金ナノロッドの配向制御方法とその基板等
【課題】金ナノロッドの濃度によって金ナノロッドの配向を制御する方法と金ナノロッド配向基板を提供する。
【解決手段】界面活性剤で修飾された金ナノロッド(AuNR)の水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒を蒸発させることによって基板上にAuNRを一定方向に配向させる方法において、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することを特徴とする金ナノロッドの配向制御方法、およびAuNR配向基板。
【解決手段】界面活性剤で修飾された金ナノロッド(AuNR)の水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒を蒸発させることによって基板上にAuNRを一定方向に配向させる方法において、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することを特徴とする金ナノロッドの配向制御方法、およびAuNR配向基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズのロッド状の金微粒子(金ナノロッド)を配向制御する方法と金ナノロッド配向基板等に関し、より詳しくは、金ナノロッドの濃度によって金ナノロッドの配向を制御する方法、および金ナノロッド配向基板等に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子(ナノサイズの金属微粒子)は表面プラズモン(SP)という光学特性を持つことが知られている。金ナノロッド(AuNR)は棒状の金ナノ粒子であり、その異方的形状に由来した二つのSP吸収ピークを有し、短軸由来の吸収ピークが可視光域に存在し、長軸由来の吸収ピークが近赤外光域に存在する。このような分光特性を有するAuNRは配列制御することによって新規な光機能性材料の用途が期待される。
【0003】
しかし、バルクの金は反磁性であり、その磁化率は小さいため、磁場を利用して単体の金ナノロッドを配向させるのは難しい。このため、従来、カーボンナノチューブなどに金ナノロッドを担持させた複合体を形成し、この複合体を磁場によって配向させる技術が提案されている(非特許文献1)。
【0004】
ところが、本発明者等は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)やポリスチレンスルホネート(PSS)によって表面修飾された金ナノロッドは、上記複合材を形成しなくても、その水分散液に十分な強さの磁場を印加すれば金ナノロッドを配向できることを見出した。
【0005】
一般に金ナノロッドは、例えば、CTABに溶解した水溶液中の金イオンを化学還元、電気還元、光還元などによって合成することができる。合成した金ナノロッドは表面がCTABによって修飾されており、安定な水分散液を形成している(特許文献1〜4)。
【0006】
特許文献1〜4には金ナノロッドの磁場配向については全く記載されていないが、本発明者等はこのように合成した金ナノロッド水分散液について、磁場を印加しながら分散液の溶媒を蒸発させることによって、カーボンナノチューブなどに金ナノロッドを担持させることなく、金ナノロッドを配向できることを見出し、この知見に基づき、金ナノロッドを配向させて基板上に定着させる技術を提案した(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−292627号公報
【特許文献2】特開2005−97718号公報
【特許文献3】特開2006−169544号公報
【特許文献4】特開2006−118036号公報
【特許文献5】特開2010−53442号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.Yonemura,J.Suyama,Y.Yamamoto,S.Yamada,Y.Fujiwara,Y.Tanimoto,第2回日本磁気科学会年次大会プログラム・要旨集、1P-19(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、先に提案した金ナノロッドの配向方法に基づいて更に検討したところ、金ナノロッドはその水分散液の金濃度の相違に応じて異なる配向を示すことを見出した。本発明はこの知見に基づき、金ナノロッドの配向方向を制御する技術を提供する。
なお、以下、金ナノロッドをAuNR、CTABで修飾された金ナノロッドをAuNR/CTABと略記する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成からなる金ナノロッドの配向制御方法とその基板等に関する。
〔1〕界面活性剤で修飾された金ナノロッド(AuNR)の水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒を蒸発させることによって基板上にAuNRを一定方向に配向させる方法において、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することを特徴とする金ナノロッドの配向制御方法。
〔2〕ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)で修飾されたAuNRの水分散液に強磁場を印加してAuNRを配向する方法において、AuNR濃度0.2mg/ml以上のときにAuNRが磁場に平行に配向するAuNR水分散液について、AuNR濃度を0.15mg/ml未満に調整して磁場を印加することによってAuNRを磁場に垂直に配向させる上記[1]に記載する金ナノロッドの配向制御方法。
〔3〕長軸が400nm未満であってアスペクト比が5以上であるAuNRを用いる上記[1]〜上記[2]の何れかに記載する金ナノロッドの配向制御方法。
