説明

金属と樹脂との複合体及びその製造方法

【課題】金属部と樹脂部とが接着剤を用いることなく強固に接着された金属と樹脂との複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金属部20と樹脂部30とが接着された金属と樹脂との複合体10の製造方法であって、大気雰囲気で不活性ガス又は空気よりなる第1ガスのプラズマを金属部の表面に照射する第1プラズマ処理と、第1プラズマ処理の後、大気雰囲気で表面改質物を含む不活性ガス又は空気よりなる第2ガスのプラズマを金属部の表面に照射して表面改質物に由来する極性官能基25を付与する第2プラズマ処理と、樹脂に極性官能基と相互に作用し合う接着性官能基35を有する接着性改質剤を配合して成形材料とする配合処理とを行った後、成形材料を用いて金属部と接するように樹脂部を成形して、金属部と樹脂部とを接着させることを特徴とする金属と樹脂との複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着された複合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属と樹脂とを接着する方法としては、1)金属表面を凹凸にし、アンカー効果で接着する方法や、2)接着剤を介して接着する方法等がある。しかし、アンカー効果による接着は、冷熱衝撃に弱いため、使用部位に制限があり、接着剤による接着は、工程数の増加や溶剤による作業環境の悪化が懸念される。
【0003】
上記以外の方法として、プラズマ処理により金属表面を改質して接着する方法がある。例えば、化成処理された鋼板に、酸素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いた大気圧におけるプラズマ処理を行って、鋼板の表面を改質し、改質された表面にフッ素樹脂等の塗膜を形成する(特許文献1)。圧縮空気等を用いた大気圧プラズマによる洗浄・表面改質を接合面に行った金属製の補強板を用い、シリコーンゴムのインサート成形を行う(特許文献2)。アルミニウム等の金属材の表面に空気等を用いたプラズマを照射した後にエポキシ樹脂塗料の耐腐食層を形成する(特許文献3)。
【0004】
また、アルゴンガス等の不活性気体とアセトン等の反応性気体との混合気体を大気圧下プラズマ励起して、アルミニウム等の金属被処理体の濡れ性等を改質する例があるが(特許文献4)、接着の方法としては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−106947号公報
【特許文献2】特開2007−66627号公報
【特許文献3】特開2005−7710号公報
【特許文献4】特開平6−88242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが、特許文献1〜3に相当するアルゴンガスや空気等のみを用いたプラズマ処理をした金属と、樹脂とを接着してみたところ、まだ接着力は弱いことが判明した(表3の比較例3、4参照)。
また、本発明者らが、特許文献4に相当する改質処理を接着に用いることを初めて着想し、具体的には不活性気体(アルゴンガス)と反応性気体(アリルアミン)との混合ガスを用いたプラズマ処理をした金属と、樹脂とを接着してみたところ、これもまだ接着力が十分(4MPa未満)ではなかった(表3の比較例10、11参照)。
【0007】
そこで、本発明は、金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着剤を用いることなく強固(重ね合わせせん断強さが4MPa以上)に接着された金属と樹脂との複合体及びこの金属と樹脂との複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
大気雰囲気でアリルアミンのガスを含むアルゴンガスのプラズマを金属に照射するプラズマ処理(改質プラズマ処理)の前に、大気雰囲気でアルゴンガスのプラズマを金属に照射するプラズマ処理(大気プラズマ処理)を行うと、改質プラズマ処理のみの場合より金属部と樹脂部との接着力が向上する(重ね合わせせん断強さが3倍以上)ことを見出した(表1の実施例2と表3の比較例10参照)。
【0009】
これは、大気雰囲気でアルゴンガスのプラズマを金属に照射することで、金属表面に水酸基が付与される。この反応は、次の3つの態様が考えられる。(A)アルゴンガスのプラズマより金属(Me)が活性化し、図2のaに示すように、活性化した金属が大気中等の水と作用して金属表面に水酸基が付与される。(B)アルゴンガスのプラズマより大気中等の水が活性化し、図2のbに示すように、活性化した水が金属と作用して金属表面に水酸基が付与される。(C)アルゴンガスのプラズマより金属と大気中等の水とが共に活性化し、活性化した金属と水とが作用して金属表面に水酸基が付与される。
