金属−セラミックス接合基板およびその製造方法
【課題】溶湯接合によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を製造する際に、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率の大きい金属からなる金属板を取り囲むように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成しても、その金属とAlとの金属間化合物または固溶体の形成を防止するとともに、その金属とAlの拡散を防止することができる、金属−セラミックス接合基板を製造する手段を提供する。
【解決手段】金属部材の表面にセラミックスを溶射して金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材16を得た後、この溶射皮膜被覆部材とセラミックス基板12とを互いに離間して鋳型20内に配置させ、この鋳型内の溶射皮膜被覆部材の全面とセラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯した後に溶湯を冷却して固化させる。
【解決手段】金属部材の表面にセラミックスを溶射して金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材16を得た後、この溶射皮膜被覆部材とセラミックス基板12とを互いに離間して鋳型20内に配置させ、この鋳型内の溶射皮膜被覆部材の全面とセラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯した後に溶湯を冷却して固化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属−セラミックス接合基板およびその製造方法に関し、特に、金属部材がセラミックス基板に接合した金属−セラミックス接合基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、電車、工作機械などの大電流を制御するために使用される従来のパワーモジュールでは、ベース板と呼ばれる金属板または複合材の一方の面に金属−セラミックス絶縁基板が半田付けにより固定されるとともに、この金属−セラミックス絶縁基板上に半導体チップが半田付けにより固定され、ベース板の他方の面(裏面)に熱伝導グリースを介してねじ止めなどにより金属製の放熱フィンや冷却ジャケットが取り付けられている。
【0003】
この金属−セラミックス絶縁基板へのベース板や半導体チップの半田付けは加熱により行われるため、半田付けの際に接合部材間の熱膨張係数の差によりベース板の反りが生じ易い。また、半導体チップから発生した熱は、金属−セラミックス絶縁基板と半田とベース板を介して放熱フィンや冷却ジャケットにより空気や冷却水に逃がされるため、半田付けの際にベース板の反りが生じると、放熱フィンや冷却ジャケットをベース板に取り付けたときのクリアランスが大きくなり、放熱性が極端に低下する。さらに、半田自体の熱伝導率が低いため、大電流を流すパワーモジュールでは、より高い放熱性が求められている。
【0004】
これらの問題を解決するため、ベース板と金属−セラミックス絶縁基板との間を半田付けすることなく、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板をセラミックス基板に直接接合したベース一体型の金属−セラミックス接合基板が提案されている。このようなベース一体型の金属−セラミックス接合基板は、例えば、所謂溶湯接合法では、鋳型内にセラミックス基板を設置した後、このセラミックス基板に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を鋳型内に注湯し、冷却して溶湯を固化させることにより、セラミックス基板に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成することによって製造されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−76551号公報(段落番号0015)
【特許文献2】特開2005−103560号公報(段落番号0008−0009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を溶湯接合によりセラミックス基板に直接接合したベース一体型の金属−セラミックス接合基板において、過渡熱特性や飽和熱特性などの放熱性をさらに向上させることが望まれている。
【0007】
そのため、溶湯接合によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を製造する際に、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率の大きい銅などからなる金属板を取り囲むように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成することが考えられる。
【0008】
しかし、溶湯接合の際に銅板を取り囲むようにアルミニウムからなるベース板を形成したところ、AlとCuの硬くて脆い金属間化合物または固溶体が形成されて、金属−セラミックス接合基板の耐熱衝撃性やセラミックス基板に対するベース板の接合強度などの信頼性が低下したり、熱伝導率が低下するおそれがあることがわかった。また、ベース板がセラミックス基板の界面から剥離するおそれがあることもわかった。さらに、AlとCuの拡散の量を抑制することができないこともわかった。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、溶湯接合によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を製造する際に、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率の大きい金属からなる金属板を取り囲むように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成しても、その金属とAlとの金属間化合物または固溶体の形成を防止するとともに、その金属とAlの拡散を防止することができる、金属−セラミックス接合基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率の大きい金属からなる金属部材にセラミックスを溶射して金属部材が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材を得た後、溶湯接合によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を製造する際に、溶射皮膜被覆部材を取り囲むようにアