説明

金属が添加された多孔体シリカ(MeKIT−5)およびその製造方法

【課題】
以上より、本発明の目的は、金属が添加された多孔体シリカ(KIT−5)およびその製造方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、高濃度の金属が添加された多孔体シリカ(KIT−5)およびその製造方法を提供することである。
【解決手段】
所定の空間群からなる多孔構造をもつ多孔体シリカであって、Al、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素が添加されてなることを特徴とする、多孔体シリカとその製造方法として、界面活性剤F127と、酸と、水と、ケイ素源並びにAl、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素を含む金属源とを混合する工程と、 前記混合する工程によって得られた原料混合物を加熱して、ケイ化する工程と、 前記ケイ化する工程によって得られたケイ化物を焼成する工程とからなることを特徴とする、方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属が添加された多孔体シリカ(MeKIT−5)およびその製造方法に関し、より詳細には、高濃度かつ高配向な金属が添加された多孔体シリカ(MeKIT−5)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配向した多孔体シリカ材料は、触媒、吸着、分離および燃料電池の分野への応用が期待され、注目されている。近年、このような多孔体シリカ材料の1つとして高配向なケージ型多孔体シリカ(KIT−5)が開発された(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
非特許文献1によれば、KIT−5は、シリカ源としてテトラエチルオルソシリケート(TEOS)を、構造指示剤として界面活性剤F127を酸性媒体中で塩または有機添加物を加えることなく合成される。このようなKIT−5は、配向性が高くケージ型であることに加えて、高い比表面積、大きな孔径および高い比孔容量を有する。また、非特許文献1によれば、45℃〜150℃の温度範囲にて水熱処理をすることにより、KIT−5の孔径およびケージ径を制御できる。
【0004】
しかしながら、KIT−5は、安定性に乏しい、酸に弱い、イオン交換能が低いといった欠点を有し、用途に限界がある。したがって、安定性に優れ、耐酸性を有し、イオン交換能の高いKIT−5が得られれば望ましい。
【0005】
【非特許文献1】F. Kleitzら, J. Phys. Chem. B 107(2003)14296
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上より、本発明の目的は、金属が添加された多孔体シリカ(KIT−5)およびその製造方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、高濃度の金属が添加された多孔体シリカ(KIT−5)およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 金属が添加された多孔体シリカであって、前記金属は、Al、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素であり、前記多孔体シリカの空間群は、面心立方Fm3mであることを特徴とする。
(2) 上記(1)に記載の多孔体シリカにおいて、前記多孔体シリカ中のシリコンと前記金属とのモル比(nSi/nMe)は、1×10〜7×10の範囲であることを特徴とする。
(3) 上記(1)に記載の多孔体シリカにおいて、前記メソポーラスカーボンの比表面積は、6.3×10〜1.0×10/gの範囲であり、前記メソポーラスカーボンの比孔容量は、4×10−1〜7×10−1cm/gの範囲であり、前記メソポーラスカーボンの孔径は、5〜6nmの範囲であることを特徴とする。
(4) 金属が添加された多孔体シリカを製造する方法において、界面活性剤F127と、酸と、水と、ケイ素源と、金属源とを混合する工程であって、前記金属源は、Al、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素を含む、工程と、前記混合する工程によって得られた原料混合物を加熱して、ケイ化する工程と、前記ケイ化する工程によって得られたケイ化物を焼成する工程とからなることを特徴とする。
(5) 上記(4)に記載の方法において、前記ケイ化する工程は、3.5×10℃〜6×10℃の温度範囲で1×10時間〜2.4×10時間の間攪拌しながら加熱し、次いで、8×10℃〜1.5×10℃の温度範囲で6時間〜4.8×10時間の間水熱処理することを特徴とする。
(6) 上記(4)に記載の方法において、前記焼成する工程は、前記ケイ化物を5×10℃〜5.5×10℃の温度範囲で1×10時間〜2.4×10時間の間焼成することを特徴とする。
(7) 上記(4)に記載の方法において、前記混合する工程は、ケイ素源:金属源:F127:酸:HO=1.0:0.033〜0.071:0.0035:0.25〜0.4166:116.6〜119となるように混合することを特徴とする。
(8) 上記(4)に記載の方法において、前記金属源は、前記選択された金属の硝酸金属塩、金属塩化物、金属硫化物、および、金属イソプロポキシドからなる群から選択されることを特徴とする。
(9) 上記(4)に記載の方法において、前記酸は、塩酸、硫酸および硝酸からなる群から選択されることを特徴とする。
(10) 上記(4)に記載の方法において、前記ケイ素源は、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)、テトラメチルオルソシリケート(TMOS)、アルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
(11) 上記(4)に記載の方法において、前記混合する工程において、原料混合物のpHは1より大きくなるように混合することを特徴とする、方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明による金属が添加された多孔体シリカ(MeKIT−5)は、金属が、Al、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素であり、空間群が、立方晶Fm3mであることを特徴とする。上記金属が、シリカフレーム構造内に導入されているので、本発明による多孔体シリカ(MeKIT−5)は、高配向した三次元ケージ型構造に加えて、安定性、耐酸性およびイオン交換能を備える。特に、多孔体シリカ中のシリコンと金属とのモル比(nSi/nMe)が1×10〜7×10の範囲である多孔体シリカは、高配向した三次元ケージ型構造に加えて、優れた安定性、耐酸性およびイオン交換能を有するので、実用に好ましい。
【0009】
