説明

金属の回収方法、それに使用する金属回収用キット

【課題】 有機媒体を使用することなく、簡便に金属の回収を可能とする金属の回収方法を提供する。
【解決手段】 第1キレート剤が水性溶媒に不溶化可能なpH条件下で、前記第1キレート剤と検体との混合液を調製し、前記第1キレート剤と前記検体中の金属との第1錯体を形成する。前記混合液から前記第1錯体を回収し、第2キレート剤水溶液と、前記第1錯体の混合液を調製し、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体を形成する。前記水溶液は、前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件とする。そして、前記混合液から前記第2錯体を含む液体画分を回収することで、金属を回収する。これによって有機媒体を使用することなく、金属を回収できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の回収方法、それに使用する金属回収用キットに関し、さらに、金属の分析方法およびそれに使用する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀、カドミウム、鉛、砒素等の金属は、人体に蓄積され、健康に悪影響を及ぼすことが知られている。このため、尿等の生体試料、水等の飲食品試料における金属の分析が重要である。
【0003】
金属の分析は、一般に、前処理として、試料から夾雑物を除去して、金属を分離し、前記分離した金属について分析が行われる。前記前処理は、溶媒抽出が汎用されている。前記溶媒抽出は、金属と結合するキレート剤の極性を利用し、水性媒体および有機媒体に対する分配係数の違いから、試料中の金属を前記有機媒体中に抽出する方法である。抽出後、前記有機媒体を蒸発させることで、さらに、前記金属を濃縮できる。具体例として、酸性条件の水性媒体中で不溶性である1,5−ジフェニル−3−チオカルバゾン(以下、「ジチゾン」ともいう)を前記キレート剤として使用するジチゾン法が、例えば、JISによって規定されている(非特許文献1、特許文献1参照)。前記ジチゾン法は、まず、酸性条件下で、前記ジチゾンと前記尿等の液体検体とを混合して、前記混合液中で、前記ジチゾンと前記液体検体中の金属との錯体を形成させる。ついで、前記混合液に、四塩化炭素またはクロロホルム等の有機媒体を添加する。すると、前記錯体は、水性媒体と有機媒体とに対して分配係数が異なるため、前記有機媒体中に抽出される。この有機媒体を回収することで、前記錯体として、前記液体検体から金属を回収できる。また、前記有機媒体を蒸発させれば、さらに金属を濃縮できる。
【0004】
しかしながら、従来の溶媒抽出法では、前述のように、有機媒体の使用が必須である。有機媒体を使用する場合、操作が煩雑であり、排液等の点からも環境に影響を及ぼすおそれがある。また、有機媒体により抽出した前記金属を濃縮するには、例えば、有機媒体を蒸発させるための減圧装置も必須となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2969226号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】水銀分析マニュアル 環境省 平成16年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、有機媒体を使用することなく、簡便に金属の回収を可能とする金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の金属の回収方法は、
第1キレート剤と検体との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1キレート剤と前記検体中の金属との第1錯体を形成させる第1錯体形成工程、
前記混合液から前記第1錯体を回収する錯体回収工程、
前記第1錯体と、第2キレート剤の水溶液との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体を形成させる第2錯体形成工程、および、
前記混合液から、前記第2錯体が溶解した液体画分を回収することで、金属を回収する金属回収工程を含み、
前記第1錯体形成工程において、前記第1キレート剤が水性媒体に不溶化可能なpH条件下で、前記混合液を調製し、
前記第2錯体形成工程において、前記第2キレート剤の水溶液が、前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件であることを特徴とする。
【0009】
本発明の金属回収用キットは、前記第1キレート剤および前記第2キレート剤を含むことを特徴とする、前記本発明の回収方法に使用する金属回収用キットである。
【0010】
本発明の分析装置は、pHを調節するpH調節手段、
前記第1キレート剤と検体とを混合する混合手段、
前記第1キレート剤と前記検体とを含む混合液から、前記第1キレート剤と前記検体中の金属との第1錯体を回収する錯体回収手段、
前記第2キレート剤の水溶液と前記第1錯体とを混合する混合手段、
前記第2キレート剤の水溶液と前記第1錯体との混合液から、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体が溶解した液体画分を回収する回収手段、
前記第2錯体における金属を回収する金属回収手段、および、
前記回収した金属を分析する分析手段を備え、金属の分析方法に使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水性媒体に対する、前記第1キレート剤と前記第2キレート剤との溶解性の差異を利用することにより、実質的に有機媒体を使用することなく、簡便に金属を回収できる。このため、本発明は、例えば、生体由来の検体に対する臨床検査、環境試験等において、極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<金属の回収方法>
本発明の金属の回収方法は、前述のとおり、第1キレート剤と検体との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1キレート剤と前記検体中の金属との第1錯体を形成させる第1錯体形成工程、前記混合液から前記第1錯体を回収する錯体回収工程、前記第1錯体と、第2キレート剤の水溶液との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体を形成させる第2錯体形成工程、および、前記混合液から、前記第2錯体が溶解した液体画分を回収することで、金属を回収する金属回収工程を含み、前記第1錯体形成工程において、前記第1キレート剤が水性媒体に不溶化可能なpH条件下で、前記混合液を調製し、前記第2錯体形成工程において、前記第2キレート剤の水溶液が、前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件であることを特徴とする。
【0013】
本発明の回収方法において、前記第1キレート剤は、例えば、硫黄含有基を含むキレート剤が好ましい。前記硫黄含有基は、硫黄原子を含む官能基である。前記硫黄含有基は、例えば、チオケトン基が好ましい。前記チオケトン基は、特に制限されず、例えば、チオカルバゾン基、チオセミカルバゾン基、チオカルバジアゾン基、チオ尿素基、チオセミカルバジド基およびルベアメート基があげられる。
【0014】
【化1】

【0015】
前記第1キレート剤は、例えば、下記構造式(1)または(2)のキレート剤があげられる。
【0016】
【化2】

前記構造式(1)において、RおよびRは、それぞれ、フェニル基を表す。すなわち、前記構造式(1)の第1キレート剤は、チオカルバゾン基を含むキレート剤であり、1,5−ジフェニル−3−チオカルバゾンである。以下、前記第1キレート剤を、ジチゾンともいう。前記構造式(1)は、例えば、塩でもよい。
【0017】
【化3】

前記構造式(2)において、Rは、水素、アルキル基またはフェニル基を表す。前記構造式(2)は、例えば、塩でもよい。
【0018】
前記アルキル基は、特に制限されず、例えば、直鎖状もしくは分枝状のアルキル基があげられる。前記アルキル基の炭素数は、例えば、1〜6である。前記直鎖状または分枝状のアルキル基は、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル等があげられる。前記アルキル基は、例えば、水素が、置換されてもよい。
【0019】
前記フェニル基は、例えば、水素が、置換されてもよい。置換される場合、前記水素は、例えば、ハロゲン、ナトリウムおよびカリウム等のアルカリ金属等に置換されてもよい。
【0020】
本発明の回収方法において、前記構造式(2)で表されるキレート剤は、例えば、チオセミカルバゾン基を含むキレート剤であり、グリオキサルジチオセミカルバゾン、(1E,2E)−アミノカルボチオイルヒドラゾノフェニルエタナールチオセミカルバゾン等があげられる。
【0021】
本発明の回収方法において、前記キレート剤は、前述のように、硫黄含有基を含むキレート剤が好ましい。前記硫黄含有基は、例えば、チオケトン基があげられ、前記チオケトン基を含むキレート剤は、例えば、チオカルバゾン基、チオセミカルバゾン基、チオカルバジアゾン基、チオ尿素基、チオセミカルバジド基およびルベアメート基からなる群から選択された少なくとも一つの基を含むキレート剤があげられる。前記キレート剤の具体例としては、例えば、以下のようなものが例示できる。本発明において、これらのキレート剤は、例示であって、本発明はこれらの記載に何ら制限されない。
(a1) チオカルバゾン基を含むキレート剤
例えば、1,5−ジ(2−ナフチル)チオカルバゾン
(a2) チオセミカルバゾン基を含むキレート剤
例えば、アセトンチオセミカルバゾン、アセトフェノンチオセミカルバゾン
(a3)チオカルバジアゾン基を含むキレート剤
例えば、ジフェニルチオカルバジアゾン
(a4)チオ尿素基を含むキレート剤
例えば、1−アセチル−2−チオ尿素、グアニルチオ尿素、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジイソプロピルチオ尿素、N,N’−ジブチルチオ尿素、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、N−アリル−N’−(2−ヒドロキシエチル)チオ尿素、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)チオ尿素、ジアセチルチオ尿素、フェニルチオ尿素、N,N’−ジフェニルチオ尿素、モノ−o−トリルチオ尿素、N,N’−ジ−o−トリルチオ尿素、ベンゾイルチオ尿素
(a5) チオセミカルバジド基を含むキレート剤
例えば、フェニルチオセミカルバジド、4−フェニルチオセミカルバジド、4−メチルチオセミカルバジド、チオセミカルバジド
(a6) ルベアメート基を含むキレート剤
例えば、ジチオオキサミド(ルベアン酸)
【0022】
本発明の回収方法において、前記第2キレート剤は、例えば、チオール基を含むキレート剤が好ましい。
【0023】
前記第2キレート剤は、特に制限されず、例えば、下記構造式(3)、(4)または(5)で表わされる構造を有するキレート剤があげられる。
【0024】
【化4】