〔4〕表面が導電処理後に親水化処理された基板の表面に上記[1]〜上記[3]の何れかの方法によってAuNRが配向され固定された基板。
〔5〕上記[4]に記載する基板を用いた導電性材料、メタマテリル、または光素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の配向制御方法によれば、界面活性剤で修飾されたAuNR水分散液について、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することができるので、AuNRの配向方向を容易に制御することができる。
【0012】
具体的には、AuNR濃度0.2mg/ml以上のときにAuNRが磁場に平行に配向するAuNR/CTAB水分散液について、AuNR濃度を0.15mg/ml未満に調整して強磁場を印加することによってAuNRを磁場に垂直に配向させることができる。
【0013】
本発明の配向制御方法によれば、水分散液のAuNR濃度を調整することによって、磁場と平行に配向させたAuNRを表面に固定した基板、あるいは磁場と垂直に配向させたAuNRを表面に固定した基板を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】磁場環境(磁場強度の変化)を示す図。
【図2】ガラス基板(I)の吸収スペクトル図(無偏光)。
【図3】ガラス基板(I)の磁場上部の偏光吸収スペクトル図。
【図4】ガラス基板(I)の磁場中央部の偏光吸収スペクトル図。
【図5】ガラス基板(I)の磁場下部の偏光吸収スペクトル図。
【図6】ガラス基板(I)の磁場外部の偏光吸収スペクトル図。
【図7】ガラス基板(II)の吸収スペクトル図(無偏光)。
【図8】ガラス基板(II)の磁場中央部の偏光吸収スペクトル図。
【図9】ガラス基板(II)の磁場外部の偏光吸収スペクトル図。
【図10】AuNRが磁場方向に対して垂直に配向するモデル図。
【図11】AuNRが磁場方向に対して平行に配向するモデル図。
【図12】実施例(1-1)のガラス基板の吸収スペクトル図(無偏光)。
【図13】実施例(1-1)のガラス基板の偏光吸収スペクトル図
【図14】実施例(1-2)のガラス基板の吸収スペクトル図(無偏光)。
【図15】実施例(1-2)のガラス基板の偏光吸収スペクトル図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。濃度の%は特に示さない限り質量%である。
【0016】
本発明の配向制御方法は、界面活性剤で修飾された金ナノロッド(AuNR)の水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒を蒸発させることによって基板上にAuNRを一定方向に配向させる方法において、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することを特徴とする金ナノロッドの配向制御方法である。
【0017】
本発明のAuNRは、長軸の長さが400nm未満であって、アスペクト比(長径/短径比)が5以上であるのが好ましい。AuNRの長軸は200nm以下がより好ましい。長軸が長くなるにつれて沈降しやすくなる傾向があり、分散媒中の分散安定性が失われる。また、アスペクト比が5より小さいとAuNRの配向が不明瞭になりやすい傾向がある。
【0018】
AuNRは次式[I]で示される4級アンモニウム塩が溶解した水溶液中で金イオンを還元することによって合成することができる。例えば、n=15のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を使用することによって、CTABによって表面が修飾されたAuNRを得ることができる。このAuNRはCTABが表面に修飾しているので水中に安定に分散している。
CH3(CH2)nN+(CH3)3Br- (nは1〜15の整数) …[I]
【0019】
上記合成方法によって得られるAuNR/CTAB水分散液について、水中に存在する余剰のCTABを除去するとよい。具体的には、AuNR/CTAB水分散液を遠心分離してAuNR/CTABを遠沈管の底に沈降させ、CTABを含む上澄みを除去する。沈降したAuNR/CTABは水を添加して再分散させる。この操作を1〜3回繰り返すことによって余剰なCTABを除去することができる。なお、CTABを過剰に除去するとAuNRが凝集して水に再分散しなくなるので、AuNR/CTABの分散状態を見ながらCTABを除去すると良い。
【0020】
本発明の配向制御方法において、AuNR/CTAB水分散液は、例えば金濃度0.001〜1mg/mlの分散液が用いられる。金濃度が0.001mg/mlより少ないと基板に固定化される金の量が少なくなる。一方、金濃度が1mg/mlより多いと基板に吸着しない余剰の金が多くなり、コスト的に不利である。
【0021】
AuNR/CTAB水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒(水)を蒸発させることによって、基板上にAuNRを一定方向に配向させることができる。具体的には、例えば、AuNR/CTAB水分散液に基板を浸漬し、基板に対して平行方向に磁場を印加して水を蒸発させる。基板に対して垂直に磁場を印加し、あるいは上記水分散液を滴下した状態で磁場を印加するとAuNRを基板上に十分に配向させることができない。
【0022】
上記分散液を基板表面に塗布し、この基板に磁場を印加しながら溶媒を蒸発させてAuNRを配向させてもよい。上記分散液を基板上に存在させて磁場を印加するとは、これらの分散液に基板を浸漬して磁場を印加する態様、あるいはこれらの分散液を基板に塗布して磁場を印加する態様を含む。
【0023】
