説明

金めっき膜およびその製造方法

【課題】電気的に接続する部分に施される金めっきにおいて、硬度および電気伝導性共に優れた金めっき膜を得る金めっき方法を提供する。
【解決手段】カチオン系添加剤を添加された非シアン系の金めっき浴を用い、陰極となる被めっき体と陽極の間にパルス周期5msec以上300msec以内で、デューティ比0.001以上0.5以内のパルス電流を供給することにより、単一金属元素からなり、平均粒径が17nm以上25nm以下の範囲である結晶子から構成され、ビッカース硬度が160Hv以上である金めっき膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金めっき膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子機器における電気的に接続する部分には、安定した通電を行うため、接触電気抵抗が低い貴金属めっき処理が施される。特に、金は、高い耐食性と良好な電気伝導性に加え、良好な半田濡れ性および接合性を有する貴金属であるため、電気的に接続する部位に用いられている。一方、金は、非常に高価な金属であるため、低コスト化の観点から、機能上必要とされる部分にのみめっきされることが多い。
【0003】
金めっき膜は、例えば、次のような方法で製造されている。まず、水溶性シアン化金塩と水溶性リン酸化合物とアルカリを含む金めっき浴を、pH4.5〜6.5、約25℃の温度に調製する。次に、めっき対象物を上記金めっき浴に入れて陰極とし、陽極には、他の金属を用いて、両極間に直流電源を接続して適当な電圧を与える。この結果、めっき対象物の表面に金めっき膜が形成される(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
金は、非常に軟らかい金属であるため、耐久性を必要とする場合には、通常、金と他の金属との合金をめっきする。例えば、金−コバルト合金のめっきは、金のみを用いた場合と比べ、特に優れた硬度および耐磨耗性を持つ。金−コバルト合金のめっき方法に関しては、数多くの研究報告がなれている。代表的なめっき方法としては、金イオン源としての可溶性金塩または金錯体と、電導塩としての有機酸塩または無機塩と、硬質化剤とを含有するめっき浴を用いた電析によって、金−コバルト合金のめっき膜を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0005】
さらに、別の金合金めっきの例としては、金−錫合金めっき浴を用い、常時、一定組成を有する金−錫合金のめっき膜を製造する方法も知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開昭56−108893号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−76026号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平8−53790号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の製造方法およびその製造方法により得られるめっき膜には、次のような問題がある。特許文献1に開示される金めっき膜は、高耐食性、良好な電気伝導性を有するという利点がある一方で、硬度が低く、耐久性に欠けるという欠点がある。また、特許文献2および特許文献3に開示される金合金めっき膜は、硬度が高く、耐久性に優れる一方で、単一金元素から構成される金めっき膜と比べて、接触抵抗が高くなり、電気伝導性が劣るという欠点がある。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、硬度および電気伝導性に共に優れた金めっき膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、単一金属元素から成る金めっき膜であって、金めっき膜は、平均粒径が17nm以上25nm以下の範囲である結晶子から構成され、ビッカース硬度が160Hv以上である金めっき膜としている。このため、硬度および電気伝導性に共に優れた金めっき膜となる。すなわち、金属元素としては金のみから構成されるめっき膜であるため、金以外の金属を含む金合金めっき膜よりも、接触抵抗が低く、良好な電気伝導性が得られる。また、金めっき膜は、平均粒径が17nm以上25nm以下の範囲の結晶子からなる組織で、ビッカース硬度が160Hv以上の金めっき膜であるため、高い硬度を有し、耐久性に富む。また、微細な結晶子から構成される金めっき膜は、被めっき体との密着性に優れると共に、緻密な膜になる。さらに、従来の金合金のめっき膜と比べて、コバルト等の他の金属元素を含まないため、金属アレルギーを引き起こす危険性もない。
【0009】
また、別の本発明は、単一金属元素から成る金めっき膜の製造方法であって、陰極となる被めっき体と陽極とを非シアンの金めっき浴の中に配置する電極配置工程と、陽極と陰極との間にパルス電流を流して電析を行う電析工程とを有し、電析工程中に、5msec以上300msec以内の範囲のパルス周期で、かつパルス周期に対するパルスオン時間の比が0.001以上0.5以下の範囲のパルス電流を供給する金めっき膜の製造方法としている。
【0010】