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成することにより、その金属とAlとの金属間化合物または固溶体の形成を防止するとともに、その金属とAlの拡散を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による金属−セラミックス接合基板の製造方法は、金属部材の表面にセラミックスを溶射して金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材を得た後、この溶射皮膜被覆部材とセラミックス基板とを互いに離間して鋳型内に配置させ、この鋳型内の溶射皮膜被覆部材の全面とセラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯した後に溶湯を冷却して固化させることにより、溶射皮膜被覆部材を取り囲み且つセラミックス基板の一方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム部材(アルミニウムベース板)を形成することを特徴とする。
【0012】
この金属−セラミックス接合基板の製造方法において、鋳型内のセラミックス基板の他方の面に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯することにより、セラミックス基板の他方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる(回路パターン用)アルミニウム板を形成するのが好ましい。また、溶射がプラズマ溶射であるのが好ましく、金属部材が銅または銅合金からなるのが好ましい。さらに、溶射に使用するセラミックスが、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上であるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による金属−セラミックス接合基板は、金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材が内部に配置されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム部材(アルミニウムベース板)が、セラミックス基板の一方の面に直接接合していることを特徴とする。
【0014】
この金属−セラミックス接合基板において、セラミックス基板の他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる(回路パターン用)アルミニウム板が直接接合しているのが好ましい。また、金属部材が銅または銅合金からなるのが好ましい。また、溶射皮膜が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上のセラミックスの皮膜であるのが好ましい。さらに、アルミニウム部材の形状が、板状、または板状体に複数のフィンが一体に形成された形状であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶湯接合によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を製造する際に、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率の大きい金属からなる金属板を取り囲むように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成しても、その金属とAlとの金属間化合物または固溶体の形成を防止するとともに、その金属とAlの拡散を防止することができる、金属−セラミックス接合基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態を示す平面図である。
【図1B】図1Aの金属−セラミックス接合基板の側面図である。
【図1C】図1Aの金属−セラミックス接合基板のIC−IC線断面図である。
【図2】図1A〜図1Cに示す金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型の断面図である。
【図3A】本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態の変形例を示す平面図である。
【図3B】図3Aの金属−セラミックス接合基板の側面図である。
【図3C】図3Aの金属−セラミックス接合基板のIIIC−IIIC線断面図である。
【図4A】図3A〜図3Cに示す金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型の断面図である。
【図4B】図4Aの鋳型内に配置させる溶射皮膜被覆部材の斜視図である。
【図5】本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態の他の変形例を示す断面図である。
【図6】図5に示す金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1A〜図1Cに示すように、本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態は、平面形状が略矩形のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板10と、このベース板10に一方の面が直接接合した平面形状が略矩形のセラミックス基板12と、このセラミックス基板12の他方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる回路パターン用アルミニウム板14とを備えている。また、図1Bおよび図1Cに示すように、ベース板10の内部には、平面形状が略矩形の金属板の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材16が配置されている。
【0018】
なお、溶射皮膜被覆部材16の金属板は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率が高い金属からなるのが好ましく、銅または銅合金からなるのがさらに好ましい。また、金属板の厚さは、0.3〜5mm程度であるのが好ましく、0.5〜3mm程度であるのがさらに好ましい。このようにアルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率が高い金属からなる金属板の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材16をベース板10の内部に配置させることにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率が高い金属からなる金属板をベース板の内部に配置させて過渡熱特性や飽和熱特性などの放熱性を向上させるという効果に加えて、その金属とAlとの金属間化合物または固溶体の形成を防止するとともに、その金属とAlの拡散を防止する効果を得ることができ、それによって、金属−セラミックス接合基板の耐熱衝撃性やセラミックス基板に対するベース板の接合強度などの信頼性の低下を防止するとともに、熱伝導率の低下を防止することができる。
