説明

量子通信装置,量子通信方法および量子情報処理方法

【課題】相対論的因果律に反しない過去への通信を実現する。
【解決手段】量子相関状態にある光子ビーム(L11,R11)を生成する光子対源(G11)を有し、それぞれの中心波長が光子ビーム(L11,R11)に等しい光子ビーム(L12,R12)を生成する光子対源(G12)を有し、光子ビーム(L11,L12)を合波干渉させるビームスプリッタ(BS11)を有し、光子ビーム(L11)の光路上にシャッター(SH11)を有し、光子ビーム(R11,R12)を合波干渉させるビームスプリッタ(BS12)を有し、ビームスプリッタ(BS12)の2口の出力ポートから射出する光子の同時計数率を測定する同時計数器(CC11)を有し、シャッター(SH11)の開閉を送信信号に対応させて行うことにより信号を送信し、同時計数器(CC11)で光子の同時計数率の減増を測定することにより信号を受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延選択や非局所的長距離相関やHOM干渉といった量子力学に特有の効果を利用することにより、相対論的因果律に反することなく過去への通信を行う量子通信装置,量子通信方法および量子情報処理方法に関するものである。ここで、相対論的因果律に反しない過去への通信とは、受信事象が通信の原因事象を頂点とする未来光円錘に収まるという条件下で、送信事象が受信事象より未来に位置する通信のことである。
【背景技術】
【0002】
1978年、ホイーラーは、光子を二つの光路に分けた後に、その光路を測定するか、それとも光路を再び重ね合わせてその干渉を測定するかを選択する遅延選択実験を提案した(非特許文献1)。二つに分かれた光路のそれぞれに検出器を置けば、光子がどちらか一方の光路で検出されるので、光子はどちらか一方の光路を通ってきたように見える。ところが、各光路の光を合波させた上で光子を検出すれば、干渉が観測されるので光子は両方の光路を通ってきたように見える。つまり、遅延選択実験では測定装置の事後的な設定が光子の過去におけるふるまいの原因になっているかのように見える。しかし、そのような見方は因果律に反するので間違いである。そこで、ホイーラーは、量子現象はそれが記録されるまでは現象ではないと主張した。
【0003】
1982年、アスペらはベルの不等式を破る量子相関を実証した(非特許文献2)。この量子相関は、非局所的長距離相関ではあるが、相対論的因果律に反する効果ではないので、超光速通信や過去への通信には使えないと考えられてきた。しかし、厳密に考えると、相対論的因果律に反しないからといって、量子相関が超光速通信や過去への通信に使えないとは言えない。なぜなら、受信事象が通信の原因事象(≠送信事象)を頂点とする未来光円錐の内側にある場合、超光速通信や過去への通信は相対論的因果律に反しないからである。
【0004】
1987年、ホン,オウおよびマンデルは、ビームスプリッタの2口の入力ポートに互いに識別できない光子を一個ずつ同時に入力した場合、ビームスプリッタの2口の出力ポートにおける光子の同時計数率がゼロになる2光子干渉(HOM干渉)を実証した(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. A. Wheeler, “The Past and Delayed Choice Double Slit Experiment,” in Mathematical Foundations of Quantum Theory, ed. A. R. Marlow (Academic Press, New York, 1978)
【非特許文献2】A. Aspect, P. Grangier, and G. Roger, “Experimental Realization of Einstein-Podolsky-Rosen-Bohm Gedankenexperiment: A New Violation of Bell's Inequalities,” Phys. Rev. Lett. 49, 91-94 (1982)
【非特許文献3】C. K. Hong, Z. Y. Ou, and L. Mandel, “Measurement of Subpicosecond Time Intervals between Two Photons by. Interference,” Phys. Rev. Lett. 59, 2044-2046 (1987).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
過去への通信は、因果律に反するので不可能だと信じられてきた。そのため、過去への通信の技術開発は放棄されていた。
【0007】
本発明の目的は、相対論的因果律に反することなく過去への通信を行う量子通信装置を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、相対論的因果律に反することなく長時間の過去への通信を行う量子通信方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、過去への通信を用いることにより、相対論的因果律に反することなく長距離間の超光速通信を行う量子通信方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、過去への通信を用いることにより、計算問題において計算結果を先取りする量子情報処理方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、過去への通信を用いることにより、多者択一問題において多数の解候補の中から正解を先取りする量子情報処理方法を提供することである。
本発明の更なるもう一つの目的は、過去への通信を用いることにより、従来のアルゴリズムでは指数関数時間以上の計算時間を要していた解探索を線形時間や多項式時間で達成する量子情報処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、過去への通信であっても相対論的因果律に反しない場合があることを見出した。
【0009】
通信が因果的であるということは、通信の原因と結果とが正しい先後関係にあるということである。通常、通信の原因は送信だとみなされている。しかし、通信の究極的な原因は送信ではない。たとえば、地震の通報の究極的な原因とは、地震の発生原因そのものである。それは、『当該地震が発生する世界』を選択する量子力学的確率事象にまで遡ることができる。そこで、一般に通信の究極的な原因とは送信ではなく『当該通信情報を生成する世界』を選択する量子力学的確率事象だということができる。
【0010】
相対論的因果律に反しない過去への通信は、図11のように軸ctを時間軸とし軸xを空間軸としたミンコフスキー時空図を用いて説明できる。ここで、原点に位置する通信の原因事象Oは、『当該通信情報を生成する世界』を選択する量子力学的確率事象である。相対論的因果律は、送信時空領域Trと受信時空領域Rcとが通信の原因事象Oを頂点とする未来光円錘の中に収まっていることを要請する。その要請が満たされていれば、送信時空領域Trが受信時空領域Rcより未来に位置すること、すなわち過去への通信は相対論的因果律に反しない。なぜなら、通信の原因事象Oと受信時空領域Rcとが正しい先後関係にあるからである。
