量子メモリ
【課題】量子ビット状態を記憶し操作するように構成されたメモリのコンポーネントを提供する。
【解決手段】コンポーネントは、量子ドット分子、励起子、第1電気接点17、第2電気接点19、電源26及び電源コントローラー21を含んでいる。量子ドット分子は、第1レイヤ1において提供される第1量子ドット3と、第2レイヤ5において提供される第2量子ドット7と、を含んでいる。励起子は量子ドット分子内に電子及び正孔の束縛状態を含んでいる。励起子のスピン状態は量子ビット状態を形成する。電場が量子ドット分子を横切って提供されることが可能になるために、第1電気接点17は第1量子ドット3の下に提供され、第2電気接点19は第2量子ドット7の上に提供される。電源コントローラー21は、量子ドット分子内での励起子が直接配置と間接配置との間で切り換えられるように、量子ドット分子を横切って電場を調整するように構成されている。
【解決手段】コンポーネントは、量子ドット分子、励起子、第1電気接点17、第2電気接点19、電源26及び電源コントローラー21を含んでいる。量子ドット分子は、第1レイヤ1において提供される第1量子ドット3と、第2レイヤ5において提供される第2量子ドット7と、を含んでいる。励起子は量子ドット分子内に電子及び正孔の束縛状態を含んでいる。励起子のスピン状態は量子ビット状態を形成する。電場が量子ドット分子を横切って提供されることが可能になるために、第1電気接点17は第1量子ドット3の下に提供され、第2電気接点19は第2量子ドット7の上に提供される。電源コントローラー21は、量子ドット分子内での励起子が直接配置と間接配置との間で切り換えられるように、量子ドット分子を横切って電場を調整するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに説明されるような実施形態は、量子メモリ及び量子情報処理の分野に関連する。
この出願は、2011年10月28日にファイルされた、英国特許出願第1118764.8号からの優先権の利益に基づいていて、かつその利益を要求し、出願の全内容は参照によってここに組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
量子中継器及び量子ネットワークのような量子情報処理でのいくつかの応用は、可逆的な手法で安定した量子メモリ上にマップされることを、一光子の量子状態に要求する。
【0003】
半導体量子ドットは、単一光子の偏光を、高いフィデリティ(fidelity)を有する光子生成励起子(photogenerated exciton)のスピン状態へ書き換える光と物質との有効量子インターフェースとして機能する。励起子は、2つの直交光子偏光に対応する2つのスピン固有状態を有し、これらのスピン固有状態は、いわゆる微細構造スプリッティング(fine-structure splitting)によってエネルギー上で分離されている。2つのスピン固有状態のうちの1つにおいて、あるいはこれらの状態の任意の重ね合せにおいて、励起子を初期化することができる。したがって、励起子を量子ビット(qubit)と見なすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】図1は、本発明の実施形態に従うメモリコンポーネントの概略図である。
【図2】図2は、量子ドット分子の概略のバンドダイアグラム(band diagram)である。
【図3】図3は、メモリコンポーネントの動作中での量子ドット分子の概略のバンドダイアグラムである。
【図4】図4の(a)は、光キャビティ内に位置する本発明の実施形態に従うメモリコンポーネントの概略図である。図4の(b)は、図4の(a)のコンポーネントの平面図を示す。図4の(c)は、図4の(a)のコンポーネントの変形を示す。
【図5】図5はブロッホ球(Bloch sphere)である。
【図6A】図6Aは、HV軸のまわりで歳差運動をする量子状態を示すブロッホ球である。
【図6B】図6Bは、DA軸のまわりで歳差運動をする量子状態を示すブロッホ球である。
【図7】図7の(a)は、図7の(b)に概略的に示されるバンドダイアグラムを有する量子ドット分子に印加された電場に対する、エネルギー及び微細構造スプリッティングのプロットである。図7の(c)は、図7の(d)に示されるバンドダイアグラムを持った量子ドット分子に印加された電場に対する、エネルギー及び微細構造スプリッティングのプロットである。
【図8】図8の(a)は、第1量子ドット分子のための電場に対する、実験的に測定された微細構造スプリッティング及び固有状態方向(eigenstate orientation)のプロットである。図8の(b)は、第2量子ドット分子のための電場に対する、実験的に測定された微細構造スプリッティング及び固有状態方向のプロットである。
【図9】図9の(a)は、印加された電場に対する最低エネルギー励起子配置に関するエネルギースペクトルのプロットである。図9の(b)は、印加された電場に対する微細構造スプリッティングのプロットである。図9の(c)は、印加された電場に対する励起子の複数の固有状態の方向のプロットである。図9の(d)は、時間の経過による励起強度のプロットである。図9の(e)は、時間の経過による印加される電場のプロットである。図9の(f)は、量子ドット分子において当初に初期化された状態の再生成を示すために、時間の経過による対応する放射強度のプロットである。
【図10】図10の(a)は、印加された電場に対する最低エネルギー励起子配置に関するエネルギースペクトルのプロットである。図10の(b)は、印加された電場に対する微細構造スプリッティングのプロットである。図10の(c)は、印加された電場に対する励起子の複数の固有状態の向き(orientation)のプロットである。図10の(d)は、時間の経過による励起強度のプロットである。図10の(e)は、時間の経過による印加された電場のプロットである。図10の(f)は、量子ドット分子において当初に初期化された状態からHV軸の周りのπの正味の回転を有する状態の再生成を示すために、時間の経過による対応する放射強度のプロットである。
【図11】図11の(a)は、印加された電場に対する最低エネルギー励起子配置に関するエネルギースペクトルのプロットである。図11の(b)は、印加された電場に対する微細構造スプリッティングのプロットである。図11の(c)は、印加された電場に対する励起子の複数の固有状態の向きのプロットである。図11の(d)は、時間の経過による励起強度のプロットである。図11の(e)は、時間の経過による印加された電場のプロットである。図11の(f)は、量子ドット分子において当初に初期化された状態からDA軸の周りのπの正味の回転を有する状態の再生成を示すために、時間の経過による対応する放射強度のプロットである。
【図12】図12の(a)は、印加された電場に対する最低エネルギー励起子配置に関するエネルギースペクトルのプロットである。図12の(b)は、印加された電場に対する微細構造スプリッティングのプロットである。図12の(c)は、印加された電場に対する励起子の複数の固有状態の向きのプロットである。図12の(d)は、時間の経過による励起強度のプロットである。図12の(e)は、時間の経過による印加された電場のプロットである。図12の(f)は、スピンエコー技術を用いてリフェーズ(rephase)した後に、状態の再生成を示すために、時間の経過による対応する放射強度のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
実施形態において、量子ビット状態を記憶し操作するように構成されたメモリのコンポーネントは提供され、前記コンポーネントは、量子ドット分子と、励起子と、第1電気接点と、第2電気接点と、電源と、電源コントローラーと、を具備し、
前記分子は、第1レイヤに提供される第1量子ドットと、第2レイヤに提供される第2量子ドットと、を具備し、前記第1レイヤ及び前記第2レイヤはバリヤーレイヤによって分離されていて、前記第2レイヤは前記第1レイヤの上に配置され、
前記励起子は、前記量子ドット分子での電子及び正孔の束縛状態を具備し、前記励起子のスピン状態は前記量子ビットを形成し、
電場が前記量子ドット分子を横切って提供されるために、前記第1電気接点は前記第1量子ドットの下で提供され、第2電気接点は前記第2量子ドットの上に提供され、
前記電源は、前記量子ドット分子を横切って電場を印加するように構成された複数の電気接点に接続され、
前記電源コントローラーは、量子ドット分子を横切る電場を調整するように構成され、その結果、量子ドット分子における励起子は、励起子の電子及び正孔が同じ量子ドットにある直接配置と、電子及び正孔が量子ドット分子の異なった量子ドットに位置する間接配置と、の間で切り換えられ、
前記電源コントローラーは、情報取得回路とタイミング回路を具備し、前記情報取得回路は、前記励起子の微細構造スプリッティングと印加された電場との間の関係に関する情報を取得するように構成され、
前記タイミング回路は、微細構造スプリッティングから導かれる所定回数で間接配置から直接配置への励起子の切り換えを許可するように構成される。
【0006】
電圧コントローラーは、取得回路を介して、励起子の微細構造スプリッティングが印加された電場にどのように関係しているかを知っている。微細構造スプリッティングはここで、光に結合する2つの励起子スピン状態間のエネルギー分離として定義される。一実施形態において、取得回路は、微細構造スプリッティングを印加された電場に関連づけるデータを含んでいるメモリに接続される。さらなる実施形態では、取得回路は、この情報を無線で検索してもよい。
【0007】
取得回路によって取得したデータは、演算に先立って量子ドット分子で行なわれた測定からのデータでもよい。
【0008】
ある実施形態において、前記電源コントローラーは以下のように構成される。
量子ビットの初期化に適した電場は、励起子が生成される際に印加され、この電場では最低エネルギー励起子状態が短い寿命を有する直接励起子配置に対応し、電子及び正孔の両方は同じ量子ドットに閉じ込められる。
量子ビット格納に適した電場は、励起子が初期化された後直ちに印加され、この電場では最低エネルギー励起子状態は、長い寿命を有する間接励起子配置に対応し、電子及び正孔は、異なる量子ドットに閉じ込められ、電場の切り換えの間に励起子配置は直接から間接へ変化する。
励起子のスピン状態に格納される量子情報が検索されることになっている場合には、量子ビット読み出しに適した電場が印加され、この電場では、最低エネルギー励起子状態は、短い寿命を有する直接励起子配置に対応し、電子と正孔の両方は同じ量子ドットに閉じ込められ、電場の切り換えの間に励起子配置は間接から直接へ変化する。
【0009】
状態が直接あるいは間接の配置のいずれかで量子ドット分子に記憶される時、状態は時間にわたって発展するだろう。時間の経過による状態の発展は予測可能である。ある実施形態において、励起子が生成される状態は、2つの固有状態の重ね合せである。2つの固有状態を、極の間に走る軸を持ったいわゆるブロッホ球上の2つの対立する極として視覚化することができる。時間の経過によって、状態は、2つの固有状態を接続する軸のまわりのブロッホ球上で歳差運動をするだろう。この歳差運動の速度は、微細構造スプリッティングによって制御される。したがって、一旦特定の電圧に関する微細構造スプリッティングが既知であれば、状態の発展は既知である。これは、読出しである状態に対する制御を可能にする。
【0010】
ある実施形態において、励起子は光学的な励起によって生成される。ある与えられたスピン状態を有する励起子は、既知の偏光を持った量子ドット分子を光学的に励起することによって、生成されてもよい。別の実施形態において、コンポーネントは、さらに光源を具備し、この光源は、前記量子ドット分子に既知のスピン状態の励起子を光学的に励起するように構成される。
【0011】
別の実施形態において、光源は、量子ビット初期化に適した電場で、最低エネルギー励起子状態より大きな整数のフォノンエネルギーである光子エネルギーを有しているように構成される。これは、励起子が最低エネルギー状態へ緩和するとともに、スピンフリップの可能性を少なくする。
【0012】
別の実施形態において、光源は、量子ビット初期化に適した電場での最低エネルギー励起子状態に等しい光子エネルギーを有するように構成される。これは、励起子が最低エネルギー状態へ緩和するとともに、スピンフリップの可能性を最小限にする。
【0013】
ある実施形態において、前記量子ドット分子は、励起子を初期化することができる効率を改善するために、光キャビティ内に位置する。これは、周波数と空間的形状の両方の点からみて、キャビティの光学モードを、光源からの光パルスに一致させることによって行われる。さらに、量子ドット分子はキャビティのアンチノードに位置する。
【0014】
ある実施形態において、状態は、量子ドット分子を横切る電場を変え励起子を格納配置から読み出し配置へ移動させることによって、読み出される。読み出し配置では、その直接配置における励起子は光子を再結合し放射するだろう。光子の偏光は励起子スピン状態の直接の転写である。別の実施形態において、コンポーネントは、偏光検出器を有する光検出器をさらに具備し、前記光検出器は、前記コンポーネントから出力された複数の光子の放射及び偏光を測定するように構成される。
【0015】