本発明の方法は、界面活性剤F127と、酸と、水と、ケイ素源と、金属源とを混合する工程と、混合する工程によって得られた原料混合物を加熱して、ケイ化する工程と、ケイ化する工程によって得られたケイ化物を焼成する工程とからなる。上記金属源は、Al、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素を含む。これにより、容易に多孔体シリカ(KIT−5)のフレーム構造内に金属原子を導入することができる。また、混合する工程において、酸と水とのモル比の調整、ケイ素源と金属源とのモル比の調整、原料混合物のpHの調整、および/または、金属源の選択によって、最終的に得られる金属が添加された多孔体シリカ(MeKIT−5)中の金属含有量を調整することができる。このことは、用途に応じた金属含有量を有する金属が添加された多孔体シリカ(MeKIT−5)を得ることができるため好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者は、KIT−5にヘテロ原子を導入することにより、上記課題を克服することを見出した。本発明による金属が添加された多孔体シリカ(以降では簡単のためMeKIT−5と称する。ここでMeは添加された金属を示す。)MeKIT−5は、下記特徴を有する。なお、Meとして特定の金属元素を用いて説明する場合、例えば、金属元素としてAlを選択した場合、AlKIT−5のように具体的な金属元素をMeに替えて表示する場合もある。
空間群:面心立方Fm3m
金属Me:Al、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素
【0011】
これらの金属Meは、いずれも、面心立方Fm3mの空間群を有する多孔体シリカ(以降では、金属Meを含有しない多孔体シリカを単にKIT−5と称する。)の高配向三次元ケージ型構造を維持しつつ、そのフレーム構造内に導入される。また、これらの金属Meが添加されたMeKIT−5は、化学的に安定であり、金属Meによりその耐酸性、イオン交換能が向上する。中でも、Alは、KIT−5への導入が容易であるため、好ましい。
【0012】
特に、MeKIT−5において、シリコンと金属Meとのモル比(nSi/nMe)が、1×10〜7×10の範囲である場合には、高配向の三次元ケージ型構造を維持しつつ、さらに化学的安定性、耐酸性、イオン交換能に優れたMeKIT−5が得られるため、実用上有利である。
【0013】
また、MeKIT−5が、下記特徴をさらに有する場合には、三次元ケージ型構造の特性を生かした触媒、吸着および分離における用途に極めて有効である。
比表面積:6.3×10/g〜1.0×10/g
比孔容量:4×10−1cm/g〜7×10−1cm/g
孔径:5nm〜6nm
【0014】
なお、上述のnSi/nMe比、比表面積、比孔容量および孔径は、後述するように、製造時の酸と水とのモル比の調整、ケイ素源と金属源とのモル比の調整、原料混合物のpHの調整、および/または、金属源の選択によって、制御される。
【0015】
本発明者らは、上述の結晶構造を有し、かつ、上述の特徴を有するMeKIT−5を創意工夫により見出した。
【0016】
次に、上述のMeKIT−5の製造方法を説明する。一般に、ヘテロ原子の金属源の溶解性が必要とされる高酸性媒体中では、KIT−5のシリカフレーム構造内にヘテロ原子を導入することは困難とされる。より詳細には、高酸性媒体中では、ヘテロ原子は、対応するオキソ種ではなくカチオンとして存在する。これにより、ヘテロ原子とシリカ種との間の接触が抑制されるので、KIT−5のシリカフレーム構造内にヘテロ原子は導入され得ない。本発明者らは、KIT−5にヘテロ原子を導入する方法を創意工夫により見出した。
【0017】
図1は、本発明による金属が添加されたメソポーラスシリカ(MeKIT−5)の製造工程を示すフローチャートである。
【0018】
ステップS110:界面活性剤F127と、酸と、水と、ケイ素源と、金属源とを混合する。界面活性剤F127は、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とからなり、EO100−PO65−EO100の構造を有するブロックコポリマーであり、テンプレートとして機能し得る。
【0019】
酸は、金属源を固溶させる任意の酸が適用されるが、好ましくは、塩酸、硫酸および硝酸からなる群から選択される。これらの酸は、容易に金属源を固溶できる。ケイ素源は、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)、テトラメチルオルソシリケート(TMOS)、アルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカからなる群から選択される。これらのケイ素源は容易に入手可能である。
【0020】
金属源は、Al、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素を含む。これらの金属は、上述したように、KIT−5の高配向三次元ケージ型構造を維持しつつ、そのフレーム構造内に導入されるので、MeKIT−5を化学的に安定にするとともに、その耐酸性、イオン交換能を向上させる。中でも、Alは、KIT−5への導入が容易であるため、好ましい。金属源は、上記選択された金属元素の硝酸塩金属、金属塩化物、金属硫化物、および、金属イソプロポキシドからなる群から選択される。これらの金属源は、上述の酸に容易に溶解するので、反応が促進される。
【0021】
特に、上記原料混合物のpHが、1より大きくなるように上記酸を調整することが望ましい。これにより、金属の添加量を増大させることができる。詳細には、原料混合物のpHが1以下である場合、シリカの等電位よりも小さくなるので、シリカ種(ケイ素源)は正に帯電する。また、金属源は固容量が大きいため、金属原子がオキソ種ではなく、カチオンとして存在する。その結果、金属カチオンと正に帯電したシリカ種との間で静電反発が生じるため、金属カチオンと正に帯電したシリカ種との間の相互作用が抑制され、金属の添加量が抑制される。
【0022】
一方、原料混合物のpHが1より大きい場合、シリカの等電位よりも大きくなるので、シリカ種は負に帯電する。また、金属源は、金属原子が金属カチオンよりもオキソ種(金属オキソ種)として存在し、安定化する。その結果、金属オキソ種と負に帯電したシリカ種との間の相互作用が促進されるので、金属の添加量が増大する。
【0023】
特に、上記原料混合物の好ましい混合モル比は、ケイ素源:金属源:F127:酸:水(HO)=1.0:0.033〜0.071:0.0035:0.25〜0.4166:116.6〜119である。この範囲であれば、シリコンと金属Meとのモル比(nSi/nMe)が、1×10〜7×10の範囲であるMeKIT−5が得られる。このような、MeKIT−5は、高配向の三次元ケージ型構造を維持しつつ、さらに化学的安定性、耐酸性、触媒活性に優れたMeKIT−5が得られるため、実用上有利である。
【0024】