磁場を印加してAuNRを基板上に配向させるときに、AuNR/CTAB水分散液にバインダーを加え、または基板上にバインダーを設けることによって、AuNRを基板上に強固に定着(固着)させることができる。
【0024】
基板は、AuNR/CTABを固定でき、測定波長における透過率が高く、AuNRのLPRの吸光測定を妨げない基板であればよく、大きさ、形状などは制限されない。具体的には、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂等を用いることができる。取り扱いの容易さからガラス板が好ましい。
【0025】
基板は親水化処理したものが好ましい。親水化処理は、例えば、過酸化水素を加えたアンモニア水にガラス基板を浸漬して加熱した後に水洗して乾燥すれば良い。また、親水化処理した導電性基板を用いることができる。例えば、基板表面にITO(酸化インジウムスズ)をドープしたガラス基板を用い、この基板をアセトンに浸して超音波を印加し、さらにメタノールに浸して超音波を印加し、窒素乾燥させてオゾン照射した導電性基板を用いることができる。
【0026】
磁場を印加して溶媒(水)を蒸発させるときの温度は5〜80℃が好ましく、25〜50℃がより好ましい。なお、蒸発温度が25℃の場合には、50℃の場合よりも、AuNRの配向密度が高くなるので、AuNR基板の吸収スペクトルが変化する。具体的には、蒸発温度が25℃の場合には、50℃の場合よりも、AuNR基板のLSPRが低波長側にシフトする傾向がみられる。
【0027】
印加する磁場の強さは、例えば、金濃度0.001〜1mg/mlの分散液に対して6.1テスラ以上が適当であり、10テスラ以上が好ましい。磁場の強さがこれより弱いとAuNRの配向状態が不十分になる場合がある。
【0028】
本発明の配向制御方法は、これらの水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒(水)を蒸発させて基板上にAuNRを配向させる方法において、分散液のAuNR濃度によってAuNRの配向方向を制御する。AuNRの配向方向を変えるには分散液のAuNRの濃度差は概ね3倍以上、好ましくは概ね2倍以上、あるいは概ね1/3以下、好ましくは概ね半分以下に調整するとよい。
【0029】
具体的には、例えば、AuNR/CTAB水分散液について、AuNR濃度0.2mg/ml以上のときにAuNRが磁場に平行に配向する場合、AuNR濃度を0.15mg/ml未満に調整して磁場を印加することによってAuNRを磁場に垂直に配向させる。
【0030】
または、AuNR/CTAB水分散液について、AuNR濃度0.1mg/ml以下のときにAuNRが磁場に垂直に配向する場合、AuNR濃度を0.2mg/ml以上に調整して磁場を印加することによってAuNRを磁場に平行に配向させる。
【0031】
一般に、磁場を印加された物質は磁場環境に応じた誘起磁気力を受ける。例えば、超伝導マグネット(磁場強度6.1テスラ〜10テスラ)を用いると、図1に示すような磁場環境が形成される。この超伝導マグネットは重力方向に磁場が印加されるので、磁場勾配によって発生する磁気力によって異なった磁場環境が形成される。具体的には、図1の磁場環境の上部〜下部において次のような磁場環境が形成される。
【0032】
上部 … 磁場勾配が負に最大(−485T2/m)、磁場強度6.1T
中央部… 磁場勾配0、磁場強度最大10T
下部 … 磁場勾配が正に最大(+485T2/m)、磁場強度6.1T
(外部は無磁場、Tは磁場単位テスラ)
【0033】
さらに勾配磁場下では、次式[II]で表される誘起磁気力が作用する。
FH=χH(dH/dy) [II]
〔χ:磁化率、H:外部磁場強度、dH/dy:磁場勾配(磁場強度を位置で微分)〕
なお、AuNR/CTABにおいて、CTABは反磁性物質であるので、χ<0である。
【0034】
誘起磁気力によって、図1の磁場環境の上部〜下部は次のような磁場環境になる。
磁場の上部では、χH<0、dH/dy<0、従ってFH>0であり、磁気力が重力と反発してつり合う状態になる。
磁場の中央部では、dH/dy=0であり、磁気力が作用しない。
磁場の下部では、χH<0、dH/dy>0、従ってFH<0であり、磁気力が下向きに作用して重力と重なる状態になる。
【0035】
このような磁場環境において、AuNR配向ガラス基板の吸収スペクトルを測定することによって、AuNRの配向状態を把握することができる。例えば、AuNR/CTAB(金濃度0.2mg/ml、AuNRの長軸36.6nm、アスペクト比5)が配向したガラス基板(I)について、AuNRの配向状態を以下のようにして把握することができる。
【0036】
上記ガラス基板(I)の吸収スペクトル(無偏光)を図2に示す。また、ガラス基板(I)に重力方向(磁場印加方向)と平行な偏光(0°偏光)と垂直な偏光(90°偏光)を照射して測定した偏光吸収スペクトルを図3〜図6に示す。図3は磁場上部の偏光吸収スペクトル図、図4は磁場中央部の偏光吸収スペクトル図、図5は磁場下部の偏光吸収スペクトル図、図6は磁場外部の偏光吸収スペクトル図である。
【0037】
図3、図5、図6では偏光吸収スペクトルが概ね重なっており、差が殆どないが、図4の偏光吸収では、長軸由来のピーク波長は0°偏光吸収が90°偏光吸収より大きく、短軸由来のピーク波長は90°偏光吸収が0°偏光吸収よりやや大きい。このことからAuNRの長軸が磁場と平行に配向していることが示唆される。
【0038】
次に、ガラス基板(I)より低い金濃度のAuNR/CTABが配向したガラス基板(II)について、吸収スペクトルを図7〜図9に示す。基板(II)のAuNR/CTAB濃度は基板(I)の金濃度の半分(0.1mg/ml)であり、長軸長さとアスペクト比は基板(I)の場合と同じである。図7はガラス基板(II)の吸収スペクトル(無偏光)、図8は磁場中央部の偏光吸収スペクトル図、図9は磁場外部の偏光吸収スペクトル図である。