一実施形態において、電圧コントローラーは、状態を読み出すために、状態を初期化するためと同様の場を印加するように構成される。別の実施形態においては、これらの場は異なる。
【0016】
微細構造スプリッティングが低ければ低いほど、重ね合わせ状態の歳差運動がゆっくりになる。状態がゆっくり歳差運動をする場合は、任意の特定の時に状態を判定するほうが簡単である。ある実施形態において、電圧コントローラーは、初期化、格納、及び読み出しの処理のために、10μeVより下の微細構造スプリッティングを維持するように構成される。
【0017】
別の実施形態において、第1レイヤバリヤーレイヤ及び第2レイヤは半導体成長技術によって作り上げられ、その結果、第2量子ドットは第1量子ドットの後に形成され、第1接点はn型接点である。別の実施形態において、第2接点はp型接点である。別の実施形態において、第2接点はショットキー接点である。
【0018】
デバイスに基づいてn型接点を形成することによって、ボトムの量子ドットからトップの量子ドットへ指向する(ここで負電場と定義する)電場を印加し、それによって微細構造スプリッティングを減少させることが可能になる。
【0019】
ある実施形態において、メモリはメモリに読み込まれるのと同じ量子ビット状態を出力するように構成される。そのような実施形態では、取得回路は、量子ビット格納中に印加される電場に関する励起子微細構造スプリッティングを得るように構成される。タイミング回路は、一旦量子ビット状態が固有状態軸のまわりの整数の回転を完了したならば、読み出し配置に前記励起子を移動させるように構成される。それは、電圧コントローラーが読み出しであるために初期化されるような量子ビット状態を許可するほどのものである。
【0020】
別の実施形態において、取得回路は、印加された電場に関して、微細構造スプリッティング及び固有状態方向を取得するように構成され、その元々の状態から予め定義された回転に加えて、前記電圧コントローラーが量子演算を行うように、一旦量子ビット状態が固有状態軸の周りの整数回の回転を完了したならば、タイミング回路は、前記励起子を、読み出し配置へ動かす。
【0021】
実施形態において、適切な電場の印加により量子ビットの記憶装置中に複数の固有状態を変更することはさらに可能である。量子ビットがブロッホの球体上の2つの異なる軸のまわりで回転する場合、量子の演算は、そのために行なうことができる。
【0022】
ある実施形態において、電圧コントローラーは、量子ビット格納中に、2つの直交する固有状態軸の間で行き来するのに適した調整された電場を印加するように構成され、それによって「スピンエコー」の作用が、格納された状態をリフェーズすることを可能にする。
【0023】
ある実施形態においては、励起子エネルギーは2つの量子ドットにおいて異なる。
【0024】
別の実施形態において、量子ビット状態を格納する方法は提供され、前記量子ビット状態は励起子スピン状態として量子ドット分子に格納され、前記励起子は電子及び正孔の束縛状態を具備し、前記分子は、第1レイヤに提供される第1量子ドットと、第2レイヤに提供される第2量子ドットとを具備し、前記第1レイヤ及び前記第2レイヤはバリヤーレイヤによって分離され、前記第2レイヤは前記第1レイヤの上に配置され、
前記方法は、以下を具備する。
前記量子ドット分子にある励起子が直接配置から間接配置へ移動することを可能にするのに適した電場を印加し、(ここで、直接配置では電子及び正孔は複数の量子ドットの内の1つに位置し、間接配置では前記励起子の電子は1つの量子ドットに位置し、前記励起子の正孔は他の量子ドットに位置する)
前記量子ドット分子における励起子の微細構造スプリッティングと、印加された電場との関係に関する情報を取得し、
所定の時に、間接配置から直接配置へ励起子を移動させるように構成される別の電場を印加すること(ここで、所定の時は、微細構造スプリッティングから導き出される)。
【0025】
ある実施形態において、方法は次のものを具備する。
励起子が直接配置での量子ドット分子で初期化された場合に前記量子ドット分子にわたる第1電場と(ここで初期化の間、励起子は量子ドットで生成される)、
前記量子ドット分子にわたる第2電場と(この場では最低エネルギー励起子状態は間接励起子配置に対応する)、
前記励起子の前記スピン状態に格納された量子情報の読み出しを可能にするように構成される、前記量子ドット分子にわたる第3電場と(前記第3電場では、最低エネルギー励起子状態は直接励起子配置に対応する)。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に従うメモリコンポーネントの概略図である。
【0027】
ここに用いられるように、以下の用語「上」及び「下」は複数のレイヤの成長順に関して定義され、初期の時点での成長したレイヤは、後の時点での成長したレイヤより下であると定義される。
【0028】
コンポーネントは、バリヤーレイヤによって分離された2つの量子ドットを具備する量子ドット分子を有する。
【0029】
量子ドットレイヤ1は、重なって、かつドープしていない領域11に接して提供される。この特定の例においては、量子ドットレイヤ1は、GaAs(ガリウム砒素)またはAlGaAsのレイヤの上に、InxGa1xAs(x=0.2−1.0)のいくつかの単レイヤを成長することによって作り上げられる。量子ドットレイヤ1と、下にある複数のレイヤとの間での格子定数における差により、量子ドットレイヤは複数の島を形成し、これらの島は量子ドット3である。AlxGa1xAs(x=0.0−0.9)のドープしていないバリヤーレイヤ9は、前記量子ドットレイヤ1に接して被せる。バリヤの厚さは1−30nmである。
【0030】
第2量子ドットレイヤ5は、前記バリヤーレイヤ9に接して被せる。第2量子ドットレイヤ5も、InxGa1xAs(x=0.2−1.0)のいくつかの単レイヤを成長することによって作り上げられる。量子ドットレイヤ5と、バリヤーレイヤ9との間の格子定数での差により、量子ドットレイヤ5は島を形成し、これらの島は量子ドット7である。量子ドットレイヤ5は、第1量子ドットレイヤ1の後に形成され、比較的薄いバリヤーレイヤ9、第2量子ドットレイヤ内の量子ドット7は、補助の核形成を変形させることにより第1量子ドットレイヤにある複数の量子ドット3と協調する。2つのレイヤにある複数の量子ドットはそれによって整列して複数の量子ドット分子を形成する。
【0031】
第1量子ドットレイヤは、AlxGa1xAs 11(組成x=0.0−0.9)のドープしていないレイヤに位置する。ドープしていないレイヤは、10nm以上の厚さを有する。n型のドープしたレイヤ10は、AlxGa1xAsのドープしていないレイヤ11の下に位置する。
【0032】
AlxGa1xAs 11のドープしていないレイヤ13(組成x=0.0−0.9、10nmより大きな厚さ)は、第2量子ドットレイヤに被さって形成される。p型のドープしたレイヤ14は、ドープしていないレイヤ13の上に位置する。
【0033】
電気接点17及び19は、n型レイヤ10及びp型レイヤ14にそれぞれ接続され、その結果、電源26を使用して、垂直の電場が量子ドット分子にわたって印加されることが可能になる。
【0034】
電圧コントローラー21は、垂直の電場を調整するために用いられる。電圧コントローラーは、取得回路23及びタイミング回路25を具備する。
【0035】
光子の偏光量子状態は、量子ドット分子3、7に閉じ込められた励起子のスピン状態にマップされ、その結果、量子ビットは初期化される。複数の光子は、例えばレーザである励起源51、単一量子ドット、または別の量子ドット分子が起源である。オペレーターが量子メモリへ書き写したい状態を生成するために、一つまたはいくつかの波長板53を使用して、量子演算を、複数の光子上で実行することができる。レンズ55は、メモリコンポーネント上に光を集中させるために用いられる。
【0036】
コントローラー21は、励起子微細構造を調整し、それによって格納中に励起子量子ビットの発展を制御する。コントローラー21はさらに、励起子寿命を調整し、それによって、タイミング回路25を用いて量子ビットの格納時間を制御する。電圧モジュレータは、量子ドット分子を横切る電場を変更するために用いられる。タイミング回路25は、電圧モジュレータを規制するように使用され、その結果、量子ドット分子にわたる電場は、量子ビットの発展と、オペレーターが行おうと意図する量子演算とに依存した時間内に、複数の正確な瞬間で切り換えられる。タイマーは励起光源に同期化され、続く時間t=0は、励起子量子ビットが初期化される時として定義される。タイミング回路は、取得回路23によって取得されたデータを参照することにより電圧を切り替える正確な時間を計算する。
【0037】
量子メモリが読み出される際に、励起子スピン状態は光子偏光状態に逆にマップされる。量子ドット分子から放射された複数の光子は、レンズ61によって集められ、その後それらは、離れた量子メモリと通信するために用いられるか、または直接測定される。複数の光子が測定される場合には経路71に沿って、または複数の光子が離れた量子メモリと通信するために用いられる場合には経路73に沿って、ビームステアリングデバイスは複数の光子を導くために使用される。経路73は離れた量子メモリに至る。複数の光子が測定される場合、単一光子検出器67(例えばアバランシェフォトダイオードあるいは超伝導単一光子検出器)の前にある波長板63及び線形偏光子65は、3つの基底(|D>及び|A>、|L>及び|R>、または、|H>及び|V>)のうちの1つにおいて射影の測定を行なうために用いられる。検出器67はタイミング回路25と同期化される。オペレーターは、このように励起子量子ビットの正確な格納時間を知っていて、この間に量子ビットの発展を推定することができる。
【0038】
図2の(a)は、量子ドット分子を横切る(Fで示される)電場が0であるとき、図1を参照して説明されたタイプの、量子ドット分子の概略のバンドダイアグラムである。量子ドット分子は、障壁102によって分離された、第1量子ドット101及び第2量子ドット103を具備する。量子ドット101は、伝導帯において最低の閉じ込められた電子エネルギーレベル104を持っていて、価電子帯において最高の閉じ込められた正孔レベル105を持っている。量子ドット103は、伝導帯において最低の閉じ込められた電子エネルギーレベル106を持っていて、価電子帯において最高の閉じ込められた正孔レベル107を持っている。2つの量子ドットは、異なるサイズであり、したがって、異なる閉じ込めエネルギーを有する。特定の電場FACでは、2つの量子ドットの、電子または正孔の基底状態は、共振の状態になる。また、2つの量子ドットはトンネル結合する。図2の(b)は、量子ドット分子を横切る電場がFACで、2つの正孔状態が共振であるとき、図1を参照して説明されたタイプの、量子ドット分子の概略のバンドダイアグラムである。電子または正孔の状態が共振の状態になるかどうかは、量子ドットの相対的なサイズ、及び電場の方向に左右される。以下の説明において、正孔トンネル共振があるデバイスは、発明を例証するために用いられる。しかしながら、電子トンネルデバイスも用いることができる。
【0039】
図3は、デバイスの演算中に量子ドット分子のバンドダイアグラムを概略的に示す。光子の偏光は、量子ドット分子内に閉じ込められた励起子のスピン状態へ書き換えられる。励起子は電子201と正孔202とを具備する。電子占有エネルギー準位104あるいは106、または、2つの間のトンネル結合された状態。正孔占有エネルギー準位105あるいは107、または2つの間のトンネル結合された状態。励起子エネルギーは、電子及び正孔のエネルギー間のエネルギー差として定義される。明白に、励起子には4つの異なるエネルギー配置(104の電子及び105の正孔、104の電子及び107の正孔、106の電子及び105の正孔、106の電子及び107の正孔)がありえる。デバイスは、任意の与えられた電場でも、(最も安定したものである)最低エネルギー励起子配置を用いて動作する。
【0040】
図3の(a)は、初期化段階に量子ドット分子のバンドダイアグラムを示す。最低エネルギーを持った励起子が、同じ量子ドットに閉じ込められる電子と正孔の両方を有しているように、電場は0<|F|<|FAC|であり、これは直接励起子状態として定義される。直接励起子配置は、約1ナノセカンド以下の短い寿命を持っており、したがって容易に光子を吸収する。
【0041】
図3の(b)は、格納段階への遷移中に量子ドット分子のバンドダイアグラムを示す。電場が|F|=|FAC|に変えられ、複数の正孔エネルギー準位が共振の状態になり、正孔が通り抜けることを許される。この電場では、正孔は通常の位置から離され、両方の量子ドットを同時に占める。
【0042】
図3の(c)は、格納段階中に量子ドット分子のバンドダイアグラムを示す。電場は|F|>|FAC|であり、その結果、最低エネルギー励起子状態について、電子と正孔が個別の量子ドット内に閉じ込められ、これは間接励起子配置として定義される。この励起子配置は、直接励起子配置より数桁長い寿命を持っている。また、量子ビットを数100ナノセカンドで格納することができる。
【0043】
図3の(d)は、読み出し段階中に量子ドット分子のバンドダイアグラムを示す。電場は0<|F|<|FAC|であり、この結果、励起子は寿命が短いその直接配置に戻ってくる。励起子は続いて光子を再結合し放射する。
【0044】
図4の(a)は、実施形態に従う光キャビティにおける量子メモリコンポーネントを示す。任意の不必要な反復を避けるため、同様な参照数字は同様の特徴を示すために使用される。この実施形態では、キャビティは光結晶キャビティである。
