説明

金ナノロッドとその製造方法、金ナノロッドを用いた電磁波吸収体、色材、光記録材料および二光子反応材料

【課題】所望のアスペクト比と粒子サイズを有し、吸収波長以外の光散乱を抑制できる金ナノロッドを効率良く得る製造方法と、該ロッドを用いた機能性光学材料を提供する。
【解決手段】4級アンモニウム塩(例えば、CTAB)を含む水相と油相(例えば、シクロヘキサノンとジイソブチルケトンとを添加)からなるミセル溶液中で銀イオンと共存する金イオンを、還元剤(例えば、アスコルビン酸水溶液)を用いた還元により前記金イオンの色が失われるまで所定量の還元剤をミセル溶液中に滴下後、還元剤を用いない還元(例えば、光還元)を行いながら、さらに前記還元剤を追加投入して金ナノロッドを成長させる。得られた金ナノロッドを用いて機能性光学材料、例えば、三次元記録媒体を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金ナノロッドの製造方法および金ナノロッド用いた機能性材料に関し、詳しくは、所望のアスペクト比と所望のロッド径若しくは長さを有する金ナノロッドを短時間で高濃度に得る製造方法と、金ナノロッドを用いた機能性光学材料(例えば、光および電磁波吸収体、色材、光記録材料および二光子反応材料)に関する。
【背景技術】
【0002】
球形の金のナノ粒子は、古くはガラス中に分散した赤色を示す色材として利用されてきた。近年、この金ナノ粒子の形状を棒状に制御することにより、球形のナノ粒子とは異なる吸収特性を示すこと、さらには、棒状の金ナノ粒子のアスペクト比を制御することによって吸収波長の制御が可能であることが見出された。この棒状の金ナノ粒子の作成方法としては、電解法、光還元法などが知られている。
【0003】
電解法としては、例えば、銀イオンを含む4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤溶液中で、陽極に金の電極を用いて定電流電解することにより金属ナノロッドを得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記方法において、原料となる金イオンは金電極が溶解することにより供給されている。また、溶液中に共存させる銀イオンは、溶液として逐次供給されるか、若しくは、電界電極以外のものとして電解液中に浸漬される銀板から供給される。電界条件および金イオンと銀イオンの比により、ナノロッドのアスペクト比が制御可能であると記載されているが、球状の粒子が生成しやすく、また、原料が逐次供給されるために安定した操業条件を得ることが難しい。
これを改良するため、界面活性剤としてジアルキルジメチルアンモニウムブロミド(例えば、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド)を含む溶液中で電気化学的反応によってロッド状金属微粒子の割合が多い金属ナノロッドを得る方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)が、十分とは言えない。
【0004】
光還元法は、上記電解法と同様に、銀イオンを含む4級アンモニウム塩水溶液を成長溶液として用いているが、この場合の金原料は、塩化金酸として最初から成長溶液中に存在する。成長する金ナノロッドのアスペクト比は金イオンと銀イオンの比によりコントロール可能であることが知られている。
例えば、非特許文献1によれば、光還元によるナノロッドの生成には反応助剤であるアセトンを用いても、10時間以上を必要とすることが知られており、一方、特許文献3によれば反応の一段階を化学還元により行うことで、数十分程度に短縮可能であることが記載されている。
【0005】
光還元により生成される金ナノロッドの特徴は、アスペクト比の揃った吸収のシャープな粒子が得やすいこと、球状の粒子の生成が比較的少ないことにある。しかし、光還元のみでは、ナノロッドの生成は10時間以上を要する非効率な方法であり、また、反応の一部に化学還元を併用する場合にも、還元剤によって3価の金イオンの色が脱色されただけの状態では反応は容易に進まず、やはりアセトンを反応助剤として用いている。つまり、反応助剤であるアセトンが溶液中に存在することが反応時間の短縮に必要な条件である。
しかし、反応助剤であるアセトンが存在する条件下で反応を進めると、得られる粒子のアスペクト比はほぼ揃っているが、反応開始時の還元剤の過不足により、金原料の収率と、金ナノロッド自体に大きさの分布が生じる。
【0006】
一方、上記金ナノロッドの有する特異な性質を利用した各種機能材料(例えば、新規色材や、機能性光学材料等)が注目され、例えば、表面ブラズモン増強場の発生手段として、金ナノロッドを利用する技術の研究が進められている。プラズモン増強場を持つ金ナノロッドを含む二光子吸収材料あるいは反応助剤を含む材料を用いることにより、二光子吸収反応の反応閾値を低減したり、あるいは集光点で反応を起こすことが可能であるため、例えば、光記録材料(三次元記録媒体)、光造形用材料、二光子吸収蛍光材料としての応用などが注目されている。
【0007】
例えば、金ナノロッドと二光子吸収材料を含む三次元光記録媒体(三次元多層光メモリ)の応用が期待される分野について見てみると、最近、インターネット等のネットワークやハイビジョンTVが急速に普及している。また、HDTV(High Definition Television)の放映も間近にひかえて、民生用途においても50GB以上、好ましくは100GB以上の画像情報を安価・簡便に記録するための大容量記録媒体の要求が高まっている。さらに、コンピューターバックアップ用途、放送バックアップ用途等、業務用途においては、1TB程度あるいはそれ以上の大容量の情報を高速かつ安価に記録できる光記録媒体が求められている。そのような中、DVD±Rのような従来の二次元光記録媒体は物理原理上、たとえ記録再生波長を短波長化したとしてもせいぜい25GB程度で、将来の要求に対応できる程の充分大きな記録容量が期待できるとは言えない状況である。
【0008】
上記のような状況の中、究極の高密度、高容量記録媒体として、三次元光記録媒体が俄然注目されてきている。三次元光記録媒体は、三次元(膜厚)方向に何十、何百層もの記録を重ねることが可能であったり、記録層を厚膜として光入射方向に対して何重にも記録再生を行うことが可能である。つまり、三次元記録媒体を用いることにより、従来の二次元記録媒体の何十、何百倍もの超高密度、超高容量記録を達成することができる。
【0009】
三次元光記録媒体を提供するためには、三次元(膜厚)方向の任意の場所にアクセスして書き込みできなければならないが、その手段として、二光子吸収材料を用いる方法、あるいはホログラフィ(干渉)を用いる方法がある。
二光子吸収材料を用いる三次元光記録媒体では、上記で説明した物理原理に基づいて何十、何百倍もの記録、いわゆるビット記録が可能であり、より高密度記録が可能である。このことから、三次元光記録媒体は、まさに究極の高密度、高容量光記録媒体であると言える。
【0010】
例えば、二光子吸収材料を用いた三次元元光記録媒体としては、記録再生に蛍光性物質を用いて蛍光で読み取る方法(例えば、特許文献4、5参照)、フォトクロミック化合物を用いて吸収または蛍光で読み取る方法(例えば、特許文献6参照)等が提案されている。
【0011】
しかし、上記特許文献4、5ではいずれも具体的な二光子吸収材料の記載はなく、また抽象的に提示されている二光子吸収化合物の例でも、二光子吸収効率の極めて小さい二光子吸収化合物を用いている。
さらに、上記特許文献6、7に用いているフォトクロミック化合物は可逆材料であるため、非破壊読み出し、記録の長期保存性、再生のS/N比等に問題があり、光記録媒体として実用性のある方式であるとは言えない。特に非破壊読出し、記録の長期保存性等の点では、不可逆材料を用いて反射率(屈折率または吸収率)または発光強度の変化で再生するのが好ましいが、このような機能を有する二光子吸収材料を具体的に記載している例はない。
【0012】
また、屈折率変調により三次元的に記録する記録装置、および再生装置、読み出し方法等が提案されているが、二光子吸収三次元光記録材料を用いた方法についての記載はない(例えば、特許文献8、9参照)。
【0013】
【特許文献1】特開2003−315531号公報
【特許文献2】特開2005−68447号公報
【特許文献3】特開2005−97718号公報
