説明

量子鍵配送方法及び量子鍵配送システム

【課題】発生される相関光子対の数の期待値を一定の値に安定して維持しながら動作し、かつ光子の到来を検出するクロック信号を抽出する機能を具える。
【解決手段】ループ光路46から出力される相関光子対波長成分を含む各種波長成分を出力するための光サーキュレーター48、光ローパスフィルター54、第1光分岐器52、第2光分岐器70、第2光合波器72、及び第3光合波器74を具えている。第2光合波器の出力光は第1量子チャンネルを介して受信者Aに伝送され、第3光合波器の出力光は第2量子チャンネルを介して受信者Bに伝送される。第3光分岐器76及び第4光分岐器78の出力光からはそれぞれ第1及び第2制御信号が生成される。また、第1及び第2量子チャンネルを伝送された補助アイドラー光成分からはクロック信号が抽出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、量子鍵配送方法及び量子鍵配送システムに関し、特に量子相関光子対の発生状態を間接的にモニターし、このモニター結果に基づいて量子相関光子対の発生の期待値が長時間にわたって一定に保たれるように制御することが可能とされた量子相関光子対発生機能を内包し、かつ光子の到来を検出するクロック抽出機能を有する量子鍵配送方法及び量子鍵配送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
量子暗号通信システムは究極の秘匿通信の実現が期待でき、将来の高セキュリティー情報通信システムへの応用が期待される。
【0003】
量子暗号通信システムを実現するには、1パルスあたり1個の光子を発生する単一光子源、あるいは1パルスあたり1組の量子もつれ光子対を発生する光子もつれ光源が必要となる。長距離化の観点からは、特に量子もつれ光子対を使った方式が将来的には有望である。
【0004】
量子もつれ光子対を発生する手段として、従来から用いられている手法の一つは、2次あるいは3次の非線形光学媒質中での自然パラメトリック蛍光を用いる方法である。すなわち、2次あるいは3次の非線形光学媒質に、波長λp、波数kp、光角振動周波数ωpの励起光光子を入力すると、波長λs、波数ks、光角振動周波数ωsの信号光光子と、波長λi、波数ki、光角振動周波数ωiのアイドラー光光子とが出力される。この過程が自然パラメトリック蛍光の発現過程である。このとき、信号光光子、アイドラー光光子は必ず1組の対(ペア)となって同時に発生する。
【0005】
2次の非線形光学媒質を用いた場合、励起光光子、信号光光子、アイドラー光光子の波数、光角振動周波数の間には、それぞれ運動量保存則、エネルギー保存則に相当する次式(1)及び(2)で与えられる関係がある。
kp=ks+ki+K (1)
ωp=ωs+ωi (2)
【0006】
なお、2次の非線形光学媒質を用いた場合、自然パラメトリック蛍光現象は、自然パラメトリック下方変換(Spontaneous parametric down conversion、以下SPDCと略記することもある。)とも呼ばれる。
【0007】
一方、3次の非線形光学媒質を用いた場合、自然パラメトリック蛍光現象は自然4光波混合(Spontaneous four wave mixing、以下SFWMと略記することもある。)とも呼ばれる。各光子の波数、光角周波数は次式(3)及び(4)で与えられる関係を満足する。
2kp=ks+ki+K (3)
2ωp=ωs+ωi (4)
【0008】
ここで、式(1)及び式(3)に含まれるKは、非線形光学定数の周期的変調構造の周期に対応するパラメータである。このような非線形光学定数の周期的変調構造は、擬似位相整合により非線形光学効果を高効率化することを目的に、後述するLiNbO3結晶を非線形光学媒質として採用する場合などで現在頻繁に用いられている。
【0009】
上述の波数、光角振動周波数の相関関係以外にも、信号光光子とアイドラー光光子間には、偏波についても相関関係が存在する。このように、自然パラメトリック蛍光で発生する、相関のある信号光光子とアイドラー光光子の対、すなわち、量子もつれ光子対は、一般に、量子相関光子対あるいは単に相関光子対とも呼ばれるので、以後、相関光子対と表記することもある。
【0010】
これらの相関光子対を利用して、量子もつれ光子対状態を得る方法を実現できる装置が、量子相関光子対発生装置である。量子相関光子対発生装置を用いた、100km〜200km程度の長距離通信を実現させる量子暗号通信システムを実現するための量子鍵配送システムがこれまでに報告されている(例えば、非特許文献1あるは2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H. C. Lim, et al., "Stable source of high quality telecom-band polarization-entangled photon-pairs based on a single, pulse-pumped, short PPLN waveguide", OPTICS EXPRESS Vol. 16, No. 17, pp. 12460-12468 (2008)
【非特許文献2】J. F. Dynes, et al., "Efficient entanglement distribution over 200 kilometers", OPTICS EXPRESS Vol. 17, No. 14, pp. 11440-11449 (2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
数十kmを超える長距離通信が可能で、かつ、実用的な安定性を有する量子鍵配送システムを実現するには依然として多くの課題が存在する。
【0013】
第1点として、実用的なシステムを構築する実用的デバイスあるいはシステムは、少なくとも予め設定された規定値の状態を維持しながら、長時間安定して動作し続ける必要がある。例えば、現状の光通信システムで使用可能である光源として求められる性能は、その光出力値を長時間安定して維持し続けられることである。
【0014】
一方、実用的デバイスあるいはシステムは、同一条件で使用し続けてもその特性は経年変化する。従って、実用的デバイスあるいはシステムにあっては、その動作が規定状態からずれた状態にあるか否かを検出することができ、更に、そのずれをフィードバックして所望の規定状態にリカバーすることを可能とする仕組みを備えていることが要請される。
【0015】
現状の光通信システムにおいて利用される半導体レーザ等の光源の出力値は次のような手段で安定化が図られている。すなわち、光源の出力光の一部を分岐してこの分岐光の強度をモニターして、その強度が規定値より増減していれば駆動電流を増減させることで、光源の出力光の安定化が図られる。あるいは、共振器端面の一方を出力光取り出し側として設定し、他方の共振器端面からの出力光の強度をモニターして、その強度が規定値より増減していれば駆動電流を増減させることで半導体レーザの出力光の安定化を図ることが可能である。
【0016】
上述の点に照らして考えれば、現実の情報通信システムで使用できる実用的な量子相関光子対発生装置は、少なくとも1パルスあたりに含まれる相関光子対の数が、一定の平均値(期待値)に長期にわたって安定化され、かつ、安定化されていることを確認するための何らかの方法が確立されていることが要請される。
【0017】
一方、量子鍵配送システムにおいては、1パルスあたり1個の光子、すなわち1パルスあたり1対の光子対を利用することを前提としている。1パルスあたり複数個の光子対が存在すると、その一部を取り出して盗聴することが可能となってしまい、量子暗号による秘匿性に重大な欠陥をもたらす。
【0018】
従って、量子相関光子対発生装置に対して、上述したような現状の光通信用光源に対して適用されている光源出力安定化の手法は採用できない。この理由は、一部を分岐して検出することで、信号を伝達する光子そのものが消滅してしまうこと、更に測定するという行為自体が量子状態を変化(破壊)させ、受信者に正しい情報を伝達することができなくなってしまうことにある。
【0019】
すなわち、量子相関光子対発生装置に関して、設定された規定状態を維持しつつ安定して動作していること、例えば単一の相関光子対を安定して発生し続けていることを担保するための手法が必要とされるが、この手法についてはこれまで報告されてこなかった。
【0020】
次に第2点として、伝送距離が数十kmを超えるような通信システムにおいては、伝送路である自由空間や光ファイバーの屈折率の温度依存性等により、信号の到達時間はランダムに変動する。従って、長距離通信システムにおいて信号を正確に受信するには、到来信号からクロック信号を抽出するクロック抽出機能が不可欠である。この点については、量子情報通信システムにおいても同様である。
【0021】
従って、量子鍵配送システムを実現するにあっては、長時間にわたって安定な長距離量子鍵配送システムを実現するために、相関光子対の数の期待値が長時間にわたって一定に保たれるように監視するモニター機能、及び光子の到来を検出するクロック抽出機能を実現することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この出願の発明者は、相関光子対の発生過程と独立した過程で発生しその期待値が相関光子対の発生確率の期待値と相関する物理量が存在すれば、その物理量を測定する(モニターする)ことで相関光子対の発生過程に影響を与えることなく相関光子対の発生確率の期待値を知ることができることに着目した。すなわち、相関光子対の発生確率の期待値と相関する期待値を持つ物理量を利用すれば、相関光子対の量子状態そのものを測定することはできなくとも、その期待値については間接的に検出することが可能となることを意味する。この間接的に検出された物理量の期待値に基づいてフィードバック制御すれば、安定した期待値の数の相関光子対を出力し続けることが可能である量子相関光子発生機能を実現することが可能となることに思い至った。
【0023】
そして、この出願の発明者が鋭意研究を行った結果、相関光子対の発生確率の期待値が、光差周波発生(Differential Frequency Generation: DFG)の変換効率、すなわち出力されるアイドラー光の強度に対する出力される信号光の強度の比、との間に比例関係があることを見出した。すなわち、DFGの変換効率が、相関光子対の発生確率の期待値と相関する期待値を持つ物理量として利用可能であることを見出した。
【0024】
また、補助アイドラー光成分からはクロック信号が抽出でき、このクロック信号を利用すれば、送られてきた信号を正確に受信できることを確かめた。
【0025】