【0039】
基板(II)は、図8および図9に示されているように、長軸由来のピーク波長は90°偏光吸収が0°偏光吸収より大きく、基板(I)とは逆の吸収効果を示している。このことからAuNRの長軸が磁場と垂直に配向していることが示唆される。なお、基板(II)の磁場上部、磁場下部、磁場外部の0°偏光吸収と90°偏光吸収の各スペクトルは基板(I)と同様に差がない(スペクトル図省略)。
【0040】
以上のように、AuNR濃度によってAuNR配向が異なり、具体的には次のような傾向を示す。
(イ)AuNR濃度が低い場合には、AuNRの長軸が磁場印加方向に垂直な配向になる。
(ロ)AuNR濃度が高い場合には、AuNRの長軸が磁場印加方向に平行な配向になる。
(ハ)AuNRの長軸が磁場印加方向と平行に配向する場合、磁場強度が最大のときに最も配向が強く、またアスペクト比が大きいほど配向しやすい。
【0041】
AuNRがこのような配向を示す理由は次のように推察される。
AuNR濃度が低い場合、AuNRは互いに離れていて、個々のAuNRの磁気特性により配向が起こる。一般にAuNR(常磁性)はその磁気異方性によって短軸方向に磁化するので、AuNRはその長軸が磁場方向に垂直に配向するようになる(図10)。
【0042】
一方、AuNR濃度が高い場合、AuNR(常磁性)はその磁気異方性によって短軸方向に磁化するので、近接するAuNRどうしが長軸側の重なったside-to-sideの凝集体を形成する。この凝集体が大きくなると、AuNRの積層方向に沿った側面にも多数のCTABが存在するようになる。積層方向側面のCTABの影響が強い状態で磁気力を受けると、このCTAB(反磁性)が磁場方向に沿って安定化しようとするので、AuNRはその長軸が磁場方向に平行に配向するようになる(図11)。
【0043】
〔AuNR配向基板〕
本発明の方法によって製造したAuNR配向基板は、導電膜、電極、電磁波シールドなどの導電性材料として使用することができる。また、AuNRの形状に由来する特性波長の吸収特性によって、偏光フィルター、近赤外カットフィルター、光導波路などの光素子、あるいはメタマテリアルなどの材料として使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。磁場はOxford社製液体ヘリウム冷媒型超伝導マグネット(ボア径6.0cm)を用いて印加した。分光特性はShimadzu UV-3150 spectrometerで測定した。AuNR配向基板の吸収スペクトルは測定装置に基板を固定して測定した。
【0045】
基板の偏光吸収スペクトルは、固定装置で基板を固定し、偏光子(AssyIII;260〜2
500nm)を用いて測定した。0°偏光は印加した磁場方向に対して平行、90°偏光は印加した磁場方向に対して垂直に波長を照射して測定した。なお、磁場を印加しない基板を測定する場合には0°偏光を重力方向に対して平行に、90°偏光は重力方向に対して垂直にした。
【0046】
〔金ナノロッド水分散液の調製〕
400mMのCTAB水溶液中で合成されたAuNR/CTAB水分散液を遠沈管に入れ、8000(×g)の相対遠心加速度(遠心加速度を地球の重力加速度で除したもの)で15分間遠心分離してAuNR/CTABを遠沈管の底に沈降させ、上澄み液を除去することによって余剰のCTABを除去した。沈降したAuNR/CTABは水で再分散させた。この操作を2回行ってAuNR/CTAB水分散液を調製した。
【0047】
〔実施例1−1〕
AuNR/CTAB水分散液(金濃度0.2mg/ml)4mlに親水処理したガラス基板を浸漬し、ガラス基板に対して平行方向に磁場(10テスラ)を印加しながら、50℃で上記分散液中の水を蒸発させ、AuNR/CTABが固定された基板を作製した。このガラス基板の吸収スペクトル(無偏光)を図12に示す。また、このガラス基板について、0°偏光と90°偏光の吸収スペクトルを図13に示す。図13に示すように、長軸による吸光度(Absorbance)は0°偏光のほうが90°偏光よりも大きく、従って、AuNRの長軸が磁場に平行に配向していることがわかる。
【0048】
〔実施例1−2〕
金濃度が0.1mg/mlである以外は実施例(2−1)と同様のAuNR/CTAB水分散液を用い、実施例(2−1)と同様にしてAuNR/CTABが固定された基板を作製した。このガラス基板の吸収スペクトル(無偏光)を図14に示す。また、このガラス基板について、0°偏光と90°偏光の吸収スペクトルを図15に示す。図15に示すように、長軸による吸光度(Absorbance)は0°偏光のほうが90°偏光よりも小さく、従って、AuNRの長軸が磁場に垂直に配向していることがわかる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズのロッド状の金微粒子(金ナノロッド)を配向制御する方法と金ナノロッド配向基板等に関し、より詳しくは、金ナノロッドの濃度によって金ナノロッドの配向を制御する方法、および金ナノロッド配向基板等に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子(ナノサイズの金属微粒子)は表面プラズモン(SP)という光学特性を持つことが知られている。金ナノロッド(AuNR)は棒状の金ナノ粒子であり、その異方的形状に由来した二つのSP吸収ピークを有し、短軸由来の吸収ピークが可視光域に存在し、長軸由来の吸収ピークが近赤外光域に存在する。このような分光特性を有するAuNRは配列制御することによって新規な光機能性材料の用途が期待される。
【0003】
しかし、バルクの金は反磁性であり、その磁化率は小さいため、磁場を利用して単体の金ナノロッドを配向させるのは難しい。このため、従来、カーボンナノチューブなどに金ナノロッドを担持させた複合体を形成し、この複合体を磁場によって配向させる技術が提案されている(非特許文献1)。