そして、大気雰囲気でアルゴンガスのプラズマを金属に照射した後に、大気雰囲気でアリルアミンのガスを含むアルゴンガスのプラズマを金属に照射することで、図3に示すように、活性化したアリルアミンが金属表面に付与された水酸基と作用して、金属表面にアリルアミンを強固に、且つ多く結合させることができる。そのため、金属部と樹脂部との接着力が向上する。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の金属と樹脂との複合体は、金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着された金属と樹脂との複合体であって、前記金属部は、前記樹脂部との接着面に極性官能基が付与されたものであり、前記樹脂は、前記極性官能基と相互に作用し合う接着性官能基を有する接着性改質剤が配合されたものであり、前記極性官能基は、大気雰囲気で不活性ガス又は空気のプラズマを前記接着面に照射した後に、大気雰囲気で表面改質物を含む不活性ガス又は空気のプラズマを前記接着面に照射して該接着面に付与された前記表面改質物に由来する官能基であり、前記極性官能基と前記接着性官能基との相互作用により、前記金属部と前記樹脂部とが接着され、JIS K 6850に準拠して測定した該接着の重ね合わせせん断強さが4MPa以上であることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の金属と樹脂との複合体の製造方法は、金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着された金属と樹脂との複合体の製造方法であって、大気雰囲気で不活性ガス又は空気よりなる第1ガスのプラズマを前記金属部の表面に照射する第1プラズマ処理と、前記第1プラズマ処理の後、大気雰囲気で表面改質物を含む不活性ガス又は空気よりなる第2ガスのプラズマを前記金属部の表面に照射して前記表面改質物に由来する極性官能基を付与する第2プラズマ処理と、前記樹脂に前記極性官能基と相互に作用し合う接着性官能基を有する接着性改質剤を配合して成形材料とする配合処理とを行った後、前記成形材料を用いて前記金属部と接するように前記樹脂部を成形して、前記金属部と前記樹脂部とを接着させることを特徴とする。
【0012】
本発明の金属と樹脂との複合体及び金属と樹脂との複合体の製造方法の各要素の態様を以下に例示する。
【0013】
1.金属部
金属部の態様としては、特に限定はされないが、板状、箔状、塊状等が例示でき、複合体の用途にあわせて、加工機等により、予め所定形状に形成されていてもよいし、樹脂部との接着後に所定形状に形成されてもよい。
【0014】
金属部に用いられる金属としては、特に限定はされないが、アルミニウム、銅、鉄、マグネシウム、ニッケル、チタン、錫、金、銀、クロム、タングステン、亜鉛、鉛等及びこれらの合金であるステンレス鋼、真鍮等が例示できる。
【0015】
2.不活性ガス
不活性ガスとしては、特に限定はされないが、アルゴンガス(Ar)、ヘリウムガス(He)、ネオンガス(Ne)等が例示できる。
【0016】
3.第1プラズマ処理
第1プラズマ処理は、大気雰囲気でプラズマの照射を行うことにより、第1ガスに水を含ませなくても金属部の表面(接着面)に水酸基を付与することができる。これは、水(水蒸気)が大気中に含まれていることによる。
【0017】
4.第1ガス
第1ガスは、特に限定はされないが、金属部と樹脂部との接着力が向上することから、水を含んでいることが好ましい。水の含有率としては、特に限定はされないが、0.1〜30vol%(体積%)が例示できる。
【0018】
5.第2プラズマ処理
第2プラズマ処理により、金属部の表面に付与される表面改質物(表面改質物由来の物質も含む)の量としては、特に限定はされないが、8.9×10−6〜1.0mg/cmが例示できる。好ましくは、1×10−5〜1×10−2mg/cmである。
【0019】
6.第2ガス
第2ガスは、特に限定はされないが、第1プラズマ処理と第2プラズマ処理とが連続して行え、作業性がよいことから、表面改質物を第1ガスに含ませて第2ガスにすることが好ましい。
【0020】
7.極性官能基
極性官能基としては、特に限定はされないが、アミノ基、カルボキシル基、シラノール基、水酸基等が例示でき、これらの官能基の一種でもよいし、二種以上でもよい。
【0021】
8.表面改質物
表面改質物としては、特に限定はされないが、一種又は二種以上の極性官能基を有する化合物でもよいし、その誘導体でもよい。具体的には、アリルアミン、アクリル酸、テトラエトキシシラン(TEOS)、オルト酢酸トリエチル等が例示できる。