【0019】
図1A〜図1Cに示す実施の形態の金属−セラミックス接合基板は、金属板の表面にセラミックスを溶射して金属板の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材16を得た後、図2に示すような鋳型20内に、溶射皮膜被覆部材16とセラミックス基板12とを互いに離間して配置させ、溶射皮膜被覆部材16の全面とセラックス基板12の両面に接触するように、アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を流し込んで冷却することによって製造することができる。
【0020】
溶射は、プラズマ溶射であるのが好ましい。プラズマ溶射は、陰極と陽極ノズルの内面の間に直流アークを生じさせ、後方から送給される作動ガスを直流アークによって加熱して膨張させ、ノズルから激しい超高温のジェット(プラズマジェット)を噴出させ、作動ガスによってプラズマジェットの中に供給された粉末の溶射材料を、プラズマジェットによって加熱し且つ加速して基材表面に衝突させて皮膜(溶射皮膜)を形成する方法である。作動ガスとしては、アルゴンガスまたは窒素ガスを使用することができ、これらに水素ガスを混入してもよく、アルゴンとヘリウムの混合ガスを使用してもよい。溶射材料は、セラミックス粉末であり、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)および窒化珪素(Si3N4)からなる群から選ばれる1種以上のセラミックス粉末であるのが好ましい。また、溶射皮膜によってCuなどの金属とAlの拡散を防止するために、溶射皮膜の厚さは、0.01〜0.3mm程度であるのが好ましく、0.02〜0.2mm程度であるのがさらに好ましい。
【0021】
図2に示すように、鋳型20は、カーボンまたは多孔質金属などの通気性材料からなり、それぞれ平面形状が略矩形の下側鋳型部材22と上側鋳型部材24とから構成されている。下側鋳型部材22の上面には、セラミックス基板12を収容するための凹部(セラミックス基板収容部)22aが形成され、この凹部22aの底面には、回路パターン用アルミニウム板を形成するための凹部(回路パターン用アルミニウム板形成部)22bが形成されている。上側鋳型部材24の下面(裏面)には、ベース板を形成するための凹部(ベース板形成部)24aが形成されている。また、下側鋳型部材22の上面のセラミックス基板収容部22aの周囲には、鋳型20と同じ材質の複数の保持ピン26が設けられているとともに、上側鋳型部材24のベース板形成部24aの底面には、下側鋳型部材22に設けられた保持ピン26と対向するように、鋳型20と同じ材質の複数の保持ピン28が設けられており、下側鋳型部材22の保持ピン26上に溶射皮膜被覆部材16を載せた後に上側鋳型部材24を下側鋳型部材22に被せると、溶射皮膜被覆部材16が保持ピン26と保持ピン28によってベース板形成部24aの略中央部で挟持されるようになっている。なお、上側鋳型部材24には、(図示しない)注湯ノズルからベース板形成部24a内に溶湯を注湯するための(図示しない)注湯口が形成されているとともに、下側鋳型部材22には、ベース板形成部24aと回路パターン用アルミニウム板形成部22bとの間に延びる(図示しない)溶湯流路が形成されて、セラミックス基板収容部22a内にセラミックス基板を収容したときにもベース板形成部24aと回路パターン用アルミニウム板形成部22bとの間が連通するようになっている。
【0022】
このような鋳型20を使用して図1A〜図1Cに示す実施の形態の金属−セラミックス接合基板を製造するためには、まず、下側鋳型部材22のセラミックス基板収容部22a内にセラミックス基板12を配置させた後、下側鋳型部材22の保持ピン26上に溶射皮膜被覆部材16を載せて上側鋳型部材24を下側鋳型部材22に被せる。この状態で鋳型20内にアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を流し込んで冷却すると、内部に溶射皮膜被覆部材16が配置されたベース板10がセラミックス基板12の一方の面に直接接合するとともに、セラミックス基板12の他方の面に回路パターン用アルミニウム板14が直接接合した金属−セラミックス接合基板を製造することができる。なお、ベース板10には、保持ピン26および28に対応する複数の貫通孔が形成されるが、これらの貫通孔は小さいため、金属−セラミックス接合基板の信頼性や熱伝導率に殆ど影響しない。
【0023】
図3A〜図3Cは、本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態の変形例を示している。また、図4Aは、この変形例の金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型を示し、図4Bは、この鋳型内に配置させる溶射皮膜被覆部材の形状を示している。この変形例では、セラミックス基板112および回路パターン用アルミニウム板114をそれぞれ2つにした他に、保持ピン26および28の代わりに、これらのピンに対応する形状の複数の突部をプレス加工などにより形成した金属板の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材116を使用した以外は、上述した実施の形態の金属−セラミックス接合基板およびその製造方法と略同一であるので、参照符号に100を加えてその説明を省略する。なお、この変形例では、ベース板110の表面には、溶射皮膜被覆部材16の複数の突部の表面が露出するが、これらの露出面の面積は小さいため、金属−セラミックス接合基板の信頼性や熱伝導率に殆ど影響しない。
【0024】
図5は、本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態の他の変形例を示し、図6は、この変形例の金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型を示している。この変形例では、保持ピン26および28の代わりに、下側鋳型部材の上面に取り付けられた保持ピン226が溶射皮膜被覆部材216の底面および側面に当接して溶射皮膜被覆部材216を保持できるようにするとともに、ベース板210の底面に互いに略平行に且つ一定の間隔で離間した複数のフィン210aを形成した以外は、上述した実施の形態の金属−セラミックス接合基板およびその製造方法と略同一であるので、参照符号に200を加えてその説明を省略する。なお、図5に示すように、箱型部材118でフィン210aを覆って水冷ジャケットとしてもよいし、箱型部材118を設けないで空冷フィンにしてもよい。また、ベース板210には、保持ピン226に対応する複数の貫通孔が形成されるが、これらの貫通孔は小さいため、金属−セラミックス接合基板の信頼性や熱伝導率に殆ど影響しない。