前記構造式(3)の第2キレート剤は、meso−2,3−ジメルカプトコハク酸である。以下、前記第2キレート剤を、DMSAともいう。
【0025】
【化5】

前記構造式(4)の構造を有するキレート剤は、前記構造式(4)において、Rは、炭素数1または2のアルキル基を表し、または、Rを有さず、Yは、
【化6】

を表わす。前記炭素数1または2のアルキル基は、例えば、メチル基またはエチル基である。
【0026】
前記構造式(4)の構造を有する第2キレート剤は、例えば、下記構造式(4−1)のチオプロニン(N−(2−メルカプトプロピオニル)グリシン)、下記構造式(4−2)のDMPS(1,2−ジメルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム)、下記構造式(4−3)のシステイン(2−アミノ−3−スルファニルプロピオン酸)等があげられる。
【0027】
【化7】

【0028】
【化8】

前記構造式(5)の構造を有するキレート剤は、前記構造式(5)において、Rは、芳香族炭化水素基を表し、Yは、
【化9】

を表わす。
【0029】
前記Rは、例えば、炭素数1〜10の芳香族炭化水素基であり、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基等があげられる。
【0030】
前記構造式(5)の構造を有する第2キレート剤は、例えば、下記構造式(5−1)のキレート剤があげられる。前記構造式(5−1)において、Rは、例えば、水酸基等があげられる。
【化10】

【0031】
前記構造式(5−1)のキレート剤は、例えば、塩でもよく、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等があげられる。前記構造式(5−1)で表されるキレート剤は、具体例として、例えば、下記構造式(5−2)で表されるチオサリチル酸、下記構造式(5−3)で表わされるチオサリチル酸ナトリウム等があげられる。
【化11】

