説明

量子光半導体装置

【課題】 量子光半導体装置に関し、近接積層型の量子ドットのエネルギーバンドギャップを小さくして長波長化に対応させるとともに、エネルギーバンドギャップのばらつきを小さくする。
【解決手段】 量子構造を、圧縮歪を受けた島状形状半導体結晶と、島状形状半導体結晶を被うように形成された第1の中間層と、第1の中間層上に設けた第2の中間層とを順次繰り返して積層した繰り返し積層構造とし、第1の中間層は、島状形状半導体結晶より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含む第1の半導体層状結晶からなり、第2の中間層は、島状形状半導体結晶より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含まない第2の半導体層状結晶よりなり、第1の中間層及び第2の中間層を介して整列した島状形状半導体結晶の間隔がキャリアのエネルギー的な結合が生じる間隔となるように、半導体基板の主面に垂直な方向に実質的に整列させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子光半導体装置に関するものであり、例えば、量子ドットを活性層に含む半導体レーザ、半導体光増幅器或いは赤外線検知素子等の量子光半導体装置における量子準位間のエネルギーのばらつきを小さくするための手段に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光ファイバ通信の高速化・大容量化に伴い、光信号を電気に変換せず光のまま処理する全光信号処理が要求されている。このような全光信号処理を行うためには光信号処理デバイスが必要になるが、光信号処理デバイスの中では、小型、高速応答などの特長から半導体光増幅器が重要な位置づけとなっている。
【0003】
特に、利得媒質に量子ドットを用いた半導体光増幅器では、利得帯域が広い、光出力が高い、パターン効果が小さいなどの優れた特性が実験的に実証されている。
【0004】
一方、赤外線検知器においても、量子ドットをその赤外線感知部分として利用する量子ドット型赤外線検知器(Quantum Dot Infrared Photodetector;QDIP)が注目を集めている。
【0005】
この量子ドット型赤外線検知器は、量子井戸赤外線検知器に比べ、素子面に垂直に入射する赤外光に対して感度をもつことや、光励起されたキャリアが再び量子ドットに捕獲される確率が少ないことによる高い光電流利得などの利点を持つ。
【0006】
キャリアの閉じ込めのない所謂バルク半導体結晶では、キャリアの状態密度はエネルギーと共に放物線的に、即ち、連続的に増大するが、半導体結晶中にキャリアを1次元的に閉じ込めた所謂量子井戸構造では量子準位が出現するため状態密度が階段状に変化する。
【0007】
かかる階段状の状態密度を有する系では、キャリアの分布はバルク結晶の場合よりも制限されるため、かかる量子井戸構造を、例えば、レーザダイオード等の光半導体装置に適用した場合、バルク半導体結晶を使った場合よりも幅の狭い鋭いスペクトルが得られる。また、レーザダイオード等の発光素子では発光効率が向上する。
【0008】
かかるキャリアの閉じ込めをさらに進めた量子細線構造では、キャリアの2次元的な閉じ込めの結果、状態密度は各階段の下端で最大になるように変化するため、キャリアのエネルギースペクトルはさらに鋭くなる。
【0009】
キャリアの閉じ込めをさらに進めた量子ドット構造では、キャリアの3次元的な閉じ込めの結果、状態密度は離散的になり、これに伴い、キャリアのエネルギースペクトルは、各量子準位に対応して完全に離散的になる。かかる離散的なエネルギースペクトルを有する系では、系が室温等の熱的励起が存在するような状態にあってもキャリアの遷移が量子準位間で不連続に生じる。
【0010】
例えば、量子ドット構造を有するレーザダイオードなどの半導体発光装置では、室温においても非常に鋭い発光スペクトルが得られるとともに高効率になることが指摘されている。このため、上述のように、量子ドットを用いた量子光半導体装置が注目を集めている。
【0011】
量子ドット、即ち、基板上に離間した島状形状の結晶を形成するためには、GaAs基板上へのInAs成長などの歪系ヘテロエピタキシャル成長の初期に出現するいわゆるS−K(Stranski−Krastanow)モード成長を利用することができる。例えば、GaAs基板上に、InAs組成が0.5程度で格子定数が3.5%程度大きなInGaAsを数分子層、MBE法により堆積することにより、直径が30nm程度のInGaAs島状結晶がGaAs基板上に形成される(例えば、非特許文献1参照)。
