとして用いることが提案されている(特許文献2、非特許文献2参照)。
【0009】
特許文献2には、光電変換部と波長変換部(波長変換素子)とを有する光電変換装置が記載されている。この波長変換部は、光電変換部の光入射側に配置されており、波長変換部は、量子ドットdとその周囲を取り囲む層(「マトリクス」)よりなるものであり、マトリクスが酸化シリコン膜からなることが記載されている。この特許文献2には、量子ドットdは、縦横および上下に規則正しく配列させても、薄膜間に平面的にランダムに量子ドットdを配列させてもよいことが記載されている。
【0010】
非特許文献2には、SiO2とGeを共スパッタリングし、700〜900℃にアニールすることにより、SiO2中に均一なGeナノクリスタルが分散した薄膜を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2007−535806号公報
【特許文献2】特開2010−118491号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Solid state communications 136(2005)224−227
【非特許文献2】JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 103,103534(2008)
【非特許文献3】Nanotechnology 21(2010)505201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、比較的低温のアニール温度において、SiとGe界面にSiGeOが形成される報告がある(“Annealing effects on Ge/SiO2 interface structure in wafer -bonded Ge-on-insulator substrates (Osamu Yoshitake, ets Osaka University ”SSDM 2010 プロシーリングより)。
この報告より、経時により組成変化を生じ、光光変換効率の低下や光電変換効率の低下が懸念されている。
本発明者は、SixGeyO(1−x−y)層とSiO2層を積層して積層膜を形成し、この積層膜にアニールを実施し、SixGeyO(1−x−y)→Ge+SiO2の反応を利用して、Ge量子ドットを形成したところ、ラマン分光測定により、Ge結晶に由来するピークが確認され、赤外でのPL発光が確認された。しかしながら、1ヶ月程の経時試験により膜質が変化するとともに、PL発光が生じなくなったことを確かめている。
【0014】
非特許文献3には、マトリック材料と量子ドット材料として、SiO2層とSi3N4層とSixGe1−x層の積層膜を形成し、SixGe1−x層のシリコンを選択的に酸化させることにより、Si3N4層中にGe量子ドットを形成させる方法が開示されている。
しかしながら、非特許文献3においては、しかし、SiO2層とSixGe1−x層の積層膜を形成し、SixGe1−x層のシリコンを選択的に酸化させることにより、Ge量子ドット形成の可能性を検討した。表面から酸化が進むため、深さ方向に酸化程度の違いが生じた。このことから、比較的層数が多い場合には、Ge量子ドットを3次元的に均一分布させることが難しく、かつ、高密度に配列することができないと考えられる。
さらに、Ge量子ドットを囲んでいるマトリクス材料が、水平方向と、垂直方向でSiO2とSi3N4と異なるために、量子ドットが3次元的に均一分布した光電変換膜を水平方向と、垂直方向でハンド障壁の違いが生じ、これにより、電荷は水平方向に動きやすいが、垂直方向には動きにくいため、垂直方向に電流を流すことは困難であり、デバイス応用は限られてくる。
【0015】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、欠陥の少ない良質の量子ドットを3次元的に均一分布させることができる量子ドット構造体の製造方法、およびこの製造方法による量子ドット構造体を有する波長変換素子および光電変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素と酸素からなる組成を有し、かつ前記酸素に対し、前記第1、第2の2種以上の半導体または金属元素の組成比率が多い第1のアモルファス層と、前記第1の半導体または前記第1の金属元素と酸素からなる組成を有する化学量論的誘電体材料層と、前記第1の半導体または前記第1の金属元素と酸素からなる組成を有し、前記第1の半導体または前記第1の金属元素の組成比率が多い第2のアモルファス層とを相互に積層し、積層体を得る工程と、前記積層体を加熱処理し、前記第1の半導体または前記第1の金属元素によりマトリクスが形成され、前記マトリクスの中に前記第2の半導体もしくは前記第2の金属元素からなる結晶質の量子ドット、または前記第1、第2の2種以上の半導体もしくは金属元素の混晶の量子ドットを形成する工程とを有することを特徴とする量子ドット構造体の製造方法を提供するものである。
【0017】
前記積層体は、前記第1のアモルファス層または前記第2のアモルファス層に隣接して、前記化学量論的誘電体材料層が形成され、かつ前記第1のアモルファス層と隣接する第1のアモルファス層の間に、少なくとも前記第2のアモルファス層が1層以上あることが好ましい。
また、前記積層体の加熱処理工程において、前記第1のアモルファス層の前記第2の半導体または前記第2の金属元素は、前記第1のアモルファス層中に量子ドットを形成するとともに、前記第2のアモルファス層に拡散し、前記第2のアモルファス層に含まれる前記第1の半導体または前記第1の金属元素を酸化させるとともに、前記第2の半導体または前記第2の金属元素を主成分とする量子ドットを形成することが好ましい。
【0018】
前記第1の半導体または第1の金属元素の電気陰性度をA1とし、前記第2の半導体または前記第2の金属元素の電気陰性度をA2とするとき、A1>A2であることが好ましい。
前記第1の半導体または第1の金属元素を融点M1とし、前記第2の半導体または前記第2の金属元素の融点をM2とするとき、M1>M2であることが好ましい。
前記第1のアモルファス層は、SixGeyO(1−x−y)層からなることが好ましい。
前記化学量論的誘電体材料層は、SiO2層からなり、前記第2のアモルファス層は、SiOx層からなることが好ましい。
前記SiOx層は、Siをリアクティブスパッタして形成されることが好ましい。
【0019】
本発明は、上記本発明の量子ドット構造体の製造方法により製造された量子ドット構造体を有し、前記量子ドットは、吸収した光の特定の波長領域に対して前記吸収した光よりも低いエネルギーの光に波長変換する波長変換組成物からなり、前記量子ドットは、隣り合う粒子との間隔が前記量子ドットの粒径以下に配置されていることを特徴とする波長変換素子を提供するものである。
【0020】
本発明は、上記本発明の波長変換素子が光電変換層の入射光側に配置されており、前記波長変換素子は、実効屈折率が、前記光電変換層の屈折率と空気の屈折率との中間の屈折率であることを特徴とする光電変換装置を提供するものである。
