説明

金属の回収方法

【課題】鉄を主成分として銅、金・銀などの貴金属を含有する鉄合金屑などの原料から、高回収率・低コストで銅・貴金属を回収することを可能とする。
【解決手段】銅を主成分とする溶体に、銅・貴金属を含み鉄を主成分とする鉄合金などの原料と珪酸鉱・炭酸カルシウムなどの溶剤とを装入し、原料を溶解した溶体に酸素を含むガスを導入して溶体中の鉄を酸化し、酸化鉄を主成分とするスラグ相と貴金属を含み銅を主成分とする溶体相とに分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属鉄(本発明において単に鉄という。)を含む鉄合金屑などの原料(本発明において単に原料ということがある。)に含まれる金属銅(本発明において単に銅という。)、貴金属を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅を50質量%(本発明において単に%という。)以上含む銅鉄合金については非鉄金属製錬所で銅原料としてリサイクルされて銅の回収が行われているが、銅含有量が50%未満の鉄合金はマーケットが成立しておらず一部を除き廃棄物となってしまい銅の回収が行われていない。これら銅含有量の低い鉄合金等に含まれる銅、貴金属の回収については種々の技術が開示されているが、実用に供されているものは少ない。例えば、銅溶錬炉および錬銅炉の還元剤として銅を含む鉄合金を使う技術があるが、これは銅原料ではなく還元剤として用いるため一定以上の使用ができない。
また、銅含有量の低い鉄合金から鉄を直接に酸化分離するためには、鉄の融点は1535℃であるため、この融点以上の温度に上げなければ酸化速度が遅く工業的には成立しないため、エネルギーコストや炉の耐火物の消耗などの設備コストが大きいという問題があった。
【0003】
これを解決すべく、メタル基体触媒から貴金属を回収する手段として、銅と共に高温酸化処理を行うことで銅溶体相に貴金属を含ませる方法が開示されている。この方法は加熱温度を上記技術に比して低下せしめた点で極めて意義深い優れた発明であるが、銅の回収率を一層向上させることが期待されていた。
【特許文献1】特開2000−248322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、銅の回収率が低い、コスト高である、操業の温度が比較的高い点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これを解決すべく本発明者は原料を銅溶体相中にいったん溶解させた上でこの銅溶体相を酸化して鉄を選択的に酸化して分離することにより、原料から溶解した銅及び貴金属だけを溶体中に移行させることを見出した。すなわち本発明は、銅を主成分とする溶体に鉄、銅及び/又は貴金属を含む原料を装入し、該原料を溶解した溶体に酸素を含むガスを導入して溶体中の鉄を酸化し、酸化鉄を主成分とするスラグ相と(貴金属を含み)銅を主成分とする溶体相とに分離する銅及び/又は貴金属の回収方法であって、前記スラグ相の銅濃度は1%以下が好ましく、また、前記原料としては溶融炉メタル、シュレッダーダスト、産業廃棄物からの燃えがらに含まれる金属、バイメタル品、プレス屑、メッキ屑、切削屑、または触媒屑から選ばれる1種以上からなることが好ましく、さらに、前記原料を連続して装入しながら前記ガスを導入することが好ましい。
なお、上記の装入とは銅、銅溶体または原料を炉体内に配置することであり、特に原料の装入は、炉体内の銅溶体中に原料を入れてもよいし、銅溶体となる銅が炉体内で固体の時に原料を入れて両者が固体で炉内に配置された状態で加熱、溶解してもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、
(1)スラグ中に移行するロスが少なく、銅、貴金属とも回収効率が高い
(2)簡易な低コストの装置により実施可能である(装置コストが低い)
(3)特殊なガス等が必要なく、低コストでの実施が可能である(材料コストが低い)
(4)鉄を銅溶体中に溶解させた後に選択的に酸化除去するので、比較的低い操業温度で鉄合金屑などの原料に含まれる銅や貴金属の回収が可能となった(エネルギーコストが低い)
(5)発生するスラグ等は従来の通常の金属製錬で発生するスラグ組成と同様であって、さらなる処理が必要なく、環境汚染の可能性がない