【0012】
こうしたS−Kモード成長の初期における量子ドット形成は、ヘテロ界面に生じる歪みエネルギーと下地結晶との濡れ性に支配されると考えられている。S−Kモード成長は、リソグラフィ等による加工プロセスを用いた手法に比べ、簡便かつ加工損傷なしで高品質な量子ドット結晶を形成することができる利点がある。
【0013】
しかし、S−Kモード成長で成長した量子ドットのサイズの均一性は悪く、これに起因した発光スペクトルのブロードニングがあり、発光素子などへ応用する際の大きな問題の一つとなっている。
【0014】
解決方法の一つとして、S−Kモードで形成した島状結晶を数nmの中間層を介して近接して積層した構造および製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この提案においては、S−Kモードにより形成した島状形状の結晶を極薄中間層を介して配列積層し、互いに量子力学的に結合させることにより、全体として所定のエネルギーの離散的量子準位を形成する。したがって、通常成長では実現しえない高いドットが得られるため、サイズばらつきのエネルギーに及ぼす影響を抑制できるとともに、長波化が可能となる。
【0015】
ここで、図11を参照して、従来の量子ドット半導体装置を説明する。図11は従来の量子ドット半導体装置の構成説明図であり、図11(a)は積層状態を示す概念的断面図であり、図11(b)は要部拡大図であり、図11(c)は成長時の量子ドットの状態の説明図である。
【0016】
図11(a)に示すように、(100)面を主面とするGaAs基板91上に厚さ400nmのGaAsバッファ層92を成長後、ウェッティング層93を伴うInAs歪島状結晶94とGaAs中間層95を繰り返し積層する。
【0017】
図11(b)に示すように、積層方向に配列したInAs歪島状結晶94は近接して形成されているためエネルギー的な結合状態にあり、実質的に1つの量子ドットとしてエネルギー準位を形成している。この場合のエネルギー準位は、量子ドットの縦、横、高さにより決定される。通常に得られる量子ドットのサイズは底面直径が30nm程度、1層あたりの高さが3nmであるため、主に高さで決定されることになるが、この場合には繰り返し積層の層数により実効的な高さを高くでき、エネルギー準位が下がるので長波化が可能になる。
【0018】
そのため、通常のS−Kモードを利用して成長した単層の量子ドットに比べ高さが高く、したがって発光波長は長波長で、また構造揺らぎに対するエネルギー準位のばらつきの小さい、即ち、発光スペクトル幅の狭い量子ドットを形成することが可能となる。
【0019】
しかし、図11(c)に示すように、InAs歪島状結晶94をGaAs中間層95で埋め込む過程で、InAs歪島状結晶94のInとGaAs中間層95のGaとの間で相互に拡散が起こる。その結果、歪島状結晶が縮小するとともに、量子ドット内の平均的なInAs組成が小さくなることが知られている。
【0020】
これらは量子準位を高めること、即ち、量子ドットのエネルギーバンドギャップを拡げることになり、量子ドットの発光波長を短波化することになる。そこで、通信への応用上重要となる、1.3μmへ波長を制御するために、積層数を増やして実効的な高さを高め、準位を下げることや、InGaAs歪緩和層を入れて、量子ドットの圧縮歪を緩和し、エネルギーギャップを小さくすることなどが行われている。
【0021】
一方、赤外線検知素子においては、量子ドットをAlGaAsで埋め込み40nm程度のAlGaAs/GaAs中間層を介して積層させることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平09−326506号公報
【特許文献2】特開2009−065141号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Leonard, D., et al., Appl.Phys.Lett.Vol.63,pp.3203−3205,1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかし、積層数の増加や歪緩和層の導入はいずれも結晶歪を増大させるため、ミスフィット転位等の結晶欠陥生成の原因となり、発光特性を劣化させる原因のひとつにもなっていた。