前記波長変換素子は、波長533nmにおける実効屈折率nが、1.7<n<3.0であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、マトリクスの中に、欠陥の少ない良質の結晶質の量子ドットを生成することができる。この場合、量子ドットは3次元的に均一に、しかも高密度に分布するため、3次元的な周期性を有し、かつ高密度に均一に分布された量子ドットを有する量子ドット構造体を得ることができる。この量子ドット構造体を有する波長変換素子、および光電変換装置によれば、経時劣化による光光変換効率の低下、光電変換効率の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の製造方法を工程順に示す模式的断面図である。
【図2】(a)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の全体のTEM像を示す図面代用写真であり、(b)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の要部のTEM像を示す図面代用写真であり、(c)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体のラマン測定の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の発光スペクトルおよび従来の量子ドット構造体の発光スペクトルを示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の1ヶ月後の経過時の発光スペクトル(PL波長分散特性)を示すグラフである。
【図5】(a)は、積層膜のTEM像を示す図面代用写真であり、(b)は、図5(a)の積層膜を熱処理した後のTEM像を示す図面代用写真である。
【図6】(a)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体を製造するための積層体を示す模式的断面図であり、(b)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体の要部を示す模式的断面図である。
【図7】(a)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体のエネルギーバンド構造を示す模式図であり、(b)は、従来の量子ドット構造体のエネルギーバンド構造を示す模式図である。
【図8】(a)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体の発光スペクトルを示すグラフであり、(b)は、従来の量子ドット構造体の発光スペクトルを示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態の波長変換素子を示す模式的断面図である。
【図10】マルチエキシトン効果を説明するための模式図である。
【図11】太陽光スペクトルと結晶Siの分光感度曲線とを示す模式図である。
【図12】反射防止膜の構成の違いによる反射率の違いを示すグラフである。
【図13】(a)は、SiO2のマトリクス中のSiの量子ドットの含有量と屈折率との関係を示すグラフであり、(b)は、SiO2のマトリクス中のSiの量子ドットの間隔と屈折率との関係を示すグラフである。
【図14】SiO2膜/波長変換素子(Si量子ドット/SiO2Mat)/Si基板の反射率を示すグラフであり、波長変換素子は屈折率が1.80である。
【図15】SiO2膜/波長変換素子(Si量子ドット/SiO2Mat)/Si基板の反射率を示すグラフであり、波長変換素子は屈折率が2.35である。
【図16】本発明の実施形態の波長変換素子を有する光電変換装置を示す模式的断面図である。
【図17】本発明の実施形態の他の光電変換装置の構成を示す模式的断面図である。
【図18】図17の光電変換装置の光吸収層を示す模式的斜視図である。
【図19】(a)、(b)は、従来の量子ドット構造体の製造方法を工程順に示す模式的断面図であり、(c)は、従来の量子ドット構造体の要部のTEM像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の量子ドット構造体の製造方法、波長変換素子および光電変換装置を詳細に説明する。
図1(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態の量子ドット構造体の製造方法を工程順に示す模式的断面図である。
【0024】
本実施形態の量子ドット構造体20は、図1(c)に示すように、例えば、基板12上に設けられており、マトリクス(マトリクス層)22と、このマトリクス22内に設けられた量子ドット24とを有する。量子ドット24は、マトリクス22内に、3次元的な周期性を有し、かつ高密度に均一に配列されており、量子ドット24は、多重量子井戸構造を構成するように配置されている。具体的には、量子ドット構造体20は、例えば、図2(a)、(b)に示すような構造である。
【0025】
次に、本実施形態の量子ドット構造体20の製造方法について説明する。
まず、図1(a)に示すように、基板12上にSiO2層14(化学量論的誘電体材料層)、SiGeO層16(第1のアモルファス層)、SiO2層14、SiOx層18(0<X<2)、SiO2層14、SiGeO層16、SiO2層14、SiOx層18(第2のアモルファス層)、SiO2層14、SiGeO層16、SiO2層14を、この順で積層して形成し積層体10を得る。
SiO2層14、SiGeO層16およびSiOx層18の厚さは、例えば、3〜6nmである。
なお、SiO2層14は、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成を有する化学量論的誘電体材料層に対応するものである。SiOx層18は、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成を有し、第1の半導体または第1の金属元素の組成比率が多い第2のアモルファス層に対応するものである。
SiGeO層16は、SixGeyO(1−x−y)の組成を有するものであり、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素と酸素からなる組成を有し、かつ酸素に対し、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素の元素組成比率が多い第1のアモルファス層に対応するものである。
本実施形態において、第1の半導体または第1の金属元素は、例えば、Siであり、第2の半導体または第2の金属元素は、例えば、Geである。
【0026】
積層体10においては、SixGeyO(1−x−y)とSiOzの層をSiO2層中に交互もしくは、周期的に配列させればよい。
また、積層体10においては、SiGeO層16(第1のアモルファス層)またはSiOx層18(第2のアモルファス層)に隣接して、SiO2層14(化学量論的誘電体材料層)が形成され、かつSiGeO層16と隣接するSiGeO層16の間に、少なくともSiOx層18が1層以上配置されたものであってもよい。
【0027】