【特許文献4】特表2001−524245号公報
【特許文献5】特表2000−512061号公報
【特許文献6】特表2001−522119号公報
【特許文献7】特表2001−508221号公報
【特許文献8】特開平6−28672号公報
【特許文献9】特開平6−118306号公報
【非特許文献1】J.AM.CHEM.SOC,2002,124,pp14316-14317,F.Kim,J.H.Song,and P.Yang)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、機能材料としての特性安定化の観点から、所望のアスペクト比と所望のロッド径若しくは長さを有し、かつ吸収波長以外の光の散乱を抑制可能なロッド径の小さな粒子からなる金ナノロッドの製造方法を提供すると共に、経済性の観点から、より高濃度の金ナノロッドを短時間に得る製造方法を提供することを目的としている。さらに、金ナノロッドを用いた機能性光学材料(例えば、光および電磁波吸収体、色材、光記録材料、二光子反応材料など)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の〔1〕〜〔14〕に記載する発明によって上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
【0016】
〔1〕:上記課題は、4級アンモニウム塩を含む水相と油相からなるミセル溶液中で銀イオンと共存する金イオンを、還元剤を用いた還元と、還元剤を用いない還元との併用により金ナノロッドを成長させる金ナノロッド製造法において、
前記金イオンの色が失われるまで所定量の還元剤をミセル溶液中に滴下後、前記還元剤を用いない還元を行いながら、さらに前記還元剤を追加投入することを特徴とする金ナノロッド製造方法により解決される。
【0017】
〔2〕:上記〔1〕に記載の金ナノロッド製造方法において、前記還元剤を用いない還元が、光照射により行う光還元、または通電により行う電解還元であることを特徴とする。
【0018】
〔3〕:上記〔1〕または〔2〕に記載の金ナノロッド製造方法において、前記油相にアセトンを含まないことを特徴とする。
【0019】
〔4〕:上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の金ナノロッド製造方法において、前記還元剤を用いない還元の工程中に、前記還元剤を、添加量を制御しつつ継続的にミセル溶液中に投入することを特徴とする。
【0020】
〔5〕:上記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の金ナノロッド製造方法において、前記4級アンモニウム塩の濃度が、0.1mol/l以上であることを特徴とする。
【0021】
〔6〕:上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の金ナノロッド製造方法において、前記金イオンの濃度調整により、金ナノロッドの短軸方向の長さを制御することを特徴とする。
【0022】
〔7〕:上記〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の金ナノロッド製造方法において、前記ミセル溶液に、水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分を添加することを特徴とする。
【0023】
〔8〕:上記〔7〕に記載の金ナノロッド製造方法において、前記水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分が、前記水相および油相の双方に溶解度を有することを特徴とする。
【0024】
〔9〕:上記〔7〕または〔8〕に記載の金ナノロッド製造方法において、前記水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分が、ジイソブチルケトンまたはメチルイソブチルケトンの少なくとも一種から選ばれるものであることを特徴とする。
【0025】
〔10〕:上記課題は、〔1〕乃至〔9〕のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする金ナノロッドにより解決される。
【0026】
〔11〕:上記課題は、〔10〕に記載の金ナノロッドを含んでなることを特徴とする光および電磁波吸収体により解決される。
【0027】
〔12〕:上記課題は、〔10〕に記載の金ナノロッドを含んでなることを特徴とする色材により解決される。
【0028】
〔13〕:上記課題は、〔10〕に記載の金ナノロッドを含んでなることを特徴とする光記録材料により解決される。
【0029】
〔14〕:上記課題は、〔10〕に記載の金ナノロッドと二光子吸収材料を少なくとも含んでなることを特徴とする二光子反応材料により解決される。
【発明の効果】
【0030】
本発明の金ナノロッド製造方法によれば、還元剤を用いた還元と、還元剤を用いない還元との併用により金ナノロッドを成長させる際に、金イオンの色が失われるまで所定量の還元剤をミセル溶液中に滴下後、還元剤を用いない還元(主たる還元)を行いながら、さらに前記還元剤を追加投入するため、還元析出反応が短縮されて速やかに金ナノロッドが生成する。また、還元剤の追加投入によって金の過飽和度を制御できるため、所望のアスペクト比と粒子サイズの金ナノロッドを短時間で得ることができる。このため、特性の揃った高機能な金ナノロッドが高濃度で得られる。
本発明の金ナノロッドによれば、上記製造方法によって所望のアスペクト比、所望のロッド径あるいは長さを有すると共に、ロッド径の小さな粒子(例えば、吸収波長以外の光の散乱を抑制可能な大きさの粒子)とされるため、高機能性光学材料、例えば、光および電磁波吸収体、色材、光記録材料、二光子反応材料などに好適に応用できる。
本発明の金ナノロッドを含んでなる光および電磁波吸収体とすれば、吸収特性がシャープでかつ吸収帯域外の散乱損失が小さく光および電磁波吸収能の優れた高機能性材料として用いることができる。
本発明の金ナノロッドを含んでなる色材とすれば、耐候性に優れた色純度の高い高機能性材料として用いることができる。
本発明の金ナノロッドを含んでなる二光子反応材料とすれば、感度の高い高機能性材料(例えば、光造形用材料等)として用いることができる。
本発明の金ナノロッドを含んでなる光記録材料とすれば、高感度で、かつ記録密度の高い高機能性材料(例えば、三次元光記録媒体)として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
前述のように本発明における金ナノロッド製造方法は、4級アンモニウム塩を含む水相と油相からなるミセル溶液中で銀イオンと共存する金イオンを、還元剤を用いた還元と、還元剤を用いない還元との併用により金ナノロッドを成長させる金ナノロッド製造法において、
前記金イオンの色が失われるまで所定量の還元剤をミセル溶液中に滴下後、前記還元剤を用いない還元を行いながら、さらに前記還元剤を追加投入することを特徴とするものである(本発明〔1〕)。ここで、上記4級アンモニウム塩は、界面活性剤としての役割を担っている。
なお、以降「還元剤を用いない還元」を「主たる還元」あるいは「主たる還元工程」と表現することがある。
【0032】
一般に、大きさの揃った微粒子を得るためには、核発生と粒子の成長工程が時間的に分離されていることが望ましいとされている。このために、成長初期に大きな過飽和度が生じ、著しく多数の核を発生させた後、粒子の成長に従い原料が消費されていく反応デザインが一般的である。
しかし、金ナノロッドの成長条件を考察すると、出発原料の還元は、還元剤を用いない還元の工程中(つまり、主たる還元の工程中)、原料が枯渇するまで緩やかに続いており、これまでの球状微粒子の生成過程とは異なっている。
「還元剤を用いない還元」とは、例えば、光照射により行う光還元や、通電により行う電解還元などを指している。
すなわち、本発明者らは、前記一般的な反応デザインと異なる金ナノロッドの成長条件から、核発生後に、異方性を持つ結晶の成長が起こる程度に原料金属イオンの還元による過飽和度が制御(コントロール)されていることが必要であることを知見し、その方法として、主たる還元工程中に、還元剤を追加投入することによって目的を達することが可能であることを見出した。
【0033】