【0025】
そこで、中間層、即ち、InAs量子ドットを埋め込む埋込層としてGaAsの代わりにAlGaAsを用いた場合のGaとInの相互拡散防止効果を検討した。図12は、検討結果の説明図であり、図12(a)はモデル構成図であり、図12(b)はPL発光半値幅の埋込層のAl組成比依存性の説明図であり、図12(c)は、PL発光波長の埋込層のAl組成比依存性の説明図である。また、図12(d)はPL発光強度の埋込層のAl組成比依存性の説明図であり、図12(e)は量子準位間格の埋込層のAl組成比依存性の説明図であり、図12(f)はInAs拡散抑制モデルの説明図である。
【0026】
図12(a)に示すように、検討モデルにおいては、下地層としてGaAs下地層102を用い、埋込層としてAlGa1−xAs埋込層105を用いている。なお、図における符号101,103,104は、夫々GaAs基板、ウェッティング層及びInAs歪島状結晶である。
【0027】
図12(b)に示すように、PL発光半値幅はAlGa1−xAs埋込層105のAl比xとともに減少する傾向が見られる。また、図12(c)に示すように、PL発光波長はAlGa1−xAs埋込層105のAl比xとともに長波長化する傾向が見られ、これらは、図12(f)に示すように、InとGaとの相互拡散及びサイズ縮小が抑制されたためと考えられる。
【0028】
図12(d)に示すようにPL発光強度はAlGa1−xAs埋込層105のAl比xとともに単調に増加し、また、図12(e)に示すように、量子準位間隔もAlGa1−xAs埋込層105のAl比xとともに増大する傾向が見られた。これらは、量子井戸層に対するバリア層となるAlGa1−xAs埋込層105のAl組成比xの増大とともにバリアが高くなった効果と考えられ、発光素子における利点が観測された。
【0029】
次に、図11に示した従来例における下地層としてGaAsの代わりにAlGa1−xAsを用いたモデルについて検討した。図13は、検討結果の説明図であり、図13(a)はモデル構成図であり、図13(b)はPL発光波長の下地層のAl組成比依存性の説明図であり、図13(c)はPL発光強度の下地層のAl組成比依存性の説明図である。
【0030】
図13(a)に示すように、検討モデルにおいては、下地層としてAlGa1−xAs下地層112を用い、埋込層としてGaAs埋込層115を用いている。なお、図における符号111,113,114は、夫々GaAs基板、ウェッティング層及びInAs歪島状結晶である。
【0031】
図13(b)に示すように、PL発光波長はAlGa1−xAs下地層72のAl比xとともに短波長化する傾向が見られる。また、図13(c)に示すように、PL発光強度はAlGa1−xAs下地層72のAl比xとともに激減する傾向が見られた。
【0032】
この原因については必ずしも明らかではないが、AlGa1−xAs下地層72のラフネスにより、ドット材であるInAsの表面移動が抑制され、小サイズのドットが形成されていることが考えられる。また、ドット形成過程におけるAlAsに関係した酸素などの汚染の影響が想定される。この結果は、単層構造を埋め込む場合には効果的であるが、近接積層型構造をAlGaAs中間層のみで極薄中間層を形成しても大きな改善効果が得られないことを意味する。
【0033】
一方、特許文献2の場合には、単独ドット層を50nm程度の間隔で単純積層した構造であるため積層間隔が大きく、積層方向での配列性はない。そのため、積層されたドット間でのエネルギー的な結合はないため、エネルギーバンドギャップのばらつきが大きいと共に、エネルギーギャップを通信波長帯である1.3μm域へ制御することはできない。
【0034】
したがって、本発明は、近接積層型の量子ドットのエネルギーバンドギャップを小さくして長波長化に対応させるとともに、エネルギーバンドギャップのばらつきを小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