SiO2層14は、例えば、SiO2をターゲットに用いたRFスパッタにより形成される。SiGeO層16は、例えば、SiとGeとの共リアクティブスパッタにより形成される。SiOx層18は、例えば、Siをリアクティブスパッタにより酸化させることにより形成される。
【0028】
次に、積層体10に、例えば、窒素ガスをフローした雰囲気にて、例えば、900℃、1分の加熱処理(アニール処理)を施すことにより、窒化及び結晶化を行う。この場合、図1(b)に示すように、SiGeO層16(第1のアモルファス層)中にGe量子ドット(量子ドット24)が形成される(SixGeyO(1−x−y)→Ge+GeOz1+SiOz2)。このとき、SiGeO層16(第1のアモルファス層)からGeOx17(GeOz1)がSiOx層18(第2のアモルファス層)に拡散する。拡散したGeOx19が、SiOx層18にて反応してGe量子ドット(量子ドット24)が形成される。この際、拡散したGeOz1をSiがGeより酸化しやすい特性を生かし、SiOz2+GeOz1→SiO2+Geと反応させることにより、GeOzの発生が抑制され、経時的にGeOzが拡散し、Ge/GeO2界面での欠陥膜質変化を抑制することができる。
この加熱処理により、SiO2層14、SiGeO層16およびSiOx層18により、例えば、非結晶質のSiOx(x≒2)のマトリクス22が形成される。
【0029】
なお、SiO2層14、SiGeO層16およびSiOx層18を相互に積層し、加熱処理することにより、特許文献1に開示されているように、結晶質の量子ドット24がマトリクス22内に3次元的に均一分布される。本実施形態においては、さらに量子ドット24が、高密度に形成される。生成される量子ドット24は、マトリクス22内に3次元的な周期性を有し、かつ高密度に均一に分布される。
【0030】
このようにして、図1(c)に示すような、マトリクス22中に量子ドット24が3次元的な周期性を有し、かつ高密度に均一に配列された量子ドット構造体20を得ることができる。
さらに、製造された量子ドット構造体20についてラマン分光分析したところ、図2(c)に示すような結果が得られた。この結果から、Ge−Ge結合のみが観察され、Si−Ge結合およびSi−Si結合が観察されず、これによりGe量子ドットのみが形成されていることを確認している。
【0031】
なお、量子ドット構造体20において、量子ドット24とマトリクス22との界面、およびマトリクス22の欠陥の発生を防止するため、その製造工程においてパッシベーション工程を有することが好ましい。この場合、パッシベーション工程は、量子ドット構造体20を硫化アンモニウム溶液またはシアン溶液に浸すか、または量子ドット構造体20を水素ガス、フッ化水素ガス、臭素化水素ガスまたはリン化水素ガスのガス雰囲気にて熱処理することによりなされる。
例えば、プラズマ水素処理にて、水素終端を実施する場合、処理条件は、H2流量300l/分、真空度0.9Torr、マイクロ波2.5KW、基板温度300℃、処理時間30分である。
【0032】
従来、比較的高温処理が困難であったが、本発明においては、拡散したGeOxが、SiOx層18にて反応してGe量子ドット(量子ドット24)を形成する構造を取り入れたことにより、比較的高温、例えば、800℃以上で熱処理(アニール処理)することが可能となり、かつ、これまでマトリクス22中に拡散していたGeOzの拡散を抑制することにより、欠陥抑制を高めることができる。これにより、本発明の量子ドット構造体20は、形成直後でPL強度(図3に示す符号α1)が、従来の量子ドット構造体の形成直後のPL強度(図3に示す符号α2)よりも高く、PL強度が改善された。更には、例えば、1カ月経時後のPL発光特性については、図4に示すように、経時によりPL波長分散特性に変化がないことも確認しており、発光寿命が改善される。
【0033】
以下、図3に示す符号α2のPL強度が得られる従来の量子ドット構造体について図19(a)〜(c)を用いて説明する。
図19(b)に示す従来の量子ドット構造体110は、基板12上のSiO2からなるマトリクス114中にGe量子ドット112が形成されたものである。具体的には、従来の量子ドット構造体110は、図19(c)に示すようなものである。
この量子ドット構造体110を製造する場合、図19(a)に示すように、基板12上にSiO2層102、SiGeO層104を交互に積層して積層体100を得る。SiO2層102は、到達真空度を3×10−4Pa以下、基板温度を室温(RT)、ターゲットにSiを用い、投入電力を100W、成膜圧力を0.3Pa、ガス流量についてはArガスを15sccm、O2ガスを1sccmの成膜条件で成膜した。
【0034】
SiGeO層104は、アモルファス状のものであり、到達真空度を、3×10−4Pa以下、基板温度を室温(RT)、ターゲットにGeおよびSiを用い、投入電力をGeは50W、Siは100W、成膜圧力を0.3Pa、ガス流量についてはArガスを15sccm、O2ガスを0.5sccmの成膜条件で成膜した。
積層体100に対して窒素雰囲気で650℃、10分アニールを行う。これにより、Ge量子ドット112が形成されて、量子ドット構造体110が製造される。
【0035】
なお、本発明者は、図5(a)に示すように、SiO2とSixGe1−xの積層膜26を形成した後、SixGe1−x層のシリコンを選択的に酸化させることにより、Ge量子ドットの形成の可能性を検討した。その結果、図5(b)に示すように、積層膜26の表面から酸化が進むため、深さ方向に酸化程度の違いが生じた。図5(b)の積層膜26では、上部28がSiO2になった。このことから、比較的層数が多い場合には、Ge量子ドットを3次元的に均一分布させることが難しく、かつ高密度に配列することができないと考えられる。
【0036】
本実施形態の量子ドット構造体20において、マトリクス22は、例えば、バンドギャップが3eV以上の酸化物系誘電体または有機物により構成され、例えば、SiOx(0<x<2)からなる。マトリックス層22をSiOx(0<x<2)(無機材料)にて形成することにより、経時信頼性を得ることができる。
また、量子ドット24は、例えば、GeまたはSiGe混晶からなるものである。
量子ドット24は、例えば、隣り合う粒子(量子ドット24)との間隔が10nm以下である。また、量子ドット24は、粒径のバラツキσdが、1<σd<d/5nmであることが好ましく、より好ましくは、1<σd<d/10nmである。なお、量子ドット24の粒径はバラツキの範囲で異なっていてもよい。
量子ドット24は、粒子状のものであり、粒径が3nm〜20nm、好ましくは2nm〜15nmであり、より好ましくは2nm〜5nmである。
【0037】