第2ガス中に含まれる表面改質物の含有率は、特に限定はされないが、1〜99vol%が例示できる。
【0022】
9.樹脂部
樹脂部の態様としては、特に限定はされないが、板状、フィルム状、塊状等が例示できる。また、複合体の用途にあわせて、金属部と接するように樹脂部を成形する時に、所定形状にすることが、工程の削減になって好ましい。
【0023】
9−1.樹脂
樹脂部に用いられる樹脂としては、特に限定はされないが、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリエステル、フッ素樹脂等のエンジニアリングプラスチックや、ポリオレフィン等の汎用プラスチックが例示できる。
また、樹脂は、ガラス繊維、無機フィラー等が配合されていてもよいし、配合されていなくてもい。ガラス繊維、無機フィラーが配合されることで、機械的強度等が向上する。
【0024】
ポリフェニレンサルファイドとしては、特に限定はされないが、分子内に酸素を介して二次元又は三次元の架橋構造を有する架橋型でもよいし、分子が直鎖状になっている(構造単位が一列に繋がっている)リニア型でもよい。
【0025】
ポリアミドとしては、特に限定はされないが、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド6I(PA6I)、ポリアミド9T(PA9T)、芳香族ポリアミドであるアラミド等が例示できる。
【0026】
ポリエステルとしては、特に限定はされないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が例示できる。
【0027】
ポリオレフィンとしては、特に限定はされないが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が例示できる。
【0028】
フッ素樹脂としては、特に限定はされないが、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン(PTFE)等が例示できる。
【0029】
9−2.接着性改質剤
樹脂に配合される接着性改質剤としては、特に限定はされないが、容易に樹脂と均一に混合できることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン等を主鎖とし、スチレン系ポリマーを側鎖としたグラフト共重合体を接着性官能基で変性した化合物や、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン等を接着性官能基で変性した化合物等が例示できる。より具体的には、エチレンとスチレンとの共重合体がグリシジルメタクリレートで変性されたグリシジルメタクリレート変性エチレン−スチレン共重合体、ポリエチレンがグリシジルメタクリレートで変性されたグリシジルメタクリレート変性ポリエチレン、エチレンとアクリル酸とを共重合させたエチレン−アクリル酸共重合体、ポリプロピレンにオキサゾリンがグラフト重合したオキサゾリン変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等が例示できる。
【0030】
接着性改質剤の配合率は、接着性改質剤の種類(接着性官能基の種類及び接着性改質剤中での接着性官能基の量等)によっても異なり、特に限定はされないが、樹脂と接着性改質剤との合計量の1.5〜50wt%(重量%)であることが好ましい。この値が1.5wt%未満では、金属部に対する樹脂部の接着性が低下し、50wt%を超えると、樹脂部を成形するときの離型性等が悪くなる。より好ましくは、10〜30wt%である。
【0031】
接着性改質剤が有する接着性官能基としては、特に限定はされないが、エポキシ基(グリシジル基中のエポキシ基を含む、以下同じ)、カルボキシル基、無水マレイン酸基、オキサゾリン基、アミノ基、水酸基等が例示できる。
極性官能基がアミノ基の場合には、接着しやすいことから、エポキシ基、カルボキシル基、無水マレイン酸基、オキサゾリン基が好ましく、接着力が強いことから、エポキシ基であることが好ましい。
極性官能基がカルボキシル基、シラノール基又は水酸基の場合には、接着しやすいことか、エポキシ基であることが好ましい。
【0032】
樹脂と接着性改質剤との混合物(成形材料でもある)中における接着性官能基の含有率は、接着性官能基の種類によっても異なり、特に限定はされないが、樹脂と接着性改質剤との合計量の0.05〜1.5wt%であることが好ましい。この値が0.05wt%未満では、金属部に対する樹脂部の接着性が低下し、1.5wt%を超えると、樹脂部を成形するときの離型性等が悪くなる。より好ましくは、0.3〜0.9wt%である。
