説明

金−白金コアシェルナノ粒子のコロイド、及びその製造法

【課題】公知の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドよりも真球度が高く且つ一層シャープな粒度分布を有する金−白金コアシェルナノ粒子コロイド、及びその実用的で再現性の高い製造法を提供する。
【解決手段】金ナノ粒子の表面に一次粒径が5nm以下の微細白金ナノ粒子を、金対白金の原子比が0.5〜2の範囲で担持してなり、動的光散乱法で測定される粒度分布曲線が単一ピークを示し、平均粒径が50〜100nmの範囲にあり、且つ該粒度分布の分散度係数が0.08以下である金−白金コアシェルナノ粒子を含むコロイド;金コロイド粒子形成化合物を媒体中で還元剤を用いて還元して金ナノ粒子コロイドを調製し、しかる後、該金ナノ粒子コロイドに白金含有化合物を添加しそして還元して、該金ナノ粒子の表面上に選択的に白金ナノ粒子を析出させる金−白金コアシェルナノ粒子コロイドの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャープな粒度分布を持つ金−白金コアシェルナノ粒子のコロイド、およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
金ナノ粒子は蛋白質、糖鎖、DNA、細胞等の標識剤として広範に用いられてきた。例えば金ナノ粒子を用いる免疫学的測定法、とりわけイムノクロマト法は、簡便性と迅速性を要求されるOTC診断法やポイントオブケア(POC)臨床診断法として実用化されている。
【0003】
しかし、金ナノ粒子を用いるイムノクロマト法の検出感度は遺伝子増幅法や酵素免疫法などに比べて不十分であり、高感度化が要求されている。
【0004】
最近、金ナノ粒子の表面に白金微細ナノ粒子を担持させた白金微粒子被覆金ナノ粒子が開発され、イムノクロマトの高感度化を図るものとして期待されている(特許文献1及び2)。しかしながら、上記発明が為されて5年経過するにも拘わらず、このような白金微粒子被覆金ナノ粒子を用いるイムノアッセイ標識剤やイムノクロマトキットは未だ実用化されていない。その原因の一つは、これらの発明に記載された白金微粒子被覆金ナノ粒子において、球形でシャープな粒度分布を有するものを実用的なスケールで再現性良く製造することが困難な点にあると推察される。
【0005】
従来の金ナノ粒子を標識とするイムノクロマト法において、金の粒度分布を揃えることが重要であることは、良く知られている(特許文献3及び4)。
【0006】
しかし、上記特許文献1あるいは2の実施例に記載された金−白金コアシェルナノ粒子コロイドの製法では、シャープな粒度分布を持つナノ粒子コロイドを製造することは困難であった。例えば、特許文献1及び特許文献2の実施例には、いずれも塩化金酸の超純水溶液を沸騰させ、これにクエン酸塩水溶液を添加して還元して中間体の金ナノ粒子コロイドを調製し、特許文献1では未処理のまま引き続き、特許文献2では一旦金ナノ粒子コロイドをイオン交換樹脂カラムで脱塩処理してから、塩化白金酸の超純水溶液を添加し、次いで再度クエン酸塩水溶液を添加し、4時間乃至2時間沸騰保持して白金微粒子被覆金ナノ粒子コロイドを得ている。しかし塩化金酸の単純なクエン酸塩還元法が著しく再現性の乏しい粒度分布を齎すことは、特許文献4が教示するとおりである。また、クエン酸還元で得られた金ナノ粒子コロイドの表面に白金微粒子を担持するに際して、特許文献1及び2の実施例では白金塩の還元剤に再びクエン酸塩を使用しているが、クエン酸塩は白金塩に対する還元力が弱く、従って長時間沸騰状態を保持しなければならず、この間に中間体の金ナノ粒子や生成した白金微粒子被覆金ナノ粒子が凝集したり融着したりすることが避けられなかった。またイオン交換樹脂カラムによる金属コロイドの処理は、脱塩以外に金属ナノ粒子の吸着も惹起し、コロイド中の金属ナノ粒子濃度が顕著に低下する弊害があった。
【0007】
また、特許文献1及び2は、白金微粒子被覆金ナノ粒子コロイドを用いる標識剤が、従来の金ナノ粒子コロイドを用いる標識剤に比べて免疫学的に高感度であることを教示しているが、高感度と共に必要とされる、イムノクロマトキットの迅速応答化に関しては全く教示していない。
【0008】
【特許文献1】特許3886000
【特許文献2】特開2005−233744
【特許文献3】特開平3−206959
【特許文献4】特開2007−23384
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、これまで知られている金−白金コアシェルナノ粒子コロイドよりも真球度が高く且つ一層シャープな粒度分布を有する金−白金コアシェルナノ粒子コロイド、及びその実用的で再現性の高い製造法を提供し、これにより高感度で且つ迅速判定が可能なイムノクロマト診断を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記目的の下に鋭意研究を重ねた結果、前駆体として特定の金ナノ粒子コロイドを使用し、且つ白金ナノ粒子を担持させる白金含有化合物の還元剤として、金イオンに対するよりも白金イオンに対する還元力が強い還元剤を使用することにより、真球度が高く且つ一層シャープな粒度分布を有する金−白金コアシェルナノ粒子のコロイドが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、金ナノ粒子の表面に一次粒径が5nm以下の微細白金ナノ粒子を、金対白金の原子比が0.5〜2の範囲で担持してなり、動的光散乱法で測定される粒度分布曲線が単一ピークを示し、平均粒径が50〜100nmの範囲にあり、且つ該粒度分布の分散度係数が0.08以下である金−白金コアシェルナノ粒子を含むコロイドを提供する。