【0045】
レイヤ10は、AlxGa1xAs(組成x=0.9−1.0)の犠牲レイヤ301の上に成長する。光結晶は、レイヤ14の上面から全ての中間レイヤを介して犠牲レイヤ301へ、周期的なパターンの複数の正孔303をエッチングすることによって形成される。その後、レイヤ301の一部は選択的にエッチングされ除かれ、その結果、光結晶は、薄いスラブの中に漂っている。1つあるいはいくつかの正孔は故意にエッチングされない、そのため、光共振器305を形成する光結晶の周期性は壊れている。
【0046】
キャビティは初期化及び読み出し処理の効率を向上させるように構成される。これは、キャビティのサイズと同様に複数の正孔のサイズ及び周期性を選ぶことにより行われ、その結果、キャビティの光学モードが、周波数及び空間的形状の両方の点で、励起源51からの光パルスに一致する。さらに、量子ドット分子がアンチノードに置かれるように、キャビティ305の位置は選ばれる。この配置では、キャビティは、初期化及び読み出し処理の効率を向上させるだろう。
【0047】
図4の(b)は、(a)に示される光結晶構造の上面図を示す。
【0048】
図4の(c)は、さらなる実施形態における光結晶構造の上面図を示す。そこでは導波管307は、正孔の列を故意にエッチングしないでおくことにより、光結晶内で生成される。導波管は、光キャビティ305へ及び光キャビティ305から光を導く。導波管を、複数の離れた量子ドット分子、または複数の離れた励起源あるいは複数の検出器に接続することができる。
【0049】
上記の実施の形態は、それらが重ね合せ状態の時間発展に対する制御を可能にするように、機能的な量子メモリを提供する。重ね合せ状態を、図5及び図6のいわゆるブロッホ球の表面上の点として記述することができる。球体上の2つの極は、時間について発展しない状態である複数の固有状態を定義する。上記の複数の固有状態を除いてブロッホ球上の任意の点によって表現される重ね合せ状態は、2つの固有状態によって定義された軸のまわりのブロッホの球の表面で歳差運動をするだろう。この歳差運動の周期は、微細構造スプリッティングに反比例する。
【0050】
上記実施形態では、動作バイアス範囲での微細構造スプリッティングを最小にするデバイス構造が提供され、また微細構造スプリッティングと、ブロッホ球上での固有状態方向との双方を調整する方法が提供される。
【0051】
図5は、時間について発展しない状態である固有状態|H>と|V>とを有するブロッホ球である。自己組織化した半導体量子ドットにとっては、複数の固有状態は、[110]及び[1−10]の結晶軸に沿って偏光された光(ここで注釈付きの水平及び垂直に偏光した光)に、一般的に結合する。図5は、北極及び南極でそれぞれ水平方向偏光された状態|H>と垂直方向偏光された状態|V>とを有するブロッホ球を示す。任意の量子ビット状態を、複数の固有状態の重ね合せとして示すことができ、図5で定義されるように角度θ及びφによって表現することができる。図はさらに4つの特定の重ね合せ状態(全て|H>及び|V>状態に直交する、対角|D>、反対角|A>、左回り|L>、右回り|R>)を示す。複数の固有状態とは対照的に、重ね合せ状態は時間発展するだろう。それは、微細構造スプリッティングに反比例する周期(T)で、2つの固有状態によって定義された軸のまわりのブロッホ球の表面で歳差運動をする。:
T=h/|S|
ここで、hがプランク定数であり、|S|は微細構造スプリッティングである。
【0052】
図6Aは第2のブロッホ球を示し、|H>及び|V>は固有状態である。球体はさらに、|H>から|V>への軸(HV軸で示される)の周りで、重ね合せ状態の歳差運動を示す。重ね合せ状態の歳差運動は、破線小円によって示される。
【0053】
図6Bは第2のブロッホ球を示し、|D>及び|A>は固有状態である。|D>から|A>への軸の周りでの重ね合せ状態の歳差運動は、再び破線小円によって示される。
【0054】
励起子が読み出されるために直接配置に戻される場合は、状態はまだ歳差運動をしてもよい。これは測定にある不確実性を導入するだろう。この不確実性は、直接の状態(遅い歳差運動)において小さな微細構造スプリッティングを有することによって、かつ直接の状態で励起子寿命を最小化する(高速な再結合)ことによって、最小化される。一般に、寿命は約1ナノセカンドの桁である。しかし、それは、高いパーセルファクターを持った光キャビティ内に量子ドット分子を置くことによって、さらに減少することができる。
【0055】
量子ビット状態は、格納中に時間にわたって発展するだろう。量子ビットがブロッホ球上での固有状態軸のまわりで整数の回転だけ回転した際に読み出しが行なわれれば、オペレーターは初期の量子ビット状態を再生成することができる。別の実施形態においては、固有状態軸の向きを制御し、かつ量子ビットが前記軸のまわりの整数の回転でなく回転することを可能にすることによって、格納中に量子演算を行うことができる。
【0056】
ある実施形態においては、生成された状態Tに対する制御を支援することは、複数の量子ドット分子を横切る電場を制御できる時間スケールに比較して十分に長い。例えば、これは、微細構造スプリッティングが量子ビット初期化、格納、及び読み出しの処理中いつでも10μeV未満である場合に、達成される可能性がある。
【0057】
複数の励起子固有状態は、直接の励起子配置と比較して、間接の励起子配置での減少した微細構造スプリッティングを持っている。図7の(a)及び(c)はさらに、直接励起子配置における微細構造スプリッティングは、増加する電場と共に増加し、電場の向きはトップからボトムの量子ドットへ向いているように定義される。図7の(a)は、負の電場で動作する量子ドット分子に関する電場の関数として、励起子エネルギースペクトル及び微細構造スプリッティング|S|を示し、2つの最低エネルギー励起子配置だけが明瞭さのために示されている。図での励起子スペクトルのより高いエネルギー分岐は点線によって表現され、一方、より低いエネルギー分岐は実線によって表現される。スペクトルの2つのエネルギー分岐を分離するいわゆるアンチクロッシングは、2つの量子ドットが結合する共振に印を付け、それは電場FACで起こり、直接から間接の励起子配置への遷移に印を付ける。図7の(b)は、共振で(a)において示された量子ドット分子のバンド構造を概略的に示す。図7の(c)は、正の電場で動作する量子ドット分子に関する電場の関数として、励起子エネルギースペクトル及び微細構造スプリッティングを示す。図7の(d)は、共振で(c)において示された量子ドット分子のバンド構造を概略的に示す。
【0058】
図7の(a)及び(c)は、負電場が印加される場合、|S|は最小化される。複数の量子ドットより下のn型の接点及び上のp型の接点を持ったp−i−nダイオード構造において複数の量子ドットを配置することにより、負電場を印加することができる。これとは別に、複数の量子ドットより下のn−接点を持ったn−i−ショットキーダイオードでの複数の量子ドットを配置することによって、負電場を印加することができる。
【0059】
ある実施形態において、複数のドットは同一ではない。同一の複数のドットは、F=0でそれらの共振(アンチクロッシング)を持っている。F=0は、電子と正孔が接点から注入される点である。ボトム接点がnである場合、荷電粒子を注入せずに、場F<0を印加することが可能である。ボトム接点がpである場合、荷電粒子を注入せずに、場F>0を印加することが可能である。どちらの配置が選ばれても、キャリアー注入が始まる点から十分に離れていることが望ましい。
【0060】
複数の量子ドットが同じ成長時間で成長する場合、トップのドットは一般に、より大きい。しかしながら、常にボトムのドットがより大きいように、量子ドット分子が成長する場合、ドットサイズを制御してもよい。これは、量子ドット分子の配置上の選択を可能にする。例えば、ボトム接点nまたはトップ接点nをドープする選択と共にボトムドットがより大きいまたはトップドットがより大きい、合計4つの選択がある。上記の実施形態では、ボトムドットはボトム接点nと共により大きなドットである。しかしながら、上述の他の配置はすべて可能である。
【0061】
量子ドットの組成及び歪みに加えて、量子ドットのサイズは、どの荷電粒子が通り抜けるか(図7の(b)では正孔が通り抜け、図7の(d)では電子が通り抜ける)を決定する。
【0062】
直接の励起子は、最も大きな量子ドットで形成される(組成及び歪みが2つの量子ドットに関して同じであると仮定して)。最も小さなドットにおいて励起子を形成することは可能であるが、それはより高エネルギーを有し、自然に低エネルギー状態へ緩和することを目指すだろう。この理由で、以下の実施形態では最低エネルギー状態に関連する。
【0063】
図8の(a)及び(b)は実験データを表わし、これらの図は、複数の固有状態を、負及び正の電場でそれぞれ動作する2つの異なる量子ドット分子に関する電場の関数と特徴づける。上部パネルは|S|を示し、そして下部パネルは、θに関してブロッホ球での固有状態軸の向きを示す(これらの測定ではφ=0)。これらの図は、いくつかの量子ドット分子については、複数の固有状態が直接配置から間接配置への遷移で回転することを示す。複数の固有状態の回転は、直接及び間接の励起子配置における異なるスピン状態間での結合の結果である。
【0064】
図9の(a)、(b)及び(c)は、電場に対する量子ドット分子構造内に閉じ込められた励起子に関してそれぞれエネルギースペクトル、|S|、及びθを示す。励起子スペクトルの最低エネルギー分岐だけが示され、また高エネルギー分岐は明瞭さのために図から省略されている。アンチクロッシングが起こる電場は、図でFACと印づけられている。FACより下の場については、励起子はその間接配置である。また、FACより上の場については、励起子はその直接配置である。(その直接配置に励起子を入れる)電場F1は、初期化及び読み出し処理に用いられる。(その間接配置に励起子を入れる)電場F2は、格納処理に用いられる。これらの2つの電場では、微細構造スプリッティング、|S|1と|S|2との間での任意の場は、10μeV未満である。
【0065】
図9の(d)、(e)及び(f)は、量子演算が行われることなしで量子ビットを格納するために本発明の実施形態による方法を実証する。図9の(d)は、時間の経過による量子ドット分子に印加された励起強度を示し、図9の(e)は、時間の経過による量子ドット分子を横切って印加される電場を示し、図9の(f)は、時間の経過による量子ドット分子からの放射強度を示す。時間t=0で、量子ドット分子を横切って印加される電場はF1である。また、光パルスはその直接配置内の励起子を生成する。光パルスは、レーザあるいは量子光源(例えば量子ドットまたは量子ドット分子)から始まり、励起子エネルギーE1と等しいエネルギーを有する、あるいは励起子エネルギーたす整数のフォノンエネルギーに等しいエネルギーを有する。励起光パルス直後に、電場はF2に変更され、励起子はその間接配置内に格納される。格納時間中に、量子ビットは歳差運動をし、量子ビットは、時間間隔Δt=h/|S|2(図内の印のある2πHV)でHV軸のまわりの十分な回転で回転する。図において、h/|S|2=5ナノセカンドであり、したがってオリジナル状態は、5ナノセカンドごとに再生成される(オリジナル状態が再生成される時は図に印が付されている)。格納時間(τStore)は、次のように設定される。
【数1】
【0066】
ここでnは整数である。従って、量子ビットは、整数の回転で回転して、格納時間の終わりにオリジナル状態に再生成される。
【0067】
t=τStoreでは、電場はF1に戻され、励起子はその直接配置に返される。それは、オリジナル状態と同じ量子状態を有する光子を再生成するために、引き続き再結合される。
【0068】
図10の(a)、(b)及び(c)はそれぞれ、電場に対する量子ドット分子構造内に閉じ込められた励起子に関して、エネルギースペクトル、|S|及びθを示す。図10の(d)、(e)及び(f)は、行われた量子演算で量子ビットを格納するために本発明の実施形態による方法を実証する。図10の(d)は、時間の経過による量子ドット分子に印加された励起強度を示す、図10の(e)は、量子ドット分子を横切って印加される電場を示し、図10の(f)は、時間の経過による量子ドット分子からの放射強度を示す。この実施形態において、量子ビットが“|H>から|V>への軸”の周りで回転される量子演算は格納の間に行われる。図9でも同様に、t=0の量子ビット状態が以下ごとに再生成される。
【数2】
【0069】
電場F2で複数の固有状態によって定義された軸(ここでは|H>から|V>への軸)のまわりの(ラジアンで測られた)回転φは、以下の時間に量子ビットを格納することによって行われる。
【数3】
【0070】
図10では、τStore=4.5*h/|S|2がHV軸のまわりのπの正味の回転を与える。明らかに、HV軸のまわりの任意の角度だけ量子ビットを回転することができる。
【0071】
図11の(a)、(b)及び(c)はそれぞれ、電場に対する量子ドット分子構造内に閉じ込められた励起子に関して、エネルギースペクトル、|S|及びθを示す。図11の(d)、(e)及び(f)は、本発明の実施形態による方法を実証する。図11の(d)は、時間の経過による量子ドット分子に印加された励起強度を示し、図11の(e)は、時間の経過による量子ドット分子を横切って印加される電場を示し、図11の(f)は、時間の経過による量子ドット分子からの放射強度を示す。この実施形態において、量子ビットが“|D>から|A>への軸”の周りで回転される量子演算が、格納中で行われる。この演算を、複数の固有状態が直接配置から間接配置への遷移で回転する量子ドット分子を使用して、行うことができる。