【0032】
前記第1キレート剤および第2キレート剤は、例えば、前述した化合物の互変異性体または立体異性体でもよい。前記異性体は、例えば、幾何異性体、配座異性体、立体異性体等があげられる。前記第1キレート剤および第2キレート剤は、例えば、前述した各化合物の水和物でもよい。前記第1キレート剤および第2キレート剤は、例えば、前述した各化合物の塩でもよく、前記塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が例示できる。前記第1キレート剤および前記第2キレート剤は、例えば、前述した化合物において、水素が置換されてもよく、具体的には、例えば、ハロゲン、ナトリウムおよびカリウム等のアルカリ金属等に置換されてもよい。前記キレート剤は、例えば、市販品を用いてもよい。前記チオプロニンは、例えば、関東化学(株)、東京化成工業(株)、和光純薬工業(株)等、前記DMPSは、例えば、和光純薬工業(株)等、前記システインは、例えば、ナカライテスク(株)をはじめ複数社から入手できる。
【0033】
前記第1キレート剤は、例えば、一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。また、前記第2キレート剤は、例えば、一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0034】
前記第1キレート剤と前記第2キレート剤との組合せは、特に制限されない。前記組合せは、例えば、前記構造式(1)の第1キレート剤と、前記構造式(3)の第2キレート剤との組合せ、前記構造式(1)の第1キレート剤と、前記構造式(4)の構造を有する第2キレート剤との組合せ、前記構造式(1)の第1キレート剤と、前記構造式(5)の構造を有する第2キレート剤との組合せ、前記構造式(2)の第1キレート剤と、前記構造式(3)の第2キレート剤との組合せ、前記構造式(2)の第1キレート剤と、前記構造式(4)の構造を有する第2キレート剤との組合せ、前記構造式(2)の第1キレート剤と、前記構造式(5)の構造を有する第2キレート剤との組合せがあげられる。中でも、前記構造式(1)の第1キレート剤と、前記構造式(3)の第2キレート剤との組合せ、前記構造式(1)の第1キレート剤と、前記構造式(4)の構造を有する第2キレート剤との組合せ、前記構造式(1)の第1キレート剤と、前記構造式(5)の構造を有する第2キレート剤との組合せ、前記構造式(2)の第1キレート剤と、前記構造式(4)の構造を有する第2キレート剤との組合せが好ましい。具体的には、例えば、ジチゾンとDMSA、ジチゾンとチオプロニンまたはDMPS、ジチゾンとチオサリチル酸ナトリウム、グリオキサルジチオセミカルバゾンとチオプロニンの組合せ等があげられる。
【0035】
本発明の回収方法において、回収目的の金属は、特に制限されない。前記金属は、例えば、Bi(ビスマス)、Hg(水銀)、Cd(カドミウム)、Pd(パラジウム)、Zn(亜鉛)、Tl(タリウム)、Ag(銀)、Pb(鉛)、As(砒素)等があげられる。検体中の前記金属の形態は、特に制限されず、例えば、金属の単体でもよいし、金属の合金でもよいし、金属含有化合物でもよい。前記金属含有化合物は、例えば、金属を含む有機化合物でもよいし、金属を含む無機化合物でもよい。前記金属がHgの場合、例えば、有機水銀でもよいし、無機水銀でもよい。本発明の回収方法において、回収目的の金属は、例えば、一種類でもよいし、二種類以上でもよい。本発明の回収方法は、例えば、前記検体から、一回の回収処理で、二種類以上の金属を同時に回収することもできる。
【0036】
本発明の回収方法において、前記検体は、特に制限されない。前記検体は、例えば、生体由来の検体、環境由来の検体、化学物質、医薬品等があげられる。前記化学物質は、例えば、試薬、農薬または化粧品等があげられる。前記生体由来の検体は、特に制限されず、尿、血液、毛髪、臍帯等があげられる。前記血液検体は、例えば、赤血球、全血、血清、血漿等があげられる。これらの中でも、尿検体が好ましい。前記環境由来の検体は、特に制限されず、例えば、生物、食品、水、土壌、大気・空気等があげられる。前記生物検体は、例えば、魚介類等の動物または植物等があげられる。前記食品検体は、例えば、生鮮食品または加工食品等があげられる。前記水検体は、例えば、飲料水、地下水、河川水、海水、生活排水等があげられる。
【0037】
前記検体は、例えば、取り扱いが容易であることから、液状の検体(液体検体)が好ましい。前記検体は、例えば、未希釈液をそのまま液体検体として使用してもよいし、媒体に、懸濁、分散または溶解した希釈液を液体検体として使用してもよい。前記検体が固体の場合、例えば、前記媒体に懸濁、分散または溶解した希釈液を液体検体として使用してもよい。前記媒体を、以下、希釈媒体という。前記希釈媒体は、特に制限されず、例えば、水、緩衝液等があげられる。前記緩衝液は、特に制限されず、例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液(トリス緩衝液)、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、各種のグッド緩衝液等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
【0038】
本発明によれば、前述のように有機媒体を使用する必要がなく、また、例えば、有機媒体を使用する従来法よりも、金属の回収率および金属の濃縮率を向上できる。
【0039】
(1)第1錯体形成工程
前記第1錯体形成工程は、前記第1キレート剤と検体との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1キレート剤と前記検体中の金属との第1錯体を形成する工程である。前記第1錯体形成工程において、前記混合液は、前記第1キレート剤が水性媒体に不溶化可能なpH条件下で調製する。以下、「前記第1キレート剤が水性媒体に不溶化可能な前記pH条件」を、「第1pH条件」ともいう。
【0040】
前記第1キレート剤は、前記第1pH条件下において、前記混合液に非溶解の状態を維持できる。このため、前記検体中に金属が存在する場合、前記混合液において、前記第1キレート剤と前記検体中の金属とが第1錯体を形成する。前記第1キレート剤は、前記混合液において、例えば、全てが溶解していない状態であることが好ましいが、一部の前記第1キレート剤が溶解した状態でもよい。後者の場合、例えば、一部の第1キレート剤が溶解しても、前記金属と第1錯体を形成可能な量の第1キレート剤が、溶解しない状態で前記混合液中に存在していればよい。
【0041】
前記第1pH条件は、例えば、使用する前記第1キレート剤の種類や回収する金属の種類によって適宜設定できる。前記第1錯体形成工程において、前記第1pH条件は、特に制限されない。前記第1pH条件は、例えば、酸性条件(pH5以下)、中性条件(pH6〜7)、アルカリ性条件(pH7を超え8以下)があげられる。前記第1pH条件は、上限は、例えば、pH8であり、下限は、例えば、pH1である。前記第1pH条件は、具体例として、例えば、pH1〜8、pH2〜8、pH1〜2等があげられる。
【0042】
前記第1キレート剤と前記検体とを含む前記混合液は、実質的に水性媒体であればよい。前記水性媒体は、非有機媒体であり、いわゆる水性の液体を意味し、水性溶媒ともいう。「実質的に水性媒体である」とは、例えば、完全な水性媒体の他に、微量の有機媒体(いわゆる、有機溶媒)を含む水性媒体でもよいことを意味する。
【0043】
前記検体と混合する際、前記第1キレート剤の形状は、特に制限されず、例えば、乾燥状態(または固体状態ともいう)でもよいし、液体状態でもよい。後者の場合、前記第1キレート剤は、前記第1キレート剤が溶解しない非有機媒体に分散されている、前記第1キレート剤の分散液であることが好ましい。以下、前記第1キレート剤を分散させる前記非有機媒体を、「分散媒」という。前記分散媒は、例えば、前記第1pH条件の非有機媒体(水性媒体)である。前記第1pH条件が酸性条件の場合、前記分散媒は、例えば、酸およびその水溶液、前記酸性条件の緩衝液があげられる。前記第1pH条件がアルカリ性条件の場合、例えば、アルカリおよびその水溶液、前記アルカリ性条件の緩衝液があげられる。前記第1pH条件が中性条件の場合、前記分散媒は、例えば、水、中性の水溶液、前記中性条件の緩衝液、その他に、前述した、酸およびその水溶液、前記酸性条件の緩衝液、アルカリおよびその水溶液、前記アルカリ性条件の緩衝液等があげられる。
【0044】
前記酸は、特に制限されず、例えば、塩酸、硫酸、酢酸、ホウ酸、リン酸、クエン酸等があげられる。前記酸の水溶液は、例えば、酸を水または緩衝液で希釈したものがあげられる。酸の希釈に使用する前記緩衝液は、特に制限されず、前述のような一般的な緩衝液が使用できる。前記酸の水溶液において、前記酸の濃度は、特に制限されず、例えば、0を越え1N以下であり、好ましくは0.01〜0.1Nである。前記酸性条件の緩衝液は、特に制限されず、例えば、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、グッドバッファー等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
【0045】
前記中性の水溶液は、特に制限されず、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等があげられる。前記中性条件の緩衝液は、特に制限されない。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
【0046】
前記アルカリは、特に制限されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等があげられる。前記アルカリの水溶液は、例えば、アルカリを水または緩衝液で希釈したものがあげられる。前記アルカリの希釈に使用する前記緩衝液は、特に制限されず、前述の一般的な緩衝液が使用できる。前記アルカリ性の水溶液において、前記アルカリの濃度は、特に制限されず、例えば、0を超え7×10−3N以下である。前記アルカリ性条件の緩衝液は、特に制限されず、例えば、Tris−NaOH、Tris−HCl、リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、炭酸バッファー、グッドバッファー等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
【0047】
前記検体と前記第1キレート剤との混合方法は、特に制限されない。前記検体と前記第1キレート剤は、例えば、(1a)予め前記第1pH条件に調節した前記検体と、前記第1キレート剤とを混合してもよいし、(1b)予め前記第1pH条件に調節した前記第1キレート剤と、前記検体とを混合してもよいし、(1c)前記第1pH条件の非有機媒体と、前記第1キレート剤および前記検体とを混合してもよい。
【0048】
前記(1a)では、例えば、前記第1pH条件に調節した前記検体と、前記第1キレート剤とを混合することによって、前記第1pH条件の前記混合液が調製でき、前記混合液において、前記第1錯体を形成できる。この際、例えば、前記第1キレート剤との混合により調製される前記混合液が、前記第1pH条件となるように、前記検体のpHを調節する。
【0049】
前記第1pH条件が酸性条件の場合、例えば、前記検体を前記酸性条件に調節する方法は、特に制限されない。前記調節は、例えば、前記検体に、酸性試薬を添加することにより行える。前記酸性試薬は、例えば、酸およびその水溶液、前記酸性条件の緩衝液等があげられる。前記酸は、特に制限されず、例えば、塩酸、硫酸、クエン酸、ホウ酸、リン酸、酢酸等があげられる。前記酸の水溶液は、例えば、酸を水または緩衝液で希釈したものがあげられる。酸の希釈に使用する前記緩衝液は、特に制限されず、前述のような一般的な緩衝液が使用できる。前記酸の水溶液において、前記酸の濃度は、特に制限されず、例えば、0.01〜5Nである。前記酸性条件の緩衝液は、特に制限されず、例えば、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、グッドバッファー等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
【0050】
前記第1pH条件がアルカリ性条件の場合、例えば、前記検体を前記アルカリ性条件に調節する方法は、特に制限されない。前記調節は、例えば、前記検体に、アルカリ性試薬を添加することにより行える。前記アルカリ性試薬は、例えば、前述したような、アルカリおよびその水溶液、前記アルカリ性条件の緩衝液等があげられる。
【0051】
前記第1pH条件が中性条件の場合、例えば、前記検体を前記中性条件に調節する方法は、特に制限されない。前記検体の本来のpH条件に応じて、例えば、前記酸性試薬、アルカリ性試薬、または、中性試薬を添加することにより行える。前記中性試薬は、例えば、前述したような、水、中性の水溶液、前記中性条件の緩衝液があげられる。
【0052】
前記(1b)では、例えば、前記検体と、前記第1pH条件に調節した前記第1キレート剤とを混合することによって、前記第1pH条件の前記混合液が調製でき、前記混合液において、前記第1錯体を形成できる。この際、例えば、前記検体との混合により調製される前記混合液が、前記第1pH条件となるように、前記第1キレート剤のpHを調節する。
【0053】
前記第1キレート剤を前記第1pH条件に調節する方法は、特に制限されない。具体例としては、乾燥状態の前記第1キレート剤を、前記第1キレート剤が溶解しない非有機媒体に分散することで、前記第1pH条件に調節された、前記第1キレート剤の分散液が得られる。前記第1キレート剤を分散させる前記非有機媒体は、例えば、前述した分散媒が使用でき、前記酸性試薬、前記アルカリ性試薬、前記中性試薬等と同様である。
【0054】
前記乾燥状態の前記第1キレート剤は、例えば、非有機媒体への分散性に優れることから、凍結乾燥品または減圧乾燥品が好ましい。これらの乾燥品の製造方法は、特に制限されず、例えば、前記第1キレート剤を有機媒体に混合した後、この混合液を凍結乾燥または減圧乾燥することによって得られる。前記有機媒体は、特に制限されず、例えば、t−ブチルアルコール、2−プロパノール等が使用できる。
【0055】
前記(1c)では、例えば、前記第1pH条件の非有機媒体と、前記第1キレート剤および前記検体とを混合することによって、前記第1pH条件の前記混合液が調製でき、前記混合液において、前記第1錯体を形成できる。この際、例えば、前記第1キレート剤および前記検体との混合により調製される前記混合液が前記第1pH条件となるように、前記非有機媒体のpHを調節する。
【0056】
前記第1pH条件の非有機媒体は、例えば、前述した前記酸性試薬、前記アルカリ性試薬または前記中性試薬等が使用できる。
【0057】
前記第1キレート剤および前記検体の混合方法は、特に制限されず、例えば、転倒混和、振動、超音波等の従来の方法があげられる。
【0058】
前記混合液における前記キレート剤の濃度は、特に制限されず、例えば、0.1〜2mgの範囲である。具体的には、前記構造式(1)のキレート剤は、前記混合液における濃度が、例えば、0.1〜1.5mg/mLの範囲であり、好ましくは0.1〜0.3mg/mLの範囲である。前記構造式(2)のキレート剤は、前記混合液における濃度が、例えば、0.3〜2mg/mLの範囲であり、好ましくは1〜2mg/mLの範囲である。
【0059】
前記混合液における前記検体の濃度は、特に制限されず、例えば、0.1〜100μg/Lの範囲である。前記混合液において、未希釈の検体の濃度が、前記範囲であることが好ましい。
【0060】
前記混合液において、前記キレート剤と前記検体との混合割合は、特に制限されず、例えば、前記検体1mLに対して、前記キレート剤0.1〜2mgの範囲である。具体的には、前記構造式(1)のキレート剤は、前記検体1mLに対して、例えば、0.1〜1.5mg/mLの範囲であり、0.1〜0.3mg/mLの範囲が好ましく、前記構造式(2)のキレート剤は、前記検体1mLに対して、例えば、0.3〜2mg/mLの範囲であり、1〜2mg/mLの範囲が好ましい。
【0061】
前記混合液には、前記第1キレート剤および前記検体の他に、その他の成分が含まれてもよい。前記他の成分は、特に制限されず、例えば、酸化剤、還元剤等があげられる。前記酸化剤は、例えば、前記第1キレート剤と前記金属との錯体形成反応の反応性の向上に使用できる。前記還元剤は、例えば、前記混合液中に過剰量の酸化剤が含まれている場合に、前記過剰量の酸化剤の消去に使用できる。
【0062】
前記第1錯体形成の処理条件は、特に制限されず、処理温度は、例えば、室温であり、処理時間は、例えば、10秒〜120分の範囲である。具体的には、例えば、10秒〜10分の範囲が好ましく、特に好ましくは10秒〜5分の範囲である。
【0063】
(2)錯体回収工程
前記錯体回収工程は、前記第1錯体形成工程において形成された第1錯体を、前記混合液から回収する。
【0064】
前述のように、前記第1pH条件下において、前記第1キレート剤は、前記混合液に非溶解の状態を維持できる。このため、前記第1キレート剤と前記金属との第1錯体も、非溶解の状態で、前記混合液に存在する。そこで、この錯体回収工程において、前記混合液に存在する非溶解の前記第1錯体を回収する。
【0065】
前記第1錯体の回収方法は、特に制限されず、例えば、固体と液体とを分離する公知の方法が採用できる。前記回収方法は、例えば、遠心分離処理、ろ過処理、沈殿処理、膜分離処理、吸着処理、凍結乾燥処理等の処理方法があげられる。前記回収の処理条件は、特に制限されず、例えば、前記第1錯体の種類および量に応じて適宜設定できる。前記遠心分離処理によって前記第1錯体の回収を行う場合、例えば、遠心加速度:19,600〜29,400m/s(2,000〜3,000×g)の範囲、温度:4℃〜室温の範囲、時間:1〜10分の範囲の条件があげられる。前記遠心分離後、例えば、上清を除去することで、前記第1錯体を回収できる。前記ろ過処理によって前記第1錯体の回収を行う場合、例えば、使用するフィルターは、特に制限されず、ろ紙、粉末ろ紙、メンブレンフィルター等があげられる。前記ろ過処理後、前記フィルターを通過しない画分を、前記第1錯体として回収できる。
【0066】
(3)第2錯体形成工程
前記第2錯体形成工程は、前記第1錯体と、前記第2キレート剤の水溶液との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体を形成する工程である。前記第2錯体形成工程において、前記第2キレート剤の水溶液は、前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件である。以下、「前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件」を、「第2pH条件」ともいう。
【0067】
前記混合液において、前記第2キレート剤は、溶解した状態であり、前記第1錯体は、非溶解の状態を維持できる。そして、前記混合液において、前記第1錯体と前記第2キレート剤とが存在すると、メカニズムは不明であるが、前記第1錯体を形成する前記金属の全部または一部が、前記第1錯体から解離して、前記第2キレート剤と結合し、前記第2キレート剤と前記金属との前記第2錯体が形成される。
【0068】
前記第2pH条件は、例えば、水性媒体に対して、前記第2キレート剤が可溶化可能であり、且つ、前記第1錯体が不溶化可能なpH条件である。前記第2錯体形成工程において、前記第2キレート剤水溶液のpH条件と、前記水溶液と前記第1錯体との混合液のpH条件は、ともに、前記第2pH条件であることが好ましい。
【0069】
前記第2pH条件は、例えば、前記第1キレート剤および前記第2キレート剤の種類や、回収する金属の種類等により適宜設定できる。前記第2pH条件は、例えば、非アルカリ性条件があげられ、具体的には、酸性条件(pH1〜3)、弱酸性条件(pH4〜5)、中性条件(pH6〜7)があげられる。前記第2pH条件は、特に制限されず、上限は、例えば、pH6.8であり、下限は、例えば、pH1である。前記第2pH条件は、具体例として、例えば、pH1〜6.8があげられる。
【0070】
前記第2キレート剤が、前記構造式(3)または前記構造式(5)のキレート剤の場合、前記第2pH条件は、上限が、例えば、pH6.8であり、好ましくはpH6であり、下限は、例えば、pH1であり、好ましくはpH2であり、より好ましくはpH3であり、さらに好ましくはpH4である。前記第2pH条件は、例えば、pH2〜6.8、pH2〜6、pH4〜6等があげられる。
【0071】
前記第2キレート剤が、前記構造式(4)のキレート剤の場合、前記第2pH条件は、例えば、pH6.8であり、好ましくはpH6であり、より好ましくはpH4であり、下限は、例えば、pH1である。前記第2pH条件は、例えば、pH1〜6.8、pH1〜6、pH1〜3、pH1等があげられる。
【0072】
前記第2キレート剤水溶液は、例えば、水性媒体に前記第2キレート剤が溶解していればよい。前記第2キレート剤は、前記水溶液において、例えば、全てが溶解している状態であることが好ましいが、一部が溶解した状態でもよい。後者の場合、前記第2キレート剤は、例えば、前記第1錯体由来の前記金属と錯体を形成可能な量が、前記水溶液に存在していればよい。
【0073】
前記第2キレート剤水溶液は、例えば、水性媒体を前記第2pH条件に調整した後、前記第2キレート剤を溶解して調製できる。
【0074】
前記第2キレート剤が、前記構造式(3)または前記構造式(5)のキレート剤の場合、例えば、以下のように調製できる。前記第2キレート剤水溶液は、例えば、中性または酸性の水性溶媒に前記第2キレート剤を添加した後、この混合液に前記アルカリ性試薬を添加して前記第2pH条件に調整し、前記第2キレート剤を溶解させることで調製できる。また、前記構造式(3)のキレート剤は、強酸性であることから、前記第2キレート剤を溶解する前記水性媒体は、例えば、前記アルカリ性試薬が好ましい。前記アルカリ性試薬に前記第2キレート剤を溶解することで、前記第2pH条件、好ましくは前記非アルカリ性条件の前記水溶液を調製できる。前記アルカリ性試薬のpHは、特に制限されず、下限が、例えば、8であり、好ましくは9であり、より好ましくは10であり、上限が、例えば、12であり、好ましくは11である。前記アルカリ性試薬は、特に制限されず、例えば、前記アルカリ性水溶液が好ましく、より好ましくはアルカリ性緩衝液である。前記アルカリ性水溶液は、例えば、リン酸3ナトリウム水溶液等があげられる。前記アルカリ性緩衝液は、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッドバッファー等があげられる。前記水溶液および前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lであり、好ましくは100mmol/Lである。
【0075】
前記第2キレート剤が前記構造式(4)の構造を有するキレート剤の場合、例えば、以下のように調製できる。前記第2キレート剤を溶解する前記水性媒体は、特に制限されず、例えば、水、水溶液、緩衝液等が使用できる。そして、例えば、前記水性媒体を前記第2pH条件に調整した後、前記第2キレート剤を溶解すればよい。前記調整方法は、特に制限されず、例えば、前記酸性試薬、前記アルカリ性試薬、前記中性試薬等を適宜使用できる。