このような製法を採用することにより、硬度および電気伝導性に共に優れた金めっき膜を容易に製造できる。また、陰極となる被めっき体を金めっき浴に配置した後、パルス電流を流すことによって、金めっき浴中における核の発生が促進され、結晶子の微細化を実現できる。このため、直流電流を用いるめっき方法に比べて、より小さい粒径を有する結晶子が析出され、高硬度の金めっき膜を製造できる。加えて、めっき膜の厚さにバラツキが発生しにくくなる。また、パルス周期に対するパルスオン時間の比を0.001以上0.5以下の範囲としているので、陰極となる被めっき体の界面近傍における金イオンの欠乏を低減でき、結晶性を高めることができる。さらに、非シアンの金めっき浴を採用しているので、取扱が容易であり、従来のシアンが存在する金めっきと異なり、公害を引き起こす危険性がない。また、本発明の製造方法は、パルス電流を採用することによって、金めっき膜の厚さおよび電析工程の時間を容易にコントロールできる。したがって、製造工程を簡単化でき、かつ、効率よく低コストで、良好な電気伝導性および高硬度を有する金めっき膜を製造することができる。
【0011】
また、別の本発明は、先の発明において、非シアンの金めっき浴にカチオン系添加剤を添加して、電析工程を行う金めっき膜の製造方法としている。このような製造方法を採用すると、カチオン系添加剤が陰極の表面に吸着して、陰極で析出する結晶の場のエネルギーあるいは析出する個所を変化させるため、結晶子サイズが小さくなる。
【0012】
また、別の本発明は、先の発明におけるカチオン系添加剤を、トリメチルステアリルアンモニウムクロリドとする金めっき膜の製造方法としている。このため、析出した結晶子の平均粒径がさらに制御しやすくなり、より均一な平均粒径を有する結晶子から成り、高硬度を有する金めっき膜を製造できる。
【0013】
また、別の本発明は、先の発明における電析工程の前に、陰極の表面にNi−Pをめっきする金めっき膜の製造方法としている。このようなNi−Pのめっき膜を陰極の表面に形成することより、P元素自身が酸化され、金めっき膜のピンホール部で安定な酸化物膜が形成される。この結果、ニッケルの酸化および腐蝕を抑制した上で、ピンホールを介してのニッケルの拡散も防止できる。このため、接触抵抗の劣化が少なく、十分な耐食性および耐熱性を保持できる。
【0014】
本発明に係る金めっき膜の製造工程において、非シアンの金めっき浴に用いられる金の供給源には、非シアン化の金化合物である塩化金錯体、亜硫酸金錯体、システイン金錯体、アセチルシステイン金錯体等並びにそれらのアルカリ金属塩および/またはアンモニウム金属塩等を用いることができる。特に、低コストおよび易取扱性の観点から、塩化金酸塩ナトリウムを用いることが好ましい。ただし、上述の金の供給源は一例に過ぎず、他の非シアン化金塩または金錯体を採用しても良い。なお、金の供給源は、一種類の金化合物でも、二種類以上の金化合物でも良い。
【0015】
本発明に係る金めっき膜の製造工程において、非シアンの金めっき浴に用いられる電導塩としては、公知の電導塩、例えば、硫酸、亜硫酸や塩酸等のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩等を用いることができる。特に、好ましいのは、亜硫酸ナトリウムである。これらの電導塩は、単独で使用しても、2種以上併用しても良い。
【0016】
本発明に係る金めっき膜の製造工程において用いられるカチオン系添加剤としては、例えば、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルジメチルアンモニウムベタイン、トリメチルベンジルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム塩、オレイルイミダゾリニウム塩、ポリアクリル酸−分子量5000、ポリエチレングリコール−分子量2000等が挙げられる。特に、好ましくは、トリメチルステアリルアンモニウムクロリドである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、硬度および電気伝導性に共に優れた金めっき膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る金めっき膜およびその製造方法の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0019】
この実施の形態に係る金めっき膜は、平均粒径が17nm以上25nm以下の範囲の金結晶子から構成されている。金結晶子の平均粒径が25nmを超えると、空孔が増加し、めっき膜の硬度が低下する。一方、金結晶子の粒径が小さくなると、ホールペッチ(Hall−Petch)の関係に従って、理論的に硬度が高くなるはずであるにもかかわらず、金結晶子の平均粒径が17nm未満になると、めっき膜の硬度は低くなる。この実施の形態に係る金めっき膜は、平均粒径17nm以上25nm以下の金結晶子から構成され、ビッカース硬度が160Hv以上の高硬度の膜である。
【0020】
次に、本発明の実施の形態に係る金めっき膜の製造方法について説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る金めっき膜の製造工程を示すフローチャートである。
【0022】
まず、被めっき体に金めっき膜をつける前に、被めっき体に予めNi−Pをめっきする工程を行う(ステップS101)。このように被めっき体にNi−Pをめっきすることによって、金めっき膜の密着性の向上および金めっき浴への被めっき体の溶解の防止を図ることができる。このNi−Pめっきの工程において、めっき浴の組成および条件は、任意に選択でき、特に限定されない。また、Ni−Pめっきを、電解めっきのみならず、無電解めっきにより製造しても良い。さらに、Ni−Pめっき膜の内側に、別のめっき膜を形成しても良い。
【0023】
次に、非シアンの金化合物、電導塩およびカチオン系添加剤等を含有する金めっき浴を所定のpHおよび温度に調製する(ステップS102)。この実施の形態では、非シアンの金化合物として塩化金酸(III)ナトリウムを、電導塩として亜硫酸ナトリウムを、カチオン系添加剤としてトリメチルステアリルアンモニウムクロリド(TMSAC)を、好適に用いる。電導塩として亜硫酸ナトリウムを採用するのは、めっき浴の導電性を向上させるためである。また、めっき浴を安定化させるため、安定剤として、2,2’ビピリジルを添加することもできる。