【0004】
ところが、本発明者等は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)やポリスチレンスルホネート(PSS)によって表面修飾された金ナノロッドは、上記複合材を形成しなくても、その水分散液に十分な強さの磁場を印加すれば金ナノロッドを配向できることを見出した。
【0005】
一般に金ナノロッドは、例えば、CTABに溶解した水溶液中の金イオンを化学還元、電気還元、光還元などによって合成することができる。合成した金ナノロッドは表面がCTABによって修飾されており、安定な水分散液を形成している(特許文献1〜4)。
【0006】
特許文献1〜4には金ナノロッドの磁場配向については全く記載されていないが、本発明者等はこのように合成した金ナノロッド水分散液について、磁場を印加しながら分散液の溶媒を蒸発させることによって、カーボンナノチューブなどに金ナノロッドを担持させることなく、金ナノロッドを配向できることを見出し、この知見に基づき、金ナノロッドを配向させて基板上に定着させる技術を提案した(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−292627号公報
【特許文献2】特開2005−97718号公報
【特許文献3】特開2006−169544号公報
【特許文献4】特開2006−118036号公報
【特許文献5】特開2010−53442号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.Yonemura,J.Suyama,Y.Yamamoto,S.Yamada,Y.Fujiwara,Y.Tanimoto,第2回日本磁気科学会年次大会プログラム・要旨集、1P-19(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、先に提案した金ナノロッドの配向方法に基づいて更に検討したところ、金ナノロッドはその水分散液の金濃度の相違に応じて異なる配向を示すことを見出した。本発明はこの知見に基づき、金ナノロッドの配向方向を制御する技術を提供する。
なお、以下、金ナノロッドをAuNR、CTABで修飾された金ナノロッドをAuNR/CTABと略記する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成からなる金ナノロッドの配向制御方法とその基板等に関する。
〔1〕界面活性剤で修飾された金ナノロッド(AuNR)の水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒を蒸発させることによって基板上にAuNRを一定方向に配向させる方法において、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することを特徴とする金ナノロッドの配向制御方法。
〔2〕ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)で修飾されたAuNRの水分散液に強磁場を印加してAuNRを配向する方法において、AuNR濃度0.2mg/ml以上のときにAuNRが磁場に平行に配向するAuNR水分散液について、AuNR濃度を0.15mg/ml未満に調整して磁場を印加することによってAuNRを磁場に垂直に配向させる上記[1]に記載する金ナノロッドの配向制御方法。
〔3〕長軸が400nm未満であってアスペクト比が5以上であるAuNRを用いる上記[1]〜上記[2]の何れかに記載する金ナノロッドの配向制御方法。
〔4〕表面が導電処理後に親水化処理された基板の表面に上記[1]〜上記[3]の何れかの方法によってAuNRが配向され固定された基板。
〔5〕上記[4]に記載する基板を用いた導電性材料、メタマテリル、または光素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の配向制御方法によれば、界面活性剤で修飾されたAuNR水分散液について、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することができるので、AuNRの配向方向を容易に制御することができる。
【0012】
具体的には、AuNR濃度0.2mg/ml以上のときにAuNRが磁場に平行に配向するAuNR/CTAB水分散液について、AuNR濃度を0.15mg/ml未満に調整して強磁場を印加することによってAuNRを磁場に垂直に配向させることができる。
【0013】
本発明の配向制御方法によれば、水分散液のAuNR濃度を調整することによって、磁場と平行に配向させたAuNRを表面に固定した基板、あるいは磁場と垂直に配向させたAuNRを表面に固定した基板を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】磁場環境(磁場強度の変化)を示す図。
【図2】ガラス基板(I)の吸収スペクトル図(無偏光)。
【図3】ガラス基板(I)の磁場上部の偏光吸収スペクトル図。
【図4】ガラス基板(I)の磁場中央部の偏光吸収スペクトル図。
【図5】ガラス基板(I)の磁場下部の偏光吸収スペクトル図。
【図6】ガラス基板(I)の磁場外部の偏光吸収スペクトル図。
【図7】ガラス基板(II)の吸収スペクトル図(無偏光)。
【図8】ガラス基板(II)の磁場中央部の偏光吸収スペクトル図。
【図9】ガラス基板(II)の磁場外部の偏光吸収スペクトル図。
【図10】AuNRが磁場方向に対して垂直に配向するモデル図。
【図11】AuNRが磁場方向に対して平行に配向するモデル図。
【図12】実施例(1-1)のガラス基板の吸収スペクトル図(無偏光)。
【図13】実施例(1-1)のガラス基板の偏光吸収スペクトル図