【0012】
本発明はまた、金コロイド粒子形成化合物を媒体中で還元剤を用いて還元して金ナノ粒子コロイドを調製し、しかる後、該金ナノ粒子コロイドに白金含有化合物を添加しそして還元して、該金ナノ粒子の表面上に選択的に白金ナノ粒子を析出させる金−白金コアシェルナノ粒子コロイドの製造法において、該金ナノ粒子コロイドとして、動的光散乱法で測定される粒度分布曲線が単一のピークを示し、平均粒径が30〜80nmであり、その分散度係数が0.15以下である金ナノ粒子コロイドを使用し、且つ、これに白金ナノ粒子を担持させるための白金含有化合物の還元剤として、金イオンに対するよりも白金イオンに対する還元力の強い、上記金コロイド粒子形成化合物の還元に用いた還元剤とは別の還元剤を使用することを特徴とする、上記金−白金コアシェルナノ粒子を含むコロイドの製造法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造法で調製される金−白金コアシェルナノ粒子コロイドに蛋白質、特に免疫グロブリン(抗体)の含有溶液を作用させ、金−白金コアシェルナノ粒子−蛋白結合体(conjugate)を形成させ、これを標識剤とすれば、従来法よりも一層高感度で且つ迅速判定が可能なイムノクロマト検査キットを構成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[金−白金コアシェルナノ粒子コロイド]
本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドの粒度分布は通常、TEM法や動的光散乱法で評価される。動的光散乱法の解析法としては、光子相関法と周波数解析法があるが、粒度分布の幅を定量的に評価できる方法としては光子相関法が一般的である。ISO13321(日本ではJIS Z8826)に従い、非接触後方散乱光強度を測定し、キュムラント解析によって、強度基準粒度分布、体積基準粒度分布、及び個数基準粒度分布が、また平均粒子径としてZ−平均値(Z-Average)が、粒度のバラツキとして分散度係数(PDI)、強度基準のミーン径等が算出される(以下、特に断わらない限り、粒度分布とは動的光散乱法で測定され光子相関法で解析された粒度分布を示し、Z-平均値を平均粒径、PDI値を分散度係数という)。粒度のバラツキが小さくシャープな粒度分布のコロイドほど、TEM法で得られる粒度分布と動的光散乱法粒度分布は整合性が高く、平均粒径と強度ミーン径との偏差が小さく、分散度係数が小さいとされる。
【0015】
本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドは粒度分布曲線が単一ピークを示し、平均粒径が50〜100nm、好ましくは60〜80nmの範囲にあり、且つ該粒度分布の分散度係数が0.08以下、好ましくは0.06以下である。
【0016】
本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドは、UV・可視吸収スペクトルにおいて波長517〜540nmの領域にプラズモン吸収極大ピークを有する。
【0017】
本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドは、金と白金の原子比が0.5〜2.0、好ましくは0.75〜1.50の範囲である。原子比が0.5未満では白金シェルの厚さが不十分で視認性に劣り、原子比が2.0を超えると白金ナノ粒子による金ナノ粒子コロイド表面のマスキング効果が強く成り過ぎる。
【0018】
本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイド中の金ナノ粒子は、好ましくは平均粒径30〜80nmの、好ましくは球状のナノ粒子からなる。
【0019】
本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドはアスコルビン酸イオン及び/又はその酸化体イオン、更に白金の1倍モル以上、20倍モル以下、好ましくは白金の1倍モル以上、10倍モル以下、特に白金の1倍モル以上、6倍モル以下のアスコルビン酸イオン及び/又はその酸化体イオンを含有するのが好ましい。白金の1倍モル以上、6倍モル以下のアスコルビン酸イオン及び/又はその酸化体イオンを含有する金−白金コアシェルナノ粒子コロイドは、ゼータ電位が−40mV以下であり、アスコルビン酸イオン及び/又はその酸化体イオンの共存が該コロイドの安定化に寄与している。アスコルビン酸イオン及び/又はその酸化体イオンの共存はコロイドのプロトンNMR分析で3.50〜3.95ppm領域と4.00〜4.30ppm領域における積算強度比2:1の分岐したピークの出現で明確に検出される。白金イオンの還元によって生じるアスコルビン酸の酸化体の構造は必ずしも明確ではないが、例えばデヒドロアスコルビン酸及び/又はその会合体が推定される。
【0020】