従って、この発明の目的は、発生される相関光子対の数の期待値を間接的にモニターし、このモニター結果に基づいて相関光子対発生過程を制御する量子相関光対の発生の期待値が長時間にわたって一定に保たれるように状態を制御することが可能とされ、かつ光子の到来を検出するクロック信号を抽出する機能を具えた量子鍵配送方法及びこの方法を実現する量子鍵配送システムを提供することにある。
【0026】
そこで、この発明の要旨によれば、以下の構成の量子鍵配送方法及びこの方法を実現する量子鍵配送システムが提供される。
【0027】
この発明の量子鍵配送方法は、以下の第1〜第6ステップを含んで構成される。
【0028】
第1ステップは、励起光が入力されると自然パラメトリック蛍光に基づいて信号光光子とアイドラー光子とからなる量子相関光子対を発生させ、かつ、補助信号光が入力されると誘導パラメトリック変換過程に基づいて補助アイドラー光を発生させる非線形光学媒質に、励起光と補助信号光とを同時に入力させるステップである。
【0029】
第2ステップは、非線形光学媒質から出力される出力光から、信号光成分、アイドラー光成分、及び補助アイドラー光成分を分離してそれぞれ別々の光路に分岐させて出力させるステップである。
【0030】
第3ステップは、信号光成分と補助アイドラー光成分とが入力されて、補助信号光成分と補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第1制御信号、及び補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第1電気補助アイドラー信号を発生させるステップである。
【0031】
第4ステップは、アイドラー光成分と補助アイドラー光成分とが入力されて、補助信号光成分と補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、励起光の強度、励起光の波長、非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第2制御信号、及び補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第2電気補助アイドラー信号を発生させるステップである。
【0032】
第5ステップは、第1制御信号もしくは第2制御信号の少なくともいずれか一つの制御信号に基いて励起光の強度、励起光の波長、非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整することで、補助アイドラー光成分の強度を一定化するステップである。
【0033】
第6ステップは、第1及び第2電気補助アイドラー信号からこの第1及び第2電気補助アイドラー信号に含まれるクロック信号を抽出して、このクロック信号に同期させて電気受信信号及び電気アイドラー信号をそれぞれ受信するステップである。
【0034】
この発明の第1の量子鍵配送システムは、非線形光学媒質と、励起光を出力する励起光源と、補助信号光を出力する補助信号光源と、励起光と補助信号光とを合波して出力する第1光合波器と、ループ光路と、第1光分岐器と、第2光分岐器と、第2光合波器と、第3光合波器と、第3光分岐器と、第4光分岐器と、第1信号処理部と、第2信号処理部と、第1クロック信号抽出部と、第2クロック信号抽出部と、第1受信部と、第2受信部と、を具えている。
【0035】
非線形光学媒質は、励起光が入力されると自然パラメトリック蛍光に基づいて信号光光子とアイドラー光子とからなる量子相関光子対を発生させ、かつ、補助信号光が入力されると誘導パラメトリック変換過程に基づいて補助アイドラー光を発生させる。
【0036】
ループ光路は、第1〜第3入出力端を具える偏波分離合成器と、この偏波分離合成器の第2及び第3入出力端を結んで構成されるループ光路であって、ループ光路中に非線形光学媒質と90度偏波面変換部とが設置されて構成される。
【0037】
第1光分岐器は、非線形光学媒質から出力される出力光を、信号光成分、補助信号光成分、アイドラー光成分、及び補助アイドラー光成分に分別して出力する。第2光分岐器は、補助アイドラー光成分を2分岐する。
【0038】
第2光合波器は、第2光分岐器で2分岐された一方の補助アイドラー光成分と信号光成分とを合波する。第3光合波器は、第2光分岐器で2分岐された他方の補助アイドラー光成分と、アイドラー光成分とを合波する。
【0039】
第3光分岐器は、第2光合波器から出力されて第1の量子チャンネルを伝播した補助アイドラー光成分と信号光成分からなる第1量子チャンネル伝送信号が入力されて、信号光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離して出力する。第4光分岐器は、第3光合波器から出力されて第2の量子チャンネルを伝播した補助アイドラー光成分とアイドラー光成分からなる第2量子チャンネル伝送信号が入力されて、アイドラー光成分光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離して出力する。
【0040】
第1信号処理部は、第3光分岐器から出力される補助アイドラー光成分が入力されて、補助信号光成分と補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第1制御信号、及び補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第1電気補助アイドラー信号を発生させる。
【0041】
第2信号処理部は、第4光分岐器から出力される補助アイドラー光成分が入力されて、補助信号光成分と補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第2制御信号、及び補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第2電気補助アイドラー信号を発生させる。
【0042】
第1クロック信号抽出回路は、第1電気補助アイドラー信号が入力されて、第1クロック信号を出力する。第2クロック信号抽出回路は、第2電気補助アイドラー信号が入力されて、第2クロック信号を出力する。
【0043】
第1受信部は、第1クロック信号にタイミング同期させて信号光成分を受信し、電気受信信号を受信する。第2受信部は、第2クロック信号にタイミング同期させてアイドラー光成分を受信し、電気アイドラー信号を受信する。
【0044】
この発明の第2の量子鍵配送システムは、非線形光学媒質がループ光路中に設定される代わりに、励起光及び補助信号光が直接非線形光学媒質に入力され、非線形光学媒質から出力される光を直接第1光分岐器に入力される構成とされている点が異なり、これ以外の構成は第1の量子鍵配送システムと同一である。
【0045】
この発明の第1及び第2の量子鍵配送システムによれば、この発明の量子鍵配送方法の第1〜第6ステップが、それぞれ以下の構成部分において実現される。
【0046】
第1ステップは、励起光源と補助信号光源と第1光合波器とによって実現され、第2ステップは、第1光分岐器によって実現され、第3ステップは、第1信号処理部によって実現され、第4ステップは、第2信号処理部によって実現され、第6ステップは、第1クロック信号抽出部と第1受信部並び第2クロック信号抽出部と第2受信部とによって実現される。そして第5ステップは、第1制御信号発生器または第2制御信号発生器からの制御信号に基き、励起光の強度、励起光の波長、もしくは非線形光学媒質の温度を調整することによって実現される。
【0047】
この発明の第2の量子鍵配送システムは、ループ光路を具えず、励起光と補助信号光とが合波されて非線形光学媒質に入力され、非線形光学媒質からの出力光が、第1光分岐器によって信号光成分、補助信号光成分、アイドラー光成分、及び補助アイドラー光成分に分別される構成となっている点が異なる以外、上述の第1の量子鍵配送システムと同一の構成である。
【0048】
なお、この発明の第2の量子鍵配送システムにおいては、励起光を2連光パルスで構成するのが好適である。
【発明の効果】
【0049】
この発明の量子鍵配送方法によれば、非線形光学媒質に励起光と補助信号光とが同時に入力され、非線形光学媒質から出力される補助信号光成分の強度と補助アイドラー光成分の強度とが検出される。そして補助信号光成分の強度に対する補助アイドラー光成分の強度の比が予め設定された値に等しくなるように制御される。
【0050】
補助信号光成分の強度に対する補助アイドラー光成分の強度の比はDFGの変換効率であり、この強度比と相関光子対の発生確率の期待値との関係が後述するように比例関係にあることから、この比が予め設定された値に等しくなるように制御し続ければ、一定の期待値の相関光子対を安定して発生し続けることが可能となる。
【0051】
また、モジュール化等の手段によって非線形光学媒質から出力される補助信号光の強度も安定した状態が保証されている場合は、補助アイドラー光成分の強度だけを検出して補助アイドラー光成分の強度が予め設定された値に保たれるように、一定の期待値の相関光子対を安定して発生し続けることが可能となる。またこのようなことは、通常の光モジュールでは十分期待できる。従って、本件では、補助信号光強度は一定で安定しているとして、補助アイドラー光強度の測定でもってDFG変換効率として代用できるものとして、以下説明を進める。また、補助信号光強度の測定がシステム上必要となる場合、後述の第1光分岐器52に補助信号光の出力ポートも設けて、そこで補助信号光強度を測定しても良い。また、この発明の第1及び第2の量子鍵配送方法によれば、補助アイドラー信号からこの補助アイドラー信号に含まれるクロック信号が抽出され、このクロック信号に同期させて電気受信信号が受信される。
【0052】
従って、この発明の量子鍵配送方法によれば、発生される相関光子対の数の期待値を間接的にモニターし、このモニター結果に基づいて相関光子対発生過程を制御する量子相関光子対の発生の期待値が長時間にわたって一定に保たれるように状態を制御することが可能とされ、かつ光子の到来を検出するクロック信号を抽出する機能を具えた量子鍵配送方法が実現される。
【0053】
この発明の第1及び第2量子鍵配送システムによれば、補助信号光成分の強度と補助アイドラー光成分の強度との比が予め設定された値に等しくなるように制御するための第1制御信号が第1信号処理部から発生される。また、補助信号光成分の強度と補助アイドラー光成分との比が予め設定された値に等しくなるように制御するための第2制御信号が第2信号処理部から発生される。
【0054】