などの効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
一般廃棄物または産業廃棄物が焼却等により処理されたものから、鉄を主成分とする金属屑が発生する。金属屑中には、銅、貴金属などが含まれているものも少なくない。このような廃棄物からの資源の有効利用が注目されている中、特に貴金属の回収等は資源の利用ならびに産業上の有益性の視点から重視されている。
本発明において用いる原料としては、上記のような一般廃棄物、産業廃棄物を焼却や溶融して発生した鉄合金屑やプレス等の金属加工の端材等の鉄を主成分とするスクラップが使用できる。主に、銅、鉄、貴金属が含まれている金属状のものであれば好ましく使用できる。金属状としたのは、銅を主成分とする溶体(本発明において銅溶体または単に溶体ということがある。)に溶解させるためであり、また鉄が導入されるガス中の酸素と反応して酸化する際の酸化熱を熱源として利用するためである。セラミックなどの酸化物状態のものは、酸化熱が発生しないため避けたい。
本発明の処理対象となる原料として、具体的には、一般廃棄物・産業廃棄物の焼却灰、または焼却物からの溶融炉メタル、シュレッダーダスト、産業廃棄物からの燃えがらに含まれる金属類、バイメタル品、プレス屑、メッキ屑、切削屑、触媒屑などがある。
【0008】
次に、本発明に用いる装置をその概念断面図を示す図1によって説明する。
装置は、上記の銅を主成分とする溶体及び鉄を含む合金などの原料を溶解・酸化する炉体1と、炉体1に備える溶体の温度を測定する温度計、酸素を含むガス等を炉体1に供給するガス導入管2、排ガス口3および原料を装入する装入口とを主な構成としてなる。
また炉体1は、銅を主成分とする溶体と原料等を融解して保持する耐火物からなり、溶体温度を昇温・維持するためのバーナー等の加熱装置4を持つ。さらに炉内の雰囲気を制御するため炉体1上方には蓋5が配置されて、炉6が構成される。炉体1上方には、酸素を含むガス(本発明において単にガスということがある。)を炉内に供給するためのガス導入管2が配置されて、ガスを供給する設備に連結され、圧力計、流量計等により炉内へのガス供給量を制御可能としている。ガス導入管2よりガスが炉内に導入され、原料が溶解した銅を主成分とする溶体の上面付近に到達するように設定される。
【0009】
炉体1の煉瓦等の耐火物の材質は、その大きさや使用温度により設定される。
本発明法において使用できる炉としては、銅製錬で一般的に使用されているPS転炉や鉄鋼製錬で使用されている上吹き転炉・底吹き転炉等の酸素を溶体相に作用させられるような炉であればいずれも使用可能である。
【0010】
さらに、原料として銅および貴金属が含まれ鉄を主成分とする原料(すなわち、鉄の質量が他の金属成分と比べ一番多く含まれている原料をいう。)を用いる例で説明する。
原料は溶体を形成させるため炉内に装入する。この際、炉内には予め銅を主成分として溶融された溶体すなわち銅溶体があるとよい。銅を主成分とするとは、銅溶体において、銅の質量が他の成分と比べ一番多く含まれていることをいう。これは、溶体の温度の制御を図るためである。本発明で得られる銅溶体相を、引き続き銅製錬の原料として銅製錬する場合には銅品位が高い方が望ましく、銅品位95%以上が好ましい。また、本発明においては原料は溶体に溶解しやすくするため、粉砕等されて粒状、切片状、粉状であれば好ましい。
原料を銅溶体に装入後は、原料を溶解すべく銅溶体を加熱しながら静置させるが、原料溶解中においては、原料や銅溶体が酸化しにくい雰囲気を形成しておくのが好ましい。具体的には、還元雰囲気(例えば、COを含むガス。)または不活性雰囲気(例えば、N2ガス、Arガス。)が良い。
【0011】
また、スラグを安定させるため酸化カルシウム、珪酸等の溶剤を適宜添加する。これにより工程中に発生するスラグの粘性を制御し、スラグ中への銅、貴金属などの溶解、懸垂を防止し、さらに銅溶体との分離を促すことができる。
銅溶体温度は、1100〜1500℃が好ましい。銅の融点を若干上回る1100℃以上であることと、装置・エネルギー面で低コスト化するため1500℃以下が良く、1200〜1350℃がさらに好ましい。
原料を例えば1300℃で銅溶体に溶解させた後に酸素を含むガスをガス導入管2より供給する。