【0072】
時間t=0で、量子ドット分子を横切って印加される電場はF3であり、光パルスはその直接配置内の励起子を作成する。光パルスは、レーザあるいは量子光源(例えば量子ドットまたは量子ドット分子)が起源であり、励起子エネルギーE3に等しい、または励起子エネルギー足す整数のフォノンエネルギーに等しいエネルギーを有する。励起光パルス直後に、電場はF5に変更され、励起子はその間接配置内に格納される。電場がF3からF5まで変更されるとともに、複数の固有状態が回転する。この実施形態では、θ=90°であり、これは固有状態軸がF3及びF5の両方で“|H>から|V>”であることを意味する。中間の電場F4では、固有状態軸は“|D>から|A>”である。しかしながら、スイッチングは時間発展に関して速く(100ピコセカンドより速い)、量子ビットの大幅な回転はスイッチングの間には起こらない。格納中に、量子ビットは“|H>から|V>”軸のまわりで歳差運動する。任意の時点では、そのインスタンスでの量子ビット状態を、下記の時間周期の間に電場をF4へ変化させることによって、(ラジアンで測定された)角度φで“|D>から|A>”の軸の周りで回転することができる。
【数4】
【0073】
図11では、DA軸のまわりのπの回転が行われ、図ではπDAと印が付けられている。明らかに、DA軸のまわりで任意の角度だけ量子ビットを回転することができる。さらに、複数の固有状態を回転することができるあらゆる軸のまわりで、量子ビットを回転することができる。
【0074】
図12の(a)、(b)及び(c)はそれぞれ、電場に対する量子ドット分子構造内に閉じ込められた励起子について、エネルギースペクトル、|S|及びθを示す。図12の(d)、(e)及び(f)は、本発明の実施形態による方法を実証する。図12の(d)は、時間の経過による量子ドット分子に印加された励起強度を示し、図12の(e)は、時間の経過による量子ドット分子を横切って印加される電場を示し、図12の(f)は、時間の経過による量子ドット分子からの放射強度を示す。この実施形態では、スピンエコーシーケンスは、格納中に量子ビットの位相をずらすことを減少するために、利用される。量子ビットは格納されているが、それは、固有状態軸(ここでZと名付ける)のまわりで歳差運動を行い、この間にランダムな位相ずれがさらに起こる。量子情報処理では、これはスピンエコー操作によって、改善することができる。位相ずれが起こる時間τの後、量子ビットは、Zに直交の軸(ここでXと名付ける)のまわりのπ回転を受ける。位相をずらす点では、π回転は、量子ビットがあたかもそれがπ回転後に後方へ時間発展しているかのように振る舞う効果がある。π回転の後の付加的な時間周期τでは、量子ビットは、再び焦点が当てられ、最小の位相ずれを有するオリジナル量子ビット状態を再生成する。いくつかのスピンエコー演算を、量子ビット格納中に、次から次へと行うことができる。
【0075】
スピンエコー演算は、外部磁界を用いて、一般に実行される。発明者らは、固有状態軸の電気的な制御された回転は、オペレーターが全ての電気的なスピンエコー演算を実行することを可能にする。図12での実施形態では、固有状態軸は量子ビット格納中にHVである。時間t=τでは、DA軸のまわりのπ回転は行なわれ、t=10ナノセカンドでスピンエコー(echo1)になる。演算は続いて繰り返され、t=20ナノセカンドで別のスピンエコー(echo2)になる。この時に、量子ビットが読み取られる。
【0076】
上記の複数の実施形態は、光子の偏光量子状態を符号化して励起子のスピン状態にする量子メモリコンポーネントを提供し、前記量子状態は格納され操作される。
【0077】
いくつかの実施形態において、励起子スピン状態を生成するために用いられる光子は既知でない偏光を有する。量子情報処理(QIP:quantum information processing)では、量子ビットの状態は一般に既知でない。上記の複数の実施形態では、ブロッホ球上で予め定義されている軸の周りに、予め定義されている角度で、既知でない量子ビット状態を回転することができる。これは、量子ビットに対する量子演算の構成要素となる。
【0078】
上記の複数の実施形態は、量子ビットを格納する量子メモリデバイスと、前記量子ビットを操作するためのコントローラーと、を具備するコンポーネントを提供する。量子メモリデバイスは、量子ドット分子と、前記量子ドット分子に中性励起子を生み出すように構成される励起部分と、を具備する。コントローラーは、量子ドット分子を横切って調整された電場を印加するように構成される複数の電気接点につながれた電源を具備する。電場を調整することによって、オペレーターは励起子寿命を調整することができる。電場を調整することによって、量子ビットの読み出し及び初期化に使用される直接励起配置と、量子ビットの格納に使用される間接励起配置との間で切り換えることが可能になる。電場が励起子寿命を調整すると同時に、それは励起子微細構造スプリッティング及び固有状態方向をも調整する。
【0079】
これは、量子演算が、格納された量子ビット上で行なわれることを可能にする。
【0080】
上記の複数の実施形態は、多くの量子ビットを同時に扱うために複数の量子メモリを構築することができるという意味で、拡張が可能である。特定の量子メモリ内に格納される量子ビットに、特定の量子演算を行うことができるように、複数の量子メモリを個別に制御することができる。異なる量子ビットも同じ演算を行うことができる。特定の量子ビットをも光子へ転送し、離れた量子メモリ内に格納されるために、または離れた量子メモリからの別の光子と相互作用するために、さらに特定の量子ビットを送ることもできる。
【0081】
上記の複数の実施形態に従う複数のコンポーネントは既存の半導体技術と互換性がある。量子ビット上で行なわれた量子演算は、電気的に制御され、外部機器(例えば磁石または調整可能なレーザー)を必要としない。したがって、上記の複数の実施形態は、大規模化及び大量生産が可能である。
【0082】
いくつかの実施形態は説明されているが、これらの実施形態はほんの一例として示されており、発明の範囲を制限するようには意図されない。実際は、本明細書で説明された新しい方法及びシステムは、様々な他の形式で具体化されてもよい。さらに、本明細書で説明された方法及びシステムの形式での様々な省略、置換及び変更は、発明の精神から外れずになされてもよい。添付のクレーム及びそれらの均等物は、発明の範囲及び精神の中にあるように、変更のそのような形式を保護するように意図される。
【技術分野】
【0001】
ここに説明されるような実施形態は、量子メモリ及び量子情報処理の分野に関連する。
この出願は、2011年10月28日にファイルされた、英国特許出願第1118764.8号からの優先権の利益に基づいていて、かつその利益を要求し、出願の全内容は参照によってここに組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
量子中継器及び量子ネットワークのような量子情報処理でのいくつかの応用は、可逆的な手法で安定した量子メモリ上にマップされることを、一光子の量子状態に要求する。
【0003】
半導体量子ドットは、単一光子の偏光を、高いフィデリティ(fidelity)を有する光子生成励起子(photogenerated exciton)のスピン状態へ書き換える光と物質との有効量子インターフェースとして機能する。励起子は、2つの直交光子偏光に対応する2つのスピン固有状態を有し、これらのスピン固有状態は、いわゆる微細構造スプリッティング(fine-structure splitting)によってエネルギー上で分離されている。2つのスピン固有状態のうちの1つにおいて、あるいはこれらの状態の任意の重ね合せにおいて、励起子を初期化することができる。したがって、励起子を量子ビット(qubit)と見なすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】図1は、本発明の実施形態に従うメモリコンポーネントの概略図である。
【図2】図2は、量子ドット分子の概略のバンドダイアグラム(band diagram)である。
【図3】図3は、メモリコンポーネントの動作中での量子ドット分子の概略のバンドダイアグラムである。
【図4】図4の(a)は、光キャビティ内に位置する本発明の実施形態に従うメモリコンポーネントの概略図である。図4の(b)は、図4の(a)のコンポーネントの平面図を示す。図4の(c)は、図4の(a)のコンポーネントの変形を示す。
【図5】図5はブロッホ球(Bloch sphere)である。
【図6A】図6Aは、HV軸のまわりで歳差運動をする量子状態を示すブロッホ球である。
【図6B】図6Bは、DA軸のまわりで歳差運動をする量子状態を示すブロッホ球である。
【図7】図7の(a)は、図7の(b)に概略的に示されるバンドダイアグラムを有する量子ドット分子に印加された電場に対する、エネルギー及び微細構造スプリッティングのプロットである。図7の(c)は、図7の(d)に示されるバンドダイアグラムを持った量子ドット分子に印加された電場に対する、エネルギー及び微細構造スプリッティングのプロットである。
【図8】図8の(a)は、第1量子ドット分子のための電場に対する、実験的に測定された微細構造スプリッティング及び固有状態方向(eigenstate orientation)のプロットである。図8の(b)は、第2量子ドット分子のための電場に対する、実験的に測定された微細構造スプリッティング及び固有状態方向のプロットである。
【図9】図9の(a)は、印加された電場に対する最低エネルギー励起子配置に関するエネルギースペクトルのプロットである。図9の(b)は、印加された電場に対する微細構造スプリッティングのプロットである。図9の(c)は、印加された電場に対する励起子の複数の固有状態の方向のプロットである。図9の(d)は、時間の経過による励起強度のプロットである。図9の(e)は、時間の経過による印加される電場のプロットである。図9の(f)は、量子ドット分子において当初に初期化された状態の再生成を示すために、時間の経過による対応する放射強度のプロットである。
【図10】図10の(a)は、印加された電場に対する最低エネルギー励起子配置に関するエネルギースペクトルのプロットである。図10の(b)は、印加された電場に対する微細構造スプリッティングのプロットである。図10の(c)は、印加された電場に対する励起子の複数の固有状態の向き(orientation)のプロットである。図10の(d)は、時間の経過による励起強度のプロットである。図10の(e)は、時間の経過による印加された電場のプロットである。図10の(f)は、量子ドット分子において当初に初期化された状態からHV軸の周りのπの正味の回転を有する状態の再生成を示すために、時間の経過による対応する放射強度のプロットである。
【図11】図11の(a)は、印加された電場に対する最低エネルギー励起子配置に関するエネルギースペクトルのプロットである。図11の(b)は、印加された電場に対する微細構造スプリッティングのプロットである。図11の(c)は、印加された電場に対する励起子の複数の固有状態の向きのプロットである。図11の(d)は、時間の経過による励起強度のプロットである。図11の(e)は、時間の経過による印加された電場のプロットである。図11の(f)は、量子ドット分子において当初に初期化された状態からDA軸の周りのπの正味の回転を有する状態の再生成を示すために、時間の経過による対応する放射強度のプロットである。
【図12】図12の(a)は、印加された電場に対する最低エネルギー励起子配置に関するエネルギースペクトルのプロットである。図12の(b)は、印加された電場に対する微細構造スプリッティングのプロットである。図12の(c)は、印加された電場に対する励起子の複数の固有状態の向きのプロットである。図12の(d)は、時間の経過による励起強度のプロットである。図12の(e)は、時間の経過による印加された電場のプロットである。図12の(f)は、スピンエコー技術を用いてリフェーズ(rephase)した後に、状態の再生成を示すために、時間の経過による対応する放射強度のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
実施形態において、量子ビット状態を記憶し操作するように構成されたメモリのコンポーネントは提供され、前記コンポーネントは、量子ドット分子と、励起子と、第1電気接点と、第2電気接点と、電源と、電源コントローラーと、を具備し、
前記分子は、第1レイヤに提供される第1量子ドットと、第2レイヤに提供される第2量子ドットと、を具備し、前記第1レイヤ及び前記第2レイヤはバリヤーレイヤによって分離されていて、前記第2レイヤは前記第1レイヤの上に配置され、
前記励起子は、前記量子ドット分子での電子及び正孔の束縛状態を具備し、前記励起子のスピン状態は前記量子ビットを形成し、
電場が前記量子ドット分子を横切って提供されるために、前記第1電気接点は前記第1量子ドットの下で提供され、第2電気接点は前記第2量子ドットの上に提供され、