本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドはまた、TEM観察において、金―白金コアシェルナノ粒子の100個以上を含有するTEM像視野で見出される、白金で被覆されない金ナノ粒子又はコアに金を含まないフリーの白金ナノ粒子の個数が、同視野内の粒子全体の5%未満であり、好ましくは3%未満である。被覆されない金ナノ粒子や金を被覆しない白金ナノ粒子が5%を超えて共存すると、該金−白金コアシェルナノ粒子に結合する抗体のロスが生じ、標識剤として使用した場合に検出感度の低減を来たす。
【0021】
本発明の金―白金コアシェルナノ粒子は、コアの金ナノ粒子の表面が隙間の無い緻密な白金シェル層で覆われた構造ではなく、コアの金ナノ粒子の表面に5nm以下の微細な白金ナノ粒子がその粒々形状を保持したまま、ある程度の細孔構造を持ってシェル状に担持された構造を有し、外部からの光に対し金の表面の自由電子がプラズモン共鳴吸収を起こせる構造を保持している。このようなプラズモン吸収を起こせる構造が、蛋白質との結合を容易にし、本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドのイムノアッセイ用標識やイムノクロマト検査キットへの応用を可能としている。
【0022】
[製造法]
・金ナノ粒子コロイドの製造
本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドの前駆体である金ナノ粒子コロイドとしては、平均粒径30〜80nmの、好ましくは球状のナノ粒子からなるコロイドで、動的光散乱法で測定される粒度分布曲線が単一のピークを示し、分散度係数が0.15以下、好ましくは0.13以下となるように粒度を揃えた金ナノ粒子コロイドを使用する必要がある。金ナノ粒子コロイドの平均粒径が30nm未満ではこれに白金を担持しても十分な吸光度を確保できない。また金ナノ粒子コロイドの平均粒径が80nmを超えると、この表面に白金ナノ粒子を担持した場合、全体の粒径が大きく成り過ぎてイムノクロマト展開に障害となることがある。金ナノ粒子コロイドの粒度分布曲線が複数のピークを有したり、単一ピークでもその分散度係数が0.15を越える場合は、これに白金ナノ粒子を担持してシャープな粒度分布を持たせることが困難となる。このような金ナノ粒子コロイドは、粒径に依存して、525〜535nmの領域にシャープなプラズモン吸収極大ピークを持つ。粒径が小さいとブルーシフトし、大きいとレッドシフトする。これはナノ粒子における量子サイズ効果によって金の5S軌道の非ペアー電子がプラズモン振動を起こすことに起因するとされる。他方、白金のナノ粒子は5S軌道に非ペアー電子を有さず、特定の波長領域にシャープなプラズモン吸収ピークを示さない。そのコロイドの黒色の色調から判るとおり、可視光領域になだらかなスロープの吸収を示す。上記の金ナノ粒子の表面に、一次粒径5nm以下の微細白金ナノ粒子を金対白金の原子比を0.5〜2.0、好ましくは0.75〜1.50の範囲で担持すると、吸収ピークは原料の金ナノ粒子コロイドのそれよりはブロード化するが、依然として波長517〜540nmの領域にプラズモン吸収極大ピークを示す。吸収極大が517nm未満では可視光領域の吸光度が不十分となり、また吸収極大が540nmを超えた場合は金−白金コアシェルナノ粒子コロイドの凝集が懸念される。
【0023】
上記金ナノ粒子コロイドの調製において使用する金コロイド粒子形成化合物の種類は限定されない。水溶性のものが好ましく、塩化金酸(HAuCl4)又はその塩が特に好ましい。金コロイド粒子形成化合物の還元剤も限定されないが、その種類と反応条件は、得られるコロイドの金の粒径が平均粒径30〜80nmのナノ粒子からなるコロイドで、粒度分布曲線が単一のピークを示し、分散度係数が0.15以下となるように制御しなければならない。好ましい還元剤はクエン酸及び/又はクエン酸塩、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸及び/又はその塩であり、クエン酸三ナトリウムが特に好ましい。還元剤は通常、金コロイド粒子形成化合物1当量に対して1〜30当量使用される。金コロイド粒子形成化合物の還元は媒体中、好ましくは水中で行われる。
【0024】
金ナノ粒子コロイドの粒子径制御方法としては、公知の製法が使用できる。例えば、特許文献3(特開平3−206959)の実施例4に記載された種晶処理クエン酸塩法、又は同実施例3に記載された種晶処理ヒドロキシルアミン法が適用される。特許文献3(特開平3−206959)の実施例4に従えば、先ず、第一の工程に於いて、塩化金酸の水溶液に1%のクエン酸ナトリウム水溶液を加え、これに水素化ホウ素ナトリウムの希薄水溶液を室温で添加し攪拌した後、濾過して種晶核水溶液を製造する。次いで、第二の工程において、95℃に加熱した塩化金酸水溶液に攪拌しながら1%クエン酸ナトリウム水溶液を添加し、直ちに少量の種晶核水溶液を加え、95℃で反応させ、種晶核の周りにのみ金結晶を析出、肥大化させる。この様に、種晶溶液の添加量(種晶核の個数)を制御することにより生成物コロイドの粒径を制御することが可能である。
【0025】
他方、前出の白金微粒子被覆金ナノ粒子に関する特許文献1(特許3886000)及び特許文献2(特開2005−233744)の実施例に記載された、塩化金酸水溶液を加熱してこれにクエン酸ナトリウム水溶液を添加するだけの単純な製法では、粒度分布曲線が複数のピークを示すか、単一のピークを示す場合でもその分散度係数は0.15を超え、粒度のバラツキの大きいコロイドしか得られないことが多い。その原因は、金イオンのクエン酸イオンによる還元反応が比較的ゆっくり進む為、最初に添加されたクエン酸イオンで生成する金ナノ粒子が次の金イオン還元の種晶核になり、粒径成長が進むと同時に他方では継続添加されるクエン酸イオンによって新たな金ナノ粒子が生成する為であるとされる。