補助信号光成分の強度が安定していることが前提とされる場合は、補助アイドラー光成分の強度が予め設定された値に保たれるように制御するための第1及び第2制御信号が、それぞれ第1及び第2信号処理部から発生される。前述のように、補助信号光強度の測定がシステム上必要となる場合、後述の第1光分岐器52に補助信号光の出力ポートも設けて、そこで補助信号光強度を測定する。また、第1クロック信号抽出回路によって第1クロック信号が生成され、第1受信部において第1クロック信号にタイミング同期させた電気受信信号が受信される。第2クロック信号抽出回路によって、第2クロック信号が生成され、第2受信部において第2クロック信号にタイミング同期させた電気アイドラー信号が受信される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明の量子鍵配送システムが内包する量子相関光子対発生機能を実現させるための基本構成及び動作原理についての説明に供する図である。
【図2】SPDC過程で発生された出力光の強度とDFG変換効率との相関関係を示す実験結果を示す図であり、(A)はQPM条件が満たされた条件下でのSPDC光の光スペクトルを示し、(B)はQPM条件が満たされた条件下でのDFG変換効率の励起光強度依存性を示し、(C)は励起光の強度が一定の条件でDFG変換効率の励起光波長依存性を示す。
【図3】カスケードSHG/SPDC方式並びにカスケードSHG/DFG方式による相関光子対発生の実験の結果を示す図であり、(A)はQPM条件が満たされた条件下でのカスケードSHG/SPDC光の光スペクトルを示し、(B)はQPM条件が満たされた条件下でのDFG変換効率の励起光強度依存性を示し、(C)は励起光の強度が一定の条件でDFG変換効率の励起光波長依存性を示す。
【図4】この発明第1実施例の量子鍵配送システムの構成を示す概略的ブロック構成図である。
【図5】この発明第2実施例の量子鍵配送システムの構成を示す概略的ブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、図1〜図5を参照してこの発明の実施形態につき説明する。以下の説明において、特定の素子および動作条件などを取り上げることがあるが、これら素子および動作条件は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。また、図4及び図5は、この発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係などを概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。
【0057】
<量子相関光子対発生のための基本構成及びその動作原理>
図1を参照してこの発明の量子鍵配送システムに内包されて利用される量子相関光子対発生機能を実現させるための基本構成及びその動作原理について説明する。量子相関光子対発生機能を実現させるための基本構成は、非線形光学媒質20と、励起光を出力する励起光源12と、補助信号光を出力する補助信号光源14と、励起光と補助信号光とを合波して出力する光合波器16と、光合波器16から出力される出力光を非線形光学媒質20に入力させる第1光結合器18と、非線形光学媒質20から出力される出力光を結合する第2光結合器28と、出力光に含まれる補助信号光成分と補助アイドラー光成分とに分別して出力する光分岐部22と、補助信号光成分の強度を検出する第1フォトディテクター24と、補助アイドラー光成分の強度を検出する第2フォトディテクター26と、制御信号発生部30とを具えている。なお後に詳細に述べるが、第1フォトディテクター24に相当する光部品は、本発明の量子鍵配送シシテムでは必ずしも必要としない。
【0058】
励起光源12は励起光(波長λp、波数kp、光角振動周波数ωp)を出力し、補助信号光源は補助信号光(波長λs-2、波数ks-2、光角振動周波数ωs-2)を出力する。そして、非線形光学媒質20は、励起光が入力することによって、自然パラメトリック蛍光に基づいて信号光光子(波長λs、波数ks、光角振動周波数ωs)とアイドラー光子(波長λi、波数ki、光角振動周波数ωi)とからなる量子相関光子対を発生させ、かつ、補助信号光が入力することによって誘導パラメトリック変換過程に基づいて補助アイドラー光(波長λi-2、波数ki-2、光角振動周波数ωi-2)を発生させる。
【0059】
波長λp、波数kp、光角振動周波数ωpである励起光を非線形光学媒質20に入力することにより、自然パラメトリック蛍光により、運動量保存則、エネルギー保存則に相当する関係を満足する波長λs、波数ks、光角振動周波数ωsの信号光光子と、波長λi、波数ki、光角振動周波数ωiのアイドラー光光子の相関光子対が発生する。
【0060】
また、波長λs-2、波数ks-2、光角振動周波数ωs-2である補助信号光を励起光と共に非線形光学媒質20に入力する。すると、DFGによって運動量保存則、エネルギー保存則が相当する関係を満足する波長λi-2、波数ki-2、光角振動周波数ωi-2の補助アイドラー光が発生する。
【0061】
すなわち、補助信号光、補助アイドラー光の波数及び光角振動周波数は、2次の非線形光学媒体を利用した場合は、次式(5)及び(6)を満足する。
kp=ks-2+ki-2+K (5)
ωp=ωs-2+ωi-2 (6)
【0062】
また2次の非線形光学媒体を利用した場合は、同様に、次式(7)及び(8)を満足する。
2kp=ks-2+ki-2+K (7)
2ωp=ωs-2+ωi-2 (8)
【0063】
ここで、式(1)及び式(3)に含まれるKは、非線形光学定数の周期的変調構造の周期に対応するパラメータである。
【0064】
補助アイドラー光がこの発明の量子鍵配送システムにおいて、受信者によってクロック信号を抽出するための信号として利用される。
【0065】
非線形光学媒体20から出力される補助信号光成分は第1フォトディテクター24によって検出され、補助アイドラー光成分は第2フォトディテクター26によって検出される。第1フォトディテクター24及び第2フォトディテクター26によってそれぞれ検出され補助信号光成分の強度信号及び補助アイドラー光成分の強度信号は制御信号発生部30に入力される。制御信号発生部30は出力比較器30-1と制御信号発生器30-2とを具えている。
【0066】
補助信号光成分の強度信号及び補助アイドラー光成分の強度信号は、まず出力比較器30-1に入力される。出力比較器30-1からは、補助信号光成分の強度と補助アイドラー光成分の強度との比に比例する信号が出力されて制御信号発生器30-2に入力される。そして、制御信号発生器30-2からは、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための制御信号が出力される。
【0067】
補助信号光源14から出力される補助信号光の強度が安定であり、また、モジュール化等の手段によって光合波器16、第1光結合器18、第2光結合器28等からなる光結合系も安定化が図られている場合は、非線形光学媒質20から出力される補助信号光の強度も安定している。この場合、第1フォトディテクター24からの出力信号は一定しているはずであるから、第1フォトディテクター24からの出力信号の代わりに一定値の電気信号に置き換えることが可能となり、第1フォトディテクター24は必ずしも必要とされない。しかしながら、何らかの原因によって非線形光学媒質20から出力される補助信号光の強度が変動することも想定されるので、第1フォトディテクター24によって常時非線形光学媒質20から出力される補助信号光の強度を検出し、補助信号光成分の強度と補助アイドラー光成分の強度との比を、制御信号を発生するための基準とすることもできる。後に述べる本発明の第1、第2実施例の量子鍵配送システムにおいては、第1のフォトディテクター24を利用しない構成として説明しているが、第1のフォトディテクター24が必要なシステム構成、すなわち補助信号光強度の測定が必要なシステム構成にも後に述べる簡易な手法で適用できる。
【0068】
第1フォトディテクター24及び第2フォトディテクター26、並びに制御信号発生部30は、ここでは相関光子対の発生状態のモニター及びその制御、並びにクロック信号生成を実行する装置の基本動作を説明するために専ら図示されている。後述するようにこの発明の第1及び第2実施例の量子鍵配送システムにおいては、図1を参照して説明した構成とは若干異なる形態で量子相関光子対発生機能として内包される。
【0069】
<量子相関光子対発生のための基本構成の動作の検証実験>
量子相関光子対発生のための基本構成の動作の検証実験において、非線形光学媒質として、MgOをドープした化学量論的組成のLiNbO3基板に周期的分極反転構造を施し、またプロトン交換とダイシングによるリッジ形状加工により光導波路を形成したPPLN導波路素子を用いた。PPLN素子の長さは6cm、リッジの幅を10μmとした。また、分極反転構造の周期Λを19.6μmとした。この周期Λは、このPPLN導波路素子で光第2高調波(Second Harmonic Generation、以下SHGと略記することもある。)を発生させた場合に最大のSHG出力が得られる励起光の波長(以下、QPM波長ということもある。)が1562.75nmとなるように設定されたものである。ただし、これらPPLN素子の長さ、周期Λ等の値は任意に設定可能であり、この発明の構成を限定するものではない。また、製作したPPLN導波路素子の伝播損失の大きさは、1550nm帯の光に対して、0.1dB/cm程度であった。
【0070】
検証実験は、上述のPPLN導波路素子を、温度制御素子(具体的にはペルチエクーラーを用いた。)や結合レンズ、光入出力のための光ファイバー等と共に光モジュール化して一体化したPPLNモジュールを用いて行った。このPPLNモジュールの光挿入損失波1560nm帯の光に対して3.7dB程度であった。
【0071】
(1)通常のSPDC過程
まず、PPLNモジュールにQPM波長が1562.75nmの半波長である781.375nmの波長の励起光を入力し、そのときのPPLNモジュールから出力される出力光の光スペクトルを測定した。これによって、上述の式(1)及び(2)によって与えられる関係を満足する単純な通常のSPDC過程(1段SPDC過程)によって発生される相関光子対の光スペクトルの測定が行われた。この測定に用いた光スペクトルアナライザーの波長分解能を5nmに設定した。また、励起光のPPLNモジュールへの入力強度を、当該PPLNモジュールの入力の直前部分で測定し+15dBmとなるように設定した。
【0072】
図2(A)〜図2(C)を参照して検証実験の結果を説明する。図2(A)〜図2(C)は、SPDC過程で発生された出力光の強度とDFG変換効率との相関関係を示す実験結果を示す図である。
【0073】
図2(A)はQPM条件が満たされた条件下でのSPDC光の光スペクトルを示しており、QPM波長(1562.75nm)を中心として対称な形状で広がった光スペクトルが観測された。これはSPDC過程によって生じた相関光子対のスペクトル分布を示しており、上述した式(2)の関係を満足する様々な波長の組み合わせの相関光子対が発生していることを示している。ここで観測されたSPDC光の光スペクトル強度は、それぞれの波長の組み合わせの相関光子対の発生確率に比例しているものと解釈される。