【0076】
前記第2キレート剤水溶液の調製方法は、この他にも、例えば、水性媒体に前記第2キレート剤を添加した後、この混合液のpHを前記第2pH条件に調整して、前記第2キレート剤を溶解して調製してもよい。
【0077】
この場合、前記水性媒体は、特に制限されず、例えば、水、水溶液、緩衝液等が使用できる。そして、例えば、前記水性媒体と前記第2キレート剤とを混合した後、前記第2pH条件に調整すればよい。前記調整方法は、特に制限されず、例えば、前記酸性試薬、前記アルカリ性試薬、前記中性試薬等を適宜使用できる。
【0078】
前記第2キレート剤水溶液における前記第2キレート剤の濃度は、特に制限されず、例えば、5〜300mg/mLである。
【0079】
前記第2キレート剤が前記構造式(3)または前記構造式(5)のキレート剤の場合、前記第2キレート剤水溶液における前記第2キレート剤の濃度は、例えば、例えば、5〜20mg/mLであり、好ましくは10〜20mg/mLである。
【0080】
前記第2キレート剤が前記構造式(4)の構造を有するキレート剤の場合、前記第2キレート剤水溶液における前記第2キレート剤の濃度は、例えば、15〜300mg/mLであり、好ましくは75〜150mg/mLである。前記キレート剤の中でも、特に溶解性に優れることから、チオプロニン、DMPS、システインが好ましい。例えば、前記第2キレート剤水溶液における前記第2キレート剤の濃度が高い程、例えば、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤とで、より多くの第2錯体を形成でき、金属の回収率をさらに向上できる。
【0081】
前記第1錯体および前記第2キレート剤水溶液の混合方法は、特に制限されず、例えば、転倒混和、振動、超音波等の従来の方法があげられる。
【0082】
前記混合液において、前記第2キレート剤水溶液の添加量は、特に制限されない。前記第1錯体形成工程で使用した前記検体1mLあたり、例えば、10〜200μLが好ましく、より好ましくは20〜100μLであり、より好ましくは20μLである。また、前記混合液において、前記第1錯体と前記第2キレート剤との添加割合は、特に制限されない。前記第1錯体形成工程で使用する前記第1キレート剤と、前記第2錯体形成工程で使用する前記第2キレート剤との割合(重量比)が、例えば、1:0.3〜1:40であり、好ましくは1:7〜1:40であり、より好ましくは1:10〜1:40である。
【0083】
前記第1錯体に対する前記第2キレート剤水溶液の添加量は、特に制限されない。前記第2キレート剤水溶液の添加量は、例えば、使用した前記検体の液量より少量であることが好ましい。これによって、例えば、使用した前記検体よりも高い濃度の金属含有液を得ることができる。すなわち、前記検体よりも金属が濃縮された金属含有液を得ることができる。前記第2キレート剤水溶液の添加量は、前記検体の液量に対して、例えば、1/2〜1/100の範囲であり、好ましくは1/10〜1/100の範囲であり、より好ましくは1/50〜1/100である。
【0084】
前記混合液には、前記第1錯体および前記第2キレート剤水溶液の他に、その他の成分が含まれてもよい。前記他の成分は、特に制限されず、例えば、前述のような、酸化剤、還元剤等があげられる。
【0085】
前記第2錯体形成の処理条件は、特に制限されず、処理温度は、例えば、室温であり、処理時間は、例えば、10秒〜120分の範囲である。具体的には、例えば、10秒〜10分の範囲が好ましく、特に好ましくは10秒〜5分の範囲である。
【0086】
(4)金属回収工程
前記金属回収工程は、前記混合液から、前記第2錯体形成工程において形成された第2錯体が溶解した液体画分を回収することで、金属を回収する。
【0087】
前述のように、前記第2pH条件下において、前記第2キレート剤は、前記混合液に溶解した状態であるため、前記第2キレート剤と前記金属との第2錯体も、溶解した状態で前記混合液に存在する。他方、前記第1キレート剤は、前記混合液に不溶化可能な状態であるため、非溶解状態で前記混合液に存在する。そこで、この金属回収工程において、前記第2錯体が溶解した液体画分を回収することで、前記金属を回収する。前記第2錯体は、前記混合液において、全てが溶解していることが好ましいが、一部の前記第2錯体が非溶解の状態でもよい。前記非溶解の第2錯体は、例えば、検出限界以下であることが好ましい。前記第2キレート剤が前記構造式(4)または前記構造式(5)のキレート剤の場合、前記金属回収工程において、前記混合液は、例えば、前記第1キレート剤が溶解しなければ、いかなるpHでもよい。
【0088】
前記液体画分の回収方法は、特に制限されず、例えば、固体と液体とを分離する公知の方法が採用できる。前記回収方法は、例えば、遠心分離処理、ろ過処理、沈殿処理、膜分離処理、吸着処理等の処理方法があげられる。前記回収の処理条件は、特に制限されず、例えば、第2錯体の種類または量に応じて適宜設定できる。前記遠心分離処理によって前記液体画分(第2錯体)の回収を行う場合、例えば、遠心加速度:19,600〜29,400m/s(2,000〜3,000×g)の範囲、温度:4℃〜室温の範囲、時間:1〜10分の範囲の条件があげられる。前記遠心分離後、例えば、上清を回収することで、前記液体画分を回収できる。前記ろ過処理によって前記液体画分の回収を行う場合、例えば、使用するフィルターは、特に制限されず、ろ紙、粉末ろ紙、メンブレンフィルター等があげられる。前記ろ過処理後、前記フィルターを通過した画分を、前記液体画分として回収できる。
【0089】
本発明の回収方法は、前記金属回収工程が、前記液体画分を回収した後、さらに、前記第2錯体における前記第2キレート剤を分解する工程を含んでもよい。このように前記第2キレート剤を分解することにより、前記第2錯体から前記金属を単体で回収できる。本発明の回収方法で得られたサンプルを用いると、メカニズムは不明であるが、例えば、前記第2キレート剤の分解方法、金属の分析方法の種類および分析に供するサンプルにおける金属濃度等にかかわらず、安定に優れた感度で金属の分析を行うことができる。
【0090】
前記第2キレート剤の分解方法は、特に制限されず、例えば、灰化等の公知の方法があげられる。前記灰化は、例えば、湿式灰化または乾式灰化があげられる。前記湿式灰化は、例えば、水銀分析マニュアル(環境省、平成16年3月)に従って行える。
【0091】
以下に、本発明の回収方法について、前記第1pH条件を酸性条件とし、前記第2pH条件を弱酸性〜中性条件とし、前記検体として尿検体を使用し、金属である水銀を回収する方法を、例にあげて説明する。これらは一例であり、本発明を制限するものではない。
【0092】
まず、前記尿検体に前記酸性試薬を添加して、前記尿検体のpHを前記酸性条件に調節する。
【0093】
前記尿検体の量は、特に制限されず、例えば、1〜100mLの範囲であり、好ましくは1〜20mLの範囲であり、より好ましくは5〜10mLの範囲である。前記尿検体のpHは、例えば、1〜4に調節することが好ましく、より好ましくは1〜2である。前記酸性試薬の添加量は、特に制限されず、前記尿検体1mLにあたり、例えば、1〜10μLの範囲である。前記酸性試薬は、例えば、塩酸水溶液が好ましく、その規定は、例えば、1〜8Nの範囲である。
【0094】
チューブに、凍結乾燥品の前記第1キレート剤を入れ、さらに、前記pH調節後の前記尿検体を添加して、混合液を調製する。前記第1キレート剤は、前記尿検体1mLあたり、例えば、0.1〜2mgである。この際、前記混合液のpHは、例えば、1〜4であり、好ましくは1〜2である。前記第1キレート剤が、前記構造式(1)のキレート剤の場合、好ましくはジチゾンの場合、前記キレート剤は、前記尿検体1mLあたり、例えば、0.1〜1.5mg/mLであり、好ましくは0.1〜0.3mg/mLの範囲であり、より好ましくは0.3mgである。この際、前記混合液のpHは、例えば、1〜4であり、好ましくは1〜2である。また、前記キレート剤が、前記構造式(2)のキレート剤の場合、好ましくは前記グリオキサルジチオセミカルバゾンの場合、前記キレート剤は、前記尿検体1mLあたり、例えば、0.3〜2mgの範囲であり、好ましくは1〜2mgの範囲である。この際、前記混合液のpHは、例えば、1〜4であり、好ましくは1〜2である。
【0095】
調製した前記混合液を所定時間放置して、前記第1キレート剤と前記尿検体中の水銀との第1錯体を形成させる。前記処理温度は、例えば、室温であり、処理時間は、例えば、10秒〜120分の範囲である。具体的には、例えば、10秒〜10分の範囲が好ましく、特に好ましくは10秒〜5分の範囲である。
【0096】
つぎに、前記混合液を遠心分離に供し、第1錯体を含む沈殿物と上清とに分離する。前記上清を除去し、前記チューブ内の前記第1錯体に、前記第2キレート剤水溶液を添加する。これによって、前記第1錯体と前記第2キレート剤水溶液の混合液において、前記第2錯体を形成させる。前記第2キレート剤水溶液は、例えば、前述の通りである。
【0097】
前記第2キレート剤が、前記構造式(3)または前記構造式(5)のキレート剤、例えば、DMSAまたはチオサリチル酸ナトリウムの場合、前記第2キレート剤水溶液は、例えば、前記キレート剤を、アルカリ性水溶液に溶解して調製できる。前記アルカリ性水溶液は、例えば、リン酸3ナトリウム水溶液が好ましく、濃度は、例えば、10〜100mmol/Lであり、pHは、例えば、9〜12である。前記第2キレート剤水溶液おいて、前記第2キレート剤の濃度は、例えば、5〜20mg/mLであり、そのpHは、例えば、2〜6であり、好ましくは4〜6である。前記第1錯体と前記第2キレート剤水溶液との混合液のpHは、例えば、2〜6であり、好ましくは4〜6である。
【0098】
前記第2キレート剤が、前記構造式(4)の構造を有するキレート剤、例えば、DMPS、チオプロニンの場合、前記第2キレート剤水溶液は、例えば、前記キレート剤を、溶媒に溶解して調製できる。前記溶媒は、例えば、リン酸3ナトリウム水溶液、硝酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等があげられ、濃度は、例えば、10〜100mmol/Lである。前記溶媒のpHは、特に制限されず、前記第1キレート剤が溶解しない範囲であればよい。前記第2キレート剤水溶液おいて、前記第2キレート剤の濃度は、例えば、15〜300mg/mLであり、そのpHは、例えば、1〜6であり、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1である。前記第1錯体と前記第2キレート剤水溶液との混合液のpHは、例えば、1〜6であり、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1である。
【0099】
つぎに、前記混合液を遠心分離に供し、前記第2錯体が溶解した上清と沈殿とに分離し、前記上清を回収する。
【0100】
このようにして、前記第2錯体の状態で液体画分に溶解した水銀を回収できる。また、前記第2錯体に、例えば、湿式灰化等を施すことによって、前記第2錯体における前記DMSAを分解させ、水銀のみを回収することもできる。なお、一例として、水銀の回収を記載したが、本発明は、これには限定されない。本発明の回収方法は、例えば、前述のように、前記検体から、一回の回収処理で、二種類以上の金属を同時に回収することもできる。本発明の回収方法によれば、例えば、水銀とその他の一種類または二種類以上の金属を同時に回収することができ、また、水銀以外の二種類以上の金属を同時に回収することもできる。
【0101】
本例では、前記第1キレート剤として、ジチゾンまたはグリオキサルジチオセミカルバゾンを例示したが、その他の第1キレート剤の場合も、同様に金属を回収できる。また、第2キレート剤として、DMSA、DMPS、チオサリチル酸ナトリウムまたはチオプロニンを例示したが、その他の第2キレート剤の場合も、同様に金属を回収できる。
【0102】
<金属の分析方法>
本発明の金属の分析方法は、前述のように、前記本発明の回収方法により、検体から金属を回収する金属回収工程、および、前記金属を分析する分析工程を含むことを特徴とする。前記金属回収工程は、前記本発明の回収方法を引用できる。
【0103】
前記分析工程は、特に制限されず、例えば、分析目的の金属の種類等に応じて、適宜選択できる。前記金属の分析は、例えば、光学的測定、GC−ECD(ガスクロマトグラフ−電子捕獲型検出器)、電気化学的測定(例えば、ストリッピングボルタンメトリ等)、質量分析装置等により行える。前記光学的測定による分析は、例えば、光学分析機器等を用いて、吸光度、透過率、反射率等を測定することにより行える。前記光学分析機器は、例えば、原子吸光光度計、可視光吸光度計、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometer)等があげられる。前記金属の分析は、例えば、定性でもよいし、定量でもよい。
【0104】
本発明の分析方法は、例えば、さらに、測定値の補正工程を含んでもよい。前記補正工程は、例えば、分析結果の測定値を、測定値と検体中の金属濃度との相関関係により、補正できる。前記相関関係は、例えば、金属濃度が既知である標準検体について、前記本発明の回収方法によりサンプルを回収し、前記サンプルの測定値と、前記標準検体の金属濃度とをプロットすることにより求めることができる。前記標準検体は、金属の希釈系列が好ましい。このように補正を行うことによって、より信頼性の高い定量が可能となる。
【0105】
前記金属の分析は、例えば、前述のような第2錯体として分析してもよいし、前記第2錯体から前記金属を単離して、前記金属単体として分析してもよい。前者の場合、前記第2キレート剤を分解する工程を省略できるため、例えば、より簡易に、かつ、低コストに前記金属を分析できる。後者の場合、前記金属回収工程は、前述のように、前記第2錯体における前記第2キレート剤を分解する工程、すなわち、前記第2錯体から前記金属を単離する工程を含むことが好ましい。
【0106】
<金属回収用キット>
本発明の金属回収用キットは、前記第1キレート剤および前記第2キレート剤を含むことを特徴とする、前記本発明の金属の回収方法に使用する金属回収用キットである。前記第1キレート剤および前記第2キレート剤は、例えば、前記本発明の回収方法を引用できる。前記第1キレート剤および前記第2キレート剤は、それぞれ別個の容器に収容されていることが好ましい。
【0107】
前記金属回収用キットは、例えば、さらに、pH調節試薬を含んでもよい。前記pH調節試薬は、特に制限されず、例えば、酸性試薬、中性試薬、アルカリ性試薬である。前記酸性試薬、前記中性試薬および前記アルカリ性試薬は、例えば、前記本発明の回収方法を引用できる。前記第1キレート剤および前記第2キレート剤と、前記pH調節試薬とは、それぞれ別個の容器に収容されていることが好ましい。
【0108】
前記金属回収用キットは、前記第1キレート剤、前記第2キレート剤および前記pH調節試薬の他に、例えば、その他の試薬を含んでもよい。前記その他の試薬は、特に制限されず、例えば、前述した酸化剤、還元剤等があげられる。
【0109】
<分析装置>
本発明の分析装置は、前述のように、pHを調節するpH調節手段、前記第1キレート剤と検体とを混合する混合手段、前記第1キレート剤と前記検体とを含む混合液から、前記第1キレート剤と前記検体中の金属との第1錯体を回収する錯体回収手段、前記第2キレート剤の水溶液と前記第1錯体とを混合する混合手段、前記第2キレート剤の水溶液と前記第1錯体との混合液から、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体が溶解した液体画分を回収する回収手段、前記第2錯体における金属を回収する金属回収手段、および、前記回収した金属を分析する分析手段を備え、金属の分析方法に使用することを特徴とする。具体的には、前記本発明の分析方法に使用することが好ましい。前記pH調節手段は、例えば、酸添加手段、アルカリ添加手段を備える。本発明の分析装置において、前記第1キレート剤と前記検体とを混合する混合手段を、例えば、第1の混合手段といい、前記第2キレート剤の水溶液と前記第1錯体とを混合する手段を、例えば、第2の混合手段という。
【0110】
前記酸添加手段は、例えば、前記分析装置の内部または外部に配置された酸性試薬を吸引および排出する吸排手段、ならびに、前記酸性試薬の吸引量および/または排出量を制御する制御手段を有する。前記吸排手段は、例えば、ポンプ等があげられる。前記制御手段は、例えば、バルブ等があげられる。
【0111】
前記アルカリ添加手段は、例えば、前記分析装置の内部または外部に配置されたアルカリ性試薬を吸引および排出する吸排手段、ならびに、前記アルカリ性試薬の吸引量および/または排出量を制御する制御手段を有する。前記吸排手段および前記制御手段は、例えば、前述と同様である。また、前記アルカリ添加手段は、前記酸添加手段を兼ねてもよい。
【0112】
前記第1の混合手段は、例えば、撹拌手段、吸排手段、振とう手段、超音波発生手段等があげられる。
【0113】
前記錯体回収手段は、例えば、遠心分離装置、ろ過装置、凍結乾燥装置等があげられる。
【0114】
前記第2の混合手段は、例えば、前記分析装置の内部または外部に配置された前記第2キレート剤水溶液を吸引および排出する吸排手段、ならびに、前記第2キレート剤水溶液の吸引量および/または排出量を制御する制御手段を有する。前記吸排手段および前記制御手段は、例えば、前述と同様である。
【0115】
前記回収手段は、例えば、遠心分離装置、ろ過装置等があげられる。
【0116】
前記金属回収手段は、例えば、前記第2錯体における前記第2キレート剤を分解する手段である。前記第2キレート剤分解手段は、例えば、湿式灰化装置、乾式灰化装置等の灰化装置があげられる。
【0117】
前記分析手段は、例えば、光学分析機器等があげられ、具体例として、例えば、原子吸光光度計、可視光吸光度計等があげられる。
【0118】
本発明の分析装置は、さらに、pH測定手段を備えることが好ましい。前記pH測定手段は、例えば、pH測定器があげられる。また、本発明の分析装置は、例えば、検体の導入手段を有することが好ましい。前記導入手段は、例えば、前記検体を吸引および排出する吸排手段が好ましい。
【0119】
本発明の分析装置によれば、前述のような本発明の分析方法を実行できる。以下に、本発明の分析装置の使用方法を例示するが、これには制限されない。
【0120】
前記分析装置の内部または外部に、前記検体、前記第1キレート剤、前記第2キレート剤水溶液および前記pH調節試薬として前記酸性試薬を配置する。
【0121】
まず、前記酸添加手段により、前記検体に、前記酸性試薬を添加し、前記検体のpHを前記酸性条件(第1pH条件)に調節する。つぎに、前記導入手段により、前記検体を前記第1キレート剤に導入し、前記第1の混合手段により、前記検体と前記第1キレート剤とを混合して、混合液を調製する。そして、前記錯体回収手段により、前記混合液中の第1錯体を回収する。前記回収した第1錯体に、前記第2の混合手段により、前記第2キレート剤水溶液を混合して、混合液を調製する。そして、前記回収手段により、前記混合液中の第2錯体が溶解した液体画分を回収する。この液体画分について、前記金属回収手段により、前記第2キレート剤を分解することで、金属を回収する。回収した金属について、前記分析手段による解析を行う。このように、本発明の分析装置によれば、前記本発明の金属の分析方法を、例えば、自動で行うことができる。
【0122】
本発明の分析装置は、例えば、さらに、前記金属の分析結果を出力する出力手段を備えてもよい。前記出力手段は、例えば、モニタ、プリンタ等が使用できる。
【実施例】
【0123】
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例により制限されない。
【0124】
[実施例A1]
(1)尿サンプルの調製
健常男性より採取したプール尿(pH6〜7)に、水銀濃度10μg/Lとなるように塩化水銀(和光純薬社製)を混合し、尿サンプルを調製した。塩化水銀を添加した前記尿サンプルのpHは、5〜7であった。そして、前記尿サンプル5mLに、5N 塩酸(ナカライテスク社製)60μLを混合し、前記尿サンプルのpHを、1〜2に調整した。
【0125】
(2)第1キレート剤の調製
第1キレート剤としてジチゾン(Fluka社製)をt−ブチルアルコール(ナカライテスク社)に溶解し、この溶液を、ジチゾン量が1.5mgとなるように、PP製15mLコニカルチューブ(Nunc社製)に分注した。前記溶液を凍結乾燥した。
【0126】
(3)第2キレート剤水溶液の調製
第2キレート剤としてDMSA 1.8mgを、水溶液または緩衝液100μLに溶解し、DMSA水溶液を調製した。前記水溶液は、100mmol/L リン酸3ナトリウム水溶液(pH11)を使用した(以下「リン酸3Na水溶液」という)。前記緩衝液は、トリス緩衝液(pH10)を使用した。前記リン酸3Na水溶液を使用した第2キレート剤水溶液のpHは、6であり、前記トリス緩衝液を使用した第2キレート剤水溶液のpHは、4であった。
【0127】
(4)尿サンプルからの水銀の回収
凍結乾燥した第1キレート剤を含む前記チューブに前記尿サンプル5mLを添加し、室温で5分間、振とうすることによって、前記尿サンプルと前記第1キレート剤とを混合し、前記ジチゾンと水銀との錯体(第1錯体)を形成させた。前記チューブを、遠心分離(19,600m/s(2000×g)、20℃、10分間)して、前記第1錯体を含む沈殿と上清とに分離した。前記上清を除去した後、前記チューブに、前記第2キレート剤水溶液を添加し、室温で5分間、振とうすることによって、前記沈殿と前記第2キレート剤水溶液とを混合し、前記混合液において、前記水銀と前記第2キレート剤との錯体(第2錯体)を形成させた。前記リン酸3Na水溶液を使用した前記混合液のpHは、6であり、前記トリス緩衝液を使用した前記混合液のpHは、4であった。前記チューブを、遠心分離(19,600m/s(2000×g)、20℃、10分間)して、前記第2錯体が溶解した上清と沈殿とに分離した。前記上清を回収し、これを、水銀濃縮サンプルとした。
【0128】
前記水銀濃縮サンプルを湿式灰化し、前記第2錯体における前記第2キレート剤を分解した。前記湿式灰化は、水銀分析マニュアル(環境省、平成16年3月)に従って行った。そして、前記灰化後の水銀濃縮サンプルについて、原子吸光光度計(商品名MERCURY ANALYZER、日本インスツルメンツ社製)により、水銀濃度を定量した。また、前記尿サンプルについても、同様にして、前記原子吸光光度計により、水銀濃度を定量した。
【0129】
そして、前記水銀濃縮サンプルの水銀濃度(X)および溶液量(X)、ならびに、前記尿サンプルの水銀濃度(Y)および溶液量(Y)を、下記式(1)に代入して、水銀の回収率(%)を求めた。また、前記水銀濃縮サンプルの水銀濃度(X)、および、前記尿サンプルの水銀濃度(Y)を、下記式(2)に代入して、水銀の濃縮率(倍)を求めた。
回収率(%)=100×(X×X)/(Y×Y) (1)
濃縮率(倍)=X/Y (2)
【0130】
下記表1に、前記各尿サンプルについて、水銀の回収率および濃縮率を示す。下記表1に示すように、前記尿サンプルから水銀を回収できた。この結果から、本発明によれば、有機媒体を使用することなく、尿検体から水銀を回収できることがわかった。
【0131】
【表1】