【0026】
・金−白金コアシェルナノ粒子コロイドの製造
上記の粒径制御により、粒度分布曲線が単一のピークを示し、平均粒径30〜80nmであり、且つ該粒度分布の分散度係数が0.15以下である金ナノ粒子コロイドを得た上で、この金ナノ粒子の表面に5nm以下の白金微粒子を担持して、粒度分布が単一ピークを示し、平均粒径50〜100nmであり、粒度分布の分散度係数が0.08以下の金―白金コアシェルナノ粒子コロイドを得るには、上記金ナノ粒子コロイドに白金含有化合物の溶液を添加し、次いで上記金イオンに対するよりも白金イオンに対する還元力の強い、金コロイド粒子形成化合物の還元に使用した還元剤とは別の還元剤を使用して、金ナノ粒子の表面で選択的に白金イオンの還元を生じさせて、発生期の白金ナノ粒子を金ナノ粒子表面に選択的に吸着させる必要がある。
白金を担持する工程の金ナノ粒子の濃度は通常金として0.01〜5.0mM、好ましくは0.05〜1.0mMである。
【0027】
白金含有化合物の種類は限定されないが、塩化白金酸H2PtCl4、H2PtCl6、及びその塩の1種又は2種以上が好適に用いられる。
【0028】
還元剤は前駆体の金ナノ粒子コロイドを調製した還元剤との組み合わせで最適な物を選択する。金ナノ粒子コロイド中には金イオンの還元に使用した還元剤(通常は過剰に添加される)が残存しており、白金含有化合物溶液を添加した段階で直ちにこの還元剤が白金含有化合物を還元すると、金ナノ粒子の表面に担持されないフリーの白金ナノ粒子が多数生成することになる。金イオンの還元剤にクエン酸又はクエン酸塩を用いた場合は、白金イオンの還元にはクエン酸イオンよりも白金イオンの還元力が強い還元剤、好ましくはアスコルビン酸及び/又はその塩を用いる。アスコルビン酸を用いる場合はpH調整剤として炭酸カリウム又は炭酸ナトリウムのようなアルカリの同時添加が好ましい。白金イオンの還元剤は通常、白金含有化合物1当量に対して1〜12当量、好ましくは1当量以上、4当量以下使用される。
【0029】
白金担持工程後、金−白金コアシェルコロイドは孔径200nmのメンブレンフィルターによって濾過するのが好ましい。濾過しないで金−白金コアシェルコロイドを長期間保存すると、白金担持工程で微量生成した凝集物が核となって凝集沈殿が加速し、コロイドの安定性を阻害することがある。
【0030】
本発明の金−白金コアシェルナノ粒子コロイドの粒度分布の分散度(0.08以下)が前駆体の金ナノ粒子コロイドの粒度分布の分散度(0.15以下)より小さくなる理由は未だ明確ではないが、金ナノ粒子コロイドの表面に白金を担持する工程か、白金担持後の濾過の工程で、粒度分布をシャープ化する整粒効果が働いているものと推察される。
【0031】
本発明の金−白金コアシェルコロイド粒子は、蛋白質、糖類、DNA、及び細胞の標識剤として従来の金ナノ粒子よりも優れた効果を有する。特に蛋白質に吸着して凝集することにより呈する黒色を、通常の金コロイドに蛋白質が吸着・凝集して呈する赤紫色と比較すると、黒色の視認性が顕著に高く、更には、従来法で製造された粒度分布の相対的にブロードな金−白金コアシェルナノ粒子コロイドが蛋白質に吸着・凝集して呈する灰黒色に比較してさえも、相対的に視認性が高い。
【0032】
[イムノアッセイ用標識剤及びイムノクロマトテストキットの製造]
本発明の金−白金コアシェルコロイド粒子に、公知の方法(特許第2705767号、特許第2705768号)で蛋白質、例えば免疫グロブリン(抗体)の含有溶液を作用させ、金−白金コアシェルナノ粒子−蛋白結合体(conjugate)を形成させることにより、イムノアッセイ用標識剤を得ることができる。
【0033】
この結合体(conjugate)をニトロセルロース、ガラス繊維不織布等から製造されたクロマト展開用膜担体上の標識抗体含浸部位に担持して、ラテラルフロー(lateral flow)タイプのイムノクロマトテストキットを作成することができる。イムノクロマトテストキットの作成は、本発明の結合体を担持する以外、公知の方法(例えば、特許第2705767号、特許第2705768号の方法)を適用できる。
【0034】
抗原含有液を試料添加部位に滴下してクロマト展開して判定部位の呈色強度をクロマトリーダーで読み取ると、通常の金ナノ粒子コロイドを使用して作成されたキットに比較して4倍以上、従来の粒度分布のブロードな金−白金コアシェルコロイドを使用して作成されたキットに比較しても2倍以上の呈色強度が得られる。更に、本発明の金−白金コアシェルコロイドを用いて作成されたこのようなイムノクロマトキットは、抗原含有液を試料添加部位に滴下してから視認性の呈色に至るまでの判定所要時間が顕著に短縮される。従来の金ナノ粒子コロイド使用キットが判定まで15分程度を要し、従来の金−白金コアシェルコロイド使用キットでも10分以上を要したのに対し、本発明の金−白金コアシェルコロイドを用いて作成されたキットは、早いケースでは1〜2分、遅くとも3〜5分間での判定が可能となる。このようなイムノクロマトキットの高感度化と判定迅速化は、特に感染症の診断等において患者の負担を顕著に低減させるものとして臨床的価値が高く社会的意義が極めて大きい。
【実施例】
【0035】
[実施例1:粒度分布がシャープな金−白金コアシェルコロイドの製造]