【0033】
樹脂に接着性改質剤を配合して成形材料にする配合処理方法は、特に限定はされないが、一軸又は二軸の押出機等を用いて、所定温度で溶融混練し、均一にした後、ペレット状等にする方法等が例示できる。
【0034】
金属部と接するように樹脂部を成形する方法は、特に限定はされないが、金属部と樹脂部との接着及び樹脂部の成形が一度にできることから、内部に金属部が保持されている金型を用いるインサート成形であることが好ましい。インサート成形としては、特に限定はされないが、圧縮成形、射出成形等が例示できる。
また、成形は、アニール工程を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0035】
金属部と樹脂部との接着は、金属部表面の極性官能基と樹脂部の接着性官能基との相互作用によるものと考えられる。
この相互作用は、金属部と樹脂部との界面で極性官能基及び接着性官能基の原子、電子等が互いに引き合う作用である。具体的には、極性官能基及び接着性官能基の原子間で、電子の移動・共有を伴う一次結合(イオン結合、共有結合等)と、極性官能基及び接着性官能基の中で、電子密度の偏在が生じ、両官能基同士がクローン力で引き合う二次結合(水素結合、ファンデルワールス結合等)とである。
【0036】
10.金属と樹脂との複合体
金属と樹脂との複合体の態様としては、特に限定はされないが、板状、箔状、紐状、筒状、柱状、球状、塊状等が例示できる。
金属と樹脂との複合体の用途としては、特に限定はされないが、電子・電気部品、建築土木部材、自動車部品、農業資材、梱包資材、衣料、日用品等、又はこれらを製造するための材料等が例示できる。自動車部品としては、特に限定はされないが、エンジンオイル等をシールするシール部材、ハイブリット車等のバッテリーをシールするシール部材等が例示できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着剤を用いることなく強固(重ね合わせせん断強さが4MPa以上)に接着された金属と樹脂との複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の金属と樹脂との複合体の金属部と樹脂部との界面付近の断面模式図である。
【図2】第1プラズマ処理により金属表面に水酸基を付与する反応の模式図である。
【図3】第2プラズマ処理により金属表面にアリルアミンを付与する反応の模式図である。
【図4】第1プラズマ処理の処理装置の模式図である。
【図5】第2プラズマ処理の処理装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0039】
本発明の金属と樹脂との複合体10は、図1に示すように、金属よりなる金属部20の上面21と樹脂よりなる樹脂部30の下面31とが、極性官能基25と接着性官能基35との相互作用により、接着されたものである。
金属部20は、上面21に極性官能基25が付与されたものである。
樹脂部30の樹脂は、極性官能基25と相互に作用し合う接着性官能基35を有する接着性改質剤が配合されたものである。
極性官能基25は、大気雰囲気で不活性ガス又は空気のプラズマを上面21に照射した後に、大気雰囲気で表面改質物を含む不活性ガス又は空気のプラズマを上面21に照射して上面21に付与された表面改質物に由来する官能基である。
【0040】
金属と樹脂との複合体10の製造方法について説明する。
【0041】
・前処理
金属部20の上面21に付着している油分等を除去して、金属部20の上面21を清浄にする前処理を行う。
【0042】
・第1プラズマ処理
前処理の後、図4に示すように、プラズマ発生装置に第1ガス(プロセスガス)を導入してプラズマ化し、そのプラズマを大気中に放出して、大気雰囲気で第1ガスのプラズマを金属部20の上面21に照射して第1プラズマ処理(大気圧プラズマ処理)を行う。
【0043】
・第2プラズマ処理
第1プラズマ処理の後、図5に示すように、表面改質物のガスをキャリアガスに含めた混合ガスとプロセスガスとからなる第2ガスをプラズマ発生装置に導入してプラズマ化し、そのプラズマを大気中に放出して、大気雰囲気で第2ガスのプラズマを金属部20の上面21に照射して第2プラズマ処理(改質プラズマ処理)を行う。
なお、第1ガスが導入されているプラズマ発生装置に、表面改質物のガスをキャリアガスに含めた混合ガスを導入して、第1プラズマ処理と同じプラズマ発生装置を用いて、第2プラズマ処理を第1プラズマ処理に続けて行ってもよい。
【0044】
・配合処理
接着性改質剤を樹脂と共に混練機を用いて溶融混練して、樹脂に接着性改質材を配合した成形材料を作製する。
【0045】
・成形処理