【0011】
本発明は、以上に述べたような相対論的因果律と過去への通信との関係に関する発見的な考察を前提としている。
【0012】
本発明の第1の構成は、
一方の光子の放出時刻を測定すれば他方の光子の放出時刻も定まり、一方の光子のエネルギーを測定すれば他方の光子のエネルギーも定まる量子相関状態にある光子対を振り分けてなる一対の光子ビーム(L11,R11)を生成する光子対源(G11)を有し、
一方の光子の放出時刻を測定すれば他方の光子の放出時刻も定まり、一方の光子のエネルギーを測定すれば他方の光子のエネルギーも定まる量子相関状態にある光子対を振り分けてなる一対の光子ビーム(L12,R12)を生成する光子対源(G12)であって、中心波長が前記光子ビーム(L11)に等しい光子ビーム(L12)と、中心波長が前記光子ビーム(R11)に等しい光子ビーム(R12)とを生成する光子対源(G12)を有し、
前記光子ビーム(L11)と前記光子ビーム(L12)とを合波干渉させる合波干渉手段を有し、
前記光子ビーム(L11,L12)を前記合波干渉手段で干渉させるか干渉させないかを選択する干渉・非干渉選択手段を有し、
前記光子ビーム(R11)と前記光子ビーム(R12)とを合波干渉させるビームスプリッタを有し、
前記ビームスプリッタの2口の出力ポートから射出する2本の光子ビームに関して光子の同時計数率を測定する同時計数率測定手段を有し、
前記干渉・非干渉選択手段による干渉・非干渉の選択を送信信号に対応させて行うことにより信号を送信し、前記同時計数率測定手段で光子の同時計数率の変化を測定することにより信号を受信することを特徴とする量子通信装置である。
【0013】
ここで、光子対源は、要するに所定の量子相関状態にある光子対を放出する光子対源であればいかなるものでもよい。具体的には、非線形光学結晶によるパラメトリック下方変換や高非線形光ファイバー中の縮退四光波混合を用いることができる。
また、ここで、合波干渉手段とは、要するに光子ビームを重ね合わせて干渉させる手段であればいかなるものでもよい。
また、ここで、ビームスプリッタは、要するに光路を分割・統合するものであればいかなるものでもよい。具体的には、プリズム型、平面型、光方向性結合器型のビームスプリッタを用いることができる。
また、ここで、干渉・非干渉選択手段とは、要するに合波干渉手段における干渉・非干渉を選択する手段であればいかなるものでもよい。具体的には、前記光子ビーム(L11,L12)を、合波干渉手段で合波干渉させた上で吸収するか、合波干渉手段の手前の光路に設置したシャッターにより前記光子ビーム(L11,L12)を個別に吸収するかを選択する干渉・非干渉選択手段や、前記光子ビーム(L11,L12)を、合波干渉手段で合波干渉させた上で吸収するか、合波した後に合波過程の逆過程を施して元の光子ビーム(L11,L12)に分離した上で個別に吸収するかを選択する干渉・非干渉選択手段を用いることができる。
【0014】
本発明の第2の構成は、
前記光子対源から前記ビームスプリッタまでの間の前記光子ビームの各光路において、集群した2光子を排除する2光子排除手段を有することを特徴とする量子通信装置である。
【0015】
ここで、2光子排除手段とは集群した2光子を排除する手段であればいかなるものでもよい。具体的には、2光子吸収性の有機化合物やパラメトリック下方変換の逆過程によるアンチバンチング手段を用いることができる。
【0016】
本発明の第3の構成は、
本発明の第1の構成において、レーザー光をアンチバンチング光に加工し、前記アンチバンチング光をポンプ光として前記光子対源へ供給するアンチバンチングポンプ光供給手段を有することを特徴とする量子通信装置である。
【0017】
ここで、アンチバンチングポンプ光供給手段とはレーザー光をアンチバンチングポンプ光に加工し前記光子対源へ供給する手段であればいかなるものでもよい。具体的には、2光子吸収性の有機化合物やパラメトリック下方変換の逆過程によるアンチバンチング手段を用いることができる。
【0018】
本発明の第4の構成は、
本発明の第1の構成において、前記合波干渉手段をビームスプリッタとし、前記ビームスプリッタの2つの出力ポートから出力される光子の光路を連結一体とした周回光路と、前記周回光路を任意に遮断・開通する周回光路遮断・開通手段とからなる前記干渉・非干渉選択手段を有することを特徴とする量子通信装置である。
【0019】
本発明の第5の構成は、
本発明の第4の構成において、前記周回光路遮断・開通手段を境として二つに分けられた周回光路の部分光路のそれぞれが互いに逆方向に巻かれたコイル状光路を有することを特徴とする量子通信装置である。
【0020】
本発明の第6の構成は、
当該通信における受信事象が、通信の原因事象を頂点とする未来光円錐に収まる条件下で過去への通信を行う量子通信方法において、
送信地点と受信地点とを近接配置し、
前記送信地点から短時間の過去への通信手段を用いて前記受信地点に信号を送信し、
前記受信地点から短距離間の古典通信手段を用いて前記送信地点に信号を送信し、
前記短時間の過去への通信手段による1回の通信において信号が過去へ遡る時間が、前記短距離間の古典通信手段による1回の通信において信号が未来へ進む時間よりも長くなるように設定し、
前記短時間の過去への通信手段による通信と、前記短距離間の古典通信手段による通信とを交互に複数回繰り返すことにより、長時間の過去へ通信することを特徴とする量子通信方法である。
【0021】
本発明の第7の構成は、
当該通信における受信事象が、通信の原因事象を頂点とする未来光円錐に収まる条件下で超光速の通信を行う量子通信方法において、
長距離間を通信する古典通信方法と、本発明の第6の構成に係る長時間の過去へ通信する量子通信方法とを連続して用いることにより、長距離間を超光速で通信することを特徴とする量子通信方法である。
【0022】
本発明の第8の構成は、
計算問題において、
前記計算問題出題の原因事象より未来の時刻に受信時空領域を設定し、
前記受信時空領域より未来の時刻において、量子力学的確率事象によって、計算の実行・非実行を選択し、
計算の実行を選択した場合は、計算終了後にその計算結果を、過去への通信を用いて前記受信時空領域へ送信し、
計算の非実行を選択した場合は、前記受信時空領域において受信した計算結果を、過去への通信を用いて前記受信時空領域へ送信することにより、前記受信時空領域において計算結果を先取りすることを特徴とする量子情報処理方法である。
【0023】
本発明の第9の構成は、
多数の解候補の中から一つの解候補を選択して問題に適用すると正解不正解の判定ができる多者択一問題において、
前記多数の解候補と同数の受信時空領域とを1対1に対応させ、
前記受信時空領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