【実施例】
【0025】
以下、本発明による金属−セラミックス接合基板およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0026】
[実施例1]
厚さ1mmのCu板にプラズマ溶射で厚さ0.1mmのAl2O3皮膜を形成した溶射皮膜被覆部材と、AlN基板とを、図2に示す鋳型20と同様の鋳型内に収容した後、鋳型内を窒素雰囲気にした状態で加熱し、アルミニウム溶湯をその表面の酸化膜を取り除きながら鋳型内に注湯し、その後、鋳型を冷却して溶湯を凝固させることによって、溶射皮膜被覆部材を内部に含む厚さ5mmのベース板が一体に形成されたベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlの拡散はなく、金属間化合物も認められなかった。また、AlN基板とベース板との接合界面と、溶射皮膜被覆部材とベース板との接合界面には、ボイドなどの接合欠陥は見られず、これらの間の接合強度は充分であることがわかった。
【0027】
[実施例2]
厚さ3mmのCu板を使用した以外は実施例1と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlの拡散はなく、金属間化合物も認められなかった。また、AlN基板とベース板との接合界面と、溶射皮膜被覆部材とベース板との接合界面には、ボイドなどの接合欠陥は見られず、これらの間の接合強度は充分であることがわかった。
【0028】
[実施例3]
プラズマ溶射で厚さ0.02mmのAl2O3皮膜を形成した以外は実施例2と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlの拡散はなく、金属間化合物も認められなかった。また、AlN基板とベース板との接合界面と、溶射皮膜被覆部材とベース板との接合界面には、ボイドなどの接合欠陥は見られず、これらの間の接合強度は充分であることがわかった。
【0029】
[実施例4]
プラズマ溶射で厚さ0.05mmのAl2O3皮膜を形成した以外は実施例2と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlの拡散はなく、金属間化合物も認められなかった。また、AlN基板とベース板との接合界面と、溶射皮膜被覆部材とベース板との接合界面には、ボイドなどの接合欠陥は見られず、これらの間の接合強度は充分であることがわかった。
【0030】
[比較例1]
鋳型内に溶射皮膜被覆部材を収容しなかった以外は実施例1と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlが相互に拡散し金属間化合物も認められた。
【0031】
[比較例2]
Cu板にプラズマ溶射を行わなかった以外は実施例1と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlが相互に拡散し金属間化合物も認められた。
【符号の説明】
【0032】
10、110、210 ベース板
12、112、212 セラミックス基板
14、114、214 回路パターン用アルミニウム板
16、116、216 溶射皮膜被覆部材
20、120、220 鋳型
22、122、222 下側鋳型部材
22a、122a、222a セラミックス基板収容部
22b、122b、222b 回路パターン用アルミニウム板形成部
24、124、224 上側鋳型部材
24a、124a、224a ベース板形成部
26、28、226 保持ピン
118 箱型部材
210a フィン
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属−セラミックス接合基板およびその製造方法に関し、特に、金属部材がセラミックス基板に接合した金属−セラミックス接合基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、電車、工作機械などの大電流を制御するために使用される従来のパワーモジュールでは、ベース板と呼ばれる金属板または複合材の一方の面に金属−セラミックス絶縁基板が半田付けにより固定されるとともに、この金属−セラミックス絶縁基板上に半導体チップが半田付けにより固定され、ベース板の他方の面(裏面)に熱伝導グリースを介してねじ止めなどにより金属製の放熱フィンや冷却ジャケットが取り付けられている。
【0003】
この金属−セラミックス絶縁基板へのベース板や半導体チップの半田付けは加熱により行われるため、半田付けの際に接合部材間の熱膨張係数の差によりベース板の反りが生じ易い。また、半導体チップから発生した熱は、金属−セラミックス絶縁基板と半田とベース板を介して放熱フィンや冷却ジャケットにより空気や冷却水に逃がされるため、半田付けの際にベース板の反りが生じると、放熱フィンや冷却ジャケットをベース板に取り付けたときのクリアランスが大きくなり、放熱性が極端に低下する。さらに、半田自体の熱伝導率が低いため、大電流を流すパワーモジュールでは、より高い放熱性が求められている。
【0004】
これらの問題を解決するため、ベース板と金属−セラミックス絶縁基板との間を半田付けすることなく、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板をセラミックス基板に直接接合したベース一体型の金属−セラミックス接合基板が提案されている。このようなベース一体型の金属−セラミックス接合基板は、例えば、所謂溶湯接合法では、鋳型内にセラミックス基板を設置した後、このセラミックス基板に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を鋳型内に注湯し、冷却して溶湯を固化させることにより、セラミックス基板に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成することによって製造されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−76551号公報(段落番号0015)
【特許文献2】特開2005−103560号公報(段落番号0008−0009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を溶湯接合によりセラミックス基板に直接接合したベース一体型の金属−セラミックス接合基板において、過渡熱特性や飽和熱特性などの放熱性をさらに向上させることが望まれている。