上面21に第2プラズマ処理が施された金属部を上面21が金型の内空間を向くように金型内に配置した後、成形材料を金型内に入れ、成形材料に用いられている樹脂が溶融する温度で圧縮成形を行う。
【0046】
次に、本発明の実施例及び比較例の試験体を作製し、金属部と樹脂部との接着性を測定し、その結果を表1〜3に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
実施例及び比較例に用いた各部材等について説明する。
【0051】
金属部は、材質が、アルミニウム(アルミ、A1050)、銅(C1100)、鋼(鉄)、ステンレス鋼(SUS)、マグネシウム、ニッケル、チタン又は錫(スズ)であり、寸法が、長さ75mm、幅25mm、厚さ2mmの金属板を用いた。
【0052】
樹脂は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド66(PA66)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)又はテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)を用いた。
【0053】
接着性改質剤は、グリシジルメタクリレート(GMA)変性ポリエチレン、エチレン−アクリル酸共重合体、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又はオキサゾリン変性ポリプロピレンを用いた。
【0054】
表面改質物は、アリルアミン、アクリル酸、テトラエトキシシラン(TEOS)又はオルト酢酸トリエチルを用いた。
【0055】
第1プラズマ処理のプロセスガスは、アルゴンガス(Ar)、水蒸気を含んだアルゴンガス(Ar/水)又は空気を用いた。
【0056】
第2プラズマ処理のプロセスガス及びキャリアガスは、アルゴンガスを用いた。
【0057】
次に、各試験体の作製条件について説明する。
【0058】
・前処理
金属板の片面を粒度#1000のサンドペーパで擦って、その面に付着している油分等を除去する。その後、エタノールで洗浄して、金属板の前処理を行った。
【0059】
・第1プラズマ処理
プロセスガス(第1ガス、流量:0.5L/min)をプラズマ発生装置(プラズマ発生出力:50W、周波数:2GHz)に導入してプラズマ化し、このプラズマを大気中に放出する。そして、大気雰囲気にある3次元ステージ上に載置した前処理後の金属板に、上方からこのプラズマを13秒間照射して、第1プラズマ処理(大気圧プラズマ処理)を行った。この金属板は前処理された面を上にして置かれている。
【0060】
・第2プラズマ処理
所定温度(アリルアミン及びアクリル酸は液温度5℃、TEOS及びオルト酢酸トリエチルは、液温度30℃)の液体状の表面改質物中にキャリアガス(流量:0.5L/min)を流し込み、キャリアガスに表面改質物のガスを含めた混合ガスにする。この混合ガスとプロセスガス(流量:0.5L/min)とをプラズマ発生装置(プラズマ発生出力:50W、周波数:2GHz)に導入してプラズマ化し、このプラズマを大気中に放出する。そして、大気雰囲気にある3次元ステージ上に載置した第1プラズマ処理後の金属板に、上方からこのプラズマを照射して、第2プラズマ処理(改質プラズマ処理)を行った。この金属板は第1プラズマ処理された面を上にして置かれている。
【0061】
・配合処理
接着性官能基が所定の含有率となるように接着性改質剤を樹脂に配合し、ラボプラストミル(東洋精機製作所社の「KF70V2」)を用い、樹脂と接着性改質剤とを、使用した樹脂が溶融する温度(PPS:320℃、PA66:290℃、PBT:260℃、PP:190℃、ETFE:230℃)で、5分間溶融混練を行い、成形材料とした。
【0062】
・成形処理
第2プラズマ処理が施された面が金型の内空間を向くように金属板を金型内に配置した後、成形材料を金型内に入れ、成形材料に用いられている樹脂が溶融する上記温度で圧縮成形を行った。
【0063】
次に、各試験体について説明する。
【0064】
実施例1は、アルミニウム製の金属板を用い、アルゴンガス(Ar)をプロセスガスに用いた第1プラズマ処理を行った後、表面改質物にアリルアミンを用い、金属板表面に付与されるアリルアミンの量が1.3×10−5mg/cmとなるように、0.2秒間プラズマを照射して、第2プラズマ処理を行った。また、ポリフェニレンサルファイド(PPS)にエポキシ基の含有率が0.3wt%となるようにグリシジルメタクリレート(GMA)変性ポリエチレンを10wt%配合した。
【0065】
実施例2は、金属板表面に付与されるアリルアミンの量が1.3×10−3mg/cmとなるように、13秒間プラズマを照射して、第2プラズマ処理を行った以外は、実施例1と同じである。