例えば、金属源の金属としてAlを選択し、原料混合物中のAl量を固定した場合、原料混合物のpHが高くなるように調整すると、高Al含有量、高単位格子定数、高比表面積、高比孔容量および高ケージ径を有するAlKIT−5が得られる。例えば、金属源の金属としてAlを選択し、原料混合物中のAl量および原料混合物のpHを固定した場合、ホフマイスター系列の結合力の低い金属源を選択すると、高Al含有量、高単位格子定数、高比表面積、高比孔容量および高ケージ径を有するAlKIT−5が得られる。例えば、金属源の金属としてAlを選択し、原料混合物中のpHを固定した場合、原料混合物中のnSi/nAl比が15以下であれば、nSi/nAl比が10〜70を有するAlKIT−5が得られ、特に、原料混合物中のnSi/nAl比が7において、高Al含有量、高単位格子定数、高比表面積、高比孔容量および高ケージ径を有するAlKIT−5が得られる。再度、図1を参照し、製造工程を詳述する。
【0025】
ステップS120:ステップS110で得られた原料混合物を加熱し、高分子化ついでケイ化する。詳細には、加熱は、3.5×10℃〜6×10℃の温度範囲で1×10時間から2.4×10時間の間攪拌しながら加熱し、次いで、8×10℃〜1.5×10℃の温度範囲で6時間〜4.8×10時間の間水熱処理する。3.5×10℃〜6×10℃の温度範囲の加熱により、原料混合物中のシリカ源が高分子化される。次いで、8×10℃〜1.5×10℃の温度範囲の加熱により、原料混合物がケイ化される。
【0026】
ステップS130:ステップS120で得られたケイ化物を焼成し、界面活性剤F127を除去する。詳細には、焼成は、5×10℃〜5.5×10℃の温度範囲で1×10時間〜2.4×10時間の間、行われる。この条件であれば、F127が完全に除去される。
【0027】
以上、このようにして、金属が添加された多孔体シリカ(MeKIT−5)を得ることができる。
【0028】
次に、具体的な実施例を用いて本発明の方法を説明するが、本発明を実施例に限定するものではないことを理解されたい。
【実施例1】
【0029】
実施例1では、本発明による方法を採用し、原料混合物中の水と酸とのモル比(すなわち、原料混合物中のpH)を変化させることによって、得られるMeKIT−5中の金属含有量、比表面積、比孔容量、孔径および壁厚が制御できることを示す。
【0030】
界面活性剤F127(EO97PO69EO97, 分子量12500, 5.0g)と、酸として塩酸HCl(35wt%)と、蒸留水(240g)と、ケイ素源としてテトラエチルオルソシリケートTEOS(24g)と、金属源としてアルミニウムイソプロポキシドAiPrとを混合した(図1のステップS110)。F127はSigma Co.より、AiPrおよびTEOSはAldrichより入手した。原料混合物中のSiとAlとのモル比(nSi/nAl)を12に固定し、水(HO)とHClとのモル比(nH2O/nHCl)を、132、198、278および463と変化させた。なお、原料混合物のモル比SiO:Al:F127:HCl:HO=1.0:0.025〜0.071:0.0035:0.25〜0.88:116.6〜119であった。
【0031】
各nH2O/nHCl比を有する原料混合物を、それぞれ、60℃で24時間攪拌しながら加熱し、次いで、100℃で24時間水熱処理をした(図1のステップS120)。得られた各ケイ化物をフィルタリングし、100℃で洗浄することなく乾燥させた。次いで、各ケイ化物を540℃で10時間焼成し、残留するF127を除去した(図1のステップS130)。
【0032】
このようにして得られた各試料を、それぞれ、試料1、試料2、試料3および試料4と呼ぶ。試料1は原料混合物中のnH2O/nHCl比が132であり、試料2は原料混合物中のnH2O/nHCl比が198であり、試料3は原料混合物中のnH2O/nHCl比が278であり、試料4は原料混合物中のnH2O/nHCl比が463である。試料1、試料2、試料3および試料4の順で原料混合物中のpHは大きくなる。
【0033】
試料1〜4について、焼成前後(図1のステップS120およびS130)の粉末X線回折により構造解析を行った。粉末X線回折は、CuKα(λ=0.15406nm)線を用いて、Rigaku回折計で行った。測定条件は、40kVおよび40mAにて、2θ=0.7°〜10°の範囲をステップ0.01°、ステップ時間6秒であった。結果を図2および図3に示し、後述する。
【0034】
試料1〜4について、誘導結合プラズマ(ICP)およびHRSEM−EDS(Hitachi S−4800 HR−FESEM)を用いて、元素分析および元素マッピングを行った。加速電圧は30kVであった。結果を図4〜図6および表1に示し、後述する。
【0035】
試料1〜4について、窒素吸脱着等温線を−196℃にてQuantachrome Autosorb 1吸着量測定装置を用いて測定した。結果を図7に示し後述する。図7から試料1〜4およびKIT−5のBET比表面積、比孔容量および孔径を算出した。結果を表1に示す。なお、ここでは、孔径分布の最大値を孔径とし、Barett−Joyner−Halenda(BJH)法を用いて窒素吸脱着等温線の吸着分岐から算出した。
【0036】
さらに、試料1〜4について、ケージ径をRavikovitchらによる式Dme=a×(6εme/πν)1/3より求めた。ここで、Dmeは単位格子定数aを有する多孔体の孔径であり、εmeは孔の体積分率であり、νは単位格子に存在する孔の数(Fm3m空間群の場合にはν=4である)である。また、得られたケージ径を用いて、試料1〜4について壁厚を式h=(Dme/3)(1−εme)/εmeより求めた。結果を表1に示し、後述する。
【表1】

【0037】
図2は、試料1〜4の焼成前のXRD回折パターンを示す図である。
【0038】
図3は、試料1〜4の焼成後のXRD回折パターンを示す図である。
【0039】
図2および図3には、試料1〜4に加えて、金属(実施例1ではAl)が添加されていないKIT−5(KIT−5の合成は、Al源を添加しない以外は試料4の合成手順と同様であった)のXRD回折パターンも合わせて示す。図2および図3に示されるように、試料1〜4の焼成前後のいずれの回折パターンも、KIT−5と同じ回折パターンを示し、規則的に配向していることが示唆される。また、いずれの回折パターンも、(111)、(200)および(220)反射に相当する3つの回折ピークを示し、KIT−5と同様に試料1〜4が面心立方Fm3mの空間群を有することを確認した。このことから、焼成前後においても、配向性および結晶構造が良好に維持されることが示唆される。
【0040】
図2および図3より、焼成後において、回折強度の向上および回折ピークの高角側へのシフトが見られた。これは、焼成時にAlKIT−5の多孔体壁のAl−O−Siフレーム構造において原子の再配列が生じたためと考えられる。特に、図3において、試料4の回折パターンは、KIT−5の回折パターンよりも狭い半値幅を有していることが分かった。
【0041】
図3の(111)反射による回折ピークから式a=d111√3を用いて、試料1〜4およびKIT−5の単位格子定数aをそれぞれ求めた。結果を表1に示す。なお、回折ピークから得られた面間隔d111は、面心立方Fm3m空間群に匹敵することを確認した。
【0042】
図3に示されるように、原料混合物中のnH2O/nHCl比が増大する(すなわち、原料混合物のpHが大きくなる)につれて、回折ピークは低角側にシフトした。このことから、表1に示されるように、原料混合物中のnH2O/nHCl比が増大するにつれて、単位格子定数aもまた、16.39nmから16.97nmまで増大することが分かった。これにより、原料混合物中のnH2O/nHCl比を調整することにより、得られるAlKIT−5の格子定数を制御することができることが示唆される。