また、本実施形態の量子ドット構造体20においては、第1のアモルファス層が、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素と酸素からなる組成を有し、かつ酸素に対し、第1、第2の2種以上の半導体または金属元素の組成比率が多いものを用いることができる。また、化学量論的誘電体材料層に、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成を有するものを用いることができる。第2のアモルファス層に、第1の半導体または第1の金属元素と酸素からなる組成を有し、第1の半導体または第1の金属元素の組成比率が多いものを用いることができる。これを相互に積層されてなる積層体に加熱処理を施す。このとき、第1の半導体または第1の金属元素によりマトリクスが形成され、このマトリクスの中に、第2の半導体もしくは第2の金属元素からなる結晶質の量子ドット(Ge量子ドット)、または第1、第2の2種以上の半導体もしくは金属元素の混晶の量子ドット(SiGe混晶量子ドット)が3次元的に均一に分布される。
【0038】
本実施形態において、第1の半導体または第1の金属元素の電気陰性度をA1とし、第2の半導体または第2の金属元素の電気陰性度をA2とするとき、A1>A2であることが好ましい。第1の半導体または第1の金属元素の融点をM1とし、第2の半導体または第2の金属元素の融点をM2とするとき、M2<M1であることが好ましい。
以上のような条件を満たすものとして、例えば、第1の半導体としてはSiであり、第2の半導体としてはGeである。
【0039】
次に、第2の実施形態について説明する。
なお、本実施形態においては、図1(a)〜(c)に示す第1の実施形態の量子ドット構造体20と同一構成物には、同一符号を付しその詳細な説明は省略する。
図6(a)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体を製造するための積層体を示す模式的断面図であり、図6(b)は、本発明の第2の実施形態の量子ドット構造体の要部を示す模式的断面図である。
【0040】
図6(b)に示す量子ドット構造体20aは、第1の実施形態の量子ドット構造体20に比して、大きさが異なる量子ドット24a〜24cが形成されており、これらの量子ドット24a〜24cで多重量子井戸構造が構成されている点が異なり、それ以外の構成は、第1の実施形態の量子ドット20と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。本実施形態の量子ドット構造体20aは、量子ドット構造体20aの厚さ方向(上下方向)の両端の量子ドット24aが一番大きく、量子ドット構造体20の中心にいくにつれて量子ドット24b、量子ドット24cとその大きさは小さくなる。
【0041】
なお、本実施形態においては、大きさが異なる量子ドットが配置されるものであれば、大きさが異なる量子ドットの配置は特に限定されるものではない。例えば、図7(a)に示すように、量子ドット構造体20の厚さ方向(上下方向)の両端の量子ドットが一番小さく、量子ドット構造体20の中心にいくにつれて量子ドットの大きさが大きくなるものであってもよい。
さらには、量子ドット構造体20の厚さ方向(上下方向)において、小さい粒子径の量子ドット層L1に大きい粒子径の量子ドット層L2が挟まれるように、L1−L2−L1、L1−L1−L2−L1というような周期配置されたことにより多重量子井戸構造を有するものであってもよい。
【0042】
次に、本実施形態の量子ドット構造体20aの製造方法について説明する。
本実施形態においては、図6(a)に示す積層体10aが、図1(a)に示す積層体10に比して、中央にSiGeO層16に代えて、SiOx層18(0<X<2)が形成されている点が異なり、それ以外の構成は、図1(a)に示す積層体10と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0043】
本実施形態においては、SiGeO層16(SixGeyO(1−x−y)膜)、SiO2層14、SiOx層18の周期配列において、図6(a)に示すように、SixGeyO(1−x−y)層間に、SiOx層18を複数層挿入する構成とすることにより、挿入したSiOx層18の層数に対応してSiGe粒子径を段階的に変化させることが可能となる。このため、積層体10aに対して、例えば、窒素ガスをフローした雰囲気にて、900℃、1分の加熱処理を実施することにより、大きさが異なる量子ドット24a〜24cを形成することができる。
【0044】
また、図7(a)に示す本発明の波長変換膜(量子ドット構造体)、および図7(b)に示す構成の波長変換膜(量子ドット構造体)を作製し、その赤外のPL発光強度を測定した。その結果を図8(a)および(b)に示す。図7(b)は、量子ドットの大きさを同じ大きさに形成したものである。
図8(a)および(b)に示すように、粒子合成が比較的困難なGe及びSiGeにおいて、熱処理直後でPLピーク強度が、従来に対して約100倍以上の改善が見られた。また、粒子サイズを周期的に可変することにより、光光変換及び光電変換が改善される。さらには、1ヶ月の保管試験にて、発光強度の低減は確認されなかった。
なお、図7(a)に示す本発明の波長変換膜として、粒径が2〜6nmで、層毎に異なる合計57層のものを作製した。層構成は、SiO2/8(Ge量子ドット(QD)/SiO2/SiOx1/SiO2/SiOx2/SiOx3/SiO2)/T4040(石英ガラス基板)である。
図7(b)に示す構成の波長変換膜として、粒径が4〜6nmで、合計59層のものを作製した。層構成は、SiO2/29(Ge量子ドット(QD)/SiO2)/T4040(石英ガラス基板)である。
図7(a)に示す本発明の波長変換膜、および図7(b)に示す構成の波長変換膜における各膜の成膜条件は下記表1に示す通りである。
【0045】
【表1】
【0046】
本実施形態の量子ドット構造体20aにおいては、マトリクス22を無機材料(SiOx(0<x<2))で形成することにより、経時信頼性が得られる。また、高密度に量子ドットを配置することにより、反射ロス改善等の効果が得られ、実効屈折率にて規定することにより、反射ロス改善等の効果を得ることができる。本実施形態の量子ドット構造体20aにおいても、第1の実施形態の量子ドット構造体20と同様に、上述のパッシベーション工程を有することが好ましい。
【0047】
以上説明した量子ドット構造体20、20aは、波長変換機能を有しており、単体で波長変換膜として用いることができる。更には、量子ドット構造体20、20aは、例えば、いずれも波長変換素子、波長変換装置および太陽電池に利用することができる。
図9に示す波長変換素子40は、第1の実施形態の量子ドット構造体20の製造方法で作製された量子ドット構造体20を有する波長変換素子40である。なお、波長変換素子40は、第2の実施形態の量子ドット構造体20aの製造方法で作製された量子ドット構造体20aを用いることもできる。
なお、波長変換素子40においては、量子ドット構造体20、20aにおける量子ドットの積層数は、特に限定されるものではない。
【0048】
波長変換素子40は、入射した光Lを吸収し、この吸収した光の特定の波長領域に対して、吸収した光よりも低いエネルギーの光に波長変換する機能(以下、波長変換機能という)を備えるとともに、および入射した光Lを閉じ込める機能(以下、光閉込め機能という)を備えるものである。
【0049】