すなわち、金イオンの色が消える時点で還元剤を投入することを止めた場合、主たる還元工程による金ナノロッドの生成の促進は限定的で、還元析出反応は数時間を要する。しかし、前記金イオンの色が消えた所定の滴下量に加えて、さらに追加して還元剤を投入すると、主たる還元工程開始後、速やかに金ナノロッドの生成していることが、反応途中の溶液の吸収特性から認められた。
【0034】
本発明〔1〕によれば、還元剤の追加投入により、反応中の金の過飽和度をコントロールすることができるので、所望のアスペクト比と粒子サイズの金ナノロッドを、広範囲の金原料濃度にわたって得ることができる。その結果、特性の揃った高機能な金ナノロッドを、高濃度で得ることができる。
【0035】
ここで、本発明〔1〕において、前記還元剤を用いない還元が、光照射により行う光還元、または通電により行う電解還元であることが好ましい(本発明〔2〕)。
本発明〔2〕のように、還元剤を用いた追加投入を含む還元と、光還元または電解還元を併用することによって、反応中の金の過飽和度をコントロールしつつ、効果的に金ナノロッドの生成の促進することができ、所望のアスペクト比と粒子サイズの高機能な金ナノロッドを、高濃度で効率良く得ることができる。特に、光還元はアスペクト比とサイズの揃った粒子が得やすいことから好ましく用いることができる。
【0036】
また、本発明〔1〕において、前記油相にアセトンを含まないことが好ましい(本発明〔3〕)。
従来報告されている反応助剤であるアセトンによる還元析出反応の促進は、反応が終点に至る程度の大量のアセトン添加が行われている。還元剤を用いない還元として、例えば、光還元を行うような場合には、後述のようにアセトンを添加した油性溶媒系にすると、金の還元析出が早く金ナノロッドの粒子サイズ等の制御が困難になる問題がある。さらに、アスコルビン酸のような強力な還元剤を多量に添加して光還元を行った場合には、球状の粒子が得られることを見出した。
つまり、本発明〔3〕のようにアセトンを含まないことで、反応開始時における還元剤の過不足に伴う金ナノロッドの収率への影響や、金ナノロッドの大きさに分布が生じるのを回避することができる。
【0037】
一方、本発明における還元剤の追加投入の際、その量により、金ナノロッドの生成量はコントロールされ、還元剤の枯渇により還元析出速度が急激に低下することが明らかとなった。つまり、還元剤の投入シーケンスおよび投入量により、核生成の制御、粒子の異方性成長の成長領域制御を行うための過飽和度の制御が間接的に制御可能であることが見出された。
すなわち、本発明においては、前記還元剤を、還元剤を用いない還元(主たる還元)の工程中に添加量を制御しつつ継続的にミセル溶液中に投入することが好ましい(本発明〔4〕)。
【0038】
上記のように、添加量を制御しつつ継続的にミセル溶液中に投入する(還元剤の投入シーケンスおよび投入量を制御する)ことにより、核生成の制御、粒子の異方性成長の成長領域制御を行うための過飽和度の制御が、間接的に制御可能である。
核生成後の異方性成長を安定に行うため、継続的に還元剤を投入して過飽和度を概略一定に保つことにより、特性の揃った金ナノロッドを得ることができる。継続的に投入することにより、新たな粒子の生成による吸光度の増大に加え、継続的なアスペクト比の増大による吸収ピークの長波長側へのシフトが観測される。
ここで述べる、過飽和度を概略一定に保つという概念は、還元工程の全ての時間において完全に過飽和度が一定であることを意味するだけでなく、核発生と成長のサイクルを制御する目的で、間欠的に投入することにより、過飽和度を脈動させることも含むものである。
本発明〔4〕によれば、本発明〔1〕の発明のメリットに加え、よりきめ細かい成長条件の制御が可能となると同時に、成長開始時と成長終了時の反応条件をより近づけることが可能となり、原料が完全消費するまで成長させることができる。結果として、さらに特性の揃った高機能な金ナノロッドを、より高濃度に得ることができる。
すなわち、主たる還元工程中に還元剤を投入して、溶液中の還元状態を制御することにより、アスペクト比とサイズの揃った金ナノロッドを高濃度に得ることができる成長方法である。
【0039】
本発明においては、前記4級アンモニウム塩の濃度が、0.1mol/l以上であることが好ましい(本発明〔5〕)。
従来報告されている4級アンモニウム塩の濃度よりも高濃度である本発明〔5〕に規定する反応系で金イオンの還元析出による成長を行うことにより、サイズの小さな金ナノロッドが得られやすい。その結果として、光の散乱の影響が抑制された金ナノロッドが得られる。
【0040】
また、本発明においては、前記金イオンの濃度調整により、金ナノロッドの短軸方向の長さ(太さ)を制御することが好ましい(本発明〔6〕)。
前述のように、金ナノロッドの形状を決定するのは、核生成後の成長過程である。金ナノロッドの表面が、界面活性剤である4級アンモニウム塩によって特異的に被覆されることで成長の異方性が生じると考えられるが、成長時間が長くなるに従って、単軸方向にも成長しやすくなることを知見し、その回避方法として、出発原料溶液の塩化金酸の濃度を下げることにより、成長時間を短縮し、金ナノロッドの短軸方向の成長を抑制することが可能であることを見出した。
本発明〔6〕によれば、金ナノロッドの短軸方向の成長が制御され、例えば、本発明〔5〕との複合効果により、さらに容易かつ制御性良くサイズの小さな金ナノロッドを得ることができる。すなわち、より小さなナノロッドを再現性良く製造することができる。
【0041】
また、本発明においては、前記ミセル溶液に、水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分を添加することが好ましい(本発明〔7〕)。
金ナノロッドの成長は、水と、界面活性剤無しで水に任意に混合する有機溶媒のみとの混合系では未だ報告されていない。このことから、本発明者らは、水相と油相の界面における原料の輸送と還元に対する安定性が金ナノロッドの成長に関与していると考えた。
このような観点から検討した結果、水溶液中の塩化金酸の安定度が高い成分、すなわち油性溶媒を、成長溶液に添加すると球形粒子の生成が抑制されると共に、短軸方向の成長が抑制されることを見出した。
なお、塩化金酸水溶液(界面活性剤無し)に油性溶媒を添加し、水相中の塩化金酸の還元特性を調べた結果から、例えば、従来から用いられているアセトンを含む油性溶媒系よりも金の還元析出の遅かった溶媒をここでは安定度の高い油性溶媒と定義している。
【0042】
本発明〔7〕によれば、水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分を添加することで球状の粒子の生成が抑制され、また、短軸方向の成長が抑制されたサイズの小さな金ナノロッドが得られる。結果として、得られる粒子は、吸収波長以外の波長で光の散乱が小さな高機能な金ナノロッドが得られる。
【0043】
また、本発明においては、前記水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分が、前記水相および油相の双方に溶解度を有することが好ましい(本発明〔8〕)。
本発明〔8〕によれば、水相および油相の双方に溶解度を有する成分を添加することにより、本発明〔7〕における上記効果が、より効果的に得られる。
【0044】
また、本発明においては、前記水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分が、ジイソブチルケトンまたはメチルイソブチルケトンの少なくとも一種から選ばれるものであることが好ましい(本発明〔9〕)。
本発明〔9〕に記載のジイソブチルケトンまたはメチルイソブチルケトンから選ばれる一種を添加すると、大半は油相に吸収されるが、一部は水相にとどまり、金イオンを油相に選択的に抽出する効果を示す。この効果により、水相中での金イオンの還元による球状粒子が抑制される。つまり、本発明〔7〕、〔8〕における前記効果が、より効果的に得られる。
前記〔7〕〜〔9〕により、還元工程中の球状粒子の生成が抑制されて、より小さなナノロッドが再現性良く得られる。
【0045】
また、本発明の金ナノロッドは、前記いずれかに記載の製造方法により得られるものである(本発明〔10〕)。