最も強い正解信号を受信した受信時空領域に対応する解候補を選択して問題に適用し、
適用した解候補が正解だった場合、適用した解候補に対応する受信時空領域へ過去への通信により正解信号を送信することにより、前記受信時空領域で前記多者択一問題の正解を先取りすることを特徴とする量子情報処理方法である。
【0024】
本発明の第10の構成は、
個の解候補の中から正解を探索する解探索問題において、
前記2個の解候補を2分した第1段階グループと第1受信時空領域の2つのサブ領域とを1対1に対応させ、
第1受信時空領域の2つのサブ領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
強い正解信号を受信したサブ領域に対応する第1段階グループを選択し、
選択した第1段階グループを2分した第2段階グループと第2受信時空領域の2つのサブ領域とを1対1に対応させ、
第2受信時空領域の2つのサブ領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
強い正解信号を受信したサブ領域に対応する第2段階グループを選択し、
第2受信時空領域の各サブ領域のいずれか一方または両方で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信したときは、過去への通信により第1送信時空領域から第1受信時空領域の対応するサブ領域へ正解信号を送信し、
選択した第2段階グループを2分した第3段階グループと第3受信時空領域の2つのサブ領域とを1対1に対応させ、
第3受信時空領域の2つのサブ領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
強い正解信号を受信したサブ領域に対応する第3段階グループを選択し、
第3受信時空領域の各サブ領域のいずれか一方または両方で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信したときは、過去への通信により第2送信時空領域から第2受信時空領域の対応するサブ領域へ正解信号を送信し、
同様の処理を繰り返すことによって、
選択した第n−1段階グループを2分した解候補(1つの解候補からなる第n段階グループ)と第n受信時空領域の2つのサブ領域とを1対1に対応させ、
第n受信時空領域の2つのサブ領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
強い正解信号を受信したサブ領域に対応する解候補(1つの解候補からなる第n段階グループ)を選択し、
第n受信時空領域の各サブ領域のいずれか一方または両方で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信したときは、過去への通信により第n−1送信時空領域から第n−1受信時空領域の対応するサブ領域へ正解信号を送信し、
選択した解候補(1つの解候補からなる第n段階グループ)を問題に適用して正解だった場合、過去への通信により第n送信時空領域から第n受信時空領域の対応するサブ領域へ正解信号を送信することにより、2個の解候補の中から正解を探索する量子情報処理方法である。
【発明の効果】
【0025】
上記の本発明の一対の光子対源を有する量子通信装置によれば、一対の等価な光子対源が生成した各アイドラー光子ビーム同士(または各シグナル光子ビーム同士)を合波干渉させるか合波干渉させないかを選択することにより信号を送信し、各シグナル光子ビーム同士(または各アイドラー光子ビーム同士)をビームスプリッタで合波した上で2口の出力ポートにおける光子の同時計数率の変化を測定することにより信号を受信するので、通信の原因事象を頂点とする未来光円錐の内側において相対論的因果律に反することなく過去への通信ができる。
【0026】
また、上記の本発明の互いに逆方向に巻かれたコイル状光路を有する量子通信装置によれば、互いに逆方向に巻かれたコイル状光路に光子を通すことによって通信に有害なサニャック効果を打ち消すことができ、その分長時間にわたって光子を周回光路内にとどめることができるので、1回の送受信で比較的長時間の過去への通信ができる。
【0027】
また、上記の本発明の長時間の過去への通信に係る量子通信方法によれば、同一の通信装置を用いて短時間の過去への通信を繰り返して行うことにより長時間の過去へ通信するので、簡易な構成で長時間の過去への通信ができる。
【0028】
また、上記の本発明の長距離間の超光速通信に係る量子通信方法によれば、受信事象が通信の原因事象を頂点とする未来光円錐に納まる条件下で、長時間の過去への通信手段と長距離間の古典通信手段とを連続して用いて通信するので、相対論的因果律に反することなく長距離間の超光速通信ができる。
【0029】
また、上記の本発明の計算結果の先取りに係る量子情報処理方法によれば、過去への通信を用いて未来から過去へ向けて計算結果を通信するので、計算を実行する前に計算結果を先取りできる。さらに、計算結果を先取りしかつ計算を実行しない事態が一定の確率で起こるので、計算資源を節減できる。
【0030】
また、上記の本発明における多者択一問題の正解の先取りに係る量子情報処理方法によれば、過去への通信を用いて未来から過去へ向けて正解を通信するので、多者択一問題の正解を先取りできる。また、間違った選択をすると損失が発生する現実の事業選択ような多者択一問題にこの発明を適用すれば、間違った事業の選択を防いで損失を回避できる。
【0031】
また、上記の本発明における2個の解候補から解を探索する解探索問題に係る量子情報処理方法によれば、過去への通信を繰り返し用いて正解グループ情報を未来から過去にリレーするので、従来の情報処理方法では指数関数時間を要する各種解探索問題における解探索を線形時間や多項式時間で達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態1に係る量子通信装置の説明図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る量子通信装置の説明図である。
【図3】本発明の実施形態3に係る量子通信装置の説明図である。
【図4】本発明の実施形態4に係る量子通信装置の説明図である。
【図5】本発明の実施形態5に係る量子通信装置の説明図である。
【図6】本発明の実施形態6に係る長時間の過去への通信方法を説明するミンコフスキー時空図である。
【図7】本発明の実施形態7に係る長距離間を超光速で通信する方法を説明するミンコフスキー時空図である。
【図8】本発明の実施形態8に係る計算結果を先取りする方法を説明する樹形図である。
【図9】本発明の実施形態9に係る多者択一問題の正解を先取りする方法を説明する樹形図である。
【図10】本発明の実施形態10に係る2個の解候補の中から正解を探索する方法を説明する樹形図である。
【図11】通信の原因事象と送信事象と受信事象との時空上の位置関係を説明するミンコフスキー時空図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施形態1.