実施例3は、金属板表面に付与されるアリルアミンの量が6.5×10−3mg/cmとなるように、65秒間プラズマを照射して、第2プラズマ処理を行った以外は、実施例2と同じである。
【0066】
実施例4、5は、エポキシ基の含有率が0.1wt%又は0.9wt%となるようにグリシジルメタクリレート(GMA)変性ポリエチレンを3wt%又は30wt%配合した以外は、実施例2と同じである。
【0067】
実施例6〜8は、カルボキシル基の含有率が0.1wt%、0.3wt%又は0.9wt%となるようにエチレン−アクリル酸共重合体を3wt%、10wt%又は30wt%配合した以外は、実施例2と同じである。
【0068】
実施例9、10は、第1プラズマ処理のプロセスガスに空気又は水蒸気を含んだアルゴンガス(Ar/水)を用いた以外は、実施例2と同じである。
【0069】
実施例11、12は、無水マレイン酸基又はオキサゾリン基の含有率が0.3wt%となるように無水マレイン酸変性ポリプロピレンを10wt%又はオキサゾリン変性ポリプロピレンを10wt%配合した以外は、実施例2と同じである。
【0070】
実施例13〜16は、樹脂にポリアミド66(PA66)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)又はテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)を用いた以外は、実施例2と同じである。
【0071】
実施例17〜22は、材質が銅(C1100)、鋼(鉄)、ステンレス鋼(SUS)、マグネシウム、ニッケル又はチタンの金属板を用いた以外は、実施例2と同じである。
【0072】
実施例23は、樹脂にポリプロピレン(PP)を用い、材質が錫(スズ)の金属板を用いた以外は、実施例2と同じである。
【0073】
実施例24〜26は、表面改質物にアクリル酸、テトラエトキシシラン(TEOS)又はオルト酢酸トリエチルを用いた以外は、実施例2と同じである。
【0074】
比較例1は、第1及び第2プラズマ処理を行わない点と、接着性改質剤を配合しない点とが実施例2等と異なる。
比較例2は、第1及び第2プラズマ処理を行わない点が実施例2等と異なる。
比較例3は、第2プラズマ処理を行わない点と、接着性改質剤を配合しない点とが実施例2等と異なる。
比較例4は、第2プラズマ処理を行わない点が実施例2等と異なる。
【0075】
比較例5〜7は、接着性官能基(エポキシ基、カルボキシル基)の含有率が0wt%又は0.03wt%である点が実施例2等と異なる。
【0076】
比較例8、9は、金属板表面に付与されるアリルアミンの量が8.9×10−6mg/cmである点が実施例2等と異なる。
【0077】
比較例10、11は、第1プラズマ処理を行わない点が実施例2等と異なる。
【0078】
次に、接着性の試験について説明する。
接着性は、JIS K 6850(接着剤−剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)に準拠して、金属部と樹脂部との重ね合わせせん断強さ(以下「接着力」という)を測定した。
【0079】
以上より、本発明の実施例は、接着力が、4.1MPa以上であった。
一方、第1プラズマ処理及び第2プラズマ処理の少なくとも一方を行わなかった、比較例1〜4及び10、11は、接着力が、3.3MPa以下であった。
また、エポキシ基又はカルボキシル基の含有率が0.03wt%以下である、比較例5〜7は、接着力が、0.2MPa以下であった。
また、金属板表面に付与されるアリルアミンの量が8.9×10−6mg/cmである比較例8、9は、接着力が、0.4MPa以下であった。
【0080】
第1プラズマ処理のプロセスガスにアルゴンガスを用いた実施例2は、接着力12.3MPaであり、空気を用いたもの(実施例9)より、接着力が向上した。
第1プラズマ処理のプロセスガスに水蒸気を含んだアルゴンガスを用いた実施例10は、接着力が13.3MPaであり、水蒸気を含まないもの(実施例2)より、接着力が向上した。
【0081】
表面改質物にアクリル酸を用いた実施例24は、接着力が10.9MPaであり、オルト酢酸トリエチルを用いたもの(実施例26)より、接着力が向上した。
表面改質物にテトラエトキシシランを用いた実施例25は、接着力が11.1MPaであり、アクリル酸を用いたもの(実施例24)より、接着力が向上した。
表面改質物にアリルアミンを用いた実施例2は、接着力が12.3MPaであり、テトラエトキシシランを用いたもの(実施例25)より、接着力が向上した。
【0082】
金属板表面に付与されるアリルアミンの量が1.3×10−3mg/cm以上の実施例2、3は、接着力が12.3MPa以上であり、アリルアミンの量が1.3×10−5mg/cmのもの(実施例1)より、接着力が二倍以上向上した。