波長変換素子40において、波長変換機能とは、具体的には、ダウンコンバージョン機能のことである。このダウンコンバージョン機能は、マルチエキシトン効果を呼ばれる、吸収された光子当たり1個以上の光子を生成する効果により発揮される。例えば、図10に示すように、量子ドットにより量子井戸が構成され、EgQD(量子ドットのバンドギャップ)以上のエネルギーをもつ光子(フォトン)が量子ドットに入射された場合、低いエネルギー準位(E1)にある電子が上位のエネルギー準位(E4)に励起され、その後、下位のエネルギー準位(E3)に落ちる際に、入射された光子よりも低いエネルギーの光子が放出される。また、低いエネルギー準位(E2)にある電子が上位のエネルギー準位(E3)に励起された際に、入射された光子よりも低いエネルギーの光子が放出される。このように、1つの光子に対して、光子よりも低いエネルギーの電子を2つ放出させることにより、波長変換がなされる。1つの光子に対して、光子よりも低いエネルギーの電子を2つ放出させる場合、光光変換ともいう。波長変換素子40は、光光変換機能を備える。
【0050】
波長変換素子40の波長変換機能については、波長変換素子40の用途により、適宜その変換する波長域および変換後の波長が選択される。
波長変換素子40が、例えば、Eg(バンドギャップ)が1.2eVのシリコン太陽電池の光電変換層上に配置された場合、この1.2eVの2倍以上のエネルギー(2.4eV以上)の波長領域に対して、バンドギャップに相当するエネルギーの波長の光に波長変換する機能を有するものとする。
【0051】
図11に示すように、太陽光スペクトルと結晶Siの分光感度曲線とを比べると、太陽スペクトルには結晶Siのバンドギャップの波長域の強度が低い。このため、太陽光のうち、結晶Siのバンドギャップの2倍以上のエネルギー(2.4eV以上)の波長領域に対して、低いエネルギーの光子、例えば、1.2eVの光(波長約1100nm)に波長変換することにより、光電変換に有効な光を、結晶Siからなる光電変換層に供給することができる。これにより、太陽電池の変換効率を高くすることができる。
なぜなら、図11に示すように、太陽光スペクトルと結晶Siの分光感度曲線とを比べると、太陽スペクトルに比較して、結晶Siバンドギャップの波長帯域が狭く、比較的高エネルギーの光の分光感度強度が低ため、太陽光を有効利用できていない。このため、比較的高エネルギーの光を結晶Siの分光感度に適した光に変換することに、太陽光を有効利用することができる。さらには、結晶Siのバンドギャップの2倍以上のエネルギー(2.4eV以上)の波長領域に対して、1.2eVの光(波長約1100nm)の光に変換する際に、2光子以上(2.4(eV)×1(光子)≒1.2(eV)×2(光子))の光に変換可能であれば、太陽光をさらに有効に利用することができ、太陽電池の変換効率を高くすることができる。
【0052】
波長変換素子40において、光閉込め機能とは、反射防止機能のことである。
波長変換素子40が配置される光電変換層が、結晶Siの場合には屈折率nPVは3.6である。また、これらが配置される空間の空気の屈折率nairは1.0である。
ここで、波長変換素子40を反射防止膜として考えた場合、例えば、図12に示すように、屈折率が1.9の単層膜(符号A1)、屈折率が1.46/2.35の2層膜(符号A2)、屈折率が1.36/1.46/2.35の3層膜(符号A3)を比較すると、屈折率が2.35のものがあると、反射率を低減することができる。
このように、波長変換素子40において、反射防止機能を発揮するためには、波長変換素子40の実効屈折率nが、光電変換層の屈折率nPV(結晶シリコンで3.6)と、空気の屈折率とのほぼ中間の屈折率とすることができれば、反射防止機能を発揮することができる。
本実施形態では、波長変換素子40(量子ドット構造体20、20a)の用途等を考慮して、波長変換素子40(量子ドット構造体20、20a)の実効屈折率nは、例えば、波長533nmにおいて、1.7<n<3.0とする。実効屈折率nは、好ましくは、波長533nmにおいて1.7<n<2.5である。
【0053】
波長変換素子40において、以上のような波長変換機能および光閉込め機能を発揮するために、量子ドット構造体20、20aは以下のような構成を有する。
量子ドット構造体20、20aにおいて、マトリクス22は、バンドギャップが3eV以上の透明ない硬化樹脂材または無機材により構成される。
マトリクス22の硬化樹脂材には、例えば、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が用いられ、光を透過するものであれば特に限定されるものではない。光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)樹脂等を用いることができる。
シリコーン樹脂としては、市販のLED用シリコーン樹脂等が挙げられる。エチレンビニルアセテート(EVA)樹脂としては、例えば、三井化学ファブロ株式会社のソーラーエバ(商標)等を用いることができる。さらには、アイオノマー樹脂なども使用することができる。
【0054】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂またはこれらの水添化物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
アクリル樹脂としては2つ以上の官能基を有する(メタ)アクリレートを用いることができる。また、アクリル樹脂として水分散型アクリル樹脂を用いることができる。この水分散型アクリル樹脂とは、水を主成分とする分散媒に分散したアクリルモノマー、オリゴマー、またはポリマーで、水分散液のような希薄な状態では架橋反応がほとんど進行しないが、水を蒸発させると常温でも架橋反応が進行し固化するタイプ、または、自己架橋可能な官能基を有し、触媒や重合開始剤、反応促進剤などの添加剤を用いなくとも加熱のみで架橋し固化するタイプのアクリル樹脂である。
【0055】
マトリクス22を無機材で構成する場合、例えば、SiOx(0<x<2)が用いられる。
【0056】
量子ドット構造体20、20aの各量子ドットが、吸収した光の特定の波長領域に対して吸収した光よりも低いエネルギーの光に波長変換する波長変換組成物からなるものである。各量子ドットが、波長変換素子40の波長変換機能を担う。各量子ドットは、マトリクス22の面内方向およびマトリクス22の厚さ方向のうち、少なくとも一方の方向において、例えば、隣り合う量子ドットとの間隔が量子ドットの粒径以下に配置される。
【0057】
波長変換素子40において、量子ドットは、バンドギャップが波長変換素子40が設けられる光電変換装置の光電変換層のバンドギャップより大きいもので構成される。
量子ドットは、例えば、波長変換素子40が設けられる光電変換層のEgの2倍以上のエネルギーの波長領域に対して、光電変換層のEgの光に波長変換する機能を有する。このため、量子ドットを構成する材料としては、光電変換層のEgの2倍以上のエネルギーを吸収し、かつ光電変換バンドキャップの2倍以上に、光吸収のためのエネルギー準位が存在している材料が選択される。
【0058】
このため、量子ドットには、光電変換層のEgより高いエネルギーで発光する材料が選択され、光電変換層のEg以上に量子ドットの基底準位が存在し、かつ、離散化したエネルギー準位において、光電変換層のEgの2倍以上のエネルギー準位が存在している。