本発明〔10〕の金ナノロッドは、前記金イオンの還元析出の好適とされる構成、還元析出の環境条件の好適とされる構成、および球状粒子の抑制条件の好適とされる構成により、高濃度、短時間で効果的に製造される。すなわち、所望のアスペクト比と所望のロッド径若しくは長さを有し、かつ吸収波長以外の光の散乱を抑制可能なロッド径の小さな粒子からなる特性の安定した金ナノロッドである。
【0046】
また、本発明においては、本発明〔10〕に記載の金ナノロッドを含んでなることを特徴とする光および電磁波吸収体とすることができる(本発明〔11〕)。
本発明における光および電磁波吸収体は、金ナノロッドを含むので、吸収特性のシャープな光および電磁波吸収体が得られる。さらに、より小さな金ナノロッドを用いれば、吸収帯域以外での光の散乱損失が小さな光および電磁波吸収体を得ることができる。
すなわち、吸収特性がシャープでかつ吸収帯域外の散乱損失が小さな光および電磁波吸収体が提供される。
本発明〔11〕の光および電磁波吸収体は、例えば、本発明の金ナノロッドを含む分散溶液を直接、目的とする物体表面に塗布、形成してもよく、また、バインダー樹脂等に分散後、塗布乾固して形成してもよい。このように形成された、金ナノロッドを含む塗膜は、金ナノロッド特有の共鳴吸収帯を持ち、例えば、可視光は透過するが、近赤外域にのみ吸収を持つ光吸収体(膜)が形成可能となる。また、吸収帯域は、アスペクト比を製造条件により調整することにより任意に設定可能である。
【0047】
また、本発明においては、本発明〔10〕に記載の金ナノロッドを含んでなることを特徴とする色材とすることができる(本発明〔12〕)。
本発明における色材は、金ナノロッドを利用した色材の特徴である、耐候性に加え、本発明の金ナノロッドを用いればよりシャープな吸収特性が得られること、および本発明により得られる、より小さな金ナノロッドを用いることで、吸収帯域以外での光の散乱損失が小さな色材を得ることができるので、さらに色純度の高い色材となる。
本発明〔12〕の色材は、例えば、本発明の金ナノロッドを含む分散溶液を直接塗布して色材としてもよく、また、バインダー等に金ナノロッドを分散したものを用いて色材としてもよい。金ナノロッドのプラズモン吸収の補色が、この色材の発色メカニズムである。したがって、アスペクト比の揃った、吸収のシャープな粒子を用いることにより色純度の高い色材が得られる。
【0048】
また、本発明においては、本発明〔10〕に記載の金ナノロッドを含んでなることを特徴とする光記録材料とすることができる(本発明〔13〕)。
本発明における光記録材料は、金ナノロッド単体もしくはバインダーに分散した金ナノロッド、あるいは前記いずれかに機能性色素を同時に含有した記録材料である。このような記録材料は、光照射による金ナノロッドの吸収特性そのものの変化を用いても、プラズモン共鳴により発生する増強場により発生する、同時に含有する色素の蛍光、あるいは屈折率変化等を記録原理としてもよい。
本発明〔13〕の光記録材料では、本発明の金ナノロッドによるシャープな吸収特性が得られる。このため、均一なプラズモン増強効果が得られ、このプラズモン増強場による記録材料の特性増強が可能となる。また、金ナノロッドの変形による吸収特性の変化を用いた場合にも、均一な変形特性が得られる。したがって、何れの特性を用いても、均一かつ高感度な記録再生特性が得られる。さらに、ロッド径の小さな金ナノロッドを用いれば、より低エネルギーで変形が可能な高感度記録材料が得られる。
【0049】
また、本発明においては、本発明〔10〕に記載の金ナノロッドと二光子吸収材料を少なくとも含んでなることを特徴とする二光子反応材料とすることができる(本発明〔14〕)。
本発明の二光子反応材料は、少なくとも金ナノロッドと二光子吸収材料を含んでおり、必要に応じてその他、化学増感剤、光硬化樹脂や蛍光材料等の機能性材料を含んでもよい。また、形態は、溶液・ゲル・固体等用途に合わせ選択可能であることはいうまでもない。粘度調整等の目的のためバインダー樹脂に分散することも可能である。
本発明〔14〕において、本発明の金ナノロッドによるシャープな吸収特性により得られるプラズモン増強場は二光子吸収材料の励起に最適である。さらには、ロッド径の小さな金ナノロッドを用いることにより、励起光の散乱の影響が抑制され、表面の改質技術として用いた場合には解像度が向上し、三次元に展開した場合には高感度なバルクの二光子反応が得られる。高感度なバルクの二光子反応材料は、三次元光メモリー、三次元造形等に必須な次世代材料であることは言うまでも無い。
【0050】
上記のようなプラズモン増強場を持つ金ナノロッドを含む材料が、安定な分散溶液および塗布あるいはキャスティング可能な混合物として提供されることにより、これまでに無い様々な応用が可能となる。以下応用例について例示する。
【0051】
〔金ナノロッドと二光子吸収材料を含む二光子反応材料の三次元記録媒体への応用〕
背景技術で述べたように、非共鳴二光子吸収により得た励起エネルギーを用いて反応を起こし、その結果レーザー焦点(記録)部と非焦点(非記録)部で光を照射した際の発光強度を書き換えできない方式で変調することができれば、三次元空間の任意の場所に極めて高い空間分解能で発光強度変調を起こすことができ、究極の高密度記録媒体と考えられる三次元光記録媒体への応用が可能となる。さらに、非破壊読み出しが可能で、かつ不可逆材料であるため良好な保存性も期待でき実用的である。
【0052】
しかし、現時点で利用可能な二光子吸収化合物では、二光子吸収能が低いため、光源としては非常に高出力のレーザーが必要で、かつ記録時間も長くかかる。特に、三次元光記録媒体に使用するためには、速い転送レート達成のために高感度にて発光能の違いによる記録を二光子吸収により行うことができる二光子吸収三次元光記録材料の構築が必須である。そのためには、高効率に二光子を吸収し励起状態を生成することができる二光子吸収材料(二光子吸収化合物)と、二光子吸収化合物の励起状態を用いて何らかの方法にて二光子吸収光記録材料の発光能の違いを効率的に形成できる記録成分を含む材料が有力であるが、そのような材料は今までほとんど開示されておらず、そのような材料の構築が望まれていた。
【0053】
すなわち、本発明の金ナノロッドと二光子吸収材料を少なくとも含んでなる二光子反応材料を用いれば、例えば、二光子反応材料の二光子吸収を利用して記録を行った後、光を記録材料に照射してその発光強度の違いを検出するか、または、屈折率変化による反射率の変化を検出することによって再生することが可能である。すなわち、本発明の金ナノロッドと二光子吸収材料を含んでなる高感度な二光子反応材料を用いることによって、二光子吸収光記録再生方法、およびそのような記録再生が可能な二光子吸収光記録材料を提供することができる。
さらに、それらを用いた二光子吸収三次元光記録材料、ならびに二光子吸収三次元光記録方法および再生方法を提供することができる。
【0054】
本発明の金ナノロッドと二光子吸収材料を少なくとも含んでなる二光子反応材料を含有する二光子吸収光材料は、スピンコーター、ロールコーターまたはバーコーターなどを用いることによって基板上に直接塗布することも、あるいはフィルムとしてキャストし、次いで通常の方法により基板にラミネートすることもでき、それらの成形方法により二光子吸収光記録材料とすることができる。
ここで、「基板」とは、任意の天然または合成支持体、好適には柔軟性又は剛性フィルム、シートまたは板の形態で存在することができるものを意味する。
基板として好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、樹脂下塗り型ポリエチレンテレフタレート、火炎または静電気放電処理されたポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等である。また、この基板には予めトラッキング用の案内溝やアドレス情報が付与されたものであってもよい。
上記成形方法において塗布の際に使用した溶媒は乾燥時に蒸発除去することができる。蒸発除去には加熱や減圧を用いてもよい。
【0055】
さらに、二光子吸収光記録材料の上に、酸素遮断や層間クロストーク防止のための保護層(中間層)を形成してもよい。保護層(中間層)は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートまたはセロファンフィルムなどのプラスチック製のフィルムまたは板を、静電的な密着、あるいは押し出し機を使った積層等により貼合わせるか、前記ポリマーの溶液を塗布してもよい。また、ガラス板を貼合わせてもよい。また、保護層と感光膜の間および/または、基材と感光膜の間に、気密性を高めるために粘着剤または液状物質を存在させてもよい。さらに感光膜間の保護層(中間層)にも予めトラッキング用の案内溝やアドレス情報が付与されたものであってもよい。