・ステップ1:金ナノ粒子コロイド(G-1)の製造
使用前に金ナノ粒子コロイドが接液する全てのガラス器具やテフロン(登録商標)攪拌棒等を王水で洗浄した。2L四つ口フラスコの中央口にテフロン(登録商標)攪拌羽根付きテフロン(登録商標)攪拌棒をバキュームシールで固定し、3つの側管にそれぞれ滴下ロート、温度計、還流冷却器をセットした(特に断わらない限り、以下同様な反応器を使用した)。超純水(Milliq水)750mlを入れてアルゴンガスでパージした。塩化金酸HAuCl4 の7.8mM超純水溶液25mlを室温で攪拌しながら添加し、次いで34mMクエン酸三ナトリウムの超純水溶液8mlを室温で攪拌しながら1〜2分で滴下した。次いで、34mMクエン酸三ナトリウム超純水溶液8mlに四水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)6.0mgを溶解した溶液を、室温で攪拌しながら1〜2分で滴下し、滴下終了後、更に5分間攪拌を保持した。得られたコロイドを200nmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を冷蔵庫に保存し、種晶核コロイドとした。次いで。2Lフラスコに超純水750mlを入れ、アルゴンガスでパージしながら昇温し、95℃にて6.5mMの塩化金酸溶液30mlを2〜3分で滴下した。次いで34mMクエン酸三ナトリウムの超純水溶液3.2mlを滴下し、直ちに上記種晶核コロイド0.48mlを添加した。95℃で30分間攪拌保持した後、室温まで冷却し、冷蔵庫に入れて4℃で保存した。
【0036】
得られた金ナノ粒子コロイド(G-1)のUV可視吸収スペクトルを分光光度計(SHIMADZU、分光光度計UV2450、以下同様)で測定すると、λmax533nmにシャープなプラズモン吸収ピーク(吸光度1.35)が示された。またこのコロイドの粒度分布を動的光散乱法粒度分布計(Malvern、ゼータサイザーナノーZS、以下同様)で測定すると、強度換算粒度分布曲線は単一ピークを示し、そのミーン径61nm、平均粒径(Z-Average)54nm、及び分散度係数0.120を示した。
【0037】
・ステップ2:白金ナノ粒子担持
ステップ1で調製した金ナノ粒子コロイド(G-1)480mlを上記と同様な四つ口ガラスフラスコに入れ、系内をアルゴンガスでパージし、攪拌しながら加熱昇温して95℃になった時点で、塩化白金酸H2PtCl6の2.9mM超純水溶液40mlを滴下した。アスコルビン酸の12mM超純水溶液40mlと炭酸カリウムの12mM超純水溶液40mlをそれぞれ使用直前に調製し混合した。この混合溶液を、95℃に加熱した上記金ナノ粒子コロイドに攪拌しながら滴下し、滴下終了後も30分間、95℃で攪拌保持した。室温まで放冷後、孔径200nmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を4℃で保存し、金−白金コアシェルコロイド(GP-1)を得た。このコロイドのUV可視吸収スペクトルはプラズモン吸収をλmax522nmに示し、吸光度は1.158であった。
【0038】
上記金−白金コアシェルコロイドの粒度分布は単一ピークのみを示し、平均粒径71nm、分散度係数0.044、強度基準のミーン径76nmを示した。このコロイドのプロトンNMRは3.50〜3.95ppm領域と4.00〜4.30ppm領域に積分強度比2:1の分岐ピークを示し(内部標準:3(トリメチルシリル)−1−プロパンスルフォン酸ナトリウム)、アスコルビン酸及び/又はその酸化体の存在を示した。ゼータ電位測定装置(Malvern、ゼータサイザーナノーZS)で測定されたこのコロイドのゼータ電位は−50mVであった。またこのコロイドのTEM及びSTEM−EDX観察では、平均粒径60nmの球状の金ナノ粒子コアの表面に粒径5nm以下の微細な白金ナノ粒子が粒々状で被覆担持され、全体として平均粒径74nmの球状コアシェルナノ粒子を形成しており、金コアに担持されないフリーの白金ナノ粒子や白金ナノ粒子で被覆されない金ナノ粒子は殆ど視野には見えなかった。該金−白金コアシェルコロイドの金対白金の原子比は1:1であった。
【0039】
[実施例2:粒度分布のシャープな金−白金コアシェルコロイドの製造]
・ステップ1:金ナノ粒子コロイド(G-2)の製造
実施例1のステップ1と同様にして種晶核コロイドを調製し、次いで2Lフラスコに超純水750mlを入れ、アルゴンガスでパージしながら昇温し、95℃にて13mMの塩化金酸溶液30mlを2〜3分で滴下した。次いで68mMクエン酸三ナトリウム超純水溶液3.2mlを滴下し、直ちに上記種晶核コロイドの0.48mlを添加した。95℃で30分間攪拌保持した後、室温まで冷却し、冷蔵庫に入れ、4℃で保存した。
【0040】
得られた金ナノ粒子コロイド(G-2)はλmax534nmにシャープなプラズモン吸収ピーク(吸光度2.72)を示した。またこのコロイドの粒度分布曲線は単一ピークを示し、そのミーン径は64nm、平均粒径(Z-Average)59nm、分散度係数0.115であった。
【0041】
・ステップ2:白金ナノ粒子担持