開示する一観点からは、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された量子構造を含む活性層とを有し、前記量子構造は、圧縮歪を受けた島状形状半導体結晶と、前記島状形状半導体結晶を被うように形成された第1の中間層と、前記第1の中間層上に設けた第2の中間層とを順次繰り返して積層した繰り返し積層構造からなり、前記島状形状半導体結晶は、前記半導体基板の格子定数より大きい第1の格子定数を有する材料よりなり、前記第1の中間層は、前記第1の格子定数より小さい第2の格子定数を有するとともに、前記島状形状半導体結晶より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含む第1の半導体層状結晶からなり、前記第2の中間層は、前記第1の格子定数より小さい第3の格子定数を有するとともに、前記島状形状半導体結晶より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含まない第2の半導体層状結晶よりなり、前記第1の中間層及び第2の中間層を介して前記半導体基板の主面に垂直な方向に実質的に整列した島状形状半導体結晶の間隔がキャリアのエネルギー的な結合が生じる間隔であることを特徴とする量子光半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0036】
開示の量子光半導体装置によれば、近接積層型の量子ドットのエネルギーバンドギャップを小さくして長波長化に対応させるとともに、エネルギーバンドギャップのばらつきを小さくすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態の量子ドット光半導体装置の構成説明図である。
【図2】本発明の実施の形態の積層構造効果の説明図である。
【図3】本発明の実施例1の量子ドット半導体レーザの途中までの製造工程の説明図である。
【図4】本発明の実施例1の量子ドット半導体レーザの図3以降の途中までの製造工程の説明図である。
【図5】本発明の実施例1の量子ドット半導体レーザの図4以降の途中までの製造工程の説明図である。
【図6】本発明の実施例1の量子ドット半導体レーザの図5以降の製造工程の説明図である。
【図7】本発明の実施例2の量子ドット半導体光増幅器の概略的斜視図である。
【図8】本発明の実施例3の量子ドット赤外線検知器の途中までの製造工程の説明図である。
【図9】本発明の実施例3の量子ドット赤外線検知器の図8以降の途中までの製造工程の説明図である。
【図10】本発明の実施例3の量子ドット赤外線検知器の図9以降の製造工程の説明図である。
【図11】従来の量子ドット半導体装置の説明図である。
【図12】埋込層をAlGaAsにした場合の検討結果の説明図である。
【図13】下地層としてAlGa1−xAs用いたモデルについての検討結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
ここで、図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態の量子ドット光半導体装置を説明する。図1は本発明の実施の形態の量子ドット光半導体装置の構成説明図であり、図1(a)は、概念的断面図であり、図1(b)は拡大断面図である。本発明の実施の形態の量子ドット光半導体装置は、半導体基板1と、半導体基板1上に形成された量子構造10を含む活性層とを有する。
【0039】
量子構造10は、圧縮歪を受けた島状形状半導体結晶12と、島状形状半導体結晶12を被うように形成された第1の中間層13と、第1の中間層13上に設けた第2の中間層14とを順次繰り返して積層した繰り返し積層構造からなる。島状形状半導体結晶12は、半導体基板1の格子定数より大きい第1の格子定数を有する材料よりなり、例えば、InAs,InGaAs,GaSb,GaAsSbからなる。
【0040】
第1の中間層13は、第1の格子定数より小さい第2の格子定数を有するとともに、島状形状半導体結晶12より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含む第1の半導体層状結晶からなる。例えば、AlGa1−xAs、InAlGaAs,InAlGaPからなる。上述の図12から明らかなように、第1の中間層13がAlGa1−xAsからなる場合には、Al組成比xは0.2以上であることが望ましい。
【0041】
また、第2の中間層14は、第1の格子定数より小さい第3の格子定数を有するとともに、島状半導体結晶12より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含まない第2の半導体層状結晶よりなる。例えば、GaAs或いはInGaPからなる。