【0059】
また、光電変換層で利用可能な光に変換するには、基底準位より励起された励起状態のフォトンの存在確率が高くなる反転分布状態を形成するように、量子ドットが配列される必要がある。そこで、量子ドットを上述の如く周期配列とする。この場合、量子ドットの周期間隔が10nm以下であり、好ましくは2nm〜5nmである。これにより、励起状態のフォトンが存在できる量子ドットの配列となる。また、エネルギーの局在を生じさせるために、粒径の異なる量子ドットにより特定の周期配列を形成する。
【0060】
また、光電変換層で利用可能な光に変換するには、波長変換素子40において、マトリクス22の水平方向(厚さ方向と直交するマトリクス22の面に平行な方向)の配列を異ならせることでも、エネルギーの局在を選択的に生じせることが可能である。この場合、量子ドットが上述の周期配列と異なる配列を有しても、3次元空間での粒子密度の偏りを有することにより、空間的なのエネルギーの偏りを形成し反転分布状態を形成することが可能である。この場合においても、上述のように、量子ドットの粒径バラツキσdが、1<σd<d/5nmの範囲で異なること、好ましくは、1<σd<d/10nmである。
【0061】
さらに、光電変換層で利用可能な光に変換するには、波長変換素子40が多層構造である場合、量子ドットの積層方向と、この積層方向と直交する方向の配列が同様な場合、すなわち、量子ドットが波長変換素子40内で、3次元的に上述の周期配列のように均一に等間隔に配列されている場合、量子ドットの粒径サイズの偏りによりエネルギーの局在を生じさせてフォトンの存在確率を変えることにより実現することもできる。この場合でも、量子ドットの粒径サイズばらつきを有し、量子ドットの粒径のバラツキσdが、1<σd<d/5nm、好ましくは1<σd<d/10nmであり、量子ドットは、前述のバラツキの範囲で異ならせる。
【0062】
上述のように、反射防止機能を得るために、波長変換素子40の実効屈折率nを、例えば、光電変換層と空気との中間の値の2.4にする必要がある。そこで、マトリクス22をSiO2で構成し、量子ドットをSiで構成した場合における屈折率をシミュレーション計算により調べた。その結果、図13(a)に示すように、量子ドットの含有量が多くなると屈折率が高くなる。
さらに、量子ドットの間隔と屈折率との関係をシミュレーション計算により調べた。その結果、図13(b)に示すように、屈折率を高くするには、量子ドットの間隔を狭くする必要がある。
図13(a)、(b)に示すように、例えば、波長変換素子40の実効屈折率nを2.4にするには、量子ドットの間隔を狭く、かつ高い密度でマトリクス22内に配置する必要がある。
【0063】
次に、Si基板上に波長変換素子40を形成し、この波長変換素子40上にSiO2膜を形成したものについて反射率を求めた。波長変換素子40は、SiO2のマトリクス22にSiの量子ドットが設けられたもの(Si量子ドット/SiO2Mat)であり、量子ドットの粒径を均一である。このとき、波長変換素子40の屈折率は1.80である。
この場合、図14に示すように、反射率を約10%にすることができる。なお、反射率は、分光反射測定器(日立製U4000)を用いて測定した。
【0064】
また、量子ドットの粒径を不均一にすることにより、充填率を高くし、波長変換素子40の屈折率を2.35と高くした。この場合、波長変換素子40は、SiO2のマトリクス22にSiの量子ドットが設けられたもの(Si量子ドット/SiO2Mat)である。その結果を図15に示す。なお、反射率は、分光反射測定器(日立製U4000)を用いて測定した。
図15に示すように、反射率を図14に比して、更に低くすることができる。このように、量子ドットの充填率を高くすることにより、屈折率が高くなり、その結果、反射率を低くすることができる。このため、波長変換素子40に入射した光Lの利用効率を高くすることができる。
【0065】
本実施形態の波長変換素子40は、例えば、後述するように太陽電池に利用することができる。また、波長変換素子40は、例えば、533nmの波長の光を、1100nmの波長の光に波長変換することができるため、赤外線光源として利用可能である。この場合、量子ドットの配列および組成を適宜選択することにより、波長変換された光の発光強度を高めること、すなわち、赤外線の発光強度を高くすることもできる。
また、量子ドットのバンドギャップを適宜変えることにより、例えば、3.5eV(波長350nm)とすることにより、1.75eVのエネルギーの光(波長800nm)に波長変換することができ、紫外線防止膜としても利用可能である。
【0066】
次に、本実施形態の波長変換素子40を用いた光電変換装置について説明する。
なお、波長変換素子40を用いた光電変換装置は、光光変換装置としても機能するものである。
図16は、本発明の実施形態の波長変換素子を有する光電変換装置を示す模式的断面図である。
図16に示す光電変換装置50は、基板42の表面42aに光電変換素子60が設けられている。光電変換素子60は、基板42側から電極層62とP型半導体層(光電変換層)64とN型半導体層66と透明電極層68とが積層されてなるものである。
このP型半導体層64は、例えば、多結晶シリコンまたは単結晶シリコンにより構成される。
【0067】
本実施形態においては、光電変換素子60の表面60a(透明電極層68の表面)に波長変換素子40が設けられている。
この場合、波長変換素子40は、P型半導体層64を構成するSiのバンドギャップ1.2eVの2倍以上のエネルギーの波長域に対して、その半分のSiのバンドギャップに相当する1.2eVのエネルギーの光(波長533nm)に波長変換する波長変換機能を有し、更には波長変換素子40の実効屈折率がSiの屈折率と空気の屈折率との中間の屈折率にされている。
これにより、反射光が少なくなり、更には光電変換に寄与しない特定の波長領域の光を波長変換し、光電変換に利用可能な波長の光量が多くなるため、光電変換素子60の変換効率を改善し、光電変換装置50全体の発電効率を改善することができる。
【0068】
ここで、光電変換素子60のP型半導体層(光電変換層)64に多結晶シリコンを用いた場合、様々な面方位が出現するため、反射率が均一ではない。このため、ある面方位に有効な反射防止膜を形成しても、光電変換層全体では有効ではない。しかしながら、波長変換素子40は、特定の波長領域の透過特性を改善し、反射ロスを低く抑えることができる。この点からも、光電変換装置50全体の発電効率を改善することができる。
また、波長変換素子40を設ける場合、光電変換素子60の表面60aに単に配置すればよく、エッチング等が不要である。このため、光電変換装置にエッチング等によるダメージを与えることもない。これにより、製造不良の発生を抑制することができる。
【0069】
また、本発明においては、光電変換層は、シリコンを用いるものに限定されるものではなく、CIGS系光電変換層、CIS系光電変換層、CdTe系光電変換層、色素増感系光電変換層、または有機系光電変換層であってもよい。
【0070】