ステップ1で調製した金ナノ粒子コロイド(G-2)480mlを四つ口ガラスフラスコに入れ、系内をアルゴンガスでパージし、攪拌しながら加熱昇温して80℃になった時点で、塩化白金酸H2PtCl6の5.8mM超純水溶液40mlを滴下した。アスコルビン酸の24mM超純水溶液40mlと炭酸カリウムの24mM超純水溶液40mlをそれぞれ使用直前に調製し混合した。この混合溶液を80℃に加熱したコロイドに攪拌しながら滴下し、滴下収量後も40分間、80℃で攪拌保持した。室温まで放冷後、孔径200nmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を4℃で保存し、金−白金コアシェルコロイド(GP-2)を得た。このコロイドのUV可視吸収スペクトルはプラズモン吸収をλmax537nmに示し、吸光度は1.16であった。TEMでは平均粒径62nmの球状の金ナノ粒子コアの表面に粒径5nm以下の微細な白金ナノ粒子が粒々状で被覆担持され、全体として平均粒径79nmの球状コアシェルナノ粒子が観察された。また、粒度分布は単一ピークのみを示し、平均粒径77nm、分散度係数0.038、強度基準のミーン径83nmであった。該金−白金コアシェルコロイドの金対白金の原子比は1:1であった。
【0042】
[比較例1:従来法の金−白金コアシェルコロイドの製造]
・ステップ1:金ナノ粒子コロイド(G-3)の製造
2L四つ口フラスコに脱イオン水740mlを入れ、攪拌しながら昇温し沸騰させた。塩化金酸HAuCl4の7.8mM超純水溶液25mlを攪拌しながら2〜3分で滴下し、次いで、クエン酸三ナトリウムの33.8mM超純水溶液8.0mlを攪拌しながら10分間で滴下した。滴下終了後、なお攪拌加熱して沸騰状態を1時間保持した。室温まで冷却後、4℃で保存した。
【0043】
このコロイド(G-3)のUV可視吸収スペクトルはプラズモン吸収をλmax537nmに示し、吸光度は1.352であった。粒度分布は単一ピークのみを示し、平均粒径は58nmであったが、分散度係数は0.192、強度基準のミーン径は70nmであった。
【0044】
・ステップ2:金−白金コアシェルコロイド(GP-3)の製造
ステップ1で製造した金ナノ粒子コロイド(G-3)480mlを四つ口ガラスフラスコに入れ、系内をアルゴンガスでパージし、攪拌しながら加熱昇温して沸騰状態になった時点で、塩化白金酸H2PtCl6の2.9mM超純水溶液40mlを5分間で滴下した。沸騰状態を保持しながら、次いでクエン酸三ナトリウムの33.8mM超純水溶液24mlを30分間で攪拌しながら滴下した。滴下終了後、なお攪拌しながら2時間沸騰状態を保持した。室温まで放冷後、孔径200nmのメンブレンフィルターで濾過したところ、濾紙が紫色に着色し、80℃、16時間乾燥後の重量増加は26.5mgであった。濾液として暗紫紅色の金−白金ナノ粒子コロイド(GP-3)を得、4℃で保存した。このコロイドのUV可視吸収スペクトルはプラズモン吸収をλmax552nmに示し、吸光度は0.434であった。粒度分布は単一ピークのみを示したが、平均粒径96nm、分散度係数0.204、強度基準のミーン径122nmを示した。
【0045】
[比較例2:金−白金コアシェルコロイドの製造]
・ステップ1:金ナノ粒子コロイド(G-3)の製造
比較例1のステップ1と同様にして金ナノ粒子コロイド(G-3)を製造した。
・ステップ2:金−白金コアシェルコロイド(GP-4)の製造
ステップ1で製造した金ナノ粒子コロイド(G-3)480mlを四つ口ガラスフラスコに入れ、系内をアルゴンガスでパージし、攪拌しながら加熱昇温して80℃になった時点で、塩化白金酸H2PtCl6の2.9mM超純水溶液40mlを滴下した。アスコルビン酸の12mM超純水溶液40mlと炭酸カリウムの12ml超純水溶液をそれぞれ使用直前に調製しそして混合し、この混合溶液を80℃に加熱した上記金ナノ粒子コロイドに攪拌しながら滴下し、滴下終了後も40分間、80℃で攪拌保持した。室温まで放冷後、孔径200nmのメンブレンフィルターで濾過したところ、濾紙は黒紫色に着色し、80℃、16時間乾燥後、濾紙の重量は14.3mg増加していた。濾液を4℃で保存し、金−白金コアシェルコロイド(GP-4)を得た。このコロイドのUV可視吸収スペクトルはプラズモン吸収極大λmaxを543nmに示し、吸光度は0.806であった。粒度分布は単一ピークのみを示し、平均粒径は75nmであったが、分散度係数0.086、強度基準のミーン径84nmを示した。
【0046】
[比較例3:金−白金コアシェルコロイドの製造]
・ステップ1:金ナノ粒子コロイド(G-1)の製造
実施例1のステップ1と同様にして金ナノ粒子コロイド(G-1)を製造した。
・ステップ2:金―白金コアシェルコロイド(GP-5)の製造
ステップ1で製造した金ナノ粒子コロイド(G-1)480mlを四つ口ガラスフラスコに入れ、系内をアルゴンガスでパージし、攪拌しながら加熱昇温して沸騰状態になった時点で、塩化白金酸H2PtCl6の2.9mM超純水溶液40mlを5分間で滴下した。沸騰状態を保持しながら、次いでクエン酸三ナトリウムの33.8mM超純水溶液24mlを30分間で攪拌しながら滴下した。滴下終了後、なお攪拌しながら2時間沸騰状態を保持した。室温まで放冷後、孔径200nmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を4℃で保存し、やや赤みがかった黒紫色の金−白金コアシェルコロイド(GP-5)を得た。
【0047】
このコロイドのUV可視吸収スペクトルはプラズモン吸収をλmax546nmに示し、吸光度は0.684であった。粒度分布は単一ピークのみを示したが、平均粒径85nm、分散度係数0.202、強度基準のミーン径106nmを示した。本コロイドのTEM観察は金−白金コアシェルナノ粒子の径のバラツキが大きく、金に担持されない微細な白金ナノ粒子の共存を示した。