【0043】
図4は、Al含有量および単位格子定数の原料混合物中のnH2O/nHCl比依存性を示す図である。
【0044】
図5は、試料1〜4のHRSEM−EDSパターンを示す図である。
【0045】
図6は、試料1〜4の元素マッピングを示す図である。
【0046】
図4および表1より、原料混合物中のnH2O/nHCl比が増大する(すなわち、原料混合物のpHが大きくなる)につれて、得られた試料1〜4の格子定数は増大するとともに、得られた試料1〜4中のnSi/nAl比は低減する(すなわち、Al含有量が増大する)ことが分かった。このことは、AlKIT−5中のAlの含有量が、原料混合物のpHを変化させることによって制御できることを示唆する。より具体的には、原料混合物中のnH2O/nHCl比を132から463に増大させると、AlKIT−5中のnSi/nAl比は、435から44まで低減した。特に、原料混合物中のnH2O/nHCl比が440以上であれば、AlKIT−5中のnSi/nAl比が10〜70となり、添加された金属により耐酸性およびイオン交換能がより向上するので好ましい。
【0047】
図5より、試料1〜4のいずれもAl、SiおよびOのピークのみが検出された。このことは、試料1〜4には、残留するF127および酸(実施例1ではHCl)は不純物として存在しないことを示す。また、図5におけるAlのピークは、原料混合物中のnH2O/nHCl比の増加に伴って増加した。この結果は、図4のICP元素分析の結果と一致する。
【0048】
図6により、試料1〜4のいずれにおいても、試料全体にわたって元素が均一に存在することが分かる。試料1〜4は試料全体にわたって均質なAlKIT−5であることを確認した。
【0049】
以上図4〜図6の結果から、Al含有量は、原料混合物中のnSi/nAl比を固定にした場合には、原料混合物中のnH2O/nHCl比を調整することによって制御できることが示された。具体的には、原料混合物中のnH2O/nHCl比132(試料1)は、低Al含有量のAlKIT−5を得るに好ましい。原料混合物中のnH2O/nHCl比が132の場合、原料混合物のpHは、シリカ種の等電位である1よりもはるかに低くなり、シリカ種は正に帯電する。さらに、Al源が酸に容易に固溶し、Alはカチオンとして存在する。上述したように、シリカ種は、正に帯電しているため、Alカチオンと正に帯電したシリカ種とが静電反発するため、互いの相互作用が抑制される。その結果、Al含有量が少ないAlKIT−5が得られる。
【0050】
原料混合物中のnH2O/nHCl比463(試料4)は、高Al含有量のAlKIT−5を得るに好ましい。原料混合物中のnH2O/nHCl比が463の場合、原料混合物のpHは、シリカの等電位である1よりもはるかに高く、2以上であり、シリカ種は負に帯電する。Al源は、pH2以上では、カチオンとして存在するよりもAlオキソ種(Al(OH))として存在する方が安定となる。その結果、Alオキソ種は、負に帯電したシリカ種との相互作用を促進するので、Al含有量が高いAlKIT−5が得られる。
【0051】
また、図2〜図6の結果から、原料混合物中のnH2O/nHCl比が増加するにつれて(すなわち、原料混合物中のpHが大きくなるにつれて)、Al含有量および単位格子定数が増大することは、AlKIT−5のフレーム構造において、SiがAlと置換することによって、Al−O−Si結合が形成されることに起因すると考えられる。AlとSiとの原子サイズを考慮し、AlおよびSiがともに4配位であると仮定すると、Al3+の原子半径(0.53Å)は、Si4+の原子半径(0.40Å)よりも大きい。これにより、Al−Oの距離は長くなる、すなわち、2つの最近接孔間の距離が広がることになる。また、原料混合物中のnH2O/nHCl比がより大きい場合に、Alオキソ種とシリカ種との間の相互作用が大きくなるので、Al含有量が増大するとともに、格子定数が大きくなる。
【0052】
図7は、試料1〜4の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0053】
図7には参考のため、KIT−5の窒素吸脱着等温線も合わせて示す。いずれの試料の窒素吸脱着等温線も、鋭い毛細管現象(ステップ)およびH2型ヒステリシスループを伴うタイプIV型を示した。このことから、得られた試料はいずれも、KIT−5同様大きな均一のケージ型の孔を有することが分かった。試料1〜4の窒素吸脱着等温線に見られる鋭い毛細管現象は、原料混合物中のnH2O/nHCl比が増大するにつれて(すなわち、原料混合物中のpHが大きくなるにつれて)、高相対圧力側にシフトした。これは、いずれの試料も、窒素の凝縮がケージ型三次元のメソポア内で生じており、Alを添加した後であっても、良好なメソポア配向性および高い均一性を維持していることを示唆する。
【0054】
表1に示されるように、原料混合物中のnH2O/nHCl比が増大するにつれて(すなわち、原料混合物中のpHが大きくなるにつれて)、比表面積および比孔容量も相対的に増大することが分かった。より具体的には、比表面積および比孔容量は、それぞれ、原料混合物中のnH2O/nHCl比132(試料1)の比表面積614m/gおよび比孔容量0.39cm/gから、原料混合物中のnH2O/nHCl比463(試料4)の比表面積713m/gおよび0.45cm/gまで増大した。
【0055】
さらに、原料混合物中のnH2O/nHCl比が増大するにつれて、AlKIT−5のケージ径とともに孔径も増大することが分かった。より具体的には、ケージ径および孔径は、それぞれ、原料混合物中のnH2O/nHCl比132(試料1)のケージ径9.6nmおよび孔径5.0nmから、原料混合物中のnH2O/nHCl比463(試料4)のケージ径10.3nmおよび孔径5.2nmまで増大した。この結果は、図3のXRD回折の結果に良好に一致した。特に、試料4の比表面積、比孔容量および孔径は、KIT−5のそれらに比べて大きく、金属の添加によって改善されることが分かった。
【0056】
以上より、原料混合物中のnH2O/nHCl比(すなわち、原料混合物中のpH)を変化させることにより、AlKIT−5のAl含有量および単位格子定数に加えて、AlKIT−5の比表面積、比孔容量および孔径を制御することができること示された。
【0057】
表1に示されるように、Alを添加後のAlKIT−5の壁厚は、原料混合物中のnH2O/nHCl比が132から463まで増加するにつれて、4.3nmから4nmまで減少した。このことは、原料混合物中に高濃度でHイオンが存在すると(例えば、原料混合物中のnH2O/nHCl比が132である場合)、シラノール基とAlオキソ種との間の相互作用が抑制され、シラノール基の凝縮率が高まり、界面活性剤ミセルの周りのシリケート層数が増大する。その結果、原料混合物中のnH2O/nHCl比が低い(すなわち、原料混合物中のpHが低い)方がAlKIT−5の壁厚が厚くなることになる。
【0058】