【0074】
また、励起光の強度を変化させ、あるいは励起光の波長を変化させて、SPDC光の光スペクトルを測定した。そして、励起光の波長から+10nm離調した波長でのSPDC光の強度を測定した。これは、それぞれの条件での+10nm離調した波長での相関光子対の発生確率、すなわち発生の期待値を測定していることに相当する。
【0075】
次に、PPLNモジュールに先の励起光と共に補助信号光も同時に入力して、PPLNモジュールから出力される出力光の光スペクトルを観測した。ここで、補助信号光波長もまた励起光の波長から+10nm離調した波長となるようにその都度設定した。そして、この観測された光スペクトルから、出力補助信号光の強度と式(6)を満足する光角振動周波数位置に生じる補助アイドラー光の出力強度を測定し、その強度比(補助アイドラー光の強度/補助信号光の強度)をDFGによる波長変換効率として定義した。
【0076】
そして上述の例と同様に、励起光強度を変化させ、あるいは励起光の波長を変化させて波長変換効率を測定した。これらの実験のデータから、SPDC光強度とDFGによる波長変換効率の関係をプロットして示した図が、図2(B)及び図2(C)である。
【0077】
図2(B)は励起光の波長をQPM波長(1562.75nm)の半分の波長(781.375nm)として固定して、すなわちQPM条件が満たされた条件下で、励起光の強度を変化させて測定した、SPDF光強度に対するDFG変換効率の関係を示している。また、図2(C)は励起光強度を+15dBmに固定して、励起光の波長を変化させたときのSPDC光強度に対するDFG変換効率の関係を示している。図2(C)の結果は、励起光、信号光、アイドラー光について上述した式(1)の擬似位相整合条件を厳密には満たしていない条件下で得られたものである。
【0078】
図2(B)及び図2(C)に示す結果から、SPDC光強度とDFGによる波長変換効率とは互いに比例関係にあることが確かめられた。因みに、図2(B)に示すSPDC光強度をxとしDFG変換効率をyで示し直線で近似すると、xとyとの関係はy=0.98217x+44.033で表される比例関係であり、図2(C)に示すSPDC光強度をxとしDFG変換効率をyで示し直線で近似すると、xとyとの関係はy=1.0055x+45.742で表される比例関係である。すなわち両者の直線の傾きが0.98217及び1.0055とほぼ等しいことから、図2(B)及び図2(C)に示すいずれの条件下においても比例係数まで一致することが分かる。
【0079】
図2(B)及び図2(C)に示す結果は、相関光子対の発生確率の期待値と、DFGによる波長変換効率は比例関係にあること、更にその比例係数は位相整合の有無によらないことを示している。
【0080】
(2)カスケードSHG/SPDC過程
この出願の発明者らは、相関光子対の発生過程としてSHGとSPDCとが単一の2次非線形光学媒質で生じることによるカスケードSHG/SPDC過程について研究した結果を既に報告している(参考文献1:荒平慎、岸本直、「PPLNリッジ導波路デバイスを用いたカスケードχ(2)方式によるパラメトリック下方変換光発生」第21回量子情報技術研究会試料、電子情報通信学会、量子情報技術時限研究専門委員会、pp.184-187、2009年)。この参考文献1に記載された方法によれば、PPLN素子に励起光を入力するとPPLN素子内でまずSHG光が発生する。次にこのSHG光を種光としてSPDC過程により相関光子対が発生する。このSHG/SPDC過程は擬似的な3次非線形光学効果と見ることもでき、入力励起光と発生する相関光子対(信号光及びアイドラー光)の波数及び光角振動周波数は、上述した式(3)および式(4)で与えられる関係を満たしている。
【0081】
上述した通常のSPDC過程とDFGとの関係に相当する、カスケードSHG/DFG過程が存在することはよく知られており、むしろ、カスケードSHG/DFG過程の方がより研究者の間では周知されている。すなわち、非線形光学媒質に補助信号光と励起光とを同時に入力しカスケードSHG/DFG過程を発現させると、上述した式(8)を満足する光角振動周波数の補助アイドラー光が発生する。
【0082】
次に、図2(A)〜図2(C)示した結果が得られた実験に用いたものと同じPPLN素子によって、カスケードSHG/SPDC方式並びにカスケードSHG/DFG方式による相関光子対発生の実験を行った。すなわち、入力励起光の強度及び波長を変化させて、カスケードSHG/SPDC方式で発生されるSPDC光の強度を測定した。入力励起光は波長が1532.75nmのQPM波長近傍の波長の光とした。更に引き続いて、励起光と補助信号光とを同時に非線形光学媒質に入力して、カスケードSHG/DFG方式による波長変換効率を測定した。
【0083】
ここでも、上述した通常のSPDC過程における相関光子対の発生のための検証実験と同様に、励起光の強度を変化させ、あるいは励起光の波長を変化させて、SPDC光の光スペクトルを測定した。そして、励起光の波長から+10nm離調した波長でのSPDC光の強度を測定した。次に、PPLNモジュールに先の励起光と共に補助信号光も同時に入力して、PPLNモジュールから出力される出力光の光スペクトルを観測した。ここで、補助信号光波長もまた励起光の波長から+10nm離調した波長となるようにその都度設定した。
【0084】
図3(A)〜図3(C)を参照してカスケードSHG/SPDC方式並びにカスケードSHG/DFG方式による相関光子対発生の実験の結果を説明する。図3(A)〜図3(C)は、SPDC過程で発生された出力光の強度とDFG変換効率との相関関係を示す実験結果を示す図である。図3(A)は励起光の波長をQPM波長(1562.75nm)としQPM条件が満たされた条件下でのSPDC光の光スペクトルを示す図であり、図3(B)は励起光の波長をQPM波長(1562.75nm)として固定し励起光強度を変化させたときのSPDC光強度に対するDFG変換効率を示す図であり、図3(C)は励起光強度を+15dBmに固定して、励起光の波長を変化させたときのSPDC光強度に対するDFG変換効率の関係を示している。
【0085】
図3(B)及び図3(C)に示す結果から、カスケードSHG/SPDC光強度とカスケードSHG/DFGによる波長変換効率とは互いに比例関係にあることが確かめられた。そして、図3(B)に示すSPDC光強度をxとしDFG変換効率をyで示し直線で近似すると、xとyとの関係はy=0.97976x+44.284で表される比例関係であり、図3(C)に示すSPDC光強度をxとしDFG変換効率をyで示し直線で近似すると、xとyとの関係はy=0.99326x+44.839で表される比例関係である。すなわち両者の直線の傾きが0.97976及び0.99326とほぼ等しいことから、図3(B)及び図3(C)に示すいずれの条件下においても比例係数まで一致することが分かる。
【0086】
図3(B)及び図3(C)に示す結果は、相関光子対の発生確率の期待値と、DFGによる波長変換効率は比例関係にあること、更にその比例係数は位相整合の有無によらないことを示している。
【0087】
この出願の発明者らは、PPLN素子の素子長を変え、またPPLN素子の光導波路構造を変えて上述した実験と同様の実験を試みた結果、相関光子対の発生確率の期待値とDFGによる波長変換効率との比例関係及び比例係数は、PPLN素子の素子長や導波路構造には依存しないことを確かめている。
【0088】
すなわち、この出願の発明者らは、上述の検証実験によって、以下の(A)及び(B)に示す知見を得ることができた。
(A)SPDC過程による相関光子対の発生確率の期待値と、DFGによる波長変換効率は比例関係にある。この関係は、通常のSPDC過程、カスケードSHG/SPDC過程のいずれの過程によっても成立する。また、この比例関係は、3次の非線形光学媒質におけるSFWMと補助アイドラー光のSFWM変換効率との関係においても成立していると推定される。
【0089】
(B)上述の比例係数は位相整合(擬似位相整合を含む。)条件を厳密に満たしているか否か、あるいはPPLN素子等の相関光子対の発生素子の素子長あるいは光導波路構造等を確定する構造パラメータには依存しない。従って、相関光子対の発生素子を構成する非線形光学媒質の組成が同一であれば、比例係数も同一の値を取る。
【0090】
<量子相関光子対発生のための動作態様>
以下2次の非線形光学媒質を利用してこの発明の実施形態の量子相関光子対発生装置の動作態様を、図1を再び参照して説明するが、3次の非線形光学媒質を利用して同様の量子相関光子対発生装置についても同様に説明できる。3次の非線形光学媒質を利用して構成される量子相関光子対発生装置の動作態様については、以下の説明において、SPDCとあるところをFWMと読み替え、DFGとあるところをSFWMと読み替えればよい。
【0091】
相関光子対の元となるSPDC過程を発現させるための励起光が励起光光源12から出力され、この励起光とのDFGによって補助アイドラー光を発生させるための補助信号光が補助信号光源14から出力される。励起光と補助信号光とは合波されて同時に非線形光学媒質20に入力される。ここでは非線形光学媒質20は2次の非線形光学媒質であるので、以下非線形光学媒質20を2次の非線形光学媒質20と表記することもある。
【0092】
図1に示す第1光結合器18は、光合波器16によって合波された励起光と補助信号光とを同時に2次の非線形光学媒質20に入力させるためのレンズ等の光学系である。第1光結合器18は、半透鏡あるいは波長多重フィルター等を利用して構成できる。
【0093】
2次の非線形光学媒質20からは、励起光と共に相関光子対の元となる、信号光及びアイドラー光の相関光子対、補助信号光、及び補助アイドラー光が第2光結合器28を介して出力される。このうち補助信号光及び補助アイドラー光に相当する波長成分のみを、光分岐部22によってそれぞれ個別に取り出される。
【0094】
一方、相関光子対に相当する波長成分についても、同様に光分岐部22によって補助信号光及び補助アイドラー光に相当する波長成分とは分別されて取り出される。このような取り出し動作は、周知のアレイ導波路格子型(Arrayed Waveguide-Grating: AWG)フィルター等を利用すれば実現される。
【0095】