【0048】
[実施例3:金‐白金コアシェルコロイド標識抗体の調製]
実施例1で得られた金‐白金コアシェルコロイド(GP-1)1mlに200mM炭酸カリウム水溶液を加え、pHを9.0に調整した。これにマウスモノクローナル抗A型インフルエンザウィルス抗体又はマウスモノクローナル抗B型インフルエンザウィルス抗体を蛋白換算重量(以下、抗体の重量は蛋白換算重量で表す)で1μg加え、室温で10分間攪拌し、抗体の全量を金―白金コアシェル粒子に結合させた。これに最終濃度が0.2%となるよう1%ウシ血清アルブミン(BSA)を添加し、更に5分間攪拌した後、この懸濁液を6000rpmで30分遠心分離し、BSAでブロックされた金−白金コアシェルコロイド標識抗体を沈殿させた。上清を除去した後の残渣を、1%BSA及び0.05%ツイーン20を含有するトリス燐酸緩衝液に再分散させて、各々、精製金−白金コアシェルコロイド標識A型インフルエンザウィルス(以下、FluAという)抗体懸濁液(CCGP-1A)又は精製金―白金コアシェルコロイド標識B型インフルエンザウィルス(以下、FluBという)抗体懸濁液(CCGP-1B)を得た。このFluA用とFluB用の抗体懸濁液(CCGP-1A)と(CCGP-1B)を等量混合し、精製金−白金コアシェルコロイド標識FluA+B(A型及びB型インフルエンザウィルス)抗体懸濁液(CCGP-1)を得た。
【0049】
[実施例4:金‐白金コアシェルコロイド標識抗体の調製]
実施例2で得られた金‐白金コアシェルコロイド(GP-2)を用いて、実施例3と同様にして精製金−白金コアシェルコロイド標識FluA+B抗体懸濁液(CCGP-2)を得た。
【0050】
[比較例4〜7:金ナノ粒子コロイド又は金‐白金コアシェルコロイド標識抗体の調製]
実施例3において、実施例1の金−白金コアシェルコロイド(GP-1)を用いる代わりに、それぞれ、比較例1、ステップ1の金ナノ粒子コロイド(G-3)、比較例1、ステップ2の金−白金コアシェルコロイド(GP-3)、比較例2の金−白金コアシェルコロイド(GP-4)、比較例3の金−白金コアシェルコロイド(GP-5)を用いた以外は、実施例3と同様に処理して、それぞれ、精製金ナノ粒子コロイド標識Flu A+B抗体懸濁液(CCG-3)(比較例4)、精製金−白金コアシェルコロイド標識Flu A+B抗体懸濁液(CCGP-3)(比較例5)、(CCGP-4)(比較例6)、及び(CCGP-5)(比較例7)を調製した。
【0051】
[実施例5:イムノクロマトテストストリップ(ICGP-1)の作成]
実施例3で金−白金コアシェルコロイド粒子と結合させた抗体とは、インフルエンザウィルス抗原に対する結合部位の異なる、マウスモノクローナル抗A型インフルエンザウィルス抗体およびマウスモノクローナル抗B型インフルエンザウィルス抗体を準備した。
【0052】
幅5mm、長さ36mmの帯状のニトロセルロース製メンブレンフィルターをクロマト展開用膜担体として用意し、左端(クロマト展開始点)側から7.5mmの位置に、上記マウスモノクローナル抗A型インフルエンザウィルス抗体又はマウスモノクローナル抗B型インフルエンザウィルス抗体を5.0mg/ml含有する抗体液の各1μgをライン状に塗布し、これを室温で乾燥させ、発色強度を判定する捕捉部位とした。
【0053】
また、実施例3で調製した精製金−白金コアシェルコロイド標識Flu A+B抗体懸濁液(CCGP-1) 6μlを、5mmx15mmのガラス繊維不織布に含浸させ、これを室温で乾燥させ、標識抗体含漬パッドとした。
【0054】
幅5mm、長さ60mmのプラスチック製粘着シートの左端(クロマト展開の上流側)から中程にクロマト展開用膜担体を粘着シートに重ねて貼着させた。この粘着シートの左端末端に上記標識抗体パッドを重ね、左端を粘着シートに貼着させ、右端5mmを先に貼着されたクロマト展開用膜担体の上部に重ねた。幅5mm、長さ18mmの綿布と、幅5mm、長さ30mmの帯状濾紙を用意し、それぞれ検体添加部材および吸収部材として準備し、試料添加部材の左端は粘着シートの左端に貼着しその右端は抗体標識パッドの上に重ね、吸収部材の右端は粘着シートの右端に貼着しその左端をクロマト展開用膜担体の上に重ねた。この様な構造体を、試料添加部と捕捉部位に開口部(それぞれ、試料添加窓、判定窓とする)を有するプラスチックケースに入れて、インフルエンザ診断用イムノクロマトテストストリップ(ICGP-1)とした。
【0055】
[実施例6:イムノクロマトテストストリップ(ICGP-2)の作成]
精製金―白金コアシェルコロイド標識Flu A+B抗体懸濁液(CCGP-2)を用いて、実施例5と同様にしてイムノクロマトテストストリップ(ICGP-2)を得た。
【0056】
[比較例8〜11:イムノクロマトテストストリップ(ICG-3)、(ICGP-3)、(ICGP-4)、(ICGP-5)の作成]
実施例5において、実施例3の標識抗体(CCGP-1)を用いる代わりに比較例4、5、6又は7の標識抗体(CCG-3)、(CCGP-3)、(CCGP-4)又は(CCGP-5)を用いた以外は実施例5と同様に処理して、インフルエンザ診断用イムノクロマトテストストリップ(ICG-3)、(ICGP-3)、(ICGP-4)及び(ICGP-5)を作成した。
【0057】
[評価例1:イムノクロマト診断テスト]