以上、実施例1では、本発明による方法を採用し、金属としてAlを選択し、金属源としてアルミニウムイソプロポキシドを、酸として塩酸をそれぞれ用い、原料混合物中のSiとAlとのモル比(nSi/nAl)を12に固定した場合に、原料混合物中の水と酸とのモル比(すなわち、原料混合物中のpH)を変化させることによって、得られるMeKIT−5中の金属含有量、比表面積、比孔容量、孔径および壁厚が制御できることを示した。
【実施例2】
【0059】
実施例2では、本発明による方法を採用し、金属源の種類を変化させることによって、得られるAlKIT−5中の金属含有量、比表面積、比孔容量、孔径および壁厚が制御できることを示す。
【0060】
原料混合物中のSiとAlとのモル比(nSi/nAl)を12に、水(HO)とHClとのモル比(nH2O/nHCl)を463に固定し、金属源としてアルミニウムイソプロポキシド(AiPr)、硫化アルミニウム(AS)、塩化アルミニウム(AC)、および、硝酸アルミニウム(AN)を用いた。合成手順は実施例1と同様であった。
【0061】
このようにして得られた各試料を、それぞれ、試料4、試料5、試料6および試料7と呼ぶ。試料4は、実施例1の試料4と同一であり、金属源がAiPrであり、試料5は金属源がASであり、試料6は金属源がACであり、試料7は金属源がANである。
【0062】
実施例1と同様に、焼成後の試料4〜7の粉末X線回折によるEDSによる元素分析、XRDパターン、窒素吸着等温線、および、これらから得られた各種構造パラメータを、それぞれ、図8〜図10および表2に示し、後述する。
【表2】

【0063】
表2に示されるように、原料混合物中のnH2O/nHCl比およびnSi/nAl比を固定すると、用いた金属源の種類によって得られる試料中の金属含有量nSi/nAl比(すなわち、Al含有量)を制御できることが分かる。具体的には、得られた試料中のAl含有量は、試料4(nSi/nAl=44)>試料5(nSi/nAl=91)>試料6(nSi/nAl=115)>試料7(nSi/nAl=137)の順に減少した。もっともAl含有量の多いAlKIT−5を得る場合には、金属源としてAiPrが好ましい。もっともAl含有量の少ないAlKIT−5を得る場合には、金属源としてANが好ましい。
【0064】
このように、金属源の種類によって得られるAlKIT−5中のAl含有量が制御できるのは、シリカ種と金属源との結合力に起因すると考えられる。カチオン分子に対するアニオンのホフマイスター系列の結合力の順序は、NO>Cl>SO2−>iPrであることが知られている。また、高い結合エネルギーを有するカウンタイオン(例えば、NOまたはCl)は、正に帯電した界面活性剤とカチオンのシリカ種との間の相互作用を増加させ、かつ、シリカ凝縮率を促進させるか、または、シリカ濃縮率に触媒作用を及ぼす。その結果、原料混合物中のシリカ単量体種を減少させる。シリカ単量体種の数が少ないと、Al源との強い相互作用を得られないので、得られるAlKIT−5中のAl−O−Si結合の形成を抑制することになる。その結果、AlKIT−5中のAl含有量が少なくなる。このことから、金属含有量の高いMeKIT−5を得る場合には、ホフマイスター系列の結合力の小さな金属源を採用し、金属含有量の低いMeKIT−5を得る場合には、ホフマイスター系列の結合力の大きな金属源を採用することが望ましいことが示唆される。
【0065】
また、試料6および7のAl含有量は、試料4および5のそれに比べて少ない。これは、試料6および7の金属源からそれぞれClおよびNOアニオンが解放され、原料混合物のpHが1以下まで下がり、その結果、シリカ種が正に帯電する。上述したように、正に帯電したシリカ種が形成されると、カチオンのAl種との相互作用が抑制され、シリカフレーム構造内へのAlの導入量が低くなる。
【0066】
図8は、試料4〜7のHRSEM−EDSパターンを示す図である。
【0067】
試料6および7のパターンのAlのピークは、試料4および5のそれと比較して極めて弱く、上述の結果に一致した。
【0068】
図9は、試料4〜7の焼成後のXRD回折パターンを示す図である。
【0069】
試料4、6および7のXRDパターンは、面心立方Fm3m対称の(111)、(200)および(220)反射に指数付けされる3つの明瞭な回折ピークを示した。また、金属源の種類によってピーク強度が異なることが分かった。これは、界面活性剤とシリカ種との相互作用に影響を与えるカウンタイオン(実施例2では、Cl、NO、SO2−、C3−)の生成に起因する。
【0070】
詳細には、試料6および7のXRDパターンの(111)ピークの強度は、試料4および5のそれよりも強かった。これは、カウンタイオンと界面活性剤およびシリカ種との関係に起因する。上述したように、ClとNOとカチオン分子との関係は、SO2−およびC3−のそれと比較するとはるかによい。このため、界面活性剤ミセルの電荷を中性にするSアセンブリを介して、カウンタイオンと界面活性剤およびシリカ種との関係はより強くなる。電荷の中性により、安定かつリジッドな界面活性剤ミセルが形成され、その結果、試料6および7のXRDパターンに示されるような、高い構造配向性をもたらすことになる。
【0071】
引き続き図9を参照する。試料5のXRDパターンの低角側に見られる(111)ピークは、試料4、6および7のそれに比べて高角側にシフトしている。詳細には、試料5の単位格子定数および面間隔dは減少し、そのピーク強度は、他の試料4、6および7のそれよりもはるかに小さい。さらに、試料5では、高角側のピークは見られなかった。これは、高酸性媒体では、Al(SOから硫酸イオンが形成され、原料混合物中にHSO種が生成されるためである。HSO種とカチオン性の界面活性剤およびシリカ種との結合力は極めて低いため、Sアセンブリの形成が抑制される。その結果、構造配向性が低くなり、単位格子定数も小さくなる。
【0072】
以上より、得られるMeKIT−5の構造配向性は、用いる金属源の種類によって制御できることが示された。
【0073】
図10は、試料4〜7の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0074】
いずれの試料の窒素吸脱着等温線も、鋭い毛細管現象(ステップ)およびH2型ヒステリシスループを伴うタイプIV型を示した。このことから、得られた試料はいずれも、均一なケージ型の孔を有することが分かった。窒素吸脱着等温線から得られる構造パラメータ等を表2に示す。
【0075】
表2より、いずれの試料も680m/g以上の高い比表面積を有することが分かった。試料5の孔径は、他の試料4、6および7のそれよりも小さかった。この結果は、図9を参照して説明したXRD回折の結果に良好に一致する。試料4の比孔容量および孔径は、0.45cm/gおよび5.2nmであり、試料5〜7のそれに比べて大きいことが分かった。
【0076】
以上より、高金属含有濃度および良好な構造パラメータを備えたAlKIT−5を得る場合には、金属源としてAlイソプロポキシドが好ましいことが分かった。
【実施例3】
【0077】
実施例3では、本発明による方法を採用し、原料混合物中のSiとAlとのモル比(nSi/nAl)を変化させることによって、得られるAlKIT−5中の金属含有量、比表面積、比孔容量、孔径および壁厚が制御できることを示す。