【0012】
銅溶体中の鉄はガス中の酸素と反応して酸化し、酸化鉄となる。酸化鉄は添加した珪酸や酸化カルシウム等の溶剤と反応してスラグを形成し銅溶体より浮上・分離しスラグ相を形成する。
酸素を含むガスは、酸素富化した高酸素濃度ガスでもよいが、21%酸素濃度の大気でもよい。ガスの供給量は、原料中の鉄含有量に合わせ設定される。
鉄や酸素によって酸化させたい元素(例えばSi、P、Alなど。)の量に応じて吹き込み酸素量を計算により求めるが、実際には、この計算よりも5〜10%酸素量を多く含ませるのがよい。しかし、酸素量がこの範囲を超えて供給過多になると、銅溶体の銅の一部が酸化してスラグ中に酸化銅として入り、銅の回収率が低下する。
【0013】
本発明においては、溶融した銅に鉄の溶解度以下となるように鉄合金などの原料を添加して溶解させた上で、銅と鉄その他の鉄合金などの原料に含まれる不純物の酸素との親和力の差を利用し、銅より酸素との親和力の大きい鉄その他の不純物元素(例えばSi、P、Alなど。)を酸化して溶融スラグに移行させ、銅及び銅より酸素との親和力の小さい元素は銅溶体中に吸収させて、その後引き続きこれを銅原料として銅製錬工程で処理する。
【0014】
この際、鉄合金などの原料中の鉄は、ただちに酸化されるもののみではなく、銅溶体に一旦溶解した鉄が銅溶体中で優先的に酸化され酸化鉄となる反応と同時に、銅溶体の表面にある原料中の鉄が、銅溶体中において酸化された鉄を補うように銅溶体中に溶解する。溶解した鉄は、上記のようにまた酸化されスラグとなる。この平衡反応状態が炉内で連続して形成される。すなわち、バッチでの操業だけではなく、溶解度以下の鉄濃度の銅溶体を酸化しながら鉄合金などの原料を連続的に装入、添加する連続操業も可能である。
一方、鉄合金などの原料中の銅は、銅溶体中に溶解・吸収される。このため原料中の銅は効率よく回収が可能となる。また、原料中の貴金属も、銅溶体に溶解・吸収され、酸化後も銅溶体中に残存し、回収可能となる。
【0015】
上記の工程によって銅溶体の上方にスラグ相が生成される。
スラグは、非鉄金属製錬で用いられているスラグと同様に、FeO−SiO2系またはFeO−SiO2−CaO系などのスラグとして分離することが可能である。
鉄合金などの原料が全て銅溶体に溶解し、酸化によって銅溶体の鉄品位が1%以下となった時点でガスの供給を終了する。次に、銅溶体の上面に浮上したスラグ相を炉から排出し、銅溶体をそのまま冷却または炉から排出し冷却して銅品位98%以上の銅を得る。これにより、貴金属がほぼ100%回収可能となる。
【0016】
本発明では、
(1)銅溶体に鉄の溶解度以下となるように鉄合金を添加・溶解させる。銅溶体は例えば1300℃では約6%の鉄の溶解度を持っているため、銅溶体中に鉄の溶解度以下となるように鉄合金を添加して鉄合金を溶解させ、銅溶体に溶解した鉄を空気または酸素濃度を調整した酸素富化空気で酸化することで鉄合金などの原料中の銅、貴金属を銅溶体中に濃縮し、銅溶体に溶解した鉄を酸化させる。酸化した鉄等は、一般的に非鉄金属製錬で用いられているFeO−SiO2系またはFeO−SiO2−CaO系などのスラグ(本発明において単にスラグという。)として分離する。ここでスラグのSiO2濃度を30〜60%とすればスラグ相と銅溶体相の分離性が一層向上し好ましい。
(2)スラグ相の銅濃度は、1%以下、具体的には、0.1〜1%と極めて低濃度にすることができ、銅の回収率が高い。
(3)銅溶体をベースとするため、操業温度は1100〜1500℃、好ましくは1200〜1350℃の温度範囲で行えるため、従来技術に比してエネルギーコストや炉の耐火物の消耗を抑えることができる。
(4)銅溶体への鉄濃度を鉄の溶解度以下に維持し、酸化しながら鉄合金などの原料を連続的に添加する連続操業が可能である。勿論バッチでの操業もできる。
【0017】
(5)銅溶体を吸収剤として使用するため、鉄合金などの原料に含まれるAu、Ag、Pd、Pt等の貴金属も効率よく回収できる。スラグ中の貴金属濃度はAu0.1ppm以下、Ag3ppm以下、Pt0.1ppm以下、Pd0.1ppm以下となって、回収ロスとなる貴金属の量が極めて少量であり、貴金属回収率が高い。