前記電源は、前記量子ドット分子を横切って電場を印加するように構成された複数の電気接点に接続され、
前記電源コントローラーは、量子ドット分子を横切る電場を調整するように構成され、その結果、量子ドット分子における励起子は、励起子の電子及び正孔が同じ量子ドットにある直接配置と、電子及び正孔が量子ドット分子の異なった量子ドットに位置する間接配置と、の間で切り換えられ、
前記電源コントローラーは、情報取得回路とタイミング回路を具備し、前記情報取得回路は、前記励起子の微細構造スプリッティングと印加された電場との間の関係に関する情報を取得するように構成され、
前記タイミング回路は、微細構造スプリッティングから導かれる所定回数で間接配置から直接配置への励起子の切り換えを許可するように構成される。
【0006】
電圧コントローラーは、取得回路を介して、励起子の微細構造スプリッティングが印加された電場にどのように関係しているかを知っている。微細構造スプリッティングはここで、光に結合する2つの励起子スピン状態間のエネルギー分離として定義される。一実施形態において、取得回路は、微細構造スプリッティングを印加された電場に関連づけるデータを含んでいるメモリに接続される。さらなる実施形態では、取得回路は、この情報を無線で検索してもよい。
【0007】
取得回路によって取得したデータは、演算に先立って量子ドット分子で行なわれた測定からのデータでもよい。
【0008】
ある実施形態において、前記電源コントローラーは以下のように構成される。
量子ビットの初期化に適した電場は、励起子が生成される際に印加され、この電場では最低エネルギー励起子状態が短い寿命を有する直接励起子配置に対応し、電子及び正孔の両方は同じ量子ドットに閉じ込められる。
量子ビット格納に適した電場は、励起子が初期化された後直ちに印加され、この電場では最低エネルギー励起子状態は、長い寿命を有する間接励起子配置に対応し、電子及び正孔は、異なる量子ドットに閉じ込められ、電場の切り換えの間に励起子配置は直接から間接へ変化する。
励起子のスピン状態に格納される量子情報が検索されることになっている場合には、量子ビット読み出しに適した電場が印加され、この電場では、最低エネルギー励起子状態は、短い寿命を有する直接励起子配置に対応し、電子と正孔の両方は同じ量子ドットに閉じ込められ、電場の切り換えの間に励起子配置は間接から直接へ変化する。
【0009】
状態が直接あるいは間接の配置のいずれかで量子ドット分子に記憶される時、状態は時間にわたって発展するだろう。時間の経過による状態の発展は予測可能である。ある実施形態において、励起子が生成される状態は、2つの固有状態の重ね合せである。2つの固有状態を、極の間に走る軸を持ったいわゆるブロッホ球上の2つの対立する極として視覚化することができる。時間の経過によって、状態は、2つの固有状態を接続する軸のまわりのブロッホ球上で歳差運動をするだろう。この歳差運動の速度は、微細構造スプリッティングによって制御される。したがって、一旦特定の電圧に関する微細構造スプリッティングが既知であれば、状態の発展は既知である。これは、読出しである状態に対する制御を可能にする。
【0010】
ある実施形態において、励起子は光学的な励起によって生成される。ある与えられたスピン状態を有する励起子は、既知の偏光を持った量子ドット分子を光学的に励起することによって、生成されてもよい。別の実施形態において、コンポーネントは、さらに光源を具備し、この光源は、前記量子ドット分子に既知のスピン状態の励起子を光学的に励起するように構成される。
【0011】
別の実施形態において、光源は、量子ビット初期化に適した電場で、最低エネルギー励起子状態より大きな整数のフォノンエネルギーである光子エネルギーを有しているように構成される。これは、励起子が最低エネルギー状態へ緩和するとともに、スピンフリップの可能性を少なくする。
【0012】
別の実施形態において、光源は、量子ビット初期化に適した電場での最低エネルギー励起子状態に等しい光子エネルギーを有するように構成される。これは、励起子が最低エネルギー状態へ緩和するとともに、スピンフリップの可能性を最小限にする。
【0013】
ある実施形態において、前記量子ドット分子は、励起子を初期化することができる効率を改善するために、光キャビティ内に位置する。これは、周波数と空間的形状の両方の点からみて、キャビティの光学モードを、光源からの光パルスに一致させることによって行われる。さらに、量子ドット分子はキャビティのアンチノードに位置する。
【0014】
ある実施形態において、状態は、量子ドット分子を横切る電場を変え励起子を格納配置から読み出し配置へ移動させることによって、読み出される。読み出し配置では、その直接配置における励起子は光子を再結合し放射するだろう。光子の偏光は励起子スピン状態の直接の転写である。別の実施形態において、コンポーネントは、偏光検出器を有する光検出器をさらに具備し、前記光検出器は、前記コンポーネントから出力された複数の光子の放射及び偏光を測定するように構成される。
【0015】
一実施形態において、電圧コントローラーは、状態を読み出すために、状態を初期化するためと同様の場を印加するように構成される。別の実施形態においては、これらの場は異なる。
【0016】
微細構造スプリッティングが低ければ低いほど、重ね合わせ状態の歳差運動がゆっくりになる。状態がゆっくり歳差運動をする場合は、任意の特定の時に状態を判定するほうが簡単である。ある実施形態において、電圧コントローラーは、初期化、格納、及び読み出しの処理のために、10μeVより下の微細構造スプリッティングを維持するように構成される。
【0017】
別の実施形態において、第1レイヤバリヤーレイヤ及び第2レイヤは半導体成長技術によって作り上げられ、その結果、第2量子ドットは第1量子ドットの後に形成され、第1接点はn型接点である。別の実施形態において、第2接点はp型接点である。別の実施形態において、第2接点はショットキー接点である。
【0018】
デバイスに基づいてn型接点を形成することによって、ボトムの量子ドットからトップの量子ドットへ指向する(ここで負電場と定義する)電場を印加し、それによって微細構造スプリッティングを減少させることが可能になる。
【0019】
ある実施形態において、メモリはメモリに読み込まれるのと同じ量子ビット状態を出力するように構成される。そのような実施形態では、取得回路は、量子ビット格納中に印加される電場に関する励起子微細構造スプリッティングを得るように構成される。タイミング回路は、一旦量子ビット状態が固有状態軸のまわりの整数の回転を完了したならば、読み出し配置に前記励起子を移動させるように構成される。それは、電圧コントローラーが読み出しであるために初期化されるような量子ビット状態を許可するほどのものである。
【0020】
別の実施形態において、取得回路は、印加された電場に関して、微細構造スプリッティング及び固有状態方向を取得するように構成され、その元々の状態から予め定義された回転に加えて、前記電圧コントローラーが量子演算を行うように、一旦量子ビット状態が固有状態軸の周りの整数回の回転を完了したならば、タイミング回路は、前記励起子を、読み出し配置へ動かす。
【0021】
実施形態において、適切な電場の印加により量子ビットの記憶装置中に複数の固有状態を変更することはさらに可能である。量子ビットがブロッホの球体上の2つの異なる軸のまわりで回転する場合、量子の演算は、そのために行なうことができる。
【0022】
ある実施形態において、電圧コントローラーは、量子ビット格納中に、2つの直交する固有状態軸の間で行き来するのに適した調整された電場を印加するように構成され、それによって「スピンエコー」の作用が、格納された状態をリフェーズすることを可能にする。
【0023】
ある実施形態においては、励起子エネルギーは2つの量子ドットにおいて異なる。
【0024】
別の実施形態において、量子ビット状態を格納する方法は提供され、前記量子ビット状態は励起子スピン状態として量子ドット分子に格納され、前記励起子は電子及び正孔の束縛状態を具備し、前記分子は、第1レイヤに提供される第1量子ドットと、第2レイヤに提供される第2量子ドットとを具備し、前記第1レイヤ及び前記第2レイヤはバリヤーレイヤによって分離され、前記第2レイヤは前記第1レイヤの上に配置され、
前記方法は、以下を具備する。
前記量子ドット分子にある励起子が直接配置から間接配置へ移動することを可能にするのに適した電場を印加し、(ここで、直接配置では電子及び正孔は複数の量子ドットの内の1つに位置し、間接配置では前記励起子の電子は1つの量子ドットに位置し、前記励起子の正孔は他の量子ドットに位置する)
前記量子ドット分子における励起子の微細構造スプリッティングと、印加された電場との関係に関する情報を取得し、
所定の時に、間接配置から直接配置へ励起子を移動させるように構成される別の電場を印加すること(ここで、所定の時は、微細構造スプリッティングから導き出される)。
【0025】
ある実施形態において、方法は次のものを具備する。
励起子が直接配置での量子ドット分子で初期化された場合に前記量子ドット分子にわたる第1電場と(ここで初期化の間、励起子は量子ドットで生成される)、
前記量子ドット分子にわたる第2電場と(この場では最低エネルギー励起子状態は間接励起子配置に対応する)、
前記励起子の前記スピン状態に格納された量子情報の読み出しを可能にするように構成される、前記量子ドット分子にわたる第3電場と(前記第3電場では、最低エネルギー励起子状態は直接励起子配置に対応する)。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に従うメモリコンポーネントの概略図である。
【0027】
ここに用いられるように、以下の用語「上」及び「下」は複数のレイヤの成長順に関して定義され、初期の時点での成長したレイヤは、後の時点での成長したレイヤより下であると定義される。
【0028】
コンポーネントは、バリヤーレイヤによって分離された2つの量子ドットを具備する量子ドット分子を有する。
【0029】
量子ドットレイヤ1は、重なって、かつドープしていない領域11に接して提供される。この特定の例においては、量子ドットレイヤ1は、GaAs(ガリウム砒素)またはAlGaAsのレイヤの上に、InxGa1xAs(x=0.2−1.0)のいくつかの単レイヤを成長することによって作り上げられる。量子ドットレイヤ1と、下にある複数のレイヤとの間での格子定数における差により、量子ドットレイヤは複数の島を形成し、これらの島は量子ドット3である。AlxGa1xAs(x=0.0−0.9)のドープしていないバリヤーレイヤ9は、前記量子ドットレイヤ1に接して被せる。バリヤの厚さは1−30nmである。
【0030】
第2量子ドットレイヤ5は、前記バリヤーレイヤ9に接して被せる。第2量子ドットレイヤ5も、InxGa1xAs(x=0.2−1.0)のいくつかの単レイヤを成長することによって作り上げられる。量子ドットレイヤ5と、バリヤーレイヤ9との間の格子定数での差により、量子ドットレイヤ5は島を形成し、これらの島は量子ドット7である。量子ドットレイヤ5は、第1量子ドットレイヤ1の後に形成され、比較的薄いバリヤーレイヤ9、第2量子ドットレイヤ内の量子ドット7は、補助の核形成を変形させることにより第1量子ドットレイヤにある複数の量子ドット3と協調する。2つのレイヤにある複数の量子ドットはそれによって整列して複数の量子ドット分子を形成する。
【0031】
第1量子ドットレイヤは、AlxGa1xAs 11(組成x=0.0−0.9)のドープしていないレイヤに位置する。ドープしていないレイヤは、10nm以上の厚さを有する。n型のドープしたレイヤ10は、AlxGa1xAsのドープしていないレイヤ11の下に位置する。
【0032】
AlxGa1xAs 11のドープしていないレイヤ13(組成x=0.0−0.9、10nmより大きな厚さ)は、第2量子ドットレイヤに被さって形成される。p型のドープしたレイヤ14は、ドープしていないレイヤ13の上に位置する。
【0033】
電気接点17及び19は、n型レイヤ10及びp型レイヤ14にそれぞれ接続され、その結果、電源26を使用して、垂直の電場が量子ドット分子にわたって印加されることが可能になる。
【0034】
電圧コントローラー21は、垂直の電場を調整するために用いられる。電圧コントローラーは、取得回路23及びタイミング回路25を具備する。
【0035】
光子の偏光量子状態は、量子ドット分子3、7に閉じ込められた励起子のスピン状態にマップされ、その結果、量子ビットは初期化される。複数の光子は、例えばレーザである励起源51、単一量子ドット、または別の量子ドット分子が起源である。オペレーターが量子メモリへ書き写したい状態を生成するために、一つまたはいくつかの波長板53を使用して、量子演算を、複数の光子上で実行することができる。レンズ55は、メモリコンポーネント上に光を集中させるために用いられる。
【0036】
コントローラー21は、励起子微細構造を調整し、それによって格納中に励起子量子ビットの発展を制御する。コントローラー21はさらに、励起子寿命を調整し、それによって、タイミング回路25を用いて量子ビットの格納時間を制御する。電圧モジュレータは、量子ドット分子を横切る電場を変更するために用いられる。タイミング回路25は、電圧モジュレータを規制するように使用され、その結果、量子ドット分子にわたる電場は、量子ビットの発展と、オペレーターが行おうと意図する量子演算とに依存した時間内に、複数の正確な瞬間で切り換えられる。タイマーは励起光源に同期化され、続く時間t=0は、励起子量子ビットが初期化される時として定義される。タイミング回路は、取得回路23によって取得されたデータを参照することにより電圧を切り替える正確な時間を計算する。