金属源としてアルミニウムイソプロポキシド(AiPr)を用い、原料混合物中の水(HO)とHClとのモル比(nH2O/nHCl)を463に固定し、原料混合物中のSiとAlとのモル比(nSi/nAl)を7、10、12、15および20とした。合成手順は実施例1と同様であった。
【0078】
このようにして得られた各試料を、それぞれ、試料8、試料9、試料4、試料10および試料11と呼ぶ。試料8、試料9、試料4、試料10および試料11中のSiとAlとのモル比(nSi/nAl)は、それぞれ、7、10、12、15および20であった。試料4は、実施例1および実施例2の試料4と同一である。
【0079】
実施例1と同様に、焼成後の試料8〜11のICP元素分析、EDSによる元素マッピング、XRDパターンおよび窒素吸脱着等温線を測定し、これらから各種構造パラメータを得た。焼成後の試料4、8、9および11についてHRSEMによりモルフォロジ観察(加速電圧10kV)、および、試料4について高分解能透過型電子顕微鏡HRTEM(JEOL JEM−2100F)によるトポロジ観察(加速電圧300kV)を行った。焼成後の試料4および8〜10についてBruker MSL−500分光計を用いてNMRスペクトル測定を行い、Alの配位状態を調べた。なお、NMRスペクトル測定の測定条件は、直径4mmのジルコニア製回転子を用いて、共振周波数130.319MHzおよび回転周波数12kHzにて行った。さらに、焼成後の試料4および8〜10について、耐酸性および触媒活性を温度プログラム吸着により調べた。温度プログラム吸着は、Micromeritics Autochem 2910にて行った。以上の結果を、図11〜図19および表3に示し、後述する。
【表3】

【0080】
表3から、いずれも、最終的に得られた試料中のAl含有量nSi/nAl比は、原料混合物中のnSi/nAl比よりも大きくなっていることが分かる。すなわち、原料混合物中に存在するAl含有量よりも、最終的に得られた試料(AlKIT−5)中のAl含有量の方が少ない。具体的には、原料混合物中のnSi/nAl比を20から7まで減少させると、試料中の金属含有量nSi/nAl比は、193から10まで減少した。特に、試料10および11において、原料混合物中のAl含有量と最終的に得られた試料中のAl含有量との差が大きいことが分かった。このことは、原料混合物中のAl含有量が少ない(すなわち、nSi/nAl比の値が大きい)と、Alオキソ種とアニオン性シリカ種との間の相互作用が阻害されるためである。
【0081】
図11は、試料4および試料8〜11のHRSEM−EDSパターンを示す図である。
【0082】
EDSスペクトルは、元素Al、SiおよびOのピークを明瞭に示し、原料混合物中のAl含有量が多い(すなわち、原料混合物中のnSi/nAl比の値が小さい)ほど、Alのピーク強度は増大した。具体的には、Alピーク強度は、試料8、9、4、10および11の順に減少した。この結果は、表3に示すICP元素分析の結果と良好に一致した。
【0083】
図12は、試料4および試料8〜10の元素マッピングを示す図である。
【0084】
図12によれば、Alを示すドットは、試料中のAl含有量が増大するにつれて、増大した。すなわち、試料10、4、9および8の順にAlを示すドット量は増大した。このことは、ICP元素分析の結果と良好に一致する。また、AlとSi原子との分散状態から、Al原子が試料全体にわたって均一に分散していることが分かる。
【0085】
以上より、nSi/nAl比が最大10を有するAlKIT−5を、原料混合物中のnSi/nAl比、および、nH2O/nHCl比を制御することによって確実に得ることができることが示された。
【0086】
図13は、試料4および試料8〜11のXRD回折パターンを示す図である。
【0087】
いずれの試料のXRD回折パターンも、(111)、(200)および(220)反射に相当する3つの回折ピークを示し、図3に示されるKIT−5と同様の回折パターンであった。このことから、試料4および試料8〜11が、面心立方Fm3mの空間群を有し、高配向の三次元ケージ型孔構造を有することを確認した。
【0088】
また、試料4および試料8〜11の(111)反射の回折ピークの強度は、KIT−5のそれよりも高いことが分かった。詳細には、試料中のAl含有量が増大するにつれて、(111)反射の回折ピークの強度も増大した。このことは、Alがシリカフレーム構造中に添加されることによって、多孔体材料の三次元構造を維持しつつ、AlKIT−5の構造配向性が、劇的に改善されたことを示す。
【0089】
さらに、Al含有量の増大に伴い、回折ピークは低角側にシフトした。このことは、Al含有量の増大に伴い、試料中の単位格子定数が増大することを示す。表3に示されるように、最終的に得られた試料中のnSi/nAl比が、193から10まで減少する(すなわち、試料中のAl含有量が増大する)につれ、単位格子定数は、16.65nmから18.44nmまで増大した。特に、最もAl含有量の多い試料8において、単位格子定数の増大が顕著であった。これは、上述したように、Al−O結合長は、Si−O結合長よりも長いので、Al含有量が増大するにつれ、Al−O結合数が増える。その結果、単位格子定数が増大することになる。
【0090】
図14は、試料4および試料8〜11の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0091】
図15は、試料4および試料8〜11の孔径分布を示す図である。
【0092】
いずれの試料の窒素吸脱着等温線も、鋭い毛細管現象(ステップ)およびH2型ヒステリシスループを伴うタイプIV型を示した。このことから、得られた試料はいずれも、均一なケージ型の孔を有することが分かった。特に、Al含有量の多い試料においても、均一なケージ型の孔を有する構造を維持することは、有利である。詳細には、Al含有量が増大するにつれて、窒素吸着量は増大した。このことは、Al含有量の大きな試料は、高比表面積および比孔容量を有しており、その孔構造が改善されていることを示す。さらに、Al含有量が増大するにつれて、ヒステリシスループの大きさもまた増大した。このことは、Al含有量の増大に伴い、ケージ径が増大したことを示唆する。
【0093】
表3を参照すると、図14から得られる比表面積、比孔容量およびケージ径は、それぞれ、630m/gから989m/gまで、0.40cm/gから0.68cm/gまで、および、9.8nmから12.0nmまで変化した。
【0094】
再度、図14を参照する。原料混合物中のnSi/nAl比が20から7まで減少するに伴い、毛細管現象は高相対圧力P/P側へとシフトした。これは、メソポアの直径に相関しており、シリカフレーム構造中へのAlの導入の増加に伴い、AlKIT−5の孔径が増大することを示している。具体的には、孔径は、5.1nmから6.0nmまで増大した。
【0095】