前述のような二光子吸収光記録材料を多層として構成することにより、三次元記録媒体(三次元多層光記録媒体)が提供される。
上述した二光子吸収光記録材料の任意の層に焦点を合わせ、記録再生を実施することで、三次元記録媒体として機能する。また、層間を保護層(中間層)で区切っていなくとも、二光子吸収色素特性から深さ方向の三次元記録が可能である。
【0056】
以下、三次元多層光記録媒体(三次元多層光メモリ)の好ましい実施形態として具体例を示すが、本発明はこれらの実施形態により何ら限定されず、三次元記録(平面および膜厚方向に記録)が可能な構造であれば、他にどのような構造であっても構わない。
三次元多層光メモリの記録/再生のシステム概略図を図1(a)に、記録媒体の概略断面図を図1(b)に示す。
【0057】
図1(a)のシステム概略図に沿って記録方法の概要を説明する。記録用レーザ光源1(例えば、ハイパワーのパルスレーザ光源)からの記録光を対物レンズ5により三次元記録媒体6中にフォーカスする。フォーカスポイントでは、二光子吸収により記録が行われるが、フォーカスポイント以外では、先に述べたように光の照射パワーが低く、二乗効果により記録は行われない。
すなわち、選択的な記録が可能となる。次に、再生方法であるが、再生用レーザ2(記録光ほどハイパワーではなく、半導体レーザも利用可能)からの光を、三次元媒体中にフォーカスする。各層より信号光が発生するが、ピンホール3と検出器4より構成される点検出器で信号光を検出することにより、特定の層からの信号を共焦点顕微鏡の原理を用いて選択的に検出する。以上のような構成により、三次元記録再生は機能する。
【0058】
図1(b)の記録媒体においては、平らな支持体(基板1)に二光子吸収光材料(本発明の金ナノロッドと二光子吸収材料を含んでなる二光子反応材料を含有する)を用いた記録層と、クロストーク防止用の中間層(保護層)が交互に50層ずつ積層され、各層はスピンコート法により成膜されている。記録層の厚さは0.01〜0.5μ、中間層の厚さは0.1μ〜5μが好ましく、この構造であれば、現在普及しているCD/DVDと同じディスクサイズで、テラバイト級の超高密度光記録が実現できる。さらにデータの再生方法(透過/あるいは反射型)により、基板Aと同様の基板(保護層)B、あるいは高反射率材料からなる反射層が構成される。
【0059】
上記三次元多層光メモリの記録時は単一ビームが使用され、この場合フェムト秒オーダーの超短パルス光を利用することができる。また再生時は、データ記録に使用するビームとは異なる波長、あるいは低出力の同波長の光を用いることもできる。記録および再生は、ビット単位/ページ単位のいずれにおいても実行可能であり、面光源や二次元検出器等を利用する並行記録/再生は、転送レートの高速化に有効である。
なお、本発明に従い同様に形成される三次元多層光メモリの形態としては、カード状、プレート状、テープ状、ドラム状等が考えられる。
【0060】
〔光造形用材料への応用〕
図2の概略図に示す二光子光造形法のための装置(光造形システム)を参照して光造形用材料を用いた光造形について説明する。
図2に示す装置では、光硬化性樹脂液9に対して透明性を有する近赤外パルスレーザ光の光源1からの光をミラースキャナー5を通した後、レンズを用いて、前記光硬化性樹脂液9中に集光させレーザスポットを走査し、二光子吸収を誘起することによって焦点近傍のみにおいて樹脂を硬化させ、任意の三次元構造を形成するように構成されている。つまり、二光子光造形法(二光子マイクロ光造形方法)により光造形される。
なお、光硬化性樹脂液9は、本発明の金ナノロッドを含む光造形用材料(二光子光造形用光硬化性樹脂)である。
【0061】
詳しくは、パルスレーザ光をレンズで集光して、集光点近傍にフォトンの密度の高い領域を形成する。このときビームの各断面を通過するフォトンの総数は一定なので、焦点面内でビームを二次元的に走査した場合、各断面における光強度の総和は一定である。しかしながら、二光子吸収の発生確率は、光強度の二乗に比例するため、光強度の大きい集光点近傍にのみ、二光子吸収の発生の高い領域が形成される。
このように、パルスレーザ光をレンズによって集光させ二光子吸収を誘起することで、集光点近傍に光吸収を限定し、ピンポイント的に樹脂を硬化させることが可能となる。集光点はZステージ6とガルバノミラーによって光硬化樹脂液内を自由に移動させることができるため、光硬化性樹脂液内において目的とする三次元加工物(光造形物10)を自在に形成することができる。
なお、図2において、符号3は過光量を時間的にコントロールするシャッター、符号4はNDフィルター、符号7は集光手段としてのレンズ、符号8はコンピュータを示す。
【0062】
二光子光造形法の特徴としては、以下の項目が挙げられる。
(1)回折限界をこえる加工分解能:二光子吸収の光強度に対する非線形性によって、光の回折限界を超えた加工分解能を実現できる。
(2)超高速造形:二光子吸収を利用した場合、焦点以外の領域では、光硬化性樹脂が原理的にも硬化しない。このため照射させる光強度を大きくし、ビームのスキャン速度を速くすることができる。このため、造形速度を約10倍向上することができる。
(3)三次元加工:光硬化性樹脂は、二光子吸収を誘起する近赤外光に対して透明である。したがって焦点光を樹脂の内部へ深く集光した場合でも、内部硬化が可能である。従来の方法(SIH)では、ビームを深く集光した場合、光吸収によって集光点の光強度が小さくなり、内部硬化が困難になる問題点が、本発明ではこうした問題点を確実に解決することができる。
(4)高い歩留り:従来法では樹脂の粘性や表面張力によって造形物が破損、変形するという問題があったが、本手法では、樹脂の内部で造形を行うのでこうした問題は解消される。
(5)大量生産への適用:超高速造形を利用することによって、短時間に、連続的に多数個の部品あるいは可動機構の製造が可能である。
【0063】
ここで、二光子光造形用光硬化性樹脂とは、光を照射することによって二光子重合反応を起こし、液体から固体へと変化するという特性を持った樹脂である。主成分はオリゴマーと反応性希釈剤からなる樹脂成分と光重合開始剤(必要に応じ光増感材料を含む)である。オリゴマーは重合度が2〜20程度の重合体であり、末端に多数の反応基を持つ。さらに、粘度、硬化性等を調整するため、反応性希釈剤が加えられている。
光を照射すると、金ナノロッドのプラズモン増強場効果によって二光子吸収材料である重合開始剤または光増感材料が照射光を二光子吸収して効果的に励起され、重合開始剤から直接または光増感材料を介して反応種が発生し、オリゴマー、反応性希釈剤の反応基に反応して重合を開始させる。その後これらの間で連鎖的重合反応を起こし三次元架橋が形成され、短時間のうちに三次元網目構造を持つ固体樹脂へと変化する。
【0064】
光硬化性樹脂は光硬化インキ、光接着剤、積層式立体造形などの分野で使用されており、様々な特性を持つ樹脂が開発されている。特に、積層式立体造形においては(1)反応性が良好であること、(2)硬化時の堆積収縮が小さいこと、(3)硬化後の機械特性が優れていること、等が重要である。
これらの特性は本手法においても同様に重要であり、そのため、積層式立体造形用に開発された樹脂で二光子吸収特性を有するものは、本手法の二光子光造形用光硬化性樹脂としても使用できる。その具体的な例としては、アクリレート系およびエポキシ系の光硬化性樹脂が良く用いられ、特にウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂が好ましい。
【0065】
本発明における光造形に関する技術としては、例えば、金ナノロッドを含む感光性高分子膜の表面に、パルスレーザ光を、マスクを介さずに干渉露光させる手法が適用できる。この場合のパルスレーザ光としては、前記感光性高分子膜中の金ナノロッドのプラズモン増強場効果とそれによる励起作用を介してに感光性機能を発揮させる波長領域のパルスレーザ光であることが重要である。