【図14】実施例(1-2)のガラス基板の吸収スペクトル図(無偏光)。
【図15】実施例(1-2)のガラス基板の偏光吸収スペクトル図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。濃度の%は特に示さない限り質量%である。
【0016】
本発明の配向制御方法は、界面活性剤で修飾された金ナノロッド(AuNR)の水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒を蒸発させることによって基板上にAuNRを一定方向に配向させる方法において、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することを特徴とする金ナノロッドの配向制御方法である。
【0017】
本発明のAuNRは、長軸の長さが400nm未満であって、アスペクト比(長径/短径比)が5以上であるのが好ましい。AuNRの長軸は200nm以下がより好ましい。長軸が長くなるにつれて沈降しやすくなる傾向があり、分散媒中の分散安定性が失われる。また、アスペクト比が5より小さいとAuNRの配向が不明瞭になりやすい傾向がある。
【0018】
AuNRは次式[I]で示される4級アンモニウム塩が溶解した水溶液中で金イオンを還元することによって合成することができる。例えば、n=15のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を使用することによって、CTABによって表面が修飾されたAuNRを得ることができる。このAuNRはCTABが表面に修飾しているので水中に安定に分散している。
CH3(CH2)nN+(CH3)3Br- (nは1〜15の整数) …[I]
【0019】
上記合成方法によって得られるAuNR/CTAB水分散液について、水中に存在する余剰のCTABを除去するとよい。具体的には、AuNR/CTAB水分散液を遠心分離してAuNR/CTABを遠沈管の底に沈降させ、CTABを含む上澄みを除去する。沈降したAuNR/CTABは水を添加して再分散させる。この操作を1〜3回繰り返すことによって余剰なCTABを除去することができる。なお、CTABを過剰に除去するとAuNRが凝集して水に再分散しなくなるので、AuNR/CTABの分散状態を見ながらCTABを除去すると良い。
【0020】
本発明の配向制御方法において、AuNR/CTAB水分散液は、例えば金濃度0.001〜1mg/mlの分散液が用いられる。金濃度が0.001mg/mlより少ないと基板に固定化される金の量が少なくなる。一方、金濃度が1mg/mlより多いと基板に吸着しない余剰の金が多くなり、コスト的に不利である。
【0021】
AuNR/CTAB水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒(水)を蒸発させることによって、基板上にAuNRを一定方向に配向させることができる。具体的には、例えば、AuNR/CTAB水分散液に基板を浸漬し、基板に対して平行方向に磁場を印加して水を蒸発させる。基板に対して垂直に磁場を印加し、あるいは上記水分散液を滴下した状態で磁場を印加するとAuNRを基板上に十分に配向させることができない。
【0022】
上記分散液を基板表面に塗布し、この基板に磁場を印加しながら溶媒を蒸発させてAuNRを配向させてもよい。上記分散液を基板上に存在させて磁場を印加するとは、これらの分散液に基板を浸漬して磁場を印加する態様、あるいはこれらの分散液を基板に塗布して磁場を印加する態様を含む。
【0023】
磁場を印加してAuNRを基板上に配向させるときに、AuNR/CTAB水分散液にバインダーを加え、または基板上にバインダーを設けることによって、AuNRを基板上に強固に定着(固着)させることができる。
【0024】
基板は、AuNR/CTABを固定でき、測定波長における透過率が高く、AuNRのLPRの吸光測定を妨げない基板であればよく、大きさ、形状などは制限されない。具体的には、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂等を用いることができる。取り扱いの容易さからガラス板が好ましい。
【0025】
基板は親水化処理したものが好ましい。親水化処理は、例えば、過酸化水素を加えたアンモニア水にガラス基板を浸漬して加熱した後に水洗して乾燥すれば良い。また、親水化処理した導電性基板を用いることができる。例えば、基板表面にITO(酸化インジウムスズ)をドープしたガラス基板を用い、この基板をアセトンに浸して超音波を印加し、さらにメタノールに浸して超音波を印加し、窒素乾燥させてオゾン照射した導電性基板を用いることができる。
【0026】
磁場を印加して溶媒(水)を蒸発させるときの温度は5〜80℃が好ましく、25〜50℃がより好ましい。なお、蒸発温度が25℃の場合には、50℃の場合よりも、AuNRの配向密度が高くなるので、AuNR基板の吸収スペクトルが変化する。具体的には、蒸発温度が25℃の場合には、50℃の場合よりも、AuNR基板のLSPRが低波長側にシフトする傾向がみられる。
【0027】
印加する磁場の強さは、例えば、金濃度0.001〜1mg/mlの分散液に対して6.1テスラ以上が適当であり、10テスラ以上が好ましい。磁場の強さがこれより弱いとAuNRの配向状態が不十分になる場合がある。
【0028】
本発明の配向制御方法は、これらの水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒(水)を蒸発させて基板上にAuNRを配向させる方法において、分散液のAuNR濃度によってAuNRの配向方向を制御する。AuNRの配向方向を変えるには分散液のAuNRの濃度差は概ね3倍以上、好ましくは概ね2倍以上、あるいは概ね1/3以下、好ましくは概ね半分以下に調整するとよい。