本発明の実施形態1に係る量子通信装置について、図1を参照しながら説明する。
【0034】
図1の(a),(b)は、一対の光子対源G11,G12を発するアイドラー光子ビームL11,L12をビームスプリッタBS11で合波干渉させ、同光子対源G11,G12を発するシグナル光子ビームR11,R12をビームスプリッタBS12で合波干渉させる2光子干渉計を用いた本発明の実施形態1に係る量子通信装置である。光子対源G11,G12それぞれが放出するアイドラー光子とシグナル光子とからなる光子対は、一方の光子の放出時刻を測定すれば他方の光子の放出時刻も定まり、一方の光子のエネルギーを測定すれば他方の光子のエネルギーも定まる量子相関状態にある。また光子対源G11と光子対源G12は同様に構成・駆動されていて、アイドラー光子ビームL11とアイドラー光子ビームL12とは中心波長が等しく、シグナル光子ビームR11とシグナル光子ビームR12とは中心波長が等しいものとする。また、ここではビームスプリッタはすべて50/50ビームスプリッタである。さらに、ビームスプリッタで合波される2光子がたどる光子対源からビームスプリッタまでの光路に関する光路差は、ゼロになるように構成されているものとする。M11,M12,M13,M14はミラーであり、D11,D12は光子検出器であり、CC11は同時計数器であり、PA11,PA12は光子吸収体であり、SH11はシャッターである。
【0035】
光子対源G11,G12としては、パラメトリック増幅を行う光非線形媒質を用いることができる。その場合、光子対源G11,G12に入射させる各ポンプ光として、1本のレーザービームをビームスプリッタで分岐させて用意した各レーザービームを用いても良い。
【0036】
図1(a)は、シャッターSH11を開放して、ビームスプリッタBS11,BS12の双方で光子ビームの合波干渉が行われるようにした装置である。光子対源G11から発生したアイドラー光子ビームL11と光子対源G12から発生したアイドラー光子ビームL12はビームスプリッタBS11により同じ光路上に合波され、光子吸収体PA11,PA12で吸収される。一方、光子対源G11から発生したシグナル光子ビームR11と光子対源G12から発生したシグナル光子ビームR12とはビームスプリッタBS12により同じ光路上に合波され、光子検出器D11,D12へ入力される。
【0037】
光子対源G11から放出される光子の量子状態|ψ>と、光子対源G12から放出される光子の量子状態|ψ>は次のように表される。
【0038】
【数1】

【0039】
【数2】

【0040】
上式において、|0>はゼロ光子状態、|1>は1光子状態、|2>は2光子状態を表し、amnは光子対源G1mから発生するn光子ペアの確率振幅を表し、また、ケット内の添え字{i1,s1,i2,s2}はそれぞれ{G11からのアイドラー光子,G11からのシグナル光子,G12からのアイドラー光子,G12からのシグナル光子}を表す。
【0041】
ここで、G11,G12がパラメトリック下方変換により光子対を放出する光子対源だとすれば、パラメトリック自然放出の性質により、シグナル光子とアイドラー光子は必ずペアで発生する。ただし,何ペア出るかは確率的であり、出力状態は重ね合わせとなる。発生する光子ペア数の確率はポンプ光パワーに依存する。ポンプ光パワーの設定により、3ペア以上発生する確率は十分小さいものとする。そうすると、二つの非線形媒質出力を合わせた全系の初期状態|Ψ>は,近似的につぎのように表される。
【0042】
【数3】

【0043】
3ペア以上の発生確率が十分小さい状況は、G11とG12で2ペアと1ペアが同時に発生する確率や2ペアと2ペアが同時に発生する確率が十分小さいという状況でもあるので第6項,第8項,第9項は無視してよい。また、ここでは同時計数器CC11の同時計数に反映される2光子干渉を問題にしているので、第1項,第2項,第4項を除外する。さらに、ゼロ光子状態は何もないことと同じなので省略すると、検討対象の状態|Ψ>は次のようになる。
【0044】
【数4】

【0045】
光子対源G11,G12の出力特性が全く同じであれば、ビームスプリッタBS11,BS12の出力においてアイドラー光子i1とアイドラー光子i2の区別やシグナル光子s1とシグナル光子s2の区別は原理的に不可能である。そこで、|1i1>=|1i2>≡|1i>,|1s1>=|1s2>≡|1>とすると終状態|Ψ>は次のようになる。
【0046】
【数5】

【0047】
ただし、ケット外の添え字{t1,t2,d1,d2}は、それぞれ{光子が光子吸収体PA11に在る,光子が光子吸収体PA12に在る,光子が光子検出器D11に在る,光子が光子検出器D12に在る}ことを表す。また、簡単のために|Ψ>における各光子ペアの確率振幅とそれに対応する|Ψ>における各光子ペアの確率振幅とは等しいものとした。
【0048】
数式5の第1項は、HOM干渉によって同時計数器CC11の同時計数率が減少することを示している。
【0049】
つぎに、図1(b)のようにアイドラー光子ビームL11の光路上に設置したシャッターSH11を閉鎖してアイドラー光子i1をシャッターSH11に吸収させる場合について述べる。この場合は、アイドラー光子i1とアイドラー光子i2の物理量(放出時刻やエネルギー)がそれぞれ独立に定まる。すると、量子相関によりシグナル光子s1とシグナル光子s2の物理量もそれぞれ独立に定まる。したがって、シグナル光子s1とシグナル光子s2とは識別可能な光子になっている。そこで、終状態|Ψ´>は次のようになる。
【0050】
【数6】

【0051】
ただし、ケット外の添え字sh1は、光子がシャッターSH11に在ることを表す。また、簡単のために|Ψ>における各光子ペアの確率振幅とそれに対応する|Ψ´>における各光子ペアの確率振幅とは等しいものとした。
|Ψ´>では、HOM干渉が抑制される分|Ψ>の場合よりも同時計数率が増大する。つまり、図1の装置ではシャッターの開閉に応じて、HOM干渉の成立・非成立が遠隔選択され、同時計数器CC11での同時計数率が減増する。|Ψ´>におけるHOM干渉(HOMディップ)は無視できるとすれば、同時計数率の減増に関するSN比は次のように表される。
【0052】
【数7】

【0053】
この効果は量子通信に用いることができる。すなわち,Aliceが送信情報に対応させてシャッターSH11を開閉することにより信号を送信し、Bobが同時計数器CC11で同時計数率の減増を測定することにより信号を受信する量子通信が成立する。
【0054】
図1の装置ではアイドラー光子の光路長をシグナル光子の光路長よりも長くとることが可能である。この場合、シグナル光子の検出後に対応するアイドラー光子が吸収される。この事態は、過去への通信の可能性を示唆している。実際、受信事象が『通信の原因事象を頂点とする未来光円錐』(以下、通信の未来光円錐という)の内側にある場合、過去への通信は相対論的因果律に反しない。ただし、通信の原因事象とは、『当該通信情報を生成する世界』を選択する量子力学的確率事象のことである。
【0055】
ここで、通信の原因事象である量子力学的確率事象によって、『シャッターSH11が閉鎖される世界』が選択される場合を考察する。受信時空領域が通信の未来光円錐の内側にある場合、受信時空領域ではシャッターSH11の閉鎖原因(通信の原因事象)の存在を光速以下の古典通信によって知ることができる。シャッターSH11の閉鎖原因は『シャッターSH11が閉鎖される世界』に属しているのだから、その存在を知ることができる受信時空領域もまた『シャッターSH11が閉鎖される世界』に属している。受信時空領域が『シャッターSH11が閉鎖される世界』に属しているのだから、受信時空領域のシグナル光子s1とシグナル光子s2は量子相関によって識別可能な光子になっている。シグナル光子s1とシグナル光子s2とが識別可能な光子になっているのだから、シグナル光子s1とシグナル光子s2とのHOM干渉は抑制される。
【0056】
結局、図1の装置は、通信の未来光円錐の内側において過去への通信に利用できる。
【0057】
図1の装置においては、送信側にアイドラー光子ビームを振り向け、受信側にシグナル光子ビーム振り向ける設定について説明したが、逆に、送信側にシグナル光子ビームを振り向け、受信側にアイドラー光子ビームを振り向ける設定であってもよい。また、図1では説明の便宜上ビームスプリッタBS11の出力ポートに光子吸収体PA11,PA12を設けているが、特に手段を講じることなく装置周囲の環境によって光子を吸収させてもよい。
【0058】
実施形態2.
