説明

金めっき構造体の製造方法

【課題】 良好な密着性を有する金めっきを形成することができる、金めっき構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】 金めっき構造体の製造方法は、チタン基材(10)の表面から酸化膜を除去する除去工程と、除去工程後に、不動態膜の形成を抑制する添加剤が添加された金めっき浴(30)にチタン基材(10)を浸漬する浸漬工程と、を含む。チタン基材(10)の表面における不動態膜の形成が抑制される。それにより、良好な密着性を有する金めっき(40)を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金めっき構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金めっきチタン基材は、優れた導電性、機械強度、耐食性等を有していることから、燃料電池のセパレータ用として注目されている。金めっきチタン基材は、チタン基材表面に金めっき被膜を形成することによって作製することができる。例えば、チタン基材表面に形成されるチタンの酸化膜を除去した後に、チタン基材を電気金めっき浴に浸漬して、チタン基材に金めっき処理を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−97088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、チタン基材の酸化膜を除去した後に、大気中の酸素、溶液中の酸素等の影響により、酸化膜が再度形成されて不動態化し、金めっきのチタン基材への密着が阻害されるおそれがある。
【0005】
本発明は、良好な密着性を有する金めっきを形成することができる、金めっき構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る金めっき構造体の製造方法は、チタン基材の表面から酸化膜を除去する除去工程と、除去工程後に、フッ素化合物が添加された金めっき浴にチタン基材を浸漬する浸漬工程と、を含むことを特徴とするものである。本発明に係る金めっき構造体の製造方法においては、チタン基材の表面における不動態膜の形成が抑制される。したがって、チタン基材との良好な密着性を有する金めっきを形成することができる。
【0007】
除去工程は、還元性酸を用いて酸化膜を除去する工程であってもよい。この場合、チタン基材表面を活性化させることができる。チタン基材は、多孔体であり、浸漬工程は、フッ素化合物が添加された無電解金めっき浴にチタン基材を浸す工程であってもよい。無電解金めっき浴を用いる場合、チタン基材に通電する必要がない。それにより、チタン基材の形状にかかわらず、均一な金めっきを形成しやすい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な密着性を有する金めっきを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の第1実施例に係る金めっき構造体の製造方法を示す製造フロー図である。まず、図1(a)に示すように、チタン基材10を準備する。チタン基材10は、純チタンまたはチタン合金からなる。チタン基材10の形状は、特に限定されるものではない。チタン基材10は、緻密な構造を有していてもよく、多孔状の構造を有していてもよい。また、チタン基材10は、平板状であってもよく、非平板状であってもよい。
【0011】
次に、図1(b)に示すように、エッチング処理によってチタン基材10の表面の酸化膜を除去する。例えば、エッチング液20にチタン基材10を浸漬することによって酸化膜が除去される。それにより、チタン基材10の表面が活性化される。
【0012】
エッチング液20として還元性酸を用いることが好ましい。チタン基材10の表面の酸化膜を除去しやすくなるからである。還元性酸として用いることができる酸は、塩酸、硫酸、酒石酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、こはく酸、アミノ酸、グリコール酸、グルコン酸、マロン酸、イタコン酸、マレイン酸等の酸、これらの酸塩等である。また、チタン基材10をエッチング液20に浸漬する時間は、0.5分〜3分程度である。チタン基材10の表面の過度の溶解等を抑制する観点から、チタン基材10をエッチング液20に浸漬する時間は1分程度であることが好ましい。エッチング液20の温度は、20℃〜40℃程度である。季節に応じた室温の温度変化を考慮すると、エッチング液20の温度は30℃程度であることが好ましい。エッチング液20は還元性酸であることから、エッチング液20のpHは、3.0以下であり、好ましくは1.0以下である。
【0013】
次に、チタン基材10をエッチング液20から取り出し、図1(c)に示すように、チタン基材10を無電解金めっき浴30に浸漬する。それにより、図1(d)に示すように、チタン基材10の表面に金めっき40が形成される。この無電解金めっき浴30には、不動態膜の形成を抑制するフッ素化合物が添加されている。フッ素は、他の元素との親和力が強いことから、チタン表面の酸化物層を除去する機能を有する。また、フッ素化合物を含む溶液は、チタンまたはチタン酸化物を溶解(エッチング)するとともに、分極抵抗を低下させる。それにより、チタン表面における不動態被膜の保持が困難になると考えられる。以上のことから、チタン基材10の表面における不動態膜の形成が抑制される。その結果、チタン基材10と金めっき40との間に高い密着性が得られる。また、チタン基材10への金の不析出を抑制することができる。
【0014】
上記フッ素化合物として、酸性フッ化ソーダ、酸性フッ化アンモニウム、ケイフッ化ソーダ、ケイフッ化アンモニウム、ケイフッ化カリウム、フッ化カリウム、ホウフッ化ソーダ、ホウフッ化カリウム、ホウフッ化アンモニウム等のフッ素化合物を用いることができる。
【0015】