したがって、パルスレーザ光としては、感光性高分子の種類、または、感光性高分子における感光性機能を発揮する基又は部位の種類などに応じて、その波長領域を適宜選択することができる。特に、光源から発光されるパルスレーザ光の波長が、感光性高分子膜に感光性機能を発揮させる波長領域でなくても、パルスレーザ光の照射に際して、多光子吸収過程を利用することにより、感光性高分子膜に感光性機能を発揮させることが可能となる。
なお、感光性高分子膜の表面に、パルスレーザ光をマスクを介さずに干渉露光させる手法としては、例えば、特開2005−134873号公報に記載されている例が挙げられる。
【0066】
具体的には、光源から発光されるパルスレーザ光を集光し、集光されたパルスレーザ光を照射すると、多光子の吸収(例えば、二光子の吸収、三光子の吸収、四光子の吸収、五光子の吸収など)が生じ、これによって光源から発光されるパルスレーザ光の波長が、感光性高分子膜に感光性機能を発揮させる波長領域でなくても、感光性高分子膜には、高分子膜中の金ナノロッドのプラズモン増強場効果とそれによる励起作用を介して実質的に感光性高分子膜に感光性機能を発揮させる波長領域のパルスレーザー光が照射されたことになる。
このように、干渉露光するパルスレーザ光は、実質的に感光性高分子膜に感光性機能を発揮させる波長領域となるパルスレーザ光であればよく、照射条件などにより、その波長を適宜選択することができる。例えば、本発明の金ナノロッドと二光子吸収材料を少なくとも含んでなる二光子反応材料(高効率の高効率二光子吸収材料)を光増感材料とし、紫外線硬化樹脂等に分散し、感光物固体とし、この感光物固体の二光子吸収能を利用して焦点スポットのみが硬化する特性を利用した超精密三次元造形物を得ることが可能となる。
【0067】
本発明の上記二光子反応材料は、二光子吸収重合開始剤または二光子吸収光増感材料として用いることができる。従来の二光子吸収材料(二光子吸収重合開始剤または二光子吸収光増感材料)に比較して二光子吸収感度が高いため、高速造形が可能で、励起光源としても小型で安価なレーザ光源が使用できるため、大量生産可能な実用用途への展開が可能となる。
【0068】
〔二光子反応材料を用いた二光子吸収蛍光材料、二光子励起レーザ走査顕微鏡への応用〕
二光子励起レーザ走査顕微鏡(二光子蛍光顕微鏡)とは、近赤外パルスレーザを標本面上に集光して走査させ、そこでの二光子吸収により励起されて発生する蛍光を検出することにより像を得る顕微鏡である。
二光子励起レーザ走査顕微鏡(二光子蛍光顕微鏡)の基本構成の概略図を図3に示す。
図3の二光子蛍光顕微鏡は、近赤外域波長のサブピコ秒の単色コヒーレント光パルスを発するレーザ光源1と、レーザ光源からの光束を所望の大きさに変える光束変換光学系2と、光束変換光学系で変換された光束を対物レンズの像面に集光し走査させる走査光学系3と、集光された上記変換光束を標本面5上に投影する対物レンズ系4と、光検出器7を備えている。
【0069】
パルスレーザ光をダイクロイックミラー6を経て、光束変換光学系、対物レンズ系により集光して、標本面で焦点を結ばせることにより、標本内にある二光子吸収蛍光材料に、金ナノロッドと二光子吸収材料を含んでなる二光子反応材料を介した二光子吸収により誘起された蛍光を生じさせる。標本面をレーザビームで走査し、各場所での蛍光強度を光検出器7などの光検出装置で検出して、得られた位置情報に基づいて、コンピュータでプロットすることにより、三次元蛍光像が得られる。走査機構としては、例えば、ガルバノミラーなどの可動ミラーを用いてレーザービームを走査してもよく、あるいはステージ上に置かれた二光子吸収材料を含む標本を移動させてもよい。
【0070】
このような構成により、二光子吸収そのものの非線形効果を利用して、光軸方向の高分解能を得ることができる。加えて、共焦点ピンホール板を用いれば、さらなる高分解能(面内、光軸方向共)が得られる。
【0071】
二光子蛍光顕微鏡用の蛍光色素は、標本を該蛍光色素で染色するか、または標本に該蛍光色素分散させることにより使用され、工業用途のみならず、生体系の細胞等の三次元画像マイクロイメージングにも用いることができることから、高い二光子吸収断面積を持つ化合物が望まれている。
【0072】
光子蛍光顕微鏡としては、例えば、特開平9−230246号公報に記載されている例が挙げられる。
この場合の走査型蛍光顕微鏡は、所望の大きさに拡大されたコリメート光を発するレーザ照射光学系と、複数の集光素子が形成された基板とを備え、該集光素子の集光位置が対物レンズ系の像位置に一致するように配され、かつ、前記の集光素子が形成された基板と対物レンズ系との間に、長波長を透過し短波長を反射するビームスプリッタが配され、標本面で多光子吸収による蛍光を発生させることを特徴とするものである。このような構成により、多光子吸収そのものの非線形効果を利用して、光軸方向の高分解能を得ることができる。加えて、共焦点ピンホール板を用いれば、さらなる高分解能(面内、光軸方向共)が得られる。
このような多光子光学素子として、上述の光制御素子と全く同様に本発明の高い二光子吸収能を有した材料、薄膜、もしくは光硬化性樹脂等に分散させた固体物を光学素子として用いることが可能である。
【0073】
本発明の二光子反応材料は、二光子励起レーザ走査顕微鏡用の二光子吸収蛍光材料として用いることができる。従来の二光子吸収蛍光材料に比較し、大きな二光子吸収断面積を有しているので、低濃度で高い二光子吸収特性を発揮する。従って、本発明によれば、高感度な二光子反応材料が得られるだけでなく、材料に照射する光の強度を強くする必要がなくなり、材料の劣化、破壊を抑制することができ、材料中の他成分の特性に対する悪影響も低下させることができる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
【0075】
(実施例1)
先ず、金ナノロッドの成長溶液である銀イオンと金イオンが共存する水相と油相からなるミセル溶液を以下により調整した。
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)水溶液0.15mol/lを50ml作成し、スターラーにて攪拌しながら、油性溶媒としてシクロヘキサノン0.3mlと、ジイソブチルケトン0.15mlを加えた。金ナノロッドの原料として塩化金酸水溶液0.024mol/lを4mlと、さらに硝酸銀水溶液0.01mol/lを1.5ml加えた。
上記調整したミセル溶液に、還元剤としてアスコルビン酸水溶液0.15mol/lを0.05mlづつ添加し、金イオンの色が消えるまで添加した。本実施例では、アスコルビン酸水溶液の添加量は0.65mlであった。
金イオンの色が消えるまで還元剤をミセル溶液中に滴下後、反応溶液をシャーレに移し、スターラーにて攪拌しながら、高圧水銀ランプ(ウシオ電機製、UIS25102)から光ファイバーで紫外線を試料(反応溶液)直上に導入して照射した。紫外線の照射開始から5分後ごとにサンプリングと還元剤であるアスコルビン酸を滴下(0.05mlづつ滴下) し、逐次的に追加投入を行った。ここで、サンプリングした試料は、光路長1mmの石英セルに収容してその吸光度を測定した。吸光度の測定結果を図4に示す。
【0076】
図4に示すように、5分後では、波長720nmでの弱い吸収と、波長520nmでのさらに弱い吸収が観測され、比較的アスペクト比の小さな粒子が少数得られていることが示されている。さらにアスコルビン酸を逐次投入しながら紫外線による光還元を行うことにより、金ナノロッドの濃度が高まると共に、吸収スペクトルが長波長化することから、核発生とアスペクトの増大が同時進行しており、前記本発明の最良の形態で述べた核発生と成長の思想が実現されていることがわかる。さらに、40分と45分ではほぼ同じスペクトルが得られており、金原料の枯渇により還元反応が終了した後において、紫外線の照射を受けても、金ナノロッドの変形の影響も無く、本検討の範囲では限定的であることがわかった。なお、反応溶液を構成する各成分の濃度は一例であり、本発明の思想を逸脱しない範囲で変更可能であることは言うまでも無い。
【0077】
(実施例2)
先ず、金ナノロッドの成長溶液である銀イオンと金イオンが共存する水相と油相からなるミセル溶液を以下により調整した。
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)水溶液0.15mol/lを50ml作成し、スターラーにて攪拌しながら、油性溶媒として、シクロヘキサノン0.3mlと、メチルイソブチルケトン0.09mlを加える。金ナノロッドの原料として、塩化金酸水溶液0.024mol/lを4mlと、さらに硝酸銀水溶液0.01mol/lを1.5ml加えた。