【0007】
そのため、溶湯接合によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を製造する際に、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率の大きい銅などからなる金属板を取り囲むように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成することが考えられる。
【0008】
しかし、溶湯接合の際に銅板を取り囲むようにアルミニウムからなるベース板を形成したところ、AlとCuの硬くて脆い金属間化合物または固溶体が形成されて、金属−セラミックス接合基板の耐熱衝撃性やセラミックス基板に対するベース板の接合強度などの信頼性が低下したり、熱伝導率が低下するおそれがあることがわかった。また、ベース板がセラミックス基板の界面から剥離するおそれがあることもわかった。さらに、AlとCuの拡散の量を抑制することができないこともわかった。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、溶湯接合によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を製造する際に、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率の大きい金属からなる金属板を取り囲むように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成しても、その金属とAlとの金属間化合物または固溶体の形成を防止するとともに、その金属とAlの拡散を防止することができる、金属−セラミックス接合基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率の大きい金属からなる金属部材にセラミックスを溶射して金属部材が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材を得た後、溶湯接合によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を製造する際に、溶射皮膜被覆部材を取り囲むようにアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成することにより、その金属とAlとの金属間化合物または固溶体の形成を防止するとともに、その金属とAlの拡散を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による金属−セラミックス接合基板の製造方法は、金属部材の表面にセラミックスを溶射して金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材を得た後、この溶射皮膜被覆部材とセラミックス基板とを互いに離間して鋳型内に配置させ、この鋳型内の溶射皮膜被覆部材の全面とセラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯した後に溶湯を冷却して固化させることにより、溶射皮膜被覆部材を取り囲み且つセラミックス基板の一方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム部材(アルミニウムベース板)を形成することを特徴とする。
【0012】
この金属−セラミックス接合基板の製造方法において、鋳型内のセラミックス基板の他方の面に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯することにより、セラミックス基板の他方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる(回路パターン用)アルミニウム板を形成するのが好ましい。また、溶射がプラズマ溶射であるのが好ましく、金属部材が銅または銅合金からなるのが好ましい。さらに、溶射に使用するセラミックスが、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上であるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による金属−セラミックス接合基板は、金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材が内部に配置されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム部材(アルミニウムベース板)が、セラミックス基板の一方の面に直接接合していることを特徴とする。
【0014】
この金属−セラミックス接合基板において、セラミックス基板の他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる(回路パターン用)アルミニウム板が直接接合しているのが好ましい。また、金属部材が銅または銅合金からなるのが好ましい。また、溶射皮膜が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上のセラミックスの皮膜であるのが好ましい。さらに、アルミニウム部材の形状が、板状、または板状体に複数のフィンが一体に形成された形状であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶湯接合によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を製造する際に、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率の大きい金属からなる金属板を取り囲むように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板を形成しても、その金属とAlとの金属間化合物または固溶体の形成を防止するとともに、その金属とAlの拡散を防止することができる、金属−セラミックス接合基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態を示す平面図である。
【図1B】図1Aの金属−セラミックス接合基板の側面図である。
【図1C】図1Aの金属−セラミックス接合基板のIC−IC線断面図である。
【図2】図1A〜図1Cに示す金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型の断面図である。
【図3A】本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態の変形例を示す平面図である。
【図3B】図3Aの金属−セラミックス接合基板の側面図である。
【図3C】図3Aの金属−セラミックス接合基板のIIIC−IIIC線断面図である。