また、無電解金めっき浴30には、添加剤が添加されている。例えば、添加剤として、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のオキシカルボン酸またはこれらの酸塩を用いることができる。これらの添加剤は、置換反応を促進させる機能を有する。また、上記添加剤として、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸等のキレート剤を用いることができる。これらの添加剤は、チタンとの錯体を形成してチタンの沈殿を抑制する機能を有すると考えられる。さらに、上記添加剤として、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム等のシアン化物を用いることもできる。これらの添加剤は、金の錯化剤として機能し、無電解金めっき浴30の安定性を維持する。
【0016】
例えば、無電解金めっき浴30として、メルテックス製の無電解金めっき浴にフッ素化合物が添加されたものを用いることができる。メルテックス製無電解金めっき浴には、メルプレートAU−601、メルプレートAU−7601、メルプレートAU−7630、メルプレートAU−7605等を用いることができる。これらのメルテックス製無電解金めっき浴には、シアン化金カリウム、シアン化カリウム、オキシカルボン酸(乳酸、クエン酸等)、キレート剤(エチレンジアミン四酢酸等)、アルカリ成分(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等が含有されている。
【0017】
ここで、酸化膜を除去する工程と金めっきを形成する工程とを一度の工程で行うことが考えられる。例えば、酸化膜を除去可能な還元酸等を無電解金めっき浴に添加することが考えられる。この場合、チタン基材10の表面の酸化膜を除去しつつ金をめっきすることができると考えられる。しかしながら、一般的に無電解金めっき浴はシアン浴であることから、還元酸を無電解金めっき浴に添加することができない。したがって、本実施例のように、酸化膜を除去した後に無電解金めっき浴30にチタン基材10を浸漬することによって、良好な密着性を有する金めっきを形成することができる。
【0018】
また、本実施のように無電解金めっき浴30を用いると、チタン基材10に通電する必要がない。それにより、多孔体のように表面形状が不均一な基材に対しても均一なめっきを形成しやすい。したがって、無電解金めっき浴30は、多孔体のような表面形状が不均一な基材に対して特に効果を発揮する。
【実施例2】
【0019】
図2は、本発明の第2実施例に係る金めっき構造体の製造方法を示す製造フロー図である。まず、図2(a)に示すように、チタン基材10を準備する。実施例2に係るチタン基材10として、実施例1と同様のものを用いることができる。次に、図2(b)に示すように、エッチング処理によってチタン基材10の表面の酸化膜を除去する。この場合のエッチング液20として、実施例1と同様のものを用いることができる。
【0020】
次に、図2(c)に示すように、チタン基材10を電気金めっき浴50に浸漬する。電気金めっき浴50としては、表1〜表3に示すような酸性金めっき浴、中性金めっき浴またはアルカリ性金めっき浴を用いることができる。また、電気金めっき浴50には、不動態膜の形成を抑制するフッ素化合物が添加されている。このフッ素化合物として、実施例1と同様のものを用いることができる。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
続いて、図2(d)に示すように、チタン基材10に電源60のマイナス端子を接続し、電気金めっき浴50に電源60のプラス端子を浸す。それにより、図2(e)に示すように、チタン基材10の表面に金めっき40が形成される。この電気金めっき浴50には不動態膜の形成を抑制するフッ素化合物が添加されていることから、チタン基材10の表面における不動態膜の形成が抑制される。その結果、チタン基材10と金めっき40との間に高い密着性が得られる。また、チタン基材10への金の不析出を抑制することができる。
【0025】
ここで、電気金めっき浴に酸化膜を除去可能な還元酸等を添加することが考えられる。この場合、チタン基材10の表面の酸化膜を除去しつつ金をめっきすることができるからである。しかしながら、表1〜表3に示すように、一般的な電気金めっき浴はシアン浴であることから、還元酸を電気金めっき浴に添加することができない。したがって、本実施例のように、酸化膜を除去した後に電気金めっき浴50にチタン基材10を浸漬することによって、良好な密着性を有する金めっきを形成することができる。
【0026】
なお、実施例1に係る工程に従ってチタン基材10表面に金めっきを形成した後に、チタン基材10を本実施例に係る電気金めっき浴50に浸漬してチタン基材10に電気めっき処理を施してもよい。この場合、不導態膜の形成を抑制しつつAu厚付めっきを行うことができる。この場合の電気金めっき浴50には、フッ素化合物は添加されていなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施例に係る金めっき構造体の製造方法を示す製造フロー図である。
【図2】本発明の第2実施例に係る金めっき構造体の製造方法を示す製造フロー図である。
【符号の説明】
【0028】
10 チタン基材
20 エッチング液
30 無電解金めっき浴
40 金めっき
50 電気金めっき浴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン基材の表面から酸化膜を除去する除去工程と、
前記除去工程後に、フッ素化合物が添加された金めっき浴に前記チタン基材を浸漬する浸漬工程と、を含むことを特徴とする金めっき構造体の製造方法。
【請求項2】
前記除去工程は、還元性酸を用いて前記酸化膜を除去する工程であることを特徴とする請求項1記載の金めっき構造体の製造方法。
【請求項3】
前記チタン基材は、多孔体であり、
前記浸漬工程は、フッ素化合物が添加された無電解金めっき浴に前記チタン基材を浸す工程であることを特徴とする請求項1または2記載の金めっき構造体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−114522(P2009−114522A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290725(P2007−290725)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(594059293)下関鍍金株式会社 (5)
【出願人】(593174641)メルテックス株式会社 (28)
【Fターム(参考)】