本発明の実施形態2に係る量子通信装置について、図2を参照しながら説明する。図2は、図1と同様の量子通信装置において、光子対源G21,G22からビームスプリッタBS21までの間のシグナル光子ビームR21,R22の各光路に、集群した2光子を排除する2光子吸収体TPA21,TPA22を設けたものである。2光子吸収体としては、有機化合物による非線形光学材料を用いることができる。
【0059】
このようにして、2光子吸収体TPA21,TPA22を用いて集群した2光子を排除すれば、式7の分母をゼロに近づけられるので,SN比は格段に向上する。
【0060】
実施形態3.
本発明の実施形態3に係る量子通信装置について、図3を参照しながら説明する。図3は、図1と同様の量子通信装置において、レーザー光をアンチバンチング光に加工して光子対源G31,G32に供給するためのアンチバンチングポンプ光供給手段を備えたものである。
【0061】
アンチバンチングポンプ光供給手段は、レーザー光源LS31とビームスプリッタBS33と2光子吸収体TPA31,TPA32とからなり、レーザー光源LS31を発したレーザービームをビームスプリッタBS33によって2分し、さらに2光子吸収体TPA31,TPA32によりアンチバンチングポンプ光にして光子対源G31,G32へ供給する。
【0062】
このようにしてポンプ光にアンチバンチング光を用いれば、式7の分母をゼロに近づけられるので,SN比は格段に向上する。
【0063】
実施形態4.
本発明の実施形態4に係る量子通信装置について、図4を参照しながら説明する。図4の(a),(b)は、ビームスプリッタBS41の2つの出力ポートから出力される光子の光路を連結一体とした周回光路と、その周回光路を任意に遮断・開通するシャッターSH41とからなる干渉・非干渉選択手段を有する本発明の実施形態4に係る量子通信装置である。図4(a)に示すようにシャッターSH41によって周回光路を遮断した場合、アイドラー光子,シグナル光子はそれぞれビームスプリッタBS41,BS42によって合波され干渉したうえで吸収される。したがって、この場合ビームスプリッタBS41,BS42から出力される光子が、光子対源G41,G42どちらから出力した光子であるかは識別不可能になり、その結果、HOM干渉によりBob側の同時計数率が抑制される。一方、図4(b)に示すように周回光路を開通させた場合、アイドラー光子i1,i2は光子対源G41,G42側に個々別々に逆戻りし、環境中において個々別々に吸収される。したがって、この場合アイドラー光子i1とアイドラー光子i2の識別が可能になるので、量子相関によって、Bob側のビームスプリッタBS42から出力される個々の光子に関しても、シグナル光子s1とシグナル光子s2の識別が可能になり、その分同時計数器CC41における同時計数率が増大する。つまり、Alice側において周回光路を遮断するか遮断しないかに応じて、Bob側における光子の同時計数率が減増するので、この量子相関を利用して量子通信が可能になる。よって、図4の装置は通信の未来光円錐の内側において過去への通信に利用することができる。
【0064】
実施形態5.
本発明の実施形態5に係る量子通信装置について、図5を参照しながら説明する。図5は、図4と同様の干渉・非干渉選択手段を有し、シャッターSH51を境として二つに分けられた周回光路の部分光路のそれぞれが互いに逆方向に巻かれたコイル状光路OFC51,OFC52を有する本発明の実施形態5に係る量子通信装置である。コイル状光路がコイル軸と平行な軸周りに回転している場合、コイル状光路を進む光は右回りの場合と左回りの場合とで光路差を生じる(:サニャック効果)。このサニャック効果による光路差がアイドラー光子のコヒーレンス長よりも大きくなると、アイドラー光子i1,i2が光子対源G51,G52側に識別可能な状態で逆戻りできなくなる。この問題を解決するために、図5の装置では、シャッターSH51を境として二つに分けられた周回光路の部分光路のそれぞれに互いに逆方向に巻かれたコイル状光路OFC51,OFC52を設けてサニャック効果を相殺している。
【0065】
このようにサニャック効果を相殺すれば、周回方向によって光路差を生じることがなくなるので、本発明の実施形態5に係る量子通信装置は、コイル状光路の光路長を数km以上に設定でき、1回の送受信で10μ秒以上の過去へ良好に通信することができる。
【0066】
実施形態6.
本発明の実施形態6に係る量子通信方法について図6を参照しながら説明する。図6は、軸ctを時間軸とし、軸xを空間軸としたミンコフスキーの時空図である。ここで、世界線AWLは送信者Aliceの世界線であり、世界線BWLは受信者Bobの世界線である。
【0067】
ここで、短時間の過去への通信を用いて時空領域ta3からそれより過去の時空領域tb3へ通信を行い、短距離間の古典通信を用いて時空領域tb3からそれより未来の時空領域ta2へ通信を行う場合、時空領域ta3が時空領域ta2より未来になるように設定すれば、この1サイクルの通信は短時間の過去への通信となる。そこで、同様のサイクルを繰り返し、ta2→tb2→ta1→tb1という順番で信号を通信することで、長時間の過去へ通信することができる。
【0068】
この過去への通信方法は、短時間の過去への通信手段と短距離間の古典通信手段とを交互に使用するので、それぞれの通信手段が一つずつしかない場合でも長時間の過去への通信ができる。ただし、その場合、異なるサイクルの情報が通信過程で混合しないために、連続して送信できる時間は1サイクル当たりに信号が過去に遡る時間を上限とし、その時間を経過したら、つぎの送信は全サイクル分の時間を置いてから行わなければならない。たとえば、1サイクル当たり1μ秒過去に情報を送るものとし、そのサイクルを600,000,000回繰り返して通信すれば、10分程度の過去へ通信することができる。ただし、連続して送信できる時間は1μ秒が上限であり、1μ秒を経過したら、つぎの送信はその10分以上後にしなければならない。とはいえ、この過去への通信は従来技術によっては不可能な著しい効果を発揮する。たとえば、大地震の発生を10分前の過去へ通報することができる。
【0069】
なお、本発明に係る長時間の過去への通信は、受信事象tb1が通信の原因事象O61を頂点とする未来光円錐に収まる条件下で行うため、通信の原因事象と受信事象とが正しい先後関係にあるので、相対論的因果律に反することはない。
【0070】
実施形態7.