【0037】
量子メモリが読み出される際に、励起子スピン状態は光子偏光状態に逆にマップされる。量子ドット分子から放射された複数の光子は、レンズ61によって集められ、その後それらは、離れた量子メモリと通信するために用いられるか、または直接測定される。複数の光子が測定される場合には経路71に沿って、または複数の光子が離れた量子メモリと通信するために用いられる場合には経路73に沿って、ビームステアリングデバイスは複数の光子を導くために使用される。経路73は離れた量子メモリに至る。複数の光子が測定される場合、単一光子検出器67(例えばアバランシェフォトダイオードあるいは超伝導単一光子検出器)の前にある波長板63及び線形偏光子65は、3つの基底(|D>及び|A>、|L>及び|R>、または、|H>及び|V>)のうちの1つにおいて射影の測定を行なうために用いられる。検出器67はタイミング回路25と同期化される。オペレーターは、このように励起子量子ビットの正確な格納時間を知っていて、この間に量子ビットの発展を推定することができる。
【0038】
図2の(a)は、量子ドット分子を横切る(Fで示される)電場が0であるとき、図1を参照して説明されたタイプの、量子ドット分子の概略のバンドダイアグラムである。量子ドット分子は、障壁102によって分離された、第1量子ドット101及び第2量子ドット103を具備する。量子ドット101は、伝導帯において最低の閉じ込められた電子エネルギーレベル104を持っていて、価電子帯において最高の閉じ込められた正孔レベル105を持っている。量子ドット103は、伝導帯において最低の閉じ込められた電子エネルギーレベル106を持っていて、価電子帯において最高の閉じ込められた正孔レベル107を持っている。2つの量子ドットは、異なるサイズであり、したがって、異なる閉じ込めエネルギーを有する。特定の電場FACでは、2つの量子ドットの、電子または正孔の基底状態は、共振の状態になる。また、2つの量子ドットはトンネル結合する。図2の(b)は、量子ドット分子を横切る電場がFACで、2つの正孔状態が共振であるとき、図1を参照して説明されたタイプの、量子ドット分子の概略のバンドダイアグラムである。電子または正孔の状態が共振の状態になるかどうかは、量子ドットの相対的なサイズ、及び電場の方向に左右される。以下の説明において、正孔トンネル共振があるデバイスは、発明を例証するために用いられる。しかしながら、電子トンネルデバイスも用いることができる。
【0039】
図3は、デバイスの演算中に量子ドット分子のバンドダイアグラムを概略的に示す。光子の偏光は、量子ドット分子内に閉じ込められた励起子のスピン状態へ書き換えられる。励起子は電子201と正孔202とを具備する。電子占有エネルギー準位104あるいは106、または、2つの間のトンネル結合された状態。正孔占有エネルギー準位105あるいは107、または2つの間のトンネル結合された状態。励起子エネルギーは、電子及び正孔のエネルギー間のエネルギー差として定義される。明白に、励起子には4つの異なるエネルギー配置(104の電子及び105の正孔、104の電子及び107の正孔、106の電子及び105の正孔、106の電子及び107の正孔)がありえる。デバイスは、任意の与えられた電場でも、(最も安定したものである)最低エネルギー励起子配置を用いて動作する。
【0040】
図3の(a)は、初期化段階に量子ドット分子のバンドダイアグラムを示す。最低エネルギーを持った励起子が、同じ量子ドットに閉じ込められる電子と正孔の両方を有しているように、電場は0<|F|<|FAC|であり、これは直接励起子状態として定義される。直接励起子配置は、約1ナノセカンド以下の短い寿命を持っており、したがって容易に光子を吸収する。
【0041】
図3の(b)は、格納段階への遷移中に量子ドット分子のバンドダイアグラムを示す。電場が|F|=|FAC|に変えられ、複数の正孔エネルギー準位が共振の状態になり、正孔が通り抜けることを許される。この電場では、正孔は通常の位置から離され、両方の量子ドットを同時に占める。
【0042】
図3の(c)は、格納段階中に量子ドット分子のバンドダイアグラムを示す。電場は|F|>|FAC|であり、その結果、最低エネルギー励起子状態について、電子と正孔が個別の量子ドット内に閉じ込められ、これは間接励起子配置として定義される。この励起子配置は、直接励起子配置より数桁長い寿命を持っている。また、量子ビットを数100ナノセカンドで格納することができる。
【0043】
図3の(d)は、読み出し段階中に量子ドット分子のバンドダイアグラムを示す。電場は0<|F|<|FAC|であり、この結果、励起子は寿命が短いその直接配置に戻ってくる。励起子は続いて光子を再結合し放射する。
【0044】
図4の(a)は、実施形態に従う光キャビティにおける量子メモリコンポーネントを示す。任意の不必要な反復を避けるため、同様な参照数字は同様の特徴を示すために使用される。この実施形態では、キャビティは光結晶キャビティである。
【0045】
レイヤ10は、AlxGa1xAs(組成x=0.9−1.0)の犠牲レイヤ301の上に成長する。光結晶は、レイヤ14の上面から全ての中間レイヤを介して犠牲レイヤ301へ、周期的なパターンの複数の正孔303をエッチングすることによって形成される。その後、レイヤ301の一部は選択的にエッチングされ除かれ、その結果、光結晶は、薄いスラブの中に漂っている。1つあるいはいくつかの正孔は故意にエッチングされない、そのため、光共振器305を形成する光結晶の周期性は壊れている。
【0046】
キャビティは初期化及び読み出し処理の効率を向上させるように構成される。これは、キャビティのサイズと同様に複数の正孔のサイズ及び周期性を選ぶことにより行われ、その結果、キャビティの光学モードが、周波数及び空間的形状の両方の点で、励起源51からの光パルスに一致する。さらに、量子ドット分子がアンチノードに置かれるように、キャビティ305の位置は選ばれる。この配置では、キャビティは、初期化及び読み出し処理の効率を向上させるだろう。
【0047】
図4の(b)は、(a)に示される光結晶構造の上面図を示す。
【0048】
図4の(c)は、さらなる実施形態における光結晶構造の上面図を示す。そこでは導波管307は、正孔の列を故意にエッチングしないでおくことにより、光結晶内で生成される。導波管は、光キャビティ305へ及び光キャビティ305から光を導く。導波管を、複数の離れた量子ドット分子、または複数の離れた励起源あるいは複数の検出器に接続することができる。
【0049】
上記の実施の形態は、それらが重ね合せ状態の時間発展に対する制御を可能にするように、機能的な量子メモリを提供する。重ね合せ状態を、図5及び図6のいわゆるブロッホ球の表面上の点として記述することができる。球体上の2つの極は、時間について発展しない状態である複数の固有状態を定義する。上記の複数の固有状態を除いてブロッホ球上の任意の点によって表現される重ね合せ状態は、2つの固有状態によって定義された軸のまわりのブロッホの球の表面で歳差運動をするだろう。この歳差運動の周期は、微細構造スプリッティングに反比例する。
【0050】
上記実施形態では、動作バイアス範囲での微細構造スプリッティングを最小にするデバイス構造が提供され、また微細構造スプリッティングと、ブロッホ球上での固有状態方向との双方を調整する方法が提供される。
【0051】
図5は、時間について発展しない状態である固有状態|H>と|V>とを有するブロッホ球である。自己組織化した半導体量子ドットにとっては、複数の固有状態は、[110]及び[1−10]の結晶軸に沿って偏光された光(ここで注釈付きの水平及び垂直に偏光した光)に、一般的に結合する。図5は、北極及び南極でそれぞれ水平方向偏光された状態|H>と垂直方向偏光された状態|V>とを有するブロッホ球を示す。任意の量子ビット状態を、複数の固有状態の重ね合せとして示すことができ、図5で定義されるように角度θ及びφによって表現することができる。図はさらに4つの特定の重ね合せ状態(全て|H>及び|V>状態に直交する、対角|D>、反対角|A>、左回り|L>、右回り|R>)を示す。複数の固有状態とは対照的に、重ね合せ状態は時間発展するだろう。それは、微細構造スプリッティングに反比例する周期(T)で、2つの固有状態によって定義された軸のまわりのブロッホ球の表面で歳差運動をする。:
T=h/|S|
ここで、hがプランク定数であり、|S|は微細構造スプリッティングである。
【0052】
図6Aは第2のブロッホ球を示し、|H>及び|V>は固有状態である。球体はさらに、|H>から|V>への軸(HV軸で示される)の周りで、重ね合せ状態の歳差運動を示す。重ね合せ状態の歳差運動は、破線小円によって示される。
【0053】
図6Bは第2のブロッホ球を示し、|D>及び|A>は固有状態である。|D>から|A>への軸の周りでの重ね合せ状態の歳差運動は、再び破線小円によって示される。
【0054】
励起子が読み出されるために直接配置に戻される場合は、状態はまだ歳差運動をしてもよい。これは測定にある不確実性を導入するだろう。この不確実性は、直接の状態(遅い歳差運動)において小さな微細構造スプリッティングを有することによって、かつ直接の状態で励起子寿命を最小化する(高速な再結合)ことによって、最小化される。一般に、寿命は約1ナノセカンドの桁である。しかし、それは、高いパーセルファクターを持った光キャビティ内に量子ドット分子を置くことによって、さらに減少することができる。
【0055】
量子ビット状態は、格納中に時間にわたって発展するだろう。量子ビットがブロッホ球上での固有状態軸のまわりで整数の回転だけ回転した際に読み出しが行なわれれば、オペレーターは初期の量子ビット状態を再生成することができる。別の実施形態においては、固有状態軸の向きを制御し、かつ量子ビットが前記軸のまわりの整数の回転でなく回転することを可能にすることによって、格納中に量子演算を行うことができる。
【0056】
ある実施形態においては、生成された状態Tに対する制御を支援することは、複数の量子ドット分子を横切る電場を制御できる時間スケールに比較して十分に長い。例えば、これは、微細構造スプリッティングが量子ビット初期化、格納、及び読み出しの処理中いつでも10μeV未満である場合に、達成される可能性がある。
【0057】
複数の励起子固有状態は、直接の励起子配置と比較して、間接の励起子配置での減少した微細構造スプリッティングを持っている。図7の(a)及び(c)はさらに、直接励起子配置における微細構造スプリッティングは、増加する電場と共に増加し、電場の向きはトップからボトムの量子ドットへ向いているように定義される。図7の(a)は、負の電場で動作する量子ドット分子に関する電場の関数として、励起子エネルギースペクトル及び微細構造スプリッティング|S|を示し、2つの最低エネルギー励起子配置だけが明瞭さのために示されている。図での励起子スペクトルのより高いエネルギー分岐は点線によって表現され、一方、より低いエネルギー分岐は実線によって表現される。スペクトルの2つのエネルギー分岐を分離するいわゆるアンチクロッシングは、2つの量子ドットが結合する共振に印を付け、それは電場FACで起こり、直接から間接の励起子配置への遷移に印を付ける。図7の(b)は、共振で(a)において示された量子ドット分子のバンド構造を概略的に示す。図7の(c)は、正の電場で動作する量子ドット分子に関する電場の関数として、励起子エネルギースペクトル及び微細構造スプリッティングを示す。図7の(d)は、共振で(c)において示された量子ドット分子のバンド構造を概略的に示す。
【0058】
図7の(a)及び(c)は、負電場が印加される場合、|S|は最小化される。複数の量子ドットより下のn型の接点及び上のp型の接点を持ったp−i−nダイオード構造において複数の量子ドットを配置することにより、負電場を印加することができる。これとは別に、複数の量子ドットより下のn−接点を持ったn−i−ショットキーダイオードでの複数の量子ドットを配置することによって、負電場を印加することができる。
【0059】
ある実施形態において、複数のドットは同一ではない。同一の複数のドットは、F=0でそれらの共振(アンチクロッシング)を持っている。F=0は、電子と正孔が接点から注入される点である。ボトム接点がnである場合、荷電粒子を注入せずに、場F<0を印加することが可能である。ボトム接点がpである場合、荷電粒子を注入せずに、場F>0を印加することが可能である。どちらの配置が選ばれても、キャリアー注入が始まる点から十分に離れていることが望ましい。
【0060】
複数の量子ドットが同じ成長時間で成長する場合、トップのドットは一般に、より大きい。しかしながら、常にボトムのドットがより大きいように、量子ドット分子が成長する場合、ドットサイズを制御してもよい。これは、量子ドット分子の配置上の選択を可能にする。例えば、ボトム接点nまたはトップ接点nをドープする選択と共にボトムドットがより大きいまたはトップドットがより大きい、合計4つの選択がある。上記の実施形態では、ボトムドットはボトム接点nと共により大きなドットである。しかしながら、上述の他の配置はすべて可能である。
【0061】
量子ドットの組成及び歪みに加えて、量子ドットのサイズは、どの荷電粒子が通り抜けるか(図7の(b)では正孔が通り抜け、図7の(d)では電子が通り抜ける)を決定する。