【0024】
続いて、被めっき体を陰極として、当該陰極と陽極とを上記のめっき浴内に配置する(ステップS103)。その後、攪拌しながら、パルス電流をかけて電析を行う(ステップS104)。めっき浴中において、対向配置する両極間に所定のパルス電流を流すと、オンタイム状態の際に、めっき浴中に存在する金イオンが被めっき体の表面に金として析出する。また、オフタイム状態の際には、金の析出が停止し、被めっき体の界面近傍の金イオンが拡散してその濃度が一定となる。この工程を繰り返すことにより、金めっき膜を構成する金結晶子を成長させつつ、金めっき膜の析出が進行する。
【0025】
ここで、オンタイムおよびオフタイムとは、それぞれ、パルス電流の通電時間および中断時間である。パルス電流によるめっき処理の際のパルス周期は、10msec以上275msec以下の範囲である。10msec以上275msec以下の範囲とすると、金結晶子の平均粒径を17nm以上25nm以下の範囲とし、ビッカース硬度を160Hv以上の金めっき膜を製造することができる。特に好ましいパルス周期は、50msec以上100msec以下の範囲である。
【0026】
また、パルス電流のデューティー比は、0.001以上0.5以内の範囲に調製するのが好ましい。特に好ましくは、0.008以上0.25以下の範囲である。ここで、デューティー比とは、パルス電流のパルス周期に対するオンタイム状態の時間の比である。デューティー比を0.5以下とすると、直流電気を用いためっき方法と大きく異なり、析出した金結晶子の粒径が小さくなる。このため、得られた金めっき膜の硬度が高まり、かつ膜の厚さも均一となる。加えて、ピンホールが生じる可能性も低くなる。一方、デューティー比を0.001以上とすると、被めっき体の界面近傍の金イオンの欠乏を十分に回復させることができ、めっき膜の結晶性を高めることができる。
【0027】
電析中のパルス電流の平均電流密度は、2〜11mA/cm・secが好ましい。上述のめっき浴のpH値および温度等の条件を考慮し、かかる範囲の平均電流密度で析出する金めっき膜の特性が比較的、良好な状態となる。また、被めっき体とめっき組成物との接触方法については、その種類を問わない。めっき浴中に被めっき体を浸漬し、電析中、攪拌によって乱流を作ることが好ましい。攪拌方法は、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0028】
また、この実施の形態におけるめっき処理時間は、所望の金めっき膜の厚さ、使用される被めっき体の種類等により適切な時間に設定可能である。
【0029】
以上、本発明に係る金めっき膜およびその製造方法の実施の形態について説明したが、本発明に係る金めっき膜およびその製造方法は、上述の実施の形態に限定されず、種々変形した形態にて実施可能である。
【0030】
例えば、金めっき膜は、金以外の金属を含まない限り、他の物質(有機物、金属以外の無機物等)を含む膜であっても良い。また、めっき浴に、カチオン系添加剤以外に、ノニオン系添加剤を添加して電析を行っても良い。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の各実施例および各比較例について説明する。ただし、本発明は、以下の各実施例に限定されるものではない。
【0032】
A.金めっきの製造方法
表1に、各実施例および各比較例の製造条件を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例1)
表2にめっき処理に用いたベース浴の基本組成を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
ベース浴を構成する金化合物、電導塩および安定剤には、それぞれ、0.005Mの塩化金(III)ナトリウム、0.05Mの亜硫酸ナトリウムおよび0.1g/Lの2,2’−ビピリジルを用いた。このベース浴に、さらに、0.1g/Lのカチオン系添加剤の一種であるトリメチルステアリルアンモニウムクロリドを添加して、金めっき浴とした。
【0037】
上記金めっき浴内に、陽極と、予めNi−Pをめっきした被めっき体からなる陰極とを配置し、pHを8に、温度を60℃に維持しながら攪拌した。金めっき浴を攪拌しながら、陽極と陰極にパルス電源をつなぎ、平均電流密度5mA/cm・sec、パルス周期10msec、デューティー比0.28の条件でパルス電流を流した。
【0038】
(実施例2)
平均電流密度2mA/cm・sec、パルス周期50msec、デューティー比0.008の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0039】
(実施例3)
平均電流密度5mA/cm・sec、パルス周期50msec、デューティー比0.01の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0040】
(実施例4)
平均電流密度11mA/cm・sec、パルス周期50msec、デューティー比0.5の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0041】
(実施例5)
平均電流密度5mA/cm・sec、パルス周期100msec、デューティー比0.001の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0042】
(実施例6)
平均電流密度5mA/cm・sec、パルス周期100msec、デューティー比0.01の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0043】