本発明の実施形態7に係る量子通信方法について図7を参照しながら説明する。本発明の実施形態7は、受信事象が、通信の原因事象を頂点とする未来光円錐に収まる条件下において、長距離間の古典通信と、長時間の過去への通信とを連続して用いることによって長距離間の超光速通信を行うものである。図5(a)、(b)は、この実施形態を示すミンコフスキー時空図である。
【0071】
図7(a)は、まず、古典通信を用いて送信時空領域TTから長い距離を隔てた時空領域Rta3へ信号を光速で送信し、つぎに、その信号を短時間の過去への通信と短距離間の古典通信とをRta3→Rtb3→Rta2→Rtb2→Rta1→Rtb1という順番で繰り返しおこなって長時間の過去へ送信し、その結果、長距離間の超光速通信を行う様子を示している。また、図7(b)は、まず、短時間の過去への通信と短距離間の古典通信とをTta3→Ttb3→Tta2→Ttb2→Tta1→Ttb1という順番で繰り返しおこなって長時間の過去へ信号を送信し、つぎに、古典通信を用いてその信号を時空領域Ttb1から長い距離を隔てた受信時空領域RRへ光速で送信し、その結果、長距離間の超光速通信を行う様子を示している。いずれの場合も、長距離間の古典通信と長時間の過去への通信を連続して用いることで長距離間の超光速通信を達成する本発明の実施形態7に係る量子通信方法である。この量子通信方法を用いれば、東京で発生した地震を瞬時に木星に通報することができる。すなわち、まず地震が発生した東京から木星に向けて光速で地震の発生を通報し、つぎに過去への通信を用いて40分前の木星へ地震の発生を通報するか、あるいは、まず地震が発生した東京において過去への通信を用いて地震発生40分前の東京に地震の発生を通報し、つぎに木星に向けて光速で地震の発生を通報すればよい。
【0072】
なお、本発明に係る長距離間の超光速通信は、最後の受信事象Rtb1,RRが通信の原因事象O71を頂点とする未来光円錘に収まる条件下で行うため、通信の原因事象から最後の受信事象までの情報伝達速度が光速以下になるので、相対論的因果律に反することはない。
【0073】
実施形態8.
本発明の実施形態8に係る量子情報処理方法について図8を参照しながら説明する。図8は、過去への通信手段と計算手段とからなる複合系における計算結果の先取り方法を説明する樹形図である。ここで、実線の分岐は、量子力学的確率事象P81によって計算C81の実行・非実行を選択し、その選択によって世界が計算C81を実行する可能世界W81と計算を実行しない可能世界W82とに分岐する様子を示している。また、2本の二点鎖線はそれぞれ過去への通信を表している。
【0074】
図8の左側に分岐した可能世界W81では、計算C81が終了した後、過去への通信を用いて送信時空領域Tr81から受信時空領域Rc81へ計算結果を伝える。ただし、受信時空領域Rc81は、計算の実行・非実行に係る量子力学的確率事象P81より過去に設定する。また、図8の右側に分岐した可能世界W82では、受信時空領域Rc81で受信した計算結果を、過去への通信を用いて送信時空領域Tr82から受信時空領域Rc81へ伝える。そうすると、計算を実行した可能世界W81から受信時空領域Rc81に届く信号と、計算を実行しない可能世界W82から受信時空領域Rc81に届く信号とが一致するので、計算結果を良好に受信することができる。この実施形態8によれば、計算を実行しないにもかかわらず、計算結果を先取りできる事態が一定の確率で起こるので、計算資源を節減することができる。
【0075】
なお、本発明に係る計算結果の先取りでは、計算結果を先取りする前に計算問題の出題が完了している。したがって、計算結果を先取りする受信事象が計算問題の出題に関する原因事象を頂点とする未来光円錐に収まっているので、この量子情報処理方法が相対論的因果律に反することはない。
【0076】
実施形態9.
本発明の実施形態9に係る量子情報処理方法について図9を参照しながら説明する。図9は、多数の解候補の中から一つの解候補を選択して問題に適用すると正解不正解が判定できる多者択一問題において、過去への通信を用いて正解を先取りする方法を説明する樹形図である。ただし、図示の便宜上解候補の数は3個とし、過去に向けて正解を送信する世界を太線によって表した。
【0077】
各解候補と1対1に対応するように設定された各受信時空領域Rc91,Rc92,Rc93の中で最も強い正解信号を受けた受信時空領域に対応する解候補を選択し、問題に適用C93する。
【0078】
適用した解候補が正解であることを確認した可能世界W93では、送信時空領域Tr91から対応する受信時空領域Rc93へ過去への通信により正解信号を送信する。すると、誤受信の場合を除けば、前記受信時空領域Rc93で最も強い正解信号を受信することになるので、3者択一問題の正解を先取りできる。
【0079】
例えば、過去への通信装置として図5の装置を採用した場合は、適用した解候補が正解であることを確認したら、シャッターSH51を開放することによって正解に対応する受信時空領域へ正解信号を
送信すればよい。そうすれば、同時計数器CC51におけるシグナル光子の同時計数率は正解に対応する受信時空領域において最大になる。
【0080】
多者択一問題の具体例として、外見からは見分けがつかない3つの箱のいずれか1つに金貨が入っており、金貨が入っていない箱を開けると箱が爆発するという設定において、できるだけ安全に金貨を手に入れるという問題を採り上げて、図9にあてはめてみる。受信時空領域Rc91,Rc92で最も強い正解信号を誤受信した可能世界W91,W92では、受信時空領域と対応する不正解の箱を開ける(C91,C92)。その結果、箱が爆発する。一方、受信時空領域Rc93で最も強い正解信号を受信した可能世界W93では、受信時空領域と対応する正解の箱を開ける(C93)。その結果、金貨の入った正解の箱が確定するので、その正解信号を過去への通信を用いて送信時空領域Tr93から対応する受信時空領域Rc93へ送信する。すると、誤受信の場合を除けば、前記受信時空領域Rc93で最も強い正解信号を受信することになるので、金貨の入った箱をその箱に触れることなく予知でき、安全に金貨を手に入れることができる。
【0081】
なお、本発明に係る多者択一問題における正解の先取りでは、正解を先取りする前に出題が完了している。したがって、正解を先取りする受信事象が多者択一問題の出題に関する原因事象を頂点とする未来光円錐に収まっているので、この量子情報処理方法が相対論的因果律に反することはない。
【0082】
実施形態10.