【0132】
[実施例A2]
(1)尿サンプルの調製
前記実施例A1と同様にして、水銀濃度10μg/Lの尿サンプルを準備した。前記尿サンプル5mLに、5N 塩酸(ナカライテスク社製)または5N 水酸化ナトリウム(ナカライテスク社製)を混合し、前記尿サンプルのpHを、2、3、4、6.8、8に調整した。また、ネガティブコントロールとして、pHを、2、3、4、6.8または8に調整した5種類の蒸留水を使用した。前記蒸留水のpH調整は、前記尿サンプルと同様に、5N 塩酸(ナカライテスク社製)または5N 水酸化ナトリウム(ナカライテスク社製)を使用した。
【0133】
(2)第1キレート剤の調製
前記実施例A1と同様にして、前記ジチゾンの凍結乾燥を行った。
【0134】
(3)DMSA水溶液の調製
前記実施例A1と同様にして、前記リン酸3Na水溶液を用いて、前記第2キレート剤水溶液を調製した。
【0135】
(4)尿サンプルからの水銀の回収
前記実施例A1と同様にして、水銀濃縮サンプルの調製を行い、灰化後の水銀濃縮サンプルについて、原子吸光光度計により水銀の定性を行った。
【0136】
これらの結果を下記表2に示す。その結果、ネガティブコントロールでは、いずれも、水銀が検出されなかった(−)。これに対して、各pH条件(pH2〜8)で前記第1錯体の形成を行い、pH6で前記第2錯体の形成を行って得られた水銀濃縮サンプルは、全て水銀が検出された(+)。この結果から、pH2〜8の広いpH範囲で第1錯体の形成を行い、pH6で第2錯体の形成を行った場合、有機媒体を使用することなく、前記尿サンプルから水銀を回収できることが分かった。
【0137】
【表2】