基板42は、比較的耐熱性のあるものが用いられる。基板42としては、例えば、青板ガラス等のガラス基板、耐熱性ガラス、石英基板、ステンレス基板、ステンレスと異種金属を積層した金属多層基板、アルミニウム基板、または表面に酸化処理、例えば、陽極酸化処理を施すことで表面の絶縁性を向上させた酸化被膜付きのアルミニウム基板等を用いることができる。
【0071】
次に、量子ドット構造体20、20aを用いた他の光電変換装置について説明する。なお、量子ドット構造体20を例に説明するが、他の量子ドット構造体20aであってよいことはもちろんのことである。
図17に示す本実施形態の他の光電変換装置70(太陽電池)は、基板42と、電極層72と、P型半導体層74と、光電変換層76と、N型半導体層78と、透明電極層80とを有し、サブストレート型と呼ばれるものである。
光電変換装置70においては、基板42の表面42aに、電極層72/P型半導体層74/光電変換層76/N型半導体層78/透明電極層80の積層構造が形成されている。すなわち、光電変換装置70においては、光吸収層76の一方にN型半導体層78が設けられ、他方にP型半導体層74が設けられている。このP型半導体層74は光吸収層76とは反対側に電極層72が設けられている。また、N型半導体層78は光吸収層76とは反対側に透明電極層80が設けられている。光電変換層76が、量子ドット構造体20で構成される。光電変換層76のマトリクスは、量子ドット構造体のマトリクス22であり、SiOx(0<x<2)で構成される。
【0072】
基板42は、比較的耐熱性のあるものが用いられる。基板42としては、例えば、青板ガラス等のガラス基板、耐熱性ガラス、石英基板、ステンレス基板、ステンレスと異種金属を積層した金属多層基板、アルミニウム基板、または表面に酸化処理、例えば、陽極酸化処理を施すことで表面の絶縁性を向上させた酸化被膜付きのアルミニウム基板等が用いられる。
【0073】
電極層72は、基板42の表面42aに設けられており、光電変換層76で得られた電流を透明電極層80とともに外部に取り出すものである。電極層72としては、例えば、Mo、Cu、Cu/Cr/Mo、Cu/Cr/Ti、Cu/Cr/Cu、Ni/Cr/Au等が用いられる。
なお、電極層72がN型半導体層に接する場合、この電極層72としては、例えば、NbドープMo、Ti/Au等が用いられる。
【0074】
P型半導体層74は、電極層72上に設けられており、かつ光電変換層76に接して設けられている。このP型半導体層74は、例えば、後述する光電変換層76のマトリクス(量子ドット構造体のマトリクス22)を構成するSiOx(0<x<2)のバンドギャップと等しいか大きいものにより構成される。なお、P型半導体層74には、CuAlS2、CuGaS、BドープSiC等も用いることができる。
【0075】
N型半導体層78は、光電変換層76のマトリクス(量子ドット構造体のマトリクス22)と同様の組成を有する。すなわち、SiOx(0<x<2)で構成されるものである。
【0076】
透明電極層80は、光電変換層76で得られた電流を電極層72とともに外部に取り出すものであり、N型半導体層78の全面に設けられている。この透明電極層80は、N型半導体層78の一部に設ける形態でもよい。光電変換装置70においては、透明電極層80側から太陽光Lが入射される。
透明電極層80は、N型の導電性を示すもので構成されている。透明電極層80としては、Ga2O3、SnO2系(ATO、FTO)、ZnO系(AZO、GZO)、In2O3系(ITO)、Zn(O、S)CdO、またはこれらの材料の2種もしくは3種の合金を用いることができる。更に、透明電極層80としては、MgIn2O4、GaInO3、CdSb3O6等を用いることもできる。
【0077】
本実施形態においては、P型半導体層74およびN型半導体層78の膜厚は、例えば、50〜300nmであり、好ましくは100nmである。
また、本実施形態においては、P型半導体層74、N型半導体層78の電子移動度は、例えば、0.01〜100cm2/Vsecであり、好ましくは1〜100cm2/Vsecである。
【0078】
光電変換層76は、上述のように量子ドット構造体20で構成されるものであり、図18に示すように、マトリクス22中に、複数の量子ドット24設けられている。光電変換層76においては、量子ドット24からなる層とマトリクス22とをペアとして、20〜50周期を持ったPNN積層構造が構成されている。量子ドット24は、例えば、Ge、SiGeで構成される。
【0079】
また、光電変換層76においては、量子ドット24は、隣り合う各量子ドット24間に複数の波動関数が重なり合いミニバンドを形成するように、3次元的に十分均一に分布されかつ規則的に隔てられて配置されている。
具体的には、量子ドット24は、間隔tが10nm以下、好ましくは2〜6nmで配置されている。
なお、量子ドット24は、例えば、平均粒径が2〜12nmであり、好ましくは2〜6nmである。さらには、量子ドット24は、粒子径のばらつきが±20%以下であることが好ましい。
【0080】
このように、量子ドット24を構成し、配置することにより、量子ドット24により構成される量子井戸の間のトンネル確率が増え、波動性が増して、キャリア輸送による損失を改善し、電子の量子井戸間、すなわち、量子ドット24間の移動を速くすることができる。
【0081】
光電変換層76において、量子ドット24を包含するマトリクス22は、例えば、SiOx(0<x<2)により構成される。このマトリクス22は、厚さが、例えば、200〜800nmであり、好ましくは400nmである。
【0082】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の量子ドット構造体の製造方法、波長変換素子および光電変換装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0083】
10、10a 積層体
12 基板
14 SiO2層
16 SiGeO層
18 SiOx層
20、20a 量子ドット構造体
22 マトリクス(マトリクス層)
24 量子ドット
40 波長変換素子
50、70 光電変換装置
60 光電変換素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2の2種以上の半導体または金属元素と酸素からなる組成を有し、かつ前記酸素に対し、前記第1、第2の2種以上の半導体または金属元素の組成比率が多い第1のアモルファス層と、前記第1の半導体または前記第1の金属元素と酸素からなる組成を有する化学量論的誘電体材料層と、前記第1の半導体または前記第1の金属元素と酸素からなる組成を有し、前記第1の半導体または前記第1の金属元素の組成比率が多い第2のアモルファス層とを相互に積層し、積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱処理し、前記第1の半導体または前記第1の金属元素によりマトリクスが形成され、前記マトリクスの中に前記第2の半導体もしくは前記第2の金属元素からなる結晶質の量子ドット、または前記第1、第2の2種以上の半導体もしくは金属元素の混晶の量子ドットを形成する工程とを有することを特徴とする量子ドット構造体の製造方法。
【請求項2】