【図4A】図3A〜図3Cに示す金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型の断面図である。
【図4B】図4Aの鋳型内に配置させる溶射皮膜被覆部材の斜視図である。
【図5】本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態の他の変形例を示す断面図である。
【図6】図5に示す金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1A〜図1Cに示すように、本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態は、平面形状が略矩形のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるベース板10と、このベース板10に一方の面が直接接合した平面形状が略矩形のセラミックス基板12と、このセラミックス基板12の他方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる回路パターン用アルミニウム板14とを備えている。また、図1Bおよび図1Cに示すように、ベース板10の内部には、平面形状が略矩形の金属板の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材16が配置されている。
【0018】
なお、溶射皮膜被覆部材16の金属板は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率が高い金属からなるのが好ましく、銅または銅合金からなるのがさらに好ましい。また、金属板の厚さは、0.3〜5mm程度であるのが好ましく、0.5〜3mm程度であるのがさらに好ましい。このようにアルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率が高い金属からなる金属板の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材16をベース板10の内部に配置させることにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金より熱伝導率が高い金属からなる金属板をベース板の内部に配置させて過渡熱特性や飽和熱特性などの放熱性を向上させるという効果に加えて、その金属とAlとの金属間化合物または固溶体の形成を防止するとともに、その金属とAlの拡散を防止する効果を得ることができ、それによって、金属−セラミックス接合基板の耐熱衝撃性やセラミックス基板に対するベース板の接合強度などの信頼性の低下を防止するとともに、熱伝導率の低下を防止することができる。
【0019】
図1A〜図1Cに示す実施の形態の金属−セラミックス接合基板は、金属板の表面にセラミックスを溶射して金属板の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材16を得た後、図2に示すような鋳型20内に、溶射皮膜被覆部材16とセラミックス基板12とを互いに離間して配置させ、溶射皮膜被覆部材16の全面とセラックス基板12の両面に接触するように、アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を流し込んで冷却することによって製造することができる。
【0020】
溶射は、プラズマ溶射であるのが好ましい。プラズマ溶射は、陰極と陽極ノズルの内面の間に直流アークを生じさせ、後方から送給される作動ガスを直流アークによって加熱して膨張させ、ノズルから激しい超高温のジェット(プラズマジェット)を噴出させ、作動ガスによってプラズマジェットの中に供給された粉末の溶射材料を、プラズマジェットによって加熱し且つ加速して基材表面に衝突させて皮膜(溶射皮膜)を形成する方法である。作動ガスとしては、アルゴンガスまたは窒素ガスを使用することができ、これらに水素ガスを混入してもよく、アルゴンとヘリウムの混合ガスを使用してもよい。溶射材料は、セラミックス粉末であり、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)および窒化珪素(Si3N4)からなる群から選ばれる1種以上のセラミックス粉末であるのが好ましい。また、溶射皮膜によってCuなどの金属とAlの拡散を防止するために、溶射皮膜の厚さは、0.01〜0.3mm程度であるのが好ましく、0.02〜0.2mm程度であるのがさらに好ましい。
【0021】
図2に示すように、鋳型20は、カーボンまたは多孔質金属などの通気性材料からなり、それぞれ平面形状が略矩形の下側鋳型部材22と上側鋳型部材24とから構成されている。下側鋳型部材22の上面には、セラミックス基板12を収容するための凹部(セラミックス基板収容部)22aが形成され、この凹部22aの底面には、回路パターン用アルミニウム板を形成するための凹部(回路パターン用アルミニウム板形成部)22bが形成されている。上側鋳型部材24の下面(裏面)には、ベース板を形成するための凹部(ベース板形成部)24aが形成されている。また、下側鋳型部材22の上面のセラミックス基板収容部22aの周囲には、鋳型20と同じ材質の複数の保持ピン26が設けられているとともに、上側鋳型部材24のベース板形成部24aの底面には、下側鋳型部材22に設けられた保持ピン26と対向するように、鋳型20と同じ材質の複数の保持ピン28が設けられており、下側鋳型部材22の保持ピン26上に溶射皮膜被覆部材16を載せた後に上側鋳型部材24を下側鋳型部材22に被せると、溶射皮膜被覆部材16が保持ピン26と保持ピン28によってベース板形成部24aの略中央部で挟持されるようになっている。なお、上側鋳型部材24には、(図示しない)注湯ノズルからベース板形成部24a内に溶湯を注湯するための(図示しない)注湯口が形成されているとともに、下側鋳型部材22には、ベース板形成部24aと回路パターン用アルミニウム板形成部22bとの間に延びる(図示しない)溶湯流路が形成されて、セラミックス基板収容部22a内にセラミックス基板を収容したときにもベース板形成部24aと回路パターン用アルミニウム板形成部22bとの間が連通するようになっている。
【0022】
このような鋳型20を使用して図1A〜図1Cに示す実施の形態の金属−セラミックス接合基板を製造するためには、まず、下側鋳型部材22のセラミックス基板収容部22a内にセラミックス基板12を配置させた後、下側鋳型部材22の保持ピン26上に溶射皮膜被覆部材16を載せて上側鋳型部材24を下側鋳型部材22に被せる。この状態で鋳型20内にアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を流し込んで冷却すると、内部に溶射皮膜被覆部材16が配置されたベース板10がセラミックス基板12の一方の面に直接接合するとともに、セラミックス基板12の他方の面に回路パターン用アルミニウム板14が直接接合した金属−セラミックス接合基板を製造することができる。なお、ベース板10には、保持ピン26および28に対応する複数の貫通孔が形成されるが、これらの貫通孔は小さいため、金属−セラミックス接合基板の信頼性や熱伝導率に殆ど影響しない。