本発明の実施形態10に係る量子情報処理方法について図10を参照しながら説明する。図10は、2個の解候補の中から正解を探索する解探索問題に関して、過去への通信を用いることによってnステップで正解に到達する解探索方法を説明する樹形図である。ただし、ここで1ステップとは1回の過去への通信に係る作業ステップのことである。また、図示の便宜上、nを3に制限し解候補数を8個とし、正解に至る過程を太線によって表した。
【0083】
まず、8個の全解候補を2分した第1段階グループと第1受信時空領域の2つのサブ領域Rc1011,Rc1012とを1対1に対応させる。
【0084】
つぎに、第1受信時空領域の2つのサブ領域Rc1011,Rc1012で受信した各々の正解信号の強さを比較し、強い正解信号を受信したサブ領域Rc1012に対応する第1段階グループを選択する。
【0085】
さらに、選択した第1段階グループを2分した第2段階グループと第2受信時空領域の2つのサブ領域Rc1021,Rc1022とを1対1に対応させる。
【0086】
また、第2受信時空領域の2つのサブ領域Rc1021,Rc1022で受信した各々の正解信号の強さを比較し、強い正解信号を受信したサブ領域Rc1021に対応する第2段階グループを選択する。
【0087】
第2受信時空領域のサブ領域Rc1021,Rc1022のいずれか一方または両方で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信したときは、過去への通信により第1送信時空領域Tr101から第1受信時空領域の対応するサブ領域Rc1012へ正解信号を送信する。図10では、第2受信時空領域のサブ領域Rc1021で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信した場合を示した。なお、閾値は、理論上最も強い正解信号の2分の1の強さというように予め決めておけばよい。
【0088】
以下、同様な処理を繰り返す。
【0089】
すなわち、選択した第2段階グループを2分した第3段階グループと第3受信時空領域の2つのサブ領域Rc1031,Rc1032とを1対1に対応させる。
【0090】
また、第3受信時空領域の2つのサブ領域Rc1031,Rc1032で受信した各々の正解信号の強さを比較し、強い正解信号を受信したサブ領域Rc1032に対応する解候補(1つの解候補からなる第3段階グループ)を選択する。
【0091】
第3受信時空領域のサブ領域Rc1031,Rc1032のいずれか一方または両方で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信したときは、過去への通信により第2送信時空領域Tr102から第2受信時空領域の対応するサブ領域Rc1021へ正解信号を送信する。図10では、第3受信時空領域のサブ領域Rc1032で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信した場合を示した。
【0092】
最後に、可能世界W106において、選択した解候補(1つの解候補からなる第3段階グループ)を問題に適用して正解だった場合、過去への通信により第3送信時空領域Tr103から第3受信時空領域の対応するサブ領域Rc1032へ正解信号を送信する。
【0093】
以上、2個の解候補の中から
正解をnステップで探索する量子情報処理方法をn=3の場合について述べた。なお、mを1以上2未満の自然数として、(2+m)個の解候補の中から解を探索する場合は、(2−m)個のダミー解候補を追加して解候補の数を2n+1個にした上で探索すればよい。その場合、探索過程でダミー解候補しか含まない解候補グループを選択したら、その時点で解なしとして探索を停止してよい。以下、具体例として巡回セールスマン問題における最適ルート探索の手順を述べる。
【0094】
まず、極端な低い目標コストを設定し、これを満足するルートが存在するかどうかを探索する。この場合、解が存在しなければ、各受信時空領域のサブ領域では、正解信号の強さが0に近づき予め設定した閾値に達することはない。
【0095】
そこで、目標のコスト段階を徐々に高くしながら同様の解探索を繰り返す。すると、あるコスト段階で、閾値以上の正解信号が届くことになる。そのコスト段階で、正解のルートが1つだけ存在する場合は、各受信時空領域の2つサブ領域の一方で閾値以上の強さの正解信号が受信され、最終的に1つの正解(目標コストに収まるルート)が選択される。
【0096】
一方、あるコスト段階において、複数の正解ルートが存在すると、特定の受信時空領域の両サブ領域で閾値以上の強さの正解信号が受信される。その場合、解候補グループの選択は量子力学的な不確定性にもとづく両者の正解信号の強弱を比較して行われ、最終的に複数の正解のうちから1つが選択される。
【0097】
最適ルート探索の過程で、コスト段階の刻みが大きすぎて、解なしの段階から複数の正解があるコスト段階にいきなり進んでしまった場合は、両段階の中間のコスト領域をさらに細かい刻みのコスト段階に分けて同様の探索を繰り返すことにより、最適のルートを探索することができる。
【0098】
以上のように、本発明の実施形態10に係る量子情報処理方法を用いれば、正解に到達する選択肢を次々に予知できるので、巡回セールスマン問題のようなNP困難な最適化問題を多項式時間で解く非決定性チューリングマシンが実現する。
【0099】
なお、本発明の実施形態10に係る量子情報処理方法では、解の探索を開始する前に出題が完了している。したがって、正解信号を受信する受信時空領域が解探索問題の出題に関する原因事象を頂点とする未来光円錐に収まっているので、この量子情報処理方法が相対論的因果律に反することはない。
【符号の説明】
【0100】
G11,G12,G21,G22,G31,G32,G41,G42,G51,G52:光子対源
L11,L12,L21,L22,L31,L32,L41,L42,L51,L52,R11,R12,R21,R22,R31,R32,R41,R42,R51,R52:光子ビーム
M11,M12,M13,M14,M21,M22,M23,M24,M31,M32,M33,M34,M41,M42,M43,M44,M45,M46,M47,M53,M54:ミラー
BS11,BS12,BS21,BS22,BS31,BS32,BS33,BS41,BS42、BS51,BS52:ビームスプリッタ
PA11,PA12,PA21,PA22,PA31,PA32:光子吸収体
D11,D12,D21,D22,D31,D32,D41,D42,D51,D52:光子検出器
CC11,CC21,CC31,CC41,CC51:同時計数器
SH11,SH21,SH31,SH41,SH51:シャッター
TPA21,TPA22,TPA31,TPA32,TPA51,TPA52:2光子吸収体
LS31:レーザー光源
OFC51,OFC52:コイル状光路
AWL:送信者Aliceの世界線
BWL:受信者Bobの世界線
O,O61,O71:通信の原因事象
ta1,ta2,ta3,tb1,tb2,tb3,Tta1,Tta2,Tta3,Ttb1,Ttb2,Ttb3,Rta1,Rta2,Rta3,Rtb1,Rtb2,Rtb3:時空領域
Tr,TT,Tr81,Tr82,Tr93:送信時空領域
Rc,RR,Rc81,Rc91,Rc92,Rc93,Rc1011,Rc1012,Rc1021,Rc1022,Rc1031,Rc1032,:受信時空領域
P81:計算の実行・非実行を選択する量子力学的確率事象
W81,W82,W91,W92,W93,W101,W102,W103,W104,W105,W106,W107,W108:可能世界
C81:計算
C91,C92,C93,C101,C102,C103,C104,C105,C106,C107,C108:解候補の適用