(実施例7)
平均電流密度2.5mA/cm・sec、パルス周期100msec、デューティー比0.02の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0044】
(実施例8)
平均電流密度2.5mA/cm・sec、パルス周期100msec、デューティー比0.05の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0045】
(実施例9)
平均電流密度5mA/cm・sec、パルス周期100msec、デューティー比0.05の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0046】
(実施例10)
平均電流密度11mA/cm・sec、パルス周期275msec、デューティー比0.254の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0047】
(実施例11)
実施例1と同じベース浴に、さらに、0.1g/Lのカチオン系添加剤の一種であるジアリルジメチルアンモニウムクロリドを添加して、金めっき浴とした。上記金めっき浴を攪拌しながら、陽極と陰極にパルス電源をつなぎ、平均電流密度5mA/cm・sec、パルス周期10msec、デューティー比0.01の条件でパルス電流を流した。これら以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0048】
(実施例12)
実施例1と同じベース浴に、さらに、0.1g/Lのノニオン系添加剤の一種であるポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテルを添加して、金めっき浴とした。上記金めっき浴を攪拌しながら、陽極と陰極にパルス電源をつなぎ、平均電流密度5mA/cm・sec、パルス周期10msec、デューティー比0.01の条件でパルス電流を流した。これら以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0049】
(比較例1)
平均電流密度5mA/cm・secの直流電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0050】
(比較例2)
平均電流密度5mA/cm・sec、パルス周期1000msec、デューティー比0.01の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0051】
(比較例3)
平均電流密度5mA/cm・sec、パルス周期100msec、デューティー比0.9の条件でパルス電流を流した以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。
【0052】
B.金めっきの特性評価方法
金めっき膜表面の組織観察には、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)を用いた。また、金めっき膜の組成および結晶子サイズの同定には、X線回折装置を用いた。さらに、金めっき膜の硬度測定には、ビッカース硬度測定機を用いた。
【0053】
C.金めっき膜の特性評価結果および考察
表3に、各実施例および各比較例から得られた金めっき膜の特性を示す。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例1の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは23nmであり、ビッカース硬度は174Hvであった。また、実施例2の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは24nmであり、ビッカース硬度は175Hvであった。実施例3の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは22nmであり、ビッカース硬度は177Hvであった。また、実施例4の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは24nmであり、ビッカース硬度は187Hvであった。実施例5の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは20nmであり、ビッカース硬度は183Hvであった。また、実施例6の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは21nmであり、ビッカース硬度は171Hvであった。
【0056】
実施例7の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは21nmであり、ビッカース硬度は189Hvであった。また、実施例8の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは23nmであり、ビッカース硬度は176Hvであった。実施例9の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは18nmであり、ビッカース硬度は193Hvであった。実施例10の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは24nmであり、ビッカース硬度は185Hvであった。また、実施例11の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは25nmであり、ビッカース硬度は174Hvであった。実施例12の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは24nmであり、ビッカース硬度は162Hvであった。