上記調整したミセル溶液に、還元剤としてアスコルビン酸水溶液0.15mol/lを0.05mlづつ添加し、金イオンの色が消えるまで添加した。本実施例では、アスコルビン酸水溶液の添加量は0.65mlであった。
金イオンの色が消えるまで還元剤をミセル溶液中に滴下後、反応溶液をシャーレに移し、スターラーにて攪拌しながら、高圧水銀ランプ(ウシオ電機製、UIS25102)から光ファイバーで紫外線を試料(反応溶液)直上に導入して照射した。照射開始から5分後ごとにサンプリングと還元剤であるアスコルビン酸を滴下(0.04mlづつ滴下)し、逐次的に追加投入を行った。
実施例1と同様にして吸光度の変化を測定し、スペクトル変化が無くなることにより反応終了を確認した。
【0078】
(比較例1)
先ず、金ナノロッドの成長溶液を以下により調整した。
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)水溶液0.15mol/lを50ml作成し、スターラーにて攪拌しながら、油性溶媒としてシクロヘキサノン0.3mlと、アセトン1mlを加えた。金ナノロッドの原料として塩化金酸水溶液0.024mol/lを2.5mlと、さらに硝酸銀水溶液0.01mol/lを1ml加えた。
上記調整したミセル溶液に、還元剤としてアスコルビン酸水溶液0.15mol/lを0.05mlづつ添加し、金イオンの色が消えるまで添加した。本実施例では、添加量は0.3mlであった。
金イオンの色が消えるまで還元剤をミセル溶液中に滴下後、反応溶液をシャーレに移し、スターラーにて攪拌しながら、高圧水銀ランプ(ウシオ電機製、UIS25102)から光ファイバーで紫外線を試料(反応溶液)直上に導入して照射した。照射開始より15分後から5分ごとに溶液のスペクトルを計測し、実施例1と同様にして吸光度の変化を測定して反応終了をスペクトル変化が無くなることにより確認した。
【0079】
図5に実施例1、実施例2および比較例1について、それぞれの反応終了後のスペクトルを示す。アセトンを用いた比較例1の場合に較べて、実施例1、2ともに、波長530nmの金ナノロッド短軸方向に起因する吸収に比較し、長波長側の金ナノロッド長軸方向に起因する吸収の大きなスペクトルが得られた。つまり、実施例1、実施例2では、所望通りに金ナノロッドの生成が制御され、短軸方向の成長が抑制され、球形粒子の生成が抑制されている。
【0080】
(実施例3)
先ず、金ナノロッドの成長溶液である銀イオンと金イオンが共存する水相と油相からなるミセル溶液を以下により調整した。
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)水溶液0.15mol/lを50ml作成し、スターラーにて攪拌しながら、油性溶媒として、シクロヘキサノン0.3mlと、ジイソブチルケトン0.15mlと、メチルイソブチルケトン(下記添加条件1〜3)と、をそれぞれ加えた。
〈メチルイソブチルケトンの添加条件〉
条件1:0.03ml、条件2:0.06ml、条件3:0.09ml
次に、金ナノロッドの原料として、塩化金酸水溶液0.024mol/lを4mlと、さらに硝酸銀水溶液0.01mol/lを1.5ml加えた。
上記調整したミセル溶液に、還元剤としてアスコルビン酸水溶液0.15mol/lを0.05mlづつ添加し、金イオンの色が消えるまで添加した。本実施例では、アスコルビン酸水溶液の添加量は0.65mlであった。
金イオンの色が消えるまで還元剤をミセル溶液中に滴下後、反応溶液をシャーレに移し、スターラーにて攪拌しながら、高圧水銀ランプ(ウシオ電機製、UIS25102) から光ファイバーで紫外線を試料(反応溶液)直上に導入して照射した。照射開始から5分後ごとにサンプリングと還元剤であるアスコルビン酸の滴下(0.04mlづつ滴下)し、逐次的に追加投入を行った。
実施例1と同様にして吸光度の変化を測定し、スペクトル変化が無くなることにより反応終了を確認した。
【0081】
上記反応終了後のスペクトルを図6に示すと共に、ジイソブチルケトンのみを添加した(メチルイソブチルケトンを加えなかったもの)実施例1のスペクトルを併せて示す。
メチルイソブチルケトンを同時添加することにより、金ナノロッドの吸収波長は、より長波長化すると共に、金ナノロッドの短軸に起因する吸収波長(520nm)と金ナノロッドの長軸に起因する吸収波長(800nm)の比が大きくなり、金ナノロッドの短軸の成長が抑制された、よりアスペクト比の高い金ナノロッドが成長した。
なお、実施例3は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の思想の範囲でさまざまな構成をとることが可能であり、その構成を制限するものではない。
【0082】
(実施例4)
先ず、金ナノロッドの成長溶液である銀イオンと金イオンが共存する水相と油相からなるミセル溶液を以下により調整した。
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)水溶液0.10mol/lを50ml作成し、スターラーにて攪拌しながら、油性溶媒として、シクロヘキサノン0.3mlと、ジイソブチルケトン0.15mlを加えた。金ナノロッドの原料として、塩化金酸水溶液0.024mol/lを4mlと、さらに硝酸銀水溶液0.01mol/lを1.5ml加えた。
上記調整したミセル溶液に、還元剤としてアスコルビン酸水溶液0.15mol/lを0.05mlづつ添加し、金イオンの色が消えるまで添加した。本実施例では、アスコルビン酸水溶液の添加量は0.65mlであった。
金イオンの色が消えるまで還元剤をミセル溶液中に滴下後、反応溶液をシャーレに移し、スターラーにて攪拌しながら、高圧水銀ランプ(ウシオ電機製、UIS25102) から光ファイバーで紫外線を試料(反応溶液)直上に導入して照射した。照射開始から5分後ごとにサンプリングと、還元剤であるアスコルビン酸を滴下(0.04mlづつ滴下)し、逐次的に追加投入を行った。
実施例1と同様にして吸光度の変化を測定し、スペクトル変化が無くなることにより反応終了を確認した。
【0083】
(比較例2)
先ず、金ナノロッドの成長溶液を以下により調整した。
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)水溶液0.08mol/l(比較例2−1用)のものと、0.06mol/l(比較例2−2用)のものを各50ml作成した。
上記各CTAB水溶液を個別にスターラーにて攪拌しながら、油性溶媒として、シクロヘキサノン0.3mlと、ジイソブチルケトン0.15mlを加えた。
金ナノロッドの原料として、塩化金酸水溶液0.024mol/lを4mlと、さらに硝酸銀水溶液0.01mol/lを1.5ml加えた。
上記調整したミセル溶液に、還元剤としてアスコルビン酸水溶液0.15mol/lを0.05mlづつ添加し、金イオンの色が消えるまで添加した。本比較例では、いずれの場合もアスコルビン酸水溶液の添加量は0.65mlであった。
金イオンの色が消えるまで還元剤をミセル溶液中に滴下後、反応溶液をシャーレに移し、スターラーにて攪拌しながら、高圧水銀ランプ(ウシオ電機製、UIS25102) から光ファイバーで紫外線を試料(反応溶液)直上に導入し照射した。照射開始から5分後ごとにサンプリングと、還元剤であるアスコルビン酸を滴下(0.04mlづつ滴下)し、逐次的に追加投入を行った。
実施例1と同様にして吸光度の変化を測定し、スペクトル変化が無くなることにより反応終了を確認した。
【0084】
実施例4および比較例2における成長溶液のCTAB濃度をパラメータにした吸収波長とスペクトル強度の関係を図7に示す。
CTAB溶液の濃度が0.06mol/l(比較例2−2)では、スペクトルはブロードで、ロッドのアスペクト比は十分ではなく、また、波長570nmでの吸収が強いことから球状の粒子も多いと結論される。一方、CTAB溶液の濃度が0.08mol/l(比較例2−1)では、金ナノロッドの長軸に起因する長波長側の吸収が分離していることから、ロッドのアスペクト比は取れているが、金ナノロッドの短軸に起因する波長520nmの吸収は大きく、また、波長400nm近傍の粒子による散乱損失も大きいことから粒子径が大きいことが結論される。