【0029】
具体的には、例えば、AuNR/CTAB水分散液について、AuNR濃度0.2mg/ml以上のときにAuNRが磁場に平行に配向する場合、AuNR濃度を0.15mg/ml未満に調整して磁場を印加することによってAuNRを磁場に垂直に配向させる。
【0030】
または、AuNR/CTAB水分散液について、AuNR濃度0.1mg/ml以下のときにAuNRが磁場に垂直に配向する場合、AuNR濃度を0.2mg/ml以上に調整して磁場を印加することによってAuNRを磁場に平行に配向させる。
【0031】
一般に、磁場を印加された物質は磁場環境に応じた誘起磁気力を受ける。例えば、超伝導マグネット(磁場強度6.1テスラ〜10テスラ)を用いると、図1に示すような磁場環境が形成される。この超伝導マグネットは重力方向に磁場が印加されるので、磁場勾配によって発生する磁気力によって異なった磁場環境が形成される。具体的には、図1の磁場環境の上部〜下部において次のような磁場環境が形成される。
【0032】
上部 … 磁場勾配が負に最大(−485T2/m)、磁場強度6.1T
中央部… 磁場勾配0、磁場強度最大10T
下部 … 磁場勾配が正に最大(+485T2/m)、磁場強度6.1T
(外部は無磁場、Tは磁場単位テスラ)
【0033】
さらに勾配磁場下では、次式[II]で表される誘起磁気力が作用する。
FH=χH(dH/dy) [II]
〔χ:磁化率、H:外部磁場強度、dH/dy:磁場勾配(磁場強度を位置で微分)〕
なお、AuNR/CTABにおいて、CTABは反磁性物質であるので、χ<0である。
【0034】
誘起磁気力によって、図1の磁場環境の上部〜下部は次のような磁場環境になる。
磁場の上部では、χH<0、dH/dy<0、従ってFH>0であり、磁気力が重力と反発してつり合う状態になる。
磁場の中央部では、dH/dy=0であり、磁気力が作用しない。
磁場の下部では、χH<0、dH/dy>0、従ってFH<0であり、磁気力が下向きに作用して重力と重なる状態になる。
【0035】
このような磁場環境において、AuNR配向ガラス基板の吸収スペクトルを測定することによって、AuNRの配向状態を把握することができる。例えば、AuNR/CTAB(金濃度0.2mg/ml、AuNRの長軸36.6nm、アスペクト比5)が配向したガラス基板(I)について、AuNRの配向状態を以下のようにして把握することができる。
【0036】
上記ガラス基板(I)の吸収スペクトル(無偏光)を図2に示す。また、ガラス基板(I)に重力方向(磁場印加方向)と平行な偏光(0°偏光)と垂直な偏光(90°偏光)を照射して測定した偏光吸収スペクトルを図3〜図6に示す。図3は磁場上部の偏光吸収スペクトル図、図4は磁場中央部の偏光吸収スペクトル図、図5は磁場下部の偏光吸収スペクトル図、図6は磁場外部の偏光吸収スペクトル図である。
【0037】
図3、図5、図6では偏光吸収スペクトルが概ね重なっており、差が殆どないが、図4の偏光吸収では、長軸由来のピーク波長は0°偏光吸収が90°偏光吸収より大きく、短軸由来のピーク波長は90°偏光吸収が0°偏光吸収よりやや大きい。このことからAuNRの長軸が磁場と平行に配向していることが示唆される。
【0038】
次に、ガラス基板(I)より低い金濃度のAuNR/CTABが配向したガラス基板(II)について、吸収スペクトルを図7〜図9に示す。基板(II)のAuNR/CTAB濃度は基板(I)の金濃度の半分(0.1mg/ml)であり、長軸長さとアスペクト比は基板(I)の場合と同じである。図7はガラス基板(II)の吸収スペクトル(無偏光)、図8は磁場中央部の偏光吸収スペクトル図、図9は磁場外部の偏光吸収スペクトル図である。
【0039】
基板(II)は、図8および図9に示されているように、長軸由来のピーク波長は90°偏光吸収が0°偏光吸収より大きく、基板(I)とは逆の吸収効果を示している。このことからAuNRの長軸が磁場と垂直に配向していることが示唆される。なお、基板(II)の磁場上部、磁場下部、磁場外部の0°偏光吸収と90°偏光吸収の各スペクトルは基板(I)と同様に差がない(スペクトル図省略)。
【0040】
以上のように、AuNR濃度によってAuNR配向が異なり、具体的には次のような傾向を示す。
(イ)AuNR濃度が低い場合には、AuNRの長軸が磁場印加方向に垂直な配向になる。
(ロ)AuNR濃度が高い場合には、AuNRの長軸が磁場印加方向に平行な配向になる。
(ハ)AuNRの長軸が磁場印加方向と平行に配向する場合、磁場強度が最大のときに最も配向が強く、またアスペクト比が大きいほど配向しやすい。
【0041】
AuNRがこのような配向を示す理由は次のように推察される。
AuNR濃度が低い場合、AuNRは互いに離れていて、個々のAuNRの磁気特性により配向が起こる。一般にAuNR(常磁性)はその磁気異方性によって短軸方向に磁化するので、AuNRはその長軸が磁場方向に垂直に配向するようになる(図10)。
【0042】
一方、AuNR濃度が高い場合、AuNR(常磁性)はその磁気異方性によって短軸方向に磁化するので、近接するAuNRどうしが長軸側の重なったside-to-sideの凝集体を形成する。この凝集体が大きくなると、AuNRの積層方向に沿った側面にも多数のCTABが存在するようになる。積層方向側面のCTABの影響が強い状態で磁気力を受けると、このCTAB(反磁性)が磁場方向に沿って安定化しようとするので、AuNRはその長軸が磁場方向に平行に配向するようになる(図11)。
【0043】
〔AuNR配向基板〕