【0062】
直接の励起子は、最も大きな量子ドットで形成される(組成及び歪みが2つの量子ドットに関して同じであると仮定して)。最も小さなドットにおいて励起子を形成することは可能であるが、それはより高エネルギーを有し、自然に低エネルギー状態へ緩和することを目指すだろう。この理由で、以下の実施形態では最低エネルギー状態に関連する。
【0063】
図8の(a)及び(b)は実験データを表わし、これらの図は、複数の固有状態を、負及び正の電場でそれぞれ動作する2つの異なる量子ドット分子に関する電場の関数と特徴づける。上部パネルは|S|を示し、そして下部パネルは、θに関してブロッホ球での固有状態軸の向きを示す(これらの測定ではφ=0)。これらの図は、いくつかの量子ドット分子については、複数の固有状態が直接配置から間接配置への遷移で回転することを示す。複数の固有状態の回転は、直接及び間接の励起子配置における異なるスピン状態間での結合の結果である。
【0064】
図9の(a)、(b)及び(c)は、電場に対する量子ドット分子構造内に閉じ込められた励起子に関してそれぞれエネルギースペクトル、|S|、及びθを示す。励起子スペクトルの最低エネルギー分岐だけが示され、また高エネルギー分岐は明瞭さのために図から省略されている。アンチクロッシングが起こる電場は、図でFACと印づけられている。FACより下の場については、励起子はその間接配置である。また、FACより上の場については、励起子はその直接配置である。(その直接配置に励起子を入れる)電場F1は、初期化及び読み出し処理に用いられる。(その間接配置に励起子を入れる)電場F2は、格納処理に用いられる。これらの2つの電場では、微細構造スプリッティング、|S|1と|S|2との間での任意の場は、10μeV未満である。
【0065】
図9の(d)、(e)及び(f)は、量子演算が行われることなしで量子ビットを格納するために本発明の実施形態による方法を実証する。図9の(d)は、時間の経過による量子ドット分子に印加された励起強度を示し、図9の(e)は、時間の経過による量子ドット分子を横切って印加される電場を示し、図9の(f)は、時間の経過による量子ドット分子からの放射強度を示す。時間t=0で、量子ドット分子を横切って印加される電場はF1である。また、光パルスはその直接配置内の励起子を生成する。光パルスは、レーザあるいは量子光源(例えば量子ドットまたは量子ドット分子)から始まり、励起子エネルギーE1と等しいエネルギーを有する、あるいは励起子エネルギーたす整数のフォノンエネルギーに等しいエネルギーを有する。励起光パルス直後に、電場はF2に変更され、励起子はその間接配置内に格納される。格納時間中に、量子ビットは歳差運動をし、量子ビットは、時間間隔Δt=h/|S|2(図内の印のある2πHV)でHV軸のまわりの十分な回転で回転する。図において、h/|S|2=5ナノセカンドであり、したがってオリジナル状態は、5ナノセカンドごとに再生成される(オリジナル状態が再生成される時は図に印が付されている)。格納時間(τStore)は、次のように設定される。
【数1】
【0066】
ここでnは整数である。従って、量子ビットは、整数の回転で回転して、格納時間の終わりにオリジナル状態に再生成される。
【0067】
t=τStoreでは、電場はF1に戻され、励起子はその直接配置に返される。それは、オリジナル状態と同じ量子状態を有する光子を再生成するために、引き続き再結合される。
【0068】
図10の(a)、(b)及び(c)はそれぞれ、電場に対する量子ドット分子構造内に閉じ込められた励起子に関して、エネルギースペクトル、|S|及びθを示す。図10の(d)、(e)及び(f)は、行われた量子演算で量子ビットを格納するために本発明の実施形態による方法を実証する。図10の(d)は、時間の経過による量子ドット分子に印加された励起強度を示す、図10の(e)は、量子ドット分子を横切って印加される電場を示し、図10の(f)は、時間の経過による量子ドット分子からの放射強度を示す。この実施形態において、量子ビットが“|H>から|V>への軸”の周りで回転される量子演算は格納の間に行われる。図9でも同様に、t=0の量子ビット状態が以下ごとに再生成される。
【数2】
【0069】
電場F2で複数の固有状態によって定義された軸(ここでは|H>から|V>への軸)のまわりの(ラジアンで測られた)回転φは、以下の時間に量子ビットを格納することによって行われる。
【数3】
【0070】
図10では、τStore=4.5*h/|S|2がHV軸のまわりのπの正味の回転を与える。明らかに、HV軸のまわりの任意の角度だけ量子ビットを回転することができる。
【0071】
図11の(a)、(b)及び(c)はそれぞれ、電場に対する量子ドット分子構造内に閉じ込められた励起子に関して、エネルギースペクトル、|S|及びθを示す。図11の(d)、(e)及び(f)は、本発明の実施形態による方法を実証する。図11の(d)は、時間の経過による量子ドット分子に印加された励起強度を示し、図11の(e)は、時間の経過による量子ドット分子を横切って印加される電場を示し、図11の(f)は、時間の経過による量子ドット分子からの放射強度を示す。この実施形態において、量子ビットが“|D>から|A>への軸”の周りで回転される量子演算が、格納中で行われる。この演算を、複数の固有状態が直接配置から間接配置への遷移で回転する量子ドット分子を使用して、行うことができる。
【0072】
時間t=0で、量子ドット分子を横切って印加される電場はF3であり、光パルスはその直接配置内の励起子を作成する。光パルスは、レーザあるいは量子光源(例えば量子ドットまたは量子ドット分子)が起源であり、励起子エネルギーE3に等しい、または励起子エネルギー足す整数のフォノンエネルギーに等しいエネルギーを有する。励起光パルス直後に、電場はF5に変更され、励起子はその間接配置内に格納される。電場がF3からF5まで変更されるとともに、複数の固有状態が回転する。この実施形態では、θ=90°であり、これは固有状態軸がF3及びF5の両方で“|H>から|V>”であることを意味する。中間の電場F4では、固有状態軸は“|D>から|A>”である。しかしながら、スイッチングは時間発展に関して速く(100ピコセカンドより速い)、量子ビットの大幅な回転はスイッチングの間には起こらない。格納中に、量子ビットは“|H>から|V>”軸のまわりで歳差運動する。任意の時点では、そのインスタンスでの量子ビット状態を、下記の時間周期の間に電場をF4へ変化させることによって、(ラジアンで測定された)角度φで“|D>から|A>”の軸の周りで回転することができる。
【数4】
【0073】
図11では、DA軸のまわりのπの回転が行われ、図ではπDAと印が付けられている。明らかに、DA軸のまわりで任意の角度だけ量子ビットを回転することができる。さらに、複数の固有状態を回転することができるあらゆる軸のまわりで、量子ビットを回転することができる。
【0074】
図12の(a)、(b)及び(c)はそれぞれ、電場に対する量子ドット分子構造内に閉じ込められた励起子について、エネルギースペクトル、|S|及びθを示す。図12の(d)、(e)及び(f)は、本発明の実施形態による方法を実証する。図12の(d)は、時間の経過による量子ドット分子に印加された励起強度を示し、図12の(e)は、時間の経過による量子ドット分子を横切って印加される電場を示し、図12の(f)は、時間の経過による量子ドット分子からの放射強度を示す。この実施形態では、スピンエコーシーケンスは、格納中に量子ビットの位相をずらすことを減少するために、利用される。量子ビットは格納されているが、それは、固有状態軸(ここでZと名付ける)のまわりで歳差運動を行い、この間にランダムな位相ずれがさらに起こる。量子情報処理では、これはスピンエコー操作によって、改善することができる。位相ずれが起こる時間τの後、量子ビットは、Zに直交の軸(ここでXと名付ける)のまわりのπ回転を受ける。位相をずらす点では、π回転は、量子ビットがあたかもそれがπ回転後に後方へ時間発展しているかのように振る舞う効果がある。π回転の後の付加的な時間周期τでは、量子ビットは、再び焦点が当てられ、最小の位相ずれを有するオリジナル量子ビット状態を再生成する。いくつかのスピンエコー演算を、量子ビット格納中に、次から次へと行うことができる。
【0075】
スピンエコー演算は、外部磁界を用いて、一般に実行される。発明者らは、固有状態軸の電気的な制御された回転は、オペレーターが全ての電気的なスピンエコー演算を実行することを可能にする。図12での実施形態では、固有状態軸は量子ビット格納中にHVである。時間t=τでは、DA軸のまわりのπ回転は行なわれ、t=10ナノセカンドでスピンエコー(echo1)になる。演算は続いて繰り返され、t=20ナノセカンドで別のスピンエコー(echo2)になる。この時に、量子ビットが読み取られる。
【0076】
上記の複数の実施形態は、光子の偏光量子状態を符号化して励起子のスピン状態にする量子メモリコンポーネントを提供し、前記量子状態は格納され操作される。
【0077】
いくつかの実施形態において、励起子スピン状態を生成するために用いられる光子は既知でない偏光を有する。量子情報処理(QIP:quantum information processing)では、量子ビットの状態は一般に既知でない。上記の複数の実施形態では、ブロッホ球上で予め定義されている軸の周りに、予め定義されている角度で、既知でない量子ビット状態を回転することができる。これは、量子ビットに対する量子演算の構成要素となる。
【0078】
上記の複数の実施形態は、量子ビットを格納する量子メモリデバイスと、前記量子ビットを操作するためのコントローラーと、を具備するコンポーネントを提供する。量子メモリデバイスは、量子ドット分子と、前記量子ドット分子に中性励起子を生み出すように構成される励起部分と、を具備する。コントローラーは、量子ドット分子を横切って調整された電場を印加するように構成される複数の電気接点につながれた電源を具備する。電場を調整することによって、オペレーターは励起子寿命を調整することができる。電場を調整することによって、量子ビットの読み出し及び初期化に使用される直接励起配置と、量子ビットの格納に使用される間接励起配置との間で切り換えることが可能になる。電場が励起子寿命を調整すると同時に、それは励起子微細構造スプリッティング及び固有状態方向をも調整する。
【0079】
これは、量子演算が、格納された量子ビット上で行なわれることを可能にする。
【0080】
上記の複数の実施形態は、多くの量子ビットを同時に扱うために複数の量子メモリを構築することができるという意味で、拡張が可能である。特定の量子メモリ内に格納される量子ビットに、特定の量子演算を行うことができるように、複数の量子メモリを個別に制御することができる。異なる量子ビットも同じ演算を行うことができる。特定の量子ビットをも光子へ転送し、離れた量子メモリ内に格納されるために、または離れた量子メモリからの別の光子と相互作用するために、さらに特定の量子ビットを送ることもできる。
【0081】
上記の複数の実施形態に従う複数のコンポーネントは既存の半導体技術と互換性がある。量子ビット上で行なわれた量子演算は、電気的に制御され、外部機器(例えば磁石または調整可能なレーザー)を必要としない。したがって、上記の複数の実施形態は、大規模化及び大量生産が可能である。
【0082】
いくつかの実施形態は説明されているが、これらの実施形態はほんの一例として示されており、発明の範囲を制限するようには意図されない。実際は、本明細書で説明された新しい方法及びシステムは、様々な他の形式で具体化されてもよい。さらに、本明細書で説明された方法及びシステムの形式での様々な省略、置換及び変更は、発明の精神から外れずになされてもよい。添付のクレーム及びそれらの均等物は、発明の範囲及び精神の中にあるように、変更のそのような形式を保護するように意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ビット状態を格納し操作するメモリのコンポーネントであって、
量子ドット分子と、励起子と、第1電気接点と、第2電気接点と、電源と、電源コントローラーと、を具備し、
前記分子は、第1レイヤに提供される第1量子ドットと、第2レイヤに提供される第2量子ドットと、を具備し、前記第1レイヤ及び前記第2レイヤはバリヤーレイヤによって分離されていて、前記第2レイヤは前記第1レイヤの上に配置され、
前記励起子は、前記量子ドット分子での電子及び正孔の1つの束縛状態を具備し、前記励起子のスピン状態は前記量子ビットを形成し、
電場が前記量子ドット分子を横切って提供されるために、前記第1電気接点は前記第1量子ドットの下で提供され、前記第2電気接点は前記第2量子ドットの上に提供され、
前記電源は、前記量子ドット分子を横切って電場を印加する複数の前記電気接点に接続され、
前記電源コントローラーは、前記量子ドット分子における励起子が、前記励起子の前記電子及び正孔が同じ量子ドットにある直接配置と、前記電子及び正孔が前記量子ドット分子の異なった量子ドットに位置する間接配置と、の間で切り換えられるように、前記量子ドット分子を横切る前記電場を調整し、前記電源コントローラーは、情報取得回路とタイミング回路を具備し、前記情報取得回路は、前記励起子の微細構造スプリッティングと、前記印加された電場との間の関係に関する情報を取得し、前記タイミング回路は、前記微細構造スプリッティングから導かれる所定回数で間接配置から直接配置への励起子の切り換えを許可する、コンポーネント。