【0042】
図1(b)に示すように、島状形状半導体結晶12は、第1の中間層13及び第2の中間層14を介して、半導体基板1の主面に垂直な方向に実質的に整列し、整列した島状形状半導体結晶12の間隔はキャリアのエネルギー的な結合が生じる間隔である。
【0043】
このような構造を形成するための一例を説明する。まず、通常の固体原料を用いたMBE法により(100)面を主面としSiを1×1018cm−3量ドープしたn型GaAsからなる半導体基板1上に、基板温度590℃にて400nmのGaAsバッファ層2を成長させる。
【0044】
次いで、As照射のままGaの分子線を遮断し、5C/分の降温レートで基板温度を490℃まで下げて、基板温度が安定したのち、InAsを2.2分子層成長する。この時の成長速度は0.06分子層/秒とする。この時、S−kモード成長により、二次元濡れ層11とInAsからなる島状形状半導体結晶12が成長する。
【0045】
次いで、所定量のInAsを供給後、60秒間As照射下で待機し、4nm厚のAl0.35Ga0.65Asからなる第1の中間層13を成長する。続いて5nm厚のGaAsからなる第2の中間層14を成長し、60秒間As照射下で待機した。以下同様にInAs成長―待機―AlGaAs成長―GaAs成長―待機を3回繰り返し、As照射下で、5℃/分の昇温レートで基板温度を570度まで上げる。さらにGaAsを100nm成長した。
【0046】
図2は、本発明の実施の形態の積層構造効果の説明図であり、図2(a)はモデル構成図であり、図2(b)はPL発光半値幅のスペーサ層の厚さt依存性の説明図であり、図2(c)は、PL発光波長のスペーサ層の厚さt依存性の説明図である。また、図2(d)はPL発光強度のスペーサ層の厚さt依存性の説明図であり、図2(e)は量子準位間格のスペーサ層の厚さt依存性の説明図である。
【0047】
図2(a)に示すように、検討モデルは、GaAs基板21上に、Al0.35Ga0.65As下地層22、厚さがtのGaAsスペーサ層23、ウェッティング層24を伴うInAs島状結晶25、Al0.35Ga0.65As埋込層26を順次積層して形成する。なお、Al0.35Ga0.65As埋込層26のAl組成比は、図12(b)のPL発光半値幅の埋込層のAl組成比依存性から決めた。
【0048】
図2(b)に示すように、PL発光半値幅は、GaAsスペーサ層の厚さtの増大とともに低減し、また、図2(c)に示すように、PL発光波長は、GaAsスペーサ層の厚さtの増大とともに長波長化している。また、図2(d)に示すように、PL発光強度はGaAsスペーサ層の厚さtの増大とともに増加し、図2(e)に示すように、量子準位間格は、GaAsスペーサ層の厚さtの増大とともに低下している。
【0049】
これは、図12に示したように、量子ドットをAlGaAsなどAlを含む材料で埋め込むとAlAsの拡散長が短く、量子ドットのInAsとの相互拡散が抑制される。そのため、埋め込み時の量子ドット形状の縮小が抑制されるためである。
【0050】
また、図2に示すように、AlGaAs下地層に2nm以上、より好適には3nm以上のGaAsスペーサ層を挿入した場合、発光特性が改善されることが実験で明らかになった。即ち、本発明は、図13で示したAlGaAs下地層の問題をGaAs等のスペーサ層に相当する第2の中間層を挿入することによって解決したものである。なお、第1の中間層に相当するAl0.35Ga0.65As埋込層26の厚さは、量子ドットをある程度平坦に埋め込むためには、1nm〜7nmとすることが望ましい。
【0051】
また、図2(c)に示すように、第1中間層の挿入による長波化により、1.3μm域へ長波化制御するための繰り返し積層数、または歪緩和層のInAs組成を低減できるため、結晶への歪を減じることができる。そのため、歪による欠陥生成を抑制し、高品質結晶が得られることになる。
【0052】
なお、上記の実施の形態においては、量子ドットをウェッティング層を伴うS−Kモードで成長させているが、ウェッティング層を伴わないVolmer−Webber(ボルマー−ウェッバー)モードで成長させても良い。また、繰り返し積層数は任意であるが、現状では10層を超えることは困難である。
【実施例1】
【0053】