前記積層体は、前記第1のアモルファス層または前記第2のアモルファス層に隣接して、前記化学量論的誘電体材料層が形成され、かつ前記第1のアモルファス層と隣接する第1のアモルファス層の間に、少なくとも前記第2のアモルファス層が1層以上ある請求項1に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項3】
前記積層体の加熱処理工程において、前記第1のアモルファス層の前記第2の半導体または前記第2の金属元素は、前記第1のアモルファス層中に量子ドットを形成するとともに、前記第2のアモルファス層に拡散し、前記第2のアモルファス層に含まれる前記第1の半導体または前記第1の金属元素を酸化させるとともに、前記第2の半導体または前記第2の金属元素を主成分とする量子ドットを形成する請求項1または2に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の半導体または第1の金属元素の電気陰性度をA1とし、前記第2の半導体または前記第2の金属元素の電気陰性度をA2とするとき、A1>A2である請求項1〜3のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の半導体または第1の金属元素を融点M1とし、前記第2の半導体または前記第2の金属元素の融点をM2とするとき、M1>M2である請求項1〜4のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項6】
前記第1のアモルファス層は、SixGeyO(1−x−y)層からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項7】
前記化学量論的誘電体材料層は、SiO2層からなり、前記第2のアモルファス層は、SiOx層からなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項8】
前記SiOx層は、Siをリアクティブスパッタして形成される請求項7に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法で製造された量子ドット構造体を有し、
前記量子ドットは、吸収した光の特定の波長領域に対して前記吸収した光よりも低いエネルギーの光に波長変換する波長変換組成物からなり、前記量子ドットは、隣り合う粒子との間隔が前記量子ドットの粒径以下に配置されていることを特徴とする波長変換素子。
【請求項10】
前記請求項9に記載の波長変換素子が光電変換層の入射光側に配置されており、
前記波長変換素子は、実効屈折率が、前記光電変換層の屈折率と空気の屈折率との中間の屈折率であることを特徴とする光電変換装置。
【請求項1】
第1、第2の2種以上の半導体または金属元素と酸素からなる組成を有し、かつ前記酸素に対し、前記第1、第2の2種以上の半導体または金属元素の組成比率が多い第1のアモルファス層と、前記第1の半導体または前記第1の金属元素と酸素からなる組成を有する化学量論的誘電体材料層と、前記第1の半導体または前記第1の金属元素と酸素からなる組成を有し、前記第1の半導体または前記第1の金属元素の組成比率が多い第2のアモルファス層とを相互に積層し、積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱処理し、前記第1の半導体または前記第1の金属元素によりマトリクスが形成され、前記マトリクスの中に前記第2の半導体もしくは前記第2の金属元素からなる結晶質の量子ドット、または前記第1、第2の2種以上の半導体もしくは金属元素の混晶の量子ドットを形成する工程とを有することを特徴とする量子ドット構造体の製造方法。
【請求項2】
前記積層体は、前記第1のアモルファス層または前記第2のアモルファス層に隣接して、前記化学量論的誘電体材料層が形成され、かつ前記第1のアモルファス層と隣接する第1のアモルファス層の間に、少なくとも前記第2のアモルファス層が1層以上ある請求項1に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項3】
前記積層体の加熱処理工程において、前記第1のアモルファス層の前記第2の半導体または前記第2の金属元素は、前記第1のアモルファス層中に量子ドットを形成するとともに、前記第2のアモルファス層に拡散し、前記第2のアモルファス層に含まれる前記第1の半導体または前記第1の金属元素を酸化させるとともに、前記第2の半導体または前記第2の金属元素を主成分とする量子ドットを形成する請求項1または2に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の半導体または第1の金属元素の電気陰性度をA1とし、前記第2の半導体または前記第2の金属元素の電気陰性度をA2とするとき、A1>A2である請求項1〜3のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の半導体または第1の金属元素を融点M1とし、前記第2の半導体または前記第2の金属元素の融点をM2とするとき、M1>M2である請求項1〜4のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項6】
前記第1のアモルファス層は、SixGeyO(1−x−y)層からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項7】
前記化学量論的誘電体材料層は、SiO2層からなり、前記第2のアモルファス層は、SiOx層からなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項8】
前記SiOx層は、Siをリアクティブスパッタして形成される請求項7に記載の量子ドット構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の量子ドット構造体の製造方法で製造された量子ドット構造体を有し、
前記量子ドットは、吸収した光の特定の波長領域に対して前記吸収した光よりも低いエネルギーの光に波長変換する波長変換組成物からなり、前記量子ドットは、隣り合う粒子との間隔が前記量子ドットの粒径以下に配置されていることを特徴とする波長変換素子。
【請求項10】
前記請求項9に記載の波長変換素子が光電変換層の入射光側に配置されており、
前記波長変換素子は、実効屈折率が、前記光電変換層の屈折率と空気の屈折率との中間の屈折率であることを特徴とする光電変換装置。
【図1】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図5】
【図19】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図5】
【図19】
【公開番号】特開2013−51318(P2013−51318A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188716(P2011−188716)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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