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の光子の放出時刻を測定すれば他方の光子の放出時刻も定まり、一方の光子のエネルギーを測定すれば他方の光子のエネルギーも定まる量子相関状態にある光子対を振り分けてなる一対の光子ビーム(L11,R11)を生成する光子対源(G11)を有し、
一方の光子の放出時刻を測定すれば他方の光子の放出時刻も定まり、一方の光子のエネルギーを測定すれば他方の光子のエネルギーも定まる量子相関状態にある光子対を振り分けてなる一対の光子ビーム(L12,R12)を生成する光子対源(G12)であって、中心波長が前記光子ビーム(L11)に等しい光子ビーム(L12)と、中心波長が前記光子ビーム(R11)に等しい光子ビーム(R12)とを生成する光子対源(G12)を有し、
前記光子ビーム(L11)と前記光子ビーム(L12)とを合波干渉させる合波干渉手段を有し、
前記光子ビーム(L11,L12)を前記合波干渉手段で干渉させるか干渉させないかを選択する干渉・非干渉選択手段を有し、
前記光子ビーム(R11)と前記光子ビーム(R12)とを合波干渉させるビームスプリッタを有し、
前記ビームスプリッタの2口の出力ポートから射出する2本の光子ビームに関して光子の同時計数率を測定する同時計数率測定手段を有し、
前記干渉・非干渉選択手段による干渉・非干渉の選択を送信信号に対応させて行うことにより信号を送信し、前記同時計数率測定手段で光子の同時計数率の変化を測定することにより信号を受信することを特徴とする量子通信装置。
【請求項2】
前記光子対源から前記ビームスプリッタまでの間の前記光子ビームの各光路において、集群した2光子を排除する2光子排除手段を有することを特徴とする請求項1に記載の量子通信装置。
【請求項3】
レーザー光をアンチバンチング光に加工し、前記アンチバンチング光をポンプ光として前記光子対源へ供給するアンチバンチングポンプ光供給手段を有することを特徴とする請求項1に記載の量子通信装置。
【請求項4】
請求項1の発明において、前記合波干渉手段をビームスプリッタとし、前記ビームスプリッタの2つの出力ポートから出力される光子の光路を連結一体とした周回光路と、前記周回光路を任意に遮断・開通する周回光路遮断・開通手段とからなる前記干渉・非干渉選択手段を有することを特徴とする請求項1に記載の量子通信装置。
【請求項5】
請求項4の発明において、前記周回光路遮断・開通手段を境として二つに分けられた周回光路の部分光路のそれぞれが互いに逆方向に巻かれたコイル状光路を有することを特徴とする請求項4に記載の量子通信装置。
【請求項6】
当該通信における受信事象が、通信の原因事象を頂点とする未来光円錐に収まる条件下で過去への通信を行う量子通信方法において、
送信地点と受信地点とを近接配置し、
前記送信地点から短時間の過去への通信手段を用いて前記受信地点に信号を送信し、
前記受信地点から短距離間の古典通信手段を用いて前記送信地点に信号を送信し、
前記短時間の過去への通信手段による1回の通信において信号が過去へ遡る時間が、前記短距離間の古典通信手段による1回の通信において信号が未来へ進む時間よりも長くなるように設定し、
前記短時間の過去への通信手段による通信と、前記短距離間の古典通信手段による通信とを交互に複数回繰り返すことにより、長時間の過去へ通信することを特徴とする量子通信方法。
【請求項7】
当該通信における受信事象が、通信の原因事象を頂点とする未来光円錐に収まる条件下で超光速の通信を行う量子通信方法において、
長距離間を通信する古典通信方法と請求項6に記載の長時間の過去へ通信する量子通信方法とを連続して用いることにより、長距離間を超光速で通信することを特徴とする量子通信方法。
【請求項8】
計算問題において、
前記計算問題出題の原因事象より未来の時刻に受信時空領域を設定し、
前記受信時空領域より未来の時刻において、量子力学的確率事象によって、計算の実行・非実行を選択し、
計算の実行を選択した場合は、計算終了後にその計算結果を、過去への通信を用いて前記受信時空領域へ送信し、
計算の非実行を選択した場合は、前記受信時空領域において受信した計算結果を、過去への通信を用いて前記受信時空領域へ送信することにより、前記受信時空領域において計算結果を先取りすることを特徴とする量子情報処理方法。
【請求項9】
多数の解候補の中から一つの解候補を選択して問題に適用すると正解不正解の判定ができる多者択一問題において、
前記多数の解候補と同数の受信時空領域とを1対1に対応させ、
前記受信時空領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
最も強い正解信号を受信した受信時空領域に対応する解候補を選択して問題に適用し、
適用した解候補が正解だった場合、適用した解候補に対応する受信時空領域へ過去への通信により正解信号を送信することにより、前記受信時空領域で前記多者択一問題の正解を先取りすることを特徴とする量子情報処理方法。
【請求項10】
個の解候補の中から正解を探索する解探索問題において、
前記2個の解候補を2分した第1段階グループと第1受信時空領域の2つのサブ領域とを1対1に対応させ、
第1受信時空領域の2つのサブ領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
強い正解信号を受信したサブ領域に対応する第1段階グループを選択し、
選択した第1段階グループを2分した第2段階グループと第2受信時空領域の2つのサブ領域とを1対1に対応させ、
第2受信時空領域の2つのサブ領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
強い正解信号を受信したサブ領域に対応する第2段階グループを選択し、
第2受信時空領域の各サブ領域のいずれか一方または両方で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信したときは、過去への通信により第1送信時空領域から第1受信時空領域の対応するサブ領域へ正解信号を送信し、
選択した第2段階グループを2分した第3段階グループと第3受信時空領域の2つのサブ領域とを1対1に対応させ、
第3受信時空領域の2つのサブ領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
強い正解信号を受信したサブ領域に対応する第3段階グループを選択し、
第3受信時空領域の各サブ領域のいずれか一方または両方で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信したときは、過去への通信により第2送信時空領域から第2受信時空領域の対応するサブ領域へ正解信号を送信し、
同様の処理を繰り返すことによって、
選択した第n−1段階グループを2分した解候補(1つの解候補からなる第n段階グループ)と第n受信時空領域の2つのサブ領域とを1対1に対応させ、
第n受信時空領域の2つのサブ領域で受信した各々の正解信号の強さを比較し、
強い正解信号を受信したサブ領域に対応する解候補(1つの解候補からなる第n段階グループ)を選択し、
第n受信時空領域の各サブ領域のいずれか一方または両方で予め設定した閾値以上の強さの正解信号を受信したときは、過去への通信により第n−1送信時空領域から第n−1受信時空領域の対応するサブ領域へ正解信号を送信し、
選択した解候補(1つの解候補からなる第n段階グループ)を問題に適用して正解だった場合、過去への通信により第n送信時空領域から第n受信時空領域の対応するサブ領域へ正解信号を送信することにより、2個の解候補の中から正解を探索する量子情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−217344(P2011−217344A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237018(P2010−237018)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(598041511)有限会社 ヒットデザイン (3)
【Fターム(参考)】