【0023】
図3A〜図3Cは、本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態の変形例を示している。また、図4Aは、この変形例の金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型を示し、図4Bは、この鋳型内に配置させる溶射皮膜被覆部材の形状を示している。この変形例では、セラミックス基板112および回路パターン用アルミニウム板114をそれぞれ2つにした他に、保持ピン26および28の代わりに、これらのピンに対応する形状の複数の突部をプレス加工などにより形成した金属板の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材116を使用した以外は、上述した実施の形態の金属−セラミックス接合基板およびその製造方法と略同一であるので、参照符号に100を加えてその説明を省略する。なお、この変形例では、ベース板110の表面には、溶射皮膜被覆部材16の複数の突部の表面が露出するが、これらの露出面の面積は小さいため、金属−セラミックス接合基板の信頼性や熱伝導率に殆ど影響しない。
【0024】
図5は、本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態の他の変形例を示し、図6は、この変形例の金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型を示している。この変形例では、保持ピン26および28の代わりに、下側鋳型部材の上面に取り付けられた保持ピン226が溶射皮膜被覆部材216の底面および側面に当接して溶射皮膜被覆部材216を保持できるようにするとともに、ベース板210の底面に互いに略平行に且つ一定の間隔で離間した複数のフィン210aを形成した以外は、上述した実施の形態の金属−セラミックス接合基板およびその製造方法と略同一であるので、参照符号に200を加えてその説明を省略する。なお、図5に示すように、箱型部材118でフィン210aを覆って水冷ジャケットとしてもよいし、箱型部材118を設けないで空冷フィンにしてもよい。また、ベース板210には、保持ピン226に対応する複数の貫通孔が形成されるが、これらの貫通孔は小さいため、金属−セラミックス接合基板の信頼性や熱伝導率に殆ど影響しない。
【実施例】
【0025】
以下、本発明による金属−セラミックス接合基板およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0026】
[実施例1]
厚さ1mmのCu板にプラズマ溶射で厚さ0.1mmのAl2O3皮膜を形成した溶射皮膜被覆部材と、AlN基板とを、図2に示す鋳型20と同様の鋳型内に収容した後、鋳型内を窒素雰囲気にした状態で加熱し、アルミニウム溶湯をその表面の酸化膜を取り除きながら鋳型内に注湯し、その後、鋳型を冷却して溶湯を凝固させることによって、溶射皮膜被覆部材を内部に含む厚さ5mmのベース板が一体に形成されたベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlの拡散はなく、金属間化合物も認められなかった。また、AlN基板とベース板との接合界面と、溶射皮膜被覆部材とベース板との接合界面には、ボイドなどの接合欠陥は見られず、これらの間の接合強度は充分であることがわかった。
【0027】
[実施例2]
厚さ3mmのCu板を使用した以外は実施例1と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlの拡散はなく、金属間化合物も認められなかった。また、AlN基板とベース板との接合界面と、溶射皮膜被覆部材とベース板との接合界面には、ボイドなどの接合欠陥は見られず、これらの間の接合強度は充分であることがわかった。
【0028】
[実施例3]
プラズマ溶射で厚さ0.02mmのAl2O3皮膜を形成した以外は実施例2と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlの拡散はなく、金属間化合物も認められなかった。また、AlN基板とベース板との接合界面と、溶射皮膜被覆部材とベース板との接合界面には、ボイドなどの接合欠陥は見られず、これらの間の接合強度は充分であることがわかった。
【0029】
[実施例4]
プラズマ溶射で厚さ0.05mmのAl2O3皮膜を形成した以外は実施例2と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlの拡散はなく、金属間化合物も認められなかった。また、AlN基板とベース板との接合界面と、溶射皮膜被覆部材とベース板との接合界面には、ボイドなどの接合欠陥は見られず、これらの間の接合強度は充分であることがわかった。
【0030】
[比較例1]
鋳型内に溶射皮膜被覆部材を収容しなかった以外は実施例1と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlが相互に拡散し金属間化合物も認められた。
【0031】
[比較例2]
Cu板にプラズマ溶射を行わなかった以外は実施例1と同様の方法によりベース一体型の金属−セラミックス接合基板を作製した。この金属−セラミックス接合基板を切断して断面を観察したところ、CuとAlが相互に拡散し金属間化合物も認められた。
【符号の説明】
【0032】
10、110、210 ベース板
12、112、212 セラミックス基板
14、114、214 回路パターン用アルミニウム板
16、116、216 溶射皮膜被覆部材
20、120、220 鋳型
22、122、222 下側鋳型部材
22a、122a、222a セラミックス基板収容部
22b、122b、222b 回路パターン用アルミニウム板形成部
24、124、224 上側鋳型部材
24a、124a、224a ベース板形成部
26、28、226 保持ピン
118 箱型部材
210a フィン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の表面にセラミックスを溶射して金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材を得た後、この溶射皮膜被覆部材とセラミックス基板とを互いに離間して鋳型内に配置させ、この鋳型内の溶射皮膜被覆部材の全面とセラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯した後に溶湯を冷却して固化させることにより、溶射皮膜被覆部材を取り囲み且つセラミックス基板の一方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム部材を形成することを特徴とする、金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項2】