【0083】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【符号の説明】
【0084】
10 金属と樹脂との複合体
20 金属部
25 極性官能基
30 樹脂部
35 接着性官能基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着された金属と樹脂との複合体の製造方法であって、
大気雰囲気で不活性ガス又は空気よりなる第1ガスのプラズマを前記金属部の表面に照射する第1プラズマ処理と、
前記第1プラズマ処理の後、大気雰囲気で表面改質物を含む不活性ガス又は空気よりなる第2ガスのプラズマを前記金属部の表面に照射して前記表面改質物に由来する極性官能基を付与する第2プラズマ処理と、
前記樹脂に前記極性官能基と相互に作用し合う接着性官能基を有する接着性改質剤を配合して成形材料とする配合処理とを行った後、
前記成形材料を用いて前記金属部と接するように前記樹脂部を成形して、前記金属部と前記樹脂部とを接着させることを特徴とする金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項2】
前記表面改質物を前記第1ガスに含ませて前記第2ガスにする請求項1記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項3】
前記表面改質物は、アリルアミン、アクリル酸、テトラエトキシシラン又はオルト酢酸トリエチルである請求項1又は2記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項4】
前記接着性官能基は、エポキシ基、カルボキシル基、無水マレイン酸基又はオキサゾリン基である請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂は、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン又はフッ素樹脂である請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項6】
前記金属は、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、マグネシウム、ニッケル、チタン又は錫である請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項7】
金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着された金属と樹脂との複合体であって、
前記金属部は、前記樹脂部との接着面に極性官能基が付与されたものであり、
前記樹脂は、前記極性官能基と相互に作用し合う接着性官能基を有する接着性改質剤が配合されたものであり、
前記極性官能基は、大気雰囲気で不活性ガス又は空気のプラズマを前記接着面に照射した後に、大気雰囲気で表面改質物を含む不活性ガス又は空気のプラズマを前記接着面に照射して該接着面に付与された前記表面改質物に由来する官能基であり、
前記極性官能基と前記接着性官能基との相互作用により、前記金属部と前記樹脂部とが接着され、JIS K 6850に準拠して測定した該接着の重ね合わせせん断強さが4MPa以上であることを特徴とする金属と樹脂との複合体。
【請求項8】
前記極性官能基は、アミノ基、カルボキシル基、シラノール基及び水酸基からなる群より選ばれた少なくとも一種の官能基である請求項7記載の金属と樹脂との複合体。
【請求項9】
前記接着性官能基は、エポキシ基、カルボキシル基、無水マレイン酸基又はオキサゾリン基である請求項7又は8記載の金属と樹脂との複合体。
【請求項10】
前記樹脂は、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン又はフッ素樹脂である請求項7〜9のいずれか一項に記載の金属と樹脂との複合体。
【請求項11】
前記金属は、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、マグネシウム、ニッケル、チタン又は錫である請求項7〜10のいずれか一項に記載の金属と樹脂との複合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−14831(P2013−14831A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150348(P2011−150348)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】