以上を前提として、次に、図3乃至図5を参照して、本発明の実施例1の量子ドット半導体レーザを説明する。図3(a)に示すように、まず、(100)面を主面とするn型GaAs基板31上に厚さが、400nmのn型GaAsバッファ層32、厚さが300nmのn型AlGaAsクラッド層33、厚さが100nmのn型GaAs光導波層34を順次堆積する。
【0054】
次いで、図3(b)に示すように、上述の量子構造の製造工程によりウェッティング層36、InAs量子ドット37、Al0.35Ga0.65As第1中間層38、GaAs第2中間層39の積層工程を4回繰り返して量子構造35を形成する。次いで、図3(c)に示すように、40nmのGaAs層40を介して全5層からなる量子構造41を形成する。
【0055】
次いで、図4(d)に示すように、量子構造41上に、アンドープGaAs層42、厚さが120nmのp型GaAs光導波層43、厚さが300nmのp型AlGaAsクラッド層44、厚さが50nmのp 型GaAsキャップ層45を順次堆積する。
【0056】
次いで、図4(e)に示すように、n型GaAsバッファ層32が露出するまでメサエッチングを行い、ストライプ状メサを形成する。次いで、図5(f)に示すように、形成されたストライプ状メサ構造上にSiNからなる保護膜46を形成する。
【0057】
次いで、図5(g)に示すように、保護膜46に電極形成用の窓を形成したのち、n型GaAsバッファ層32にn側電極47を形成するとともに、p型GaAsキャップ層45にp側電極48を形成する。次いで、図6(h)に示すように、レーザダイオードの対向する端面には高反射率ミラー49及び低反射率ミラー50を形成して光共振器を形成する。
【0058】
垂直に整列したInAs量子ドット37において量子準位間の遷移により再結合発光した光は光共振器を往復する際に誘導放出により増幅され、コヒーレント光となって低反射率ミラー50が設けられた端面から出射される。
【0059】
この時の発光波長は、複数の量子ドットを近接積層させているので、等価的に一個の大きな量子ドットとして作用するので、長波長化が可能になり、1.3μm帯に適した波長となる。また、量子ドットのサイズのばらつきも小さくなるので発光半値幅が狭くなる。なお、図示は省略するが、p型GaAs光導波層43とp型AlGaAsクラッド層44との間に回折格子を形成しても良く、この場合は、レーザダイオードはいわゆるDFBレーザダイオードとなる。
【実施例2】
【0060】
次に、図7を参照して、本発明の実施例2の量子ドット半導体増幅器を説明する。図7は、本発明の実施例2の量子ドット半導体増幅器の概略的斜視図であり、厚さが300μmのn型GaAs基板51上に、厚さが1μmのn型GaAsバッファ層52、厚さが0.5μmのn型Al0.35Ga0.65Asクラッド層53を順次形成する。
【0061】
次いで、n型Al0.35Ga0.65Asクラッド層53上に、100nmのn型GaAs光導波層54を形成したのち、上述の量子構造41と同じ構成の量子構造55を形成する。次いで、量子構造55上に厚さが100nmのp型GaAs光導波層56を形成する。
【0062】
次いで、p型GaAs光導波層56上に、厚さが1.0μmのp型Al0.35Ga0.65Asクラッド層57及び厚さが200nmのp型GaAsコンタクト層58を順次堆積する。なお、導電性を有する各層の不純物濃度は全て1×1018cm−3とする。
【0063】
次いで、p型Al0.35Ga0.65Asクラッド層57に達する2本の平行な溝59を形成して、この2本の溝59の間にリッジ60を画定する。次いで、表面をSiOからなる保護膜61で被覆したのち、電極用開口部を形成してAuZnからなるp側電極63を形成すると共に、n型GaAs基板51の裏面にAuGe合金からなるn側電極62を形成する。なお、入射端面64と出射端面65には反射防止膜を形成しても良い。
【0064】
本発明の実施例2の量子ドット半導体光増幅器においても、活性層を近接積層型量子ドット構造からなる活性層で形成しているので、1.3μm帯の入射光の増幅に適したブロードニングの少ない活性層が得られる。
【実施例3】
【0065】
次に、図8乃至図10を参照して、本発明の実施例3の量子ドット赤外線検知器を説明する。まず、図8(a)に示すように、MBE法を用いて、(001)面を主面とするGaAs基板71上に厚さが100nmのGaAsバッファ層72及び厚さが0.5μmで1×1018cm−3のn型GaAs下側コンタクト層73を順次形成する。
【0066】