これに対して、実施例4のCTAB溶液濃度が0.10mol/lでは、金ナノロッドの長軸に起因する長波長側の吸収は大きいが、金ナノロッドの短軸に起因する波長520nmの吸収は抑制され、さらに波長400nm近傍の粒子による散乱損失も小さいことから、本発明の目的とするアスペクト比の揃った微粒子化された金ナノロッドが得られていることがわかった。
【0085】
(実施例5)
先ず、金ナノロッドの成長溶液である銀イオンと金イオンが共存する水相と油相からなるミセル溶液を以下により調整した。
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)水溶液0.10mol/lを50ml作成し、スターラーにて攪拌しながら、油性溶媒として、シクロヘキサノン0.3mlと、ジイソブチルケトン0.15mlを加えた。金ナノロッドの原料として、塩化金酸水溶液0.024mol/lを2.7mlと、さらに硝酸銀水溶液0.01mol/lを1ml加えた。
上記調整したミセル溶液に、還元剤としてアスコルビン酸水溶液0.15mol/lを0.05mlづつ添加し、金イオンの色が消えるまで添加した。本実施例では、アスコルビン酸水溶液の添加量は0.45mlであった。
金イオンの色が消えるまで還元剤をミセル溶液中に滴下後、反応溶液をシャーレに移し、スターラーにて攪拌しながら、高圧水銀ランプ(ウシオ電機製、UIS25102)から光ファイバーで紫外線を試料(反応溶液)直上に導入して照射した。照射開始から5分後ごとにサンプリングと、還元剤であるアスコルビン酸を滴下(0.04mlづつ滴下)し、逐次的に追加投入を行った。
実施例1と同様にして吸光度の変化を測定し、スペクトル変化が無くなることにより反応終了を確認した。
【0086】
実施例4および実施例5において塩化金酸濃度を変えて成長した金ナノロッド溶液の吸収スペクトルを、金ナノロッドの長軸に対応する長波長側の吸収の最大値で正規化したグラフを図9に示す。
実施例4と実施例5は、成長溶液中に投入した塩化金酸の量の違いであり、実施例5は、実施例4の2/3の濃度となっている。実施例5のスペクトルにおける金ナノロッドの短軸に対応する波長520nmの吸収、および波長400nmの粒子による散乱損失は、共に実施例4に比較して小さく、金ナノロッドの短軸の成長が抑制されたより小さな金ナノロッドが得られたことが確認された。つまり、塩化金酸の投入量で金イオン濃度を変化させることにより、金ナノロッドの短軸方向の大きさが制御可能であることが示された。
【0087】
上記結果からわかるように、本発明の金ナノロッド製造方法によれば、所望とするアスペクト比と粒子サイズで、しかも吸収波長以外の光散乱が抑制できる微小粒子からなる金ナノロッドが、短時間で高濃度に得られる。このような金ナノロッドは機能特性が安定しているため、各種高機能光学材料として応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の金ナノロッドと二光子吸収材料を含む二光子反応材料の三次元記録媒体への応用を説明するためのシステム概略図(a)および記録媒体の概略断面図(b)である。
【図2】本発明の金ナノロッドと二光子吸収材料を含む二光子反応材料の光造形用材料への応用を説明するための二光子光造形法の装置を示す概略図である。
【図3】本発明の金ナノロッドと二光子吸収材料を含む二光子反応材料の二光子吸収蛍光材料および二光子励起レーザ走査顕微鏡への応用を説明するための概略図である。
【図4】実施例1において還元剤を逐次的に追加投入しながら試料をサンプリングして得られた反応時間と金ナノロッドの吸収スペクトルの関係を示す図である。
【図5】実施例1、実施例2、比較例1において各反応終了後の金ナノロッドの吸収波長と吸収スペクトル強度の関係を比較して示す図である。
【図6】実施例3においてジイソブチルケトンとメチルイソブチルケトン(添加条件3種)を用いて生成した各金ナノロッドの吸収スペクトル強度を比較して示す図である。
【図7】実施例4および比較例2における成長溶液のCTAB濃度をパラメータにした各金ナノロッドの吸収波長と吸収スペクトル強度の関係を示す図である。
【図8】実施例4および実施例5において塩化金酸濃度を変えて成長した金ナノロッドの吸収波長と吸光度(正規化後)の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
(図1の符号)
1 記録用レーザー光源
2 再生用レーザー
3 ピンホール
4 検出器
5 対物レンズ
6 三次元記録媒体
7 基板A
8 基板B(保護層)
(図2の符号)
1光硬化樹脂に対して透明性を有する近赤外パルスレーザ光の光源
3過光量を時間的にコントロールするシャッター
4NDフィルター
5ミラースキャナー
6Zステージ
7集光手段としてのレンズ
8コンピュータ
9光硬化性樹脂液
10 光造形物
(図3の符号)
1レーザー光源
2光束変換光学系
3走査光学系
4対物レンズ系
5標本面
6ダイクロイックミラー
7光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4級アンモニウム塩を含む水相と油相からなるミセル溶液中で銀イオンと共存する金イオンを、還元剤を用いた還元と、還元剤を用いない還元との併用により金ナノロッドを成長させる金ナノロッド製造法において、
前記金イオンの色が失われるまで所定量の還元剤をミセル溶液中に滴下後、前記還元剤を用いない還元を行いながら、さらに前記還元剤を追加投入することを特徴とする金ナノロッド製造方法。
【請求項2】
前記還元剤を用いない還元が、光照射により行う光還元、または通電により行う電解還元であることを特徴とする請求項1に記載の金ナノロッド製造方法。
【請求項3】
前記油相にアセトンを含まないことを特徴とする請求項1または2に記載の金ナノロッド製造方法。
【請求項4】
前記還元剤を用いない還元の工程中に、前記還元剤を、添加量を制御しつつ継続的にミセル溶液中に投入することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の金ナノロッド製造方法。
【請求項5】
前記4級アンモニウム塩の濃度が、0.1mol/l以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の金ナノロッド製造方法。
【請求項6】
前記金イオンの濃度調整により、金ナノロッドの短軸方向の長さを制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の金ナノロッド製造方法。
【請求項7】
前記ミセル溶液に、水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分を添加することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の金ナノロッド製造方法。
【請求項8】
前記水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分が、前記水相および油相の双方に溶解度を有することを特徴とする請求項7に記載の金ナノロッド製造方法。
【請求項9】
前記水相中での金イオンの還元析出を抑制する成分が、ジイソブチルケトンまたはメチルイソブチルケトンの少なくとも一種から選ばれるものであることを特徴とする請求項7または8に記載の金ナノロッド製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする金ナノロッド。
【請求項11】
請求項10に記載の金ナノロッドを含んでなることを特徴とする光および電磁波吸収体。
【請求項12】
請求項10に記載の金ナノロッドを含んでなることを特徴とする色材。
【請求項13】
請求項10に記載の金ナノロッドを含んでなることを特徴とする光記録材料。
【請求項14】
請求項10に記載の金ナノロッドと二光子吸収材料を少なくとも含んでなることを特徴とする二光子反応材料。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−221563(P2009−221563A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68818(P2008−68818)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】