図15によれば、Al含有量が高いほど、AlKIT−5の孔径分布の広がりが大きいことが分かった。これは、Al源としてAlイソプロポキシド(AiPr)を多量に用いた場合に、過剰に生成されるイソプロパノール基が有機膨張剤として機能するためである。詳細には、1つのAiPrから3つのイソプロパノール分子が生成される。したがって、高濃度のAiPrを用いた際には、多数のイソプロパノール分子が生成されることになる。これらのイソプロパノール分子は、界面活性剤ミセルと水との界面に蓄積され、水よりも高い疎水性を有し、界面活性剤ミセルの容量を増大させ、より長鎖の界面活性剤ミセルとなる。原料混合物中のAiPr量が増大すると、原料混合物中に多量の長鎖の界面活性剤ミセルが生成される。これらの長鎖の界面活性剤ミセルによって、高Al含有量のAlKIT−5の孔径の増大が促進されることになる。
【0096】
Al含有量の増大に伴うAlKIT−5の孔径分布の広がりは、原料混合物中にイソプロパノール分子が過剰に存在することによって生じる、Alオキソ種とシラノール基との不完全な凝縮にも起因する。これは、イソプロパノール分子が、アルケン酸化物と容易に水素結合を形成し、界面活性剤の頭基の親水性を増大させるためである。これらの巨大分子が、シラノール基またはAlオキソ種と結合して、多孔体シリカ壁内へと侵入することにより、AlKIT−5の単位格子定数を増大させることになる。さらに、このような侵入過程により、Alオキソ種およびシラノール基の凝縮は影響を受け、単位格子定数をさらに増大させることになる。
【0097】
ステップS120(図1)の加熱焼成時に、壁の凝縮が進むと、単位格子定数が収縮し、AlKIT−5の孔径が増大する。これは、KIT−5の良好に配列した三次元孔構造を維持しつつ、AlKIT−5の孔径を、さらなる膨張剤および高温膨張処理を必要とすることなく制御可能であることを示唆する。
【0098】
また、図15の挿入図に示されるように、AlKIT−5の孔径、単位格子定数、比表面積および比孔容量は、nSi/nAl比が、10〜70、好ましくは、10〜50の範囲において、線形的に変化することが分かった。詳細には、nSi/nAl比が小さくなる(すなわち、Al含有量が多くなる)ほど、孔径、単位格子定数、比表面積および比孔容量は大きくなり、nSi/nAl比が大きくなる(すなわち、Al含有量が小さくなる)ほど、孔径、単位格子定数、比表面積および比孔容量は小さくなる。nSi/nAl比が70を超えると、Alを添加したことによる効果は小さくなる。
【0099】
上記の結果から、AlKIT−5の比表面積、比孔容量および単位格子定数は、試料中のAl含有量を変化させることによって容易に制御できることが示された。特に、三次元ケージ型孔構造を維持したnSi/nAl比10の高Al含有量のAlKIT−5(試料8)が、得られることは、極めて有利である。
【0100】
図16は、試料4、8、9および11のHRSEM像を示す図である。
【0101】
図16によれば、Al含有量の違いによって、AlKIT−5の粒子の粒径および形状に差異があることがわかる。KIT−5の粒子の粒径は、3.2μm〜3.5μmの範囲であり、その形状は均一な球体であった(図示せず)。しかしながら、Al含有量が増大するにつれて、粒子の形状の球体は変形した。試料11、試料4、試料9および試料8の順に、AlKIT−5の粒子の形状は、不均一になった。
【0102】
具体的には、Al含有量の少ない試料11(nSi/nAl=193)の形状は、均一な球体であるが、その大きさは、1.6μm〜2.6μmであり、KIT−5のそれよりも小さかった。一方、Al含有量の多い試料8(nSi/nAl=10)の形状は球体が一部変形、または、粒子の凝集が見られた。また、試料8の粒子の大きさは、1μm〜2.3μmであり、KIT−5のそれよりも、さらには、試料11のそれよりも小さかった。
【0103】
以上より、AlKIT−5の粒径は、Al含有量の増大に伴い減少することが分かった。これは、Al添加前後における界面活性剤ミセルの曲率の差に起因する。界面活性剤ミセルの周りに高分子シリカ種が吸着、凝集または形成することにより、界面活性剤ミセル長が変化し、その結果、界面活性剤ミセルの曲率が減少するためである。特に、上述したように、Al源としてAiPrを原料混合物に添加した際、Al源から生成される多量のイソプロパノール分子およびAl原子は、界面活性剤ミセルへのシリカ種の吸着、および、シリカ種間の凝縮反応を阻害し得る。この過程は、電荷の中性を抑制し、より長鎖の界面活性剤ミセルを得る界面活性剤の頭基間の静電反発を大幅に低減させる。その結果、得られるAlKIT−5の粒径が小さくなる。過剰にAiPrが添加されると、この影響はより顕著となり、不規則な形状の球体粒子が生成されることになる(例えば、試料8)。
【0104】
図17は、試料4のHRTEM像を示す図である。
【0105】
図17より、試料4は、メソポアおよび壁が線状に配列した配向性の高い孔構造を明瞭に示す。このような孔構造は、KIT−5の特徴であり、AlKIT−5もまたKIT−5の特徴を維持していることを確認した。図中の挿入図は、高速フーリエ変換(FFT)パターンと、逆高速フーリエ変換(IFFT)とを示す。いずれも、立方晶(詳細には面心立方)の三次元メソポアネットワークを示し、XRD回折から得られた結果と良好に一致した。これらから、AlKIT−5においても三次元立方晶孔構造を有する良好に配列したメソポアが存在することが示された。
【0106】
図18は、試料4および試料8〜10のNMRスペクトルを示す図である。
【0107】
いずれの試料も、Al含有量に係わらず、53ppmおよび0ppmを中心とする2つのピークを示す。53ppmにおけるピークは、シリコンと四面体配位するAlに起因し、0ppmにおけるピークは、シリコンと八面体配位するAlに起因する。Al含有量の増加に伴い、53ppmにおけるピーク強度は増加し、一方、八面体配位ピークと四面体配位ピークとの相対ピーク強度は、Al含有量の増大に伴い減少する。これらの結果は、シリカフレーム構造中の四面体配位のAl量が、原料混合物中のnSi/nAl比を調整するだけで、制御され得ることを示唆する。
【0108】
図19は、試料4および試料8〜10のNH−TPDスペクトルを示す図である。
【0109】
いずれの試料も、100℃〜200℃の間、および、500℃〜550℃の間を中心として2つのブロードなピークを示した。これらは、AlKIT−5中に2つの種類の酸サイトが存在することを示唆する。低温側の脱着ピークは、KIT−5のシリカフレーム構造中のAl(四面体配位のAl)に起因し、一方、高温側の脱着ピークは、シリカフレーム構造外のAl(八面体配位のAl)に起因する。
【0110】
Al含有量が増加するにつれて、四面体配位のAlサイトに吸着されるアンモニア分子を脱着する脱着温度の急激な増加が見られる。詳細には、試料10、試料4、試料9および試料8の順に、100℃〜200℃に見られるピークは、高温側にピークシフトした。これは、Al含有量が増加するにつれて、AlKIT−5中の四面体配位したAlが急激に増加するためである。
【0111】
一方、試料10の高温側の脱着ピーク(このピークは八面体配位のAlにアンモニア分子が吸着することによって生じる)の強度は、他の試料のそれに比べて高い。これは、試料10の八面体配位のAl量が、他の試料のそれよりもはるかに多いためである。これらの結果は、図18のNMRスペクトルの結果と良好な一致を示した。
【0112】