分別して取り出された補助信号光及び補助アイドラー光の強度を、それぞれ第1フォトディテクター24及び第2フォトディテクター26によって検出される。そして第1フォトディテクター24及び第2フォトディテクター26からそれぞれ出力される強度信号が出力比較器30-1に入力されて両者の強度比を与える強度比信号が出力比較器30-1から出力されて制御信号発生器30-2に入力される。制御信号発生器30-2からは、強度比信号に従って両者の強度比が予め設定された値に等しくなるように、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための制御信号を発生する。図1において、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質の温度のそれぞれを制御するための機構については記載を省略してある。
【0096】
従って、出力比較器30-1から出力される強度比信号が予め設定しておく規定値になるように制御すれば、相関光子対の発生確率の期待値が、予め設定された所望の期待値に安定化される。
【0097】
出力比較器30-1から出力される強度比信号が一定の値の規定値に安定化されるように制御するための手法の一つは、予め設定された規定値からの強度比信号のずれ量に応じた制御信号を制御信号発生器30-2から出力させて、この制御信号によって励起光源12の出力強度を調整する構成とすればよい。この手法は、強度信号に基づいて周知の帰還制御を行うことで実現可能である。
【0098】
あるいは後述するように、制御信号に基づいて励起光源12の出力波長を調整することによって位相整合条件からのずれを与える方法によっても実現可能である。
【0099】
カスケード方式によらない通常のDFGにおいては、DFG変換効率、ひいては相関光子対の発生確率の期待値は励起光強度に比例する。従って、励起光強度を調整することで、上述の制御が可能である。
【0100】
一方、カスケードSHG/DFGにおいては、DFG変換効率は励起光の強度の2乗に比例するので、励起光強度を調整することで、上述の制御が可能である。
【0101】
また、2次の非線形光学媒質20による非線形光学効果の効率は温度に依存するので、制御信号に応じて2次の非線形光学媒質20の温度を制御することによっても上述の制御が可能である。
【0102】
同様に、励起光の波長が位相整合条件からずれると、2次の非線形光学媒質20の屈折率分散のために、上述の式(1)、(3)、(5)、及び(7)で与えられる位相整合条件からずれるため、DFG変換効率は励起光の波長に依存する。また、2次の非線形光学媒質20の温度を変化させると、屈折率の温度依存性によって位相整合条件が変化し、DFG変換効率が変化する。この現象を利用したのが上述の2次の非線形光学媒質20の温度の制御による相関光子対の発生確率の期待値の制御である。
【0103】
次に、励起光として連続光ではなくパルス光を用いる場合を考える。一般的には、情報通信システムでは信号のやり取りは時間同期して行うので、励起光としてパルス光を利用するのが一般的である。このとき、相関光子対なる信号光光子とアイドラー光光子は、励起光パルスに同期してパルス状に発生する。更に、補助信号光を連続光としても補助アイドラー光はパルス光となる。
【0104】
これら励起光、信号光、アイドラー光、補助アイドラー光の各パルス光は、時間同期して発生する。従って、補助アイドラー光パルスの到着時間から、信号光光子、アイドラー光光子の到着時間を知ることができる。このことから、補助アイドラー光パルスに対してクロック抽出を実行して、そのクロック信号に同期して信号光光子、アイドラー光光子を検出すれば、信号光光子、アイドラー光光子の同期検出が可能となる。
【0105】
<この発明の第1実施例の量子鍵配送システム>
図4を参照してこの発明の第1実施例の量子鍵配送システム構成及びその動作について説明する。この発明の第1実施例の量子鍵配送システムは、偏波分離合成器42を含んで構成されるサニャック干渉計型のループ光路46を具えている。そして、このループ光路46中には相関光子対を発生する非線形光学媒質40が設置され、また90度偏波面変換部44が設けられている。90度偏波面変換部44は、この90度偏波面変換部44を通過する直線偏光の偏波面を90度回転させる。またループ光路46外に第1光分岐部として機能する第1光分岐器52を具えている。
【0106】
ループ光路46は、好ましくは偏波保存光学系で構成されるのがよい。例えば偏波面保存光ファイバーを利用して構成するのが好適であるが、光結合レンズを用いて空間的に結合させた光学系とすることも可能である。このループ光路46を偏波面保存光ファイバーではなく、通常の偏波面保存性を有さない光ファイバーによって結合されて形成された光モジュールとして構成する場合にあっても、適宜偏波面コントローラー等の付加光学部品を用いることによって、擬似的に偏波面保存光学系を実現することが可能である。また、90度偏波面変換部44は光ファイバー融着法等で形成可能であるが、1/2波長板によって実現してもよい。
【0107】
この発明の第1実施例の量子鍵配送システムは、励起光及び補助信号光をループ光路46に入力し、また、ループ光路46から出力される相関光子対の波長成分のみを選択的に抽出して出力するための光入出力用光学部品として、光サーキュレーター48、第1光合波器50、第1光分岐器52、光ローパスフィルター54を具えている。励起光は励起光源62で発生され、補助信号光は補助信号光源64で発生される。
【0108】
図1に示した光合波器16及び第1並びに第2光結合器18、28に相当する役割は、図4に示すこの発明の第1実施例の量子鍵配送システムにおいては、光サーキュレーター48、第1光合波器50、偏光分離合成器42によって果される。また、光分岐部22は第1光分岐器52に相当する。また、偏波分離合成器42は、第1入出力端42-1、第2入出力端42-2、及び第3入出力端42-3を具えている。
【0109】
第1入出力端42-1から入力されたp偏波成分は第2入出力端42-2から出力され、第1入出力端42-1から入力されたs偏波成分は第3入出力端42-3から出力される。また、第2入出力端42-2から入力されたp偏波成分は第1入出力端42-1から出力され、第3入出力端42-3から入力されたs偏波成分は第1入出力端42-1から出力されるように設定されている。なお、偏波分離合成器42は第4入出力端も形式的に具えているが、第4入出力端は、第2入出力端42-2から入力されたp偏波成分、第3入出力端42-3から入力されたp偏波成分が出力されるポートであるが、ここでは使用する必要がないので図4においては第4入出力端を省いて示してある。
【0110】
すなわち、ループ光路46中に非線形光学媒質40と90度偏波面変換部44とが設置され、偏波分離合成器42の第1入出力端42-1から励起光及び補助信号光とが入力され、かつ第1入出力端42-1から補助信号光成分、補助アイドラー光成分、信号光成分、及びアイドラー光成分が出力される構成とされている。また、偏波分離合成器42の第2入出力端42-2が、ループ光路46の右回りに伝播する励起光及び補助信号光に対して第1光結合器として動作すると共に、ループ光路46の左回りに伝播する励起光及び補助信号光に対して第2光結合器として動作する。また、偏波分離合成器42の第3入出力端42-3が、ループ光路46の左回りに伝播する励起光及び補助信号光に対して第1光結合器として動作すると共に、ループ光路46の右回りに伝播する励起光及び補助信号光に対して第2光結合器として動作する。
【0111】
偏波分離合成器42は、例えば、市販されている偏波分離合成器から適宜選択して利用することが可能である。すなわち、薄膜を利用して形成されたタイプの偏波分離合成器を利用してもよいし、複屈折結晶を用いたいわゆる偏光プリズムを用いたタイプの偏波分離合成器を利用してもよい。
【0112】
更に、この発明の第1実施例の量子鍵配送システムは、励起光及び補助信号光をループ光路46に入力し、また、ループ光路46から出力される相関光子対波長成分を出力するための光入出力用光部品として光サーキュレーター48、第1光合波器50、第1光分岐器52、光ローパスフィルター52、第2光分岐器70、第2光合波器72、及び第3光合波器74を具えている。
【0113】
光サーキュレーター48は、補助信号光を入力するための第1入力端48-1と、第1入力端48-1から入力された入力光を出力し第1光合波器50へと結合する第2入出力端48-2と、第2入出力端48-2から入力された入力光を出力する第3入出力端48-3とを具えている。
【0114】
光サーキュレーター48の第2入出力端48-2から出力される補助信号光は、第1光合波器50において励起光と合波されて、その後補助信号光と励起光とは偏波分離合成器42の第1入出力端42-1へと入力される。このような第1光合波器50として好適なものの一例はAWGフィルターである。あるいは、第1光合波器50として誘電体多層膜フィルターを用いて構成される光バンドパスフィルターを利用することも可能である。すなわち、光バンドパスフィルターの透過ポートから励起光を入力し、反射ポートから補助信号光を入力すれば、共通ポートから励起光と補助信号光が合波されて出力される。ここでは、第1光合波器50を、誘電体多層膜フィルターを用いた光バンドパスフィルターであるものとして説明する。
【0115】
励起光と補助信号光はその後、それぞれのp偏波成分が偏波分離合成器42の第2入出力端42-2から出力され、また、s偏波成分が第3入出力端42-3から出力される。これら偏波分離された励起光のp偏波成分とs偏波成分は、以下に述べる理由によって同一の光強度でなければならない。そのために、偏波分離合成器42の第1入出力端42-1へと入力される励起光は、p偏波成分強度とs偏波成分強度の強度比が1:1であるように偏波調整されていなければならない。このように用意された励起光を、ここでは、45度偏光の励起光と呼ぶものとする。このような励起光は、市販の偏波面コントローラー等を用いて容易に準備することが可能である。
【0116】
一方、補助信号光の偏波状態については後述するように上述した励起光に対する制約に相当する制約は存在しない。
【0117】
光ローパスフィルター54は、2次の非線形光学媒質を用いた場合に、SPDC過程における励起光成分、またはカスケードSHG/SPDC過程におけるSHG光成分を除去する役割を果たす。
【0118】
第1光分岐器52は、光ローパスフィルター54の通過光のうち、少なくとも信号光波長成分(λs)、アイドラー光波長成分(λi)を別々の光経路に切り分けて出力する役割を果たす。更に、補助アイドラー光波長成分(λi-2)についても別の光経路に切り分けて出力する役割を果たす。このようなフィルターとしては、少なくとも上述の4つの波長成分を透過波長成分として有するAWG型の波長選択型(Wavelength Division Multiplexing: WDM)フィルター等を適宜利用することが可能である。
【0119】