次いで、図8(b)に示すように、n型GaAs下側コンタクト層73上に厚さが50nmのアンドープGaAs層74を成長させたのち、上述の量子構造41と同様の量子構造75を形成する。
【0067】
次いで、図9(c)に示すように、量子構造75の最上層となる第2中間層上に厚さが300nmでキャリア濃度が1×1018cm−3のn型GaAs上側コンタクト層76を成長させる。
【0068】
次いで、図9(d)に示すように、ウエットエッチングにより、n型GaAs下側コンタクト層73を露出するまでエッチングしてメサ構造を形成する。次いで、図10(e)に示すように、レジストパターン77を用いたリフトオフ法によりAuGe/Au層からなる下側電極層78及びAuGe/Au層からなる上側電極層79を形成する。
【0069】
次に、図10(f)に示すように、レジストパターン77を除去したのち、P−CVD(プラズマ化学気相成長)法を用いて、全面に、厚さが200nmのSiON層からなる保護層80を形成する。次いで、ドライエッチング法により、保護層80に、下側電極層78及び上側電極層79上に対するコンタクトホール81,82を形成する。
【0070】
本発明の実施例3の量子ドット赤外線検知器においても、光検知層を近接積層型量子ドット構造から形成しているので、1.3μ帯の入射光に対する検知感度が選択的に高い光検知層が得られる。
【0071】
ここで、実施例1乃至実施例3を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を付す。
(付記1)半導体基板と、前記半導体基板上に形成された量子構造を含む活性層とを有し、前記量子構造は、圧縮歪を受けた島状形状半導体結晶と、前記島状形状半導体結晶を被うように形成された第1の中間層と、前記第1の中間層上に設けた第2の中間層とを順次繰り返して積層した繰り返し積層構造からなり、前記島状形状半導体結晶は、前記半導体基板の格子定数より大きい第1の格子定数を有する材料よりなり、前記第1の中間層は、前記第1の格子定数より小さい第2の格子定数を有するとともに、前記島状形状半導体結晶より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含む第1の半導体層状結晶からなり、前記第2の中間層は、前記第1の格子定数より小さい第3の格子定数を有するとともに、前記島状形状半導体結晶より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含まない第2の半導体層状結晶よりなり、前記第1の中間層及び第2の中間層を介して前記半導体基板の主面に垂直な方向に実質的に整列した島状形状半導体結晶の間隔がキャリアのエネルギー的な結合が生じる間隔であることを特徴とする量子光半導体装置。
(付記2)前記第1の中間層は、III族元素におけるAl組成比が20%より大きく、厚さが1nmよりも厚いことを特徴とする付記1に記載の量子光半導体装置。
(付記3)前記第2の中間層は、平坦な上主面を有し、下層の前記第1の中間層の頂上部と上面との間隔が、2nmより大きいことを特徴とする付記1また付記2に記載の量子光半導体装置。
(付記4)前記半導体基板はGaAsであり、前記島状形状半導体結晶はInAs、InGaAs、GaSb或いはGaAsSbのいずれかからなり、前記第1の中間層はAlGa1−xAs、InAlGaAs或いはInAlGaPのいずれかからなり、前記第2の中間層はGaAsまたはInGaPであることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載の量子光半導体装置。
(付記5)前記半導体基板に最も近い側の前記島状形状半導体結晶の下地層が、GaAs層であることを特徴とする付記4に記載の量子光半導体装置。
(付記6)前記島状形状半導体結晶が、二次元濡れ層を伴う量子ドットであることを特徴とする付記1乃至付記5のいずれか1に記載の量子光半導体装置。
(付記7)前記量子構造を含む活性層が、半導体レーザ、半導体光増幅器或いは赤外線検知素子のいずれかの活性層であることを特徴とする付記1乃至付記6のいずれか1に記載の量子光半導体装置。
【符号の説明】
【0072】
1 半導体基板
2 GaAsバッファ層
10 量子構造
11 二次元濡れ層
12 島状形状半導体結晶
13 第1の中間層
14 第2の中間層
21 GaAs基板
22 Al0.35Ga0.65As下地層
23 GaAsスペーサ層
24 ウェッティング層
25 InAs島状結晶