表4は、試料4および試料8〜10の酸性および触媒活性を示す。
【表4】

【0113】
表4には、無水酢酸を用いたベラトロールのアセチル化について触媒活性を調べた結果を示す。表4には、AlKIT−5に加えて種々のゼオライト触媒の結果も合わせて示す。表4によれば、Al含有量が増大するにつれて、AlKIT−5の酸性が著しく改善されたことが分かる。試料8は、すぐれた変換効率を示し、他のAlKIT−5、H−モルデン沸石、ゼオライトH−Y、ゼオライトH−βおよびHSM−5と比較して優れていることが分かった。試料8の高い触媒活性は、高比表面積を有する三次元ケージ型孔構造、および、高い酸性を示すためである。これにより、反応分子の拡散を促進し、すべての活性サイトへ容易にアクセス可能にするためである。これらの触媒の結果は、試料8が、四面体配位した高Al量を有することに一致する。
【0114】
以上説明してきたように、本発明によれば、原料混合物中の種々の条件(例えば、金属Meおよび金属源の選択、pH、金属量等)を調整することによって、得られるMeKIT−5中の金属含有量、比表面積、比孔容量、孔径、壁厚、触媒活性、耐酸性等を制御できることを示してきた。実施例では、金属MeとしてAlに限定して説明してきたが、本発明はこれに限定されない。当然のことながら、Al以外の金属(例えば、Fe、Ti、CoおよびGa)においても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明による金属が添加された多孔体シリカ(MeKIT−5)は、KIT−5と同様の三次元孔構造を有しつつ、添加された金属による高い触媒活性および強い酸サイトを有する。このようなMeKIT−5は、酸触媒有機変換、生体分子支持体、分子認識、分離およびナノ触媒リアクタ等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明による金属が添加されたメソポーラスシリカ(MeKIT−5)の製造工程を示すフローチャート
【図2】試料1〜4の焼成前のXRD回折パターンを示す図
【図3】試料1〜4の焼成後のXRD回折パターンを示す図
【図4】Al含有量および単位格子定数の原料混合物中のnH2O/nHCl比依存性を示す図
【図5】試料1〜4のHRSEM−EDSパターンを示す図
【図6】試料1〜4の元素マッピングを示す図
【図7】試料1〜4の窒素吸脱着等温線を示す図
【図8】試料4〜7のHRSEM−EDSパターンを示す図
【図9】試料4〜7の焼成後のXRD回折パターンを示す図
【図10】試料4〜7の窒素吸脱着等温線を示す図
【図11】試料4および試料8〜11のHRSEM−EDSパターンを示す図
【図12】試料4および試料8〜10の元素マッピングを示す図
【図13】試料4および試料8〜11のXRD回折パターンを示す図
【図14】試料4および試料8〜11の窒素吸脱着等温線を示す図
【図15】試料4および試料8〜11の孔径分布を示す図
【図16】試料4、8、9および11のHRSEM像を示す図
【図17】試料4のHRTEM像を示す図
【図18】試料4および試料8〜10のNMRスペクトルを示す図
【図19】試料4および試料8〜10のNH−TPDスペクトルを示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属が添加された多孔体シリカであって、
前記金属は、Al、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素であり、
前記多孔体シリカの空間群は、面心立方Fm3mであることを特徴とする、多孔体シリカ。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔体シリカにおいて、前記多孔体シリカ中のシリコンと前記金属とのモル比(nSi/nMe)は、1×10〜7×10の範囲であることを特徴とする、多孔体シリカ。
【請求項3】
請求項1に記載の多孔体シリカにおいて、
前記メソポーラスカーボンの比表面積は、6.3×10〜1.0×10/gの範囲であり、
前記メソポーラスカーボンの比孔容量は、4×10−1〜7×10−1cm/gの範囲であり、
前記メソポーラスカーボンの孔径は、5〜6nmの範囲であることを特徴とする、多孔体シリカ。
【請求項4】
金属が添加された多孔体シリカを製造する方法において、
界面活性剤F127と、酸と、水と、ケイ素源と、金属源とを混合する工程であって、前記金属源は、Al、Fe、Ti、CoおよびGaからなる群から選択される金属元素を含む、工程と、
前記混合する工程によって得られた原料混合物を加熱して、ケイ化する工程と、
前記ケイ化する工程によって得られたケイ化物を焼成する工程と
からなることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記ケイ化する工程は、3.5×10℃〜6×10℃の温度範囲で1×10時間〜2.4×10時間の間攪拌しながら加熱し、次いで、8×10℃〜1.5×10℃の温度範囲で6時間〜4.8×10時間の間水熱処理することを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法において、前記焼成する工程は、前記ケイ化物を5×10℃〜5.5×10℃の温度範囲で1×10時間〜2.4×10時間の間焼成することを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項4に記載の方法において、前記混合する工程は、ケイ素源:金属源:F127:酸:HO=1.0:0.033〜0.071:0.0035:0.25〜0.4166:116.6〜119となるように混合することを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項4に記載の方法において、前記金属源は、前記選択された金属の硝酸金属塩、金属塩化物、金属硫化物、および、金属イソプロポキシドからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項4に記載の方法において、前記酸は、塩酸、硫酸および硝酸からなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項4に記載の方法において、前記ケイ素源は、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)、テトラメチルオルソシリケート(TMOS)、アルミン酸ナトリウムおよびコロイダルシリカからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項4に記載の方法において、前記混合する工程において、原料混合物のpHは1より大きくなるように混合することを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−249242(P2009−249242A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100264(P2008−100264)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】