第1光分岐器52を通過した補助アイドラー光成分は、第2光分岐器70において2分岐される。そして一方の分岐出力が第2光合波器72において信号光成分と合波される。また、他方の分岐出力が第3光合波器74においてアイドラー光成分と合波される。
【0120】
第2光合波器72から出力された信号光成分と補助アイドラー光成分との合波光、第3光合波器74から出力されたアイドラー光成分と補助アイドラー光成分との合波光は、それぞれ光ファイバーや自由空間などによる第1量子チャンネル、第2量子チャンネルを介して受信者A、受信者Bに伝送される。
【0121】
第1量子チャンネルを伝送された信号光成分と補助アイドラー光成分とは、第3光分岐器76によって信号光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離される。補助アイドラー光成分は、第1信号処理部80で受信されて第1電気補助アイドラー信号に変換されてその一部が第1クロック抽出部88における第1クロック信号抽出のために使われる。また、第1信号処理部80から出力される第1電気補助アイドラー信号の残りが第1制御信号発生器84に入力されて、この強度に応じた第1制御信号が生成されて出力される。一方、第3光分岐器76から出力される信号光成分が電気信号に変換されて電気受信信号として、第1受信部92によって受信者Aに受信される。その際、第1クロック抽出部88から出力された第1クロック信号にタイミング同期された同期検出が実行される。
【0122】
第2量子チャンネルを伝送されたアイドラー光成分と補助アイドラー光成分とは、第4光分岐器78によってアイドラー光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離される。補助アイドラー光成分は、第2信号処理部82で受信されて第2電気補助アイドラー信号に変換されてその一部が第2クロック抽出部90における第2クロック信号抽出のために使われる。また、第2信号処理部82から出力される第2電気補助アイドラー信号の残りが第2制御信号発生器86に入力されて、この強度に応じた第2制御信号が生成されて出力される。一方、第4光分岐器78から出力されるアイドラー光成分が電気信号に変換されて電気アイドラー信号として、第2受信部94によって受信者Bに受信される。その際、第2クロック抽出部90から出力された第2クロック信号にタイミング同期された同期検出が実行される。
【0123】
上述の第1及び第2制御信号によって、それぞれ第1及び第2古典チャンネル(図示を省略してある。)を介して、励起光源62から出力される励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質40の温度の少なくともいずれか一つの値が調整される。この第1及び第2制御信号による調整手法は、周知のフィードバックによる制御方法が適宜利用できるので、その具体的な説明を省略する。なお、上述の第1及び第2制御信号が実際に出力するのは、補助アイドラー光強度の測定値であり、本来所望とされる補助信号光・補助アイドラー光の強度比そのもではない。しかしながら、量子相関光子対発生装置が光モジュール化などにより安定化されていて、少なくとも補助信号光強度に関しては安定化されていれば、補助アイドラー光強度をもって補助信号光・補助アイドラー光の強度比として代用することができる。また、システム構成上、補助信号光強度の測定が必要であれば、第1光分岐器52に補助信号光の出力ポートも設けて、その出力強度を測定すればよく、この場合より高安定なシステム構成も期待できる。
【0124】
この発明のこの発明の第1実施例の量子鍵配送システムによれば、受信者A、受信者Bは、受信者A、受信者Bがそれぞれ第1受信部92、第2受信部94で受信した信号を用いることで、量子鍵配送システムに必要とされる共通鍵を共有することができる。
【0125】
ここで、再び図4を参照して、この発明の第1実施例の量子鍵配送システムの動作について具体的に説明する。その前提として、非線形光学媒質40に入出力する励起光、補助信号光、補助アイドラー光、信号光、アイドラー光は同一の偏波方向の直線偏光であるものとする。このような状態は、例えば、2次の非線形光学媒質40としてPPLN結晶を用いた場合、PPLN結晶の2次の非線形光学定数のd33成分を利用し、そのためにPPLN結晶のz軸方向に偏波した励起光を入力させることで実現される。
【0126】
偏波分離合成器42の第2入出力端42-2、第3入出力端42-3から、それぞれp偏波、s偏波で同一強度の励起光(波長λp)が入力される。p偏波方向と、PPLN結晶のz軸方向が一致するように、2次の非線形光学媒質であるPPLN結晶を配置する。PPLN結晶は非線形光学媒質40に相当するので、以後、非線形光学媒質40と記載する代わりにPPLN結晶と記載することもある。
【0127】
励起光が45度偏光の励起光であれば、偏波分離合成器42の第2入出力端42-2、第3入出力端42-3から、それぞれp偏波、s偏波で、同一強度の励起光が出力される。p偏波方向と、PPLN結晶のz軸方向が一致するようにPPLN結晶を配置する。
【0128】
まず、ループ光路46を時計回りに伝播する励起光によって生じる非線形光学過程を考える。この励起光とは、偏波分離合成器42の第2入出力端42-2からp偏波光として出力される励起光成分のことを指す。
【0129】
ここでは、相関光子対発生過程としては通常の1段SPDC過程のみを考える。このときSPDC過程により、信号光とアイドラー光とからなる相関光子対が発生する。また、補助信号光のp偏波成分が存在すれば、DFG過程により補助アイドラー光が発生する。
【0130】
PPLN結晶から出力される、同一の偏波状態にある励起光、信号光、アイドラー光、補助信号光、及び補助アイドラー光は、PPLN結晶から出力されて90度偏波面変換部44を通過する。この際、偏波面が90度回転してs偏波となって偏波分離合成器42の第3入出力端42-3に入力され、その結果、偏波分離合成器42の第1入出力端42-1からs偏波として出力される。
【0131】
すなわち、ループ光路46を時計回りに伝播する励起光によって、s偏波の信号光とアイドラー光とからなる相関光子対、並びにs偏波の補助信号光及び補助アイドラー光が、偏波分離合成器42の第1入出力端42-1から出力される。一方、ループ光路46を反時計回りに伝播する励起光、すなわち偏波分離合成器42の第3入出力端42-3からs偏波光として出力される励起光成分によって発現する非線形光学過程を考える。
【0132】
励起光は90度偏波面変換部44を通過することで90度偏波回転が起こりp偏波となる。補助信号光のs偏波成分が存在すれば、やはり90度偏波回転が起こりp偏波となる。その後、励起光等がPPLN結晶に入力するとき、励起光及び補助信号光の偏波はPPLN結晶のz軸の方向と一致する。ループ光路46を反時計回りに伝播する励起光が入力されることで、ループ光路46を時計回りに伝播する励起光によって発生したのと同様に、SPDC過程によって信号光とアイドラー光からなる相関光子対が発生し、また、DFG過程によって補助アイドラー光が発生する。
【0133】
90度偏波面変換部44での光損失を無視すると、PPLN結晶に入力する励起光強度は、ループ光路46を時計回りに伝播する励起光がPPLN結晶に入力するときの励起光強度と等しい。
【0134】
ここで、PPLN結晶の前後から入力される時計回り及び反時計回りの励起光の偏波方向が同一であって、かつその強度も互いに等しいことから、PPLN結晶が中心対称構造であれば、PPLN結晶内で発生するSHG光とSPDC相関光子対の発生確率は、時計回り及び反時計回りの励起光に対して互いに等しい。これは、補助アイドラー光の変換効率に対しても同様である。
【0135】
反時計回りの励起光に対してPPLN結晶から出力される励起光、信号光、アイドラー光、補助信号光、及び補助アイドラー光は、p偏波として偏波分離合成器42の第2入出力端42-2に入力され、その結果、偏波分離合成器42の第1入出力端42-1からp偏波として出力される。すなわち、ループ光路46を反時計回りに伝播する励起光によって、p偏波の信号光とアイドラー光とからなる相関光子対、並びにp偏波の補助信号光及び補助アイドラー光が、偏波分離合成器42の第1入出力端42-1から出力される。
【0136】
励起光の強度が十分に弱い場合、偏波分離合成器42の第1入出力端42-1から出力される信号光とアイドラー光とからなる相関光子対は、ループ光路46を時計回りに伝播する励起光によって発生したs偏波の相関光子対か、ループ光路46を反時計回りに伝播する励起光によって発生したp偏波の相関光子対のどちらか一方となる。すなわち、この発明の第1実施例の量子相関光子対発生装置によって発生される相関光子対の量子状態は、ループ光路46を時計回りに伝播する相関光子対と、反時計回りに伝播し時計回り成分とは偏波直交した相関光子対の重ね合わせ状態となる。つまり、偏波量子もつれ光子対が発生する。
【0137】
以下の説明では、この偏波量子もつれ光子対の一方の成分である信号光成分を受信者Aに、他方の成分であるアイドラー光成分を受信者Bに伝送するものとする。
【0138】
ループ光路46から出力される補助信号光の強度は、ループ光路46に入力される補助信号光の偏波状態によらず一定である。また、補助アイドラー光の変換効率は、ループ光路46を時計回りに伝播する補助アイドラー光と、反時計回りに伝播する補助アイドラー光とは同一なので、ループ光路46から出力される補助アイドラー光の強度も、ループ光路46に入力される補助信号光の偏波状態に依らず一定である。すなわち、補助信号光の偏波状態によらず、ループ光路46から出力される補助アイドラー光の出力強度は、変換効率が一定なので、補助信号光の偏波制御は不要である。
【0139】
偏波分離合成器42の第1入出力端42-1から出力された励起光、補助信号光、補助アイドラー光、信号光、アイドラー光は、第1光合波器50において、励起光成分は理想的には全て透過ポートへと出力される。一方、補助信号光、補助アイドラー光、信号光、アイドラー光は反射ポートへと出力され、光サーキュレーター48を介してその第3入出力端48-3に出力される。そして、光ローパスフィルター54において、励起光の残存成分が除去される。
【0140】
第1光分岐器52において、光ローパスフィルター54を通過した光のうち、少なくとも信号光波長成分(λs)、アイドラー光波長成分(λi)が別々の光経路に切り分けられて出力される。更に、補助アイドラー光波長成分(λi-2)もまた別の光経路に切り分けられて出力される。
【0141】
それぞれの光経路には余分な波長成分が混同しないように、第1光分岐器52には十分な波長分離能力が要求される。このような条件を満たす第1光分岐器52としては、少なくとも上述した4つの波長成分を透過波長成分とするAWG型のWDMフィルター等を利用することが可能である。また、例えば、ファイバーブラッググレーティング等と組み合わせて励起光の波長成分を十分に抑制することが可能である構成とすることもできる。