【0057】
これらに対して、比較例1の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは33nmであり、ビッカース硬度は97Hvであった。また、比較例2の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは27nmであり、ビッカース硬度は128Hvであった。さらに、比較例3の条件で得られた金めっき膜の平均結晶子サイズは33nmであり、ビッカース硬度は80Hvであった。
【0058】
図2に、直流電流を用いた電析により得られた金めっき膜(比較例1の条件で得られた金めっき膜)およびパルス電流を用いた電析により得られた金めっき膜(実施例9の条件で得られた金めっき膜)の表面の走査型電子顕微鏡の写真を示す。また、図3に、図2に示す各金めっき膜のX線回折チャートを示す。
【0059】
図2に示すように、直流電流を用いた電析により得られた金めっき膜は、不均一な金の結晶子から構成されているのに対し、パルス電流を用いた電析により得られた金めっき膜は、均一で、かつ微細な結晶子から構成されていた。また、X線回折を用いた分析の結果、両金めっき膜ともに、金の結晶ピークを有していた。X線回折法による半値幅から平均結晶子サイズを同定したところ、直流電流を用いた電析により得られた金めっき膜の金結晶子の平均粒径は、33nmであった。一方、パルス電流を用いた電析により得られた金めっき膜の金結晶子の平均粒径は、18nmであった。これらの結果から、パルス電流を用いた電析により得られた金めっき膜の方が、金結晶子の平均粒径が小さく、かつ均一であることがわかる。このような組織がビッカース硬度に優れる特性の要因となっていると考えられる。
【0060】
表3において、比較例2の条件で得られた金めっき膜の特性と、実施例6の条件で得られた金めっき膜の特性とを比較すると、パルス周期が1000msecとなると、金結晶子の平均粒径が大きく、硬度が低下していることがわかる。また、比較例3の条件で得られた金めっき膜の特性と、実施例6の条件で得られた金めっき膜の特性とを比較すると、デューティー比が0.9になると、金結晶子の平均粒径が大きく、硬度が低下していることがわかる。
【0061】
上記の結果と、実施例1〜12の各条件で得られた金めっき膜の特性とから、パルス電流を用いた場合であって、パルス周期が10msec以上275msec以下の範囲で、かつデューティー比が0.001以上0.5以下の範囲の条件にて電析を行うと、ビッカース硬度が160Hv以上となることがわかった。この要因として、金結晶子の平均粒径が17nm以上25nmの範囲という硬度を高めるに適した大きさの組織が形成されたことが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、金めっき膜を製造あるいは使用する産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態に係る金めっき膜の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】直流電流を用いた電析により得られた金めっき膜(比較例1の条件で得られた金めっき膜)およびパルス電流を用いた電析により得られた金めっき膜(実施例9の条件で得られた金めっき膜)の表面の走査型電子顕微鏡の写真である。(A)は、比較例1の条件で得られた金めっき膜の表面のSEM写真である。(B)は、実施例9の条件で得られた金めっき膜の表面のSEM写真である。
【図3】図2に示す各金めっき膜のX線回折チャートを示す。(A)は、比較例1の条件で得られた金めっき膜のX線回折チャートである。(B)は、実施例9の条件で得られた金めっき膜のX線回折チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一金属元素から成る金めっき膜であって、
上記金めっき膜は、平均粒径が17nm以上25nm以下の範囲である結晶子から構成され、
ビッカース硬度が160Hv以上であることを特徴とする金めっき膜。
【請求項2】
単一金属元素から成る金めっき膜の製造方法であって、
陰極となる被めっき体と陽極とを非シアンの金めっき浴の中に配置する電極配置工程と、
上記陽極と上記陰極との間にパルス電流を流して電析を行う電析工程とを有し、
上記電析工程中に、5msec以上300msec以内の範囲のパルス周期で、かつ上記パルス周期に対するパルスオン時間の比が0.001以上0.5以下の範囲のパルス電流を供給することを特徴とする金めっき膜の製造方法。
【請求項3】
前記非シアンの金めっき浴にカチオン系添加剤を添加して、前記電析工程を行うことを特徴とする請求項2に記載の金めっき膜の製造方法。
【請求項4】
前記カチオン系添加剤は、トリメチルステアリルアンモニウムクロリドであることを特徴とする請求項3に記載の金めっき膜の製造方法。
【請求項5】
前記電析工程の前に、前記陰極の表面にNi−Pをめっきすることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の金めっき膜の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−177291(P2007−177291A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377355(P2005−377355)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(392036108)株式会社みくに工業 (17)
【Fターム(参考)】