(6)炉においては、銅溶体相とスラグ相は比重差により分離しており、鉄合金などの原料に含まれる銅により銅溶体量は増加していく。このため定期的に銅溶体を抜き出しすることが可能である。また、抜き出した銅溶体は鉄品位の低い高品質の銅であり、その後に引き続き銅製錬で処理することにより高効率で製品化することができる。
などが特徴つけられる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を記載するが、本発明の技術的範囲はこの記載に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0019】
[実施例1] 銅4.8%、鉄79.2%、ニッケル0.39%、りん1.56%、Si4.7%および金100ppm、銀650ppmを含む原料40gを用いて本発明を実施した。
装置は、前述の図1に示される炉6を用いた。
銅溶体として銅品位99.99%の電気銅460gを用いた。この電気銅を炉に装入後、銅の酸化を防止するためN2ガス中にて加熱、溶融して、電気銅による銅溶体を得た。このときの溶体の設定温度は1250℃であり、以後この温度に維持した。
この溶体に、上記原料40gとスラグ形成のための溶剤として珪酸鉱17g、炭酸カルシウム12.0gを添加した。すなわち、スラグ組成としては、FeO:SiO2:CaOが略5:3:1の組成になるように設定した。
次いで空気(すなわち21%酸素ガス)を4L/minで9分間、炉体内の溶体に吹き込み溶体中の鉄等を酸化した。
【0020】
その結果、銅溶体は466gとなり、銅溶体の品位は銅99%、鉄0.85%、ニッケル330ppm、金8.6ppm、銀63ppmであって、銅回収率は82%、金銀の回収率はほぼ100%であった。また、スラグは粘性・比重とも低下して銅溶体上に良好に分離し、FeO51%、SiO229%、CaO10%、銅0.5%、金0.1ppm以下、銀0.4ppmとなり、銅・金・銀のロスが極めて少ないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
鉄合金屑などの原料に含まれる銅、金・銀などの貴金属の回収に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明法に用いられる装置の概念断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 炉体
2 ガス導入管
3 排ガス口
4 加熱装置
5 蓋
6 炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を主成分とする溶体に銅及び鉄を含む原料を装入し、該原料を溶解した溶体に酸素を含むガスを導入し、酸化鉄を主成分とするスラグ相と銅を主成分とする溶体相とに分離する銅の回収方法。
【請求項2】
銅を主成分とする溶体に貴金属及び鉄を含む原料を装入し、該原料を溶解した溶体に酸素を含むガスを導入し、酸化鉄を主成分とするスラグ相と貴金属を含み銅を主成分とする溶体相とに分離する貴金属の回収方法。
【請求項3】
銅を主成分とする溶体に銅、貴金属及び鉄を含む原料を装入し、該原料を溶解した溶体に酸素を含むガスを導入し、酸化鉄を主成分とするスラグ相と貴金属を含み銅を主成分とする溶体相とに分離する銅及び貴金属の回収方法。
【請求項4】
前記スラグ相の銅濃度が1%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の回収方法。
【請求項5】
前記原料が、溶融炉メタル、シュレッダーダスト、産業廃棄物からの燃えがらに含まれる金属、バイメタル品、プレス屑、メッキ屑、切削屑、または触媒屑から選ばれる1種以上からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の回収方法。
【請求項6】
前記原料を連続して装入しながら前記ガスを導入する、請求項1〜5のいずれかに記載の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−22387(P2006−22387A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202983(P2004−202983)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】