前記鋳型内の前記セラミックス基板の他方の面に接触するように前記アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯することにより、前記セラミックス基板の他方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム板を形成することを特徴とする、請求項1に記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項3】
前記溶射がプラズマ溶射であることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属部材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項5】
前記溶射に使用するセラミックスが、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項6】
金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材が内部に配置されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム部材が、セラミックス基板の一方の面に直接接合していることを特徴とする、金属−セラミックス接合基板。
【請求項7】
前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム板が直接接合していることを特徴とする、請求項6に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項8】
前記金属部材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項6または7に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項9】
前記溶射皮膜が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上のセラミックスの皮膜であることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項10】
前記アルミニウム部材の形状が、板状、または板状体に複数のフィンが一体に形成された形状であることを特徴とする、請求項6乃至9のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項1】
金属部材の表面にセラミックスを溶射して金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材を得た後、この溶射皮膜被覆部材とセラミックス基板とを互いに離間して鋳型内に配置させ、この鋳型内の溶射皮膜被覆部材の全面とセラミックス基板の一方の面に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯した後に溶湯を冷却して固化させることにより、溶射皮膜被覆部材を取り囲み且つセラミックス基板の一方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム部材を形成することを特徴とする、金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項2】
前記鋳型内の前記セラミックス基板の他方の面に接触するように前記アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を注湯することにより、前記セラミックス基板の他方の面に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム板を形成することを特徴とする、請求項1に記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項3】
前記溶射がプラズマ溶射であることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属部材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項5】
前記溶射に使用するセラミックスが、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項6】
金属部材の表面が溶射皮膜で被覆された溶射皮膜被覆部材が内部に配置されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム部材が、セラミックス基板の一方の面に直接接合していることを特徴とする、金属−セラミックス接合基板。
【請求項7】
前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム板が直接接合していることを特徴とする、請求項6に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項8】
前記金属部材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項6または7に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項9】
前記溶射皮膜が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素からなる群から選ばれる1種以上のセラミックスの皮膜であることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項10】
前記アルミニウム部材の形状が、板状、または板状体に複数のフィンが一体に形成された形状であることを特徴とする、請求項6乃至9のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2011−189354(P2011−189354A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55526(P2010−55526)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)
【Fターム(参考)】
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