【0138】
[実施例B1]
(1)尿サンプルの調製
水銀濃度を80μg/Lに設定した以外は、前記実施例A1と同様にして、尿サンプルを調製し、そのpHを、1〜2に調整した。
【0139】
(2)第1キレート剤の調製
前記実施例A1と同様に、第1キレート剤としてジチゾン(Fluka社製)を使用し、チューブ内で凍結乾燥した。
【0140】
(3)第2キレート剤水溶液の調製
第2キレート剤としてチオプロニン(関東化学(株)製)を、0.1mol/L硝酸水溶液に100〜1000mmol/Lとなるように溶解し、第2キレート剤水溶液を調製した。前記第2キレート剤水溶液のpHは、1であった。
【0141】
(4)尿サンプルからの水銀の回収
凍結乾燥した前記第1キレート剤および前記第2キレート剤水溶液を使用した以外は、前記実施例A1と同様に処理して、水銀濃縮サンプルを調製した。そして、前記水銀濃縮サンプルを、前記実施例A1と同様に処理して、水銀濃度を定量した。また、前記尿サンプルについても、同様にして、前記原子吸光光度計により、水銀濃度を定量した。そして、前記実施例A1と同様にして、水銀の回収率および濃縮率を求めた。
【0142】
下記表3に、前記各尿サンプルについて、水銀の回収率および濃縮率を示す。下記表3に示すように、前記尿サンプルから水銀を回収し、約14〜27倍に濃縮できた。この結果から、本発明によれば、有機媒体を使用することなく、尿検体から水銀を回収、濃縮できることがわかった。
【0143】
【表3】