【0142】
第1光分岐器52を通過した補助アイドラー光成分からは、長距離伝送用の第1及び第2クロック信号が抽出される。補助アイドラー光成分を受信者A及び受信者Bの双方に送信するために、第2光分岐器70によって補助アイドラー光成分が2分岐される。そして第2光分岐器70から出力される一方の分岐出力が、第2光合波器72において信号光成分と合波される。また、第2光分岐器70から出力される他方の分岐出力が、第3光合波器74においてアイドラー光成分と合波される。
【0143】
第2光合波器72から出力される信号光成分と補助アイドラー光成分との合波光、第3光合波器74から出力されるアイドラー光成分と補助アイドラー光成分との合波光は、それぞれ光ファイバーや自由空間等による、第1量子チャンネル、第2量子チャンネルを介して、それぞれ受信者A、受信者Bに伝送される。
【0144】
第1量子チャンネルを伝播した信号光成分と補助アイドラー構成分との合波光は、第3光分岐器76によって信号光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離される。補助アイドラー光成分は第1信号処理部80に入力されて第1電気補助アイドラー信号に変換される。その第1信号処理部80で変換されて生成された第1電気補助アイドラー信号の時間波形が受信者Aにおけるクロック抽出に、またその強度が発生した相関光子対の数の期待値のモニターに利用される。
【0145】
第3光分岐器76から出力される信号光成分は電気信号に変換されて電気受信信号として、第1受信部92によって受信者Aに受信される。その際、上述したように、第1クロック信号抽出部88から出力される第1クロック信号にタイミング同期された同期検出が実行される。
【0146】
また、第2量子チャンネルを伝播したアイドラー光成分と補助アイドラー光成分とは、第4光分岐器78によってアイドラー光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離される。補助アイドラー光成分は、第2信号処理部82に入力されて第2電気補助アイドラー信号に変換される。その第2信号処理部82で変換されて生成された第2電気補助アイドラー信号の時間波形が受信者Bにおけるクロック抽出に、またその強度が発生した相関光子対の数の期待値のモニターに利用される。
【0147】
第4光分岐器78から出力されるアイドラー光成分は電気信号に変換されて電気アイドラー信号として、第2受信部94によって受信者Bに受信される。その際、上述したように、第2クロック信号抽出部90から出力される第2クロック信号にタイミング同期された同期検出が実行される。
【0148】
生成される相関光子対の数の期待値を一定化させるための励起光強度等の制御には、上述の第1制御信号あるいは第2制御信号のいずれか一方による制御を行えば十分である。
【0149】
しかしながら、第1制御信号と第2制御信号とを比較することによって、例えば、第1量子チャンネルと、第2量子チャンネルとでそれぞれ生じた過剰損失等を見積もることが可能となる。すなわち、一方の量子チャンネルで過剰損失が生じれば、その量子チャンネルでの伝送後の補助アイドラー光強度が低下するため、第1制御信号と第2制御信号との間にその強度差が発生する。第1制御信号と第2制御信号とを両方利用することによって、このような状況を考慮に入れた、量子チャンネルにおける過剰損失の検出機能をも有する量子鍵配送システムが実現される。
【0150】
なお、上述の説明では、相関光子対発生過程としては通常の1段SPDC過程のみを考えたが、これ以外の非線形光学過程を用いる方式でも、量子相関光子対発生装置が実現可能であることは明らかである。
【0151】
例えば、2次の非線形光学媒質におけるカスケードSHG/SPDC過程を利用して量子相関光子対発生装置を実現させることも可能である。この場合、光ローパスフィルター54は、SHG光の除去を主目的として利用される。またこの場合、励起光をカットするための付加的な光バンドパスフィルターを利用することもある。また、この場合、励起光の波長、信号光波長、アイドラー光波長、補助信号光波長、及び補助アイドラー光波長が同じ波長帯域にあるため、特に第1光分岐器52における波長分離を十分に図ることが重要である。この場合、DFG過程はカスケードSHG/DFG過程に相当する。
【0152】
同様に、3次の非線形光学媒質におけるSFWM過程を利用して量子鍵配送システムを実現することも可能である。この場合、半波長領域の光、すなわち、単純SPDCにおける励起光やカスケードSHG/SPDC過程において発生するSHG光が存在しないので、光ローパスフィルター54は不要である。
【0153】
一方、カスケードSHG/SPDC過程を利用する場合と同様に、励起光の波長、信号光波長、アイドラー光波長、補助信号光波長、及び補助アイドラー光波長が同じ波長帯域にあるため、第2のWDMフィルター52における波長分離十分に図ることによって、上述した通常の1段SPDC過程のみを想定して成立する量子鍵配送システムと同様な効果を期待することができる。なお、この場合、補助アイドラー光はFWM過程によって発生する。
【0154】
なお、この発明の第1実施例の量子鍵配送システムを示す図4においては、第1あるいは第2制御信号によって、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための制御機構についてその記載を省略してある。励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質の温度の具体的な制御方法は、第1及び第2制御信号発生器84及び86から出力される制御信号に基づき周知のアルゴリズムを応用すれば実現される。
【0155】
<この発明の第2実施例の量子鍵配送システム>
図5を参照してこの発明の第2実施例の量子鍵配送システムの構成及びその動作について説明する。上述したこの発明の第1実施例の量子鍵配送システムは偏波量子もつれ光子対を利用する鍵配送システムであったのに対し、この発明の第2実施例の量子鍵配送システムは、時間位置量子もつれ光子対を利用する通信システムである。しかしながら、上述した第1実施例の量子鍵配送システムとは、その基本的な部分において一部重複した構成となっている。従って、図5では、第1実施例の量子鍵配送システムと同一構成要素には同一の符号を付して示し、その重複する機能の説明を一部省略する場合がある。
【0156】
時間位置量子もつれ光子対については、文献(参考文献2:井上恭著、「工学系のための量子工学」森北出版株式会社、2008年2月6日、第1版第1刷発行、pp.154-156)等において既に解説がなされている。
【0157】
図5に示すように、2連光パルスからなる励起光を励起光源62から出力させてこの励起光を非線形光学媒質40に入力する。励起光パルスのピーク強度が適切であれば、非線形光学媒質40におけるSPDC過程、カスケードSHG/SPDC過程、あるいはSFWM過程によって発生される相関光子対の量子状態は、1発目の励起光パルスから生じる状態と2発目の励起光パルスから生じる状態との重ね合わせの状態となり、すなわち時間位置量子もつれ光子対となる。ここで、SPDC過程、カスケードSHG/SPDC過程に基づいて動作させる場合は非線形光学媒質40として2次の非線形光学媒質を選択し、SFWM過程に基づいて動作させる場合は非線形光学媒質40として3次の非線形光学媒質を選択して利用する。
【0158】
1発目及び2発目のそれぞれの励起光パルスで生じる相関光子対の数の期待値の安定化は、上述したこの発明の第1実施例の量子鍵配送システムにおいて実行した手法と同一である。また、補助アイドラー光を長距離通信のための第1及び第2クロック信号を抽出するための信号として利用される。
【0159】
非線形光学媒質40からは、励起光パルス、相関光子対になる信号光パルス、アイドラー光パルス、補助信号光パルス及び補助アイドラー光パルスが出力される。補助信号光パルスは連続光でもよいが、補助アイドラー光は励起光がパルス光であるのでパルス光となる。
【0160】
非線形光学媒質40からの出力光は、光ローパスフィルター54、第1光分岐器52によって、時間位置量子相関光子対となる信号光波長成分(λs)、アイドラー光波長成分(λi)とが別々の光経路に切り分けられる。また、安定化のために利用される補助アイドラー光波長成分(λi-2)もまた別の光経路に切り分けられて出力される。
【0161】
時間位置量子もつれ光子対となる信号光波長成分、アイドラー光波長成分、補助アイドラー光波長成分を別々の光経路に切り分けて出力し合波するステップ、それらを第1あるいは第2量子チャンネルを用いて受信者Aあるいは受信者Bに伝送し、また、受信者A及び受信者Bがクロック信号を抽出するステップ、第1あるいは第2制御信号発生を発生させるステップ、信号を受信するステップ等は、上述したこの発明の第1実施例の量子鍵配送システムと同様であるのでその説明は省略する。
【0162】
<この発明の第1及び第2実施例の量子鍵配送システムの変形例>
この発明の第1及び第2実施例の量子鍵配送システムでは、非線形光学媒質としてPPLN結晶の2次の非線形光学効果を用いた場合を想定したが、PPLN結晶以外の2次の非線形光学効果が発現する媒体であれば利用可能である。更に、光ファイバーやシリコン細線等の3次の非線形光学効果が発現する媒体を用いても、上述の第1光合波器50、第1光分岐器52の波長透過特性等の設計的な事項を変更することで、この発明の第1及び第2実施例の量子鍵配送システムで実現されたものと同様の効果が得られる量子鍵配送システムを実現することが可能である。
【0163】
また、この発明の第1及び第2実施例の量子鍵配送システムにつき、励起光や補助信号光の入力方法等は他の周知の手法によっても実現できる。すなわち、例えば、励起光と補助信号光との両者を光カプラで合波する手法も採用することができる。更に、非線形光学媒質の光学軸の方向と、これに入力される励起光の偏波方向等も設計的事項であり、非線形光学定数のテンソル成分のどの成分を利用するかによって適宜設定することができる。
【0164】
また、励起光その他の光の偏波面を90度回転させるのに用いる90度偏波面変換部44は、1/2波長板を利用することも可能であるが、2次の非線形光学媒質の単純なSPDC過程を利用する場合は1/2波長板を利用することはできない。これは、1/2波長板として励起光に対する1/2波長板とすると、信号光その他の励起光の2倍波長の光に対しては1/4波長板として動作してしまい、90度偏波回転の機能が得られないからである。また一方、1/2波長板として信号光その他の長波長光に対する1/2波長板とすると、励起光に対しては1/1波長板として動作してしまい90度偏波回転の機能が得られないからである。従って、2次の非線形光学媒質の単純なSPDC過程を利用する場合は、ファイバー融着などの周知の手法で形成される90度偏波面変換部を利用することになる。