A型及びB型インフルエンザウィルス(FluA及びFluB)に感染した患者から採取された検体を1%BSAを含むトリス燐酸緩衝液(pH7.6)で希釈した後ELISA法で抗原濃度を測定し、抗原濃度既知の検体希釈液を調製した。抗原希釈率8000倍、4000倍、1000倍の検体試料及びブランクとして抗原を含まない希釈液試料を調製した。マイクロピペットで該検体希釈液100μlをテストストリップの試料添加窓に滴下した。テストストリップの判定窓の呈色強度の経時変化を、クロマトリーダーで数値化して読み取った。
【0058】
実施例5のイムノクロマトテストキット(ICGP-1)、実施例6の(ICGP-2)、並びに比較例8、9、10及び11の各イムノクロマトテストキット(ICG-3)、(ICGP-3)、(ICGP-4)及び(ICGP-5)を用いて、8000倍、4000倍、及び1000倍のFlu A抗原希釈試料、及びブランク希釈液を、その試料添加窓に滴下した。15分後に得られたそれぞれの判定窓の呈色強度を、表1に吸光度単位0.001(mAbS)で示す。
【0059】
表2に、同様にFlu B抗原希釈試料に対する呈色強度の比較を示す。
【0060】
また表3に、Flu Aの5万倍の希釈試料を用いた場合のイムノクロマトテストキット判定窓に黒色の判定ラインが目視で見えるまでの所要時間(分)を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例1の金−白金コアシェルコロイド調製の中間体金ナノ粒子コロイドのTEM写真である。
【図2】本発明の実施例1の金−白金コアシェルコロイドのTEM写真である。
【図3】比較例2の金−白金コアシェルコロイドのTEM写真である。
【図4】本発明の実施例1の金−白金コアシェルコロイドのUV・可視吸収スペクトルである。
【図5】比較例1の金−白金コアシェルコロイドのUV・可視吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金ナノ粒子の表面に一次粒径が5nm以下の微細白金ナノ粒子を、金対白金の原子比が0.5〜2の範囲で担持してなり、動的光散乱法で測定される粒度分布曲線が単一ピークを示し、平均粒径が50〜100nmの範囲にあり、且つ該粒度分布の分散度係数が0.08以下である金−白金コアシェルナノ粒子を含むコロイド。
【請求項2】
UV・可視吸収スペクトルにおいて波長517〜540nmの領域にプラズモン吸収極大ピークを有する請求項1記載のコロイド。
【請求項3】
金ナノ粒子の粒径が30〜80nmの範囲である、請求項1又は2記載のコロイド。
【請求項4】
白金に対して等モル以上、20モル以下のアスコルビン酸イオン及び/又はその酸化体イオンを含有する、請求項1乃至3のいずれか1項記載のコロイド。
【請求項5】
TEM観察において、白金で被覆されない金ナノ粒子又はコアに金を含まないフリーの白金ナノ粒子の個数が、粒子全体の5%未満である、請求項1乃至4のいずれか1項記載のコロイド。
【請求項6】
金コロイド粒子形成化合物を媒体中で還元剤を用いて還元して金ナノ粒子コロイドを調製し、しかる後、該金ナノ粒子コロイドに白金含有化合物を添加しそして還元して、該金ナノ粒子の表面上に選択的に白金ナノ粒子を析出させる金−白金コアシェルナノ粒子コロイドの製造法において、該金ナノ粒子コロイドとして、動的光散乱法で測定される粒度分布曲線が単一のピークを示し、平均粒径が30〜80nmであり、その分散度係数が0.15以下である金ナノ粒子コロイドを使用し、且つ、これに白金ナノ粒子を担持させるための白金含有化合物の還元剤として、金イオンに対するよりも白金イオンに対する還元力の強い、上記金コロイド粒子形成化合物の還元に用いた還元剤とは別の還元剤を使用することを特徴とする、上記金−白金コアシェルナノ粒子を含むコロイドの製造法。
【請求項7】
金コロイド粒子形成化合物として塩化金酸を、その還元剤としてクエン酸またはクエン酸塩を使用し、且つ、白金含有化合物として塩化白金酸を、その還元剤としてアスコルビン酸を使用することを特徴とする、請求項6記載の製造法。
【請求項8】
白金ナノ粒子の析出工程後、孔径200nm以下のメンブレンフィルターによる濾過工程に付すことを特徴とする、請求項6又は7記載の製造法。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のコロイドを蛋白質に結合させて金−白金コアシェルナノ粒子−蛋白結合体を形成したことを特徴とする、イムノアッセイ用標識剤の製造法。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のコロイドと蛋白質とが結合した金−白金コアシェルナノ粒子−蛋白結合体を標識抗体含浸部位に担持させたことを特徴とする、イムノクロマトキットの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−120901(P2009−120901A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295542(P2007−295542)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成19年9月19日〜21日 株式会社 日経ビーピー主催の「BioJapan2007」に出品
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【出願人】(593025712)株式会社ビーエル (20)
【Fターム(参考)】