【0144】
[実施例B2]
第2キレート剤としてチオプロニンに代えてDMPS(東京化成工業(株)製)を用いて、第2キレート剤水溶液を調製した。前記第2キレート剤水溶液のpHは、1であった。前記第2キレート剤水溶液を用いた以外は、前記実施例B1と同様にして、尿サンプルから水銀を回収した。その結果を、下記表4に示す。下記表4に示すように、前記尿サンプルから水銀を回収し、約18〜37倍に濃縮できた。この結果からも、本発明によれば、有機媒体を使用することなく、尿検体から水銀を回収、濃縮できることがわかった。
【0145】
【表4】

【0146】
[実施例B3]
第2キレート剤としてチオプロニンに代えてL−システイン(ナカライテスク(株)製)を用いた。そして、L−システインを、0.1mol/L硝酸水溶液に200〜1000mmol/Lとなるように溶解し、第2キレート剤水溶液を調製した。前記第2キレート剤水溶液のpHは、1であった。前記第2キレート剤水溶液を用いた以外は、前記実施例B1と同様にして、尿サンプルから水銀を回収した。その結果を、下記表5に示す。下記表5に示すように、前記尿サンプルから水銀を回収し、約12〜15倍に濃縮できた。この結果からも、本発明によれば、有機媒体を使用することなく、尿検体から水銀を回収、濃縮できることがわかった。
【0147】
【表5】

【0148】
[実施例C1]
(1)尿サンプルの調製
前記実施例A1と同様にして、尿サンプルを調製し、そのpHを、1〜2に調整した。
【0149】
(2)第1キレート剤の調製
前記実施例A1と同様に、第1キレート剤としてジチゾン(Fluka社製)を使用し、チューブ内で凍結乾燥した。
【0150】
(3)第2キレート剤水溶液の調製
第2キレート剤としてチオサリチル酸ナトリウム(東京化成製)を、0.1mol/L硝酸水溶液に500mmol/Lとなるように添加した後、5N NaOHを用いてチオサリチル酸Naを溶解し、第2キレート剤水溶液を調製した。前記第2キレート剤水溶液のpHは、4であった。
【0151】
(4)尿サンプルからの水銀の回収
凍結乾燥した前記第1キレート剤および前記第2キレート剤水溶液を使用した以外は、前記実施例A1と同様に処理して、水銀濃縮サンプルを調製した。そして、前記水銀濃縮サンプルを、前記実施例A1と同様に処理して、水銀濃度を定量した。また、前記尿サンプルについても、同様にして、前記原子吸光光度計により、水銀濃度を定量した。そして、前記実施例A1と同様にして、水銀の回収率および濃縮率を求めた。
【0152】
下記表6に、前記各尿サンプルについて、水銀の回収率および濃縮率を示す。下記表6に示すように、前記第1キレート剤および前記第2キレート剤を使用することによって、前記尿サンプルから水銀を回収し、濃縮できた。この結果から、本発明によれば、有機媒体を使用することなく、尿検体から水銀を回収、濃縮できることがわかった。
【0153】
【表6】

【0154】
[実施例D1]
(1)尿サンプルの調製
前記実施例A1と同様にして、尿サンプル(pH6〜7)を調製し、そのpHを、1〜2に調整した。
【0155】
(2)第1キレート剤の調製
第1キレート剤としてグリオキサルジチオセミカルバゾン(和光純薬社製)を所定量(1.5、34.5または7.5mg)、ポリプロピレン(PP)製15mLコニカルチューブ(Nunc社製)に秤量した。
【0156】
(3)第2キレート剤水溶液の調製
第2キレート剤としてチオプロニン(関東化学(株)製)を、0.1mol/L硝酸水溶液に500mmol/Lとなるように溶解し、第2キレート剤水溶液を調製した。前記第2キレート剤水溶液のpHは、1であった。
【0157】
(4)尿サンプルからの水銀の回収
前記第1キレート剤を含む前記チューブに前記尿サンプル全量を添加し、室温で5分間、振とうすることによって、前記尿サンプルと前記第1キレート剤とを混合し、前記第1キレート剤と水銀との錯体(第1錯体)を形成させた。前記第1錯体の形成後は、前記第2キレート剤水溶液を使用した以外、前記実施例A1と同様に処理して、水銀濃縮サンプルを調製した。
【0158】
そして、前記水銀濃縮サンプルを、前記実施例A1と同様に処理して、水銀濃度を定量した。また、前記尿サンプルについても、同様にして、前記原子吸光光度計により、水銀濃度を定量した。そして、前記実施例A1と同様にして、水銀の回収率および濃縮率を求めた。
【0159】
下記表7に、前記各尿サンプルについて、水銀の回収率および濃縮率を示す。下記表7に示すように、前記尿サンプルから水銀を回収し、約19〜36倍に濃縮できた。この結果から、本発明によれば、有機媒体を使用することなく、尿検体から水銀を回収、濃縮できることがわかった。
【0160】
【表7】