【符号の説明】
【0165】
20、40:非線形光学媒質
12、62:励起光源
14、64:補助信号光源
16:光合波器
18:第1光結合器
22:光分岐部
24:第1フォトディテクター
26:第2フォトディテクター
28:第1光結合器
30:制御信号発生部
30-1:出力比較器
30-2:制御信号発生器
42:偏波分離合成器
44:90度偏波面変換部
46:ループ光路
48:光サーキュレーター
50:第1光合波器
52:第1光分岐器
54:光ローパスフィルター
70:第2光分岐器
72:第2光合波器
74:第3光合波器
76:第3光分岐器
78:第4光分岐器
80:第1信号処理部
82:第2信号処理部
84:第1制御信号発生器
86:第2制御信号発生器
88:第1クロック抽出部
90:第2クロック抽出部
92:第1受信部
94:第2受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光が入力されると自然パラメトリック蛍光に基づいて信号光光子とアイドラー光子とからなる量子相関光子対を発生させ、かつ、補助信号光が入力されると誘導パラメトリック変換過程に基づいて補助アイドラー光を発生させる非線形光学媒質に、前記励起光と前記補助信号光とを同時に入力させる第1ステップと、
前記非線形光学媒質から出力される出力光から、信号光成分、アイドラー光成分、及び補助アイドラー光成分を分離してそれぞれ別々の光路に分岐させて出力させる第2ステップと、
前記信号光成分と前記補助アイドラー光成分とが入力されて、前記補助信号光成分と当該補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、前記励起光の強度、前記励起光の波長、及び前記非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第1制御信号、及び前記補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第1電気補助アイドラー信号を発生させる第3ステップと、
前記アイドラー光成分と前記補助アイドラー光成分とが入力されて、前記補助信号光成分と当該補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、前記励起光の強度、前記励起光の波長、及び前記非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第2制御信号、及び前記補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第2電気補助アイドラー信号を発生させる第4ステップと、
前記第1制御信号もしくは第2制御信号の少なくともいずれか一つの制御信号に基いて、前記励起光の強度、前記励起光の波長、及び前記非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整することで、前記補助信号光成分と前記補助アイドラー光成分の強度比を一定化する第5ステップと、
前記第1及び第2電気補助アイドラー信号から当該第1及び第2電気補助アイドラー信号に含まれるクロック信号を抽出して、当該クロック信号に同期させて前記信号光成分を電気信号に変換した電気受信信号及び前記アイドラー光成分を電気信号に変換した電気アイドラー信号をそれぞれ受信する第6ステップと
を含むことを特徴とする量子鍵配送方法。
【請求項2】
励起光が入力されると自然パラメトリック蛍光に基づいて信号光光子とアイドラー光子とからなる量子相関光子対を発生させ、かつ、補助信号光が入力されると誘導パラメトリック変換過程に基づいて補助アイドラー光を発生させる非線形光学媒質と、
前記励起光を出力する励起光源と、
前記補助信号光を出力する補助信号光源と、
前記励起光と前記補助信号光とを合波して出力する第1光合波器と、
第1〜第3入出力端を具える偏波分離合成器と、当該偏波分離合成器の第2及び第3入出力端を結んで構成されるループ光路であって、当該ループ光路中に前記非線形光学媒質と90度偏波面変換部とが設置されて構成されるループ光路と、
前記非線形光学媒質から出力される出力光を、信号光成分、補助信号光成分、アイドラー光成分、及び補助アイドラー光成分に分別して出力する第1光分岐器と、
前記補助アイドラー光成分を2分岐する第2光分岐器と、
前記第2光分岐器で2分岐された一方の補助アイドラー光成分と、前記信号光成分とを合波する第2光合波器と、
前記第2光分岐器で2分岐された他方の補助アイドラー光成分と、前記アイドラー光成分とを合波する第3光合波器と、
前記第2光合波器から出力されて第1の量子チャンネルを伝播した前記補助アイドラー光成分と前記信号光成分からなる第1量子チャンネル伝送信号が入力されて、信号光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離して出力する第3光分岐器と、
前記第3光合波器から出力されて第2の量子チャンネルを伝播した前記補助アイドラー光成分と前記アイドラー光成分からなる第2量子チャンネル伝送信号が入力されて、アイドラー光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離して出力する第4光分岐器と、
前記第3光分岐器から出力される前記補助アイドラー光成分が入力されて、前記補助信号光成分と当該補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、前記励起光の強度、前記励起光の波長、及び前記非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第1制御信号、及び前記補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第1電気補助アイドラー信号を発生させる第1信号処理部と、
前記第4光分岐器から出力される前記補助アイドラー光成分が入力されて、前記補助信号光成分と当該補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、前記励起光の強度、前記励起光の波長、及び前記非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第2制御信号、及び前記補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第2電気補助アイドラー信号を発生させる第2信号処理部と、
前記第1電気補助アイドラー信号が入力されて、第1クロック信号を出力する第1クロック信号抽出部と、
前記第2電気補助アイドラー信号が入力されて、第2クロック信号を出力する第2クロック信号抽出部と、
前記第1クロック信号にタイミング同期させて前記信号光成分が電気信号に変換された電気受信信号を受信する第1受信部と、
前記第2クロック信号にタイミング同期させて前記アイドラー光成分が電気信号に変換された電気アイドラー信号を受信する第2受信部と
を具えていることを特徴とする量子鍵配送システム。
【請求項3】
励起光が入力されると自然パラメトリック蛍光に基づいて信号光光子とアイドラー光子とからなる量子相関光子対を発生させ、かつ、補助信号光が入力されると誘導パラメトリック変換過程に基づいて補助アイドラー光を発生させる非線形光学媒質と、
前記励起光を出力する励起光源と、
前記補助信号光を出力する補助信号光源と、
前記励起光と前記補助信号光とを合波して出力する第1光合波器と、
前記非線形光学媒質から出力される出力光を、信号光成分、補助信号光成分、アイドラー光成分、及び補助アイドラー光成分に分別して出力する第1光分岐器と、
前記補助アイドラー光成分を2分岐する第2光分岐器と、
前記第2光分岐器で2分岐された一方の補助アイドラー光成分と前記信号光成分とを合波する第2光合波器と、
前記第2光分岐器で2分岐された他方の補助アイドラー光成分と前記アイドラー光成分とを合波する第3光合波器と、
前記第2光合波器から出力されて第1の量子チャンネルを伝播した前記補助アイドラー光成分と前記信号光成分からなる第1量子チャンネル伝送信号が入力されて、信号光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離して出力する第3光分岐器と、
前記第3光合波器から出力されて第2の量子チャンネルを伝播した前記補助アイドラー光成分と前記アイドラー光成分からなる第2量子チャンネル伝送信号が入力されて、アイドラー光成分と補助アイドラー光成分とに再度分離して出力する第4光分岐器と、
前記第3光分岐器から出力される前記補助アイドラー光成分が入力されて、前記補助信号光成分と当該補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、前記励起光の強度、前記励起光の波長、及び前記非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第1制御信号、及び前記補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第1電気補助アイドラー信号を発生させる第1信号処理部と、
前記第4光分岐器から出力される前記補助アイドラー光成分が入力されて、前記補助信号光成分と当該補助アイドラー光成分の強度比が予め設定された値に等しくなるように、前記励起光の強度、前記励起光の波長、及び前記非線形光学媒質の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第2制御信号、及び前記補助アイドラー光成分が電気信号に変換された第2電気補助アイドラー信号を発生させる第2信号処理部と、
前記第1電気補助アイドラー信号が入力されて、第1クロック信号を出力する第1クロック信号抽出部と、
前記第2電気補助アイドラー信号が入力されて、第2クロック信号を出力する第2クロック信号抽出部と、
前記第1クロック信号にタイミング同期させて前記信号光成分を電気信号に変換して電気受信信号を受信する第1受信部と、
前記第2クロック信号にタイミング同期させて前記アイドラー光成分を電気信号に変換して電気アイドラー信号を受信する第2受信部と
を具えていることを特徴とする量子鍵配送システム。
【請求項4】
前記励起光が2連光パルスで構成されていることを特徴とする請求項3に記載の量子鍵配送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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