26 Al0.35Ga0.65As埋込層
31 n 型GaAs基板
32 n型GaAsバッファ層
33 n型AlGaAsクラッド層
34 n型GaAs光導波層
35 量子構造
36 ウェッティング層
37 InAs量子ドット
38 Al0.35Ga0.65As第1中間層
39 GaAs第2中間層
40 GaAs層
41 量子構造
42 アンドープGaAs層
43 p型GaAs光導波層
44 p 型AlGaAsクラッド層
45 p 型GaAsキャップ層
46,61 保護膜
47,62 n側電極
48,63 p側電極
49 高反射率ミラー
50 低反射率ミラー
51 n型GaAs基板
52 n型GaAsバッファ層
53 n型Al0.35Ga0.65Asクラッド層
54 n型GaAs光導波層
55 量子構造
56 p型GaAs光導波層
57 p型Al0.35Ga0.65Asクラッド層
58 p型GaAsコンタクト層
59 溝
60 リッジ
64 入射端面
65 出射端面
71 GaAs基板
72 GaAsバッファ層
73 n型GaAs下側コンタクト層
74 アンドープGaAs層
75 量子構造
76 n型GaAs上側コンタクト層
77 レジストパターン
78 下側電極層
79 上側電極層
80 保護層
81,82 コンタクトホール
91,101,111 GaAs基板
92 GaAsバッファ層
93,103,113 ウェッティング層
94,104,114 InAs歪島状結晶
95 GaAs中間層
102 GaAs下地層
105 AlGa1−xAs埋込層
112 AlGa1−xAs下地層
115 GaAs埋込層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された量子構造を含む活性層と
を有し、
前記量子構造は、圧縮歪を受けた島状形状半導体結晶と、前記島状形状半導体結晶を被うように形成された第1の中間層と、前記第1の中間層上に設けた第2の中間層とを順次繰り返して積層した繰り返し積層構造からなり、
前記島状形状半導体結晶は、前記半導体基板の格子定数より大きい第1の格子定数を有する材料よりなり、
前記第1の中間層は、前記第1の格子定数より小さい第2の格子定数を有するとともに、前記島状形状半導体結晶より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含む第1の半導体層状結晶からなり、
前記第2の中間層は、前記第1の格子定数より小さい第3の格子定数を有するとともに、前記島状形状半導体結晶より大きなエネルギーバンドギャップを有するAlAsを含まない第2の半導体層状結晶よりなり、
前記第1の中間層及び第2の中間層を介して前記半導体基板の主面に垂直な方向に実質的に整列した島状形状半導体結晶の間隔がキャリアのエネルギー的な結合が生じる間隔であることを特徴とする量子光半導体装置。
【請求項2】
前記第1の中間層は、III族元素におけるAl組成比が20%より大きく、厚さが1nmよりも厚いことを特徴とする請求項1に記載の量子光半導体装置。
【請求項3】
前記第2の中間層は、平坦な上主面を有し、下層の前記第1の中間層の頂上部と上面との間隔が、2nmより大きいことを特徴とする請求項1また請求項2に記載の量子光半導体装置。
【請求項4】
前記半導体基板はGaAsであり、
前記島状形状半導体結晶はInAs、InGaAs、GaSb或いはGaAsSbのいずれかからなり、
前記第1の中間層はAlGa1−xAs、InAlGaAs或いはInAlGaPのいずれかからなり、
前記第2の中間層はGaAsまたはInGaPである
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の量子光半導体装置。
【請求項5】
前記量子構造を含む活性層が、半導体レーザ、半導体光増幅器或いは赤外線検知素子のいずれかの活性層であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の量子光半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−182335(P2012−182335A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44659(P2011−44659)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】