【請求項2】
前記第1量子ドット、前記バリヤーレイヤ及び前記第2量子ドットは、前記第2量子ドットは前記第1量子ドットの後に形成され、前記第1接点はn型接点であるように、半導体成長技術によって作り上げられている、請求項1のコンポーネント。
【請求項3】
前記第2接点はp型接点である請求項2のコンポーネント。
【請求項4】
前記第2接点はショットキー接点である請求項2のコンポーネント。
【請求項5】
前記取得回路は、前記励起子の前記微細構造スプリッティングを、印加された前記電場に関連づけるデータを含んでいるメモリに接続される、請求項1のコンポーネント。
【請求項6】
光源をさらに具備し、前記光源は、前記量子ドット分子に既知のスピン状態の励起子を光学的に励起する請求項1のコンポーネント。
【請求項7】
前記光源は、量子ビット初期化に適した前記電場で、最低エネルギー励起子状態より大きな、整数のフォノンエネルギーである光子エネルギーを有している請求項6のコンポーネント。
【請求項8】
前記光源は、量子ビット初期化に適した前記電場で、最低エネルギー励起子状態に等しい光子エネルギーを有している請求項6のコンポーネント。
【請求項9】
前記量子ドット分子は、光キャビティの光モードが、周波数及び空間形状の両方の点からみて、前記光源からの光パルスに一致し、かつ、前記量子ドット分子が前記キャビティのアンチノードに位置するように、前記キャビティに配置される請求項6のコンポーネント。
【請求項10】
偏光検出器を有する光検出器をさらに具備し、前記光検出器は、前記コンポーネントから出力された複数の光子の放射及び偏光を測定する請求項1のコンポーネント。
【請求項11】
励起子エネルギーは2つの前記量子ドットで異なる請求項1のコンポーネント。
【請求項12】
前記電圧コントローラーは、10μeVより下の微細構造スプリッティングを維持する請求項1のコンポーネント。
【請求項13】
前記電圧コントローラーは、電圧コントローラーによって初期化された前記量子ビット状態が読み出しされることが可能になるように、一旦量子ビット状態が固有状態軸のまわりの整数の回転を完了したならば、前記励起子を前記間接配置から前記直接配置へ移動し、前記タイミング回路は、前記微細構造スプリッティングから前記直接配置へ前記励起子を移動するための時間を計算する、請求項1のコンポーネント。
【請求項14】
前記電圧コントローラーは、その元々の状態から予め定義された回転に加えて、前記電圧コントローラーが量子演算を行うように、一旦前記量子ビット状態が固有状態軸のまわりの整数の回転を完了したならば、前記励起子を前記間接配置から前記直接配置へ移動し、前記タイミング回路は、前記微細構造スプリッティングから前記直接配置へ前記励起子を移動するための時間を計算する、請求項1のコンポーネント。
【請求項15】
前記情報取得回路は、前記励起子の前記微細構造スプリッティングと、ブロッホ球での前記固有状態方向と同様な印加された前記電場との間の関係に関する情報を取得する、請求項1のコンポーネント。
【請求項16】
前記電圧コントローラーは、量子ビットが格納中のある複数の時点において有限な時間周期の間に、前記量子ビット状態の前記固有状態を変更するのに適した調整された電場を印加し、それによって前記量子ビットが、格納中に2つの異なる固有状態軸のまわりで予め定義された回転を行うことを可能にする、請求項1のコンポーネント。
【請求項17】
前記電圧コントローラーは、量子ビット格納中に2つの直交する固有状態軸の間を行ったり来たりするのに適した調整された電場を印加し、それによってスピンエコーの作用が格納された前記状態をリフェーズすることを可能にする、請求項1のコンポーネント。
【請求項18】
前記電圧コントローラーは、前記状態を読み出すために、前記状態を初期化するためと同様の場を印加する請求項1のコンポーネント。
【請求項19】
量子ビット状態を格納する方法であって、前記量子ビット状態は、量子ドット分子内の励起子スピン状態として格納され、前記励起子は電子及び正孔の束縛状態を具備し、前記分子は、第1レイヤに提供される第1量子ドットと、第2レイヤに提供される第2量子ドットとを具備し、前記第1レイヤ及び前記第2レイヤはバリヤーレイヤによって分離され、前記第2レイヤは前記第1レイヤの上に配置され、
前記方法は、
前記量子ドット分子にある励起子が直接配置から間接配置へ移動することを可能にするのに適した第1電場を印加することと、
ここで、直接配置では電子及び正孔は複数の量子ドットの内の1つに位置し、間接配置では前記励起子の電子は1つの量子ドットに位置し、前記励起子の正孔は他の量子ドットに位置していて、
前記量子ドット分子における励起子の微細構造スプリッティングと、印加された電場との関係に関する情報を取得することと、
予め定義された時に、間接配置から直接配置へ励起子を移動させる別の電場を印加することと、を具備し、
前記予め定義された時は、前記微細構造スプリッティングから導き出される方法。
【請求項20】
電源コントローラーは、
励起子が直接配置での量子ドット分子で初期化された場合に前記量子ドット分子を横切って第1電場を印加し、
ここで初期化の間、励起子は前記量子ドットで生成され、
前記量子ドット分子を横切って第2電場を印加し、
ここでこの場では最低エネルギー励起子状態は間接励起子配置に対応し、
前記励起子の前記スピン状態に格納された量子情報の読み出しを可能にする、前記量子ドット分子を横切って第3電場を印加し、
ここで前記第3電場では最低エネルギー励起子状態は直接励起子配置に対応する、請求項19の方法。
【請求項1】
量子ビット状態を格納し操作するメモリのコンポーネントであって、
量子ドット分子と、励起子と、第1電気接点と、第2電気接点と、電源と、電源コントローラーと、を具備し、
前記分子は、第1レイヤに提供される第1量子ドットと、第2レイヤに提供される第2量子ドットと、を具備し、前記第1レイヤ及び前記第2レイヤはバリヤーレイヤによって分離されていて、前記第2レイヤは前記第1レイヤの上に配置され、
前記励起子は、前記量子ドット分子での電子及び正孔の1つの束縛状態を具備し、前記励起子のスピン状態は前記量子ビットを形成し、
電場が前記量子ドット分子を横切って提供されるために、前記第1電気接点は前記第1量子ドットの下で提供され、前記第2電気接点は前記第2量子ドットの上に提供され、
前記電源は、前記量子ドット分子を横切って電場を印加する複数の前記電気接点に接続され、
前記電源コントローラーは、前記量子ドット分子における励起子が、前記励起子の前記電子及び正孔が同じ量子ドットにある直接配置と、前記電子及び正孔が前記量子ドット分子の異なった量子ドットに位置する間接配置と、の間で切り換えられるように、前記量子ドット分子を横切る前記電場を調整し、前記電源コントローラーは、情報取得回路とタイミング回路を具備し、前記情報取得回路は、前記励起子の微細構造スプリッティングと、前記印加された電場との間の関係に関する情報を取得し、前記タイミング回路は、前記微細構造スプリッティングから導かれる所定回数で間接配置から直接配置への励起子の切り換えを許可する、コンポーネント。
【請求項2】
前記第1量子ドット、前記バリヤーレイヤ及び前記第2量子ドットは、前記第2量子ドットは前記第1量子ドットの後に形成され、前記第1接点はn型接点であるように、半導体成長技術によって作り上げられている、請求項1のコンポーネント。
【請求項3】
前記第2接点はp型接点である請求項2のコンポーネント。
【請求項4】
前記第2接点はショットキー接点である請求項2のコンポーネント。
【請求項5】
前記取得回路は、前記励起子の前記微細構造スプリッティングを、印加された前記電場に関連づけるデータを含んでいるメモリに接続される、請求項1のコンポーネント。
【請求項6】
光源をさらに具備し、前記光源は、前記量子ドット分子に既知のスピン状態の励起子を光学的に励起する請求項1のコンポーネント。
【請求項7】
前記光源は、量子ビット初期化に適した前記電場で、最低エネルギー励起子状態より大きな、整数のフォノンエネルギーである光子エネルギーを有している請求項6のコンポーネント。
【請求項8】
前記光源は、量子ビット初期化に適した前記電場で、最低エネルギー励起子状態に等しい光子エネルギーを有している請求項6のコンポーネント。
【請求項9】
前記量子ドット分子は、光キャビティの光モードが、周波数及び空間形状の両方の点からみて、前記光源からの光パルスに一致し、かつ、前記量子ドット分子が前記キャビティのアンチノードに位置するように、前記キャビティに配置される請求項6のコンポーネント。
【請求項10】
偏光検出器を有する光検出器をさらに具備し、前記光検出器は、前記コンポーネントから出力された複数の光子の放射及び偏光を測定する請求項1のコンポーネント。
【請求項11】
励起子エネルギーは2つの前記量子ドットで異なる請求項1のコンポーネント。
【請求項12】
前記電圧コントローラーは、10μeVより下の微細構造スプリッティングを維持する請求項1のコンポーネント。
【請求項13】
前記電圧コントローラーは、電圧コントローラーによって初期化された前記量子ビット状態が読み出しされることが可能になるように、一旦量子ビット状態が固有状態軸のまわりの整数の回転を完了したならば、前記励起子を前記間接配置から前記直接配置へ移動し、前記タイミング回路は、前記微細構造スプリッティングから前記直接配置へ前記励起子を移動するための時間を計算する、請求項1のコンポーネント。
【請求項14】
前記電圧コントローラーは、その元々の状態から予め定義された回転に加えて、前記電圧コントローラーが量子演算を行うように、一旦前記量子ビット状態が固有状態軸のまわりの整数の回転を完了したならば、前記励起子を前記間接配置から前記直接配置へ移動し、前記タイミング回路は、前記微細構造スプリッティングから前記直接配置へ前記励起子を移動するための時間を計算する、請求項1のコンポーネント。
【請求項15】
前記情報取得回路は、前記励起子の前記微細構造スプリッティングと、ブロッホ球での前記固有状態方向と同様な印加された前記電場との間の関係に関する情報を取得する、請求項1のコンポーネント。
【請求項16】
前記電圧コントローラーは、量子ビットが格納中のある複数の時点において有限な時間周期の間に、前記量子ビット状態の前記固有状態を変更するのに適した調整された電場を印加し、それによって前記量子ビットが、格納中に2つの異なる固有状態軸のまわりで予め定義された回転を行うことを可能にする、請求項1のコンポーネント。
【請求項17】
前記電圧コントローラーは、量子ビット格納中に2つの直交する固有状態軸の間を行ったり来たりするのに適した調整された電場を印加し、それによってスピンエコーの作用が格納された前記状態をリフェーズすることを可能にする、請求項1のコンポーネント。
【請求項18】
前記電圧コントローラーは、前記状態を読み出すために、前記状態を初期化するためと同様の場を印加する請求項1のコンポーネント。
【請求項19】
量子ビット状態を格納する方法であって、前記量子ビット状態は、量子ドット分子内の励起子スピン状態として格納され、前記励起子は電子及び正孔の束縛状態を具備し、前記分子は、第1レイヤに提供される第1量子ドットと、第2レイヤに提供される第2量子ドットとを具備し、前記第1レイヤ及び前記第2レイヤはバリヤーレイヤによって分離され、前記第2レイヤは前記第1レイヤの上に配置され、
前記方法は、
前記量子ドット分子にある励起子が直接配置から間接配置へ移動することを可能にするのに適した第1電場を印加することと、
ここで、直接配置では電子及び正孔は複数の量子ドットの内の1つに位置し、間接配置では前記励起子の電子は1つの量子ドットに位置し、前記励起子の正孔は他の量子ドットに位置していて、
前記量子ドット分子における励起子の微細構造スプリッティングと、印加された電場との関係に関する情報を取得することと、
予め定義された時に、間接配置から直接配置へ励起子を移動させる別の電場を印加することと、を具備し、
前記予め定義された時は、前記微細構造スプリッティングから導き出される方法。
【請求項20】
電源コントローラーは、
励起子が直接配置での量子ドット分子で初期化された場合に前記量子ドット分子を横切って第1電場を印加し、
ここで初期化の間、励起子は前記量子ドットで生成され、
前記量子ドット分子を横切って第2電場を印加し、
ここでこの場では最低エネルギー励起子状態は間接励起子配置に対応し、
前記励起子の前記スピン状態に格納された量子情報の読み出しを可能にする、前記量子ドット分子を横切って第3電場を印加し、
ここで前記第3電場では最低エネルギー励起子状態は直接励起子配置に対応する、請求項19の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−97377(P2013−97377A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−189828(P2012−189828)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−189828(P2012−189828)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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