本発明の方法によって製造したAuNR配向基板は、導電膜、電極、電磁波シールドなどの導電性材料として使用することができる。また、AuNRの形状に由来する特性波長の吸収特性によって、偏光フィルター、近赤外カットフィルター、光導波路などの光素子、あるいはメタマテリアルなどの材料として使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。磁場はOxford社製液体ヘリウム冷媒型超伝導マグネット(ボア径6.0cm)を用いて印加した。分光特性はShimadzu UV-3150 spectrometerで測定した。AuNR配向基板の吸収スペクトルは測定装置に基板を固定して測定した。
【0045】
基板の偏光吸収スペクトルは、固定装置で基板を固定し、偏光子(AssyIII;260〜2
500nm)を用いて測定した。0°偏光は印加した磁場方向に対して平行、90°偏光は印加した磁場方向に対して垂直に波長を照射して測定した。なお、磁場を印加しない基板を測定する場合には0°偏光を重力方向に対して平行に、90°偏光は重力方向に対して垂直にした。
【0046】
〔金ナノロッド水分散液の調製〕
400mMのCTAB水溶液中で合成されたAuNR/CTAB水分散液を遠沈管に入れ、8000(×g)の相対遠心加速度(遠心加速度を地球の重力加速度で除したもの)で15分間遠心分離してAuNR/CTABを遠沈管の底に沈降させ、上澄み液を除去することによって余剰のCTABを除去した。沈降したAuNR/CTABは水で再分散させた。この操作を2回行ってAuNR/CTAB水分散液を調製した。
【0047】
〔実施例1−1〕
AuNR/CTAB水分散液(金濃度0.2mg/ml)4mlに親水処理したガラス基板を浸漬し、ガラス基板に対して平行方向に磁場(10テスラ)を印加しながら、50℃で上記分散液中の水を蒸発させ、AuNR/CTABが固定された基板を作製した。このガラス基板の吸収スペクトル(無偏光)を図12に示す。また、このガラス基板について、0°偏光と90°偏光の吸収スペクトルを図13に示す。図13に示すように、長軸による吸光度(Absorbance)は0°偏光のほうが90°偏光よりも大きく、従って、AuNRの長軸が磁場に平行に配向していることがわかる。
【0048】
〔実施例1−2〕
金濃度が0.1mg/mlである以外は実施例(2−1)と同様のAuNR/CTAB水分散液を用い、実施例(2−1)と同様にしてAuNR/CTABが固定された基板を作製した。このガラス基板の吸収スペクトル(無偏光)を図14に示す。また、このガラス基板について、0°偏光と90°偏光の吸収スペクトルを図15に示す。図15に示すように、長軸による吸光度(Absorbance)は0°偏光のほうが90°偏光よりも小さく、従って、AuNRの長軸が磁場に垂直に配向していることがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤で修飾された金ナノロッド(AuNR)の水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒を蒸発させることによって基板上にAuNRを一定方向に配向させる方法において、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することを特徴とする金ナノロッドの配向制御方法。
【請求項2】
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)で修飾されたAuNRの水分散液に強磁場を印加してAuNRを配向する方法において、AuNR濃度0.2mg/ml以上のときにAuNRが磁場に平行に配向するAuNR水分散液について、AuNR濃度を0.15mg/ml未満に調整して磁場を印加することによってAuNRを磁場に垂直に配向させる請求項1に記載する金ナノロッドの配向制御方法。
【請求項3】
長軸が400nm未満であってアスペクト比が5以上であるAuNRを用いる請求項1〜請求項2の何れかに記載する金ナノロッドの配向制御方法。
【請求項4】
表面が導電処理後に親水化処理された基板の表面に請求項1〜請求項3の何れかの方法によってAuNRが配向され固定された基板。
【請求項5】
請求項4に記載する基板を用いた導電性材料、メタマテリル、または光素子。
【請求項1】
界面活性剤で修飾された金ナノロッド(AuNR)の水分散液を基板上に存在させて磁場を印加しながら溶媒を蒸発させることによって基板上にAuNRを一定方向に配向させる方法において、AuNRの濃度によってAuNRの配向方向を制御することを特徴とする金ナノロッドの配向制御方法。
【請求項2】
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)で修飾されたAuNRの水分散液に強磁場を印加してAuNRを配向する方法において、AuNR濃度0.2mg/ml以上のときにAuNRが磁場に平行に配向するAuNR水分散液について、AuNR濃度を0.15mg/ml未満に調整して磁場を印加することによってAuNRを磁場に垂直に配向させる請求項1に記載する金ナノロッドの配向制御方法。
【請求項3】
長軸が400nm未満であってアスペクト比が5以上であるAuNRを用いる請求項1〜請求項2の何れかに記載する金ナノロッドの配向制御方法。
【請求項4】
表面が導電処理後に親水化処理された基板の表面に請求項1〜請求項3の何れかの方法によってAuNRが配向され固定された基板。
【請求項5】
請求項4に記載する基板を用いた導電性材料、メタマテリル、または光素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−12651(P2012−12651A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149362(P2010−149362)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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