【0161】
[実施例D2]
第1キレート剤としてグリオキサルジチオセミカルバゾン(和光純薬社製)7.5mgを使用し、第2キレート剤として、DMSA、DMPS、L−システインおよびチオサリチル酸ナトリウムを使用した。これらのキレート剤を使用する以外は、前記実施例D1と同様にして、尿サンプルから水銀を回収した。
【0162】
(1)第2キレート剤水溶液の調製
(1−1)DMSA水溶液の調製
DMSAを、0.1mol/L硝酸水溶液に混合し、さらに5N NaOHを添加して前記DMSAを溶解した。この水溶液に、DMSA濃度が500mmol/Lとなるように、0.1mol/L硝酸水溶液を添加し、DMSA水溶液を調製した。前記DMSA水溶液のpHは、4であった。
【0163】
(1−2)DMPS水溶液の調製
DMPSを、0.1mol/L硝酸水溶液に500mmol/Lとなるように溶解し、DMPS水溶液を調製した。前記DMPS水溶液のpHは、4であった。
【0164】
(1−3)L−システイン水溶液の調製
L−システインを、0.1mol/L硝酸水溶液に500mmol/Lとなるように溶解し、L−システイン水溶液を調製した。前記L−システイン水溶液のpHは、1であった。
【0165】
(1−4)チオサリチル酸Na水溶液の調製
チオサリチル酸Naを、0.1mol/L硝酸水溶液に混合し、さらに5N NaOHを添加して前記チオサリチル酸Naを溶解した。この水溶液に、チオサリチル酸Na濃度が500mmol/Lとなるように、0.1mol/L硝酸水溶液を添加し、チオサリチル酸Na水溶液を調製した。前記チオサリチル酸Na水溶液のpHは、4であった。
【0166】
下記表8に、前記各尿サンプルについて、水銀の回収率および濃縮率を示す。下記表8に示すように、前記尿サンプルから水銀を回収し、濃縮できた。この結果から、本発明によれば、有機媒体を使用することなく、尿検体から水銀を回収、濃縮できることがわかった。
【0167】
【表8】

【0168】
[実施例E]
鉛を含む液体サンプルから、キレート剤を用いて鉛を回収した。
【0169】
(1)液体サンプルの調製
0.01% ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウレート(Tween−20)を含む、0.34mol/L 塩化ナトリウム水溶液を調製した。前記水溶液に、鉛濃度が0.5mg/Lとなるように、鉛標準液(和光純薬社製)を添加し、液体サンプルを調製した。他方、前記水溶液に、前記鉛標準液に代えて、0.1mol/L 硝酸水溶液を添加し、コントロールサンプル(鉛濃度0mg/L)を調製した。前記両サンプルのpHは、6であった。
【0170】
(2)第1キレート剤の調製
ジチゾン(Fluka社製)をt−ブチルアルコール(ナカライテスク社製)に溶解し、この溶液を、ジチゾン量が1.5mgとなるように、PP製1mLチューブ(ニチリョー社製)に分注した。前記溶液を凍結乾燥した。
【0171】
(3)液体試料からの鉛の回収
前記チューブに前記液体サンプル1mLを添加し、室温で5分間、振とうすることによって、前記液体サンプルと前記ジチゾンとを混合した。前記振とう後、2時間静置して、前記ジチゾンと鉛との錯体を形成させた。前記チューブを、遠心分離(19,600m/s(2000×g)、20℃、10分間)して、前記錯体を含む沈殿と上清とに分離した。前記上清を除去した後、前記チューブに、0.1mol/L 硝酸水溶液0.1mLを添加し、前述と同様の条件で、前記沈殿と前記硝酸水溶液とを混合し、遠心分離によって、前記錯体を含む沈殿と上清とに分離した。前記上清を除去した後、前記チューブに、0.4N NaOH水溶液(pH12)0.1mLを添加した。そして、転倒混和することによって、前記沈殿と前記NaOH水溶液とを混合し、前記沈殿中の前記錯体を溶解させた。前記錯体を溶解した水溶液(pH12)を、鉛濃縮サンプルとした。
【0172】
前記鉛濃縮サンプルを湿式灰化し、前記錯体におけるジチゾンを分解した。そして、前記灰化後の鉛濃縮サンプルについて、ICP質量分析装置(ICP−MS、商品名ICPM−8500、島津製作所社製)を用いて、質量分析により、鉛濃度を定量した。また、前記コントロールサンプルについても、同様にして、鉛濃度を定量した。
【0173】
そして、前記鉛濃縮サンプルの鉛濃度(X)および溶液量(X)、ならびに、前記液体試料の鉛濃度(Y)および溶液量(Y)を、下記式(3)に代入して、鉛の回収率(%)を求めた。また、前記鉛濃縮サンプルの鉛濃度(X)、および、前記液体試料の鉛濃度(Y)を、下記式(4)に代入して、鉛の濃縮率(倍)を求めた。
回収率(%)=100×(X×X)/(Y×Y) (3)
濃縮率(倍)=X/Y (4)
【0174】
下記表9に、前記液体サンプル(鉛濃度0.5mg/L)および前記コントロールサンプル(鉛濃度0mg/L)について、鉛の回収率および濃縮率を示す。下記表9の結果から、鉛と前記第1キレート剤とが錯体を形成したことにより、前記液体サンプルから、鉛を含む錯体を回収できたことが分かった。したがって、前記第1キレート剤と鉛との錯体について、さらに、前述のような第2キレート剤を作用させることで、第2錯体を形成させ、第2錯体から鉛を回収できることも明らかである。このことから、本発明によれば、水銀に限らず、鉛をはじめ他の金属も回収できることがわかった。
【0175】
【表9】

【0176】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0177】
この出願は、2011年4月4日に出願された日本出願特願2011−083024、2011年6月21日に出願された日本出願特願2011−136921、2011年9月22日に出願された日本出願特願2011−207907、2011年9月22日に出願された日本出願特願2011−207908を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0178】
以上のように、本発明によれば、水性媒体に対する、前記第1キレート剤と前記第2キレート剤との溶解性の差異を利用することにより、実質的に有機媒体を使用することなく、簡便に金属を回収できる。このため、本発明は、例えば、生体由来の検体に対する臨床検査、環境試験等において、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1キレート剤と検体との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1キレート剤と前記検体中の金属との第1錯体を形成させる第1錯体形成工程、
前記混合液から前記第1錯体を回収する錯体回収工程、
前記第1錯体と、第2キレート剤の水溶液との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体を形成させる第2錯体形成工程、および、
前記混合液から、前記第2錯体が溶解した液体画分を回収することで、金属を回収する金属回収工程を含み、
前記第1錯体形成工程において、前記第1キレート剤が水性媒体に不溶化可能なpH条件下で、前記混合液を調製し、
前記第2錯体形成工程において、前記第2キレート剤の水溶液が、前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件であることを特徴とする、金属の回収方法。
【請求項2】
前記第1キレート剤が、硫黄含有基を含むキレート剤である、請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
前記硫黄含有基が、チオケトン基である、請求項2記載の回収方法。
【請求項4】
前記第1キレート剤が、チオカルバゾン基、チオセミカルバゾン基、チオカルバジアゾン基、チオ尿素基、チオセミカルバジド基およびルベアメート基からなる群から選択された少なくとも一つの基を含むキレート剤である、請求項1から3のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項5】
前記第1キレート剤が、1,5−ジフェニル−3−チオカルバゾン、グリオキサルジチオセミカルバゾンおよび(1E,2E)−アミノカルボチオイルヒドラゾノフェニルエタナールチオセミカルバゾンの少なくともいずれかである、請求項1から4のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項6】
前記第2キレート剤が、チオール基を含むキレート剤である、請求項1から5のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項7】
前記第2キレート剤が、構造式(3)、(4)および(5)からなる群から選択された少なくとも一つの構造式で表わされる構造を有するキレート剤である、請求項1から5のいずれか一項に記載の回収方法。
【化1】

【化2】

前記構造式(4)において、Rは、炭素数1または2のアルキル基またはアミノアルキル基を表し、または、Rを有さず、
Yは、
【化3】

を表わす。
【化4】

前記構造式(5)において、Rは、芳香族炭化水素基を表し、
Yは、
【化5】

を表わす。
【請求項8】
前記第2キレート剤が、meso−2,3−ジメルカプトコハク酸、N−(2−メルカプトプロピオニル)グリシン、1,2−ジメルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、システイン、チオサリチル酸およびチオサリチル酸ナトリウムからなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1から7のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項9】
前記第1錯体形成工程において、前記第1キレート剤が水性媒体に不溶化可能な前記pH条件が、pH8以下である、請求項1から8のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項10】
前記第1錯体形成工程において、前記第1キレート剤が水性媒体に不溶化可能な前記pH条件が、pH4以下である、請求項9記載の回収方法。
【請求項11】
前記第2錯体形成工程において、前記第1キレート剤が不溶化可能な前記pH条件が、pH6.8以下である、請求項1から10のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項12】
前記金属が、Bi、Hg、Cd、Pd、Zn、Tl、Ag、PbおよびAsからなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1から11のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項13】
前記第2錯体形成工程において、前記検体よりも少ない液量の前記第2キレート剤の水溶液を使用する、請求項1から12のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項14】
第1キレート剤および第2キレート剤を含むことを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の回収方法に使用する金属回収用キット。
【請求項15】
pHを調節するpH調節手段、
第1キレート剤と検体とを混合する混合手段、
前記第1キレート剤と前記検体とを含む混合液から、前記第1キレート剤と前記検体中の金属との第1錯体を回収する錯体回収手段、
第2キレート剤の水溶液と前記第1錯体とを混合する混合手段、
前記第2キレート剤の水溶液と前記第1錯体との混合液から、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体が溶解した液体画分を回収する回収手段、
前記第2錯体における金属を回収する金属回収手段、および、
前記回収した金属を分析する分析手段を備え、
金属の分析方法に使用することを特徴とする、分析装置。

【公開番号】特開2013−79933(P2013−79933A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−60102(P2012−60102)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】